(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160721
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】電気化学反応セルスタック用部品の製造方法、電気化学反応セルスタックの製造方法、および、電気化学反応セルスタック用部品
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20241108BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20241108BHJP
C25B 1/042 20210101ALI20241108BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20241108BHJP
C25B 9/60 20210101ALI20241108BHJP
H01M 8/028 20160101ALI20241108BHJP
H01M 8/0282 20160101ALI20241108BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20241108BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/021
C25B1/042
C25B9/00 A
C25B9/60
H01M8/028
H01M8/0282
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075926
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 宏太
(72)【発明者】
【氏名】堀田 信行
【テーマコード(参考)】
4K021
5H126
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021CA04
4K021DB04
4K021DB31
4K021DB40
4K021DB43
4K021DB53
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD05
5H126GG08
5H126GG12
5H126HH00
5H126HH01
5H126HH06
(57)【要約】
【課題】電気化学反応セルスタック用部品の製造方法における手間を低減する。
【解決手段】電気化学反応セルスタック用部品の製造方法であって、アルミニウムを含有するステンレス製の板材を準備する準備工程と、酸化雰囲気で板材を熱処理することにより、板材にアルミニウム酸化物を含む被膜を形成する熱処理工程と、被膜が形成された板材を切断して電気化学反応セルスタック用部品を形成する切断工程とを備えることを特徴とする、電気化学反応セルスタック用部品の製造方法。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学反応セルスタック用部品の製造方法において、
アルミニウムを含有するステンレス製の板材を準備する準備工程と、
酸化雰囲気で前記板材を熱処理することにより、前記板材にアルミニウム酸化物を含む被膜を形成する熱処理工程と、
前記被膜が形成された前記板材を切断して前記電気化学反応セルスタック用部品を形成する切断工程と、を備える、
ことを特徴とする、電気化学反応セルスタック用部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応セルスタック用部品の製造方法において、
前記熱処理工程では、ロール状に巻かれた前記板材を巻き出し、巻き出された前記板材を連続式の熱処理炉に通過させることによって熱処理する、
ことを特徴とする、電気化学反応セルスタック用部品の製造方法。
【請求項3】
前記電気化学反応セルスタック用部品と、前記電気化学反応セルスタック用部品に接合されるガラスと、を備える、電気化学反応セルスタックの製造方法において、
請求項1または請求項2に記載の電気化学反応セルスタック用部品の製造方法により前記電気化学反応セルスタック用部品を製造する部品製造工程と、
前記電気化学反応セルスタック用部品の前記被膜が形成された部分を前記ガラスと接合する接合工程と、を備える、
ことを特徴とする、電気化学反応セルスタックの製造方法。
【請求項4】
電気化学反応セルスタック用部品であって、
アルミニウムを含有するステンレス材料で構成された基材と、
アルミニウム酸化物を含み、少なくとも前記基材の表面と裏面とに形成された被膜と、を備え、
前記基材の側面には、前記被膜が形成されていない、または、前記表面および前記裏面に形成された前記被膜よりも薄い前記被膜が形成されている、
ことを特徴とする、電気化学反応セルスタック用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、電気化学反応セルスタック用部品の製造方法、電気化学反応セルスタックの製造方法、および、電気化学反応セルスタック用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCは、一般に、燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という。)をそれぞれ含む複数の構成単位(以下、「発電単位」という。)を備える燃料電池スタックの形態で利用される。燃料電池スタックは、燃料電池スタック用部品を備える。
【0003】
従来、アルミニウムを含み、表面にアルミナの被膜が形成された金属製セパレータを備える燃料電池スタックが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、上記金属製セパレータをはじめとする、表面にアルミニウム酸化物を含む被膜が形成された燃料電池スタック用部品の製造方法では、材料であるアルミニウムを含む板材を最終製品に用いられる形状に切断し、切断した後の板材を熱処理することにより、表面にアルミニウム酸化物を含む被膜を形成している。このような製造方法は、切断された後の個々の板材を熱処理炉へ設置することとなるため、手間のかかる作業となっている。
【0006】
なお、このような課題は、例えば、水の電気分解反応を利用して水素を生成する電解単セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解セル単位を複数備える電解セルスタックに備えられる電解セルスタック用部品の製造方法にも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼び、発電単位と電解セル単位とをまとめて電気化学反応単位と呼び、燃料電池スタックと電解セルスタックとをまとめて電気化学反応セルスタックと呼び、燃料電池スタック用部品と電解セルスタック用部品とをまとめて電気化学反応セルスタック用部品と呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応セルスタック用部品の製造方法にも共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される電気化学反応セルスタック用部品の製造方法は、アルミニウムを含有するステンレス製の板材を準備する準備工程と、酸化雰囲気で前記板材を熱処理することにより、前記板材にアルミニウム酸化物を含む被膜を形成する熱処理工程と、前記被膜が形成された前記板材を切断して前記電気化学反応セルスタック用部品を形成する切断工程とを備える。
【0010】
本電気化学反応セルスタック用部品の製造方法によれば、板材を熱処理することによって板材にアルミニウム酸化物を含む被膜を形成し、熱処理が施された後の板材を最終製品で用いられる形状に切断する。このように、切断前の板材に対して熱処理を行うことができるため、例えば切断後の個々の板材を熱処理する場合と比較して、板材の熱処理炉へのセッティングが簡略化され、電気化学反応セルスタック用部品の製造方法における手間を低減することができる。
【0011】
また、本電気化学反応セルスタック用部品の製造方法によれば、熱処理を行った後に板材の切断を行うため、板材を切断した後に熱処理を行う場合と比較して、電気化学反応セルスタック用部品の最終製品における寸法の精度を向上することができる。
【0012】
(2)上記電気化学反応セルスタック用部品の製造方法において、前記熱処理工程では、ロール状に巻かれた前記板材を巻き出し、巻き出された前記板材を連続式の熱処理炉に通過させることによって熱処理する構成としてもよい。本構成によれば、板材を連続式の熱処理炉に通過させることによって熱処理を行う。そのため、例えば板材をバッチ式の熱処理炉に設置する場合と比較して、電気化学反応セルスタック用部品の製造方法における手間をより効果的に低減することができる。
【0013】
(3)本明細書に開示される電気化学反応セルスタックの製造方法は、前記電気化学反応セルスタック用部品と、前記電気化学反応セルスタック用部品に接合されるガラスと、を備える電気化学反応セルスタックの製造方法であって、上記電気化学反応セルスタック用部品の製造方法により前記電気化学反応セルスタック用部品を製造する部品製造工程と、前記電気化学反応セルスタック用部品の前記被膜が形成された部分を前記ガラスと接合する接合工程とを備える。
【0014】
本電気化学反応セルスタックの製造方法によれば、電気化学反応セルスタック用部品にアルミニウム酸化物を含む被膜を形成することにより、電気化学反応セルスタック用部品に対するガラスの濡れ性(親和性)が向上する。そのため、電気化学反応セルスタック用部品とガラスとの接合強度を向上することができる。
【0015】
(4)本明細書に開示される電気化学反応セルスタック用部品は、アルミニウムを含有するステンレス材料で構成された基材と、アルミニウム酸化物を含み、少なくとも前記基材の表面と裏面とに形成された被膜とを備え、前記基材の側面には、前記被膜が形成されていない、または、前記表面および前記裏面に形成された前記被膜よりも薄い前記被膜が形成されている。
【0016】
電気化学反応セルスタック用部品の表面または裏面に、例えばガラスが接合される構成を備える電気化学反応セルスタックを組み立てる際、電気化学反応セルスタック用部品の側面の濡れ性が過度に高いと、溶融されたガラスが側面にも拡がってしまい、例えば電気化学反応セルスタックの製造誤差を引き起こすおそれがある。本電気化学反応セルスタック用部品によれば、基材の側面には、被膜が形成されていない、または、表面および裏面に形成された被膜よりも薄い被膜が形成されている。換言すれば、電気化学反応セルスタック用部品の側面は、ガラスとの関係において、比較的濡れ性が低い。そのため、溶融されたガラスが、ガラスとの接合に関与しない基材の側面にまで拡がることを抑制し、電気化学反応セルスタックの製造誤差を低減することができる。
【0017】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応セルスタック用部品、電気化学反応セルスタック、および、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
【
図2】
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図4】
図1のIV-IVの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
【
図5】
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図6】
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図7】本実施形態における燃料電池スタック100の製造方法を示すフローチャート
【
図8】本実施形態における板材PLの熱処理工程を概略的に示す説明図
【
図9】単セル用セパレータ120の詳細構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0019】
A.実施形態:
A-1.燃料電池スタック100の構成:
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。また、
図2は、
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図4は、
図1のIV-IVの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている(他の図においても同様)。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。燃料電池スタック100は、特許請求の範囲における電気化学反応セルスタックの一例である。
【0020】
図1から
図4に示すように、燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、下端用セパレータ189と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106のうちの一方(以下、「上側エンドプレート104」という。)は、7つの発電単位102から構成される集合体(以下、「発電ブロック103」という。)の上側に配置されており、一対のエンドプレート104,106のうちの他方(以下、「下側エンドプレート106」という。)は、発電ブロック103の下側に配置された下端用セパレータ189の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106は、発電ブロック103および下端用セパレータ189を上下から挟むように配置されている。
【0021】
図1および
図4に示すように、燃料電池スタック100を構成する各層(上側エンドプレート104、各発電単位102、下端用セパレータ189)のZ軸方向回りの外周の4つの角部付近には、各層を上下方向に貫通する孔が形成されており、下側エンドプレート106のZ軸方向回りの外周の4つの角部付近における上側の表面には、ネジ孔が形成されている。これらの各層に形成された互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、上下方向に延びるボルト孔109を構成している。以下の説明では、ボルト孔109を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、ボルト孔109と呼ぶ場合がある。
【0022】
各ボルト孔109にはボルト22が挿入されている。各ボルト22の下端部は下側エンドプレート106に形成されたネジ孔に螺号しており、各ボルト22の上端部にはナット24が嵌められている。ナット24の下側の表面は、絶縁シート26を介して上側エンドプレート104の上側の表面に当接している。このような構成のボルト22およびナット24により、燃料電池スタック100の各層が一体に締結されている。なお、絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0023】
また、
図1から
図3に示すように、燃料電池スタック100を構成する各層(各発電単位102、下端用セパレータ189、下側エンドプレート106)のZ軸方向回りの周縁部には、各層を上下方向に貫通する4つの孔が形成されており、各層に形成された互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、最上部の発電単位102から下側エンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0024】
図1および
図2に示すように、1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102の後述する空気室166に供給するガス流路である酸化剤ガス供給マニホールド161として機能し、他の1つの連通孔108は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。酸化剤ガスOGとしては、例えば空気が使用される。
【0025】
また、
図1および
図3に示すように、他の1つの連通孔108は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102の後述する燃料室176に供給するガス流路である燃料ガス供給マニホールド171として機能し、他の1つの連通孔108は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へ排出するガス流路である燃料ガス排出マニホールド172として機能する。燃料ガスFGとしては、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0026】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。
図2に示すように、酸化剤ガス供給マニホールド161の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス供給マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、
図3に示すように、燃料ガス供給マニホールド171の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス供給マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172の位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。なお、各ガス通路部材27と下側エンドプレート106の表面との間には、絶縁シート26が介在している。
【0027】
(エンドプレート104,106の構成)
図1から
図4に示すように、一対のエンドプレート104,106は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材であり、例えばステンレス等の導電材料により形成されている。一対のエンドプレート104,106の中央付近には、Z軸方向に貫通する孔32,34が形成されている。Z軸方向視で、一対のエンドプレート104,106のそれぞれに形成された孔32,34の輪郭線は、後述する各単セル110を内包している。そのため、各ボルト22およびナット24による締結によって生じるZ軸方向の圧縮力は、主として各発電単位102の周縁部(後述する各単セル110より外周側の部分)に作用する。また、本実施形態では、上側エンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側エンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0028】
(下端用セパレータ189の構成)
図2から
図4に示すように、下端用セパレータ189は、Z軸方向視での外形が略矩形の平板状の部材である。下端用セパレータ189は、アルミニウムを含むステンレス材料で形成されており、Z軸方向の厚みが例えば2mm以下である。下端用セパレータ189に含まれるアルミニウムは、1.5質量%以上であって、10質量%未満であることが好ましい。また、詳細は後述するが、下端用セパレータ189の表面には、アルミニウム酸化物を含む被膜OCが形成されている。下端用セパレータ189の周縁部は、発電ブロック103と下側エンドプレート106との間に挟み込まれた状態で、下側エンドプレート106と例えば溶接により接合されており、下側エンドプレート106と電気的に接続されている。
【0029】
(発電単位102の構成)
図5は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図6は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図である。
【0030】
図5および
図6に示すように、発電単位102は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)110と、単セル用セパレータ120と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ190と、IC用セパレータ180と、空気極側フレーム130と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電部材144と、第1ガラスシール96とを備えている。単セル用セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、IC用セパレータ180におけるZ軸方向回りの周縁部には、各マニホールド161,162,171,172として機能する各連通孔108を構成する孔と、各ボルト孔109を構成する孔とが形成されている。
【0031】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114および燃料極116と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層118とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層118)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0032】
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、固体酸化物(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)等の安定化ジルコニア)を含むように構成されている。すなわち、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、例えばペロブスカイト型酸化物(例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))を含むように構成されている。燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同じ大きさの略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)、Niとセラミック粒子からなるサーメット、Ni基合金等により形成されている。中間層118は、Z軸方向視で空気極114と略同じ大きさの略矩形の平板形状部材であり、例えばGDC(ガドリニウムドープセリア)とYSZとを含むように構成されている。中間層118は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO3)が生成されることを抑制する機能を有する。
【0033】
単セル用セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔121が形成されたフレーム状の部材である。単セル用セパレータ120は、アルミニウムを含むステンレス材料で形成されており、Z軸方向の厚みが例えば0.5mm以下(例えば0.1mm)である。単セル用セパレータ120に含まれるアルミニウムは、1.5質量%以上であって、10質量%未満であることが好ましい。また、詳細は後述するが、単セル用セパレータ120の表面には、アルミニウム酸化物を含む被膜OCが形成されている。
【0034】
単セル用セパレータ120における貫通孔121を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部」という。)は、単セル110(電解質層112)の周縁部における上側の表面に対向している。単セル用セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えば、Agロウ)により形成された接合部124により、単セル110(電解質層112)と接合されている。単セル用セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリーク(クロスリーク)が抑制される。
【0035】
単セル用セパレータ120は、単セル用セパレータ120の貫通孔周囲部を含む内側部126と、内側部126より外周側に位置する外側部127と、内側部126と外側部127とを連結する連結部128とを備える。本実施形態では、内側部126および外側部127は、Z軸方向に略直交する方向に延びる略平板状である。また、連結部128は、内側部126と外側部127との両方に対して下側に突出するように湾曲した形状となっている。連結部128における下側(燃料室176側)の部分は凸部となっており、連結部128における上側(空気室166側)の部分は凹部となっている。このため、連結部128は、Z軸方向における位置が内側部126および外側部127とは異なる部分を含んでいる。
【0036】
単セル用セパレータ120における貫通孔121付近には、ガラスを含む第2ガラスシール125が配置されている。第2ガラスシール125は、接合部124に対して空気室166側に位置しており、単セル用セパレータ120の貫通孔周囲部の表面と、単セル110(本実施形態では電解質層112)の表面との両方に接触するように形成されている。第2ガラスシール125により、上述したクロスリークが効果的に抑制される。第2ガラスシール125は、特許請求の範囲におけるガラスの一例である。
【0037】
インターコネクタ190は、略矩形の平板形状の平板部150と、平板部150から空気極114側に突出した複数の略柱状の空気極側集電部134と、を有する導電性の部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ190における空気室166に面する側の表面の少なくとも一部には、例えばスピネル型酸化物により構成された導電性の被覆層194が形成されている。また、インターコネクタ190における燃料室176に面する側の表面の少なくとも一部には、酸化被膜198が形成されている。酸化被膜198は、例えばCr2O3(クロミア)を含む内層と、例えばMnCr2O4を含む外層と、から構成されている。以下では、被覆層194および酸化被膜198に覆われたインターコネクタ190を、単にインターコネクタ190という。
【0038】
各発電単位102において、上側のインターコネクタ190は、単セル110に対して上側に配置されている。上側のインターコネクタ190の各空気極側集電部134は、例えばスピネル型酸化物により構成された導電性接合材196を介して、単セル110の空気極114に接合されており、これにより単セル110の空気極114に電気的に接続されている。また、各発電単位102において、下側のインターコネクタ190は、単セル110に対して下側に配置されており、後述する燃料極側集電部材144を介して、単セル110の燃料極116に電気的に接続されている。インターコネクタ190は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を抑制する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ190は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ190は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ190と同一部材である。また、燃料電池スタック100は下端用セパレータ189を備えているため、燃料電池スタック100において最も下側に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ190を備えていない(
図2から
図4参照)。
【0039】
IC用セパレータ180は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の貫通孔181が形成されたフレーム状の部材である。IC用セパレータ180は、アルミニウムを含むステンレス材料で形成されており、Z軸方向の厚みが例えば0.5mm以下(例えば0.1mm)である。IC用セパレータ180に含まれるアルミニウムは、1.5質量%以上であって、10%未満であることが好ましい。また、詳細は後述するが、IC用セパレータ180の表面には、アルミニウム酸化物を含む被膜OCが形成されている。
【0040】
IC用セパレータ180における貫通孔181を取り囲む部分(以下、「貫通孔周囲部」という。)は、インターコネクタ190の平板部150の周縁部における上側の表面に例えば溶接により接合されている。ある発電単位102に含まれる一対のIC用セパレータ180のうち、上側のIC用セパレータ180は、該発電単位102の空気室166と、該発電単位102に対して上側に隣り合う他の発電単位102の燃料室176とを区画する。また、ある発電単位102に含まれる一対のIC用セパレータ180のうち、下側のIC用セパレータ180は、該発電単位102の燃料室176と、該発電単位102に対して下側に隣り合う他の発電単位102の空気室166とを区画する。このように、IC用セパレータ180により、発電単位102の周縁部における発電単位102間のガスのリークが抑制される。なお、燃料電池スタック100において最も上側に位置する発電単位102の上側のインターコネクタ190に接合されたIC用セパレータ180は、上側エンドプレート104に電気的に接続されている。
【0041】
IC用セパレータ180は、IC用セパレータ180の貫通孔周囲部を含む内側部186と、内側部186より外周側に位置する外側部187と、内側部186と外側部187とを連結する連結部188とを備える。本実施形態では、内側部186および外側部187は、Z軸方向に略直交する方向に延びる略平板状である。また、連結部188は、内側部186と外側部187との両方に対して下側に突出するように湾曲した形状となっている。連結部188における下側(空気室166側)の部分は凸部となっており、連結部188における上側(燃料室176側)の部分は凹部となっている。このため、連結部188は、Z軸方向における位置が内側部186および外側部187とは異なる部分を含んでいる。
【0042】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、単セル用セパレータ120の周縁部における上側の表面と、上側のIC用セパレータ180の周縁部における下側の表面とに接触しており、両者の間のガスシール性(すなわち、空気室166のガスシール性)を確保するシール部材として機能する。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のIC用セパレータ180間(すなわち、一対のインターコネクタ190間)間が電気的に絶縁される。空気極側フレーム130には、酸化剤ガス供給マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通流路132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通流路133とが形成されている。
【0043】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、単セル用セパレータ120の周縁部における下側の表面と、下側のIC用セパレータ180の周縁部における上側の表面とに接触している。燃料極側フレーム140には、燃料ガス供給マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通流路142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通流路143とが形成されている。
【0044】
燃料極側集電部材144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電部材144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116の下側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ190の上側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下側に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ190を備えていないため、該発電単位102における燃料極側集電部材144のインターコネクタ対向部146は、下端用セパレータ189に接触している。燃料極側集電部材144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ190(または下端用セパレータ189)とを電気的に接続する。なお、燃料極側集電部材144の電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電部材144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電部材144を介した燃料極116とインターコネクタ190(または下端用セパレータ189)との電気的接続が良好に維持される。
【0045】
図6に示すように、第1ガラスシール96は、空気極側フレーム130を挟んで上下方向に対向する単セル用セパレータ120とIC用セパレータ180との間に設けられる。第1ガラスシール96は、環状であり、燃料ガス供給マニホールド171および燃料ガス排出マニホールド172のそれぞれの周りを取り囲むように配置されている。第1ガラスシール96は、空気極側フレーム130と単セル用セパレータ120との界面や空気極側フレーム130とIC用セパレータ180との界面を介した、燃料ガス供給マニホールド171および燃料ガス排出マニホールド172からの燃料ガスFGまたは燃料オフガスFOGのリークを抑制する。なお、第1ガラスシール96は、空気極側フレーム130と同様に絶縁体であるため、第1ガラスシール96を設けることによって発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ190の電気的絶縁が阻害されることはない。第1ガラスシール96は、特許請求の範囲におけるガラスの一例である。
【0046】
なお、本実施形態における燃料電池スタック100を構成する部品のうち、後述する燃料電池スタック用部品の製造方法によって製造される部品を、燃料電池スタック用部品200と呼ぶことがある。本実施形態においては、単セル用セパレータ120と、IC用セパレータ180と、下端用セパレータ189とが、燃料電池スタック用部品200に相当する。燃料電池スタック用部品200は、特許請求の範囲における電気化学反応セルスタック用部品の一例である。
【0047】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図5に示すように、酸化剤ガス供給マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス供給マニホールド161に供給され、酸化剤ガス供給マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通流路132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図6に示すように、燃料ガス供給マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス供給マニホールド171に供給され、燃料ガス供給マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通流路142を介して、燃料室176に供給される。
【0048】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は上側のインターコネクタ190に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電部材144を介して下側のインターコネクタ190(または、下端用セパレータ189)に電気的に接続されている。すなわち、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。また、最も上側に位置する発電単位102の上側のインターコネクタ190およびIC用セパレータ180は、上側エンドプレート104に電気的に接続されており、最も下側に位置する発電単位102の燃料極側集電部材144に電気的に接続された下端用セパレータ189は、下側エンドプレート106に電気的に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0049】
図2および
図5に示すように、各発電単位102の空気室166から酸化剤ガス排出連通流路133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出された酸化剤オフガスOOGは、酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、
図3および
図6に示すように、各発電単位102の燃料室176から燃料ガス排出連通流路143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出された燃料オフガスFOGは、燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0050】
A-3.燃料電池スタック100の製造方法:
図7は、本実施形態における燃料電池スタック100の製造方法を示すフローチャートである。本実施形態における燃料電池スタック100の製造方法は、例えば以下の通りである。なお、以下では、本製造方法において特有な部分のみを詳細に説明し、その他の部分については、例えば特開2020-113504号公報に記載の方法を採用すればよいため、基本的に詳細な説明を省略する。
【0051】
はじめに、アルミニウムを含有するステンレス製の板材PLを準備する(S110)。燃料電池スタック用部品200は、板材PLを材料として形成される。板材PLに含まれるアルミニウムは、例えば1.5質量%以上であって、10質量%未満である。本工程では、最終製品での用途に応じた所定の厚みの板材PLを準備する。S110の工程は、特許請求の範囲における準備工程の一例である。
【0052】
次に、酸化雰囲気で板材PLを熱処理することにより、板材PLにアルミニウム酸化物を含む被膜OCを形成する(S120)。燃料電池スタック用部品200は、例えば耐酸化性の向上のため、表面にアルミニウム酸化物(例えば、アルミナ)を含む被膜OCが形成されている。本工程では、酸化雰囲気下で板材PLに熱処理を施すことにより、板材PLに含まれるアルミニウムを雰囲気中の酸素と反応させ、板材PLの表面に被膜OCを形成する。S120の工程は、特許請求の範囲における熱処理工程の一例である。
【0053】
図8は、本実施形態における板材PLの熱処理工程を概略的に示す説明図である。熱処理を行う前の板材PLは、ロールRIとしてロール状に巻かれた状態となっている。熱処理工程では、ロール状に巻かれた板材PLを巻き出し、巻き出したロールRIを熱処理炉HTに通過させる。熱処理炉HTは、連続式の熱処理炉であり、熱処理炉HTの中を板材PLが連続的に通過することによって熱処理が行われる。熱処理は、酸化雰囲気下で、例えば、600℃以上、1100℃以下で2分以上行い、熱処理によって板材PLの表面に被膜OCを形成する。熱処理炉HTを通過した後の板材PLは、熱処理炉HTに対してロールRIとは反対側において、ロールREとして再度ロール状に巻かれる。このように、熱処理を終えた板材PLをロールREとして再びロール状に巻き取ることにより、それに伴ってロールRIが巻き出され、連続的に板材PLを熱処理炉HTに通過させることができる。
【0054】
次に、被膜OCが形成された板材PLをプレスおよび切断して、燃料電池スタック用部品200を形成する(S130)。本実施形態における燃料電池スタック用部品200のうち、単セル用セパレータ120およびIC用セパレータ180は、燃料電池スタック100として組み立てられた際に上下方向に面する表面に凹凸が形成されている。本工程では、まず、最終製品において単セル用セパレータ120およびIC用セパレータ180として用いられる板材PLにプレス加工を施す。次に、熱処理が行われた後、または、必要に応じてプレス加工された後の板材PLに切断加工を施し、最終製品として用いられる形状に加工する。すなわち、切断加工では、単セル用セパレータ120、IC用セパレータ180および下端用セパレータ189のそれぞれの外形、各ボルト孔109、各連通孔108等を形成する。S130の工程は、特許請求の範囲における切断工程の一例である。
【0055】
以上、S110からS130までの工程を経ることにより、燃料電池スタック用部品200を製造する。S110からS130までの工程は、特許請求の範囲における部品製造工程の一例である。
【0056】
次に、燃料電池スタック用部品200を第1ガラスシール96または第2ガラスシール125と接合する(S140)。
図6に示すように、燃料電池スタック用部品200のうちの単セル用セパレータ120およびIC用セパレータ180は、第1ガラスシール96と接合される。また、燃料電池スタック用部品200のうちの単セル用セパレータ120は、第2ガラスシール125と接合される。本工程では、例えば、800℃で、3時間の加温によってガラスを溶融させ、その後、溶融ガラスを硬化させることによって、第1ガラスシール96および第2ガラスシール125を形成し、かつ、燃料電池スタック用部品200と第1ガラスシール96または第2ガラスシール125とを接合する。S140の工程は、特許請求の範囲における接合工程の一例である。
【0057】
次に、燃料電池スタック100を組み立てる(S150)。本工程では、残りの組み立て工程(例えば、ボルト22により締結する工程等)を行う。以上により、燃料電池スタック100の製造が完了する。
【0058】
A-4.単セル用セパレータ120の詳細構成:
図9は、単セル用セパレータ120の詳細構成を示す説明図である。
図9は、
図6のX1部の構成を拡大して示している。前述の燃料電池スタック100の製造方法によって製造された単セル用セパレータ120は、基材BMと、被膜OCとを備える。なお、本実施形態では単セル用セパレータ120の詳細構成について説明するが、IC用セパレータ180および下端用セパレータ189についても基本的には同様の構成を有する。
【0059】
基材BMは、単セル用セパレータ120における被膜部分(被膜OC)に覆われた部分である。基材BMは、アルミニウムを含有するステンレス材料で構成されている。基材BMは、表面S1と裏面S2と側面S3とを有する。表面S1と裏面S2とは、切断加工による切断を受けていない面(つまり、発電単位102が積層する方向に面する表面)であり、表面S1は上方向に面しており、裏面S2は下方向に面している。側面S3は、切断加工によって切断を受けた面(つまり、発電単位102が積層する方向に交差する方向に面する表面)である。なお、側面S3には、
図6に示した燃料ガス排出マニホールド172に面する表面だけでなく、燃料ガス供給マニホールド171や各ボルト孔109に面する表面や、単セル用セパレータ120の外郭線を形成する表面等も含まれる。
【0060】
被膜OCは、アルミニウム酸化物を含む。本実施形態における単セル用セパレータ120は、表面に被膜OCが形成された後に切断加工がされる。そのため、被膜OCは、少なくとも基材BMの表面S1と裏面S2と(すなわち、切断を受けていない面)に形成されており、一方で、基材BMの側面S3(すなわち、切断を受けた面)には、被膜OCが形成されていない、または、表面S1および裏面S2に形成された被膜OCよりも薄い被膜OCが形成されている。基材BMの側面S3に形成された被膜OCの厚みは、例えば、基材BMの表面S1および裏面S2に形成された被膜OCの厚みの90%以下であることが好ましく、87%以下であることがより好ましい。
【0061】
なお、被膜OCの厚みは、SEM-EDSを用いて単セル用セパレータ120の断面を例えば5000倍に拡大した画像に基づいて観察できる。基材BMの表面S1、裏面S2、側面S3のそれぞれに形成された被膜OCの厚みの大小を比較する際は、例えば、各面に形成された被膜OCについて任意の5か所で厚みを測定し、当該5か所の厚みの平均値を比較することにより行うことができる。
【0062】
金属の表面を覆う酸化物被膜は、金属に対する溶融ガラスの濡れ性(親和性)を向上させることが知られている。すなわち、本実施形態においては、単セル用セパレータ120の被膜OCは、単セル用セパレータ120に対する第1ガラスシール96の前駆体である溶融ガラスの濡れ性を向上させている。そのため、単セル用セパレータ120と第1ガラスシール96との接合性が向上し、燃料ガスFGまたは燃料オフガスFOGのリークを効果的に抑制する。一方で、前述のように、単セル用セパレータ120において、第1ガラスシール96との接合面を構成しない基材BMの側面S3には、被膜OCが形成されていない、または、第1ガラスシール96との接合面を構成する基材BMの表面S1および裏面S2に形成された被膜OCよりも薄い被膜OCが形成されている。すなわち、単セル用セパレータ120の側面に対する溶融ガラスの濡れ性が比較的低いため、例えば燃料電池スタック100の組み立ての際に、溶融ガラスが単セル用セパレータ120の側面に拡がることを抑制し、燃料電池スタック100の製造誤差を低減する。
【0063】
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック用部品200の製造方法は、アルミニウムを含有するステンレス製の板材PLを準備する準備工程S110と、酸化雰囲気で板材PLを熱処理することにより、板材PLにアルミニウム酸化物を含む被膜OCを形成する熱処理工程S120と、被膜OCが形成された板材PLを切断して燃料電池スタック用部品200を形成する切断工程S130とを備える。
【0064】
燃料電池スタック用部品200の製造方法によれば、板材PLを熱処理することによって板材PLにアルミニウム酸化物を含む被膜OCを形成し、熱処理が施された後の板材PLを最終製品で用いられる形状に切断する。このように、切断前の板材PLに対して熱処理を行うことができるため、例えば切断後の個々の板材PLを熱処理する場合と比較して、板材PLの熱処理炉HTへのセッティングが簡略化され、燃料電池スタック用部品200の製造方法における手間を低減することができる。
【0065】
また、燃料電池スタック用部品200の製造方法によれば、熱処理を行った後に板材PLの切断を行うため、板材PLを切断した後に熱処理を行う場合と比較して、燃料電池スタック用部品200の最終製品における寸法の精度を向上することができる。
【0066】
また、本実施形態の燃料電池スタック用部品200の製造方法において、熱処理工程S120では、ロール状に巻かれた板材PLを巻き出し、巻き出された板材PLを連続式の熱処理炉HTに通過させることによって熱処理する。本実施形態の燃料電池スタック用部品200の製造方法によれば、板材PLを連続式の熱処理炉HTに通過させることによって熱処理を行う。そのため、例えば板材をバッチ式の熱処理炉に設置する場合と比較して、燃料電池スタック用部品200の製造方法における手間をより効果的に低減することができる。
【0067】
また、本実施形態の燃料電池スタック100の製造方法は、燃料電池スタック用部品200と、燃料電池スタック用部品200に接合される第1ガラスシール96または第2ガラスシール125とを備える燃料電池スタック100の製造方法であって、燃料電池スタック用部品200の製造方法により燃料電池スタック用部品200を製造する部品製造工程S110~S130と、燃料電池スタック用部品200を第1ガラスシール96または第2ガラスシール125と接合する接合工程S140とを備える。
【0068】
本実施形態の燃料電池スタック100の製造方法によれば、燃料電池スタック用部品200にアルミニウム酸化物を含む被膜OCを形成することにより、燃料電池スタック用部品200に対するガラスの濡れ性(親和性)が向上する。そのため、燃料電池スタック用部品200と第1ガラスシール96または第2ガラスシール125との接合強度を向上することができる。
【0069】
また、本実施形態の燃料電池スタック用部品200は、アルミニウムを含有するステンレス材料で構成された基材BMと、アルミニウム酸化物を含み、少なくとも基材BMの表面S1と裏面S2とに形成された被膜OCとを備え、基材BMの側面S3には、被膜OCが形成されていない、または、表面S1および裏面S2に形成された被膜OCよりも薄い被膜OCが形成されている。
【0070】
燃料電池スタック用部品200の表面S1または裏面S2に、例えばガラスが接合される構成を備える燃料電池スタック100を組み立てる際、燃料電池スタック用部品200の側面S3の濡れ性が過度に高いと、溶融されたガラスが側面S3にまで拡がってしまい、例えば燃料電池スタック100の製造誤差を引き起こすおそれがある。本実施形態の燃料電池スタック用部品200によれば、基材BMの側面S3には、被膜OCが形成されていない、または、表面S1および裏面S2に形成された被膜OCよりも薄い被膜OCが形成されている。換言すれば、燃料電池スタック用部品200の側面S3は、ガラスとの関係において、比較的濡れ性が低い。そのため、溶融されたガラスが、ガラスとの接合に関与しない基材BMの側面S3にまで拡がることを抑制し、燃料電池スタック100の製造誤差を低減することができる。
【0071】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0072】
上記実施形態における燃料電池スタック100や発電単位102の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態における燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数(発電単位102の個数)は、あくまで一例であり、単セル110の個数は、燃料電池スタック100に要求される出力電圧に応じて適宜決められる。
【0073】
上記実施形態では、単セル用セパレータ120と、IC用セパレータ180と、下端用セパレータ189とが燃料電池スタック用部品200に相当するものとしているが、燃料電池スタック用部品200はこれに限られない。すなわち、燃料電池スタック100を構成する他の部材であっても、前述した単セル用セパレータ120と同様の構成を有する部材は、燃料電池スタック用部品200に該当する。
【0074】
上記実施形態では、板材PLが連続式の熱処理炉HTで熱処理されているが、板材PLは、必ずしも連続式の熱処理炉HTで熱処理される必要はない。
【0075】
上記実施形態では、熱処理工程の前後における板材PLがロール状に巻かれているが、必ずしもロール状に巻かれる必要はない。
【0076】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック用部品200に接合されるガラスとして第1ガラスシール96および第2ガラスシール125を例示しているが、これに限定されない。例えば、燃料極側フレーム140を挟んで上下方向に対向する単セル用セパレータ120とIC用セパレータ180との間に設けられるガラスであってもよい。
【0077】
また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。例えば、ステンレス製の板材PLは、アルミニウム以外の他の元素が含まれていてもよい。
【0078】
また、上記実施形態の燃料電池スタック100は、カウンターフロータイプのSOFCであるが、本明細書に開示される技術は、コフロータイプのSOFCにも適用可能である。また、本明細書に開示される技術は、クロスフロータイプのSOFCにも同様に適用可能である。
【0079】
また、上記実施形態では、単セル110は、燃料極支持型の単セルであるが、電解質支持型や金属支持型等の他のタイプの単セルであってもよい。
【0080】
上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行う固体酸化物形燃料電池(SOFC)を対象としているが、本明細書に開示される技術は、例えば、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解単セルにおいても、上記実施形態と同様の構成を採用することにより、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0081】
上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本明細書に開示される技術は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0082】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 32,34:孔 96:第1ガラスシール 100:燃料電池スタック 102:発電単位 103:発電ブロック 104:上側エンドプレート 106:下側エンドプレート 108:連通孔 109:ボルト孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 118:中間層 120:単セル用セパレータ 121:貫通孔 124:接合部 125:第2ガラスシール 126:内側部 127:外側部 128:連結部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通流路 133:酸化剤ガス排出連通流路 134:空気極側集電部 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通流路 143:燃料ガス排出連通流路 144:燃料極側集電部材 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 149:スペーサー 150:平板部 161:酸化剤ガス供給マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス供給マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:IC用セパレータ 181:貫通孔 186:内側部 187:外側部 188:連結部 189:下端用セパレータ 190:インターコネクタ 194:被覆層 196:導電性接合材 198:酸化被膜 200:燃料電池スタック用部品 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス PL:板材 RI:ロール RE:ロール HT:熱処理炉 BM:基材 OC:被膜 S1:表面 S2:裏面 S3:側面