(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160737
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】断熱システム
(51)【国際特許分類】
E04B 1/76 20060101AFI20241108BHJP
E04B 1/80 20060101ALI20241108BHJP
E04D 11/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
E04B1/76 300
E04B1/80 100Z
E04D11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075982
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】青井 佐智子
【テーマコード(参考)】
2E001
【Fターム(参考)】
2E001DD01
2E001DD04
2E001FA16
2E001FA18
2E001GA12
2E001HD11
2E001HE10
(57)【要約】
【課題】多孔質材料により形成される多孔質板を利用する場合でも、年間を通じて建物の空気調和を行えるようにする。
【解決手段】断熱システム10は、樹脂製の多孔質板11と屋根等2に載置され多孔質板11を収容する給水用容器12と、を有する。コントローラ18は、夏季のように気温が高温で閾値を超える場合、排水弁17を閉じ、給水機14に給水させ、給水用容器12の水位が所定の範囲に収まるようすることで多孔質板11を保水状態にする。これにより、夏季においては、多孔質板11の中の水が蒸発するときの気化熱により建物を冷却する。一方、コントローラ18は、冬季のように気温が低温で閾値以下の場合、排水弁17を開き、給水用容器12の水を排水し、多孔質板11から水を抜く。これにより、冬季においては、多孔質板11の内部の樹脂及び空気は、日射熱を効率よく吸熱することで暖まり、建物を保温する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の上面に設置され、多孔質材料により形成される多孔質板と、
気温が所定の第1温度以上の高温になった場合に前記多孔質板に給水することにより前記多孔質板を保水状態にし、気温が所定の第2温度以下の低温になった場合に前記多孔質板に保水されている水が排水されるよう制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする断熱システム。
【請求項2】
前記建物の上面に載置され、前記多孔質板を中に収容する容器と、
前記容器に貯水されている水の水位を調整する調整機構と、
を備え、
前記制御手段は、
気温が前記第1温度以上のときには、前記多孔質板が浸水した状態になるよう前記調整機構を制御し、
気温が前記第2温度以下のときには、前記容器が空になるよう前記調整機構を制御する、
ことを特徴とする請求項1に記載の断熱システム。
【請求項3】
前記調整機構は、
前記容器に給水する給水機と、
前記容器における水位を測定する水位計と、
前記容器の排水口を開閉する排水弁と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の断熱システム。
【請求項4】
前記多孔質板は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂のうち、少なくとも1種以上の樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の断熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱システム、特に建物の外気温からの断熱に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の屋根や屋上は、晴天の日中には直射日光がさらされる。特に、夏季においては、屋根や屋上は、高温になりやすい。そのため、屋根等の表面から吸収された熱は、屋内に伝わって室温を上昇させ、また、熱が蓄積されることにより空調効率の低下を招くことになる。
【0003】
これを解消するために、例えば、特許文献1では、屋根、壁面全面で一様且つ長時間安定した冷却を行うための外断熱パネルが提案されている。この外断熱パネルは、親水性の結合性成分によって結合された多孔性骨材からなる毛細管連続構造及び非毛細管空隙構造をした表面層を備えている。そして、降雨や散水又は給水によって外表面に供給された水は、多孔性骨材間の空隙を通して表面層全体に浸透し、多孔性骨材内に蓄積される。特許文献1では、このようにして建物の冷却を行う。
【0004】
特許文献1では、多孔性骨材として珪藻土焼成粒を用いるのが好適であるとしている。珪藻土焼成粒とは、珪藻土を粒状に成型した後、約1000℃で焼成した粒や、珪藻土を原料として耐火煉瓦状にしたものの粉砕分級品のことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第10/023957号
【特許文献2】特開2009-057811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来における多孔質材料を用いた外断熱パネルでは、夏季における建物の冷却を行うことはできるものの、冬季における建物の保温まではできない。すなわち、多孔質材料を用いた外断熱パネルによって、年間を通じて快適な空気調和を建物に提供することはできない。
【0007】
本発明は、多孔質材料により形成される多孔質板を利用する場合でも、年間を通じて建物の空気調和を行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る断熱システムは、建物の上面に設置され、多孔質材料により形成される多孔質板と、気温が所定の第1温度以上の高温になった場合に前記多孔質板に給水することにより前記多孔質板を保水状態にし、気温が所定の第2温度以下の低温になった場合に前記多孔質板に保水されている水が排水されるよう制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、前記建物の上面に載置され、前記多孔質板を中に収容する容器と、前記容器に貯水されている水の水位を調整する調整機構と、を備え、前記制御手段は、気温が前記第1温度以上のときには、前記多孔質板が浸水した状態になるよう前記調整機構を制御し、気温が前記第2温度以下のときには、前記容器が空になるよう前記調整機構を制御する、ことを特徴とする。
【0010】
また、前記調整機構は、前記容器に給水する給水機と、前記容器における水位を測定する水位計と、前記容器の排水口を開閉する排水弁と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、前記多孔質板は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂のうち、少なくとも1種以上の樹脂を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1~4に記載の発明によれば、多孔質材料により形成される多孔質板を利用する場合でも、年間を通じて建物の空気調和を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る断熱システムの一実施の形態を示す概略構成図である。
【
図2】本実施の形態における水位制御処理を示すフローチャートである。
【
図3】本実施の形態における複数種類の多孔質板の平均気孔径を表形式にて示す図である。
【
図4】本実施の形態における複数種類の多孔質板の質量を表形式にて示す図である。
【
図5】本実施の形態における複数種類の多孔質板の気孔率を表形式にて示す図である。
【
図6】本実施の形態における複数種類の多孔質板の吸水量を表形式にて示す図である。
【
図7】本実施の形態において透水量の計測に使用する透水量試験器を示す模式図である。
【
図8】本実施の形態における複数種類の多孔質板の透水量を表形式にて示す図である。
【
図9】本実施の形態における複数種類の樹脂製の多孔質板の分光透過率の平均値を表形式にて示す図である。
【
図10】本実施の形態において照射試験に使用する照射試験装置を示す模式図である。
【
図11A】本実施の形態における照射試験において多孔質板及びモルタル板の設置方法を示す平面図である。
【
図11B】本実施の形態における照射試験において多孔質板及びモルタル板の設置方法を示す側面図である。
【
図12】本実施の形態における複数種類の樹脂製の多孔質板に給水する場合の照射試験結果を表形式にて示す図である。
【
図13】本実施の形態における複数種類の樹脂製の多孔質板に給水しない場合の照射試験結果を表形式にて示す図である。
【
図14】本実施の形態における照射試験結果のまとめを表形式にて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
1.断熱システム
図1は、本発明に係る断熱システム10の一実施の形態を示す概略構成図である。本実施の形態における断熱システム10は、多孔質材料にて形成される多孔質板11を用いて建物を断熱する。「断熱」というのは、外部との熱の出入りをさえぎることと定義されているが、本実施の形態における断熱システム10は、高温になる夏季において建物を冷却することのみならず、冬季において建物の温かさを保てるように保温する。すなわち、本実施の形態における断熱システム10は、多孔質板11を用いて年間を通じて建物の空気調和を行えるようにすることを特徴としている。「空気調和」は、一般に「空調」と呼ばれているが、本実施の形態において「空気調和」というのは、空気調和の4つの要素のうち温度に特化し、建物の室内温度が適温に近づくようにすることをいう。また、建物では、一般に空調機等を駆動させて室温の調節が行われるが、本実施の形態における空気調和では、空調機等の駆動に要する空調エネルギーを削減できるようにする。
【0016】
本実施の形態において空気調和の対象とする建物は、住居やビル等の建造物であり、本実施の形態における断熱システム10は、建物の屋根やビルの屋上等に設置されて利用される。
【0017】
本実施の形態における断熱システム10は、
図1に示すように、多孔質板11、給水用容器12、気温計13、給水機14、水位計15、流量計16、排水弁17及びコントローラ18を備える。給水用容器12は、建物の上面、すなわち屋根または屋上(以下、「屋根等」と総称)2に載置される。給水用容器12の形状や大きさは、屋根等2の設置可能なスペースや建物に要求される空調能力に応じて決めてもよい。
【0018】
多孔質板11は、給水用容器12の中に収容されて、屋根等2に設置される。多孔質板11には、給水用容器12に貯水されている水が供給される。本実施の形態における多孔質板11は、多孔質材料を板状に加工することにより形成される。「多孔質材料」とは、細孔が非常に多く空いている材料のことをいう。多孔質板11は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合合成樹脂のうち、少なくとも1種以上の樹脂を含む樹脂製である。気温計13は、屋外に設置され、外気温を測定する。
【0019】
給水機14は、給水用容器12に給水する。給水機14は、水道水を給水用容器12に給水してもよいし、図示しない貯水槽に溜められている雨水を利用してもよいし、これらを組み合わせて利用してもよい。水位計15は、給水用容器12における水位を測定する。排水弁17は、給水用容器12の排水口を開閉する弁である。流量計16は、給水用容器12からの排水量を測定する。給水用容器12に貯水されている水の水位を調整する調整機構は、給水機14、水位計15、流量計16及び排水弁17を含む。
【0020】
コントローラ18は、断熱システム10における動作を制御する。具体的には、気温計13、水位計15及び流量計16から取得した各測定値を参照して、給水機14における給水及び排水弁17の開閉を制御することで、給水用容器12における水位を制御する。
【0021】
次に、本実施の形態におけるコントローラ18が実施する給水用容器12における水位制御処理について
図2に示すフローチャートを用いて説明する。
【0022】
気温計13、水位計15及び流量計16の各測定手段は、それぞれ測定値を常時測定しており、コントローラ18は、各測定手段から測定値を常時入力している。
【0023】
コントローラ18は、
図2に示す水位制御処理を定周期的に繰り返し実行する。例えば、10分間隔、30分間隔など所定の時間間隔にて実施する。あるいは、処理負荷は大きくなるかもしれないが、コントローラ18は、処理の開始後、終了指示がされるまで、
図2に示す水位制御処理を繰り返し実施するようにしてもよい。ちなみに、水位制御処理の開始時点における排水弁17は、直前に実施した開又は閉の状態でよい。いずれにしても
図2に示すように、排水弁17は、処理の開始直後に開制御若しくは閉制御される。
【0024】
コントローラ18は、気温計13から気温tを取得すると(ステップ101)、所定の閾値Tと比較する。本実施の形態では、建物の屋根等2を、夏季などの暑い時には冷却し、冬季などの寒い時には保温するよう制御する。上記閾値Tは、夏季などの暑い時に冷却を行うための閾値となる温度、例えば30℃が設定される。なお、本実施の形態では、夏季でなくても30℃以上となる暑い日であれば建物を冷却できるように、月日ではなく外気温にて処理を分岐するようにした。
【0025】
気温tが閾値T以上の高温時の場合(ステップ102でY)、コントローラ18は、建物の冷却が必要と判定し、排水弁17を閉制御する(ステップ103)。続いて、コントローラ18は、水位計15による測定値、すなわち給水用容器12における水位hを取得し(ステップ104)、所定の水位で貯水されているかどうかを確認する。そして、所定の水位でなければ、所定の水位となるよう水位を制御する(ステップ105~110)。所定の水位を1つの所定値として設定してもよいが、本実施の形態では、下限値HLと上限値HHという範囲(HL<HH)にて設定する。多孔質板11の厚さをTとすると、給水用容器12の底面からの水位の下限値HLは、例えば、HL=1/4×Tなどと予め設定することができる。給水用容器12の底面からの水位の上限値HHは、例えば、HH=3/4×Tなどと予め設定することができる。本実施の形態では、多孔質板11が十分に浸水するように水位という指標を用い、そして水位で示される閾値Tを多孔質板11の厚さに応じて設定するが、その他の指標、例えば貯水量や貯水量が給水用容器12の容積を占める割合等を用いてもよい。
【0026】
コントローラ18は、水位計15から取得した水位hと下限値を示す閾値HLとを比較する。そして、水位hが閾値HLに満たない場合(ステップ105でY)、コントローラ18は、給水機14を駆動させて、給水用容器12に所定量給水させる(ステップ106)。多孔質板11の体積をVとすると、給水する所定量Aは、例えば、A=1/20×Vなどと予め設定することできる。
【0027】
その後、コントローラ18は、水位計15から給水用容器12の水位hを取得し(ステップ107)、取得した水位hと閾値HLとを改めて比較する。そして、水位hが閾値HLに満たない場合(ステップ105でY)、上記と同様に更に給水する(ステップ106)。給水用容器12の水位hは、以上の処理を繰り返すことでいずれ閾値HLに達する。水位hが閾値HL以上の場合、多孔質板11は、常に浸水している状態となり、内部まで吸水している保水状態になる。
【0028】
ところで、水位hが閾値HL以上という状態は、上記のように給水される場合や雨水が溜まっている場合が考えられる。水位hが閾値HL以上の場合(ステップ105でN)、コントローラ18は、今度は取得した水位hと上限値を示す閾値HHとを比較する。そして、水位hが閾値HHを超えている場合(ステップ108でY)、コントローラ18は、排水弁17を開制御し、所定量排水させる(ステップ109)。排水弁17からの排水量は、流量計16が測定するので、コントローラ18は、流量計16からの測定値を参照することで所定の排水量を計測できる。多孔質板11の体積をVとすると、排水する所定量Bは、例えば、B=1/20×Vなどと予め設定することできる。
【0029】
その後、コントローラ18は、水位計15から給水用容器12の水位hを取得し(ステップ110)、取得した水位hと閾値HHとを改めて比較する。そして、水位hが閾値HHを超えている場合(ステップ108でY)、上記と同様に更に排水する(ステップ109)。給水用容器12の水位hは、以上の処理を繰り返すことでいずれ閾値HL以下になる。
【0030】
水位hが閾値HL以下になると(ステップ108でN)、コントローラ18は、水位制御処理を終了させる。以上の処理により、外気温tが閾値T以上の時の水位hは、HL≦h≦HHに収まる。
【0031】
水位hが閾値HL以下というのは、多孔質板11の全体が浸水していない状態である。後述するように、本実施の形態では、多孔質板11の中の水が蒸発するときの気化熱により建物を冷却するので、多孔質板11の中の水が蒸発できるように全体を浸水させないように水位を制御する。
【0032】
一方、気温tが閾値Tに達していない低温時の場合(ステップ102でN)、コントローラ18は、建物の冷却が必要でなく、むしろ保温する必要があると判断して、排水弁17を開制御して(ステップ111)、水位制御処理を終了させる。排水弁17が開制御されると、給水用容器12の水は、全て排水される。また、多孔質板11に入り込んでいる水は、給水用容器12に流出され、更に給水用容器12からも排水される。このように、外気温tが閾値Tに達していないとき、給水用容器12は、水のない空の状態となり、よって多孔質板11の中にも水がない状態となる。
【0033】
多孔質板11の中には水が含まれていないと言うことは、水の代わりに空気が入り込んでいる状態である。これにより、多孔質板11の内部の空気は、日射熱を効率よく吸熱することで暖まる。これにより、建物は保温される。気温tが閾値Tに達していない場合、排水弁17は、開の状態が維持されるので、雨水等が給水用容器12に溜まることもなく、多孔質板11の中には水が含まれていない状態を維持できる。
【0034】
以上の水位制御処理により、多孔質板11は、外気温tが閾値T以上の場合は保水状態となり、外気温tが閾値T未満の場合は水を含まない状態となる。なお、以下の説明では、説明の便宜上、外気温tが閾値T以上の場合を「夏季」とし、外気温tが閾値T未満の場合を「冬季」として説明する。そうすると、端的に言うと、多孔質板11の中の空隙には、夏季の時には水が、冬季の時には空気が入り込んでいる状態であると言える。
【0035】
従って、夏季の場合、多孔質板11の中の水は日射熱により蒸発し、このときの気化熱により屋内は冷却される。多孔質板11の中の水は蒸発しても、給水用容器12の中には、上記の通り下限値HL以上の水位が維持されるので、多孔質板11は、下部を水に浸漬することで保水状態が維持される。一方、冬季の場合、多孔質板11は、内部まで日射光が到達し、内部の樹脂及び空気が日射熱を効率よく吸熱することで暖まる。これにより、屋内は保温される。冬季に降雨等があっても雨水等が給水用容器12に溜まることもなく、よって多孔質板11は、空気で満たされる状態が維持される。
【0036】
このように、本実施の形態によれば、夏季においては建物を冷却して冷房負荷を低減し、冬季においては建物を保温して暖房負荷を低減することができるので、年間を通じて空調エネルギーを削減できる。
【0037】
また、本実施の形態では、水位の上限値HHを多孔質板11の厚さTより小さくすることで、夏季において多孔質板11の内部の水を効率よく蒸発させることができる。また、本実施の形態では、平均気孔径が大きく、透水性の高く、水はけが良い樹脂製の多孔質板11を用いるので、多孔質板11の上を歩行できるように設置する場合にも快適に歩行しやすくなる。一方、冬季においては、多孔質板11から水を抜くようにし、また本実施の形態では、平均気孔径が大きく、吸水性の低い樹脂製の多孔質板11を用いるので、凍結融解による多孔質板11の劣化を抑制しやすくなる。
【0038】
また、軽量化を図ることができる樹脂製の多孔質板11を用いることで、建物にかかる重量負荷を軽減することができ、また持ち運びに便利で設置しやすい。
【0039】
なお、本実施の形態では、気温計13を用いて外気温のみを測定し、閾値Tとの比較結果に応じて保水状態にするか、保水していない状態にするかを判別しているが、例えば天気情報や室温、特に最上階の部屋の室温等を更に参照して、より細かな制御を行うようにしてもよい。
【0040】
また、本実施の形態では、高温時であると判断する所定の第1温度と、低温時であると判断する所定の第2温度として同じ閾値Tを設定したが、第1温度と第2温度に異なる気温を閾値として設定してもよい。この場合、高温時と低温時の双方に該当しない気温の場合の処理を設定する必要がある。
【0041】
また、本実施の形態では、屋根等2に設置する場合を例にして説明したが、例えば汲み上げポンプ等を利用することで建物の壁面に設置できるように構成してもよい。
【0042】
2.多孔質板の特性評価
ところで、断熱システムに関し、従来では、主として珪藻土を含む多孔質板を用いているのに対し、本実施の形態では、樹脂製の多孔質板11を用いるのが好適であるとしている。樹脂製の多孔質板11は、日射光が内部まで到達しやすいことに加え、珪藻土を含む多孔質板と比較して、軽量である、吸水性が低い及び透水性が高いという特性を有しているからである。ただ、樹脂製の多孔質板11が適正だとしても種々の仕様の多孔質板11が存在する。そこで、断熱システムに適用する多孔質板11として適正な仕様について、複数種類の樹脂製の多孔質板(以下、「多孔質板」)を、珪藻土を含む多孔質板(以下、「珪藻土板」)と適宜比較しながら以下のように考察する。
【0043】
(1)多孔質板および珪藻土板
多孔質板および珪藻土板のサイズは共に、縦約100mm×横約100mm×厚さ約10mmのものを用いる。多孔質板(晃信工業製)は、材質がポリプロピレンとし、平均気孔径が133,458,695,1258μmの4種類用いる。珪藻土板は、材質が珪藻土のTANO製のものを用いる。
【0044】
(2)多孔質板の平均気孔径
多孔質板の平均気孔径は、JIS T 0330-1に準拠して、次のようにして測定する。
【0045】
まず、X線CT装置(ヤマト科学製 TDM1000H -II)を用いて、多孔質板の断面を観察し、得られた断面の画像上に直線を引く。次に、直線が気孔と交わる10μm以上の交点間の長さを計測する。ここで、計測は、100箇所以上とし、1本の直線で100箇所以上を計測できない場合は、同一の気孔と交わらないように、複数の直線を引く。また、計測範囲からはみ出した気孔は、対象外とする。平均気孔径は、計測した100箇所以上の気孔径を平均化して求める。
【0046】
以上の方法により測定した多孔質板の平均気孔径を
図3の表1に示す。多孔質板の平均気孔径は、PP130の場合は133μm(前述した平均気孔径が133μmの多孔質板)、PP460の場合は458μm(前述した平均気孔径が458μmの多孔質板)、PP700の場合は695μm(前述した平均気孔径が695μmの多孔質板)、そしてPP1260の場合は1258μm(前述した平均気孔径が1258μmの多孔質板)である。
【0047】
(3)多孔質板の質量
多孔質板の質量は、次のようにして測定する。
【0048】
まず、乾燥器を用いて、大気中、50℃で約12時間、多孔質板を乾燥した後、真空乾燥器を用いて、50℃で約1時間、多孔質板を真空乾燥する。続いて、大気中、室温で12時間以上、多孔質板を静置した後、質量を測定し、これを多孔質板の質量とする。なお、比較のため、珪藻土板の質量を同様にして測定する。
【0049】
以上の方法により測定した多孔質板の質量を
図4の表2に示す。比較のため、珪藻土板の質量を表2に含める。多孔質板の質量は、PP130の場合は52g、PP460の場合は46g、PP700の場合は47g、PP1260の場合は57gである。一方、珪藻土板の質量は88gである。
【0050】
表2に示すように、多孔質板の質量は、珪藻土板の質量の52~65%であることから、多孔質板は、珪藻土板と比較して軽量といえる。すなわち、多孔質板から成る外装材は、既存の建物の屋根等に相対的に設置しやすいといえる。また、多孔質板のなかでもPP460とPP700は、特に質量が小さいので、重量という観点からすると好適な仕様といえる。
【0051】
(4)多孔質板の気孔率
多孔質板の気孔率は、次のようにして測定する。
【0052】
まず、質量を測定したときと同様に多孔質板を乾燥する。すなわち、乾燥器を用いて、大気中、50℃で約12時間、多孔質板を乾燥した後、真空乾燥器を用いて、50℃で約1時間、多孔質板を真空乾燥する。続いて、大気中、室温で12時間以上、多孔質板を静置した後、質量を測定し、これを多孔質板の質量とする。次に、多孔質板の外寸法を計測し、これから多孔質板の体積を求める。
【0053】
得られた多孔質板の質量(g)、多孔質板の体積(cm3)を用いて、式(1)から多孔質板の気孔率(%)を求める。ここで、ポリプロピレンの密度は、0.9(g/cm3)とする。
【0054】
気孔率=(体積-質量/密度)×100 ・・・(1)
【0055】
比較のため、多孔質板と同様に式(1)から珪藻土板の気孔率(%)を求める。ここで、珪藻土の密度は、2.2(g/cm3)とする。
【0056】
以上の方法により測定し、算出した多孔質板の気孔率を
図5の表3に示す。比較のため、珪藻土板の気孔率を表3に含める。多孔質板の気孔率は、PP130の場合は43%、PP460の場合は49%、PP700の場合は48%、PP1260の場合は36%であった。一方、珪藻土板の気孔率は60%である。
【0057】
(5)多孔質板の吸水量
多孔質板の吸水量は、次のように測定する。
【0058】
まず、質量を測定したときと同様に多孔質板を乾燥する。すなわち、乾燥器を用いて、大気中、50℃で約12時間、多孔質板を乾燥した後、真空乾燥器を用いて、50℃で約時間、多孔質板を真空乾燥する。続いて、大気中、室温で12時間以上、多孔質板を静置した後、質量を測定し、これを多孔質板の質量とする。次に、多孔質板を水に浸漬させながら、真空乾燥器を用いて、室温で約1分間、多孔質板を真空脱気する。続いて、大気中、室温で約1分間、多孔質板を風乾した後、その質量を計測し、これを多孔質板の吸水後質量とする。
【0059】
得られた多孔質板の質量(g)、多孔質板の吸水後質量(g)を用いて、式(2)から多孔質板の吸水量(mL又はg)を求める。比較のため、多孔質板と同様に式(2)から珪藻土板の吸水量(mL又はg)を求める。
【0060】
吸水量 = 吸水後質量 - 質量 ・・・(2)
【0061】
以上の方法により測定し、算出した多孔質板の吸水量を
図6の表4に示す。比較のため、珪藻土板の吸水量を表4に含める。多孔質板の吸水量は、PP130の場合は38mL、PP460の場合は13mL、PP700の場合は10mL、PP1260の場合は6mLである。多孔質板の吸水量は、多孔質板の平均気孔径が小さくなるほど、多くなる傾向がみられる。一方、珪藻土板の吸水量は48mLである。
【0062】
表4を参照すると、多孔質板は、珪藻土板と比較して吸水性が低いといえる。すなわち、凍結融解による多孔質板の劣化を抑制しやすくなるといえる。また、多孔質板のなかでもPP460、PP700及びPP1260は、特に吸水性が低く、凍結融解による多孔質板の劣化を抑制するのに好適な仕様といえる。
【0063】
(6)多孔質板の透水量
図7は、本実施の形態において透水量の計測に使用する透水量試験器20を示す模式図である。透水量試験器20は、イルリガートル21内の水200mLが多孔質板22の外表面積165mm
2当たりに浸透する時間を計測するものである。この透水量試験器20を用いて、多孔質板22の透水量は、次のように測定する。
【0064】
まず、試験の前処理として、多孔質板22を水に浸漬させながら、真空乾燥器を用いて、室温で1分間、多孔質板22を真空脱気する。透水量試験器20の底部のゴムロート23と多孔質板22の隙間からの漏水を防止するため、ゴムロート23の周囲に水漏れ防止材24を圧着させる。透水量試験器20のイルリガートル21の目盛り上で、水位が多孔質板22から300mmになる測定開始位置X1と、そこから水200mLを流下させた測定終了位置X2を確認する。内径が5mmのバルブ25は、出入口それぞれに内径が6mmのチューブ26が接続され、イルリガートル21とゴムロート23の間に設けられている。まず、バルブ25を全閉し、イルリガートル21の上端付近まで給水する。その後、バルブ25を全開し、イルリガートル21内の水位がX1からX2まで低下する時間を計測し、これを流下時間の測定値とする。
【0065】
得られた水200mLの流下時間(秒)を用いて、式(3)から15秒間あたりの透水量(mL/15秒)を算出し、これを多孔質板22の透水量とする。
【0066】
透水量=200×15/流下時間 ・・・(3)
【0067】
比較のため、多孔質板22と同様に、イルリガートル21内の水200mLが珪藻土板の外表面積165mm2当たりに浸透する時間を計測し、上記式(3)から珪藻土板の15秒間あたりの透水量(mL/15秒)を算出する。
【0068】
多孔質板の透水量を
図8の表5に示す。比較のため、珪藻土板の透水量を表6に含める。多孔質板の透水量は、多孔質板の気孔径が大きくなるほど、多くなる傾向がみられる。
【0069】
一般に、透水性舗装については、試験方法は異なるものの、歩道の場合で、透水量は300mL/15秒以上確保されていることが望ましいとされる。多孔質板についても、給水時に水はけを良くして、快適に歩行できるようにするには、これと同じ程度の透水量が確保されていることが望ましい。
【0070】
検討した多孔質板のなかでは、PP460、PP700、PP1260の場合では、これと同じ程度の透水量が確保されているため、給水時に快適な歩行が期待できる。一方、PP130の場合では、これと同じ程度の透水量が確保されていないため、給水時に快適な歩行が期待できない。また、珪藻土板の場合、イルリガートル21内の水200mLが珪藻土板の外表面積165mm2当たりに浸透する時間は、3600秒以上の時間を要したため、珪藻土板の透水量は、正確に算出できなかった。このため、表5には、珪藻土板の透水量を参考として~1mL/15秒と記した。
【0071】
このことから、珪藻土板と比較して、多孔質板は透水性が高いといえる。すなわち、給水時に水はけが悪化せず、快適に歩行しやすくなるといえる。
【0072】
(7)樹脂板の全光線透過率
本実施の形態における多孔質板は、樹脂製とするが、以下、樹脂材として適切となる樹脂について検討した結果を示す。
【0073】
検討した樹脂製の多孔質板(以下、「樹脂板」とも称する。いずれもアズワン製)は、サイズが縦約40mm×横約25mm×厚さ約2mm、材質がポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂のものを用いる。
【0074】
樹脂板の全光線透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所製UV-3600Plus)及び積分球装置(島津製作所製ISR-603)を用いて、波長域が380~2500nmにおける分光透過率を測定して求める。ここで、分光透過率測定では、試験体に光線を照射して透過する光線のうち、直進透過成分および散乱透過成分のすべてを含めた光線の透過率(全光線透過率)を求める。
【0075】
樹脂板の分光透過率の平均値を
図9の表6に示す。樹脂板の分光透過率の平均値は、6~62%であった。このことから、半透明な樹脂板は、日射光が内部まで到達するといえる。
【0076】
3.多孔質板の照射試験
3.1 照射試験方法
図10は、本実施の形態において照射試験に使用した照射試験装置30を示す模式図である。
図11は、照射試験での多孔質板およびモルタル板の設置方法を示す図であるが、そのうち、
図11Aは平面図であり、
図11Bは側面図である。
【0077】
照射試験では、ランプ31は、ビームランプ散光形(東芝ライテック製BRF110V120W、定格消費電力120W)を用いる。熱電対32は、リボン型K熱電対(太洋製RB-K-500-1-SMP)を用いる。データロガー33は、4チャンネルのもの(佐藤計量器製作所製SK-L400T)を用いる。
【0078】
屋根等は、モルタル板34で模擬する。モルタル板(ユーコウ商会製)34は、サイズが縦100mm×横100mm×厚さ20mmのものを用いる。このモルタル板34の側面と底面は、上面に凹加工を施した発泡スチロール製の断熱材(外寸200×200×70mm)35で被覆する。
【0079】
建物外装材は、多孔質板36と多孔質板36を収容する給水用容器37で模擬する。多孔質板(晃信工業製)36は、前述したように、材質がポリプロピレン、サイズが縦100mm×横100mm×厚さ10mmのものを用いる。ここで、多孔質板36の平均気孔径は、前述した133、458、696、1260μmの4種類とする。給水用容器(内製)37は、ポリプロピレンシート(厚さ約0.2mm)を容器(内寸102×102×20mm)に加工したものを用いる。給水用容器37は、モルタル板34の上に載置され、電子天秤38の上に載置される。
【0080】
照射試験は、次のように実施する。すなわち、まず、データロガー33付近の室温が約22~28℃になるように空調機器の設定温度を調節する。続いて、モルタル板34の表面中央に熱電対32aの一端を取り付け、アルミテープ39aで固定する。一方、熱電対32aの他端をデータロガー33に接続する。そして、断熱材35で被覆したモルタル板34を電子天秤38上に設置する。モルタル板34がランプ31の直下にくるように位置を調整する。また、モルタル板34からのランプ31の高さが500mmになるようにランプスタンド40を調整する。
【0081】
続いて、多孔質板36を用意し、表面中央と裏面中央にそれぞれ熱電対32b,32cの一端を取り付け、アルミテープ39b,39cで固定する。一方、熱電対32b,32cの他端をデータロガー33に接続する。
【0082】
続いて、給水用容器37をモルタル板34に載置した後、水15.0gを加える。そして、給水用容器37の中に多孔質板36を浸す。
【0083】
モルタル板34の表面温度、多孔質板36の表面温度および裏面温度、データロガー33付近の室温が約22~28℃の範囲にあることを確認してから、ランプ31による照射を開始する。ランプ照射中は、モルタル板34の表面温度、多孔質板36の表面温度および裏面温度、室温、給水分の残存質量を5秒間隔で記録し、これらを実測温度とする。ランプ照射の開始から5時間経過後にランプ照射を終了する。
【0084】
上記照射試験により得られる表面温度または裏面温度の実測値(℃)を用いて、式(4)から25.0℃からの室温の変動を考慮した表面温度または裏面温度の補正値(℃)を算出し、これを試験結果として用いる。
【0085】
補正値 =実測値+(25.0 - 室温の実測値) ・・・(4)
【0086】
また、給水分の蒸発量(g)は、給水分の供給量(15.0g)と給水分の残存量(g)との差分として、式(5)から求める。
【0087】
給水分の蒸発量 = 15.0 - 給水分の残存量 ・・・(5)
【0088】
3.2 照射試験結果(夏季の場合)
ここでは、夏季である場合を想定して多孔質板36に給水して照射試験を実施する。目的は、多孔質板36に給水する場合、夏季において建物がどのくらい冷却されるか調べるためである。なお、照射試験の方法は、上記3.1にて説明済みである。
【0089】
多孔質板36に給水する場合の照射試験結果を
図12の表7に示す。ここで、表面温度または裏面温度は、ランプ照射を終了する直前5分間の平均値を用いる。また、給水分の蒸発量は、ランプ照射を終了する直前1分間の平均値を用いる。
【0090】
まず、モルタル板34の表面温度を比較する。モルタル板34は、屋根等を模擬しているので、その表面温度は、夏季において建物が冷却されるかどうかという指標となる。
【0091】
基準として、多孔質板36無し、給水用容器37無しの場合、モルタル板34の表面温度は61℃となった。一方、多孔質板36有り、給水用容器37有り、給水分15.0gの場合、モルタル板34の表面温度は50~59℃となり、表7に示す基準(61℃)と比較して低下することがわかる。また、この場合、給水分の蒸発量は9.6~13.3gとなる。モルタル板34の表面温度が低下するのは、主に給水分の蒸発潜熱の効果と考えられる。
【0092】
なお、多孔質板36のなかでは、PP130とPP460の場合に、モルタル板34の表面温度は50℃で最も低くなった。このことから、多孔質板36のなかでPP130とPP460は、夏季において建物の温度上昇を抑制するのに好適といえる。
【0093】
その他、比較として、多孔質板36のかわりに前述した珪藻土板を用いる場合、モルタル板34の表面温度は43℃で、表7に示すように最も低くなった。このことから珪藻土板は、夏季においてヒートアイランド現象を緩和するのに好適といえる。ただし、珪藻土板を用いる場合、給水分の蒸発量は4.4gで、多孔質板36を用いる場合と比較して、給水分は効率よく蒸発していないといえる。
【0094】
次に、表層にある多孔質板36またはモルタル板34の表面温度を比較する。表層にある多孔質板36またはモルタル板34は、外気と接することを想定しているので、それらの表面温度はヒートアイランド現象が緩和されるかどうかという指標となる。
【0095】
基準として、多孔質板36無し、給水用容器37無しの場合、モルタル板34の表面温度は61℃である。一方、多孔質板36有り、給水用容器37有り、給水分15.0gの場合、多孔質板36の表面温度は50~55℃となり、基準(61℃)と比較して低下していることがわかる。また、この場合も、給水分の蒸発量は9.6~13.3gとなり、多孔質板36の表面温度が低下するのは、主に給水分の蒸発潜熱の効果と考えられる。
【0096】
なお、多孔質板36のなかでは、PP460の場合に、その表面温度は50℃で、最も低くなり、PP130の場合に、その表面温度は51℃で、次に低くなった。このことから、多孔質板36のなかで、PP130とPP460は、夏季においてヒートアイランド現象を緩和するのに好適といえる。
【0097】
その他、比較として、多孔質板36のかわりに前述した珪藻土板を用いる場合、珪藻土板の表面温度は43℃で、表7に示すように最も低くなった。このことから珪藻土板は、夏季においてヒートアイランド現象を緩和するのに好適といえる。ただし、前述したように、珪藻土板を用いる場合、給水分の蒸発量は4.4gで、多孔質板36を用いる場合と比較して、給水分は効率よく蒸発していないといえる。
【0098】
3.3 照射試験結果(冬季の場合)
続いて、冬季である場合を想定して多孔質板36に給水しないで照射試験を実施する。目的は、多孔質板36に給水しない場合、冬季において建物がどのくらい保温されるについて調べるためである。なお、照射試験の方法は、上記3.1にて説明済みである。
【0099】
多孔質板36に給水しない場合の照射試験結果を
図13の表8に示す。ここで、表面温度または裏面温度は、ランプ照射を終了する直前5分間の平均値を用いる。また、給水分の蒸発量は、ランプ照射を終了する直前1分間の平均値を用いる。この照射試験の条件は、夏季の場合と同じである。
【0100】
まず、モルタル板34の表面温度を比較する。モルタル板34は、屋根等を模擬しているので、その表面温度は、冬季において建物が保温されるかどうかという指標となる。
【0101】
基準として、多孔質板36無し、給水用容器37無しの場合、モルタル板34の表面温度は61℃となった。一方、多孔質板36有り、給水用容器37有り、給水分0.0gの場合、モルタル板34の表面温度は、多孔質板36がPP460、PP700、PP1260の場合に61~69℃となり、表8に示す基準(61℃)と比べて同等または上昇していることがわかる。反対に、PP130の場合には57℃となり、基準(61℃)と比べて低下している。このことから、多孔質板36のなかで、PP460、PP700、PP1260は、冬季において建物を保温するのに好適といえる。
【0102】
なお、比較として、多孔質板36のかわりに前述した珪藻土板を用いる場合、モルタル板34の表面温度は45℃となり、表8に示すように最も低くなった。このことから、珪藻土板は、冬季において建物を保温するのに不適といえる。
【0103】
3.4 まとめ
多孔質板の軽量性(軽さ)、非吸水性(吸水しにくさ)、透水性(透水しやすさ)、夏季において建物の温度上昇の抑制しやすさ、夏季においてヒートアイランド現象の緩和しやすさ、冬季において建物の保温しやすさについて、比較した結果を
図14の表9に示す。表9に示す比較結果を参照すると、多孔質板36のなかで、全般的に最も好適なのはPP460、次に好適なのはPP700という結果が得られる。
【0104】
なお、多孔質板36の物性値について、好適な範囲は、上記考察から次のように導き出せる。
【0105】
多孔質板36の気孔率について好適な範囲は、30~60%である。多孔質板の平均気孔径について好適な範囲は、300~1000μmである。多孔質板の質量について好適な範囲は、多孔質板の体積が100mL当たり40~60gである。多孔質板の吸水量について好適な範囲は、多孔質板の体積が100mL当たり20mL以下である。多孔質板の透水量ついて好適な範囲は、多孔質板の外表面積が165mm2当たり200mL/15秒以上である。多孔質板の厚さについて好適な範囲は、5~30mmである。多孔質を構成する樹脂の光線透過率について好適な範囲は、波長域が380~2500μmの分光透過率試験に厚さが2mmの樹脂平板を供したときの全光線透過率の平均値が5%以上である。
【0106】
[本願発明の構成]
構成1:
建物の上面に設置され、多孔質材料により形成される多孔質板と、
気温が所定の第1温度以上の高温になった場合に前記多孔質板に給水することにより前記多孔質板を保水状態にし、気温が所定の第2温度以下の低温になった場合に前記多孔質板に保水されている水が排水されるよう制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする断熱システム。
構成2:
前記建物の上面に載置され、前記多孔質板を中に収容する容器と、
前記容器に貯水されている水の水位を調整する調整機構と、
を備え、
前記制御手段は、
気温が前記第1温度以上のときには、前記多孔質板が浸水した状態になるよう前記調整機構を制御し、
気温が前記第2温度以下のときには、前記容器が空になるよう前記調整機構を制御する、
ことを特徴とする構成1に記載の断熱システム。
構成3:
前記調整機構は、
前記容器に給水する給水機と、
前記容器における水位を測定する水位計と、
前記容器の排水口を開閉する排水弁と、
を備えることを特徴とする構成2に記載の断熱システム。
構成4:
前記多孔質板は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合合成樹脂のうち、少なくとも1種以上の樹脂を含むことを特徴とする構成1から3のいずれか1つに記載の断熱システム。
【符号の説明】
【0107】
2 屋根または屋上、10 断熱システム、11,22,36 多孔質板、12 給水用容器、13 気温計、14 給水機、15 水位計、16 流量計、17 排水弁、18 コントローラ、20 透水量試験器、21 イルリガートル、23 ゴムロート、24 水漏れ防止材、25 バルブ、26 チューブ、30 照射試験装置、31 ランプ、32,32a,32b,32c 熱電対、33 データロガー、34 モルタル板、35 断熱材、37 給水用容器、38 電子天秤、39a,39b,39c アルミテープ、40 ランプスタンド。