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特開2024-160799エンジン制御装置およびエンジン制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160799
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】エンジン制御装置およびエンジン制御方法
(51)【国際特許分類】
   F02M 1/10 20060101AFI20241108BHJP
   F02M 1/16 20060101ALI20241108BHJP
   F02M 7/00 20060101ALI20241108BHJP
   F02M 7/02 20060101ALI20241108BHJP
   F02M 7/12 20060101ALI20241108BHJP
   F02D 41/06 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F02M1/10 Z
F02M1/16 B
F02M7/00 G
F02M7/00 K
F02M7/02
F02M7/12 G
F02D41/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076172
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】509264132
【氏名又は名称】株式会社やまびこ
(74)【代理人】
【識別番号】100133411
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 龍郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067677
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 彰司
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 稔
(72)【発明者】
【氏名】山崎 隆広
(72)【発明者】
【氏名】今井 亮輔
【テーマコード(参考)】
3G301
【Fターム(参考)】
3G301HA01
3G301HA28
3G301JA31
3G301KA01
3G301LA01
3G301LB01
3G301MA18
3G301NC02
3G301PE01Z
3G301PE08Z
(57)【要約】      (修正有)
【課題】燃料種や気圧等が変化しても常に適切な燃料量を供給することができるエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン1へ供給する燃料の制御を行うエンジン制御装置であって、前記エンジンの始動時に、前記エンジンへの空気または前記空気と前記燃料との混合気に始動燃料を供給する始動燃料供給弁7と、前記エンジンの温度を検出するエンジン温度検知部32と、前記エンジンの回転数を検知するエンジン回転数検知部31と、前記始動燃料供給弁の開閉を制御して、エンジン制御を行う制御部30と、を有し、前記制御回路が、前記エンジン温度および前記エンジンの回転数に応じて前記始動燃料供給弁の開弁時間を制御する構成となっている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンへ供給する燃料の制御を行うエンジン制御装置であって、 前記エンジンの始動時に、前記エンジンへの空気または前記空気と前記燃料との混合気に始動燃料を供給する始動燃料供給弁と、 前記エンジンの温度を検出するエンジン温度検知部と、 前記エンジンの回転数を検知するエンジン回転数検知部と、 前記始動燃料供給弁の開閉を制御して、エンジン制御を行う制御部と、を有し、 前記制御部が、前記エンジン温度および前記エンジンの回転数に応じて前記始動燃料供給弁の開弁時間を制御するエンジン制御装置。
【請求項2】
前記制御部には、前記エンジン回転数検知部で検出されたエンジン回転数および前記エンジン温度検知部で検出されたエンジン温度に対応して設定された始動燃料供給弁の開弁時間が記載されている設定マップが記憶されており、前記制御部が、前記設定マップに基づいて前記始動燃料供給弁の開弁時間を制御する、請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記設定マップにおいて、前記エンジン温度が高温で、前記エンジンの回転数が高回転域において、前記エンジン温度が高くなる程、前記始動燃料供給弁の開弁時間が長く設定される、請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記設定マップにおいて、前記エンジン温度が0℃以下を含む低温状態で、前記エンジンの回転数が高回転域である場合に、前記エンジン温度が低くなる程、前記始動燃料供給弁の開弁時間が長く設定される、請求項2に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記設定マップにおいて、前記エンジンの回転数が所定の中程度以下では、前記始動燃料供給弁が開弁されないように設定される、請求項2~4のいずれかに記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
エンジンの始動時に、前記エンジンへの空気または前記空気と前記燃料との混合気に始動燃料を供給する始動燃料供給弁と、前記エンジンの温度を検出するエンジン温度検知部と、前記エンジンの回転数を検知するエンジン回転数検知部と、前記始動燃料供給弁の開閉を制御して、エンジン制御を行う制御部と、を有するエンジン制御装置において、前記エンジンへ供給する燃料の制御を行うエンジン制御方法であって、 前記制御部により、所定のアイドル回転目標値に向かって前記エンジンの始動を開始するステップと、 前記制御部により、前記回転数検知部より前記エンジンの回転数を取得すると共に、前記エンジン温度検知部より前記エンジンの温度を取得するステップと、 前記制御部により、前記エンジンの回転数と前記エンジンの温度とに基づく前記始動燃料供給弁の開弁時間の設定マップの情報を読み出すステップと、 前記制御部により、前記読み出された設定マップにおける前記始動燃料供給弁の開弁時間に基づいて、前記始動燃料供給弁を開弁制御するステップと、を有するエンジン制御方法。
【請求項7】
前記設定マップにおいて、前記エンジン温度が高温で、前記エンジンの回転数が高回転域において、前記エンジン温度が高くなる程、前記始動燃料供給弁の開弁時間が長く設定される、請求項6に記載のエンジン制御方法。
【請求項8】
前記設定マップにおいて、前記エンジン温度が0℃以下を含む低温状態で、前記エンジンの回転数が高回転域である場合に、前記エンジン温度が低くなる程、前記始動燃料供給弁の開弁時間が長く設定される、請求項6に記載のエンジン制御方法。
【請求項9】
前記設定マップにおいて、前記エンジンの回転数が所定の中程度以下では、前記始動燃料供給弁が開弁されないように設定される、請求項6~8のいずれかに記載のエンジン制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に係わり、詳細には、始動燃料供給装置を備えたエンジン制御装置およびエンジン制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チェーンソー等の手持ち式エンジン作業機のエンジンの出力は、気化器やエンジンのばらつき、及び、使用環境(例えば、気温、気圧、湿度、燃料の種類)によって変化する。
このようなエンジン駆動式作業機においては、エンジンの始動、特に、冷態の際、チョークを用いることで空燃比を一時的に高め始動を容易にすることが知られている。
しかし、エンジン作業機の使用頻度が低いユーザは、このチョーク操作に不慣れなため、操作ミスを起こすことが有り、これにより点火プラグをかぶらせてしまい、始動が困難になる場合があった。
【0003】
さらに、チョークシステムの問題点として、始動後最初の加速の際、リーン燃焼によってエンストやもたつきが発生してしまう傾向があった。このような場合、始動後から加速までのアイドル状態の間に燃料リッチ状態を作り出すことで、スムーズな加速が可能となることが分かっている。
【0004】
これらの問題を克服するために、以下のような従来技術が提案されていた。
すなわち、特許文献1として、ソレノイドバルブを用いて、チョークを使用せずとも空燃比を高めることができる始動燃料供給装置を備えたエンジン制御装置が提案されている。
さらに、特許文献2としては、空気と燃料とから濃い始動用混合気を生成して、吸気通路の絞り弁よりも下流側部分へ供給するバイスタータの通路を気化器本体に設け、機関の始動時、大気温度と機関停止後の経過時間とに対応して、バイスタータの通路を開閉する電磁開閉弁の開時間を制御する始動燃料供給装置が提案されている。
さらに、特許文献3としては、複数種類の燃料の組成毎に予め設定され、燃料粘度を所定状態にするための電磁切換弁のオン・オフと現在の燃料温度との関連を定義した複数の制御マップを備え、使用される燃料の組成に応じた制御マップを選択してマップに基づいて使用される燃料が予め記憶された温度となるよう燃料温度調整手段を制御する燃料温度制御装置が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2016-205286号公報
【特許文献2】特開平8-14107号公報
【特許文献3】特開2003-129908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のような従来のエンジン制御装置では、以下のような問題点があった。
すなわち、従来の特許文献1によるエンジン制御装置では、チョークを使用せずに空燃比を高めるために、気化器のソレノイドバルブの開度を制御するようにしていたが、起動直後のアイドル状態が不安定となってしまう問題点があった。
そのため、特許文献2による始動燃料供給装置では、起動直後のアイドル状態においてはアイドル安定を目的として、温度に応じて適した燃料量を出すように、機関の始動時に、大気温度と機関停止後の経過時間とに対応して、バイスタータの通路を開閉する電磁開閉弁の開時間を制御するようにしていた。
しかしながら、この始動燃料供給装置にて燃料リッチ状態になるよう開弁時間を設定した場合、燃料の種類によっては燃料過多状態となり、エンジン停止してしまう問題点があった。
【0007】
また、この始動燃料供給装置において、燃料過多状態になりやすい燃料種を基準として開弁時間を設定した場合、リーン燃焼になりやすい燃料を使用した際には燃料過薄によってエンストや加速もたつきが発生したり、気圧等の条件にも左右される問題点があった。
そのため、特許文献3による燃料温度制御装置では、燃料粘度を所定状態にするための電磁切換弁のオン・オフと現在の燃料温度との関連を定義した複数の制御マップを複数種類の燃料の組成毎に備え、使用される燃料の組成に応じた制御マップを選択してマップに基づいて使用される燃料が予め記憶された温度となるよう燃料温度調整手段を制御するようにしていた。
しかしながら、この燃料温度制御装置では、燃焼リッチ状態やリーン燃焼の軽度な変化により回転変化が起こったり、始動直後に不安定状態となったりする問題点があり、スムーズな加速を得ることが出来なかった。
さらに、燃料種に加え、気圧等が変化した場合には、適切な燃料量を供給することができない問題点もあった。
【0008】
上述した従来のエンジン制御装置では、さらに、次のような問題もあった。
すなわち、通常、高温時は燃料リッチ傾向となるが、燃料供給系中の液体燃料が周囲からの熱で気化され、気泡が燃料通路を塞いで燃料の流れが遮断されてしまうベーパーロック現象が起こってしまうことがあった。このベーパーロック現象が起きると燃料の供給が途絶えて燃料過薄となり、アイドリング不調等が発生する問題があった。
【0009】
本発明は前記のような従来の問題点に着目してなされたものであり、エンジン温度に加えてエンジンの回転数に応じて始動燃料供給弁の開弁時間を設定したことにより、燃料種や気圧等が変化しても常に適切な燃料量を供給することができるエンジン制御装置およびエンジン制御方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、エンジン温度が高温で、エンジン回転数が高回転域において、始動燃料供給弁の開弁時間を長く設定することにより、ベーパーロック現象が起こってしまうような高温高回転域でも、安定したアイドル回転維持が可能となるエンジン制御装置およびエンジン制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的達成のために、本発明に係るエンジン制御装置は、エンジンへ供給する燃料の制御を行うエンジン制御装置であって、前記エンジンの始動時に、前記エンジンへの空気または前記空気と前記燃料との混合気に始動燃料を供給する始動燃料供給弁と、前記エンジンの温度を検出するエンジン温度検知部と、前記エンジンの回転数を検知するエンジン回転数検知部と、前記始動燃料供給弁の開閉を制御して、エンジン制御を行う制御部と、を有し、前記制御部が、前記エンジン温度および前記エンジンの回転数に応じて前記始動燃料供給弁の開弁時間を制御することを特徴とする。 さらに、本発明に係るエンジン制御方法は、エンジンの始動時に、前記エンジンへの空気または前記空気と前記燃料との混合気に始動燃料を供給する始動燃料供給弁と、前記エンジンの温度を検出するエンジン温度検知部と、前記エンジンの回転数を検知するエンジン回転数検知部と、前記始動燃料供給弁の開閉を制御して、エンジン制御を行う制御部と、を有するエンジン制御装置において、前記エンジンへ供給する燃料の制御を行うエンジン制御方法であって、前記制御部により、所定のアイドル回転目標値に向かって前記エンジンの始動を開始するステップと、前記制御部により、前記回転数検知部より前記エンジンの回転数を取得すると共に、前記エンジン温度検知部より前記エンジンの温度を取得するステップと、前記制御部により、前記エンジンの回転数と前記エンジンの温度とに基づく前記始動燃料供給弁の開弁時間の設定マップの情報を読み出すステップと、前記制御部により、前記読み出された設定マップにおける前記始動燃料供給弁の開弁時間に基づいて、前記始動燃料供給弁を開弁制御するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、起動直後に安定したアイドル状態を得ることができ、燃料リッチ状態になるよう開弁時間を設定した場合にも、燃料過多状態とならず、リーン燃焼になりやすい燃料を使用した場合にも、燃料過薄によるエンストや加速もたつきの発生を防止できる。
また、燃焼リッチ状態やリーン燃焼の軽度な変化により回転変化が起ることなく、始動直後に不安定状態とならずに、スムーズな加速を得ることができ、燃料種に加え、気圧等が変化した場合にも、適切な燃料量を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の一形態に係る始動燃料供給装置7の燃料流路の概略図である。
図2図1に示した制御部30の内部構成のブロック図である。
図3図1に示した始動燃料供給装置7によるエンジン制御方法のフローチャートである。
図4図1に示した前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの表である。
図5図4に示した前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの表の一部を、3次元のグラフ化したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、添付図面を参照して、本発明を実施したエンジン制御装置およびエンジン制御方法の実施形態について説明する。
この実施形態では、エンジン制御装置の一形態として、エンジン始動時にエンジンへ供給する燃料の制御を行う始動燃料供給装置について説明する。しかしながら、後述するように、本発明は、始動燃料供給装置に限定されず、始動制御装置以外のエンジン制御装置および燃料制御装置に実施することもできる。
【0014】
本発明の実施の一形態に係る始動燃料供給装置は、主に携帯式のエンジン作業機に搭載されるエンジンの吸気系統の一部を構成するものであり、エンジンに燃料と空気との混合気を供給する気化器と組み合わせて使用される。
本発明の始動燃料供給装置が用いられるエンジン作業機としては、チェーンソー、刈払機、動力カッター、ヘッジトリマー、パワーブロワ等、動力源として小型空冷二サイクル内燃エンジンを搭載する作業機が挙げられる。
【0015】
図1は、本発明の実施の一形態に係る始動燃料供給装置7の燃料流路の概略図である。
図1に示すように、エンジン1を構成するシリンダブロック2には、断熱性を有する吸入管3を介して気化器4が接続される。
図示しないエアクリーナで浄化された空気が気化器4で燃料と混合されて混合気が生成され、この混合気は吸入管3と吸気ポート5を通ってシリンダブロック2内に吸入される。気化器4での混合気の生成及びシリンダブロック2内への混合気の吸入は、シリンダブロック2内を往復摺動するピストン6の動作によって行われる。
また、シリンダブロック2には、点火プラグ33が設けられ、エンジン1を始動するためのリコイルスタータ29の操作により、シリンダブロック2の上部側面に取り付けられた点火制御回路の点火コイルによって発生された電圧が点火プラグ33に印加されて燃焼室内の混合気が燃焼され、ピストン6が往復摺動される。
【0016】
本発明の始動燃料供給装置7と組み合わせて使用される気化器4の形式に限定はないが、作業中に機体の姿勢が頻繁に変更される携帯式のエンジン作業機に適する気化器として、それ自体周知の構成のダイヤフラム型気化器が好ましい。
図1に示すように、気化器4は、エンジン作業機の燃料タンク8に逆止弁を介して接続される燃料ポンプ9と、この燃料ポンプ9に逆止弁を介して接続される燃料室10と、この燃料室10に逆止弁を介して接続される主燃料吐出口11と、を備える。主燃料吐出口11は、気化器4の吸気通路12内に開口している。
【0017】
燃料ポンプ9は、好ましくは、エンジン1のクランク室13によって発生される圧力パルスで駆動されるパルス制御ダイヤフラムポンプである。燃料ポンプ9は、燃料タンク8から燃料を吸い上げて燃料室10に供給する。ベンチュリ14によって生ずる吸気通路12の圧力低下により、燃料室10内の燃料が主燃料吐出口11から吸気通路12内に吸い出される。エンジン作業機の図示しない出力操作部材を作業者が操作することで、吸気通路12内の絞り弁15の開度が調整され、この絞り弁15の開度に応じたエンジン出力が得られる。
【0018】
本実施形態に係る始動燃料供給装置7は、気化器4によって生成される混合気に、または、気化器4を通過した空気に始動燃料を自動的に添加する始動燃料供給弁18と、この始動燃料供給弁18の弁体19を収容する弁室20と、を有する。
始動燃料供給弁18には手動ポンプ16も配設されている。この手動ポンプ16は、始動燃料供給弁18から燃料タンク8内へと燃料を戻すためのものである。そして、手動ポンプ16の操作によって、燃料室10内の燃料が弁室20を通って燃料タンク8内へ移動可能とされる。
【0019】
図1に示すように、本実施の一形態では、燃料タンク8から気化器4の燃料ポンプ9へと至る吸い上げ流路21が設けられると共に、燃料室10から手動ポンプ16への流路17の途中に弁室20が配設される。
また、本実施の形態では、弁室20が、エンジン1を有するエンジン作業機の保管状態において気化器4の吸気通路12の下側となる位置に配設される。弁室20には燃料入口22と燃料出口23が連通しており、燃料入口22は流路17によって燃料室10と連通し、燃料出口23は手動ポンプ16を介して燃料タンク8に連通している。
燃料タンク8から気化器4の燃料ポンプ9へと至る吸い上げ流路21は、吸入管24によって燃料タンク8に連通し、吸入管24の吸入側端部24aは燃料タンク8内の下部に位置し、吸入側端部24aには、ゴミの吸入を防ぐためのフィルタ25が設けられている。
【0020】
弁室20にはオリフィス(弁座又は流路孔)26が開口しており、このオリフィス26は始動燃料吐出通路27と始動燃料吐出口28とを介して吸入管3の混合気通路36に連通している(また、吸入管3のエア通路35が下側に配置された場合には、エア通路35に連通しても良い)。
オリフィス26は、エンジン始動時以外は常時、始動燃料供給弁18の弁体19によって閉じられている。そして、エンジン始動時にのみ始動燃料供給弁18が開作動することによりオリフィス26が開かれる。始動燃料吐出口28は、ベンチュリ14よりも下流側で吸気通路12へと開口している。
【0021】
始動燃料供給弁18は電気的に制御可能なものであり、例えば、ソレノイドバルブ(電磁弁)が用いられる。始動燃料供給弁18の電源50としては、エンジン作業機に搭載される発電機や電池等を用いることができる。
上記始動燃料供給装置7の始動燃料供給弁18を、電磁コイル18bによって制御するための制御部30が設けられており、制御部30には、エンジン1の回転数を検出するエンジン回転数検知部31とエンジン温度を検出するエンジン温度検知部32とが接続されている。
すなわち、始動燃料供給弁18の作動は、制御部30によって制御されるようになっており、制御部30は、エンジン回転数検知部31よりのエンジン回転数およびエンジン温度検知部32よりのエンジン温度に基づいて、始動燃料供給弁18の開弁時間を制御して常に適切な燃料量を供給するようになっている。
本実施例で用いられる始動燃料供給弁18は、制御部30からの通電指示によって始動燃料供給弁18が開くように構成された、ノーマルクローズタイプの機構である。逆に、電力をカットした状態で始動燃料供給弁が開くノーマルオープンタイプの機構であっても、通電/遮断の切り替えを反対にすれば、本発明を適用できる。
ここで、エンジン回転数検知部31は、例えば、エンジン1のフライホイールにマグネット等の検出体を設けて検出するようにしても良い。
また、エンジン温度検知部32は、例えば、エンジン1の点火コイル33の点火制御回路の基板上に温度センサを配置して検出するようにしても良い。
【0022】
図2は、図1に示した制御部30の内部構成のブロック図である。
上記制御部30は、図2に示すように、RAM61およびROM62とCPU63とからなるマイクロコンピュータで構成されており、ROM62に記憶されたエンジン制御プログラムに従って、後述するように、エンジン1の始動時に上記始動燃料供給装置7の始動燃料供給弁18の開閉動作を制御して、エンジン制御を行うように構成される。
なお、ROM62あるいはRAM61には、上述したエンジン制御を行うための始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの情報が、エンジン制御プログラムと共に記憶されている。すなわち、その設定マップには、エンジン回転数検知部31よりのエンジン回転数およびエンジン温度検知部32よりのエンジン温度に対応して設定された始動燃料供給弁18の開弁時間が記載されている。
なお、始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの情報は、RAM61に記憶させるようにしても良い。
【0023】
本発明の第1の特徴は、後述するように、エンジンの温度と共にエンジン1の回転数を検知し、そのエンジンの温度およびエンジン1の回転数に応じて始動燃料供給弁18の開弁時間を制御し、常に適切な燃料量を供給して、エンジン1を制御するようにしたことである。
さらに、本発明の第2の特徴は、後述するように、高温高回転域で始動燃料供給装置7の始動燃料供給弁18開弁時間を長くするようにしたことである。
【0024】
図3は、図1に示した始動燃料供給装置7によるエンジン制御方法のフローチャートである。以下に、図3を参照して、エンジン1の始動時における始動燃料供給装置7によるエンジン制御方法について説明する。
まず、ステップ100において、作業者がリコイルスタータ29を操作すると、フライホイールマグネトの1次コイルの出力信号に基づいて、制御部30によって始動燃料供給弁18の電磁コイル18bが励磁されて、始動燃料供給弁18が開作動され、所定のアイドル回転目標値に向かってエンジン1の始動が開始される。
ここで、例えば、非常に高温や低温等のアイドル動作が不安定化しやすい特別な環境においては、本願に記載する燃料供給制御に加えて、または独立して、PID制御によるアイドル点火時期制御を行うようにしても良い。
【0025】
次に、ステップ101において、制御部30のCPU63は、ROM62に記憶されたエンジン制御プログラムに従って、回転数検知部31よりエンジン1の回転数を取得すると共に、エンジン温度検知部32よりエンジン1の温度を取得する。
なお、この実施形態では、エンジン回転数検知部31は、例えば、エンジン1のフライホイールにマグネット等の検出体を設けて検出するようにしており、エンジン温度検知部32は、例えば、エンジン1の点火コイル33の点火制御回路の基板上に温度センサを配置して検出するようにしている。
【0026】
ステップ102において、制御部30のCPU63は、ROM62あるいはRAM61から、前記エンジン1の回転と前記燃料の温度とに基づく前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの情報を読みだす。
【0027】
図4は、図1に示した前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの表である。ここで、この表のX軸は、エンジン温度であり、Y軸は、エンジン1の回転数(rpm)であり、マス目の中の数字は、前記始動燃料供給弁18の開弁時間(msec)を示している。
従って、例えば、エンジン1の回転数が2500rpmで、エンジン温度が-10℃の場合、開弁時間の25msecが、設定マップの情報として読み出される。
図5は、図4に示した前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの表の一部を、3次元のグラフ化したグラフ図である。
なお、図4の表および図5のグラフに示した始動燃料供給弁18の開弁時間の情報は、一例であり、エンジンの種類や始動燃料供給装置の特性等に合わせて異なる数値が設定される。すなわち、エンジンの種類や始動燃料供給装置の特性等に合わせて異なる設定マップが用意される。
【0028】
図4の表および図5のグラフから判るように、この実施形態では、エンジン1の回転数が0~4500rpmの範囲において、所定の中程度の2000rpm以下のエンジン回転数の低い領域では、前記始動燃料供給弁18の開弁時間は、エンジン温度に関わらず0msecとなるように設定されており、この領域(エンジン回転数の中程度以下)では、前記始動燃料供給弁18は、開弁されない閉弁状態となっている。
エンジン回転数が所定の中程度以下では燃料過多になると回転数が下がっていく傾向がある。燃料過多によって所定回転数以下に低下すると運転が不安定になったり停止してしまうおそれがあるため、この領域(エンジン回転数の中程度以下)では、前記始動燃料供給弁18は、開弁されない閉弁状態となるように設定され、エンジン回転数の低下を防いでいる。
【0029】
また、エンジン1の回転数が中程度の2000rpm以上においてエンジン回転数が上がるにつれて前記始動燃料供給弁18の開弁時間が長くなるように設定され、エンジン温度が低くなる程、前記始動燃料供給弁18の開弁時間が長くなるように設定されている。
すなわち、エンジン回転数が所定の中程度以上では、回転数が低い状態に比べて、エンジン回転数が安定しやすい。このため、エンジン回転数が上がるにつれて燃料を多く供給することで、回転数が安定し加速性が向上するので、前記始動燃料供給弁18の開弁時間が長くなるように設定する。
また、エンジン温度が低くなる程エンジン回転数は上がりやすくなるため、温度が高い場合に比べて必要とされる燃料供給量が多くなる。これに精度よく対応するため、上述のように前記始動燃料供給弁18の開弁時間が長くなるように設定されている。
【0030】
ただし、本発明の第2の特徴で述べたような高温高回転域、すなわち、本実施形態では、エンジン1の回転数が所定の回転数である3000rpm以上で、エンジン温度が所定の温度である30℃以上では、エンジン回転数が上がると同時に、エンジン温度が高くなる程、前記始動燃料供給弁18の開弁時間長くなるように設定されている。これは、図5のBで示す領域となる。
このように、エンジン温度が高温で、エンジン回転数が高回転の場合は、既にエンジンがスムーズに始動し運転が安定化している状態であるから、エンジン温度が高くなる程、前記始動燃料供給弁18の開弁時間長くなるように設定してよく、充分な出力が発揮される。
【0031】
ステップ103において、制御部30のCPU63は、上記のように読み出された設定マップの情報である前記始動燃料供給弁18の開弁時間に基づいて、始動燃料供給弁18を開弁制御する。
【0032】
このように、本発明の第1の特徴として、エンジン温度に加えてエンジン1の回転数に応じて前記始動燃料供給弁18の開弁時間を設定したことにより、燃料種や気圧等が変化しても常に適切な燃料量を供給することができるようになる。
また、燃料の種類等の変化による燃料過多の際一時低回転となるが、前記始動燃料供給弁18からの燃料量が減少するように設定されるので、適切な回転数へ上昇し、逆に、燃料過薄の際は一時高回転となるが、前記始動燃料供給弁18からの燃料量が増加するように設定されるので、適切な回転数へ低下することとなる。
【0033】
さらに、本発明の第2の特徴として、前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの情報においては、エンジン温度が高温で、エンジン回転数が高回転域において、前記始動燃料供給弁18の開弁時間を長く設定するようになっている。
すなわち、図4に示した前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの表において、例えば、エンジン温度が40℃で、エンジン回転数が3500rpmの場合、前記始動燃料供給弁18の開弁時間が12msecとなり、エンジン温度が50℃で、エンジン回転数が3500rpmの場合、前記始動燃料供給弁18の開弁時間が15msecと設定されている。
このように、エンジン温度が高温で、エンジン回転数が高回転域において、前記始動燃料供給弁18の開弁時間を長く設定することにより、ベーパーロック現象が起こってしまった場合でも、安定したアイドル回転維持が可能となる。
【0034】
ここで、ベーパーロック現象とは、通常高温時は燃料リッチ傾向となるが、燃料供給系中の液体燃料が周囲からの熱で気化され、気泡が燃料通路をふさいで燃料の流れが遮断されてしまう場合のことを言い、このベーパーロック現象が起きると燃料の供給が途絶えて燃料過薄となり、アイドリング不調等の問題が発生してしまうものであった。
しかし、上述のように、エンジン温度が高温で、エンジン回転数が高回転域において、前記始動燃料供給弁18の開弁時間を長くなるように設定マップを設定することにより、燃料過薄となって回転上昇が発生しても開弁時間が長いため、燃料過薄が解消され回転が安定する。また、低回転域の燃料は絞ってあるため、ベーパーロック現象が起きない場合に燃料過多になる心配もない。
さらに、本発明の第3の特徴として、前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの情報においては、エンジン温度が低温かつエンジン回転数が高回転域において、前記始動燃料供給弁18の開弁時間を長く設定するようになっている。
すなわち、図4に示した前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの表において、例えば、エンジン温度が0℃で、エンジン回転数が4000rpmの場合、前記始動燃料供給弁18の開弁時間が16msecであり、エンジン温度が-20℃で、エンジン回転数が4000rpmの場合、前記始動燃料供給弁18の開弁時間は47msecと設定されている。
エンジンが完全に冷えた状態では、一般に起動性は悪くなる。一時的に燃料過濃状態を生成することで起動性が改善するが、濃過ぎると回転安定性が損なわれる。このバランスを精度よく維持するために、エンジン温度が低温かつエンジン回転数が高回転域において、エンジン温度が低くなるほど、前記始動燃料供給弁18の開弁時間を長く設定する。これによって、冷態時であっても確実に起動し、かつ、温度に応じた開弁頻度を設定することで、燃料過濃となることも同時に回避できる。
【0035】
なお、上記図4に示した前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの情報は、一例であり、エンジンの種類や始動燃料供給装置の特性等に合わせて設定される。
すなわち、例えば、所定のエンジンには、所定の情報からなる設定マップが記憶され、上記所定のエンジンとは異なる種類の他のエンジンには、上記所定の設定マップとは異なる情報からなる設定マップが記憶されるようになっている。
【0036】
ステップ104において、制御部30のCPU63は、前記設定マップの情報である前記始動燃料供給弁18の開弁時間が終了したか否かを判定し、前記始動燃料供給弁18の開弁時間が終了した場合、ステップ105において、制御部30のCPU63は、前記始動燃料供給弁18を閉作動する。
また、上記ステップ104において、前記設定マップの情報である前記始動燃料供給弁18の開弁時間が終了していない場合、上記ステップ103に戻る。
【0037】
以上のように、本願発明の実施形態によれば、エンジン温度に加えてエンジン1の回転数に応じても前記始動燃料供給弁18の開弁時間を設定したことにより、燃料種や気圧等が変化しても常に適切な燃料呈を供給することができるようになる。
また、前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの情報においては、エンジン温度が高温で、エンジン回転数が高回転域において、前記始動燃料供給弁18の開弁時間を長く設定しているので、ベーパーロック現象が起こってしまった場合でも、安定したアイドル回転維持が可能となる。
なお、本実施例における始動燃料供給弁の最長開弁時間はおよそ300msecであり、調整しようとする範囲はこの0~20%に相当する。このように、非常にわずかな開弁時間の調整を行うことで、燃料供給量を繊細に、的確に調整している。
【0038】
なお、本実施の形態を記載したが、この開示の一部をなす記載及び図面は、限定するものと理解すべきでない。ここで記載していない様々な実施の形態等が含まれる。
すなわち、本願発明の実施形態では、上記図4に示した前記始動燃料供給弁18の開弁時間の設定マップの情報が設定され記憶されるようになっていたが、これは一例であり、エンジンの種類や始動燃料供給装置の特性等に合わせて設定された設定マップを記憶するようにすれば良い。
また、本願発明の実施形態では、エンジン温度と共にエンジン1の回転数を検知し、そのエンジン温度およびエンジン1の回転数に応じて始動燃料供給弁18の開弁時間を制御し、常に適切な燃料量を供給するようにしていたが、その始動燃料供給弁18の開弁時間の制御に加えて、非常に高温や低温等のアイドル動作が不安定化しやすい特別な環境においては、例えば、PID制御によるアイドル点火時期制御を行うようにしても良い。
また、本願発明の実施形態では、エンジン1の点火コイル33の点火制御装置の基板上に温度センサを配置して、エンジン温度を検出し、エンジン温度およびエンジン1の回転数に応じて始動燃料供給弁18の開弁時間を制御するようにしていたが、エンジン温度の替わりに、燃料タンク8から気化器4の燃料ポンプ9へと燃料を吸い上げる流路21へ燃料温度検知部を設けて、燃料温度を検出し、燃料温度およびエンジン1の回転数に応じて始動燃料供給弁18の開弁時間を制御するようにしても良い。
なお、当然、この場合、図4および図5に示した始動燃料供給弁18の開弁時間の数値情報は、異なってくる。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
2 シリンダブロック
3 吸入管
4 気化器
5 吸気ポート
6 ピストン
7 始動燃料供給装置
8 燃料タンク
9 燃料ポンプ
10 燃料室
11 主燃料吐出口
12 吸気通路
13 クランク室
14 ベンチュリ
15 絞り弁
16 手動ポンプ
17 流路
18 始動燃料供給弁
19 弁体
20 弁室
21 吸い上げ流路
22 燃料入口
23 燃料出口
24 吸入管
25 フィルタ
26 オリフィス(弁座又は流路孔)
27 始動燃料吐出通路
28 始動燃料吐出口
29 リコイルスタータ
30 制御部
31 エンジン回転数検知部
32 エンジン温度検知部
33 点火コイル
35 エア通路
36 混合気通路
50 電源
61 RAM
62 ROM
63 CPU
図1
図2
図3
図4
図5