(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160775
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】正極活物質及び正極活物質の作製方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20241108BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241108BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076117
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 舜平
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 丞
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA11
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB11
5H050DA02
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】充放電サイクルにおける放電容量の低下が抑制された正極活物質およびこれを用いた二次電池を提供する。
【解決手段】 空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する正極活物質であって、正極活物質は、クラック部を有するコバルト酸リチウムを有し、当該コバルト酸リチウムは、表層部と、クラック部の内壁の表面を含む内壁表層部と、を有し、表層部は、アルミニウム及びニッケルを有し、内壁表層部は、アルミニウムを有し、且つ、ニッケルを実質的に有さない、正極活物質である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する正極活物質であって、
前記正極活物質は、コバルト酸リチウムを有し、
前記コバルト酸リチウムは、クラック部を有し、
前記コバルト酸リチウムは、表層部と、前記クラック部の内壁の表面を含む内壁表層部と、を有し、
前記表層部は、アルミニウム及びニッケルを有し、
前記内壁表層部は、アルミニウムを有する、正極活物質。
【請求項2】
請求項1において、
前記内壁表層部は、ニッケルを実質的に有さない、正極活物質。
【請求項3】
空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する正極活物質であって、
前記正極活物質は、コバルト-ニッケル酸リチウムを有し、
前記コバルト-ニッケル酸リチウムは、クラック部を有し、
前記コバルト-ニッケル酸リチウムは、表層部と、前記クラック部の内壁の表面を含む内壁表層部と、を有し、
前記表層部は、アルミニウム及びチタンを有し、
前記内壁表層部は、アルミニウムを有する、正極活物質。
【請求項4】
請求項3において、
前記内壁表層部は、チタンを実質的に有さない、正極活物質。
【請求項5】
空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する正極活物質であって、
前記正極活物質は、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムを有し、
前記ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムは、クラック部を有し、
前記ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムは、表層部と、前記クラック部の内壁の表面を含む内壁表層部と、を有し、
前記表層部は、アルミニウム及びチタンを有し、
前記内壁表層部は、アルミニウムを有する、正極活物質。
【請求項6】
請求項5において、
前記内壁表層部は、チタンを実質的に有さない、正極活物質。
【請求項7】
空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する複合酸化物と、固体材料と、液体材料と、を混合し混合物を作製する第1のステップと、
前記混合物を加熱する第2のステップと、を有し、
前記固体材料は、ニッケルを有し、
前記液体材料は、アルミニウムを有する、正極活物質の作製方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記固体材料は、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルのいずれか一を有し、
前記液体材料は、アルミニウムアルコキシド溶液、アルミニウムアセチルアセトナート溶液、乳酸アルミニウム溶液及びフタロシアニンアルミニウム溶液のいずれか一を有する、正極活物質の作製方法。
【請求項9】
空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する複合酸化物と、固体材料と、液体材料と、を混合し混合物を作製する第1のステップと、
前記混合物を加熱する第2のステップと、を有し、
前記固体材料は、チタンを有し、
前記液体材料は、アルミニウムを有する、正極活物質の作製方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記固体材料は、チタン酸リチウム、酸化チタン及び水酸化チタンのいずれか一を有し、
前記液体材料は、アルミニウムアルコキシド溶液、アルミニウムアセチルアセトナート溶液、乳酸アルミニウム溶液及びフタロシアニンアルミニウム溶液のいずれか一を有する、正極活物質の作製方法。
【請求項11】
空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する複合酸化物と、第1の固体材料と、第2の固体材料と、液体材料と、を混合し混合物を作製する第1のステップと、
前記混合物を加熱する第2のステップと、を有し、
前記第1の固体材料は、ニッケルを有し、
前記第2の固体材料は、チタンを有し、
前記液体材料は、アルミニウムを有する、正極活物質の作製方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記第1の固体材料は、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルのいずれか一を有し、
前記第2の固体材料は、チタン酸リチウム、酸化チタン及び水酸化チタンのいずれか一を有し、
前記液体材料は、アルミニウムアルコキシド溶液、アルミニウムアセチルアセトナート溶液、乳酸アルミニウム溶液及びフタロシアニンアルミニウム溶液のいずれか一を有する、正極活物質の作製方法。
【請求項13】
請求項7乃至請求項10において、
前記固体材料の粒子径は、粒度分布測定で得られるD50(メディアン径)が、1μm以上5μm以下である、正極活物質の作製方法。
【請求項14】
請求項11及び請求項12において、
前記第1の固体材料の粒子径は、粒度分布測定で得られるD50(メディアン径)が、1μm以上5μm以下であり、
前記第2の固体材料の粒子径は、粒度分布測定で得られるD50(メディアン径)が、1μm以上5μm以下である、正極活物質の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、物、方法、又は、作製方法に関する。または、本発明は、プロセス、マシン、マニュファクチャ、又は、組成物(コンポジション・オブ・マター)に関する。本発明の一態様は、二次電池を含む蓄電装置、半導体装置、表示装置、発光装置、照明装置、電子機器またはそれらの作製方法に関する。
【0002】
なお、本明細書中において電子機器とは、蓄電装置を有する装置全般を指し、蓄電装置を有する電気光学装置、蓄電装置を有する情報端末装置などは全て電子機器である。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高エネルギー密度であるリチウムイオン二次電池は、携帯電話、スマートフォン、もしくはノート型コンピュータ等の携帯情報端末、携帯音楽プレーヤ、デジタルカメラ、医療機器、又は、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、もしくはプラグインハイブリッド車(PHV)等の次世代クリーンエネルギー自動車など、半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、繰り返し充電可能なエネルギーの供給源として現代社会に不可欠なものとなっている。
【0004】
リチウムイオン二次電池には、高容量密度、高性能化、及びさまざまな動作環境での安全性などが求められている。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には二次電池の高容量密度化を図ることのできる電極の作製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2020/128699号パンフレット
【特許文献2】WO2022/172118号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
リチウムイオン二次電池には、放電容量、サイクル特性、信頼性、安全性、及びコストといった様々な面で改善の余地が残されている。たとえば正極活物質の表面の結晶構造の変化を抑制するため、正極活物質の表面を不活性な酸化物で被覆する場合があるが、該被膜により導電性が低下する恐れ、およびリチウムの挿入脱離が阻害される恐れがある。導電性が低下すると、および/またはリチウムイオンの挿入脱離が阻害されると、レート特性が低下する、低温環境における充放電容量が低下する、等の二次電池の特性低下が懸念される。
【0008】
そこで本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池に用いることができ、導電性が向上する、および/またはリチウムイオンの挿入脱離が促進される正極活物質を提供することを課題の一とする。または、低温環境における放電容量の低下が抑制された正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、充放電サイクルにおける放電容量の低下が抑制された正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、放電容量が大きい正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、安全性又は信頼性の高い二次電池または車両を提供することを課題の一とする。
【0009】
また本発明の一態様は、正極活物質、複合酸化物、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することを課題の一とする。
【0010】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、明細書、図面、請求項の記載から、これら以外の課題を抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する正極活物質であって、正極活物質は、コバルト酸リチウムを有し、コバルト酸リチウムは、クラック部を有し、コバルト酸リチウムは、表層部と、クラック部の内壁の表面を含む内壁表層部と、を有し、表層部は、アルミニウム及びニッケルを有し、内壁表層部は、アルミニウムを有する正極活物質である。なお、内壁表層部は、ニッケルを実質的に有さないことが好ましい。
【0012】
または、本発明の一態様は、空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する正極活物質であって、正極活物質は、コバルト-ニッケル酸リチウムを有し、コバルト-ニッケル酸リチウムは、クラック部を有し、コバルト-ニッケル酸リチウムは、表層部と、クラック部の内壁の表面を含む内壁表層部と、を有し、表層部は、アルミニウム及びチタンを有し、内壁表層部は、アルミニウムを有する正極活物質である。なお、内壁表層部は、チタンを実質的に有さないことが好ましい。
【0013】
または、本発明の一態様は、空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する正極活物質であって、正極活物質は、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムを有し、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムは、クラック部を有し、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムは、表層部と、クラック部の内壁の表面を含む内壁表層部と、を有し、表層部は、アルミニウム及びチタンを有し、内壁表層部は、アルミニウムを有する正極活物質である。なお、内壁表層部はチタンを実質的に有さないことが好ましい。
【0014】
本発明の一態様は、空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する複合酸化物と、固体材料と、液体材料と、を混合し混合物を作製する第1のステップと、混合物を加熱する第2のステップと、を有し、固体材料は、ニッケルを有し、液体材料は、アルミニウムを有する、正極活物質の作製方法である。
【0015】
上記において、固体材料は、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルのいずれか一を有し、液体材料は、アルミニウムアルコキシド溶液、アルミニウムアセチルアセトナート溶液、乳酸アルミニウム溶液及びフタロシアニンアルミニウム溶液のいずれか一を有する、正極活物質の作製方法である。
【0016】
または、本発明の一態様は、空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する複合酸化物と、固体材料と、液体材料と、を混合し混合物を作製する第1のステップと、混合物を加熱する第2のステップと、を有し、固体材料は、チタンを有し、液体材料は、アルミニウムを有する、正極活物質の作製方法である。
【0017】
上記において、固体材料は、チタン酸リチウム、酸化チタン及び水酸化チタンのいずれか一を有し、液体材料は、アルミニウムアルコキシド溶液、アルミニウムアセチルアセトナート溶液、乳酸アルミニウム溶液及びフタロシアニンアルミニウム溶液のいずれか一を有する、正極活物質の作製方法である。
【0018】
上記のいずれか一において、固体材料の粒子径は、粒度分布測定で得られるD50(メディアン径)が、1μm以上5μm以下である、正極活物質の作製方法である。
【0019】
または、本発明の一態様は、空間群R-3mに属する層状岩塩型の結晶構造を有する複合酸化物と、第1の固体材料と、第2の固体材料と、液体材料と、を混合し混合物を作製する第1のステップと、混合物を加熱する第2のステップと、を有し、第1の固体材料は、ニッケルを有し、第2の固体材料は、チタンを有し、液体材料は、アルミニウムを有する、正極活物質の作製方法である。
【0020】
上記において、第1の固体材料は、酸化ニッケル及び水酸化ニッケルのいずれか一を有し、第2の固体材料は、チタン酸リチウム、酸化チタン及び水酸化チタンのいずれか一を有し、液体材料は、アルミニウムアルコキシド溶液、アルミニウムアセチルアセトナート溶液、乳酸アルミニウム溶液及びフタロシアニンアルミニウム溶液のいずれか一を有する、正極活物質の作製方法である。
【0021】
上記のいずれか一において、第1の固体材料の粒子径は、粒度分布測定で得られるD50(メディアン径)が、1μm以上5μm以下であり、第2の固体材料の粒子径は、粒度分布測定で得られるD50(メディアン径)が、1μm以上5μm以下である、正極活物質の作製方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一態様により、リチウムイオン二次電池に用いることができ、導電性が向上する、および/またはリチウムイオンの挿入脱離が促進される正極活物質を提供することができる。または、リチウムイオン二次電池に用いることができ、低温環境における放電容量の低下が抑制された正極活物質または複合酸化物を提供することができる。または、充放電サイクルにおける放電容量の低下が抑制された正極活物質または複合酸化物を提供することができる。または、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質または複合酸化物を提供することができる。または、放電容量が大きい正極活物質または複合酸化物を提供することができる。または、安全性又は信頼性の高い二次電池または車両を提供することができる。
【0023】
また本発明の一態様により、正極活物質、複合酸化物、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することができる。
【0024】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から、自ずと明らかとなるものであり、明細書、図面、請求項などの記載から、これら以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1(A)は、正極活物質の断面構造の模式図である。
図1(B)及び
図1(C)は、正極活物質における添加元素の分布を説明する図である。
【
図2】
図2(A)及び
図2(B)は、正極活物質における添加元素の分布を説明する図である。
【
図3】
図3は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図4】
図4(A)及び
図4(B)は、添加元素を添加する工程を説明する図である。
【
図5】
図5は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図6】
図6(A)及び
図6(B)は、クラックの一例を説明するSEM(走査電子顕微鏡)像である。
【
図7】
図7は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図8】
図8は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図9】
図9は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図10】
図10は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図11】
図11は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図12】
図12は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図13】
図13は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【
図14】
図14は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、本発明を実施するための形態例について図面等を用いて説明する。ただし、本発明は以下の形態例に限定して解釈されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で発明を実施する形態を変更することは可能である。
【0027】
本明細書等では空間群は国際表記(またはHermann-Mauguin記号)のShort notationを用いて表記する。またミラー指数を用いて結晶面及び結晶方向を表記する。空間群、結晶面、および結晶方向の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では書式の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべてを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれぞれ表現する。また空間群R-3mで表される三方晶は、構造の理解のしやすさのため、一般に六方晶の複合六方格子で表されることがある。またミラー指数として(hkl)だけでなく(hkil)を用いることがある。ここでiは-(h+k)である。本明細書等では空間群R-3mについて、特に断らない限り結晶面等を複合六方格子で表記する。
【0028】
なお本明細書等において、粒子とは球形(断面形状が円)のみを指すことに限定されず、個々の粒子の断面形状が楕円形、長方形、台形、三角形、角が丸まった四角形、非対称の形状などが挙げられ、さらに個々の粒子は不定形であってもよい。
【0029】
また正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムが全て脱離した場合の電気量をいう。例えば、LiCoO2の理論容量は274mAh/g、LiNiO2の理論容量は275mAh/g、LiMn2O4の理論容量は148mAh/gである。
【0030】
また正極活物質中に挿入脱離可能なリチウムがどの程度残っているかを、組成式中のx、たとえばLixMO2中のxで示す(ここでMはコバルト、ニッケル、マンガンから選択される一以上である)。二次電池中の正極活物質の場合、x=(理論容量-充電容量)/理論容量とすることができる。たとえばLiMO2を正極活物質に用いた二次電池を219.2mAh/g充電した場合、Li0.2MO2またはx=0.2ということができる。LixMO2中のxが小さいとは、たとえば0.1<x≦0.24をいう。また正極活物質から脱離したリチウムが、理論容量に対してどの程度であるかを充電深度として示す場合がある。本明細書等において、充電深度=1-xである。
【0031】
たとえば正極に用いる前の、適切に合成したコバルト酸リチウムが化学量論比をおよそ満たす場合、LiCoO2でありx=1である。また放電が終了した二次電池に含まれるコバルト酸リチウムも、LiCoO2でありx=1といってよい。ここでいう放電が終了したとは、たとえば100mA/g以下の電流で、電圧が3.0Vまたは2.5V以下となった状態をいう。
【0032】
LixMO2中のxの算出に用いる充電容量および/または放電容量は、短絡および/または電解液等の分解の影響がないか、少ない条件で計測することが好ましい。たとえば短絡とみられる急激な容量の変化が生じた二次電池のデータはxの算出に使用してはならない。
【0033】
また結晶構造の空間群はXRD、電子線回折、中性子線回折等によって同定されるものである。そのため本明細書等において、ある空間群に帰属する、ある空間群に属する、またはある空間群であるという用語は、ある空間群に同定されると言い換えることができる。
【0034】
また陰イオンの配置がおおむね立方最密充填に近ければ、立方最密充填とみなすことができる。立方最密充填の陰イオンの配置とは、一層目に充填された陰イオンの空隙の上に二層目の陰イオンが配置され、三層目の陰イオンが、二層目の陰イオンの空隙の直上であって、一層目の陰イオンの直上でない位置に配置された状態を指す。そのため陰イオンは厳密に立方格子でなくてもよい。また、現実の結晶は必ず欠陥を有するため、分析結果が必ずしも理論通りでなくてもよい。たとえば電子線回折パターンまたはTEM像等のFFT(高速フーリエ変換)パターンにおいて、理論上の位置と若干異なる位置にスポットが現れてもよい。たとえば理論上の位置との方位が5度以下、または2.5度以下であれば立方最密充填構造をとるといってよい。
【0035】
またある元素の分布とは、ある連続的な分析手法で、該元素がノイズでない範囲で連続的に検出される領域をいうこととする。ノイズでない範囲で連続的に検出される領域とは、たとえば分析を複数回行ったときに必ず検出される領域ということもできる。
【0036】
また導電性を向上させる添加元素および/または結晶構造を安定化させる添加元素が添加された正極活物質を、複合酸化物、正極材、正極材料、二次電池用正極材、等と表現する場合がある。
【0037】
また、以下の実施の形態等で正極活物質の個別の粒子の特徴について述べる場合、必ずしも全ての粒子がその特徴を有していなくてもよい。たとえばランダムに3個以上選択した正極活物質の粒子のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上がその特徴を有していれば、十分に正極活物質およびそれを有する二次電池の特性を向上させる効果があるということができる。
【0038】
二次電池の充電電圧の上昇に伴い、正極の電圧は一般的に上昇する。本発明の一態様の正極活物質は、高い電圧においても安定な結晶構造を有する。充電状態において正極活物質の結晶構造が安定であることにより、充放電の繰り返しに伴う充放電容量の低下を抑制することができる。
【0039】
なお特に言及しない限り、二次電池が有する材料(正極活物質、負極活物質、電解質、セパレータ等)は、劣化前の状態について説明するものとする。なお二次電池製造段階におけるエージング処理およびバーンイン処理によって放電容量が減少することは劣化とは呼ばないとする。たとえば、リチウムイオン二次単電池およびリチウムイオン二次組電池(以下、リチウムイオン二次電池という)の定格容量の97%以上の放電容量を有する場合は、劣化前の状態と言うことができる。定格容量は、ポータブル機器用リチウムイオン二次電池の場合JIS C 8711:2019に準拠する。これ以外のリチウムイオン二次電池の場合、上記JIS規格に限らず電動車両推進用、産業用などの各JIS、IEC規格等に準拠する。
【0040】
なお、本明細書等において、二次電池が有する材料の劣化前の状態を、初期品、または初期状態と呼称し、劣化後の状態(二次電池の定格容量の97%未満の放電容量を有する場合の状態)を、使用中品または使用中の状態、あるいは使用済み品または使用済み状態と呼称する場合がある。
【0041】
(実施の形態1)
本実施の形態では、
図1及び
図2を用いて本発明の一態様の正極活物質100について説明する。
【0042】
<正極活物質>
図1(A)は本発明の一態様の正極活物質100の断面構造の模式図である。
図1(B)及び
図1(C)は、正極活物質100の断面において、STEM(走査透過電子顕微鏡)-EDX(エネルギー分散型X線分光法)線分析の測定を行う場合の元素濃度分布の模式図である。
【0043】
図1(A)に、クラック部106を有する正極活物質100の断面構造を示している。ただし、本発明の一態様の正極活物質100は、クラック部106を有する正極活物質100だけでなく、クラック部106を有さない正極活物質100を有していてもよい。また、クラック部106を有する正極活物質100の粒子数が、正極活物質100の全体の粒子数に占める割合は、少ない方が好ましい。
【0044】
図1(A)に示すように、正極活物質100は、表層部100aと、内部100bを有する。また、クラック部106を有する正極活物質100は、クラック部106において、内壁表層部100cを有する。
【0045】
なお、
図1(A)に示すクラック部106は、正極活物質100の作製工程において、添加元素を添加する工程よりも前に発生したクラックに、添加元素が添加された後の様子を示している。添加元素を添加する工程よりも前に発生したクラックであるため、当該クラック部106が有する内壁表層部100cに、後述する添加元素を有することができる。
【0046】
一方、正極活物質100の作製工程において、添加元素を添加する工程よりも後にもクラックは発生し得る。添加元素を添加する工程よりも後に発生したクラック部は、内壁表層部100cを有することができない。そのため、正極活物質100は、
図1(A)に示すクラック部106を有する正極活物質だけでなく、表層部100aを有し、内壁表層部100cを有さない正極活物質を有しうる。正極活物質100の作製工程の詳細は後述する。
【0047】
本明細書等において、正極活物質100の表層部100aとは、例えば、表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは表面から内部に向かって、表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をいう。なお略垂直とは、80°以上100°以下とする。
【0048】
本明細書等において、正極活物質100の内壁表層部100cとは、例えば、クラック部106において、クラック部106の内壁表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは内壁表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは内壁表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは内壁表面から内部に向かって、内壁表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をいう。
【0049】
また正極活物質の表層部100aより深い領域及び内壁表層部100cより深い領域を、内部100bと呼ぶ。内部100bは、内部領域またはコアと同義である。
【0050】
正極活物質100の表面及びクラック部106の内壁表面とは、上記表層部100aおよび内部100bを含む複合酸化物の表面をいうこととする。そのため、充放電に寄与しうるリチウムサイトを有さない、酸化アルミニウム(AlOX(Xは任意数))をはじめとする金属酸化物が付着したもの、正極活物質の作製後に化学吸着した炭酸塩、ヒドロキシ基等は、正極活物質100に含まないとする。なお付着した金属酸化物とは、たとえば内部100bと結晶構造が一致しない金属酸化物をいう。
【0051】
また正極活物質100に付着した電解質、有機溶剤、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物も正極活物質100に含まないとする。
【0052】
また図示しないが、正極活物質100は結晶粒界を有していてもよい。結晶粒界とは、たとえば正極活物質100の粒子同士が固着している部分、正極活物質100内部で結晶方位が変わる部分、つまりSTEM像等における明線と暗線の繰り返しが不連続になった部分、結晶欠陥を多く含む部分、結晶構造が乱れている部分等をいう。また結晶欠陥とは断面TEM(透過電子顕微鏡)、断面STEM像等で観察可能な欠陥、つまり格子間に他の原子が入り込んだ構造、空洞等をいうこととする。結晶粒界は、面欠陥の一つといえる。また結晶粒界の近傍とは、結晶粒界から10nm以内の領域をいうこととする。
【0053】
[含有元素]
正極活物質100は、リチウムと、遷移金属Mと、酸素と、導電性を向上させる添加元素と、を有する。さらに結晶構造を安定化させる添加元素を有することが好ましい。導電性を向上させる添加元素と結晶構造を安定化させる添加元素の上位概念として、単に添加元素と呼ぶ場合がある。遷移金属Mはコバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄から選択される一以上である。正極活物質100はたとえば、層状岩塩型の結晶構造を有することができる。より具体的には、層状岩塩型の結晶構造を有するコバルト酸リチウム(LCO)、コバルト-ニッケル酸リチウム(LCNO)、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム(NCM)及びニッケル-コバルト-アルミニウム酸リチウム(NCA)等を有することができる。
【0054】
また、正極活物質100は層状岩塩型の結晶構造を有するリチウムと遷移金属Mの複合酸化物(LiMO2)に添加元素が加えられたもの、ということができる。ただしこの場合、本発明の一態様の正極活物質100は後述する添加元素の分布または結晶構造を有すればよい。そのため組成が厳密にLi:M:O=1:1:2(原子数比)に限定されるものではない。
【0055】
導電性を向上させる添加元素は、正極活物質100の表層部100aに固溶していることが好ましい。また、結晶構造を安定化させる添加元素は、正極活物質100の表層部100a及びクラック部106の内壁表層部100cに固溶していることが好ましい。
【0056】
そのため例えば、表層部100a及び内壁表層部100cにおいてSTEM-EDX線分析を深さ方向に行った際に、これらの添加元素が検出される量が増加する深さは、遷移金属Mが検出される量が増加する深さよりも、深い位置、すなわち正極活物質100の内部側に位置していることが好ましい。
【0057】
正極活物質100が有する導電性を向上させる添加元素としては、単体で導電性が高いだけでなく、化合物、たとえば酸化物となったときに導電性の高い元素であればよい。ある化合物の導電性が高いとは、該化合物の電気伝導度(文献値)が、正極活物質100の内部100bが有する材料の電気伝導度(文献値)よりも高いことを言う。具体的にはニッケル、チタンのいずれか一又は両方を用いることができる。これらの添加元素を有することで、正極活物質100の表層部100aのインピーダンスが低下することが期待される。なお、ニッケル酸化物、及びチタン酸化物は、半導体性を有する。
【0058】
また結晶構造を安定化させる添加元素としては、アルミニウム、マグネシウム、フッ素、ジルコニウム、鉄、マンガン、クロム、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、臭素、及びベリリウムから選ばれた一または二以上を用いることが好ましい。
【0059】
[分布]
正極活物質100は表層部100a及びクラック部106の内壁表層部100cに上記の添加元素を有することが好ましい。また、上記において、添加元素は複数有することがより好ましい。
【0060】
また、表層部100aは内部100bよりも添加元素から選ばれた一または二以上の濃度が高いことが好ましい。または、表層部100aは内部100bよりも添加元素から選ばれた一または二以上の検出量が多いことが好ましい。また表層部100aにおいて、正極活物質100が有する添加元素から選ばれた一または二以上は濃度勾配を有していることが好ましい。
【0061】
また、内壁表層部100cは内部100bよりも添加元素から選ばれた一または二以上の濃度が高いことが好ましい。または、内壁表層部100cは内部100bよりも添加元素から選ばれた一または二以上の検出量が高いことが好ましい。また内壁表層部100cにおいて、正極活物質100が有する添加元素から選ばれた一または二以上は濃度勾配を有していることが好ましい。
【0062】
また、正極活物質100が空間群R-3mの層状岩塩型の結晶構造を有する場合、表層部100aは、エッジ領域と、ベーサル領域と、を有する。
図1(A)に付した(001)は、LiMO
2の(001)面を示している。ここで、エッジ領域は、(001)面と交差する方向に露出する表面((001)配向以外の表面ともいう)を有しており、当該表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは表面から内部に向かって、表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をエッジ領域と呼ぶ。なお、ここでいう交差する、とは、第1の面((001)面)の垂線と、第2の面(正極活物質100の表面)の法線と、が成す角度が、10度以上90度以下、より好ましくは30度以上90度以下であることをいい、更に好ましくは50度以上90度以下であることをいう。
【0063】
また、ベーサル領域は、(001)面と平行な表面((001)配向した表面ともいう)を有しており、当該表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは表面から内部に向かって35nm以内、さらに好ましくは表面から内部に向かって20nm以内、最も好ましくは表面から内部に向かって、表面から垂直または略垂直に10nm以内の領域をベーサル領域と呼ぶ。なお、ここでいう平行とは、第1の面((001)面)の垂線と、第2の面(正極活物質100の表面)の法線と、が成す角度が、0度以上10度未満、好ましくは0度以上5度以下、より好ましくは0度以上2.5度以下であることをいう。
【0064】
また正極活物質100はエッジ領域とベーサル領域とで、添加元素の分布が異なっている場合がある。
【0065】
また正極活物質100は添加元素によって分布が異なっている場合がある。たとえば添加元素によって表層部における検出量のピークの、表面または後述するEDX線分析における基準点からの深さが異なっている場合がある。ここでいう検出量のピークとは、表層部100aまたは表面から50nm以下における検出量の極大値をいうこととする。また、検出量のピークとは、内壁表層部100cまたは内壁表面から50nm以下における検出量の極大値をいうこととする。検出量とは、たとえばEDX線分析におけるカウントをいう。
【0066】
図1(B)は正極活物質100の表層部100aを含む領域において、正極活物質100の外部(A)から内部(B)に向かってSTEM-EDX線分析の測定をした場合の元素濃度分布の模式図である。模式図のグラフにおいて、横軸は距離、縦軸は添加元素の濃度を示している。なお、当該グラフの縦軸を、添加元素の特性X線のカウント数として示すこともできる。正極活物質100の外部から内部に向かって測定することを、深さ方向に測定する、ともいい、
図1(A)におけるAからBの矢印は表層部100aの深さ方向の一例である。なお、
図1(A)におけるAからBの矢印を付した位置の表層部100aは、エッジ領域である。
【0067】
図1(B)は、正極活物質100が、導電性を向上させる添加元素としてニッケル、チタンのいずれか一又は両方を有し、結晶構造を安定化させる添加元素としてアルミニウムを有する場合の、各添加元素の好ましい分布を示している。添加元素のうち、ニッケル(Ni)及びチタン(Ti)は、
図1(B)において「Ni,Ti」と付したカーブで示すように、外部側(A側)の正極活物質100における濃度が、内部側(B側)の正極活物質100における濃度よりも高いことが好ましい。または、ニッケル(Ni)及びチタン(Ti)の、外部側(A側)の正極活物質100における検出量(カウント数)が、内部側(B側)の正極活物質100における検出量よりも大きいことが好ましい。さらに、ニッケル(Ni)及びチタン(Ti)は、表層部100aの中でもより表面に近い領域に検出量のピークを有することが好ましい。たとえば、ニッケル(Ni)及びチタン(Ti)は、表面、または基準点から3nm以内に検出量のピークを有することが好ましい。
【0068】
ニッケル、チタンのいずれか一又は両方が上記のように分布することで、正極活物質100の表層部100aにおけるインピーダンスを低下させることができ、正極活物質100を電池に用いた場合には、充放電の速度を向上させる効果、低温での充放電特性を向上させることが期待できる。
【0069】
また、アルミニウムは、
図1(B)において「Al」と付したカーブで示すように、ニッケルおよびチタンよりも内部側に濃度のピークを有することが好ましい。またはアルミニウムは、ニッケルおよびチタンよりも内部側に検出量のピークを有することが好ましい。
図1(B)のようにニッケル及びチタンとアルミニウムの分布は重なっていてもよいが、重なる領域がほとんどなくてもよい。アルミニウムの検出量のピークは表層部100aに存在してもよいし、表層部100aより深くてもよい。たとえば表面、または基準点から内部に向かって5nm以上30nm以下の領域にピークを有することが好ましい。
【0070】
[アルミニウム]
アルミニウムが上記のように分布することで、正極活物質100の層状岩塩型の結晶構造をより安定化することができる。たとえば正極活物質100の表層部100aにおいて、層状岩塩型の結晶構造からスピネル型結晶構造に変化することを抑制することが期待される。
【0071】
一方でアルミニウムが過剰であるとリチウムの挿入および脱離に悪影響が出る恐れがある。
【0072】
そのため正極活物質100全体が有するアルミニウムが適切な量であることが好ましい。たとえば正極活物質100の全体が有するアルミニウムの原子数は、正極活物質100の全体が有する遷移金属M(コバルト、ニッケル、マンガンおよび鉄のうち、正極活物質100が有する元素の全て)の原子数の0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下が好ましく、0.3%以上1.5%以下がより好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここでいう正極活物質100全体が有する量とはたとえば、GD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質100の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質100の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0073】
図1(C)は正極活物質100の内壁表層部100cを含む領域において、正極活物質100の外部(C)から内部(D)に向かってSTEM-EDX線分析の測定をした場合の元素濃度分布の模式図である。模式図のグラフにおいて、横軸は距離、縦軸は添加元素の濃度を示している。なお、当該グラフの縦軸を、添加元素の特性X線のカウント数として示すこともできる。正極活物質100の外部から内部に向かって測定することも、深さ方向に測定する、といい、
図1(A)におけるCからDの矢印は内壁表層部100cの深さ方向の一例である。なお、正極活物質100が空間群R-3mの層状岩塩型の結晶構造を有する場合、クラックは(001)面に生じる可能性が高いが、クラックは(001)面以外に生じる場合もある。
【0074】
図1(C)では、
図1(B)と異なり、「Ni,Ti」と付したカーブを記載していない。これは、クラック部106の内壁表層部100cに、導電性を向上させる添加元素であるニッケル及びチタンを実質的に有さないという、正極活物質100の好ましい添加元素の分布を示すものである。また、結晶構造を安定化させる添加元素であるアルミニウムは、
図1(C)において「Al」と付したカーブで示すように、
図1(B)におけるアルミニウムと同様に分布していることが好ましい。
【0075】
ただし、表層部100aにおけるアルミニウムの分布と、内壁表層部100cにおけるアルミニウムの分布と、は必ずしも一致している必要はなく、異なっていてもよい。例えば、表層部100aにおけるアルミニウムの濃度が、内壁表層部100cにおけるアルミニウムの濃度よりも高くてもよいし、表層部100aにおけるアルミニウムの濃度が、内壁表層部100cにおけるアルミニウムの濃度よりも低くてもよい。また、表層部100aにおけるアルミニウムの濃度のピークの表面からの距離と、内壁表層部100cにおけるアルミニウムの濃度のピークの内壁表面からの距離と、が異なっていてもよい。
【0076】
上記のように、内壁表層部100cに、ニッケル及びチタンを有さず、アルミニウムを有することで、正極活物質100を電池に用いた場合に、内壁表層部100cにおけるインピーダンスを高くし、クラック部106における充放電反応を抑制することができる。クラック部106での充放電反応、具体的にはクラック部106の内壁表面でのリチウムイオンの挿入脱離、に起因する正極活物質100の体積変化によって、クラック部106が拡大し電池の劣化が増大してしまうことを抑制できるため、上記に示した内壁表層部100cにおける添加元素の分布とすることが好ましい。
【0077】
なお、本明細書において、ある元素を実質的に有さない、とは、断面STEM-EDXにおける分析において、当該元素の特性X線エネルギースペクトルが検出されない場合をいう。また、当該元素の特性X線エネルギースペクトルが検出されない場合のことを、当該元素がSTEM-EDX分析において検出下限以下である、ともいう。
【0078】
図2(A)及び
図2(B)は、
図1(B)及び
図1(C)で示した構成に加えて、結晶構造を安定化させる添加元素としてマグネシウムを有する場合の、添加元素の好ましい分布を示している。添加元素のうち、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)及びチタン(Ti)は、
図2(A)に、「Mg,Ni,Ti」と付したカーブで示すように、外部側(A側)の正極活物質100における濃度が、内部側(B側)の正極活物質100における濃度よりも高いことが好ましい。または、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)及びチタン(Ti)の、外部側(A側)の正極活物質100における検出量が、内部側(B側)の正極活物質100における検出量よりも大きいことが好ましい。さらに、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)及びチタン(Ti)は、表層部100aの中でもより表面に近い領域に検出量のピークを有することが好ましい。たとえば表面、または基準点から3nm以内に検出量のピークを有することが好ましい。
【0079】
またマグネシウムとニッケルの分布は、表層部100aにおいて重なっていることが好ましい。マグネシウムとニッケルの検出量のピークは同じ深さであってもよく、マグネシウムのピークがより表面側であってもよく、ニッケルのピークがより表面側であってもよい。ニッケルの検出量のピークと、マグネシウムの検出量のピークの深さの差は3nm以内が好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。また検出量の半値幅は狭いことが好ましい。
【0080】
同様に、マグネシウムとチタンの分布は、表層部100aにおいて重なっていることが好ましい。マグネシウムとチタンの検出量のピークは同じ深さであってもよく、マグネシウムのピークがより表面側であってもよく、チタンのピークがより表面側であってもよい。チタンの検出量のピークと、マグネシウムの検出量のピークの深さの差は3nm以内が好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。また検出量の半値幅は狭いことが好ましい。
【0081】
つまり、マグネシウムとニッケルとチタンの分布は、表層部100aにおいて重なっていることが好ましい。チタンの検出量のピークと、ニッケルの検出量のピークと、マグネシウムの検出量のピークの深さの差は3nm以内が好ましく、1nm以内であるとさらに好ましい。また検出量の半値幅は狭いことが好ましい。
【0082】
ただし、
図1(C)における説明と同様に、
図2(B)に示すように、正極活物質100において、クラック部106の内壁表層部100cに、導電性を向上させる添加元素であるニッケル及びチタンを実質的に有さないことが好ましく、結晶構造を安定化させる添加元素であるマグネシウム(Mg)及びアルミニウム(Al)を有することが好ましい。
【0083】
正極活物質100における添加元素の効果について、上記で説明した以外の元素について以下で説明する。
【0084】
[フッ素]
結晶構造を安定化させる添加元素であるフッ素は、1価の陰イオンであり、表層部100a及び内壁表層部100cにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、リチウム脱離エネルギーが小さくなる。これは、リチウム脱離に伴うコバルトイオンの酸化還元電位が、フッ素の有無によって異なることによる。つまりフッ素を有さない場合は、リチウム脱離に伴いコバルトイオンは3価から4価に変化する。一方フッ素を有する場合は、リチウム脱離に伴いコバルトイオンは2価から3価に変化する。両者で、コバルトイオンの酸化還元電位が異なる。そのため正極活物質100の表層部100a及び内壁表層部100cにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、フッ素近傍のリチウムイオンの脱離および挿入がスムースに起きやすいと言える。そのため正極活物質100を二次電池に用いたときに充放電特性、大電流特性等を向上させることができる。また電解液に接する部分である表面を有する表層部100a及び内壁表層部100cにフッ素が存在することで、または表面にフッ化物が付着することで、正極活物質100と、電解液との過剰な反応を抑制することができる。またフッ酸に対する耐食性を効果的に向上させることができる。
【0085】
またフッ化リチウムをはじめとするフッ化物の融点が、他の添加元素源の融点より低い場合、その他の添加元素源の融点を下げる融剤(フラックス剤ともいう)として機能しうる。フッ化物がLiF及びMgF2を有する場合、LiFとMgF2の共融点は742℃付近であるため、添加元素を混合した後の加熱工程において、加熱温度を742℃以上とすると好ましい。
【0086】
<正極活物質の作製方法>
図3乃至
図14を用いて、本発明の一態様の正極活物質100の作製方法の例について説明する。
【0087】
図1及び
図2で説明したような添加元素の分布を有する正極活物質100を作製するためには、添加元素の加え方が重要である。
図1及び
図2で説明したような添加元素の分布を有する正極活物質100の作製方法の具体例を、以下に示す。
【0088】
[正極活物質の作製方法1]
図1(A)、
図2(A)及び
図2(B)で説明した添加元素の分布を有する正極活物質100の一例として、正極活物質100Aの作製方法を説明する。正極活物質100Aは、表層部100aに、導電性を向上させる添加元素としてニッケル及びチタンのいずれか一また両方を有し、且つ、結晶構造を安定化させる添加元素としてアルミニウムを有するコバルト酸リチウムである。また、正極活物質100Aは、クラック部106の内壁表層部100cに、結晶構造を安定化させる添加元素としてアルミニウムを有し、導電性を向上させる添加元素としてニッケル及びチタンを実質的に有さないコバルト酸リチウムである。
【0089】
正極活物質100Aの作製方法の一例として、正極活物質100A-1の作製方法を、
図3乃至
図5を用いて説明する。
【0090】
<ステップS11>
図3に示すステップS11では、出発材料であるリチウム及び遷移金属の材料として、それぞれリチウム源(Li源)及びコバルト源(Co源)を準備する。
【0091】
リチウム源としては、リチウムを有する化合物を用いると好ましく、例えば炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、又はフッ化リチウム等を用いることができる。リチウム源は純度が高いと好ましく、例えば純度が99.99%以上の材料を用いるとよい。
【0092】
コバルト源としては、コバルトを有する化合物を用いると好ましく、例えば四酸化三コバルト等の酸化コバルト、水酸化コバルト等を用いることができる。
【0093】
コバルト源は純度が高いと好ましく、例えば純度が3N(99.9%)以上、好ましくは4N(99.99%)以上、より好ましくは4N5(99.995%)以上、さらに好ましくは5N(99.999%)以上の材料を用いるとよい。高純度の材料を用いることで、正極活物質の不純物を制御することができる。その結果、二次電池の容量が高まり、及び/または二次電池の信頼性が向上する。
【0094】
加えて、コバルト源の結晶性が高いと好ましく、例えば単結晶粒を有するとよい。コバルト源の結晶性の評価としては、TEM像、STEM像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等による評価、またはX線回折(XRD)、電子線回折、中性子線回折等の評価がある。なお、上記の結晶性の評価に関する手法は、コバルト源だけではなく、その他の結晶性の評価にも適用することができる。
【0095】
<ステップS12>
次に、
図3に示すステップS12として、リチウム源及びコバルト源を粉砕及び混合して、混合材料を作製する。粉砕及び混合は、乾式または湿式で行うことができる。湿式はより小さく解砕することができるため好ましい。湿式で行う場合は、溶媒を準備する。溶媒としてはアセトン等のケトン、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオキサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができる。リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることがより好ましい。正極活物質の作製方法1では、純度が99.5%以上の脱水アセトンを用いることとする。水分含有量を10ppm以下まで抑えた、純度が99.5%以上の脱水アセトンにリチウム源及びコバルト源を混合して、粉砕及び混合を行うと好適である。上記のような純度の脱水アセトンを用いることで、混入しうる不純物を低減することができる。
【0096】
粉砕及び混合の手段にはボールミル、またはビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、粉砕メディアとして酸化アルミニウムボール又は酸化ジルコニウムボールを用いるとよい。酸化ジルコニウムボールは不純物の排出が少なく好ましい。また、ボールミル、またはビーズミル等を用いる場合、メディアからのコンタミネーションを抑制するために、周速を、100mm/s以上2000mm/s以下とするとよい。正極活物質の作製方法1では、周速838mm/s(回転数400rpm、ボールミルの直径40mm)として実施する。
【0097】
<ステップS13>
次に、
図3に示すステップS13として、上記混合材料を加熱する。加熱は、800℃以上1100℃以下で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度がさらに好ましい。温度が低すぎると、リチウム源及びコバルト源の分解及び溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が高すぎると、リチウム源からリチウムが蒸散する、及び/またはコバルトが過剰に還元される、などが原因となり欠陥が生じるおそれがある。例えばコバルトが3価から2価へ変化し、酸素欠陥などが誘発されることがある。
【0098】
加熱時間は短すぎるとコバルト酸リチウムが合成されないが、長すぎると生産性が低下する。たとえば加熱時間は1時間以上100時間以下とするとよく、2時間以上20時間以下とすることがさらに好ましい。
【0099】
昇温レートは、加熱温度の到達温度によるが、80℃/h以上250℃/h以下がよい。たとえば1000℃で10時間加熱する場合、昇温レートは200℃/hとするとよい。
【0100】
加熱は、乾燥空気等の水が少ない雰囲気で行うことが好ましく、例えば露点が-50℃以下、より好ましくは露点が-80℃以下の雰囲気がよい。正極活物質の作製方法1においては、露点-93℃の雰囲気にて、加熱を行うこととする。また材料中に混入しうる不純物を抑制するためには、加熱雰囲気におけるCH4、CO、CO2、及びH2等の不純物濃度が、それぞれ5ppb(parts per billion)以下にするとよい。
【0101】
加熱雰囲気として酸素を有する雰囲気が好ましい。例えば反応室に乾燥空気を導入し続ける方法がある。この場合、乾燥空気の流量は10L/minとすることが好ましい。酸素を反応室へ導入し続け、酸素が反応室内を流れている方法をフローと呼ぶ。
【0102】
加熱雰囲気を、酸素を有する雰囲気とする場合、フローさせないやり方でもよい。例えば反応室を減圧してから酸素を充填し(パージし、といってもよい)、当該酸素が反応室から出入りしないようにする方法でもよい。たとえば反応室を-970hPaまで減圧してから、50hPaまで酸素を充填すればよい。
【0103】
加熱後の冷却は自然放冷でよいが、規定温度から室温までの降温時間が10時間以上50時間以下に収まると好ましい。ただし、必ずしも室温までの冷却は要せず、次のステップが許容する温度まで冷却されればよい。
【0104】
本工程の加熱は、ロータリーキルン又はローラーハースキルンによる加熱を行ってもよい。ロータリーキルンによる加熱は、連続式、バッチ式いずれの場合でも攪拌しながら加熱することができる。
【0105】
加熱の際に用いる、るつぼは酸化アルミニウムのるつぼが好ましい。酸化アルミニウムのるつぼは不純物を放出しにくい材質である。正極活物質の作製方法1においては、純度が99.9%の酸化アルミニウムのるつぼを用いる。るつぼには蓋を配して加熱すると好ましい。材料の揮発を防ぐことができる。
【0106】
またるつぼは新品のものよりも、複数回使用したるつぼを用いることが好ましい。本明細書等において新品のるつぼとは、リチウム、遷移金属M、および/または添加元素を含む材料を入れて加熱する工程が2回以下のものをいうこととする。また複数回使用したるつぼとは、リチウム、遷移金属Mおよび/または添加元素を含む材料を入れて加熱する工程を3回以上経たものということとする。これは新品のるつぼを用いると、加熱の際にフッ化リチウムをはじめとする材料の一部がさやに吸収、拡散、移動および/または付着する恐れがあるためである。これらにより材料の一部が失われると、特に正極活物質の表層部の元素の分布が好ましい範囲にならない懸念が高まる。一方で複数回使用したるつぼではこの恐れが少ない。
【0107】
加熱が終わったあと、必要に応じて粉砕し、さらにふるいを実施してもよい。加熱後の材料を回収する際に、るつぼから乳鉢へ移動させたのち回収してもよい。また、当該乳鉢は酸化アルミニウムの乳鉢を用いると好適である。酸化アルミニウムの乳鉢は不純物を放出しにくい材質である。具体的には、純度が90%以上、好ましくは純度が99%以上の酸化アルミニウムの乳鉢を用いる。なお、ステップS13以外の後述の加熱の工程においても、ステップS13と同等の加熱条件を適用できる。
【0108】
<ステップS14>
以上の工程により、
図3に示すステップS14で示すコバルト酸リチウム(LCO)を合成することができる。
【0109】
<ステップS15>
次に、
図3に示すステップS15としてコバルト酸リチウムを加熱する。コバルト酸リチウムに対する最初の加熱のため、ステップS15の加熱を初期加熱と呼ぶことがある。または以下に示すステップS33の前に加熱するものであるため、予備加熱又は前処理と呼ぶことがある。
【0110】
初期加熱により、上述したようにコバルト酸リチウムの表層部100aの一部からリチウムが脱離する。また内部100bの結晶性を高める効果が期待できる。またステップS11等で準備したリチウム源および/またはコバルト源には、不純物が混入していることがある。ステップS14で完成したコバルト酸リチウムから不純物を低減させることが、初期加熱によって可能である。
【0111】
さらに初期加熱を経ることで、コバルト酸リチウムの表面がなめらかになる効果がある。表面がなめらかとは、凹凸が少なく、複合酸化物が全体的に丸みを帯び、さらに角部が丸みを帯びる様子をいう。さらに、表面へ付着した異物が少ない状態をなめらかと呼ぶ。異物は凹凸の要因となると考えられ、表面へ付着しない方が好ましい。
【0112】
この初期加熱には、リチウム源を用意しなくてよい。または、添加元素源を用意しなくてよい。または、融剤として機能する材料を用意しなくてよい。
【0113】
本工程の加熱時間は短すぎると十分な効果が得られないが、長すぎると生産性が低下する。例えばステップS13で説明した加熱条件から選択して実施することができる。当該加熱条件に補足すると、本工程の加熱温度は、複合酸化物の結晶構造を維持するため、ステップS13の温度より低くするとよい。また本工程の加熱時間は、複合酸化物の結晶構造を維持するため、ステップS13の時間より短くするとよい。例えば700℃以上1000℃以下の温度で、2時間以上20時間以下の加熱を行うとよい。
【0114】
また内部100bの結晶性を高める効果とは、例えばステップS13で作製したコバルト酸リチウムが有する収縮差等に由来する歪み、ずれ等を緩和する効果である。
【0115】
コバルト酸リチウムは、ステップS13の加熱によって、コバルト酸リチウムの表面と内部に温度差が生じることがある。温度差が生じると収縮差が誘発されることがある。温度差により、表面と内部の流動性が異なるため収縮差が生じるとも考えられる。収縮差に関連するエネルギーは、コバルト酸リチウムに内部応力の差を与えてしまう。内部応力の差は歪みとも称され、当該エネルギーを歪みエネルギーと呼ぶことがある。内部応力はステップS15の初期加熱により除去され、別言すると歪みエネルギーはステップS15の初期加熱により均質化されると考えられる。歪みエネルギーが均質化されるとコバルト酸リチウムの歪みが緩和される。これに伴いコバルト酸リチウムの表面がなめらかになる可能性がある。表面が改善されたとも称する。別言すると、ステップS15を経るとコバルト酸リチウムに生じた収縮差が緩和され、複合酸化物の表面がなめらかになると考えられる。
【0116】
また収縮差は上記コバルト酸リチウムにミクロなずれ、例えば結晶のずれを生じさせることがある。当該ずれを低減するためにも、本工程を実施するとよい。本工程を経ると、上記複合酸化物のずれを均一化させることが可能である。ずれが均一化されると、複合酸化物の表面がなめらかになる可能性がある。結晶粒の整列が行われたとも称する。別言すると、ステップS15を経ると複合酸化物に生じた結晶等のずれが緩和され、複合酸化物の表面がなめらかになると考えられる。
【0117】
表面がなめらかなコバルト酸リチウムを正極活物質として用いると、二次電池として充放電した際の劣化が少なくなり、正極活物質の割れを防ぐことができる。
【0118】
なお、ステップS14としてあらかじめ合成されたコバルト酸リチウムを用いてもよい。この場合、ステップS11乃至ステップS13を省略することができる。あらかじめ合成されたコバルト酸リチウムに対してステップS15を実施することで、表面がなめらかなコバルト酸リチウムを得ることができる。
【0119】
次にステップS21乃至ステップS53に示すように、コバルト酸リチウムに添加元素を加えることが好ましい。正極活物質の作製方法1で説明する正極活物質の作製方法では添加元素を複数の工程に分けて加えるため、
図3に示すフローにおいて最初に加える添加元素をA1、2回目に加える添加元素をA2として説明することとする。添加元素A1を添加するために用いる添加元素A1源を準備するステップについて、ステップS21乃至ステップS23を用いて説明する。
【0120】
<ステップS21>
図3に示すステップS21では、コバルト酸リチウムに添加する添加元素A1源(A1源)を用意する。A1源と合わせて、リチウム源を準備してもよい。
【0121】
添加元素A1としては、マグネシウム、フッ素、ジルコニウム、鉄、マンガン、クロム、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、臭素、及びベリリウムから選ばれた一または二以上を用いることができる。
【0122】
添加元素にマグネシウムを選んだとき、添加元素源はマグネシウム源(Mg源)と呼ぶことができる。当該マグネシウム源としては、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、又は炭酸マグネシウム等を用いることができる。また上述したマグネシウム源を複数用いてもよい。
【0123】
添加元素にフッ素を選んだとき、添加元素源はフッ素源(F源)と呼ぶことができる。当該フッ素源としては、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化ジルコニウム(ZrF4)、フッ化バナジウム(VF5)、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化クロム、フッ化ニオブ、フッ化亜鉛(ZnF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化バリウム(BaF2)、フッ化セリウム(CeF3、CeF4)、フッ化ランタン(LaF3)、又は六フッ化アルミニウムナトリウム(Na3AlF6)等を用いることができる。なかでも、フッ化リチウムは融点が848℃と比較的低く、後述する加熱工程で溶融しやすいため好ましい。
【0124】
フッ化マグネシウムはフッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。またフッ化リチウムはリチウム源としても用いることができる。ステップS21に用いられるその他のリチウム源は炭酸リチウムがある。
【0125】
またフッ素源は気体でもよく、フッ素(F2)、フッ化炭素、フッ化硫黄、又はフッ化酸素(OF2、O2F2、O3F2、O4F2、O5F2、O6F2、O2F)、三フッ化窒素(NF3)等を用い、後述する加熱工程において雰囲気中に混合させてもよい。また上述したフッ素源を複数用いてもよい。
【0126】
図3で説明する正極活物質の作製方法1では、添加元素A1としてマグネシウムおよびフッ素を用いることとする。フッ素源としてフッ化リチウム(LiF)を準備し、フッ素源及びマグネシウム源としてフッ化マグネシウム(MgF
2)を準備する。フッ化リチウムとフッ化マグネシウムは、LiF:MgF
2=65:35(モル比)程度で混合すると融点を下げる効果が最も高くなる。一方、フッ化リチウムが多くなると、リチウムが過剰になりすぎサイクル特性が悪化する懸念がある。そのため、フッ化リチウムとフッ化マグネシウムのモル比は、LiF:MgF
2=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:MgF
2=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF
2=x:1(x=0.33またはその近傍)がさらに好ましい。なお本明細書等において近傍とは、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値とする。
【0127】
<ステップS22>
次に、
図3に示すステップS22では、マグネシウム源及びフッ素源を粉砕及び混合する。本工程は、ステップS12で説明した粉砕及び混合の条件から選択して実施することができる。
【0128】
<ステップS23>
次に、
図3に示すステップS23では、上記で粉砕、混合した材料を回収して、A1源を得ることができる。なお、ステップS23に示すA1源は、複数の出発材料を有するものであり、混合物と呼ぶことができる。
【0129】
上記混合物の粒径は、D50(メディアン径)が600nm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましい。添加元素源として、一種の材料を用いた場合においても、D50(メディアン径)が600nm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましい。
【0130】
このような微粉化された混合物(添加元素が1種の場合も含む)であると、後の工程でコバルト酸リチウムと混合したときに、コバルト酸リチウムの粒子の表面に混合物を均一に付着させやすい。コバルト酸リチウムの粒子の表面に混合物が均一に付着していると、加熱後に複合酸化物の表層部100aに均一に添加元素を分布又は拡散させやすいため好ましい。
【0131】
<ステップS31>
次に、
図3に示すステップS31では、コバルト酸リチウムと、A1源とを混合する。コバルト酸リチウム中のコバルトの原子数Coと、A1源が有するマグネシウムの原子数Mgとの比は、Co:Mg=100:y(0.1≦y≦6)であることが好ましく、M:Mg=100:y(0.3≦y≦3)であることがより好ましい。
【0132】
ステップS31の混合は、コバルト酸リチウムの粒子の形状を破壊させないためにステップS12の混合よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数が少ない、または時間が短い条件とすることが好ましい。また湿式よりも乾式のほうが穏やかな条件であると言える。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとして酸化ジルコニウムボールを用いることが好ましい。
【0133】
正極活物質の作製方法1では、直径1mmの酸化ジルコニウムボールを用いたボールミルで、150rpm、1時間、乾式で混合することとする。また該混合は、露点が-100℃以上-10℃以下のドライルームで行うこととする。
【0134】
<ステップS32>
次に、
図3のステップS32において、上記で混合した材料を回収し、混合物901を得る。回収の際、必要に応じて解砕した後にふるいを実施してもよい。
【0135】
<ステップS33>
次に、
図3に示すステップS33では、混合物901を加熱する。ステップS13で説明した加熱条件から選択して実施することができる。加熱時間は2時間以上が好ましい。このとき、加熱雰囲気の酸素分圧を高めるため、炉内は大気圧を超えた圧力であってもよい。加熱雰囲気の酸素分圧が不足すると、コバルト等が還元され、コバルト酸リチウム等が層状岩塩型の結晶構造を保てなくなる恐れがあるためである。
【0136】
ここで加熱温度について補足する。ステップS33の加熱温度の下限は、コバルト酸リチウムと添加元素源との反応が進む温度以上である必要がある。反応が進む温度とは、コバルト酸リチウムと添加元素源との有する元素の相互拡散が起きる温度であればよく、これらの材料の溶融温度よりも低くてもよい。酸化物を例にして説明するが、溶融温度Tmの0.757倍(タンマン温度Td)から固相拡散が起こることがわかっている。そのため、ステップS33における加熱温度としては、650℃以上であればよい。
【0137】
勿論、混合物901が有する材料から選ばれた一または二以上が溶融する温度以上であると、より反応が進みやすい。例えば、添加元素源として、LiF及びMgF2を有する場合、LiFとMgF2の共融点は742℃付近であるため、ステップS33の加熱温度の下限は742℃以上とすると好ましい。
【0138】
また、LiCoO2:LiF:MgF2=100:0.33:1(モル比)となるように混合して得られた混合物903は、示差走査熱量測定(DSC測定)において830℃付近に吸熱ピークが観測される。よって、加熱温度の下限は830℃以上がより好ましい。
【0139】
加熱温度は高い方が反応が進みやすく、加熱時間が短く済み、生産性が高く好ましい。
【0140】
加熱温度の上限はコバルト酸リチウムの分解温度(1130℃)未満とする。分解温度の近傍の温度では、微量ではあるがコバルト酸リチウムの分解が懸念される。そのため、1000℃以下であるとより好ましく、950℃以下であるとさらに好ましく、900℃以下であるとさらに好ましい。
【0141】
これらを踏まえると、ステップS33における加熱温度としては、650℃以上1130℃以下が好ましく、650℃以上1000℃以下がより好ましく、650℃以上950℃以下がさらに好ましく、650℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、742℃以上1130℃以下が好ましく、742℃以上1000℃以下がより好ましく、742℃以上950℃以下がさらに好ましく、742℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、800℃以上1100℃以下、830℃以上1130℃以下が好ましく、830℃以上1000℃以下がより好ましく、830℃以上950℃以下がさらに好ましく、830℃以上900℃以下がさらに好ましい。なおステップS33における加熱温度は、ステップS13よりも高いとよい。
【0142】
さらに混合物901を加熱する際、フッ素源等に起因するフッ素またはフッ化物の分圧を適切な範囲に制御することが好ましい。
【0143】
正極活物質の作製方法1で説明する作製方法では、一部の材料、例えばフッ素源であるLiFが融剤として機能する場合がある。この機能により加熱温度をコバルト酸リチウムの分解温度未満、例えば742℃以上950℃以下にまで低温化でき、表層部にマグネシウムをはじめとする添加元素を分布させ、良好な特性の正極活物質を作製できる。
【0144】
しかし、LiFは酸素よりも気体状態での比重が軽いため、加熱によりLiFが揮発または昇華する可能性があり、揮発すると混合物903中のLiFが減少してしまう。すると融剤としての機能が弱くなってしまう。よって、LiFの揮発を抑制しつつ、加熱する必要がある。なお、フッ素源等としてLiFを用いなかったとしても、LiCoO2表面のLiとフッ素源のFが反応して、LiFが生じ、揮発する可能性もある。そのため、LiFより融点が高いフッ化物を用いたとしても、同じように揮発の抑制が必要である。
【0145】
そこで、LiFを含む雰囲気で混合物901を加熱すること、すなわち、加熱炉内のLiFの分圧が高い状態で混合物901を加熱することが好ましい。このような加熱により混合物901中のLiFの揮発を抑制することができる。
【0146】
本工程の加熱は、混合物901の粒子同士が固着しないように加熱すると好ましい。加熱中に混合物901粒子同士が固着すると、雰囲気中の酸素との接触面積が減る、及び添加元素(例えばフッ素)が拡散する経路を阻害することにより、表層部への添加元素(例えばマグネシウム及びフッ素)の分布が悪化する可能性がある。
【0147】
また、添加元素(例えばフッ素)が表層部に均一に分布するとなめらかで凹凸が少ない正極活物質を得られると考えられている。そのため本工程でステップS15の加熱を経た、表面がなめらかな状態を維持する又はより一層なめらかになるためには、混合物901の粒子同士が固着しない方がよい。
【0148】
また、ロータリーキルンによって加熱する場合は、キルン内の酸素を含む雰囲気の流量を制御して加熱することが好ましい。例えば酸素を含む雰囲気の流量を少なくする、最初に雰囲気をパージしキルン内に酸素雰囲気を導入した後は雰囲気のフローはしない、等が好ましい。酸素をフローするとフッ素源が蒸散する可能性があり、表面のなめらかさを維持するためには好ましくない。
【0149】
ローラーハースキルンによって加熱する場合は、例えば混合物901の入った容器に蓋を配することでLiFを含む雰囲気で混合物901を加熱することができる。
【0150】
加熱時間について補足する。加熱時間は、加熱温度、ステップS14のコバルト酸リチウムの大きさ、及び組成等の条件により変化する。コバルト酸リチウムが小さい場合は、大きい場合よりも低い温度または短い時間がより好ましい場合がある。
【0151】
図3のステップS14のコバルト酸リチウムのメディアン径(D50)が12μm程度の場合、加熱温度は、例えば650℃以上950℃以下が好ましい。加熱時間は例えば3時間以上60時間以下が好ましく、10時間以上30時間以下がより好ましく、20時間程度がさらに好ましい。なお、加熱後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0152】
一方、ステップS14のコバルト酸リチウムのメディアン径(D50)が7μm程度の場合、加熱温度は例えば650℃以上950℃以下が好ましい。加熱時間は例えば1時間以上10時間以下が好ましく、5時間程度がより好ましい。なお、加熱後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0153】
<ステップS34>
次に、
図3に示すステップS34では、加熱した材料を回収し、必要に応じて解砕して、複合酸化物902を得る。
【0154】
次に、
図3に示すステップS41乃至ステップS53では、添加元素A2源(A2源)を添加する。添加元素A2を添加するために用いるA2源を準備するステップについて、ステップS41乃至ステップS43を用いて説明する。
【0155】
添加元素A2としては、[添加元素]で説明した導電性を向上させる添加元素と、結晶構造を安定化させる添加元素と、を用いる。
図3で説明する正極活物質の作製方法1では、導電性を向上させる添加元素としてニッケル、結晶構造を安定化させる添加元素としてアルミニウムを用いることとする。
【0156】
添加元素を添加するために用いる添加元素源として、導電性を向上させる添加元素を添加するために用いる添加元素源は、固体であることが好ましい。また、結晶構造を安定化させる添加元素を添加するために用いる添加元素源は、液体であることが好ましい。つまり、
図3で説明する正極活物質の作製方法1において、ニッケルを添加するために用いるニッケル源(Ni源)は、固体であることが好ましく、アルミニウムを添加するために用いるアルミニウム源(Al源)は、液体であることが好ましい。
【0157】
図1(A)乃至
図2(B)で説明したように、本発明の一態様の正極活物質100において、表層部100aと、クラック部106の内壁表層部100cと、は添加元素の分布が異なる。このような特徴を有する正極活物質100を作製するためには、ニッケル源(Ni源)としては例えば、
図4(A)に示すように、ニッケル源(Ni源)91が複合酸化物902の表面と接することができ、且つ、ニッケル源91がクラック部106の内壁表面と接することができない形状のニッケル源91にするとよい。
【0158】
つまり、正極活物質100の作製後にクラック部106となる、複合酸化物902のクラック部106Aの開口幅WCよりも、ニッケル源91の粒子径WNが大きい、ニッケルを有する固体材料を用いるとよい。
【0159】
また、アルミニウム源(Al源)92としては例えば、
図4(B)に示すように、アルミニウム源92が複合酸化物902の表面と接することができ、且つ、アルミニウム源92がクラック部106の内壁表面と接することができるアルミニウム源92にするとよい。つまり、アルミニウムを有する液体材料を用いるとよい。
【0160】
図3で説明する正極活物質の作製方法1では、ニッケルとアルミニウムを同じ工程で添加するため、ニッケル源91及びアルミニウム源92は、例えば
図5に示すような状態で、複合酸化物902と接するようにするとよい。
【0161】
<ステップS41>
上記で説明したように、ステップS41では、液体のアルミニウム源(Al源)と、固体のニッケル源(Ni源)と、をそれぞれ用意する。
【0162】
液体のアルミニウム源としては、アルミニウムアルコキシド溶液、アルミニウムアセチルアセトナート溶液、乳酸アルミニウム溶液、フタロシアニンアルミニウム溶液などの液体材料を用いることができる。
【0163】
なお、アルミニウムアルコキシド溶液が有するアルミニウムアルコキシドとしては、アルミニウムイソプロポキシド、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム、トリ-n-プロポキシアルミニウム、トリ-i-プロポキシアルミニウム、トリ-n-ブトキシアルミニウム、トリ-i-ブトキシアルミニウム、トリ-sec-ブトキシアルミニウム、トリ-t-ブトキシアルミニウム等を用いることができる。アルミニウムアルコキシドを溶解させる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、2-ブタノール等を用いることができる。なお、アルミニウムアルコキシドのアルコキシド基と、溶媒に用いるアルコールは、異なる種類のものを組み合わせてもよいが、同種であると好ましい。
【0164】
固体のニッケル源としては、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等の固体材料を用いることができる。
【0165】
図3で説明する正極活物質の作製方法1では、アルミニウム源として、アルミニウムイソプロポキシドをイソプロポキシドに溶かしたアルミニウムイソプロポキシド溶液を用いることにし、また、ニッケル源として水酸化ニッケルを用いることにする。
【0166】
<ステップS42>
図3のステップS42に示すように、ニッケル源は粉砕して、ニッケル源の粒子径を調整することができる。また、図示しないが粉砕後のニッケル源を分級装置によって分級し、W
C以下の粒子径のニッケル源を除去してもよい。なお、ニッケル源の粉砕の条件はステップS12の条件を参照することができる。
【0167】
ニッケル源の大きさは、前述の通り、複合酸化物902のクラック部106Aの開口幅W
Cよりも大きいことが好ましい。ここで、
図6(A)は、コバルト酸リチウムのクラックの一例を示すSEM像であり、
図6(B)は、
図6(A)の一部を拡大したSEM像である。
図6(B)において、矢印で示している箇所がクラックであり、クラックの開口幅は、広い箇所で500nm程度である。一方、ニッケル源の粒子が大きすぎる場合は、ニッケルを表層部100aに添加する際の均一性が低下する可能性がある。そのため、ニッケル源の粒子径は、粒度分布測定で得られるD50(メディアン径)が、500nm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上8μm以下であることがより好ましく、1μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。
【0168】
粒子径は、レーザ回折・散乱法を用いた粒度分布計(レーザ回折式粒度分布測定装置)等によって測定することができる。D50とは、粒度分布測定結果の積算粒子量曲線において、その積算量が50%を占めるときの粒子径である。また、D10とは、粒度分布測定結果の積算粒子量曲線において、その積算量が10%を占めるときの粒子径である。また、D90とは、粒度分布測定結果の積算粒子量曲線において、その積算量が90%を占めるときの粒子径である。
【0169】
粒子の大きさの測定は、レーザ回折式粒度分布測定に限定されず、SEMまたはTEMなどの分析によって、粒子断面の長径を測定してもよい。なお、SEMまたはTEMなどの分析からD50を測定する方法として例えば、20個以上の粒子を測定し、積算粒子量曲線を作成し、その積算量が50%を占めるときの粒子径をD50とすることができる。
【0170】
<ステップS43>
上記の、液体のアルミニウム源と、固体のニッケル源と、を添加元素A2源(A2源)として用いることができる。
【0171】
<ステップS51>
次に
図3に示すステップS51では、複合酸化物902と、A2源とを混合し混合液を作製する。混合にはスターラーなどを用いるとよい。
【0172】
<ステップS52>
アルミニウム源として、アルミニウムイソプロポキシド溶液を用いる場合、上記混合液を、水蒸気を含む雰囲気下で撹拌する。この処理により、雰囲気中のH2Oとアルミニウムイソプロポキシドが加水分解および重縮合反応を起こす。そしてマグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子の表面に、ゲル状のアルミニウムを含む層が形成される。
【0173】
撹拌はたとえばマグネチックスターラーで行うことができる。撹拌時間は、雰囲気中の水とアルミニウムイソプロポキシドが加水分解および重縮合反応を起こすのに十分な時間であればよく、例えば4時間、25℃、湿度90%RH(Relative Humidity、相対湿度)の条件下で行うことができる。
【0174】
<ステップS53>
上記の処理を終えた混合液から、沈殿物を回収する。回収方法としては、ろ過、遠心分離、乾固等を適用することができる。正極活物質の作製方法1では、ろ過により回収することとする。ろ過には紙フィルターを用い、残渣はアルミニウムアルコキシドを溶解させた溶媒と同じアルコールで洗浄することとする。
【0175】
<ステップS54>
次に、回収した残渣を乾燥する。正極活物質の作製方法1では、70℃で1時間、真空乾燥することとする。
【0176】
<ステップS55>
次に
図3に示すステップS52おいて、上記で乾燥した材料を回収し、混合物903を得る。回収の際、必要に応じて解砕した後にふるいを実施してもよい。
【0177】
<ステップS56>
次に
図3に示すステップS53では、混合物903を加熱する。加熱条件はステップS33の記載を参照することができ、例えば酸素を有する雰囲気中で、850℃、10時間の加熱を行なうとよい。
【0178】
<ステップS57>
次に、
図3に示すステップS57では、加熱した材料を回収し、必要に応じて解砕して、正極活物質100A-1を得る。このとき、回収された粒子をさらに、ふるいにかけると好ましい。以上の工程により、本発明の一態様の正極活物質100の一例である正極活物質100A-1を作製することができる。正極活物質100A-1は、表層部100aにアルミニウム及びニッケルを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するコバルト酸リチウムということができる。また、正極活物質100A-1は、表層部100aにマグネシウム、アルミニウム及びニッケルを有し、クラック部106の内壁表層部100cにマグネシウム及びアルミニウムを有するコバルト酸リチウムということができる。
【0179】
なお、本発明の一態様の正極活物質100A-1は表面がなめらかである。表面がなめらかな正極活物質100A-1は、そうでない正極活物質よりも加圧等による物理的な衝撃に強い可能性がある。
【0180】
[正極活物質の作製方法2]
上記で説明した正極活物質100A-1とは別の、正極活物質100Aの一例として、正極活物質100A-2の作製方法を説明する。正極活物質100A-2の作製方法を、
図7を用いて説明する。
【0181】
図7に示す作製方法は、ステップS41乃至ステップS43の工程以外は
図3で示した作製方法と同じである。ステップS41乃至ステップS43の工程について、以下で説明する。
【0182】
図7で説明する正極活物質の作製方法2では、チタンとアルミニウムを同じ工程で添加するため、チタン源(Ti源)及びアルミニウム源(Al源)は、例えば
図5におけるニッケル源91をチタン源に置き換えた条件で、複合酸化物902と接するようにするとよい。
【0183】
<ステップS41>
図7で説明する正極活物質の作製方法2では、ステップS41において、液体のアルミニウム源(Al源)と、固体のチタン源(Ti源)と、をそれぞれ用意する。
【0184】
固体のチタン源としては、チタン酸リチウム、酸化チタン、水酸化チタン等の固体材料を用いることができる。
【0185】
液体のアルミニウム源としては、
図3のステップS41の説明で示した液体材料を用いることができる。
【0186】
図7で説明する正極活物質の作製方法2では、アルミニウム源として、アルミニウムイソプロポキシドをイソプロポキシドに溶かしたアルミニウムイソプロポキシド溶液を用いることにし、また、チタン源としてチタン酸リチウムを用いることにする。
【0187】
<ステップS42>
図7のステップS42に示すように、チタン源は粉砕して、チタン源の粒子径を調整することができる。また、図示しないが粉砕後のチタン源を分級装置によって分級し、W
C以下の粒子径のチタン源を除去してもよい。なお、チタン源の粉砕の条件は
図3のステップS12の条件を参照することができる。
【0188】
チタン源の粒子径は、粒度分布測定で得られるD50(メディアン径)が、500nm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上8μm以下であることがより好ましく、1μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。
【0189】
<ステップS43>
上記の、液体のアルミニウム源と、固体のチタン源と、を添加元素A2源(A2源)として用いることができる。
【0190】
このような作製方法によって、
図7のステップS57において、正極活物質100A-2を得ることができる。正極活物質100A-2は、表層部100aにアルミニウム及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するコバルト酸リチウムということができる。また、正極活物質100A-2は、表層部100aにマグネシウム、アルミニウム及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにマグネシウム及びアルミニウムを有するコバルト酸リチウムということができる。
【0191】
[正極活物質の作製方法3]
上記で説明した正極活物質100A-1等とは別の、正極活物質100Aの一例として、正極活物質100A-3の作製方法を説明する。正極活物質100A-3の作製方法を、
図8を用いて説明する。
【0192】
図8に示す作製方法は、ステップS41乃至ステップS43の工程以外は
図3で示した作製方法と同じである。ステップS41乃至ステップS43の工程について、以下で説明する。
【0193】
図8で説明する正極活物質の作製方法3では、ニッケル、チタン及びアルミニウムを同じ工程で添加するため、ニッケル源(Ni源)、チタン源(Ti源)及びアルミニウム源(Al源)は、例えば
図5におけるニッケル源91の粒子のうち、その一部の粒子をチタン源に置き換えた条件で、ニッケル源(Ni源)、チタン源(Ti源)及びアルミニウム源(Al源)が、複合酸化物902と接するようにするとよい。
【0194】
<ステップS41>
図8で説明する正極活物質の作製方法3では、ステップS41において、液体のアルミニウム源(Al源)と、固体のニッケル源(Ni源)と、固体のチタン源(Ti源)と、をそれぞれ用意する。
【0195】
固体のニッケル源としては、
図3のステップS41の説明で示した固体材料を用いることができる。また、固体のチタン源としては、
図7のステップS41の説明で示した固体材料を用いることができる。
【0196】
液体のアルミニウム源としては、
図3のステップS41の説明で示した液体材料を用いることができる。
【0197】
図7で説明する正極活物質の作製方法2では、アルミニウム源として、アルミニウムイソプロポキシドを、溶媒のイソプロポキシドに溶かしたアルミニウムイソプロポキシド溶液を用いることにし、また、ニッケル源として水酸化ニッケルを用いることにし、チタン源としてチタン酸リチウムを用いることにする。
【0198】
<ステップS42>
図7のステップS42に示すように、ニッケル源及びチタン源は粉砕して、ニッケル源及びチタン源の粒子径を調整することができる。また、図示しないが粉砕後のニッケル源及びチタン源を分級装置によって分級し、W
C以下の粒子径のニッケル源及びチタン源を除去してもよい。なお、ニッケル源及びチタン源の粉砕の条件は
図3のステップS12の条件を参照することができる。
【0199】
<ステップS43>
上記の、液体のアルミニウム源と、固体のニッケル源と、固体のチタン源と、を添加元素A2源(A2源)として用いることができる。
【0200】
このような作製方法によって、
図8のステップS57において、正極活物質100A-3を得ることができる。正極活物質100A-3は、表層部100aにアルミニウム、ニッケル及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するコバルト酸リチウムということができる。また、正極活物質100A-3は、表層部100aにマグネシウム、アルミニウム、ニッケル及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにマグネシウム及びアルミニウムを有するコバルト酸リチウムということができる。
【0201】
[正極活物質の作製方法4]
上記で説明した正極活物質100A-1等とは別の、正極活物質100Aの一例として、正極活物質100A-4の作製方法を説明する。正極活物質100A-4の作製方法を、
図9を用いて説明する。
【0202】
図9に示す作製方法は、ステップS15の工程を行わなかったこと以外は、
図3で示した作製方法と同じである。このように、正極活物質100Aの作製において、必ずしもステップS15の初期加熱を行なわなくてもよい。
【0203】
このような作製方法によって、
図9のステップS57において、正極活物質100A-4を得ることができる。正極活物質100A-4は、表層部100aにアルミニウム及びニッケルを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するコバルト酸リチウムということができる。また、正極活物質100A-4は、表層部100aにマグネシウム、アルミニウム及びニッケルを有し、クラック部106の内壁表層部100cにマグネシウム及びアルミニウムを有するコバルト酸リチウムということができる。
【0204】
図示しないが、上記と同様に、
図7で説明した正極活物質100A-2の作製方法において、ステップS15を行わない作製方法にすることもできる。または同様に、
図8で説明した正極活物質100A-3の作製方法において、ステップS15を行わない作製方法にすることもできる。
【0205】
[正極活物質の作製方法5]
上記で説明した正極活物質100A-1等とは別の、正極活物質100Aの一例として、正極活物質100A-5の作製方法を説明する。正極活物質100A-5の作製方法を、
図10を用いて説明する。
【0206】
図10に示す作製方法は、ステップS15乃至ステップS34の工程を行わなかったこと、以外は、
図3で示した作製方法と同じである。このように、正極活物質100Aの作製において、必ずしもステップS15の初期加熱を行なわなくてもよい。また、正極活物質100Aの作製において、必ずしも添加元素A1の添加を行わなくてもよい。
【0207】
なお、
図10に示す正極活物質100A-5の作製方法において、ステップS51の混合では、ステップS14のLiCoO2と、添加元素A2源とを混合する。
【0208】
このような作製方法によって、
図10のステップS57において、正極活物質100A-5を得ることができる。正極活物質100A-5は、表層部100aにアルミニウム及びニッケルを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するコバルト酸リチウムということができる。
【0209】
図示しないが、上記と同様に、
図7で説明した正極活物質100A-2の作製方法において、ステップS15乃至ステップS34を行わない作製方法にすることもできる。または同様に、
図8で説明した正極活物質100A-3の作製方法において、ステップS15乃至ステップS34を行わない作製方法にすることもできる。
【0210】
[正極活物質の作製方法6]
図1(A)、
図2(A)及び
図2(B)で説明した添加元素の分布を有する正極活物質100の一例として、正極活物質100Bの作製方法を説明する。正極活物質100Bは、表層部100aに、導電性を向上させる添加元素としてチタンを有し、且つ、結晶構造を安定化させる添加元素としてアルミニウムを有するコバルト-ニッケル酸リチウム(LCNO)である。また、正極活物質100Bは、クラック部106の内壁表層部100cに、結晶構造を安定化させる添加元素としてアルミニウムを有し、導電性を向上させる添加元素としてチタンを実質的に有さないコバルト-ニッケル酸リチウムである。
【0211】
正極活物質100Bの作製方法の一例として、正極活物質100B-1の作製方法を、
図11を用いて説明する。
【0212】
図11に示す作製方法は、ステップS11乃至ステップS14の工程以外は
図11で示した作製方法と同じである。ステップS11乃至ステップS14の工程について、以下で説明する。
【0213】
<ステップS11>
図11に示すステップS11では、出発材料であるリチウム及び遷移金属の材料として、それぞれリチウム源(Li源)、コバルト源(Co源)及びニッケル源(Ni源)を準備する。
【0214】
リチウム源としては、
図3のステップS11で説明した材料を用いるとよい。
【0215】
コバルト源としては、
図3のステップS11で説明した材料を用いるとよい。
【0216】
ニッケル源としては、酸化ニッケル 、水酸化ニッケル 等を用いることができる。
【0217】
<ステップS12>
次に、
図11に示すステップS12として、リチウム源、コバルト源及びニッケル源を粉砕及び混合して、混合材料を作製する。粉砕及び混合の方法は、
図3のステップS12で説明した方法を用いるとよい。
【0218】
遷移金属の材料として用いるコバルト源とニッケル源の混合量としては、コバルト源が有するコバルトの原子数と、ニッケル源が有するニッケルの原子数と、の合計を100%としたとき、ニッケル源が有するニッケルの原子数を5%以上25%となるように、コバルト源とニッケル源のそれぞれを秤量するとよい。なお、ニッケル源が有するニッケルの原子数は、5%以上20%であることが好ましく、5%以上15%以下であることがより好ましく、5%以上10%以下であることがさらに好ましい。
【0219】
<ステップS13>
次に、
図11に示すステップS13として、上記混合材料を加熱する。加熱の条件は、
図3のステップS13の条件を参照できる。
【0220】
<ステップS14>
以上の工程により、
図11に示すステップS14で示すコバルト-ニッケル酸リチウム(LCNO)を合成することができる。
【0221】
このような作製方法によって、
図11のステップS57において、正極活物質100B-1を得ることができる。正極活物質100B-1は、表層部100aにアルミニウム及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するコバルト-ニッケル酸リチウムということができる。また、正極活物質100B-1は、表層部100aにマグネシウム、アルミニウム及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにマグネシウム及びアルミニウムを有するコバルト-ニッケル酸リチウムということができる。
【0222】
[正極活物質の作製方法7]
上記で説明した正極活物質100B-1とは別の、正極活物質100Bの一例として、正極活物質100B-2の作製方法を説明する。正極活物質100B-2の作製方法を、
図12を用いて説明する。
【0223】
図12に示す作製方法は、ステップS15の工程を行わなかったこと以外は、
図11で示した作製方法と同じである。このように、正極活物質100Bの作製において、必ずしもステップS15の初期加熱を行なわなくてもよい。
【0224】
このような作製方法によって、
図12のステップS57において、正極活物質100B-2を得ることができる。正極活物質100B-2は、表層部100aにアルミニウム及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するコバルト-ニッケル酸リチウムということができる。また、正極活物質100B-2は、表層部100aにマグネシウム、アルミニウム及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにマグネシウム及びアルミニウムを有するコバルト-ニッケル酸リチウムということができる。
【0225】
[正極活物質の作製方法8]
上記で説明した正極活物質100B-1等とは別の、正極活物質100Bの一例として、正極活物質100B-3の作製方法を説明する。正極活物質100B-3の作製方法を、
図13を用いて説明する。
【0226】
図13に示す作製方法は、ステップS15乃至ステップS34の工程を行わなかったこと、以外は、
図11で示した作製方法と同じである。このように、正極活物質100Bの作製において、必ずしもステップS15の初期加熱を行なわなくてもよい。また、正極活物質100Bの作製において、必ずしも添加元素A1の添加を行わなくてもよい。
【0227】
なお、
図13に示す正極活物質100B-3の作製方法において、ステップS51の混合では、ステップS14のLiCoO2と、添加元素A2源とを混合する。
【0228】
このような作製方法によって、
図13のステップS57において、正極活物質100B-3を得ることができる。正極活物質100B-3は、表層部100aにアルミニウム及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するコバルト-ニッケル酸リチウムということができる。
【0229】
[正極活物質の作製方法9]
図1(A)、
図2(A)及び
図2(B)で説明した添加元素の分布を有する正極活物質100の一例として、正極活物質100Cの作製方法を説明する。正極活物質100Cは、表層部100aに、導電性を向上させる添加元素としてチタンを有し、且つ、結晶構造を安定化させる添加元素としてアルミニウムを有するニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム(NCM)である。また、正極活物質100Cは、クラック部106の内壁表層部100cに、結晶構造を安定化させる添加元素としてアルミニウムを有し、導電性を向上させる添加元素としてチタンを実質的に有さないニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムである。
【0230】
ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムは、空間群R-3mの層状岩塩型の結晶構造を有する。ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムの組成は、LiNixCoyMnzO2(x>0、y>0、z>0、0.8<x+y+z<1.2)で表すとき、x、yおよびzは、x:y:z=8:1:1またはその近傍の値を満たすことが好ましい。またはx、yおよびzは、x:y:z=9:0.5:0.5またはその近傍の値を満たすことが好ましい。つまりx>2(y+Z)を満たすようなニッケルの含有割合が高いと好適である。またニッケルの含有割合が高い組成としてx、yおよびzは、x:y:z=6:2:2またはその近傍の値を満たすことが好ましい。またはx、yおよびzは、x:y:z=5:2:3またはその近傍の値を満たすことが好ましい。ただし正極活物質100Cの組成は特に限定されず、x、yおよびzは、x:y:z=1:1:1またはその近傍の値を満たすものを用いてもよい。またはx、yおよびzは、x:y:z=1:4:1またはその近傍の値を満たすものを用いてもよい。なお本明細書等において、組成における近傍の値とは、有効数字を1桁としたとき該組成になる範囲をいうことする。このとき有効数字の下の桁は四捨五入する。たとえばx:y:z=4.6:2.3:3.1はx:y:z=5:2:3の近傍の値ということができる。
【0231】
正極活物質100Cの粒子は、1次粒子(単粒子)であることが好ましい。または、正極活物質100Cの粒子が2次粒子である場合は、当該2次粒子に含まれる1次粒子の数は少ないことが好ましく、例えば、2個以上20個以下であることが好ましく、2個以上15個以下であることがより好ましく、2個以上10個以下であることがより好ましく、2個以上5個以下であることがより好ましく、2個であることがより好ましい。
【0232】
正極活物質100Cの粒子は、ニッケル源、コバルト源、及びマンガン源となる水溶液を用い、共沈法で得られたニッケル-コバルト-マンガン水酸化物と、水酸化リチウムとを混合して第1の加熱処理を行い、その後、さらにもう一度、水酸化リチウムと混合して第2の加熱処理を行って作製する。
【0233】
上記の第2の加熱処理において、導電性を向上させる添加元素としてチタンを、結晶構造を安定化させる添加元素としてアルミニウムを、同じ工程で添加することができる。この第2の加熱処理において添加する元素を添加元素Xと呼び、添加元素Xを添加するために用いる材料を添加元素X源(X源)と呼ぶ。
【0234】
正極活物質100Cの作製方法の一例として、正極活物質100C-1の作製方法を、
図14を用いて説明する。
【0235】
<ステップS111>
図14のステップS111として、まず遷移金属M源、すなわちニッケル源(Ni源)、コバルト源(Co源)およびマンガン源(Mn源)を用意する。これらは生成物が層状岩塩型の結晶構造をとりうる範囲のニッケル、コバルト、マンガンの混合比とすることが好ましい。
【0236】
特に遷移金属Mとしてニッケルを多く含む正極活物質は、コバルトが多い場合と比較して原料が安価になる場合があり、また重量あたりの充放電容量が増加する場合があり好ましい。たとえば遷移金属Mのうちニッケルは、25原子%を超えることが好ましく、60原子%以上がより好ましく、80原子%以上がさらに好ましい。しかしニッケルの占める割合が高すぎると、化学安定性および耐熱性が下がるおそれがある。そのため遷移金属Mのうちニッケルは95原子%以下であることが好ましい。
【0237】
正極活物質の遷移金属Mとしてコバルトを有する二次電池は、平均放電電圧が高く、またコバルトが層状岩塩型の構造を安定化に寄与するため信頼性の高い二次電池とすることができ好ましい。しかしコバルトは価格がニッケルおよびマンガンよりも高くまた不安定であるため、コバルトの占める割合が高すぎると、二次電池製造のコストが増大するおそれがある。そのため、たとえば遷移金属Mのうちコバルトは、2.5原子%以上34原子%以下であることが好ましい。
【0238】
遷移金属Mとしてマンガンを有する正極活物質は、耐熱性および化学安定性が向上するため好ましい。しかしマンガンの占める割合が高すぎると、放電電圧および放電容量が低下する傾向がある。そのため、例えば遷移金属Mのうちマンガンは、2.5原子%以上34原子%以下であることが好ましい。
【0239】
遷移金属M源は遷移金属Mを含む化合物の水溶液として用意する。ニッケル源としては、ニッケル塩の水溶液を用いることができる。ニッケル塩としては、たとえば硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、またはこれらの水和物を用いることができる。また酢酸ニッケルをはじめとするニッケルの有機酸塩、またはこれらの水和物を用いることもできる。またニッケル源としてニッケルアルコキシドまたは有機ニッケル錯体の水溶液を用いることができる。なお本明細書等において、有機酸塩とは、酢酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酪酸等の有機酸と金属の化合物をいうこととする。
【0240】
同様にコバルト源としては、コバルト塩の水溶液を用いることができる。コバルト塩としては、たとえば硫酸コバルト、塩化コバルト、硝酸コバルト、またはこれらの水和物を用いることができる。また酢酸コバルトをはじめとするコバルトの有機酸塩、またはこれらの水和物を用いることもできる。またコバルト源としてコバルトアルコキシド、有機コバルト錯体の水溶液を用いることができる。
【0241】
同様にマンガン源としては、マンガン塩の水溶液を用いることができる。マンガン塩としては、たとえば硫酸マンガン、塩化マンガン、硝酸マンガン、またはこれらの水和物の水溶液を用いることができる。また酢酸マンガンをはじめとするマンガンの有機酸塩、またはこれらの水和物を用いることもできる。またマンガン源としてマンガンアルコキシド、または有機マンガン錯体の水溶液を用いることができる。
【0242】
正極活物質の作製方法9では、遷移金属M源として、硫酸ニッケル、硫酸コバルトおよび硫酸マンガンを純水に溶解させた水溶液を用意することとする。
【0243】
<ステップS113>
また
図14のステップS113に示すように、キレート剤を用意してもよい。キレート剤として、たとえばグリシン、オキシン、1-ニトロソ-2-ナフトール2-メルカプトベンゾチアゾール、またはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)が挙げられる。なお、グリシン、オキシン、1-ニトロソ-2-ナフトールまたは2-メルカプトベンゾチアゾールから選ばれた複数種を用いてもよい。これらのうち少なくとも一つを純水に溶解させキレート水溶液として用いる。キレート剤は、キレート化合物を作る錯化剤であり、一般的な錯化剤より好ましい。勿論キレート剤でなく錯化剤を用いてもよく、錯化剤としてアンモニア水を用いることができる。キレート水溶液を用いることで結晶の核の不要な発生を抑え、成長を促すことができ好ましい。不要な核の発生が抑制されると微粒子の生成が抑制されるため、粒度分布が良好な複合水酸化物を得ることができる。また、アンモニアをアルカリ溶液に用いる場合、アンモニア塩が生じる場合がある。またキレート水溶液を用いることで、酸塩基反応を遅らせることができ、徐々に反応が進むことで球状に近い二次粒子を得ることができる。グリシンは9以上10以下及びその付近のpHにて、当該pH値を一定に保つ作用があり、キレート水溶液としてグリシン水溶液を用いることで、上記複合水酸化物98を得る際の反応槽のpHが制御しやすくなり好ましい。遷移金属及びグリシンを有する水溶液において、グリシン濃度は、0.05mol/L以上0.3mol/L以下、好ましくは0.07mol/L以上0.32mol/L以下がよい。
【0244】
<ステップS114>
次に
図14のステップS114として、遷移金属M源とキレート剤を混合し、酸溶液を作製する。
【0245】
<ステップS121>
次に
図14のステップS121として、アルカリ溶液を用意する。アルカリ溶液としては、たとえば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、またはアンモニアを有する水溶液を用いることができる。この水溶液は純水を用いて作製することが好ましい。また水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、またはアンモニアから選ばれた複数種を純水に溶解させた水溶液でもよい。
【0246】
上記遷移金属M源およびアルカリ溶液に用いると好ましい純水とは、比抵抗が1MΩ・cm以上の水、より好ましくは比抵抗が10MΩ・cm以上の水、さらに好ましくは比抵抗が15MΩ・cm以上の水である。当該比抵抗を満たす水は純度が高く、含有される不純物が非常に少ない。
【0247】
<ステップS122>
また
図14のステップS122に示すように、水を反応槽に用意することが好ましい。この水は、キレート剤の水溶液であってもよいが、純水であることがより好ましい。純水を用いることで核形成が促進され、小粒径の複合水酸化物を作製することができる。この反応槽に用意する水は、反応槽の張り込み液または調整液ということができる。キレート水溶液とする場合、ステップS113の記載を参照することができる。
【0248】
<ステップS131>
次に
図14のステップS131として、酸溶液とアルカリ溶液を混合し、反応させる。該反応は、共沈反応、中和反応または酸塩基反応ということができる。
【0249】
ステップS131の共沈反応中は、反応系のpHを9.0以上13.0以下となるようにすることが好ましい。
【0250】
たとえばアルカリ溶液を反応槽に入れ酸溶液を反応槽へ添加する場合、反応槽の水溶液のpHを上記条件の範囲に維持するとよい。また酸溶液を反応槽に入れておき、アルカリ溶液を添加する場合も、同様である。酸溶液の送液速度は、0.1mL/分以下とするとpH条件を制御しやすく好ましい。酸溶液を貯留するタンクにはポンプが設けられ、当該ポンプを使用することにより、管を通して反応槽へ酸溶液を添加することができる。ポンプにより、酸溶液の添加量、つまり送液量を制御することができる。
【0251】
また、アルカリ溶液は、反応槽の水溶液のpHを一定に保つように添加する。反応槽は反応容器等を有する。
【0252】
反応槽では攪拌手段を用いて水溶液を攪拌しておくとよい。攪拌手段はスターラーまたは攪拌翼等を有する。攪拌翼は2枚以上6枚以下設けることができ、たとえば4枚の攪拌翼とする場合、上方からみて十字状に配置するとよい。攪拌手段の回転数は、800rpm以上1200rpm以下とするとよい。また反応槽にバッフル板を設け、攪拌の方向および流速を変化させてもよい。バッフル板を設けることで混合効率が向上し、より均一な複合水酸化物の粒子を合成することができる。
【0253】
反応槽の温度は50℃以上90℃以下となるように調整することが好ましい。アルカリ溶液または酸溶液の添加は反応槽が当該温度になったのちに開始するとよい。
【0254】
また反応槽内は不活性雰囲気とするとよい。この場合の不活性雰囲気には窒素またはアルゴンを用いることができる。窒素雰囲気とする場合、窒素ガスを0.5L/分以上2L/分の流量で導入するとよい。
【0255】
また反応槽には還流冷却器を配置するとよい。還流冷却器により、窒素ガスを反応槽から放出させることができ、水蒸気は反応槽に戻すことができる。
【0256】
上記の共沈反応により、遷移金属Mを有する複合水酸化物98が沈殿する。
【0257】
<ステップS132>
複合水酸化物98を回収するために、
図14のステップS132に示すように濾過を行うことが好ましい。濾過は吸引濾過が好ましい。濾過の際、反応槽に沈殿した反応生成物を純水で洗浄した後に、有機溶媒(例えばアセトン等)を用いて濾過してもよい。
【0258】
<ステップS133>
図14のステップS133に示すように、濾過後の複合水酸化物98は乾燥させるとよい。たとえば60℃以上200℃以下の真空下にて、0.5時間以上20時間以下で乾燥させる。たとえば12時間乾燥させることができる。
【0259】
このようにして、遷移金属Mを有する複合水酸化物98を得ることができる。本明細書等において複合水酸化物98とは、複数種の金属の水酸化物をいうこととする。複合水酸化物98は、正極活物質の前駆体ということができる。
【0260】
<ステップS141>
次に
図14のステップS141として、リチウム源を用意する。本正極活物質の粒子の作製プロセスでは、リチウム源を加えるための工程を複数回行うため、ステップS141では最終的なリチウム量よりも少ない量を用意する。たとえばニッケル、コバルトおよびマンガンの原子の和を1としたとき、リチウムの原子を0.5以上0.9以下(原子数比)とすることができ、0.7(原子数比)とすることがより好ましい。なお、リチウム源をステップS141の1回でリチウム源の全量を入れてもよい。
【0261】
リチウム源としてはたとえば水酸化リチウム、炭酸リチウム、または硝酸リチウムを用いることができる。特に水酸化リチウム(融点462°C)などリチウム化合物のなかでは融点の低い材料を用いると好ましい。ニッケルの割合が高い正極活物質は、コバルト酸リチウム等と比較してカチオンミキシングが生じやすいため、ステップS43などの加熱を低温で行う必要がある。そのため融点の低い材料を用いることが好ましい。
【0262】
またリチウム源の粒径が小さい方が、反応が良好に進みやすく好ましい。たとえば流動層式ジェットミルを用いて微粒子化したリチウム源を用いることができる。ここでいう粒径とは、メディアン径をいうこととする。
【0263】
<ステップS142>
次に
図14のステップS142として、複合水酸化物98とリチウム源を混合する。混合は乾式または湿式で行うことができる。混合には例えばボールミル、ビーズミル又は混練機等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとしてジルコニアボールを用いることが好ましい。また、ボールミル、またはビーズミル等を用いる場合、メディアまたは材料からのコンタミネーションを抑制するために、周速を100mm/秒以上2000mm/秒以下とすることが好ましい。混合と同時に複合水酸化物98及びリチウム化合物は粉砕されることがある。
【0264】
<ステップS143>
次に複合水酸化物98とリチウム源の混合物に加熱を行う。他の加熱工程との区別のために、
図14ではステップS143を第1の加熱、ステップS153を第2の加熱、ステップS155を第3の加熱という場合がある。
【0265】
これらの加熱を行う焼成装置としては、電気炉、またはロータリーキルン炉を用いることができる。加熱の際に用いる、るつぼ、サヤ、セッター、容器は不純物を放出しにくい材質であると好ましい。たとえば純度が99.9%の酸化アルミニウムのるつぼを用いるとよい。また、これらの容器に蓋をした状態で加熱することが好ましい。
【0266】
ステップS143の加熱は、温度は400℃以上750℃以下が好ましく、650℃以上750℃以下がより好ましい。また、ステップS143の加熱の時間は、1時間以上30時間以下が好ましく、2時間以上20時間以下がより好ましい。
【0267】
加熱雰囲気は、酸素を有する雰囲気、又はいわゆる乾燥空気であって水が少ない酸素含有雰囲気(例えば露点が-50℃以下、より好ましくは露点が-80℃以下)で行うことが好ましい。
【0268】
<ステップS144>
またステップS144として、加熱の後に解砕工程を有することが好ましい。解砕はたとえば乳鉢で行うことができる。さらに、ふるいを用いて分級してもよい。解砕工程を有することで、正極活物質100A2の粒径および/または形状をより均一化することができる。以上の工程により、複合酸化物99を得る。複合酸化物99は、ニッケル-コバルト-マンガン酸リチウム(NCM)と呼ぶこともできる。
【0269】
<ステップS145>
次に、
図14で説明する正極活物質の作製方法9では、ステップS145において、液体のアルミニウム源(Al源)と、固体のチタン源(Ti源)と、をそれぞれ用意する。
【0270】
固体のチタン源としては、
図7のステップS41の説明で示した固体材料を用いることができる。
【0271】
液体のアルミニウム源としては、
図3のステップS41の説明で示した液体材料を用いることができる。
【0272】
図14で説明する正極活物質の作製方法9では、アルミニウム源として、アルミニウムイソプロポキシドをイソプロポキシドに溶かしたアルミニウムイソプロポキシド溶液を用いることにし、また、チタン源としてチタン酸リチウムを用いることにする。
【0273】
<ステップS146>
図14のステップS146に示すように、チタン源は粉砕して、チタン源の粒子径を調整することができる。また、図示しないが粉砕後のチタン源を分級装置によって分級し、W
C以下の粒子径のチタン源を除去してもよい。なお、チタン源の粉砕の条件は
図3のステップS12の条件を参照することができる。
【0274】
<ステップS147>
上記の、液体のアルミニウム源と、固体のチタン源と、を添加元素X源(X源)して用いることができる。
【0275】
<ステップS151>
次にステップS151として、リチウム源を用意する。このときステップS141と合わせて最終的なリチウム量となる量を用意する。たとえばステップS141においてニッケル、コバルトおよびマンガンの原子数の和を1としたとき、リチウムの原子数を0.7(原子数比)とした場合は、ステップS151ではたとえば0.31(原子数比)を用意することが好ましい。ここではニッケル、コバルトおよびマンガンの原子数の和を1としたときの最終的なリチウム原子の量を1.01としたが、本発明の一態様はこれに限らない。ニッケル、コバルトおよびマンガンの原子数の和を1としたときの最終的なリチウム量は0.95以上1.25以下が好ましく、1.00以上1.05以下であるとより好ましい。用意する量以外は、ステップS141の記載を参照することができる。
【0276】
なお
図14ではリチウム源をステップS141とステップS151の2回に分けて加え、それぞれ加熱する方法について説明するが、本発明の一態様はこれに限らない。リチウム源をステップS141の1回でリチウム源の全量を入れてもよいし、リチウム源を3回以上に分けて加え、それぞれ加熱してもよい。
【0277】
<ステップS152>
次にステップS144で得た複合酸化物99と、上記の添加元素X源(X源)と、上記のリチウム源とを混合し、混合液を作製する。混合にはスターラーなどを用いるとよい。
【0278】
<ステップS153>
アルミニウム源として、アルミニウムイソプロポキシド溶液を用いる場合、上記混合液を、水蒸気を含む雰囲気下で撹拌する。この処理により、雰囲気中のH2Oとアルミニウムイソプロポキシドが加水分解および重縮合反応を起こす。そしてマグネシウムとフッ素を有するコバルト酸リチウム粒子の表面に、ゲル状のアルミニウムを含む層が形成される。
【0279】
撹拌はたとえばマグネチックスターラーで行うことができる。撹拌時間は、雰囲気中の水とアルミニウムイソプロポキシドが加水分解および重縮合反応を起こすのに十分な時間であればよく、例えば4時間、25℃、湿度90%RH(Relative Humidity、相対湿度)の条件下で行うことができる。
【0280】
<ステップS154>
上記の処理を終えた混合液から、沈殿物を回収する。回収方法としては、ろ過、遠心分離、乾固等を適用することができる。正極活物質の作製方法1では、ろ過により回収することとする。ろ過には紙フィルターを用い、残渣はアルミニウムアルコキシドを溶解させた溶媒と同じアルコールで洗浄することとする。
【0281】
<ステップS155>
次に、回収した残渣を乾燥する。正極活物質の作製方法9では、70℃で1時間、真空乾燥することとする。上記で回収した材料は、回収の際、必要に応じて解砕した後にふるいを実施してもよい。
【0282】
<ステップS156>
次にステップS155で回収した材料に加熱を行う。ステップS156の加熱は正極活物質100C-1の結晶子サイズを大きくするため、十分に高い温度であることが好ましいが、その範囲は遷移金属Mの組成により異なる場合がある。
【0283】
ステップS156の加熱温度は、遷移金属Mのうちニッケルの占める割合が高い、たとえば70%以上である場合は、たとえば750℃以上が好ましく、800℃以上がより好ましく、850℃以上であるとさらに好ましい。一方で加熱温度が高すぎるとニッケル等の遷移金属Mが2価に還元される等の恐れがある。そのため、たとえば950℃以下が好ましく、920℃以下がより好ましく、900℃以下がさらに好ましい。
【0284】
遷移金属Mのうちニッケルの占める割合が40%以上60%以下の場合は、たとえば900℃以上が好ましく、950℃以上がより好ましく、970℃程度がより好ましい。一方で高すぎると上記と同様のデメリットが生じる恐れがあり、1020℃以下が好ましく、990℃以下がより好ましい。加熱のその他の条件は、ステップS143の記載を参照することができる。
【0285】
またステップS157として、加熱の後に解砕工程を有することが好ましい。解砕はステップS144の記載を参照することができる。
【0286】
このような作製方法によって、
図14のステップS158において、正極活物質100C-1を得ることができる。正極活物質100C-1は、表層部100aにアルミニウム及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムということができる。また、正極活物質100C-1は、表層部100aにアルミニウム及びチタンを有し、クラック部106の内壁表層部100cにアルミニウムを有するニッケル-コバルト-マンガン酸リチウムということができる。
【0287】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0288】
(実施の形態2)
本実施の形態では、
図15および
図16を用いて本発明の一態様の二次電池の例について説明する。
【0289】
<二次電池の構成例>
以下に、
図15に示す、正極、負極および電解液が、外装体に包まれている二次電池を例にとって説明する。
【0290】
〔正極〕
正極は、正極活物質層および正極集電体を有する。正極活物質層は正極活物質を有し、導電材(導電助剤と同義)およびバインダを有していてもよい。正極活物質には、先の実施の形態で説明した作製方法を用いて作製した正極活物質を用いる。
【0291】
また先の実施の形態で説明した正極活物質と、他の正極活物質を混合して用いてもよい。
【0292】
他の正極活物質としてはたとえばオリビン型の結晶構造、層状岩塩型の結晶構造、またはスピネル型の結晶構造を有する複合酸化物等がある。例えば、LiFePO4、LiFeO2、LiNiO2、LiMn2O4、V2O5、Cr2O5、MnO2等の化合物があげられる。
【0293】
また、他の正極活物質としてLiMn2O4等のマンガンを含むスピネル型の結晶構造を有するリチウム含有材料に、ニッケル酸リチウム(LiNiO2またはLiNi1-xMxO2(0<x<1)(M=Co、Al等))を混合すると好ましい。該構成とすることによって、二次電池の特性を向上させることができる。
【0294】
<導電材>
導電材は、導電付与剤、導電助剤とも呼ばれ、炭素材料が用いられる。複数の活物質の間に導電材を付着させることで複数の活物質同士が電気的に接続され、導電性が高まる。なお、「付着」とは、活物質と導電材が物理的に密着していることのみを指しているのではなく、共有結合が生じる場合、ファンデルワールス力により結合する場合、活物質の表面の一部を導電材が覆う場合、活物質の表面凹凸に導電材がはまりこむ場合、互いに接していなくとも電気的に接続される場合などを含む概念とする。
【0295】
正極活物質層、負極活物質層、等の活物質層は、導電材を有することが好ましい。
【0296】
導電材としては、例えば、アセチレンブラック、およびファーネスブラックなどのカーボンブラック、人造黒鉛、および天然黒鉛などの黒鉛、カーボンナノファイバー、およびカーボンナノチューブなどの炭素繊維、ならびにグラフェン化合物、のいずれか一種又は二種以上を用いることができる。
【0297】
炭素繊維としては、例えばメソフェーズピッチ系炭素繊維、等方性ピッチ系炭素繊維等の炭素繊維を用いることができる。また炭素繊維として、カーボンナノファイバーまたはカーボンナノチューブなどを用いることができる。カーボンナノチューブは、例えば気相成長法などで作製することができる。
【0298】
本明細書等においてグラフェン化合物とは、グラフェン、多層グラフェン、マルチグラフェン、酸化グラフェン、多層酸化グラフェン、マルチ酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、還元された多層酸化グラフェン、還元されたマルチ酸化グラフェン、グラフェン量子ドット等を含む。グラフェン化合物とは、炭素を有し、平板状、シート状等の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。該炭素6員環で形成された二次元的構造は炭素シートといってもよい。グラフェン化合物は官能基を有してもよい。またグラフェン化合物は屈曲した形状を有することが好ましい。またグラフェン化合物は丸まってカーボンナノファイバーのようになっていてもよい。
【0299】
本明細書等において酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、官能基、特にエポキシ基、カルボキシ基またはヒドロキシ基を有するものをいう。
【0300】
本明細書等において還元された酸化グラフェンとは、炭素と、酸素を有し、シート状の形状を有し、炭素6員環で形成された二次元的構造を有するものをいう。還元された酸化グラフェンは1枚でも機能するが、複数枚が積層されていてもよい。還元された酸化グラフェンは、炭素の濃度が80atomic%より大きく、酸素の濃度が2atomic%以上15atomic%以下である部分を有することが好ましい。このような炭素濃度および酸素濃度とすることで、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。また還元された酸化グラフェンは、ラマンスペクトルにおけるGバンドとDバンドの強度比G/Dが1以上であることが好ましい。このような強度比である還元された酸化グラフェンは、少量でも導電性の高い導電材として機能することができる。
【0301】
グラフェン化合物は、高い導電性を有するという優れた電気特性と、高い柔軟性および高い機械的強度を有するという優れた物理特性と、を有する場合がある。また、グラフェン化合物はシート状の形状を有する。グラフェン化合物は、湾曲面を有する場合があり、接触抵抗の低い面接触を可能とする。また、薄くても導電性が非常に高い場合があり、少ない量で効率よく活物質層内で導電パスを形成することができる。そのため、グラフェン化合物を導電材として用いることにより、活物質と導電材との接触面積を増大させることができる。グラフェン化合物は活物質の80%以上の面積を覆っているとよい。なお、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部にまとわりついていると好ましい。また、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部の上に重なっていると好ましい。また、グラフェン化合物の形状が活物質粒子の形状の少なくとも一部に一致していると好ましい。該活物質粒子の形状とは、たとえば、単一の活物質粒子が有する凹凸、または複数の活物質粒子によって形成される凹凸をいう。また、グラフェン化合物が活物質粒子の少なくとも一部を囲んでいることが好ましい。また、グラフェン化合物は穴が空いていてもよい。
【0302】
粒子径の小さい活物質粒子、例えば1μm以下の活物質粒子を用いる場合には、活物質粒子の比表面積が大きく、活物質粒子同士を繋ぐ導電パスがより多く必要となる。このような場合には、少ない量でも効率よく導電パスを形成することができるグラフェン化合物を用いると好ましい。
【0303】
上述のような性質を有するため、急速充電および急速放電が要求される二次電池には、グラフェン化合物を導電材として用いることが特に有効である。例えば2輪または4輪の車両用二次電池、ドローン用二次電池などは急速充電および急速放電特性が要求される場合がある。またモバイル電子機器などでは急速充電特性が要求される場合がある。急速充放電とは、たとえば正極活物質の重量あたり200mA/g、400mA/g、または1000mA/g以上の充電および放電をいうこととする。
【0304】
複数のグラフェンまたはグラフェン化合物は、複数の粒状の正極活物質を一部覆うように、あるいは複数の粒状の正極活物質の表面上に張り付くように形成されているため、互いに面接触していることが好ましい。
【0305】
ここで、複数のグラフェンまたはグラフェン化合物同士が結合することにより、網目状のグラフェン化合物シート(以下グラフェン化合物ネットまたはグラフェンネットと呼ぶ)を形成することができる。活物質をグラフェンネットが被覆する場合に、グラフェンネットは活物質同士を結合するバインダとしても機能することができる。よって、バインダの量を少なくすることができる、又は使用しないことができるため、電極体積および電極重量に占める活物質の比率を向上させることができる。すなわち、二次電池の放電容量を増加させることができる。
【0306】
またグラフェン化合物と共に、グラフェン化合物を形成する際に用いる材料を混合して活物質層200に用いてもよい。たとえばグラフェン化合物を形成する際の触媒として用いる粒子を、グラフェン化合物と共に混合してもよい。グラフェン化合物を形成する際の触媒としてはたとえば、酸化ケイ素(SiO2、SiOx(x<2))、酸化アルミニウム、鉄、ニッケル、ルテニウム、イリジウム、プラチナ、銅、ゲルマニウム等を有する粒子が挙げられる。該粒子はメディアン径(D50)が1μm以下であると好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0307】
活物質層の総量に対する導電材の含有量は、1wt%以上10wt%以下が好ましく、1wt%以上5wt%以下がより好ましい。
【0308】
活物質と点接触するカーボンブラック等の粒状の導電材と異なり、グラフェン化合物は接触抵抗の低い面接触を可能とするものであるから、通常の導電材よりも少量で粒状の活物質とグラフェン化合物との電気伝導性を向上させることができる。よって、活物質の活物質層における比率を増加させることができる。これにより、電池の放電容量を増加させることができる。
【0309】
カーボンブラック、黒鉛、等の粒子状の炭素含有化合物または、カーボンナノチューブ等の繊維状の炭素含有化合物は微小な空間に入りやすい。微小な空間とは例えば、複数の活物質の間の領域等を指す。微小な空間に入りやすい炭素含有化合物と、複数の粒子にわたって導電性を付与できるグラフェンなどのシート状の炭素含有化合物と、を組み合わせて使用することにより、電極の密度を高め、優れた導電パスを形成することができる。本発明の一態様の作製方法で得られる電池は、高容量密度を有し、かつ安定性を備えることができ、車載用の電池として有効である。
【0310】
[バインダ]
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
【0311】
また、バインダとしては、例えば水溶性の高分子を用いることが好ましい。水溶性の高分子としては、例えば多糖類などを用いることができる。多糖類としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ジアセチルセルロース、再生セルロースなどのセルロース誘導体、澱粉などのうち一以上を用いることができる。また、これらの水溶性の高分子を、前述のゴム材料と併用して用いると、さらに好ましい。
【0312】
または、バインダとしては、ポリスチレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル(ポリメチルメタクリレート、PMMA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、エチレンプロピレンジエンポリマー、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース等の材料を用いることが好ましい。
【0313】
バインダは上記のうち複数を組み合わせて使用してもよい。
【0314】
[集電体]
集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料をもちいることができる。また正極集電体に用いる材料は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状、シート状、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0315】
〔負極〕
負極は、負極活物質層および負極集電体を有する。また、負極活物質層は、導電材およびバインダを有していてもよい。
【0316】
[負極活物質]
負極活物質としては、例えば合金系材料および/または炭素系材料等を用いることができる。
【0317】
負極活物質として、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等から選ばれた一または二以上を含む材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて充放電容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。このため、負極活物質にシリコンを用いることが好ましい。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例えば、SiO、Mg2Si、Mg2Ge、SnO、SnO2、Mg2Sn、SnS2、V2Sn3、FeSn2、CoSn2、Ni3Sn2、Cu6Sn5、Ag3Sn、Ag3Sb、Ni2MnSb、CeSb3、LaSn3、La3Co2Sn7、CoSb3、InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素、および該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合がある。
【0318】
本明細書等において、SiOは例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiOxと表すこともできる。ここでxは1又は1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下がより好ましい。または0.2以上1.2以下が好ましい。または0.3以上1.5以下が好ましい。
【0319】
炭素系材料としては、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック等を用いればよい。
【0320】
黒鉛としては、人造黒鉛、天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0321】
黒鉛は、リチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/Li+)。これにより、リチウムイオン二次電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの充放電容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0322】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO2)、リチウムチタン酸化物(Li4Ti5O12)、リチウム-黒鉛層間化合物(LixC6)、五酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タングステン(WO2)、酸化モリブデン(MoO2)等の酸化物を用いることができる。
【0323】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、Li3N型構造をもつLi3-xMxN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4N3は大きな充放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm3)を示し好ましい。
【0324】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV2O5、Cr3O8等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0325】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe2O3、CuO、Cu2O、RuO2、Cr2O3等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn3N2、Cu3N、Ge3N4等の窒化物、NiP2、FeP2、CoP3等のリン化物、FeF3、BiF3等のフッ化物が挙げられる。
【0326】
負極活物質層が有することのできる導電材およびバインダとしては、正極活物質層が有することのできる導電材およびバインダと同様の材料を用いることができる。
【0327】
[負極集電体]
負極集電体には、正極集電体と同様の材料を用いることができる。なお負極集電体は、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0328】
〔電解質〕
電解質の一つの形態として、溶媒と、溶媒に溶解した電解質と、を有する電解液を用いることができる。電解液は、溶媒とリチウム塩を有する。電解液の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましく、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、メチルジグライム、アセトニトリル、ベンゾニトリル、テトラヒドロフラン、スルホラン、スルトン等のうちの1種、又はこれらのうちの2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。
【0329】
電解液として、エチレンカーボネート(EC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを含む場合、エチレンカーボネート、及びジエチルカーボネートの全含有量を100vol%としたとき、エチレンカーボネート、及びジエチルカーボネートの体積比が、x:100-x(ただし、20≦x≦40である。)であるものを用いることができる。より具体的には、ECと、DECと、を、EC:DEC=30:70(体積比)で含んだ混合有機溶媒を用いることができる。
【0330】
また電解液として、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)と、を含む場合、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートの全含有量を100vol%としたとき、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、及びジメチルカーボネートの体積比が、x:y:100-x-y(ただし、5≦x≦35であり、0<y<65である。)であるものを用いることができる。より具体的には、ECと、EMCと、DMCと、を、EC:EMC:DMC=30:35:35(体積比)で含んだ混合有機溶媒を用いることができる。
【0331】
またさらに電解液として、フッ化環状カーボネート(フッ素化環状カーボネートと記すこともある)、又はフッ化鎖状カーボネート(フッ素化鎖状カーボネートと記すこともある)を含んだ混合有機溶媒を用いることができる。さらに上記混合有機溶媒は、フッ化環状カーボネート、及びフッ化鎖状カーボネートをともに含むと好ましい。フッ化環状カーボネート及びフッ化鎖状カーボネートは共に、電子求引性を示す置換基を有しており、リチウムイオンの溶媒和エネルギーが低くなり好ましい。そのためフッ化環状カーボネート及びフッ化鎖状カーボネートは共に電解液に好適であり、これらの混合有機溶媒は好適である。
【0332】
フッ化環状カーボネートとして、例えば、フルオロエチレンカーボネート(炭酸フルオロエチレン、FEC、F1EC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC、F2EC)、トリフルオロエチレンカーボネート(F3EC)、又はテトラフルオロエチレンカーボネート(F4EC)等を用いることができる。なお、DFECには、シス-4,5、トランス-4,5等の異性体がある。いずれのフッ化環状カーボネートも電子求引性を示す置換基を有するため、リチウムイオンの溶媒和エネルギーが低いと考えられる。FECにおいて電子求引性の置換基はF基である。
【0333】
フッ化鎖状カーボネートとして、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルがある。3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの略称は、「MTFP」である。MTFPにおいて、電子求引性の置換基はCF3基である。
【0334】
FECは、環状カーボネートの一つであり、高い比誘電率を有するため、有機溶媒に用いると、リチウム塩の解離を促進させる効果を有する。さらにFECは電子求引性を示す置換基を有するため、リチウムイオンとクーロン力等によって結びつきやすい。具体的には、FECはリチウムイオンの溶媒和エネルギーが、電子求引性を示す置換基を有さないエチレンカーボネート(EC)よりも小さいため、リチウムイオンと溶媒和を生成しやすいといえる。さらにFECは最高被占有軌道(HOMO:Highest Occupied Molecular Orbital)準位が深いと考えられ、HOMO準位が深いと酸化されにくく耐酸化性が向上する。一方で、FECは粘度が高いことが懸念される。そこで、FECのみではなく、MTFPを更に含んだ混合有機溶媒を電解液に用いるとよい。MTFPは、鎖状カーボネートの一つであり、電解液の粘度を下げる、又は低温下(代表的には0℃)でも室温下(代表的には25℃)の粘度を維持する効果を有することも可能である。さらにMTFPは、電子求引性を示す置換基を有さないプロピオン酸メチル(略称は「MP」である)よりも溶媒和エネルギーが小さいため、電解液に用いた際にリチウムイオンとの溶媒和を生成することがあってもよい。
【0335】
このような物性を有するFEC、及びMTFPを含む混合有機溶媒の全含有量を100vol%として、体積比がx:100-x(ただし、5≦x≦30、好ましくは10≦x≦20である。)となるように混合して用いるとよい。つまり混合有機溶媒において、MTFPがFECよりも多くなるように混合するとよい。
【0336】
また、電解液の溶媒として、難燃性及び難揮発性であるイオン液体(常温溶融塩)を一つ又は複数用いることで、二次電池の内部短絡又は過充電等によって内部温度が上昇しても、二次電池の破裂及び/又は発火などを防ぐことができる。イオン液体は、カチオンとアニオンからなり、有機カチオンとアニオンとを含む。電解液に用いる有機カチオンとして、四級アンモニウムカチオン、三級スルホニウムカチオン、及び四級ホスホニウムカチオン等の脂肪族オニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン及びピリジニウムカチオン等の芳香族カチオンが挙げられる。また、電解液に用いるアニオンとして、1価のアミド系アニオン、1価のメチド系アニオン、フルオロスルホン酸アニオン、パーフルオロアルキルスルホン酸アニオン、テトラフルオロボレートアニオン、パーフルオロアルキルボレートアニオン、ヘキサフルオロホスフェートアニオン、又はパーフルオロアルキルホスフェートアニオン等が挙げられる。
【0337】
[リチウム塩]
上記溶媒に溶解させるリチウム塩(電解質とも呼ぶ)としては、例えばLiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiAlCl4、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li2B10Cl10、Li2B12Cl12、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiC(CF3SO2)3、LiC(C2F5SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiN(C4F9SO2)(CF3SO2)、LiN(C2F5SO2)2等のリチウム塩を一種、又はこれらのうちの二種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いることができる。リチウム塩は溶媒に対して0.5mol/L以上3.0mol/L以下とするとよい。フッ化物であるLiPF6、LiBF4などを用いるとリチウムイオン二次電池の安全性が向上する。
【0338】
上述した電解液は、粒状のごみ又は電解液の構成元素以外の元素(以下、単に「不純物」ともいう。)の含有量が少ない高純度化された電解液を用いることが好ましい。具体的には、電解液に対する不純物の重量比が1wt%以下、好ましくは0.1wt%以下、より好ましくは0.01wt%以下である。
【0339】
[添加剤]
電解液は添加剤を有してもよい。添加剤により、高電圧及び/又は高温で二次電池を動作させるときに、正極表面又は負極表面で生じうる電解質の反応分解を抑制することができる。添加剤として例えばビニレンカーボネート(VC)、プロパンスルトン(PS)、TerT-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)を用いるとよい。LiBOBは良好な被膜を形成しやすく、特に好ましい。VC又はFECは二次電池のエージング時または使用初期の充電時に負極に良好な被膜を形成しサイクル特性を向上させることができ好ましい。
【0340】
添加剤として、ジニトリル化合物のいずれか一種または二種以上を用いることができる。ジニトリル化合物の具体例として、たとえばスクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル(ADN)、又はエチレングリコールビス(プロピオニトリル)エーテル(EGBE)が挙げられる。
【0341】
さらにフルオロベンゼンを上記有機溶媒に添加してもよい。添加剤の濃度は、例えば電解液全体に対して0.1wt%以上5wt%以下とすればよい。PS又はEGBEは充放電時に正極に良好な被膜を形成しサイクル特性を向上させることができ好ましい。FBは正極及び負極への有機溶媒のぬれ性が向上するため好ましい。ジニトリル化合物は、ニトリル基が正極及び負極に配向して、有機溶媒の酸化分解を阻害するため高電圧耐性を向上させることができ好ましい。さらにジニトリル化合物は、負極に銅を有する集電体を用いた場合、過放電の際に銅の溶解を防ぐことができ好ましい。高電圧での二次電池の使用を踏まえると、ニトリル化合物を添加することが好ましい。
【0342】
[ゲル電解質]
ゲル電解質として、ポリマーを電解液で膨潤させたポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーゲル電解質を用いることで、半固体電解質層を提供することができ、漏液性等に対する安全性が高まる。また、二次電池の薄型化及び軽量化が可能である。
【0343】
ゲル化されるポリマーとして、シリコーンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド系ゲル、ポリプロピレンオキサイド系ゲル、フッ素系ポリマーのゲル等を用いることができる。
【0344】
ポリマーとしては、例えばポリエチレンオキシド(PEO)などのポリアルキレンオキシド構造を有するポリマー、PVDF、及びポリアクリロニトリル等、及びそれらを含む共重合体等を用いることができる。例えばPVDFとヘキサフルオロプロピレン(HFP)の共重合体であるPVDF-HFPを用いることができる。また、形成されるポリマーは、多孔質形状を有してもよい。
【0345】
[固体電解質]
電解液の代わりに、硫化物系又は酸化物系等の無機物材料を有する固体電解質、PEO(ポリエチレンオキシド)系等の高分子材料を有する固体電解質等を用いることができる。固体電解質を用いる場合には、セパレータ及び/又はスペーサの設置が不要となる。また、電池全体を固体化できるため、漏液のおそれがなくなり安全性が飛躍的に向上する。
【0346】
〔セパレータ〕
また二次電池は、セパレータを有することが好ましい。セパレータとしては、例えば、紙、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータはエンベロープ状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0347】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミックス系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミックス系材料としては、例えば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
【0348】
セラミックス系材料をコートすると耐酸化性が向上するため、高電圧充電の際のセパレータの劣化を抑制し、二次電池の信頼性を向上させることができる。またフッ素系材料をコートするとセパレータと電極が密着しやすくなり、出力特性を向上させることができる。ポリアミド系材料、特にアラミドをコートすると、耐熱性が向上するため、二次電池の安全性を向上させることができる。
【0349】
例えばポリプロピレンのフィルムの両面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートしてもよい。また、ポリプロピレンのフィルムの、正極と接する面に酸化アルミニウムとアラミドの混合材料をコートし、負極と接する面にフッ素系材料をコートしてもよい。
【0350】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くても二次電池の安全性を保つことができるため、二次電池の体積あたりの放電容量を大きくすることができる。
【0351】
〔外装体〕
二次電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料および/または樹脂材料を用いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0352】
<ラミネート型二次電池とその作製方法>
ラミネート型の二次電池500の外観図の一例を
図15及び
図16に示す。
図15及び
図16は、正極503、負極506、セパレータ507、外装体509、正極リード電極510及び負極リード電極511を有する。ラミネート型の二次電池は、可撓性を有する構成とすれば、可撓性を有する部位を少なくとも一部有する電子機器に実装すれば、電子機器の変形に合わせて二次電池も曲げることもできる。該ラミネート型二次電池の作製方法の一例について、
図16(A)乃至
図16(C)を用いて説明する。
【0353】
まず、負極506、セパレータ507及び正極503を積層する。
図16(B)に積層された負極506、セパレータ507及び正極503を示す。ここでは負極を5組、正極を4組使用する例を示す。次に、正極503のタブ領域同士の接合と、最表面の正極のタブ領域への正極リード電極510の接合を行う。接合には、例えば超音波溶接等を用いればよい。同様に、負極506のタブ領域同士の接合と、最表面の負極のタブ領域への負極リード電極511の接合を行う。
【0354】
次に外装体509上に、負極506、セパレータ507及び正極503を配置する。
【0355】
次に、
図16(C)に示すように、外装体509を破線で示した部分で折り曲げる。その後、外装体509の外周部を接合する。接合には例えば熱圧着等を用いればよい。この時、後に電解液を入れることができるように、外装体509の一部(または一辺)に接合されない領域(以下、導入口という)を設ける。
【0356】
次に、外装体509に設けられた導入口から、電解液(図示しない。)を外装体509の内側へ導入する。電解液の導入は、減圧雰囲気下、或いは不活性雰囲気下で行うことが好ましい。そして最後に、導入口を接合する。このようにして、ラミネート型の二次電池500を作製することができる。
【0357】
正極503に、先の実施の形態で説明した正極活物質を用いることで、放電容量が高くサイクル特性に優れた二次電池500とすることができる。
【0358】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて用いることができる。
【0359】
(実施の形態3)
本実施の形態では、本発明の一態様である二次電池を電子機器に実装する例について
図17(A)乃至
図19(C)を用いて説明する。
【0360】
先の実施の形態で説明した正極活物質を有する二次電池を電子機器に実装する例を、
図17(A)乃至
図17(G)に示す。二次電池を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。
【0361】
また、フレキシブルな形状を備える二次電池を、家屋、ビル等の内壁または外壁、自動車の内装または外装の曲面に沿って組み込むことも可能である。
【0362】
図17(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機7400は、筐体7401に組み込まれた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ7405、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、二次電池7407を有している。上記の二次電池7407に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯電話機を提供できる。
【0363】
図17(B)は、携帯電話機7400を湾曲させた状態を示している。携帯電話機7400を外部の力により変形させて全体を湾曲させると、その内部に設けられている二次電池7407も湾曲される。また、その時、曲げられた二次電池7407の状態を
図17(C)に示す。二次電池7407は薄型の蓄電池である。二次電池7407は曲げられた状態で固定されている。なお、二次電池7407は集電体と電気的に接続されたリード電極を有している。例えば、集電体は銅箔であり、一部ガリウムと合金化させて、集電体と接する活物質層との密着性を向上し、二次電池7407が曲げられた状態での信頼性が高い構成となっている。
【0364】
図17(D)は、バングル型の表示装置の一例を示している。携帯表示装置7100は、筐体7101、表示部7102、操作ボタン7103、及び二次電池7104を備える。また、
図17(E)に曲げられた二次電池7104の状態を示す。二次電池7104は曲げられた状態で使用者の腕への装着時に、筐体が変形して二次電池7104の一部または全部の曲率が変化する。なお、曲線の任意の点における曲がり具合を相当する円の半径の値で表したものを曲率半径と呼び、曲率半径の逆数を曲率と呼ぶ。具体的には、曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲内で筐体または二次電池7104の主表面の一部または全部が変化する。二次電池7104の主表面における曲率半径が40mm以上150mm以下の範囲であれば、高い信頼性を維持できる。上記の二次電池7104に本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯表示装置を提供できる。
【0365】
図17(F)は、腕時計型の携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末7200は、筐体7201、表示部7202、バンド7203、バックル7204、操作ボタン7205、入出力端子7206などを備える。
【0366】
携帯情報端末7200は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0367】
表示部7202はその表示面が湾曲して設けられ、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示部7202はタッチセンサを備え、指またはスタイラスなどで画面に触れることで操作することができる。例えば、表示部7202に表示されたアイコン7207に触れることで、アプリケーションを起動することができる。
【0368】
操作ボタン7205は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯情報端末7200に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン7205の機能を自由に設定することもできる。
【0369】
また、携帯情報端末7200は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0370】
また、携帯情報端末7200は入出力端子7206を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子7206を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子7206を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0371】
携帯情報端末7200の表示部7202には、本発明の一態様の二次電池を有している。本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な携帯情報端末を提供できる。例えば、
図17(E)に示した二次電池7104を、筐体7201の内部に湾曲した状態で、またはバンド7203の内部に湾曲可能な状態で組み込むことができる。
【0372】
携帯情報端末7200はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサ、タッチセンサ、加圧センサ、加速度センサ、等が搭載されることが好ましい。
【0373】
図17(G)は、腕章型の表示装置の一例を示している。表示装置7300は、表示部7304を有し、本発明の一態様の二次電池を有している。また、表示装置7300は、表示部7304にタッチセンサを備えることもでき、また、携帯情報端末として機能させることもできる。
【0374】
表示部7304はその表示面が湾曲しており、湾曲した表示面に沿って表示を行うことができる。また、表示装置7300は、通信規格された近距離無線通信などにより、表示状況を変更することができる。
【0375】
また、表示装置7300は入出力端子を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また入出力端子を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は入出力端子を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0376】
表示装置7300が有する二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な表示装置を提供できる。
【0377】
また、先の実施の形態で示したサイクル特性のよい二次電池を電子機器に実装する例を
図17(H)乃至
図19(C)を用いて説明する。
【0378】
日用電子機器に二次電池として本発明の一態様の二次電池を用いることで、軽量で長寿命な製品を提供できる。例えば、日用電子機器として、電動歯ブラシ、電気シェーバー、電動美容機器などが挙げられ、それらの製品の二次電池としては、使用者の持ちやすさを考え、形状をスティック状とし、小型、軽量、且つ、放電容量の大きな二次電池が望まれている。
【0379】
図17(H)はタバコ収容喫煙装置(電子タバコ)とも呼ばれる装置の斜視図である。
図17(H)において電子タバコ7500は、加熱素子を含むアトマイザ7501と、アトマイザに電力を供給する二次電池7504と、液体供給ボトルおよびセンサなどを含むカートリッジ7502で構成されている。安全性を高めるため、二次電池7504の過充電および/または過放電を防ぐ保護回路を二次電池7504に電気的に接続してもよい。
図17(H)に示した二次電池7504は、充電機器と接続できるように外部端子を有している。二次電池7504は持った場合に先端部分となるため、トータルの長さが短く、且つ、重量が軽いことが望ましい。本発明の一態様の二次電池は放電容量が高く、良好なサイクル特性を有するため、長期間に渡って長時間の使用ができる小型であり、且つ、軽量の電子タバコ7500を提供できる。
【0380】
図18(A)は、ウェアラブルデバイスの例を示している。ウェアラブルデバイスは、電源として二次電池を用いる。また、使用者が生活または屋外で使用する場合において、防沫性能、耐水性能または防塵性能を高めるため、接続するコネクタ部分が露出している有線による充電だけでなく、無線充電も行えるウェアラブルデバイスが望まれている。
【0381】
例えば、
図18(A)に示すような眼鏡型デバイス4000に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。眼鏡型デバイス4000は、フレーム4000aと、表示部4000bを有する。湾曲を有するフレーム4000aのテンプル部に二次電池を搭載することで、軽量であり、且つ、重量バランスがよく継続使用時間の長い眼鏡型デバイス4000とすることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0382】
また、ヘッドセット型デバイス4001に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ヘッドセット型デバイス4001は、少なくともマイク部4001aと、フレキシブルパイプ4001bと、イヤフォン部4001cを有する。フレキシブルパイプ4001b内および/またはイヤフォン部4001c内に二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0383】
また、身体に直接取り付け可能なデバイス4002に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4002の薄型の筐体4002aの中に、二次電池4002bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0384】
また、衣服に取り付け可能なデバイス4003に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4003の薄型の筐体4003aの中に、二次電池4003bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0385】
また、ベルト型デバイス4006に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ベルト型デバイス4006は、ベルト部4006aおよびワイヤレス給電受電部4006bを有し、ベルト部4006aの内部に、二次電池を搭載することができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0386】
また、腕時計型デバイス4005に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。腕時計型デバイス4005は表示部4005aおよびベルト部4005bを有し、表示部4005aまたはベルト部4005bに、二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0387】
表示部4005aには、時刻だけでなく、メールおよび電話の着信等、様々な情報を表示することができる。
【0388】
また、腕時計型デバイス4005は、腕に直接巻きつけるタイプのウェアラブルデバイスであるため、使用者の脈拍、血圧等を測定するセンサを搭載してもよい。使用者の運動量および健康に関するデータを蓄積し、健康を管理することができる。
【0389】
図18(B)に腕から取り外した腕時計型デバイス4005の斜視図を示す。
【0390】
また、側面図を
図18(C)に示す。
図18(C)には、内部に二次電池913を内蔵している様子を示している。二次電池913は実施の形態2に示した二次電池である。二次電池913は表示部4005aと重なる位置に設けられており、小型、且つ、軽量である。
【0391】
図18(D)はワイヤレスイヤホンの例を示している。ここでは一対の本体4100aおよび本体4100bを有するワイヤレスイヤホンを図示するが、必ずしも一対でなくてもよい。
【0392】
本体4100aおよび4100bは、ドライバユニット4101、アンテナ4102、二次電池4103を有する。表示部4104を有していてもよい。また無線用IC等の回路が載った基板、充電用端子等を有することが好ましい。またマイクを有していてもよい。
【0393】
ケース4110は、二次電池4111を有する。また無線用IC、充電制御IC等の回路が載った基板、充電用端子を有することが好ましい。また表示部、ボタン等を有していてもよい。
【0394】
本体4100aおよび4100bは、スマートフォン等の他の電子機器と無線で通信することができる。これにより他の電子機器から送られた音データ等を本体4100aおよび4100bで再生することができる。また本体4100aおよび4100bがマイクを有すれば、マイクで取得した音を他の電子機器に送り、該電子機器により処理をした後の音データを再び本体4100aおよび4100bに送って再生することができる。これにより、たとえば翻訳機として用いることもできる。
【0395】
またケース4110が有する二次電池4111から、本体4100aが有する二次電池4103に充電を行うことができる。二次電池4111および二次電池4103としては先の実施の形態のコイン型二次電池、円筒形二次電池等を用いることができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、二次電池4103および二次電池4111に用いることで、ワイヤレスイヤホンの小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0396】
図19(A)は、掃除ロボットの一例を示している。掃除ロボット6300は、筐体6301上面に配置された表示部6302、側面に配置された複数のカメラ6303、ブラシ6304、操作ボタン6305、二次電池6306、各種センサなどを有する。図示されていないが、掃除ロボット6300には、タイヤ、吸い込み口等が備えられている。掃除ロボット6300は自走し、ゴミ6310を検知し、下面に設けられた吸い込み口からゴミを吸引することができる。
【0397】
例えば、掃除ロボット6300は、カメラ6303が撮影した画像を解析し、壁、家具または段差などの障害物の有無を判断することができる。また、画像解析により、配線などブラシ6304に絡まりそうな物体を検知した場合は、ブラシ6304の回転を止めることができる。掃除ロボット6300は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6306と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池6306を掃除ロボット6300に用いることで、掃除ロボット6300を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0398】
図19(B)は、ロボットの一例を示している。
図19(B)に示すロボット6400は、二次電池6409、照度センサ6401、マイクロフォン6402、上部カメラ6403、スピーカ6404、表示部6405、下部カメラ6406および障害物センサ6407、移動機構6408、演算装置等を備える。
【0399】
マイクロフォン6402は、使用者の話し声及び環境音等を検知する機能を有する。また、スピーカ6404は、音声を発する機能を有する。ロボット6400は、マイクロフォン6402およびスピーカ6404を用いて、使用者とコミュニケーションをとることが可能である。
【0400】
表示部6405は、種々の情報の表示を行う機能を有する。ロボット6400は、使用者の望みの情報を表示部6405に表示することが可能である。表示部6405は、タッチパネルを搭載していてもよい。また、表示部6405は取り外しのできる情報端末であっても良く、ロボット6400の定位置に設置することで、充電およびデータの受け渡しを可能とする。
【0401】
上部カメラ6403および下部カメラ6406は、ロボット6400の周囲を撮像する機能を有する。また、障害物センサ6407は、移動機構6408を用いてロボット6400が前進する際の進行方向における障害物の有無を察知することができる。ロボット6400は、上部カメラ6403、下部カメラ6406および障害物センサ6407を用いて、周囲の環境を認識し、安全に移動することが可能である。
【0402】
ロボット6400は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6409と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池をロボット6400に用いることで、ロボット6400を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0403】
図19(C)は、飛行体の一例を示している。
図19(C)に示す飛行体6500は、プロペラ6501、カメラ6502、および二次電池6503などを有し、自律して飛行する機能を有する。
【0404】
例えば、カメラ6502で撮影した画像データは、電子部品6504に記憶される。電子部品6504は、画像データを解析し、移動する際の障害物の有無などを察知することができる。また、電子部品6504によって二次電池6503の蓄電容量の変化から、バッテリ残量を推定することができる。飛行体6500は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6503を備える。本発明の一態様に係る二次電池を飛行体6500に用いることで、飛行体6500を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0405】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0406】
(実施の形態4)
本実施の形態では、車両に本発明の一態様の正極活物質を有する二次電池を搭載する例を示す。
【0407】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0408】
図20において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。
図20(A)に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。たとえば車内の床部分に二次電池のモジュールを並べて使用することができる。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401およびルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
【0409】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0410】
図20(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方式および/または非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。
図20(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法およびコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)またはコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0411】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路および/または外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両どうしで電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時および/または走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式および/または磁界共鳴方式を用いることができる。
【0412】
また、
図20(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。
図20(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
【0413】
また、
図20(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池8602を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能となっており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納すればよい。
【0414】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の放電容量を大きくすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることができる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らすことができる。
【0415】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【符号の説明】
【0416】
91 ニッケル源
92 アルミニウム源
98 複合水酸化物
99 複合酸化物
100 正極活物質
100a 表層部
100b 内部
100c 内壁表層部
106 クラック部