(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160640
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】全固体電池の製造方法及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20241107BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241107BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20241107BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M50/105
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075860
(22)【出願日】2023-05-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 拓海
【テーマコード(参考)】
5H011
5H029
【Fターム(参考)】
5H011CC02
5H011CC06
5H011CC10
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ03
5H029CJ05
5H029EJ12
5H029HJ04
(57)【要約】
【課題】セル積層体の面内方向における圧縮度合いの均等性に優れる全固体電池の製造方法及び全固体電池を提供する。
【解決手段】第1外装材10、第1樹脂層20、セル積層体30、第2樹脂層40、及び第2外装材50をこの順に含む構造体60を準備することと、第1樹脂層10及び第2樹脂層20が溶融又は軟化する温度下で、構造体60に対して厚さ方向に圧力を付与することと、を含む全固体電池100の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1外装材、第1樹脂層、セル積層体、第2樹脂層、及び第2外装材をこの順に含む構造体を準備することと、
第1樹脂層及び第2樹脂層が溶融又は軟化する温度下で、前記構造体に対して厚さ方向に圧力を付与することと、を含む全固体電池の製造方法。
【請求項2】
前記圧力の付与は前記構造体と対向する面が平坦な部材を用いて行う、請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項3】
前記構造体に対して等方圧を付与する工程をさらに含む、請求項1又は請求項2に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項4】
第1外装材、第1樹脂層、セル積層体、第2樹脂層、及び第2外装材をこの順に含む構造体を有し、
第1樹脂層及び第2樹脂層の少なくとも一方はセル積層体と接着している、全固体電池。
【請求項5】
第1樹脂層及び第2樹脂層のそれぞれがセル積層体と接着している、請求項4に記載の全固体電池。
【請求項6】
第1外装材、第1樹脂層、セル積層体、第2樹脂層、及び第2外装材をこの順に含む構造体を有し、
前記構造体全体の面内方向における厚さのばらつきが、前記セル積層体の面内方向における厚さのばらつきよりも小さい、全固体電池。
【請求項7】
第1樹脂層及び第2樹脂層はそれぞれ熱可塑性樹脂を含む、請求項4~請求項6のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、全固体電池の製造方法及び全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の一種である全固体電池は、有機溶媒に電解質を溶解した電解液を使用するリチウムイオン二次電池に比べて安全性が高い、作動温度範囲が広い、エネルギー密度を高めやすいなどの利点があり、普及に向けた研究開発が進められている。
【0003】
全固体電池は負極層、正極層及び固体電解質層から構成されるセル積層体を含み、リチウムイオンがセル積層体を構成する層の間を移動することで充放電が行われる。このため、全固体電池は一般に、リチウムイオンの移動効率を高めたり、層間の剥離を抑制するために、セル積層体の厚さ方向に圧力を加えて圧縮する処理が施されている。
【0004】
全固体電池のセル積層体を構成する各層は、活物質又は固体電解質を含む材料を基材に塗工するプロセスを経て作製される。このため、セル積層体の厚さにある程度のばらつきが不可避的に生じる。厚さにばらつきがあるセル積層体を平板やロールを用いて圧縮すると、セル積層体の面内方向における圧縮度合いにばらつきが生じる。セル積層体の圧縮度合いのばらつきは、全固体電池の性能や耐久性に影響を及ぼすおそれがある。
セル積層体に加わる圧力のばらつきを低減する方策としては、例えば、特許文献1にはセル積層体の間に緩衝層を配置することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、セル積層体の間に緩衝層を配置するために全固体電池の体積が増大するなどの問題がある。
上記事情に鑑み、本開示の一実施形態は、セル積層体の面内方向における圧縮度合いの均等性に優れる全固体電池の製造方法及び全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>第1外装材、第1樹脂層、セル積層体、第2樹脂層、及び第2外装材をこの順に含む構造体を準備することと、
第1樹脂層及び第2樹脂層が溶融又は軟化する温度下で、前記構造体に対して厚さ方向に圧力を付与することと、を含む全固体電池の製造方法。
<2>前記圧力の付与は前記構造体と対向する面が平坦な部材を用いて行う、<1>に記載の全固体電池の製造方法。
<3>前記構造体に対して等方圧を付与する工程をさらに含む、<1>又は<2>に記載の全固体電池の製造方法。
<4>第1外装材、第1樹脂層、セル積層体、第2樹脂層、及び第2外装材をこの順に含む構造体を有し、
第1樹脂層及び第2樹脂層の少なくとも一方はセル積層体と接着している、全固体電池。
<5>第1樹脂層及び第2樹脂層のそれぞれがセル積層体と接着している、<4>に記載の全固体電池。
<6>第1外装材、第1樹脂層、セル積層体、第2樹脂層、及び第2外装材をこの順に含む構造体を有し、
前記構造体全体の面内方向における厚さのばらつきが、前記セル積層体の面内方向における厚さのばらつきよりも小さい、全固体電池。
<7>第1樹脂層及び第2樹脂層はそれぞれ熱可塑性樹脂を含む、<4>~<6>のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一実施形態によれば、セル積層体の面内方向における圧縮度合いの均等性に優れる全固体電池の製造方法及び全固体電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の全固体電池の構成の一例を概略的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、「工程」という語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において実施形態を図面を参照して説明する場合、当該実施形態の構成は図面に示された構成に限定されない。また、各図における部材の大きさは概念的なものであり、部材間の大きさの相対的な関係はこれに限定されない。
【0011】
<全固体電池の製造方法>
本開示の全固体電池の製造方法は、
第1外装材、第1樹脂層、セル積層体、第2樹脂層、及び第2外装材をこの順に含む構造体を準備することと、
第1樹脂層及び第2樹脂層が溶融又は軟化する温度下で、前記構造体に対して厚さ方向に圧力を付与することと、を含む。
【0012】
以下、構造体に含まれる第1外装材及び第2外装材を「外装材」と総称し、第1樹脂層及び第2樹脂層を「樹脂層」と総称する場合がある。
【0013】
本開示の方法では、構造体への圧力の付与を、樹脂層が溶融又は軟化する温度下で行う。これにより、樹脂層をセル積層体の表面の起伏に沿って変形させるとともに樹脂層をセル積層体に接着させる。その結果、セル積層体の面内方向における圧縮度合いの均等性に優れる全固体電池を製造することができる。
【0014】
セル積層体の面内方向における圧縮度合いを均等化する観点からは、構造体に対する圧力の付与は、構造体と対向する面が平坦な部材を用いて行うことが好ましい。
圧力の付与を、構造体と対向する面が平坦な部材を用いて行うことで、第1樹脂層及び第2樹脂層を効果的に変形させることができる。
構造体と接する面が平坦な部材としては、平板、ロール、表面が平坦な台などが挙げられる。
【0015】
本開示の方法において、構造体への圧力の付与(以下、加圧工程ともいう)の条件は特に制限されず、製造される全固体電池の用途、性能等に応じて設定できる。
樹脂層を充分に変形させる観点からは、加圧工程における圧力は0.0001MPa以上であることが好ましく、0.001MPa以上であることがより好ましく、0.01MPa以上であることがさらに好ましい。
セル積層体の破損を防止する観点からは、加圧工程における圧力は100MPa以下であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましく、1MPa以下であることがさらに好ましい。
【0016】
本開示の方法において、構造体への圧力の付与(以下、加圧工程ともいう)の回数は1回でも2回以上であってもよい。
例えば、樹脂層が溶融又は軟化する温度下で実施する加圧工程(以下、第1加圧工程ともいう)に加えて第2加圧工程を実施してもよい。
第1加圧工程に加えて第2加圧工程を実施することで、セル積層体の面内方向における圧縮度合いの均等性を高めたり、圧縮率を調整したりすることができる。
第2加圧工程は、第1加圧工程の前に実施しても第1加圧工程の後に実施してもよい。
第2加圧工程は、第1加圧工程と同様の方法で行っても、別の方法で行ってもよい。セル積層体の圧縮度合いを均等にする観点からは、第2加圧工程は構造体に等方圧を付与することで行うことが好ましい。
構造体に等方圧を付与する方法は特に制限されない。例えば、液体、気体、粉体のような流体を圧力媒体として用いる公知の方法で行うことができる。
【0017】
本開示の方法は、必要に応じて加圧工程以外の工程を含んでもよい。
例えば、第1外装材と第2外装材の周縁部を接着して、外装材の内部にセル積層体を封入する工程を含んでもよい。周縁部の接着は、加圧工程と同時に実施してもよい。
【0018】
本開示の方法により製造される全固体電池の詳細及び好ましい態様については、後述する全固体電池の詳細及び好ましい態様を参照できる。
【0019】
<全固体電池(第1実施形態)>
本開示の第1実施形態に係る全固体電池は、
第1外装材、第1樹脂層、セル積層体、第2樹脂層、及び第2外装材をこの順に含む構造体を有し、
第1樹脂層及び第2樹脂層の少なくとも一方はセル積層体と接着している。
第1樹脂層及び第2樹脂層は、それぞれがセル積層体と接着していてもよい。
【0020】
<全固体電池(第2実施形態)>
本開示の第2実施形態に係る全固体電池は、
第1外装材、第1樹脂層、セル積層体、第2樹脂層、及び第2外装材をこの順に含む構造体を有し、
前記構造体全体の面内方向における厚さのばらつきが、前記セル積層体の面内方向における厚さのばらつきよりも小さい。
【0021】
以下、第1実施形態の全固体電池及び第2実施形態の全固体電池を「本開示の全固体電池」と総称する場合がある。
本開示の全固体電池は、セル積層体と外装材との間に樹脂層が配置されている。樹脂層は、セル積層体の面内方向における厚さのばらつきを吸収する機能を果たす。その結果、全固体電池の厚さ方向に圧力を付与した際に、全固体電池の面内方向における圧縮度合いのばらつきが抑制される。
【0022】
図1に本開示の全固体電池の構成の一例を概略的に示す。
図1に示す全固体電池100は、第1外装材10、第1樹脂層20、セル積層体30、第2樹脂層40、及び第2外装材50をこの順に含む構造体60を有している。
全固体電池100のセル積層体30は、面内方向(矢印Xで示す方向)において厚さにばらつきがある。第1樹脂層10及び第2樹脂層40のセル積層体30と対向する側の面は、セル積層体30の表面の起伏に沿って変形した状態である。すなわち、セル積層体30の厚さのばらつきが第1樹脂層10及び第2樹脂層40によって吸収されている。このため、全固体電池100の厚さ方向(矢印Yで示す方向)に圧力を付与した際に、セル積層体30の厚さが大きい部分に加わる圧力と、セル積層体30の厚さが小さい部分に加わる圧力との差が低減される。その結果、セル積層体30の面内方向における圧縮度合いにばらつきが生じにくくなる。
【0023】
図1に示す全固体電池100では、構造体60は第1外装材10、第1樹脂層20、セル積層体30、第2樹脂層40、及び第2外装材50のみから構成されているが、本開示の全固体電池はこれに制限されず、他の層を含んでもよい。
図1に示す全固体電池100は、タブリードなどの図示しない部材を含んでもよい。
【0024】
図1に示す第1外装材10及び第2外装材50は、それぞれ複数の部材から構成されてもよい。例えば、基材層とバリア層とから構成されてもよい。
【0025】
図1に示す全固体電池と異なり、セル積層体と外装材との間に樹脂層が存在していないか、又は樹脂層がセル積層体の表面の起伏に沿って変形した状態でない場合は、全固体電池の厚さ方向に圧力を付与した際に、セル積層体の厚さが大きい部分に加わる圧力はセル積層体の厚さが小さい部分に加わる圧力よりも大きくなる。その結果、セル積層体の面内方向における圧縮度合いにばらつきが生じやすくなる。
【0026】
本開示において、全固体電池の構造体の厚さのばらつきと、セル積層体の厚さのばらつきとを比較する方法は特に制限されず、公知の方法で実施できる。
例えば、構造体とセル積層体の厚さをそれぞれ複数個所(5点以上が好ましい)で測定し、測定値の最大値と最小値の差を厚さのばらつきの指標とする方法や、標準偏差σを求め、6σを厚さのばらつきの指標とする方法が挙げられる。6σは、ばらつきが正規分布をする場合に、99.7%の確率で含まれる範囲を意味する。
測定対象の厚さのばらつきに傾斜等の傾向や規則性がある場合は最大値と最小値の差を指標として用いることが好ましく、厚さのばらつきが不規則で傾斜等の傾向が無い場合は6σを指標として用いることが好ましい。
あるいは、全固体電池の断面の画像を取得し、画像中に観察される構造体に相当する部分の輪郭線の長さAと、セル積層体に相当する部分の輪郭線の長さBとによってそれぞれの厚さのばらつきを比較してもよい。
【0027】
本開示において「樹脂層がセル積層体に接着している」とは、樹脂層がセル積層体に密着した状態で固定された状態であることを意味する。
樹脂層がセル積層体に接着していると、セル積層体の厚さのばらつきが樹脂層によって吸収される状態が良好に持続する。その結果、セル積層体の面内方向における圧縮度合いの均等性が良好に保持される。
【0028】
全固体電池内部の密閉性の観点からは、樹脂層は、セル積層体と外装材のそれぞれと接着していることが好ましい。
全固体電池の主面の平坦性の観点からは、樹脂層の外装材に接する面は平坦であることが好ましい。
【0029】
以下、全固体電池を構成するセル積層体、外装材及び樹脂層について説明する。
【0030】
(セル積層体)
セル積層体は、1つ以上の単位セルを含む。単位セルの構成要素は特に制限されず、全固体電池として公知の構成要素であってよい。
セル積層体に含まれる単位セルは、負極層、固体電解質層及び正極層を含んでもよい。
【0031】
負極層は負極活物質を少なくとも含み、正極層は正極活物質を少なくとも含み、固体電解質層は固体電解質を少なくとも含む。
負極層及び正極層は、固体電解質をさらに含んでもよい。
【0032】
負極活物質は、リチウムイオンなどの金属イオンを吸蔵及び放出可能である材料から選択することができる。
負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金、グラファイト、ハードカーボン等の炭素材料、金属合金、シリコン合金等の珪素材料、Li4Ti5O12(LTO)が挙げられる。
【0033】
固体電解質としては、硫化物系非晶質固体電解質、酸化物系非晶質固体電解質、硫化物系結晶質固体電解質、酸化物系結晶質固体電解質、ヨウ化物系結晶質固体電解質、窒化物系固体電解質等が挙げられる。
硫化物系非晶質固体電解質としては、Li2S-P2S5、Li2O-Li2S-P2S5、Li2S、P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-LiBr-Li2S-P2S5、LiI-Li3PO4-P2S5等が挙げられる。
酸化物系非晶質固体電解質としては、Li2O-B2O3-P2O5、Li2O-SiO2等が挙げられる。
酸化物系結晶質固体電解質としては、Li5La3Ta2O12、Li7Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li3PO(4-3/2w)Nw(w<1)等が挙げられる。
硫化物系結晶質固体電解質としては、Li7P3S11、Li3.25P0.75S4等のガラスセラミックス、若しくはLi3.24P0.24Ge0.76S4等のThio-Lisicon系の結晶、Li6PS5X(X=Cl、Br)等のアルジロダイト型の結晶構造を有するもの(以下、「アルジロダイト型硫化物固体電解質」ということがある。)等が挙げられる。
ヨウ化物系結晶質固体電解質としては、LiIが挙げられる。
窒化物系結晶室固体電解質としては、Li3Nが挙げられる。
リチウムイオン伝導性及び電気化学的安定性の観点からは、アルジロダイト型硫化物固体電解質が好ましい。
【0034】
正極活物質としては、マンガン、コバルト、ニッケル、チタン等の遷移金属及びリチウムを含む金属酸化物が挙げられる。具体的には、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、異種元素置換Li-Mnスピネル、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム等が挙げられる。
【0035】
負極層は、負極活物質層と負極集電体とからなってもよい。
正極層は、正極活物質層と正極集電体とからなってもよい。
負極集電体又は正極集電体の材質としては、例えば、Ag、Cu、Au、Al、Ni、Fe、Tiの金属又はこれらの金属を含む合金が挙げられる。
負極集電体としては、化学的安定性の観点からはCu及びNiが好ましい。硫化物系の固体電解質を用いる場合には、負極集電体の硫化を回避する観点からNiが好ましい。
正極集電体としては、化学的安定性の観点からはAlが好ましい。
【0036】
負極活物質層と負極集電体とからなる負極層は、例えば、負極活物質とバインダとを含む負極合剤を負極集電体の表面に塗布し、乾燥させて形成される。
負極活物質層は、負極集電体の片面に形成されても両面に形成されてもよい。
負極合剤は、バインダの溶媒、導電材等を含有してもよい。
【0037】
固体電解質層の形成方法としては、固体電解質を含有する粉末又はペレット状の材料を圧縮成形する方法、固体電解質を含有するペースト状の材料をベース板の表面に塗布し、乾燥する方法等が挙げられる。
【0038】
正極活物質層と正極集電体とからなる正極層は、例えば、正極活物質とバインダとを含む正極合剤を正極集電体の表面に塗布し、乾燥させて形成される。
正極活物質層は、正極集電体の片面に形成されても両面に形成されてもよい。
正極合剤は、バインダの溶媒、導電材等を含有してもよい。
【0039】
セル積層体の厚さは特に制限されず、全固体電池の用途や性能に応じて設定できる。
例えば、セル積層体の厚さは0.1mm~20mm、0.5mm~10mm又は1mm~5mmの範囲から選択できる。
【0040】
(樹脂層)
樹脂層は、セル積層体と接着可能であることが好ましい。
セル積層体と接着可能な樹脂層としては、例えば、加熱により溶融又は軟化する樹脂を含む層が挙げられる。
加熱により溶融又は軟化する樹脂として具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0041】
セル積層体の厚さのばらつきを充分に吸収する観点からは、樹脂層の厚さは10μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。樹脂層の厚さは500μm以下であってもよい。
【0042】
樹脂層は、外装材と一体化していても、外装材と一体化していなくてもよい。全固体電池を製造する際の作業性の観点からは、樹脂層は外装材と一体化していることが好ましい。
【0043】
(外装材)
外装材の材質は特に制限されず、全固体電池の用途や性能に応じて設定できる。
例えば、外装材は基材層及びバリア層を含んでもよい。
基材層の材質は特に制限されず、樹脂、金属等であってもよい。樹脂としては、上述した熱可塑性樹脂が挙げられる。これらのうち、樹脂層に含まれる樹脂が溶融又は軟化する温度で溶融又は軟化しない熱可塑性樹脂が好ましい。
金属としてはアルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。
バリア層としては、金属箔、蒸着層等が挙げられる。
【0044】
本開示の全固体電池の形状は特に制限されない。
セル積層体と外装材との間に樹脂層を設けることでセル積層体の面内方向における圧縮度合いと厚さの均等性を高めるという本願発明の効果を発揮する観点からは、本開示の全固体電池はラミネート型であることが好ましい。
【0045】
全固体電池の厚さは特に制限されず、全固体電池の用途や性能に応じて設定できる。
例えば、全固体電池の厚さは0.2mm~21mm、0.5mm~10mm又は1mm~5mmの範囲から選択できる。
【実施例0046】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0047】
<実施形態1>
(正極層の作製)
正極合材としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2、アルジロダイト型硫化物固体電解質、導電助材及びバインダを溶媒中に分散したスラリーを調製した。このスラリーをAl製の集電箔の両面に塗工し、乾燥することで、集電箔の両面に厚さが約100μmの正極活物質層が形成された正極層(正極活物質層/正極集電箔/正極活物質層)を作製した。
【0048】
(負極層の作製)
負極合材として黒鉛、アルジロダイト型硫化物固体電解質及びバインダを溶媒中に分散したスラリーを調製した。このスラリーをCu製の集電箔の両面に塗工し、乾燥することで、集電箔の両面に厚さが約200μmの負極活物質層を形成した。
一方、アルジロダイト型固体電解質及びバインダを溶媒中に分散したスラリーを調製した。このスラリーを金属箔の片面に塗工し、乾燥することで、金属箔の片面に厚さが約30μmの固体電解質層が形成された固体電解質シートを作製した。
次いで、集電箔の両面の負極活物質層の上に固体電解質シートの固体電解質層が負極活物質層と対向するように配置し、ロールプレス処理を行い、固体電解質シートの金属箔を剥離した。これにより、両面に固体電解質層が転写された負極層(固体電解質層/負極活物質層/負極集電箔/負極活物質層/固体電解質層)を作製した。
【0049】
(全固体電池の作製)
所定の寸法に切断した負極層と正極層とを交互に重ね、厚さが2mmのセル積層体を作製した。
作製したセル積層体を、樹脂層が一体化した外装材(ポリプロピレンからなる樹脂層/アルミニウムからなるバリア層/ポリエチレンテレフタレートからなる基材層)で挟み、セル積層体の外周部を真空封止した。この状態で、190℃で温間等方圧プレス(WIP)処理を実施した。
【0050】
WIP処理後のセル積層体から外装材を除去し、セル積層体のタブ(集電箔の未塗工部)にタブリートを接合した。次いで、セル積層体を上記と同じ樹脂層が一体化した外装材で挟み、セル積層体の外周部を真空封止して、構造体を作製した。次いで、構造体の両面に180℃に加熱した平板をそれぞれ配置して押圧して、厚さが2.5mmの全固体電池を作製した。
【0051】
作製した全固体電池を切断して得た断面を観察したところ、ポリプロピレンからなる樹脂層がセル積層体に接着していた。また、樹脂層はセル積層体の表面の起伏に沿って変形しており、セル積層体の厚さのばらつきが樹脂層によって吸収されていた。この結果、全固体電池全体の面内方向における厚さのばらつきが、セル積層体の面内方向における厚さのばらつきよりも小さかった。