(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160710
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】減衰バルブおよび緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/50 20060101AFI20241108BHJP
F16F 9/34 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F16F9/50
F16F9/34
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070069
(22)【出願日】2023-04-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】安井 剛
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069CC13
3J069EE02
3J069EE62
3J069EE66
(57)【要約】
【課題】簡易な構造で周波数に感応する減衰力の発生が可能でコストを低減できる減衰バルブおよび緩衝器を提供する。
【解決手段】本発明における減衰バルブVは、ポート3aとポート3aを取り囲む弁座3cを有する弁座部材3と、弁座部材3の弁座3cに離着座可能であってポート3aを開閉する弁体8と、弁体8を弁座部材側へ向けて付勢するばね要素11と、弁座部材3に対して移動が可能であって弁座部材3に振動が入力されると慣性によって弁座部材3に対して変位する可動マス12と、可動マス12の一方側への変位によりばね要素11を圧縮する圧縮装置Pとを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポートと前記ポートを取り囲む弁座を有する弁座部材と、
前記弁座部材の前記弁座に離着座可能であって前記ポートを開閉する弁体と、
前記弁体を弁座部材側へ向けて付勢するばね要素と、
前記弁座部材に対して移動が可能であって、前記弁座部材に振動が入力されると慣性によって前記弁座部材に対して変位する可動マスと、
前記可動マスの一方側への変位により前記ばね要素を圧縮する圧縮装置とを備えた
ことを特徴とする減衰バルブ。
【請求項2】
前記弁体の反弁座部材側に配置されるとともに前記弁座部材に対して遠近可能な可動ばね受を備え、
前記ばね要素は、前記弁体と前記可動ばね受との間に介装されて前記弁体を弁座部材側へ向けて付勢し、
前記圧縮装置は、前記可動マスの前記一方側への変位により前記可動ばね受を弁座部材側へ変位させて前記ばね要素を圧縮する
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項3】
前記圧縮装置は、
内部が中空であって弁座部材側に向く2つの開口を有し、前記可動マスが一方の開口側に前記弁座部材に対して遠近可能に挿入されるとともに、前記可動ばね受が他方の開口側に前記弁座部材に対して遠近可能に挿入されることにより、内部であって前記可動マスと前記可動ばね受との間に液体或いは気体が充填されるジャッキ室を形成するハウジングを有する
ことを特徴とする請求項2に記載の減衰バルブ。
【請求項4】
前記圧縮装置は、
前記弁座部材に対して不動の支点を中心として回転可能であって、前記可動マスの一方側への変位を前記可動ばね受の弁座部材側への変位に変換するレバーを有する
ことを特徴とする請求項2に記載の減衰バルブ。
【請求項5】
前記弁座部材から立ち上がる軸部材を備え、
前記可動マスは、円盤状であって、
前記可動ばね受は、環状であって、
前記ハウジングは、
筒状であって軸部材の外周に装着されるとともに前記開口の一方を形成して内方に前記可動マスが軸方向へ移動可能に挿入される第1筒と、
筒状であって前記第1筒の外周側に設けられて前記第1筒内に内方が連通されるとともに、前記第1筒との間に前記開口の他方となる環状の隙間を形成して前記可動ばね受が軸方向へ移動可能に挿入される第2筒と、
前記第1筒内であって前記可動マスよりも反弁座部材側の部屋と前記第2筒内であって前記可動ばね受よりも反弁座部材側の部屋とで形成される前記ジャッキ室と、
前記第1筒内であって前記可動マスよりも弁座部材側の部屋を外方へ連通する連通孔とを有する
ことを特徴とする請求項3に記載の減衰バルブ。
【請求項6】
前記可動マスと前記ばね要素とでなるばねマス系の共振周波数は、車両におけるばね上の共振周波数帯の範囲になるように設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項7】
アウターシェルと、前記アウターシェル内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッドとを備えて内部に少なくとも2つの作動室を有する緩衝器本体と、
前記作動室間に設けられる請求項1から6のいずれか一項に記載の減衰バルブとを備えた
ことを特徴とする緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰バルブおよび緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車体と車輪との間に介装される緩衝器は、一定の減衰力特性の減衰力を発揮して車体振動を抑制するものが一般的であるが、近年、より車両における乗心地の向上を図るため、入力される振動の周波数に感応して減衰力を可変にするものが開発されている。
【0003】
この種の緩衝器としては、たとえば、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内をピストンロッド側の伸側室とピストン側の圧側室に区画するピストンと、ピストンに設けれられて伸側室と圧側室を連通する第1通路と、当該第1通路を開閉して減衰力を発生する減衰バルブの他に、前記第1通路を迂回して伸側室と圧側室を見掛け上連通する第2流路と、第2流路の途中に設けられた圧力室と、圧力室内に摺動自在に挿入され圧力室を伸側圧力室と圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、フリーピストンを附勢するコイルばねとを備えて構成されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
この緩衝器は、圧力室がフリーピストンによって伸側圧力室と圧側圧力室とに区画されているが、フリーピストンが移動すると伸側圧力室と圧側圧力室の容積比が変化するので、見掛け上、伸側室と圧側室とが第2流路を介して連通されているが如くに振舞う。
【0005】
したがって、この緩衝装置は、低周波数の振動の入力に対しては大きな減衰力を発生し、他方、高周波数の振動の入力に対しては減衰力低減効果を発揮して小さな減衰力を発生でき、車両における乗心地を向上させる。
【0006】
また、他の緩衝器は、ピストンの圧側室側に積層されて伸側通路を開閉するリーフバルブを備えた減衰バルブにおけるリーフバルブの背面に設けられた背圧室に伸側室の圧力を導くとともに、背圧室の圧力で伸側リーフバルブを閉じ方向に付勢している。この緩衝器では、伸側室と圧側室とに連通された部屋をゴムで付勢された環状板で仕切って形成された圧力室を用いて背圧室の圧力を調整して減衰力を周波数に感応させるようにしている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-162805号公報
【特許文献2】特開2021-050802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような従来の緩衝器では、減衰力を緩衝器に入力される振動の周波数に感応させるために、減衰バルブの他にピストンに設けた通路を迂回して伸側室と圧側室とを直接或いは見掛け上連通する通路を設ける必要があり、このような通路はピストンロッドに特殊な加工をすることによって設けられている。
【0009】
よって、周波数に感応する緩衝器では、減衰バルブにピストンロッドの加工を伴う付加部品を追加する必要となるため、減衰バルブの構造が複雑となるとともに製品コストが高価にならざるを得ない。
【0010】
そこで、本発明は、簡易な構造で周波数に感応する減衰力の発生が可能でコストを低減できる減衰バルブおよび緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した目的を解決するために、本発明の減衰バルブは、ポートとポートを取り囲む弁座を有する弁座部材と、弁座部材の弁座に離着座可能であってポートを開閉する弁体と、弁体を弁座部材側へ向けて付勢するばね要素と、弁座部材に対して移動が可能であって弁座部材に振動が入力されると慣性によって弁座部材に対して変位する可動マスと、可動マスの一方側への変位によりばね要素を圧縮する圧縮装置とを備えている。
【0012】
このように構成された減衰バルブによれば、可動マスの一方側への変位によってばね要素を圧縮する圧縮装置を備えており、圧縮装置が可動マスに作用する慣性力を利用してばね要素を圧縮して周波数に感応した減衰力を発生できる。そのため、本実施の形態の減衰バルブによれば、周波数に感応した減衰力の発生にあたり、弁座部材におけるポートの上流側の圧力と下流側の圧力を利用せずに済むから、ピストンロッド2に特別な加工を施す必要もなく、構造が簡単になり、コストを低減できる。
【0013】
また、減衰バルブは、弁体の反弁座部材側に配置されるとともに弁座部材に対して遠近可能な可動ばね受を備え、ばね要素は、弁体と可動ばね受との間に介装されて弁体を弁座部材側へ向けて付勢し、圧縮装置は、可動マスの一方側への変位により可動ばね受を弁座部材側へ変位させてばね要素を圧縮してもよい。
【0014】
このように構成された減衰バルブによれば、弁座部材と弁体とばね要素とで構成される簡単なバルブの構造に、可動マス、可動ばね受および圧縮装置を追加するだけで、簡単に周波数に感応する減衰バルブを実現できるので、既存のバルブにも適用できるようになり実用性が向上する。
【0015】
また、減衰バルブにおける圧縮装置は、内部が中空であって弁座部材側に向く2つの開口を有し、可動マスが一方の開口側に弁座部材に対して遠近可能に挿入されるとともに、可動ばね受が他方の開口側に弁座部材に対して遠近可能に挿入されることにより、内部であって可動マスと可動ばね受との間に液体或いは気体が充填されるジャッキ室を形成するハウジングを備えてもよい。
【0016】
このように構成された減衰バルブによれば、ハウジングを使用することで可動マスの変位がジャッキ室内の液体或いは気体が媒体となって可動ばね受に逆向きの変位として伝達でき、かつ、ジャッキ室を形成するハウジングに可動マスと可動ばね受を移動可能に収容することで圧縮装置を形成できるので、圧縮装置を簡単な構成で実現できる。
【0017】
さらに、減衰バルブは、弁座部材から立ち上がる軸部材を備え、可動マスは、円盤状であって、可動ばね受は、環状であって、ハウジングは、筒状であって軸部材の外周に装着されるとともに開口の一方を形成して内方に可動マスが軸方向へ移動可能に挿入される第1筒と、筒状であって第1筒の外周側に設けられて第1筒内に内方が連通されるとともに、第1筒との間に開口の他方となる環状の隙間を形成して可動ばね受が軸方向へ移動可能に挿入される第2筒と、第1筒内であって可動マスよりも反弁座部材側の部屋と第2筒内であって可動ばね受よりも反弁座部材側の部屋とで形成されるジャッキ室と、第1筒内であって可動マスよりも弁座部材側の部屋を外方へ連通する連通孔とを備えてもよい。
【0018】
このように構成された減衰バルブでは、可動マスが挿入される第1筒と可動ばね受が挿入される第2筒とを備えてハウジングが構成され、第1筒の外周に第2筒が配置されているので、ハウジングの軸方向全長を短くできるとともに、軸部材の外周に第1筒を装着して軸部材を介してハウジングを弁座部材に連結できるので、簡単に減衰バルブを組立できるとともに軸方向長さも短くできるだける。また、ハウジングに可動マスと可動ばね受とをユニット化して圧縮装置を形成して、軸部材に取付できるようになるので、既存のバルブに圧縮装置を簡単に付加して周波数に感応した減衰力を発生できる機能を既存のバルブに付加できる。
【0019】
また、減衰バルブにおける圧縮装置は、弁座部材に対して不動の支点を中心として回転可能であって、可動マスの一方側への移動を可動ばね受の弁座部材側への移動に変換するレバーを備えてもよい。このように構成された減衰バルブによれば、簡単な構成で圧縮装置P1を実現できコストを低減できる。
【0020】
そして、減衰バルブにおける可動マスとばね要素とでなるばねマス系の共振周波数は、車両におけるばね上の共振周波数帯の範囲になるように設定してもよい。このように構成された減衰バルブによれば、ばね上の共振周波数帯の振動が減衰バルブに作用した際に可動マスが大きく変位するようになり、圧縮装置がばね要素を圧縮して大きな減衰力を発生できるので、車体の振動をより効果的に抑制できる。
【0021】
また、本実施の形態の緩衝器は、アウターシェルと、アウターシェル内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッドと、アウターシェルに対するピストンロッドの移動によって液体が行き来する少なくとも2つの作動室とを有する緩衝器本体と、作動室間に設けられた減衰バルブを備えている。このように構成された緩衝器では、入力される振動の周波数が高周波数の場合には、減衰力を小さくして車体に車輪側の高周波振動の伝達を妨げることができ、入力される振動の周波数が低周波数である場合には、減衰力を大きくて車体のゆっくりとした大きな振幅の振動を効果的に抑制でき、車両における乗心地を向上できる。
【発明の効果】
【0022】
よって、本発明の減衰バルブおよび緩衝器によれば、簡易な構造で周波数に感応する減衰力の発生が可能でコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施の形態における減衰バルブを備えた緩衝器の縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態における減衰バルブの拡大縦断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態の第1変形例における減衰バルブの拡大縦断面図である。
【
図4】
図4(A)は、本発明の一実施の形態の第2変形例における減衰バルブの拡大縦断面図である。
図4(B)は、本発明の一実施の形態の第2変形例における減衰バルブの圧縮装置の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1および
図2に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、アウターシェルとしてのシリンダ1と、シリンダ1内に移動可能に挿入されるピストンロッド2とを有して伸縮可能な緩衝器本体Aと、緩衝器本体A内に設けられる二つの作動室としての伸側室R1と圧側室R2との間に設けられた減衰バルブVとを備えている。そして、この緩衝器Dの場合、図示しない車両における車体と車輪との間に介装されて使用され、車体および車輪の振動を抑制する。
【0025】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。
図1に示すように、緩衝器本体Aは、アウターシェルとしての有底筒状のシリンダ1と、シリンダ1内に移動可能に挿入されるピストンロッド2と、ピストンロッド2に連結されてシリンダ1内に移動可能に挿入されるとともにシリンダ1内を作動室としての伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン3とを備えている。
【0026】
そして、ピストンロッド2の
図1中上端となる基端には、ブラケット(図示せず)が設けられており、ピストンロッド2が図外の前記ブラケットを介して車体と車輪の一方に連結される。また、シリンダ1の底部1aにもブラケット(図示せず)が設けられており、シリンダ1が図外の前記ブラケットを介して車体と車輪の他方に連結される。
【0027】
このようにして緩衝器Dは車体と車輪との間に介装される。そして、車両が凹凸のある路面を走行する等して車輪が車体に対して上下に振動すると、ピストンロッド2がシリンダ1に出入りして緩衝器Dが伸縮するとともに、ピストン3がシリンダ1内を上下(軸方向)に移動する。
【0028】
また、緩衝器本体Aは、シリンダ1の上端を塞ぐとともに、内周にピストンロッド2が摺動自在に挿通される環状のロッドガイド4を備えている。よって、シリンダ1内は、密閉空間とされている。そして、そのシリンダ1内のピストン3から見てピストンロッド2とは反対側に、フリーピストン5が摺動自在に挿入されている。
【0029】
シリンダ1内におけるフリーピストン5の上側には液室Lが形成され、下側にはガス室Gが形成されている。さらに、液室Lは、ピストン3でピストンロッド2側の伸側室R1とピストン3側の圧側室R2とに区画されており、伸側室R1および圧側室R2には、それぞれ液体が充填されている。なお、緩衝器本体A内に充填される液体は、作動油や水、水溶液、その他の液体等とされてもよい。その一方、ガス室Gには、エア、または窒素ガス等の気体が圧縮された状態で封入されている。
【0030】
そして、緩衝器Dの伸長作動時にピストンロッド2がシリンダ1から退出し、その退出したピストンロッド2の体積分シリンダ内容積が増加すると、フリーピストン5がシリンダ1内を上側へ移動してガス室Gを拡大させる。反対に、緩衝器Dの収縮作動時にピストンロッド2がシリンダ1内へ侵入し、その侵入したピストンロッド2の体積分シリンダ内容積が減少すると、フリーピストン5がシリンダ1内を下側へ移動してガス室Gを縮小させる。
【0031】
なお、フリーピストン5に替えて、ブラダ、またはベローズ等を利用して液室Lとガス室Gとを仕切っていてもよく、この仕切となる可動隔壁の構成は適宜変更できる。
【0032】
さらに、本実施の形態では、緩衝器Dが片ピストンロッド、単筒型の緩衝器であり、緩衝器Dの伸縮時にフリーピストン5でガス室Gを拡大または縮小させて、シリンダ1に出入りするピストンロッド2の体積補償をする。しかし、この体積補償のための構成も適宜変更できる。
【0033】
たとえば、フリーピストン5とガス室Gとを廃してシリンダ1の外周にアウターシェルを設け、シリンダ1とアウターシェルとの間に液体を貯留するリザーバを形成して、緩衝器を複筒型の緩衝器にする場合、リザーバによってシリンダ1に出入りするピストンロッド2の体積補償をしてもよい。なお、リザーバは、シリンダ1とは別置き型のタンク内に形成されていてもよい。また、緩衝器Dは、ピストンロッド2の中央にピストン3が装着されてシリンダ1の両端からピストンロッド2の端部がシリンダ1外に突出する両ピストンロッド型の緩衝器として構成されてもよい。
【0034】
ピストンロッド2は、筒状であって先端側の外径が縮径されており、先端側の最小径の小径部2aと、小径部2aより外径が大きく小径部2aの
図2中上側に設けられた大径部2bと、小径部2aと大径部2bとの境に設けられた段部2c、小径部2aの先端外周に設けられた螺子部2dとを備えている。
【0035】
つづいて、減衰バルブVは、本実施の形態では、ピストンロッド2に装着されたピストン3を弁座部材として緩衝器Dのピストン部に設けられている。詳しくは、減衰バルブVは、ポートとしての伸側ポート3aと伸側ポート3aを取り囲む弁座としての伸側弁座3cとを有する弁座部材としてのピストン3と、ピストン3の伸側弁座3cに離着座可能であって伸側ポート3aを開閉する弁体としての伸側リーフバルブ8と、伸側リーフバルブ8をピストン側へ向けて付勢するばね要素としてのコイルばね11と、ピストン3に対して遠近する方向への移動が可能であってピストン3に振動が入力されると慣性によってピストン3に対して変位する可動マス12と、可動マス12の一方側となるピストン3から離間する方向への変位によりコイルばね11を圧縮する圧縮装置Pとを備えている。
【0036】
以下、減衰バルブVおよびピストンロッド2の小径部2aに装着される各部材について詳細に説明する。ピストンロッド2の小径部2aには、バルブストッパ6、圧側リーフバルブ7、弁座部材としてのピストン3、弁体としての伸側リーフバルブ8、カラー9、圧縮装置Pにおけるハウジング10が順に組み付けられている。そして、バルブストッパ6、圧側リーフバルブ7、ピストン3および伸側リーフバルブ8が小径部2aの先端の螺子部2dに螺着されるカラー9とピストンロッド2の段部2cとにより挟持されてピストンロッド2に固定されており、ハウジング10は、螺子部2dに螺着されている。このようにピストンロッド2の小径部2aは、減衰バルブVにおけるピストン3から立ち上がる軸部材として機能する。なお、軸部材は、弁座部材と一体となっていてもよく、したがって、本実施の形態の場合、弁座部材としてのピストン3が軸部材を一体に備えていてもよい。なお、ハウジング10を小径部2aの螺子部2dに螺着することによって、バルブストッパ6からカラー9までの各部材をピストンロッド2に固定してもよい。
【0037】
なお、ハウジング10内には、可動マス12とともに、伸側リーフバルブ8と軸方向で対向する可動ばね受13がピストン3に対して遠近可能に収容されており、伸側リーフバルブ8と可動ばね受13との間にコイルばね11が圧縮された状態で介装されている。
【0038】
ピストン3は、
図1および
図2に示すように、環状であってピストンロッド2の小径部2aの外周に固定されてシリンダ1の内周に摺接しており、シリンダ1内を
図1中上方側の伸側室R1と
図1中下方側の圧側室R2とに区画している。また、ピストン3は、上端から下端に通じて伸側室R1と圧側室R2とを連通するポートとしての伸側ポート3aと、同じく上端から下端に通じて伸側室R1と圧側室R2とを連通する圧側ポート3bと、
図2中下端に設けられて伸側ポート3aの出口端を取り囲む弁座としての伸側弁座3cと、
図2中上端に設けられて圧側ポート3bを取り囲む圧側弁座3dとを備えている。
【0039】
ピストン3の
図2中下端には、環状であってピストンロッド2の小径部2aの外周に嵌合されて伸側ポート3aを開閉する弁体としての伸側リーフバルブ8が積層されている。伸側リーフバルブ8は、複数枚の環状板を積層して構成された積層リーフバルブとされており、内周側がピストンロッド2の小径部2aに嵌合されるとともにカラー9によって小径部2aに対して不動に固定されており、内周側を固定端として外周側の撓みが許容されている。そして、伸側リーフバルブ8は、ピストン3の下端に設けられた伸側弁座3cに着座する状態では伸側ポート3aの下端の出口端を閉塞し、外周側を撓ませて伸側弁座3cから離間させると伸側ポート3aを開放するとともに伸側ポート3aを伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与える。なお、伸側リーフバルブ8は、圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れに対しては伸側弁座3cに着座して伸側ポート3aを閉塞する。また、伸側リーフバルブ8は、カラー9の
図2中上端をピストン3の内周に当接させる場合、全体がピストン3に対して遠近できるようにカラー9の外周に軸方向へ移動可能に嵌合されてもよい。
【0040】
ピストン3の
図2中上端には、環状であってピストンロッド2の小径部2aの外周に嵌合されて圧側ポート3bを開閉する圧側リーフバルブ7が積層されている。圧側リーフバルブ7は、複数枚の環状板を積層して構成された積層リーフバルブとされており、内周側がピストンロッド2の小径部2aに固定されて外周側の撓みが許容されている。そして、圧側リーフバルブ7は、ピストン3の上端の圧側弁座3dに着座する状態では圧側ポート3bの上端の出口端を閉塞し、外周側を撓ませて圧側弁座3dから離間させると圧側ポート3bを開放するとともに圧側ポート3bを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れに抵抗を与える。なお、圧側リーフバルブ7は、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに対しては圧側弁座3dに着座して圧側ポート3bを閉塞する。また、圧側リーフバルブ7の
図2中上方にはバルブストッパ6が積層されている。バルブストッパ6は、圧側リーフバルブ7が大きく撓むと圧側リーフバルブ7の反ピストン側に当接して圧側リーフバルブ7を支持して圧側リーフバルブ7に過大な応力が作用するのを阻止して圧側リーフバルブ7を保護する。
【0041】
カラー9は、筒状であって、内周にピストンロッド2の螺子部2dに螺合する螺子部9aを備えており、ピストンロッド2に螺着されると弁体としての伸側リーフバルブ8の内周部に当接して伸側リーフバルブ8の内周部を小径部2aに対して不動に固定する。
【0042】
ハウジング10は、
図2に示すように、筒状であってピストンロッド2の螺子部2dの外周に螺着される第1筒10aと、第1筒10aの外周側に配置されて第1筒10aに連結される第2筒10bと、第1筒10aの
図2中下端を閉塞する蓋10cとを備えており、第1筒10aの
図2中上端と、第2筒10bの
図2中上端とをそれぞれ開口o1,o2として弁座部材としてのピストン3に向けている。
【0043】
第1筒10aは、環状であってピストンロッド2の螺子部2dの外周に螺着されるナット部10a1と、ナット部10a1の
図2中上端外周に設けられた内周側フランジ部10a2と、内周側フランジ部10a2の外周から下方へ向けて延びる筒状の本体部10a3と、本体部10a3の
図2中下端外周に設けられ外周側フランジ部10a4とを備えている。
【0044】
また、第1筒10aは、内周側フランジ部10a2と本体部10a3との間の肉厚を貫き第1筒10aの内外を連通する連通孔10a5と、本体部10a3と外周側フランジ部10a4との間の肉厚を貫き第1筒10aの内外を連通する孔10a6とを備えている。
【0045】
さらに、第1筒10aの
図2中の下端は、外周側フランジ部10a4の下端に取り付けられた蓋10cによって閉塞されており、第1筒10aの
図2中上端は、開口o1としてナット部10a1内を介して外方へ向けて開放されている。第1筒10aは、ナット部10a1をピストンロッド2の螺子部2dに螺着されると、ナット部10a1の上端の開口o1を弁座部材としてのピストン3へ向ける姿勢でピストンロッド2に固定される。
【0046】
第2筒10bは、第1筒10aの外周側フランジ部10a4の外周から
図2中上方側へ向けて立ち上がり、第1筒10aの本体部10a3の外周を覆って、本体部10a3との間に環状の空隙を形成するとともに、
図2中上端の開口o2をピストン3に向けている。第2筒10bの内方である前記空隙は、第1筒10aに設けられた孔10a6を介して第1筒10a内に連通されている。
【0047】
そして、第1筒10aの本体部10a3内には、円盤状の可動マス12が軸方向へ移動可能に挿入されている。詳しくは、可動マス12は、第1筒10aにおける一方の開口側にピストン3に対して遠近する方向となる軸方向へ移動可能に挿入されている。可動マス12は、外周に本体部10a3の内周に摺接するシールリング12aを備えており、第1筒10a内を可動マス12よりもピストン側である上方であって連通孔10a5を介して第1筒10aの外方に連通される部屋aと、可動マス12よりも反ピストン側である下方であって孔10a6を介して第2筒10b内に連通される部屋bとに区画している。可動マス12は、ピストンロッド2に連結されたハウジング10内でピストン3に対して遠近する方向として
図2中上下方向へ移動できるので、ピストンロッド2を通じてピストン3に振動が入力されると、慣性力によってピストン3に対して相対移動する。
【0048】
なお、可動マス12が摺接する本体部10a3よりも小径なナット部10a1を第1筒10aが備えているため、本体部10a3の
図2中下方から可動マス12を挿入した後に、第1筒10aの
図2中下端を閉塞する蓋10cを取り付けることにより、ハウジング10内に可動マス12を収容できる。なお、可動マス12の軸方向への移動範囲は、ナット部10a1の下端に当接する位置から蓋10cの上端に当接する位置までの範囲になる。
【0049】
また、可動ばね受13は、環状であって、第2筒10bにおける他方の開口側からピストン3に対して遠近する方向となる軸方向へ移動可能に挿入されている。詳しくは、可動ばね受13は、第2筒10bと第1筒10aの本体部10a3との間の環状隙間に挿入されており、外周に設けられて第2筒10bの内周に摺接するシールリング13aと、内周に設けられて本体部10a3の外周に摺接するシールリング13bと、
図2中上端外周から上方へ向けて突出する環状のガイド筒13cとを備えている。
【0050】
このように可動ばね受13は、第1筒10aの本体部10a3と第2筒10bとの間の環状の空隙に挿入されて、第2筒10bの他方の開口o2を閉塞して、ハウジング10内を密閉している。可動ばね受13がハウジング10内に挿入されることによって第2筒10b内であって可動ばね受13より反ピストン側には部屋cが区画され、部屋cは、孔10a6を介して第1筒10a内の可動マス12よりも
図2中下方に部屋bに連通されており、当該部屋bとともにジャッキ室Jを形成している。このように、ハウジング10の一方の開口側に挿入される可動マス12と、他方の開口側に挿入される可動ばね受13とによってハウジング10の内部であって可動マス12と可動ばね受13との間にジャッキ室Jが形成されている。
【0051】
また、可動ばね受13と伸側リーフバルブ8との間には、ばね要素としてのコイルばね11が圧縮された状態で介装されている。よって、コイルばね11は、伸側リーフバルブ8を常にピストン3へ向けて付勢している。また、コイルばね11の可動ばね受側端となる
図2中下端は、可動ばね受13のガイド筒13cの内周に挿入されており、コイルばね11の伸側リーフバルブ8および可動ばね受13に対する径方向への軸ずれが防止されている。なお、伸側リーフバルブ8とコイルばね11との間には、カラー9の外周に摺動可能に装着されるばね受14が介装されており、コイルばね11は、ばね受14を介して伸側リーフバルブ8へ付勢力を作用させている。なお、ばね受14を設けることでコイルばね11の付勢力を伸側リーフバルブ8のばね受14が当接する部分に作用させ得るとともに、コイルばね11の伸縮時の周回りの回転が許容されてコイルばね11の円滑な伸縮を保証できる。なお、ばね受14は不要であれば省略できる。また、ばね要素は、コイルばね11とされる以外にも弾性体等のばね力を発生可能なものとされてもよい。
【0052】
戻って、前述したジャッキ室J内には、シリンダ1内に充填される液体と同じ液体が充填されている。よって、可動マス12が
図2中下方へ移動してピストン3に対して離間する方向へ変位すると、第1筒10a内の可動マス12よりも下方の部屋bが可動マス12の変位によって縮小される一方で、縮小された部屋b内の液体が孔10a6を介して第2筒10b内に移動して、可動ばね受13を
図2中上方へ向けて変位させる。なお、可動マス12が
図2中下方へ変位することによって拡大される部屋aには、連通孔10a5を介して圧側室R2内から液体が供給される。
【0053】
反対に、可動マス12が
図2中上方へ移動してピストン3に対して接近する方向へ変位すると、第1筒10a内の可動マス12よりも下方の部屋bが可動マス12の変位によって拡大されるので、孔10a6を介して第2筒10b内から液体が部屋b内に移動するとともにコイルばね11から受ける付勢力によって可動ばね受13が第2筒10b内に押し込まれて
図2中下方へ変位する。なお、可動マス12が
図2中上下方向へ変位することによって拡縮される部屋aは、連通孔10a5を介して圧側室R2内に連通されており、閉鎖されることがないので、可動マス12は、ピストン3の振動に伴ってハウジング10内で円滑に変位できる。このように、圧縮装置Pは、内部に挿入される可動マス12と可動ばね受13との間に形成されたジャッキ室Jを備えるハウジング10によって構成されている。
【0054】
つづいて、以上のように構成された減衰バルブVおよび緩衝器Dの作動について説明する。まず、ピストン3がシリンダ1に対して
図1中上方側へ移動する緩衝器Dの伸長作動時における減衰バルブVおよび緩衝器Dの作動について説明する。ピストン3がシリンダ1に対して
図1中上方へ移動すると、ピストン3の移動に伴って伸側室R1が縮小されるとともに圧側室R2が拡大される。縮小される伸側室R1内の液体は、伸側ポート3aを通過して伸側リーフバルブ8を撓ませて圧側室R2へ移動する。よって、緩衝器Dの伸長作動時には、伸側リーフバルブ8が伸側ポート3aを通過する液体の流れに抵抗を与えることによって、伸側室R1内の圧力が圧側室R2内の圧力より高くなって、緩衝器Dは、伸長作動を抑制する伸側減衰力を発生する。また、緩衝器Dの伸長作動時には、ピストンロッド2がシリンダ1内から退出するため、ピストンロッド2がシリンダ1内で押し退ける体積が減少するが、フリーピストン5がシリンダ1内を
図1中上昇してガス室Gの容積を拡大することによって、ピストンロッド2がシリンダ1内から退出する体積を補償する。
【0055】
他方、ピストン3がシリンダ1に対して
図1中下方側へ移動する緩衝器Dの収縮作動時では、ピストン3の移動に伴って圧側室R2が縮小されるとともに伸側室R1が拡大される。縮小される圧側室R2内の液体は、圧側ポート3bを通過して圧側リーフバルブ7を撓ませて伸側室R1へ移動する。よって、緩衝器Dの収縮作動時には、圧側リーフバルブ7が圧側ポート3bを通過する液体の流れに抵抗を与えることによって、圧側室R2内の圧力が伸側室R1内の圧力より高くなって、緩衝器Dは、収縮作動を抑制する圧側減衰力を発生する。また、緩衝器Dの収縮作動時には、ピストンロッド2がシリンダ1内に侵入するため、ピストンロッド2がシリンダ1内で押し退ける体積が増大するが、フリーピストン5がシリンダ1内を
図1中下降してガス室Gの容積を縮小させることによって、ピストンロッド2がシリンダ1内へ侵入する体積を補償する。
【0056】
このように、緩衝器Dの伸長作動時には、減衰バルブVは伸側リーフバルブ8で液体の流れに抵抗を与えて減衰力を発生する。減衰バルブVにおける弁体である伸側リーフバルブ8がばね要素としてのコイルばね11によって付勢されており、伸側室R1内の圧力の作用によって伸側リーフバルブ8を撓ませて伸側弁座3cから離間させる力が、伸側リーフバルブ8自身の弾発力とコイルばね11の付勢力との合力に打ち勝つと、伸側リーフバルブ8が撓んで伸側弁座3cから離間し、減衰バルブVが開弁する。よって、本実施の形態の減衰バルブVでは、伸側リーフバルブ8が受けるコイルばね11の付勢力の大きさに応じて、減衰バルブVを通過する液体の流れに与える抵抗が変化する。そして、コイルばね11の付勢力は、ピストン3と可動ばね受13との間の軸方向距離に応じて変化し、可動ばね受13の位置は、可動マス12のピストン3に対する変位によって変化する。
【0057】
ハウジング10内には、可動マス12と可動ばね受13がともに軸方向へ移動可能に挿入されており、ハウジング10の2つの開口o1,o2がともにピストン3側を向いていて、可動マス12と可動ばね受13がともにピストン3に対して遠近できる。そして、ハウジング10の内部であって可動マス12と可動ばね受13との間には液体が充填されるジャッキ室Jが形成されている。よって、可動マス12が一方側となる
図2中で下方へ移動してピストン3から離間する方向へ変位すると、ジャッキ室J内の液体が媒体となって可動ばね受13を
図2中で上方へ押し上げてピストン3へ接近する方向へ変位させて、コイルばね11が圧縮され、逆に、可動マス12が他方側となる
図2中で上方へ移動してピストン3へ接近する方向へ変位すると、ジャッキ室J内で液体が移動できるようになるので、可動マス12の変位に応じて可動ばね受13も下降できるようになりコイルばね11が伸長する。よって、本実施の形態の減衰バルブVでは、可動マス12にジャッキ室J内の液体を介してコイルばね11の付勢力が作用しており、可動マス12とコイルばね11とでばねマス系を構成している。
【0058】
そして、可動マス12の移動方向は、緩衝器Dを伸縮作動させる外力によってピストン3に入力される振動の方向に一致しており、ピストン3に入力される振動によって可動マス12に慣性力が作用する。このように、圧縮装置Pは、ピストン3に入力される振動に対してピストン3に対して遠近する方向に移動できる可動マス12のピストン3に対する変位の方向をジャッキ室J内の液体を媒体として可動ばね受13に対して反対向きに伝達できるので、可動マス12のピストン3に対する移動方向と可動ばね受13のピストン3に対する移動方向とが正反対になる。
【0059】
そして、シリンダ1に対してピストン3が
図1中上下に振動する場合、ピストン3に入力される振動によってピストンロッド2を介してピストン3に連結されたハウジング10も
図1中上下動するので、可動マス12が慣性によってハウジング10に対して変位するが、ピストン3に入力される振動の周波数が高周波数であると、振動の振幅が小さくなるため可動マス12がハウジング10に対して変位しづらくなり、振動の周波数が高周波数になればなるほど可動マス12がハウジング10に対して変位しなくなる。他方、ピストン3に入力される振動の周波数が低周波数であると、振動の振幅が大きくなるので、可動マス12にも大きな慣性力が作用してハウジング10に対して大きく変位するようになり、振動の周波数が低周波数になればなるほど可動マス12がハウジング10に対して大きく変位するようになる。
【0060】
よって、ピストン3に入力される振動の周波数が高周波数であって緩衝器Dが伸長作動を呈する状態では、可動マス12がハウジング10に対して殆ど変位せずに、可動マス12がハウジング10内の部屋aを最圧縮してナット部10a1の下端に当接する位置或いはその近傍にあって、圧縮装置Pによってコイルばね11が初期に与えられる圧縮量以上に追加的には殆ど圧縮されず、伸側リーフバルブ8に与える付勢力を最小或いは最小に近い状態にする。このような状態では、伸側リーフバルブ8の開弁圧が低くなるとともに、緩衝器Dの伸長作動時に伸側リーフバルブ8が液体の流れに与える抵抗が小さくなるので、減衰バルブVは、伸側減衰力を小さくする。
【0061】
これに対して、ピストン3に入力される振動の周波数が低周波数であって緩衝器Dが伸長作動を呈する状態では、ピストン3の
図1中上方へ移動に伴ってハウジング10が大きな振幅で上方へ変位すると、可動マス12は慣性力によって取り残されるために、ハウジング10に対して
図1中下方へ相対移動して部屋bを縮小させるので、圧縮装置Pによって可動ばね受13がハウジング10に対して
図1中上方へ押し上げられる。すると、圧縮装置Pに押し上げられた可動ばね受13によってコイルばね11の圧縮量が大きくなり、コイルばね11が伸側リーフバルブ8に与える付勢力が大きくなる。このような状態では、伸側リーフバルブ8の開弁圧が高くなるとともに、緩衝器Dの伸長作動時に伸側リーフバルブ8が液体の流れに与える抵抗が大きくなるので、減衰バルブVは、伸側減衰力を大きくする。
【0062】
よって、本実施の形態の減衰バルブVは、ピストン3に入力される振動の周波数が高周波数の場合には減衰力を自動的に小さくし、ピストン3に入力される振動の周波数が低周波数の場合には減衰力を自動的に大きくする。ピストン3は、ピストンロッド2を通じて車両の車体或いは車輪に連結されるので、緩衝器Dは、車体或いは車輪の振動の周波数の高低に応じて減衰力を大小させる、つまり、周波数感応して減衰力を大小させる。そして、緩衝器Dは、入力される振動の周波数が高周波数である場合には、減衰力を小さくして車体に車輪側の高周波振動の伝達を妨げることができ、入力される振動の周波数が低周波数である場合には、減衰力を大きくして車体のゆっくりとした大きな振幅の振動を効果的に抑制できるので、車両における乗心地を向上できる。なお、本実施の形態の緩衝器Dの場合、減衰バルブVがピストンロッド2に取り付けられているので、ピストンロッド2を車両における車体に連結して、シリンダ1を車輪に連結するようにすると、減衰バルブVが車体の振動を拾いやすくなって、効果的に車体の振動を抑制して車両における乗心地を向上できる。
【0063】
また、可動マス12とばね要素としてのコイルばね11とでばねマス系を構成しているため、可動マス12を大きく変位させて減衰バルブVで発生する減衰力を大きくする周波数帯を可動マス12の質量とコイルばね11のばね定数とで設定できる。そして、緩衝器Dが搭載される車両におけるばね上である車体の共振振動数帯に可動マス12とコイルばね11でなるばねマス系の共振周波数が入るようにした減衰バルブVを用いると、緩衝器Dは、車体の振動をより効果的に抑制できる。
【0064】
以上、本実施の形態の減衰バルブVは、伸側ポート(ポート)3aと伸側ポート(ポート)3aを取り囲む伸側弁座(弁座)3cを有するピストン(弁座部材)3と、ピストン(弁座部材)3の伸側弁座(弁座)3cに離着座可能であって伸側ポート(ポート)3aを開閉する伸側リーフバルブ(弁体)8と、伸側リーフバルブ(弁体)8をピストン側(弁座部材側)へ向けて付勢するコイルばね(ばね要素)11と、ピストン(弁座部材)3に対して移動が可能であってピストン(弁座部材)3に振動が入力されると慣性によってピストン(弁座部材)3に対して変位する可動マス12と、可動マス12の一方側への変位によりコイルばね(ばね要素)11を圧縮する圧縮装置Pとを備えている。
【0065】
このように構成された減衰バルブVによれば、可動マス12の一方側への変位によってコイルばね(ばね要素)11を圧縮する圧縮装置Pを備えており、圧縮装置Pが可動マス12に作用する慣性力を利用してコイルばね(ばね要素)11を圧縮して周波数に感応した減衰力を発生できる。そのため、本実施の形態の減衰バルブVによれば、周波数に感応した減衰力の発生にあたり、ピストン(弁座部材)3における伸側ポート(ポート)3aの上流側の圧力と下流側の圧力を利用せずに済むから、ピストンロッド2に特別な加工を施す必要もなく、構造が簡単になり、コストを低減できる。以上より、本実施の形態の減衰バルブVによれば、簡易な構造で周波数に感応する減衰力の発生が可能でコストを低減できる。
【0066】
なお、本実施の形態の減衰バルブVでは、弁体を伸側リーフバルブ8としているが、リーフバルブ以外にもポペットバルブ等といった弁座部材に対して離着座するタイプの弁体の利用が可能である。また、可動マス12のピストン(弁座部材)3に対する移動方向であるが、緩衝器Dの伸縮方向と一致する方向にするのが好ましく、減衰バルブVが緩衝器Dのピストン部に設けられる場合、ピストン3の移動方向と緩衝器Dの伸縮方向とが一致しているので、可動マス12のピストン3に対する移動方向をピストン3に対して
図1中上下方向に遠近する方向とすればよい。また、本実施の形態の減衰バルブVでは、伸側リーフバルブ8を弁体として緩衝器Dが伸長作動した際に発生する伸側減衰力を緩衝器Dに入力される振動の周波数に感応させる都合上、可動マス12がピストン3から離間する方向を一方側としている。本実施の形態の減衰バルブVが圧側リーフバルブ7を弁体として適用される場合、圧側リーフバルブ7を付勢するばね要素と可動マス12の変位によってばね要素を圧縮する圧縮装置Pを伸側室R1側に設けることになるが、その場合、緩衝器Dが収縮作動した際に発生する圧側減衰力を緩衝器Dに入力される振動の周波数に感応させればよいから、この場合も前述した伸側減衰量を周波数に感応させる実施の形態の減衰バルブVと同様に、可動マス12がピストン3から離間する方向を一方側とすればよい。
【0067】
このようにピストンロッド2に減衰バルブVを取り付ける態様では、可動マス12の移動方向は、緩衝器Dの伸縮方向と一致する方向となればよいので、ピストン3に対してピストン3の軸方向で遠近する方向となればよく、圧縮装置Pがばね要素を圧縮する際の可動マス12の変位の方向である一方側は、ピストン3から離間する方向となっていればよい。緩衝器Dがシリンダ1内にピストンロッド2が進退する際の体積を補償するリザーバを備えて、リザーバと圧側室との間に減衰バルブVを設ける場合、減衰バルブVは、弁座部材をシリンダ1に取り付けられて圧側室とリザーバとを仕切るバルブケースとして、緩衝器Dの収縮作動時に圧側室からリザーバへ向かう液体の流れに抵抗を与えるように設定されるため、シリンダ1がピストンロッド2に接記する方向へ移動する際にばね要素を圧縮できればよく、この場合も可動マス12がピストン3から離間する方向を一方側とすればよい。これに対して、減衰バルブVの
図2に示した姿勢を縦向きとして、減衰バルブVが緩衝器Dに対して横向きの姿勢で取り付けられる場合、可動マス12の移動方向を緩衝器Dの伸縮方向に一致させればよいため、可動マス12のピストン3に対する移動方向は、緩衝器Dを側方から見てピストン3の軸方向に対して直交する方向にする必要があり、この場合の圧縮装置Pがばね要素を圧縮する際の可動マス12の変位の方向である一方側は、ピストン3から離間する方向ではなく、減衰バルブVの設置箇所に応じて設定すればよい。
【0068】
また、本実施の形態の減衰バルブVは、伸側リーフバルブ(弁体)8の反ピストン側(反弁座部材側)に配置されるとともにピストン(弁座部材)3に対して遠近可能な可動ばね受13を備え、コイルばね(ばね要素)11は、伸側リーフバルブ(弁体)8と可動ばね受13との間に介装されて伸側リーフバルブ(弁体)8をピストン側(弁座部材側)へ向けて付勢し、圧縮装置Pは、可動マス12の一方側への変位により可動ばね受13をピストン側(弁座部材側)へ変位させてコイルばね(ばね要素)11を圧縮する。
【0069】
このように構成された減衰バルブVは、ピストン(弁座部材)3と伸側リーフバルブ(弁体)8とコイルばね(ばね要素)11とで構成される簡単なバルブの構造に、可動マス12、可動ばね受13および圧縮装置Pを追加するだけで、簡単に周波数に感応する減衰バルブを実現できるので、既存のバルブにも適用できるようになり実用性が向上する。
【0070】
また、本実施の形態における減衰バルブVにおける圧縮装置Pは、内部が中空であってピストン側(弁座部材側)に向く2つの開口o1,o2を有し、可動マス12が一方の開口側にピストン(弁座部材)3に対して遠近可能に挿入されるとともに、可動ばね受13が他方の開口側にピストン(弁座部材)3に対して遠近可能に挿入されることにより、内部であって可動マス12と可動ばね受13との間に液体が充填されるジャッキ室Jを形成するハウジング10を備えている。
【0071】
このように構成された減衰バルブVは、ハウジング10を使用することで可動マス12の変位がジャッキ室J内の液体を媒体となって可動ばね受13に逆向きの変位として伝達できる。そして、ジャッキ室Jを形成するハウジング10に可動マス12と可動ばね受13を移動可能に収容することで圧縮装置Pを形成できるので、圧縮装置Pを簡単な構成で実現できる。なお、ハウジング10は、2つの開口o1,o2を持ち、可動マス12の変位を可動ばね受13に逆向きに伝達できればよいので、ジャッキ室J内に充填される媒体は液体以外にも気体を用いてもよい。また、圧縮装置Pがジャッキ室Jを用いているので、可動マス12の受圧面積と可動ばね受13の受圧面積との受圧面積比によって、可動マス21の変位量に対する可動ばね受23の変位量を設定でき、当該受圧面積比の調整によって減衰力をチューニングできる。
【0072】
前述した減衰バルブVでは、可動ばね受13でコイルばね11の圧縮量を変化させて弁体としての伸側リーフバルブ8に作用させる付勢力をピストン(弁座部材)3に入力される振動の周波数に感応させて変化させている。これに対して、ジャッキ室J内に気体を用いる場合、気体が充填されるジャッキ室Jがエアばねとして機能するため、
図3に示した第1変形例の減衰バルブV1のように、
図2に示した減衰バルブVにおける可動ばね受13およびコイルばね11の代わりにプッシュロッド15をハウジング10の他方の開口側に挿入して伸側リーフバルブ8にエアばねの付勢力を与えてもよい。プッシュロッド15は、ハウジング10の他方の開口o2に挿入されており、第1筒10aの本体部10a3と第2筒10bとの間をピストン3に対して遠近する方向となる
図3中上下方向へ移動可能とされて、伸側リーフバルブ8に当接しており、ジャッキ室J内の気体の弾発力を弁体としての伸側リーフバルブ8に作用させている。このようにしても、ピストン3に対して緩衝器Dの伸縮方向の振動が入力されると可動マス12が慣性力を受けてピストン3とともに振動するハウジング10に対してピストン3から離間する方向へ変位すると、ジャッキ室Jが圧縮されて弾発力が高まりプッシュロッド15を介して伸側リーフバルブ8に作用するエアばねの付勢力を大きくし、反対に可動マス12が慣性力によってピストン3に接近する方向へ変位すると、ジャッキ室Jが拡大されて弾発力が弱まりプッシュロッド15を介して伸側リーフバルブ8に作用させるエアばねの付勢力を小さくできる。このように、気体を充填したジャッキ室Jで構成されるエアばねをばね要素として、ハウジング10に可動マス12とプッシュロッド15とを挿入して圧縮装置Pを構成した減衰バルブV1にあっても周波数に感応して減衰力を発生できるだけでなく、部品点数が減少するので、より一層構造が簡素となるととにコストを低減できる。
【0073】
つづいて、本実施の形態の減衰バルブVは、ピストン(弁座部材)3から立ち上がるピストンロッド2の小径部(軸部材)2aを備え、可動マス12は、円盤状であって、可動ばね受13は、環状であって、ハウジング10は、筒状であって小径部(軸部材)2aの外周に装着されるとともに開口o1の一方を形成して内方に可動マス12が軸方向へ移動可能に挿入される第1筒10aと、筒状であって第1筒10aの外周側に設けられて第1筒10a内に内方が連通されるとともに、第1筒10aとの間に開口o2の他方となる環状の隙間を形成して可動ばね受13が軸方向へ移動可能に挿入される第2筒10bと、第1筒10a内であって可動マス12よりも反ピストン側(反弁座部材側)の部屋bと第2筒10b内であって可動ばね受13よりも反ピストン側(反弁座部材側)の部屋cとで形成されるジャッキ室Jと、第1筒10a内であって可動マス12よりもピストン側(弁座部材側)の部屋aを外方へ連通する連通孔10a5とを備えている。
【0074】
このように構成された減衰バルブVでは、可動マス12が挿入される第1筒10aと可動ばね受13が挿入される第2筒10bとを備えてハウジング10が構成され、第1筒10aの外周に第2筒10bが配置されているので、ハウジング10の軸方向全長を短くできるとともに、小径部(軸部材)2aの外周に第1筒10aを装着して小径部(軸部材)2aを介してハウジング10をピストン(弁座部材)3に連結できるので、簡単に減衰バルブVを組立できるとともに軸方向長さも短くできるだける。また、ハウジング10に可動マス12と可動ばね受13とをユニット化して圧縮装置Pを形成して、小径部(軸部材)2aに取付できるようになるので、既存のバルブに圧縮装置Pを簡単に付加して周波数に感応した減衰力を発生できる機能を既存のバルブに付加できる。さらに、可動マス12が挿入される第1筒10aを小径部(軸部材)2aの外周に装着しても連通孔10a5により部屋aがハウジング外に連通されるので、減衰バルブVの大型化を避けつつも可動マス12の円滑な移動が可能となる。
【0075】
なお、ハウジング10の構造は、少なくとも弁座部材としてのピストン3側を向く開口o1,o2が2つあって、一方の開口o1に可動マス12を挿入でき、他方の開口o2に可動ばね受13を挿入でき、可動マス12および可動ばね受13との間にジャッキ室Jを形成でき、可動マス12および可動ばね受13がピストン3に遠近する方向へ移動できる限りおいて、前述した具体的な構造に限られず設計変更可能である。よって、たとえば、ハウジング10は、ジャッキ室J内に充填される液体或いは気体を媒体として可動マス12の変位を可動ばね受13に伝達する場合、U字状のパイプ等によって形成されてもよい。
【0076】
さらに、本実施の形態の減衰バルブVでは、可動マス12とコイルばね(ばね要素)11とでなるばねマス系の共振周波数は、車両におけるばね上である車体の共振周波数帯の範囲になるように設定すれば、車体の共振周波数帯の振動が減衰バルブVに作用した際に可動マス12が大きく変位するようになり、圧縮装置Pがコイルばね(ばね要素)11を圧縮して大きな減衰力を発生できるので、車体の振動をより効果的に抑制できる。
【0077】
また、前述した圧縮装置Pは、ジャッキ室Jを用いることにより可動マス12の変位の方向とは異なる方向へ可動ばね受13を変位させてばね要素を圧縮しているが、
図4に示す第2変形例の減衰バルブV2における圧縮装置P1のように構成されてもよい。圧縮装置P1は、ピストンロッド2の小径部2aの外周に螺着されるとともに内部に可動マス21が収容される筒状の収容筒20と、収容筒20に取り付けられた複数のレバー22とを備えており、可動マス21が一方側となる
図4中下方へ変位するとレバー22によって収容筒20の外周に軸方向へ移動可能に装着された可動ばね受23をピストン側へ変位させて、コイルばね11を圧縮する。
【0078】
詳しくは、収容筒20は、
図4中上方側の内径が小径となっており、内径が小径な部分に小径部2aの螺子部2dに螺合する螺子部20aを備えている。また、収容筒20の
図4中下端部は、下端に向けて徐々に肉厚が薄くなって断面が下端に向けて尖った形状となっている。
【0079】
可動マス21は、収容筒20の内径が大径な部分に挿入されており、収容筒20内で収容筒20の軸方向に沿って移動できる。なお、収容筒20内で可動マス21よりも小径部2a側の空間が可動マス12によって密閉されないように可動マス21の外周と収容筒20の内径が大径な部分の内周との間には隙間が設けられている。なお、可動マス21の外周を収容筒20の内周に摺接させる場合、可動マス21の外周或いは収容筒20の内周に前記空間の収容筒20外との連通を確保する溝等を設けておけばよい。また、可動ばね受23は、収容筒20の外周に軸方向へ移動可能に装着されており、コイルばね11の
図4中下端を支持している。
【0080】
レバー22は、本実施の形態では、途中で曲がった形状とされている。本実施の形態では、
図4(B)に示すように、3本のレバー22が互いに干渉しないように三角形を描くように配置されており、収容筒20の
図4(A)中下端に折れ曲がった部分を収容筒20の下端の尖った先端に当接させた状態で、
図4(B)に示すように、収容筒20の下端から突出する3つの爪20bによって収容筒20に隙間を空けて取り付けられる支持リング24によって収容筒20に取り付けられている。
【0081】
3本のレバー22は、折曲部分22aから見て収容筒20内へ延びる一端22bが
図4中上方側へ向かって延びて収容筒20内の可動マス21の下端に当接しており、折曲部分22aから見て収容筒20外へ延びる他端22cが
図4中上方側へ向かって延びて収容筒20の外周に装着される可動ばね受23に当接している。レバー22は、収容筒20の尖った下端に折曲部分22aを当接させて収容筒20の下端に跨っていて、支持リング24によって収容筒20に保持されるため、折曲部分22aを支点として揺動できる。
【0082】
レバー22は、このように、山型状となっており、ピストンロッド2を介してピストン3に連結される収容筒20の先端に折曲部分22aを跨らせていて、折曲部分22aが弁座部材としてのピストン3に対して不動の支点となって、当該支点を中心として回転可能となっている。
【0083】
そして、可動マス21が収容筒20に対して
図4中で下方側に移動すると、レバー22の一端22bが可動マス21によって押し下げられると、レバー22が折曲部分22aを支点として回転して他端22cが
図4中上方へ移動して可動ばね受23を
図4中上方へ押し上げる。このように可動マス21が収容筒20に対して
図4中で下方側に移動すると、レバー22によって可動ばね受23が上方へ移動してコイルばね11を圧縮して伸側リーフバルブ8へ作用させる付勢力を大きくする。
【0084】
他方、可動マス21が収容筒20に対して
図4中で上方側に移動すると、レバー22も折曲部分22aを支点として他端22cが下方へ、一端が22bが上方へ向かうように回転できるようになるので、可動ばね受23がコイルばね11によって押し下げられてコイルばね11の圧縮量が減少し、コイルばね11が伸側リーフバルブ8に作用させる付勢力が減少する。
【0085】
このように構成された圧縮装置P1でもレバー22を用いることにより、ジャッキ室Jを用いる圧縮装置Pと同様に、可動マス12の変位の方向とは異なる方向へ可動ばね受13を変位させ得るので、可動マス12の一方側への変位によりばね要素としてのコイルばね11を圧縮できる。
【0086】
以上、第2変形例の減衰バルブV2における圧縮装置P1は、ピストン(弁座部材)3に対して不動の折曲部分(支点)22aを中心として回転可能であって、可動マス21の一方側への移動を可動ばね受23のピストン側(弁座部材側)への移動に変換するレバー22を備えている。圧縮装置P1は、レバー22を備えた簡単な構成により、可動マス12の変位の方向とは異なる方向へ可動ばね受13を変位させ得るので、可動マス12の一方側への変位によりのコイルばね(ばね要素)11を圧縮できる。よって、第2変形例の減衰バルブV2によれば、簡単な構成で圧縮装置P1を実現できコストを低減できる。また、レバーを用いているので、支点となる折曲部分22aと一端22bとの距離と支点となる折曲部分22aとの距離の設定で可動マス21の変位量と可動ばね受23の変位量とにレバー比を設定することにより減衰力をチューニングできる。
【0087】
なお、レバー22の設置数は、3本に限られず、圧縮装置P1と機能し得る限りにおいて何本でもよく、また、レバー22の配置についても前述したところに限られないが、レバー22を複数設ける場合、可動マス21へのレバー22の各当接点が可動マス21の中心から等距離で当該中心を中心とした同一円周上にあり、可動ばね受23へのレバー22の各当接点が可動ばね受23の中心から等距離で当該中心を中心とした同一円周上にあると、可動マス21と可動ばね受23がレバー22から受ける力が周方向で均等になるので可動マス21と可動ばね受23とが収容筒20に対して傾いたり、偏心したりするのを抑制でき、可動マス21と可動ばね受23とが円滑に変位できる。また、レバー22の折曲部分22aの収容筒20に対する位置ずれを防止するために、収容筒20の下端にレバー22の折曲部分22aの嵌合を許容する溝を設けてもよい。
【0088】
さらに、レバー22を用いる圧縮装置P1でも可動マス21に対してレバー22を介してコイルばね11の付勢力が作用するので、可動マス21とコイルばね11とでばねマス系を構成できるから、可動マス21の質量とコイルばね11のばね定数の設定によってばねマス系の共振周波数を車両におけるばね上の共振周波数帯の範囲に入れることによって、減衰バルブV2は、ばね上の共振周波数帯の振動が減衰バルブV2に作用した際に可動マス21が大きく変位するようになり、圧縮装置P1がコイルばね(ばね要素)11を圧縮して大きな減衰力を発生できるので、車体の振動をより効果的に抑制できる。
【0089】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、シリンダ(アウターシェル)1と、シリンダ(アウターシェル)1内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッド2と、シリンダ(アウターシェル)1に対するピストンロッド2の移動によって液体が行き来する少なくとも伸側室(作動室)R1と圧側室(作動室)R2とを有する緩衝器本体Aと、伸側室(作動室)R1と圧側室(作動室)R2との間に設けられた減衰バルブVを備えている。このように構成された緩衝器Dでは、減衰バルブVを備えることにより、緩衝器Dを取り付けた車両から入力される振動の周波数が高周波数であれば減衰力を小さくし、前記振動の周波数が低周波数であれば減衰力を大きくできる。よって、本実施の形態の緩衝器Dによれば、入力される振動の周波数が高周波数の場合には、減衰力を小さくして車体に車輪側の高周波振動の伝達を妨げることができ、入力される振動の周波数が低周波数である場合には、減衰力を大きくて車体のゆっくりとした大きな振幅の振動を効果的に抑制でき、車両における乗心地を向上できる。
【0090】
また、
図1に示したところでは、二つの作動室を伸側室R1と圧側室R2としているが、緩衝器Dがシリンダの外周にアウターシェルとして外筒を備えてシリンダと外筒との間にリザーバを備える複筒型緩衝器とされる場合には、圧側室とリザーバとの間に減衰バルブVを設けてもよいことは前述したとおりである。よって、減衰バルブにおけるポートは、伸側室R1と圧側室R2とを連通してもよいし、圧側室とリザーバとを連通してもよい。
【0091】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0092】
1・・・シリンダ、2・・・ピストンロッド、2a・・・小径部(軸部材)、3・・・ピストン(弁座部材)、3a・・・伸側ポート(ポート)、3c・・・伸側弁座(弁座)、8・・・伸側リーフバルブ(弁体)、10・・・ハウジング、10a・・・第1筒、10b・・・第2筒、10a6・・・連通孔、11・・・コイルばね(ばね要素)、12,21・・・可動マス、13,23・・・可動ばね受、22・・・レバー、22a・・・折曲部分(レバーの支点)、A・・・緩衝器本体、D・・・緩衝器、J・・・ジャッキ室、o1,o2・・・開口、P,P1・・・圧縮装置、V,V1,V2・・・減衰バルブ