(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160711
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】減衰バルブおよび緩衝器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/50 20060101AFI20241108BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F16F9/50
F16F9/32 N
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023070070
(22)【出願日】2023-04-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-11-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】安井 剛
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069CC13
3J069EE62
(57)【要約】
【課題】ポートの上流側の圧力に依存した減衰力特性の調整が可能な減衰バルブおよび車両における乗心地を向上できる緩衝器を提供する。
【解決手段】本発明における減衰バルブVは、ポート3aとポート3aの下流側の開口を取り囲む弁座3cを有する弁座部材3と、弁座3cに対して遠近する方向へ移動可能な可動体10と、弁座部材3に対して不動であって可動体10に対向する対向部材9と、対向部材9に対して可動体10へ向けて変位可能に設けられて可動体10に接触可能な接触体12と、接触体12を可動体10へ押圧するようにポート3aの上流側の圧力を接触体12に作用させるパイロット通路Pとを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポートと前記ポートの下流側の開口を取り囲む弁座を有する弁座部材と、
前記弁座に対して遠近する方向へ移動可能な可動体と、
前記弁座部材に対して不動であって前記可動体に対向する対向部材と、
前記対向部材に対して前記可動体へ向けて変位可能に設けられて前記可動体に接触可能な接触体と、
前記接触体を前記可動体へ押圧するように前記ポートの上流側の圧力を前記接触体に作用させるパイロット通路とを備えた
ことを特徴とする減衰バルブ。
【請求項2】
前記可動体は、前記弁座に離着座して前記ポートを開閉する
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項3】
前記可動体は、環状であって、
前記対向部材は、前記可動体の内周側に配置され、
内周側が前記対向部材の外周に装着されて外周が前記可動体に当接する環状のシール部材を備えた
ことを特徴とする請求項2に記載の減衰バルブ。
【請求項4】
前記可動体は、環状であって、
前記対向部材は、前記可動体の内周側に配置されるとともに外周に環状溝を有し、
前記接触体は、前記環状溝内に装着される環状の弾性体である
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項5】
前記可動体は、環状であって、
前記対向部材は、前記可動体の内周側に配置され、
前記対向部材に設けられる固定ばね受と、
前記可動体と前記固定ばね受との間に介装されるばね部材とを備え、
前記ばね部材の一端が前記対向部材により径方向に調心され、
前記可動体は、内径が前記対向部材の前記可動体の移動範囲における外径よりも大径であって前記ばね部材の他端により径方向に調心される
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項6】
前記接触体は、前記可動体に接触すると前記可動体との間に摩擦力を生じさせる摩擦部材で形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項7】
前記可動体は、
前記対向部材側に向く面に前記接触体の挿入を許容する凹溝と、
前記対向部材側に向くとともに前記接触体に当接可能な面における前記凹溝の前記弁座部材側に隣接して設けられて前記凹溝から前記弁座部材側へ離間するほど前記対向部材に近づく傾斜面とを有し、
前記接触体を前記可動体へ向けて付勢するばねを備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の減衰バルブ。
【請求項8】
前記可動体は、
前記対向部材側に向く面であって前記弁座部材に最も接近した際に前記接触体に対向する接触体対向部の弁座部材側に隣接して前記接触体に接触しない逃げ部を有する
ことを特徴とする請求項6に記載の減衰バルブ。
【請求項9】
アウターシェルと、前記アウターシェル内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッドとを備えて内部に少なくとも2つの作動室を有する緩衝器本体と、
前記作動室間に設けられる請求項1から8のいずれか一項に記載の減衰バルブとを備えた
ことを特徴とする緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰バルブおよび緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の車体と車輪との間に介装される緩衝器に利用される減衰バルブは、たとえば、ポートを有するピストンと、ピストンの圧側室側端に重ねられて内周が固定されて外周の撓みが許容されてポートを開閉する環状のリーフバルブと、ピストンロッドの先端の外周に螺子結合されてピストンをピストンロッドに固定するとともに外周に環状の固定ばね受を有するピストンナットと、環状であってピストンナットの外周に摺動可能に装着されてピストンナットに対して軸方向へ移動可能であってリーフバルブの反ピストン側面に当接するとともに固定ばね受と軸方向で対向する可動ばね受と、固定ばね受と可動ばね受との間に介装されるコイルばねとを備えるものがある(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
このように構成された減衰バルブは、コイルばねの付勢力でリーフバルブがピストンに押し付けられているので、緩衝器の伸長速度が低い場合にはコイルばねの付勢力によってリーフバルブが撓まずに着座したままとなる一方で、緩衝器の伸長速度が高くなるとコイルばねが縮んでリーフバルブが一気にポートを開放して減衰力が頭打ちになる飽和特性を実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のように従来の減衰バルブでは、前述のように飽和特性を実現できるが、コイルばねのばね定数とコイルばねが閉弁時のリーフバルブに与える初期荷重との設定によって減衰力特性(緩衝器の伸縮速度に対して緩衝器が発生する減衰力の特性)を調整する。コイルばねのばね定数の調整によりリーフバルブの開弁後の減衰力特性を調整でき、コイルばねがリーフバルブに与える初期荷重の調整により主としてリーフバルブの開弁圧を調整できる。
【0006】
このように従来の減衰バルブでは、コイルばねのばね定数と初期荷重との2つの調整要素によって減衰力特性を調整できるが、リーフバルブの上流側の圧力に応じて減衰力特性を調整したい場合にはコイルばねのばね定数と初期荷重との調整では対応できず、所望する減衰力特性を得るのが難しかった。
【0007】
そこで、本発明は、ポートの上流側の圧力に依存した減衰力特性の調整が可能な減衰バルブおよび車両における乗心地を向上できる緩衝器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した目的を解決するために、本発明の減衰バルブは、ポートとポートを取り囲む弁座を有する弁座部材と、弁座に対して遠近する方向へ移動可能な可動体と、弁座部材に対して不動であって可動体に対向する対向部材と、対向部材に対して可動体へ向けて変位可能に設けられて可動体に接触可能な接触体と、接触体を可動体へ押圧するようにポートの上流側の圧力を接触体に作用させるパイロット通路とを備えている。
【0009】
このように構成された減衰バルブによれば、接触体が可動体に押し付けられる力が大きくなって可動体が弁座部材から離間する方向への移動を拘束する力が大きくなって、ポートを開放する開弁圧が高くなる。
【0010】
なお、減衰バルブにおける可動体が弁座に直接離着座してポートを開閉してもよい。
【0011】
また、減衰バルブは、可動体が環状であって、対向部材が可動体の内周側に配置され、内周側が対向部材の外周に装着されて外周が可動体に当接する環状のシール部材を備えてもよい。このように構成された減衰バルブによれば、可動体と対向部材との間をシールする環状のシール部材を備えているので、可動体を弁体として利用する場合でも可動体が弁座に着座するとポートを確実に閉塞して、狙い通りの減衰力を発生できる。
【0012】
さらに、減衰バルブは、可動体が環状であって、対向部材が可動体の内周側に配置されるとともに外周に環状溝を有し、接触体が環状溝内に装着される環状の弾性体であってもよい。このように構成された減衰バルブによれば、対向部材に環状溝を設けて環状の接触体を環状溝に装着するという簡単な構成により、ポートの上流側の圧力を受ける接触体を可動体に接触させてポートの上流側の圧力に依存した減衰力特性の調整が可能となる。また、このように構成された減衰バルブによれば、減衰バルブの組立も容易となるとともに自身の復元力で接触体が縮径するので、可動体の初期位置への復帰を接触体が阻害することもない。
【0013】
また、減衰バルブは、可動体が環状であって、対向部材が可動体の内周側に配置され、対向部材に設けられる固定ばね受と、可動体と固定ばね受との間に介装されるばね部材とを備え、ばね部材の一端が対向部材により径方向に調心され、可動体は内径が対向部材の可動体の移動範囲における外径よりも大径であってばね部材の他端により径方向に調心されてもよい。
【0014】
このように構成された減衰バルブによれば、可動体は対向部材に対して干渉せずに弁座部材に遠近できるため、スティックスリップを生じることなく、対向部材に対して円滑に移動でき、ばらつきの無い安定した減衰力を発生でき、減衰バルブを構成する各部品の加工精度を高くしたり高精度の寸法管理をする必要もないので、製造コストの上昇も招くことがない。加えて、減衰バルブは、コイルばねによって可動体を付勢しているので、接触体による可動体を初期位置に拘束する力の設定による開弁圧のチューニングに加えて、コイルばねのばね定数と可動体が初期位置にある状態でコイルばねが可動体に与える付勢力のチューニングによって減衰力特性をチューニングできるようになり、減衰力特性の設計自由度が向上する。
【0015】
さらに、減衰バルブにおける接触体は、可動体に接触すると可動体との間に摩擦力を生じさせる摩擦部材で形成されてもよい。このように構成された減衰バルブによれば、接触体と可動体との間の摩擦力で可動体の対向部材に対する軸方向への移動を拘束する力を得ているので、接触体および可動体に特別な加工を施さなくてもポートの上流側の圧力に応じた摩擦力を発生させて減衰バルブの開弁圧を変化させ得る。
【0016】
また、減衰バルブにおける可動体は、対向部材側に向く面に接触体の挿入を許容する凹溝と、対向部材側に向くとともに接触体に当接可能な面における凹溝の弁座部材側に隣接して設けられて凹溝から弁座部材側へ離間するほど対向部材に近づく傾斜面とを有してもよい。このように構成された減衰バルブによれば、可動体が初期位置から弁座部材に対して離間する方向へ移動する際に、凹溝に嵌合した接触体を押し退けるために抵抗を受けるので、接触体を押し付けるポートの上流側の圧力に依存した減衰力特性の調整が可能である。また、このように構成された減衰バルブによれば、ばねの付勢力によって接触体が傾斜面に押し付けられて可動体が弁座部材から離間してから初期位置へ戻る方向への移動を助勢するので、速やかに閉弁してポートの閉じ遅れも生じない。
【0017】
また、減衰バルブにおける可動体は、対向部材側に向く面であって弁座部材に最も接近した際に接触体に対向する接触体対向部の弁座部材側に隣接して接触体に接触しない逃げ部を有してもよい。このように構成された減衰バルブによれば、可動体が弁座部材から後退して開弁すると、接触体が接触体対向部に対して軸方向にずれて逃げ部に対向するようになって可動体の移動が接触体によって抑制されることが無くなり、開弁後に緩衝器の伸長速度が増加しても減衰力が飽和する減衰力特性を実現できる。
【0018】
さらに、緩衝器は、アウターシェルと、アウターシェル内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッドとを備えて内部に少なくとも2つの作動室を有する緩衝器本体と、作動室間に設けられる減衰バルブとを備えている。このように構成された緩衝器では、ポートの上流側の圧力に依存して減衰力特性を調整できるから車両における乗心地を向上できる。
【発明の効果】
【0019】
よって、本発明の減衰バルブによれば、ポートの上流側の圧力に依存した減衰力特性の調整が可能となり、本発明の緩衝器によれば車両における乗心地を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施の形態における減衰バルブを備えた緩衝器の縦断面図である。
【
図2】本発明の一実施の形態における減衰バルブの拡大縦断面図である。
【
図3】本発明の一実施の形態の第1変形例における減衰バルブの拡大縦断面図である。
【
図4】本発明の一実施の形態の第2変形例における減衰バルブの拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。
図1および
図2に示すように、一実施の形態における緩衝器Dは、アウターシェルとしてのシリンダ1と、シリンダ1内に移動可能に挿入されるピストンロッド2とを有して伸縮可能な緩衝器本体Aと、緩衝器本体A内に設けられる二つの作動室としての伸側室R1と圧側室R2との間に設けられた減衰バルブVとを備えている。そして、この緩衝器Dの場合、図示しない車両における車体と車輪との間に介装されて使用され、車体および車輪の振動を抑制する。
【0022】
以下、緩衝器Dの各部について詳細に説明する。
図1に示すように、緩衝器本体Aは、アウターシェルとしての有底筒状のシリンダ1と、シリンダ1内に移動可能に挿入されるピストンロッド2と、ピストンロッド2に連結されてシリンダ1内に移動可能に挿入されるとともにシリンダ1内を作動室としての伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン3とを備えている。
【0023】
そして、ピストンロッド2の
図1中上端となる基端には、ブラケット(図示せず)が設けられており、ピストンロッド2が図外の前記ブラケットを介して車体と車輪の一方に連結される。また、シリンダ1の底部1aにもブラケット(図示せず)が設けられており、シリンダ1が図外の前記ブラケットを介して車体と車輪の他方に連結される。
【0024】
このようにして緩衝器Dは車体と車輪との間に介装される。そして、車両が凹凸のある路面を走行する等して車輪が車体に対して上下に振動すると、ピストンロッド2がシリンダ1に出入りして緩衝器Dが伸縮するとともに、ピストン3がシリンダ1内を上下(軸方向)に移動する。
【0025】
また、緩衝器本体Aは、シリンダ1の上端を塞ぐとともに、内周にピストンロッド2が摺動自在に挿通される環状のロッドガイド4を備えている。よって、シリンダ1内は、密閉空間とされている。そして、そのシリンダ1内のピストン3から見てピストンロッド2とは反対側に、フリーピストン5が摺動自在に挿入されている。
【0026】
シリンダ1内におけるフリーピストン5の上側には液室Lが形成され、下側にはガス室Gが形成されている。さらに、液室Lは、ピストン3でピストンロッド2側の伸側室R1とピストン3側の圧側室R2とに区画されており、伸側室R1および圧側室R2には、それぞれ液体が充填されている。なお、緩衝器本体A内に充填される液体は、作動油や水、水溶液、その他の液体等とされてもよい。その一方、ガス室Gには、エア、または窒素ガス等の気体が圧縮された状態で封入されている。
【0027】
そして、緩衝器Dの伸長作動時にピストンロッド2がシリンダ1から退出し、その退出したピストンロッド2の体積分シリンダ内容積が増加すると、フリーピストン5がシリンダ1内を上側へ移動してガス室Gを拡大させる。反対に、緩衝器Dの収縮作動時にピストンロッド2がシリンダ1内へ侵入し、その侵入したピストンロッド2の体積分シリンダ内容積が減少すると、フリーピストン5がシリンダ1内を下側へ移動してガス室Gを縮小させる。
【0028】
なお、フリーピストン5に替えて、ブラダ、またはベローズ等を利用して液室Lとガス室Gとを仕切っていてもよく、この仕切となる可動隔壁の構成は適宜変更できる。
【0029】
さらに、本実施の形態では、緩衝器Dが片ピストンロッド、単筒型の緩衝器であり、緩衝器Dの伸縮時にフリーピストン5でガス室Gを拡大または縮小させて、シリンダ1に出入りするピストンロッド2の体積補償をする。しかし、この体積補償のための構成も適宜変更できる。
【0030】
たとえば、フリーピストン5とガス室Gとを廃してシリンダ1の外周にアウターシェルを設け、シリンダ1とアウターシェルとの間に液体を貯留するリザーバを形成して、緩衝器を複筒型の緩衝器にする場合、リザーバによってシリンダ1に出入りするピストンロッド2の体積補償をしてもよい。なお、リザーバは、シリンダ1とは別置き型のタンク内に形成されていてもよい。また、緩衝器Dは、ピストンロッド2の中央にピストン3が装着されてシリンダ1の両端からピストンロッド2の端部がシリンダ1外に突出する両ピストンロッド型の緩衝器として構成されてもよい。
【0031】
ピストンロッド2は、円柱状であって先端側の外径が縮径されており、先端側の最小径の小径部2aと、小径部2aより外径が大きく小径部2aの
図2中上側に設けられた大径部2bと、小径部2aと大径部2bとの境に設けられた段部2c、小径部2aの先端外周に設けられた螺子部2dとを備えている。
【0032】
つづいて、減衰バルブVは、本実施の形態では、ピストンロッド2に装着されたピストン3を弁座部材として緩衝器Dのピストン部に設けられている。詳しくは、減衰バルブVは、ポートとしての伸側ポート3aと伸側ポート3aを取り囲む弁座としての伸側弁座3cとを有する弁座部材としてのピストン3と、ピストン3に対して遠近する方向へ移動可能な可動体10と、ピストン3に対して不動であって可動体10に対向する対向部材としてのピストンナット9と、ピストンナット9に対して可動体10へ向けて変位可能に設けられて可動体10に接触する接触体12と、ピストンナット9に設けられて接触体12を可動体10へ押圧するように伸側ポート3aの上流側の圧力を接触体12に作用させるパイロット通路Pとを備えている。
【0033】
以下、減衰バルブVおよびピストンロッド2の小径部2aに装着される各部材について詳細に説明する。ピストンロッド2の小径部2aには、バルブストッパ6、圧側リーフバルブ7、弁座部材としてのピストン3、弁体としての伸側リーフバルブ8、接触体12が装着されたピストンナット9、可動体10およびばね部材としてのコイルばね11が組み付けられている。そして、バルブストッパ6、圧側リーフバルブ7およびピストン3が小径部2aの先端の螺子部2dに螺子結合されるピストンナット9とピストンロッド2の段部2cとにより挟持されてピストンロッド2に固定されており、可動体10およびコイルばね11はピストンナット9の外周に配置されている。このようにピストンナット9は、ピストンロッド2の小径部2aに螺子結合されて減衰バルブVにおけるピストン3に対して不動な対向部材として機能する。なお、対向部材は、弁座部材と一体となって弁座部材と一部品で構成されてもよいし、前述のように弁座部材とは別体となっていてもよい。したがって、本実施の形態の場合、弁座部材としてのピストン3が対向部材を一体に備えていてもよい。
【0034】
ピストン3は、
図1および
図2に示すように、環状であってピストンロッド2の小径部2aの外周に固定されてシリンダ1の内周に摺接しており、シリンダ1内を
図1中上方側の伸側室R1と
図1中下方側の圧側室R2とに区画している。また、ピストン3は、上端から下端に通じて伸側室R1と圧側室R2とを連通するポートとしての伸側ポート3aと、同じく上端から下端に通じて伸側室R1と圧側室R2とを連通する圧側ポート3bと、
図2中下端であって伸側ポート3aの出口端の外周側に設けられて伸側ポート3aを取り囲む弁座としての伸側弁座3cと、
図2中上端に設けられて圧側ポート3bを取り囲む圧側弁座3dとを備えている。なお、本実施の形態の減衰バルブVでは、伸側ポート3aと圧側ポート3bとが、ピストン3の周方向に沿って並べて設けられた複数のポートで形成されており、伸側ポート3aは圧側ポート3bよりもピストン3の内周側に設けられている。
【0035】
また、伸側弁座3cは、環状であってピストン3の
図2中下端であって伸側ポート3aと圧側ポート3bとの間から下方へ向けて突出して伸側ポート3aの圧側室R2に臨む下流側の開口を取り囲んでいる。他方、圧側弁座3dは、花弁型であってピストン3の
図2中上端から上方へ向けて突出して圧側ポート3bの伸側室R1に臨む下流側の開口をそれぞれ個別に取り囲んでいる。
【0036】
ピストン3の
図2中下端には、環状であってピストンロッド2の小径部2aの外周に嵌合されて伸側ポート3aを開閉する弁体としての伸側リーフバルブ8が積層されている。伸側リーフバルブ8は、複数枚の環状板を積層して構成された積層リーフバルブとされており、内周側がピストンロッド2の小径部2aに嵌合されるとともにピストンナット9によって小径部2aに対して不動に固定されており、外周側の撓みが許容されている。なお、本実施の形態の減衰バルブVでは、ピストンロッド2の小径部2aの外周であって伸側リーフバルブ8とピストンナット9との間に外径が伸側リーフバルブ8よりも小径な間座13が介装されており、伸側リーフバルブ8は、伸側ポート3aの圧力の作用によって間座13の外周縁を支点として
図2中下方へ撓む。
【0037】
そして、伸側リーフバルブ8は、ピストン3の下端に設けられた伸側弁座3cに着座する状態では伸側ポート3aの下端の出口端を閉塞し、外周側を撓ませて伸側弁座3cから離間させると伸側ポート3aを開放するとともに伸側ポート3aを伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに抵抗を与える。なお、伸側リーフバルブ8は、圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れに対しては伸側弁座3cに着座して伸側ポート3aを閉塞する。また、伸側リーフバルブ8は、ピストンナット9の
図2中上端をピストン3の内周に当接させる場合、全体がピストン3に対して遠近できるようにピストンナット9の外周に軸方向へ移動可能に嵌合されてもよい。
【0038】
ピストン3の
図2中上端には、環状であってピストンロッド2の小径部2aの外周に嵌合されて圧側ポート3bを開閉する圧側リーフバルブ7が積層されている。圧側リーフバルブ7は、複数枚の環状板を積層して構成された積層リーフバルブとされており、内周側がピストンロッド2の小径部2aに固定されて外周側の撓みが許容されている。そして、圧側リーフバルブ7は、ピストン3の上端の圧側弁座3dに着座する状態では圧側ポート3bの上端の出口端を閉塞し、外周側を撓ませて圧側弁座3dから離間させると圧側ポート3bを開放するとともに圧側ポート3bを圧側室R2から伸側室R1へ向かう液体の流れに抵抗を与える。なお、圧側リーフバルブ7は、伸側室R1から圧側室R2へ向かう液体の流れに対しては圧側弁座3dに着座して圧側ポート3bを閉塞する。また、圧側リーフバルブ7の
図2中上方にはバルブストッパ6が積層されている。バルブストッパ6は、圧側リーフバルブ7が大きく撓むと圧側リーフバルブ7の反ピストン側に当接して圧側リーフバルブ7を支持して圧側リーフバルブ7に過大な応力が作用するのを阻止して圧側リーフバルブ7を保護する。なお、緩衝器Dが複筒型の緩衝器として構成される場合、圧側リーフバルブ7の代わりに開弁時に液体の流れに殆ど抵抗を与えないチェックバルブを設けてもよい。
【0039】
ピストンナット9は、円筒状の筒部9aと、筒部9aの
図2中下端外周に設けられた環状の固定ばね受9bと、筒部9aの内周であって下方側に設けられてピストンロッド2の螺子部2dに螺子結合される螺子部9cと、筒部9aの外周に設けられた環状溝9dと、筒部9aの内周から開口して環状溝9dに通じる孔9eとを備えている。
【0040】
ピストンナット9の筒部9aの基端側であって固定ばね受9bより上方における部分の外径は、筒部9aの上方側となる先端側の外径よりも大径となっていて、筒部9aに小径部9a1と大径部9a2が設けられている。なお、固定ばね受9bは、後述するコイルばね11の付勢力を受ける部分であり、ピストンナット9に対して軸方向不動に取り付けられていれば、ピストンナット9と固定ばね受9bとが別部品で構成されてもよい。
【0041】
環状溝9dは、筒部9aにおける小径部9a1の外周であって、径方向で螺子部9cと対向しない位置、つまり、螺子部9cよりも
図2中上方に設けられている。周方向に沿って設けられている。また、孔9eは、筒部9aの内周であって螺子部9cよりも上方側から開口して環状溝9dの底部へ開口している。
【0042】
このように構成されたピストンナット9をピストンロッド2の小径部2aに螺子締結すると、ピストンナット9の筒部9aと段部2cとは、伸側リーフバルブ8、ピストン3、圧側リーフバルブ7およびバルブストッパ6を挟み込んで小径部2aに固定する。
【0043】
また、ピストンロッド2の小径部2aから段部2cにかけて伸側室R1に連通される溝2eが設けられており、ピストンナット9を螺子部2dに螺子結合すると、溝2eと孔9eとが対向して互いに連通される。よって、ピストンナット9の環状溝9dは、孔9eおよび溝2eを介して伸側ポート3aの上流側となる伸側室R1に連通されている。なお、本実施の形態では、ピストンナット9の筒部9aの螺子部9cよりも上方側の内径をピストンロッド2の小径部2aの外径よりも大径にしているので、溝2eと孔9eとが周方向でずれていても筒部9aと小径部2aとの間の環状隙間を介して溝2eと孔9eとを確実に連通させ得る。
【0044】
また、ピストンナット9の環状溝9dには、弾性体で形成された摩擦部材としての環状の接触体12が装着されている。具体的には、接触体12は、Oリングとされており、環状溝9d、孔9eおよび溝2eを通じて伸側室R1内の圧力が内周側に作用している。よって、伸側ポート3aの上流側の伸側室R1の圧力が接触体12を拡径させる方向へ作用している。このように、接触体12をピストンナット9の外周側へ向けて押圧するように伸側ポート3aの上流側の伸側室R1の圧力を接触体12に作用させるパイロット通路Pが環状溝9d、孔9eおよび溝2eによって形成されている。なお、パイロット通路Pは、ポートとしての伸側ポート3aの上流となる伸側室R1の圧力を接触体12に作用させて接触体12を後述する可動体10側へ向けて押圧可能な態様で設けられればよいので、前述した具体的な構成以外の構成によって形成されされてよい。よって、たとえば、パイロット通路Pは、ピストンロッド2の内部を通る通路を含んで形成されてもよいし、ピストン3に設けられる通路を含んで形成されてもよい。
【0045】
なお、接触体12の内外径差は、ピストンナット9の環状溝9dの内外径差よりも大きく、接触体12の内径が環状溝9dの内径よりも少し小さくなっていて、接触体12は、何ら力が作用しない無負荷で環状溝9d内に装着される状況でも環状溝9dの底部を締め付けるとともに外周側が環状溝9dから径方向へはみ出す。また、接触体12は、環状溝9d内で拡径することによって対向部材としてのピストンナット9に対して径方向へ変位可能となっており、パイロット通路Pを通じて接触体12に作用する伸側室R1の圧力が大きくなると拡径して外径を大きくする。
【0046】
つづいて、可動体10は、環状であって、筒状の嵌合部10aと、嵌合部10aのピストン側の端部の外周にフランジ状に設けられる環状の支承部10bと、内周の中間部に内周側に突出する接触体対向部10cと、内周であって接触体対向部10cのピストン側に隣接して設けられる逃げ部10dとを備えている。そして、可動体10は、ピストンナット9の小径部9a1の外周に配置されている。つまり、ピストンナット9は、可動体10内に挿入されている。また、可動体10は、ピストンナット9の小径部9a1の全長の範囲でピストンナット9の軸方向への移動が許容されている。
【0047】
接触体対向部10cは、軸方向の中央部10c1において最も小さな内径を持ち、中央部10c1の軸方向の両側に中央部10c1から離間するに従って徐々に内径が大きくなる傾斜面10c2,10c3を備えている。中央部10c1の内径は、ピストンナット9の可動体10の移動範囲である小径部9a1の外径よりも十分に大きく、可動体10内にピストンナット9の小径部9a1を挿入すると可動体10の内周とピストンナット9の小径部9a1の外周との間には環状隙間が形成される。傾斜面10c2は、中央部10c1のピストン側に隣接しており、可動体10の軸方向で中央部10c1から遠ざかると内径を徐々に大きくするように傾斜する面とされている。なお、傾斜面10c2は、テーパ面であってもよいし湾曲面であってもよいし、途中で傾斜角度が変化してもよい。また、逃げ部10dは、接触体対向部10cの傾斜面10c2のピストン側端に連なっており、中央部10c1の内径よりも大きな内径を有している。
【0048】
そして、可動体10は、ピストンナット9の小径部9a1の外周側に配置されて、ピストンナット9に対してピストンナット9の軸方向となる上下方向に移動可能とされており、弁体としての伸側リーフバルブ8の反ピストン側面に重ねられていて、伸側リーフバルブ8を介して弁座としての伸側弁座3cに対して離着座できる。可動体10は、ピストンナット9に対して
図2中上下方向へ移動できるが、可動体10の移動範囲はピストンナット9の小径部9a1と対向する範囲となっており、可動体10は、横方向の外力を受けない限りピストンナット9に対して接触せずに(非接触で)ピストンナット9の軸方向へ移動できる。
【0049】
また、可動体10が伸側弁座3cに着座した伸側リーフバルブ8の反ピストン側に当接する位置(初期位置)にある状態で、可動体10の内径が最も小径な接触体対向部10cは、ピストンナット9の環状溝9dに装着された接触体12に径方向で対向する。本実施の形態の減衰バルブVでは、ピストンナット9の環状溝9dに装着された接触体12の外径と比較すると、接触体対向部10cの中央部10c1の内径の方が少し小径となっており、接触体対向部10cが接触体12と径方向に対向すると可動体10と接触体12とが接触し、接触体12と可動体10との間に可動体10の
図2中下方への移動を妨げる摩擦力が発生する。このように、接触体12は、可動体10に接触可能となるように対向部材としてのピストンナット9に設けられている。なお、接触体対向部10cよりもピストン側の隣接する逃げ部10dの内径は、接触体12の外径よりも十分に大きく、後述するように伸側室R1の圧力によって接触体12が拡径しても接触体12が接触し得ない径となっている。
【0050】
コイルばね11は、ピストンナット9における固定ばね受9bと可動体10の支承部10bとの間で挟み込まれて、固定ばね受9bと可動体10との間に介装されており、常時、伸側リーフバルブ8に当接する可動体10を軸方向でピストン3に接近させる方向へ向けて付勢している。コイルばね11は、可動体10を介して伸側リーフバルブ8に付勢力を作用させており、伸側リーフバルブ8を伸側弁座3cに押し付けている。よって、コイルばね11が発生する付勢力によって、伸側リーフバルブ8が撓んで伸側弁座3cから離間して伸側ポート3aを開放する際の開弁圧が設定されている。
【0051】
コイルばね11の固定ばね受側端となる一端11aは、内周側に挿入されるピストンナット9の大径部9a2の外周に嵌合されて大径部9a2を締め付けており、ピストンナット9に対して径方向不動に固定されている。このように、コイルばね11の一端は、ピストンナット9の大径部9a2の外周に嵌合されることによって、対向部材としてのピストンナット9に対して調心されている。なお、コイルばね11の伸縮によってピストンナット9が回転しないように、固定ばね受9bとコイルばね11との間にワッシャ等の環状の部品を設けてもよい。また、コイルばね11の一端11aの対向部材であるピストンナット9に対する調心は、ピストンナット9の大径部9a2へのコイルばね11の一端11aの嵌合によるものの他にも、ピストンナット9の筒部9aの外周にコイルばね11の一端11aの内周に嵌合する部品を取り付けることによって行ってもよい。つまり、コイルばねの一端11aが軸部材であるピストンナット9により径方向に調心されることには、コイルばね11の一端11aをピストンナット9に直接的に取り付ける他にも、コイルばね11がピストンナット9に対して径方向に不動になる締結態様であればコイルばね11を軸部材であるピストンナット9に間接的に取り付けられてもよい。よって、コイルばね11をピストンナット9に対して調心する場合、コイルばね11の一端11aをピストンナット9に溶接等の利用によって取付けてもよいし、何らかの部品を介して取り付けてもよい。
【0052】
なお、ばね部材は、前述したところでは円筒形のコイルばね11とされているが、円錐形、樽形、つつみ形のコイルばねであってもよいし、可動ばね受10を調心できる限りにおいて断面円形でなくてもよいし金属製以外の材料で形成されてもよい。
【0053】
また、コイルばね11の可動ばね受側端となる他端11bは、内周側に挿入される可動体10の嵌合部10aの外周に嵌合されて嵌合部10aを締め付けており、可動体10を保持している。可動体10は、ピストンナット9の小径部9a1の外周に環状隙間を介して対向しており、コイルばね11の他端11bの嵌合によって保持されて、コイルばね11によってピストンナット9に対して調心されている。このように、可動体10は、コイルばね11の他端11bへの嵌合によってピストンナット9に対して調心されるので、ピストンナット9と接触していなくとも伸側リーフバルブ8およびピストン3に対して設計通りの位置に位置決めされて、伸側リーフバルブ8にコイルばね11の付勢力を作用させる。また、コイルばね11の他端11bによる可動体10の調心は、可動体10の嵌合部10aへのコイルばね11の他端11bの嵌合によるものの他にも、他の部品を介在させて行ってもよい。つまり、コイルばねの他端11bによって可動体10が径方向へ調心されることには、直接的にコイルばね11の他端11bを可動体10に直接的に取り付ける他にも、可動体10がコイルばね11に対して径方向に不動になる締結態様であれば可動体10をコイルばね11に取り付けられてもよい。よって、コイルばね11によって可動体10を調心する場合、コイルばね11の他端11bを支承部10bに溶接等の利用によって取付けてもよいし、何らかの部品を介して取り付けてもよい。なお、コイルばね11を介して可動体10を対向部材としてのピストンナット9に対する調心を行う必要がない場合には、コイルばね11がピストンナット9或いは可動体10に対して径方向に移動可能に嵌合されてもよい。
【0054】
つづいて、以上のように構成された減衰バルブVおよび緩衝器Dの作動について説明する。まず、ピストン3がシリンダ1に対して
図1中上方側へ移動する緩衝器Dの伸長作動時における減衰バルブVおよび緩衝器Dの作動について説明する。ピストン3がシリンダ1に対して
図1中上方へ移動すると、ピストン3の移動に伴って伸側室R1が縮小されるとともに圧側室R2が拡大される。縮小される伸側室R1内の液体は、伸側ポート3aを通過して伸側リーフバルブ8を撓ませようとする。緩衝器Dの伸長速度が低く伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差が開弁圧に達しない状態では、伸側ポート3aを通過しようとする液体の圧力の作用で伸側リーフバルブ8を撓ませる力がコイルばね11の付勢力に打ち勝つことができず、伸側リーフバルブ8が伸側弁座3cに着座したままとなる。このような状態では、液体は、伸側弁座3c或いは圧側弁座3dに設けられる図示しない凹部で形成されるオリフィスを通じて伸側室R1から圧側室R2へ移動し、オリフィスが液体の流れに抵抗を与える。よって、緩衝器Dの伸長速度が低く伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差が開弁圧に達しない状態では、減衰バルブVは、図外のオリフィスによって緩衝器Dの伸長を妨げる減衰力を発生する。なお、オリフィスは、伸側弁座3c或いは圧側弁座3dに設けられるほか、伸側リーフバルブ8の伸側弁座3cに当接する環状板の外周に設けられる切欠或いは圧側リーフバルブ7の圧側弁座3dに当接する環状板の外周に設けられる切欠によって形成されてもよい。また、緩衝器Dの伸長作動時には、ピストンロッド2がシリンダ1内から退出するため、ピストンロッド2がシリンダ1内で押し退ける体積が減少するが、フリーピストン5がシリンダ1内を
図1中上昇してガス室Gの容積を拡大することによって、ピストンロッド2がシリンダ1内から退出する体積を補償する。
【0055】
他方、緩衝器Dの伸長速度が高くなり伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差が開弁圧以上になると、伸側ポート3aを介して作用する伸側室R1内の圧力によって伸側リーフバルブ8の外周側が撓むとともに可動体10もピストン3から後退してコイルばね11を縮ませるので、伸側ポート3aが開放されて伸側室R1内の液体が伸側リーフバルブ8と伸側弁座3cとの間の隙間を通過して圧側室R2へ移動する。よって、この場合には、伸側リーフバルブ8が伸側ポート3aを通過する液体の流れに抵抗を与えることによって、緩衝器Dは伸長作動を抑制する伸側減衰力を発生する。
【0056】
本実施の形態の減衰バルブVでは、伸側ポート3aの上流となる伸側室R1内の圧力はパイロット通路Pを介して接触体12を拡径させて可動体10の接触体対向部10cへ向けて押圧する方向に作用している。そして、接触体12は、内周側に作用する伸側室R1の圧力が大きくなると当該圧力によって押圧されて拡径して外径を大きくし、径方向で対向する可動体10側へ変位して可動体10に当該圧力によって押し付けられる。
【0057】
よって、緩衝器Dの伸長速度が高くなればなるほど、伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差が大きくなるため、接触体12を可動体10に押し付ける力も大きくなって、接触体12と可動体10との間の摩擦力が大きくなる。接触体12は、対向部材であるピストンナット9の外周の環状溝9d内に収容されており、ピストンナット9に対する軸方向への移動が規制されるため、接触体12と可動体10との間に生じる摩擦力が大きくなると可動体10がピストンナット9に対して軸方向へ動きにくくなる。よって、緩衝器Dの伸長速度が高くなればなるほど、可動体10が軸方向へ移動し難くなり、伸側リーフバルブ8および可動体10を
図2中押し下げて伸側弁座3cから離間させるのに必要な伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差が大きくなる、つまり、減衰バルブVの開弁圧が高くなる。このように本実施の形態の減衰バルブVでは、緩衝器Dの伸長速度に感応して開弁圧が変化する。
【0058】
また、可動体10の内周であって接触体対向部10cのピストン側に隣接する逃げ部10dの内径は接触体12が接触し得ない程度に大きな径に設定されているので、可動体10がピストン3から後退して減衰バルブVが開弁すると、接触体12は接触体対向部10cに対して軸方向にずれて逃げ部10dに対向するようになり、可動体10の移動が接触体12によって抑制されることが無くなる。そのため、減衰バルブVが開弁した後は、コイルばね11が緩衝器Dの伸長速度に応じて縮んで伸側ポート3aを開放するので、減衰バルブVは、緩衝器Dの伸長速度が増加しても減衰力が飽和する減衰力特性を実現する。
【0059】
また、可動体10の内周に設けられた接触体対向部10cは、中央部10c1が最も小径となっており、当該中央部10c1のピストン側には中央部10c1から離間するほど内径が大きくなる傾斜面10c2が設けられいるので、可動体10が初期位置へ戻る際には接触体12が接触体対向部10cの中央より先に傾斜面10c2に接触して接触体12が徐々に縮径するようになっている。よって、可動体10が初期位置へ戻る際には接触体12によって急激に移動を妨げられることがなくなり、可動体10は速やかに初期位置へ戻り得る。
【0060】
なお、本実施の形態の減衰バルブVでは、接触体12に何ら力が作用していない無負荷状態でも接触体12が可動体10に接触するようにしているが、無負荷状態では接触体12を環状溝9d内に装着しても接触体12の外周が可動体10の接触体対向部10cに接触しないようにし、伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差が所定圧以上になるとパイロット通路Pを通じて伸側室R1の圧力を受けて拡径する接触体12が接触体対向部10cに接触して可動体10の移動を抑制するようにしてもよい。このようにすると、伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差が前記所定圧に到達しない緩衝器Dの伸長速度の速度域では、接触体12が可動体10に接触せず、減衰バルブVにおける開弁圧が緩衝器Dの伸長速度に感応しない不感帯を設けることができる。
【0061】
また、本実施の形態の減衰バルブVが開弁する際には、コイルばね11が縮んで伸側リーフバルブ8が撓んで伸側ポート3aを開放するが、コイルばね11によってピストンナット9に対して調心されているので、可動体10は対向部材としてのピストンナット9に干渉せずにピストン3から軸方向へ後退できる。コイルばね11が可動体10に偏荷重を作用させたり、伸側リーフバルブ8の全周が均一に撓まなかったり、対向部材としてのピストンナット9、弁座部材としてのピストン3および可動体10といった減衰バルブVの各構成部品の寸法誤差が生じていても、可動体10はピストンナット9に対して干渉せずにピストン3に遠近できるため、スティックスリップを生じることなく、ピストンナット9に対して円滑に移動でき、伸側リーフバルブ8の開弁圧や撓みに対して悪影響を与えることがない。
【0062】
これに対して、ピストン3がシリンダ1に対して
図1中下方側へ移動する緩衝器Dの収縮作動時では、ピストン3の移動に伴って圧側室R2が縮小されるとともに伸側室R1が拡大される。縮小される圧側室R2内の液体は、圧側ポート3bを通過して圧側リーフバルブ7を撓ませて伸側室R1へ移動する。よって、緩衝器Dの収縮作動時には、圧側リーフバルブ7が圧側ポート3bを通過する液体の流れに抵抗を与えることによって、圧側室R2内の圧力が伸側室R1内の圧力より高くなって、緩衝器Dは、収縮作動を抑制する圧側減衰力を発生する。また、緩衝器Dの収縮作動時には、ピストンロッド2がシリンダ1内に侵入するため、ピストンロッド2がシリンダ1内で押し退ける体積が増大するが、フリーピストン5がシリンダ1内を
図1中下降してガス室Gの容積を縮小させることによって、ピストンロッド2がシリンダ1内へ侵入する体積を補償する。なお、緩衝器Dが伸長作動から収縮作動に転じる場合、可動体10がコイルばね11の付勢力によって伸側リーフバルブ8とともにピストン3に最も接近する位置(初期位置)に戻るが、圧側室R2の圧力が伸側室R1の圧力よりも高くなってパイロット通路Pから受ける伸側室R1の圧力も低下するので、接触体12は自己復元力で縮径して環状溝9d内側へ引っ込み、可動体10が元の位置に戻る際の接触体対向部10cと接触体12との間の摩擦力も小さくなる。よって、緩衝器Dが伸長作動から収縮作動に転じる場合、可動体10は速やかに初期位置へ戻り得る。なお、接触体12が無負荷状態で可動体10と非接触となる場合には、可動体10は接触体12による抵抗を受けずに初期位置へ戻ることになる。
【0063】
以上、本実施の形態の減衰バルブVは、伸側ポート(ポート)3aと伸側ポート(ポート)3aを取り囲む伸側弁座(弁座)3cを有するピストン(弁座部材)3と、伸側弁座(弁座)3cに対して遠近する方向へ移動可能な可動体10と、ピストン(弁座部材)3に対して不動であって可動体10に対向するピストンナット(対向部材)9と、ピストンナット(対向部材)9に対して可動体10へ向けて変位可能に設けられて可動体10に接触可能な接触体12と、接触体12を可動体10へ押圧するように伸側ポート(ポート)3aの上流側の圧力を接触体12に作用させるパイロット通路Pとを備えている。
【0064】
このように構成された減衰バルブVによれば、緩衝器Dの伸長速度が高く、伸側室R1の圧力と圧側室R2の圧力との差が大きくなると、接触体12が可動体10に押し付けられる力が大きくなって接触体12と可動体10との間で生じる摩擦力を大きくする。よって、本実施の形態の減衰バルブVによれば、伸側ポート3aの上流側となる伸側室R1の圧力が大きくなると、接触体12と可動体10との間の摩擦力が大きくなって、伸側ポート(ポート)3aを開放する開弁圧が高くなるので、伸側ポート(ポート)3aの上流側の圧力に依存した減衰力特性の調整が可能となる。また、本実施の形態の減衰バルブVでは、接触体12による可動体10を初期位置に拘束する力の設定による開弁圧のチューニングが可能である。さらに、本実施の形態の減衰バルブVでは、伸側リーフバルブ(弁体)8を設けているので、伸側リーフバルブ(弁体)8に可動体10を溶接等によって一体化しておけば、可動体10の対向部材としてのピストンナット9およびピストン3に対する調心が可能となるとともに、伸側リーフバルブ(弁体)8が発揮する復元力によって可動体10の初期位置への復帰が可能となるので、コイルばね11および固定ばね受9bを廃止できる。
【0065】
また、本実施の形態の減衰バルブVでは、可動体10が環状であって、ピストンナット(対向部材)9が可動体10の内周側に配置されるとともに外周に環状溝9dを有し、接触体12が環状溝3e内に装着される環状のOリング(弾性体)である。このように構成された減衰バルブVによれば、ピストンナット(対向部材)9に環状溝9dを設けて環状の接触体12を環状溝9dに装着するという簡単な構成により、伸側ポート3aの上流側の伸側室R1の圧力を受ける接触体12を可動体10に接触させて伸側ポート(ポート)3aの上流側となる伸側室R1の圧力に依存した減衰力特性の調整が可能となる。また、このように接触体12を環状の弾性体としてピストンナット(対向部材)9の環状溝9d内で接触体12を拡径させることによって接触体12が可動体10を押圧する構造を採用しているので、減衰バルブVの組立も容易となるとともに伸側室R1内の圧力の低下とともに自身の復元力で接触体12が縮径するので、緩衝器Dが伸長作動してから収縮作動する際に可動体10の初期位置への復帰を接触体12が阻害することもない。さらに、接触体12を環状溝3eの対向する側壁に当接させて環状溝9d内を密閉できるのでパイロット通路Pからの伸側室R1の圧力の圧側室R2への漏れが阻止される。また、このように構成された減衰バルブVでは、弾性体である接触体12の弾性係数と伸側室R1の圧力を受ける接触体12の受圧面積の設定によって、開弁圧のチューニングを容易に行える。
【0066】
なお、接触体12は、可動体10に接触可能であって作用する伸側室R1の圧力が大きさに応じて可動体10のピストンナット(対向部材)9に対する軸方向への移動を拘束する力、この場合、摩擦力を大きくすることができればよいので、接触体12の形状は、環状でなくてもよく、任意の形状に設計変更できる。よって、たとえば、ピストンナット(対向部材)9の外周から内周に開口するとともにピストンロッド2の溝2eに通じる孔を設けて当該孔に接触体12を可動体10に対して遠近可能に挿入してもよい。
【0067】
さらに、本実施の形態の減衰バルブVでは、可動体10は、環状であって、ピストンナット(対向部材)9は、可動体10の内周側に配置され、ピストンナット(対向部材)9に設けられる固定ばね受9bと、可動体10と固定ばね受9bとの間に介装されるコイルばね(ばね部材)11とを備え、コイルばね(ばね部材)11の一端がピストンナット(対向部材)9により径方向に調心され、可動体10は、内径がピストンナット(対向部材)9の可動体10の移動範囲における外径よりも大径であってコイルばね(ばね部材)11の他端により径方向に調心される。
【0068】
このように構成された減衰バルブVによれば、可動体10がコイルばね(ばね部材)11によってピストンナット(対向部材)9に対して調心されているので、コイルばね(ばね部材)11が縮んで伸側リーフバルブ(弁体)8が撓んで伸側ポート(ポート)3aを開放する際に、可動体10はピストンナット(対向部材)9に干渉せずにピストン(弁座部材)3から軸方向へ後退できる。このように減衰バルブVによれば、可動体10はピストンナット(対向部材)9に対して干渉せずにピストン(弁座部材)3に遠近できるため、スティックスリップを生じることなく、ピストンナット(対向部材)9に対して円滑に移動でき、伸側リーフバルブ8の開弁圧や撓みに対して悪影響を与えることがない。以上より、本実施の形態の減衰バルブVによれば、ばらつきの無い安定した減衰力を発生でき、減衰バルブVを構成する各部品の加工精度を高くしたり高精度の寸法管理をする必要もないので、製造コストの上昇も招くことがない。
【0069】
加えて、本実施の形態の減衰バルブVは、コイルばね(ばね部材)11によって可動体10を付勢しているので、接触体12による可動体10を初期位置に拘束する力の設定による開弁圧のチューニングに加えて、コイルばね(ばね部材)11のばね定数と可動体10が初期位置にある状態でコイルばね(ばね部材)11が可動体10に与える付勢力(初期荷重)のチューニングによって減衰力特性をチューニングできるようになり、減衰力特性の設計自由度が向上する。
【0070】
また、本実施の形態の減衰バルブVは、ピストンナット(軸部材)9の可動体10の移動範囲に対向する小径部(部分)9a1の外径は、可動体10の内径よりも小さく、小径部(部分)9a1と可動体10との間に環状隙間が形成されるので、可動体10がコイルばね(ばね部材)11のみによって調心されて、ピストンナット(対向部材)9との干渉を防止して、スティックスリップの発生を阻止できる。なお、ピストンナット(対向部材)9の可動体10の移動範囲に対向する小径部(部分)9a1の外径と可動体10の内径との差は、減衰バルブVに入力される振動と動作によって可動体10がピストンナット(対向部材)9と干渉することがないように設定されればよい。よって、コイルばね(ばね部材)11の横方向への剛性も考慮にいれて前記差を設定するのが好ましい。
【0071】
さらに、本実施の形態の減衰バルブVにおける可動体10は、コイルばね11の他端11bの内周に嵌合する嵌合部10aを備え、コイルばね11の他端11bの嵌合部10aへの嵌合により調心されている。このように構成された減衰バルブVによれば、可動体10をコイルばね11に嵌合するという簡単な構成で可動体10を調心できるので加工が容易であり、製造コストも安価に済む。
【0072】
また、本実施の形態の減衰バルブVでは、接触体12は、可動体10に接触すると可動体10との間に摩擦力を生じさせるOリング(摩擦部材)で形成されている。このように構成された減衰バルブVでは、接触体12と可動体10との間の摩擦力で可動体10のピストンナット(対向部材)9に対する軸方向への移動を拘束する力を得ているので、接触体12および可動体10に特別な加工を施さなくても伸側ポート(ポート)3aの上流の伸側室R1の圧力に応じた摩擦力を発生させて減衰バルブVの開弁圧を変化させ得る。
【0073】
さらに、本実施の形態の減衰バルブVにおける可動体10は、ピストンナット(対向部材)側に向く内周面(面)であってピストン(弁座部材)3に最も接近した際に接触体12に対向する接触体対向部10cのピストン(弁座部材)側に隣接して接触体12に接触しない逃げ部10dを備えている。このように、可動体10の内周であって接触体対向部10cのピストン側に隣接する逃げ部10dに接触体12が接触しないので、可動体10がピストン3から後退して減衰バルブVが開弁すると、接触体12は接触体対向部10cに対して軸方向にずれて逃げ部10dに対向するようになって可動体10の移動が接触体12によって抑制されることが無くなる。
【0074】
そのため、減衰バルブVが開弁した後は、コイルばね11が緩衝器Dの伸長速度に応じて縮んで伸側ポート3aを開放するので、減衰バルブVは、伸側ポート(ポート)3aの上流の伸側室R1の圧力に依存して減衰力特性を変化させつつも、減衰バルブVの開弁後に緩衝器Dの伸長速度が増加しても減衰力が飽和する減衰力特性を実現できる。
【0075】
なお、前述したところでは、可動体10が伸側リーフバルブ8を弁体として、伸側リーフバルブ8を介して伸側弁座3cに離着座するようにしているが、
図3に示す減衰バルブV1のように、伸側リーフバルブ8を廃止して、可動体10を伸側弁座3cに離着座させることによって可動体10を弁体として利用して可動体10で伸側ポート3aを開閉してもよい。この場合、可動体10とピストンナット9の小径部9a1との間に環状隙間が設けられていて、伸側ポート3aが環状隙間を通じて圧側室R2に常時連通されてしまうため、ピストンナット9と可動体10との間の隙間を閉塞するシール部材14を設けている。なお、接触体12が可動体10の接触体対向部10cに当接すると、接触体12がシールとして機能する場合、シール部材14を設置しなくてもよい。
【0076】
シール部材14は、ピストンナット9の筒部9aとピストン3の内周部との間で挟持される環状の板ばねで形成されている。詳しくは、シール部材14は、弾性を備えた環状板でなる板ばねであって、内周がピストン3の内周部に重ねられる環状の間座15とともにピストンロッド2の小径部2aの外周に装着された後、ピストンロッド2に螺子結合されるピストンナット9の筒部9aと段部2cとによって挟持されてピストンロッド2に固定されている。
【0077】
間座15の外径は、シール部材14の外径よりも小径となっており、シール部材14は、内周側が固定されて外周の撓みが許容されている。外周を可動体10の
図3中上端のピストン側端面の内周に当接させていて、可動体10が伸側弁座3cに着座する状態では外周を
図3中上方側へ撓ませて自己が発生する弾発力で可動体10に密着している。このように可動体10が伸側弁座3cに着座した状態でシール部材14が可動体10に密着するので、ピストンナット9と可動体10との間の環状隙間が伸側ポート3aに連通するのを阻止でき、可動体10は、伸側弁座3cに着座するとシール部材14と協働して伸側ポート3aを閉塞できる。間座15は、シール部材14の外周のピストン側へ撓みを可能とすることの他、シール部材14が可動体10への当接タイミングを調整することを目的として設けられている。なお、間座15は、複数枚の環状板で構成されてもよく、間座15を環状板の積層枚数で構成することにより前記当接タイミングの調整を容易に行える利点を享受できる。
【0078】
なお、シール部材14は、可動体10が伸側弁座3cに着座した状態で、ピストンナット9と可動体10との間の環状隙間が伸側ポート3aに連通するのを阻止できればよいので、ピストンナット9の筒部9aの先端の外周に装着されるOリング等で形成されてもよい。
【0079】
このように第1変形例の減衰バルブV1では、可動体10が伸側弁座(弁座)3cに直接離着座して伸側ポート(ポート)3aを開閉し、可動体10とピストンナット(対向部材)9との間をシールする環状のシール部材14を備えているので、可動体10を弁体として利用する場合でも可動体10が伸側弁座(弁座)3cに着座すると伸側ポート(ポート)3aを確実に閉塞して、狙い通りの減衰力を発生できる。
【0080】
また、本実施の形態の減衰バルブV1におけるシール部材14は、環状であって内周がピストンナット(対向部材)9に固定されて固定端とされて外周の撓みが許容されるとともに、外周を可動体10のピストン(弁座部材)側の端面に当接させた板ばねとされている。このように構成された減衰バルブVによれば、コイルばね11による可動体10の調心機能に影響を与えずにピストンナット(対向部材)9と可動体10との間の環状隙間が伸側ポート(ポート)3aに連通されるのを阻止できるから、可動体10を弁体として機能させる場合であっても可動体10とピストンナット(対向部材)9との干渉を防止してスティックスリップによる不利益を被ることがない。なお、本実施の形態の減衰バルブV1では、シール部材14を環状の板ばねとして、シール部材14が当接する可動体10のピストン側端にテーパ面10eを設けているので、シール部材14によって可動体10を弁座部材としてのピストン3および対向部材としてピストンナット9に対して調心することできる。よって、この場合、コイルばね11を利用した可動体10の調心に代えてシール部材14のみによって可動体10を調心してもよく、シール部材14によって調心される場合も可動体10とピストンナット9の小径部9a1との間に環状隙間を設けることにより、可動体10とピストンナット(対向部材)9との干渉を防止してスティックスリップによる不利益を被ることがない。
【0081】
また、シール部材14に板ばねを利用することによって、可動体10がピストン3から離間してから伸側弁座3cに着座する前にシール部材14が可動体10に当接して可動体10のピストン側への移動を抑制する付勢力を発生するから、可動体10と伸側弁座3cとの衝突を緩衝できる。
【0082】
さらに、
図4に示した第2変形例の減衰バルブV2のように、接触体16を金属製のピンとして、ピストンナット9の筒部9aを径方向に貫く孔9f内に挿入して、接触体16が可動体17の内周に接触すると可動体17のピストン3からの後退を抑制することもできる。接触体16は、円柱状であって先端に球面16aを備えており、ピストンナット9の筒部9aにおける小径部9a1を径方向に貫く孔9fに先端をピストンナット9の外周側に向けて挿入されている。孔9fは断面円形状ととされており、筒部9aの内周側の開口が小径となっており、接触体16は孔9fの大径部分に摺動可能に挿入されている。
【0083】
また、ピストンナット9における内周側の孔9fの開口は、ピストンロッド2に溝2eを介して伸側ポート3aの上流側の伸側室R1に連通されている。そして、伸側室R1の圧力が溝2eによって形成されるパイロット通路Pを介して接触体16の後端に作用し、当該圧力によって接触体16はピストンナット9に対して孔9f内からピストンナット9外へ突出する方向へ向けて付勢されている。さらに、孔9fの大径部分内であって接触体16よりもピストンナット9の内周側には、接触体16を孔9f内から突出させる方向へ付勢するばね18が挿入されている。
【0084】
可動体17は、筒部17aと、筒部17aの
図4中上端の外周に支承部17bを備えるほか、ピストンナット(対向部材)側に向く面となる内周面に接触体16の挿入を許容する凹溝17cと、ピストンナット(対向部材)側に向くとともに接触体16に当接可能な面における凹溝17cのピストン(弁座部材)側に隣接して設けられて凹溝17cからピストン(弁座部材)側へ離間するほどピストンナット(対向部材)9に近づく傾斜面17dとを備えている。
【0085】
凹溝17cは、可動体17の筒部17aの内周であって可動体17が伸側弁座3cに着座する伸側リーフバルブ8に当接する初期位置において、ピストンナット9に設けた接触体16の先端の球面16aに対向する位置に可動体17の内周に周方向に沿って環状に設けられている。また、凹溝17cの断面は、球面16aに符合するように円弧状となっている。
【0086】
傾斜面17dは、凹溝17cのピストン側に隣接しており、可動体17の軸方向で傾斜面17dから遠ざかると内径を徐々に小さくするように傾斜する面とされている。なお、傾斜面17dは、テーパ面であってもよいし湾曲面であってもよいし、途中で傾斜角度が変化してもよい。
【0087】
以上、減衰バルブV2は、可動体17は、ピストンナット(対向部材)側に向く面となる内周面に接触体16の挿入を許容する凹溝17cと、ピストンナット(対向部材)側に向くとともに接触体16に当接可能な面における凹溝17cのピストン(弁座部材)側に隣接して設けられて凹溝17cからピストン(弁座部材)側へ離間するほどピストンナット(対向部材)9に近づく傾斜面17dとを備え、接触体16を可動体17へ向けて付勢するばね18を備えている。
【0088】
このように構成された減衰バルブV2では、可動体17が初期位置に配置されると、ばね18による付勢力を受けて先端がピストンナット9の孔9fから突出する接触体16における球面16aが可動体17の凹溝17c内に嵌合する。可動体17が初期位置からピストン3に対して離間する方向へ移動するには、接触体16を押し退けて孔9f内に押し込む必要があり、接触体16を孔9fへ移動させる際に抵抗を受ける。接触体16には、ばね18の付勢力の他に、パイロット通路Pを介して伸側ポート3aの上流側の伸側室R1の圧力によって孔9fから突出する方向へ付勢されており、可動体17へ向けて押圧されている。よって、伸側室R1内の圧力と圧側室R2の圧力との差が大きくなればなるほど、接触体16が可動体17に強く押し付けられるようになり、可動体17がピストン3から離間する方向へ移動させるのに必要な開弁圧が大きくなる。よって、減衰バルブV2は、減衰バルブVと同様に、伸側ポート3aの上流側の伸側室R1の圧力に依存して開弁圧が変化する。よって、本実施の形態の減衰バルブV2によれば、伸側ポート(ポート)3aの上流側の圧力に依存した減衰力特性の調整が可能となる。
【0089】
また、可動体17が初期位置からピストン3に対して離間する方向へ移動すると接触体16の先端の球面16aが凹溝17cから抜け出て傾斜面17d上を滑るので、可動体17がピストン3から離間する方向へ移動する際に接触体16から受ける抵抗が小さくなる。よって、減衰バルブV2の開弁後は、可動体17のピストン3から速やかに離間できる。また、緩衝器Dが伸長作動から収縮作動へ切り替わると、球面16aがばね18の付勢力によって傾斜面17dに押し付けられて可動体17がピストン3から離間してから初期位置へ戻る方向への移動を助勢するので、減衰バルブV2は速やかに閉弁して伸側ポート3aの閉じ遅れも生じない。なお、減衰バルブV2では、接触体16をばね18で付勢しているので、3つ以上の接触体16をピストンナット9に対して周方向に均等に配置しておけば、可動体17を接触体16の接触によってピストン3およびピストンナット9に対して調心できるので、コイルばね11による調心を行わずともよい。また、可動体17が凹溝17cと傾斜面17dとを備えており、ばね18による接触体16の付勢によって可動体17に閉弁方向の初期荷重を与えられるので、初期荷重を与える必要がある場合でもコイルばね11および固定ばね受9bを廃止してもよい。
【0090】
なお、前述したところでは、可動体10,17は、対向部材としてのピストンナット9に対して遊嵌されており、スティックスリップを生じないようにしているが、可動体10,17を対向部材としてのピストンナット9の小径部9a1の外周に摺動可能に装着することもできる。この場合、接触体12,16がポートの上流側の圧力が極小さい場合に可動体10,17の初期位置からピストン3に対して離間する方向への移動を過剰に妨げないようにするのが好ましい。
【0091】
さらに、本実施の形態の各減衰バルブV,V1,V2は、ポートを伸側ポート3aとしてポートの上流側を伸側室R1としているが、ポートを圧側ポート3bとしてポートの上流側を圧側室R2として圧側の減衰バルブとして利用されてもよい。
【0092】
また、本実施の形態の各減衰バルブV,V1,V2では、ピストンナット9を対向部材としているが、ピストンナット9の代わりにピストンロッド2自体を対向部材としてもよい。さらに、対向部材は、弁座部材に対して不動であって可動体に対向して、接触体が設けられていればよいので、必ずしも円筒状や円柱形状となっていなくともよく、可動体も対向部材および弁座部材との関係では、対向部材に対して遠近せずに弁座部材に対して遠近可能であればよいので、対向部材或いは弁座部材によって移動方向が拘束されるのではなく、対向部材や弁座部材以外の部材によって移動方向が拘束されるものであってもよい。
【0093】
また、本実施の形態の緩衝器Dは、シリンダ(アウターシェル)1と、シリンダ(アウターシェル)1内に軸方向へ移動可能に挿入されるピストンロッド2と、シリンダ(アウターシェル)1に対するピストンロッド2の移動によって液体が行き来する少なくとも伸側室(作動室)R1と圧側室(作動室)R2とを有する緩衝器本体Aと、伸側室(作動室)R1と圧側室(作動室)R2との間に設けられた減衰バルブVを備えている。このように構成された緩衝器Dでは、ポートの上流側の圧力に依存して減衰力特性を調整できる減衰バルブVを備えているので、減衰力特性を車両の振動抑制に向くように調整できるから車両における乗心地を向上できる。
【0094】
なお、
図1に示したところでは、減衰バルブVが緩衝器Dの伸側の減衰バルブに適用されているが、圧側の減衰バルブに適用されてもよい。また、二つの作動室を伸側室R1と圧側室R2としているが、緩衝器Dがシリンダの外周にアウターシェルとして外筒を備えてシリンダと外筒との間にリザーバを備える複筒型緩衝器とされる場合には、圧側室とリザーバとの間に減衰バルブV,V1,V2を設けてもよい。よって、減衰バルブにおけるポートは、伸側室R1と圧側室R2とを連通してもよいし、圧側室とリザーバとを連通してもよい。
【0095】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0096】
1・・・シリンダ、3・・・ピストン(弁座部材)、3a・・・伸側ポート(ポート)、3c・・・伸側弁座(弁座)、9・・・ピストンナット(対向部材)、9b・・・固定ばね受、9e・・・環状溝、10,17・・・可動体、10c・・・接触体対向部、10d・・・逃げ部、11・・・コイルばね(ばね部材)、12,16・・・接触体、14・・・シール部材、17c・・・凹溝、17d・・・傾斜面、A・・・緩衝器本体、D・・・緩衝器、P・・・パイロット通路、V,V1,V2・・・減衰バルブ