(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160788
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】光学素子、及び光学設計方法
(51)【国際特許分類】
G02B 1/02 20060101AFI20241108BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20241108BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
G02B1/02
G02B5/18
G02B3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076147
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】岩見 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】稲 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】丸山 潤
【テーマコード(参考)】
2H249
【Fターム(参考)】
2H249AA02
2H249AA12
2H249AA51
2H249AA64
(57)【要約】
【課題】光学特性の向上を図る光学素子、及び光学設計方法を提供する。
【解決手段】メタ原子の形状に基づき構成される微細パターンが形成された微細形状面11、及び平面状に形成された接合面12を有するメタレンズ1と、既存のレンズと同等の特徴を有し、前記接合面12と接合された接合用レンズ2と、を備えることを特徴とする。例えば、前記接合用レンズ2は、前記接合面12と接合された第1硝材2aと、前記接合面12と離間し、前記第1硝材2aと接合された第2硝材2bと、を少なくとも含むことを特徴とする。例えば、前記メタレンズ1の特徴を代替するバイナリーオプティクスを含む構成の光学設計に基づき、前記バイナリーオプティクスの有する第1段差パターンを設定する設定ステップと、第1算出ステップと、第1特定ステップと、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタ原子の形状に基づき構成される微細パターンが形成された微細形状面、及び平面状に形成された接合面を有するメタレンズと、
既存のレンズと同等の特徴を有し、前記接合面と接合された接合用レンズと、
を備えること
を特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記接合用レンズは、
前記接合面と接合された第1硝材と、
前記接合面と離間し、前記第1硝材と接合された第2硝材と、
を少なくとも含むこと
を特徴とする請求項1記載の光学素子。
【請求項3】
請求項1記載の光学素子を設計する光学設計方法であって、
下式(1)を満たす回折光学素子及び前記接合用レンズの条件を特定する第1制限条件ステップを備えること
を特徴とする光学設計方法。
B1∝λ0(N1-N2)/(R×(λ1-λ2)) ・・・(1)
B1:光学設計ソフトウェアを用いて前記回折光学素子を等価屈折法でモデル化する際の位相係数
λ0:前記回折光学素子の規格化波長
λ1:軸上色収差補正の対象とする第1補正対象波長
λ2:軸上色収差補正の対象とする第2補正対象波長
N1:前記第1補正対象波長に対し、前記接合用レンズの有する第1屈折率
N2:前記第2補正対象波長に対し、前記接合用レンズの有する第2屈折率
R:前記接合用レンズの有する凸面の曲率半径
【請求項4】
請求項1記載の光学素子を設計する光学設計方法であって、
下式(2)を満たす回折光学素子及び前記接合用レンズの条件を特定する第2制限条件ステップを備えること
を特徴とする光学設計方法。
B1∝λ0(φpc2-φpc1)/(-λ1(1-e´φpc1)+λ2(1-e´φpc2)) ・・・(2)
B1:光学設計ソフトウェアを用いて前記回折光学素子を等価屈折法でモデル化する際の位相係数
λ0:前記回折光学素子の規格化波長
λ1:軸上色収差補正の対象とする第1補正対象波長
λ2:軸上色収差補正の対象とする第2補正対象波長
φpc1:前記接合用レンズにおける焦点距離の逆数(パワー)
φpc2:前記回折光学素子における焦点距離の逆数(パワー)
e´:前記回折光学素子と前記接合用レンズとの間の幾何光学的な距離
【請求項5】
前記メタレンズの特徴を代替する前記回折光学素子の一つに含まれるバイナリーオプティクスを含む構成の光学設計に基づき、前記バイナリーオプティクスの有する第1段差パターンを設定する設定ステップと、
予め設定された第1波長に基づき、メタ原子の形状に対する位相の関係を示す第1位相データを算出する第1算出ステップと、
前記第1段差パターンから第1位相パターンを算出し、前記第1位相パターンに対応する前記微細パターンを、前記第1位相データを参照して特定する第1特定ステップと、
を備えること
を特徴とする請求項3又は4記載の光学設計方法。
【請求項6】
前記設定ステップは、前記バイナリーオプティクスと、初期設定用の従来レンズとを併用した構成の光学設計に基づき、前記第1段差パターンを設定すること
を特徴とする請求項5記載の光学設計方法。
【請求項7】
予め設定された前記第1波長とは異なる第2波長に基づき、前記第1位相データとは異なる第2位相データを算出する第2算出ステップと、
前記第2位相データを参照し、前記微細パターンに対応する第2位相パターンを特定する第2特定ステップと、
前記第1位相パターン及び前記第2位相パターンに基づき、前記接合用レンズを設計する設計ステップと、
をさらに備えること
を特徴とする請求項6記載の光学設計方法。
【請求項8】
前記設計ステップは、前記第2位相パターンに相当する第2段差パターンを特定し、前記第2段差パターンに基づき、前記接合用レンズを設計することを含むこと
を特徴とする請求項7記載の光学設計方法。
【請求項9】
前記第1算出ステップは、ベクトルモデルの光学シミュレーションを用いて前記第1位相データを算出すること
を特徴とする請求項5記載の光学設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光学素子、及び光学設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学素子として「メタレンズ」(「フラットオプティクス」とも呼ばれている)が注目を集めており、世界各地の研究機関で研究・開発が行われている。この「メタレンズ」は、厚みのほぼないフラットレンズを実現できるとされている。この理由は、シリコンの表面にナノメートル規模のパターンを描くことで、レンズのような働きをするからであり、例えばToF(Time of Flight)への応用が検討されている。従来におけるToF用途のセンサーは、上部に複数のレンズを配置して光を集めるため、レンズの枚数に伴う厚みが生じる。これに対し、メタレンズを用いることで、1枚の板を“レンズ”として使えるため、センサーの薄型化が期待されている。特に、設計によっては複数枚のレンズで構成していた光学系を、1枚で実現できる可能性もある。
【0003】
また、メタレンズは、回折作用を用いて光を制御する素子であり、回折光学素子(以下、必要に応じてDOE(Diffractive Optical Element)とも記載する)の一種であるともいえるが、その形成されているパターンの寸法が、使用する波長より小さな値のものを必要とする。このため、「光トラップによる非線形性」を考慮する必要があり、これまで言われているDOEとは異なるものとして取り扱う必要がある。
【0004】
メタレンズは、例えばメタサーフェスと呼ばれる1回の露光及びエッチングにより、メタ原子の形状を示す微細パターンを形成した構造のうち、レンズ作用を有する構造を示す。また、メタレンズの特徴として、平坦な形状を有する。このため、バイナリーオプティクスと比較した場合、コンパクトな構成が可能となり、様々な応用が期待されている。なお、メタレンズとして形成される微細パターンとしては、例えば特許文献1に開示された内容等が挙げられる。
【0005】
なお、レンズ作用を有する構成のメタマテリアルとするならば、露光の回数は、1回のほか、例えば2回以上でもよい。ここでは1回の露光により形成された構造(所謂メタサーフェス)を「メタレンズ」とする。
【0006】
メタレンズを作製する方法として、ナノメートルオーダーのパターンを形成する場合には、半導体製造で使用されているリソグラフィー技術が有効である。例えば石英ウエハに酸化膜や窒化膜を成膜した上にホトレジストを塗布し、ナノメートルオーダーのパターンを露光し、現像する。残ったレジストの無い部分をエッチングすることで、ナノメートルオーダーのパターンを形成する。露光方法としては、電子ビーム、露光光として紫外線(i線やエキシマレーザー発振波長)の使用やナノインプリント等々、色々な方法が使用できる。
【0007】
1枚の石英ウエハ上に複数の微細パターンが形成されたあと、ダイシング等により、メタレンズ1個毎に切り分けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の様に、メタレンズを作製する場合には石英ウエハが使用されるが、この石英ウエハの面に関しては、一方の面には微細パターンが形成され、他方の面には微細パターンが形成されず、平面状を示す(露光装置のチャックと呼ぶ保持機構のある部品に吸着するため)。この平らな面に反射防止の機能を付けることは困難であり、メタレンズを含む光学素子の光学性能の向上を図ることが難しい。このため、例えばメタレンズをToF等の計測に使用する場合、平らな面からの反射光がフレアやゴーストとなり、不具合が発生する恐れがある。
【0010】
ここで、通常レンズの反射防止膜は、誘電体膜を成膜することで形成可能としているが、メタレンズにおける石英ウエハの平らな面に、通常レンズと同様に誘電体膜を成膜する場合、反対側の微細パターンが形成された面にも誘電体膜が回り込み、計測結果に不具合が生じる場合がある。なお、マスク等を用いて、微細パターンが形成された面に付けた後の成膜も検討されているが、異物等の発生の原因となり得る。また、専用の高性能な成膜装置を用いた成膜により反射防止の対応ができたとしても、新しい装置の導入等でコストアップの原因となる。また、特許文献1の開示技術では、上述した光学特性の向上を図る必要性について、記載も示唆もされていない。
【0011】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、光学特性の向上を図る光学素子、及び光学設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係る光学素子は、メタ原子の形状に基づき構成される微細パターンが形成された微細形状面、及び平面状に形成された接合面を有するメタレンズと、既存のレンズと同等の特徴を有し、前記接合面と接合された接合用レンズと、を備えることを特徴とする。
【0013】
第2発明に係る光学素子は、第1発明において、前記接合用レンズは、前記接合面と接合された第1硝材と、前記接合面と離間し、前記第1硝材と接合された第2硝材と、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0014】
第3発明に係る光学設計方法は、第1発明の光学素子を設計する光学設計方法であって、下式(1)を満たす回折光学素子及び前記接合用レンズの条件を特定する第1制限条件ステップを備えることを特徴とする。
B1∝λ0(N1-N2)/(R×(λ1-λ2)) ・・・(1)
B1:光学設計ソフトウェアを用いて前記回折光学素子を等価屈折法でモデル化する際の位相係数
λ0:前記回折光学素子の規格化波長
λ1:軸上色収差補正の対象とする第1補正対象波長
λ2:軸上色収差補正の対象とする第2補正対象波長
N1:前記第1補正対象波長に対し、前記接合用レンズの有する第1屈折率
N2:前記第2補正対象波長に対し、前記接合用レンズの有する第2屈折率
R:前記接合用レンズの有する凸面の曲率半径
【0015】
第4発明に係る光学設計方法は、第1発明の光学素子を設計する光学設計方法であって、下式(2)を満たす回折光学素子及び前記接合用レンズの条件を特定する第2制限条件ステップを備えることを特徴とする。
B1∝λ0(φpc2-φpc1)/(-λ1(1-e´φpc1)+λ2(1-e´φpc2)) ・・・(2)
B1:光学設計ソフトウェアを用いて前記回折光学素子を等価屈折法でモデル化する際の位相係数
λ0:前記回折光学素子の規格化波長
λ1:軸上色収差補正の対象とする第1補正対象波長
λ2:軸上色収差補正の対象とする第2補正対象波長
φpc1:前記接合用レンズにおける焦点距離の逆数(パワー)
φpc2:前記回折光学素子における焦点距離の逆数(パワー)
e´:前記回折光学素子と前記接合用レンズとの間の幾何光学的な距離
【0016】
第5発明に係る光学設計方法は、第3発明又は第4発明において、前記メタレンズの特徴を代替する前記回折光学素子の一つに含まれるバイナリーオプティクスを含む構成の光学設計に基づき、前記バイナリーオプティクスの有する第1段差パターンを設定する設定ステップと、予め設定された第1波長に基づき、メタ原子の形状に対する位相の関係を示す第1位相データを算出する第1算出ステップと、前記第1段差パターンから第1位相パターンを算出し、前記第1位相パターンに対応する前記微細パターンを、前記第1位相データを参照して特定する第1特定ステップと、を備えることを特徴とする。
【0017】
第6発明に係る光学設計方法は、第5発明において、前記設定ステップは、前記バイナリーオプティクスと、初期設定用の従来レンズとを併用した構成の光学設計に基づき、前記第1段差パターンを設定することを特徴とする。
【0018】
第7発明に係る光学設計方法は、第6発明において、予め設定された前記第1波長とは異なる第2波長に基づき、前記第1位相データとは異なる第2位相データを算出する第2算出ステップと、前記第2位相データを参照し、前記微細パターンに対応する第2位相パターンを特定する第2特定ステップと、前記第1位相パターン及び前記第2位相パターンに基づき、前記接合用レンズを設計する設計ステップと、をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
第8発明に係る光学設計方法は、第7発明において、前記設計ステップは、前記第2位相パターンに相当する第2段差パターンを特定し、前記第2段差パターンに基づき、前記接合用レンズを設計することを含むことを特徴とする。
【0020】
第9発明に係る光学設計方法は、第5発明において、前記第1算出ステップは、ベクトルモデルの光学シミュレーションを用いて前記第1位相データを算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
第1発明~第9発明によれば、メタレンズは、平面上に形成された接合面を有する。また、接合用レンズは、接合面と接合される。このため、メタレンズの接合面における反射率を低減させることができ、例えば接合面に起因するフレアやゴースト等の不具合を抑制することができる。これにより、光学特性の向上を図ることが可能となる。
【0022】
また、第1発明~第9発明によれば、メタレンズの特徴と、接合用レンズの特徴との組合せにより、任意の軸上色収差を補正することができる。これにより、光学素子の用途拡大を図ることが可能となる。
【0023】
特に、第2発明によれば、接合用レンズは、第1硝材と、第2硝材とを少なくとも含む。このため、各硝材の材料を変更することで、光学素子全体の特性を容易に変化させることができる。これにより、光学素子のさらなる用途拡大を図ることが可能となる。
【0024】
特に、第3発明によれば、第1制限条件ステップは、式(1)を満たす回折光学素子及び接合用レンズの条件を特定する。このため、特定の二波長を対象とした軸上色収差補正を踏まえた設計を、容易に実現することができる。これにより、メタレンズを含む構成の光学設計を容易に実現することが可能となる。
【0025】
特に、第4発明によれば、第2制限条件ステップは、式(2)を満たす回折光学素子及び接合用レンズの条件を特定する。このため、レンズの厚さを考慮した設計を、容易に実現することができる。これにより、メタレンズを含む構成の光学設計における精度向上を図ることが可能となる。
【0026】
特に、第5発明によれば、設定ステップは、バイナリーオプティクスの有する第1段差パターンを設定する。また、第1特定ステップは、第1段差パターンから第1位相パターンを算出し、第1位相パターンに対応する微細パターンを、第1位相データを参照して特定する。このため、従来の方法により設定することができる第1段差パターンを利用して、メタレンズの設計に必要な微細パターンを特定することができる。これにより、メタレンズを含む構成の光学設計の容易化を図ることが可能となる。
【0027】
また、第6発明によれば、設定ステップは、バイナリーオプティクスと、初期設定用の従来レンズとを併用した構成の光学設計に基づき、第1段差パターンを設定する。このため、従来レンズとの併用を踏まえた第1段差パターンを利用して、メタレンズの設計に必要な微細パターンを特定することができる。これにより、メタレンズと、接合用レンズとを組合せた構成の光学設計の容易化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1(a)は、本実施形態における光学素子の一例を示す模式図であり、
図1(b)は、接合用レンズの変形例を示す模式図である。
【
図2】
図2(a)は、メタレンズと接合用レンズとを併用した構成の一例を示す模式図であり、
図2(b)は、メタレンズと接合用レンズとを併用した構成の変形例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、回折光学素子と接合用レンズとを併用した構成の一例を示す模式図である。
【
図4】
図4(a)は、本実施形態における光学設計方法の一例を示すフローチャートであり、
図4(b)は、制限条件ステップの変形例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本実施形態における光学設計方法の第1変形例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、バイナリーオプティクスと、従来レンズとを併用して光学設計を実施する際の構成の一例を示す模式図である。
【
図7】
図7は、位相データの一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、バイナリーオプティクスの段差の一例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、段差パターンに対応する微細パターンを特定する過程の一例を示す模式図である。
【
図10】
図10は、波長の異なる位相データ毎の差異の一例を示す模式図である。
【
図11】
図11(a)~
図11(c)は、それぞれ異なる段差パターンを有するバイナリーオプティクスと、接合用レンズとを併用して光学設計する際の構成の一例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、本実施形態における光学設計方法の第3変形例を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、規格化波長、及び位相分布の多項式の位相係数の入力状態の一例を示す模式図である。
【
図14】
図14は、焦点距離の計算結果を検証した結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、回折光学素子と、従来レンズとの位置関係の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態としての光学素子、及び光学設計方法の一例について、図面を参照しながら説明する。なお、各図における構成は説明のため模式的に記載されており、構成毎における形状や厚さ等については、図とは異なってもよい。
【0030】
(実施形態:光学素子100)
以下、本実施形態における光学素子100の一例について説明する。
図1(a)は、本実施形態における光学素子100の一例を示す模式図であり、
図1(b)は、接合用レンズ2の変形例を示す模式図である。
【0031】
本実施形態における光学素子100は、例えば
図1(a)に示すように、メタレンズ1と、接合用レンズ2とを備える。メタレンズ1は、従来の回折光学素子とは異なる取り扱いが必要となる集光機能(所謂レンズ機能)を示す。接合用レンズ2は、メタレンズ1とは異なる特徴を有し、屈折型レンズ、発散型レンズ、反射型レンズ等のような一般的なレンズ(既存レンズ又は従来レンズ)を示す。
【0032】
メタレンズ1は、微細形状面11と、接合面12とを有する。微細形状面11は、微細パターンが形成された面を示す。微細パターンは、メタ原子の形状に基づき構成され、微細パターンの構成内容によりメタレンズ1の特性が変化する。微細形状面11には、例えばそれぞれ異なる複数の微細パターンが形成されてもよい。なお、微細形状面11に形成された微細パターンの特徴や種類は、用途に応じて任意に設定することができる。
【0033】
例えば
図1(a)に示すように、第1パターンP1、第2パターンP2、第3パターンP3は、それぞれ異なる種類の微細パターンを示す例であり、第1パターンP1、第2パターンP2、第3パターンP3の順に、ガラス等のような素子材料の占有する領域が少ない構成(P1<P2<P3)を示す。この場合、メタレンズ1の特徴を示す実効的屈折率は、第1パターンP1、第2パターンP2、第3パターンP3の順で低い傾向(P1<P2<P3)を示す。なお、メタレンズ1の断面図を参照した場合、各パターンP1、P2、P3は面積に基づき比較されるが、実際には各パターンP1、P2、P3の体積(メタ原子の形状)に基づき比較することができる。
【0034】
メタレンズ1の材料として、例えば石英(SiO2)や、S-BSL7等の公知の材料が用いられる。なお、メタレンズ1の材料を選定する際、不要光の必要仕様と、収差の必要仕様とのトレードオフを考慮する必要がある。
【0035】
接合面12は、微細形状面11に対向し、平面状に形成された面を示す。接合面12には、微細パターンが形成されない。
【0036】
接合用レンズ2は、既存のレンズと同等の特徴を有し、接合面12と接合される。接合用レンズ2は、例えば公知のレンズ用接着剤を介して、接合面12と接合される。接合用レンズ2における接合面12と接合される面は、例えば平面状に形成される。
【0037】
上述した光学素子100は、メタレンズ1の接合面12における反射率を低減させることができ、例えば接合面12に起因するフレアやゴースト等の不具合を抑制することができる。これにより、光学特性の向上を図ることが可能となる。
【0038】
また、上述した光学素子100によれば、メタレンズ1の特徴と、接合用レンズ2の特徴との組合せにより、任意の軸上色収差を補正することができる。これにより、光学素子100の用途拡大を図ることが可能となる。
【0039】
接合用レンズ2は、例えば
図1(b)に示すように、第1硝材2aと、第2硝材2bとを少なくとも含む。第1硝材2aは、接合面12と接合される。第2硝材2bは、接合面12と離間し、第1硝材2aと接合される。このため、各硝材2a、2bの材料を変更することで、光学素子100全体の特性を容易に変化させることができる。これにより、光学素子100のさらなる用途拡大を図ることが可能となる。なお、接合用レンズ2は、例えば第1硝材2a及び第2硝材2bに加え、用途に応じて任意の硝材を含んでもよい。
【0040】
(実施形態:光学設計方法)
以下、本実施形態における光学設計方法の一例について説明する。
図2(a)は、メタレンズ1と接合用レンズ2とを併用した構成の一例を示す模式図であり、
図2(b)は、メタレンズ1と接合用レンズ2とを併用した構成の変形例を示す模式図である。
図3は、回折光学素子101と接合用レンズ2とを併用した構成の一例を示す模式図である。
図4(a)は、本実施形態における光学設計方法の一例を示すフローチャートであり、
図4(b)は、制限条件ステップS10の変形例を示すフローチャートである。
【0041】
本実施形態における光学設計方法は、例えば
図2(a)に示すように、メタレンズ1と、接合用レンズ2とを備えた光学素子100の光学設計を実現するために用いることができる。光学設計方法では、例えば絞り3、及び光学素子100の順に配置された構成に基づき、無限遠物体からの平行光4が入射したときの集光5に関する情報を取得することができる。なお、光学素子100の配置については、絞り3と接合用レンズ2との間にメタレンズ1が配置されるほか、例えば
図2(b)に示すように、絞り3とメタレンズ1との間に接合用レンズ2が配置されてもよく、用途に応じて任意に配置することができる。
【0042】
光学設計方法は、制限条件ステップS10を備える。制限条件ステップS10は、例えば
図3に示すように、公知の光学設計ソフトウェアを用いて、メタレンズ1の特徴を代替する回折光学素子101と、接合用レンズ2とを併用した構成の条件を特定する。例えば制限条件ステップS10では、接合用レンズ2として平凸レンズを用いることを考慮することで、他のレンズを考慮する場合に比べて、高精度に設計することが可能となる。この場合、接合面12を代替する回折光学素子101の平面には、接合用レンズ2の平面側が接合されることを前提として、制限条件ステップS10が実施される。
【0043】
光学設計方法は、例えば制限条件ステップS10により特定された条件を用いて、任意の方法により光学素子100の光学設計を実施することができる。
【0044】
制限条件ステップS10は、例えば
図4(a)に示す第1制限条件ステップS11を備えるほか、例えば
図4(b)に示す第2制限条件ステップS12を備えてもよい。例えば制限条件ステップS10は、第1制限条件ステップS11、及び第2制限条件ステップS12を備えた場合、条件の最適化を早めることが期待できる。第1制限条件ステップS11、及び第2制限条件ステップS12は、例えば「CODEV(登録商標)」等の公知の光学設計ソフトウェアを用いて実施することができる。なお、例えば光学設計方法は、設計すべき仕様を確定する準備ステップS0を備えてもよい。
【0045】
<第1制限条件ステップS11>
第1制限条件ステップS11は、下式(1)を満たす回折光学素子101及び接合用レンズ2の条件を特定する。
B1∝λ0(N1-N2)/(R×(λ1-λ2)) ・・・(1)
ここで、式(1)内の文字は下記の通りである。
B1:光学設計ソフトウェアを用いて回折光学素子101を等価屈折法でモデル化する際の位相係数
λ0:回折光学素子101の規格化波長
λ1:軸上色収差補正の対象とする第1補正対象波長
λ2:軸上色収差補正の対象とする第2補正対象波長
N1:第1補正対象波長に対し、接合用レンズ2の有する第1屈折率
N2:第2補正対象波長に対し、接合用レンズ2の有する第2屈折率
R:接合用レンズ2の有する凸面の曲率半径
【0046】
なお、例えば「CODEV(登録商標)」においては、上式(1)に示す比例ではなく、下式(101)に示す等号により表現できることを、本発明者は見出した。
C1=-λ0(N1-N2)/(2R×(λ1-λ2)) ・・・(101)
ここで、式(101)内の文字は下記の通りである。
C1:「CODEV(登録商標)」を用いて回折光学素子101を等価屈折法でモデル化する際の位相係数
【0047】
上式(1)を満たすことで、特定の二波長を対象とした軸上色収差補正を踏まえた設計を、容易に実現することができる。これにより、最終的にはメタレンズ1を含む構成の光学設計を容易に実現することが可能となる。なお、上式(1)の導出については、後述する。
【0048】
なお、例えば上式(101)に示す位相係数C1は、「CODEV(登録商標)」において回折光学素子101を等価屈折率法でモデル化する際、回折光学素子101だけを透過した時に光学波面の位相が変形する量を、多項式で表現した時に半径の二乗に掛かる係数を示す。
【0049】
<第2制限条件ステップS12>
第2制限条件ステップS12は、下式(2)を満たす回折光学素子101及び接合用レンズ2の条件を特定する。
B1∝λ0(φpc2-φpc1)/(-λ1(1-e´φpc1)+λ2(1-e´φpc2)) ・・・(2)
ここで、式(2)内の文字は下記の通りである。
B1:光学設計ソフトウェアを用いて回折光学素子101を等価屈折法でモデル化する際の位相係数
λ0:回折光学素子101の規格化波長
λ1:軸上色収差補正の対象とする第1補正対象波長
λ2:軸上色収差補正の対象とする第2補正対象波長
φpc1:接合用レンズ2における焦点距離の逆数(パワー)
φpc2:回折光学素子101における焦点距離の逆数(パワー)
e´:回折光学素子101と接合用レンズ2の間の幾何光学的な距離
【0050】
なお、例えば「CODEV(登録商標)」においては、上式(2)に示す比例ではなく、下式(102)に示す等号により表現できることを、本発明者は見出した。
C1=λ0(φpc2-φpc1)/(-2λ1(1-e´φpc1)+2λ2(1-e´φpc2)) ・・・(102)
【0051】
上式(2)を満たすことで、最終的にはメタレンズ1とするためのここでは回折光学素子101、及び接合用レンズ2の厚さを考慮した設計を、容易に実現することができる。これにより、回折光学素子101を含む構成の光学設計における精度向上を図ることが可能となる。
【0052】
上述した第1制限条件ステップS11、及び第2制限条件ステップS12の少なくとも何れかを実施することで、本実施形態における光学設計方法は終了し、例えば各ステップS11、S12において特定された条件に基づき、公知の製造方法を実施することで、上述した光学素子100を製造することができる。
【0053】
本実施形態によれば、メタレンズ1は、平面上に形成された接合面12を有する。また、接合用レンズ2は、接合面12と接合される。このため、メタレンズ1の接合面12における反射率を低減させることができ、例えば接合面12に起因するフレアやゴースト等の不具合を抑制することができる。これにより、光学特性の向上を図ることが可能となる。
【0054】
ここで、メタレンズ1の特徴として、回折作用により集光する点が挙げられ、メタレンズ1の焦点距離は、メタレンズ1を通過する光の波長に依存する。このため、メタレンズ1を利用する際に、軸上色収差を考慮する必要が生じる。
【0055】
例えばメタレンズ1をTOFに用いる場合、メタレンズ1の特性を850nm又は940nm程度の波長に対応させる必要がある。しかしながら、上記波長領域は、人間の目で直接見ることができないため、光軸調整等の工夫が必要となる。
【0056】
これに対し、本実施形態によれば、メタレンズ1の特徴と、接合用レンズ2の特徴との組合せにより、任意の軸上色収差を補正することができる。これにより、光学素子100の用途拡大を図ることが可能となる。
【0057】
また、本実施形態によれば、接合用レンズ2は、第1硝材2aと、第2硝材2bとを少なくとも含む。このため、各硝材2a、2bの材料を変更することで、光学素子100全体の特性を容易に変化させることができる。これにより、光学素子100のさらなる用途拡大を図ることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態によれば、第1制限条件ステップS11は、式(1)を満たす回折光学素子101及び接合用レンズ2の条件を特定する。このため、特定の二波長を対象とした軸上色収差補正を踏まえた設計を、容易に実現することができる。これにより、メタレンズ1を含む構成の光学設計を容易に実現することが可能となる。
【0059】
また、本実施形態によれば、第2制限条件ステップS12は、式(2)を満たす回折光学素子101及び接合用レンズ2の条件を特定する。このため、レンズの厚さを考慮した設計を、容易に実現することができる。これにより、メタレンズ1を含む構成の光学設計における精度向上を図ることが可能となる。
【0060】
(第1変形例:光学設計方法)
次に、本実施形態における光学設計方法の第1変形例について説明する。上述した実施形態と、第1変形例との違いは、設定ステップS2等を実施する点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0061】
光学設計方法は、例えば
図5に示すように、設定ステップS2と、第1算出ステップS3と、第1特定ステップS4と、第2算出ステップS5と、第2特定ステップS6と、設計ステップS7とをさらに備える。なお、本変形例を実施する場合、例えば上述した制限条件ステップS10における「回折光学素子101」は、回折光学素子101の一つに含まれる「バイナリーオプティクス21」と読み替えてもよい。
【0062】
<設定ステップS2>
設定ステップS2は、例えば
図6に示すように、メタレンズ1の特徴を代替するバイナリーオプティクス21(以下、必要に応じてBO(Binary Optics)とも記載する)と、初期設定用の従来レンズ22とを併用した構成の光学設計に基づき、光学特性を決定する。光学特性は、例えばバイナリーオプティクス21の有する段差パターン(例えば第1段差パターン)を含み、公知の光線追跡用光学設計ソフトウェアを用いて算出することができる。光学特性は、例えば波長、焦点距離、Fナンバー、許容各種収差量のようなパラメータを含んでもよく、例えば透過波面又は反射波面の特徴を含んでもよい。
【0063】
<第1算出ステップS3>
第1算出ステップS3は、予め設定された第1波長λ1(例えば第1補正対象波長)に基づき、メタ原子の形状に対する位相の関係を示す第1位相データを算出する。第1位相データは、例えば非線形成分の影響を踏まえた上記関係を示す。第1算出ステップS3は、例えば公知のベクトルモデルの光学シミュレーションを用いて、第1位相データ等の位相データを算出することができる。なお、位相データは、例えば設計するメタレンズ1の材質、屈折率、メタ原子の形状(例えば円柱)、メタ原子の高さ、対応する波長等のパラメータを用いて算出される。
【0064】
<第1特定ステップS4>
第1特定ステップS4は、第1段差パターンから第1位相パターンを算出し、第1位相パターンに対応するメタ原子の形状を示す微細パターンを、第1位相データを参照して特定する。微細パターンを特定する方法の例は、後述する。
【0065】
<第2算出ステップS5>
第2算出ステップS5は、予め設定された第1波長λ1とは異なる第2波長λ2(例えば第2補正対象波長)に基づき、第1位相データとは異なる第2位相データを算出する。第2位相データは、例えば上述した第1位相データと同様に、公知のベクトルモデルの光学ソフトウェアを用いて算出することができる。
【0066】
なお、第2算出ステップS5は、例えば第2位相データのほか、複数の位相データを算出してもよい。この場合、第2算出ステップS5は、それぞれ異なる波長に基づき、複数の位相データを算出する。
【0067】
<第2特定ステップS6>
第2特定ステップS6は、第2位相データを参照し、第1特定ステップS4により特定した微細パターンに対応する第2位相パターンを特定する。第2位相パターンを特定する方法の例は、後述する。
【0068】
なお、第2特定ステップS6は、例えば第2位相パターンのほか、第2算出ステップS5で算出された複数の位相データを参照し、複数の位相パターンを特定してもよい。位相パターンを特定する数は、任意である。
【0069】
<設計ステップS7>
設計ステップS7は、例えば第1位相パターン及び2位相パターンに基づき、接合用レンズ2を設計する。設計ステップS7では、例えば公知の光線追跡用光学設計ソフトウェアを用いて、接合用レンズ2を対象とした光学設計を実施することができる。なお、設計された接合用レンズ2は、例えば設定ステップS2における初期設定用の従来レンズ22と等しいほか、異なる特徴を有してもよい。なお、設計ステップS7を実施するか否かは、任意である。
【0070】
設計ステップS7は、例えば第2算出ステップS5で算出した位相データ(例えば第2位相データ)に基づき、接合用レンズ2を設計してもよい。また、設計ステップS7は、例えば第2位相パターンに加え、第1位相パターン又は第1段差パターンに基づき、接合用レンズ2を設計してもよい。これらの場合においても、設計ステップS7では、例えば公知の光線追跡用光学設計ソフトウェアを用いて、接合用レンズ2を対象とした光学設計を実施することができる。
【0071】
ここで、第1位相パターン、及び第2位相パターンは、それぞれ同一のメタレンズ1の微細パターンに紐づく。このため、第1位相パターン、及び第2位相パターンを用いることで、メタレンズ1の特徴を容易に表すことができ、メタレンズ1と併用する接合用レンズ2の設計を容易に実施することができる。
【0072】
なお、設計ステップS7は、例えば第2位相パターンのほか、第2特定ステップS6で特定された複数の位相パターンに基づき、接合用レンズ2を設計してもよい。
【0073】
以下、光学設計方法の変形例について、詳細に説明する。ここでは二波長以上の波長に対して補正すること考えるとする。なお、以下では、バイナリーオプティクス21のうち、設定ステップS2における第1位相パターンを有するバイナリーオプティクス21をBO-Aとし、第2特定ステップS6における第2位相パターンを有するバイナリーオプティクス21をBO-Bとし、第2特定ステップS6における複数の位相パターンのうち、何れか1つを有するn個のバイナリーオプティクス21をBO-n(nは1以上の整数)として説明する。なお、BO-nは、BO-A又はBO-Bと同じ特徴を示してもよい。
【0074】
設定ステップS2は、BO-Aと、初期設定用の従来レンズ22とを併用した構成の光学設計に基づき、光学特性を決定する。光学特性は、例えばBO-Aの有する第1段差パターンを含む。設定ステップS2では、例えば準備ステップS0で確定した仕様に基づき、上記構成の条件を設定する。
【0075】
設定ステップS2は、例えばBO-Aと、従来レンズ22とを併用した構成の光学設計に基づき、等価屈折率法を用いて光学特性を決定する。設定ステップS2では、例えば軸上、軸外画角、複数の波長に対して必要な仕様を満たす光学特性を達成するように光学設計を行う。なお、初期設定用の従来レンズ22の種類及び数は、任意である。
【0076】
第1算出ステップS3は、予め設定された第1波長λ1に基づき、第1位相データを算出する。第1算出ステップS3では、公知のベクトルモデルの光学ソフトウェアを用いて、位相データを算出する。このため、算出された位相データは、上述した「光トラップ」による非線形性の影響も考慮されたデータを示す。これにより、BO-Aの第1段差パターンに対するメタレンズ1の微細パターンの設計が可能となる。
【0077】
第1位相データは、例えば
図7に示すように、横軸にメタ原子の形状(例えば円柱の直径P1、P2、P3等)を示し、縦軸に位相(例えばp1、p2、p3等)を示す。第1位相データは、メタ原子の形状における変化に対し、位相が非線形に変化する特徴を示す。これにより、複雑な特性を有するメタレンズ1の微細パターンを、高精度に設計することが可能となる。なお、位相パターンは、波長毎に位相とメタ原子の形状との関係が異なる。このため、第1波長λ1とは異なる波長に基づき位相データを算出した場合、第1位相データとは異なる位相データが得られる。
【0078】
第1特定ステップS4は、BO-Aの第1段差パターンから第1位相パターンを算出し、第1位相パターンに対応する微細パターンを、第1位相データを参照して特定する。
【0079】
ここで、バイナリーオプティクス21(ここではBO-A)の段差パターンに含まれる段差dと、位相との関係について説明する。例えば
図8に示すように、バイナリーオプティクス21の段差dが、下式(3)となる関係に設定された場合、バイナリーオプティクス21に対して垂直入射の平面波の光が透過すると、段差dの影響によりαλの位相差が生じる。
Nd-d = αλ ・・・(3)
ここで、式(3)内の文字は下記の通りである。
λ:光の波長
N:バイナリーオプティクス21の材質の屈折率(例えば空気に対する相対屈折率)
α:任意の係数(仕様により異なる)
【0080】
上式(3)により、バイナリーオプティクス21における各階段の高さは、係数αを異なる値とすることで、仕様に適した位相差を得ることができる。例えばαを1とした場合には、位相差2πを満たす段差dを導出することができる。第1特定ステップS4では、例えば上式(3)を用いることで、第1段差パターンから第1位相パターンを算出することができる。
【0081】
第1特定ステップS4は、例えば
図9に示すように、上式(3)を用いて、段差パターン(
図9ではd1、d2、及びd3)から位相パターン(
図9ではp1、p2、及びp3)を算出する。その後、第1特定ステップS4は、第1位相データを参照し、算出した位相パターン(p1、p2、及びp3)に対応する微細パターン(
図9ではP1、P2、及びP3)を特定する。このように、第1特定ステップS4では、第1位相データを参照して微細パターンを特定するため、「光トラップ」による非線形性の影響を考慮したメタレンズ1の設計を容易に実施することが可能となる。
【0082】
第2算出ステップS5は、予め設定された1以上の波長(例えば第2波長λ2、及び第3波長λ3)に基づき、波長毎に対応する1以上の位相データ(例えば第2位相データ、及び第3位相データ)を算出する。なお、位相データは、上述した第1位相データと同様に、公知のベクトルモデルの光学シミュレーションを用いて算出することができる。
【0083】
第2特定ステップS6は、第2算出ステップS5で算出した1以上の位相データを参照し、位相データ毎に異なる1以上の位相パターンを特定する。
【0084】
第2特定ステップS6では、位相データの特徴を利用して、位相パターンを特定する。例えば
図10に示すように、第2波長λ2が第1波長λ1よりも長い波長を示す場合、第2位相データは、第1位相データよりも全体的に右側へシフトした特徴を示す。また、第3波長λ3が第1波長λ1よりも短い波長を示す場合、第3位相データは、第1位相データよりも全体的に左側にシフトした特徴を示す。
【0085】
上述した特徴を踏まえ、第1特定ステップS4で算出した微細パターン(
図10ではP1、P3)に対応する位相データ毎の位相パターンを特定する。即ち、第2位相データを参照した場合、直径P1に対応する位相p1L、及び直径P3に対応する位相p3Lを含む位相パターン(第2位相パターン)が特定される。また、第3位相データを参照した場合、直径P1に対応する位相p1S、及び直径P3に対応する位相p3Sを含む位相パターン(第3位相パターン)が特定される。
【0086】
設計ステップS7は、例えば第2位相パターンを含む複数の位相パターンに基づき、接合用レンズ2を設計する。設計ステップS7では、公知の光学設計ソフトウェアを用いる際、例えば初期設定用の従来レンズ22とは異なるレンズ枚数や、異なる硝材等の材料特性をパラメータとして、接合用レンズ2を設計することができる。
【0087】
例えば複数の波長として三波長(第1波長λ1、第2波長λ2、第3波長λ3)を対象とした場合、例えば
図11(a)~
図11(c)に示すように、三波長の各波長に対応するバイナリーオプティクス21(
図11(a)~
図11(c)ではBO-A、BO-B、BO-1)に基づき、それぞれに共通する接合用レンズ2を設計することで、三波長に対応する接合用レンズ2の設計を実現することができる。
【0088】
例えば、設計ステップS7において、公知の光学設計ソフトウェアとして「CODEV(登録商標)」を用いた場合について説明する。
【0089】
先ず前提として、「CODEV(登録商標)」を用いた場合、製造方法に依存せず、回折光学素子101を適用する光学面上における連続的な位相分布により表現することができる。その位相分布は、回転対称の場合にはΦ=f(r)にて表現し、規格化波長HWLと呼ばれる参照波長λ0で割ることで、フリンジ(縞)分布へ変換している。
【0090】
規格化波長HWLは、最適な効率を得ることのできる波長を指定し、バイナリーオプティクス21の場合にはステップ(階段)の深さの計算に使用する。位相分布Φに関して、バイナリーオプティクス21の場合では、バイナリーオプティクス21の形状の様に階段状で表現するのではなく、アナログ的な連続量を位相係数HCO(Cj)で表現する。この位相係数HCO(Cj)としては、例えば10個(Cj:C1~C10)の入力ができ、位相の形を表現できる。
【0091】
例えば、設定ステップS2では、「CODEV(登録商標)」を用いてアナログ量の位相を算出し、算出結果から第1段差パターンを決定することができる。この第1段差パターンとして、例えば3ステップと呼ばれている8段の形状を作製する場合、3回のリソグラフィーの露光及びエッチングが行われる。このエッチング量の相対比の理想値は1:2:4であり、各段差の量は一定となり得る。なお、「CODEV(登録商標)」を用いて計算する場合には、「タイプ(DIF)」をステップとすることで可能となり、上述した規格化波長HWL及び位相係数HCO(Cj)から、第1段差パターンの形状が決定される。その段差量は、製造する場合と同様に一定量となり得る。上述した「タイプ(DIF)」は、例えば「線形回折格子」、「位相多項式(キノフォーム/バイナリ)」、「ホログラフィック光学素子」等の項目がある。
【0092】
上記を踏まえ、設計ステップS7では、上式(3)を用いて規格化波長HWLを算出することができる。この場合、αを1とした上で、第2位相パターンのうち、最も大きな位相をNdに対応させ、最も小さな位相をdに対応させることで、上式(3)の右辺で得られる波長λを、規格化波長HWLとして用いることができる。
【0093】
また、位相係数HCO(Cj)として、例えば第1特定ステップS4で特定された微細パターンに含まれる各位相の値に基づき設定することができる。ここで、「CODEV(登録商標)」では、設定した値を連続量の位相として計算される。これに対し、微細パターンに含まれる各位相の値は、それぞれ離散的な値を示す。このため、例えば各位相の離散的な値を、規格化波長HWLに対して繋ぎ合わせ(アンラッピング)することで、連続的(アナログ)な値が得られ、この処理を位相係数HCO(Cj)毎にフィッティングすることで、位相係数HCO(Cj)の設定値の最適化を実現できる。なお、位相係数HCO(Cj)のフィッティングのための初期値は、設定ステップS2において設定した位相係数HCO(Cj)を用いることで、最適化の早期収束が可能となる。
【0094】
例えば上記のような方法により、第2波長に対応したバイナリーオプティクス21の規格化波長HWL、及び位相係数HCO(Cj)を、第1波長のものと併せて使用することで、接合用レンズ2の設計をすることが可能となる。なお、前記の規格化波長HWLが必ずしも第2波長等とはならないことは、微細パターンを有するメタレンズ1の第2波長等の回折効率を低下させることに起因する。そのため、規格化波長HWLを第2波長等として設定した場合、不要光、フレア、ゴーストの発生の原因となり光学性能を低下させる恐れがある。そのため、規格化波長HWLを第2波長等に近い値とすることが好ましく、これは第1波長に対応するメタ原子の微細パターンを特定することで可能となる。
【0095】
例えば設計ステップS7のあと、評価ステップを実施してもよい。評価ステップは、設計された構成が、準備ステップS0等で確定された仕様を満たすか否かを判断し、満たす場合には終了(End)し、満たさない場合に第1制限条件ステップS11を再び実施する。なお、評価ステップは、例えば仕様を満たさない場合に、第2制限条件ステップS12~設計ステップS7のうち何れかを、再び実施するようにしてもよい。
【0096】
本変形例における光学設計方法によれば、設定ステップS2は、バイナリーオプティクス21の有する第1段差パターンを設定する。また、第1特定ステップS4は、第1段差パターンから第1位相パターンを算出し、第1位相パターンに対応するメタ原子の形状を示す微細パターンを、第1位相データを参照して特定する。このため、従来の方法により設定することができる第1段差パターンを利用して、メタレンズ1の設計に必要な微細パターンを特定することができる。これにより、メタレンズ1を含む構成の光学設計を容易に実現することが可能となる。
【0097】
また、本変形例における光学設計方法によれば、設定ステップS2は、バイナリーオプティクス21と、初期設定用の従来レンズ22とを併用した構成の光学設計に基づき、第1段差パターンを設定する。また、第1特定ステップS4は、第1段差パターンから第1位相パターンを算出し、第1位相パターンに対応するメタ原子の形状を示す微細パターンを、第1位相データを参照して特定する。このため、従来レンズ22との併用を踏まえた第1段差パターンを利用して、メタレンズ1の設計に必要な微細パターンを特定することができる。これにより、メタレンズ1と、接合用レンズ2とを併用した構成の光学設計の容易化を図ることが可能となる。
【0098】
本変形例によれば、例えば以下の様なことが可能となる。まず、メタレンズ1単体の設計時間が短縮できる。メタレンズ1だけを結像系に使用を考えるとすると、メタレンズ1だけで光学性能を仕様内に追い込む最適化が必要となり、一条件、数時間掛かるベクトルモデルの光学シミュレーションを使った計算を複数回、実施する必要がある。これに対し、本変形例によれば、メタレンズ1の光学性能は、接合用レンズ2と併せて仕様内にすればよいので、メタレンズ1に対しての複数回の光学性能を収束させる様な最適化のためのベクトルモデルの光学シミュレーションを使った計算が不要となる。このため、接合用レンズ2のみの最適化により目的を達成することが可能となる。
【0099】
(第2変形例:光学設計方法)
次に、本実施形態における光学設計方法の第2変形例について説明する。上述した実施形態と、第2変形例との違いは、設計ステップS7において、第2段差パターンを特定する点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0100】
設計ステップS7では、例えば第1特定ステップS4において説明した式(3)を用いて、特定した位相パターンに相当する段差パターンを特定することができる。例えば設計ステップS7は、第2位相パターンに含まれる位相毎に導出された段差dを、BO-Bの有する第2段差パターンとして特定し、第3位相パターンに含まれる位相毎に導出された段差dを、BO-1の有する第3段差パターンとして特定することができる。即ち、設計ステップS7では、特定の波長毎に異なるバイナリーオプティクス21の段差パターンを特定することもできる。
【0101】
設計ステップS7では、特定した1以上の段差パターン(例えば第2段差パターン)に基づき接合用レンズ2を設計する。この際、上述した「CODEV(登録商標)」等の公知の光学設計ソフトウェアを用いることができる。これにより、複数の波長に対応し得る接合用レンズ2の設計を実現することが可能となる。
【0102】
本変形例においても、上述した実施形態と同様に、設定ステップS2は、バイナリーオプティクス21の有する第1段差パターンを設定する。また、第1特定ステップS4は、第1段差パターンから第1位相パターンを算出し、第1位相パターンに対応するメタ原子の形状を示す微細パターンを、第1位相データを参照して特定する。このため、従来の方法により設定することができる第1段差パターンを利用して、メタレンズ1の設計に必要な微細パターンを特定することができる。これにより、メタレンズ1を含む構成の光学設計を容易に実現することが可能となる。
【0103】
なお、従来のバイナリーオプティクスは、自然数N回の露光、エッチングをおこなうことで、2のN乗の階段形状のパターンとしている。N=2、4、6なら4、8、16の階段形状となる。
【0104】
本提案のメタレンズ1のために考えるバイナリーオプティクス21は、従来の2のN乗の階段形状とする必要は無く、7段や10段とすることでも構わない。この理由として、メタレンズ1はメタサーフェスの範疇の物とするならば1回の露光、エッチングで階段形状を形成させる位相と同じ量の位相を発生させる実効的屈折率となるメタ原子の形状をすればよいためである。
【0105】
(第3変形例:光学設計方法)
次に、本実施形態における光学設計方法の第3変形例について説明する。
図12は、光学設計方法の第3変形例におけるフローチャートである。
【0106】
上述した実施形態と、第3変形例との違いは、第2算出ステップS5及び第2特定ステップS6を実施しない点である。なお、上述した実施形態と同様の内容については、説明を省略する。
【0107】
本変形例における光学設計方法によれば、例えば
図12に示すように、第1制限条件ステップS11と、第2制限条件ステップS12と、設定ステップS2と、第1算出ステップS3と、第1特定ステップS4とを備え、例えば設計ステップS7を備えてもよい。
【0108】
設定ステップS2は、バイナリーオプティクス21と、従来レンズ22とを併用した構成の光学設計のほか、例えばバイナリーオプティクス21のみを構成とした光学設計に基づき、第1段差パターンを設定してもよい。即ち、本変形例における設定ステップS2では、従来レンズ22を用いるか否かは任意である。
【0109】
本変形例においても、上述した実施形態と同様に、設定ステップS2は、バイナリーオプティクス21の有する第1段差パターンを設定する。また、第1特定ステップS4は、第1段差パターンから第1位相パターンを算出し、第1位相パターンに対応するメタ原子の形状を示す微細パターンを、第1位相データを参照して特定する。このため、従来の方法により設定することができる第1段差パターンを利用して、メタレンズ1の設計に必要な微細パターンを特定することができる。これにより、メタレンズ1を含む構成の光学設計を容易に実現することが可能となる。
【0110】
なお、上述した本実施形態では、例えば
図10等に示したように、異なる3つの波長を挙げて説明を行ったが、必ずしも第1波長が第2波長よりも短く、第3波長よりも長い波長(即ち、3つの波長のうち中心の波長)である必要はない。例えば以下の様な場合が考えられる。3つの波長λ21、λ22、λ23の長さがλ21>λ22>λ23であり、照明波長を切り替えて使用する機能がある場合について、その照明波長条件が
1 波長λ21+λ22+λ23(ブロード)
2 波長λ23だけ(例えばレーザー使用)
で波長λ23だけの場合の結像性能、回折効率を最適にして仕様を設定する場合には、波長λ23を第1波長として設計を行い、波長λ21、λ22に関しては本提案を適用することで本発明の目的が達成されることは自明である。
【0111】
(第4変形例:光学設計方法)
次に、本実施形態における光学設計方法の第4変形例について説明する。第4変形例では、「原器合わせ」時の問題発生への対応を実現することが可能となる。
【0112】
先ず、上述した接合用レンズ2を作製する際、「ニュートン原器」と呼ばれるレンズ曲率半径精度の判断基準をするためのゲージを用いる。レンズを磨く研磨皿や検査用のニュートン原器の曲率半径は、飛び飛びの値で構成される。このため、設計の最終段階には「原器合わせ」と呼ぶ設計行為がある。
【0113】
実際に、接合用レンズ2が複数の硝材(レンズ)を含む場合には、それぞれのレンズ面を「原器合わせ」とする変数に設定出来るので設計自由度があるが、接合用レンズ2が1つの硝材のみの場合には、設計自由度がないため、光学素子100の用途次第で問題とされる懸念がある。
【0114】
例えば、「原器合わせ」前の設計値の曲率半径が、二つの原器の中間の値の場合には、どちらの原器の曲率半径にしても仕様外、近軸量の焦点距離や軸上色収差等の結性能に関して、となる場合には問題となる。
【0115】
上記場合、例えば
図5における設計ステップS7の再設計時に変数を従来レンズ22としたが、これだけでは前述の「原器合わせ」時の問題を解決できない場合が発生する恐れがある。もちろん新規に「原器」を作製することで対応は取れるが、製造工程が増えトータルでの費用の増加と言う別の問題を発生することも考えられる。そのため、この解決策としては、例えば設計ステップS7のあとに設定ステップS2に戻り、問題となった光学性能をわざと仕様外等にずらした上で、第1算出ステップS3等(例えば
図5のフロー)を実施する。この場合には従来レンズ22だけでなく回折光学素子101も変数とする。このずらす量は「原器」の構成状況等に依るので一義的には決まらないため、ある量ずらして検討し、それでも問題となる場合に更にずらすと言った、所謂、「トライアンドエラー」で行うことで対応が可能となる。そのため、上述した様に、回折光学素子101と従来レンズ22との構成の順として「従来レンズ22の次に回折光学素子101」とすることで設計自由度が高くなるので、「原器合わせ」時の問題を解消できる可能性がある。もちろん、回折光学素子101と従来レンズ22との間隔の各種光学性能への敏感度が高くなるので部品、組み立て精度を高く設定する必要性が生じる可能性がある。
【0116】
(式(1)の導出)
以下、式(1)の導出の一例について説明する。上述した「メタレンズ1及び接合用レンズ2を備える光学素子100」の光学設計方法の一例のうち、第1制限条件ステップS11は、「薄肉+レンズ間隔「ゼロ」」としての関係を示す式(1)を使用する。式(1)に関しては、本発明者が新規に提案するものであり、式(1)を使用することで、例えば効率良く光学素子100の設計が可能となる。
【0117】
そこで、式(1)の導入の説明を行う前に、より理解をするために、関係する技術に関しての説明を以下に行う。
【0118】
まず、
図13以降を使用して、「CODEV(登録商標)」を使用した場合の回折光学素子101を、等価屈折率法でモデリングした光線追跡のための位相分布に関して説明を行う。どのように製造されたかに依存せず、「CODEV(登録商標)」で表現する回折光学素子101は、その面上における連続的な位相分布を各(レンズ)面毎に表現される。
【0119】
「CODEV(登録商標)」では、HCT Rと呼ぶ光軸に対し、回転対称な形状の回折光学素子101の場合では、位相分布Φを下式(4)で表現する。
【0120】
【数1】
ここで、式(4)内の文字は以下の通りである。
n:自然数
r:曲率半径
【0121】
また「CODEV(登録商標)」では、光学系を設計する波長に対しての定義とは別に、回折光学素子101のために「規格化波長」と呼ぶ変数を設定して使用し、この波長で回折光学素子101として取り扱うことができる(波長分の物理光学的光路長を2πとして)。
【0122】
例えば
図13は、「CODEV(登録商標)」に用いられるパラメータとして、規格化波長、及び位相分布の多項式の位相係数Cnの入力状態の一例を示す模式図である。
図13に示す設定では、回折光を一次として追跡し、規格化波長は500nm、位相係数C1の値は-0.005、他の位相係数C2~C10の値は0と設定したものである。
【0123】
さらに、「CODEV(登録商標)」では回折光学素子101を設定した面単体での焦点距離EFLと位相係数C1と関係は、下式(5)とされている。
C1=-0.5/EFL ・・・(5)
【0124】
さらに、回折光学素子101の面単体における特定の波長λiに対する焦点距離EFLiと位相係数C1と関係は、「CODEV(登録商標)」としては公開されていない。そのため、上記関係について発明者は、下式(6)であると推定した。
C1=-0.5×λ0(EFLi×λi) ・・・(6)
ここで、式(6)内の文字は以下の通りである。
λ0:規格化波長
【0125】
上式(6)は、例えば「T.Stones and N.George:”Hybrid diffractive - refractive lens and achromats," Appl. Opt., 27(1998)2960-2971」におけるホログラムレンズの焦点距離を示す下式(7)に即している。
【0126】
【0127】
また、実際に「CODEV(登録商標)」において複数の条件により回折光学素子101を定義し、その焦点距離EFLを計算し、上式(6)の妥当性を発明者は確認した(
図14参照)。
【0128】
ここで、薄肉レンズにより光学系を表現する方法に関して説明する。この方法は、例えば「レンズ設計入門(共立出版) 松居吉哉著」(特に28頁)に記載された内容に従うことができる。
【0129】
例えば従来の単レンズ(曲率半径r1、r2、ガラス厚D、屈折率N)を近軸光学理論で「薄肉レンズ」の表現をすることで、単レンズのパワーφ、焦点距離EFLの逆数は、下式(8)で表現できる。
φ=φ1+φ2-e´φ1φ2 ・・・(8)
【0130】
上式(8)を使用することで、複数枚のレンズ系に対しても一枚の厚さ「ゼロ」の薄肉レンズで表現することができる。
【0131】
以下、第1制限条件ステップS11における式(1)の導出について説明する。
【0132】
先ず、実施形態においては、メタレンズ1に関するものであり、これまでの一般的に言われている回折光学素子とは異なり、メタレンズ1は非線形性を考慮して取り扱う必要がある。しかし、ここでは近軸光学理論の範疇で考えるので、線形性だけで考えるとし、回折光学素子101に関しても当てはまることなので、メタレンズ1を回折光学素子101と表現して式(1)の導出を説明する。また、以下では、接合用レンズ2を従来レンズと表現して説明する。
【0133】
実施形態においては、少なくとも二波長(例えば第1補正対象波長、第2補正対象波長)に関して光学系の良好なピント面が合っているという光学特性となることを考えるので、二波長λ
1、λ
2に関して式(1)を適用するとし、その回折光学素子101(
図15ではDOE)と従来レンズとを薄肉レンズとした構成を、
図15に示す。さらに二枚の薄肉レンズ間の距離e´を「ゼロ」とする。なお、距離e´を厳密に「ゼロ」とした場合、図面上では各レンズの位置関係が判り難くなるため、
図15では「距離e´=0」とした上で、各レンズの位置をずらして記載した。
【0134】
回折光学素子101のパワーφdと、従来レンズのパワーφcとを、上式(8)に代入すると、全系のパワーφを示す下式(9)が得られる(但し、距離e´を「ゼロ」としている)。
φ=φd+φc ・・・(9)
【0135】
また、二波長λ1、λ2に対する全系のパワーφをそれぞれφ1、φ2とすると
二波長λ1,λ2で軸上色収差が無いことは、下式(10)を示す(すなわち、全系のパワーφ1、φ2が等しい)。
φ1=φ2 ・・・(10)
【0136】
また、上式(10)において上式(9)に波長の情報を追加すると、下式(11)が得られる。
φd1+φc1=φd2+φc2 ・・・(11)
【0137】
また、上式(11)を整理すると、下式(12)が得られる。なお、下式(12)の左辺は回折光学素子101に関するパワーを示し、右辺は従来レンズに関するパワーを示す。
φd1-φd2=-φc1+φc2 ・・・(12)
【0138】
また、上式(12)左辺の各パワーφd1、φd2が、焦点距離EFLの逆数である点を踏まえ、式(6)を用いて下式(13)及び下式(14)が得られる。
φd1=1/EFL1=-2×λ1/(C1×λ0) ・・・(13)
φd2=1/EFL2=-2×λ2/(C1×λ0) ・・・(14)
【0139】
また、「レンズ設計入門(共立出版) 松居吉哉著」の19頁に記載された下式(15)~(17)に基づき、上式(12)右辺は、式(18)として表すことができる。
φ1=(N-1)/r1 ・・・(15)
φ2=(1-N)/r2 ・・・(16)
e´=d/N ・・・(17)
-φc1+φc2=-(1-N1)/rc+(1-N2)/rc=(N1-N2)/rc ・・・(18)
ここで、式(15)~式(18)内の文字は以下の通りである。
N:硝材の屈折率
N1:波長λ1に対応する硝材の屈折率(例えば第1屈折率)
N2:波長λ2に対応する硝材の屈折率(例えば第2屈折率)
r1、r2:硝材の曲率半径
rc:従来レンズの曲率半径
【0140】
上記を踏まえ、上式(12)に対し、上式(13)、上式(14)、及び上式(18)を代入して整理することで、上式(101)が得られる。ここで、ソフトウェア毎に異なる単位や係数を考慮し、等号関係を示す上式(101)から、比例関係を示す上式(1)を導出できる。これにより、第1制限条件ステップS11における式(1)が導出される。
【0141】
なお、
図15の構成は、左から回折光学素子101、従来レンズの構成であるが、式(1)はこれに限ることなく適用され、例えば逆の順の左から従来レンズ、回折光学素子101の構成でもよい。
【0142】
例えば、距離e´を「ゼロ」とするのは現実的ではないと考えられるが、先例に示したToF等へのメタレンズを適用する長所の1つとしては、薄い光学系を達成することができる点が挙げられる。このため、できるだけ距離e´は小さな値の構成とすることが好ましいので、距離e´を「ゼロ」としても大きな誤差は生じないと考える。
【0143】
もちろん現実的には距離e´を「ゼロ」とはならず、薄肉レンズとはならないので「厚肉化」する必要があり、その工程が
図4等に示した第2制限条件ステップS12に対応する。この場合、左から従来レンズ、回折光学素子101の構成の方がその逆の回折光学素子101、従来レンズの構成より設計自由度が高くなる。それは物体が無限にある場合には入射光は平行に入るため、回折光学素子101、従来レンズの構成の場合には近軸追跡での最初の面、すなわち、回折光学素子101面には高さhが1として入射される。回折光学素子101の等価アッベ数はd、C、F線で-3.452と負の絶対値としては小さな値(=大きな分散)なので、色収差を従来レンズに比べ大きな値を発生するため、全系で色収差補正をするためには従来レンズ側で補正する負荷が大きくなる。
【0144】
一方、逆の構成の従来レンズ、回折光学素子101の構成では回折光学素子101面で高さhは、距離、実際には硝材厚と屈折率の値とによって、1の値から変わってくる。すなわち設計自由度が高くなる。
【0145】
しかしながら、設計自由度が高いことは誤差に対して敏感になることであり、ガラス厚と屈折率の値が設計値から乖離すると、光学性能は劣化する。この様に長所と短所があるため、考慮して構成を選択する必要がある。
【0146】
ここまで「CODEV(登録商標)」と言う市販の光学設計ソフトウェアを使用しての場合を述べてきたが、本発明を適用できるのは「CODEV(登録商標)」だけに限定するものではなく、回折光学素子101を等価屈折率法でモデル化する光学設計ソフトウェアにすべてに適用することができる。もちろんそれぞれの光学設計ソフトウェアではユーザーが設定する変数は定義が異なるために、等しい値にはならない。
【0147】
他の光学設計ソフトウェアとしてAnsys ZEMAX OPTICSTUDIO(登録商標)で考えると、上式(1)等のC1に対応する位相分布を表す多項式係数の変数をA1とすると、C1とA1との関係は本発明人の検討で、下式(19)及び下式(20)であることが分かった(Ansys ZEMAX OPTICSTUDIO(登録商標)での正規化半径と言う変数の設定が1の場合)。
C1=A1×(λ/2π)/1000 ・・・(19)
λ0=λ1 ・・・(20)
【0148】
なお、各光学設計ソフトウェアでの入力の変数等の単位は異なる、例えば波長の単位はnmだったりμmだったりする、が上記のA1とC1との関係式は入力する値をそのまま使用した場合の関係式である。
【0149】
この様に本発明で提案する関係式に対して、他の光学設計ソフトウェアで定義して使用する変数と「CODEV(登録商標)」での変数との関係を求めてそれを使用して関係式を変形して使用することで本発明を適用できることは自明である。なお、上式(1)及び上式(2)は、「CODEV(登録商標)」、及びAnsys ZEMAX OPTICSTUDIO(登録商標)の何れを使用した場合においても、用いることが可能である。
【0150】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0151】
1 :メタレンズ
2 :接合用レンズ
2a :第1硝材
2b :第2硝材
3 :絞り
4 :平行光
5 :集光
11 :微細形状面
12 :接合面
21 :バイナリーオプティクス
22 :従来レンズ
100 :光学素子
101 :回折光学素子
S0 :準備ステップ
S10 :制限条件ステップ
S11 :第1制限条件ステップ
S12 :第2制限条件ステップ
S2 :設定ステップ
S3 :第1算出ステップ
S4 :第1特定ステップ
S5 :第2算出ステップ
S6 :第2特定ステップ
S7 :設計ステップ
d :段差
e´ :距離
h :高さ