IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 菊水化学工業株式会社の特許一覧

特開2024-160773二液型塗料及び二液型塗料の使用方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160773
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】二液型塗料及び二液型塗料の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/06 20060101AFI20241108BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20241108BHJP
【FI】
C09D1/06
C09D7/61
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076108
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000159032
【氏名又は名称】菊水化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】棚橋 泰士
(72)【発明者】
【氏名】都築 和貴
(72)【発明者】
【氏名】岡嶋 祐樹
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038AA011
4J038BA022
4J038CE022
4J038EA012
4J038HA176
4J038HA201
4J038HA211
4J038HA216
4J038HA441
4J038HA456
4J038HA526
4J038HA536
4J038KA07
4J038KA08
4J038KA09
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA26
4J038PB05
4J038PC04
(57)【要約】
【課題】分散液、混和液共に分離し難く、分離した場合であっても再撹拌により容易に分散が可能であり、分散液と混和液との混合が容易な二液型塗料を提供する。
【解決手段】潜在水硬性物質を水に分散させ粘度を調整した分散液と、アルカリ化合物と水から成り粘度を調整した混和液とにより構成される二液型塗料であって、分散液と混和液の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に、分散液が1500~35000mPa・sの範囲であり、混和液が500~10000mPa・sの範囲であり、分散液と混和液の比重が1.2~1.7の範囲であることにより、分散液、混和液共に分離し難く、分離した場合であっても再撹拌により容易に分散が可能であり、分散液と混和液との混合が容易なものとなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜在水硬性物質を水に分散させ、粘度を調整した分散液と
アルカリ化合物と水から成り粘度を調整した混和液と
により構成される二液型塗料であって、
分散液と混和液の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に、
分散液が1500~35000mPa・sの範囲であり、混和液が500~10000mPa・sの範囲であり、
分散液と混和液の比重が1.2~1.7の範囲である二液型塗料。
【請求項2】
前記混和液にフィラー成分を含有し、そのフィラーの粒子径が5~2000μmの範囲で、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きい請求項1に記載の二液型塗料。
【請求項3】
さらに、混和液に酸化チタンが含まれる請求項1又は請求項2に記載の二液型塗料。
【請求項4】
請求項1に記載した分散液と混和液により構成された二液型塗料の使用方法であって、
分散液と混和液を混合した状態の二液型塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に150~100000mPa・sの範囲に、
固形分が30.0~80.0重量%の範囲に、
潜在水硬性物質が塗料中に10~60重量%の範囲に、調整した後に使用する二液型塗料の使用方法。
【請求項5】
請求項4に記載の二液型塗料の使用方法であって、
分散液と混和液を混合した状態の二液型塗料を下地のpHが7~14の範囲を示す下地に対して塗装する二液型塗料の使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建物などの構造物の内外壁面などの壁面に塗布する二液型塗料であり、その塗料の中でも潜在水硬性物質とアクリル化合物を用いた二液型塗料及びその使用方法に関するもので、その利用分野は、主に建築や土木分野である。
【背景技術】
【0002】
従来から建物などの構造物の内外壁面などの壁面に塗布する塗料として、合成樹脂エマルションなどの有機系の結合材を主成分としたものやセメントなどの無機系の結合材を用いたものなどが数多く存在している。
これらの塗料により形成された塗膜は、壁面の耐久性を向上させることや意匠性向上のために用いられている。
【0003】
これらの中でも、塗装対象の面がコンクリートなどには、セメントと合成樹脂エマルションとを混合したものやセメントなどの無機系の結合材を用いたものも用いられることもある。
このセメントなどの無機系の結合材を用いたものは、形成された塗膜の強度や使い勝手、入手の容易さなどにより多く用いられることがある。その中でも特開2021-1260号公報には、高炉スラグ系塗料が提案されている。
【0004】
これは、高炉スラグを含有する安定化された高炉スラグ水性懸濁液を主材の主要成分とし、該懸濁液の水硬反応を誘発させる珪酸ナトリウムもしくは炭酸ナトリウム、炭酸カリウムが溶解したアルカリ性液体を水硬反応誘発剤として、前記主剤と水硬反応誘発剤とを別々にパッケージしてなることを特徴とする高炉スラグ系2材型塗料が記載されている。
【0005】
これにより、高炉スラグを用いた場合でもアルミナセメントの場合と同様の効果が得ることができたのであって、高炉スラグを主要成分とする液体懸濁液からなる液状の無機系素材と、その流体懸濁液を用いた高炉スラグ系2剤型もしくは1材型水性塗料を得ることができるものであった。
この水性塗料により常温で硬化し強度の高いもので、耐水性や耐候性などの各種物性の優れた塗膜を得ることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-1260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、高炉スラグ水性懸濁液や水硬反応誘発剤を容器に充填し保存した場合に、その保存状態によっては、容器内で分離し、比重の重い物質が容器下部に集まり、その集まった物質が再度撹拌しても、十分に混ざらずに塊になるハードケーキ状態になる場合がある。
また、分散液と混和液の粘度の違いにより、混合し難いことや、その比重差により混合し難いこともある。
【0008】
本開示では、分散液、混和液共に分離し難く、分離した場合であっても再撹拌により容易に分散が可能であり、分散液と混和液との混合が容易な二液型塗料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
潜在水硬性物質を水に分散させ粘度を調整した分散液と、アルカリ化合物と水から成り粘度を調整した混和液とにより構成される二液型塗料であって、分散液と混和液の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に、分散液が1500~35000mPa・sの範囲であり、混和液が500~10000mPa・sの範囲であり、分散液と混和液の比重が1.2~1.7の範囲であるものである。
これにより、分散液、混和液共に分離し難く、分離した場合であっても再撹拌により容易に分散が可能であり、分散液と混和液との混合が容易なものとなる。
【0010】
前記混和液にフィラー成分を含有し、そのフィラーの粒子径が5~2000μmの範囲で、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きいものである。
これにより、二液型塗料で形成される塗膜であっても、未硬化の塗膜中で、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑え、塗膜中の分離が少なくなり、塗膜硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和し、その表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護することができるものとなる。
【0011】
さらに、混和液に酸化チタンが含まれることにより、形成される比較的薄い塗膜の表面に割れの発生が少なく、比較的硬い塗膜を形成し、被覆物を保護することができるものとなる。
分散液と混和液により構成された二液型塗料の使用方法であって、分散液と混和液を混合した状態の二液型塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に150~350000mPa・sの範囲に、固形分が30.0~80.0重量%の範囲に、潜在水硬性物質が塗料中に10~40重量%の範囲に、調整した後に使用することである。
【0012】
このことにより、形成される100~3000μmの範囲の塗膜であっても、未硬化の塗膜中で、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑え、塗膜中の分離が少なくなり、塗膜硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和し、その表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護することができるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の実施形態を説明する。
本開示は、潜在水硬性物質を水に分散させ粘度を調整した分散液と、アルカリ化合物と水から成り粘度を調整した混和液とにより構成される二液型塗料であって、分散液と混和液の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に、分散液が1500~35000mPa・sの範囲であり、混和液が500~10000mPa・sの範囲であり、分散液と混和液の比重が1.2~1.7の範囲であるものである。
【0014】
まず、分散液の主成分である潜在水硬性物質には、代表的なものとして高炉スラグが挙げられる。この潜在水硬性物質は、アルカリ溶液などのアルカリ化合物のアルカリ性に刺激され、硬化するものである。
これは、アルカリ水溶液に可溶な潜在水硬性物質が後述するアルカリ化合物により、その表面を不安定にし、そのアルカリ刺激剤の水分がなくなるにつれて、活性フィラー同士が近づきそれぞれが結合するものである。
【0015】
この高炉スラグは、鉄鉱石をコークスで還元、溶融し、銑鉄を製造する溶鉱炉から銑鉄と共に約1500℃の溶融状態で取り出された後、比重差により分離された脈石分で、冷却固化の方法により、徐冷スラグと水砕スラグがある。
この潜在水硬性物質の粒子径は、1~50μmの範囲で、微粉末のもので、反応性が高いため、硬化性が良好で、塗膜を形成し易く、初期の耐水性が良好なものとなる。又、色が白いため、塗膜の隠蔽性を高め、塗料の着色を行い易いものとなる。
【0016】
その組成は、CaO,SiO,Alを主成分としており、セメントに似た化学成分を有しているものである。
分散液は、この潜在水硬性物質を水に分散させ、分散させた潜在水硬性物質が沈降、分離を増粘剤やレベリング剤を用いて、その分散液の粘度を調整したものである。
【0017】
この増粘剤やレベリング剤は、特に制限されるものではなく、メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸ナトリムなど一般的に塗料配合に用いるものを使用することができる。
中でもメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースは増粘効果を発揮しやすいため好ましい。
【0018】
また、必要に応じ、分散剤や湿潤剤などの界面活性剤を使うこともあり、これらを添加することで、潜在水硬性物質の分散性を良好にすることができる。
この分散液を作製する場合に、泡が発生することもあるため、消泡剤を使用することが好ましく行われる。この消泡剤を配合することで、分散液と後述する混和液との混合する時に発生する泡も抑制することができる。
【0019】
また、この分散液には、一般的な塗料に用いられる界面活性剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤、防凍剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
この潜在水硬性物質を水に分散させることにより、分散液を得ることができ、その分散は、ミキサーなどの混合機により行うことが可能である。
【0020】
この分散液の固形分は、40~75重量%の範囲であることが好ましく、40重量%より少ない場合では、混合された二液型塗料全体の固形分が低くなることがあり、形成された塗膜に割れなどが生じることがある。
75重量%より多い場合では、後述する粘度に設定することが難しくなり、混和液との混合が行い難くなることがある。
【0021】
混和液は、アルカリ化合物などの溶液を増粘させることにより得ることができ、ミキサーなどの混合機で混ぜることで、得ることができる。
この混和液の主成分であるアルカリ化合物は、前記潜在水硬性物質が可溶で、その表面を不安定にすることができるものであれば良く、水に溶けているものであれば良い。
【0022】
アルカリ化合物は、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,メタケイ酸ナトリウムなど水に溶け、アルカリ性を示すことができる物質を水に溶かすことでpHが7~14のアルカリ水溶液を得られる。
また、コロイダルシリカなどのシリカ溶液のなかでアルカリ性を示すものや水ガラス,リチウムシリケート,アルミナゾルなどであっても良く、好ましく用いられる。
【0023】
これらを用いることで、高炉スラグと反応し、二液型塗料により形成される塗膜に強度を持たせ、下地との密着性が良好なものとなる。これらのアルカリ刺激剤は、単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
コロイダルシリカは、非晶質であるシリカの微細粒子が水などの溶媒にコロイド状に分散された状態のものであり、水ガラスは、ケイ酸ナトリウムの濃い水溶液で、ケイ酸ナトリウムを水に溶かして加熱することで得られる高い粘性を持つものである。
【0024】
リチウムシリケートは、アルカリ珪酸塩の一種で、有機系バインダーと比べて耐熱性に優れたもので、アルミナゾルは、水を分散媒とした、アルミナ水和物のコロイド溶液である。これらの中でも、シリカ微細粒子の水に分散したコロイダルシリカが好ましく用いられる。
このコロイダルシリカは、取り扱いの容易さや表面強度を上げることができ、下地との密着性が良好であり、塗膜を親水性にすることができ、良好な親水性の塗膜を形成することから雨だれ汚れなどの汚れが付き難くなるために好ましく用いられる。
【0025】
このシリカ溶液中に分散されるシリカ微粒子の平均粒子径は、好ましくは4~100nmであり、より好ましくは6~50nmであり、最も好ましくは10~20nmである。
この範囲にあるとき、親水性を調整することが容易であり、シリカ微粒子間の結合力が最適になる。
【0026】
シリカ微粒子の平均粒子径が4nm未満の場合には、シリカ微粒子間の結合力が強すぎて、塗膜に収縮クラックが発生するおそれがある。逆に、100nmを超える場合には、シリカ微粒子間の結合力が弱く、塗膜の強度が弱い場合がある。
前記シリカ微粒子の粒子形状としては球状、パールネックレス状、針状、棒状などがあり、球状であることが好ましく用いられ、これは、シリカ微粒子が乾燥して乾燥ゲルとなったときに、粒子同士が最密充填構造をとることができるため、塗材による塗膜の強度を向上させることができる。
【0027】
このようなアルカリ化合物の溶液を増粘させることで、粘度調整された分散液と粘度差が少なくすることで、混ざり易くなり、混合した二液型塗料の沈降や分離を抑えることができる。
このアルカリ化合物の溶液の増粘には、増粘剤やレベリング剤を用いて行うもので、特に制限されるものではない。
【0028】
この増粘剤やレベリング剤は、上記分散液同様で、メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸ナトリムなど一般的に塗料配合に用いるものを使用することができる。
中でもメチルセルロースやヒドロキシエチルセルロースは増粘効果を発揮しやすいため好ましい。
【0029】
また、必要に応じ、分散剤や湿潤剤などの界面活性剤を使うこともあり、これらを添加することで、分散液との混合を良好にすることができる。更に、消泡剤を使用することもあり、配合することで、分散液との混合する時に発生する泡も抑制することができる。
この混和液には、フィラー成分を含有させることが好ましく、そのフィラーの粒子径が5~2000μmの範囲で、フィラーの粒子径が潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きいものであることがより好ましいものである。
【0030】
このフィラー成分を含有させることにより、二液型塗料で形成される厚い塗膜であっても、未硬化の塗膜中で、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑え、塗膜中の分離が少なくなる。
さらに、塗膜硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和し、その表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護することができるものである。
【0031】
フィラー成分の粒子径が5~2000μmの範囲で、潜在水硬性物質の粒子径に比べ大きいものであることで、塗膜硬化時にフィラーが骨格となり潜在水硬性物質がその間に存在することとなるため、塗膜全体の硬化に対し干渉し易くなり、硬化反応に発生する応力を緩和させることができる。
より好ましくは、フィラーの粒子径が5~1000μmの範囲であり、この範囲内であれば、よりその効果が良好なものとなり、塗膜の割れが少ないものとなる。
【0032】
このフィラー成分には、亜鉛華,カオリン,タルク,クレー,炭酸カルシウム,珪藻土,ベントナイト,ホワイトカーボン,ガラスビーズ,水酸化アルミニウム,水酸化マグネシウムや珪砂などがある。
さらに、混和液に酸化チタンが含まれることが好ましく、酸化チタンの粒子が、比較的硬く、その形状が球形に近いため、形成される比較的薄い塗膜の表面に割れの発生が少なく、比較的硬い塗膜を形成し、被覆物を保護することができるものである。
【0033】
この含有量が混合した二液型塗料中に0.1~10.0重量%の範囲であることが好ましく、この範囲内であれば、比較的薄い塗膜の表面に割れの発生が少なく、硬い塗膜を形成することができる。
また、この混和液には、一般的な塗料に用いられる界面活性剤、防腐剤、防藻剤、防黴剤、pH調整剤、防凍剤等の各種添加剤を必要に応じて添加することができる。
【0034】
この混和液の固形分は、30~70重量%の範囲であることが好ましく、30重量%より少ない場合では、混合された二液型塗料全体の固形分が低くなることがあり、形成された塗膜に割れなどが生じることがある。
70重量%より多い場合では、後述する粘度に設定することが難しくなり、分散液との混合が行い難くなることがある。
【0035】
この分散液、混和液のいずれか又は両方に、合成樹脂エマルションを添加することも可能であり、下地である被覆物への密着性が良好で、塗膜に適度な柔らかさを与えることができ、塗膜表面の割れをより少なくすることができるものとなる。
この合成樹脂エマルションの添加量は、その合成樹脂の種類にもよるが、混合した二液型塗料の固形分に対して、合成樹脂エマルションの固形分量で、1~50重量%の範囲が好ましい。
【0036】
この範囲内であれば、塗膜の硬化に影響を与えることなく、形成された塗膜に適度な柔らかさを持たせることができる。
この合成樹脂エマルションは、通常の塗料や塗材の配合に用いられるものでよく、アルカリ化合物と良好に混和できるものであればよい。
【0037】
この合成樹脂エマルションは、合成樹脂を水に分散させたものであり、その合成樹脂には、アクリル樹脂,スチレン樹脂,ウレタン樹脂,シリコーン樹脂,フッ素樹脂,エポキシ樹脂,塩化ビニル樹脂,酢酸ビニル樹脂,ポリエステル樹脂などを単独又は共重合したものが挙げられる。
この合成樹脂エマルションは、乳化重合のような通常の重合技術で製造できる一般的なもので、前記記載の合成樹脂などより製造された合成樹脂エマルションなどがある。
【0038】
さらに、分散液、混和液のいずれか又は両方に、消石灰などの気硬性結合材、フライアッシュやシリカヒュームなどのポゾラン反応成分も加えることも可能である。これらを加えることで、塗膜の強度をより向上させることが可能となる。
他にも、分散液、混和液のいずれか又は両方に、着色顔料,繊維,撥水剤,親水化剤,光触媒なども添加させることも可能である。
【0039】
この着色顔料は、無機,有機系顔料及びその両方を用いられ、酸化チタン,カーボンブラック,オキサイドイエロー,弁柄,シアニンブルー,シアニングリーンなど一般的な塗料の着色に使用することができるものである。
繊維には、パルプや綿など天然繊維やガラス繊維、鉱物繊維などがあり、加えることで、混合した二液型塗料を塗布した後の急激な乾燥を緩和させることができ、塗膜のアルカリ湿潤状態を長くすることが可能になり、反応硬化をゆっくり進行させることができることで、より塗膜強度が向上するものである。
【0040】
また、塗膜の収縮を抑えることができ、塗膜の割れを低減させることもできる。
さらに、撥水剤,親水化剤,光触媒などを添加することで、形成された塗膜に特有の性能を付与させることも可能である。
【0041】
この分散液と混和液の粘度は、B型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に、分散液が1500~35000mPa・sの範囲であり、混和液が500~10000mPa・sの範囲である。
それぞれの粘度がこの範囲内であることで、分散液、混和液共に分離し難く、分離した場合であっても再撹拌により容易に分散が可能あり、この範囲内での粘度差により、分散液と混和液との混合がし易いものである。
【0042】
また、分散液と混和液との粘度差が3000mPa・s以下であることが好ましく、この粘度差の範囲であることで、より混合し易いものとなる。
分散液の粘度が1500mPa・sより低い場合では、水との比重差がある潜在水硬性物質の分離を抑えることができず、分離し、沈降した潜在水硬性物質の再分散が難しい。
【0043】
35000mPa・sより高い場合では、使い勝手が悪く、混和液に混ざり難くなり、分散液を得にくいものである。
混和液の粘度が500mPa・sより低い場合では、分散液との混合が行い難いことがあり、10000mPa・sより高い場合では、使い勝手が悪く、混和液に混ざり難くなり、分散液を得にくいものである。
【0044】
この分散液と混和液のそれぞれの比重が1.2~1.7の範囲であるものであることで、分散液、混和液共に分離し難く、分離した場合であっても再撹拌により容易に分散が可能あり、分散液と混和液との混合に際し混合し易いものである。
この比重が1.2より低い場合では、それぞれの液中に水や空気の混入割合が多いことになり、固形分が低く、それにより形成される塗膜に不具合が起こることがある。
【0045】
1.7より重い場合では、分散液、混和液共に分離し易く、分離した沈降物を再撹拌により容易に分散することができないことがあり、分散液と混和液との混合に際し混合し難いものである。
上記記載のように分散液と混和液は構成され、これらを混合することで、潜在水硬性物質とアルカリ化合物とにより硬化可能な塗料とすることができる。又、混和液に好ましく含有される前記フィラー成分によりその効果をより十分に発揮するものである。
【0046】
この混合方法は、特に制限されるものではなく、ハンドミキサーなどの一般的に塗装作業で使われる混合機により行うことができる。
この分散液と混和液を混合した二液型塗料の粘度は、B型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に、150~100000mPa・sの範囲であることが好ましく、150mPa・sより低い場合では、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑えられないことがある。
【0047】
100000mPa・sより高い場合では、比較的薄く均一な塗膜を形成させることができず、この範囲外では、良好な塗膜を形成させることが難しい。
また、ビスコテスタにより測定した場合は、5~500dPa・sの範囲である。ビスコテスタは、B型粘度計より簡易的に測定できる粘度計であり、現場で容易に管理することができる。
【0048】
B型粘度計で測定した値とビスコテスタで測定した値には完全には相関があるものではないが、ビスコテスタの5~500dPa・sの範囲は、B型粘度計の150~100000mPa・sの範囲の中に入る値であり、好ましい範囲である。
この二液型塗料は、潜在水硬性とアルカリ化合物のアルカリ性に刺激され硬化するものであり、混合直後から反応が開始し、塗料の粘度が変化してしまうことがある。
【0049】
ビスコテスタは、塗装現場でも容易に粘度を測定することができるため、塗装直前に測定することで、より安定的に塗装作業を行うことができる。
そして、安定的に塗装作業を行うことができることで、形成される塗膜は、表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護できる塗膜となる。
【0050】
混合された二液型塗料が前記フィラー成分を含み、その固形分が30.0~80.0重量%の範囲であることにより、その塗料による塗膜の表面に割れの発生が少なくなる。
この固形分が30.0重量%より少ない場合では、十分な成膜ができず、塗膜表面に割れが生じることがあり、80.0重量%より高い場合では、塗料を構成する粒子の間の液分が少なく、粒子が十分に湿潤しないため、塗装作業性が悪い場合がある。
【0051】
潜在水硬性物質は、混合された二液型塗料中に10~60重量%の範囲で含有したものが好ましく、60重量%より多い場合では、塗膜の結合力が強くなり、塗膜に割れが生じることが多くなり、10重量%より少ない場合では、塗膜の強度や下地への密着が悪くなることが多い。
その含有量が10~60重量%の範囲内であれば、塗膜強度や下地への密着性が良好で、塗膜の割れが生じ難いものとなる。更に含有量が15~40重量%の範囲内であれば、塗膜の割れと強度及び密着性の釣り合いの取れたものとなる。
【0052】
このように、好ましくは、分散液と混和液を混合した二液型塗料の粘度がB型粘度計で20rpm、23℃で測定した際に150~100000mPa・sの範囲で、固形分が30.0~80.0重量%の範囲で、潜在水硬性物質が塗料中に10~60重量%の範囲に、調整した後に使用することである。
この混合された二液型塗料は、下地である被覆物に対して、塗布され、乾燥硬化した後に塗膜を形成するものであり、その塗膜の膜厚が100~3000μmの範囲であることが好ましい。
【0053】
形成される塗膜が100~3000μmの範囲であれば、未硬化の塗膜中で、比較的比重のある潜在水硬性物質の分離を抑え、塗膜中の分離が少なくなる。
また、塗膜硬化時に潜在水硬性物質がフィラーと干渉することで、硬化反応に発生する応力を緩和し、その表面に割れの発生が少なく、被覆物を保護することができるものである。
【0054】
この塗膜の厚みが100μmより薄い場合では、下地を十分に被覆することができないことがあり、被覆物を保護しきれないことがある。
3000μmより厚い場合は、塗膜の重量が多くなり、垂直面での効率的な塗布作業が行うことが難しく、硬化乾燥過程で、塗料の垂れなどが発生し、きれいな塗膜を得ることができないことがある。また、塗膜の厚みムラが多くなり、塗膜の厚み差による割れが発生することがある。
【0055】
より好ましい膜厚としては、200~1000μmの範囲であり、この範囲内であれば、混合された二液型塗料により形成される塗膜の性能を十分に発揮し、その表面に割れの発生を少なくすることができる。
この混合された二液型塗料の塗布には、スプレー,塗装用ローラーや刷毛など一般的に塗装工事で用いられる塗装器具により塗装することができる。
【0056】
また、塗装済み外壁板など板材に前もって工場などで塗装機械を用いて行うライン塗装の場合では、レシプロタイプのスプレー,ロールコーターやカーテンフローコータなどにより塗装を行うこともできる。
この下地である被覆物には、建築物の壁面を構成するコンクリート,モルタル,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,石膏ボード,スレート,セラミック,プラスチック,木材,石材,タイル等の種々の下地に塗布することが可能である。
【0057】
これら下地のpHが7~14の範囲を示す下地である場合が好ましいものとなる。これは、混合された二液型塗料では、下地のpHが7~14の範囲内であれば、その下地との界面の反応硬化が進み易く、密着性が良好で、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
このpHが7~14の範囲を示す下地には、セメントを主成分としたコンクリート,モルタル,ALCパネル,サイディングボード,押出成型板,スレートなどがある。好ましくは、pHが8以上である。
【0058】
さらに、下地にアルカリ付与剤を塗布し、下地のpHを7~14の範囲に調整した後に、混合した二液型塗料を塗布することも可能であり、下地のpHを調整することができ、好ましく行われる。このような方法は、下地のpHが6以下の場合に行われることが多い。
このようにすることで、塗布したアルカリ付与剤により下地との界面の反応硬化が進み易く、密着性が良好で、塗膜全体として、十分な強度を得ることができる。
【0059】
このアルカリ付与剤には、前記記載のアルカリ化合物と同様で、水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなど水に溶け、アルカリ性を示すことができる物質を水に溶かすことにより得られる。
また、コロイダルシリカなどのシリカ溶液のなかでアルカリ性を示すものや水ガラス,リチウムシリケート,アルミナゾルなどであっても良く、好ましく用いられる。
【0060】
さらに、コンクリートの防錆目的で使用されるような亜硝酸系の亜硝酸カルシウムや亜硝酸リチウムなどの溶液も好ましく用いられる。
混合した二液型塗料により塗膜を形成させた後に、その表面に更に、アルカリ付与剤を塗布することが好ましい。
【0061】
塗膜にアルカリ付与剤を塗布することで、塗膜の乾燥を緩やかにし、硬化が進むことになり、そのため塗膜表面が緻密になり、強度や硬度も上がることになる。そのため塗膜表面の耐摩耗性も向上することになり、耐久性の優れたものとなる。
また、アルカリ付与剤が非晶質であるシリカの微細粒子が水などの溶媒にコロイド状に分散されたコロイダルシリカの場合では、塗膜表面にコロイダルシリカの粒子が点在することになり、そのため塗膜表面が親水性の状態となり、塗膜表面に汚れが付き難いものとなり、付着した汚れも落とし易いものとなる。
【0062】
上記のように構成される二液型塗料及び二液型塗料の使用方法を、より具体的な実施形態を用いて説明する。
まず表1に示す原材料をディゾルバーで均一に撹拌して分散液を作製した。潜在水硬性物質として、平均粒子径が5μmの高炉スラグを使用した。
【0063】
フィラーとして、平均粒子径が10μmの炭酸カルシウムを使用した。なお、粒子径はレーザー回折で測定した体積基準の粒度分布から算出されるD50値である。
増粘剤として、ヒドロキシエチルセルロースを使用し、その他に、分散剤、消泡剤を添加して作製した。
【0064】
【表1】
【0065】
作製した各分散液の粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて20rpm、23℃で測定した。貯蔵安定性は、作製した各分散液を50℃で1週間安置し、沈降凝集の状態を確認した。
分散液の嵩に対し1割以上が沈降凝集している場合、もしくは沈降凝集がディゾルバーで再分散できない場合は×、一部沈降凝集しているがディゾルバーで再分散できる場合は○、沈降凝集が全くない場合は◎とした。
【0066】
次に、表2に示す原材料をディゾルバーで均一に撹拌して混和液を作製した。アルカリ化合物として、pHが11のコロイダルシリカを使用した。
着色顔料として、平均粒子径が0.3μmの酸化チタン、フィラーとして平均粒子径が10μmの炭酸カルシウムを使用した。増粘剤として、ヒドロキシエチルセルロースを使用し、その他に、分散剤、消泡剤を添加して作製した。
【0067】
【表2】
【0068】
作製した各混和液の粘度も分散液と同様に、B型粘度計を用いて20rpm、23℃で測定した。貯蔵安定性も、作製した各混和液を50℃で1週間安置し、沈降凝集の状態を確認した。
混和液の嵩に対し1割以上が沈降凝集している場合、もしくは沈降凝集がディゾルバーで再分散できない場合は×、一部沈降凝集しているがディゾルバーで再分散できる場合は○、沈降凝集が全くない場合は◎とした。
【0069】
貯蔵安定性が良かった分散液と混和液を1:1の割合で混合して二液型塗料を作製した。混合は500mlの密閉容器に分散液と混和液を250gずつ入れ、1分間手で振って混ぜ合わせた。
作製した各二液型塗料の粘度は、B型粘度計を用いて20rpm、23℃で測定した。また、混合具合を塗料の外観と、150μmのすき間を形成するフィルムアプリケータで形成した塗膜で目視確認した。
【0070】
塗料の状態でマーブル状に見える場合は×、塗料の状態で一様に見えるがフィルムアプリケータで形成した塗膜がマーブル状に見える場合は○、フィルムアプリケータで形成した塗膜でも一様に見える場合は◎とした。
この混合具合が×以外の組み合わせの二液型塗料をモルタル板に塗装用ローラーで200μm程度の塗膜厚になるように塗装し、形成された塗膜の外観を目視で確認し、割れがなかった場合は○とした。その結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
分散液Dと混和液Aおよび混和液Bの組み合わせは、分散液と混和液の粘度差が大きいためか混ざりにくかった。