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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160794
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20241108BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20241108BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241108BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241108BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M4/525
H01M4/36 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076161
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 舜平
(72)【発明者】
【氏名】荻田 香
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ07
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM03
5H029AM07
5H029HJ01
5H050AA13
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050HA01
(57)【要約】
【課題】本発明の一態様は、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて充放電を可能にするため、新たな電解質を有する電解質と、新たな正極活物質とを有するリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】正極活物質を有する正極と、電解質と、黒鉛を有する負極と、を備え、正極活物質は、マグネシウムを含むコバルト酸リチウムを有し、正極活物質の表層部のマグネシウム濃度が、正極活物質の内部のマグネシウム濃度よりも高く、電解質は、フッ化環状カーボネートまたはフッ化鎖状カーボネートを含み、電解質にビニレンカーボネート(VC)を添加する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、電解質と、黒鉛を有する負極と、を備え、
前記正極活物質は、マグネシウムを含むコバルト酸リチウムを有し、
前記正極活物質の表層部のマグネシウム濃度が、前記正極活物質の内部のマグネシウム濃度よりも高く、
前記電解質は、フッ化環状カーボネートまたはフッ化鎖状カーボネートを含み、
前記電解質にビニレンカーボネートが添加されたリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
請求項1において、前記正極活物質は、さらに、アルミニウムと、ニッケルと、フッ素と、を含むコバルト酸リチウムであるリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
請求項1において、前記ビニレンカーボネートは、前記電解質の全体の重量に対して0.1重量%以上5重量%以下であるリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
請求項1において、前記正極活物質と前記電解質の界面の、少なくとも一部に被膜を有するリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
請求項1において、前記黒鉛と前記電解質の界面の、少なくとも一部に被膜を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、リチウムイオン二次電池に関する。
【0002】
また、本発明の一態様は上記分野に限定されず、半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置、電子機器、車両及びこれらの製造方法に関する。上述の半導体装置、表示装置、発光装置、蓄電装置、照明装置、電子機器、及び車両は、必要な電源として、本発明の一態様のリチウムイオン二次電池を適用することができる。例えば上述の電子機器には、リチウムイオン二次電池を搭載した情報端末装置などが含まれる。さらに上述の蓄電装置には据置型の蓄電装置などが含まれる。
【0003】
リチウムイオン二次電池(リチウムイオン電池と記すことがある)とはキャリアイオンにリチウムイオンを用いた電池を指す。リチウムイオン電池は、充放電により繰り返し使うことのできる二次電池である。
【背景技術】
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池、全固体電池等、種々の蓄電装置の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン二次電池は半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0005】
なかでもモバイル電子機器向け二次電池等では、重量あたりの放電容量が大きく、サイクル特性に優れた二次電池の需要が高い。これらの需要に応えるため、二次電池の正極が有する正極活物質の改良が盛んに行われている(例えば特許文献1乃至特許文献3)。
【0006】
また、リチウムイオン電池は、用途に応じて広い温度範囲でも充放電できることが望まれている。そのため高温又は低温でリチウムイオン電池の充放電を可能にするための研究開発が盛んである。また非特許文献1では、氷点下での出力特性を改善するために、電解質として3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチル(MTFP):フルオロエチレンカーボネート(FEC)=9:1で混合されたものを提案している。また非特許文献2では正極活物質に関する結晶構造が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-179758号公報
【特許文献2】WO2020/026078号パンフレット
【特許文献3】特開2022-070247号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】John, H. et al, “An All-Fluorinated Ester Electrolyte for Stable High-Voltage Li Metal Batteries Capable of Ultra-Low-Temperature Operation”, ACE Energy LETTERS, 2020, 5, 1438-1447
【非特許文献2】Zhaohui Chen et al, “Staging Phase Transitions in LixCoO2”, Journal of The Electrochemical Society, 2002, 149(12) A1604-A1609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リチウムイオン二次電池には、放電容量、サイクル特性、信頼性、安全性、又はコストといった様々な面で改善の余地が残されている。
【0010】
本発明の一態様は、充放電サイクルにおける充放電容量の低下が抑制された二次電池を提供することを課題の一とする。または、充放電容量が大きく、かつ安全性又は信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。または、リチウムイオン二次電池に用いることができ、充放電サイクルにおける放電容量の低下が抑制された正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。または、充放電容量が大きい正極活物質または複合酸化物を提供することを課題の一とする。
【0011】
また本発明の一態様は、正極活物質、複合酸化物、蓄電装置、又はそれらの作製方法を提供することを課題の一とする。
【0012】
また、本発明の一態様は、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて充放電を可能にするため、新たな電解質を有する電解質と、新たな正極活物質とを有するリチウムイオン電池を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様は、正極活物質を有する正極と、電解質と、黒鉛を有する負極と、を備え、正極活物質は、マグネシウムを含むコバルト酸リチウムを有し、正極活物質の表層部のマグネシウム濃度が、正極活物質の内部のマグネシウム濃度よりも高く、電解質は、フッ化環状カーボネートまたはフッ化鎖状カーボネートを含み、電解質にビニレンカーボネート(VC)が添加されたリチウムイオン二次電池である。
【0014】
上記構成において、正極活物質は、さらに、アルミニウムと、ニッケルと、フッ素と、を含むコバルト酸リチウムである。電解質は、フッ化環状カーボネートまたはフッ化鎖状カーボネートを含むことで、電解質に含まれるフッ素は、正極活物質の最表面のフッ素と反発し、正極活物質の最表面にフッ素を保持させることができる。従って、正極活物質の表面のフッ素を抑え、マグネシウムの溶出を防ぐことができる。
【0015】
ビニレンカーボネートを添加剤として用い、充放電を行うと負極(黒鉛)と電解質の界面の、少なくとも一部に被膜(Solid Electrolyte Interphase:SEI膜)を形成する。また、ビニレンカーボネートを添加剤として充放電を行うと正極活物質の表面にも被膜(保護層、被覆層ともよぶ)を形成する。正極活物質と電解質の界面の、少なくとも一部に被膜を有する。形成された正極活物質の被膜は、マグネシウムの溶出を防ぐことができる。正極活物質の被膜は、電解質(リチウム塩含む)の分解物が堆積したものを含む。従って、フッ化環状カーボネートまたはフッ化鎖状カーボネートを含み、ビニレンカーボネート(VC)が添加された電解質は、マグネシウムを含むコバルト酸リチウムとの相乗効果が得られる。添加するビニレンカーボネートの量は、電解質の全体の重量に対して0.1重量%以上5重量%以下とする。また、黒鉛の被膜または正極活物質の被膜は、LCMS、GC-MS、NMR(例えばH NMR)を用いてその化合物を同定することができる。
【0016】
<電解質の分析手法>
電解質の組成は、X線光電子分光分析法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、ガスクロマトグラフ質量分析法(GC-MS:Gas Chromatography-Mass Spectrometry)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS:Liquid Chromatography Mass Spectrometry)、イオンクロマトグラフ法(IC:Ion Chromatography)、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES:Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)、原子吸光分析法(AAS:Atomic Absorption Spectrometry)、グロー放電質量分析法(GD-MS:Glow Discharge Mass Spectrometry)、核磁気共鳴法(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)、フーリエ変換赤外分光法(FT-IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy)等を用いて確認できる。
【0017】
<GC-MSによる分析>
GC-MSを用いると、電解質が有する化合物の構造式等を特定することができる。電解質は二次電池から回収されたものでもよい。電解質を回収する際、アルゴン雰囲気のグローブボックス中で二次電池を解体して電解質を取り出すと好ましい。さらに二次電池に収容されている電解質の量が少ない場合、GC-MS分析に影響を与えない溶剤を二次電池へ注ぎ、当該溶剤と電解質が混合した液体を取り出してもよい。溶剤には重水素アセトニトリルを用いると好ましい。分析に用いられる装置は特に限定されないが、例えば以下のような装置とすることができる。また下記装置を用いたとき、リファレンスデータとの一致度(Hit%)が80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上となった構造式を、電解質が有する化合物の構造式として採用することができる。
装置名:Agilent Technologies 7890A GC System
Agilent Technologies 5975C inert MSD
【0018】
<LC-MSによる分析>
LC-MSを用いると、電解質が有する化合物の構造式等を特定することができる。電解質は二次電池から回収されたものでもよい。電解質を回収する際、アルゴン雰囲気のグローブボックス中で二次電池を解体して電解質を取り出すと好ましい。さらに二次電池に収容されている電解質の量が少ない場合、LC-MS分析に影響を与えない溶剤を二次電池へ注ぎ、当該溶剤と電解質が混合した液体を取り出してもよい。溶剤には重水素アセトニトリルを用いると好ましい。分析に用いられる装置及び条件は特に限定されないが、例えば以下のような装置及び条件とすることができる。また下記装置を用いたとき、リファレンスデータとの一致度が80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上となった構造式を、電解質が有する化合物の構造式として採用することができる。
LCの装置名:ウォーターズ社製Acquity UPLC
MSの装置名:ウォーターズ社製Xevo QTof MS
【0019】
本明細書等において、「氷点下」とは0℃以下を指し、「高温」とは25℃以上を指し、室温とは0℃より高く25℃より低いことを指す。本明細書等において、「氷点下から高温を含む温度範囲」には、上記室温が含まれる。
【0020】
本明細書等において、活物質粒子等に用いる「粒子」は、球形(断面形状が円)のみを指すことに限定されない。例えば粒子には、断面形状が楕円形、非対称の形状などが含まれ、さらに個々の粒子が揃っている必要はなく、互いに不定形となっていてもよい。
【0021】
「非水電解液」とはキャリアイオン伝導性を示す有機溶媒を含むものであって、一般的に液体状のものを指すが、本発明では液体状に限定されない。そのため、本明細書等では非水電解液に係る概念を「電解質」と記す。すなわち本発明の一態様である電解質は、その状態に何ら限定されるものでなく、たとえば粘度を調整した結果、液体状から粘度が高まったものも含まれる。さらに電解質は固体状、又は半固体状も含まれる。半固体状は液体状と固体状の中間状態を指す。具体的な半固体状として柔軟性のある固体状が含まれ、代表的にはゲル状のものが含まれる。半固体状の電解質を、一般的に半固体電解質と呼ぶことがあり、本発明の一態様である電解質には半固体電解質も含まれる。上記液体状、固体状、若しくは半固体状という状態、又は粘度は、リチウムイオン電池を25℃に配置したときに確認されるものとする。
【0022】
本明細書等において、粘性の大きさを表す値を粘度と呼び、粘性が適切とはリチウムイオン電池として適切な粘度を持つことを指す。
【0023】
本明細書等において、ある元素の偏析とは、複数の元素(たとえばA,B,C)からなる固体において、ある元素(たとえばA)が不均一に分布した状態をいう。
【0024】
本明細書等において、ある元素の分布とは、任意の分析手法で、当該元素がノイズでない範囲で検出される場合に、当該元素が連続的に存在していることを指す。また当該元素の濃度が連続的に変化することを濃度勾配と呼ぶことがある。分布における最大値をピークと呼ぶことがある。なおピークを特定する際、ある領域に限った分布を対象にすることができる。上述した分布は正規分布に限らない。正規分布に相当する場合、分布の半値幅を定めることもできる。
【0025】
本明細書等において、偏在とは、ある領域における元素の濃度が他の領域と異なることをいう。偏り、又は濃度が高い箇所と濃度が低い箇所が混在すると同義である。固溶して偏在したことを偏析と呼ぶ。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一態様により、電解質に含まれるフッ素は、正極活物質の最表面のフッ素と反発し、正極活物質からのマグネシウムの溶出を防ぐ。また、ビニレンカーボネート(VC)を用いることで正極活物質の表面にも被膜を形成し、正極活物質からのマグネシウムの溶出を防ぎ、正極活物質の劣化を抑えることができる。また、被膜の形成により、被膜形成後の電解質の分解も抑えることができる。これらの組み合わせによって、二次電池の劣化を大幅に低減できるという相乗効果が得られる。
【0027】
本発明の一態様により、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて充放電を可能にする。
【0028】
また、本発明の一態様により、二次電池の劣化を抑え、信頼性を向上させることができる。
【0029】
また、正極活物質に被膜を形成するエージング処理を短縮または省略することができる。エージング処理は、初期充放電又はコンディショニングと呼ぶことがある。
【0030】
なお、上述した効果は、他の効果の存在を妨げるものではない。また、上述した効果は互いに独立したものと考えられ、本発明の一態様は、上述した効果の全てを奏する必要はない。さらに本明細書等の記載から、上述以外の効果を抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1(A)及び図1(B)は本発明の一態様のリチウムイオン電池を説明する図である。
図2図2(A)乃至図2(C)は本発明の一態様の正極の作製方法を説明する図である。
図3図3(A)乃至図3(F)は本発明の一態様の正極活物質を説明する図である。
図4図4は本発明の一態様の正極活物質の結晶構造を説明する図である。
図5図5は正極活物質の結晶構造を説明する図である。
図6図6は正極活物質の回折ピークを説明する図である。
図7図7は正極活物質の回折ピークを説明する図である。
図8図8(A)及び図8(B)は正極活物質の回折ピークを説明する図である。
図9図9(A)乃至図9(D)は本発明の一態様の正極を説明する図である。
図10図10(A)及び図10(B)は本発明の一態様のリチウムイオン電池を説明する図である。
図11図11(A)乃至図11(C)は本発明の一態様のリチウムイオン電池を説明する図である。
図12図12(A)乃至図12(D)は本発明の一態様のリチウムイオン電池及び蓄電システムを説明する図である。
図13図13(A)乃至図13(C)は本発明の一態様のリチウムイオン電池を説明する図である。
図14図14(A)乃至図14(C)は本発明の一態様のリチウムイオン電池を説明する図である。
図15図15(A)乃至図15(C)は本発明の一態様の電気自動車を説明する図である。
図16図16(A)乃至図16(D)は本発明の一態様の輸送用車両を説明する図である。
図17図17(A)乃至図17(C)は本発明の一態様の二輪車等を説明する図である。
図18図18(A)乃至図18(D)は本発明の一態様の電子機器等を説明する図である。
図19図19(A)乃至図19(D)は宇宙用機器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0033】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様であるリチウムイオン電池について図面を用いて説明する。
【0034】
<リチウムイオン電池>
本発明の一態様のリチウムイオン電池は、少なくとも氷点下を含み、さらには高温までを含む広い温度範囲での充放電を可能にする電解質を有する。当該リチウムイオン電池は、上述した電解質に加えて、負極と、正極と、負極と正極との間のセパレータを有し、負極、及び正極の周囲を覆う外装体等を有する。外装体の形態により、ラミネート型リチウムイオン電池、コインセル型リチウムイオン電池、又は円筒型リチウムイオン電池と呼ばれるが、本発明は外装体の形態に何ら限定されるものではない。セパレータは電解質が固体状又は半固体状の場合、省略することができる。
【0035】
図1(A)にリチウムイオン電池100の構成を例示する。リチウムイオン電池100は断面視にて負極106、セパレータ108、及び正極107を有する。当該リチウムイオン電池100において、電解質109は液体状であるとし、電解質109は負極106、セパレータ108及び正極107の全体に存在する。上述したように電解質109は液体状に限定されるものではない。
【0036】
負極106は負極集電体101、及び負極活物質層102を有する。負極活物質層102は少なくとも活物質を有し、導電材及び/又はバインダを有していてもよい。負極活物質は公知の材料を用いることができるが、詳細は後述する。正極107は正極集電体105、及び正極活物質層104を有する。正極活物質層104は少なくとも活物質を有し、導電材及び/又はバインダを有していてもよい。正極活物質は公知の材料を用いてもよいが、本発明の一態様の正極活物質を適用すると高電圧充電に耐えることができ、リチウムイオン電池の放電容量を高めることができる。本発明の一態様の正極活物質は後述する。
【0037】
導電材は、活物質同士、及び/又は活物質と集電体との間の電流パスを補助する機能を有する。導電材は公知の材料を用いることができるが、詳細は後述する。バインダは結着剤とも呼ばれ、活物質同士、及び/又は活物質と集電体との間の密着性を補助する機能を有する。バインダは公知の材料を用いることができるが、詳細は後述する。
【0038】
図1(B)に、図1(A)とは異なり、負極活物質層102を有さないリチウムイオン電池100を例示する。負極集電体101の材料によって、負極活物質層102を不要にすることができる。図1(B)のリチウムイオン電池100のその他の構成は、図1(A)のリチウムイオン電池100と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
本実施の形態では、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた放電特性および/または優れた充電特性を有するリチウムイオン電池を実現することができる。そのために必要とされるリチウムイオン電池の構成に焦点を当てて説明する。具体的には、正極活物質、及び電解質を中心に説明する。リチウムイオン電池の有する正極活物質、及び電解質以外の構成の詳細については、実施の形態3以降で説明する。
【0040】
<正極活物質>
正極活物質は、充放電に伴い、キャリアイオンであるリチウムイオンを取り込む、および/または放出する機能を有する。本発明の一態様として用いる正極活物質は、氷点下から高温下の広い温度範囲で高い充電電圧(以下、「高充電電圧」とも記す)としても充放電を可能とし、さらに充放電に伴う劣化の少ない材料(または抵抗の増加の少ない材料)を用いることができる。なお、本明細書等において特に言及しない場合、「充電電圧」はリチウム金属の電位を基準として表すものとする。また、本明細書等において、「高充電電圧」とは、例えば4.5V以上の充電電圧とし、好ましくは4.6以上とし、さらに好ましくは4.65V以上とする。
【0041】
正極活物質は一種に限られず、氷点下から高温を含む広い温度範囲で高充電電圧としても充放電に伴う劣化の少ない材料であれば、メディアン径(D50)が異なる二種以上の材料を混合してもよいし、組成が異なる二種以上の材料を混合してもよい。本明細書等において、「組成が異なる」とは、材料に含まれる元素の構成が異なる場合に加えて、材料に含まれる元素の構成が同じであっても、含まれる元素の割合が異なる場合も含むものとする。
【0042】
なお、前述したとおり、本明細書等において、「高充電電圧」とは、負極がリチウム金属である場合の電位を基準として4.5V以上としたが、負極が炭素材料(例えば、黒鉛)である場合の電位を基準とした場合は、4.4V以上を「高充電電圧」と呼ぶものとする。端的には、負極としてリチウム金属が用いられるハーフセルの場合においては、4.5V以上の充電電圧を高充電電圧と呼び、負極として炭素材料(例えば、黒鉛)が用いられるフルセルの場合においては、4.4V以上の充電電圧を高充電電圧と呼ぶものとする。
【0043】
本明細書等に記載した、充電時または放電時の温度とは、リチウムイオン電池が配される環境の温度(以下、本明細書等において「環境温度」と呼ぶことがある。)のことをいう。電池特性の測定においては、所望の温度で安定した恒温槽を用いるため、環境温度は恒温槽の温度に等しい。測定対象となる試験セル(例えば、フルセルまたはハーフセル)を当該恒温槽内に設置後、試験セルが恒温槽の温度と同程度になるまで十分な時間(例えば、1時間以上)をおいてから測定を開始することができるが、電池特性の測定においてこの方法に必ずしも限定されるものではない。
【0044】
<電解質>
本発明の一態様として用いる電解質は、氷点下から高温を含む広い温度範囲におけるリチウムイオン伝導性に優れた材料を用いることができる。
【0045】
電解質は有機溶媒を有するが、本発明の一態様である電解質の有機溶媒は、25℃で液体であることに限定されず、25℃で固体であっても、常温で半固体であってもよい。なお、上記本発明の一態様である電解質の有機溶媒は、氷点下から高温を含む広い温度範囲で液体であると好ましいが、これに限定されるものではない。有機溶媒は、氷点下から高温を含む広い温度範囲で液体であっても、固体であっても、半固体であってもよい。
【0046】
<有機溶媒>
本実施の形態で説明する有機溶媒は、フッ化環状カーボネート(フッ素化環状カーボネートと記すこともある)、又はフッ化鎖状カーボネート(フッ素化鎖状カーボネートと記すこともある)を含むとよい。さらに上記有機溶媒は、フッ化環状カーボネート、及びフッ化鎖状カーボネートをともに含むと好ましい。フッ化環状カーボネート及びフッ化鎖状カーボネートは共に、電子求引性を示す置換基を有しており、電子求引性を示す置換基を有さない有機化合物と比べるとリチウムイオンの溶媒和エネルギーが低い。そのためフッ化環状カーボネート及びフッ化鎖状カーボネートは共に有機溶媒に好適である。
【0047】
フッ化環状カーボネートとして、フルオロエチレンカーボネート(フッ化エチレンカーボネート、炭酸フルオロエチレン、FEC、F1EC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC、F2EC)、トリフルオロエチレンカーボネート(F3EC)、またはテトラフルオロエチレンカーボネート(F4EC)等を用いることができる。なお、DFECには、シス-4,5、トランス-4,5等の異性体がある。いずれのフッ化環状カーボネートも電子求引性を示す置換基を有するため、リチウムイオンの溶媒和エネルギーが低いと考えられる。
【0048】
下記構造式(H10)は、FECの構造式である。FECにおいて電子求引性の置換基はF基である。
【0049】
【化1】
【0050】
フッ化鎖状カーボネートとして、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルがある。下記構造式(H22)は3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの構造式である。3,3,3-トリフルオロプロピオン酸メチルの略称は、「MTFP」である。MTFPにおいて、電子求引性の置換基はCF基である。
【0051】
【化2】
【0052】
フッ化鎖状カーボネートとして、3,3,3-トリフルオロプロピオン酸トリフルオロメチルがある。下記構造式(H23)は3,3,3-トリフルオロプロピオン酸トリフルオロメチルの構造式である。電子求引性の置換基はCF基である。
【0053】
【化3】
【0054】
フッ化鎖状カーボネートとして、プロピオン酸トリフルオロメチルがある。下記構造式(H24)はプロピオン酸トリフルオロメチルの構造式である。電子求引性の置換基はCF基である。
【0055】
【化4】
【0056】
フッ化鎖状カーボネートとして、2,2-ジフルオロプロピオン酸メチルがある。下記構造式(H25)は2,2-ジフルオロプロピオン酸メチルの構造式である。電子求引性の置換基はCF基である。
【0057】
【化5】
【0058】
本発明の一態様である電解質の有機溶媒として、上述したフッ化環状カーボネート、及びフッ化鎖状カーボネートから選ばれた一以上を含むとよい。たとえば本実施の形態で説明する有機溶媒は、FECまたは、MTFPを含むとよい。その理由を説明する。
【0059】
<FEC及びMTFP>
FECは、環状カーボネートであり、高い比誘電率を有するため、電解質の有機溶媒に用いると、リチウム塩の解離を促進させる効果を有する。さらにFECは電子求引性を示す置換基を有するため、リチウムイオンとクーロン力等によって結びつきやすい。具体的にはFECは溶媒和エネルギーが、電子求引性を示す置換基を有さないエチレンカーボネート(略称は「EC」である)よりも小さいため、リチウムイオンと溶媒和を生成しやすいといえる。さらにFECはHOMOが深いと考えられ、HOMOが深いと酸化されにくく耐酸化性が向上する。また、本発明の一態様として有機溶媒は、MTFPを用いてもよい。MTFPは、鎖状カーボネートであり、電解質全体の粘度を下げる、又は維持する効果を有する。もちろんMTFPも電子求引性を示す置換基を有さないプロピオン酸メチル(略称は「MP」である)よりも溶媒和エネルギーが小さいため、リチウムイオンとの溶媒和を生成することがあってもよい。
【0060】
FECとMTFPを混合して用いる場合、このような物性を有するFEC、及びMTFPを、これら2つの有機溶媒の全含有量を100vol%として、体積比がx:100-x(ただし、5≦x≦30、好ましくは10≦x≦20である。)となるように混合して用いるとよい。有機溶媒において、MTFPがFECよりも多くなるように混合するとよい。なお、上記の体積比は、有機溶媒の混合前に計測した体積比であってもよく、また当該有機溶媒を混合する際の外気は室温(代表的には、25℃)であってもよい。FEC、及びMTFPが混合された有機溶媒はリチウムイオン電池として動作可能な粘度を発現し、氷点下から高温を含む広い温度範囲で適切な粘度を維持するため好ましい。
【0061】
リチウムイオン電池に用いられている一般的な有機溶媒は-20℃程度で凝固してしまうため、-40℃、好ましくは-50℃で充放電できるリチウムイオン電池を作製することは困難である。本実施の形態において一例として説明した有機溶媒は、凝固点が-40℃以下、好ましくは-50℃以下となることを可能とし、-40℃以下という氷点下の環境下においても充放電可能なリチウムイオン電池を実現できる。その結果、少なくとも氷点下を含む広い温度範囲で充放電可能なリチウムイオン電池を実現できる。
【0062】
本発明の一態様である電解質がフッ化環状カーボネートまたはフッ化鎖状カーボネートを含むものであれば、少なくとも氷点下を含む広い温度範囲で充放電可能なリチウムイオン電池を提供することができる。また、電解質は、フッ化環状カーボネートまたはフッ化鎖状カーボネートを含むことで、電解質に含まれるフッ素は、正極活物質の最表面のフッ素と反発し、正極活物質の最表面にフッ素を保持させることができる。従って、正極活物質の表面のフッ素を抑え、マグネシウムの溶出を防ぐことができる。
【0063】
上述した有機溶媒は、粒状のごみ、または有機溶媒の構成分子以外の分子(以下、単に「不純物」とも呼び、酸素(O)、水(HO)又は水分が含まれる。)の含有量が少なく、高純度化されていることが好ましい。具体的には、有機溶媒に含まれる上記不純物量は、100ppm以下、好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは10ppm未満とする。
【0064】
有機溶媒に含まれる不純物量を10ppm未満とするためには、二次電池に用いる前に、予め有機溶媒を減圧下で加熱して内部の上記不純物を除去することが好ましい。また、二次電池に用いる際には、水分が十分に低減されたドライルームにて有機溶媒を注入する二次電池の製造を行う。
【0065】
例えば、水分はカールフィッシャー滴定法によって検出することができ、加熱条件を代えることによって異なる結合力を有する水分(例えば結晶水、化合水、または付着水)を定量することができる。例えば120℃、30分の加熱条件であれば、100℃付近で発生する水分を主に検出することができる。なお、本明細書において有機溶媒に含まれる不純物量の単位ppmは、質量分率、即ちppm(質量/質量)を指すものとする。
【0066】
二次電池の充放電の際、有機溶媒の一部が分解されることで二次電池の信頼性が低下する。従って、有機溶媒に含まれる、酸素(O)、水(HO)又は水分などの不純物が原因となって有機溶媒が分解する恐れがあるため、上述したように有機溶媒に対する不純物が少ないほうが有機溶媒の分解を抑えられる。また、有機溶媒に用いる分子の中で分解の起点になりやすそうな箇所にフッ素が存在していると、分解が生じにくくなるため、そのような材料を用いることが好ましい。
【0067】
<リチウム塩>
上記有機溶媒に溶解させるリチウム塩は、例えば、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiAlCl、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、Li12Cl12、LiCFSO、LiCSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、LiN(CFSO、LiN(CSO)(CFSO)、LiN(CSO、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)のうち少なくとも一を用いることができ、上述したリチウム塩を任意の組み合わせ、且つ任意の比率で用いてもよい。リチウム塩は、本発明の一形態の電解質が有する構成の一つであるが、必ずしも有さなくともよい。
【0068】
<添加剤>
また、安全性向上等を目的として、活物質と電解質との界面に被膜を形成するため、有機溶媒に対して添加剤を混合してもよい。添加剤は、ビニレンカーボネート(VC)、プロパンスルトン(PS)、tert-ブチルベンゼン(TBB)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、SUN(スベロニトリル)またはスクシノニトリルもしくはアジポニトリルのジニトリル化合物から選ばれた一又は二以上を用いればよい。添加剤の濃度は、例えば有機溶媒の全体に対して0.1重量%(wt%)以上5重量%(wt%)以下とすればよい。特に、ビニレンカーボネート(VC)は、正極活物質の最表面のフッ素の拡散を抑制し、電解質へのマグネシウムの溶出を防ぐ効果を有する。また添加剤は有機溶媒とは異なる材料を選ぶとよい。
【0069】
本発明の一態様のリチウムイオン電池は、上述した正極活物質と、電解質を少なくとも含むことにより、正極活物質の最表面の状態を維持し、電解質へのマグネシウムの溶出を防ぎ、氷点下から高温を含む広い温度範囲で充放電可能なリチウムイオン電池を実現することができる。
【0070】
(実施の形態2)
本実施の形態では、図2乃至図8を用いて、本発明の一態様であるリチウムイオン電池に用いることが可能な正極活物質(以下、「本発明の一態様として利用可能な正極活物質」と呼ぶことがある。)、及びその作製方法について説明する。
【0071】
なお、実施の形態1で上述したとおり、本発明の一態様であるリチウムイオン電池に用いることが可能な正極活物質は、高充電電圧での充放電に伴う劣化の少ない材料であれば何でも用いることが可能である。したがって、本明細書等で開示するリチウムイオン電池に使用可能な正極活物質は、本実施の形態等で説明する具体的な材料に限定解釈される必要はなく、本願出願時において高充電電圧(例えば、4.5V以上)としても充放電に伴う劣化の少ない材料として公知の材料も使用可能である。
【0072】
本発明の一態様として利用可能な正極活物質の作製方法の一例を、以下に説明する。本実施の形態では、固相法を用いて正極活物質を製造する場合を説明するが、本発明のリチウムイオン電池には、固相法以外に共沈法又は水熱法等を用いた正極活物質を適用することができる。なお本実施の形態で製造方法等を説明するために用いられたフローは、線で繋がれた要素の順序を示すものであって、線で繋がっていない要素の順序を示すものではない。
【0073】
[正極活物質の作製方法]
正極活物質10の作製フローの一例について、図2(A)乃至図2(C)を用いて説明する。
【0074】
図2(A)に示すステップS11では、出発材料であるリチウム及び遷移金属Mの材料として、それぞれリチウム源(Li源)及び遷移金属M源(M源)を準備する。
【0075】
リチウム源としては、リチウムを有する化合物を用いると好ましく、例えば炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、又はフッ化リチウム等を用いることができる。リチウム源は純度が高いと好ましく、例えば純度が99.99%以上の材料を用いるとよい。
【0076】
遷移金属Mは、例えば、マンガン、コバルト、及びニッケルのうち一又は二以上を用いる。正極活物質としてコバルト酸リチウム(LCO)を作製する場合は、遷移金属Mとしてコバルトを用いる。正極活物質としてニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(NCM)を作製する場合は、遷移金属Mとしてコバルト、マンガン、及びニッケルを用いる。また遷移金属Mに加えてアルミニウムを用いることができる。
【0077】
遷移金属M源としては、上記遷移金属Mを有する化合物を用いると好ましく、例えば上記遷移金属Mとして例示した金属の酸化物、又は例示した金属の水酸化物等を用いることができる。コバルト源であれば、酸化コバルト、水酸化コバルト等を用いることができる。マンガン源であれば、酸化マンガン、水酸化マンガン等を用いることができる。ニッケル源であれば、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等を用いることができる。アルミニウム源であれば、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等を用いることができる。また、2以上の遷移金属M源を用いる場合、当該2以上の遷移金属M源が層状岩塩型の結晶構造をとりうるような割合(混合比)で用意すると好ましい。
【0078】
<ステップS12>
次に、図2(A)に示すステップS12として、リチウム源及びコバルト源を粉砕及び混合して、混合材料を作製する。粉砕及び混合は、乾式又は湿式で行うことができる。湿式は、より小さく解砕することができるため好ましい。湿式で行う場合は、溶媒を準備する。溶媒としてはアセトン等のケトン、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオキサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができる。リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることがより好ましい。本実施の形態では、純度が99.5%以上の脱水アセトンを用いることとする。水分含有量を10ppm以下まで抑えた、純度が99.5%以上の脱水アセトンにリチウム源及びコバルト源を混合して、粉砕及び混合を行うと好適である。上記のような純度の脱水アセトンを用いることで、混入しうる不純物を低減することができる。
【0079】
粉砕及び混合の手段には、ボールミル、又はビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、粉砕メディアとして酸化アルミニウムボール又は酸化ジルコニウムボールを用いるとよい。酸化ジルコニウムボールは不純物の排出が少なく好ましい。また、ボールミル、又はビーズミル等を用いる場合、メディアからのコンタミネーションを抑制するために、周速を、100mm/s以上2000mm/s以下とするとよい。本実施の形態では、周速838mm/s(回転数400rpm、ボールミルの直径40mm)として実施する。
【0080】
<ステップS13>
次に、図2(A)に示すステップS13として、上記混合材料を加熱する。加熱は、800℃以上1100℃以下で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度がさらに好ましい。温度が低すぎると、Li源及びM源等の分解及び溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が高すぎると、Li源からリチウムが昇華する、及び/またはM源として用いた遷移金属が過剰に還元されるおそれがある。加熱時間は短すぎるとリチウム及び遷移金属Mを有する複合酸化物が合成されないが、長すぎると生産性が低下する。そのため加熱時間は1時間以上100時間以下とするとよく、2時間以上20時間以下とすることが好ましい。昇温レートは、加熱温度の到達温度によるが、80℃/h以上250℃/h以下、より好ましくは100℃/h以上250℃/h以下がよい。
【0081】
加熱雰囲気は、水が少ない雰囲気で行うことが好ましい。水が少ない雰囲気として露点を用いて規定することができ、例えば露点が-50℃以下、より好ましくは露点が-80℃以下の雰囲気を加熱雰囲気とするとよい。さらに加熱雰囲気として乾燥空気等の酸素を有する雰囲気が好ましい。例えば反応室に酸素を導入し続ける方法がある。この場合、酸素の流量は5L/min以上15L/min以下とすることが好ましい。酸素を反応室へ導入し続け、酸素が反応室内を流れている状態を「フロー」と呼ぶ。
【0082】
加熱雰囲気を、酸素を有する雰囲気とさせる方法は、上記フロー以外に、例えば反応室を減圧してから酸素を導入し、その後当該酸素が反応室から出入りしないように制御した方法でもよい。これを「パージ」と呼ぶ。たとえば反応室を-970hPaまで減圧してから、50hPaまで酸素を導入し、酸素の出入りを止めればよい。このような状態を反応室に酸素を充填すると記すことがある。
【0083】
加熱後の冷却は自然放冷でよいが、規定温度から室温までの降温時間が10時間以上50時間以下に収まると好ましく、例えば80℃/h以上250℃/h以下がよく、180℃/h以上210℃/h以下がより好ましい。ただし、必ずしも室温までの冷却は要せず、次のステップが許容する温度まで冷却されればよい。
【0084】
本工程の加熱は、ロータリーキルン又はローラーハースキルンによる加熱を行ってもよい。ロータリーキルンによる加熱は、連続式、バッチ式いずれの場合でも攪拌しながら加熱することができる。
【0085】
加熱の際に用いるるつぼは、酸化アルミニウムのるつぼが好ましい。酸化アルミニウムのるつぼは不純物を放出しにくい材質である。本実施の形態においては、純度が99.9%の酸化アルミニウムのるつぼを用いる。るつぼには蓋を配して加熱すると好ましい。材料の揮発又は昇華を防ぐことができる。蓋を配するとは、本ステップの昇温時から降温時において、材料の揮発又は昇華を防ぐことができればよく、必ずしも蓋によりるつぼを密閉しなくともよい。例えば上述したように、反応室内に酸素を充填することで、るつぼを密閉しないで本ステップを実施することも可能になる。
【0086】
また、るつぼは新品のものよりも、中古のものを用いることが好ましい。本明細書等において新品のるつぼとは、リチウム、遷移金属M、及び/又は添加元素を含む材料を入れて加熱する工程を経た回数が2回以下のものをいうこととする。また中古のるつぼとは、リチウム、遷移金属M及び/又は添加元素を含む材料を入れて加熱する工程を3回以上経たものをいうこととする。これは新品のるつぼを用いると、加熱の際にフッ化リチウムをはじめとする材料の一部がさやに吸収、拡散、移動及び/又は付着する恐れがあるためである。これらにより材料の一部が失われると、特に正極活物質の表層部の元素の分布が好ましい範囲にならない懸念が高まる。一方で中古のるつぼでは、この恐れが少ない。
【0087】
加熱が終わった後、必要に応じて粉砕し、さらにふるいを実施してもよい。加熱後の材料を回収する際に、るつぼから乳鉢へ移動させたのち回収してもよい。また、当該乳鉢は酸化アルミニウムの乳鉢又は酸化ジルコニウムの乳鉢を用いると好適である。酸化アルミニウムの乳鉢は不純物を放出しにくい材質である。具体的には、純度が90%以上、好ましくは純度が99%以上の酸化アルミニウムの乳鉢を用いる。なお、ステップS13以外の後述の加熱の工程においても、ステップS13と同等の加熱条件を適用できる。
【0088】
<ステップS14>
以上の工程により、図2(A)のステップS14でリチウム及び遷移金属Mを有する複合酸化物(LiMO)を得ることができる。複合酸化物は、LiMOで表されるとしたが、その組成が厳密にLi:M:O=1:1:2に限定されるものではない。また遷移金属Mとしてコバルトを用いた場合、コバルトを有する複合酸化物と称し、LiCoOで表されるが、組成については厳密にLi:Co:O=1:1:2に限定されるものではない。
【0089】
ステップS11乃至ステップS14のように、固相法で複合酸化物を作製する例を示したが、共沈法で複合酸化物を作製してもよい。また水熱法で複合酸化物を作製してもよい。
【0090】
<ステップS15>
次に、図2(A)に示すステップS15として、上記複合酸化物を加熱する。複合酸化物に対する最初の加熱のため、ステップS15の加熱を初期加熱と呼ぶことがある。又は以下に示すステップS20の前に加熱するものであるため、予備加熱又は前処理と呼ぶことがある。本ステップに用いるるつぼ及び/又は蓋等は、ステップS13で用いるものと同様である。初期加熱により次の効果が期待されるが、本発明の一態様である正極活物質を得るために初期加熱は必須ではない。
【0091】
初期加熱により、複合酸化物の一部からリチウムが脱離することがある。また複合酸化物の結晶性を高める効果が期待できる。またステップS11等で準備したLi源および/また属M源には、不純物が混入していることがあるが、初期加熱により、複合酸化物から不純物を低減させることが可能である。
【0092】
さらに初期加熱を経ることで、複合酸化物の表面がなめらかになる効果がある。複合酸化物の表面がなめらかとは、凹凸が少なく、複合酸化物の表面が全体的に丸みを帯び、さらに角部が丸みを帯びる様子をいう。また表面へ付着した異物が少ない状態を、なめらかと呼ぶことがある。
【0093】
この初期加熱には、Li源等の原料を用意しなくてよい。または、融剤(融解しやすくするために添加するものであり、フラックスとも呼ぶ)として機能する材料を用意しなくてよい。
【0094】
本工程の加熱時間は短すぎると十分な効果が得られないが、長すぎると生産性が低下する。たとえばステップS13で説明した加熱条件から選択して実施することができる。当該加熱条件について補足すると、本工程の加熱温度は、複合酸化物の結晶構造を維持するため、ステップS13の温度より低くするとよい。また本工程の加熱時間は、複合酸化物の結晶構造を維持するため、ステップS13の時間より短くするとよい。例えば700℃以上1000℃以下の温度で、2時間以上20時間以下の加熱を行うとよい。
【0095】
また複合酸化物の結晶性を高める効果には、たとえば複合酸化物の加熱によって生じる収縮差に由来する歪みを緩和する効果、当該収縮差に由来するずれを緩和する効果等が含まれる。
【0096】
上記複合酸化物は、ステップS13の加熱によって、複合酸化物の表面と内部に温度差が生じることがある。温度差が生じると収縮差が誘発されることもある。温度差により、表面と内部の流動性が異なるため収縮差が生じるとも考えられる。収縮差に関連するエネルギーは、複合酸化物に内部応力の差を与え、これは歪みの原因となる。上記エネルギーを歪みエネルギーと呼ぶことがある。内部応力はステップS15の初期加熱により除去され、別言すると歪みエネルギーはステップS15の初期加熱により小さくなると考えられる。歪みエネルギーが小さくなると複合酸化物の歪みが緩和される。そのためステップS15を経ると複合酸化物の表面がなめらかになる可能性がある。別言すると、ステップS15を経ると複合酸化物に生じた収縮差が緩和され、複合酸化物の表面がなめらかになると考えられる。ステップS15は、複合酸化物の焼き戻し又は焼きなましと呼んでもよい。
【0097】
また収縮差は上記複合酸化物にミクロなずれ、例えば結晶面でのずれを生じさせることがある。当該ずれを低減するためにも、本工程を実施するとよい。本工程を経ると、上記複合酸化物のずれを小さくすることが可能である。ずれが均一化されると、複合酸化物の表面がなめらかになる可能性がある。結晶粒の整列が行われたとも称する。別言すると、ステップS15を経ると複合酸化物に生じた結晶等のずれが緩和され、複合酸化物の表面がなめらかになると考えられる。
【0098】
複合酸化物の表面がなめらかな状態は、複合酸化物の一断面において、表面の凹凸情報を測定データより数値化したとき、少なくとも10nm以下の表面粗さを有するということができる。一断面は、例えば走査型透過型電子顕微鏡(STEMと記す)で観察する際に取得する断面である。
【0099】
表面がなめらかな複合酸化物を正極活物質として用いると、リチウムイオン電池として充放電した際の劣化が少なくなり、正極活物質の割れを防ぐことができる。
【0100】
なお、ステップS14では、あらかじめ合成されたリチウム、及び遷移金属Mを有する複合酸化物を用いてもよい。この場合、ステップS11乃至ステップS13を省略することができる。あらかじめ合成された複合酸化物に対してステップS15を実施することで、表面がなめらかな複合酸化物を得ることができる。
【0101】
初期加熱により複合酸化物のリチウムが減少する場合が考えらえる。リチウムが減少することにより、次のステップS20_1等で説明する添加元素が複合酸化物へ入りやすくなる可能性がある。また表面がなめらかな複合酸化物に添加元素を加えると、添加元素をムラなく添加することができるため、初期加熱後に添加元素を添加するという順が好ましい。添加元素を添加するステップについて、図2(B)を用いて説明する。
【0102】
<ステップS20_1>及び<ステップS21_1>
図2(A)に示すステップS20_1の詳細を図2(B)に示す。図2(B)のステップS21_1では、複合酸化物に添加する添加元素A1源(A1源)を用意する。初期加熱により減少したリチウムを補うために、添加元素A1源と合わせて、リチウム源を準備してもよい。
【0103】
添加元素A1としては、ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、塩素、フッ素、アルミニウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、イットリウム、バナジウム、鉄、クロム、ニオブ、ランタン、ハフニウム、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、及びヒ素の中から選ばれる一または複数を用いることができる。
【0104】
添加元素A1にマグネシウムを選んだとき、添加元素A1源はマグネシウム源(Mg源)と呼ぶことができる。当該マグネシウム源としては、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、又は炭酸マグネシウム等を用いることができる。また上述したマグネシウム源を複数用いてもよい。
【0105】
添加元素A1にフッ素を選んだとき、添加元素A1源はフッ素源(F源)と呼ぶことができる。当該フッ素源としては、例えばフッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化チタン、フッ化コバルト、フッ化ニッケル、フッ化ジルコニウム、フッ化バナジウム、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化クロム、フッ化ニオブ、フッ化亜鉛、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化バリウム、フッ化セリウム、フッ化ランタン、又は六フッ化アルミニウムナトリウム等を用いることができる。なかでも、フッ化リチウムは融点が848℃と比較的低く、後述する加熱工程で溶融しやすいため好ましい。なお、図2(B)では、添加元素A1源としてMg源及びF源を用いる例を示している。
【0106】
フッ化マグネシウムはフッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。またフッ化リチウムはリチウム源としても用いることができる。ステップS21_1に用いられるその他のリチウム源には、炭酸リチウムがある。
【0107】
本実施の形態では、フッ素源としてフッ化リチウムを準備し、フッ素源及びマグネシウム源としてフッ化マグネシウムを準備する。フッ化リチウムとフッ化マグネシウムは、LiF:MgF=65:35(モル比)程度で混合すると融点を下げる効果が最も高くなる。一方、フッ化リチウムが多くなると、リチウムが過剰になりすぎサイクル特性が悪化する懸念がある。そのため、本実施の形態では、フッ化リチウムとフッ化マグネシウムのモル比がLiF:MgF=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:MgF=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF=x:1(x=0.33又はその近傍)がさらに好ましい。なお「近傍」とは、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値とする。
【0108】
同時に、マグネシウムの添加量は、ステップS14のLiMO、代表的にはLiCoOのCo原子数に対して0.1原子%より高く3原子%以下が好ましく、0.5原子%以上2原子%以下がより好ましく、0.5原子%以上1原子%以下がさらに好ましい。マグネシウムの添加量が0.1原子%以下であると、初回の放電容量は高いが高電圧充電を繰り返すことで急激に放電容量が低下することがある。マグネシウムの添加量が0.1原子%を超えて、つまり0.1原子%より高く3原子%以下の場合は、高電圧充電を繰り返しても初回放電特性および充放電サイクル特性共に良好である。一方、マグネシウムの添加量が3原子%を超えると初回の放電容量が低く、さらに充放電サイクル特性も徐々に悪化する傾向がある。
【0109】
<ステップS22_1>
次に、図2(B)に示すステップS22_1では、マグネシウム源及びフッ素源を粉砕しながら混合する。本工程は、ステップS12で説明した粉砕の条件、及び混合の条件から選択して実施することができる。
【0110】
必要に応じてステップS22_1の後に加熱工程を行ってもよい。この場合の加熱工程はステップS13で説明した加熱条件から選択して実施することができる。加熱時間は2時間以上が好ましく、加熱温度は800℃以上1100℃以下が好ましい。
【0111】
<ステップS23_1>
次に、図2(B)に示すステップS23_1では、上記で粉砕及び混合した材料を回収して、添加元素A1源(A1源)を得ることができる。なお、ステップS23_1に示す添加元素A1源は、Mg源及びF源のように複数の原料を有することがあり、この場合A1源を混合物と呼ぶことができる。
【0112】
<ステップS31>
次に、図2(A)に示すステップS31では、複合酸化物と、添加元素A1源(A1源)とを混合する。リチウム、及び遷移金属Mを有する複合酸化物中の遷移金属Mの原子数Aと、添加元素A1が有するマグネシウムの原子数AMgとの比は、A:AMg=100:y(0.1≦y≦6)であることが好ましく、A:AMg=100:y(0.3≦y≦3)であることがより好ましい。
【0113】
ステップS31の混合は、複合酸化物を壊さないためにステップS12の粉砕及び混合の条件よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数が少ない、または時間が短い条件とすることが好ましい。また湿式よりも乾式のほうが穏やかな条件であるため好適である。
【0114】
上記混合は、露点が-100℃以上-10℃以下の雰囲気で行うことが好ましい。例えば、混合は、ドライルームで行うことができる。ドライルームの雰囲気は、乾燥空気を有するとよい。
【0115】
<ステップS32>
次に、図2(A)のステップS32において、上記で混合した材料を回収し、混合物903を得る。回収する際、凝集した状態をほぐすため混合物903を解砕してもよい。さらに凝集した状態をほぐすため混合物903に対してふるいを実施してもよい。解砕の後にふるいを実施してもよいし、解砕しながらふるいを実施してもよいし、解砕に代えてふるいだけ実施してもよい。
【0116】
なお、本実施の形態では、フッ素源としてフッ化リチウム、及びマグネシウム源としてフッ化マグネシウムを、初期加熱を経た複合酸化物に添加する方法について説明したが、本発明は上記方法に限定されない。ステップS11の段階、つまり複合酸化物の出発材料の段階でLi源及びM源とともにマグネシウム源及びフッ素源等を用意し、ステップS12へ進むことができる。その後ステップS13で加熱してマグネシウム及びフッ素が添加されたLiMOを得ることができる。この場合は、ステップS11乃至ステップS14の工程と、ステップS21_1乃至ステップS23_1の工程を分ける必要がない。簡便で生産性が高い方法であるといえる。
【0117】
また、あらかじめマグネシウム及びフッ素が添加された複合酸化物を用いてもよい。マグネシウム及びフッ素が添加された複合酸化物を用いれば、ステップS11乃至ステップS32、及びステップS20_1の工程を省略することができる。簡便で生産性が高い方法であるといえる。
【0118】
または、あらかじめマグネシウム及びフッ素が添加された複合酸化物に対して、ステップS20_1に従いさらにマグネシウム源及びフッ素源を添加してもよい。マグネシウム源及びフッ素源に代えて、又はマグネシウム源及びフッ素源に加えて、ニッケル源、及びアルミニウム源を添加してもよい。
【0119】
<ステップS33>
次に、図2(A)に示すステップS33では、混合物903を加熱する。ステップS13で説明した加熱条件から選択して実施することができる。加熱時間は2時間以上が好ましい。
【0120】
ここで加熱温度について補足する。ステップS33の加熱温度の下限は、複合酸化物(LiMO)と添加元素A1源との反応が進む温度以上である必要がある。反応が進む温度とは、複合酸化物と添加元素A1源との有する元素が相互に拡散できる温度であればよく、これらの材料の溶融温度よりも低くてもよい。酸化物を例にして説明するが、タンマン温度T(酸化物の融点Tの0.757倍として求まる温度)から固相拡散が起こることがわかっている。そのため、ステップS33における加熱温度としては、500℃以上であればよい。
【0121】
勿論、混合物903の少なくとも一部が溶融する温度以上であると、より反応が進みやすい。例えば、添加元素A1源として、LiF及びMgFを有する場合、LiFとMgFの共融点は742℃付近であるため、ステップS33の加熱温度の下限は742℃以上とすると好ましい。
【0122】
また、LiCoO:LiF:MgF=100:0.33:1(モル比)となるように混合して得られた混合物903は、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry測定;DSC測定)において830℃付近に吸熱ピークが観測される。よって、加熱温度の下限は830℃以上がより好ましい。
【0123】
加熱温度は高い方が反応が進みやすく、加熱時間が短く済み、生産性が高く好ましい。
【0124】
加熱温度の上限は複合酸化物の分解温度未満とする。例えば、LiCoOの場合は、分解温度である1130℃未満とする。分解温度の近傍の温度では、微量ではあるがLiMOの分解が懸念される。LiMOの分解が生じると複合酸化物に不要な反応生成物、代表的にはコバルト酸リチウムの場合Coが生成することがあり好ましくない。そのため、1000℃以下であるとより好ましく、950℃以下であるとさらに好ましく、920℃以下であるとさらに好ましい。
【0125】
これらを踏まえると、ステップS33における加熱温度としては、500℃以上1130℃未満が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましく、500℃以上950℃以下がさらに好ましく、500℃以上920℃以下がさらに好ましく、500℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、742℃以上1130℃未満が好ましく、742℃以上1000℃以下がより好ましく、742℃以上950℃以下がさらに好ましく、742℃以上920℃以下がさらに好ましく、742℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、800℃以上1130℃未満が好ましく、800℃以上1000℃以下がより好ましく、800℃以上950℃以下がさらに好ましく、800℃以上920℃以下がさらに好ましく、800℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、830℃以上1130℃未満が好ましく、830℃以上1000℃以下がより好ましく、830℃以上950℃以下がさらに好ましく、830℃以上920℃以下がさらに好ましく、830℃以上900℃以下がさらに好ましい。
【0126】
なおステップS33における加熱温度は、ステップS13よりも低いとよい。複合酸化物(LiMO)が分解しないようにするためである。なおステップS33における加熱温度は、ステップS15よりも高いとよい。
【0127】
さらに混合物903を加熱する際、処理室内又はるつぼ内におけるフッ素源等に起因するフッ素またはフッ化物の分圧を適切な範囲に制御することが好ましい。本実施の形態で説明する作製方法では、一部の材料、例えばフッ素源であるLiFが融剤として機能する場合がある。この機能により加熱温度を複合酸化物(LiMO)の分解温度未満、例えば742℃以上950℃以下にまで低温化でき、表層部にマグネシウムをはじめとする添加元素A1を分布させ、良好な特性の正極活物質を作製できる。
【0128】
ただしLiFは加熱により昇華する可能性があり、さらにLiFは酸素よりも気体状態での比重が軽いため、混合物903中のLiFが減少することが考えられる。すると融剤としての機能が弱くなってしまう。よって、LiFの昇華を抑制しつつ、加熱する必要がある。なお、フッ素源等としてLiFを用いなかったとしても、LiMO表面のLiとフッ素源のFが反応して、LiFが生じ、昇華する可能性もある。そのため、LiFより融点が高いフッ化物を用いたとしても、同じように昇華の抑制が必要である。
【0129】
そこで、LiFを含む雰囲気で混合物903を加熱すること、すなわち、処理室内のLiFの分圧が高い状態で混合物903を加熱することが好ましい。このような加熱により混合物903中のLiFの昇華を抑制することができる。その他、上述したように容器に蓋を配置することで、混合物903中のLiFの昇華を抑制することもできる。
【0130】
本工程の加熱は、混合物903同士が固着しないように加熱すると好ましい。加熱中に混合物903同士が固着すると、雰囲気中の酸素との接触面積が減る、及び添加元素A1(例えばマグネシウム、及び/又はフッ素)が拡散する経路を阻害することとなり、添加元素A1(例えばマグネシウム、及び/又はフッ素)が拡散しづらくなる可能性がある。
【0131】
また、添加元素A1(例えばフッ素)が表層部に均一に分布するとなめらかで凹凸が少ない正極活物質を得られると考えられている。そのため本工程でステップS15の加熱を経た、表面がなめらかな状態を維持する又はより一層なめらかになるためには、混合物903同士が固着しない方がよい。
【0132】
加熱時間について補足する。加熱時間は、加熱温度、ステップS14のLiMOの大きさ、及び組成等の条件により変化する。LiMOのメディアン径(D50)が小さい場合は、メディアン径(D50)が大きい場合よりも低い温度または短い時間がより好ましい場合がある。メディアン径(D50)はレーザ回折式粒度分布測定装置により求めることができる。
【0133】
図2(A)のステップS14のLiMOとしてコバルト酸リチウムを用いた場合において、コバルト酸リチウムのメディアン径(D50)が10μm以上14μm以下といった12μm程度のとき、ステップS33の加熱温度は、例えば800℃以上920℃以下が好ましく、850℃以上920℃以下がさらに好ましい。ステップS33の加熱時間は例えば10時間以上がより好ましく、20時間以上がさらに好ましく、60時間以上でもよい。メディアン径(D50)が大きいと、複合酸化物(LiMO)の体積が大きくなるため、複合酸化物のバルク層などで内部応力が緩和する、又は内部応力が除去される状態となるために、加熱時間が必要になることがある。メディアン径(D50)が大きいと、マグネシウムをはじめとする添加元素A1が表層部で均一に分布するために時間を要するため、上記のとおり加熱時間が長くなることがある。コバルト酸リチウムのメディアン径(D50)は加熱処理を経て大きくなることがあるが、加熱処理後もメディアン径(D50)が10μm以上14μm以下を満たすことが好ましい。つまり正極活物質のメディアン径(D50)が10μm以上14μm以下を満たすことが好ましい。
【0134】
ステップS14のLiMOとしてコバルト酸リチウムを用いた場合において、コバルト酸リチウムのメディアン径(D50)が5μm以上9μm以下といった7μm程度の場合、ステップS33の加熱温度は、メディアン径(D50)が12μm程度の加熱温度と同じ範囲が好ましい。一方、ステップS33の加熱時間は、メディアン径(D50)が12μm程度の加熱時間より短くできる。例えば1時間以上10時間以下が好ましく、5時間以上10時間以下がより好ましい。メディアン径(D50)が小さいと、マグネシウムをはじめとする添加元素A1が表層部に分布する時間が短くなるため、上記のとおり加熱時間を短くすることができる。メディアン径(D50)が小さいと、複合酸化物(LiMO)の体積が小さくなるため、複合酸化物のバルク層などを焼き戻す又は焼きなますための時間が短くて済む。コバルト酸リチウムのメディアン径(D50)は加熱処理を経て大きくなることがあるが、加熱処理後もメディアン径(D50)が5μm以上9μm以下を満たすことが好ましい。つまり正極活物質のメディアン径(D50)が5μm以上9μm以下を満たすことが好ましい。
【0135】
ステップS33の後、前述の添加元素A1と異なる添加元素をさらに添加するステップを設けるとよい。当該ステップについて、図2(C)を用いて説明する。
【0136】
<ステップS20_2>及び<ステップS21_2>
図2(A)に示すステップS20_2の詳細を図2(C)に示す。図2(C)のステップS21_2では、複合酸化物に添加する添加元素A2源(A2源)を用意する。添加元素A2源と合わせて、リチウム源を準備してもよい。
【0137】
添加元素A2としては、ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、塩素、フッ素、アルミニウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、イットリウム、バナジウム、鉄、クロム、ニオブ、ランタン、ハフニウム、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、及びヒ素の中から選ばれる一または複数を用いることができる。添加元素A2は少なくとも添加元素A1で選ばれなかった元素を用いるとよいが、添加元素A1で選ばれた元素が含まれていてもよい。なお、図2(C)では、添加元素A2源としてNi源及びAl源を用いる例を示している。
【0138】
本実施の形態では、ニッケル源として水酸化ニッケルを用意し、アルミニウム源として水酸化アルミニウムを用意する。水酸化ニッケルに代えて酸化ニッケル又は炭酸ニッケルを用いてもよい。水酸化アルミニウムに代えて酸化アルミニウム又は炭酸アルミニウムを用いてもよい。
【0139】
<ステップS22_2>
次に、図2(C)に示すステップS22_2では、ニッケル源を粉砕しながら混合し、さらにアルミニウム源を粉砕しながら混合する。本工程は、ステップS12で説明した粉砕の条件及び混合の条件から選択して実施することができる。なお本工程は図2(B)のステップS22_1のようにニッケル源とアルミニウム源を合わせた後に、粉砕しながら混合してもよい。
【0140】
必要に応じてステップS22_2の後に加熱工程を行ってもよい。この場合の加熱工程はステップS13で説明した加熱条件から選択して実施することができる。
【0141】
<ステップS23_2>
次に、図2(C)に示すステップS23_2では、上記で粉砕又は混合した材料を回収して、添加元素A2源(A2源)を得ることができる。
【0142】
<ステップS34>
次に、図2(A)に示すステップS34では、ステップS33の加熱を経た複合酸化物と、添加元素A2源(A2源)とを混合する。上述したように添加元素A2源(A2源)は複数用意してもよい。複合酸化物中の遷移金属Mの原子数Aと、添加元素A2が有するニッケルの原子数ANiとの比は、A:ANi=100:y(0.1≦y≦3)であることが好ましく、A:ANi=100:y(0.3≦y≦1)であることがより好ましい。また複合酸化物中の遷移金属Mの原子数Aと、添加元素A2が有するアルミニウムの原子数AAlとの比は、A:AAl=100:y(0.1≦y≦3)であることが好ましく、A:AAl=100:y(0.3≦y≦1)であることがより好ましい。
【0143】
ステップS34の混合条件は、ステップS31で述べた混合条件から選択することができる。
【0144】
<ステップS35>
次に、図2(A)のステップS35において、上記で混合した材料を回収し、混合物904を得る。回収する際、凝集した状態をほぐすため混合物904を解砕してもよい。さらに凝集した状態をほぐすため混合物904をふるってもよい。解砕の後にふるいを実施してもよいし、解砕しながらふるってもよいし、解砕に代えてふるいだけ実施してもよい。
【0145】
<ステップS36>
次に、図2(A)に示すステップS36では、混合物904を加熱する。ステップS33で説明した加熱条件から選択して実施することができる。加熱時間は2時間以上が好ましい。
【0146】
ステップS36における加熱温度は、ステップS33と同様に、500℃以上1130℃以下が好ましく、500℃以上1000℃以下がより好ましく、500℃以上950℃以下がさらに好ましく、500℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、742℃以上1130℃以下が好ましく、742℃以上1000℃以下がより好ましく、742℃以上950℃以下がさらに好ましく、742℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、800℃以上1100℃以下、830℃以上1130℃以下が好ましく、830℃以上1000℃以下がより好ましく、830℃以上950℃以下がさらに好ましく、830℃以上900℃以下がさらに好ましい。なおステップS36における加熱温度は、ステップS13よりも低いとよい。なおステップS36における加熱温度は、ステップS33よりも低いとよい。
【0147】
本工程の加熱は、混合物904同士が固着しないように加熱すると好ましい。加熱中に混合物904同士が固着すると、雰囲気中の酸素との接触面積が減る、及び添加元素A2が拡散する経路を阻害することとなり、添加元素A2の分布が悪化する可能性がある。
【0148】
<ステップS37>
次に、図2(A)に示すステップS37では、加熱した材料を回収し、必要に応じて解砕して、正極活物質10を得る。このとき、回収された正極活物質10をさらに、ふるいにかけると好ましい。以上の工程により、本発明の一形態の正極活物質10を作製することができる。本発明の一形態の正極活物質は表面がなめらかである。以上が正極活物質の作製方法の一例である。
【0149】
[正極活物質]
上記作製方法によって得られうる正極活物質10の一断面について、図3(A)を用いて説明する。また図3(B)には図3(A)と異なり、結晶粒界15を一点鎖線で明示した正極活物質10の一断面を示す。図3(A)及び図3(B)に示す正極活物質10は共に表層部10a及び内部(内部を「バルク部」と記す)10bを有し、互いの境界を破線で示す。なお表層部10aはバルク部10bを90%以上覆っているとより好ましい。なお、図3(A)及び図3(B)の図中の破線は一例であり、図3(B)の図中の一点鎖線は一例であり、覆っている表層部の割合も一例である。
【0150】
表層部10aはバルク部10bをすべて被覆していなくともよい。図3(A)及び図3(B)は、表層部10aがバルク部10bの外周の50%以上、具体的には65%以上75%以下の割合で覆った正極活物質10を示す。たとえば図3Bに示すように正極活物質10は、バルク部10bが露出した領域を有してもよい。
【0151】
図3(B)に示す結晶粒界15とは、たとえば正極活物質10同士が固着している部分、正極活物質10内部で結晶方位が変わる部分、つまりSTEM像等における明線と暗線の繰り返しが不連続になった部分、結晶欠陥を多く含む部分、又は結晶構造が乱れている部分等をいう。結晶欠陥とは断面のTEM(透過型電子顕微鏡)像、断面のSTEM像等で観察可能な欠陥を指し、当該欠陥は格子間に他の元素が入り込んだ構造、又は空洞等とも呼べる。すなわち結晶粒界15は、面欠陥の一つといえる。また結晶粒界15の近傍とは、結晶粒界15を中心にして20nm以内、好ましくは10nm以内の領域であり、粒界の近傍は粒子の内部にも粒子の外にも存在する。粒子内部側の粒界近傍、又は粒子の外側の粒界近傍と示すことで、これらを区別することができる。
【0152】
正極活物質10は、リチウムの挿入脱離が可能な遷移金属と酸素を有する複合酸化物を有するため、リチウムの挿入脱離に伴い酸化還元する遷移金属M(たとえばCo、Ni、Mn、Fe等)が存在する領域と、存在しない領域の界面を、正極活物質の「表面」とすることができる。存在しない領域には添加元素が存在していることがある。スリップ、ひびおよび/またはクラックにより新たに生じた面も正極活物質の表面といってよいことがある。
【0153】
再掲するが、本明細書等において、表層部10aとは、例えば、表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは35nm以内、さらに好ましくは20nm以内、最も好ましくは10nm以内の領域である。または表層部は、表面近傍、表面近傍領域またはシェルと言い換えてもよい。なお表面から内部に向かって50nm以内、より好ましくは35nm以内、さらに好ましくは20nm以内、最も好ましくは10nm以内の領域は、表面から垂直または略垂直に沿った深さ方向の距離を指す。表面における垂直または略垂直とは表面における接線となす角度が80°以上100°以下の方向を指す。またバルク部10bは表層部10aより深い領域を指す。バルク部10bは、内部と呼ぶことがあり、さらにコアと言い換えてもよい。バルク部10bには正極活物質の中央部が含まれることがある。
【0154】
正極活物質10において、リチウムが挿入脱離する領域を「表面」としてもよい。そのため、「表面」を正極活物質10にて電解質と接する領域と考えることができる。たとえば正極活物質10の表面は、表層部10aの表面が含まれ、バルク部10bが露出している領域ではバルク部10bが表面となることがある。
【0155】
正極活物質10にて、作製後に化学吸着した炭酸基、又はヒドロキシ基等は、リチウムが挿入脱離できない領域と考えられ、これらは正極活物質10の表面を構成しない。また正極活物質10に付着した電解質、バインダ、導電材、またはこれら由来の化合物も、同様に正極活物質10の表面を構成しない。
【0156】
また断面のSTEM(走査型透過型電子顕微鏡)像等における正極活物質10の「表面」とは、電子線の結合像が観察される領域と、観察されない領域の境界であって、リチウムより原子番号の大きな金属元素の原子核に由来する輝点が確認される領域の最も外側とすることができる。断面STEM像等における表面は、より空間分解能の高い分析、たとえば電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy;EELS)等の分析結果と併せて判断してもよい。
【0157】
正極活物質は、リチウムイオンが挿入脱離しても電荷中性を保つために、酸化還元が可能な遷移金属を有する必要がある。本発明の一態様の正極活物質10は酸化還元反応を担う遷移金属Mとして主にコバルトを用いるが、コバルトに加えて、ニッケルおよびマンガンから選ばれる少なくとも一または二以上を用いてもよい。正極活物質10が有する遷移金属Mのうち、コバルトが75原子%以上、好ましくは90原子%以上、さらに好ましくは95原子%以上であると、合成が比較的容易で取り扱いやすく優れたサイクル特性を有するなど利点が多く好ましい。
【0158】
正極活物質10が有する遷移金属Mとしてニッケルを33原子%以上、好ましくは60原子%以上、さらに好ましくは80原子%以上用いると、コバルトが多い場合と比較して原料が安価になる場合があり、また重量あたりの放電容量が増加する場合があり好ましい。
【0159】
正極活物質10が有する添加元素A(添加元素A1及び添加元素A2)を再掲するが、ニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、塩素、フッ素、アルミニウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、イットリウム、バナジウム、鉄、クロム、ニオブ、ランタン、ハフニウム、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、及びヒ素のから選ばれた一または二以上を用いることが好ましい。
【0160】
つまり正極活物質10は、添加元素Aが添加されたコバルト酸リチウムを呼ぶことができる。後述するが、添加元素Aにより正極活物質10の結晶構造をより安定化させることができる。
【0161】
なお添加元素Aとして、必ずしもニッケル、コバルト、マグネシウム、カルシウム、塩素、フッ素、アルミニウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、イットリウム、バナジウム、鉄、クロム、ニオブ、ランタン、ハフニウム、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、及びヒ素のから選ばれた一または二以上を含まなくてもよい。
【0162】
たとえば添加元素Aとしてマンガンを実質的に含まない正極活物質10とすると、合成が比較的容易で取り扱いやすく、優れたサイクル特性を有するといった上記の利点がより大きくなる。正極活物質10に含まれるマンガンの重量はたとえば600ppm以下、より好ましくは100ppm以下であることが好ましい。マンガンの重量はたとえばグロー放電質量分析装置(GD-MS)を用いて分析することができる。
【0163】
<結晶構造>
図4乃至図8を用いて、LixCoO中のxの変化に伴う結晶構造の変化について、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10を、従来の正極活物質と比較しながら説明する。本発明の一態様として利用可能な正極活物質10の結晶構造を図4に示し、従来の正極活物質の結晶構造を図5に示す。なお、図5に示す従来の正極活物質は、特に添加元素を有さないコバルト酸リチウム(LiCoO)である。なお、本明細書等において、「特に添加元素を有さない」とは、分析手段を用いて測定した際に検出下限以下の場合を指し、または検出下限ぎりぎり程度に含んでいた場合は、作用効果の有無には影響しない程度の範囲で含まれている場合のことを指すものとする。
【0164】
≪LiCoO中のxが1のとき≫
本発明の一態様として利用可能な正極活物質10は、LiCoO中のx=1の場合、つまり放電状態において、空間群R-3mに帰属する層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。この結晶構造はリチウムが8面体(Octahedral)サイトを占有し、ユニットセル中にCoO層が3層存在する。そのためこの結晶構造をO3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO層とはコバルトに酸素が6配位した8面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする。CoO層をコバルトと酸素の8面体からなる層、という場合もある。図4ではLiCoO中のxが1のときの結晶構造にR-3m(O3)を付す。図5でもLiCoO中のxが1のときの結晶構造は、図4に示した結晶構造と同じであり、同様にR-3m(O3)を付す。
【0165】
層状岩塩型の複合酸化物は、放電容量が高く、二次元的なリチウムイオンの拡散経路を有し、リチウムイオンの挿入/脱離反応に適しており、リチウムイオン電池の正極活物質として優れる。そのため、正極活物質10の大半を占めるバルク部10bが層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。
【0166】
本発明の一態様として利用可能な正極活物質10の表層部10aの結晶構造は層状岩塩型でなくてもよい。表層部10aは、充電により正極活物質10からリチウムが抜けても、バルク部10bのコバルトと酸素の8面体からなる層状構造が壊れないよう補強する機能を有することが好ましい。または、表層部10aが正極活物質10のバリア膜として機能することが好ましい。または、正極活物質10の外周部である表層部10aが正極活物質10を補強することが好ましい。ここでいう補強とは、酸素の脱離をはじめとする正極活物質10の表層部10a及びバルク部10bの構造変化を抑制すること、及び/または電解質が正極活物質10の表面で酸化分解されることを抑制することをいう。
【0167】
表層部10aは充電時にリチウムイオンが最初に脱離する領域であり、バルク部10bよりもリチウム濃度が低くなりやすい領域である。また表層部10aが有する正極活物質10の表面の原子は、リチウムイオンが脱離したとき、一部の結合が切断された状態となる。そのため、表層部10aは不安定になりやすく、結晶構造の変化、つまり劣化が始まりやすい領域といえる。一方で表層部10aを十分に安定にできれば、LiCoO中のxが小さいとき、例えばxが0.24以下においてもバルク部10bにてCoO層の層状構造を壊れにくくすることができる。さらに、バルク部10bのCoO層のずれを抑制することができる。
【0168】
表層部10aを安定な組成及び結晶構造とするために、表層部10aは添加元素Aを有することが好ましく、添加元素Aを複数有することがより好ましい。また、表層部10aはバルク部10bよりも添加元素Aから選ばれた一または二以上の濃度が高いことが好ましい。また、正極活物質10が有する添加元素Aから選ばれた一または二以上は濃度勾配を有していることが好ましい。また、正極活物質10は添加元素Aによって分布が異なっていることがより好ましい。例えば、添加元素Aによって濃度ピークの表面からの深さが異なっていることがより好ましい。ここでいう濃度ピークとは、表層部10aまたは表面から50nm以下における濃度の極大値をいうこととする。
【0169】
ここで図3(C)乃至図3(F)の概念図も用いて、上記濃度勾配及び濃度ピーク等を説明する。
【0170】
図3(C)および図3(D)に、図3(A)中のA-B付近を拡大した図を示す。図3(C)および図3(D)に、(001)面(以下、(001)面と記し、c面、又はベーサル面と記すこともある)を有する表層部の断面、つまり(001)に配向した領域の断面図といえる。層状岩塩型の結晶構造では、(001)面に平行に陽イオンが配列している。これはCoO層と、リチウム層と、が(001)面と平行に交互に積層した構造であるということができる。そのためリチウムイオンの拡散経路は(001)面に平行に存在する。CoO層は比較的安定であるため、CoO層が表面に存在する(001)面は比較的安定であり、かつ(001)面には充放電におけるリチウムイオンの主な拡散経路は露出していない。
【0171】
このような(001)面を示した図3(C)では、添加元素Aの例としてマグネシウム等の分布を示す。図3(C)における濃淡がマグネシウムの濃度変化に対応する。(001)面はCoO層が比較的安定であるため、添加元素Aが検出されないこともある。検出される場合、添加元素Aの分布例として図3(C)では表層部10aのうち表面又は表面付近で最も高い濃度で添加元素Aが存在し、バルク部10bに向かって添加元素Aの濃度が減少していく様子を例示する。最も高い濃度を示す位置にマグネシウム等の濃度ピークがあるといえる。また濃度が減少していく様子を濃度勾配と記すことがある。なお本明細書等において、(001)面で図3(C)のような分布を示す添加元素Aを添加元素Xと呼ぶこととする。
【0172】
図3(D)には添加元素Aの別例としてアルミニウムの分布を示す。図3(D)における濃淡がアルミニウムの濃度変化に対応する。(001)面はCoO層が比較的安定であるため、添加元素Aが検出されないこともある。検出される場合、添加元素Aの分布例として図3(D)では表層部10aのうち表面又は表面付近よりも深い位置で最も高い濃度で添加元素Aが存在し、表面及びバルク部10bに向かって添加元素Aの濃度が減少していく様子を例示する。最も高い濃度を示す位置にアルミニウムの濃度ピークがあるといえ、当該アルミニウムの濃度ピーク位置は、上記マグネシウム等の濃度のピーク位置と異なり、やや深くに位置することがある。また濃度が減少していく様子を濃度勾配と記すことがある。なお本明細書等において、(001)面で図3(D)のような分布を示す添加元素Aを添加元素Yと呼ぶこととする。
【0173】
添加元素Aの元素に応じて、添加元素Xのような分布、又は添加元素Yのような分布を示し、互いの分布が異なることがある。また添加元素Aの元素に応じて、添加元素Xのような濃度ピーク位置、又は添加元素Yのような濃度ピーク位置を示し、互いの濃度ピーク位置が異なることがある。
【0174】
図3(E)および図3(F)に、図3(A)中のC-D付近を拡大した図を示す。図3(E)および図3(F)は(001)面以外の面(以下、ab面、又はエッジ面と記すことがある)を有する表層部の断面図といえ、(001)面以外の面は層状岩塩型の結晶構造ではリチウムイオンの拡散経路が存在する面である。
【0175】
このような(001)面以外を示した図3(E)では、添加元素Xの例としてマグネシウム等の分布を示す。図3(C)の(001)面と比べると、図3(E)の(001)面以外では添加元素Xの濃度が高いことがある。マグネシウム等の濃度ピークは表層部10aのうち表面又は表面付近に位置することがあり、図3(C)の(001)面における濃度ピークよりも高い強度を示すことがある。また図3(E)の(001)面以外では添加元素Xが広い範囲に分布することがある。
【0176】
図3(F)には添加元素Yの例としてアルミニウム等の分布を示す。アルミニウムは濃度ピークが図3(D)の(001)面でも図3(F)の(001)面以外でも、表面から内部に向かって5nm以上50nm以下の領域に位置することが好ましい。加熱処理条件によってはアルミニウムの濃度ピークが、図3(F)の(001)面以外の方が図3Dの(001)面より深いことがある。
【0177】
このように、正極活物質の面方向によって添加元素の分布が異なってもよい。
【0178】
再掲するが、リチウムイオンの拡散経路は(001)面以外に対応した表面に存在し、(001)面以外に対応した表面ではリチウムイオンの拡散経路が露出している。そのため図3E及び図3Fに示すような、(001)面以外の面に対応した表層部10aは、リチウムイオンの拡散経路を保つために重要な領域であると同時に、リチウムイオンが最初に脱離する領域であるため不安定になりやすい。そのため正極活物質10全体の結晶構造を保つためには(001)面以外の面及びこれに対応した表層部10aを優先的に補強するとよい。すなわち、優先的に(001)面以外の面及びこれに対応した表層部10aにて添加元素Aが存在するとよい。
【0179】
上記製造方法で述べたように、初期加熱を経て形成されたLiCoOに、添加元素を混合して加熱する作製方法であれば、添加元素はリチウムイオンの拡散経路を介して広がる。そのため図3(C)及び図3(D)に示すような(001)以外の面及びその面に対応した表層部10aにおける添加元素の分布を好ましい範囲にしやすい。
【0180】
また、正極活物質10の表面はなめらかで凹凸が少ないことが好ましいと述べたが、必ずしも、正極活物質10の全てがなめらかでなくてもよい。たとえば(001)面に平行な面、例えばリチウムが配列した面において生じたスリップに起因する凹凸を正極活物質10が有してもよい。スリップとは、積層欠陥とも呼ぶ。たとえば正極作製時にプレスを実施するが、当該プレスによってLiCoOが格子縞方向(ab面方向)に沿って変形することがあり、この変形もスリップに含まれる。変形には、格子縞同士が前後にずれることが含まれる。格子縞同士が前後にずれると、格子縞に対して垂直方向(c軸方向)の表面には、段差が生じる。
【0181】
またスリップした結果生じた表面及びその表層部10aは(001)面であることが多く、当該(001)面に対応した表層部10aは添加元素が存在しないか、検出下限以下である場合がある。上述したが(001)面にはリチウムイオンの拡散経路が露出せず、比較的安定であるため、添加元素が存在しないか、検出下限以下であっても問題がほとんどない。
【0182】
なお組成がLiCoO、結晶構造がR-3mの層状岩塩型を有する複合酸化物では、(001)面と平行にコバルトが配列する。またHigh-Angle Annular Dark Field Scanning TEM(HAADF-STEM)像では、LiCoOのうち原子番号の最も大きいコバルトの輝度が最も高くなる。そのためHAADF-STEM像において、輝度の高い原子の配列はコバルトの配列と考えてよい。この輝度の高い配列の繰り返しは、結晶縞または格子縞と同義である。
【0183】
次に添加元素について説明する。添加元素Xの一つであるマグネシウムは2価で、マグネシウムイオンは層状岩塩型の結晶構造におけるコバルトサイトよりもリチウムサイトに存在する方が安定であるため、リチウムサイトに入りやすい。マグネシウムが表層部10aのリチウムサイトに適切な濃度で存在することで、バルク部10b等の層状岩塩型の結晶構造を補強しやすい。これはリチウムサイトに存在するマグネシウムが、CoO層同士を支える柱として機能するためと推測される。また、マグネシウムが存在することで、後述のLiCoO中のxが例えば0.24以下の状態においてマグネシウムの周囲の酸素の脱離を抑制することができる。また、マグネシウムが存在することで正極活物質10の密度が高くなることが期待できる。また表層部10aのマグネシウム濃度が高いと、有機溶媒が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が向上することも期待できる。
【0184】
マグネシウムは、適切な濃度であれば充放電に伴うリチウムの挿入及び脱離に悪影響を及ぼさず、上記のメリットを享受できる。しかしながら、マグネシウムが過剰であるとリチウムの挿入及び脱離に悪影響が出る恐れがある。さらに結晶構造の安定化への効果が小さくなってしまう場合がある。これはマグネシウムが、リチウムサイトに加えてコバルトサイトにも入るようになるためと考えられる。加えて、リチウムサイトにもコバルトサイトにも置換しない、不要なマグネシウム化合物(酸化物、フッ化物等)が正極活物質の表面等に偏析し、リチウムイオン電池の抵抗成分となる恐れがある。また、正極活物質のマグネシウム濃度が高くなるのに伴って正極活物質の放電容量が減少することがある。これはリチウムサイトにマグネシウムが入りすぎ、充放電に寄与するリチウム量が減少するためと考えられる。
【0185】
そのため、正極活物質10全体が有するマグネシウムが適切な量であることが好ましい。例えばマグネシウムの原子数はコバルトの原子数の0.001倍以上0.1倍以下が好ましく、0.01倍より大きく0.04倍未満がより好ましく、0.02倍程度がさらに好ましい。ここでいう正極活物質10全体が有するマグネシウムの量とは、例えばGD-MS(グロー放電質量分析法)、ICP-MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry:誘導結合プラズマ質量分析法)等を用いて正極活物質10の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質10の作製の過程における原料の配合の値に基づいたものであってもよい。
【0186】
また、添加元素Xの一つであるニッケルは、コバルトサイトとリチウムサイトのどちらにも存在しうる。コバルトサイトに存在する場合、コバルトと比較して酸化還元電位が低くなるため、放電容量の増加に繋がり好ましい。
【0187】
また、ニッケルがリチウムサイトに存在する場合、コバルトと酸素の8面体からなる層状構造のずれが抑制されうる。また、充放電に伴う体積の変化が抑制される。また、弾性係数が大きくなる、つまり硬くなる。これはリチウムサイトに存在するニッケルも、CoO層同士を支える柱として機能するためと推測される。
【0188】
一方で、ニッケルが過剰であるとヤーン・テラー効果による歪みの影響が強まり好ましくない。またニッケルが過剰であるとリチウムの挿入及び脱離に悪影響が出る恐れがある。
【0189】
そのため、正極活物質10全体が有するニッケルは、適切な量であることが好ましい。例えば正極活物質10が有するニッケルの原子数は、コバルトの原子数の0%より高く7.5%未満が好ましく、0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下が好ましく、0.2%以上1%以下がより好ましい。または0%より高く4%以下が好ましい。または0%より高く2%以下が好ましい。または0.05%以上7.5%未満が好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上7.5%未満が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここで示すニッケルの量は、例えばGD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0190】
また、添加元素Yの一つであるアルミニウムは、層状岩塩型の結晶構造におけるコバルトサイトに存在しうる。アルミニウムは3価の典型元素であり価数が変化しないため、充放電の際もアルミニウム周辺のリチウムは移動しにくい。そのためアルミニウムとその周辺のリチウムが柱として機能し、結晶構造の変化を抑制しうる。また、アルミニウムは周囲のコバルトの溶出を抑制し、連続充電耐性を向上する効果がある。また、Al-Oの結合はCo-O結合よりも強いため、アルミニウムの周囲の酸素の脱離を抑制することができる。これらの効果により、熱安定性が向上する。そのため、添加元素としてアルミニウムを有する正極活物質を、リチウムイオン電池に用いたときの安全性を向上できる。また、充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質10とすることができる。
【0191】
また、添加元素Yの一つであるアルミニウムは表面よりも少し深い位置に存在すること(具体的には、添加元素Xの濃度のピークよりも深い領域にアルミニウムの濃度のピークを有すること)が好ましい。または、添加元素Xの存在が確認される最も深い位置よりもより深い領域に、添加元素Yの一つであるアルミニウムの存在が確認されることが好ましい。これは、リチウムサイトに置換されたアルミニウムの近傍に存在するリチウムが固定されてしまうため、仮に表面にあるリチウムサイトにアルミニウムが置換されてしまうと、リチウムの拡散経路を阻害してしまうおそれがあるためである。
【0192】
一方でアルミニウムが過剰であると、リチウムの挿入及び脱離に悪影響が出る恐れがある。そのため、正極活物質10全体が有するアルミニウムが適切な量であることが好ましい。例えば正極活物質10の全体が有するアルミニウムの原子数は、コバルトの原子数の0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下が好ましく、0.3%以上1.5%以下がより好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここでいう正極活物質10全体が有する量とは、例えば、GD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質10の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質10の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0193】
また、添加元素Xの一つであるフッ素は1価の陰イオンであり、表層部10aにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、リチウム脱離エネルギーが小さくなる。これは、リチウム脱離に伴うコバルトイオンの価数の変化が、フッ素を有さない場合は3価から4価、フッ素を有する場合は2価から3価となり、酸化還元電位が異なることによる。そのため正極活物質10の表層部10aにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、フッ素近傍のリチウムイオンの脱離及び挿入がスムーズに起きやすいと言える。そのためリチウムイオン電池に用いたときに充放電特性、大電流特性等を向上させることができる。また電解質に接する部分である表面を有する表層部10aにフッ素が存在することで、フッ酸に対する耐食性を効果的に向上させることができる。また後の実施の形態で述べるが、フッ化リチウムをはじめとするフッ化物の融点が、他の添加元素源の融点より低い場合、その他の添加元素源の融点を下げる融剤(フラックス剤ともいう)として機能しうる。
【0194】
また、表層部10aにマグネシウムとニッケルを併せて有する場合、2価のニッケルの近くでは2価のマグネシウムがより安定に存在できる可能性がある。そのためLiCoO中のxが小さい状態でもマグネシウムの溶出が抑制されうる。そのため表層部10aの安定化に寄与しうる。
【0195】
また、添加元素Xと添加元素Yのように分布が異なる添加元素を併せて有すると、より広い領域の結晶構造を安定化でき好ましい。例えば正極活物質10は添加元素Xとしてマグネシウム及びニッケルと、添加元素Yとしてアルミニウムと、を共に有すると、添加元素Xと添加元素Yの一方しか有さない場合よりも広い領域の結晶構造を安定化できる。このように正極活物質10が添加元素Xと添加元素Yを併せて有する場合は、表面の安定化はマグネシウム等の添加元素Xによって十分に果たせるため、アルミニウムなどの添加元素Yは表面に必須ではない。むしろアルミニウムは深い領域、例えば表面からの深さが5nm以上50nm以内の領域に広く分布する方が、より広い領域の結晶構造を安定化でき好ましい。
【0196】
上記のように複数の添加元素を有すると、それぞれの添加元素の効果が相乗し表層部10aのさらなる安定化に寄与しうる。特にマグネシウム、ニッケル及びアルミニウムを有すると安定な組成及び結晶構造とする効果が高く好ましい。
【0197】
ただし、表層部10aが添加元素と酸素の化合物のみで占められると、リチウムの挿入脱離が難しくなってしまうため、好ましくない。例えば表層部10aが、MgO、MgOとNiO(II)が固溶した構造、及び/またはMgOとCoO(II)が固溶した構造のみで占められるのは好ましくない。そのため、表層部10aは少なくともコバルトを有し、放電状態においてはリチウムも有し、リチウムの挿入脱離の経路が確保されていることが好ましい。
【0198】
また、十分にリチウムの挿入脱離の経路を確保するために、表層部10aはマグネシウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。また、表層部10aはニッケルよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。また、表層部10aはアルミニウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。また、表層部10aはフッ素よりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。
【0199】
さらに、ニッケルが多すぎるとリチウムの拡散を阻害する恐れがあるため、表層部10aはニッケルよりもマグネシウムの濃度が高いことが好ましい。
【0200】
また、添加元素の一部、特にマグネシウム、及びニッケルは、バルク部10bよりも表層部10aの濃度が高いことが好ましく、バルク部10bにもランダムかつ希薄に存在することが好ましい。また、添加元素の一部であるアルミニウムもバルク部10bにもランダムかつ希薄に存在することが好ましい。マグネシウム及びアルミニウムがバルク部10bのリチウムサイトに適切な濃度で存在すると、上記と同様に層状岩塩型の結晶構造を保持しやすくできるといった効果がある。またニッケルがバルク部10bに適切な濃度で存在すると、上記と同様にコバルトと酸素の8面体からなる層状構造のずれが抑制されうる。またマグネシウムとニッケルを併せて有する場合も上記と同様にマグネシウムの溶出を抑制する相乗効果が期待できる。
【0201】
また、添加元素の濃度勾配に起因して、バルク部10bから、表層部10aに向かってコバルト酸リチウムの結晶構造が連続的に変化することが好ましい。その場合、表層部10aは、バルク部10bよりも室温(25℃)で安定な組成及び結晶構造であることが好ましい。例えば、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10の表層部10aの少なくとも一部が、岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。または表層部10aは、層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の両方の結晶構造を有していることが好ましい。または表層部10aは、層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の両方の特徴を有することが好ましい。
【0202】
また、添加元素の濃度勾配に起因して、表層部10aとバルク部10bの結晶の配向が概略一致していることが好ましい。または、表層部10aとバルク部10bがトポタキシ(topotaxy)であることが好ましい。
【0203】
本明細書等において、トポタキシとは、結晶の配向が概略一致するような三次元的な構造上の類似性を有すること、または結晶学的に同じ配向であることをいう。なお、エピタキシとは二次元界面の構造上の類似性をいう。
【0204】
表層部10aとバルク部10bとの関係がトポタキシであることで、結晶構造の歪み、および/または原子配列のずれを減少させることができる。これにより、ピットの原因を抑制することができる。本明細書等において、ピットとは、正極活物質において欠陥が進行して形成される穴のことをいう。
【0205】
≪LiCoO中のxが小さいとき≫
本発明の一態様として利用可能な正極活物質10は、上述のような添加元素の分布及び/または結晶構造を有することに起因して、充電状態、つまりLiCoO中のxが小さい状態での結晶構造が、従来の正極活物質と異なる。再掲するが、本明細書等において、「xが小さい」とは、0.1<x≦0.24をいうこととする。
【0206】
まず従来のLiCoOにおいて、xがやや小さいときに該当するx=0.5のコバルト酸リチウムは、図5に示すようにリチウムの対称性が高まり、単斜晶系の空間群P2/mに帰属する結晶構造を有する。この構造は、ユニットセル中にCoO層が1層存在する。そのため単斜晶O1型、またはO1型と呼ぶ場合がある。図5ではx=0.5の結晶構造に、P2/m(単斜晶O1)を付す。
【0207】
また従来のLiCoOにおいて、x=0のときのコバルト酸リチウムは、図5に示すように三方晶系の空間群P-3m1の結晶構造を有し、ユニットセル中にCoO層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、三方晶O1型、またはO1型と呼ぶ場合がある。また三方晶を複合六方格子に変換し、六方晶O1型と呼ぶ場合もある。図5ではx=0の結晶構造に、P-3m1(三方晶O1)を付す。
【0208】
また従来のLiCoOにおいて、xが小さいときに該当するx=0.12のときのコバルト酸リチウムは、図5に示すように空間群R-3mの結晶構造を有する。この構造は、三方晶O1型のようなCoOの構造と、R-3m(O3)のようなLiCoOの構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのため、この結晶構造をH1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際にはH1-3型結晶構造は、ユニットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし図5をはじめ本明細書等では、他の結晶構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユニットセルの1/2にした図で示すこととする。また図5ではx=0.12の結晶構造に、R-3m1(H1-3)を付す。
【0209】
H1-3型結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0、0、0.42150±0.00016)、O1(0、0、0.27671±0.00045)、O2(0、0、0.11535±0.00045)と表すことができる。O1及びO2は、それぞれ酸素原子である。ある結晶構造をいずれのユニットセルを用いて表すべきかは、例えばX線回折法(XRDと記す)のリートベルト解析により判断することができる。リートベルト解析において、GOF(goodness of fit)の値が小さくなるユニットセルを採用すればよい。
【0210】
xが小さいときに該当するLiCoO中のxが0.12以下になるような充電と、放電とを繰り返すと、図5に示すように従来のコバルト酸リチウムでは、H1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m(O3)の構造と、の間で結晶構造の変化(つまり非平衡な相変化)を繰り返すことになる。
【0211】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO層のずれが大きい。図5のR-3m1(H1-3)を付した結晶構造にて点線及び矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO層が放電状態のR-3m(O3)から大きくずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与えうる。
【0212】
さらにダイナミックな構造変化を生じさせる2つの結晶構造は、体積の差も大きい。同数のコバルト原子あたりで比較した場合、H1-3型結晶構造と放電状態のR-3m(O3)型結晶構造の体積の差は3.5%より高く、代表的には3.9%以上である。
【0213】
加えて、H1-3型結晶構造が有する、三方晶O1型のようにCoO層が連続した構造は不安定である可能性が高い。
【0214】
そのため、xが0.12以下になるような充電と放電とを繰り返すと従来のコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。結晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。結晶構造が崩れることで、リチウムが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムの挿入脱離が難しくなるためである。なお、xが0.12以下になるような充電と放電とを繰り返す場合のときだけでなく、実際にはxが0.24以下であっても結晶構造の崩れが多く発生し、サイクル特性の悪化を引き起こす。このため、従来のコバルト酸リチウムは、実用上、xが0.24より大きな値となるように制御しながら、リチウムイオン電池の充放電が繰り返されている。
【0215】
一方、図4に示す本発明の一態様として利用可能な正極活物質10は、LiCoO中のxが1の放電状態と、xが0.24以下に該当するx=0.2の状態、又はx=0.15の状態とにおける結晶構造の変化が、従来の正極活物質よりも少ない。具体的には正極活物質10は、xが1の状態と、xが0.24以下の状態とにおける、CoO層のずれを小さくすることができる。また正極活物質10は、コバルト原子あたりで比較した場合の体積の変化を小さくすることができる。したがって、正極活物質10は、xが0.24以下になるような充電と放電とを繰り返しても結晶構造が崩れにくく、優れたサイクル特性を実現することができる。また、正極活物質10は、LiCoO中のxが0.24以下の状態において従来の正極活物質よりも安定な結晶構造を取り得る。したがって、正極活物質10は、LiCoO中のxが0.24以下の状態を保持した場合においてショートが生じづらいため、リチウムイオン電池の安全性が向上する。
【0216】
図4には、0.1<x≦0.24であってx=0.2、及びx=0.15のときの、正極活物質10の結晶構造を示す。正極活物質10は、x=0.2及びx=0.15のとき、従来のコバルト酸リチウムのH1-3型結晶構造とは異なる結晶構造を有する。
【0217】
具体的には、x=0.2のときの正極活物質10は、三方晶系の空間群R-3mに帰属される結晶構造を有する。これは、CoO層の対称性がO3と同じである。このため、本明細書等においては、この結晶構造を「O3’型結晶構造」と呼ぶこととする。図4ではx=0.2の結晶構造に、R-3m(O3)’を付す。正極活物質10が有するO3’型結晶構造をx=0.2の場合として説明したが、xが0.2程度であればO3’型結晶構造となりえる。xが0.2程度とは、たとえば0.18≦x≦0.24、代表的には0.18≦x≦0.22と表せる。
【0218】
O3’型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0,0,0.5)、O(0,0,x)、0.20≦x≦0.25の範囲内で示すことができる。またユニットセルの格子定数aは0.2797≦a≦0.2837(nm)が好ましく、0.2807≦a≦0.2827(nm)がより好ましく、代表的にはa=0.2817(nm)である。また格子定数cは1.368≦c≦1.388(nm)が好ましく、1.375≦c≦1.381(nm)がより好ましく、代表的にはc=1.378(nm)である。
【0219】
また0.1<x≦0.24の一例としてx=0.15のときの正極活物質10は、単斜晶系の空間群P2/mに帰属される結晶構造を有する。これは、ユニットセル中にCoO層が1層存在する。このため、本明細書等においては、この結晶構造を「単斜晶O1(15)型結晶構造」と呼ぶこととする。図4ではx=0.15の結晶構造に、P2/m(単斜晶O1(15))を付す。正極活物質10が有する単斜晶O1(15)型結晶構造をx=0.15の場合として説明したが、xが0.15程度であれば単斜晶O1(15)型結晶構造となりえる。xが0.15程度とは、たとえば0.13≦x≦0.24、代表的には0.13≦x≦0.18と表せる。
【0220】
単斜晶O1(15)型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co1(0.5,0,0.5)、Co2(0,0.5,0.5)、O1(XO1,0,ZO1)、0.23≦XO1≦0.24、0.61≦ZO1≦0.65、O2(XO2,0.5,ZO2)、0.75≦XO2≦0.78、0.68≦ZO2≦0.71、の範囲内で示すことができる。またユニットセルの格子定数aは、a=0.488±0.001(nm)、格子定数bはb=0.282±0.001(nm)、c=0.484±0.001(nm)である。単斜晶を示す角度は、α=90°、β=109.58±0.01°、γ=90°である。
【0221】
なお、この結晶構造は、ある程度の誤差を許容すれば空間群R-3mでもフィッティング可能である。この場合のユニットセルにおけるコバルトの酸素の座標は、Co(0,0,0.5)、O(0,0,Z)、0.21≦Z≦0.23、の範囲内で示すことができる。またユニットセルの格子定数aは、a=0.2817±0.002(nm)、格子定数cはc=1.368±0.002(nm)である。
【0222】
O3’型及び単斜晶O1(15)型結晶構造は、いずれもコバルト、ニッケル、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占める。なお、リチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合がありうる。
【0223】
図4中にCoO層の端部に沿った点線で示すように、放電状態のR-3m(O3)と、O3’型結晶構造及び単斜晶O1(15)型結晶構造とでは、CoO層のずれがほとんどない。また、放電状態のR-3m(O3)と、O3’型結晶構造の同数のコバルト原子あたりの体積の差は2.5%以下、より詳細には2.2%以下、代表的には1.8%である。また放電状態のR-3m(O3)と、単斜晶O1(15)型結晶構造の同数のコバルト原子あたりの体積の差は3.3%以下、より詳細には3.0%以下、代表的には2.5%である。
【0224】
正極活物質10は、LiCoO中のxが小さいとき、つまり多くのリチウムが脱離したときの結晶構造の変化が、従来の正極活物質よりも抑制されることがわかる。また同数のコバルト原子あたりで比較した場合の体積の変化も抑制されている。このため、正極活物質10は、xが0.24以下になるような充電と放電とを繰り返しても結晶構造が崩れにくく、充放電サイクルにおける充放電容量の低下が抑制されることがわかる。また、従来の正極活物質よりも多くのリチウムを安定して利用できるため、正極活物質10は重量あたり及び体積あたりの放電容量が大きい。そのため正極活物質10を用いることで、重量あたり及び体積あたりの放電容量の高いリチウムイオン電池を作製できる。
【0225】
なお、正極活物質10は、LiCoO中のxが0.15以上0.24以下のとき、O3’型の結晶構造を有する場合があることが確認され、xが0.24より高く0.27以下のときであってもO3’型の結晶構造を有すると推定されている。また正極活物質10は、LiCoO中のxが0.1より高く0.2以下、代表的にはxが0.13以上0.18以下のとき単斜晶O1(15)型の結晶構造を有する場合があることが確認されている。しかし、結晶構造は、LiCoO中のxだけでなく充放電サイクル数、充放電電流、温度、電解質等の影響を受けるため、必ずしも上記のxの範囲に限定されない。
【0226】
このため、正極活物質10はLiCoO中のxが0.1より高く0.24以下のとき、O3’型結晶構造のみを有してもよいし、単斜晶O1(15)型のみを有してもよいし、両方の結晶構造を有してもよい。また正極活物質10のバルク部10bの全てがO3’型及び/または単斜晶O1(15)型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。
【0227】
また、LiCoO中のxが小さい状態にするには、一般的には高い充電電圧で充電する必要がある。そのため、LiCoO中のxが小さい状態を、高い充電電圧で充電した状態と言い換えることができる。正極活物質10は、高い充電電圧、例えば25℃において4.6V以上の電圧で充電しても、R-3m(O3)の結晶構造を保持できるため好ましい、と言い換えることができる。また正極活物質10は、より高い充電電圧、例えば25℃において4.65V以上4.7V以下の電圧で充電したときO3’型の結晶構造を取り得るため好ましい、と言い換えることができる。また正極活物質10は、さらに高い充電電圧、例えば25℃において4.7Vより高く4.8V以下の電圧で充電したとき単斜晶O1(15)型の結晶構造を取り得るため好ましい、と言い換えることができる。
【0228】
正極活物質10でもさらに充電電圧を高めるとようやく、H1-3型結晶が観測される場合がある。また上述したように結晶構造は充放電サイクル数、充放電電流、電解質等の影響を受けるため、充電電圧がより低い場合、例えば充電電圧が25℃において4.5V以上4.6V未満でも、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10はO3’型結晶構造を取り得る場合が有る。同様に25℃において4.65V以上4.7V以下の電圧で充電したときに単斜晶O1(15)型の結晶構造を取り得る場合がある。
【0229】
なお、リチウムイオン電池において例えば負極活物質として黒鉛を用いる場合、上記よりも黒鉛の電位の分だけリチウムイオン電池の電圧が低下する。黒鉛の電位はリチウム金属の電位を基準として0.01V乃至0.7V程度である。そのため負極活物質として黒鉛を用いたリチウムイオン電池の場合は、上記の電圧から黒鉛の電位を差し引いた電圧のとき同様の結晶構造を有する。
【0230】
また図4のO3’型結晶構造及び単斜晶O1(15)型結晶構造ではリチウムが全てのリチウムサイトに等しい確率で存在するように示したが、これに限らない。一部のリチウムサイトに偏って存在していてもよい。リチウムの分布は、例えば中性子回折により分析することができる。
【0231】
またO3’型の結晶構造及び単斜晶O1(15)型の結晶構造は、層間にランダムにリチウムを有するもののCdCl型の結晶構造に類似する結晶構造であるということもできる。このCdCl型に類似した結晶構造は、ニッケル酸リチウムをLi0.06NiOまで充電したときの結晶構造と近いが、純粋なコバルト酸リチウム、またはコバルトを多く含む層状岩塩型の正極活物質では通常CdCl型の結晶構造を取らないことが知られている。
【0232】
また添加元素の濃度勾配は、正極活物質10の表層部10aの複数個所において同じような勾配であることが好ましい。つまり添加元素に由来する補強が表層部10aに均質に存在することが好ましい。表層部10aの一部に補強があっても、補強のない部分が存在すれば、ない部分に応力が集中する恐れがある。正極活物質10の一部に応力が集中すると、そこからクラック等の欠陥が生じ、正極活物質の割れ及び放電容量の低下につながる恐れがある。ただし必ずしも、正極活物質10の表層部10a全てにおいて添加元素が同じような濃度勾配を有していなくてもよい。
【0233】
≪結晶粒界≫
本発明の一態様として利用可能な正極活物質10が有する添加元素は、上記のような分布に加え、少なくとも一部は図3(B)に示すような結晶粒界15及びその近傍に偏在していることがより好ましい。
【0234】
例えば、正極活物質10の結晶粒界15及びその近傍のマグネシウム濃度は、バルク部10bの他の領域よりも高いことが好ましい。また、結晶粒界15及びその近傍のフッ素濃度もバルク部10bの他の領域より高いことが好ましい。また、結晶粒界15及びその近傍のニッケル濃度も、バルク部10bの他の領域より高いことが好ましい。また、結晶粒界15及びその近傍のアルミニウム濃度も、バルク部10bの他の領域より高いことが好ましい。
【0235】
結晶粒界15は、面欠陥の一つであるため、表面と同様不安定になりやすく、結晶構造の変化が始まりやすい。そこで結晶粒界15及びその近傍の添加元素の濃度を高くすることにより、このような結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0236】
また、結晶粒界15及びその近傍のマグネシウム濃度及びフッ素濃度が高い場合、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10の結晶粒界15に沿ってクラックが生じた場合でも、クラックにより生じた表面の近傍でマグネシウム濃度及びフッ素濃度が高くなる。そのため、クラックが生じた後の正極活物質においてもフッ酸に対する耐食性を高めることができる。
【0237】
<分析方法>
ある正極活物質においてLiCoO中のxが小さいとき、O3’型及び/または単斜晶O1(15)型の結晶構造を有する本発明の一態様として利用可能な正極活物質10であるか否かは、LiCoO中のxが小さい充電状態の正極活物質を有する正極を、XRD、電子線回折、中性子回折、電子スピン共鳴(Electron Spin Resonance;ESR)、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance;NMR)等を用いて解析することで判断できる。
【0238】
特にXRDは、正極活物質が有するコバルト等の遷移金属の対称性を高分解能で解析できる、結晶性の高さ及び結晶の配向性を比較できる、格子の周期性歪み及び結晶子サイズの解析ができる、リチウムイオン電池を解体して得た正極をそのまま測定しても十分な精度を得られる、等の点で好ましい。XRDの中でも粉末XRDでは、正極活物質10の体積の大半を占める正極活物質10のバルク部10bの結晶構造を反映した回折ピークが得られる。
【0239】
測定サンプルが粉末の場合、上記の粉末XRD測定と呼ぶことがあり、当該粉末は、ガラスのサンプルフォルダーに入れる、グリースを塗ったシリコン無反射板にサンプルを振りかける、等の手法でセッティングすることができる。測定サンプルが正極の場合は、正極を基板に両面テープで貼り付け、正極活物質層を装置の要求する測定面に合わせてセッティングすることができる。
【0240】
また、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10であっても、xが0.1以下など小さすぎる場合、または充電電圧が4.9Vを超えるような条件ではH1-3型または三方晶O1型の結晶構造が生じる場合もある。そのため、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10であるか否かを判断するには、XRDをはじめとする結晶構造についての解析と、充電容量または充電電圧等の情報が必要である。
【0241】
また、xが小さい状態の正極活物質は、大気に触れると結晶構造の変化を起こす場合がある。例えば、O3’型及び単斜晶O1(15)型の結晶構造からH1-3型結晶構造に変化する場合がある。そのため、結晶構造の分析に用いるサンプルは、全てアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気でハンドリングすることが好ましい。
【0242】
また、ある正極活物質が有する添加元素の分布が、上記で説明したような状態であるか否かは、例えばXPS、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、EPMA(Electron Probe Micro Analysis;電子プローブ微小分析)等を用いて解析することで判断できる。
【0243】
また、表層部10a、結晶粒界15等の結晶構造は、正極活物質10の断面の電子線回折等で分析することができる。
【0244】
≪評価条件≫
ある複合酸化物が、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10であるか否かを判断するための評価条件は、対極としてリチウム金属を有するコインセル(たとえばCR2032タイプ、直径20mm高さ3.2mm)を作製して、所定の条件で充電する方法が挙げられる。またある電解質が、本発明の一態様として利用可能な電解質であるか否かを判断するための評価条件は、対極としてリチウム金属を有するコインセル(たとえばCR2032タイプ、直径20mm高さ3.2mm)を作製して、所定の条件で充電する方法が挙げられる。
【0245】
以下に述べる手順1は、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10の物性を確認するための一例である。そのため、電解質は、本発明の一態様であるリチウムイオン電池の構成とは異なる。
【0246】
≪評価手順1≫
あるリチウムイオン電池を解体して、電解質が含浸した正極を取り出し、用意したコインセルに入る大きさに正極を打ち抜く。正極は、正極活物質以外に、導電材及びバインダを有している。また電解質等は、正極を打ち抜く前に除去する。例えば正極を取り出した後に、有機溶剤等を用いて正極を洗浄してもよい。
【0247】
コインセルは対極としてリチウム金属を有する。なお対極にリチウム金属以外を用いてもよい。本明細書等における電位は、特に言及しない限り、対極をリチウム金属とした場合の正極の電位である。
【0248】
コインセルはセパレータとして、厚さ25μmのポリプロピレンの多孔質フィルムを有する。
【0249】
コインセルは正極缶として、ステンレス(SUS)を用い、負極缶として、ステンレス(SUS)を用いる。
【0250】
このようにして評価用のコインセルAを用意する。
【0251】
上記条件で作製した評価用のコインセルAを、任意の電圧(例えば、4.5V、4.55V、4.6V、または4.65V、4.7V、4.75V、4.8V)まで、電流値10mA/g(1Cが正極活物質重量当たり200mA/gとした場合、0.05Cに相当)で定電流充電(CC充電とも呼ぶ)する。正極活物質の相変化を観測するためには、このような小さい電流値で充電を行うことが望ましい。
【0252】
評価用のコインセルAの充電時の温度は25℃とすることができる。充電時の温度は、コインセルAを配置する恒温槽の温度のことがある。
【0253】
このような条件で充電した後、コインセルAをアルゴン雰囲気のグローブボックス中で解体して正極を取り出すことで、任意の充電容量の正極活物質が得られる。この後に各種分析を行う際、外界成分との反応を抑制するため、アルゴン雰囲気で密封することが好ましい。例えば、XRDは、アルゴン雰囲気の密閉容器内に封入して行うことができる。また充電完了後、速やかに正極を取り出し、分析することが好ましい。具体的には充電完了後1時間以内が好ましく、30分以内がより好ましい。
【0254】
≪評価手順2≫
あるリチウムイオン電池を解体して、電解質が含浸した正極を取り出し、電解質に対する核磁気共鳴法(例えばH NMR)による測定を実施して、少なくとも有機溶媒を同定する。核磁気共鳴法を用いると、有機溶媒の混合比(体積比)も同定することができる。その他、電解質が有するリチウム塩、添加剤などを同定することも可能である。添加剤は、正極活物質に被膜を形成する。添加剤の量が少ない場合には、充放電の際に全て消費されて被膜となり、電解質中に存在しなくなる場合もある。
【0255】
その後、コインセルに入る大きさに正極を打ち抜く。正極は、正極活物質以外に、導電材及びバインダを有している。また電解質等は、核磁気共鳴法の測定の後であって、正極を打ち抜く前に除去する。例えば正極を取り出した後に、有機溶剤等を用いて正極を洗浄してもよい。
【0256】
コインセルは対極としてリチウム金属を有する。なお対極にリチウム金属以外を用いてもよい。
【0257】
コインセルは電解質として、核磁気共鳴法を用いて特定された電解質を用意する。当該電解質は、本発明の一形態である電解質である。
【0258】
コインセルはセパレータとして、厚さ25μmのポリプロピレンの多孔質フィルムを有する。
【0259】
コインセルは正極缶として、ステンレス(SUS)を用い、負極缶として、ステンレス(SUS)を用いる。
【0260】
このようにして評価用のコインセルBを用意する。
【0261】
上記条件で作製した評価用のコインセルBを、任意の電圧(例えば、4.5V、4.55V、4.6V、または4.65V、4.7V、4.75V、4.8V)まで充電させ、その後放電させる。充電条件は下記実施例等を参照すればよい。また放電条件は下記実施例等を参照すればよい。
【0262】
評価用のコインセルBの充電時の温度は25℃と、氷点下とすることができ、氷点下時の充放電容量が25℃の充放電容量に対してどのくらいであるかを確認できる。
【0263】
≪XRD≫
コインセルA等に実施するXRD測定の装置及び条件は下記のような装置及び条件で測定することができる。なおXRD測定の装置及び条件は下記に限定されるものではない。
XRD装置 :Bruker AXS社製、D8 ADVANCE
X線源 :CuKα
出力 :40KV、40mA
【0264】
<粉末XRDパターン>
O3’型の結晶構造と、単斜晶O1(15)型の結晶構造と、H1-3型結晶構造のモデルから計算される、CuKα線による理想的なXRDパターンを図6図7図8(A)及び図8(B)に示す。また比較のため、LiCoO中のx=1のLiCoOのO3と、x=0の三方晶O1の結晶構造から計算される理想的なXRDパターンも示す。図8(A)及び図8(B)は、O3’型、単斜晶O1(15)型とH1-3型のXRDパターンを併記したものであり、図8(A)は2θの範囲が18°以上21°以下の領域、図8Bは2θの範囲が42°以上46°以下の領域について拡大したものである。なお、LiCoO(O3)及びCoO(O1)のパターンはICSD(Inorganic Crystal Structure Database)より入手した結晶構造情報からMaterials Studio(BIOVIA)のモジュールの一つである、Reflex Powder Diffractionを用いて作成した。2θの範囲は15°から75°とし、Step=0.01°、波長λ1=1.540562×10-10m、Monochromatorはsingleとした。H1-3型結晶構造のパターンは非特許文献2に記載の結晶構造情報から同様に作成した。O3’型及び単斜晶O1(15)型の結晶構造のパターンは本発明の一態様として利用可能な正極活物質のXRDパターンから結晶構造を推定し、TOPAS ver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用いてフィッティングし、他と同様にXRDパターンを作成した。
【0265】
図6図8(A)及び図8(B)に示すように、O3’型の結晶構造では、X線回折で分析すると2θ=19.25±0.12°(19.13°以上19.37°未満)、及び2θ=45.47±0.10°(45.37°以上45.57°未満)に回折ピークが出現する。
【0266】
また、単斜晶O1(15)型の結晶構造では、X線回折で分析すると2θ=19.47±0.10°(19.37°以上19.57°以下)、及び2θ=45.62±0.05°(45.57°以上45.67°以下)に回折ピークが出現する。
【0267】
一方で、図7図8(A)及び図8(B)に示すように、H1-3型結晶構造及び三方晶O1ではこれらの位置にピークは出現しない。このため、LiCoO中のxが小さい状態で19.13以上19.37未満及び/または19.37°以上19.57°以下、並びに45.37°以上45.57°未満及び/または45.57°以上45.67°以下にピークが出現することは、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10の特徴であるといえる。
【0268】
また、x=1と、x≦0.24の結晶構造で、XRDの回折ピークが出現する位置が近いということもできる。より具体的には、x=1と、x≦0.24の結晶構造の主な回折ピークのうち2θが42°以上46°以下に出現するピークについて、2θの差が、0.7°以下、より好ましくは0.5°以下であるということができる。
【0269】
なお、本発明の一態様として利用可能な正極活物質10はLiCoO中のxが小さいときO3’型及び/または単斜晶O1(15)型の結晶構造を有するが、全てがO3’型及び/または単斜晶O1(15)型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。ただし、XRDパターンについてリートベルト解析を行ったとき、O3’型及び/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、66%以上であることがさらに好ましい。O3’型及び/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは66%以上あれば、十分にサイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。
【0270】
また、測定開始から100サイクル以上の充放電を経ても、リートベルト解析を行ったとき、O3’型及び/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、43%以上であることがさらに好ましい。
【0271】
また、XRDパターンにおける回折ピークの鋭さは、結晶性の高さを示す。そのため、充電後の各回折ピークは鋭い、すなわち半値幅が狭い方が好ましい。半値幅は、同じ結晶相から生じたピークでも、XRDの測定条件または2θの値によっても異なる。上述した測定条件の場合は、2θ=43°以上46°以下に観測されるピークにおいて、半値幅は例えば0.2°以下が好ましく、0.15°以下がより好ましく、0.12°以下がさらに好ましい。なお、必ずしも全てのピークがこの要件を満たしていなくてもよい。一部のピークがこの要件を満たせば、その結晶相の結晶性が高いことがいえる。そのため、十分に充電後の結晶構造の安定化に寄与する。
【0272】
また、正極活物質10が有するO3’型及び単斜晶O1(15)の結晶構造の結晶子サイズは、放電状態のLiCoO(O3)の1/20程度までしか低下しない。そのため、充放電前の正極と同じXRDの測定条件であっても、LiCoO中のxが小さいとき明瞭なO3’型の結晶構造のピークが確認できる。一方、従来のLiCoOでは、一部がO3’型の結晶構造に似た構造を取り得たとしても、結晶子サイズが小さくなり、ピークはブロードで小さくなる。結晶子サイズは、XRDピークの半値幅から求めることができる。
【0273】
本実施の形態は、他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【0274】
(実施の形態3)
本実施の形態では、リチウムイオン電池に含まれる正極活物質と電解質以外の構成について説明する。
【0275】
[正極]
正極は、正極活物質層及び正極集電体を有する。正極活物質層は正極活物質を有し、さらに導電助剤及びバインダの少なくとも一を有していてもよい。正極活物質は、実施の形態1で説明したものを用いることができる。
【0276】
図9(A)は、正極の断面の模式図の一例を示している。
【0277】
集電体550は、例えば金属箔を用いることができる。正極は、金属箔上にスラリーを塗布して乾燥させることによって形成することができる。なお、乾燥後にプレスを加えてもよい。正極は、集電体550上に活物質層を形成したものである。
【0278】
スラリーとは、集電体550上に活物質層を形成するために用いる材料液であり、活物質とバインダと溶媒を含有し、好ましくはさらに導電助剤を混合させたものを指している。なお、スラリーは、電極用スラリーまたは活物質スラリーと呼ばれることもあり、正極活物質層を形成する場合には正極用スラリーを用い、負極活物質層を形成する場合には負極用スラリーと呼ばれることもある。
【0279】
正極活物質561は、充放電に伴い、リチウムイオンを取り込む、および/または放出する機能を有する。本発明の一態様として用いる正極活物質561は、高い充電電圧としても充放電に伴う劣化の少ない材料を用いることができる。なお、本明細書等において、特に言及しない場合、充電電圧はリチウム金属の電位を基準として表すものとする。また、本明細書等において、高い充電電圧とは、例えば4.6V以上の充電電圧とし、好ましくは4.65V以上、さらに好ましくは4.7V以上、よりさらに好ましくは4.75V以上、最も好ましくは4.8V以上とする。
【0280】
本発明の一態様として用いる正極活物質561は、高い充電電圧としても充放電に伴う劣化の少ない材料であれば何でも用いることが可能であり、実施の形態1または実施の形態2で説明したものを用いることができる。なお、正極活物質561は、高い充電電圧としても充放電に伴う劣化の少ない材料であれば、粒径が異なる2種類以上の材料を用いることができる。
【0281】
導電助剤は、導電付与剤、導電材とも呼ばれ、炭素材料を用いることができる。複数の活物質の間に導電助剤を付着させることで複数の活物質同士が電気的に接続され、導電性が高まる。なお、本明細書等において「付着」とは、活物質と導電助剤が物理的に密着していることのみを指しているのではなく、共有結合が生じる場合、ファンデルワールス力により結合する場合、活物質の表面の一部を導電助剤が覆う場合、活物質の表面凹凸に導電助剤がはまりこむ場合、互いに接していなくとも電気的に接続される場合などを含む概念とする。
【0282】
導電助剤として用いることができる炭素材料の具体例は、カーボンブラック(ファーネスブラック、アセチレンブラック、黒鉛など)が挙げられる。
【0283】
図9(A)は、導電助剤としてカーボンブラック553を図示している。
【0284】
リチウムイオン電池の正極として、金属箔などの集電体550と、活物質と、を固着させるために、バインダ(樹脂)を混合してもよい。バインダは結着剤とも呼ばれる。バインダは高分子材料であり、バインダを多く含ませると正極における活物質の割合が低下して、リチウムイオン電池の放電容量が小さくなる。そのため、バインダの量は最小限に混合させることが好ましい。図9(A)において、正極活物質561、第2の活物質562、カーボンブラック553で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0285】
なお、図9(A)では正極活物質561を球形として図示した例を示しているが、特に限定されない。例えば、正極活物質561の断面形状は楕円形、長方形、台形、錐形、角が丸まった多角形、非対称の形状であってもよい。例えば、図9(B)では、正極活物質561の角が丸まった多角形の形状を有する例を示している。
【0286】
また、図9(B)の正極では、導電助剤として用いられる炭素材料として、グラフェン554を用いている。図9(B)は、集電体550上に正極活物質561、グラフェン554、カーボンブラック553を有する正極活物質層を形成している。
【0287】
なお、グラフェン554、カーボンブラック553を混合し、電極スラリーを得る工程において、混合するカーボンブラックの重量はグラフェンの1.5倍以上20倍以下、好ましくは2倍以上9.5倍以下の重量とすることが好ましい。
【0288】
また、グラフェン554とカーボンブラック553の混合を上記範囲とすると、スラリー調製時に、カーボンブラック553の分散安定性に優れ、凝集部が生じにくい。また、グラフェン554とカーボンブラック553の混合を上記範囲とすると、カーボンブラック553のみを導電助剤に用いる正極よりも高い電極密度とすることができる。電極密度を高くすることで、単位重量当たりの容量を大きくすることができる。具体的には、重量測定による正極活物質層の密度は、3.5g/cc以上とすることができる。
【0289】
また、グラフェンのみを導電助剤に用いる正極に比べると電極密度は低いが、第1の炭素材料(グラフェン)と第2の炭素材料(アセチレンブラック)の混合を上記範囲とすることで、急速充電に対応することができる。このため、車載用のリチウムイオン電池として用いる場合に特に有効である。
【0290】
図9(C)では、グラフェンに代えて炭素繊維555を用いる正極の例を図示している。図9(C)は、図9(B)と異なる例を示している。炭素繊維555を用いるとカーボンブラック553の凝集を防ぎ、分散性を高めることができる。
【0291】
なお、図9(C)において、正極活物質561、炭素繊維555、カーボンブラック553で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0292】
また、他の正極の例として、図9(D)を図示している。図9(C)では、グラフェン554に加えて炭素繊維555を用いる例を示している。グラフェン554及び炭素繊維555の両方を用いると、カーボンブラック553などのカーボンブラックの凝集を防ぎ、分散性をより高めることができる。
【0293】
なお、図9(D)において、正極活物質561、炭素繊維555、グラフェン554、カーボンブラック553で埋まっていない領域は、空隙またはバインダを指している。
【0294】
図9(A)乃至図9(D)のいずれか一の正極を用い、正極上にセパレータを重ね、セパレータ上に負極を重ねた積層体を収容する容器(外装体、金属缶など)などに入れ、容器に液胞の電解質を充填させることでリチウムイオン電池を作製することができる。
【0295】
<バインダ>
バインダとしては、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-スチレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体などのゴム材料を用いることが好ましい。またバインダとして、フッ素ゴムを用いることができる。
【0296】
<正極集電体>
集電体としては、ステンレス、金、白金、アルミニウム、チタン等の金属、及びこれらの合金など、導電性が高い材料を用いることができる。また正極集電体に用いる材料は、正極の電位で溶出しないことが好ましい。また、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることができる。また、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。集電体は、箔状、板状、シート状、網状、パンチングメタル状、エキスパンドメタル状等の形状を適宜用いることができる。集電体は、厚みが5μm以上30μm以下のものを用いるとよい。
【0297】
[負極]
負極は、負極活物質層及び負極集電体を有する。また、負極活物質層は負極活物質を有し、さらに導電助剤及びバインダを有していてもよい。
【0298】
<負極活物質>
負極活物質としては、例えば合金系材料及び/又は炭素材料を用いることができる。
【0299】
負極活物質に用いる炭素材料は、黒鉛、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、炭素繊維(カーボンナノチューブ)、グラフェン、カーボンブラック等から選ばれた一又は二以上を用いればよい。
【0300】
黒鉛は、人造黒鉛または天然黒鉛等が挙げられる。人造黒鉛としては例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、コークス系人造黒鉛、ピッチ系人造黒鉛等が挙げられる。ここで人造黒鉛として、球状の形状を有する球状黒鉛を用いることができる。例えば、MCMBは球状の形状を有する場合があり、好ましい。また、MCMBはその表面積を小さくすることが比較的容易であり、好ましい場合がある。天然黒鉛としては、例えば、鱗片状黒鉛、球状化天然黒鉛等が挙げられる。
【0301】
黒鉛は、リチウムイオンが黒鉛に挿入されたとき(リチウム-黒鉛層間化合物の生成時)にリチウム金属と同程度に低い電位を示す(0.05V以上0.3V以下 vs.Li/Li)。これにより、黒鉛を用いたリチウムイオン電池は高い作動電圧を示すことができる。さらに、黒鉛は、単位体積当たりの容量が比較的高い、体積膨張が比較的小さい、安価である、リチウム金属に比べて安全性が高い等の利点を有するため、好ましい。
【0302】
また、負極活物質は、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素を用いることができる。例えば、シリコン、スズ、ガリウム、アルミニウム、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、ビスマス、銀、亜鉛、カドミウム、インジウム等から選ばれた一又は二以上の材料を用いることができる。このような元素は炭素と比べて容量が大きく、特にシリコンは理論容量が4200mAh/gと高い。また、これらの元素を有する化合物を用いてもよい。例えば、SiO、MgSi、MgGe、SnO、SnO、MgSn、SnS、VSn、FeSn、CoSn、NiSn、CuSn、AgSn、AgSb、NiMnSb、CeSb、LaSn、LaCoSn、CoSb、InSb、SbSn等がある。ここで、リチウムとの合金化・脱合金化反応により充放電反応を行うことが可能な元素、及び該元素を有する化合物等を合金系材料と呼ぶ場合がある。
【0303】
本明細書等において、「SiO」は例えば一酸化シリコンを指す。あるいはSiOは、SiOと表すこともできる。ここでxは1または1近傍の値を有することが好ましい。例えばxは、0.2以上1.5以下が好ましく、0.3以上1.2以下が好ましい。
【0304】
また、負極活物質として、二酸化チタン(TiO)、リチウムチタン酸化物(LiTi12)、リチウム-黒鉛層間化合物(Li)、五酸化ニオブ(Nb)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)等から選ばれた一又は二以上の酸化物を用いることができる。
【0305】
また、負極活物質として、リチウムと遷移金属の複窒化物である、LiN型構造をもつLi3-xN(M=Co、Ni、Cu)を用いることができる。例えば、Li2.6Co0.4は大きな放電容量(900mAh/g、1890mAh/cm)を示し好ましい。
【0306】
リチウムと遷移金属の複窒化物を用いると、負極活物質中にリチウムイオンを含むため、正極活物質としてリチウムイオンを含まないV、Cr等の材料と組み合わせることができ好ましい。なお、正極活物質にリチウムイオンを含む材料を用いる場合でも、あらかじめ正極活物質に含まれるリチウムイオンを脱離させることで、負極活物質としてリチウムと遷移金属の複窒化物を用いることができる。
【0307】
また、コンバージョン反応が生じる材料を負極活物質として用いることもできる。例えば、酸化コバルト(CoO)、酸化ニッケル(NiO)、酸化鉄(FeO)等の、リチウムとの合金を作らない遷移金属酸化物を負極活物質に用いてもよい。コンバージョン反応が生じる材料としては、さらに、Fe、CuO、CuO、RuO、Cr等の酸化物、CoS0.89、NiS、CuS等の硫化物、Zn、CuN、Ge等の窒化物、NiP、FeP、CoP等のリン化物、FeF、BiF等のフッ化物でも起こる。
【0308】
また、上記負極活物質を複数組み合わせて用いてもよく、例えば黒鉛とシリコン粒子とを混合した負極活物質を用いてもよい。シリコン粒子とは、リチウムイオン二次電池の負極活物質の材料としてのシリコン粉末であり、粒度分布の平均粒径、即ち、平均粒子径が100nm近傍のものを指しており、ナノシリコン粒子と呼ぶ場合がある。用いるシリコン粒子は、シリコン原料を粉砕し、均一な粒子径に調節することが好ましい。シリコン粒子は、シリコン、シリコン酸化物、シリコン合金のうち、少なくとも一つを含んでもよい。なお、粒子の大きさの測定は、代表的にはレーザ回折式粒度分布測定を用いることができるが、レーザ回折式粒度分布測定に限定されず、SEM(走査電子顕微鏡)またはTEM(Transmission Electron Microscope、透過電子顕微鏡)などの分析によって、粒子断面の長径を測定してもよい。
【0309】
また、負極活物質層が有することのできる導電助剤及びバインダとしては、正極活物質層が有することのできる導電助剤及びバインダと同様の材料を用いることができる。
【0310】
<負極集電体>
負極集電体には、正極集電体と同様の材料に加え、銅なども用いることができる。なお負極集電体は、リチウム等のキャリアイオンと合金化しない材料を用いることが好ましい。
【0311】
[電解質]
電解質は、実施の形態1で説明したものを用いることができる。
【0312】
[セパレータ]
電解質が液状の電解質(電解液とも呼ぶ)を含む場合、正極と負極の間にセパレータを配置する。セパレータとしては、例えば、紙をはじめとするセルロースを有する繊維、不織布、ガラス繊維、セラミックス、或いはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリプロピレン(PPと記す)、ポリイミド(PIと記す)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いることができる。セパレータは膜厚の空隙率は35%以上90%以下、好ましくは60%以上85%以下とすることができる。ポリプロピレンを用いたセパレータは空隙率を35%以上45%以下とすることができる。ポリイミドを用いたセパレータは空隙率を75%以上85%以下とすることができる。セパレータの膜厚は10μm以上80μm以下が好ましく、20μm以上60μm以下がより好ましい。ポリイミドを用いたセパレータは高い空隙率を有することができ、厚膜化(代表的には膜厚を50μm以上60μm以下)することができ好ましい。
【0313】
セパレータは袋状に加工し、正極または負極のいずれか一方を包むように配置することが好ましい。
【0314】
セパレータは多層構造であってもよい。例えばポリプロピレン、ポリエチレン等の有機材料フィルムに、セラミックス系材料、フッ素系材料、ポリアミド系材料、またはこれらを混合したもの等をコートすることができる。セラミックス系材料としては、例えば酸化アルミニウム粒子、酸化シリコン粒子等を用いることができる。フッ素系材料としては、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。ポリアミド系材料としては、例えばナイロン、アラミド(メタ系アラミド、パラ系アラミド)等を用いることができる。
【0315】
多層構造のセパレータを用いると、セパレータ全体の厚さが薄くてもリチウムイオン電池の安全性を保つことができるため、リチウムイオン電池の体積あたりの容量を大きくすることができる。
【0316】
[外装体]
リチウムイオン電池が有する外装体としては、例えばアルミニウムなどの金属材料または樹脂材料を用いることができる。また、フィルム状の外装体を用いることもできる。フィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、アイオノマー、ポリアミド等の材料からなる膜上に、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケル等の可撓性に優れた金属薄膜を設け、さらに該金属薄膜上に外装体の外面としてポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の絶縁性合成樹脂膜を設けた三層構造のフィルムを用いることができる。
【0317】
本実施の形態は、他の実施の形態と組み合わせて用いることができる。
【0318】
(実施の形態4)
本実施の形態では、リチウムイオン電池の形態例について説明する。
【0319】
[ラミネート型リチウムイオン電池]
ラミネート型のリチウムイオン電池100の形態例について、図10(A)及び図10(B)に示す。図10(A)及び図10(B)は外観図であり、リチウムイオン電池100は上記実施の形態で説明した電解質及びセパレータ(これらは図10では図示せず)、負極106、及び正極107を有する。リチウムイオン電池100において、負極106は正極107よりも大きな面積を有するとよい。さらにリチウムイオン電池100は、負極106と電気的に接続された負極リード電極510、及び正極107と電気的に接続された正極リード電極511を有する。電解質層、負極106、及び正極107は外装体509に収容され、負極リード電極510の一部、及び正極リード電極511の一部は外装体509から突出している。外装体509の外周の一部には接着領域508を有する。図10(A)は負極リード電極510、及び正極リード電極511が外装体509の同じ辺から突出した形態例であり、接着領域508は、少なくとも各リード電極が突出した辺と、当該辺に隣接した二辺とに位置する。また図10(B)は負極リード電極510が外装体509から突出した辺と、正極リード電極511が外装体509から突出した辺とが対向している形態例であり、接着領域508は少なくとも各リード電極が突出した二辺と、当該二辺に挟まれた一辺とに位置する。図10(A)及び図10(B)において接着領域508が位置しない辺は、外装体509が折り畳まれた辺に対応するとよい。
【0320】
ラミネート型のリチウムイオン電池100に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0321】
[コイン型リチウムイオン電池]
コイン型のリチウムイオン電池の一例について説明する。図11(A)はコイン型(単層偏平型)のリチウムイオン電池の分解斜視図であり、図11(B)は、外観図であり、図11(C)は、その断面図である。コイン型のリチウムイオン電池は主に小型の電子機器に用いられる。本明細書等において、コイン型リチウムイオン電池は、ボタン型リチウムイオン電池を含む。
【0322】
図11(A)では、わかりやすくするために部材の重なり(上下関係、及び位置関係)がわかるように模式図としている。従って図11(A)と図11(B)は完全に一致する対応図とはしていない。
【0323】
図11(A)では、正極304、負極307、スペーサ342、ワッシャー332が重なり、負極缶302、正極缶301で封止する様子を示す。なお図11(A)では、上記実施の形態で説明した電解質及びセパレータは図示しない。スペーサ342、及びワッシャー332は、正極缶301と負極缶302を圧着する際に、内部を保護又は缶内の位置を固定するために用いられている。スペーサ342、又はワッシャー332はステンレス又は絶縁材料を用いる。
【0324】
正極集電体305上に正極活物質層306が形成された積層構造を正極304としている。
【0325】
図11(B)は、完成したコイン型のリチウムイオン電池100の斜視図である。
【0326】
コイン型のリチウムイオン電池100は、正極端子を兼ねた正極缶301と負極端子を兼ねた負極缶302とが、ポリプロピレン等で形成されたガスケット303で絶縁シールされていてもよい。正極304は、正極集電体305と、これと接するように設けられた正極活物質層306により形成される。また、負極307は、負極集電体308と、これに接するように設けられた負極活物質層309により形成される。正極缶301は正極304と、負極缶302は負極307とそれぞれ電気的に接続される。
【0327】
なお、コイン型のリチウムイオン電池100に用いる正極304及び負極307は、それぞれ活物質層は片面のみに形成すればよい。
【0328】
図11(C)に示すように、正極缶301を下にして正極304、負極307、負極缶302をこの順で積層し、正極缶301と負極缶302とをガスケット303を介して圧着してコイン形のリチウムイオン電池100を製造する。
【0329】
コイン型のリチウムイオン電池100に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0330】
[円筒型リチウムイオン電池]
円筒型のリチウムイオン電池の例について図12(A)を参照して説明する。円筒型のリチウムイオン電池616は、図12(A)に示すように、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップ601と電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0331】
図12(B)は、円筒型のリチウムイオン電池の断面を模式的に示した図である。図12(B)に示す円筒型のリチウムイオン電池は、上面に正極キャップ(電池蓋)601を有し、側面及び底面に電池缶(外装缶)602を有している。これら正極キャップと電池缶(外装缶)602とは、ガスケット(絶縁パッキン)610によって絶縁されている。
【0332】
中空円柱状の電池缶602の内側には、帯状の正極604と負極606とが電解質層605を間に挟んで捲回された電池素子が設けられている。図示しないが、電池素子は中心軸を中心に捲回されている。電池缶602は、一端が閉じられ、他端が開いている。電池缶602の内側において、正極、負極及びセパレータが捲回された電池素子は、対向する一対の絶縁板608、絶縁板609により挟まれている。また、電池素子が設けられた電池缶602の内部は、本発明の一態様の電解質(図示せず)が注入されている。
【0333】
円筒型の蓄電池に用いる正極及び負極は捲回するため、集電体の両面に活物質を形成することが好ましい。なお図12(A)乃至図12(D)では円筒の直径よりも円筒の高さの方が大きいリチウムイオン電池616を図示したが、これに限らない。円筒の直径が、円筒の高さよりも大きいリチウムイオン電池としてもよい。このような構成により、例えばリチウムイオン電池の小型化を図ることができる。
【0334】
正極604には正極端子(正極集電リード)603が接続され、負極606には負極端子(負極集電リード)607が接続される。正極端子603及び負極端子607は、ともにアルミニウムなどの金属材料を用いることができる。正極端子603は安全弁機構613に、負極端子607は電池缶602の底にそれぞれ抵抗溶接される。安全弁機構613は、PTC素子(Positive Temperature Coefficient)611を介して正極キャップ601と電気的に接続されている。安全弁機構613は電池の内圧の上昇が所定の閾値を超えた場合に、正極キャップ601と正極604との電気的な接続を切断するものである。また、PTC素子611は温度が上昇した場合に抵抗が増大する熱感抵抗素子であり、抵抗の増大により電流量を制限して異常発熱を防止するものである。PTC素子には、チタン酸バリウム(BaTiO)系セラミックス材料等を用いることができる。
【0335】
図12(C)は蓄電システム615の一例を示す。蓄電システム615は複数のリチウムイオン電池616を有し、バッテリーパックと呼ぶこともある。それぞれのリチウムイオン電池の正極は、絶縁体625で分離された導電体624に接触し、電気的に接続されている。導電体624は配線623を介して、制御回路620に電気的に接続されている。また、それぞれのリチウムイオン電池の負極は、配線626を介して制御回路620に電気的に接続されている。制御回路620として、過充電又は過放電を防止する保護回路等を適用することができる。
【0336】
図12(D)は、蓄電システム615の一例を示す。蓄電システム615は複数のリチウムイオン電池616を有し、複数のリチウムイオン電池616は、導電板628及び導電板614の間に挟まれている。複数のリチウムイオン電池616は、配線627により導電板628及び導電板614と電気的に接続される。複数のリチウムイオン電池616は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後さらに直列に接続されていてもよい。複数のリチウムイオン電池616を有する蓄電システム615を構成することで、大きな電力を取り出すことができる。
【0337】
複数のリチウムイオン電池616が、並列に接続された後、さらに直列に接続されてもよい。
【0338】
複数のリチウムイオン電池616の間に温度制御装置を有していてもよい。リチウムイオン電池616が過熱されたときは、温度制御装置により冷却し、リチウムイオン電池616が冷えすぎているときは温度制御装置により加熱することができる。そのため蓄電システム615の性能が外気温に影響されにくくなる。
【0339】
また、図12(D)において、蓄電システム615は制御回路620に配線621及び配線622を介して電気的に接続されている。配線621は導電板628を介して複数のリチウムイオン電池616の正極に、配線622は導電板614を介して複数のリチウムイオン電池616の負極に、それぞれ電気的に接続される。
【0340】
円筒型のリチウムイオン電池100に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0341】
[リチウムイオン電池の他の構造例]
リチウムイオン電池の構造例について図13及び図14を用いて説明する。
【0342】
図13(A)に示すリチウムイオン電池913は、筐体930の内部に端子951と端子952が設けられた捲回体950を有する。捲回体950は、筐体930の内部で本発明の一形態の電解質に含浸される。端子952は、筐体930に接し、端子951は、絶縁材などを用いることにより筐体930に接していない。なお、図13(A)では、便宜のため、筐体930を分離して図示しているが、実際は、捲回体950が筐体930に覆われ、端子951及び端子952が筐体930の外に延在している。筐体930としては、金属材料(例えばアルミニウムなど)又は樹脂材料を用いることができる。
【0343】
なお、図13(B)に示すように、図13(A)に示す筐体930を複数の材料によって形成してもよい。例えば、図13(B)に示すリチウムイオン電池913は、筐体930aと筐体930bが貼り合わされており、筐体930a及び筐体930bで囲まれた領域に捲回体950が設けられている。
【0344】
筐体930aとしては、有機樹脂など、絶縁材料を用いることができる。特に、アンテナが形成される面に有機樹脂などの材料を用いることにより、リチウムイオン電池913による電界の遮蔽を抑制できる。なお、筐体930aによる電界の遮蔽が小さければ、筐体930aの内部にアンテナを設けてもよい。筐体930bとしては、例えば金属材料を用いることができる。
【0345】
さらに、捲回体950の構造について図13(C)に示す。捲回体950は、負極931と、正極932と、電解質層933と、を有する。捲回体950は、電解質層933を挟んで負極931と、正極932が重なり合って積層され、該積層シートを捲回させた捲回体である。なお、負極931と、正極932と、電解質層933と、の積層を、さらに複数重ねてもよい。
【0346】
また、図14(A)乃至図14(C)に示すような捲回体950aを有するリチウムイオン電池913としてもよい。図14(A)に示す捲回体950aは、負極931と、正極932と、電解質層933と、を有する。負極931は負極活物質層931aを有する。正極932は正極活物質層932aを有する。
【0347】
電解質層933は、負極活物質層931a及び正極活物質層932aよりも広い幅を有し、負極活物質層931a及び正極活物質層932aと重畳するように捲回されている。また正極活物質層932aよりも負極活物質層931aの幅が広いことが安全性の点で好ましい。またこのような形状の捲回体950aは安全性及び生産性がよく好ましい。
【0348】
図14(B)に示すように、負極931は端子951と電気的に接続される。端子951は端子911aと電気的に接続される。また正極932は端子952と電気的に接続される。端子952は端子911bと電気的に接続される。
【0349】
図14(C)に示すように、筐体930により捲回体950aが覆われ、リチウムイオン電池913となる。筐体930には安全弁、過電流保護素子等を設けることが好ましい。安全弁は、電池破裂を防止するため、筐体930の内部が所定の内圧で開放する弁である。
【0350】
図14(B)に示すようにリチウムイオン電池913は複数の捲回体950aを有していてもよい。複数の捲回体950aを用いることで、より充放電容量の大きいリチウムイオン電池913とすることができる。図14(A)及び(B)に示すリチウムイオン電池913の他の要素は、図13(A)乃至図13(C)に示すリチウムイオン電池913の記載を参酌することができる。
【0351】
捲回体を有するリチウムイオン電池913に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0352】
本実施の形態の内容は、他の実施の形態の内容と適宜組み合わせることができる。
【0353】
(実施の形態5)
本実施の形態では、図15を用いて電気自動車(EV)に適用する例を示す。
【0354】
図15(A)に示すように電気自動車には、メインの駆動用のリチウムイオン電池として第1のバッテリ1301a、1301bと、モータ1304を始動させるインバータ1312に電力を供給する第2のバッテリ1311が設置されている。第1のバッテリ1301a、1301bに、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0355】
第2のバッテリ1311はクランキングバッテリー(スターターバッテリーとも呼ばれる)とも呼ばれる。第2のバッテリ1311は高出力できればよく、大容量はそれほど必要とされず、第2のバッテリ1311の容量は第1のバッテリ1301a、1301bと比較して小さい。
【0356】
第1のバッテリ1301aの内部構造は、捲回型であってもよいし、積層型であってもよい。また、第1のバッテリ1301aは、実施の形態5の全固体電池を用いてもよい。第1のバッテリ1301aに実施の形態5の全固体電池を用いることで高容量とすることができ、安全性が向上し、小型化、軽量化することができる。
【0357】
本実施の形態では、第1のバッテリ1301a、1301bを2つ並列に接続させている例を示しているが3つ以上並列に接続させてもよい。また、第1のバッテリ1301aで十分な電力を貯蔵できるのであれば、第1のバッテリ1301bはなくてもよい。複数のリチウムイオン電池を有する電池パックを構成することで、大きな電力を取り出すことができる。複数のリチウムイオン電池は、並列接続されていてもよいし、直列接続されていてもよいし、並列に接続された後、さらに直列に接続されていてもよい。複数のリチウムイオン電池を組電池とも呼ぶ。
【0358】
また、車載用のリチウムイオン電池において、複数のリチウムイオン電池からの電力を遮断するため、工具を使わずに高電圧を遮断できるサービスプラグ又はサーキットブレーカを有しており、第1のバッテリ1301aに設けられる。
【0359】
また、第1のバッテリ1301a、1301bの電力は、主にモータ1304を回転させることに使用されるが、DCDC回路1306を介して42V系の車載部品(電動パワステ1307、ヒーター1308、デフォッガ1309など)に電力を供給する。後輪にリアモータ1317を有している場合にも、第1のバッテリ1301aがリアモータ1317を回転させることに使用される。
【0360】
また、第2のバッテリ1311は、DCDC回路1310を介して14V系の車載部品(オーディオ1313、パワーウィンドウ1314、ランプ類1315など)に電力を供給する。
【0361】
また、第1のバッテリ1301aについて、図15(B)を用いて説明する。
【0362】
図15(B)では9個の角型リチウムイオン電池1300を一つの電池パック1415としている例を示している。また、9個の角型リチウムイオン電池1300を直列接続し、一方の電極を絶縁体からなる固定部1413で固定し、もう一方の電極を絶縁体からなる固定部1414で固定している。本実施の形態では固定部1413、1414で固定する例を示しているが電池収容ボックス(筐体とも呼ぶ)に収納させる構成としてもよい。車両は外部(路面など)から振動又は揺れが加えられることを想定されているため、固定部1413、1414及び電池収容ボックスなどで複数のリチウムイオン電池を固定することが好ましい。また、一方の電極は配線1421によって制御回路部1320に電気的に接続されている。他方の電極は配線1422によって制御回路部1320に電気的に接続されている。
【0363】
また、制御回路部1320は、酸化物半導体を用いたトランジスタを含むメモリ回路を用いてもよい。酸化物半導体を用いたトランジスタを含むメモリ回路を有する充電制御回路、又は電池制御システムを、BTOS(Battery operating system、又はBattery oxide semiconductor)と呼称する場合がある。
【0364】
酸化物半導体として機能する金属酸化物を用いることが好ましい。例えば、酸化物として、In-M-Zn酸化物(元素Mは、アルミニウム、ガリウム、イットリウム、銅、バナジウム、ベリリウム、ホウ素、チタン、鉄、ニッケル、ゲルマニウム、ジルコニウム、モリブデン、ランタン、セリウム、ネオジム、ハフニウム、タンタル、タングステン、又はマグネシウムから選ばれた一種、又は複数種)等の金属酸化物を用いるとよい。特に、酸化物として適用できるIn-M-Zn酸化物は、CAAC-OS(C-Axis Aligned Crystal Oxide Semiconductor)、CAC-OS(Cloud-Aligned Composite Oxide Semiconductor)であることが好ましい。また、酸化物として、In-Ga酸化物、In-Zn酸化物を用いてもよい。CAAC-OSは、複数の結晶領域を有し、当該複数の結晶領域はc軸が特定の方向に配向している酸化物半導体である。なお、特定の方向とは、CAAC-OS膜の厚さ方向、CAAC-OS膜の被形成面の法線方向、又はCAAC-OS膜の表面の法線方向である。また、結晶領域とは、原子配列に周期性を有する領域である。なお、原子配列を格子配列とみなすと、結晶領域とは、格子配列の揃った領域でもある。さらに、CAAC-OSは、a-b面方向において複数の結晶領域が連結する領域を有し、当該領域は歪みを有する場合がある。なお、歪みとは、複数の結晶領域が連結する領域において、格子配列の揃った領域と、別の格子配列の揃った領域と、の間で格子配列の向きが変化している箇所を指す。つまり、CAAC-OSは、c軸配向し、a-b面方向には明らかな配向をしていない酸化物半導体である。
【0365】
また、低温環境下で使用可能であるため、制御回路部1320は酸化物半導体を用いるトランジスタを用いることが好ましい。プロセスを簡略なものとするため、制御回路部1320は単極性のトランジスタを用いて形成してもよい。半導体層に酸化物半導体を用いるトランジスタは、動作周囲温度が単結晶Siよりも広く-40℃以上150℃以下であり、リチウムイオン電池が加熱しても特性変化が単結晶に比べて小さい。酸化物半導体を用いるトランジスタのオフ電流は、150℃であっても温度によらず測定下限以下であるが、単結晶Siトランジスタのオフ電流特性は、温度依存性が大きい。例えば、150℃では、単結晶Siトランジスタはオフ電流が上昇し、電流オン/オフ比が十分に大きくならない。制御回路部1320は、安全性を向上することができる。
【0366】
酸化物半導体を用いたトランジスタを含むメモリ回路を用いた制御回路部1320は、マイクロショート等の10項目の不安定性の原因に対し、リチウムイオン電池の自動制御装置として機能させることもできる。10項目の不安定性の原因を解消する機能としては、過充電の防止、過電流の防止、充電時過熱制御、組電池でのセルバランス、過放電の防止、残量計、温度に応じた充電電圧及び電流量自動制御、劣化度に応じた充電電流量制御、マイクロショート異常挙動検知、マイクロショートに関する異常予測などが挙げられ、そのうちの少なくとも一つの機能を制御回路部1320が有する。また、リチウムイオン電池の自動制御装置の超小型化が可能である。
【0367】
また、マイクロショートとは、リチウムイオン電池の内部の微小な短絡のことを指す。マイクロショートの原因の一つは、充放電が複数回行われることによって、正極活物質の不均一な分布により、正極の一部と負極の一部で局所的な電流の集中が生じ、又は副反応による副反応物の発生によりミクロな短絡が生じていると言われている。
【0368】
また、マイクロショートの検知だけでなく、制御回路部1320は、リチウムイオン電池の端子電圧を検知し、リチウムイオン電池の充放電状態を管理するとも言える。例えば、過充電を防ぐために充電回路の出力トランジスタと遮断用スイッチの両方をほぼ同時にオフ状態とすることができる。
【0369】
また、図15(B)に示す電池パック1415のブロック図の一例を図15(C)に示す。
【0370】
制御回路部1320は、少なくとも過充電を防止するスイッチと、過放電を防止するスイッチを含むスイッチ部1324と、スイッチ部1324を制御する制御回路1322と、第1のバッテリ1301aの電圧測定部と、を有する。制御回路部1320は、使用するリチウムイオン電池の上限電圧と下限電圧が設定されており、外部からの電流上限、及び外部への出力電流の上限などを制限している。リチウムイオン電池の下限電圧以上上限電圧以下の範囲内は、使用が推奨されている電圧範囲内であり、その範囲外となるとスイッチ部1324が作動し、保護回路として機能する。また、制御回路部1320は、スイッチ部1324を制御して過放電及び過充電を防止するため、保護回路とも呼べる。例えば、過充電となりそうな電圧を制御回路1322で検知した場合にスイッチ部1324のスイッチをオフ状態とすることで電流を遮断する。さらに充放電経路中にPTC素子を設けて温度の上昇に応じて電流を遮断する機能を設けてもよい。また、制御回路部1320は、外部端子1325(+IN)と、外部端子1326(-IN)とを有している。
【0371】
スイッチ部1324は、nチャネル型のトランジスタ及びpチャネル型のトランジスタを組み合わせて構成することができる。スイッチ部1324は、単結晶シリコンを用いるSiトランジスタを有するスイッチに限定されず、例えば、Ge(ゲルマニウム)、SiGe(シリコンゲルマニウム)、GaAs(ガリウムヒ素)、GaAlAs(ガリウムアルミニウムヒ素)、InP(リン化インジウム)、SiC(シリコンカーバイド)、ZnSe(セレン化亜鉛)、GaN(窒化ガリウム)、GaO(酸化ガリウム;xは0より大きい実数)などを有するパワートランジスタでスイッチ部1324を形成してもよい。また、OSトランジスタを用いた記憶素子は、Siトランジスタを用いた回路上などに積層することで自由に配置可能であるため、集積化を容易に行うことができる。スイッチ部1324上にOSトランジスタを用いた制御回路部1320を積層し、集積化することで1チップとすることもでき、小型化が可能となる。
【0372】
第1のバッテリ1301a、1301bは、主に42V系(高電圧系)の車載機器に電力を供給し、第2のバッテリ1311は14V系(低電圧系)の車載機器に電力を供給する。第2のバッテリ1311は鉛蓄電池がコスト上有利のため採用されることが多い。第2のバッテリ1311をリチウムイオン電池とすることでメンテナンスフリーとするメリットがあるが、長期間の使用、例えば3年以上となると、製造時には判別できない異常発生が生じる恐れがある。特にインバータを起動する第2のバッテリ1311が動作不能となると、第1のバッテリ1301a、1301bに残容量があってもモータを起動させることができなくなることを防ぐため、第2のバッテリ1311が鉛蓄電池の場合は、第1のバッテリから第2のバッテリに電力を供給し、常に満充電状態を維持するように充電されている。
【0373】
本実施の形態では、第1のバッテリ1301aと第2のバッテリ1311の両方にリチウムイオン電池を用いる一例を示すが、第2のバッテリ1311は鉛蓄電池、全固体電池、又は電気二重層キャパシタを用いてもよい。上述したリチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0374】
また、タイヤ1316の回転による回生エネルギーは、ギア1305を介してモータ1304に送られ、モータコントローラ1303及びバッテリーコントローラ1302から制御回路部1321を介して第2のバッテリ1311に充電される。又はバッテリーコントローラ1302から制御回路部1320を介して第1のバッテリ1301aに充電される。又はバッテリーコントローラ1302から制御回路部1320を介して第1のバッテリ1301bに充電される。回生エネルギーを効率よく充電するためには、第1のバッテリ1301a、1301bが急速充電可能であることが望ましい。
【0375】
バッテリーコントローラ1302は第1のバッテリ1301a、1301bの充電電圧及び充電電流などを設定することができる。バッテリーコントローラ1302は、用いるリチウムイオン電池の充電特性に合わせて充電条件を設定し、急速充電することができる。
【0376】
また、図示していないが、外部の充電器と接続させる場合、充電器のコンセント又は充電器の接続ケーブルは、バッテリーコントローラ1302に電気的に接続される。外部の充電器から供給された電力はバッテリーコントローラ1302を介して第1のバッテリ1301a、1301bに充電する。また、充電器によっては、制御回路が設けられており、バッテリーコントローラ1302の機能を用いない場合もあるが、過充電を防ぐため制御回路部1320を介して第1のバッテリ1301a、1301bを充電することが好ましい。また、接続ケーブル又は充電器の接続ケーブルに制御回路を備えている場合もある。制御回路部1320は、ECU(Electronic Control Unit)と呼ばれることもある。ECUは、電動車両に設けられたCAN(Controller Area Network)に接続される。CANは、車内LANとして用いられるシリアル通信規格の一つである。また、ECUは、マイクロコンピュータを含む。また、ECUは、CPU又はGPUを用いる。
【0377】
充電スタンドなどに設置されている外部の充電器は、100Vコンセント、200Vコンセント、3相200V且つ50kWなどがある。また、非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することもできる。
【0378】
次に、本発明の一態様であるリチウムイオン電池を車両、代表的には輸送用車両に実装する例について説明する。
【0379】
また、リチウムイオン電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。また、農業機械、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車、自動二輪車、電動車椅子、電動カート、小型又は大型船舶、潜水艦、固定翼機及び回転翼機等の航空機、ロケット、人工衛星、宇宙探査機、惑星探査機、宇宙船などの輸送用車両にリチウムイオン電池を搭載することもできる。
【0380】
図16(A)乃至図16(D)において、本発明の一態様を用いた輸送用車両を例示する。図16(A)に示す自動車2001は、走行のための動力源として電気モータを用いる電気自動車である。又は、走行のための動力源として電気モータとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。リチウムイオン電池を車両に搭載する場合、上記実施の形態で示したリチウムイオン電池の一例を一箇所又は複数個所に設置する。車両に搭載するリチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0381】
図16(A)に示す自動車2001は、電池パック2200を有し、電池パックは、複数のリチウムイオン電池が接続された電池モジュールを有する。さらに電池パック2200は、電池モジュールに電気的に接続された充電制御装置を有すると好ましい。
【0382】
また、自動車2001は、自動車2001が有するリチウムイオン電池にプラグイン方式及び非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。充電に際しては、充電方法及びコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)又はコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。リチウムイオン電池は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車2001に搭載された蓄電装置を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0383】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路又は外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、2台の車両どうしで電力の送受電を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時及び走行時にリチウムイオン電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式又は磁界共鳴方式を用いることができる。
【0384】
図16(B)は、輸送用車両の一例として電気により制御するモータを有した大型の輸送車2002を示している。輸送車2002の電池モジュールは、例えば公称電圧3.0V以上5.0V以下のリチウムイオン電池を4個セルユニットとし、48セルを直列に接続した170Vの最大電圧とする。電池パック2201のリチウムイオン電池の数などが違う以外は、図15(B)と同様な機能を備えているので説明は省略する。電池パック2201のリチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0385】
図16(C)は、一例として電気により制御するモータを有した大型の輸送車両2003を示している。輸送車両2003の電池モジュールは、例えば公称電圧3.0V以上5.0V以下のリチウムイオン電池を百個以上直列に接続した600Vの最大電圧とするまた、電池パック2202の電池モジュールを構成するリチウムイオン電池の数などが違う以外は、図15(B)と同様な機能を備えているので説明は省略する。モジュールが有するリチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0386】
図16(D)は、一例として燃料を燃焼するエンジンを有した航空機2004を示している。図16(D)に示す航空機2004は、離着陸用の車輪を有しているため、輸送車両の一部とも言え、複数のリチウムイオン電池を接続させて電池モジュールを構成し、電池モジュールと充電制御装置とを含む電池パック2203を有している。
【0387】
航空機2004の電池モジュールは、例えば4Vのリチウムイオン電池を8個直列に接続した32Vの最大電圧とする。電池パック2203の電池モジュールを構成するリチウムイオン電池の数などが違う以外は、図15(B)と同様な機能を備えているので説明は省略する。
【0388】
本実施の形態の内容は、他の実施の形態の内容と適宜組み合わせることができる。
【0389】
(実施の形態6)
本実施の形態では、二輪車、自転車等の車両に本発明の一態様であるリチウムイオン電池を搭載する例を示す。
【0390】
図17(A)は、本発明の一態様のリチウムイオン電池を用いた電動自転車の一例である。図17(A)に示す電動自転車8700に、本発明の一態様のリチウムイオン電池を適用することができる。本発明の一態様のリチウムイオン電池は保護回路を有してもよい。
【0391】
電動自転車8700は、蓄電装置8702を備える。蓄電装置8702は、運転者をアシストするモータに電気を供給することができる。また、蓄電装置8702は、持ち運びができ、図17(B)に自転車から取り外した状態を示している。また、蓄電装置8702は、本発明の一態様のリチウムイオン電池8701が複数内蔵されており、そのバッテリ残量などを表示部8703で表示できるようにしている。リチウムイオン電池8701に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0392】
また蓄電装置8702は、実施の形態7に一例を示したリチウムイオン電池の充電制御又は異常検知が可能な制御回路8704を有する。制御回路8704は、リチウムイオン電池8701の正極及び負極と電気的に接続されている。リチウムイオン電池による火災等の事故撲滅に大きく寄与することができる。
【0393】
図17(C)は、本発明の一態様のリチウムイオン電池を用いた二輪車の一例である。図17(C)に示すスクータ8600は、蓄電装置8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。蓄電装置8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。リチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0394】
図17(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、蓄電装置8602を収納することができる。蓄電装置8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。
【0395】
本実施の形態の内容は、他の実施の形態内容と適宜組み合わせることができる。
【0396】
(実施の形態7)
本実施の形態では、本発明の一態様であるリチウムイオン電池を電子機器に実装する例について説明する。リチウムイオン電池を実装する電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、又はテレビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機などが挙げられる。携帯情報端末としてはノート型パーソナルコンピュータ、タブレット型端末、電子書籍端末、携帯電話機などがある。
【0397】
図18(A)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機2100は、筐体2101に組み込まれた表示部2102の他、操作ボタン2103、外部接続ポート2104、スピーカ2105、マイク2106などを備えている。なお、携帯電話機2100は、リチウムイオン電池2107を有している。リチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0398】
携帯電話機2100は、移動電話、電子メール、文章閲覧及び作成、音楽再生、インターネット通信、コンピュータゲームなどの種々のアプリケーションを実行することができる。
【0399】
操作ボタン2103は、時刻設定のほか、電源のオン、オフ動作、無線通信のオン、オフ動作、マナーモードの実行及び解除、省電力モードの実行及び解除など、様々な機能を持たせることができる。例えば、携帯電話機2100に組み込まれたオペレーティングシステムにより、操作ボタン2103の機能を自由に設定することもできる。
【0400】
また、携帯電話機2100は、通信規格された近距離無線通信を実行することが可能である。例えば無線通信可能なヘッドセットと相互通信することによって、ハンズフリーで通話することもできる。
【0401】
また、携帯電話機2100は外部接続ポート2104を備え、他の情報端末とコネクタを介して直接データのやりとりを行うことができる。また外部接続ポート2104を介して充電を行うこともできる。なお、充電動作は外部接続ポート2104を介さずに無線給電により行ってもよい。
【0402】
携帯電話機2100はセンサを有することが好ましい。センサとして例えば、指紋センサ、脈拍センサ、体温センサ等の人体センサ、タッチセンサ、加圧センサ、加速度センサ、等が搭載されることが好ましい。
【0403】
図18(B)は複数のローター2302を有する無人航空機2300である。無人航空機2300はドローンと呼ばれることもある。無人航空機2300は、本発明の一態様であるリチウムイオン電池2301と、カメラ2303と、アンテナ(図示しない)を有する。無人航空機2300はアンテナを介して遠隔操作することができる。リチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0404】
図18(C)は、ロボットの一例を示している。図18(C)に示すロボット6400は、リチウムイオン電池6409、照度センサ6401、マイクロフォン6402、上部カメラ6403、スピーカ6404、表示部6405、下部カメラ6406及び障害物センサ6407、移動機構6408、演算装置等を備える。
【0405】
マイクロフォン6402は、使用者の話し声及び環境音等を検知する機能を有する。また、スピーカ6404は、音声を発する機能を有する。ロボット6400は、マイクロフォン6402及びスピーカ6404を用いて、使用者とコミュニケーションをとることが可能である。
【0406】
表示部6405は、種々の情報の表示を行う機能を有する。ロボット6400は、使用者の望みの情報を表示部6405に表示することが可能である。表示部6405は、タッチパネルを搭載していてもよい。また、表示部6405は取り外しのできる情報端末であっても良く、ロボット6400の定位置に設置することで、充電及びデータの受け渡しを可能とする。
【0407】
上部カメラ6403及び下部カメラ6406は、ロボット6400の周囲を撮像する機能を有する。また、障害物センサ6407は、移動機構6408を用いてロボット6400が前進する際の進行方向における障害物の有無を察知することができる。ロボット6400は、上部カメラ6403、下部カメラ6406及び障害物センサ6407を用いて、周囲の環境を認識し、安全に移動することが可能である。
【0408】
ロボット6400は、その内部領域に本発明の一態様に係るリチウムイオン電池6409と、半導体装置又は電子部品を備える。リチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0409】
図18(D)は、掃除ロボットの一例を示している。掃除ロボット6300は、筐体6301上面に配置された表示部6302、側面に配置された複数のカメラ6303、ブラシ6304、操作ボタン6305、リチウムイオン電池6306、各種センサなどを有する。図示されていないが、掃除ロボット6300には、タイヤ、吸い込み口等が備えられている。掃除ロボット6300は自走し、ゴミ6310を検知し、下面に設けられた吸い込み口からゴミを吸引することができる。
【0410】
例えば、掃除ロボット6300は、カメラ6303が撮影した画像を解析し、壁、家具又は段差などの障害物の有無を判断することができる。また、画像解析により、配線などブラシ6304に絡まりそうな物体を検知した場合は、ブラシ6304の回転を止めることができる。掃除ロボット6300は、その内部領域に本発明の一態様に係るリチウムイオン電池6306と、半導体装置又は電子部品を備える。リチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0411】
本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0412】
(実施の形態8)
本実施の形態では、本発明の一態様であるリチウムイオン電池を宇宙用機器に実装する例について説明する。
【0413】
図19(A)には、宇宙用機器の一例として、人工衛星6800を示している。人工衛星6800は、機体6801と、ソーラーパネル6802と、アンテナ6803と、リチウムイオン電池6805と、を有する。ソーラーパネルは、太陽電池モジュールと呼ばれる場合がある。
【0414】
ソーラーパネル6802に太陽光が照射されることにより、人工衛星6800が動作するために必要な電力が生成される。しかしながら、たとえばソーラーパネルに太陽光が照射されない状況、またはソーラーパネルに照射される太陽光の光量が少ない状況では、生成される電力が少なくなる。よって、人工衛星6800が動作するために必要な電力が生成されない可能性がある。生成される電力が少ない状況下であっても人工衛星6800を動作させるために、人工衛星6800にリチウムイオン電池6805を設けるとよい。リチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。
【0415】
人工衛星6800は、信号を生成することができる。当該信号は、アンテナ6803を介して送信され、たとえば地上に設けられた受信機、または他の人工衛星が信号を受信することができる。人工衛星6800が送信した信号を受信することにより、たとえば当該信号を受信した受信機の位置を測定することができる。以上より、人工衛星6800は、たとえば衛星測位システムを構成することができる。
【0416】
または、人工衛星6800は、センサを有する構成とすることができる。たとえば、可視光センサを有する構成とすることにより、人工衛星6800は、地上に設けられている物体に当たって反射された太陽光を検出する機能を有することができる。または、熱赤外センサを有する構成とすることにより、人工衛星6800は、地表から放出される熱赤外線を検出する機能を有することができる。以上より、人工衛星6800は、たとえば地球観測衛星としての機能を有することができる。
【0417】
図19(B)には、宇宙用機器の一例として、ソーラーセイル(太陽帆ともいう)を有する探査機6900を示している。探査機6900は、機体6901と、ソーラーセイル6902と、リチウムイオン電池6905と、を有する。リチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。太陽から発せられる光子がソーラーセイル6902の表面に当たるとき、ソーラーセイル6902に運動量が伝達される。そのため、ソーラーセイル6902の表面は、高反射率の薄膜を有するとよく、さらに太陽の方向に面することが好ましい。
【0418】
またソーラーセイル6902は大気圏外に出るまで、小さく折り畳まれた状態であり、地球の大気圏外(宇宙空間)では図19(B)に示すように大きなシート状に展開されるように設計してもよい。
【0419】
図19(C)には、宇宙用機器の一例として、宇宙船6910を示している。宇宙船6910は、機体6911と、ソーラーパネル6912と、リチウムイオン電池6913と、を有する。リチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。機体6911はたとえば与圧室と非与圧室を有することができる。与圧室は乗員が乗り込める仕様としてもよい。ソーラーパネル6912に太陽光が照射されることで生じた電力は、リチウムイオン電池6913に充電することができる。
【0420】
図19(D)には、宇宙用機器の一例として、探査車6920を示している。探査車6920は、機体6921と、リチウムイオン電池6923と、を有する。リチウムイオン電池に、本発明の電解質及び正極活物質を用いると、氷点下から高温を含む広い温度範囲にて優れた充放電特性が期待される。探査車6920は、ソーラーパネル6922を有していてもよい。
【0421】
探査車6920は乗員が乗り込める仕様としてもよい。ソーラーパネル6912に太陽光が照射されることで生じた電力をリチウムイオン電池6923に充電してもよいし、その他の動力源、たとえば燃料電池、放射性同位体熱電気転換器等により生成した電力をリチウムイオン電池6923に充電してもよい。
【0422】
本実施の形態の内容は、他の実施の形態内容と適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0423】
10a 表層部
10b バルク部
10 正極活物質
15 結晶粒界
100 リチウムイオン電池
101 負極集電体
102 負極活物質層
104 正極活物質層
105 正極集電体
106 負極
107 正極
108 セパレータ
109 電解質
301 正極缶
302 負極缶
303 ガスケット
304 正極
305 正極集電体
306 正極活物質層
307 負極
308 負極集電体
309 負極活物質層
332 ワッシャー
342 スペーサ
508 接着領域
509 外装体
510 負極リード電極
511 正極リード電極
550 集電体
553 カーボンブラック
554 グラフェン
555 炭素繊維
561 正極活物質
562 第2の活物質
601 正極キャップ
602 電池缶
603 正極端子
604 正極
605 電解質層
606 負極
607 負極端子
608 絶縁板
609 絶縁板
611 PTC素子
613 安全弁機構
614 導電板
615 蓄電システム
616 リチウムイオン電池
620 制御回路
621 配線
622 配線
623 配線
624 導電体
625 絶縁体
626 配線
627 配線
628 導電板
903 混合物
904 混合物
911a 端子
911b 端子
913 リチウムイオン電池
930a 筐体
930b 筐体
930 筐体
931a 負極活物質層
931 負極
932a 正極活物質層
932 正極
933 電解質層
950a 捲回体
950 捲回体
951 端子
952 端子
1300 角型リチウムイオン電池
1301a 第1のバッテリ
1301b 第1のバッテリ
1302 バッテリーコントローラ
1303 モータコントローラ
1304 モータ
1305 ギア
1306 DCDC回路
1307 電動パワステ
1308 ヒーター
1309 デフォッガ
1310 DCDC回路
1311 第2のバッテリ
1312 インバータ
1313 オーディオ
1314 パワーウィンドウ
1315 ランプ類
1316 タイヤ
1317 リアモータ
1320 制御回路部
1321 制御回路部
1322 制御回路
1324 スイッチ部
1413 固定部
1414 固定部
1415 電池パック
1421 配線
1422 配線
2001 自動車
2002 輸送車
2003 輸送車両
2004 航空機
2100 携帯電話機
2101 筐体
2102 表示部
2103 操作ボタン
2104 外部接続ポート
2105 スピーカ
2106 マイク
2107 リチウムイオン電池
2200 電池パック
2201 電池パック
2202 電池パック
2203 電池パック
2300 無人航空機
2301 リチウムイオン電池
2302 ローター
2303 カメラ
6300 掃除ロボット
6301 筐体
6302 表示部
6303 カメラ
6304 ブラシ
6305 操作ボタン
6306 リチウムイオン電池
6310 ゴミ
6400 ロボット
6401 照度センサ
6402 マイクロフォン
6403 上部カメラ
6404 スピーカ
6405 表示部
6406 下部カメラ
6407 障害物センサ
6408 移動機構
6409 リチウムイオン電池
6800 人工衛星
6801 機体
6802 ソーラーパネル
6803 アンテナ
6805 リチウムイオン電池
6900 探査機
6901 機体
6902 ソーラーセイル
6905 リチウムイオン電池
6910 宇宙船
6911 機体
6912 ソーラーパネル
6913 リチウムイオン電池
6920 探査車
6921 機体
6922 ソーラーパネル
6923 リチウムイオン電池
8600 スクータ
8601 サイドミラー
8602 蓄電装置
8603 方向指示灯
8604 座席下収納
8700 電動自転車
8701 リチウムイオン電池
8702 蓄電装置
8703 表示部
8704 制御回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
図17
図18
図19