IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人埼玉大学の特許一覧

特開2024-160738炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法
<>
  • 特開-炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法 図1
  • 特開-炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法 図2
  • 特開-炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法 図3
  • 特開-炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法 図4
  • 特開-炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法 図5
  • 特開-炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法 図6
  • 特開-炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法 図7
  • 特開-炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160738
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/04 20060101AFI20241108BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20241108BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20241108BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20241108BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20241108BHJP
   C01B 33/20 20060101ALI20241108BHJP
   C01G 25/00 20060101ALI20241108BHJP
   C01G 45/00 20060101ALI20241108BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B01J20/04 C ZAB
B01D53/04 110
B01D53/047
B01J20/28 Z
B01J20/34 E
B01J20/34 H
C01G23/00 B
C01B33/20
C01G25/00
C01G45/00
C01G49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023075983
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077573
【弁理士】
【氏名又は名称】細井 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 郁夫
【テーマコード(参考)】
4D012
4G002
4G047
4G048
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
4D012BA01
4D012CA03
4D012CB00
4D012CD07
4D012CD10
4D012CE03
4D012CF08
4D012CF10
4D012CG01
4G002AA01
4G002AB02
4G002AD04
4G002AE05
4G047CA06
4G047CB05
4G047CC03
4G047CD03
4G047CD07
4G048AA04
4G048AB02
4G048AC08
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
4G066AA13B
4G066AA23B
4G066BA38
4G066CA35
4G066DA01
4G066GA14
4G066GA16
4G066GA32
4G073BA04
4G073BA20
4G073BA63
4G073BA75
4G073BD21
4G073CD01
4G073FB37
4G073FB50
4G073FC09
4G073FD01
4G073FD21
4G073FD24
4G073GA01
4G073GA19
4G073UA06
(57)【要約】
【課題】
炭酸ガスの吸収率が良好であり、かつ400℃以下の低温で使用後の吸収材の再生を可能とする炭酸ガス吸収材、当該炭酸ガス吸収材を用いた炭酸ガス吸収方法および炭酸ガス吸収装置、並びに炭酸ガス吸収材の再生方法を提案する。
【解決手段】
炭酸ガス吸収材は、下記式(1)NaTiで表される複合金属酸化物(但し、式(1)中、5≦A≦11、4≦B≦6、0≦C≦2、10.5≦D≦17.5であり、Mは任意の金属である)を含有し、および/または、炭酸ガス吸収材は、ナトリウム、チタン、酸素を含む複合金属酸化物を含有し、複合金属酸化物は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θが、12.049°±0.5°および12.616°±0.5°にそれぞれピークを示し、かつ39.110°±0.5°から41.007°±0.5°までの範囲に1つまたは2つのピークを示す。上記炭酸ガス吸収材は、炭酸ガス吸収方法および炭酸ガス吸収装置に用いられ、また使用後の炭酸ガス吸収材を400℃以下の温度で加熱することにより再生される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される複合金属酸化物(但し、式(1)中、5≦A≦11、4≦B≦6、0≦C≦2、10.5≦D≦17.5であり、Mは任意の金属である)を含有することを特徴とする炭酸ガス吸収材。
[式1]
NaTi・・・・・(1)
【請求項2】
ナトリウム、チタン、酸素を含む複合金属酸化物を含有し、
前記複合金属酸化物は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、
回折角2θが、12.049°±0.5°および12.616°±0.5°の範囲それぞれにピークを示し、かつ39.110°±0.5°から41.007°±0.5°までの範囲に1つまたは2つのピークを示すことを特徴とする炭酸ガス吸収材。
【請求項3】
前記複合金属酸化物の空隙率が39.0%以上である請求項1または2に記載の炭酸ガス吸収材。
【請求項4】
前記複合金属酸化物がNaTi14を含む請求項1または2に記載の炭酸ガス吸収材。
【請求項5】
請求項1または2に記載の炭酸ガス吸収材を反応容器に収納する収納工程と、
前記反応容器に炭酸ガス含有気体を導入して当該炭酸ガス含有気体を前記複合金属酸化物と接触させて反応させる反応工程と、
前記反応工程を経た気体を前記反応容器から排出する排出工程と、を備える炭酸ガス吸収方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の炭酸ガス吸収材を収納する収納部と、
前記収納部に炭酸ガス含有気体を流入させる気体流入口と、
前記収納部から外部に気体を排出する気体排出口と
を備えることを特徴とする炭酸ガス吸収装置。
【請求項7】
請求項1または2に記載の炭酸ガス吸収材の再生方法であって、
炭酸ガス吸収反応後の反応生成物を、
空気または不活性ガスまたは真空下で400℃以下の温度で加熱することを特徴とする炭酸ガス吸収材再生方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合金属酸化物を用いた炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および炭酸ガス吸収材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、温室効果ガスの削減といった社会的課題を鑑み、炭酸ガス含有気体から炭酸ガスを回収する技術の実用化が提案されている。たとえば、アミン液体等の有機系吸収液を用いた炭酸ガスの吸収技術は、気体との反応性がよく、工場等で実用の例がある。しかし、アミン液体は人体への有害性等の問題がある上、液体であるため、容器等の閉鎖空間に充填されることが必須となり、使用態様が限定されるという問題があった。
また近年、過去に排出された大気中の二酸化炭素(炭酸ガス)の削減(ビヨンド・ゼロ)を可能とする革新的技術が求められているが、従来の炭酸ガス吸収材は大気中の濃度の希薄な炭酸ガスを効率よく吸収できるものではなかった。
【0003】
そこで本発明者は、無機系の吸収材の開発に取り組み、α-ナトリウムフェライト類を用いた炭酸ガス吸収材(以下、従来技術1ともいう)に関する技術を先に提案した(下記特許文献1)。ナトリウムフェライトは、安全性に優れるとともに炭酸ガスの吸収率が高い上、粉末として扱えるため種々の使用態様に適応することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-3156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、炭酸ガスを吸収したα-ナトリウムフェライト類を、再度、炭酸ガス吸収材として使用するためには、400℃超の高温加熱により再生反応を行う必要があり、熱効率の点で課題を有していた。
【0006】
本発明は上述する背景を鑑みなされたものであり、具体的には、炭酸ガスの吸収率が良好であり、かつ400℃以下の低温で使用後の炭酸ガス吸収材の再生を可能とする炭酸ガス吸収材、当該炭酸ガス吸収材を用いた炭酸ガス吸収方法および炭酸ガス吸収装置、並びに炭酸ガス吸収材の再生方法を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一の炭酸ガス吸収材は、下記式(1)で表される複合金属酸化物(但し、式(1)中、5≦A≦11、4≦B≦6、0≦C≦2、10.5≦D≦17.5であり、Mは任意の金属である)を含有することを特徴とする。
[式1]
NaTi・・・・・(1)
【0008】
本発明の第二の炭酸ガス吸収材は、ナトリウム、チタン、酸素を含む複合金属酸化物を含有し、上記複合金属酸化物は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θが、12.049°±0.5°および12.616°±0.5°の範囲それぞれにピークを示し、かつ39.110°±0.5°から41.007°±0.5°までの範囲に1つまたは2つのピークを示すことを特徴とする。
【0009】
本発明の炭酸ガス吸収方法は、本発明の炭酸ガス吸収材を反応容器に収納する収納工程と、上記反応容器に炭酸ガス含有気体を導入して当該炭酸ガス含有気体を上記複合金属酸化物と接触させて反応させる反応工程と、上記反応工程を経た気体を上記反応容器から排出する排出工程と、を備える。
【0010】
本発明の炭酸ガス吸収装置は、本発明の炭酸ガス吸収材を収納する収納部と、上記収納部に炭酸ガス含有気体を流入させる気体流入口と、上記収納部から外部に気体を排出する気体排出口とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の炭酸ガス吸収材の再生方法は、炭酸ガス吸収反応後の上記炭酸ガス吸収材である反応生成物を、空気または不活性ガスまたは真空下で400℃以下の温度で加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の炭酸ガス吸収材は、ナトリウムフェライトを用いた炭酸ガス吸収材と同等またはそれを上回る炭酸ガス吸収能を示し、かつ炭酸ガス吸収後、400℃以下の低温で再生可能である。したがって、本発明の炭酸ガス吸収材は、良好な熱効率でリサイクル可能であり、炭酸ガスの吸収からリサイクルまでの一連の流れにおいて環境問題に対する貢献度が高い。
また、本発明の炭酸ガス吸収方法および炭酸ガス吸収装置は、本発明の炭酸ガス吸収材の効果を享受する。たとえば、本発明の炭酸ガス吸収方法および炭酸ガス吸収装置は、室温から比較的低温の温度範囲で炭酸ガスを吸収することが可能である。
また本発明の炭酸ガス吸収材の再生方法は、従来のナトリウムフェライトを含む炭酸ガス吸収材に比べ、低温で使用後の炭酸ガス吸収材を再生することができ、熱効率に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(1A)は、炭酸ガス吸収反応時における、本発明の炭酸ガス吸収材の一態様(NaTi14)および同様の組成であり組成比の異なる比較例であるナトリウムチタネート(NaTi12)の熱重量測定(TG)による、室温での重量増加率を示すグラフであり、(1B)は、(1A)に示す反応により吸収された炭酸ガスと水分の量を示すグラフである。
図2】NaTi14のCuKα線を用いた粉末X線回折パターンを示す基礎データである。
図3】NaTi14の製造方法の一例を示す工程図である。
図4】本発明の炭酸ガス吸収装置の一実施形態を示す説明図である。
図5】炭酸ガス吸収前の実施例1~実施例5のCuKα線を用いた粉末X線回折パターンを示すチャートである。
図6】炭酸ガス吸収後の実施例1~実施例5のCuKα線を用いた粉末X線回折パターンを示すチャートである。
図7】再生後の実施例1-1のCuKα線を用いた粉末X線回折パターンを示すチャートである。
図8】炭酸ガス吸収後の実施例1-1の再生反応時における示差熱・熱重量同時測定(TG-DTA)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の第一の炭酸ガス吸収材、第二の炭酸ガス吸収材、炭酸ガス吸収方法、炭酸ガス吸収装置、および使用済みの炭酸ガス吸収材の再生方法について順に説明する。尚、以下の説明において、本発明の第一の炭酸ガス吸収材および第二の炭酸ガス吸収材を総称して本発明の炭酸ガス吸収材と呼ぶ場合がある。本発明は、第一の炭酸ガス吸収材における複合金属酸化物の特徴および第二の炭酸ガス吸収材における複合金属酸化物の特徴を兼ね揃える複合金属酸化物を含む炭酸ガス吸収材を包含する。
また本発明に関し、炭酸ガスを吸収するとは、反応に供される気体に含まれる炭酸ガスの少なくとも一部を炭酸ガス吸収材が吸収し、反応後の当該気体における炭酸ガスの濃度を低下させることを意味する。また本発明に関し、炭酸ガス吸収反応に用いられた使用済みの炭酸ガス吸収材を反応生成物と呼ぶ場合がある。
【0015】
[第一の炭酸ガス吸収材]
本発明の第一の炭酸ガス吸収材は、下記式(1)で表される複合金属酸化物を含有する。但し、式(1)中、Mは任意の金属であり、またナトリウムの原子数は5≦A≦11、チタンの原子数は4≦B≦6、任意の金属Mの原子数は0≦C≦2、酸素の原子数は10.5≦D≦17.5である。
[式2]
NaTi・・・・・(1)
【0016】
式(1)で表される複合金属酸化物は、炭酸ガス吸収能の高いナトリウムチタネートとして本発明者により見いだされた。たとえば、図1Aに示すように、空気との接触反応による室温での重量増加率は、本発明の複合金属酸化物の一種であるNaTi14が、同様の組成であり組成比の異なる他の複合金属酸化物であるNaTi12に比べ顕著に高い。そして、図1Bに示すように、上記接触反応において空気との接触開始より18時間後における試料(複合金属酸化物)1g中のCOおよびHOの吸収量を確認したところ、NaTi14は、NaTi12に比べてCOを多量に吸収しており、また吸収されたCOおよびHOの総和においてCOの割合が50%を超えていることが確認される。即ち、上記式(1)に示される複合金属酸化物は、他のナトリウムチタネートと比べて著しく炭酸ガス吸収能が高い。尚、図1に示す炭酸ガスの吸収反応の詳細は後述する実施例において説明する。
【0017】
より炭酸ガスの吸収能が高い複合金属酸化物を提供するという観点から、上記式(1)におけるナトリウム原子の量Aは、6≦A≦10であることが好ましく、7≦A≦9であることがより好ましい。また同様の観点から、上記式(1)における組成比率は、A=8、4.5≦B≦5.5、0≦C≦1、Dは、式(1)おいて電荷が±0となる値であることが好ましく、A=8、4.5≦B≦5.0、0≦C≦0.5、Dは、式(1)において電荷が±0となる値であることがより好ましい。
また同様の観点から、上記式(1)におけるCが0を超えて1以下である場合、MはSi、Zr、Mn、Fe等であることが好ましく、中でも4価の正の電荷を示すSi、Zr、Mn等がより好ましい。式(1)において、C=0であり、NaTi14であることが特に好ましい。
【0018】
本発明の第一の炭酸ガス吸収材の好ましい例としては、たとえば、NaTi14、NaTi4.75Si0.2514、NaTi4.75Zr0.2514、NaTi4.75Mn0.2514、NaTi4.75Fe0.2514が挙げられ、より好ましい例としてNaTi14、NaTi4.75Si0.2514、NaTi4.75Zr0.2514、NaTi4.75Mn0.2514、が挙げられ、中でもNaTi14は、特に高い炭酸ガス吸収能を示すため好ましい。
【0019】
[第二の炭酸ガス吸収材]
本発明の第二の炭酸ガス吸収材は、上述する第一の炭酸ガス吸収材と同様に炭酸ガス吸収能の高いナトリウムチタネートに関する。第二の炭酸ガス吸収材は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θの所定範囲において現れる大ピークにより特定される。
即ち、本発明の第二の炭酸ガス吸収材は、ナトリウム、チタン、酸素を含む複合金属酸化物を含有し、当該複合金属酸化物が、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θが、12.049°±0.5°および12.616°±0.5°の範囲それぞれにピークを示し、かつ39.110°±0.5°から41.007°±0.5°までの範囲に1つまたは2つのピークを示す。
より炭酸ガス吸収能の高い炭酸ガス吸収材を提供するという観点からは、本発明の第二の炭酸ガス吸収材は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、回折角2θが、12.049°±0.5°および12.616°±0.5°の範囲それぞれにピークを示し、かつ39.110°±0.5°および41.007°±0.5°の範囲それぞれに1つずつピークを示す複合金属酸化物を含有することが好ましい。
【0020】
第二の炭酸ガス吸収材を説明するために、NaTi14のCuKα線を用いた粉末X線回折パターンの基礎データを図2に示す。NaTi14は、図2に示すとおり、回折角2θが、12.049°、12.616°、39.110°および41.007°において大ピークを示す。本発明の第二の炭酸ガス吸収材は、ナトリウム、チタン、酸素に加え、さらに任意の金属が上記チタンの一部と置換された組成の複合金属酸化物を含み、当該複合金属酸化物のCuKα線を用いた粉末X線回折パターンは、図2に示す4つの大ピークと概ね同様のパターンを示す。ここで概ね同様のパターンとは、図2に示される4つの大ピークの回折角2θから±0.5°程度ずれて検出される大ピークを有するパターンおよび図2における4つの大ピークのうち、回折角2θが39.110°±0.5°から41.007°±0.5°までの範囲において1つまたは2つの大ピークを示すパターンを包含することをいう。
【0021】
本発明の第一の炭酸ガス吸収材および第二の炭酸ガス吸収材は、いずれも所定の条件を満たす複合金属酸化物であるナトリウムチタネートを含み、炭酸ガスの吸収性に優れる。本発明の炭酸ガス吸収材は、炭酸ガスの濃度の高い気体から炭酸ガスを吸収することができるだけでなく、炭酸ガスの濃度の低い気体からも充分に炭酸ガスを吸収することができる。より具体的には、本発明の炭酸ガス吸収材は、炭酸ガスの割合が10%超100%以下の気体から炭酸ガスを吸収することが可能であるだけでなく、炭酸ガスの割合が10%以下の気体から炭酸ガスを吸収することが可能であり、さらに炭酸ガスの割合が1%以下の気体から炭酸ガスを吸収することが可能であり、よりさらには炭酸ガスの割合が0.04%程度である空気からも良好に炭酸ガスを吸収することができる。
本発明の炭酸ガス吸収材が、低濃度の炭酸ガスの吸収能に優れる理由は明らかではないが、本発明の炭酸ガス吸収材に含有される複合金属酸化物は、ナトリウム原子を多く含み、その結果、空気等の炭酸ガスの濃度が低いガスからも効率よく炭酸ガスを吸収しうると推察される。
【0022】
また本発明の第一の炭酸ガス吸収材および第二の炭酸ガス吸収材は、炭酸ガスの吸収反応後、ナトリウムフェライトを用いた従来の炭酸ガス吸収材に比べ、低温で再生可能であるという有利な性質を備える。
より具体的には、たとえば、400℃以下の低温で、炭酸ガス吸収後の本発明の炭酸ガス吸収材から、吸収した炭酸ガスを脱離させ、炭酸ガス吸収材として再利用可能な程度に再生可能である。再生時の温度の下限は特に限定されないが、速やかに再生可能という観点からは200℃以上であることが好ましい。そのため、本発明の炭酸ガス吸収材は、リサイクルのための熱効率がよい。使用済みの複合金属酸化物の再生の確認は、再生反応後の試料を用いて再度炭酸ガスの吸収反応を行って確認することもできるし、あるいは、再生反応後の試料のCuKα線を用いた粉末X線回折パターンを確認し、上述する第二の本発明の特徴を確認することで行うことができる。
【0023】
ところで現在、工場において発生する中温域超(400℃超)の排熱は用途が確立されている。一方、中温域以下(400℃以下、さらには350℃以下)の排熱は用途が確立されておらず、有効な用途の提案が求められている。そのため、本発明の炭酸ガス吸収材の再生反応に工場から排出される排ガス等の排熱を熱源として使用することは、エネルギーのリサイクルの観点で望ましく、また工場からの中温域以下あるいはさらに低温域の排熱の新たな用途を提案する。
【0024】
尚、本発明の炭酸ガス吸収材が従来よりも低温で再生可能である理由は明らかではないが、本発明の炭酸ガス吸収材は、炭酸ガスとともに吸収される水分の量が、従来の炭酸ガス吸収材であるナトリウムフェライトよりも少ない傾向にある。そのため、吸収した炭酸ガスを炭酸ガス吸収材から分離させる際、同時に発生する水の蒸発に要するエネルギーが少なくて済むことが低温再生を可能とする一因と推測される。
【0025】
以下に本発明の第一の炭酸ガス吸収材および第二の炭酸ガス吸収材における複合金属酸化物に関し共通する事項についてさらに説明する。本発明の炭酸ガス吸収材は、上述する第一の炭酸ガス吸収材における複合金属酸化物および/または第二の炭酸ガス吸収材における複合金属酸化物を含むが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲においてさらに任意の成分を含んでよく、あるいは、本発明の炭酸ガス吸収材は実質的に上述する複合金属酸化物のみから構成されてもよい。
尚、本明細書において、適宜、本発明の好ましい数値範囲を示す場合がある。この場合に、数値範囲の上限および下限に関する好ましい範囲、より好ましい範囲、特に好ましい範囲は、上限および下限の全ての組み合わせから決定することができる。
【0026】
(複合金属酸化物の空隙率)
本発明に用いられる複合金属酸化物の空隙率は特に限定されないが、炭酸ガスの吸収がより良好な炭酸ガス吸収材を提供するという観点から、上記空隙率は、39.0%以上であることが好ましく、39.1%以上であることがより好ましく、39.2%以上であることがさらに好ましく、39.3%以上であることがよりさらに好ましい。一方、上記空隙率の上限は41.5%以下であることが好ましく、41.0%以下であることがより好ましい。
組成中のナトリウム原子の量が多く、かつ上述するとおり空隙率が適度に高く化合物の単位格子が疎の構造である複合金属酸化物は、低濃度の炭酸ガスを含む気体から当該炭酸ガスを良好に吸収しやすく、また低温での再生が良好に実現されるものと推察される。ここでいう組成中のナトリウム原子の量が多いとは、具体的には上記式(1)に示すとおり、5≦A≦11を指し、より好ましくは6≦A≦10であり、さらに好ましくは、7≦A≦9である。
【0027】
複合金属酸化物の空隙率は、以下の式(2)を用いて算出される。
[数1]
空隙率(%)=100-[(単位格子中に含まれる全イオンの球体積の和)/単位格子体積)×100]・・・・・(2)
ここでイオンの球体積とは、各原子の原子球が変形しない球と仮定して、原子球の半径により算出される球の体積を指す。
【0028】
(複合金属酸化物の形態)
本発明に用いられる複合金属酸化物の形状は特に限定されず、たとえば粉体でもよいし、バインダで固めた多孔質体でもよい。粉体である複合金属酸化物は、気体と接触する総面積が大きくなるため、炭酸ガスの吸収速度を速くするという観点から好ましい。また、多孔質体である複合金属酸化物は、取扱い性に優れる点で好ましい。複合金属酸化物を多孔質体に成形する方法としては、たとえば、造粒や押出方法が挙げられるがこれらに限定されない。上記多孔質体は、たとえば平均粒径0.1mm~10.0mm程度に調整されるとよく、その形状は、顆粒状、円柱状、円盤状、ハニカム状等の種々の形状を採用することができる。
【0029】
複合金属酸化物を上述する多孔質体に成形する場合には、粉体状の複合金属酸化物を結合させるためのバインダ材料(結合材)を用いることができる。バインダ材料は、無機質の材料、有機質の材料のいずれを用いることもできる。上記無機質の材料としては、粘土、鉱物、石灰乳等が挙げられる。また上記有機質の材料としては、澱粉、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、パラフィン等が挙げられる。
【0030】
(複合金属酸化物の製造方法)
本発明に用いられる複合金属酸化物の製造方法は、特に限定されるものではなく、一般的な複合金属酸化物の製造方法に準拠することができる。
図3を用いて本発明に用いられる複合金属酸化物の製造方法の一例を説明する。具体的には図3ではNaTi14の製造方法の工程を示している。
まず炭酸ナトリウムと二酸化チタンとを配合して配合物を得る。この配合割合は、最終的に得られる複合金属酸化物におけるナトリウムとチタンの組成比率と同様となるよう調整される。次に、上記配合物にイオン交換水を注ぎ、ついで超音波撹拌装置により1時間撹拌する。攪拌後、配合物を80℃で加温し、目視で容器や配合物中に水分の存在が認められない状態となるまで蒸発乾固させ、さらに120℃に調整された恒温槽で一晩乾燥させる。得られた乾燥物を、メノウ乳鉢を用いて30分間、粉砕混合して混合粉末を得る。上記混合粉末を管状炉に入れ、空気流通下において700℃で5時間加熱し、次いでアルゴンガス流通下において、自然放冷にて100℃以下まで降温させることで、粉末状のNaTi14が得られる。
【0031】
NaTi14のチタンの一部が他の金属(上記式(1)におけるM)に置換された複合金属酸化物を製造する場合には、炭酸ナトリウム、二酸化チタンおよび金属Mを配合して配合物を得る。この配合割合は、上述と同様に、最終的に得られる複合金属酸化物におけるナトリウムとチタンと金属Mとの組成比率と同様となるよう調整される。このようにして得られた配合物を用い、上述する製造方法と同様の方法で式(1)に示されるNaTiを製造することができる。
【0032】
[炭酸ガス吸収方法]
上述する本発明の炭酸ガス吸収材は、炭酸ガスを含む気体と接触することによって反応し、当該気体中の炭酸ガスを吸収する。以下に、本発明の炭酸ガス吸収材を用いた炭酸ガスの吸収方法の好ましい一例として、本発明の炭酸ガス吸収方法について説明する。
【0033】
本発明の炭酸ガス吸収方法は、本発明の炭酸ガス吸収材を反応容器に収納する収納工程と、上記反応容器に炭酸ガス含有気体を導入して当該炭酸ガス含有気体を上記複合金属酸化物と接触させて反応させる反応工程と、上記反応工程を経た気体を上記反応容器から排出する排出工程と、を備える。
かかる本発明の炭酸ガス吸収方法は、非常に簡易な方法で炭酸ガスを吸収することができ、反応前よりも炭酸ガス濃度の低くなった気体を排出することができる。また本発明の炭酸ガス吸収方法は、排出工程から排出された、炭酸ガス濃度の低くなった気体を回収する回収工程をさらに備えてもよい。
【0034】
本発明の炭酸ガス吸収方法は、上述する本発明の炭酸ガス吸収材の効果を享受する。したがって、炭酸ガスの濃度の高い気体から炭酸ガスを吸収することができるだけでなく、炭酸ガスの濃度の低い気体からも充分に炭酸ガスを吸収することができる。
たとえば本発明の炭酸ガス吸収方法において、上記反応工程において反応容器に導入される炭酸ガス含有気体の炭酸ガス濃度は、10%以下であってもよく、1%以下であってもよく、0.1%以下であってもよく、0.05%以下であってもよい。
【0035】
本発明の炭酸ガス吸収方法は、上記反応工程を、高温で実施することもでき、また室温程度で実施することができる。より具体的には、上記反応工程の温度環境は、より良好に炭酸ガスを吸収するという観点からは、5℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましい。また、良好な熱効率を示すという観点からは250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、100℃以下であることがさらに好ましく、50℃以下であることが特に好ましい。
たとえば室温の空気をそのまま反応工程に供し、当該空気から炭酸ガスを吸収することができる。あるいは工場から排出される比較的温度の高い排ガスをそのまま反応工程に供してもよい。また、反応工程において炭酸ガス吸収材と反応させる炭酸ガス含有気体を予め所定の温度に昇温させるための加熱工程を、上記反応工程の前、または反応工程において実施してもよい。
【0036】
反応工程における雰囲気ガスは、特に限定されないが、たとえば空気であってもよいし、窒素やアルゴン等の不活性ガスであってもよい。
【0037】
本発明の炭酸ガス吸収材の炭酸ガスの吸収率は、反応に供される炭酸ガス含有気体の湿度を高めることで向上しうる。そのため、反応工程に供される炭酸ガス含有気体の湿度を高めるための「湿度調整工程」を反応工程の前に実施してもよい。湿度調整工程は、炭酸ガス含有気体の湿度を高めることができる範囲で適宜に実施しうるが、たとえば、導入される炭酸ガス含有気体の湿度よりも相対的に高い湿度の環境を準備し、当該環境下に炭酸ガス含有気体を通過させることで実施することができる。より具体的には、たとえば炭酸ガス含有気体の流路に水槽を設置して水中に炭酸ガス含有気体を通過させ、または水面に炭酸ガス含有気体を接触させる等の方法が挙げられるが、これに限定されない。
炭酸ガスの吸収率を高めるという観点から、反応工程に供される炭酸ガス含有気体の湿度は、相対湿度(RH)18%以上であることが好ましく、相対湿度(RH)40%以上であることがより好ましく、相対湿度(RH)60%以上であることがさらに好ましく、相対湿度(RH)70%以上であることがよりさらに好ましい。
【0038】
反応工程を通過する炭酸ガス含有気体の流速や圧力は特に限定されない。たとえば、流速は、50ml/分~200ml/分程度に調整することができる。また、圧力は、0.1MPa以上にも、0.1MPa以下にも調整することができる。反応容器に導入された炭酸ガス含有気体は、連続的に当該反応容器から排出されてもよいし、反応容器内に所定時間貯留された後に排出されてもよい。
【0039】
[炭酸ガス吸収装置]
次に本発明の炭酸ガス吸収装置について説明する。図4に、本発明の一実施形態である炭酸ガス吸収装置100を示す。尚、炭酸ガス吸収装置100の説明において、上流側および下流側とは、装置におけるガスの流れに関し、任意の位置よりもガスの流れの上流側と下流側を意味する。
炭酸ガス吸収装置100は、上述する本発明の炭酸ガス吸収材20を収納する収納部10と、収納部10に炭酸ガス含有気体を流入させる気体流入口30と、収納部10から外部に気体を排出する気体排出口40とを備える。本実施形態では、気体流入口30と気体排出口40は、管状の収納部10の両端に設けられている。
炭酸ガス吸収装置100は、本発明の炭酸ガス吸収材の効果を享受し、良好に炭酸ガスを吸収し、炭酸ガス濃度の低減した気体を排出することができる。図示省略するが、気体排出口40の下流側に、排出された気体を回収する回収部を設けてもよい。
【0040】
本実施形態では、収納部10に導入される炭酸ガス含有気体は、炭酸ガス濃度の低い空気を例に示しているが、本発明はこれに限定されず炭酸ガス濃度の高い炭酸ガス含有気体を収納部10に導入し、収納部10に収納された炭酸ガス吸収材20に炭酸ガスを吸収させることができる。
【0041】
本実施形態にかかる炭酸ガス吸収装置100は、気体流入口30より上流側に湿度調整部50が設けられている。湿度調整部50は、収納部10に導入される炭酸ガス含有気体の相対湿度を高めるための手段であり、炭酸ガス含有気体の相対湿度を高めることができる範囲においてその構成は特に限定されない。図4に示す本実施形態における湿度調整部50は、水面58下に炭酸ガス含有気体を通すか、水面58に炭酸ガス含有気体を接触させて当該炭酸ガス含有気体の湿度を高める。
より具体的には、本実施形態における容器52には、外部の気体を容器52に内に導入するための第一流入路32と、容器52内の気体を収納部10に流入させるための第二流入路34が設けられている。第一流入路32により容器52に流入した気体は容器52内部に設けられた導入管54を通過して導入管54の下流側開口321より排出される。排出された気体は、水と接触した後、容器52内に設けられた排出管56を通じて外部に導入され、これに連続する第二流入路34を通じで収納部10に導入される。このとき炭酸ガス含有気体の湿度の調整は、たとえば、導入管54の下流側開口321と水面58との距離を調整することによって実施することができる。つまり、水面58下に下流側開口321がある場合には、炭酸ガス含有気体が水中を通過するため、当該炭酸ガス含有気体の湿度を充分に高くすることができる。また水面58より上側に下流側開口321を配置することによって、炭酸ガス含有気体の湿度の上昇を相対的に小さく抑えることができる。
また容器52を通過する炭酸ガス含有気体の流速を調整することによっても湿度の調整を行うことができる。
【0042】
尚、図示省略するが、炭酸ガス吸収装置100は、収納部10の上流側または収納部10において、加熱手段を設け、室温よりも高温の温度環境下で、炭酸ガス含有気体と炭酸ガス吸収材20とを反応させてもよい。また、収納部10の外部に準備した加熱手段により、収納部10を加熱して、炭酸ガス含有気体と炭酸ガス吸収材20とを反応させてもよい。また、収納部10の内部の空間に対して全体的に、炭酸ガス吸収材20を充填してもよい。
【0043】
[炭酸ガス吸収材再生方法]
本発明の炭酸ガス吸収材は、加熱することによって吸収した炭酸ガスを脱離させ、再度炭酸ガスを吸収可能な状態に再生することができる。
かかる再生方法の好適な一例として、炭酸ガス吸収反応後の反応生成物(使用済み炭酸ガス吸収材)を、空気または不活性ガス存在下で400℃以下の温度で加熱する本発明の炭酸ガス吸収材再生方法が挙げられる。
本発明の炭酸ガス吸収材再生方法は、従来のナトリウムフェライトの再生温度に比べて有意に低い温度で使用済み炭酸ガス吸収材を再生することができ熱効率が良い。
【0044】
本発明の炭酸ガス吸収材再生方法において、低温で炭酸ガス吸収材を再生可能である理由は明らかではないが、以下の要因が考えられる。第一の要因として、本発明に用いられる複合金属酸化物は、ナトリウムの組成比が大きく、単位格子中の空隙率が大きい傾向にあること、第二の要因として、従来の使用済みのナトリウムフェライトにおける酸化鉄の反応性に比べて、使用済みの本発明の炭酸ガス吸収材におけるチタン化合物の反応性が高いこと、第三の要因として、本発明に用いられる複合金属酸化物は、吸収反応時において炭酸ガスと同時に吸収する水分量がナトリウムフェライトよりも少ないため、再生反応時において炭酸ガスおよび水分を脱離させる際に投入されるエネルギー(熱量)が少なくて済むこと等が挙げられる。
【0045】
本発明の炭酸ガス吸収材再生方法における加熱温度は、経済性の観点から350℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましく、270℃以下であることがさらに好ましい。また速やかに再生可能であるという観点から上記加熱温度の下限は200℃以上であることが好ましく、220℃以上であることがより好ましく、230℃以上であることがさらに好ましい。
【0046】
本発明の炭酸ガス吸収材再生方法は、たとえば、空気またはアルゴンや窒素等の不活性ガスが充填された容器内に使用済みの炭酸ガス吸収材を入れ、上述する範囲の温度で加熱を12時間から24時間程度実施するとよい。これによって使用済みの炭酸ガス吸収材(特には複合金属酸化物)から炭酸ガス及び水分が脱離され、再使用可能な炭酸ガス吸収材が得られる。またこのとき脱離された炭酸ガスは、回収して工業利用等に提供されてもよい。
【実施例0047】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明する。表1に、各実施例および各比較例の炭酸ガス吸収材製造条件を示す。尚、本発明は、後述する実施例により限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
炭酸ナトリウム(NaCO)と二酸化チタン(TiO)を用い、モル比Na:Ti=8:5となるよう調整し混合粉末を得た。上記混合粉末にイオン交換水100mlを加え、超音波撹拌機により1時間撹拌し、その後、ホットスターラー上にて蒸発乾固し、乾燥した混合粉末を120℃の恒温槽に入れ一晩乾燥した。恒温槽から取り出した混合粉末をメノウ乳鉢で30分間粉砕混合し、これにより得られた粉砕混合物を、管状炉において空気流通下、700℃5時間の条件で加熱し、加熱終了後、室温まで降温させる際、アルゴンガスを流通させ、これによってNaTi14を得て、これを実施例1とした。
【0049】
[実施例2~5、比較例1]
表1に示す炭酸ガス吸収材製造条件に変更したこと以外は、上述する実施例1と同様の方法で、実施例2~5および比較例1を製造した。
【0050】
[比較例2]
硝酸ナトリウム(NaNO)と酸化鉄(Fe23)を用い、モル比Na:Fe=1:1となるよう調整し混合粉末を得た。上記混合粉末にイオン交換水100mlを加え、超音波撹拌機により1時間撹拌し、その後、ホットスターラー上にて蒸発乾固し、乾燥した混合粉末を120℃の恒温槽に入れ一晩乾燥した。恒温槽から取り出した混合粉末をメノウ乳鉢で30分間粉砕混合し、これにより得られた粉砕混合物を、管状炉において空気流通下、800℃15時間の条件で加熱し、加熱終了後、室温まで降温させる際、アルゴンガスを流通させ、これによってβ-NaFeOを得て、これを比較例2とした。
【0051】
[比較例3]
硝酸ナトリウム(NaNO)と硝酸マンガン(Mn(NO) 2)を用い、モル比Na:Mn=0.70:1となるよう調整し混合粉末を得た。上記混合粉末にイオン交換水100mlを加え、超音波撹拌機により1時間撹拌し、その後、ホットスターラー上にて蒸発乾固し、乾燥した混合粉末を120℃の恒温槽に入れ一晩乾燥した。恒温槽から取り出した混合粉末をメノウ乳鉢で30分間粉砕混合し、これにより得られた粉砕混合物を、管状炉において空気流通下、650℃3時間の条件で加熱し、加熱終了後、室温まで降温させる際、アルゴンガスを流通させ、これによってNa0.7MnO2.05を得て、これを比較例3とした。
【0052】
[炭酸ガス吸収反応]
上述の通り得た実施例1の炭酸ガス吸収材の炭酸ガス吸収反応について、図4に示す炭酸ガス吸収装置(100)を用いて以下のとおり確認した。尚、炭酸ガス吸収反応の反応条件は表2に示す。
具体的には、まず容積約0.2Lの管状炉(収容部(10))に実施例1の炭酸ガス吸収材(20)を100mgセットするとともに、湿度調整部(50)における容積200mlの三角フラスコ(容器(50))に水を1ml充填した。そして、環境温度25℃において、第一流入路(32(30))から100ml/分の流速で空気を容器(50)内に流入させ、導入管(54)の下流側開口(321)から当該容器(50)内に空気を排出した。そして容器(50)内において空気と水とを接触させた後、湿度が高まった空気を排出管(56)より排出させ容器(50)と管状炉(収容部(10))とを繋ぐ第二流路(34)から管状炉(収容部(10))に導入した。管状炉(収容部(10))内に流入した空気は、炭酸ガス吸収材(20)と接触後、気体排出口(40)から外部に排出された。上述する一連の工程を18時間連続して実施した。
【0053】
尚、管状炉(収容部(10))に流入する空気の湿度を調整するために、導入管(54)の下流側開口(321)と水面(58)との距離を調整した。具体的には、実施例1-1は、空気が水中を通過するよう下流側開口(321)を水面(58)下に配置することで、高い湿度(湿度(RH)77%)となるよう調整された。また実施例1-2は、下流側開口(321)を水面(18)上に近接させた状態で空気を流通させることで、湿度(RH)67%に調整された。また実施例1-3は、下流側開口(321)を実施例1-2の場合より水面(58)上から離間させた状態で空気を流通させることで、湿度(RH)41%に調整された。
【0054】
[反応後の炭素吸収材の分析]
以上のとおり、一連の工程を終了した後、管状炉内の使用済みの炭酸ガス吸収材(反応生成物)1mgを用いて、元素分析を行い、試料100質量%における炭素(C)の含有量(質量%)および水素(H)の含有量(質量%)を確認し表1に示した。尚、上記元素分析は、Thermo Scientific社製の元素分析装置(商品名FlashSmart)を用いて実施した。
またかかる元素分析によって確認された炭素および水素の含有量(質量%)と、管状炉内にセットされた炭酸ガス吸収材の量とから、実際に吸収された二酸化炭素の量および水分量を算出し、表2に示した。
【0055】
上述のとおり得られた実施例2~5および比較例1~3を用い、表2に示す炭酸ガス吸収反応条件に変更すること以外は、実施例1と同様に炭酸ガスの吸収反応を実施した。
尚、実施例2~5および比較例1~3についても、実施例1-1~実施例1-3と同様に、水面(58)に対し導入管(54)の下流側開口(321)の位置を調整することで湿度の調整を行った。比較例2については、比較例2-1として湿度(RH)76%の空気で炭酸ガス吸収反応を実施し、また比較例2-2として湿度(RH)39%の空気で炭酸ガス吸収反応を実施した。
また吸収反応後の反応生成物である実施例2~5および比較例1、比較例2-1、比較例2-2、比較例3について、実施例1と同様に反応生成物における二酸化炭素と水分の分析を行った。分析結果は、表2に示した。
【0056】
[結晶密度、格子体積、空隙率の確認]
上述する実施例1および比較例1について、CuKα線を用いた粉末X線回折により、結晶密度(g/cm)、単位格子体積(Å)を求めた。また上述のとおり得た単位格子体積(Å)を用い、下式(2)により空隙率(%)を算出した。上述のとおり求めた結晶密度、単位格子体積、空隙率はいずれも表3に示す。
[数2]
空隙率(%)=100-[(単位格子中に含まれる全イオンの球体積の和)/単位格子体積)×100]・・・・・(2)
ここでイオンの球体積とは、各原子の原子球が変形しない球と仮定して、原子球の半径により算出される球の体積を指す。
【0057】
[X線回折]
上述のとおり得られた実施例1~実施例5について、CuKα線を用いた粉末X線回折を行い、XRDパターンの相違を確認した。結果を図5に示す。また、炭酸ガス吸収後の使用済み実施例1-1、実施例2~実施例5について、同様にXRDパターンの変化を確認した。結果は図6に示す。尚、図6には、確認のためNaCO・HOのCuKα線を用いた粉末X線回折パターンを示す基礎データを併記した。
【0058】
図5のXRDパターン変化により、実施例1~実施例5はいずれも、回折角2θが、12.049°±0.5°および12.616°±0.5°の範囲それぞれにピークを示し、かつ39.110°±0.5°から41.007°±0.5°までの範囲に1つまたは2つのピークを示すことが確認された。特に、実施例1~実施例4は、回折角2θが、12.049°±0.5°および12.616°±0.5°の範囲それぞれにピークを示し、かつ39.110°±0.5°および41.007°±0.5°の範囲それぞれにピークを示すことが確認された。
また、図6のXRDパターン変化により、炭酸ガス吸収反応後の実施例1-1~実施例5はいずれも、NaCO・HO特有のピークが認められ、炭酸ガス吸収反応により炭酸ガスが吸収されたことが確認された。
【0059】
[炭酸ガス吸収材の再生]
炭酸ガス吸収反応に用いられた、使用済みの実施例1-1を以下のとおり再生した。
実施例1-1の反応生成物10mgを試料とし、空気中にて、加熱式X線回折装置の試料室に、試料をセットした。そして、室温、50℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃それぞれの温度下にある当該装置の試料室にて、上記試料を5分間放置して再生反応を行い、再生物を得た。
【0060】
上述のとおりそれぞれの温度下で得られた再生物を試料とし、CuKα線を用いた粉末X線回折を行い、再生反応による結晶相の変化を確認した。粉末X線回折パターンは図7として示す。尚、図7には、確認のため、炭酸ガス吸収反応前の実施例1の粉末X線回折パターンを示す基礎データ、並びにNaCO・HOおよびNaCOそれぞれの粉末X線回折パターンを示す基礎データを併せて示した。
図7に示す枠60および枠62において確認されるとおり、再生温度が200℃、250℃、300℃であった再生反応では、NaTi14に特有の4本の大ピークが確認され、炭酸ガス吸収材が再生されたことが確認された。
【0061】
また、実施例1-1に用いたNaTi14の反応生成物約5mgを試料とし、示差熱・熱重量同時測定(TG-DTA)により、室温から300℃まで昇温しながら加熱し、熱分解挙動を観察した。示差熱・熱重量同時測定の結果を図8に示す。
図8に示す枠64における吸熱反応により炭酸ナトリウム水和物の脱水反応が生じたことが推察された。さらに高温に加熱することによって、枠66において再び吸熱反応が生じ、これによって二酸化炭素が脱離し、NaTi14が再生されたことが確認された。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
上述する本発明は、以下の技術思想を包含する。
(1)下記式(1)で表される複合金属酸化物(但し、式(1)中、5≦A≦11、4≦B≦6、0≦C≦2、10.5≦D≦17.5であり、Mは任意の金属である)を含有することを特徴とする炭酸ガス吸収材。
[式3]
NaTi・・・・・(1)
(2)ナトリウム、チタン、酸素を含む複合金属酸化物を含有し、
前記複合金属酸化物は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、
回折角2θが、12.049°±0.5°および12.616°±0.5°の範囲それぞれにピークを示し、かつ39.110°±0.5°から41.007°±0.5°までの範囲に1つまたは2つのピークを示すことを特徴とする炭酸ガス吸収材。
(3)前記複合金属酸化物の空隙率が39.0%以上である上記(1)または(2)に記載の炭酸ガス吸収材。
(4)前記複合金属酸化物がNaTi14を含む上記(1)または(2)に記載の炭酸ガス吸収材。
(5)上記(1)または(2)に記載の炭酸ガス吸収材を反応容器に収納する収納工程と、
前記反応容器に炭酸ガス含有気体を導入して当該炭酸ガス含有気体を前記複合金属酸化物と接触させて反応させる反応工程と、
前記反応工程を経た気体を前記反応容器から排出する排出工程と、を備える炭酸ガス吸収方法。
(6)上記(1)または(2)に記載の炭酸ガス吸収材を収納する収納部と、
前記収納部に炭酸ガス含有気体を流入させる気体流入口と、
前記収納部から外部に気体を排出する気体排出口と
を備えることを特徴とする炭酸ガス吸収装置。
(7)上記(1)または(2)に記載の炭酸ガス吸収材の再生方法であって、
炭酸ガス吸収反応後の反応生成物を、
空気または不活性ガスまたは真空下で400℃以下の温度で加熱することを特徴とする炭酸ガス吸収材再生方法。
【符号の説明】
【0066】
10・・・管状炉
20・・・炭酸ガス吸収材
30・・・気体流入口
32・・・第一流入路
321・・・下流側開口
34・・・第二流入路
40・・・気体排出口
50・・・湿度調整部
52・・・容器
54・・・導入管
56・・・排出管
58・・・水面
60、62、64、66・・・枠
100・・・炭酸ガス吸収装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8