(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160757
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/04 20060101AFI20241108BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20241108BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20241108BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M10/04 Z
H01M10/058
H01G11/06
H01G11/84
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076060
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】臼井 大我
【テーマコード(参考)】
5E078
5H028
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA15
5E078AB02
5E078AB06
5E078LA08
5H028AA07
5H028BB05
5H028BB11
5H028CC08
5H028HH01
5H029AJ14
5H029CJ02
5H029HJ01
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】乾燥処理において複数の組立体の間で乾燥ムラが生じることを抑制する。
【解決手段】ここに開示される製造方法は、組立体を準備する準備工程と、複数の組立体を乾燥炉の炉内に収容して乾燥させる乾燥工程とを含む。そして、乾燥工程は、複数の組立体の各々に対して乾燥係数Kの測定を実施する測定工程と、乾燥係数Kに基づいて、複数の組立体の各々の乾燥条件を個別に変更する条件変更工程とを含む。なお、乾燥係数Kは、第1測定時間での組立体の重量Miと、第1測定時間から所定時間経過後の第2測定時間での組立体の重量Mcとに基づいて、K=(Mi-Mc)/Miという式によって計算される。これによって、複数の組立体の乾燥処理の進行度を平準化できるため、乾燥ムラの発生を抑制できる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケース内に電極体が収容された組立体を準備する準備工程と、
複数の前記組立体を乾燥炉の炉内に収容し、前記ケースの内部を乾燥させる乾燥工程と
を含み、
前記乾燥工程は、
複数の前記組立体の各々に対して、以下の式(1)に基づいた乾燥係数Kの測定を実施する測定工程と、
前記乾燥係数Kに基づいて、複数の前記組立体の各々の乾燥条件を個別に変更する条件変更工程と
を含む、蓄電デバイスの製造方法。
K=(Mi-Mc)/Mi (1)
なお、上記式(1)中のMiは第1測定時間での前記組立体の重量(g)であり、Mcは前記第1測定時間から所定時間経過後の第2測定時間での前記組立体の重量(g)である。
【請求項2】
前記乾燥工程は、
前記測定工程で測定した複数の前記乾燥係数Kの最大値Kmaxと最小値Kminとの差分(Kmax-Kmin)を算出する差分算出工程と、
予め定めた閾値KDと前記差分(Kmax-Kmin)とを比較し、前記差分(Kmax-Kmin)が前記閾値KDを超えた際に前記条件変更工程を開始する差分判定工程と
をさらに備える、請求項1に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項3】
予め設定した条件変更時間に至った際に前記条件変更工程を開始する、請求項1に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記条件変更工程は、前記乾燥係数Kに基づいて、前記炉内における前記組立体の配置位置を変更する、請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記乾燥炉は、前記組立体の各々を加熱する複数のヒータを備えており、
前記条件変更工程は、前記乾燥係数Kに基づいて、複数の前記ヒータの各々の温度を個別に変更する、請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【請求項6】
前記乾燥炉は、前記組立体の各々に温風を供給する複数のファンを備えており、
前記条件変更工程は、前記乾燥係数Kに基づいて、複数の前記ファンの各々の風量を個別に変更する、請求項1~3のいずれか一項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、蓄電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等の蓄電デバイスは、車両や携帯端末等の様々な分野において広く使用されている。例えば、この種の蓄電デバイスは、電極体と電解液とをケースの内部に収容することによって構築される。この蓄電デバイスの製造では、まず、ケースの内部に電極体が収容された組立体を作製する。そして、電解液の注入前に組立体に対して乾燥処理を実施する。これによって、水分の混入による局所的な抵抗上昇を防止できる。
【0003】
この電極体の乾燥処理に関する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の製造方法は、ケース内に電極体を収容された組立体を作製することと、組立体の外面を把持具で把持することと、把持された組立体を加熱して内部を乾燥させることとを包含する。そして、特許文献1に記載の製造方法では、上記把持において、電極体の矩形面の長辺方向の中心線を含む中央領域に、該中央領域を除く矩形面の他の領域よりも大きな拘束圧を付与する。これによって、1つの蓄電デバイスの内部における乾燥ムラを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の蓄電デバイスの製造現場では、乾燥炉の炉内に複数の組立体を収容し、同時に乾燥処理を実施することが行われている。これによって、蓄電デバイスの製造効率を向上することができる。しかし、このような乾燥炉は、炉内の温度分布に偏りが生じやすい。この場合、同時に乾燥した複数の組立体の間で乾燥ムラが生じるおそれがある。ここに開示される技術は、かかる問題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここに開示される蓄電デバイスの製造方法は、ケース内に電極体が収容された組立体を準備する準備工程と、複数の組立体を乾燥炉の炉内に収容し、ケースの内部を乾燥させる乾燥工程とを含む。そして、乾燥工程は、複数の組立体の各々に対して、以下の式(1)に基づいた乾燥係数Kの測定を実施する測定工程と、乾燥係数Kに基づいて、複数の組立体の各々の乾燥条件を個別に変更する条件変更工程とを含む。なお、式(1)中のMiは第1測定時間での組立体の重量(g)であり、Mcは第1測定時間から所定時間経過後の第2測定時間での前記組立体の重量(g)である。
K=(Mi-Mc)/Mi (1)
【0007】
ここに開示される技術では、乾燥工程に供した複数の組立体の各々に対して乾燥係数Kを測定する。この乾燥係数Kは、乾燥中の組立体の単位時間あたりの重量減少割合(水分蒸発割合)である。この乾燥係数Kを測定することによって、各々の組立体における乾燥処理の進行度を把握できる。例えば、高温環境に配置された組立体は、急速に水分が蒸発して重量が大幅に減少するため乾燥係数Kが大きくなる。一方、低温環境に配置された組立体は、水分の蒸発が遅く重量が減少しにくいため乾燥係数Kが小さくなる。そして、ここに開示される製造方法では、この乾燥係数Kに基づいて各々の組立体の乾燥条件を個別に変更する。これによって、複数の組立体の乾燥処理の進行度を平準化できる。この結果、炉内の温度分布に偏りが生じるような乾燥炉を使用した場合でも、複数の組立体の間で乾燥ムラが生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る製造方法の乾燥工程で用いられる乾燥炉の内部構造を模式的に示す平面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、組立体を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態における乾燥工程を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第1の実施形態における条件変更工程を説明する側面図である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態における条件変更工程を説明する側面図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態における条件変更工程を説明する側面図である。
【
図9】
図9は、第2の実施形態に係る製造方法の乾燥工程で用いられる乾燥炉の内部構造を模式的に示す側面視断面図である。
【
図10】
図10は、第3の実施形態に係る製造方法の乾燥工程で用いられる乾燥炉の内部構造を模式的に示す側面視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、ここで開示される技術のいくつかの好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、蓄電デバイスの構成、他の製造プロセスなど)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0010】
なお、本明細書で参照する図面中の符号L、R、F、Rr、U、Dは、それぞれ、左、右、前、後、上、下を表すものとする。また、図面中の符号X、Y、Zは、それぞれ、乾燥炉の幅方向、奥行方向、高さ方向を表すものとする。ただし、これらは、説明の便宜上、予め定めた方向に過ぎず、ここに開示される技術を限定するものではない。
【0011】
また、本明細書における「蓄電デバイス」とは、電極体と電解液がケース内に収容された装置のことをいう。この蓄電デバイスでは、電解液を介して一対の電極(正極および負極)の間で電荷担体が移動することによって充放電反応が生じる。ここに開示される技術における蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等の二次電池の他に、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなども包含する。また、本明細書における「組立体」とは、蓄電デバイスの製造において、電解液の注液を行う前の形態まで組み立てられた構造体のことをいう。換言すると、ここに開示される技術における「組立体」とは、ケース内に電解液が存在しておらず、ケースの一部(注液孔など)が開口した状態の蓄電デバイスである。
【0012】
<第1の実施形態>
以下、
図1~
図8を参照しながら、ここに開示される製造方法の第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る製造方法の乾燥工程で用いられる乾燥炉の内部構造を模式的に示す平面図である。
図2は、
図1中のII-II断面図である。
図3は、第1の実施形態に係る製造方法を示すフローチャートである。
図4は、組立体を模式的に示す断面図である。
図5は、第1の実施形態における乾燥工程を示すフローチャートである。
図6~
図8は、第1の実施形態における条件変更工程を説明する側面図である。なお、説明の便宜上、
図1では、組立体A1~A4を点線で表し、組立体A1~A4よりも下方Dの構造を透過して記載している。同様に、
図2では、組立体A1~A4よりも左側Lの構造を透過して記載している。
【0013】
1.乾燥炉の構成
まず、本実施形態に係る製造方法に使用される乾燥炉について説明する。
図1及び
図2に示すように、この乾燥炉100は、炉体10と、ローラコンベア20と、加熱装置30と、位置変更装置40と、重量測定手段50と、制御装置60とを備えている。
【0014】
(1)炉体
図1及び
図2に示すように、この乾燥炉100の炉体10は、トンネル状の炉体である。換言すると、この炉体10は、奥行方向Yに沿って延びる内部空間(炉内10i)を有している。この炉内10iには、複数個(図では4個)の組立体A1~A4を収容できる。また、炉体10の後方Rr側の端部には搬入口12が設けられている。この搬入口12には、開閉可能な搬入シャッター12aが設けられている。一方、炉体10の前方F側の端部には搬出口14が設けられている。この搬出口14には、搬出シャッター14aが取り付けられている。なお、詳しくは後述するが、この乾燥炉100は、複数個の組立体A1~A4を収容した状態で、炉内10iを密閉して乾燥処理を行うバッチ式の乾燥炉である。
【0015】
(2)ローラコンベア
ローラコンベア20は、後方Rrから前方Fに向かって組立体A1~A4を搬送する装置である。
図1に示すように、ローラコンベア20は、第1コンベア20Aと第2コンベア20Bとを有している。第1コンベア20Aは、炉内10iの左側Lにおいて奥行方向Yに沿って延びている。一方、第2コンベア20Bは、炉内10iの右側Rにおいて奥行方向Yに沿って延びている。すなわち、ローラコンベア20は、並行に延びる2つのコンベアを有している。また、第1コンベア20Aと第2コンベア20Bとの間には所定の隙間S1が設けられている。そして、第1コンベア20Aと第2コンベア20Bは、それぞれ、複数のローラ22によって構成されている。
図2に示すように、この複数のローラ22は、高さ方向Zにおける位置が揃うように奥行方向Yに沿って連続的に配置されている。そして、各々のローラ22の間には、所定の隙間S2が設けられている。この乾燥炉100では、ローラコンベア20(複数のローラ22)の上に組立体A1~A4が載置される。そして、各々のローラ22を回転させることによって、奥行方向Yの前方Fに向かって組立体A1~A4を搬送することができる。
【0016】
(3)加熱装置
加熱装置30は、炉内10iの組立体A1~A4を加熱する装置である。この乾燥炉100は、側面加熱装置32と、上面加熱装置34と、底面加熱装置36とを備えている。
図1に示すように、この乾燥炉100では、炉体10の側壁(
図1の左側Lの側壁)に4個の側面加熱装置32が設けられている。各々の側面加熱装置32は、ローラコンベア20上の4個の組立体A1~A4の各々の側面と対向するように配置されている。また、各々の側面加熱装置32は、側面ファン32aと、側面ヒータ32bとを備えている。これによって、組立体A1~A4の側面に温風を供給できる。次に、
図2に示すように、炉体10の天井には、4個の上面加熱装置34が設けられている。各々の上面加熱装置34は、4個の組立体A1~A4の各々の上面と対向するように配置されている。また、各々の上面加熱装置34は、上面ファン34aと、上面ヒータ34bとを備えている。これによって、組立体A1~A4の上面に温風を供給できる。そして、炉体10の底面には、底面加熱装置36が設けられている。底面加熱装置36は、組立体A1~A4を下方Dから加熱する底面ヒータ36aを備えている。なお、加熱装置は、炉内の組立体を加熱することができればよく、具体的な設置数や構成を適宜変更することができる。
【0017】
(4)位置変更装置
位置変更装置40は、炉内10iにおける組立体A1~A4の配置位置を変更する装置である。詳しくは後述するが、本実施形態における位置変更装置40は、ローラコンベア20上の組立体A1~A4の載置位置を変更する。この位置変更装置40は、第1軸42と、第2軸44と、第3軸46と、駆動機構48とを備えている。
図2に示すように、第1軸42は、駆動機構48から高さ方向Zの上方Uに向かって延びる柱状の部材である。また、第2軸44は、第1軸42の上端から奥行方向Yの両側(前方Fおよび後方Rr)に向かって延びる棒状部材である。そして、
図1に示すように、第3軸46は、第2軸44と交差するように幅方向Xに延びる複数の棒状部材である。そして、駆動機構48は、第1軸42を高さ方向Zに伸縮させることによって、第2軸44と第3軸46を昇降させる昇降機能を備えている。また、駆動機構48は、第1軸42を回転させることによって、第2軸44と第3軸46を回転させる回転機能も備えている。なお、
図1に示すように、位置変更装置40の第1軸42と第2軸44は、平面視において、第1コンベア20Aと第2コンベア20Bとの間の隙間S1に配置されている。また、複数の第3軸46の各々は、平面視において、複数のローラ22の間の隙間S2に配置されている。これによって、第1軸42と第2軸44と第3軸46とを昇降させた際に、ローラコンベア20と干渉することを防止できる。なお、
図1及び
図2に示すように、本実施形態における乾燥炉100は、2つの位置変更装置40を備えている。具体的には、一方の位置変更装置40は、奥行方向Yの後方Rrに配置されている。この後方Rrの位置変更装置40は、組立体A3、A4の下方Dに位置する。また、他方の位置変更装置40は、奥行方向Yの前方Fに配置されている。この前方Fの位置変更装置40は、組立体A1、A2の下方Dに位置する。
【0018】
(5)重量測定手段
重量測定手段50は、乾燥処理中の組立体A1~A4の重量を個別に測定する。重量測定手段の具体的な構成は、特に限定されず、従来公知の測定機器を特に制限なく使用できる。例えば、
図2に示す重量測定手段50は、複数のローラ22の一部に取り付けられたロードセルである。これによって、ローラコンベア20上に載置された組立体A1~A4の重量を測定できる。詳しくは後述するが、この組立体A1~A4の重量は、乾燥係数Kの算出に用いられる。なお、重量測定手段の数や位置は、複数の組立体の各々の重量を個別に測定できれば特に限定されない。例えば、1つの組立体を支持する複数のローラの各々に重量測定手段を取り付けて平均値等を算出してもよい。これによって、各々の組立体の重量をより正確に測定できる。
【0019】
(6)制御装置
制御装置60は、乾燥炉100の動作を制御する装置である。この制御装置60は、各種のデータの記憶と演算が可能なマイクロコンピュータである。図示は省略するが、この制御装置60は、乾燥炉100を構成する各機器(ローラコンベア20、加熱装置30など)と接続されている。そして、制御装置60は、各機器の動作を制御することによって組立体A1~A4の乾燥処理を実施する。また、制御装置60は、重量測定手段50と接続されている。そして、本実施形態における制御装置60には、重量測定手段50の測定結果に基づいて複数の組立体A1~A4の各々の乾燥条件を個別に変更する制御プログラムが記憶されている。以下、かかる制御プログラムに基づいて実行される蓄電デバイスの製造方法について説明する。
【0020】
2.蓄電デバイスの製造方法
図3に示すように、本実施形態に係る蓄電デバイスの製造方法は、準備工程S10と乾燥工程S20を備えている。
【0021】
(1)準備工程S10
準備工程S10では、ケース1内に電極体2が収容された組立体A1~A4(
図4参照)を準備する。この組立体A1~A4のケース1には、注液孔3が形成されている。注液孔3は、ケース1内に電解液を注液する際に使用する開口部である。このため、注液工程を実施する前の組立体A1~A4では、注液孔3を介してケース1の内外が連通している。なお、本工程は、組立体A1~A4を準備することができればよく、特定の手順に限定されるものではない。例えば、準備工程S10は、従来公知の手順に従って組立体A1~A4を作製してもよいし、予め作製された電池組立体A1~A4を用意してもよい。
【0022】
(2)乾燥工程S20
乾燥工程S20では、複数の組立体A1~A4を乾燥炉100の内部に収容し、ケース1の内部を乾燥させる。ここで、
図5に示すように、本実施形態における乾燥工程S20は、乾燥開始工程S21と、測定工程S22と、差分算出工程S23と、差分判定工程S24と、条件変更工程S25とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0023】
(2-1)乾燥開始工程S21
本工程では、複数の組立体A1~A4を炉内10iに収容して乾燥処理を開始する。具体的には、搬入シャッター12aを開いて搬入口12を開放する。次に、ローラコンベア20を稼働させる。そして、稼働中のローラコンベア20の上に4個の組立体A1~A4を順次載置する。これによって、組立体A1~A4が炉内10iに搬入される。そして、最初に搬入した組立体A1が炉内10iの前方F側の端部(搬出口14の手前)に到達した時点でローラコンベア20を停止する。これによって、4個の組立体A1~A4を炉内10iに収容できる。次に、搬入シャッター12aを閉じて炉内10iを密閉した後に加熱装置30を稼働させる。これによって、組立体A1~A4の乾燥処理が開始される。
【0024】
(2-2)測定工程S22
本工程では、複数の組立体A1~A4の各々に対して、以下の式(1)に基づいた乾燥係数Kの測定を実施する。ここで、下記式(1)中の「Mi」は、第1測定時間での組立体A1~A4の重量(g)である。また、「Mc」は、第1測定時間から所定時間経過後の第2測定時間での組立体の重量(g)である。
K=(Mi-Mc)/Mi (1)
【0025】
具体的には、
図2中の制御装置60には、重量測定手段50から、組立体A1~A4の現在の重量が逐次送信されている。制御装置60は、所定の第1測定時間における組立体A1~A4の各々の重量Mi
1~Mi
4を記憶する。そして、一定時間経過後に、制御装置60は、第2測定時間における組立体A1~A4の各々の重量Mc
1~Mc
4を取得する。次に、制御装置60は、第1測定時間における組立体A1の重量Mi
1と、第2測定時間における組立体A1の重量Mc
1を上記式(1)に代入する。これによって、組立体A1の乾燥係数K
1を算出することができる。制御装置60は、同様の手順に従って、他の組立体A2~A4の乾燥係数K
2~K
4も算出する。ここで、上記乾燥係数K
1~K
4は、第1測定時間から第2測定時間の間の組立体A1~A4の各々における水分蒸発割合を示している。例えば、高温環境に配置された組立体は、急速に水分が蒸発するため乾燥係数Kが大きくなる。一方、低温環境に配置された組立体は、水分が蒸発しにくいため乾燥係数Kが小さくなる。すなわち、本工程を実施することによって、複数の組立体A1~A4の各々における乾燥処理の進行度を検出できる。
【0026】
なお、本工程における第1測定時間および第2測定時間は、任意のタイミングに設定できる。例えば、第1測定時間には、乾燥開始工程S21を実施した時間を設定できる。また、第2測定時間は、第1測定時間から60分間~180分間(例えば120分間)が経過した時間に設定するとよい。また、本工程では、複数の第2測定時間を設定してもよい。例えば、第1測定時間から所定時間(例えば120分間)が経過する度に、第2測定時間における組立体A1~A4の重量Mc1~Mc4を取得してもよい。
【0027】
(2-3)差分算出工程S23
本工程では、測定工程S22で測定した複数の乾燥係数K1~K4の最大値Kmaxと最小値Kminとの差分(Kmax-Kmin)を算出する。具体的には、制御装置60は、最初に、組立体A1~A4の各々の乾燥係数K1~K4を比較し、最大値Kmaxと最小値Kminを選出する。次に、制御装置60は、最大値Kmaxと最小値Kminとの差分(Kmax-Kmin)を算出する。この差分(Kmax-Kmin)は、複数の組立体A1~A4の乾燥処理の進行度のばらつきを示す指標となる。具体的には、上記差分(Kmax-Kmin)が小さい場合には、複数の組立体A1~A4の間で水分蒸発割合に大きな差が生じていない。このことに基づいて、乾燥処理が均一に進行していると判断できる。一方、上記差分(Kmax-Kmin)が大きくなった場合、複数の組立体A1~A4の間で水分蒸発割合に大きな差が生じている。このことから、乾燥処理の進行度にばらつきが生じていると判断できる。
【0028】
(2-4)差分判定工程S24
差分判定工程S24では、予め定めた閾値KDと上記差分(Kmax-Kmin)とを比較し、差分(Kmax-Kmin)が閾値KDを超えた際に条件変更工程S25を開始させる。具体的には、制御装置60は、差分算出工程S23で算出した差分(Kmax-Kmin)を閾値KDと比較する。そして、上記差分が閾値を超えた場合(Kmax-Kmin>KD)には、複数の組立体A1~A4の間で乾燥処理の進行度にばらつきが生じていると解される。この場合、制御装置60は、上記乾燥度合いのばらつきを修正するために、処理を条件変更工程S25に進める(S24のYes)。一方、上記差分が閾値以下であった場合(Kmax-Kmin≦KD)には、複数の組立体A1~A4の乾燥処理の進行度が略均一であると解される。この場合、制御装置60は、現状の乾燥条件を維持して処理を測定工程S22に戻す(S24のNo)。このように、差分判定工程S24を実施することによって、適切なタイミングで条件変更工程S25を開始できる。
【0029】
(2-5)条件変更工程S25
本工程では、乾燥係数Kに基づいて、複数の組立体A1~A4の各々の乾燥条件を個別に変更する。これによって、複数の組立体A1~A4の乾燥処理の進行度を平準化できる。この結果、炉内10iの温度分布に偏りが生じた場合でも、複数の組立体A1~A4の間で乾燥ムラが生じることを防止できる。
【0030】
なお、組立体A1~A4の乾燥条件を変更する具体的な手段は、特に限定されず、種々の手段を採用できる。例えば、本実施形態に係る製造方法では、乾燥係数K
1~K
4に基づいて、乾燥炉100の内部における組立体A1~A4の配置位置を変更する。具体的には、
図1に示すようなトンネル状の炉体10では、搬入口12や搬出口14の近傍(奥行方向Yにおける両外側の領域)における乾燥温度が相対的に低くなる傾向がある。この結果、奥行方向Yの両外側に配置された組立体A1、A4の乾燥係数K
1、K
4が相対的に低くなり、奥行方向Yの中央部に配置された組立体A2、A3の乾燥係数K
2、K
3が相対的に高くなる。これに対して、本実施形態における条件変更工程S25では、位置変更装置40を用いて、中央部の組立体A2、A3と、両外側の組立体A1、A4との位置を入れ替える。以下、位置変更装置40を用いた位置変更の詳細を、搬出口14側に配置された組立体A1、A2を例に挙げて説明する。
【0031】
まず、
図6に示すように、通常の位置変更装置40では、ローラコンベア20よりも下方Dに第2軸44と第3軸46が位置している。一方で、条件変更工程S25を開始すると、制御装置60は、位置変更装置40の駆動機構48の昇降機能を稼働させて第1軸42を上方Uに伸長させる(
図7参照)。これによって、第2軸44と第3軸46は、ローラコンベア20よりも上方Uに上昇し、組立体A1、A2を持ち上げる。次に、制御装置60は、駆動機構48の回転機能を稼働させて第1軸42を180°回転させる(
図8参照)。これによって、奥行方向Yにおける組立体A1と組立体A2の配置位置が入れ替わる。そして、制御装置60は、第2軸44と第3軸46を下降させる。これによって、ローラコンベア20上に組立体A1、A2が再び載置される。以上の通り、本実施形態における位置変更装置40によると、相対的に低温の領域(奥行方向Yの外側)に配置されていた組立体A1と、相対的に高温の領域(奥行方向Yの中央側)に配置されていた組立体A2とを入れ替えることができる。この状態で乾燥処理を継続することによって、組立体A1と組立体A2の乾燥処理の進行度を平準化できる。
【0032】
そして、本実施形態における制御装置60には、乾燥工程S20を実施する時間(乾燥時間)が予め定められている。制御装置60は、この乾燥時間が経過するまで、上述した測定工程S22~条件変更工程S25を繰り返し実施する。これによって、複数の組立体A1~A4の乾燥度を適宜平準化しながら乾燥処理を実施できる。この結果、乾燥工程S20後の組立体A1~A4の間で乾燥ムラが生じることをより好適に防止できる。そして、乾燥時間が経過すると、制御装置60は、搬出シャッター14aを開放し、ローラコンベア20を稼働させる。これによって、乾燥済みの組立体A1~A4を炉体10の外部に搬出できる。
【0033】
以上の通り、本実施形態に係る製造方法では、乾燥係数K1~K4を測定することによって、各々の組立体A1~A4における乾燥処理の進行度を把握する。そして、この乾燥係数K1~K4に基づいて組立体A1~A4の乾燥条件(ここでは設置位置)を個別に変更する。これによって、複数の組立体A1~A4の乾燥処理の進行度を平準化できるため、炉内10iの温度分布に偏りが生じる炉体10を使用した場合でも、複数の組立体A1~A4の間で乾燥ムラが生じることを防止できる。
【0034】
<他の実施形態>
以上、ここに開示される技術の一実施形態について説明した。なお、ここに開示される技術は、上記した実施形態に限定されるものではなく、種々の構成を変更した他の実施形態を包含する。以下、ここに開示される技術の他の実施形態について説明する。
【0035】
1.乾燥条件の変更手段
上記した通り、条件変更工程における乾燥条件を変更する手段は、特に限定されず、種々の手段を採用できる。以下、乾燥条件の変更手段の他の例について説明する。
【0036】
(1)レールの敷設
例えば、第1の実施形態における乾燥炉100は、2つの位置変更装置40を用いて、組立体A1~A4の設置位置を変更している。しかし、位置変更装置40の数は、特に限定されない。例えば、
図9に示す第2の実施形態における乾燥炉100Aでは、炉内10iの底面に奥行方向Yに沿って延びるレール70を敷設されている。そして、この乾燥炉100Aでは、1つの位置変更装置40がレール70に摺動可能に取り付けられている。かかる構成によると、位置変更装置40の数が1つの場合でも、全ての組立体A1~A4の位置を変更できる。特に、
図9に示す構成によると、奥行方向Yの中央部に配置された組立体A2、A3の位置を入れ替えることもできる。この結果、奥行方向Yの中央部における僅かな乾燥ムラも好適に防止することができる。
【0037】
(2)ヒータの制御
また、上述した第1及び第2の実施形態では、組立体A1~A4の配置位置を変更することによって乾燥条件を変更している。しかし、組立体の乾燥条件は、別の手段で変更することもできる。例えば、
図10に示すように、第3の実施形態における乾燥炉100Bは、位置変更装置を備えていない。一方で、この乾燥炉100Bは、組立体A1~A4の各々を加熱する複数のヒータ(側面ヒータ32b、上面ヒータ34b、底面ヒータ36a)を備えている。かかる構成の乾燥炉100Bを用いた場合の条件変更工程では、乾燥係数Kに基づいて、複数のヒータの各々の温度を個別に変更するとよい。具体的には、第3の実施形態における条件変更工程では、乾燥係数Kが小さい組立体に近接したヒータの温度を上昇させると共に、乾燥係数Kが大きい組立体に近接したヒータの温度を低下させる。これによって、複数の組立体A1~A4の乾燥処理の進行度を平準化できる。
【0038】
(3)ファンの制御
また、
図10に示す乾燥炉100は、組立体A1~A4の各々に温風を供給する複数のファン(側面ファン32a、上面ファン34a)も備えている。この場合の条件変更工程では、乾燥係数Kに基づいて、複数のファンの各々の風量を個別に変更してもよい。具体的には、この条件変更工程では、乾燥係数Kが小さい組立体に近接したファンの風量を増加させると共に、乾燥係数Kが大きい組立体に近接したファンの風量を減少させる。これによって、複数の組立体A1~A4の乾燥処理の進行度を平準化できる。なお、ここに開示される製造方法の条件変更工程は、上述した組立体の位置変更、ヒータの制御およびファンの制御の各々を組み合わせて実施することもできる。
【0039】
2.乾燥工程の手順
図5に示すように、第1の実施形態における乾燥工程S20は、差分算出工程S23と差分判定工程S24とを備えている。換言すると、第1の実施形態に係る製造方法は、乾燥係数Kの最大値K
maxと最小値K
minとの差分(K
max-K
min)に基づいて、条件変更工程S25を開始するタイミングを決定している。しかしながら、条件変更工程S25の開始条件は、ここに開示される技術を限定するものではない。例えば、ここに開示される製造方法は、予め設定した条件変更時間に至った際に条件変更工程を開始するタイマー制御を実施してもよい。予備実験を実施し、複数の組立体の間で乾燥処理の進行度にばらつきが生じ始める時間を調べれば、タイマー制御を採用した場合でも条件変更工程を適切なタイミングで開始できる。また、条件変更工程を開始するタイミングは、制御装置でなく、作業者が決定してもよい。この場合には、乾燥炉にディスプレイを設け、各々の組立体の乾燥係数Kをディスプレイに表示するとよい。これによって、作業者は、適切なタイミングで条件変更工程の開始を指示することができる。
【0040】
3.炉体の規模
また、上述の実施形態では、炉内10iに収容可能な組立体A1~A4の個数が4個である。しかし、ここに開示される製造方法は、複数(2個以上)の組立体を収容できる乾燥炉に特に制限なく適用できる。なお、組立体の収容数が増加するにつれて炉体が大型化するため、温度分布に偏りによる乾燥ムラが生じやすくなる傾向がある。これに対して、ここに開示される製造方法によると、大型の炉体を使用した場合でも乾燥ムラの発生を適切に防止できる。このため、ここに開示される製造方法は、組立体の収容数が6個以上(より好適には8個以上、特に好適には10個以上)という大型の乾燥炉に特に好適に適用できる。また、組立体の収容数の上限は、特に限定されず、20個以下でもよく、16個以下でもよい。また、上記実施形態のように、組立体の収容数は、6個以下(例えば4個)にしてもよい。
【0041】
4.炉体の構造
また、上述した乾燥炉100、100A、100Bは、トンネル状の炉体10を有しており、乾燥処理中の組立体A1~A4をローラコンベア20上に載置している。しかし、炉体の形状や組立体の収容場所は、ここに開示される製造方法を限定するものではない。例えば、乾燥炉は、複数段の仕切り板を有する収容棚と、当該収容棚が設置された箱状の炉体とを備えていてもよい。かかる構成の乾燥炉では、収容棚の仕切り板の上に組立体を設置することによって、複数の組立体の乾燥を同時に実施することができる。このとき、収容棚の仕切り板の各々に重量測定手段を取り付けることによって、各々の組立体の乾燥係数Kを測定できる。そして、ロボットアームなどを用いて、組立体が設置される段を入れ替えることによって、複数の組立体の乾燥処理の進行度を平準化できる。
【0042】
以上、ここに開示される技術を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。すなわち、ここに開示される技術は、以下の項目1~項目6に記載の形態を包含する。
【0043】
<項目1>
ケース内に電極体が収容された組立体を準備する準備工程と、
複数の前記組立体を乾燥炉の炉内に収容し、前記ケースの内部を乾燥させる乾燥工程と
を含み、
前記乾燥工程は、
複数の前記組立体の各々に対して、以下の式(1)に基づいた乾燥係数Kの測定を実施する測定工程と、
前記乾燥係数Kに基づいて、複数の前記組立体の各々の乾燥条件を個別に変更する条件変更工程と
を含む、蓄電デバイスの製造方法。
K=(Mi-Mc)/Mi (1)
なお、上記式(1)中のMiは第1測定時間での前記組立体の重量(g)であり、Mcは前記第1測定時間から所定時間経過後の第2測定時間での前記組立体の重量(g)である。
【0044】
<項目2>
前記乾燥工程は、
前記測定工程で測定した複数の前記乾燥係数Kの最大値Kmaxと最小値Kminとの差分(Kmax-Kmin)を算出する差分算出工程と、
予め定めた閾値KDと前記差分(Kmax-Kmin)とを比較し、前記差分(Kmax-Kmin)が前記閾値KDを超えた際に前記条件変更工程を開始する差分判定工程と
をさらに備える、項目1に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【0045】
<項目3>
予め設定した条件変更時間に至った際に前記条件変更工程を開始する、項目1に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【0046】
<項目4>
前記条件変更工程は、前記乾燥係数Kに基づいて、前記炉内における前記組立体の配置位置を変更する、項目1~3のいずれか一項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【0047】
<項目5>
前記乾燥炉は、前記組立体の各々を加熱する複数のヒータを備えており、
前記条件変更工程は、前記乾燥係数Kに基づいて、複数の前記ヒータの各々の温度を個別に変更する、項目1~4のいずれか一項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【0048】
<項目6>
前記乾燥炉は、前記組立体の各々に温風を供給する複数のファンを備えており、
前記条件変更工程は、前記乾燥係数Kに基づいて、複数の前記ファンの各々の風量を個別に変更する、項目1~5のいずれか一項に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【符号の説明】
【0049】
10 :炉体
20 :ローラコンベア
30 :加熱装置
40 :位置変更装置
50 :重量測定手段
60 :制御装置
70 :レール
100 :乾燥炉
A1~A4:組立体