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  • 特開-不織布のリサイクル方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160836
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】不織布のリサイクル方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 11/00 20060101AFI20241108BHJP
   A61L 2/04 20060101ALI20241108BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20241108BHJP
   C08J 11/06 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A61L11/00
A61L2/04 ZAB
A61L2/18
C08J11/06
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076251
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】柴田 園未
(72)【発明者】
【氏名】小梶 太士
【テーマコード(参考)】
4C058
4F401
【Fターム(参考)】
4C058AA05
4C058AA12
4C058BB03
4C058BB07
4C058CC01
4C058CC06
4C058DD04
4C058JJ07
4F401AA22
4F401CA51
4F401CA91
4F401EA46
4F401FA01Z
(57)【要約】
【課題】本発明は、使用済みの医療用保護具から不織布を容易に分離することができる不織布のリサイクル方法を提供することを課題とする。
【解決手段】水溶性の袋に収容された使用済みの前記医療用保護具を回収する回収工程と、前記袋の収集物を消毒する消毒工程と、消毒された前記収集物から前記不織布を取り出す分離工程とを備え、前記消毒工程では、水で前記袋を溶解しつつ前記収集物を消毒する、不織布のリサイクル方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用保護具を構成する不織布のリサイクル方法であって、
水溶性の袋に収容された使用済みの前記医療用保護具を回収する回収工程と、前記袋の収集物を消毒する消毒工程と、消毒された前記収集物から前記不織布を取り出す分離工程とを備え、
前記消毒工程では、水で前記袋を溶解しつつ、前記収集物を消毒する、不織布のリサイクル方法。
【請求項2】
前記収集物の消毒に用いる前記水は、100℃未満である、請求項1に記載の不織布のリサイクル方法。
【請求項3】
前記消毒工程は、40℃以上60℃未満の水で前記収集物を洗浄する第1処理工程と、60℃以上100℃未満の水で前記収集物を消毒する第2処理工程とを備える、請求項1又は2に記載の不織布のリサイクル方法。
【請求項4】
前記消毒工程は、40℃以上60℃未満の水で前記収集物を洗浄する第1処理工程と、35℃以下の次亜塩素酸ナトリウムを含む水で前記収集物を消毒する第2処理工程とを備える、請求項1又は2に記載の不織布のリサイクル方法。
【請求項5】
前記収集物は、不織布で構成された医療用ガウンを少なくとも含む、請求項1又は2に記載の不織布のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用保護具を構成する不織布のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用ガウン等の医療用保護具は、医療現場において医療従事者等を汚染から保護するために用いられている。また、かかる医療用保護具として、コスト面で比較的有利な不織布で構成されたものが知られている。
【0003】
従来、不織布で構成された医療用保護具は、感染のリスクを含むため、多くの場合、感染性廃棄物として処理されている。すなわち、従来は、医療用保護具を構成する不織布は、ごく一部がサーマルリサイクルの対象とされてはいるものの、大部分はリサイクルされずに廃棄処理されている状況である。
【0004】
一方で、カーボンニュートラル等の環境面からは、かかる不織布をリサイクルすることが望ましいと考えられ始めている。なお、感染性を有し得る医療用保護具のリサイクルでは、安全性の確保が要求される。かかる要求としては、例えば、リサイクル工程での作業者の感染防止、リサイクル製品の感染源化の防止が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1では、マスク等の医療用保護具を構成する不織布のリサイクル方法が提案されている。特許文献1のリサイクル方法は、リサイクル工程における作業者の感染を防止しつつ不織布のシート片を作製するために、殺菌溶液が充填され且つ密閉可能な槽を用い、使用済みマスクを収集ボックス(容器)に収容したまま該槽に投入し、該槽の中で収集ボックス及び使用済みマスクを破砕しつつ破砕物を消毒する工程を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-104407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のリサイクル方法では、不織布以外の他の部材も同時に破砕されることとなる。他の部材としては、例えば、前記収集ボックスを構成する外装容器及び袋等の内装容器のようなプラスチック製の部材、並びに、前記収集ボックスに混入し得る手袋等のゴム製の部材が挙げられる。そして、特許文献1の方法では、材質の異なる種々の部材の欠片で構成される破砕物が作製されることとなる。よって、かかる破砕物から不織布のシート片のみを取り出すための分離工程が煩雑なものとなる。
【0008】
また、破砕によって生じた不織布の毛羽が他の部材の欠片に絡まることも分離工程をさらに煩雑なものとする原因となる。かかる毛羽による絡まりは、特に、99%以上の単一の樹脂からなる再生原料を得ることを目的とするリサイクルの工程を極めて煩雑なものとする。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、使用済みの医療用保護具から不織布を容易に分離することができる不織布のリサイクル方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る不織布のリサイクル方法は、医療用保護具を構成する不織布のリサイクル方法であって、
水溶性の袋に収容された使用済みの前記医療用保護具を回収する回収工程と、前記袋の収集物を消毒する消毒工程と、消毒された前記収集物から前記不織布を取り出す分離工程とを備え、
前記消毒工程では、水で前記袋を溶解しつつ、前記収集物を消毒する。
【0011】
かかる構成によれば、消毒工程で袋が溶解するまで収集物が袋に収容された状態が維持されるため、リサイクル作業者の曝露防止等の安全性が確保される。また、袋を構成していた成分は溶解して水に移行するため、分離工程における不織布の取り出しを容易にすることができる。
【0012】
また、本発明に係る不織布のリサイクル方法は、好ましくは、
前記収集物の消毒に用いる前記水は、100℃未満である。
【0013】
かかる構成によれば、水の温度が100℃未満であることによって、不織布を構成する樹脂の分子量の低下を抑制することができる。より具体的には、リサイクルに起因する樹脂の劣化を抑制することができ、マテリアルリサイクルに適した樹脂材料を得ることができる。さらに、100℃未満であれば、不織布を構成する樹脂の融点よりも低いため、不織布どうしの溶着、又は不織布が他の部材に溶着することを抑制でき、後の分離工程を容易にすることができる。
【0014】
また、本発明に係る不織布のリサイクル方法は、好ましくは、
前記消毒工程は、40℃以上60℃未満の水で前記収集物を洗浄する第1処理工程と、60℃以上100℃未満の水で前記収集物を消毒する第2処理工程とを備える。
【0015】
かかる構成によれば、第1処理工程では40℃以上60℃未満の水を用いるため、医療用保護具に付着した血液や蛋白質が凝固して洗浄後の材料に残存することを抑制することができる。また、第2処理工程では100℃未満の水を用いるため、上記のように樹脂の分子量の低下を抑制できる。さらに、第2処理工程において60℃以上の水を用いることによって、B型肝炎ウイルス等の熱抵抗性が比較的強く、医療環境中に存在し且つ環境を介した接触伝播(fomite infection)のリスクが少なからずあると報告されている菌及びウイルスを消毒することができる。
【0016】
また、前記消毒工程は、40℃以上60℃未満の水で前記収集物を洗浄する第1処理工程と、35℃以下の次亜塩素酸ナトリウムを含む水で前記収集物を消毒する第2処理工程とを備えるものであってもよい。
【0017】
かかる構成によれば、第1処理工程では40℃以上60℃未満の水を用いるため、上記と同様、血液や蛋白質が凝固して洗浄後の材料に残存することを抑制することができる。また、ここでの第2処理工程では、次亜塩素酸ナトリウムによって消毒の効果を高められるとともに、次亜塩素酸ナトリウムを含む水が35℃以下であることによって、樹脂の軟化にともなう不織布どうしの貼り付き、又は不織布が他の部材に貼り付くことを抑制でき、延いては、次工程の分離工程が容易なものとなる。
【0018】
また、本発明に係る不織布のリサイクル方法は、好ましくは、
前記収集物は、不織布で構成された医療用ガウンを少なくとも含む。
【0019】
かかる構成のリサイクル方法は、医療用ガウンが他の保護具と比べて不織布の使用量が多いため、カーボンニュートラル等の環境面から意義のあるものとなる。
【発明の効果】
【0020】
以上のとおり、本発明によれば、使用済みの医療用保護具から不織布を容易に取り出すことができる不織布のリサイクル方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】試験1におけるヒツジ血液を塗布した試験片の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係る不織布のリサイクル方法について説明する。
【0023】
本実施形態の不織布のリサイクル方法では、医療用保護具を構成する不織布をリサイクルの対象とする。不織布で構成された医療用保護具としては、例えば、ガウン、マスク、キャップ、シューズカバー等が挙げられる。これらのなかでも、本実施形態のリサイクル方法は、前記ガウンに由来する不織布の再原料化を主たる目的としている。また、本実施形態のリサイクル方法は、使用済みの医療用保護具に起因する感染を防止するという目的、及び、リサイクルの対象とする不織布を構成する樹脂の劣化を抑制するという目的のために、該医療用保護具を所定の温度範囲の水で消毒することを採用している。
【0024】
前記ガウンとしては、手術室にて着用され血液の付着の可能性が高いAAMIレベル1~4のサージカルガウン、及び、主に感染病棟等で着用されるAAMIレベル1~3のアイソレーションガウンが挙げられる。前記ガウンは、着用者を正面側から被覆するための第1の不織布と、前記着用者の左半身を背面側から被覆するための第2の不織布と、前記着用者の右半身を背面側から被覆するための第3の不織布とで構成されたガウン本体を備えている。すなわち、前記第1の不織布は前身頃を形成し、前記第2の不織布は左後身頃を形成し、前記第3の不織布は右後身頃を形成している。また、前記ガウンは、前記ガウン本体から延びる一対の腰紐を備えている。そして、前記ガウンは、襟ぐりや袖口等の開口部を形成しつつ、各シートの上端縁部や側端縁部等が溶着された溶着部を備えている。また、前記腰紐も不織布で構成されており、具体的には、前記第1の不織布は、各側端縁部から延びる一対の第1腰紐形成部を有し、前記第2の不織布は、前記第1腰紐形成部の一方と溶着された第2腰紐形成部を有し、前記第3の不織布は、前記第1腰紐形成部の他方と溶着された第3腰紐形成部を有する。このように、前記ガウンは、前記前身頃と前記後身頃との接合、及び各腰紐形成部の接合に(糸での縫合に代えて)溶着が採用されている。なお、前記ガウンは、視認できる程度の不織布以外の部材を備えていてもよく、例えば、前記左後身頃と前記右後身頃とを着脱自在にする面ファスナ等の係合部材を備えていてもよい。
【0025】
前記ガウンは、着用者が手指等で前記前身頃を前方に引っ張ることによって前記腰紐が破断するように構成されており、この操作によって脱着されるようになっている。このように、前記ガウンは、使用の過程でパーツの破断が予定されているため、リユースは不可能なものである。なお、前記ガウンを構成する不織布には、着用時における鋭利な部材への不用意な接触等によって破損が生じるおそれがあり、また、着用によるのびが生じ得る。したがって、この種の不織布は、そのままのシートの状態で再利用することは難しく、ペレット化される等を経て再原料化されることが好ましい。
【0026】
本実施形態の前記第1の不織布、前記第2の不織布、及び前記第3の不織布は、ラミネート処理された不織布である。前記ラミネートを構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)が挙げられる。一方、前記不織布を構成する樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)が挙げられる。以下では、ラミネートを構成する樹脂と不織布を構成する樹脂とが同種のガウンをモノマテリアルガウンと称し、ラミネートを構成する樹脂と不織布を構成する樹脂とが異種のガウンを非モノマテリアルガウンと称する。なお、前記係合部材のような他の部材は、上記した樹脂以外の樹脂により構成され得るが、目視による区別が可能であるため、モノマテリアル又は非モノマテリアルの区別においては度外視することとする。
【0027】
本実施形態では、少なくとも、ガラス転移点が60℃以上の樹脂で構成された不織布をリサイクルの対象としている。かかる樹脂としては、ガラス転移点が70℃程度であるPETが挙げられる。かかる不織布は、これを構成する樹脂が消毒工程で用いる所定温度以上の水によって軟化し難いため、不織布どうしの貼り付きや、手袋等の他の部材に貼り付くことが少なく、分離し易いものであるため好ましい。また、ガラス転移点が60℃以上の樹脂で構成された不織布は、消毒工程で用いる所定温度以上の水によってシワや収縮が生じにくく、汚れが洗浄され易く且つ菌やウイルスが除去され易いため好ましい。
【0028】
本実施形態のリサイクル方法は、病院等の医療施設において使用済みの医療用保護具を袋に収集する収集工程と、袋に収容された使用済みの医療用保護具を含む収集物を前記医療施設から回収する回収工程と、水を用いて前記収集物を消毒する消毒工程と、消毒された収集物から不織布を取り出す分離工程と、取り出した不織布をペレット化する再原料化工程とを備える。
【0029】
本実施形態の収集工程では、使用済みの医療用保護具を収集するための収集容器を用いる。前記収集容器は、段ボール又は回収カート等の外装容器と、該外装容器に収容される内装容器としての袋とを備えている。前記袋は、前記収集物を直接収容するものである。
【0030】
前記収集物は、不織布で構成された医療用保護具の他、ゴム製の手袋、医療従事者が使用していた筆記具等の異物を含む場合がある。
【0031】
本実施形態の収集工程では、複数の収集容器を用いて、前記ガウンと、前記手袋等のその他の医療用保護具とを分別して収集する。ここで、着用者は、着用していたゴム製の手袋等をガウンで包み込むようにして、ガウンとともに手袋を脱着することがある。すなわち、リサイクルの対象とする不織布を収集しようとする収集容器には、前記ガウンとともに手袋が異物として混入するおそれがある。そして、手袋等の混入は、リサイクルの作業負荷を大きくする原因となる。よって、前記収集工程では、リサイクルの対象とするガウンに、前記手袋等のリサイクルの対象としない異物を混入させないよう表示等の手段によって注意を喚起してもよい。
【0032】
また、本実施形態の収集工程では、前記ガウンをメーカーごとに分別して収集し、より具体的には、前記モノマテリアルガウンを採用するメーカーのものと、前記非モノマテリアルガウンを採用するメーカーのものとをそれぞれ別の収集容器に収集する。
【0033】
さらに、本実施形態の収集工程では、熱抵抗性が強い細菌芽胞の付着の疑いのある医療用保護具をリサイクルの対象としないように、廃棄用の容器等に収集する。言い換えれば、本実施形態のリサイクル方法では、細胞芽胞が付着した医療用保護具は、感染性廃棄物として処理することとする。
【0034】
そして、本実施形態の収集工程では、前記消毒工程で用いる水によって溶解する袋を用いる。前記袋は、水溶性樹脂で構成されている。前記水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、(後記の所定温度の水への溶解性のある)エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルメチレンエーテル等の水溶性ビニル系樹脂;ポリエチレンオキシド等のポリエーテル系樹脂;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂;ポリアクリレート、ポリメタクリレート、又はこれらの塩等のアクリル系樹脂;アルギン酸、プルラン、キサンタン等の多糖類系高分子;等が挙げられる。本実施形態で用いる袋は、40℃以下の水で溶解するように構成されている。前記袋は、37℃以下の水では溶解しないものであることが好ましい。
【0035】
本実施形態の収集工程では、前記袋が収集物で満たされた時点で該袋の開口を閉塞する。すなわち、本実施形態の収集工程では、前記収集物が外部に漏出しないよう前記内装容器たる前記袋を密閉状態とする。また、本実施形態の収集工程では、前記袋の全体を覆うように前記外装容器を封じる。
【0036】
本実施形態の回収工程では、前記外装容器に覆われ且つ密閉状態とされた前記袋を前記医療施設から回収し、この状態を維持したまま前記袋を、前記消毒工程を実施する消毒施設に移送する。
【0037】
また、前記回収工程では、リサイクルの対象とする不織布に付着した血液が凝固塊化して水により除去されにくくなる前に前記袋を回収することが好ましい。例えば、前記回収工程では、一週間のうち少なくとも1日は前記袋の回収日を設定することが好ましく、一週間のうち2日以上の回収日を設定することが好ましく、各回収日の間の日を2日以内とすることがより好ましい。
【0038】
本実施形態の消毒工程では、感染源を外部に漏出させない密閉構造を有する消毒槽を用いる。また、本実施形態の消毒工程では、消毒剤を含まない水を用いる。前記消毒剤としては、例えば、過酢酸、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード、エタノールやイソプロパノール等のアルコール等が挙げられる。また、本実施形態の消毒工程では、pH6以上8.6以下の水を用いる。前記水のpHは6以上7.5以下がより好ましい。これによって、不織布を構成する樹脂の分子量の低下、変色等の劣化を抑制することができる。なお、前記水には、樹脂の加水分解を生じさせない程度のアルカリ洗浄剤、酵素洗浄剤等の洗浄剤を含んでいてもよい。
【0039】
そして、本実施形態の消毒工程では、前記外装容器から前記収集物を収容する前記袋を取り出して該袋のみを消毒槽に投入し、該消毒槽内で前記袋とともに前記収集物を処理する。本実施形態の消毒工程では、前記袋の溶解の促進及び前記収集物の洗浄を促進する程度の撹拌を行うが、前記袋及び前記収集物を破砕するような剪断は行わない。言い換えると、本実施形態の消毒工程では、前記収集物に含まれる医療用保護具のうち、90%以上の医療用保護具に構成部材の脱落がないよう前記収集物を洗浄する。これによって、医療用保護具が処理後において原形をほぼ維持したままとなるため、前記係合部材等の不織布以外の部材とリサイクルの対象とする不織布との区別が容易になる。また、リサイクルしようとする不織布の毛羽の発生を抑制することができる。そして、毛羽に他の部材が絡まることが抑制されるため、次の分離工程が容易なものとなる。
【0040】
本実施形態の消毒工程は、前記袋を溶解し得る温度(以下、溶解温度)に調整した水で該袋を溶解する予洗工程と、前記溶解温度以上の第1の温度に調整した水で前記収集物に付着した血液及び蛋白質を洗浄により除去する第1処理工程と、前記第1の温度よりも高い第2の温度に調整した水で血液等が除去された中間物に残存し得る菌及びウイルスを消毒する第2処理工程とを含む。
【0041】
本実施形態の予洗工程では、少なくとも前記袋が溶解する37℃より高い温度の水、好ましくは40℃以上50℃以下の水で撹拌しながら該袋を溶解する。本実施形態の予洗工程における前記袋の溶解時間は、水が前記溶解温度(例えば37℃より高い温度)に到達した後、3分以上10分以下である。これによって、前記袋を十分に溶解しつつ、医療用保護具の原形を維持し易くなる。
【0042】
本実施形態の予洗工程では、前記袋を溶解した水を前記消毒槽から排水する。すなわち、本実施形態の第1処理工程では、新たな水を用いる。
【0043】
本実施形態の第1処理工程では、40℃以上60℃未満の水で撹拌しながら前記収集物を洗浄する。60℃未満の水を用いることによって、血液及び蛋白質の凝固が抑制され、延いては、リサイクルに供する不織布への血液及び蛋白質の固着が抑制され、廃棄せざるを得ない不織布の量を少なくすることができる(収率を高められる)。また、60℃未満の水を用いることによって、本実施形態において少なくともリサイクルの対象とするPET(ガラス転移点が70℃程度)製の不織布は、第1処理工程においてはシワ及び収縮が抑制され、不織布を構成する繊維間に水が比較的浸透し易くなる。すなわち、60℃未満の水を用いることによって、PET製の不織布の被洗浄性を低下させないようにすることができる。また、37℃より高い温度の水を用いることによって、前記酵素系洗剤を用いる場合には、酵素の活性が高められて効果的な洗浄が可能となる。
【0044】
本実施形態の第1処理工程では、前記洗浄剤を含む水を用いる。これによって、血液等を十分に除去することができる。このようにして、本実施形態の第1処理工程では、血液等が除去され且つ消毒前である前記収集物としての第1の中間物を得る。
【0045】
本実施形態の第1処理工程では、前記収集物を洗浄した水を前記消毒槽から排水する。すなわち、本実施形態の第2処理工程では、新たな水を用いる。
【0046】
本実施形態の第2処理工程では、60℃以上100℃未満の水で前記第1の中間物を消毒する。前記第2処理工程で用いる水の温度は、70℃以上であってもよく、80℃以上であってもよく、90℃以上であってもよい。これによって、細菌芽胞よりも熱抵抗性の弱い菌及びウイルス、例えば、結核菌、B型肝炎ウイルス、糸状真菌、一般細菌、酵母様真菌を十分に消毒することができる。なお、本実施形態では、細菌芽胞の付着の疑いのある医療用保護具はリサイクルの対象外としているため、熱抵抗性の強い菌等が再生原料に残存する可能性は少ない。加えて、前記水の温度が100℃未満であることによって、不織布を構成するPET等の樹脂の加水分解を抑制することができ、消毒工程の前後における樹脂の分子量変化を抑制することができる。また、前記水の温度が100℃未満であることによって、洗浄中における樹脂(特に上記三種のうち最も融点の低いPE(98℃))の溶融が抑制されて不織布への他の材料の付着を抑制することができ、延いては、単一の樹脂を高含有率で含む再生樹脂を得ることができる。すなわち、本実施形態では、細菌芽胞の付着の疑いのある医療用保護具はリサイクルの対象外とすることによって水の温度を100℃未満に設定可能とし、これによって、劣化して廃棄対象となる不織布をできるだけ少なくしている。かかる観点から、前記第2処理工程における水の温度は、95℃以下が好ましい。また、菌等を適切に消毒可能であれば、前記第2処理工程における水の温度は、不織布を構成する樹脂の劣化を抑制すべく90℃以下であってもよく、85℃以下であってもよく、70℃以下であってもよい。
【0047】
本発明者らの検討により、リサイクルの対象とする不織布がPETを含む場合において、結晶化度が小さい(例えば10%未満)箇所が存在している場合には、前記第2処理工程の水の温度がPETのガラス転移点(70℃程度)より10℃以上高い80℃以上である場合には、結晶化度の小さい箇所において貼り付きが生じるという課題があることがわかっている。そして、後述の試験例では、PETの軟化による収集物どうしの貼り付きを抑制するには、PETのガラス転移点近傍の80℃未満とすれば効果があることが確認されている。従って、不織布又はラミネートがPETを含む場合で、前記第2処理工程の水の温度が80℃以上で貼り付きを生じる場合には、当該水の温度を80℃未満とすることによって、当該貼り付きを抑制でき、後の分離工程を容易なものとすることができる。
【0048】
本実施形態の第2処理工程における消毒時間は、水が前記第2の温度に到達した後、5分以上15分以下である。これによって、前記収集物を十分に消毒しつつ、医療用保護具の原形を維持し易くなる。このようにして、本実施形態の第2処理工程では、消毒済の前記収集物である第2の中間物を得る。
【0049】
本実施形態のように、血液等の固着を抑制する上では、前記第1処理工程と前記第2処理工程との間で水を入れ替えることが好ましい。また、前記第1処理工程と前記第2処理工程との間に水による濯ぎ工程を設けてもよい。なお、これらに限らず、前記予洗工程で用いた水をそのまま前記第1処理工程で用いてもよく、前記第1処理工程で用いた水をそのまま前記第2処理工程で用いてもよい。
【0050】
さらに、本実施形態の消毒工程は、前記第2処理工程の後に、前記中間物から水を除去する脱水工程を含む。前記脱水工程は、前記消毒槽に備えらえた遠心分離機能によって実施され得る。
【0051】
本実施形態の分離工程は、前記第2の中間物から前記異物を分離して第3の中間物を得る第1分離工程と、前記第3の中間物を乾燥する乾燥工程と、乾燥させた前記第3の中間物からリサイクルの対象とする不織布を分離する第2分離工程とを備える。
【0052】
本実施形態の第1分離工程では、目視での手選別によって前記第2の中間物から前記異物を分離し、前記第3の中間物を得る。より具体的には、本実施形態の第1分離工程では、前記第2の中間物から前記ガウンのみを取り出し、詳しくは、前記第2の中間物から前記モノマテリアルガウンのみを取り出す。そして、本実施形態の第1分離工程では、90質量%以上の前記モノマテリアルガウンを含む前記第3の中間物を得る。なお、本実施形態では、上記のごとく前記消毒工程において原形をほぼ維持した消毒済みガウンを得るため、比重差による分離、光学的な分離、これらの組み合わせ等を採用せずとも、手選別によってリサイクルの対象とする前記モノマテリアルガウンを容易に取り出すことができる。
【0053】
本実施形態の乾燥工程では、前記第3の中間物を乾燥し、該第3の中間物から水分を除去する。これによって、後工程の溶融押出工程での加水分解を抑制することができる。
【0054】
本実施形態の第2分離工程では、目視による手選別によって、乾燥した第3の中間物から不織布以外の部材(例えば前記面ファスナ)を分離し、リサイクルの対象とする不織布を取り出す。ここで、前記モノマテリアルガウンは、PET製のものとPP製のものとを含み得る。よって、かかる場合には、この時点でこれらを分別することが好ましい。なお、PET製のガウンとPP製のガウンとは、樹脂の結晶性の違いにより色味が異なるため、目視であっても十分に区別可能である。また、手選別を補助するための機器として、ハンディタイプのIR選別機を用いてもよい。
【0055】
本実施形態の再原料化工程は、前記第2分離工程で得られた不織布を破砕して破砕物を得る破砕工程と、前記破砕物をペレット化する溶融押出工程とを含む。
【0056】
本実施形態の溶融押出工程では、固相重合装置を用い、前記破砕物に含まれる樹脂(PET又はPP)の固有粘度を所定の値に調整する。そして、再生材料としてのペレットを得る。すなわち、本実施形態のリサイクルは、マテリアルリサイクルである。
【0057】
前記ペレットは、医療用ガウン等の医療用保護具を構成するための不織布の製造に用いられてもよい。また、前記ペレットは、不織布とは異なる部材の製造に用いられてもよい。かかる部材としては、例えば、衣類用の繊維乃至生地等が挙げられる。さらに、これらの繊維又は生地を用いて繊維製品を作製してもよい。すなわち、本実施形態のリサイクル方法は、従来は感染性廃棄物として処理されていた使用済み医療用保護具から繊維製品を得ることを含む。
【0058】
本実施形態の不織布のリサイクル方法によれば、水溶性の前記袋を用いること、前記消毒工程で用いる水の温度が100℃未満に調整されていること、並びに、前記収集工程及び前記分離工程において前記モノマテリアルガウンを容易に分別するための工夫がなされていることによって、99%以上の単一の樹脂(PET又はPP)を含むペレットを得ることができる。
【0059】
以上のように、例示として一実施形態を示したが、本発明に係る不織布のリサイクル方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る不織布のリサイクル方法は、上記作用効果により限定されるものでもない。本発明に係る不織布のリサイクル方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0060】
例えば、上記実施形態では、前記ペレットがマテリアルリサイクルに用いられる場合を例示したが、前記ペレットは、ケミカルリサイクルにも用いられ得る。
【0061】
また、上記実施形態では、PET製のガウンとPP製ガウンとの分別に手選別を採用しているが、この他、比重差に基づく選別を採用してもよい。
【0062】
また、本発明では、ナイロン等、上記で例示した樹脂以外の樹脂で構成された不織布をリサイクルに供してもよい。この場合、前記分離工程では、各樹脂が固有のIRスペクトルを示すことを利用し、消毒された中間物(前記第2の中間物)にIRを照射して吸収スペクトルを測定し、該吸収スペクトルに基づいて不織布を分別してもよい。
【0063】
また、上記実施形態の消毒工程では、消毒剤を含まない水を用いるが、前記消毒工程では、消毒剤を含む水を用いてもよい。例えば、前記第1処理工程を上記実施形態と同様にして実施した後、前記第2処理工程において消毒剤として次亜塩素酸ナトリウムを含む水を用いてもよい。pHが比較的高い次亜塩素酸ナトリウムを含む水の温度は、樹脂の劣化(分子量低下)を抑制する上で、35℃以下が好ましい。十分に消毒しつつ樹脂の劣化を抑制する上で、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は、100~1000ppmが好ましい。また、消毒時間は、10分以上60分以下が好ましい。
【0064】
以下、試験例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0065】
[試験1:第1処理工程の温度評価]
(目的)
試験1では、血液が付着した不織布の洗浄に用いる水の温度について評価することとした。
(試験片の作成)
PET製ラミネートを備えるPET製不織布から試験片(5cm×5cm)を切り出し、図1に示すように、疑似汚染物として、ラミネート面にヒツジ血液100μLを塗布した試験片と、不織布面にヒツジ血液100μLを塗布した試験片とを作製した。次に、各試験片を25℃、75%RHに設定した恒温恒湿器を用い、24時間~72時間乾燥させ、洗浄評価用の試験片とした。
(洗浄条件)
表1に示す洗浄条件によって、洗浄評価用の試験片を洗浄した。
(評価方法)
ISO15883-1:2006に準拠したOPA法によって、洗浄後の試験片の残留蛋白質を定量した。試験片からの蛋白質の抽出は、PP袋を用い、洗浄後の試験片を2mLの1%SDSに室温で30分間浸漬し、10分毎に試験片を揉みこむことによって行った。ISO15883-5:2021(4.4.3.2 Protein assay criteria)に規定されている洗浄後の器材における残留蛋白質量の基準値6.4μg/cmを基準に、消毒されているか否か(合格又は不合格)を評価した。結果は、表1に示したとおりである。なお、ラミネート面にヒツジ血液を塗布した試験片は、全て、前記基準値未満を示したため、表1では、不織布面にヒツジ血液を塗布した試験片についての結果のみを示した。
【0066】
【表1】
【0067】
表1の評価結果から、第1処理工程において60℃以上の水を用いると、血液の固着により洗浄性が低下することがわかる。よって、第1処理工程で用いる水の温度は、60℃未満であることが好ましい。
【0068】
また、試験例1-1及び試験例1-2の洗浄後の試験片は、目視及び色差計による観察において用いた不織布に対する色味や色差に差が認められず、リサイクルの対象とすることが可能なものである。
【0069】
[試験2:第2処理工程の温度評価]
(目的)
試験2では、不織布の消毒に用いる水(消毒剤を含まない水)の温度、消毒剤として次亜塩素酸ナトリウムを含む水について評価することとした。
(消毒効果の評価方法)
Mycolicibacterium hassiacum(芽胞菌に次いで熱抵抗性が強い結核菌の代替菌)を使用し、表2に示す構成の不織布に付着させた微生物に対する消毒効果を確認した。具体的に、厚生労働省が定める「感染性廃棄物の処理において有効であることの確認方法について」を参考にして、消毒前の微生物数(理論接種菌数:9.6×10IT)に対する消毒後の微生物数が合格基準の10-4以下に減少するか否かを確認した。結果は、表2に示したとおりである。
(不織布における貼り付きの評価方法)
目視により、不織布における貼り付きの有無を観察した。結果は、表2に示したとおりである。
【0070】
【表2】
【0071】
[結晶化度の測定方法]
硝酸カルシウムからなる密度勾配管を作成し、不織布及びラミネートの密度をn=3で測定し、その平均値をρとした。この値、並びに、不織布又はラミネートを構成する熱可塑性樹脂の非晶密度(ρa)及び結晶密度(ρc)を用いて結晶化度(Xc)を次式(I)により算出した。
Xc=(ρc/ρ)×(ρ-ρa)/(ρc-ρa)×100(%)…式(I)
ここで、ρa、ρcは、Polymer handbookに記載の公知の値を用いた。例えば、PETでは、ρa=1.335、ρc=1.455を用いた。
【0072】
表2の結果から、70℃の水によって消毒効果がより好ましいとされる10-6以下を示したことから、70℃の水で十分に消毒が可能であることがわかる。また、80℃の水を用いると不織布における貼り付きが生じ得るため、80℃未満の水を用いることによって不織布における貼り付きを抑制できることがわかる。
図1