IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 公立大学法人首都大学東京の特許一覧

特開2024-160835過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法
<>
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図1
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図2
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図3
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図4
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図5
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図6
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図7
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図8
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図9
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図10
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図11
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図12
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図13
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図14
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図15
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図16
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図17
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図18
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図19
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図20
  • 特開-過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160835
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/22 20060101AFI20241108BHJP
   B01J 35/54 20240101ALI20241108BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20241108BHJP
   C01B 5/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B01J31/22 M
B01J35/04 341
C01B13/02 B
C01B5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076250
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝山 章一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 莉奈
【テーマコード(参考)】
4G042
4G169
【Fターム(参考)】
4G042BA10
4G042BB06
4G169AA04
4G169AA08
4G169AA09
4G169BA22A
4G169BA22B
4G169BA22C
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC31A
4G169BC31C
4G169BC62A
4G169BC62B
4G169BC62C
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC66C
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD01C
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD02C
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD04C
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD06C
4G169BD09A
4G169BD09C
4G169BE14A
4G169BE14B
4G169BE14C
4G169BE15A
4G169BE15B
4G169BE15C
4G169BE36A
4G169BE38A
4G169CB81
4G169EA08
4G169FA01
4G169FA02
4G169FC02
(57)【要約】
【課題】過酸化水素の分解を触媒する活性を維持しつつ、水性溶液中でも分解が抑制された過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】固体支持体と、固体支持体に結合された、過酸化水素を酸素と水に分解する反応を触媒することが可能な複合体であって、イミダゾール環の3位の窒素が非置換であるか又は一部のイミダゾール環の3位の窒素にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾールと、ポルフィリン骨格の中心金属がマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子である金属ポルフィリン化合物とが結合されてなる複合体と、を備えた過酸化水素分解用複合材料。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体支持体と、
固体支持体に結合された、過酸化水素を酸素と水に分解する反応を触媒することが可能な複合体であって、イミダゾール環の3位の窒素が非置換であるか又は一部のイミダゾール環の3位の窒素にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾールと、ポルフィリン骨格の中心金属がマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子である金属ポルフィリン化合物とが結合されてなる複合体と、
を備えた過酸化水素分解用複合材料。
【請求項2】
前記複合体が前記固体支持体に非共有結合により結合され、前記ポリビニルイミダゾールと前記金属ポルフィリン化合物とが非共有結合により結合される、請求項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
【請求項3】
前記複合体が、下記式(4)で表される複合体である、請求項1又は2に記載の過酸化水素分解用複合材料。
【化1】
(式中、
mは、0≦m<1であり、
Rは、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルケニル基であり、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基から成る群より選択される少なくとも一つであり、
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4はそれぞれ独立して置換又は非置換のアリーレン基又は置換又は非置換の複素芳香環基であり、
Mはマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子であり、
は、COO又はSO である。)
【請求項4】
前記固体支持体は負に帯電しており、前記ポリビニルイミダゾールが前記固体支持体に非共有結合により結合されている、請求項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
【請求項5】
前記固体支持体は、過酸化水素を通過させる膜である、請求項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
【請求項6】
前記ポリビニルイミダゾールのアルキル基の導入率が1mol%~99mol%である、請求項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
【請求項7】
前記ポリビニルイミダゾールの数平均分子量は1000~100000である、請求項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
【請求項8】
生体試料中の過酸化水素の分解に使用される、請求項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
【請求項9】
過酸化水素分解用複合材料の製造方法であって、
工程(1):固体支持体に、下記(i)及び(ii)のうちの一方を結合させる工程
(i)イミダゾール環の3位の窒素が非置換であるか又は一部のイミダゾール環の3位の窒素にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾール
(ii)ポルフィリン骨格の中心金属がマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子である金属ポルフィリン化合物
、及び
工程(2):前記固体支持体に結合された前記(i)及び(ii)のうちの一方に、前記(i)及び(ii)のうちの他方を結合させる工程、を含み、
互いに結合された前記(i)のポリビニルイミダゾール及び前記(ii)の金属ポルフィリン化合物が、過酸化水素を酸素と水に分解する反応を触媒することが可能である、方法。
【請求項10】
前記工程(1)は、負に帯電した固体支持体を、前記ポリビニルイミダゾールと接触させることを含み、前記工程(2)は、前記ポリビニルイミダゾールと接触させた固体支持体を、金属ポルフィリン化合物と接触させることを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ポリビニルイミダゾールは、下記式(1)で表される化合物である、請求項8に記載の方法。
【化2】
(式中、
mは、0≦m<1であり、
Rは、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルケニル基であり、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基から成る群より選択される少なくとも一つである。)
【請求項12】
前記金属ポルフィリン化合物は、工程(1)において前記固体支持体と結合されるか、又は工程(2)において固体支持体に結合された前記ポリビニルイミダゾールと結合され、前記工程(1)又は工程(2)における結合前の金属ポルフィリン化合物は、下記式(3)で表される化合物である、請求項8に記載の方法。
【化3】
(式中、
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4はそれぞれ独立して置換又は非置換のアリーレン基又は置換又は非置換の複素芳香環基であり、
Mはマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子であり、
Yは、COOH、SOH、又はこれらのいずれかの塩である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素は老化や多くの生活習慣病にかかわっているとされ、生体内で発生した活性酸素との関連が示唆されている疾病は動脈硬化、心筋梗塞、がんのほかにも、パーキンソン病、アルツハイマー病、多発性硬化症、白内障、気管支喘息、潰瘍性大腸炎、糖尿病、自己免疫疾患などが挙げられる。
【0003】
過酸化水素(H)は活性酸素種(ROS)の代表分子であり、生体内のシグナル伝達に関与したり、抗原から身を守る役割がある一方、生体内に過剰量が存在すると、様々な重篤な疾患を引き起こす可能性が示唆されている。従って、H消去活性(カタラーゼ活性)を有する抗酸化酵素を用いて過剰なHを消去する事で、かかる疾患に対して有意な効果を示す可能性がある。
【0004】
本発明者らは、過酸化水素を酸素と水に分解するカタラーゼを模倣したバイオマテリアルの分子設計に取り組んできた。
【0005】
非特許文献1は、カルボキシメチルポリ(1-ビニルイミダゾール)(CM-PVIm)とMnM4Py4P又はMn P2Py4Pであるカチオン性Mnポルフィリンとの複合体を形成し、これらの複合体がHからO2を発生することを開示している。
【0006】
非特許文献2は、本発明者らの研究室で主に遺伝子キャリアとして用いられているポリ(1-ビニルイミダゾール)(PVIm)誘導体とアニオン性鉄ポルフィリン(Fe-TCPP)とをPBS溶液中で混合し、PVIm/Fe-TCPPでは過酸化水素から有意な酸素生成は確認されず、 1-メチルイミダゾール(Me-Im)とアニオン性鉄ポルフィリン(Fe-TCPP)では酸素生成が確認されたことを開示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】第62回高分子学会年次大会 予稿集 62号 ROMBUN NO.1 N23 2013年5月14日発行
【非特許文献2】第10回ポルフィリン-ALA学会年会 予稿集 p.34 2022年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来は、イミダゾール化合物の重合体と、カチオン性Mn(マンガン)ポルフィリン又アニオン性Fe(鉄)ポルフィリンとを水性溶液中で混合し、形成された複合体をカタラーゼ活性を示すことまでは確認できていたが、水系であるが故に、ポルフィリンが分解し、カタラーゼ活性を失うため、実用上は困難さがあった。
【0009】
本発明が解決すべき課題は、過酸化水素の分解を触媒する活性を維持しつつ、水性溶液中でも分解が抑制された過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ポリビニルイミダゾールと金属ポルフィリン化合物とを結合させて複合体を、固体支持体に対して結合することにより、かかる過酸化水素分解用複合材料を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.
固体支持体と、
固体支持体に結合された、過酸化水素を酸素と水に分解する反応を触媒することが可能な複合体であって、イミダゾール環の3位の窒素が非置換であるか又は一部のイミダゾール環の3位の窒素にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾールと、ポルフィリン骨格の中心金属がマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子である金属ポルフィリン化合物とが結合されてなる複合体と、
を備えた過酸化水素分解用複合材料。
項2.
前記複合体が前記固体支持体に非共有結合により結合され、前記ポリビニルイミダゾールと前記金属ポルフィリン化合物とが非共有結合により結合される、項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
項3.
前記複合体が、下記式(4)で表される複合体である、項1又は2に記載の過酸化水素分解用複合材料。
【0012】
【化1】
【0013】
(式中、
mは、0≦m<1であり、
Rは、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルケニル基であり、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基から成る群より選択される少なくとも一つであり、
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4はそれぞれ独立して置換又は非置換のアリーレン基又は置換又は非置換の複素芳香環基であり、
Mはマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子であり、
は、COO又はSO である。)
項4.
前記固体支持体は負に帯電しており、前記ポリビニルイミダゾールが前記固体支持体に非共有結合により結合されている、項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
項5.
前記固体支持体は、過酸化水素を通過させる膜である、項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
項6.
前記ポリビニルイミダゾールのアルキル基の導入率が1mol%~99mol%である、項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
項7.
前記ポリビニルイミダゾールの数平均分子量は1000~100000である、項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
項8.
生体試料中の過酸化水素の分解に使用される、項1に記載の過酸化水素分解用複合材料。
項9.
過酸化水素分解用複合材料の製造方法であって、
工程(1):固体支持体に、下記(i)及び(ii)のうちの一方を結合させる工程
(i)イミダゾール環の3位の窒素が非置換であるか又は一部のイミダゾール環の3位の窒素にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾール
(ii)ポルフィリン骨格の中心金属がマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子である金属ポルフィリン化合物
、及び
工程(2):前記固体支持体に結合された前記(i)及び(ii)のうちの一方に、前記(i)及び(ii)のうちの他方を結合させる工程、を含み、
互いに結合された前記(i)のポリビニルイミダゾール及び前記(ii)の金属ポルフィリン化合物が、過酸化水素を酸素と水に分解する反応を触媒することが可能である、方法。
項10.
前記工程(1)は、負に帯電した固体支持体を、前記ポリビニルイミダゾールと接触させることを含み、前記工程(2)は、前記ポリビニルイミダゾールと接触させた固体支持体を、金属ポルフィリン化合物と接触させることを含む、項8に記載の方法。
項11.
前記ポリビニルイミダゾールは、下記式(1)で表される化合物である、項8に記載の方法。
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、
mは、0≦m<1であり、
Rは、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルケニル基であり、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基から成る群より選択される少なくとも一つである。)
項12.
前記金属ポルフィリン化合物は、工程(1)において前記固体支持体と結合されるか、又は工程(2)において固体支持体に結合された前記ポリビニルイミダゾールと結合され、前記工程(1)又は工程(2)における結合前の金属ポルフィリン化合物は、下記式(3)で表される化合物である、項8に記載の方法。
【0016】
【化3】
【0017】
(式中、
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4はそれぞれ独立して置換又は非置換のアリーレン基又は置換又は非置換の複素芳香環基であり、
Mはマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子であり、
Yは、COOH、SOH、又はこれらのいずれかの塩である。)
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、過酸化水素の分解を触媒する活性を維持しつつ、水性溶液中でも分解が抑制された過酸化水素分解用複合材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】過酸化水素分解用複合材料を用いた血液透析の略図。
図2】PVImの1HNMR スペクトル。
図3】PVImのGFC測定のグラフ。
図4】PVIm-Me(25) の1HNMRスペクトル。
図5】PVIm-Me(64) の1HNMRスペクトル。
図6】PVIm-Me(81) の1HNMRスペクトル。
図7】CM(35)-PVIm の1HNMRスペクトル。
図8】PVIm-Oc(23)の1HNMRスペクトル。
図9】APPyPの1HNMRスペクトル。
図10】Mn-APPyP 溶液のUV-Visスペクトル。
図11】各種PVIm-Meと接触させた膜のUV-Visスペクトル。
図12】(A)-(D)各PVIm-Me及びMn-TCPPと接触させた膜のUV-Visスペクトル。(A)PVIm-Me(20)/Mn-TCCP、(B)PVIm-Me(25)/Mn-TCCP、(C)PVIm-Me(64)/Mn-TCCP、(D)PVIm-Me(81)/Mn-TCCP
図13】PVIm-Oc と接触させた膜(PVIm-Oc(23))のUV-Visスペクトル。
図14】PVIm-Oc 及びMn-TCPPと接触させた膜(PVIm-Oc(23)/Mn-TCCP)のUV-Visスペクトル。
図15】PVIm誘導体及びMn-TCPPの吸着量。
図16】PVIm誘導体及びFe-TCPPの吸着量。
図17】各種透析膜からの酸素生成量。
図18】(A)-(F)透析前後の各種膜のUV-Visスペクトル。
図19】(A)-(C)ミクロ透析装置の写真。
図20】各種膜を用いた透析後の過酸化水素濃度。
図21】FBSの存在下での各種膜による過酸化水素からの酸素生成。PVIm-Me(25)/Mn-TCPP in 10% FBS: 過酸化水素を加えて10%FBSの存在下でPVIm-Me(25)/Mn-TCPP膜をインキュベート、PVIm-Me(25)/Mn-TCPP in water:過酸化水素を加えて10%FBSの不在下でPVIm-Me(25)/Mn-TCPP膜をインキュベート、Non-adsorbed in 10% FBS:過酸化水素を加えて10%FBSの存在下でPVIm-Me(25)/Mn-TCPPを吸着させないコントロール膜をインキュベート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書において、「含有する(comprise)」は、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0021】
本明細書において、「非共有結合」は、静電的相互作用(イオン結合ともいう)、水素結合、ファンデルワールス力、疎水性相互作用、配位結合を含む分子間相互作用を指す。
【0022】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。更に、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0023】
本明細書において、ポリビニルイミダゾールの各イミダゾール環の2つの窒素のうち、ポリビニル鎖の炭素に結合している窒素を1位の窒素と称し、ポリビニル鎖の炭素と結合していない窒素を3位の窒素と称する。
【0024】
本明細書において、金属ポルフィリン化合物とは、ポルフィリン骨格の中心に金属が結合している化合物を指す。
【0025】
本発明の一態様によれば、固体支持体と、固体支持体に結合された、過酸化水素を酸素と水に分解する反応を触媒することが可能な複合体であって、イミダゾール環の3位の窒素が非置換であるか又は一部のイミダゾール環の3位の窒素にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾールと、ポルフィリン骨格の中心金属がマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子である金属ポルフィリン化合物とが結合されてなる複合体と、を備えた過酸化水素分解用複合材料が提供される。
【0026】
固体支持体としては、膜、帯電紙、ビーズ、及び任意の他の種類の固体支持体が挙げられるが、これらに限定されない。固体支持体は、複合体との非共有による結合を可能とするために、少なくとも表面が負又は正に帯電する材料から形成されることが好ましい。固体支持体は、単一種類の帯電性の材料であってもよいし、帯電性又は非帯電性の第1の材料の上に、第1の材料とは異なる帯電性の第2の材料が被覆されたものであってもよい。固体支持体は、例えば、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ポリエステル、ポリスルホン、ナイロンから形成される。ニトロセルロース、酢酸セルロース、ポリエステル、ポリスルホンは負に帯電し、ナイロンは正に帯電する。これらの材料から形成された膜は、市販品を利用可能である。
【0027】
一実施形態において、固体支持体は、過酸化水素を通過させる膜である。このような構成によれば、固体支持体は、過酸化水素を膜を通過させて除去することができるため、過酸化水素の拡散と濾過の両方を行うことができる点で有利である。
【0028】
ポリビニルイミダゾールは、通常、それ自体では過酸化水素を酸素と水に分解する作用を有しない。イミダゾール環の3位の窒素が非置換であるか又は一部のイミダゾール環の3位の窒素にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾールと金属ポルフィリン化合物とが結合されてなる複合体は、過酸化水素を酸素と水に分解する反応を触媒することが可能であるが、水又は水溶液のような水性溶液中に放置すると、金属ポルフィリン化合物が時間と共に分解し、触媒活性を維持できなくなる。
【0029】
本発明の実施形態の過酸化水素分解用複合材料では、ポリビニルイミダゾールと金属ポルフィリン化合物とが結合されてなる複合体を、固体支持体に結合しているため、複合体の触媒活性を維持しつつ、分解を抑制することができる。
【0030】
上記複合体と上記固体支持体は、非共有結合により結合されてもよいし、共有結合により結合されてもよい。好ましくは、上記複合体と上記固体支持体は、非共有結合により結合される。複合体中のポリビニルイミダゾールと金属ポルフィリン化合物は、非共有結合により結合されてもよいし、共有結合により結合されてもよい。好ましくは、複合体中のポリビニルイミダゾールと金属ポルフィリン化合物は、非共有結合により結合される。
【0031】
好ましい実施形態では、過酸化水素分解用複合材料において、上記複合体が上記固体支持体に非共有結合により結合され、上記ポリビニルイミダゾールと上記金属ポルフィリン化合物とが非共有結合により結合される。
【0032】
例えば、固体支持体が負に帯電した固体支持体である場合、複合体中のポリビニルイミダゾールがイオン結合及び/又は水素結合を含む非共有結合により固体支持体に結合される。あるいは、固体支持体が正に帯電した固体支持体である場合、複合体中の金属ポルフィリン化合物がイオン結合及び/又は水素結合を含む非共有結合により固体支持体に結合される。
【0033】
一実施形態において、ポリビニルイミダゾールのイミダゾール環の3位の窒素に置換基が結合している場合、置換基上記ポリビニルイミダゾールのイミダゾール環の3位の窒素に結合している置換基は、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルケニル基であって、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基から成る群より選択される少なくとも一つである。一分子のポリビニルイミダゾールにおいて、イミダゾール環の3位の窒素に結合している置換基は一種類であってもよいし、二種類以上であってもよい。
【0034】
一実施形態において、上記置換基は、非置換の炭素数1~20のアルキル基である。さらなる実施形態において、上記置換基は非置換の炭素数1~12のアルキル基である。さらなる実施形態において、上記置換基は非置換の炭素数1~6のアルキル基である。
【0035】
別の実施形態において、上記置換基は非置換の炭素数1~20のアルケニル基である。さらなる実施形態において、上記置換基は非置換の炭素数1~12のアルケル基である。さらなる実施形態において、上記置換基は非置換の炭素数1~6のアルケニル基である。
【0036】
炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、一つのアルキル基又はアルケニル基中の置換基の数は、特に限定されないが、1~3個であることが好ましい。
【0037】
一つの実施形態において、上記置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、又はアミド基で置換された炭素数1~20のアルキル基である。さらなる実施形態において、上記置換基は炭素数1~20のカルボキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、又はアミドアルキル基である。
【0038】
一つの実施形態において、上記置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基で置換された炭素数1~20のアルケニル基である。さらなる実施形態において、上記置換基は炭素数1~20のカルボキシアルケニル基、ヒドロキシアルケニル基、アミノアルケニル基、又はアミドアルケニル基である。
【0039】
一実施形態において、上記複合体を形成するポリビニルイミダゾールは、下記式(1)で表される化合物である。
【0040】
【化4】
【0041】
(式中、
mは、0≦m<1であり、
Rは、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルケニル基であり、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基から成る群より選択される少なくとも一つである。)
【0042】
mが0の場合、イミダゾール環の3位の窒素が非置換であり、0<m<1の場合、一部のイミダゾール環の3位の窒素にアルキル基又はアルケニル基が結合している。
【0043】
Rは、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が大きいほど疎水性が高くなるため、固体支持体への結合又は吸着が大きくなるが、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が大きいと、Rが占める空間が大きくなり、官能基の立体障害により金属ポルフィリン化合物へは結合しにくくなる。このため、Rのアルキル基又はアルケニル基の炭素数は1~20であることが好ましい。
【0044】
一つの実施形態において、Rは非置換の炭素数1~20のアルキル基である。さらなる実施形態において、Rは非置換の炭素数1~12のアルキル基である。さらなる実施形態において、Rは非置換の炭素数1~6のアルキル基である。
【0045】
別の実施形態において、Rは非置換の炭素数1~20のアルケニル基である。さらなる実施形態において、Rは非置換の炭素数1~12のアルケル基である。さらなる実施形態において、Rは非置換の炭素数1~6のアルケニル基である。
【0046】
炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、一つのアルキル基又はアルケニル基中の置換基の数は、特に限定されないが、1~3個であることが好ましい。
【0047】
一つの実施形態において、Rはカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、又はアミド基で置換された炭素数1~20のアルキル基である。さらなる実施形態において、Rは炭素数1~20のカルボキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、又はアミドアルキル基である。
【0048】
一つの実施形態において、Rはカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基で置換された炭素数1~20のアルケニル基である。さらなる実施形態において、Rは炭素数1~20のカルボキシアルケニル基、ヒドロキシアルケニル基、アミノアルケニル基、又はアミドアルケニル基である。
【0049】
式(1)で表される化合物は、R基による修飾があるところが多い方が、金属ポルフィリン化合物との結合箇所が増えて有利であるが、一方で、電荷が増えると親水性が高くなり、固体支持体から外れやすくなる。このため、ある程度は疎水性である方がよいと考えられる。固体支持体に対する結合の点で、mは0.05≦m≦0.95であることが好ましく、0.10≦m≦0.90であることが好ましい。式(1)で表される化合物の疎水性の点では、mが0.50以下(m≦0.50)であることがより好ましい。固体支持体に対する結合の点で、特定の好ましい実施形態では、0.10≦m≦0.40である。
【0050】
上記複合体を形成するポリビニルイミダゾールの分子量は特に限定されないが、固体支持体に対する複合体の結合の均一性と安定の点から、数平均分子量で1000~100000であることが好ましい。
【0051】
金属ポルフィリン化合物は、X-ポルフィリン化合物(Xは金属)と表記することもでき、ポルフィリン環を有する化合物の4つの窒素にX(金属)が結合した錯体化合物を指す。
例えば、Mn-ポルフィリン化合物は、ポルフィリン環を有する化合物の4つの窒素にマンガンが結合した錯体化合物を指す。Fe-ポルフィリン化合物とは、ポルフィリン環を有する化合物の4つの窒素に鉄が結合した錯体化合物を指す。
【0052】
一実施形態において、上記複合体を形成する金属ポルフィリン化合物は、下記式(2)で表される化合物である。
【0053】
【化5】
【0054】
(式中、
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4はそれぞれ独立して置換又は非置換のアリーレン基又は置換又は非置換の複素芳香環基であり、
Mはマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子であり、
は、COO又はSO である。)
【0055】
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4は同一であってもよいし、2種類以上の異なる基であってもよい。一つの好ましい実施形態において、Ar、Ar2、Ar3、及びAr4は同一である。
【0056】
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4が置換又は非置換のアリーレン基である場合、アリール基の炭素数は好ましくは6~14である。Ar、Ar2、Ar3、及びAr4が置換されたアリーレン基である場合、置換基は炭素数1~4のアルキル基及びハロゲンからなる群から選択される少なくとも1つの置換基である。炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、例えばフッ素、塩素、臭素又はヨウ素などが挙げられる。
【0057】
炭素数6~14のアリール基としては、例えばフェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、4-ビフェニリル基、3,5-ターフェニリル基、1-アントリル基、2-アントリル基、9-アントリル基、1-フェナントレニル基、2-フェナントレニル基、3-フェナントレニル基、4-フェナントレニル基、9-フェナントレニル基、1-フルオレニル基、2-フルオレニル基、3-フルオレニル基、4-フルオレニル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-1-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-2-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-3-イル基、9,9-ジメチル-9H-フルオレン-4-イル基、1-ピレニル基、2-ピレニル基、9-ピレニル基、1-トリフェニレニル基又は2-トリフェニレニル基などが挙げられる。式(2)で表される化合物の合成が容易な点で、フェニル基が好ましい。
【0058】
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4が置換又は非置換の複素芳香族基である場合、複素芳香族基の炭素数は好ましくは炭素数3~18である。Ar、Ar2、Ar3、及びAr4が置換された複素芳香族基である場合、置換基は炭素数1~4のアルキル基及びハロゲンからなる群から選択される少なくとも1つの置換基である。炭素数1~4のアルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状アルキル基のいずれでもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、2-メチルプロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素などが挙げられる。
【0059】
炭素数3~18の複素芳香族基としては、例えば2-フラニル基、3-フラニル基、2-チエニル基、3-チエニル基、1-ピロリル基、2-ピロリル基、3-ピロリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基、2-キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、6-キノリル基、7-キノリル基、8-キノリル基、2-ベンゾフラニル基、3-ベンソフラニル基、2-ベンゾチエニル基、3-ベンソチエニル基、1-インドリル基、2-インドリル基、3-インドリル基、1-カルバゾイル基、2-カルバゾイル基、3-カルバゾイル基、4-カルバゾイル基、9-フェニル-9H-カルバゾール-1-イル基、9-フェニル-9H-カルバゾール-2-イル基、9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル基、9-フェニル-9H-カルバゾール-4-イル基、ジベンゾフラン-2-イル基、ジベンゾフラン-3-イル基、ジベンゾフラン-4-イル基、ジベンゾチオフェン-2-イル基、ジベンゾチオフェン-3-イル基、ジベンゾチオフェン-4-イル基などが挙げられる。
式(2)で表される化合物の合成が容易な点で、2-ピリジル基、3-ピリジル基、又は4-ピリジルが好ましく、回転異性体が生じない点で、4-ピリジル基が特に好ましい。
【0060】
Mは、固体支持体への吸着量の点で、マンガン原子又は鉄原子が好ましく、マンガン原子がより好ましい。
【0061】
一実施形態において、複合体が、下記式(4)で表される複合体であってもよい。
【0062】
【化6】
【0063】
(式中、
mは、0≦m<1であり、
Rは、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルケニル基であり、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基から成る群より選択される少なくとも一つであり、
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4はそれぞれ独立して置換又は非置換のアリーレン基又は置換又は非置換の複素芳香環基であり、
Mはマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子であり、
は、COO又はSO である。)
【0064】
m、R、Ar、Ar2、Ar3、及びAr4の詳細については式(1)及び式(2)の化合物に関して説明した通りである。
【0065】
一実施形態において、ポリビニルイミダゾールのアルキル基の導入率は0mol%~99mol%である。さらなる実施形態において、複合体は、下記式(4)で表される複合体であり、式(4)のRはアルキル基であり、上記ポリビニルイミダゾールのアルキル基の導入率は0mol%~99mol%(mが0.01~0.99)である。
【0066】
一実施形態において、ポリビニルイミダゾールの一部のイミダゾール環の3位の窒素にはアルキル基が結合しており、上記ポリビニルイミダゾールのアルキル基の導入率は1mol%~99mol%である。さらなる実施形態において、複合体は、下記式(4)で表される複合体であり、式(4)のRはアルキル基であり、上記ポリビニルイミダゾールのアルキル基の導入率は1mol%~99mol%(mが0.01~0.99)である。
【0067】
本発明の実施形態の過酸化水素分解用複合材料は、過酸化水素を分解する用途に広く使用することができる。例えば、本発明の実施形態の過酸化水素分解用複合材料は、生体試料中の過酸化水素の分解に使用することができる。生体試料としては、血液(全血、血清、血漿)、尿、リンパ液などが挙げられるがこれらに限定されない。生体試料を、本発明の実施形態の過酸化水素分解用複合材料と接触させることにより、過酸化水素を酸素と水素に分解することができる。
【0068】
本発明の実施形態の過酸化水素分解用複合材料は、生体外で用いてもよいし、生体内で用いてもよい。生体外で用いる場合、本発明の実施形態の過酸化水素分解用複合材料を透析膜のように使用し、ヒト等の生体から採取した生体試料を過酸化水素分解用複合材料と接触させ、接触させた後の生体試料を生体に戻してもよい。例えば、腎臓病患者の血液透析に本発明の実施形態の過酸化水素分解用複合材料を使用することもできる(図1)。本発明の実施形態の過酸化水素分解用複合材料10は透析膜として作用し、血液透析中に血液と過酸化水素分解用複合材料と接触させ、有害な過酸化水素を不均化し、水と酸素まで無毒化することができる。
【0069】
一実施形態において、過酸化水素分解用複合材料は、1mM Hを複合材料に通過させると、通過前に比べて、Hの濃度が約750μM以下に減少する複合材料である。
【0070】
別の実施形態において、過酸化水素分解用複合材料は、1mM Hを複合材料に通過させると、複合体を含まない対照材料に比べて、Hの濃度が約75%以下に減少する複合材料である。
【0071】
別の実施形態において、過酸化水素分解用複合材料は、1mM Hを複合材料に通過させると、O発生量が通過開始後に、約18μM以上になる複合材料である。O発生量は、複合材料を通過開始後の任意の時点で約18μM以上になればよい。
【0072】
別の実施形態において、過酸化水素分解用複合材料は、1mMHを複合材料に通過させると、複合体を含まない対照材料に比べて、O発生量が通過開始後に、106倍以上であり、好ましくは1012倍以上になる複合材料である。
【0073】
別の実施形態において、過酸化水素分解用複合材料は、1mMHを複合材料に通過させて一回使用した後のUV可視スペクトルにおける金属ポルフィリンに対応する波長の吸光度が、未使用時のUV可視スペクトルにおける金属ポルフィリンに対応する波長の吸光度と比較して、変化率が10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下、さらに好ましくは10-12%以下である複合材料である。なお、変化率は{(未使用時のUV可視スペクトルにおける金属ポルフィリンに対応する波長の吸光度)-(一回使用した後のUV可視スペクトルにおける金属ポルフィリンに対応する波長の吸光度)}/(未使用時のUV可視スペクトルにおける金属ポルフィリンに対応する波長の吸光度)*100で計算される。
【0074】
本発明の一態様によれば、過酸化水素分解用複合材料の製造方法であって、
工程(1):固体支持体に、下記(i)及び(ii)のうちの一方を結合させる工程
(i)イミダゾール環の3位の窒素が非置換であるか又は一部のイミダゾール環の3位の窒素にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾール
(ii)ポルフィリン骨格の中心金属がマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子である金属ポルフィリン化合物
、及び
工程(2):前記固体支持体に結合された前記(i)及び(ii)のうちの一方に、前記(i)及び(ii)のうちの他方を結合させる工程、を含み、
互いに結合された前記(i)のポリビニルイミダゾール及び前記(ii)の金属ポルフィリン化合物が、過酸化水素を酸素と水に分解する反応を触媒することが可能である、方法が提供される。
【0075】
ポリビニルイミダゾールのイミダゾール環の3位の窒素は、非置換であってもよいし、アルキル基又はアルケニル基で置換されていてもよい。
【0076】
一部のイミダゾール環の窒素3位にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾールは、ポリビニルイミダゾールと、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルケニルとを、適切な比で脱水DMF 3 mlに溶解、反応させ、反応生成物を必要に応じて公知の精製方法(例、透析、沈殿精製、ゲルろ過など)で精製し、必要に応じて公知の乾燥方法(例、自然乾燥、凍結乾燥、真空乾燥など)で乾燥することにより製造することができる。代わりに、一部のイミダゾール環の窒素3位にアルキル基又はアルケニル基が結合しているポリビニルイミダゾールはAsayama et al. Bioconjugate Chem. 2010, 21, 646-652に記載の方法に従って製造することもできる。
【0077】
金属ポルフィリン化合物はHarada et al. Inorg. Chem. 1997, 36, 6099-6102に記載の方法などの公知の製造方法により製造したり、市販品を利用することができる。例えば、Mn-ポルフィリン化合物は、ポルフィリン化合物を含む水溶液に酢酸マンガン(II)四水和物を、Fe-ポルフィリン化合物は、ポルフィリン化合物を含む水溶液に塩化鉄(FeCl3)水和物を加え、一定温度で一定時間インキュベートして錯体を形成し、反応生成物を必要に応じて公知の精製方法(例、透析、沈殿精製、ゲルろ過など)で精製し、必要に応じて公知の乾燥方法(例、自然乾燥、凍結乾燥、真空乾燥など)で乾燥することにより製造することができる。
インキュベートの温度は特に限定されないが、例えば4~50℃である。インキュベート時間は特に限定されないが、例えば30分~24時間である。
【0078】
工程(1)において、上記固体支持体と、(i)及び(ii)のうちの一方は、非共有結合により結合されてもよいし、共有結合により結合されてもよい。好ましくは、上記固体支持体と、(i)及び(ii)のうちの一方は、非共有結合により結合される。
【0079】
工程(2)において、固体支持体に結合された前記(i)及び(ii)のうちの一方と、(i)及び(ii)のうちの他方とは、非共有結合により結合されてもよいし、共有結合により結合されてもよい。好ましくは、固体支持体に結合された前記(i)及び(ii)のうちの一方と、(i)及び(ii)のうちの他方とは、非共有結合により結合される。
【0080】
好ましい実施形態では、工程(1)において、固体支持体と、(i)及び(ii)のうちの一方は、非共有結合により結合され、工程(2)において、固体支持体に結合された(i)及び(ii)のうちの一方と、(i)及び(ii)のうちの他方とは、非共有結合により結合される。
【0081】
一実施形態において、前記工程(1)は、負に帯電した固体支持体を、前記ポリビニルイミダゾールと接触させることを含み、前記工程(2)は、前記ポリビニルイミダゾールと接触させた固体支持体を、金属ポルフィリン化合物と接触させることを含む。このように、分子間の静電的相互作用を利用して、固体支持体の上に第1の分子を結合させ、かかる第1の分子に第2の分子を順次結合させていくことで、layer-by-layerで、複合体を固体支持体に非共有結合的に結合することができる。工程(1)及び工程(2)は水性溶液中で行われてもよい。
【0082】
別の実施形態において、前記工程(1)は、正に帯電した固体支持体を、前記金属ポルフィリン化合物と接触させることを含み、前記工程(2)は、前記金属ポルフィリン化合物と接触させた固体支持体を、ポリビニルイミダゾールと接触させることを含む。この場合も、layer-by-layerで、複合体を固体支持体に非共有結合的に結合することができる。工程(1)及び工程(2)は水性溶液中で行われてもよい。
【0083】
一実施形態において、前記ポリビニルイミダゾールは、下記式(1)で表される化合物である。
【0084】
【化7】
【0085】
(式中、
mは、0≦m<1であり、
Rは、置換されていてもよい炭素数1~20のアルキル基又は置換されていてもよい炭素数1~20のアルケニル基であり、炭素数1~20のアルキル基又は炭素数1~20のアルケニル基が置換されている場合、置換基はカルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、及びアミド基から成る群より選択される少なくとも一つである。)
【0086】
式(1)で表される化合物の詳細については上記に説明した通りである。
【0087】
一実施形態において、前記金属ポルフィリン化合物は、工程(1)において前記固体支持体と結合されるか、又は工程(2)において固体支持体に結合された前記ポリビニルイミダゾールと結合され、前記工程(1)又は工程(2)における結合前の金属ポルフィリン化合物は、下記式(3)で表される化合物である。
【0088】
【化8】
【0089】
(式中、
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4はそれぞれ独立して置換又は非置換のアリーレン基又は置換又は非置換の複素芳香環基であり、
Mはマンガン原子、鉄原子、銅原子、又はセレン原子であり、
Yは、-COOH、-SOH、又はこれらのいずれかの塩である。)
【0090】
Ar、Ar2、Ar3、及びAr4については式(2)に関して説明した通りである。
【0091】
YがCOOH又はSOHの塩である場合、金属塩(例、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩)であってよいし、非金属塩(例、アンモニウム塩、グアニジニウム塩など)であってもよい。
【0092】
本明細書中に引用されているすべての特許出願および文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0093】
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、試薬は、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製する。
【実施例0094】
1.ポリビニルイミダゾール(PVIm)誘導体の合成
製造例1 ポリビニルイミダゾール(PVIm)の合成
バイアル瓶にてアゾビスイソブチロニトリル (AIBN) 99.2 mg (0.61 mmol)、1-ビニルイミダゾール (VIm) (11 mmol) 2 mlを脱水N,N-ジメチルホルムアミド (DMF) 10 mlに溶解させた。 窒素バブリングを約3時間行い、次に、ウォーターバスで65℃、約24時間インキュベートした。アセトンで再沈殿を行い、上澄み液を取り除き、遠心分離機(3℃、1×105rpm、10分)で分離させ、更に上澄み液を取り除き洗浄した。沈殿を水に溶かし、MWCO1000の市販の再生セルロース製の透析膜で2日間透析を行った。次に、凍結乾燥を3日間行った。
【0095】
得られた生成物を重水600 μLに溶かし、1H NMR測定した。また、1.0 mg/mLのPVIm溶液を調製し、GFC測定を行った(キャリア:0.5M CH3COOH, 0.2M NaNO3)。
【0096】
1H NMRの結果を図2に示す。プロトンの積分値による帰属により、合成の進行を確認した。GFC測定の結果を図3に示す。重合したPVImの分子量はMw = 6.6×103(Mw/Mn = 4.1)であった。以下、本実施例の製造例においてGFC測定結果からのポリマーの分子量は、単分散PEGを用いて検量線を作成して算出した。
【0097】
以下の製造例及び実施例では、特に断りのない限り、膜としてMWCO1000の再生セルロース製の膜を使用した。
【0098】
製造例2 メチル化ポリビニルイミダゾール(PVIm-Me(25))の合成
バイアル瓶にてPVIm 53.0 mg (繰り返し単位:94 g/mol, 1.1 mmol)、ヨードメタン 7.6 μl (141.9 g/mol、2.28 g/cm3、23 mol%、0.23 mmol) を脱水DMF 3 mlに溶解させ、室温で約24時間撹拌した。MWCO1000の透析膜を使用して3日間透析を行った。次に、凍結乾燥を2日間行った。
【0099】
得られた生成物を重水600 μLに溶かし、1H NMR測定した。1HNMRの結果を図4に示す。プロトンの積分値による帰属により、合成の進行を確認した。修飾率は、25 mol%となった。
【0100】
製造例3 メチル化ポリビニルイミダゾール(PVIm-Me(64))の合成
バイアル瓶にてPVIm 106.6 mg (繰り返し単位:94 g/mol, 1.1 mmol)、ヨードメタン 42.0 μl (141.9 g/mol、2.28 g/cm3、63 mol%、0.63 mmol) を脱水DMF 3 mlに溶解させ、室温で約24時間撹拌した。MWCO1000の透析膜を使用して3日間透析を行った。次に、凍結乾燥を2日間行った。
【0101】
得られた生成物を重水600 μLに溶かし、1H NMR測定した。1HNMRの結果を図5に示す。プロトンの積分値による帰属により、合成の進行を確認した。修飾率は、64 mol%となった。
【0102】
製造例4 メチル化ポリビニルイミダゾール(PVIm-Me(81))の合成
バイアル瓶にてPVIm 49.7 mg (繰り返し単位:94 g/mol, 1.1 mmol)、ヨードメタン 26.3 μl (141.9 g/mol、2.28 g/cm3、85 mol%、0.85 mmol) を脱水DMF 3 mlに溶解させ、室温で約24時間撹拌した。MWCO1000の透析膜を使用して3日間透析を行った。次に、凍結乾燥を2日間行った。
【0103】
得られた生成物を重水600 μLに溶かし、1H NMR測定した。1HNMRの結果を図6に示す。プロトンの積分値による帰属により、合成の進行を確認した。修飾率は、81 mol%となった。
【0104】
製造例5 カルボキシポリビニルイミダゾール(CM(35)-PVIm)の合成
バイアル瓶にPVIm 38.2 mg (繰り返し単位:94 g/mol, 1.1 mmol) とヨード酢酸(185.95 g/mol)22.8 mg (30%仕込み, 0.32 mmol)を秤量し、脱水DMF 3 mLを加え、室温で24h強撹拌した。MWCO 1000の透析膜で、3日間透析した。次に、凍結乾燥を2日間行った。
【0105】
得られた生成物を重DMSOにTFAを加えてインキュベートして溶かし、1H NMR測定した。1H NMRの結果を図7に示す。プロトンの積分値による帰属により、合成の進行を確認した。修飾率は、35 mol%となった。
【0106】
製造例6 オクチル化ポリビニルイミダゾール(PVIm-Oc(23))の合成
バイアル瓶にてPVIm 188 mg (繰り返し単位:94 g/mol, 1.1 mmol)、1-ブロモオクタン 104 μl (193.13 g/mol、1.11 g/cm3、60 mol%、0.60 mmol) を脱水DMF 6 mlに溶解させ、40℃で約24時間撹拌した。アセトンで再沈殿を行い、沈殿物を少量のイオン交換水に溶解させた。
MWCO500-1000の透析膜を使用して3日間透析を行った。次に、凍結乾燥を2日間行った。
【0107】
得られた生成物を重水600 μLに溶かし、1H NMR測定した。1HNMRの結果を図8に示す。プロトンの積分値による帰属により、合成の進行を確認した。修飾率は、23 mol%となった。
【0108】
2.ポルフィリン化合物の合成
製造例7 アミノプロピルピリジルポルフィリン(APPyP)の合成
ピリジルポルフィリン(PyP) 60 mg(0.097 mmol)、3-ブロモプロピルアミン(3-BPA) 400 mg(1.827 mmol)をDMF12 mlに加えた。窒素雰囲気下、オイルバスにて140℃で約24時間撹拌した。反応溶液にアセトンを入れ沈殿させ、上澄み液を取り除く作業を数回繰り返した。沈殿物を蒸留水に溶かし、液体窒素で凍結させ、一日凍結乾燥を行った。
【0109】
溶媒はジメチルスルホキシド(DMSO-D6)を使用し、1HNMR解析を行った。図9に示されるように、1HNMR解析よりAPPyP の合成が確認された。
【0110】
【化9】
【0111】
製造例8 鉄テトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン(Fe-TCPP)の合成
Fe-TCPPは、Harada et al. Inorg. Chem. 1997, 36, 6099-6102に記載の方法に従って合成した。
【0112】
【化10】
【0113】
製造例9 マンガン配位アミノプロピルピリジルポルフィリン(Mn-APPyP)の合成
APPyP 28.99 mg(1.9×10-2 mmol)、酢酸マンガン(II)四水和物47.68 mg(1.9×10-1mmol)、蒸留水3 mlを混合した。混合液を37℃で3時間インキュベートし、反応させた。MWCO100-500の透析膜で透析を4時間行った。次に、凍結乾燥を行った。
【0114】
反応生成物についてUV-Vis分光光度計で測定を行った。図10に示すように、よりAPPyPの最大吸収波長424 nmから463 nmにピークシフトがみられたことから、Mnの導入が確認できた。
【0115】
【化11】
【0116】
製造例10 マンガンテトラキス(4-カルボキシフェニル)ポルフィリン(Mn-TCPP)の合成
Mn-TCPPは、Harada et al. Inorg. Chem. 1997, 36, 6099-6102に記載の方法に従って合成した。
【0117】
【化12】
【0118】
3.複合体の膜への吸着
実施例1 PVIm-Me及びMn-TCPPの複合体の膜への吸着
MWCO1000の透析膜を製造例1~4で製造した各PVIm-Me溶液 3 ml(溶液濃度5.10 mg/ml、修飾率 :20, 25, 64, 81 mol%)に24時間静置した。次に、透析膜をMn-TCPP溶液 3 ml(溶液濃度:1.15 mg/ml)に24時間静置した。作製した修飾膜をUV-Vis分光光度計で測定した。
【0119】
(結果)
PVIm-Meと接触させた後の膜は特徴的なピークは見られなかった(図11)。PVIm-Me及びMn-TCPPと接触させた膜はMn-TCPPのピークが確認された (図12(A)-(D))。なお、Mn-TCPP溶液の代わりにカチオンポルフィリンであるMn-APPyPでも膜に対する吸着量を測定したが、Mn-APPyPは30分以内に大きく吸光度が減少し、過酸化水素により自身が分解されることが確認された(データ非図示)。
【0120】
実施例2 PVIm-Oc及びMn-TCPPの複合体の膜への吸着
MWCO1000の透析膜を製造例6で製造したPVIm-Oc 3 ml(溶液濃度:5.10 mg/ml、修飾率:23mol%)lに24時間静置した。次に、透析膜をMn-TCPP溶液 3 ml(溶液濃度:1.15 mg/ml)に24時間静置した。作製した修飾膜をUV-Vis分光光度計で測定した。
【0121】
(結果)
PVIm-Ocと接触させた後の膜には特徴的なピークは見られなかった(図13)。PVIm-Oc及びMn-TCPPと接触させた後の膜にはMn-TCPPのピークが確認された(図14)。
【0122】
実施例1及び実施例2の結果から、PVIm誘導体とMn-TCPPの各々の透析膜への吸着量を、既知濃度のPVIm誘導体及びMn-TCPPの各々の検量線に基づいて測定した(図15)。
【0123】
PVIm誘導体のうち、膜に対する吸着量が最も高かったのはPVIm-Oc(23)であり、これは、オクチル基はメチル基よりも疎水基が長いため、透析膜との結合には静電相互作用以外に、疎水的な相互作用も働いていると考えられる。PVIm-Meに関しては、メチルによる修飾率が低いほど吸着量が高かった。この理由として、静電相互作用以外にもフリーのイミダゾール基とセルロースが疎水的な環境により作用した可能性がある。
【0124】
Mn- TCPPの膜に対する吸着量に関しては、PVIm-Meでは当該ポリマーの吸着量にほぼ比例して、Mn-TCPPの膜に対する吸着量が増加している。PVIm-Me(25)とPVIm-Oc(23)を比較すると、PVIm誘導体の吸着量はOc(23)が高いが、Mn-TCPPの吸着量はMe(25)が高くなっている。これはオクチル基はメチル基よりも疎水基が長いため、立体的な障害が起きたことによると考えられる。
【0125】
実施例3 PVIm誘導体/Fe-TCCPによる膜表面での触媒活性の評価
実施例2でMn-TCPPの代わりに、Fe-TCPPを用いてPVIm誘導体とMn-TCPPの透析膜への吸着量を測定した。
【0126】
(結果)
PVIm誘導体とMn-TCPPの再生セルロース膜に対する吸着量を図16に示す。Fe-TCPPの吸着量は、全体的に図15に示すMn-TCPPの吸着量よりも低くなった。この理由として、軸配位子の違いが考えられる。Mn-TCPPはイミダゾール基が配位しやすく、Fe-TCPPはOHが配位しやすいため、吸着量に差が出たと考えられる。
【0127】
Mn-TCPPの吸着量と同様に、ポリマーの吸着量が最も高かったのはPVIm-Oc(23)であり、これは、オクチル基はメチル基よりも疎水基が長いため、透析膜との結合には静電相互作用以外に、疎水的な相互作用も働いていると考えられる。PVIm-Meに関しては、導入率が低いほど吸着量が高かった。この理由として、静電相互作用以外にもフリーのイミダゾール基とセルロースが疎水的な環境により作用した可能性がある。
【0128】
Fe-TCPPの吸着量に関しては、Me(25)とMe(64)を比較するとポリマーの吸着量はMe(25)の方が高いが、Fe-TCPPの吸着量はMe(64)が高い結果となった。これは、ポリマーの吸着量の差は小さく、かつMe(64)の方がカチオン数が多いことが関係していると考えられる。
【0129】
PVIm-Me(25)とPVIm-Oc(23)を比較すると、ポリマーの吸着量はOc(23)が非常に高いが、Fe-TCPPの吸着量の差は小さい。これは、オクチル基はメチル基よりも疎水基が長いため、立体的な障害が起きたことによると考えられる。
【0130】
実施例4 酸素電極による酸素生成測定
コントロール膜(蒸留水に48時間浸漬した再生セルロース膜)、PVIm-Me(25)と接触させた膜、Mn-TCPPと接触させた膜、及び実施例1,2で作成した各種PVIm誘導体及びTCPPと接触させた。透析膜を直接クラーク型酸素電極に入れ、蒸留水を900 μl投入し安定するまで待機した。数値の安定後、10 mM過酸化水素100 μlを投入し、測定を行った(最終濃度1 mM)。実験後の透析膜のUV-Vis分光光度計にて測定を行い、触媒反応の生成物である酸素の生成を評価した。
【0131】
(結果)
コントロール膜、PVIm-Me(25)膜、Mn-TCPP膜は0に近い酸素生成量だったのに対し、ポリマーとMn-TCPPを吸着させた膜は酸素の生成が確認された(図17)。さらに、Mn-CPP膜では実験前後で吸着量が減少した一方で、PVIm誘導体ポリマーで修飾することでMn-TCPPの吸着量を維持することができた(図18)。最も酸素生成量が高かったのは、PVIm-Me(20)/ Mn-TCPP膜であり、最も吸着量を維持することができ、かつ酸素生成量が高かったのはPVIm-Me(25)/Mn-TCPP膜であった。
【0132】
ポリマーを修飾させることで、Mn-TCPPにPVImのイミダゾール基が配位しやすくなり強固に吸着したと考えられる。PVIm-Me(81)/Mn-TCPP膜は、PVIm-Me(81)の吸着量が低かったため、Mn-TCPPの吸着量は低くなり、実験後の吸着量の減少も他の透析膜と比べて大きくなった。
【0133】
実施例5 過酸化水素分解の評価
触媒反応の基質である過酸化水素の分解について評価した。
【0134】
図19(A)-(C)に示すミクロ透析装置を用いた。ミクロ透析装置は、第1部材1と第2部材2と、第3部材3とを備えている。第1部材1は、収容部1cを有する略円筒部1aと、略円筒部1aと連続して延び、略円筒部1aよりも径が大きい円盤状部分1bとを備えている。第2部材2は、中空の略円筒部2aと、略円筒部2aと連続して延び、略円筒部2aよりも径が大きい円盤状部分2bとを備え、円盤状部分2bには貫通孔2cが設けられている。第3部材3は、中空の略円筒部3aと、略円筒部3aと連続する中空有底の円錐部3bとを備えている。図19(B)に示すように、第2部材2は、第2部材2の略円筒部2aが第1部材の略円筒部1aに外側から嵌まるように、第1部材1に嵌合可能である。
【0135】
図19(B)に示すように、第1部材1の収容部1cに1mM 過酸化水素水100μmを加えた。次に、第1部材1の略円筒部1aの断面を覆うように再生セルロース製の膜4を設け、第2部材2を第1部材1に嵌合することにより、第1部材1と第2部材2の間に膜4を設置した。図19(B)の第1部材1と第2部材2のアセンブリを反転させて、図19(C)に示すように、第2部材の円盤状部分2bが第3部材3の円錐部3bの内側に接触して停止されるように第3部材に挿入して配置した。第1部材1の略円筒部1aの収容部1c中の過酸化水素水を矢印の方向へ膜4を通過させ、透析を50分間行った。透析には蒸留水2.8 mlを使用し、これを円錐部3bに予め入れておいた。
【0136】
円錐部3bの内部に溜まった透過サンプル5を蛍光試薬(HYDROP-EX)と1時間反応させ、分光蛍光光度計で過酸化水素の濃度を測定した。
【0137】
(結果)
コントロール膜(蒸留水に48時間浸漬した再生セルロース膜)に比べ、実施例1で作製したPVIm-Me(25)/Mn-TCPP膜及び実施例2で作製したPVIm-Oc(23)/Mn-TCPP膜による透析では、過酸化水素の濃度が減少した (図20)。これは酸素生成実験結果とも一致し、最も酸素生成量が高かったPVIm-Me(25)/Mn-TCPP膜は過酸化水素の濃度が最も減少した。この酸素生成と過酸化水素の減少の結果は、過酸化水素の不均化が行われたことを示唆している。
【0138】
実施例6 血清タンパク中での酸素生成測定
実施例1で作製したPVIm-Me(25)/Mn-TCPP膜を10%ウシ胎児血清(FBS)中で37℃1時間インキュベートした。透析膜を直接酸素電極に入れ、蒸留水を900 μl投入し安定するまで待機した。数値の安定後、10 mM過酸化水素100 μlを投入し、測定を行った(最終濃度1 mM)。
【0139】
(結果)
コントロール膜(蒸留水に48時間浸漬した再生セルロース膜)でも酸素の生成が確認されたが、FBS中の生体成分が反応し、酸素生成として検出されてしまったと考えられる。コントロール膜と比較して、10%FBS中でインキュベートした膜では多量の酸素の生成が確認された。また、コントロール膜は、血清非存在下の膜と比較して、正味の酸素生成量がほぼ同程度となった(図21)。したがって、血清タンパク(FBS)中でも触媒活性が働いたと考えられる。
【0140】
本実施例の、透析膜にPVIm誘導体ポリマーとマンガンまたテトラキス(4-安息香酸)ポルフィリン(Mn-TCPP)をLayer-by-Layerで非共有結合により結合させた過酸化水素分解用複合材料は、過酸化水素を不均化する酵素であるカタラーゼを模倣した擬似活性中心を表面に有する機能性透析膜であり、透析の役割を果たしつつ過酸化水素の不均化を行うことができる新たなデバイスの開発が期待される。
【0141】
以上の実施例の結果をまとめると、PVIm誘導体とMn-TCPPを表面に修飾した透析膜は、酸素の生成が確認され、実験前後の吸着量の変化をほとんど抑えることができた。特に、PVIm-Me(25)/Mn-TCPP膜においては、最も実験前後で吸着量が変化せず、酸素生成と過酸化水素の分解が確認されたことから、透析膜表面上で触媒活性がみられたことが示唆された。また、血清タンパク中でも触媒活性による酸素の生成が確認されたことから、血液適合の可能性も示唆される。
【符号の説明】
【0142】
10…過酸化水素分解用複合材料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21