(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160776
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】緊急遮断弁
(51)【国際特許分類】
F16K 17/36 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
F16K17/36 Z
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076118
(22)【出願日】2023-05-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-24
(71)【出願人】
【識別番号】000142078
【氏名又は名称】株式会社協成
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】田口 英樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 裕典
【テーマコード(参考)】
3H061
【Fターム(参考)】
3H061AA10
3H061BB02
3H061CC12
3H061DD03
3H061EA45
3H061EB10
3H061EC01
3H061GG05
3H061GG15
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、水害発生時に確実に作動する機械式の緊急遮断弁を提供する。
【解決手段】通常時は弁箱1内の弁体2がロック機構10によって弁座3から離反した状態でロックされており、水害発生時にロック解除機構20の支持箱21に水が流入すると、フロート22が浮き上がって傾き、フロート22の上部に取り付けられた受座23から落下した球体24が、紐状体26を介してロック機構10の連結部材14を引っ張ることにより、ロック機構10が弁体2のロックを解除する方向に作動し、弁体2の弁部7がコイルばね4の付勢力によって弁座3に押し付けられる構成とした。この緊急遮断弁は、ロック解除機構20がシンプルな構成の機械式のものであり、停電が生じた場合でも確実に弁箱1内の流路1aを遮断することができる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に流路を有する弁箱と、前記弁箱内で移動可能に支持された弁体と、前記流路の途中に設けられた弁座と、前記弁体を弁座から離反した状態でロックするロック機構と、前記ロック機構による弁体のロックを解除するロック解除機構とを備え、前記弁体のロックが解除されることにより、前記弁体が弁座に押し付けられて前記流路を遮断する緊急遮断弁において、
前記ロック解除機構は、前記ロック機構の周辺に配置されるフロートと、前記フロートの上部に取り付けられる受座と、前記受座に載置される球体とを備え、前記ロック機構の周辺が浸水してフロートが浮き上がったときに前記球体が受座から落下することにより、前記ロック機構を弁体のロックが解除される方向に作動させるものであることを特徴とする緊急遮断弁。
【請求項2】
前記ロック解除機構の球体が前記ロック機構の一部に紐状体で連結されており、前記球体の落下に伴って、前記ロック機構がその一部を紐状体に引っ張られることにより前記弁体のロックを解除する方向に作動することを特徴とする請求項1に記載の緊急遮断弁。
【請求項3】
前記フロートが上方に開口した支持箱に上下動可能に嵌まり込んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の緊急遮断弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガス等の流体を送給する配管の途中に設けられ、異常事態の発生等の緊急時に配管内の流路を遮断する緊急遮断弁に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料ガス等の流体をその貯留施設から使用者へ送給する配管には、地震等の異常事態が発生した際に流路を自動的に遮断して下流側での流体の漏出を防止するための緊急遮断弁が設けられている。
【0003】
上記のような緊急遮断弁は、内部に流路を有する弁箱と、弁箱内で往復動可能に支持された弁体と、弁箱内の流路の途中に設けられた弁座と、弁体を弁座に押し付ける方向に付勢する付勢手段と、付勢手段の付勢力に抗して弁体を弁座から離反した状態でロックするロック機構と、緊急時にロック機構による弁体のロックを解除するロック解除機構とを備え、弁体のロックが解除されると、弁体が付勢手段の付勢力によって弁座に押し付けられ、流路を遮断する構成のものが多い(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的な緊急遮断弁には、ロック解除機構がセンサから受け取る地震発生や流体圧力変化等の異常事態の情報に基づいて作動する電動式のものと、異常事態が発生すると機械的にロック解除機構が作動する機械式のものとがある。
【0006】
しかし、電動式の緊急遮断弁は、地震や水害(津波や河川の氾濫等による災害)の発生時に停電によってロック解除機構が作動せず、流路の遮断ができなくなるおそれがある。また、停電時も確実に流路を遮断できるように補助電源を組み込んだものでは、弁全体の構造が複雑になり寸法も大型化する。
【0007】
一方、機械式の緊急遮断弁は、停電時も確実にロック解除機構が作動して流路を遮断できるが、異常事態の態様に応じた構成のロック解除機構が必要となる。例えば、地震対策用の緊急遮断弁には、ロック解除機構の受座に載置された球体が、振動によって落下することにより、ロック機構を弁体のロックが解除される方向に作動させる方式(いわゆる落球式)のものがある。しかしながら、機械式で水害対策用の緊急遮断弁として実用化されているものは見られない。
【0008】
そこで、本発明は、簡単な構成で、水害発生時に確実に作動する機械式の緊急遮断弁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の緊急遮断弁は、内部に流路を有する弁箱と、前記弁箱内で移動可能に支持された弁体と、前記流路の途中に設けられた弁座と、前記弁体を弁座から離反した状態でロックするロック機構と、前記ロック機構による弁体のロックを解除するロック解除機構とを備え、前記弁体のロックが解除されることにより、前記弁体が弁座に押し付けられて前記流路を遮断する緊急遮断弁において、前記ロック解除機構は、前記ロック機構の周辺に配置されるフロートと、前記フロートの上部に取り付けられる受座と、前記受座に載置される球体とを備え、前記ロック機構の周辺が浸水してフロートが浮き上がったときに前記球体が受座から落下することにより、前記ロック機構を弁体のロックが解除される方向に作動させるものである構成を採用した。
【0010】
上記の構成によれば、水害発生時にロック機構の周辺が浸水すると、ロック解除機構のフロートが浮き上がって不安定となり、球体が受座から落下することにより、弁体のロックが解除されて弁体が弁座に押し付けられるので、停電が生じた場合でも確実に流路を遮断することができる。また、そのロック解除機構はフロートに取り付けた受座に球体を載置したシンプルなものであるから、弁全体の構成を複雑化させない。
【0011】
ここで、球体の落下によって弁体のロックを解除するための具体的な手段としては、前記ロック解除機構の球体が前記ロック機構の一部に紐状体で連結されており、前記球体の落下に伴って、前記ロック機構がその一部を紐状体に引っ張られることにより前記弁体のロックを解除する方向に作動するものを採用することができる。
【0012】
また、前記フロートが上方に開口した支持箱に上下動可能に嵌まり込んでいる構成を採用すれば、通常時はフロートを安定した状態で保持して、誤動作の発生を防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の緊急遮断弁は、上述したように、ロック機構の周辺が浸水すると、ロック機構の周辺に配置されたロック解除機構のフロートが浮き上がって不安定となり、フロートの上部に取り付けられた受座から球体が落下することにより、ロック機構が弁体のロックを解除する方向に作動して、弁体が弁座に押し付けられるようにしたものであるから、簡単な構成で、水害発生時に停電が生じた場合でも確実に流路を遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態の緊急遮断弁の縦断正面図(待機状態)
【
図3】
図2に対応してロック解除された弁体が軸方向移動した状態を示す断面図
【
図4】
図1の緊急遮断弁の作動状態を示す縦断正面図
【
図5】
図1の緊急遮断弁の別の作動状態を示す縦断正面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。この緊急遮断弁は、主に水害対策用として燃料ガス等の流体を送給する配管の途中に設けられる機械式のものであり、
図1に示すように、内部に流路1aを有する弁箱1と、弁箱1内で往復動可能に支持された弁体2と、弁箱1内の流路1aの途中に設けられた弁座3と、弁体2を弁座3に押し付ける方向に付勢する付勢手段としてのコイルばね4と、コイルばね4の付勢力に抗して弁体2を弁座3から離反した状態でロックするロック機構10と、ロック機構10による弁体2のロックを解除するロック解除機構20とを備えている。なお、
図1は、通常時の待機状態を示している。
【0016】
弁箱1は、図示省略した配管に上下で挟まれるように接続され、前記流路1aが形成された弁箱本体5と、ロック機構10およびロック解除機構20が設けられた弁箱側部6とからなる。その弁箱本体5と弁箱側部6は、弁箱本体5の一側壁5aの開口に弁箱側部6の他側壁6aを貫通する筒状部6bの突出側が嵌合する状態で接続されている。また、弁箱本体5の流路1aの途中には、弁体2の一部を収容する弁室1bが形成されている。
【0017】
弁体2は、弁箱本体5の弁室1bに配されて弁座3に接離する弁部7を、弁箱本体5の一側壁5aおよび弁箱側部6全体を貫通する軸部8の先端に取り付けたものである。その軸部(以下、「弁体軸部」ともいう。)8は、軸方向中央部の3箇所がそれぞれ弁箱側部6の筒状部6b、ロック機構10および弁箱側部6の一側壁6cに摺動可能に支持されている。また、弁箱側部6の一側壁6cから突出する弁体軸部8の後端部は、弁箱側部6に取り付けられたカバー6dに覆われている。
【0018】
弁座3は、流路1aのうちの水平方向に延びる部分の内周部を形成するように弁箱本体5に取り付けられた筒状部材であり、その一端面に弁体2の弁部7が接離するようになっている(
図4参照)。
【0019】
コイルばね4は、弁室1b内で弁箱本体5の一側壁5aに一端を支持されて、他端で弁体2の弁部7を弁座3に押し付ける方向に付勢するように組み込まれている。
【0020】
ロック機構10は、弁箱側部6の筒状部6bに固定されて、弁体軸部8を摺動可能に通す環状の支持部材11と、弁体軸部8を通し、支持部材11の一側面に摺接する外輪体12と、外輪体12と弁体軸部8の間に配される複数のボール13とを備えている。そして、
図2に示すように、外輪体12の内周面と弁体軸部8の外周面には、それぞれ各ボール13の一部が入り込む環状溝12a、8aが形成されている。また、外輪体12は、その環状溝12aの周方向の複数個所にボール13を外周側に退避させるための凹部12bが形成されている。さらに、
図1に示すように、外輪体12の一端部には、ロック解除機構20と連結され、後述するロック解除機構20の作用により外輪体12を回転させるための連結部材14が固定されている。
【0021】
このロック機構10は、
図2に示したように各ボール13が外輪体12の凹部12bから外れた位置にあるときは、弁体軸部8の水平方向移動を規制して、弁体2を弁座3から離反した状態でロックする。そして、
図3に示すように、外輪体12が
図2の状態から回転して各ボール13が外輪体12の凹部12bに退避すると、ロック解除状態となり、コイルばね4に付勢された弁体2が弁座3に向かって移動するようになっている。
【0022】
ロック解除機構20は、
図1に示したように、ロック機構10が内蔵された弁箱側部6の上面に設置される支持箱21と、支持箱21内に配置されるフロート22と、フロート22の上部に取り付けられる受座23と、受座23に載置される球体24とを備えている。
【0023】
支持箱21は、上方に開口した平面視矩形のもので、下部に図示省略した排水孔が設けられており、通常時に雨水等が溜まらないようになっている。
【0024】
フロート22は、水よりも比重の軽い材料で形成された楕円体状の部材であり、通常時には、上半部が支持箱21の上方にはみ出し、下半部が支持箱21に上下動可能に嵌まり込んでいるが、支持箱21内へ水が流入すると浮き上がり、支持箱21からの突出部分が多くなって不安定となる(傾きやすくなる)。
【0025】
また、フロート22の最下部は支持箱21と弁箱側部6の上壁を貫通する紐状体25でロック機構10の連結部材14に連結されており、フロート22の大半が支持箱21からはみ出してもフロート22が支持箱21から離れて流失してしまわないようになっている。なお、紐状体25は、フロート22の大半が支持箱21からはみ出すのに十分な長さを有している。
【0026】
受座23は、上面23aが球体24の半径よりも小さい曲率半径の部分凹球面に形成されており、その上面23aの周縁部で球体24を支持するようになっている。
【0027】
球体24は、鋼製であり、フロート22と同様、支持箱21と弁箱側部6の上壁を貫通する紐状体26でロック機構10の連結部材14に連結されている。その紐状体26は、連結部材14の最上部から外れた位置に接続されており、フロート22とともに球体24が上昇しても連結部材14を引っ張らないだけの長さを有している。
【0028】
そして、
図4に示すように、水害発生時に緊急遮断弁全体が浸水して支持箱21に水が流入すると、フロート22が浮き上がって傾き、球体24が受座23から落下しながら紐状体26を介して連結部材14を引っ張ることにより、ロック機構10の外輪体12を回転させて、ロック機構10を弁体2のロックが解除される方向に作動させるようになっている。
【0029】
この緊急遮断弁は、上記の構成であり、津波や河川の氾濫等によって浸水し、ロック解除機構20の支持箱21に水が流入すると、フロート22が浮き上がって傾き、フロート22の上部に取り付けられた受座23から球体24が落下することにより、ロック機構10が弁体2のロックを解除する方向に作動し、弁体2の弁部7がコイルばね4の付勢力によって弁座3に押し付けられるようにしたので、水害発生時に停電が生じた場合でも確実に弁箱1内の流路1aを遮断することができる。
【0030】
そして、そのロック解除機構20は支持箱21内に配置されるフロート22に球体24を載置する受座23を取り付けたシンプルなものであるから、弁全体の構成としても電動式のものに比べて簡単なものとなっている。
【0031】
また、ロック解除機構20のフロート22は上方に開口した支持箱21に上下動可能に嵌まり込んでいるので、通常時はフロート22が安定した状態で保持され、誤動作が生じにくい。
【0032】
さらに、この緊急遮断弁では、
図5に示すように、地震発生時にもロック解除機構20の球体24の落下によって、ロック機構10が弁体2のロックを解除する方向に作動し、弁箱1内の流路1aを遮断する。ここで、流路1aを遮断する条件は、地震の大きさに合わせて受座23の形状を変更することにより調整することができる。
【0033】
上述したように、この緊急遮断弁は、水害対策用としてだけでなく、地震対策用としての機能も有しており、単一の装置でありながら水害と地震の両方に対して緊急遮断を行うことができる。
【0034】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0035】
例えば、ロック機構は、実施形態のものに限らず、通常時は弁体を弁座から離反した状態でロックし、ロック解除機構によって弁体のロックを解除する方向に作動するものであればよい。
【0036】
また、弁体および弁座は、実施形態のように弁体が往復動して弁座と接離するもののほか、弁体が回転して弁座と接離するものも用いることができる。
【符号の説明】
【0037】
1 弁箱
1a 流路
2 弁体
3 弁座
4 コイルばね(付勢手段)
5 弁箱本体
6 弁箱側部
7 弁部
8 軸部
10 ロック機構
11 支持部材
12 外輪体
13 ボール
14 連結部材
20 ロック解除機構
21 支持箱
22 フロート
23 受座
24 球体
25、26 紐状体