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特開2024-160820塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法、塩基性塩化アルミニウム水溶液及び水処理用凝集剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160820
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法、塩基性塩化アルミニウム水溶液及び水処理用凝集剤
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/57 20220101AFI20241108BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C01F7/57
B01D21/01 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076223
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】深澤 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】濱口 滋生
(72)【発明者】
【氏名】楠木 りさ子
【テーマコード(参考)】
4D015
4G076
【Fターム(参考)】
4D015BA04
4D015BA10
4D015DA04
4G076AA06
4G076AA10
4G076AB06
4G076AB08
4G076BA12
4G076BA15
4G076BD02
4G076CA14
4G076CA25
4G076CA36
4G076DA28
(57)【要約】      (修正有)
【課題】pH7付近の中性域及びpH8以上のアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液、該水溶液の製造方法及び該水溶液を含む水処理用凝集剤の提供。
【解決手段】塩酸と水酸化アルミニウムを100℃超、大気圧以上で反応させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造し、得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃未満に冷却し、アルカリ剤を添加する工程、並びに、前記工程で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃以上に加熱して熟成する工程を有し、任意のタイミングで、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源を添加する工程を更に含み、前記アルカリ剤を添加する工程前の塩基性塩化アルミニウム水溶液に含まれるCl/Alモル比が1.9以上であり、前記アルカリ剤が、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩酸と水酸化アルミニウムを100℃超大気圧以上で反応させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造する工程(1)、
前記工程(1)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃未満に冷却する工程(2)、
前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に、40℃未満でアルカリ剤を添加する工程(3)、並びに、
前記工程(3)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃以上に加熱して熟成する工程(4)
を含み、
任意のタイミングで、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源を添加する工程(X)を更に含み、
前記工程(3)においてアルカリ剤を添加する前の塩基性塩化アルミニウム水溶液に含まれるCl/Alモル比が1.9以上であり、
前記アルカリ剤が、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ剤が、更に水酸化ナトリウムを含む請求項1記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ剤において、水酸化ナトリウムの含有割合が1~40モル%である請求項2記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項4】
Cl/Alモル比が3.3~4.2、25℃における粘度が5.0~18mPa・s、塩基度が67%以上である塩基性塩化アルミニウム水溶液。
【請求項5】
Na/Alモル比が1.7~2.4である請求項4記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液。
【請求項6】
SO/Alモル比が0.010~0.30である請求項4又は5記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液。
【請求項7】
請求項4又は5記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液を含む水処理用凝集剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法、塩基性塩化アルミニウム水溶液、及び該塩基性塩化アルミニウム水溶液を含む水処理用凝集剤に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性塩化アルミニウム(ポリ塩化アルミニウム、Poly Aluminum Chloride;PAC)は、原水の浄化などを目的として、硫酸バンドとならんで広く使用されている凝集剤である。PACは一般的に[Al(OH)Cl(6-n)(0<n<6、m≦10)で表される無機ポリマーである。このポリマー中のAlに対するOHの割合を塩基度と呼び、塩基度45以上のものが原水処理に広く用いられている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-031431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、原水のpHが中性の場合は、pHが中性域において良好な除濁率を発揮する塩基度45~55%程度の普通塩基度PACが使用され、原水のpHがアルカリの場合は、pHがアルカリ域において良好な除濁率を発揮する塩基度65~75%程度の高塩基度PACが使用される。このように、原水のpHに応じて、PACの最適な塩基度が異なる。このような状況下、本開示者らの検討の結果、火山灰や石灰岩が含まれる地形の多い西日本では、降水量により原水のpHが中性とアルカリの間で変動しやすいこと、西日本では、pHの変動により、使用するPACと原水のpHが合わずに、PACによる充分な原水処理が行うことができないおそれがあることが新たに判明した。
【0005】
本開示は、本開示者らが新たに見出した前記課題を解決し、pH7付近の中性域及びpH8以上のアルカリ領域(以下においては、中性域及びアルカリ領域とも記載する)の両方において高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液、該塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法、及び該塩基性塩化アルミニウム水溶液を含む水処理用凝集剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
高塩基度PACの製造方法の1つとして、塩酸と水酸化アルミニウムを100℃超大気圧以上で反応させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造する工程(1)を含む製造方法が知られており、塩酸法と呼ばれている。この塩酸法では、工程(1)で得られたPACの塩基度は、高塩基度ではないため、工程(1)で得られたPACの塩基度を向上させるために、アルカリ剤が添加される。このアルカリ剤の添加は、40℃以上の温度で行われることが一般的である。アルカリ剤の添加により、塩基性塩化アルミニウムが有するClがOHで置換され、塩基性塩化アルミニウムの塩基度が高くなる。
本開示者らは鋭意検討した結果、アルカリ剤の添加を40℃未満の低温で行うこと、更には、低温でのアルカリ剤の添加の際にゲル化を防ぐために、前記工程(1)において使用する塩酸の量を増加する等、アルカリ剤を添加する際の塩基性塩化アルミニウム水溶液に含まれるClの量を増加することにより、得られたPACが予想を超える高い除濁率を有すること、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮することを見出した。すなわち、本開示(1)は、塩酸と水酸化アルミニウムを100℃超大気圧以上で反応させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造する工程(1)、
前記工程(1)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃未満に冷却する工程(2)、
前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に、40℃未満でアルカリ剤を添加する工程(3)、並びに、
前記工程(3)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃以上に加熱して熟成する工程(4)
を含み、
任意のタイミングで、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源を添加する工程(X)を更に含み、
前記工程(3)においてアルカリ剤を添加する前の塩基性塩化アルミニウム水溶液に含まれるCl/Alモル比が1.9以上であり、
前記アルカリ剤が、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法に関する。
【0007】
本開示(2)は、前記アルカリ剤が、更に水酸化ナトリウムを含む本開示(1)記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法に関する。
【0008】
本開示(3)は、前記アルカリ剤において、水酸化ナトリウムの含有割合が1~40モル%である本開示(2)記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法に関する。
【0009】
本開示者らは、本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法により得られるPACについて、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮する要因について鋭意検討した結果、Cl/Alモル比、25℃における粘度、塩基度が重要であることを見出した。すなわち、本開示(4)はまた、Cl/Alモル比が3.3~4.2、25℃における粘度が5.0~18mPa・s、塩基度が67%以上である塩基性塩化アルミニウム水溶液に関する。
【0010】
本開示(5)は、Na/Alモル比が1.7~2.4である本開示(4)記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液に関する。
【0011】
本開示(6)は、SO/Alモル比が0.010~0.30である本開示(4)又は(5)記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液に関する。
【0012】
本開示(7)はまた、本開示(4)~(6)のいずれかに記載の塩基性塩化アルミニウム水溶液を含む水処理用凝集剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法によれば、塩酸と水酸化アルミニウムを100℃超大気圧以上で反応させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造する工程(1)、前記工程(1)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃未満に冷却する工程(2)、前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に、40℃未満でアルカリ剤を添加する工程(3)、並びに、前記工程(3)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃以上に加熱して熟成する工程(4)を含み、任意のタイミングで、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源を添加する工程(X)を更に含み、前記工程(3)においてアルカリ剤を添加する前の塩基性塩化アルミニウム水溶液に含まれるCl/Alモル比が1.9以上であり、前記アルカリ剤が、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法であるため、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0014】
本開示の熟成後の塩基性塩化アルミニウム水溶液によれば、Cl/Alモル比が3.3~4.2、25℃における粘度が5.0~18mPa・s、塩基度が67%以上であるため、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本開示の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法は、
塩酸と水酸化アルミニウムを100℃超大気圧以上で反応させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造する工程(1)、
前記工程(1)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃未満に冷却する工程(2)、
前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に、40℃未満でアルカリ剤を添加する工程(3)、並びに、
前記工程(3)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃以上に加熱して熟成する工程(4)
を含み、
任意のタイミングで、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源を添加する工程(X)を更に含み、
前記工程(3)においてアルカリ剤を添加する前の塩基性塩化アルミニウム水溶液に含まれるCl/Alモル比が1.9以上であり、
前記アルカリ剤が、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0017】
前記作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムによるものと推察される。
【0018】
前記の通り、従来の塩酸法による高塩基度PACの製造では、アルカリ剤の添加は、40℃以上の温度で行われることが一般的である。40℃以上の温度とすることにより、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合が進行することとなり、従来の方法では、アルカリ剤による塩基性塩化アルミニウムのOH置換反応と共に、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合が同時に進行する。
【0019】
一方、本開示では、アルカリ剤の添加を40℃未満の低温で行うこと(工程(3))により、従来の方法とは異なり、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合が抑制された状態で、塩基性塩化アルミニウムのOH置換反応が進行する。更には、工程(3)において、アルカリ剤が、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むが、この特定のアルカリ剤を使用することにより、炭酸を発生させながら、マイルドな条件下で塩基性塩化アルミニウムのOH置換反応が進行するため、比較的均一に塩基度の向上が可能である。
【0020】
そして、本開示では、前記工程(3)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液、すなわち、熟成前の塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合が抑制された状態で、アルカリ剤が添加された塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃以上に加熱して熟成する工程(4)において塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合を行う。このように、本開示では、塩基性塩化アルミニウム水溶液にアルカリ剤を添加した後に、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合を行う。
【0021】
以上の通り、本開示では、低い温度で塩基性塩化アルミニウムが有するClをOHで置換させてから、加熱して重合したために、OH置換反応と重合反応を同時に進行させる従来技術とは、重合体の構造に何らかの違いが生じ、その結果、得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液が予想を超える、中性域及びアルカリ領域の両方における高い除濁率を有するものと推測される。
【0022】
更には、低温でのアルカリ剤の添加の際にゲル化を防ぐために、アルカリ剤が添加される際の塩基性塩化アルミニウム水溶液中におけるClの量が多い。この点も中性域及びアルカリ領域の両方における高い除濁率に寄与しているものと推測される。塩基性塩化アルミニウム水溶液中のClの量を増やすには、例えば、前記工程(1)において使用する塩酸の量を増加することや、塩基性塩化アルミニウム水溶液に塩化物イオン源を添加すればよい。塩化物イオン源としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩酸などが使用可能だが、塩化ナトリウムが好ましい。
【0023】
更には、任意のタイミングで、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源が添加され、塩基性塩化アルミニウムに硫酸イオンが導入される。従来技術とは異なる構造の前記重合体に硫酸イオンが存在することにより、中性域及びアルカリ領域の両方における高い除濁率を有するものと推測される。
【0024】
本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Cl/Alモル比が3.3~4.2、25℃における粘度が5.0~18mPa・s、塩基度が67%以上である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮できる。
【0025】
前記作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムによるものと推察される。
【0026】
前記の通り、本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液において、従来の塩基性塩化アルミニウム水溶液と比較して、重合体の構造に何らかの違いが生じているものと推測され、この点は定かではないが、何らかの特定の構造体を有するPACが中性域及びアルカリ領域での凝集性能に効果があるということ、およびアルミニウムの正電荷によって負電荷を持つ濁質が凝集するという理由から、Cl/Alモル比、粘度、塩基度に反映されるものと推測される。
【0027】
Cl/Alモル比が上記範囲内であると、溶液のゲル化を起こさずPACの塩基度を向上できており、それにより何らかの特定の構造体を有するPACを均一に合成できるという理由から、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮できるものと推測される。
また、25℃における粘度が上記範囲内であると、溶液の増粘を伴わずPACの塩基度を向上できており、それにより何らかの特定の構造体を有するPACを均一に合成できるという理由から、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮できるものと推測される。
更に、塩基度が上記範囲内であると、付加した水酸基によってアルミニウム原子が正電荷を強く帯び、負電荷を持つ濁質を効率的に電荷中和することができるという理由から、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮できるものと推測される。
そして、Cl/Alモル比、25℃における粘度、塩基度がそれぞれ、同時に上記範囲内であると、強い正電荷を帯びた何らかの特性の構造体を有するPACが多量に含まれているという理由から、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮できるものと推測される。
【0028】
本明細書において、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
【0029】
<塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法>
本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法は、
塩酸と水酸化アルミニウムを100℃超大気圧以上で反応させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造する工程(1)、
前記工程(1)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃未満に冷却する工程(2)、
前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に、40℃未満でアルカリ剤を添加する工程(3)、並びに、
前記工程(3)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃以上に加熱して熟成する工程(4)
を含み、
任意のタイミングで、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源を添加する工程(X)を更に含み、
前記工程(3)においてアルカリ剤を添加する前の塩基性塩化アルミニウム水溶液に含まれるCl/Alモル比が1.9以上であり、
前記アルカリ剤が、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0030】
<<工程(1)>>
工程(1)では、塩酸(塩化水素の水溶液)と水酸化アルミニウムを100℃超大気圧以上で反応させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造する。これにより、以下の反応(以下の式は構造単位の反応式である)が進行し、塩基性塩化アルミニウム水溶液が製造される。
2Al(OH)+(6-n)HCl → Al(OH)Cl(6-n)+(6-n)H
【0031】
工程(1)は、公知の方法と同様に実施すればよいが、工程(3)において、40℃未満でアルカリ剤を添加する際にゲル化が生じるおそれがあるため、塩酸の量を多く使用することが好ましい。なお、前記の通り、工程(1)において使用する塩酸の量を増加させる代わりに、工程(3)を開始する前までの任意のタイミングで、塩化ナトリウム等の塩化物イオン源を塩基性塩化アルミニウム水溶液に添加してもよい。
【0032】
工程(1)において、使用する塩酸に含まれる塩素原子の、使用する水酸化アルミニウムに含まれるAl原子に対する比である、Cl/Alモル比は、1.9以上であり、好ましくは1.9~3.0、より好ましくは1.9~2.5、更に好ましくは1.9~2.3である。Cl/Alモル比を1.9以上とすることにより、40℃未満でアルカリ剤を添加した場合であってもゲル化を防ぐことが可能となる。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。よって、Cl/Alモル比が上記範囲内となるように、使用する塩酸の量を調整することが好ましい。なお、「Cl/Alモル比が1.9以上」との構成は、40℃未満でアルカリ剤を添加することに想到した場合に初めて想到する構成である。
本明細書において、Cl/Al(モル比)は、試料である塩基性塩化アルミニウムを硝酸で煮沸分解した後、過剰の硝酸銀溶液を加えて塩素イオンを塩化銀として沈殿させ、残った硝酸銀をチオシアン酸アンモニウム溶液で逆滴定して求めた塩素(Cl)含有量から算出したモル数と、JWWA K 154:2016水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して求めたアルミニウム含有量から算出したモル数との比である。
【0033】
水酸化アルミニウムとしては、従来公知のものであれば特に制限はないが、Al換算で59~66質量%のものを使用することが好ましい。このような水酸化アルミニウムの市販品として、例えば、日本軽金属株式会社製の標準水酸化アルミニウムB52、SB92を挙げることができる。また、塩酸として、30~37質量%の濃塩酸を用いることが好ましい。
【0034】
反応温度としては、好ましくは100℃超160℃以下、より好ましくは130~160℃であり、また、圧力は、好ましくは0.10(=大気圧)~0.50MPa、より好ましくは0.12~0.50MPaであり、更に、反応時間は、温度や圧力によっても変化するが、例えば2~24時間、好ましくは3~8時間程度である。温度や圧力が上記の下限値よりも低い場合には、工程(1)の反応が十分に進行しないおそれがあり、反対に、上限値を超える場合には、高温高圧にしても塩基度が向上しないにもかかわらず、装置の耐圧と耐熱が求められるため、高価な設備となってしまう傾向がある。なお、この反応は、温度及び圧力の調整が容易であること等の理由から、オートクレーブ装置を用いて行うことが好ましい。
【0035】
工程(1)では、反応液の撹拌を行うことが好ましい。これにより、より均一に反応を進行させることが可能となる。撹拌速度は特に限定されず、例えば、100~1500rpmである。撹拌の方法は特に限定されず、例えば、撹拌翼を使用すればよい。
【0036】
工程(1)により得られる塩基性塩化アルミニウム水溶液は、現実的な反応条件では、反応が塩基度55%程度、より具体的には、50%程度までしか進行しない。そのため、塩基度を更に向上させる工程を行う必要がある。なお、工程(1)により得られる塩基性塩化アルミニウム水溶液の塩基度は、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。
【0037】
工程(1)に用いる反応槽としては、特に限定されないが、塩素や酸による腐食が生じるおそれがあることから、金属等がガラスライニング又はゴムライニングされた反応槽が好ましい。以降の工程においても同様の理由から、工程(1)と同様の反応槽を使用することが好ましい。
【0038】
<<工程(2)>>
工程(2)では、前記工程(1)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃未満に冷却する。冷却後の温度は特に限定されないが、工程(3)における好ましい温度まで冷却すればよい。
【0039】
冷却方法は特に限定されず、例えば、室温以下に冷却された空気、窒素、アルゴン等のガスを用いる方法、室温以下に冷却された水、不凍液等の液体を用いる方法等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、ガスや液体などの媒体を反応槽の外側に接触させ冷却すればよい。
【0040】
冷却速度も特に限定されず、例えば、1~80℃/hであり、好ましくは5~50℃/hである。塩基性塩化アルミニウム水溶液の撹拌は、冷却効率をより向上させるため、撹拌を行うことが好ましい。撹拌速度、撹拌の方法は特に限定されず、工程(1)と同様である。
【0041】
<<工程(3)>>
工程(3)では、前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に、40℃未満でアルカリ剤を添加する。
【0042】
工程(3)においてアルカリ剤を添加する前の塩基性塩化アルミニウム水溶液(工程(3)においてアルカリ剤の添加を開始する際の塩基性塩化アルミニウム水溶液)に含まれるCl/Alモル比は、1.9以上であり、好ましくは1.9~3.0、より好ましくは1.9~2.5、更に好ましくは1.9~2.3である。Cl/Alモル比を1.9以上とすることにより、40℃未満でアルカリ剤を添加した場合であってもゲル化を防ぐことが可能となる。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。なお、「Cl/Alモル比が1.9以上」との構成は、40℃未満でアルカリ剤を添加することに想到した場合に初めて想到する構成である。
【0043】
アルカリ剤を添加する際の温度(塩基性塩化アルミニウム水溶液の温度)は、40℃未満であり、好ましくは35℃以下、より好ましくは30℃以下、更に好ましくは27℃以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、更に好ましくは20℃以上である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0044】
工程(3)において、アルカリ剤の添加を始めてから全てのアルカリ剤の添加が終了するまで、上記温度範囲内(前述のアルカリ剤を添加する際の好適な温度範囲内)であることが好ましい。これにより、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合が抑制された状態で、全てのアルカリ剤の添加が行われることとなり、本開示の効果がより好適に得られる傾向がある。
【0045】
工程(3)では、40℃未満でアルカリ剤を添加するが、塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法において添加される全アルカリ剤のうち、工程(3)において添加されるアルカリ剤の割合は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0046】
アルカリ剤は、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記の通り、この特定のアルカリ剤を使用することにより、炭酸を発生させながら、マイルドな条件下で塩基性塩化アルミニウム分子中のClをOHへ置換する反応が進行するため、比較的均一に塩基度の向上が可能である。
【0047】
アルカリ剤として、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム以外のアルカリ剤(他のアルカリ剤)を使用してもよい。他のアルカリ剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ここで、例えば、カルシウムなどの2価の金属を含む化合物を使用した場合、硫酸イオン源由来のSOと反応して析出するおそれがあるため、2価の金属を含む化合物は好ましくない。そのため、ナトリウムを含む化合物が好ましく、また、非常に反応性が高いという理由から、水酸化ナトリウムがより好ましい。水酸化ナトリウムを用いることにより、過酷な条件下で塩基性塩化アルミニウムのOH置換反応が進行することとなり、局所的に塩基度が高い箇所を設けることが可能となる。このように、炭酸ナトリウムや炭酸水素ナトリウムと共に水酸化ナトリウムを併用することにより、比較的均一に塩基度の向上をしつつ、局所的に塩基度が高い箇所を設けることが可能となり、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0048】
2種以上のアルカリ剤を使用する場合、同時に添加してもよく、どちらか一方を添加した後にもう一方を添加してもよい。また、順に添加する場合、いずれを先に添加するかも特に限定されない。
【0049】
アルカリ剤の添加量としては、上昇させる塩基度に応じて定められるが、前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に含有する塩基性塩化アルミニウム分子中のCl原子1モル当たり、好ましくは0.35~0.80当量、より好ましくは0.40~0.70当量である。
なお、置換するCl原子のモル数については、置換したCl原子のモル数だけ、OHのモル数が増加するとして、前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に含有する塩基性塩化アルミニウムの塩基度と最終的に必要な目標塩基度との差分から求めることができる。
【0050】
アルカリ剤において、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムの合計含有割合は、好ましくは60~100モル%、より好ましくは70~99モル%、更に好ましくは80~99モル%、特に好ましくは80~95モル%である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0051】
アルカリ剤において、水酸化ナトリウムの含有割合は、好ましくは1~40モル%、より好ましくは5~20モル%である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0052】
アルカリ剤は水溶液として添加することができる。アルカリ剤の濃度は目的とする塩基性塩化アルミニウムの濃度に依るが、好ましくは1~35質量%、より好ましくは5~30質量%である。
【0053】
アルカリ剤を添加する添加速度については適宜決定すればよいが、一度に過剰に添加することで反応が暴走したり、ゲル化したりすることを防ぐ観点から、1時間当たりAlの1モルに対してアルカリ剤を1.0~20モル添加することが好ましく、1.5~10モル添加することがより好ましい。塩基性塩化アルミニウム水溶液を常に攪拌しながら、アルカリ剤の添加を行うことが好ましい。
【0054】
また、アルカリ剤を添加する際には、必要添加量を複数回に分けて、アルカリ剤を添加することも好ましい。このとき、アルカリ剤の添加が休止されている間を含めて、塩基性塩化アルミニウム水溶液は常に攪拌しておくことが好ましい。このように、塩基性塩化アルミニウム水溶液を常に攪拌しながら、アルカリ剤の添加を行うことで、収率を落とさずに、生産性良く、高塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0055】
工程(3)では、塩基性塩化アルミニウム水溶液の撹拌を行うことが好ましい。撹拌速度、撹拌の方法は特に限定されず、工程(1)と同様である。
【0056】
<<工程(4)>>
工程(4)では、前記工程(3)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃以上に加熱して熟成する。これにより、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合反応が進行する。本開示では、前記工程(3)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液、すなわち、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合が抑制された状態で、アルカリ剤が添加された塩基性塩化アルミニウム水溶液を用いて塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合を行う点に特徴がある。これにより、従来技術とは、重合体の構造に何らかの違いが生じているものと推測される。
【0057】
工程(4)における塩基性塩化アルミニウム水溶液の温度は、40℃以上であるが、好ましくは45~80℃、より好ましくは50~75℃、更に好ましくは55~75℃である。これにより、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合反応がより好適に進行する。
【0058】
工程(4)における反応時間(熟成時間)は、特に限定されないが、好ましくは0.5~3時間、より好ましくは0.5~2時間である。これにより、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合反応がより好適に進行する。
【0059】
工程(4)では、塩基性塩化アルミニウム水溶液の撹拌を行うことが好ましい。撹拌速度、撹拌の方法は特に限定されず、工程(1)と同様である。
【0060】
<<工程(X)>>
本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法では、任意のタイミングで、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源を添加する工程(X)を行う。これにより、塩基性塩化アルミニウムに硫酸イオンが導入され、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0061】
本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法では、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源を添加し、塩基性塩化アルミニウムに硫酸イオンが導入されればよいため、工程(X)を行うタイミングは限定されない。例えば、工程(1)において工程(X)を同時に行ってもよく、工程(2)において塩基性塩化アルミニウム水溶液を冷却しながら工程(X)を同時に行ってもよく、同様に、工程(3)や工程(4)においても工程(X)を同時に行ってもよい。また、工程の間に行ってもよい。更には、工程(4)の終了後に工程(X)を行ってもよい。なかでも、工程(X)は、前記工程(1)の後かつ前記工程(4)の前に行うことが好ましく、工程(3)において行うことがより好ましい。工程(X)を工程(3)において行う場合、工程(3)は、前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に、40℃未満でアルカリ剤及び硫酸イオン源を添加する工程となる。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液をより好適に製造できる。
【0062】
硫酸イオン源を添加する際の温度(塩基性塩化アルミニウム水溶液の温度)は特に限定されず、好ましくは10~150℃、より好ましくは15~80℃である。前記の通り、工程(X)は、工程(3)において行うことが好ましいため、硫酸イオン源を添加する際の温度(塩基性塩化アルミニウム水溶液の温度)は、好ましくは40℃未満であり、より好ましくは35℃以下、更に好ましくは30℃以下、特に好ましくは27℃以下であり、下限は特に限定されないが、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、更に好ましくは20℃以上である。このように低温で硫酸イオン源を添加することにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0063】
工程(X)を工程(3)において行う場合、工程(3)において、アルカリ剤、硫酸イオン源の少なくとも一方の添加を始めてから全てのアルカリ剤及び硫酸イオン源の添加が終了するまで、上記温度範囲内(前述のアルカリ剤を添加する際の好適な温度範囲内)であることが好ましい。これにより、塩基性塩化アルミニウム(アルミニウム)の重合が抑制された状態で、全てのアルカリ剤及び硫酸イオン源の添加が行われることとなり、本開示の効果がより好適に得られる傾向がある。
【0064】
工程(X)を工程(3)において行う場合、工程(3)において、アルカリ剤及び硫酸イオン源の添加は、同時であってもよく、どちらか一方を添加した後にもう一方を添加してもよい。ここで、両者を同時に添加した場合、アルカリ剤と、硫酸もしくは硫酸イオン源の間で中和反応が生じるおそれがあるため、どちらか一方を添加した後にもう一方を添加することが好ましい。アルカリ剤及び硫酸イオン源のいずれを先に添加するかは特に限定されない。
【0065】
塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法において添加される全硫酸イオン源のうち、工程(3)において添加される硫酸イオン源の割合は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮する塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できる。
【0066】
硫酸イオン源としては、水中で硫酸イオンを放出できる化合物であれば特に限定されず、例えば、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸リチウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム等の硫酸塩;硫酸等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、硫酸塩が好ましく、硫酸アルミニウムがより好ましい。
【0067】
2種以上の硫酸イオン源を使用する場合、同時に添加してもよく、どちらか一方を添加した後にもう一方を添加してもよい。また、順に添加する場合、いずれを先に添加するかも特に限定されない。
【0068】
硫酸イオン源の添加量としては、塩基性塩化アルミニウム水溶液に含有する塩基性塩化アルミニウムのAl換算のアルミニウム含有量に対する比率(モル比、SO/Al)が、後述の好ましい数値範囲内となる量である。
【0069】
硫酸イオン源は水溶液として添加することができる。硫酸イオン源溶液の濃度は目的とする塩基性塩化アルミニウムの濃度に依るが、例えば硫酸塩が硫酸アルミニウムの場合、好ましくは10~40質量%、より好ましくは20~35質量%である。
【0070】
硫酸イオン源を添加する添加速度については、特に限定されない。一度に全量の硫酸イオン源を添加してもよい。
【0071】
工程(X)では、塩基性塩化アルミニウム水溶液の撹拌を行うことが好ましい。撹拌速度、撹拌の方法は特に限定されず、工程(1)と同様である。
【0072】
前記工程(1)~(4)、(X)により、塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造できるが、本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法は、本開示の効果を阻害しない範囲で、前記工程(1)~(4)、(X)以外にも他の工程を含有してもよい。
【0073】
本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法では、一つの反応槽で、塩基度が高い塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造することができるため、アルミナゲルと塩基性塩化アルミニウム水溶液を別々に製造し、後段で両者を混合・溶解する方法に比べて、製造コストを下げることができる。
【0074】
<塩基性塩化アルミニウム水溶液>
前記工程(1)~(4)を含む製造方法等により製造される、本開示の熟成後の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Cl/Alモル比が3.3~4.2、25℃における粘度が5.0~18mPa・s、塩基度が67%以上である。
【0075】
熟成後の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Cl/Alモル比が3.3~4.2であり、好ましくは3.4~4.0、より好ましくは3.5~3.8である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮できる。
本明細書において、Cl/Al(モル比)は、試料である塩基性塩化アルミニウムを硝酸で煮沸分解した後、過剰の硝酸銀溶液を加えて塩素イオンを塩化銀として沈殿させ、残った硝酸銀をチオシアン酸アンモニウム溶液で逆滴定して求めた塩素(Cl)含有量から算出したモル数と、JWWA K 154:2016水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して求めたアルミニウム含有量をAl換算して算出したモル数との比である。
【0076】
熟成後の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、25℃における粘度が5.0~18mPa・sであり、好ましくは5.0~15mPa・s、より好ましくは6.0~11mPa・s、更に好ましくは6.0~10mPa・sである。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮できる。
本明細書において、25℃における粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0077】
熟成後の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、塩基度が67%以上であり、好ましくは68%以上、より好ましくは69%以上、更に好ましくは70%以上、上限は特に限定されないが、本特許出願の出願時において、日本水道協会の水道用PACの塩基度の規格(JWWA K 154:2016)の上限値が75%であることから、好ましくは80%以下、より好ましくは78%以下、更に好ましくは76%以下、特に好ましくは75%以下である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮できる。
本明細書において、塩基度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0078】
熟成後の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Na/Alモル比が、好ましくは1.7~2.4、より好ましくは1.8~2.3、更に好ましくは1.9~2.2である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮できる。
本明細書において、Na/Alモル比は、原子吸光光度法により測定したNa含有量から算出したモル数と、JWWA K 154:2016水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して求めたアルミニウム含有量をAl換算して算出したモル数との比である。
【0079】
熟成後の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、SO(硫酸イオン)/Alモル比が、好ましくは0.010~0.30、より好ましくは0.10~0.30、更に好ましくは0.15~0.26である。これにより、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮できる。
本明細書において、SO(硫酸イオン)/Alモル比は、JWWA K 154:2016水道水用ポリ塩化アルミニウムのイオンクロマトグラフ法に準拠して測定したSO含有量から算出したモル数と、JWWA K 154:2016水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して求めたアルミニウム含有量をAl換算して算出したモル数との比である。
【0080】
熟成後の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Alの含有割合が、好ましくは9.0~12質量%、より好ましくは10~11質量%、更に好ましくは10~10.5質量%である。
本明細書において、Alの含有割合は、アルミニウム含有量をAl換算することにより算出され、実施例に記載の方法により測定される。
【0081】
熟成後の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、中性域及びアルカリ領域の両方において、より高い除濁率を発揮できる。すなわち、pH7.0の原水とpH8.5の原水のいずれに対しても、除濁率が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらにより好ましい。また、pH7.0の原水に対する除濁率と、pH8.5の原水に対しての除濁率の差分の絶対値が、5%以下であることが好ましく、3%以下であることが好ましく、2.5%以下であることが好ましい。本明細書において、除濁率は実施例に記載の方法により測定される。
【0082】
本開示の水処理用凝集剤は、本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液を含む。本開示の水処理用凝集剤は、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮できる。
【実施例0083】
以下、本開示の実施形態をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
まず、各評価方法について説明する。
【0085】
[塩基度]
塩基度は、JWWA K 154:2016水道水用ポリ塩化アルミニウムに準拠して測定した。
【0086】
[アルミニウム含有量(Al換算)]
アルミニウム含有量(Al換算)は、JWWA K 154:2016水道水用ポリ塩化アルミニウムの誘導結合プラズマ発光分光分析法に準拠して測定した。
【0087】
[塩素(Cl)含有量]
塩素含有量は、試料を硝酸で煮沸分解した後、一定量過剰の硝酸銀溶液を加え、塩素イオンを塩化銀として沈殿させ、残った硝酸銀をチオシアン酸アンモニウム溶液で逆滴定することで分析した。
【0088】
[ナトリウム(Na)含有量]
ナトリウム含有量は、原子吸光光度法により測定した。具体的には、塩基性塩化アルミニウム0.5gと濃硫酸1mLを100mLメスフラスコに入れて希釈し、得られた試料を原子吸光光度計により分析した。
【0089】
[硫酸イオン(SO)含有量]
硫酸イオン含有量は、JWWA K 154:2016水道水用ポリ塩化アルミニウムのイオンクロマトグラフ法に準拠して測定した。
【0090】
[粘度]
粘度は、JIS Z 8803:2011に記載の振動粘度計による粘度測定方法に準拠した振動式粘度計SV-10(株式会社エー・アンド・デイ社製)を用いて室温(25℃)にて測定した。なお、粘度が非常に高く、固体として取り扱えるような場合には、ゲル化したと判断した。一方、ゲル化していないものは、液外観が良好であると判断した。
【0091】
[pH]
卓上型pH計(F-2000PI-S HORIBA製)により測定した。本pH計ではガラス電極法を用いている。
【0092】
[除濁率]
山口県宇部市を流れる厚東川から取水した原水(pH7.8)に硫酸もしくは水酸化ナトリウムを添加してpHを7.0もしくは8.5に調整した原水(pH7.0もしくは8.5)の2種類の原水を使用した。また凝集試験にはジャーテスター(MIYAMOTO製MJS-4H)を用い、翼長65mm、翼幅17mmの攪拌翼2枚がついた攪拌機を用いた。
1Lの平底ガラスビーカーに1Lの原水を入れ、PACをAlとして2.0mgの注入量となるように添加し、100rpmで1分間攪拌する。1分後、回転数を60rpmとし、10分間攪拌する。10分後に回転を止め、フロックの沈降を妨げないようにして各攪拌翼を静かに引き上げる。10分間静置後、上澄み液を抜き取り、濁度を測定した。
除濁率(%)=(試験後の濁度/試験前の濁度)×100
【0093】
(実施例1)
オートクレーブを用いて、水酸化アルミニウムと塩酸(35質量%)を高温高圧下で反応(0.14MPa、140℃、6.0時間)させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を合成した(工程(1))。この際、Cl/Alモル比が表1に記載の値となるように、使用する水酸化アルミニウムと塩酸の量を調整した。表1に、この反応が終了した段階の塩基度を示した。その後、25℃まで塩基性塩化アルミニウム水溶液を冷却した(工程(2))後、炭酸ナトリウム水溶液(29.4質量%)を約1.5時間かけて25℃で添加(添加量:塩基性塩化アルミニウム水溶液に含有する塩基性塩化アルミニウム分子中のCl原子1モル当たり、0.60当量)した後、さらに硫酸アルミニウム水溶液(27.1質量%)も25℃で添加した(工程(3)、(X))。すべての炭酸ナトリウム水溶液及び硫酸アルミニウム水溶液を塩基性塩化アルミニウム水溶液に添加した後、60℃で1.0時間反応させ(工程(4))、塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造した。なお、全ての操作は溶液を撹拌しながら行った。得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を用いて、前記評価を実施し、結果を表1に示した。
【0094】
(実施例2~4、比較例1~5)
表1に示す条件に変更しつつ、実施例1と同様に、塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造した。なお、実施例2、4においては、アルカリ剤として、炭酸ナトリウム水溶液に加えて水酸化ナトリウム水溶液(10.7質量%)を使用した。得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を用いて、前記評価を実施し、結果を表1に示した。
【0095】
【表1】

【0096】
表1より、塩酸と水酸化アルミニウムを100℃超大気圧以上で反応させて塩基性塩化アルミニウム水溶液を製造する工程(1)、前記工程(1)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃未満に冷却する工程(2)、前記工程(2)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液に、40℃未満でアルカリ剤を添加する工程(3)、並びに、前記工程(3)で得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液を40℃以上に加熱して熟成する工程(4)を含み、任意のタイミングで、塩基性塩化アルミニウム水溶液に硫酸イオン源を添加する工程(X)を更に含み、前記工程(3)においてアルカリ剤を添加する前の塩基性塩化アルミニウム水溶液に含まれるCl/Alモル比が1.9以上であり、前記アルカリ剤が、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む、本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法により得られた、例えば、Cl/Alモル比が3.3~4.2、25℃における粘度が5.0~18mPa・s、塩基度が67%以上である本開示の塩基性塩化アルミニウム水溶液は、中性域及びアルカリ領域の両方において高い除濁率を発揮することが分かった。一方、工程(3)においてアルカリ剤を添加する前のCl/Alモル比が低いにもかかわらず、40℃未満でアルカリ剤を添加した比較例3はゲル化してしまった。また、工程(4)の温度が25℃と低い比較例4、5は、得られた塩基性塩化アルミニウム水溶液の粘度が高すぎるため、原水への投入の際に送液トラブルなどの支障をきたすおそれがあり、水処理用凝集剤としての使用に適さないと判断した。