(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160700
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20241107BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20241107BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20241107BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20241107BHJP
C04B 18/16 20230101ALI20241107BHJP
C04B 20/00 20060101ALI20241107BHJP
C04B 24/24 20060101ALI20241107BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20241107BHJP
B28B 23/02 20060101ALI20241107BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/28
C04B18/14 A
C04B18/08 Z
C04B18/16
C04B20/00 B
C04B24/24
B28B1/30
B28B23/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024074258
(22)【出願日】2024-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2023075434
(32)【優先日】2023-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520332793
【氏名又は名称】株式会社Polyuse
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 太陽
【テーマコード(参考)】
4G052
4G112
【Fターム(参考)】
4G052DA01
4G052DA08
4G052DB12
4G052DC06
4G112MC00
4G112PA10
4G112PA27
4G112PA29
4G112PA30
4G112PB26
4G112PE02
(57)【要約】
【課題】鉄筋を含む造形物を得るにあたって有効な製造方法等を提供する。
【解決手段】本発明の一態様によれば、内部に鉄筋を含む造形物の製造方法が提供される。この製造方法は、結合材(A)と、細骨材(B)と、水と、を含む、付加製造用モルタル材料を準備する工程と、付加製造法により、付加製造用モルタル材料を造形する工程と、造形された付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、を備える。付加製造用モルタル材料における水の含有量は、結合材(A)の含有量を100質量部としたときに、27~34質量部の範囲である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に鉄筋を含む造形物の製造方法であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、水と、を含む、付加製造用モルタル材料を準備する工程と、
付加製造法により、前記付加製造用モルタル材料を造形する工程と、
造形された前記付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、
を備え、
前記付加製造用モルタル材料における前記水の含有量は、前記結合材(A)の含有量を100質量部としたときに、27~34質量部の範囲である、造形物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、前記結合材(A)以外に、吸水材料を含むものである、造形物の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、前記吸水材料として、前記細骨材(B)の少なくとも一部に廃瓦細骨材を含む、造形物の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、前記吸水材料として、吸水性ポリマー及び/又は吸水性を有する繊維材料を含む、造形物の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の造形物の製造方法において、
前記結合材(A)は、スラグ粉末及び/又は石灰石粉末を、前記結合材(A)全体に対して40質量%以上含む、造形物の製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)を含む、造形物の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の造形物の製造方法において、
前記結合材(A)は、フライアッシュを含む、造形物の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の造形物の製造方法において、
前記細骨材(B)の平均粒径が1mm以下である、造形物の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の造形物の製造方法において、
前記細骨材(B)の粒度指数は20以上である、造形物の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、分散剤及び/又は流動化剤を含む、造形物の製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の造形物の製造方法において、
前記造形物は、前記鉄筋と、前記付加製造用モルタル材料が硬化した硬化物と、が互いに接する部位を有する、造形物の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料を造形する工程では、前記付加製造用モルタル材料によって、内部にコンクリートを打設する型枠を造形し、
硬化した前記型枠内に存在する鉄筋に対して前記コンクリートを打設することで、前記型枠内に鉄筋コンクリート構造物を形成する工程をさらに備える、造形物の製造方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料を準備する工程は、結合材(A)と、細骨材(B)と、を含む粉体組成物と、水とを混合することで前記付加製造用モルタル材料を得る、造形物の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-G 571に準拠した供試体を得、同規格に準拠して塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定したときに、前記塩化物イオンの見掛けの拡散係数が0.5cm2/年以下となる、造形物の製造方法。
【請求項15】
請求項13に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JIS A 1153に準拠した供試体を得、同規格に準拠して中性化速度係数を測定したときに、前記中性化速度係数が0.35cm/年(1/2)以下となる、造形物の製造方法。
【請求項16】
請求項13に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JIS A 1148(A法)に準拠した供試体を得、同規格に準拠して相対動弾性係数を測定したときに、前記相対動弾性係数が90%以上となる、造形物の製造方法。
【請求項17】
請求項13に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-G 582に準拠した供試体を得、同規格に準拠して水分浸透速度係数を測定したときに、前記水分浸透速度係数が0.8mm/時間(1/2)以下となる、造形物の製造方法。
【請求項18】
請求項13に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-K 571に準拠した供試体を得、同規格の(3)透水量試験に準拠して60分間の透水量を測定したときに、前記透水量が2.5mL以下となる、造形物の製造方法。
【請求項19】
請求項13に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格NDIS 3436に準拠した供試体を得、同規格に準拠して表層透気係数を測定したときに、前記表層透気係数が0.1×10-16m2以下となる、造形物の製造方法。
【請求項20】
請求項13に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;0)が110mm未満であり、
ここで、T2(5;0)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、造形物の製造方法。
【請求項21】
請求項13に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)が110mm以上であり、
ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値である、造形物の製造方法。
【請求項22】
請求項13に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)とT2(5;0)との差(T2(5;15)-T2(5;0))が5~40mmの範囲であり、
ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値であり、T2(5;0)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメントや石膏等の水硬化性材料と、付加製造装置を用いて造形を行う方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、「セメント質混練物の水和が進行して該混練物の流動性が低下しても、繊細かつ多様なデザインを有する造形物を安定的に製造できる付加製造方法」が示されている。また、特許文献2には、「押出し性及び積層性に優れ、且つ、硬化後に高い層間付着強度を有する積層造形用水硬性組成物」が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-122539号公報
【特許文献2】特開2020-105023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、実際に造形物を作製する際に、当該造形物の内部に鉄筋等を含ませる場合がある。このような場合においては、付加製造に用いる材料を適切に選ばないと内部の鉄筋等を劣化させてしまうことがある。また、その他にも造形物を長期にわたって安定化させるための幅広いニーズが存在する。
【0005】
本発明では上記事情に鑑み、鉄筋を含む造形物を得るにあたって有効な製造方法等を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、内部に鉄筋を含む造形物の製造方法が提供される。この製造方法は、結合材(A)と、細骨材(B)と、水と、を含む、付加製造用モルタル材料を準備する工程と、付加製造法により、付加製造用モルタル材料を造形する工程と、造形された付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、を備える。付加製造用モルタル材料における水の含有量は、結合材(A)の含有量を100質量部としたときに、27~34質量部の範囲である。
【0007】
上記態様によれば、鉄筋を含む造形物を得るにあたって有効な製造方法等が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、技術的な矛盾がない限り、例えば、第1実施形態として示した特徴事項を、第2実施形態や第3実施形態に組み合わせてもよい。また、本明細書中の「~」はとくに断りがなければ、以上から以下を表す。
【0009】
<<第1実施形態>>
すなわち、第1実施形態にかかる造形物の製造方法は以下に示すものである。
内部に鉄筋を含む造形物の製造方法であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、水と、を含む、付加製造用モルタル材料を準備する工程と、
付加製造法により、前記付加製造用モルタル材料を造形する工程と、
造形された前記付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、
を備え、
前記付加製造用モルタル材料における前記水の含有量は、前記結合材(A)の含有量を100質量部としたときに、27~34質量部の範囲である、造形物の製造方法。
【0010】
[造形物の製造方法]
本実施形態の造形物の製造方法は、付加製造用のモルタル材料を用いるものである。本明細書において、付加製造(又は付加製造法)とは、材料を積層しながら造形する加工法を指す。すなわち、本実施形態の製造方法は、所定の付加製造用モルタル材料(単に「モルタル材料」と称することもある)を用いて造形を行い、造形物を硬化することにより、所望の造形物を得るという特徴を有する。
【0011】
このような造形は、付加製造装置(3Dプリンタ)を使用して行うことができる。なお、付加製造装置は、コンピュータにより作成した3Dデータを設計図に用いて、断面形状を積層することにより立体物を作製する産業用ロボットの一種である。ここで、付加製造装置は市販品や、公知の装置を使用することができる。より具体的には、付加製造装置に備えられたタンクにモルタル材料を充填し、付加製造装置に備えられたノズルからモルタル材料を押し出すことにより、上述のような造形を行うことができる。ここで得られる造形物の用途は適宜設定されてよいが、一例としては建設物である。
【0012】
また、本実施形態の製造方法は、造形されたモルタル材料を硬化させる工程を含む。換言すれば、本実施形態の製造方法で得られる造形物は、付加製造用モルタル材料の硬化物を有するものである。
なお、このような製造方法で用いられる硬化条件は任意である。すなわち、温度条件や湿度条件等を任意に設定することができる。
【0013】
本実施形態の製造方法で得られる造形物は、内部に鉄筋を含む。別の観点で説明すれば、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、鉄筋を含む造形物の少なくとも一部を付加製造法により形成するプロセスで用いられる。従来の材料は、造形物中の鉄筋を経年劣化させやすい傾向があったが、本実施形態の製造方法によれば、そのようなリスクが軽減されることとなる。
【0014】
具体的に、本実施形態の付加造形用モルタル材料においては含有される水の量が所定の範囲に制限されている。これにより、付加造形用モルタル材料が硬化する際に密な構造を形成することから、得られる造形物の外部に存在する水や塩素成分等が、造形物内部の鉄筋に作用してしまうことを抑制する(劣化抑制作用が発揮される)。
【0015】
なお、本実施形態の製造方法で得られる造形物は、一態様においては、鉄筋と、付加製造用モルタル材料が硬化した硬化物と、が互いに接する部位を有するものである。このような態様において、上述の劣化抑制作用は顕著に発揮されることとなる。
【0016】
一方、造形物は、鉄筋と、付加製造用モルタル材料が硬化した硬化物と、が互いに接する部位を有さない態様でもあり得る。典型的には、付加製造用モルタル材料によって、型枠(残存型枠)を形成し、その内部に鉄筋コンクリート構造物が形成された造形物も、本実施形態の製造方法で製造され得る。
【0017】
すなわち、本実施形態の製造方法において、前述した付加製造用モルタル材料を造形する工程では、付加製造用モルタル材料によって、内部にコンクリートを打設する型枠を造形してもよい。そして、硬化した型枠内に存在する鉄筋に対してコンクリートを打設することで、型枠内に鉄筋コンクリート構造物を形成してもよい。このような場合であっても、型枠内部の鉄筋コンクリート構造物の劣化を抑制し得る。
【0018】
本実施形態で用いられるモルタル材料の特徴について話を戻す。
本実施形態の付加製造用モルタル材料は、少なくとも、結合材(A)と、細骨材(B)と、水と、を含むものであるが、水の含有量は、結合材(A)の含有量に対して所定の範囲に設定されている。具体的に、付加製造用モルタル材料における水の含有量は、結合材(A)の含有量を100質量部としたときに、27~34質量部の範囲であり、28~33.5質量部の範囲にあることがより好ましく、29~33質量部の範囲にあることがさらに好ましい。このような範囲に設定することで、モルタル材料としての流動性を維持しながら前述の劣化抑制作用を顕著に発揮させることができる。
【0019】
なお、必ずしもこれには制限されないが、本実施形態のモルタル材料は、典型的には、結合材(A)と、細骨材(B)と、を含む粉体組成物(プレミックス)と、水とを混合することで得られる。すなわち、前述した付加製造用モルタル材料を準備する工程は、結合材(A)と、細骨材(B)と、を含む粉体組成物と、水とを混合することで付加製造用モルタル材料を得る工程であってよい。なお、所定の量の水に対して、結合材(A)や、細骨材(B)等の各種成分を別添することで、モルタル材料が得られてもよい。混合する方法は、スケールなどに応じて適宜選択されてよい。
【0020】
続いて、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物を構成しうる各種成分や、材料に関する特性について説明する。
【0021】
[結合材(A)]
本実施形態のモルタル材料や粉体組成物は、結合材(A)を含む。ここで、結合材(A)は、モルタルやコンクリートの強度発現に寄与する無機材料の総称である。
【0022】
ここで、結合材(A)は、セメント成分(A1)を含んでよい。このセメント成分(A1)としては、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメントおよびフライアッシュセメントからなる群から選択される成分を含みうる。
【0023】
その他、結合材(A)は、混和材(A2)を含んでよい。この混和材(A2)としては、フライアッシュ、高炉スラグ(微)粉末、石灰石(微)粉末、石粉、シリカフューム、膨張材(石灰複合系膨張材)および下水汚泥焼却灰からなる群から選択される成分を含みうる。これら混和材(A2)は、典型的には、前述のセメント成分(A1)と併用して配合されうるが、これら混和材(A2)のみで結合材(A)を構成してもよい。
【0024】
なお、これらの結合材(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用して用いる場合には、粒径の異なる結合材を混合してもよい。
【0025】
粉体組成物を用いる場合、粉体組成物全体における結合材(A)の含有量は適宜設定することができるが、粉体組成物全体の質量を100質量部としたときに、結合材(A)の含有量は、好ましくは20~80質量部であり、更に好ましくは25~75質量部であり、最も好ましくは30~70質量部である。このような範囲に設定することにより、得られるモルタル材料としての硬化性と、得られる硬化物の強度とのバランスを両立しやすくなる。なお、付加製造用モルタル材料については、水を除いた全体の質量を100質量部としたときに、結合材(A)の含有量が上記の範囲を満足することが好ましい。
【0026】
本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、結合材(A)としてスラグ粉末及び/又は石灰石粉末が含まれていることが好ましい。このような成分を結合材(A)に含ませることにより、スラグ粉末や石灰石粉末に塩化物イオンを固定化しやすくなり、結果、前述した劣化抑制作用が発揮されやすい。
なお、結合材(A)としてスラグ粉末及び/又は石灰石粉末を含ませる場合、このスラグ粉末及び/又は石灰石粉末の配合量(合計)は、結合材(A)の全体に対して40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが最も好ましい。このような配合量に設定することで、上述した塩化物イオンの固定化がより進行しやすくなる。一方、モルタル材料や粉体組成物中の、スラグ粉末の含有量の上限値は他の配合剤等に応じて適宜設定することができる。すなわち、結合材(A)のすべてが、スラグ粉末であってもよいし、スラグ粉末の含有量が、結合材(A)全体100質量部に対して、95質量部以下に設定されていてもよく、90質量部以下に設定されていてもよく、80質量部以下に設定されていてもよく、75質量部以下に設定されていてもよく、70質量部以下に設定されていてもよく、65質量部以下に設定されていてもよく。なお、本実施形態のモルタル材料や粉末組成物に用いることのできるスラグ粉末は、種々の材料の中から適宜設定することができるが、典型的には、高炉スラグ粉末等を用いることができる。
一方、なお、結合材(A)として石灰石粉末を含ませる場合、この石灰石粉末の配合量は、結合材(A)の全体に対して3~30質量%の範囲であることが好ましく、5~20質量%の範囲であることが更に好ましく、7~10質量%の範囲であることが特に好ましい。このような範囲に設定することによって、材料コストを良好なものとしつつ、モルタル材料を生成した際の取り扱い性と、硬化して得られる硬化物の物性の担保と、を両立しやすくすることができる。
なお、上述のように結合材(A)にスラグ粉末や石灰石粉末が含まれている場合、結合材(A)の残部はセメント成分(A1)で構成することができる。
【0027】
また別の観点では、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、中庸熱ポルトランドセメント及び/又は低熱ポルトランドセメントが含まれていることが好ましい。このような成分を結合材(A)に含ませることにより、モルタル材料を硬化させる際の発熱を制御しやすく、密な硬化物を生成しやすくなる。また、その結果、前述した劣化抑制作用をより発揮しやすくなる。なお、この中庸熱ポルトランドセメント及び/又は低熱ポルトランドセメントの配合量は、結合材(A)の全体に対して40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、60質量%以上であることが最も好ましい。一方、モルタル材料や粉体組成物中の、中庸熱ポルトランドセメント及び/又は低熱ポルトランドセメントの含有量の上限値は特に制限されない。すなわち、結合材(A)のすべてが、中庸熱ポルトランドセメント及び/又は低熱ポルトランドセメントであってもよいし、中庸熱ポルトランドセメント及び/又は低熱ポルトランドセメントの含有量が、結合材(A)全体100質量部に対して、95質量部以下に設定されていてもよく、90質量部以下に設定されていてもよく、80質量部以下に設定されていてもよい。
【0028】
また別の観点では、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、フライアッシュが含まれていることが好ましい。このような成分を結合材(A)に含ませることにより、モルタル材料を硬化させる際の発熱を制御しやすく、密な硬化物を生成しやすくなる。また、その結果、前述した劣化抑制作用をより発揮しやすくなる。なお、このフライアッシュの配合量は、結合材(A)の全体に対して3~30質量%の範囲であることが好ましく、5~20質量%の範囲であることが更に好ましく、7~10質量%の範囲であることが特に好ましい。このような範囲に設定することによって、材料コストを良好なものとしつつ、モルタル材料を生成した際の取り扱い性と、硬化して得られる硬化物の物性の担保と、を両立しやすくすることができる。
【0029】
また別の観点では、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、シリカヒュームが含まれていることが好ましい。このような成分を結合材(A)に含ませることにより、モルタル材料を硬化させる際の発熱を制御しやすく、密な硬化物を生成しやすくなる。また、その結果、前述した劣化抑制作用をより発揮しやすくなる。なお、このシリカヒュームの配合量は、結合材(A)の全体に対して5~20質量%の範囲であることが好ましく、7~18質量%の範囲であることが更に好ましく、9~15質量%の範囲であることが特に好ましい。このような範囲に設定することによって、付加製造プロセスに適用しやすい粘度のモルタル材料をより生成させやすくなる。
【0030】
その他、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、結合材(A)として普通ポルトランドセメントが含まれていてもよい。この普通ポルトランドセメントを適切に含有させることにより、適度な凝結速度を担保しつつ、得られる造形物の強度の向上に寄与することができるとともに、積層性と、圧送性のバランス向上を図ることができる。なお、この普通ポルトランドセメントの配合量は、結合材(A)の全体質量を100質量部としたときに、好ましくは40~90質量部であり、更に好ましくは50~85質量部であり、最も好ましくは60~75質量部である。
【0031】
[細骨材(B)]
本実施形態のモルタル材料や粉体組成物は、細骨材(B)を含む。本実施形態において、細骨材(B)とは、10mm網ふるいを全部通過し、5mm網ふるいを質量で85%以上通過する骨材のことをいう(JIS A 0203:2014)。
【0032】
細骨材(B)の種類は、適用用途等に応じて適宜設定してよい。一例として、細骨材(B)は、砂、山砂、陸砂、海砂、珪砂、砕砂、スラグ細骨材からなる群から選択される1以上の成分を含んでもよい。また、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物は、細骨材(B)として、炭素固定性材料及び/又は廃コンクリート材料を含んでもよい。また、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物は、細骨材(B)として、廃瓦細骨材を含んでもよい。なお、これらの細骨材(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用して用いる場合には、粒径の異なる細骨材を混合してもよい。
【0033】
粉体組成物を用いる場合、粉体組成物全体における細骨材(B)の含有量は適宜設定することができるが、粉体組成物全体の質量を100質量部としたときに、細骨材(B)の含有量は、好ましくは20~80質量部であり、更に好ましくは25~75質量部であり、最も好ましくは30~70質量部である。このような範囲に設定することにより、硬化性と、得られる硬化物の強度の両立を行いやすくなる。なお、付加製造用モルタル材料については、水を除いた全体の質量を100質量部としたときに、細骨材(B)の含有量が上記の範囲を満足することが好ましい。
【0034】
[チキソトロピー性を付与する混和剤(C)]
本実施形態のモルタル材料や粉体組成物は、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)を含んでよい。この混和剤(C)は、得られるモルタル材料についてのチキソトロピー性の向上に寄与しうる。すなわち、前述の通り、モルタル材料は付加製造に用いられ、典型的には、その製造過程において、押出プロセスに供される。ここで、モルタル材料が、チキソトロピー性を有するとなると、押出性が向上するとともに、押出し後の形状が安定化しやすい。ここでの混和剤(C)は、前述の結合材(A)および細骨材(B)に該当せず、得られるモルタル材料に対してのチキソトロピー性の向上に寄与するいずれかの剤を指す。
【0035】
この混和剤(C)は前述の特性を付与することが可能な公知の材料の中から適宜選択すればよい。一例としては、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)は、セルロース、変性セルロース、鉱物、ナノファイバー、ウレタン、キサンタンガム、ダイユータンガム、スターチエーテル、グアガム、ポリアクリルアミド、カラギーナンガム、寒天、蛋白質及びラテックスからなる群から選択される1以上の成分を含んでもよい。
【0036】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできる変性セルロースとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。なお、セルロースや、上述のような変性セルロースは、通常、繊維状の形態をしているが、チキソトロピーを付与する効果が高いことから、本明細書においては混和剤(C)として扱うこととする。
【0037】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできる鉱物としては、アタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリン、セピオライト等の粘土鉱物が挙げられる。
【0038】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできるナノファイバーとしては、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー等が挙げられる。なお、これらナノファイバーは、通常、繊維状の形態をしているが、チキソトロピーを付与する効果が高いことから、本明細書においては混和剤(C)として扱うこととする。
【0039】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできる合成繊維としては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン化合物、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。
【0040】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできるウレタンとしては、ウレタン系会合型増粘剤として用いられる各種ウレタン系増粘剤等が挙げられる。ここで、このウレタン系会合型増粘剤としては、日本材料技研株式会社製「チキソスター」や、株式会社ADEKA製「アデカノール」シリーズ、サンノプコ株式会社製「SN シックナー」シリーズ等が挙げられる。
【0041】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできる蛋白質としては、所定の分子量を有したアミノ酸縮合体等が挙げられる。
【0042】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできるラテックスとしては、クロロプレンゴムラテックス、アクリル系ラテックス等が挙げられる。
【0043】
粉体組成物を用いる場合、粉体組成物全体における混和剤(C)の含有量は適宜設定することができるが、混和剤(C)の含有量は、粉体組成物全体100質量部に対して、好ましくは0.02~0.14質量部の範囲であり、更に好ましくは0.04~0.12質量部の範囲であり、最も好ましくは0.06~0.10質量部の範囲である。このような範囲に設定することにより、得られるモルタル材料の取り扱い性を維持しつつ、得られる硬化物としての強度の向上を行いやすくなる。なお、付加製造用モルタル材料については、水を除いた全体の質量を100質量部としたときに、混和剤(C)の含有量が上記の範囲を満足することが好ましい。
【0044】
また別の観点では、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物は上述した混和剤(C)のうち、セルロース及び/又は変性セルロースを含むことが好ましい。このような成分を含ませることにより、モルタル材料としてのチキソトロピー性の向上に寄与するのみならず、モルタル材料を硬化させる際の、系中の水分量を制御しやすくするといった効果を与える。また、その結果、前述した劣化抑制効果をより発揮しやすくなる。なお、粉体組成物を用いる場合において、このセルロース及び/又は変性セルロースの配合量は、粉体組成物全体100質量部に対して、好ましくは0.02~0.20質量部の範囲であり、更に好ましくは0.04~0.18質量部の範囲であり、最も好ましくは0.06~0.16質量部の範囲である。このような範囲に設定することにより、上述の効果をいっそう奏しやすくすることができる。なお、付加製造用モルタル材料については、水を除いた全体の質量を100質量部としたときに、セルロース及び/又は変性セルロースの含有量が上記の範囲を満足することが好ましい。
【0045】
[繊維材料(D)]
また、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、繊維材料(D)が含まれていてもよい。この繊維材料(D)を適切に含有させることにより、得られる造形物の強度の向上に寄与することができるとともに、積層性と、圧送性のバランスを図ることができる。なお、本明細書における繊維材料(D)は、増粘剤(C)として列挙した成分に該当しないものである。
【0046】
繊維材料(D)の種類は適宜設定することができる。一例としては、繊維材料(D)は、金属繊維、炭素繊維、アラミド繊維、PP(ポリプロピレン)繊維、PVA(ポリ酢酸ビニル)繊維、PE(ポリエチレン)繊維、ガラス繊維、ナイロン繊維及びPBO(ポリベンゾオキサゾール)繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種の繊維材料を含んでよい。
【0047】
その他、繊維材料(D)は、天然由来の繊維材料を含んでもよい。この天然由来の繊維材料としては、植物に由来する繊維材料や、動物に由来する繊維材料等が挙げられる。ここで、植物に由来する繊維材料における「植物」とは、工業的に繊維材料を与えうる笹、竹、麻、稲、麦等が挙げられる。また、動物に由来する繊維材料における「動物」とは、典型的には羊等が挙げられる。
【0048】
なお、繊維材料(D)の繊維長(平均繊維長)は、1~30mmであることが好ましく、3~25mmであることが更に好ましく、5~20mmであることが最も好ましい。また、この繊維材料(D)の配合量は、結合材(A)と細骨材(B)との合計容量を100容量部としたときに、好ましくは0.05~5容量部であり、更に好ましくは0.08~3容量部であり、最も好ましくは0.1~1.5容量部である。
【0049】
[その他の成分]
その他、本実施形態の粉体組成物には、所望の特性が付与されることを目的として、上述の成分(A)~(D)以外のその他の成分を含ませてもよい。その他の成分としては、レオロジー改質剤(減水剤、分散剤、流動化剤等を含む)、消泡剤、凝結遅延剤、ガス発泡物質、凝結調整剤、AE剤、防錆剤、撥水剤、抗菌剤、着色剤、防凍剤、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体、尿素などの保湿剤等が挙げられる。これらの成分の配合量は任意である。
【0050】
なお、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、レオロジー改質剤が含まれていることが好ましい。このレオロジー改質剤を適切に含有させることにより、積層性と、圧送性のバランスを図ることができる。なお、一態様において、レオロジー改質剤としては、ポリカルボン酸系のレオロジー改質剤や、メラミン系のレオロジー改質剤を用いることができる。これらのレオロジー改質剤の配合量は、結合材(A)と細骨材(B)との合計質量を100質量部としたときに、好ましくは0.01~3質量部であり、更に好ましくは0.03~1質量部であり、最も好ましくは0.05~0.5質量部である。なお、このレオレジー改質剤は「減水剤」や「分散剤」、「流動化剤」とも称される場合がある。
【0051】
また別の観点では、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、減水剤及び/流動化剤が含まれていることが好ましい。このような減水剤や流動化剤を含ませることにより、モルタル材料を生成する際に、流動性を担保しながら用いる水の量を少なくすることができる。このことから密な硬化物を得やすくなり、結果、前述した劣化抑制効果を発揮しやすくなる。なお、この減水剤や流動化剤としては、高性能減水剤や高性能AE剤と称される成分を用いることができる。なお、減水剤として市販されているものとしては、太平洋マテリアル株式会社製の粉末型高性能減水剤「コアフロー」シリーズやポゾリスソリューションズ株式会社製の高性能減水剤「マスターグレニウム」シリーズ等を用いることができる。
この減水剤や流動化剤は、通常、セメント成分(A1)とともに用いられる。減水剤及び/又は流動化剤の配合量(合計)は、用途等に応じて適宜設定することができるが、セメント成分(A1)全体100質量部に対して、好ましくは0.4~2.0質量部であり、更に好ましくは0.7~1.8質量部であり、最も好ましくは1.0~1.5質量部である。
【0052】
また一態様において、モルタル材料や粉体組成物は、結合材(A)以外に、吸水材料を含むものであることが好ましい。このように吸水材料を含ませることにより、モルタル材料は系中に水を保持しやすくなる。これにより、硬化速度が適切にコントロールされることから、密な硬化物を得やすくなる。吸水材料の吸収することのできる水の量は、他の成分などに応じて適宜設定されるが、典型的には、吸水材料として以下の材料が用いられる。
【0053】
すなわち、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、吸水材料として、細骨材(B)の少なくとも一部に廃瓦細骨材が含まれることが好ましい。このような廃瓦細骨材は、適度な空隙を有しているため水を保持(吸収)しやすい。よって、モルタル材料等にこのような廃瓦細骨材を含ませることにより、モルタル材料は系中に水を保持しやすくなる。このことから密な硬化物を得やすくなり、結果、前述した劣化抑制効果を発揮しやすくなる。
この廃瓦細骨材の含有量は適宜選択できるが、細骨材(B)全体を100質量部としたときに、10質量部以上であってよく、15質量部以上であってよく、20質量部以上であってよく、30質量部以上であってよく、50質量部以上であってよい。一方、細骨材(B)全体が廃瓦細骨材であってもよい。また、廃瓦細骨材の含有量は、細骨材(B)全体を100質量部としたときに、90質量部以下であってよく、80質量部以下であってよい。
【0054】
また、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、吸水性ポリマーが含まれていることが好ましい。このような吸水性ポリマーを含ませることにより、モルタル材料は系中に水を保持しやすくなる。このことから密な硬化物を得やすくなり、結果、前述した劣化抑制効果を発揮しやすくなる。なお、この吸水性ポリマーとしては、ポリメタクリレートやポリアクリレート等の成分を用いることができる。なお、吸水性ポリマーとして市販されているものとしては、株式会社日本触媒製の対塩性吸水性樹脂「アクアリックCS」シリーズ等を用いることができる。
この吸水性ポリマーは、通常、セメント成分(A1)とともに用いられる。吸水性ポリマーの配合量は、用途等に応じて適宜設定することができるが、セメント成分(A1)全体100質量部に対して、好ましくは0.05~0.6質量部であり、更に好ましくは0.1~0.5質量部であり、最も好ましくは0.2~0.4質量部である。
【0055】
また、本実施形態のモルタル材料や粉体組成物には、吸水性を有する繊維材料が含まれていることが好ましい。このような繊維材料を含ませることにより、モルタル材料は系中に水を保持しやすくなる。このことから密な硬化物を得やすくなり、結果、前述した劣化抑制効果を発揮しやすくなる。なお、この繊維材料は、前述の繊維材料(D)の中から適宜選定されるが、笹、竹、麻、稲及び麦からなる群から選択される植物に由来する繊維材料であることが好ましい。
この吸水性を有する繊維材料は、通常、セメント成分(A1)とともに用いられる。吸水性を有する繊維材料の配合量は、用途等に応じて適宜設定することができるが、セメント成分(A1)全体100質量部に対して、好ましくは0.05~0.6質量部であり、更に好ましくは0.1~0.5質量部であり、最も好ましくは0.2~0.4質量部である。
【0056】
また別の観点では、モルタル材料の限られた水分量の条件においても流動性を向上させる観点で、細骨材(B)の形状について工夫を凝らすことが好ましい。
【0057】
典型的には、モルタル材料や粉体組成物に含まれる細骨材(B)は、その平均粒径が1mm以下であることが好ましく、0.8mm以下であることがより好ましく、0.6mm以下であることがさらに好ましい。このような範囲に設定することで、モルタル材料としての流動性向上に寄与することができる。なお、平均粒径の下限値はとくに制限されないが、一例としては0.1mm以上である。また、細骨材(B)の平均粒径は、JIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」に記載のふるい分け試験により各ふるいに留まる骨材の質量分率を測定し、各ふるいの目開きとそこに留まる骨材の質量分率から算出した値として定義することができる。
【0058】
また、モルタル材料や粉体組成物に含まれる細骨材(B)の粒度指数、20以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、45以上であることがさらに好ましい。このような範囲に設定することで、モルタル材料としての流動性向上に寄与することができる。なお、粒度指数の上限値はとくに制限されないが、一例としては200以下である。また、細骨材(B)の粒度指数は、JIS Z 2601:1993「鋳物砂の試験方法」に規定される指数を意味する。
【0059】
[粉体組成物の製造方法]
本実施形態の粉体組成物は、前述した各種原料を混合することで製造することができる。混合する方法は公知の手法の中から適宜設定すればよく、特段の制限はない。なお、ここで得られる粉体組成物は以下に示す物性(物性(1)や物性(2))を満たすことが好ましい。
【0060】
[粉体組成物の物性(1)]
本実施形態の粉体組成物は、水を加えて試料を作製したときに、所定の特性を満たすことが好ましい。具体的に、本実施形態の粉体組成物は、粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えることで硬化させ、所定の供試体を得たときに所定の測定値を与えることが好ましい。なお、以下の各種試験における供試体の作製や保存、試験の実施については、各規格に準拠して条件が設定されるが、規格にとくに制約がない場合は20℃の環境下で行われるものである。
なお、上記の供試体の作製条件、保存条件、試験の実施条件は、本項目における物性を議論するために定められているものである。一方、本実施形態の粉体組成物を付加製造プロセスに適用するにあたっては、上記の条件に制限されない種々の条件を採用することができる。
【0061】
ここで、本明細書で粉体組成物の物性を議論する際の水の添加量は、粉体組成物100質量部に対して14.5質量部を基準に設定される。本明細書では、この基準となる水の添加量に関する公差は±1.5質量部と設定されるが、この公差については、作製サンプルのスケール等に応じて別の値で議論してもよいこととする。すなわち、本明細書では、上述の公差について、±1.0質量部として議論してもよく、±0.8質量部として議論してもよく、±0.5質量部として議論してもよく、±0.3質量部として議論してもよく、±0.1質量部として議論してもよい。
【0062】
なお、以下に示す各試験における測定値は、結合材(A)や細骨材(B)等の種類の組み合わせを適切に選定すること等によって実現し得る。
【0063】
すなわち、本実施形態の粉体組成物は、粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-G 571に準拠した供試体を得、同規格に準拠して塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定したときに、塩化物イオンの見掛けの拡散係数が0.5cm2/年以下となることが好ましい。本試験における塩化物イオンの見掛けの拡散係数をこのような値に設定することにより、モルタル材料から造形物を作製した際、造形物の寿命を向上させやすい。なお、ここでの塩化物イオンの見掛けの拡散係数は、0.3cm2/年以下であることが好ましく、0.25cm2/年以下であることがさらに好ましく、0.2cm2/年以下であることが特に好ましい。また、塩化物イオンの見掛けの拡散係数の下限値はとくに制限されないが、一例としては、0.05cm2/年以上である。
【0064】
また、本実施形態の粉体組成物は、粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JIS A 1153に準拠した供試体を得、同規格に準拠して中性化速度係数を測定したときに、中性化速度係数が0.35cm/年(1/2)以下となることが好ましい。本試験における中性化速度係数をこのような値に設定することにより、モルタル材料から造形物を作製した際、造形物の寿命を向上させやすい。なお、ここでの中性化速度係数は、0.30cm/年(1/2)以下であることがさらに好ましく、0.25cm/年(1/2)以下であることが特に好ましい。また、中性化速度係数の下限値はとくに制限されないが、一例としては、0.10cm/年(1/2)以上である。
【0065】
また、本実施形態の粉体組成物は、粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JIS A 1148(A法)に準拠した供試体を得、同規格に準拠して相対動弾性係数を測定したときに、相対動弾性係数が90%以上となることが好ましい。本試験における相対同弾性係数をこのような値に設定することにより、モルタル材料から造形物を作製した際、造形物の寿命を向上させやすい。なお、ここでの相対同弾性係数は、92%以上であることがさらに好ましく、95%以上であることが特に好ましい。また、相対同弾性係数の上限値はとくに制限されないが、一例としては、105%以下である。
【0066】
また、本実施形態の粉体組成物は、粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-G 582に準拠した供試体を得、同規格に準拠して水分浸透速度係数を測定したときに、水分浸透速度係数が0.8mm/時間(1/2)以下となることが好ましい。本試験における水分浸透速度係数をこのような値に設定することにより、モルタル材料から造形物を作製した際、造形物の寿命を向上させやすい。なお、ここでの水分浸透速度係数は、0.7mm/時間(1/2)以下であることがさらに好ましく、0.6mm/時間(1/2)以下であることが特に好ましい。また、水分浸透速度係数の下限値はとくに制限されないが、一例としては、0.35mm/時間(1/2)以上である。
【0067】
また、本実施形態の粉体組成物は、粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-K 571に準拠した供試体を得、同規格の(3)透水量試験に準拠して60分間の透水量を測定したときに、透水量が2.5mL以下となることが好ましい。本試験における透水量をこのような値に設定することにより、モルタル材料から造形物を作製した際、造形物の寿命を向上させやすい。なお、ここでの透水量は、2.0mL以下であることがさらに好ましく、1.5mL以下であることが特に好ましい。また、本試験における透水量の下限値はとくに制限されないが、一例としては、0.5mL以上である。
【0068】
また、本実施形態の粉体組成物は、粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格NDIS 3436に準拠した供試体を得、同規格に準拠して表層透気係数を測定したときに、表層透気係数が0.1×10-16m2以下となることが好ましい。本試験における表層透気係数をこのような値に設定することにより、モルタル材料から造形物を作製した際、造形物の寿命を向上させやすい。なお、ここでの表層透気係数は、0.07×10-16m2以下であることがさらに好ましく、0.05×10-16m2以下であることが特に好ましい。また、表層透気係数の下限値はとくに制限されないが、一例としては、0.001×10-16m2以上である。
【0069】
[粉体組成物の物性(2)]
本実施形態の粉体組成物は、水を加えて試料を作製したときに、所定の特性を満たすことが好ましい。具体的に、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、この試料に対し、後述の各種試験1~3を実施したときに、所定の測定値を与えることが好ましい。なお、以下の各種試験において、試料の作製や保存、試験の実施は、20℃の環境下で行われるものである。また、本明細書においては、試験不能である粉体については、そもそも測定値を有していないものとして扱う。
なお、上記の試料作製条件、保存条件、試験の実施条件は、本項目における物性を議論するために定められているものである。一方、本実施形態の粉体組成物を付加製造プロセスに適用するにあたっては、上記の条件に制限されない種々の条件を採用することができる。
【0070】
(試験1;スランプ試験)
すなわち、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(5)が2cm以下である。ここで、T1(5)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたスランプ試験のスランプ値である。
【0071】
このようにT1(5)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性を向上させることができる。なお、T1(5)は、1.5cm以下であることが更に好ましく、1.0cm以下であることが最も好ましい。また、T1(5)の下限値はとくに制限されるものではないが、一例としては0.1cm以上である。
【0072】
さらに、本実施形態の粉体組成物は、前述のT1(5)とT1(30)との差が0.1~1.8cmの範囲であることが好ましい。なお、T1(30)は、作製時から30分経過した試料に対して行われたスランプ試験のスランプ値であるが、通常はT1(5)の方がT1(30)の数値よりも大きいため、「T1(5)-T1(30)」として上述の差分を求めることができる。このようにT1(5)-T1(30)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長い時間にわたって積層性を向上させることができる。なお、T1(5)-T1(30)は、0.3~1.5cmであることが更に好ましく、0.5~1.2cmであることが最も好ましい。
【0073】
(試験2;フローテーブル試験)
すなわち、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;0)が110mm未満であることが好ましい。ここで、T2(5;0)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたフローテーブル試験の0打のフロー値である。
【0074】
このようにT2(5;0)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性を向上させることができる。なお、T2(5;0)は、108mm以下であることが更に好ましく、105mm以下であることが最も好ましい。また、T2(5;0)の下限値はとくに制限されるものではないが、一例としては100mm以上である。
【0075】
また、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)が110mm以上であることが好ましい。ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたフローテーブル試験の15打のフロー値である。
【0076】
このようにT2(5;15)を所定の数値以上とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、圧送性や流動性を向上させることができる。なお、T2(5;15)は、115mm以上であることが更に好ましく、120mm以上であることが最も好ましい。また、T2(5;15)の上限値はとくに制限されるものではないが、一例としては140mm以下である。
【0077】
さらに、本実施形態の粉体組成物は、前述のT2(5;15)とT2(5;0)との差が5~40mmの範囲であることが好ましい。なお、通常はT2(5;15)の方がT2(5;0)の数値よりも大きいため、「T2(5;15)-T2(5;0)」として上述の差分を求めることができる。このようにT2(5;15)-T2(5;0)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性、圧送性、流動性のバランスを向上させることができる。なお、T2(5;15)-T2(5;0)は、7~30mmであることが更に好ましく、10~20mmであることが最も好ましい。
【0078】
また、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;0)が108mm未満であることが好ましい。ここで、T2(30;0)は、作製時から30分経過した試料に対して行われたフローテーブル試験の0打のフロー値である。
【0079】
このようにT2(30;0)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長期にわたって積層性を向上させることができる。なお、T2(30;0)は、106mm以下であることが更に好ましく、105mm以下であることが最も好ましい。また、T2(30;0)の下限値はとくに制限されるものではないが、一例としては98mm以上である。
【0080】
また、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;15)が108mm以上であることが好ましい。ここで、T2(30;15)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたフローテーブル試験の15打のフロー値である。
【0081】
このようにT2(30;15)を所定の数値以上とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長期にわたって圧送性や流動性を向上させることができる。なお、T2(30;15)は、110mm以上であることが更に好ましく、115mm以上であることが最も好ましい。また、T2(30;15)の上限値はとくに制限されるものではないが、一例としては130mm以下である。
【0082】
さらに、本実施形態の粉体組成物は、前述のT2(30;15)とT2(30;0)との差が5~20mmの範囲であることが好ましい。なお、通常はT2(30;15)の方がT2(30;0)の数値よりも大きいため、「T2(30;15)-T2(30;0)」として上述の差分を求めることができる。このようにT2(30;15)-T2(30;0)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性、圧送性、流動性のバランスを長期にわたって向上させることができる。なお、T2(30;15)-T2(30;0)は、7~15mmであることが更に好ましく、8~12mmであることが最も好ましい。
【0083】
(試験3;ハンドベーンせん断試験)
さらに、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(5)が1.5~5kPaであることが好ましい。ここで、T3(5)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である。
【0084】
このようにT3(5)を所定の数値範囲とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性を向上させることができ、加えて、適度な加工性を担保することができる。なお、T3(5)は、1.7~4.5kPaであることが更に好ましく、2.0~4.0kPaであることが最も好ましい。
【0085】
また、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(30)が3.0~8.0kPaであることが好ましい。ここで、T3(30)は、作製時から30分経過した試料に対して行われたハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である。
【0086】
このようにT3(30)を所定の数値範囲とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長期にわたって積層性を向上させることができ、加えて、長期にわたって適度な加工性を担保することができる。なお、T3(30)は、3.5~7.5kPaであることが更に好ましく、4.0~7.0kPaであることが最も好ましい。
【0087】
さらに、本実施形態の粉体組成物は、前述のT3(30)とT3(5)との差が1.5~6.5kPaの範囲であることが好ましい。なお、通常はT3(30)の方がT3(5)の数値よりも大きいため、「T3(30)-T3(5)」として上述の差分を求めることができる。このようにT3(30)-T3(5)を所定の数値範囲とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長い時間にわたって積層性や加工性を向上させることができる。なお、T3(30)-T3(5)は、2.0~6.0kPaであることが更に好ましく、2.5~5.0kPaであることが最も好ましい。
【0088】
なお、上述の各試験における測定値は、混和剤(C)の種類を適切に選定すること、混和剤(C)の配合量を適切に設定すること、結合材(A)や細骨材(B)と、混和剤(C)との種類の組み合わせを適切に選定すること等によって実現し得る。
【0089】
以上の通り、第1実施形態の造形物の製造方法によれば、適切なモルタル材料が用いられていることから、造形物内の鉄筋の劣化が抑制される。
【0090】
続いて、第2実施形態にかかる粉体組成物について説明する。
【0091】
<<第2実施形態>>
すなわち、第2実施形態にかかる粉体組成物は以下に示すものである。
付加製造用モルタル材料を生成するための粉体組成物であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、を含み、
前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-G 571に準拠した供試体を得、同規格に準拠して塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定したときに、前記塩化物イオンの見掛けの拡散係数が0.5cm2/年以下となる、粉体組成物。
【0092】
[粉体組成物]
本実施形態の粉体組成物は、付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる。
ここで、付加製造とは、材料を積層しながら造形する加工法である。本実施形態においては、粉体組成物から得られるモルタル材料を積層させることによって、所定の造形物を得ることができる。詳細は第1実施形態に示した通りである。
【0093】
本実施形態の粉体組成物は、典型的には、このようなモルタル材料を得る際のプレミックス材料である。すなわち、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、粉体組成物に、水を加えてなるものであるといえる。ここで、加えられる水の量は、粉体組成物の組成や、適用するプロセス条件等に応じ適宜設定してよいが、粉体組成物100質量部に対して12.0~18.0質量部であることが好ましい。なお、ここで加えられる水は、適用用途に応じて適宜設定してよいが、水道水やイオン交換水であってよい。また、加えられる水の量は、粉体組成物100質量部に対して13.0~16.0質量部であることが更に好ましく、14.0~15.0質量部であることが最も好ましい。
【0094】
なお、本実施形態の粉体組成物から生成される付加製造用モルタル材料は各種用途に用いられるが、典型的には、付加製造用モルタル材料は、鉄筋を含むコンクリート構造物の少なくとも一部を付加製造法により形成するプロセスで用いられる。前述のように、本実施形態の粉体組成物は、所定の供試体を得て、塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定した際、その測定値が低い水準に制御されている。従来の材料においてはこの数値の高さからコンクリート構造物中の鉄筋を経年劣化させやすい傾向があったが、本実施形態の粉体組成物を用いた場合は、そのようなリスクが軽減されることとなる。
【0095】
[付加製造用モルタル材料]
前述の通り、本実施形態の粉体組成物は、付加製造用モルタル材料を得るためのプレミックス材料として用いられる。すなわち、本実施形態の粉体組成物は水を加えられることで、付加製造用モルタル材料へと変換される。
【0096】
[造形物の製造方法]
続いて、本実施形態にかかる造形物の製造方法について説明する。
すなわち、本実施形態の造形物の製造方法は、付加製造用モルタル材料を準備する工程と、付加製造法により、付加製造用モルタル材料を造形する工程と、造形された付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、を備える。
【0097】
すなわち、第2実施形態において、造形物は、付加製造用モルタル材料の硬化物を有するものである。このような造形物は、前述した付加製造用モルタル材料を準備し、付加製造法により造形し、更に硬化させることで、得ることができる。
なお、このような製造方法で用いられる付加製造法は公知の手法を採用することができ、硬化条件も任意である。なお、硬化を行うにあたっては、温度条件や湿度条件等を設定することができる。
【0098】
なお、第2実施形態において、典型的には造形物の内部に鉄筋が含まれてよい。このように製造される造形物の内部に鉄筋が含まれた場合においても、所定の粉体組成物から得られるモルタル材料を使用した場合に鉄筋の劣化が起こりづらくなる。
【0099】
その他、第2実施形態の粉体組成物を構成しうる各種成分や、製造方法、物性については、第1実施形態に示したものと同様である。
【0100】
以上、第2実施形態の粉体組成物によれば、付加製造プロセスに有用な粉体組成物等が提供される。
【0101】
<<第3実施形態>>
また、第3実施形態にかかるモルタル材料は以下に示すものである。
付加製造用モルタル材料であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、水と、を含み、
前記付加製造用モルタル材料を硬化させて規格JSCE-G 571に準拠した供試体を得、同規格に準拠して塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定したときに、前記塩化物イオンの見掛けの拡散係数が0.5cm2/年以下となる、付加製造用モルタル材料。
【0102】
[付加製造用モルタル材料]
すなわち、第3実施形態のモルタル材料は、前述の成分(A)、(B)とともに水を含むものであるが、必ずしも、所定の粉体組成物を得た後に製造されたものでなくてもよく、任意の順序で構成材料が配合されればよい。換言すれば、付加製造装置内で各種材料を配合して得られるモルタル材料であってもよい。
【0103】
さらに、第3実施形態のモルタル材料は、硬化させて規格JSCE-G 571に準拠した供試体を得、同規格に準拠して塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定したときに、前記塩化物イオンの見掛けの拡散係数が0.5cm2/年以下となるという特徴を有する。本実施形態の付加製造用モルタル材料は、鉄筋を含むコンクリート構造物の少なくとも一部を付加製造法により形成するプロセスで用いられてもよい。このように鉄筋を含む造形物の製造プロセスに、本実施形態の付加製造用モルタル材料を適用した際には、第2実施形態と同様に鉄筋を劣化させにくい結果を与えやすいことが期される。なお、本実施形態における塩化物イオンの見掛けの拡散係数の値は、第2実施形態に示した供試体に対する各種測定値と同じものであってよい。
【0104】
その他、第3実施形態にかかるモルタル材料として用いることのできる各種原料や、付加製造用モルタル材料として具備してよい性質、用途等は、第1実施形態や第2実施形態として示したものと同様であってよい。すなわち、第3実施形態の付加製造用モルタル材料は、硬化させた際に、第1実施形態の[粉体組成物の物性(1)]の項目に示した各種物性にかかる測定値と同じ値を与えるものであってよい。
【0105】
以上、第3実施形態にかかるモルタル材料によれば、付加製造プロセスに有用なモルタル材料等が提供される。
【0106】
続いて、本発明の参考形態を付記する。
【0107】
[α1]
内部に鉄筋を含む造形物の製造方法であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、水と、を含む、付加製造用モルタル材料を準備する工程と、
付加製造法により、前記付加製造用モルタル材料を造形する工程と、
造形された前記付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、
を備え、
前記付加製造用モルタル材料における前記水の含有量は、前記結合材(A)の含有量を100質量部としたときに、27~34質量部の範囲である、造形物の製造方法。
[α2]
[α1]に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、前記結合材(A)以外に、吸水材料を含むものである、造形物の製造方法。
[α3]
[α2]に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、前記吸水材料として、前記細骨材(B)の少なくとも一部に廃瓦細骨材を含む、造形物の製造方法。
[α4]
[α2]又は[α3]に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、前記吸水材料として、吸水性ポリマー及び/又は吸水性を有する繊維材料を含む、造形物の製造方法。
[α5]
[α1]ないし[α4]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記結合材(A)は、スラグ粉末及び/又は石灰石粉末を、前記結合材(A)全体に対して40質量%以上含む、造形物の製造方法。
[α6]
[α1]ないし[α5]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)を含む、造形物の製造方法。
[α7]
[α1]ないし[α6]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記結合材(A)は、フライアッシュを含む、造形物の製造方法。
[α8]
[α1]ないし[α7]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記細骨材(B)の平均粒径が1mm以下である、造形物の製造方法。
[α9]
[α1]ないし[α8]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記細骨材(B)の粒度指数は20以上である、造形物の製造方法。
[α10]
[α1]ないし[α9]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料は、分散剤及び/又は流動化剤を含む、造形物の製造方法。
[α11]
[α1]ないし[α10]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記造形物は、前記鉄筋と、前記付加製造用モルタル材料が硬化した硬化物と、が互いに接する部位を有する、造形物の製造方法。
[α12]
[α1]ないし[α10]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料を造形する工程では、前記付加製造用モルタル材料によって、内部にコンクリートを打設する型枠を造形し、
硬化した前記型枠内に存在する鉄筋に対して前記コンクリートを打設することで、前記型枠内に鉄筋コンクリート構造物を形成する工程をさらに備える、造形物の製造方法。
[α13]
[α1]ないし[α12]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記付加製造用モルタル材料を準備する工程は、結合材(A)と、細骨材(B)と、を含む粉体組成物と、水とを混合することで前記付加製造用モルタル材料を得る、造形物の製造方法。
[α14]
[α13]に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-G 571に準拠した供試体を得、同規格に準拠して塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定したときに、前記塩化物イオンの見掛けの拡散係数が0.5cm2/年以下となる、造形物の製造方法。
[α15]
[α13]又は[α14]に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JIS A 1153に準拠した供試体を得、同規格に準拠して中性化速度係数を測定したときに、前記中性化速度係数が0.35cm/年(1/2)以下となる、造形物の製造方法。
[α16]
[α13]ないし[α15]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JIS A 1148(A法)に準拠した供試体を得、同規格に準拠して相対動弾性係数を測定したときに、前記相対動弾性係数が90%以上となる、造形物の製造方法。
[α17]
[α13]ないし[α16]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-G 582に準拠した供試体を得、同規格に準拠して水分浸透速度係数を測定したときに、前記水分浸透速度係数が0.8mm/時間(1/2)以下となる、造形物の製造方法。
[α18]
[α13]ないし[α17]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-K 571に準拠した供試体を得、同規格の(3)透水量試験に準拠して60分間の透水量を測定したときに、前記透水量が2.5mL以下となる、造形物の製造方法。
[α19]
[α13]ないし[α18]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格NDIS 3436に準拠した供試体を得、同規格に準拠して表層透気係数を測定したときに、前記表層透気係数が0.1×10-16m2以下となる、造形物の製造方法。
[α20]
[α13]ないし[α19]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;0)が110mm未満であり、
ここで、T2(5;0)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、造形物の製造方法。
[α21]
[α13]ないし[α20]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)が110mm以上であり、
ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値である、造形物の製造方法。
[α22]
[α13]ないし[α21]のいずれか1項に記載の造形物の製造方法において、
前記粉体組成物は、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)とT2(5;0)との差(T2(5;15)-T2(5;0))が5~40mmの範囲であり、
ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値であり、T2(5;0)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、造形物の製造方法。
【0108】
[β1]
付加製造用モルタル材料を生成するための粉体組成物であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、を含み、
前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-G 571に準拠した供試体を得、同規格に準拠して塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定したときに、前記塩化物イオンの見掛けの拡散係数が0.5cm2/年以下となる、粉体組成物。
[β2]
[β1]に記載の粉体組成物において、
前記付加製造用モルタル材料は、鉄筋を含むコンクリート構造物の少なくとも一部を付加製造法により形成するプロセスで用いられる、粉体組成物。
[β3]
[β1]又は[β2]に記載の粉体組成物において、
前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JIS A 1153に準拠した供試体を得、同規格に準拠して中性化速度係数を測定したときに、前記中性化速度係数が0.35cm/年(1/2)以下となる、粉体組成物。
[β4]
[β1]ないし[β3]のいずれか1項に記載の粉体組成物において、
前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JIS A 1148(A法)に準拠した供試体を得、同規格に準拠して相対動弾性係数を測定したときに、前記相対動弾性係数が90%以上となる、粉体組成物。
[β5]
[β1]ないし[β4]のいずれか1項に記載の粉体組成物において、
前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-G 582に準拠した供試体を得、同規格に準拠して水分浸透速度係数を測定したときに、前記水分浸透速度係数が0.8mm/時間(1/2)以下となる、粉体組成物。
[β6]
[β1]ないし[β5]のいずれか1項に記載の粉体組成物において、
前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格JSCE-K 571に準拠した供試体を得、同規格の(3)透水量試験に準拠して60分間の透水量を測定したときに、前記透水量が2.5mL以下となる、粉体組成物。
[β7]
[β1]ないし[β6]のいずれか1項に記載の粉体組成物において、
前記粉体組成物100質量部に対して14.5±1.5質量部の水を加えて硬化させることで規格NDIS 3436に準拠した供試体を得、同規格に準拠して表層透気係数を測定したときに、前記表層透気係数が0.1×10-16m2以下となる、粉体組成物。
[β8]
[β1]ないし[β7]のいずれか1項に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)は、スラグ粉末及び/又は石灰石粉末を、前記結合材(A)全体に対して40質量%以上含む、粉体組成物。
[β9]
[β1]ないし[β8]のいずれか1項に記載の粉体組成物において、
さらにチキソトロピー性を付与する混和剤(C)を含む、粉体組成物。
[β10]
付加製造用モルタル材料であって、
[β1]ないし[β10]のいずれか1項に記載の粉体組成物に水を加えてなる、付加製造用モルタル材料。
[β11]
付加製造用モルタル材料であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、水と、を含み、
前記付加製造用モルタル材料を硬化させて規格JSCE-G 571に準拠した供試体を得、同規格に準拠して塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定したときに、前記塩化物イオンの見掛けの拡散係数が0.5cm2/年以下となる、付加製造用モルタル材料。
[β12]
[β11]に記載の付加製造用モルタル材料において、
鉄筋を含むコンクリート構造物の少なくとも一部を付加製造法により形成するプロセスで用いられる、付加製造用モルタル材料。
[β13]
造形物であって、
[β10]ないし[β12]のいずれか1項に記載の付加製造用モルタル材料の硬化物を有する、造形物。
[β14]
[β13]に記載の造形物において、
内部に鉄筋を含む、造形物。
[β15]
造形物の製造方法であって、
[β10]ないし[β12]のいずれか1項に記載の付加製造用モルタル材料を準備する工程と、
付加製造法により、前記付加製造用モルタル材料を造形する工程と、
造形された前記付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、を備える、造形物の製造方法。
[β16]
[β15]に記載の造形物の製造方法において、
前記造形物の内部に鉄筋を含む、造形物の製造方法。
【0109】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0110】
本実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例(試験例)により制限されるものではない。
【0111】
[使用原料]
まず、本実施例で用いた使用原料について説明する。本実施例項で用いた各種使用原料は以下の通りである。
(1)ポルトランドセメント:普通ポルトランドセメント(ブレーン比表面積4440cm2/g)
(2)高炉スラグ微粉末:高炉スラグ微粉末(密度:2.91g/cm3、比表面積:8000cm2/g)
(3)シリカフューム:シリカフューム(密度:2.25g/cm3、比表面積:2000000cm2/g;ポゾリスソリューションズ株式会社製「マスターライフ(登録商標) SF 610」)
(4)無機系膨張材:石灰複合系膨張材(デンカ株式会社製「デンカパワーCSA」)
(5)細骨材:4号珪砂(吸水率0.87%)
(6)増粘剤:メチルセルロース系増粘剤、使用原料は粉末状
(7)レオロジー改質剤:ポリカルボン酸系、使用原料は粉末状(太平洋セメント株式会社製「コアフローNF-100」)
(8)ナイロン繊維(繊維長さ:10mm)
(9)保湿剤:尿素
【0112】
[粉体組成物の調製]
各種原料を表1に示す処方で配合し、試験例1にかかる粉体組成物を調製した。具体的には、各成分をホバート型ミキサーを用いて5分間混合し、粉体状の組成物を得た。
【0113】
[モルタル材料の調製]
得られた粉体組成物3.0kgに、所定量の水道水を加え、ホバート型ミキサーで低速(パドル自転速度:140rpm、パドル公転速度:62rpm)で1分間だけ混錬し、一度パドルに付着したモルタルをそぎ落とし、再度高速(パドル自転速度:285rpm、パドル公転速度:125rpm)で2分間だけ混錬することによりモルタル材料を得た。なお、試験例1では、結合材と細骨材の総質量に対して15質量%の水道水を加えている(結合材全体に対して28.1質量%の水道水を加えている)。また、得られたモルタル材料については、作製後5分と30分の段階で以下の試験項目に沿って評価を行っている。
【0114】
[試験1:スランプ試験(JIS A 1171)]
練り上がったモルタルペーストをスランプコーンへ2層に分けて充填した。充填時は、突き棒を用いて1層ごとに15回だけ突いて、空隙が無いようにペーストを詰め込んだ。充填後、天面を擦切って平にし、速やかにコーンを引き抜いた。コーンを引き抜いた直後に、ペーストの沈降部をスケールで測定した。表1には、各試験例のモルタル材料の評価値を「モルタルスランプ値」として記載した。この試験値は、低いほど付加製造プロセスに供した際に積層性の良さに寄与することができる。
【0115】
[試験2:フローテーブル試験(JIS R 5201)]
練り上がったモルタルペーストをフローコーンへ2層に分けて充填した。充填時は、突き棒を用いて1層ごとに15回だけ突いて、空隙が無いようにペーストを詰め込んだ。充填後、天面を擦切って平にし、速やかにコーンを引き抜いた。このときの底面の直径を2か所だけ測定した(直交する直径)。測定値の最大値を0打のフロー値とした。次に1秒間あたり1cmの落下を試料に与えて、これを15回繰り返したのち、底面の直径を2か所測定した(直交する直径)。測定値の最大値を15打のフロー値とした。表1には、各試験例のモルタル材料の評価値を「モルタルフロー値」として記載した。なお、15打でのモルタルフロー値と、0打でのモルタルフロー値との差分を「フローの広がり量」として記載した。0打でのモルタルフロー値は、その値が小さいほど付加製造プロセスに供した際に積層性の良さに寄与することができる。また、15打でのモルタルフロー値と、フローの広がり量は、その値が大きいほど付加製造プロセスに供した際の圧送性や、流動性に寄与することができる。
【0116】
[試験3:ハンドベーンせん断試験(JGS 1411)]
練り上がったモルタルペーストを金属容器へ2層に分けて充填した。充填時は、突き棒を用いて1層ごとに10回だけ突くか、木製ハンマーで外周を打撃し、空隙が無いようにペーストを詰め込んだ。充填後、トルクレンチに装着された金属製の十字羽根をペーストに差込み、6rpmの速さで回転させた。回転させて最大のトルク値を記録し、乱されたペーストを再度流動させてならした。この一連の工程を2回だけ繰り返し、その最大値をせん断降伏値とした。表1には、各試験例のモルタル材料の評価値を「せん断降伏値」として記載した。この試験値は、大きいほど付加製造プロセスに供した際に積層性の良さに寄与することができる。
【0117】
【0118】
表1に示されるように、試験例1の粉体組成物によって作製されたモルタル材料は積層性と、圧送・流動性のバランスに優れるものであった。なお、この試験例1によって作製されたモルタル材料について、[粉体組成物の物性(1)]の項目に示した、塩化物イオンの見掛けの拡散係数を測定したところ、測定値として「0.5cm2/年以下」を満足することを確認した。また、試験例1によって作製されたモルタル材料について、[粉体組成物の物性(1)]の項目に示した、中性化速度係数を測定したところ、測定値として「0.35cm/年(1/2)以下」を満足することを確認した。