IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヒロセ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図1
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図2
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図3
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図4A
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図4B
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図5
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図6
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図7A
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図7B
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図8
  • 特開-仮桟橋の構築方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160603
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】仮桟橋の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 21/00 20060101AFI20241107BHJP
   E02B 3/06 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
E01D21/00 B
E02B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075788
(22)【出願日】2023-05-01
(71)【出願人】
【識別番号】317018169
【氏名又は名称】ヒロセ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】松田 伊佐雄
(72)【発明者】
【氏名】窪津 直人
(72)【発明者】
【氏名】本田 修一
(72)【発明者】
【氏名】松永 雄介
【テーマコード(参考)】
2D059
2D118
【Fターム(参考)】
2D059BB37
2D059CC05
2D059DD02
2D118AA28
2D118BA05
2D118FA08
2D118FB01
2D118GA07
(57)【要約】
【課題】従来と比べて杭ピッチを拡げて施工できて、仮桟橋の施工に要する支持杭の本数を削減できて工費および工期を改善できる、仮桟橋の構築方法を提供すること。
【解決手段】支持杭20の支持位置に対して張出主桁30Aの一部を仮桟橋の延長方向に向けて張り出して張出部38を形成し、張出主桁30Aの張出部38の端部と、支持杭20bとに支持させて延長用の張出主桁30Bを掛け渡し、延長用の張出主桁30B上に床板40を敷設して仮桟橋の延長方向に上部工を張り出して形成し、張出主桁30A,30B同士の接合位置と支持杭20aによる張出主桁30Aの支持位置とを橋軸方向にずらした状態で、既設の張出主桁30Aの端部と延長用の張出主桁30Bの端部との間を一体に接合して連続性を持たせた。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を隔てて支持杭を立設する工程と、前記複数の支持杭の上部に複数の張出主桁を含む仮桟橋の上部工を構築する工程とをスパン単位で行い、既設上部工の前方に支持杭を立設する作業と、既設上部工の前方に延長用の張出主桁を架設する作業を既設上部工に載置した作業重機を用いて行う仮桟橋の構築方法であって、
前記支持杭の支持位置に対して張出主桁の一部を仮桟橋の延長方向に向けて張り出して張出部を形成し、
前記既設の張出主桁の張出部の端部と、既設上部工の延長方向に設けた支持杭とに支持させて延長用の張出主桁を掛け渡し、
前記延長用の張出主桁上に床板を敷設して仮桟橋の延長方向に上部工を張り出して形成し、
前記張出主桁同士の接合位置と前記支持杭による張出主桁の支持位置とを橋軸方向にずらした状態で、前記既設の張出主桁の端部と延長用の張出主桁の端部との間を一体に接合して前記複数の張出主桁の間に連続性を持たせたことを特徴とする、
仮桟橋の構築方法。
【請求項2】
前記既設の張出主桁の端部と延長用の張出主桁の端部との間を複数の添接板と複数の連結ボルトを組み合わせたボルト継手手段により一体に接合したことを特徴とする、請求項1に記載の仮桟橋の構築方法。
【請求項3】
前記張出主桁の両端部に互いに接面可能な下顎と上顎を形成し、前記下顎の先端と基端に高さ方向に位置をずらして設けた端板と、前記上顎の先端と基端に高さ方向に位置ずらして設けた端板とを接面し、接合面を当接させて配置した一対の端板間に大きな圧縮力を生じ得るように、一対の端板間を複数のボルトで締結したことを特徴とする、請求項1に記載の仮桟橋の構築方法。
【請求項4】
前記既設の張出主桁の端部と延長用の張出主桁の端部との間を引張接合手段により一体に接合したことを特徴とする、請求項1に記載の仮桟橋の構築方法。
【請求項5】
前記張出主桁の端面にボルト孔を開設した端板を固着し、接合面を当接させて配置した一対の端板間に大きな圧縮力を生じ得るように、一対の端板間を複数の高力ボルトで締結したことを特徴とする、請求項4に記載の仮桟橋の構築方法。
【請求項6】
前記ボルトが高力ボルトで締結したことを特徴とする、請求項3に記載の仮桟橋の構築方法。
【請求項7】
前記張出主桁がH形鋼製であることを特徴とする、請求項1乃至6の何れか一項に記載の仮桟橋の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主桁を張り出しながら上部工を施工する仮桟橋の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図9を参照して説明すると、従来の仮桟橋は、橋軸方向に所定の間隔で支持杭60を構築した後に、隣り合う支持杭60の頭部間に主桁61を掛け渡し、並列に架設した主桁61上に覆工板62を敷設して上部工を構築している(特許文献1)。
支持杭60の頭部間に掛け渡した主桁61は、構造的にスパン毎に分離していて、主桁61は単純梁として機能する。
上部工の施工にあたっては、既設上部工に搭載したクレーン車等の作業重機63を用いて支持杭60の立設工や主桁61の架設工を行なっている。
【0003】
一方、仮桟橋の他の構築方法として張出工法が提案されている。
特許文献2には、既設の上部工の前端に片持式の張出足場を取り付け、既設上部工に反力を得た張出足場を利用して、桟橋未完成部分における支持杭の立設工と主桁の横架工を行うことが開示されている。
特許文献3には、既設の上部工の前端から桟橋未完成部分に向けて主桁を片持状態で張り出し、既設上部工と張り出した主桁との間に線材を張設し、線材を介して主桁を支持しながら、桟橋未完成部分に支持杭を立設することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-59743号公報
【特許文献2】特開2012-162862号公報
【特許文献3】特開2000-96582号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の仮桟橋の構築技術はつぎの問題点を有している。
<1>主桁61の両端を支持杭60で支持する構造であるから、主桁61の全長と支持杭60の橋軸方向の立設間隔(杭ピッチ)が等しい寸法関係にある。
そのため、支持杭60の立設予定位置に障害物が存在する場合には、支持杭の立設位置の変更を強いられ、支持杭60の立設位置の変更に合わせて主桁61の全長を短くする等の特別な対応が求められる。
<2>従来の主桁61は単純梁として機能するため、主桁61を含む上部工が水平力に対する抗力が小さい。
<3>クレーン車等の作業重機63の作業半径を最大に活用するため、作業重機63を既設上部工の最前端(最も前方の位置)まで前進させて停車している。
支持杭60の杭ピッチを拡張するには、作業半径が大きな大型の作業重機63を使用しなければならない。
<4>作業半径が大きい大型の作業重機63を使用すると、上部工への載荷重が増して使用鋼材が大型化するうえに、重機コストと資材コストが高くなる。
<5>既設上部工から反力を得て施工する張出工法においては、張出足場や主桁等の張出部材を片持ちで支持する構造が複雑で高コストであるうえに、既設上部工から延出した張出部材に重機類を載置して施工できない。
【0006】
本発明は以上の問題点を解消できる仮桟橋の構築方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、所定の間隔を隔てて支持杭を立設する工程と、前記複数の支持杭の上部に複数の張出主桁を含む仮桟橋の上部工を構築する工程とをスパン単位で行い、既設上部工の前方に支持杭を立設する作業と、既設上部工の前方に延長用の張出主桁を架設する作業を既設上部工に載置した作業重機を用いて行う仮桟橋の構築方法であって、前記支持杭の支持位置に対して張出主桁の一部を仮桟橋の延長方向に向けて張り出して張出部を形成し、前記既設の張出主桁の張出部の端部と、既設上部工の延長方向に設けた支持杭とに支持させて延長用の張出主桁を掛け渡し、前記延長用の張出主桁上に床板を敷設して仮桟橋の延長方向に上部工を張り出して形成し、前記張出主桁同士の接合位置と前記支持杭による張出主桁の支持位置とを橋軸方向にずらした状態で、前記既設の張出主桁の端部と延長用の張出主桁の端部との間を一体に接合して前記複数の張出主桁の間に連続性を持たせた。
本発明の他の形態において、前記既設の張出主桁の端部と延長用の張出主桁の端部との間を複数の添接板と複数の連結ボルトを組み合わせたボルト継手手段により一体に接合してもよい。
本発明の他の形態において、前記張出主桁の両端部に互いに接面可能な下顎と上顎を形成し、前記下顎の先端と基端に高さ方向に位置をずらして設けた端板と、前記上顎の先端と基端に高さ方向に位置ずらして設けた端板とを接面し、接合面を当接させて配置した一対の端板間に大きな圧縮力を生じ得るように、一対の端板間を複数のボルトで締結してもよい。
本発明の他の形態において、前記既設の張出主桁の端部と延長用の張出主桁の端部との間を引張接合手段により一体に接合してもよい。
本発明の他の形態において、前記張出主桁の端面にボルト孔を開設した端板を固着し、接合面を当接させて配置した一対の端板間に大きな圧縮力を生じ得るように、一対の端板間を複数のボルトまたは複数の高力ボルトで締結してもよい。
本発明の他の形態において、前記張出主桁がH形鋼製である。
【発明の効果】
【0008】
本発明は少なくともつぎのひとつの効果を奏する。
<1>仮桟橋の延長方向に上部工を張り出して形成するので、作業重機を上部工の先端位置まで前進できるので、従来と同じ作業半径の作業重機を使用しても、従来と比べて杭ピッチを拡げて施工することができる。
<2>杭ピッチを拡げて施工できれば、仮桟橋の施工に要する支持杭の本数を削減できて工費および工期の両面で改善できる。
<3>仮桟橋の上部工が張出構造となるため、仮桟橋に縦断勾配がある現場で施工する際にも、作業重機による張り出した上部工での作業が可能となるので、必要な作業半径を確保することができる。
<4>本発明では複数の張出主桁の端部間を接合して連続梁構造としたことで、仮桟橋の上部工による水平力に対する耐力が格段に向上する。
特に、地震時や暴風時等に大きな外力を受けても、仮桟橋における落橋リスクを大幅に低減できる。
<5>張出主桁の端部の接合初段に引張接合手段を適用すると、現場における作業時間と労力を大幅に低減できて、大幅な省力化、工期短縮および工費削減を実現できる。
<6>支持杭の頭部間隔に影響を受けずに張出主桁を架設できるので、支持杭の立設予定位置に障害物が存在する場合でも、支持杭の立設位置の変更に合わせて主桁の全長を変更する等の特別な対応が不要となる。
<7>作業重機を上部工の先端位置まで前進できるので、杭間隔を変えないときは作業半径の小さな作業重機を使用して施工することができる。
そのため、小型の作業重機を使用できて、上部工に対する作業重機の載荷重を低減できるうえに、重機コストと資材コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】張出主桁を用いた本発明の実施例1に係る仮桟橋の構築方法の説明図
図2】完成した仮桟橋のモデル図
図3】張出主桁の接合手段としてボルト接合を適用した接合部の斜視図
図4A】張出主桁の接合部を構成する下顎の斜視図
図4B】張出主桁の接合部を構成する上顎の斜視図
図5】張出主桁の接合部(引張接合)の側面図
図6】張出主桁の接合部(引張接合)の部分拡大断面図
図7A】仮桟橋の構築方法の説明図で、支持杭の立設工の説明図
図7B】仮桟橋の構築方法の説明図で、第2張主桁の架設工の説明図
図8】本発明の実施例2に係る仮桟橋の構築方法の説明図で、他の引張接合を適用した張出主桁の接合部の側面図
図9】従来の仮桟橋の構築方法の説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照しながら本発明について詳細に説明する。説明に際し橋軸方向をX、橋軸横断方向をYと定義して説明する。
【実施例0011】
<1>仮桟橋の概要
図1,2を参照して仮桟橋10について説明する。
仮桟橋10は間隔を隔てて立設した複数の支持杭20と、複数の支持杭20の頭部間に橋軸横断方向Yに向けて横架した受桁21と、橋軸方向Xに隣り合う受桁21の間に架設した張出主桁30と、張出主桁30の上面に敷設した覆工板等の床板40とを具備する。
本発明における「仮桟橋10」は、水上施工または水中施工のために岸から作業員や工事用機械,資材等の運搬を行うために設ける通路や工事用の作業桟台として利用される仮桟橋に限定されるものではなく、その他に桟橋、工事用道路、作業構台、災害復旧時の応急橋等の種々の構造物を含むものである。
【0012】
<2>張出主桁
図2を参照して説明すると、張出主桁30は高剛性の鋼材であり、桁材の本体である主桁本体31を有する。
本例では張出主桁30の全長Lを支持杭20の橋軸方向に向けたスパン長Lと等しい寸法関係にした形態について説明するが、張出主桁30の全長Lと支持杭20のスパン長Lは異なる寸法関係でもよい。
【0013】
<2.1>主桁本体
図1を参照して主桁本体31について詳しく説明する。
主桁本体31はH形鋼であり、ウェブ31aと、ウェブ31aの両端に形成した一対のフランジ31b,31bを有する。
主桁本体31は本例で示したH形鋼の他にI桁、箱桁、トラス桁等の既成の主桁材を使用できる。
【0014】
<3>張出主桁の接合手段
張出主桁30は互いに突合せたその両端部を複数のボルトで連結して接合する。
【0015】
張出主桁30の接合手段としては、例えば図3に示した複数の添接板60と複数の連結ボルト61とを組み合わせた「ボルト継手手段」を適用することが可能である。
【0016】
<4>引張接合
さらに、張出主桁30の接合手段としては、以降に説明する「引張接合手段」を適用することも可能である。
本例では、張出主桁30の両端部を互いに連結可能に形成した相欠き構造に「引張接合」を適用した形態について説明する。
【0017】
相欠きとは、接合部材の端部の厚さ半分程度を切除し、残った部位を互いに重ね合わせて接合する構造を指す。
【0018】
<4.1>下顎と上顎
図4A~5を参照しながら下顎33と上顎34について詳しく説明する。
張出主桁30は主桁本体31の一端部(左方の先端部)の下半に下顎33を有し、主桁本体31の他端部(右方の基端部)の上半に上顎34を有している。
下顎33と上顎34の対向面は、クランク状(階段状)を呈していて、両顎33,34を突き合せると互いに嵌合して接合可能である。
【0019】
<4.2>端板
下顎33の先端と基端には一対の端板33a,33bが設けてある。
上顎34の先端と基端にも一対の端板34a,34bが設けてある。
これらの端板33a,33b,34a,34bは高強度の板体であり、その板面には複数のボルト孔35が形成してある。
各端板33a,33b,34a,34bは、それぞれ同一素材および同一構造であるため、以降は端板33aのみを代表して説明して他の端板33b,34a,34bについての説明を省略する。
【0020】
端板33aは全周溶接により固着する。端板33aの固着手段として全周溶接を採用するのは、張出主桁30の接合部に作用する曲げ力(引張と圧縮)とせん断力に対抗するためである。
【0021】
下顎33は上向きの段差面33cを有し、上顎34には下向きの段差面34cを有している。
下顎33の段差面33cは下位の端板33aと上位の端板33bの間に位置する。
上顎34の段差面34cは下位の端板34aと上位の端板34bの間に位置する。
下顎33と上顎34を同軸線上で突き合せたときに、下位の端板33a,34a同士と上位の端板33b,34b同士と段差面33c,34cとが隙間なく接合できる構造になっている。
【0022】
<4.3>端板の板厚
図6を参照して説明すると、端板33aの板厚tは主桁本体31のフランジ31bの板厚tより大きい寸法関係にある。
端板33aとフランジ31bの板厚を相違させたのは、張出主桁30,30の接合部に曲げ力等の外力が作用したときに、端板33aにおける高力ボルト36の設置個所の応力集中を緩和するためである。
【0023】
<4.4>リブ
図4A~5を参照して説明する。ウェブ31aの左右両側面と端板33aとの間にフランジ31bと平行なリブ37を設置する。
リブ37は単数でもよいが、ウェブ31bの高さ方向に間隔を隔てて多段的に複数のリブ37を設置してもよい。
なお、リブ37は必須ではなく、端板33aのみで十分な強度を確保できる場合はリブ37を省略してもよい。
【0024】
<4.5>主桁本体と端板の材質
主桁本体31の母材にはSM材(溶接構造用圧延鋼材)またはSS材(一般構造用圧延鋼材)を用いる。
端板33aの母材には主桁本体31の断面寸法や端板33aの板厚等を考慮して、SS材、SM材(溶接構造用圧延鋼材)またはSN材(建築構造用圧延鋼材)の何れか1種を用いる。
上記した主桁本体31および端板33aの母材は一例であり、公知の素材が適用可能である。
【0025】
経済性、加工性、溶接性を考慮すると、主桁本体31にSS材を用い、端板33aにSM材を用いる組合せが好適である。
【0026】
<4.6>高力ボルト
高力ボルト36は重合させた2枚の端板33a,34a(33b,34b)の間を強力に圧接して「引張接合」をするためのハイテンションボルトであり、座金36aとナット36bを組み合わせて使用する。
なお、高力ボルト36にはトルシア形高力ホルト等の公知の高力ボルトを含む。
高力ボルト36の使用本数や設置間隔は接合面積等を考慮して適宜選択する。
【0027】
<4.7>引張接合とは
第1張出主桁30Aの下顎33と第2張出主桁30Bの上顎34の当接部間を複数の高力ボルト36で締結した図5を参照して、引張接合について説明する。
下顎33と上顎34を同軸線上で突き合せると、下位の一対の端板33a,34a間と上位の一対の端板33b,34bの間が隙間なく当接する。
当接した下位の一対の端板33a,34aの間と、上位の一対の端板33b,34bの間にそれぞれ高力ボルト35を挿通した後に、ナット35bを螺着して所定のトルクに達するまで締め付けることで、既設の第1張出主桁30Aの先端部と第2張出主桁30Bの後端部とを接合できる。
【0028】
「引張接合」とは、高力ボルト36に大きな締付力を加えて端板33a,34a(33b,34b)間に大きな圧縮力を生じさせ、ボルト軸方向に作用する引張外力がこれと打ち消し合う形で応力の伝達を行う接合方式であり、端板33aの曲げ強度度と高力ボルト36に導入した軸力を利用して、張出主桁30の接合部(端板33a,34a(33b,34b)間)に作用する曲げ力(引張と圧縮)とせん断力に対抗し得るようにしたものである。
「引張接合手段」は、例えば出願人が先に提案した特許第6924999号の公報に詳細に記載されている。
【0029】
第1張出主桁30Aと第2張出主桁30Bとの接合手段に「引張接合手段」を用いることで、従来の摩擦接合のような複数の添接板や多数本の連結ボルトが一切不要であり、現場では突き合せた一対の端板33a,34a(33b,34b)間を複数の高力ボルト36で締結するだけである。
【0030】
そのため、現場における作業時間と労力を大幅に低減できて、大幅な省力化、工期短縮および工費削減を実現できる。
【0031】
さらに、従来の摩擦接合や支圧接合で用いていた連結ボルトや添接板等の鋼材の使用量を削減できるので、環境負荷の抑制にも貢献することができる。
【0032】
[仮桟橋の構築方法]
つぎに図7A,図7Bを参照しながら仮桟橋10の構築方法について説明する。
【0033】
<1>支持杭の立設工
図7Aは既設の上部工に設けたクレーン車等の作業重機50を使用して、既設の上部工の前方に支持杭20bを立設する工程を示している。
仮桟橋10の既設の上部工は、最前に位置する既設の支持杭20aから橋軸延長方向へ向けて第1張出主桁30Aの前端部が張り出ていて、第1張出主桁30Aの前端部に張出部38を形成している。
【0034】
既設の上部工に搭載した作業重機50を用いて、既設の上部工の前方に別途の支持杭20bを立設する。
本発明では、最前の支持杭20aの支持位置を越えて第1張出主桁30Aの張出部38の先端位置まで作業重機50を前進できるので、従来と同じ作業半径の作業重機を使用しても、従来と比べて杭ピッチを拡げることができる。
【0035】
支持杭20bの立設を完了したら、図7Bに示すように橋軸横断方向Yに隣り合う支持杭20bの頭部間に受桁21を横架する。
【0036】
<2>張出主桁の架設工
図7Bは、既設の第1張出主桁30Aの前方に第2張出主桁30Bを延長する工程を示している。
既設の上部工に搭載した作業重機50を用いて別途の延長予定の第2張出主桁30Bを吊り込み、既設の第1張出主桁30Aの前方に第2張出主桁30Bを一体に接合して張出主桁を延長する。
延長予定の第2張出主桁30Bはその先端部近くを支持杭20aに支持させると共に、第2張出主桁30Bの後端部を既設の第1張出主桁30Aの先端部に複数のボルトで連結する。
第1および第2張出主桁30A,30Bの間を引張接合により連結することは既述したとおりである。
【0037】
図5に示すように第2張出主桁30Bの架設にあたり、第2張出主桁30Bの上顎34と第1張出主桁30Aの下顎33に段差を有していることから、第2張出主桁30Bの上顎34を第1張出主桁30Aの下顎33に載置して仮置きすることで、一対の端板33a,34a(33b,34b)の接合高さを一致させることができる。
そのため、両張出主桁30A,30Bの接合箇所が支持杭20から離れていても、現場において第2張出主桁30Bの吊り高さを微調整する作業が不要となって、両張出主桁30A,30Bの接合作業を簡単かつ正確に行うことができる。
【0038】
第2張出主桁30Bを架設する際、第2張出主桁30Bの先端部近くを支持杭20aから延長方向へ向けて張り出して張出部38を形成しておく。
図2は第1張出主桁30Aと第2張出主桁,30Bとの間を引張接合により連結した状態を示している。
【0039】
<3>床板の敷設工
隣り合う第2張出主桁30Bの上面に覆工板等の床板40を敷設する。
すなわち、第2張出主桁30Bの上面に床板40を敷設して仮桟橋の延長方向に上部工を張り出して形成する。
張出主桁30A,30B同士の接合位置と支持杭20aによる第1張出主桁30Aの支持位置は橋軸方向にずれている。
【0040】
<4>工程の繰り返し
以上説明した一連の工程をスパン単位で反復して行うことで、所定長さの仮桟橋10を構築する。
【0041】
[仮桟橋の特性]
つぎに仮桟橋10の特性について説明する。
【0042】
<1>支持杭の位置と張出主桁の接合位置の関係
従来の仮桟橋では、主桁の両端部の支持位置が支持杭に限定されていた。
これに対して、本願発明では、張出主桁の一部を支持杭から張り出して、支持杭から離れた位置で張出主桁を接合するものである。
そのため、支持杭の立設位置の影響を受けずに張出主桁を架設することができる。
例えば、支持杭の立設予定位置に障害物が存在する場合でも、張出主桁の全長を変えずに支持杭の立設位置を変更して対応することができる。
【0043】
<2>張出主桁の連続梁構造
図2に示すように本発明では、延長予定の第2張出主桁30Bの先端部近くを、受桁21を介して支持杭20aに支持させると共に、第2張出主桁30Bの後端部を既設の第1張出主桁30Aの先端部に一体に接合して支持させる。
第1張出主桁30Aと第2張出主桁30Bを同軸線上で一体に接合することで、第1張出主桁30Aと第2張出主桁30Bが連続性を有する「連続梁構造」となる。
橋軸方向Xに沿って架設した複数の張出主桁は、「連続梁構造」となるので、仮桟橋10の上部工が水平力に対する抗力が大きくなる。
【0044】
<3>作業重機の作業範囲について
本発明では、張出主桁30の前端部を既設の支持杭20による支持位置から前方へ張り出し、張出部38を含めて上部工を形成した。
そのため、図7Aに示すように作業重機50を仮桟橋10の張出部38の最前端の位置まで前進させて停車することが可能となる。
すなわち、作業重機50の停車位置を、従来と比べて仮桟橋10の延長方向に向けて前進できるので、前進分だけ作業重機50による作業範囲が拡張される。
【0045】
<4>支持杭のピッチについて
作業重機50による作業範囲が拡張されることで、支持杭20の立設間隔(杭ピッチ)を拡げることができる。
支持杭20の立設間隔が拡がることで、仮桟橋全体として支持杭20の立設本数が削減できて、大幅な工費の削減および工期の短縮を実現できる。
【0046】
<5>作業重機について
作業重機50の停車位置を前進させることで作業範囲が拡張されるので、作業半径の小さな作業重機50を使用して施工することもできる。
作業半径が小さくなれば、使用する作業重機50を小型化できて、重機コストを低減できる。
【0047】
<6>張出主桁の接合部の強度について
図5を参照して説明する。同軸線上に架設した張出主桁30,30の前後端部は密接に接合しつつ、接合部を複数のボルトで接合した構造となっている。
張出主桁30の接合部の強度は、曲げ力やせん断に耐え得るように設計する。
【0048】
<6.1>引張接合を適用した張出主桁の接合部の強度評価について
引張接合を適用した張出主桁30の接合部の圧縮、せん断および曲げに対する評価について検討する。
【0049】
<6.2>圧縮力
張出主桁30の接合部に軸方向へ向けた圧縮力が作用した場合、圧縮力は下位の端板33a,34aの接合面と、上位の端板33b,34bの接合面を通じて伝達し合う。
【0050】
<6.3>せん断力
張出主桁30の接合部にせん断力が作用した場合、高力ボルト36に導入した軸力(ボルト部のせん断抵抗)がせん断力に抵抗するので、高力ボルト36にせん断破壊が生じない。
したがって、引張接合した下位の端板33a,34aの間と、上位の端板33b,34bの間には摺動も分離も生じない。
【0051】
<6.4>曲げ力
張出主桁30の接合部に下向きの曲げ力が使用した場合、張出主桁30の上側が圧縮領域となり、張出主桁30の下側が引張領域となる。
【0052】
引張接合の場合、張出主桁30の接合部に曲げ力が作用すると、高力ボルト36はその配設位置により軸力が変化する。
本例の場合では、上位の高力ボルト36に圧縮力が作用し、下位の高力ボルト36には引張力が作用する。
圧縮力が作用する上位の高力ボルト36では高力ボルト36に予め導入した軸力が多少減少するもの完全に消失することはない。
引張力が作用する下位の高力ボルト36では、高力ボルト36に予め導入した軸力に対して引張力が新たに加わるが、高力ボルト36が高耐力に設定してあるため、下位の高力ボルト36が破断する心配がない。
【0053】
<6.5>端板への影響
さらに各端板33a,33b,34a,34bの板厚tが応力集中を緩和し得る寸法に設定してあるので、張出主桁30の端部と端板33a,33b,34a,34bに降伏変形が生じない。
さらに張出主桁30と各端板33a,33b,34a,34bの接合部も全周溶接が施してあるので、これらの溶接部が分離しない。
【0054】
<6.6>引張接合のまとめ
このように、重合させた下位の端板33a,34a間と上位の端板33b,34b間を複数の高力ボルト36で締結して引張接合とすることで、張出主桁30の接合部に作用する圧縮力、せん断力および曲げ力に対抗できて良好な接合状態を維持できる。
さらに、現場における作業時間と労力を大幅に低減できて施工性を大幅に改善できて、工期の大幅短縮が可能である。
【実施例0055】
以降に他の実施例について説明するが、その説明に際し、前記した実施例1と同一の部位は同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0056】
<1>段差なしの引張接合例
図8に張出主桁30の接合手段として他の引張接合を適用した形態を示す。
本例では、張出主桁30(第1張出主桁30Aと第2張出主桁30B)の端部に段差を設けずに引張接合を適用した形態について説明する。
本例にあっては、第1張出主桁30Aと第2張出主桁30Bの端部にH形鋼の全断面に亘る大きさの端板33d,34dを設け、これら一対の端板33d,34dの間を複数の高力ボルト36を介して所定のトルクで締め付ける。
本例における引張接合の要件は既述した実施例1と同一であるので、詳しい説明を省略する。
【0057】
<2>本例の作用効果
本例では既述した実施例1と同様の作用効果を奏する。
【符号の説明】
【0058】
10・・・・仮桟橋
20・・・・支持杭
21・・・・受桁
30・・・・張出主桁
31・・・・主桁本体
31a・・・ウェブ
31b・・・フランジ
33・・・・下顎
33a・・・端板
33b・・・端板
33c・・・段差面
34・・・・上顎
34a・・・端板
34b・・・端板
34c・・・段差面
35・・・・ボルト孔
36・・・・高力ボルト
36a・・・座金
36b・・・ナット
37・・・・リブ
38・・・・突出部
40・・・・床板
50・・・・作業重機
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9