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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160702
(43)【公開日】2024-11-14
(54)【発明の名称】プログラムおよび評価支援システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20241107BHJP
   G06Q 50/22 20240101ALI20241107BHJP
【FI】
G16H50/30
G06Q50/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024096256
(22)【出願日】2024-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2023207958
(32)【優先日】2023-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】523465403
【氏名又は名称】株式会社栄伸ケミカル
(71)【出願人】
【識別番号】523465414
【氏名又は名称】田中 亜利砂
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100208605
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 龍一
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜利砂
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
5L099AA13
(57)【要約】
【課題】介護事業所において、定期的に利用者のADLを簡便に評価する。
【解決手段】
人が自律的に生活動作を行なうために必要な身体機能若しくは認知機能を評価し、または人の精神状態、若しくは人が社会活動を行なうために必要な能力を評価するためのプログラムであって、前記評価の尺度を図形的に表現した複数種類の画像を、被評価者が行なう生活動作の種別毎にディスプレイに出力する処理と、前記生活動作の種別毎にオペレータによって選択された前記画像に対応する数値を出力する処理と、前記生活動作の種別のすべてについて、オペレータによる選択が完了した際に、前記数値の合計を算出する処理と、前記算出した合計を評価値として出力する処理と、をコンピュータに実行させる。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が自律的に生活動作を行なうために必要な身体機能若しくは認知機能を評価し、または人の精神状態、若しくは人が社会活動を行なうために必要な能力を評価するためのプログラムであって、
前記評価の尺度を図形的に表現した複数種類の画像を、被評価者が行なう生活動作の種別毎にディスプレイに出力する処理と、
前記生活動作の種別毎にオペレータによって選択された前記画像に対応する数値を出力する処理と、
前記生活動作の種別のすべてについて、オペレータによる選択が完了した際に、前記数値の合計を算出する処理と、
前記算出した合計を評価値として出力する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項2】
オペレータの操作に基づいて、前記各画像の説明文を前記ディスプレイに表示する処理をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のプログラム。
【請求項3】
オペレータの操作に基づいて、隣接する2つの前記画像のうち、いずれか一方を選択するための説明文を前記ディスプレイに表示する処理をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のプログラム。
【請求項4】
前記評価の尺度は、BI(Barthel Index)であって、BIの内容を図形的に表現した複数種類の画像を、被評価者が行なう生活動作の種別毎にディスプレイに出力し、
前記生活動作の種別毎にオペレータによって選択された前記画像に対応する数値を出力し、
前記生活動作の種別のすべてについて、オペレータによる選択が完了した際に、前記数値の合計を算出し、
前記算出した合計をADL(Activities of Daily Living)評価値として出力することを特徴とする請求項1記載のプログラム。
【請求項5】
前記各画像は、デルファイ法に基づいて選別されたことを特徴とする請求項4記載のプログラム。
【請求項6】
被評価者が認知症であるかどうかを示す情報の入力を受け付ける処理と、
前記情報に基づいて、前記評価値を補正する処理と、をさらに含むことを特徴とする請求項1記載のプログラム。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のプログラムをコンピュータで実行することを特徴とする評価支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が自律的に生活動作を行なうために必要な身体機能若しくは認知機能を評価し、または人の精神状態、若しくは人が社会活動を行なうために必要な能力を評価するプログラムおよびこれを実行する評価支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
我が国の高齢化率は世界第一位であり、「団塊の世代」が75歳以上となる令和7(2025)年には、後期高齢者(75歳以上)が3,677万人に達すると見込まれている(内閣府 令和元年高齢者白書)。そして、後期高齢者の大多数が、“Frailty”(以下フレイル)という中間的な段階を経て、徐々に要介護状態に陥って行くと考えられている。また、フレイル状態にある高齢者では、健康な地域在住高齢者と比べ、約24倍ほど介護費用が高い(Makizako H et al 2021)。また、フレイルの病態は、心身機能や生活機能などの機能的諸側面の低さに現れやすく、一般的な臨床医学検査には表出されにくい特徴を有する(西ら 2012)ということも明らかとなっている。従って、高齢者のADL(Activities of Daily Living)の低下を早期に発見することは、高齢者の生活の質の維持向上に繋がり、ひいては健康寿命延伸・医療介護費減少に帰結すると考えられる。
【0003】
平成30年の介護報酬改定では、通所介護事業所において、自立支援・重度化防止の観点から、一定期間内に当該事業所を利用した者のうち、ADLの維持又は改善の度合いが一定の水準を超えた場合を新たに評価する「ADL維持等加算」が新設された。これは、わが国初の介護におけるアウトカム評価である。評価指標には、ADLの自立していない患者が機能回復していく過程を計るための簡易的な査定法として、「Barthel Index(以下BI、Mahoney,FI et al 1965)」が用いられることとなった。BIは介護認定評価との相関も見られており(Tomoyuki,M et al 2019)、定期的にADLを評価していくことは、介護予防や在宅サービスの適正化に向けた観点からも重要である。
【0004】
体力、筋力、筋肉量、骨密度、内臓機能などの「身体機能」が低下すると、立位・歩行の障害、バランス能力の低下、巧緻性・協調性の低下、易疲労性、食欲低下などが起こる。具体的には、動作や歩行時のふらつきが生じたり、転倒しやすくなる、箸の使用やボタンかけが困難となるなどの症状がみられる。「認知機能」が低下すると、物忘れや記憶障害、見当識障害、遂行機能障害、判断力・コミュニケーション能力の低下が起こる。具体的には、人や物の名前が思い出せない、料理の手順がわからない、季節や目的にあった洋服を選べない、買い物でお金の計算ができない、道に迷うなどがみられる。このような「身体機能」や「認知機能」が低下すると、活動性が低下し、精神状態が悪化する。運動を行うことや脳を使って考えること、コミュニケーションの機会(社会活動)が失われると、身体や脳の機能は低下して、「寝たきり」の状態へと進行しやすくなる。
【0005】
ここで、先行技術文献として、特許文献1には、介護サービスに関する情報を記録及び表示するためのソフトウェアが開示されている。このソフトウェアは、情報処理機器を、介護者が作成する日誌及び報告書の情報である日誌報告書情報と、介護者間で申し送りする情報である連絡事項情報と、被介護者の通院に関する情報である病院記録情報と、経過観察する被介護者及び観察内容の情報である様子観察情報と、被介護者に提供した介護サービスの内容又は結果の情報である介護サービス情報と、被介護者の個人情報及び介護に関する自立度の情報を含む情報である被介護者情報、及び、被介護者から測定されたバイタルサインの値及び測定日時の情報であるバイタル情報の入力を受け付ける情報入力手段と、入力された前記日誌報告書情報、前記連絡事項情報、前記病院記録情報、前記様子観察情報、前記介護サービス情報、前記被介護者情報、及び、前記バイタル情報の情報を記録させる情報記録手段と、記録された前記介護サービス情報の少なくとも一部の内容に基づき、被介護者に提供する介護サービスの内容に対する注意事項の情報である注意情報を通知するアラート通知手段と、被介護者ごとの、記録された前記日誌報告書情報、前記連絡事項情報、前記病院記録情報、前記様子観察情報、前記介護サービス情報、前記被介護者情報、及び、前記バイタル情報の情報と、前記注意情報と、介護サービスを提供した日付と同日付における前記介護サービス情報からなる情報である介護日計表情報と、所定の期間における被介護者の前記バイタルサインの値をグラフ化した情報であるバイタル日計表情報と、を表示情報として生成する表示情報生成手段と、を含む手段として機能させるためのソフトウェアとして構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-189844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ADL維持等加算新設後の調査(厚生労働省 介護保険制度におけるサービスの質の評価に関する調査研究事業)によると、ADL維持等加算を算定している事業所は、通所介護サービスでは578事業所(2.6%)、地域密着型通所介護サービスでは57事業所(0.3%)に過ぎなかった。ADL維持等加算を届出していない理由として、「BIを用いた評価の負担が大きい」が43.3%であり最も多くを占めた。以上の調査より、ADL維持加算の届出を推進し、ADLの定期的な評価の習慣化のために評価の負担を軽減し、どのような職種でもADLを評価できるような評価指標の開発が必要であると考えられる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、介護事業所において、定期的に利用者のADLを簡便に評価することができるプログラムおよび評価支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明のプログラムは、人が自律的に生活動作を行なうために必要な身体機能若しくは認知機能を評価し、または人の精神状態、若しくは人が社会活動を行なうために必要な能力を評価するためのプログラムであって、前記評価の尺度を図形的に表現した複数種類の画像を、被評価者が行なう生活動作の種別毎にディスプレイに出力する処理と、前記生活動作の種別毎にオペレータによって選択された前記画像に対応する数値を出力する処理と、前記生活動作の種別のすべてについて、オペレータによる選択が完了した際に、前記数値の合計を算出する処理と、前記算出した合計を評価値として出力する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0010】
(2)また、本発明のプログラムは、オペレータの操作に基づいて、前記各画像の説明文を前記ディスプレイに表示する処理をさらに含むことを特徴とする。
【0011】
(3)また、本発明のプログラムは、オペレータの操作に基づいて、隣接する2つの前記画像のうち、いずれか一方を選択するための説明文を前記ディスプレイに表示する処理をさらに含むことを特徴とする。
【0012】
(4)また、本発明のプログラムにおいて、前記評価の尺度は、BI(Barthel Index)であって、BIの内容を図形的に表現した複数種類の画像を、被評価者が行なう生活動作の種別毎にディスプレイに出力し、前記生活動作の種別毎にオペレータによって選択された前記画像に対応する数値を出力し、前記生活動作の種別のすべてについて、オペレータによる選択が完了した際に、前記数値の合計を算出し、前記算出した合計をADL(Activities of Daily Living)評価値として出力することを特徴とする。
【0013】
(5)また、本発明のプログラムにおいて、前記各画像は、デルファイ法に基づいて選別されたことを特徴とする。
【0014】
(6)また、本発明のプログラムは、被評価者が認知症であるかどうかを示す情報の入力を受け付ける処理と、前記情報に基づいて、前記評価値を補正する処理と、をさらに含むことを特徴とする。
【0015】
(7)また、本発明の評価システムは、上記(1)から(5)のいずれかに記載のプログラムをコンピュータで実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、人が自律的に生活動作を行なうために必要な身体機能若しくは認知機能を評価し、または人の精神状態、若しくは人が社会活動を行なうために必要な能力を評価する際に、評価に要する時間を大幅に短縮させることができる。また、ADLの定期的な評価の習慣化のために評価の負担を軽減させることが可能となる。その結果、ADL維持加算の届出を推進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ADL評価支援システムの概略構成を示すブロック図である。
図2】本実施形態に係るピクトグラムを示す図である。
図3】本実施形態に係るピクトグラムを示す図である。
図4】本実施形態に係るADL評価支援システムの基本的な動作を示すフローチャートである。
図5】ADL評価支援システムの画面表示例を示す図である。
図6】ADL評価支援システムの画面表示例を示す図である。
図7】ADL評価支援システムの画面表示例を示す図である。
図8】ADL評価支援システムの画面表示例を示す図である。
図9】ADL評価支援システムの画面表示例を示す図である。
図10】ADL評価支援システムの画面表示例を示す図である。
図11】表2の6番目のテストをピクトグラムで表した図である。
図12】ピクトグラムで表示したADL評価指標の作成手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
わが国の介護診療報酬では、平成30年度より、ADLを定期的に評価し、ADLが改善すると加算が取得できるADL維持等加算が新設され、再改定で報酬が10倍となったが、現場では評価の複雑さが課題として挙げられていた。このような状況の下で、本発明者は、「ピクトグラム」に着目し、従来の文字による評価方法より簡便な新しいADL評価方法を見出し、本発明に至った。
【0019】
すなわち、本発明のプログラムは、人が自律的に生活動作を行なうために必要な身体機能若しくは認知機能を評価し、または人の精神状態、若しくは人が社会活動を行なうために必要な能力を評価するためのプログラムであって、前記評価の尺度を図形的に表現した複数種類の画像を、被評価者が行なう生活動作の種別毎にディスプレイに出力する処理と、前記生活動作の種別毎にオペレータによって選択された前記画像に対応する数値を出力する処理と、前記生活動作の種別のすべてについて、オペレータによる選択が完了した際に、前記数値の合計を算出する処理と、前記算出した合計を評価値として出力する処理と、をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0020】
これにより、本発明者は、人が自律的に生活動作を行なうために必要な身体機能若しくは認知機能を評価し、または人の精神状態、若しくは人が社会活動を行なうために必要な能力を評価する際に、評価時間を大幅に短縮させることを可能とした。また、ADLの定期的な評価の習慣化のために評価の負担を軽減させることを可能とした。そして、ADL維持加算の届出を推進することを可能とした。以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、ADL評価支援システムの概略構成を示すブロック図である。ADL評価支援システム1は、入力部10において、オペレータからの入力を受け付ける。表示部12は、ディスプレイを備えており、画像を表示することが可能である。なお、表示部12にスピーカやヘッドフォン端子などの音声出力機能を設けても良い。
【0022】
ピクトグラム格納部14は、BI(Barthel Index)の内容をピクトグラムで表現した画像データを格納する。ピクトグラム(pictogram)とは、典型的なグラフィック・シンボルであり、意味するものの形状を使って、その意味概念を理解させる記号である。ピクトグラフ(pictograph)と呼ばれることもある。また、ピクトグラム格納部14は、各ピクトグラムに対応するBIの説明文を格納しても良い。また、付与される点数に関連して隣接する2つのピクトグラムのうち、オペレータがいずれか一方を選択するための説明文を格納しても良い。さらに、ピクトグラム格納部14は、国別の追記事項を格納しても良い。例えば、ミャンマーの場合、異性介助の際、対象者への注意点を入浴アイコンに追記しても良い。また、インドネシアの場合、入浴介助中に暴れる可能性のある対象者がいる際、ヒシャブを汚してしまう可能性があるため、「替えのヒシャブを準備したほうが良い」などの注意文を追記しても良い。
【0023】
図2および図3は、本実施形態に係るピクトグラムを示す図である。本実施形態に係るピクトグラムは、BI(Barthel Index)の内容を図形的に表現した複数種類の図柄であることを特徴としている。BI(Barthel Index)とは、「ADLの評価にあたり、食事、車椅子からベッドへの移動、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、着替え、排便コントロール、排尿コントロールの計10項目を5点刻みで点数化し、その合計点を100点満点として評価するもの」である。具体的には、「厚生労働省:令和3年度介護報酬改定に向けて(自立支援・重度化防止の推進).(2022年2月10日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000672514.pdf.p.46」によれば、以下の通りに規定されている。
【0024】
【表1】
【0025】
すなわち、図2および図3に示す各ピクトグラムは、上記の表1に示す各BIの内容にそれぞれ対応している。例えば、上記の表1に示すBIのうち、「食事」において、「自立、手の届くところに食べ物を置けば、トレイあるいはテーブルから1人で摂食可能、必要なら介護器具をつけることができ、適切な時間内で食事が終わる」については10点が付与されるが、図2の「食事」においては、一人で食事をしている様子を示す一つのピクトグラムのみで表現される。また、上記の表1に示すBIのうち、「移乗」において、「座ることはできるが、移動は全介助」については5点が付与されるが、図2の「移乗」においては、被介護者が車椅子から立ち上がる際に介助者の補助を受けている様子を示す一つのピクトグラムのみで表現される。
【0026】
このように、BIのそれぞれの内容の特徴が、ピクトグラムで表現されているため、オペレータは簡易かつ迅速に被介護者の状態を判断し、ADL評価を実施することが可能となる。
【0027】
図2において、顧客情報データベース16は、被介護者の情報、介助者の情報、オペレータの情報などを格納する。通信インタフェースは、ネットワークに接続する機能を有しており、データのダウンロードやアップロードを行なう。また、後述する制御部20からの制御を受けて、ADL維持等加算を申請するための情報を送受信する。制御部20は、バスを介して各構成要素と情報の送受信を行なうと共に、システム全体を制御する。
【0028】
図4は、本実施形態に係るADL評価支援システムの基本的な動作を示すフローチャートである。この動作は、コンピュータ(スマートフォン、タブレット、ノートPCなどの電子通信機械器具)に本実施形態に係るADL評価支援プログラムをインストールさせ実行させることで行なわれる。また、図5から図10は、ADL評価支援システムの画面表示例を示す図である。図4において、コンピュータで本実施形態に係るADL評価支援プログラムを起動すると、図示しないログイン画面が表示され(ステップS1)、オペレータがログイン情報を入力すると、ADL評価が選択されたかどうかが判断される(ステップS2)。ADL評価が選択されない場合は、ステップS2の判断を継続し(または他の処理を行ない)、ADL評価が選択された場合は、図5に示す初期画面が表示される。初期画面50内には、開始ボタン51が表示され、オペレータが開始ボタン51を操作すると、次の画面に遷移する。
【0029】
次に、被介護者情報の入力受付を行なう(ステップS3)。ここでは、図6に示すような入力画面60が表示され、「職員番号(例えば、オペレータの識別番号など)」、「利用者番号(例えば、被介護者を特定する番号)」、「利用者名(被介護者名)」、「性別」、「歩行器・車椅子の利用状況」などの情報を入力することができる。また、利用者(被介護者)の一覧を有しており、検索をするために用いることもできる。ADL評価を行なう場合は、評価ボタン61を操作する。閲覧ボタン62を操作すると、前回以前の評価結果などを閲覧することができる。なお、被介護者の国籍を入力した際には、上述したように、国別の追記事項を表示することもできる。
【0030】
図6において、評価ボタン61が操作されると、図7の画面表示例70および図8の画面表示例80に示すように、BIに対応したピクトグラムが、BIに対応する動作種別毎に表示される(図4、ステップS4)。そして、オペレータによるピクトグラムの選択を受け付けて、各ピクトグラムに対応付けられた点数を加算する(図4、ステップS5)。例えば、図7の画面表示例70では、「食事71」の動作種別においては、5点である「食べ物を切る等、介助が必要」が選択され、「椅子とベッド間の移乗72」の動作種別においては、10点である「どの段階かで、部分介助あるいは監視が必要」が選択されている状態を示している。また、「整容73」の動作種別および「トイレ動作74」の動作種別は、未選定であるため、オペレータに注意を促すため、矢印が表示されている。また、「入浴75」の動作出別では、5点である「自立(浴槽につかる、シャワーを使う)」が選択されている。画面表示例70において、「次へボタン76」が操作されると、画面表示例80に遷移する。
【0031】
また、図8の画面表示例80では、「平地歩行81」の動作種別においては、10点である「介助や監視が必要であれば、45m平地歩行可」が選択され、「階段昇降82」の動作種別においては、10点である「自立、手すり、杖などの使用はかまわない」が選択され、「更衣83」の動作種別においては、5点である「部分介助を要するが、少なくとも半分以上の部分は自分でできる。適切な時間内にできる」が選択され、「排便コントロール84」の動作種別においては、10点である「失禁なし、浣腸、坐薬の取り扱いも可能」が選択され、「排尿コントロール85」の動作種別においては、5点である「時に失禁あり、収尿器の取り扱いに介助を要する場合も含む」が選択されている状態を示す。
【0032】
各ピクトグラムは、タッチ式で選択することができ、また、いずれかのピクトグラムを長押しすると、そのピクトグラムに対応するBIの説明文が表示されるように構成することも可能である。また、図7において、「食事71」の10点と5点のそれぞれに該当する2つのピクトグラムを同時に長押しすると、「刻み食など食形態を変更している人はこちら→(右側にある部分介助が該当するという意味)」と表示される。また、図7において、「整容73」の10点と5点のそれぞれに該当する2つのピクトグラム同時に長押しすると、「洗面所までの歩行は見守りなどの介助が必要だが、セッティングされている歯磨きなどで歯磨きが出来ればこちら←(左側にある自立が該当するという意味)」と表示される。これにより、オペレータの判断を支援し、評価に要する時間を短縮させることが可能となる。また、入浴介助の時間(例えば、15時)に、オペレータに対し、バーセルインデックスの「入浴」を評価するよう、ポップアップを表示する構成を採ることもできる。入浴以外にも、「食事」、「整容」など、時間が決まっている動作種別については、その時間にポップアップを表示することが可能である。
【0033】
図4において、すべてのピクトグラムの選択がされたかどうかを判断し(ステップS6)、すべてのピクトグラムの選択がされていない場合は、図7の画面表示例70に示したように、未選択の表示、すなわち、選択されていない動作種別に矢印を表示する(ステップS7)。一方、ステップS6において、すべてのピクトグラムの選択がされた場合は、図8に示す「確認画面へボタン86」が操作可能となり、これが操作されると、数値の合計が出力され(図4、ステップS8)、終了となる。
【0034】
図9は、ADL評価結果を示す画面表示例90を示す。ここでは、例えば、合計値90aとして、75点が表示されている。また、画面表示例90では、点数結果部90bに、全項目の得点が表示される。また、画面表示例90において、「登録ボタン91」を操作すると、今回のADL評価結果が記録される。また、「戻るボタン92」を操作すると、ピクトグラムの選択画面(画面表示例70または画面表示例80)に遷移する。
【0035】
図10は、ADL評価結果の数値について、前回との比較を棒グラフ101で示し、また、ADL評価結果の前回と今回の各項目の数値を示すレーダーチャート102で示す。これらにより、ADL評価結果を一目で把握し、評価することが可能となる。
【0036】
[本願発明による評価の効率化]
本発明者は、従来のBIによる評価作業に要する時間と、本願発明に係るプログラムを用いた評価作業に要する時間を測定した。具体的には、52人の要介護者に対し、3人のオペレータが従来のBIによる評価作業と、本願発明に係るプログラムを用いた評価作業のそれぞれを行ない、所要時間の平均を算出した。従来のBIによる評価作業に要する時間が「23.57143秒」であったのに対し、本願発明に係るプログラムを用いた評価作業に要する時間は「20.36735秒」であった。すなわち、約14%も評価に要する時間を短縮させることができた。
【0037】
[本願発明による評価の精度]
本発明者は、1人のオペレータ(介護スタッフ)に、種々の介護度を有する50人の被評価者に対し、従来の方法でBIを測定させ、ADL評価を行なった。次に、2人のオペレータ(介護スタッフ)に、種々の介護度を有する50人の被評価者に対し、本願発明に係るプログラムを用いてBIを測定させ、ADL評価を行なった。その結果、級内相関係数(ICC)は、0.91となり、また、ピアソンの相関係数は、0.86となった。級内相関係数(ICC)は、0.6以下を「moderate」、0.8以下を「substantial」とされていることから、本願発明の実施結果で級内相関係数が0.91となったということは、従来の方法と同等の精度が得られたと言える。また、ピアソンの相関係数に関しては、「Rule of Thumb for Interpreting the Size of a Correlation Coefficient」として、「.90 to 1.00」を「Very high positive correlation」、「.70 to .90」を「High positive correlation」とされていることから、本願発明の実施結果でピアソンの相関係数が0.86となったということは、従来の方法と同等の精度が得られたと言える。
【0038】
ここで、級内相関係数は、(グループ間分散-グループ内分散)/(グループ間分散+(グループ内分散/グループの数))で計算される。すなわち、グループ内の平均値を計算し、全体の平均値を計算する。次に、分散の計算として、グループ間の分散(グループ内の平均と全体平均との差の平方和)とグループ内の分散(各点数とそのグループの平均との差の平方和)を計算する。これらの計算結果を用いて、上述した式に当てはめると、級内相関係数を求めることが可能となる。この係数が高いほど、従来のBIの測定に基づくADL評価と、本願発明に係るプログラムを実施することによるBIの測定に基づくADL評価とが近似しており、十分な精度が見込まれることが示される。
【0039】
また、相関係数は、2つの変数間の線形関係の強さと方向を測定する指標である。ピアソンの相関係数(通常「相関係数」と呼称される)の計算方法は、以下の通りである。まず、各変数の平均値を計算し、次に、偏差積の和を計算し、さらに、偏差平方和を計算する。最後に、上記偏差積の和を、各変数の偏差平方和の積で除算する。相関係数の値は、「-1から+1」の間で変動し、+1は完全な正の線形関係、-1は完全な負の線形関係、0は変数間に線形関係がないことを意味する。本願発明の従来の方法との相関係数は、0.91であるため、正の線形関係があると言え、本願発明によるADL評価は、従来の方法と同等の精度を有していると言える。
【0040】
また、ADLは、「Quality of Life(QOL)」を評価する上で、その構成要因とされることも多く、特に疾患をもった老年者ではQOLの主要な領域であるとする報告がある。このため、本願発明によれば、ADLの維持改善はQOLの向上にも資すると言える。
【0041】
[第2の実施形態]
第2の実施形態では、認知症がある場合のADL評価結果の補正について説明する。認知症がある場合、ADLが高く出てしまう傾向がある。実際は要介護度をより高く評価すべきであるため、本発明では、認知症が認められる被介護者については、ADL評価結果を補正する。
【0042】
以下の表2は、「改訂長谷川子規簡易知能評価(https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/tool/pdf/tool_05.pdf)」を示す。この表2では、人が精神的、社会的活動をする際に必要な能力を評価するためのテストが示されている。本願では、これらのテストを画像(イラストまたは写真等)で端的に表示する。例えば、表2のうち、6番目のテストは、「私がこれから言う数字を逆から言ってください。」というテストとなっている。3桁および4桁の数字について、うまく言えた場合は、それぞれ1点が加算されるが、3桁の逆唱に失敗したら、打ち切ることとなっている。
【0043】
図11は、表2の6番目のテストをピクトグラムで表した図である。図11の左側のピクトグラムは、3桁の逆唱が成功した様子を示し、一方、図11の右側のピクトグラムは、3桁の逆唱に失敗した様子が示されている。オペレータは、表2に示される文字を読んで理解し、被評価者の様子を判断するよりも、図11に示されるピクトグラムを視認することで、簡易かつ正確に、さらに効率よくテスト結果を評価することが可能となる。
【表2】
【0044】
上記のようなテストにより、例えば、20点以下となった被評価者、または、アルツハイマー型認知症・血管性認知症・レビー小体型認知症・前頭側頭型認知症・パーキンソン病による認知症・外傷による認知症・その他の認知症と診断されている人に対しては、本願発明が実装する「認知症モードチェンジャー」でバーセルインデクススコアを-10点にする。これにより、認知症を考慮したADL評価を行なうことが可能となる。
【0045】
[第3の実施形態]
第3の実施形態では、ADL維持等加算への適用について説明する。本願発明に係るプログラムを実行した後、BIの10項目ごとにCSV形式に変換し、厚生労働省のデータベースへ提出する。すなわち、本願発明に係るプログラムを実行して得られたADL評価結果を示す情報を、CSVファイル形式で出力し、厚生労働省のデータベース(LIFE)で取り込み可能とする。これにより、ADLの定期的な評価の習慣化のために評価の負担を軽減され、ADL維持加算の届出の推進が期待される。
【0046】
[デルファイ法によるピクトグラムの選定]
本明細書では、ピクトグラムを選定する際に、デルファイ法を用いる。デルファイ法とは、主に医療系研究で用いられる手法であり(HASSON F., KEENEY S. & MCKENNA H. Research guidelines for the Delphi survey technique, Journal of Advanced Nursing 2000, 32(4), 1008-1015)、各ピクトグラムについて、その分野の有識者からの評価を受け、点数化して選別する方法である。点数は10点満点とし、0点は「全く表していない」、10点は「完璧に表している」とされる。評価者の半数以上が7点以上の評価をした場合に、そのピクトグラムを採用する。一方、7点以下である場合は、再修正して再度評価を受ける。このような評価を繰り返し、ピクトグラムを選定する。
【0047】
図12は、ピクトグラムで表示したADL評価指標の作成手順を示すフローチャートである。まず、ピクトグラムで表示したADL評価指標の案を作成する(ステップS21)。次に、第1回目のデルファイを実施する(ステップS22)。次に、第1回目のデルファイ結果をフィードバックすると共に、第2回目のデルファイを実施する(ステップS23)。次に、第2回目のデルファイ結果をフィードバックすると共に、第3回目のデルファイを実施する(ステップS24)。最後に、ピクトグラムで表示したADL評価指標が完成する(ステップS25)。なお、上記の説明では、第3回目のデルファイを実施する例を示したが、本発明は、これに限定されず、より多くのデルファイを実施しても良い。これにより、精度および合理性の高いピクトグラムの選定が可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1 ADL評価支援システム
10 入力部
12 表示部
14 ピクトグラム格納部
16 顧客情報データベース
20 制御部
図1
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図10
図11
図12