(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160856
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】透析装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
A61M1/16 115
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076319
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】金津 英次
(72)【発明者】
【氏名】藤原 裕平
(72)【発明者】
【氏名】清水 佑志
(72)【発明者】
【氏名】若原 拓海
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077CC03
4C077DD16
4C077EE01
4C077EE02
4C077HH03
4C077HH13
4C077JJ04
4C077JJ16
4C077KK25
(57)【要約】
【課題】複数回のサイクルで補液を行う透析装置において、補液速度を上昇させた速い速度で維持するように制御できる透析装置を提供すること。
【解決手段】透析装置100は、血液回路110と、血液浄化手段120と、血液浄化手段120を介して除水又は逆濾過による補液を行うように透析液を送る透析液送液部133を有する透析液回路130と、血液回路110からの除水及び血液回路110への間歇的な補液を実施するように透析液送液部133を制御する制御部140と、を備え、制御部140は、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが、下限閾値Vbを下回った場合に、次回のサイクルにおいて、補液工程における補液速度を上昇させるように透析液送液部133を制御する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液回路と、
前記血液回路に配置され、血液中の水分を除去可能な血液浄化手段と、
前記血液浄化手段を介して除水又は逆濾過による補液を行うように透析液を送る透析液送液部を有し、前記血液浄化手段に接続される透析液回路と、
透析実施時において、前記血液回路からの除水及び該血液回路への間歇的な補液を実施して、血液中の水分を回収する回収工程及び補液を行う補液工程のサイクルを繰り返し実施するように前記透析液送液部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記補液工程において、前記血液回路を流通する血液又は前記透析液回路を流通する透析液の最大液圧が下限閾値を下回った場合に、現在のサイクル又は次回のサイクルにおいて、前記回収工程における回収速度及び/又は前記補液工程における補液速度を上昇させるように前記透析液送液部を制御する透析装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記補液工程において、前記血液回路を流通する血液又は前記透析液回路を流通する透析液の最大液圧が、第1上限閾値を上回った場合に、現在のサイクル又は次回のサイクルにおいて、前記回収工程における回収速度及び/又は前記補液工程における補液速度を低下させるように前記透析液送液部を制御する請求項1に記載の透析装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記補液工程において、前記血液回路を流通する血液又は前記透析液回路を流通する透析液の液圧が、前記第1上限閾値よりも高い第2上限閾値を上回った場合に、実施中の前記補液工程において、前記補液工程における補液速度を低下させるように前記透析液送液部を制御する請求項2に記載の透析装置。
【請求項4】
前記制御部は、
所定の補液量及び所定の補液速度に基づいて補液を実施する時間を算出し、
補液実施中以外は、予め設定された設定除水速度で体重分の除水を行うと共に、前記所定の補液量に基づいた補液回収速度で補液回収分の除水を行うように前記透析液送液部を制御し、
補液実施中は、前記所定の補液速度から前記設定除水速度を減じて算出した逆濾過速度で補液を行うように前記透析液送液部を制御する請求項1~3のいずれかに記載の透析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間歇的に補液を実施可能な透析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透析治療中の循環血液量の低下に伴う血圧の低下の予防や末梢循環を改善して透析効率を上げることを目的に、血液濾過透析(いわゆるHDF)の治療において、例えば30分毎に150mL~200mLの補液を繰り返し行いながら透析を行う「間歇補充型血液濾過透析法(いわゆるI-HDF)」が提案されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0003】
間歇補充型血液濾過透析法(いわゆるI-HDF)による効果としては、間歇的に補液を実施することで、透析中の血液低下時に血圧を上昇させることができることや、意図的に体外循環血液量を増減させて、末梢循環に働きかけて、細胞セルからの除去物質の洗い出しを行うことや、末梢血管の伸縮によるプラズマリフィリング(細胞から血液への水分移動)を助長することや、透析膜のファウリング(目詰まり)などの劣化に対するフラッシングにより除去効率の低下を予防できることなどがあると言われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本透析医学会雑誌40巻9号 769~774頁「新しいHDF療法の考案とその臨床効果」
【非特許文献2】日本透析医学会雑誌42巻9号 695~703頁「逆濾過透析液を利用した自動モードによる間歇補液血液透析の考案とその臨床評価」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
間歇補充型血液濾過透析法(いわゆるI-HDF)においては、透析実施時において、血液中の水分を回収する回収工程及び補液を実施する補液工程のサイクルを繰り返し実施している。間歇補充型血液濾過透析法(いわゆるI-HDF)の1回の透析治療において、細胞セルからの除去物質の洗い出しの効率を向上させる等の観点から、補液量が多いことが好ましく、補液速度を上昇させた速い速度で維持することが好ましい。ここで、補液量を増加させるために、補液速度を上昇させると、血液の圧力や透析液の圧力が上がり過ぎて警報となることがある。しかし、そのたびに医療者が対応することが現実的ではないため、影響のない範囲で、補液速度を上昇させ過ぎない無難な条件で使用されている。
【0006】
従って、本発明は、複数回のサイクルで補液を行う透析装置において、補液速度を上昇させた速い速度で維持するように制御できる透析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、血液回路と、前記血液回路に配置され、血液中の水分を除去可能な血液浄化手段と、前記血液浄化手段を介して除水又は逆濾過による補液を行うように透析液を送る透析液送液部を有し、前記血液浄化手段に接続される透析液回路と、透析実施時において、前記血液回路からの除水及び該血液回路への間歇的な補液を実施して、血液中の水分を回収する回収工程及び補液を行う補液工程のサイクルを繰り返し実施するように前記透析液送液部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記補液工程において、前記血液回路を流通する血液又は前記透析液回路を流通する透析液の最大液圧が下限閾値を下回った場合に、現在のサイクル又は次回のサイクルにおいて、前記回収工程における回収速度及び/又は前記補液工程における補液速度を上昇させるように前記透析液送液部を制御する透析装置に関する。
【0008】
また、前記制御部は、前記補液工程において、前記血液回路を流通する血液又は前記透析液回路を流通する透析液の最大液圧が、第1上限閾値を上回った場合に、現在のサイクル又は次回のサイクルにおいて、前記回収工程における回収速度及び/又は前記補液工程における補液速度を低下させるように前記透析液送液部を制御することが好ましい。
【0009】
また、前記制御部は、前記補液工程において、前記血液回路を流通する血液又は前記透析液回路を流通する透析液の液圧が、前記第1上限閾値よりも高い第2上限閾値を上回った場合に、実施中の前記補液工程において、前記補液工程における補液速度を低下させるように前記透析液送液部を制御することが好ましい。
【0010】
また、前記制御部は、所定の補液量及び所定の補液速度に基づいて補液を実施する時間を算出し、補液実施中以外は、予め設定された設定除水速度で体重分の除水を行うと共に、前記所定の補液量に基づいた補液回収速度で補液回収分の除水を行うように前記透析液送液部を制御し、補液実施中は、前記所定の補液速度から前記設定除水速度を減じて算出した逆濾過速度で補液を行うように前記透析液送液部を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数回のサイクルで補液を行う透析装置において、補液速度を上昇させた速い速度で維持するように制御できる透析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】透析装置で実施される透析工程中に実施される回収工程を示す図である。
【
図3】透析装置で実施される透析工程中に実施される補液工程を示す図である。
【
図4】透析工程中の各工程を示すフローチャートである。
【
図5】透析工程中の各工程における静脈圧力及び透析液圧力の変位を示すグラフである。
【
図6】透析工程中における透析液圧の変動に基づく制御動作を示すフローチャートである。
【
図7】補液工程時において透析液圧の最大液圧が第1上限閾値を上回った場合を示すグラフである。
【
図8】補液工程時において透析液圧の最大液圧が下限閾値を下回った場合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の透析装置の好ましい一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明の透析装置は、逆濾過された透析液を利用して間歇的に補液を行う間歇補充型血液濾過透析(いわゆるI-HDF)の治療に用いられる。
【0014】
まず、間歇的に補液を実施することによる効果について簡単に説明する。
透析治療中は、除水の進行に伴い血液中の水分(血漿)が取り除かれていき、循環血液量が減少していく。循環血液量が減少して血液中の蛋白濃度が上がると、血管内と血管外(間質)との浸透圧の差により、間質から血管内に水分(血漿)が徐々に移動して(血漿再充填)、循環血液量が回復して血圧が維持される。しかしながら、血漿再充填の速度が除水速度に追いつかずに、循環血液量が減少して血圧が低下してくると、自律神経の働きにより末梢血管を収縮させて血圧を維持しようとする生体反応が起こる。これが正常に働かないと、血漿再充填の速度が除水速度を大きく下回ることとなり、循環血液量の減少率が大きくなり、急激な血圧の低下を招く。
【0015】
このような急激な血圧低下を予防するため、間歇的に補液が実施される。補液を実施して血液循環量を回復させながら透析を行うことにより、血圧の低下を予防すると共に、末梢循環も改善され、血漿再充填の速度も維持される。その結果、補液を実施しない場合に比べて、同じ除水速度(補液回収分は除外)であっても、透析終了後の循環血液量の減少率を小さくすることができる。
【0016】
また、間歇的に補液を実施することで、意図的に体外循環血液量を増減させて、末梢循環に働きかけて、細胞セルからの除去物質の洗い出しを行ったり、末梢血管の伸縮によるプラズマリフィリング(細胞から血液への水分移動)を助長したり、透析膜のファウリング(目詰まり)などの劣化に対するフラッシングにより除去効率の低下の予防をすることができる。
【0017】
尚、補液の実施による循環血液量の増加分は、透析開始から終了までの間に、血液浄化手段120により除水される。よって、総除水量は、本来患者の体内から除去すべき余分な水分である体重除水分と補液回収分とを合わせたものとなる。尚、以下において、本来患者から除水すべき除水量又は当該除水に係る除水速度を体重分の除水量又は体重分の除水速度ともいい、補液によって増加した水分の除水量又は除水速度を補液回収分の除水量又は補液回収速度ともいう。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る透析装置100の概略構成を示す図である。
図1に示すように、透析装置100は、血液を流すための血液回路110と、血液浄化手段120と、透析液回路130と、制御部140と、静脈圧センサPS1と、を備える。
【0019】
血液回路110は、動脈側ライン111と、静脈側ライン112と、薬剤ライン113と、プライミング液排出ライン114と、を有する。動脈側ライン111、静脈側ライン112、薬剤ライン113及びプライミング液排出ライン114は、いずれも液体が流通可能な可撓性を有する軟質のチューブを主体として構成される。
【0020】
動脈側ライン111は、一端側が後述する血液浄化手段120の血液導入口122aに接続される。動脈側ライン111には、動脈側接続部111a、動脈側気泡検知器111b、及び血液ポンプ111cが配置される。
動脈側接続部111aは、動脈側ライン111の他端側に配置される。動脈側接続部111aには、患者の血管に穿刺される針が接続される。
動脈側気泡検知器111bは、チューブ内の気泡の有無を検出する。
血液ポンプ111cは、動脈側ライン111における動脈側気泡検知器111bよりも下流側に配置される。血液ポンプ111cは、動脈側ライン111を構成するチューブをローラーでしごくことにより、動脈側ライン111の内部の血液やプライミング液等の液体を送出する。
【0021】
静脈側ライン112は、一端側が後述する血液浄化手段120の血液導出口122bに接続される。静脈側ライン112には、静脈側接続部112a、静脈側気泡検知器112b、ドリップチャンバ112c、及び静脈側クランプ112dが配置される。
静脈側接続部112aは、静脈側ラインの他端側に配置される。静脈側接続部112aには、患者の血管に穿刺される針が接続される。
静脈側気泡検知器112bは、チューブ内の気泡の有無を検出する。
【0022】
ドリップチャンバ112cは、静脈側気泡検知器112bよりも上流側に配置される。ドリップチャンバ112cは、静脈側ライン112に混入した気泡や凝固した血液等を除去するため、また、静脈圧を測定するため、一定量の血液を貯留する。
静脈圧センサPS1は、ドリップチャンバ112cに接続される。静脈圧センサPS1は、ドリップチャンバ112cの内部の圧力である静脈圧を検出する。
静脈側クランプ112dは、静脈側気泡検知器112bよりも下流側に配置される。静脈側クランプ112dは、静脈側気泡検知器112bによる気泡の検出結果に応じて制御され、静脈側ライン112の流路を開閉する。
【0023】
薬剤ライン113は、血液透析中に必要な薬剤を動脈側ライン111に供給する。薬剤ライン113は、一端側が薬剤を送り出す薬液ポンプ113aに接続され、他端側が動脈側ライン111に接続される。また、薬剤ライン113には不図示のクランプ手段が設けられており、薬剤を注入するとき以外は、クランプ手段により流路は閉鎖された状態である。本実施形態では、薬剤ライン113の他端側は、動脈側ライン111における血液ポンプ111cよりも下流側に接続される。
【0024】
プライミング液排出ライン114は、ドリップチャンバ112cに接続される。プライミング液排出ライン114には、プライミング液排出ライン用クランプ114aが配置される。プライミング液排出ライン114は、後述するプライミング工程でプライミング液を排液するためのラインである。
【0025】
血液浄化手段120は、血液中の水分を除去可能である。血液浄化手段120は、筒状に形成された容器本体121と、この容器本体121の内部に収容された透析膜(図示せず)と、を備え、容器本体121の内部は、透析膜により血液側流路と透析液側流路とに区画される(いずれも図示せず)。容器本体121には、血液側流路に連通する血液導入口122a及び血液導出口122bと、透析液側流路に連通する透析液導入口123a及び透析液導出口123bと、が形成される。
【0026】
以上の血液回路110及び血液浄化手段120によれば、対象者(透析患者)の動脈から取り出された血液は、血液ポンプ111cにより動脈側ライン111を流通して血液浄化手段120の血液側流路に導入される。血液浄化手段120に導入された血液は、透析膜を介して後述する透析液回路130を流通する透析液により浄化される。血液浄化手段120において浄化された血液は、静脈側ライン112を流通して対象者の静脈に返血される。
【0027】
透析液回路130は、本実施形態では、いわゆる密閉容量制御方式の透析液回路130により構成される。この透析液回路130は、透析液供給ライン131aと、透析液排液ライン131bと、透析液導入ライン132aと、透析液導出ライン132bと、透析液送液部133と、透析液圧センサPS2と、を備える。
【0028】
透析液送液部133は、血液浄化手段120を介して除水又は逆濾過による補液を行うように透析液を送る。透析液送液部133は、透析液チャンバ1331と、バイパスライン1332と、除水/逆濾過ポンプ1333と、を備える。
透析液チャンバ1331は、一定容量(例えば、300ml~500ml)の透析液を収容可能な硬質の容器で構成され、この容器の内部は軟質の隔膜(ダイアフラム)により、送液収容部1331a及び排液収容部1331bに区画される。
バイパスライン1332は、透析液導出ライン132bと透析液排液ライン131bとを接続する。
【0029】
除水/逆濾過ポンプ1333は、バイパスライン1332に配置される。除水/逆濾過ポンプ1333は、バイパスライン1332の内部の透析液を透析液排液ライン131b側に流通させる方向(除水方向)及び透析液導出ライン132b側に流通させる方向(逆濾過方向)に送液可能に駆動するポンプにより構成される。
【0030】
透析液供給ライン131aは、基端側が透析液供給装置(図示せず)に接続され、先端側が透析液チャンバ1331に接続される。透析液供給ライン131aは透析液チャンバ1331の送液収容部1331aに透析液を供給する。
【0031】
透析液導入ライン132aは、透析液チャンバ1331と血液浄化手段120の透析液導入口123aとを接続し、透析液チャンバ1331の送液収容部1331aに収容された透析液を血液浄化手段120の透析液側流路に導入する。
【0032】
透析液導出ライン132bは、血液浄化手段120の透析液導出口123bと透析液チャンバ1331とを接続し、血液浄化手段120から排出された透析液を透析液チャンバ1331の排液収容部1331bに導出する。
【0033】
透析液排液ライン131bは、基端側が透析液チャンバ1331に接続され、排液収容部1331bに収容された透析液の排液を排出する。
【0034】
透析液圧センサPS2は、透析液回路130内の透析液圧力を測定するためのものであり、透析液導出ライン132bに設けられる。
【0035】
以上の透析液回路130によれば、透析液チャンバ1331を構成する硬質の容器の内部を軟質の隔膜(ダイアフラム)により区画することで、透析液チャンバ1331からの透析液の導出量(送液収容部1331aへの透析液の供給量)と、透析液チャンバ1331(排液収容部1331b)に回収される排液の量と、を同量にできる。
これにより、除水/逆濾過ポンプ1333を停止させた状態では、血液浄化手段120に導入される透析液の流量と血液浄化手段120から導出される透析液(排液)の量とを同量にできる。
【0036】
また、
図2に示すように、除水/逆濾過ポンプ1333を除水方向に除水速度F(ml/min)で送液するように駆動させた場合には、透析液導出ライン132bを流通する透析液の量は、透析液チャンバ1331に回収される透析液の量(即ち、透析液導入ライン132aを流通する透析液の量)に、バイパスライン1332を流通する透析液の量を加えた量となる。これにより、透析液導出ライン132bを流通する透析液の量は、バイパスライン1332を通って透析液排液ライン131bに排出される透析液(排液)の量分だけ、透析液導入ライン132aを流通する透析液の量よりも多くなる。即ち、除水/逆濾過ポンプ1333を除水方向に送液するように駆動させた場合は、血液浄化手段120において、血液から除水速度Fで所定量の除水が行われる。
【0037】
一方、
図3に示すように、除水/逆濾過ポンプ1333を逆濾過方向に逆濾過速度R(ml/min)で送液するように駆動させた場合には、透析液チャンバ1331から排出された排液の一部がバイパスライン1332及び透析液導出ライン132bを通って再び透析液チャンバ1331に回収される。そのため、血液浄化手段120から導出される透析液の量は、透析液チャンバ1331に回収される量(即ち、透析液導入ライン132aを流通する透析液の量)から、バイパスライン1332を流通する透析液の量を減じた量となる。これにより、血液浄化手段120から導出される透析液の量は、バイパスライン1332を通って再び透析液チャンバ1331に回収される透析液(排液)の量分だけ、透析液導入ライン132aを流通する透析液の流量よりも少なくなる。即ち、除水/逆濾過ポンプ1333を逆濾過方向に送液するように駆動させた場合は、血液浄化手段120において、血液回路110に所定量の透析液が逆濾過速度Rで注入(逆濾過)される。
【0038】
制御部140は、情報処理装置(コンピュータ)により構成され、制御プログラムを実行することにより、透析装置100の動作を制御する。
制御部140は、血液回路110及び透析液回路130に配置された各種のポンプやクランプ等の動作を制御して、透析装置100により行われる各種工程、例えば、プライミング工程、脱血工程、透析工程、返血工程等を実行する。
【0039】
プライミング工程では、プライミング液として逆濾過透析液を用いて血液回路110及び血液浄化手段120を洗浄して清浄化する。
脱血工程では、患者の血液を吸引して動脈側ライン111及び静脈側ライン112に血液を充填させる。脱血工程の後、血液を浄化すると伴に水分を除去する透析工程が行われる。透析工程終了後、患者に血液を戻す返血工程が行われる。
【0040】
以下に、透析装置100により行われる各種工程のうち、透析工程について、詳しく説明する。
【0041】
図4に示すように、透析工程は、回収工程(ステップS101)、循環工程(ステップS102)、補液工程(ステップS103)及び循環工程(ステップS104)をこの順で1サイクルとして、複数回のサイクル繰り返し行われることで、間歇的に補液が実施されると共に、除水が実施される。透析工程は、回収工程、循環工程、補液工程及び循環工程を1サイクルとして、透析予定時間(例えば、4時間)に達するまで、継続的に繰り返される。
これにより、制御部140は、透析実施時において、血液回路110からの除水及び血液回路110への間歇的な補液を実施して、血液中の水分を回収する回収工程及び補液を行う補液工程のサイクルを繰り返し実施するように透析液送液部133を制御する。
【0042】
本実施形態における透析装置100の具体的な制御の一例として、患者からの体重分の除水量が2400mlで、4時間の透析を予定し、初期の補液の実施間隔を90秒で実施し、複数回のサイクルにより補液を実施する場合について説明する。
【0043】
本実施形態においては、1回の透析に要する時間を透析予定時間(例えば、4時間)に設定し、透析の途中で透析予定時間(例えば、4時間)の変更は行わずに、透析予定時間(例えば、4時間)に達した場合に、透析工程は終了される。また、透析工程の1サイクル(回収工程、循環工程、補液工程、循環工程)における補液工程において補液される補液量は、予め一定量に設定される。透析予定時間の4時間において行われるサイクル数を多くするほど、補液の回数が増えるため、補液速度を上昇させて補液間隔を短くしてサイクル数を増加させることで、1回の透析における総補液量を多くすることができる。1回の透析における総補液量を多くすることで、細胞セルからの除去物質の洗い出しの効率を向上させることができる等の効果を得ることができる。
【0044】
ここで、1回の透析において、補液工程のサイクル数を増加させるために、補液速度を上昇させ過ぎると、血液の圧力(静脈圧)や透析液の圧力が上がり過ぎて、患者の負担になることがある。一方で、補液速度を低下させ過ぎると、1回の透析における総補液量が少なくなり、総補液量を多くすることで得られる効果が低減される。そのため、詳細については後述するが、制御部140は、血液の圧力(静脈圧)や透析液の圧力を監視して、補液速度を調整する制御を実施している。
【0045】
透析工程における回収工程、循環工程、補液工程及び循環工程の制御について、より具体的に説明する。回収工程、循環工程、補液工程及び循環工程において、制御部140は、入力された患者の余剰水分の除水量(2400ml)及び透析時間240分に基づいて設定除水速度f1(=10ml/min)を算出する。制御部140は、透析工程(回収工程、循環工程、補液工程、循環工程)の間、算出された設定除水速度f1(=10ml/min)で、体重分の実質的な除水(正味の除水)を継続して行う。
【0046】
まず、
図2を参照して、透析工程中に実施される回収工程について説明する。
回収工程では、患者の余剰水分の除水が行われ、また、補液回収分の除水も併せて行われる。回収工程において、動脈側接続部111aから導入される患者の血液は、動脈側ライン111を通って血液浄化手段120で浄化され、静脈側ライン112を通って静脈側接続部112aから患者に戻される。
【0047】
回収工程では、
図2に示すように、動脈側接続部111a及び静脈側接続部112aは、それぞれ患者の血管に穿刺される針に接続された状態であり、プライミング液排出ライン用クランプ114aは閉状態、静脈側クランプ112dは開状態である。
【0048】
不図示の透析液供給装置は、透析液チャンバ1331に対して平均500ml/minの送液量で透析液を供給及び排出し、除水/逆濾過ポンプ1333を、除水速度Fで除水方向に送液するように作動させ、血液浄化手段120において、Fml/minの除水が行われる。本実施形態においては、例えば、回収工程における除水速度Fは、90ml/minに設定されている。
【0049】
血液ポンプ111cは、透析工程開始時の40~50ml/minから例えば250ml/min程度まで流量を徐々に増加させ、動脈側接続部111a側から血液浄化手段120側に血液を送出する。
血液浄化手段120内には、血液導入口122aから250ml/minの流量で血液が流入し、Fml/minの流量で除水されて、血液導出口122bから(250-F)ml/minの流量で導出される。また、透析排液は、透析液導出口123bから導出される。このようにして、回収工程において除水速度Fで除水が行われる。
【0050】
回収工程における除水速度Fを90ml/minに設定した理由について説明する。
透析工程中の回収工程において、透析開始から最初の時間では補液回収分の除水を行わずに体重分の除水のみの除水が行われ、補液工程の実施後は、補液量に基づいて除水が行われる。例えば、制御部140は、補液工程の実施後は、入力された所定の補液速度r(一例として400ml/min)及び所定の補液量(一例として100ml/回)から補液に要する時間を算出する(15秒/回)。また、補液の実施間隔(90秒)から補液に要する時間(15秒)を減じて除水可能時間を算出し(90秒-15秒=1.25min/回)、補液回収速度f2を算出する(80ml/min)。そして、所定の補液量(一例として100ml/回)に基づいた補液回収速度で補液回収分の除水を行う。
【0051】
ここで、透析開始から最初の90秒は、補液回収分の除水を行わずに体重分の除水のみ行うので、除水速度Fは、設定除水速度f1=10ml/minとなる。補液の実施後の除水速度Fは、設定除水速度f1と補液回収速度f2を合わせたものとなり、F=f1+f2=90ml/minとなる。
【0052】
次に、
図3を参照して、透析工程中に実施される補液工程について説明する。
補液工程では、
図3に示すように、透析工程と同様に動脈側接続部111a及び静脈側接続部112aは、それぞれ患者の血管に穿刺される針に接続された状態であり、プライミング液排出ライン用クランプ114aは閉状態、静脈側クランプ112dは開状態である。
【0053】
補液工程は、血液回路110に血液浄化手段120を介して逆濾過透析液を注入する工程であり、所定の間隔で間歇的に所定の量の補液の注入が逆濾過速度R(ml/min)で行われる。本実施形態においては、例えば、補液工程における逆濾過速度Rは、390ml/minに設定されている。
【0054】
補液工程における逆濾過速度Rを390ml/minに設定した理由について説明する。
不図示の透析液供給装置は、透析液チャンバ1331に対して平均500ml/minの送液量で透析液を供給及び排出し、除水/逆濾過ポンプ1333を、逆濾過方向(
図3のバイパスライン1332に矢印で示す方向)に逆濾過速度Rで送液するように作動させる。例えば、100mlの補液を行う場合には、除水/逆濾過ポンプ1333の逆濾過速度Rを一例として400ml/minとすることで、血液浄化手段120において、400ml/minの注水が15秒で行われる。このようにして、補液工程において15秒で血液中に急速に水分が補充される。
【0055】
透析工程中の補液工程においては、例えば、制御部140は、逆濾過速度Rを、所定の補液速度r(400ml/min)から設定除水速度f1(=10ml/min)を減じた速度に設定する(R=390ml/min)。このように逆濾過速度Rを設定することで、逆濾過により体重分の除水が停止している間も、仮想的に設定除水速度f1で体重分の除水が継続されていると考えることができる。
【0056】
なお、透析開始時の初期設定においては、補液速度は、1回の透析において実行される総補液量及び補液の回数を考慮して、所定の補液速度に設定されている。しかしながら、後述するように、制御部140は、血液の圧力(静脈圧)や透析液の圧力を監視して、補液速度を調整する制御を実施することで、透析工程中の透析予定時間(例えば、4時間)内において、血液の圧力(静脈圧)や透析液の圧力の変動に基づいて制御され、補液速度は変更されることがある。
【0057】
次に、透析工程中に実施される循環工程について説明する。
循環工程は、除水/逆濾過ポンプ1333を停止させることで、回収も補液もしない工程である。循環工程は、回収工程から補液工程に切り替える際、及び、補液工程から回収工程に切り替える際に、血液や透析液の濃度を安定させるために、例えば、1秒~2秒程度の短い時間で実施される。
【0058】
循環工程においては、補液速度rは0ml/minとなり、補液回収分の除水も不要となるので、補液回収速度f2=0ml/minとなる。本実施形態においては、
図2に示す状態において、循環工程においては、透析工程の間に継続して行われる体重分の除水が継続して行われ、除水速度F=設定除水速度f1(=10ml/min)である。
【0059】
以上のように、透析工程においては、回収工程、循環工程、補液工程及び循環工程を1サイクルとして、このサイクルが繰り返して実施される。回収工程においては、補液の実施後の除水速度Fは、設定除水速度f1と補液回収速度f2を合わせたものとなり、F=f1+f2=90ml/minで、補液の実施間隔(90秒)から補液に要する時間(15秒)を減じた時間で、除水が実施される。また、補液工程においては、100mlの補液を行う場合には、除水/逆濾過ポンプ1333の逆濾過速度Rを、所定の補液速度r(400ml/min)から設定除水速度f1(=10ml/min)を減じた速度に設定する(R=390ml/min)ことで、血液浄化手段120において、390ml/minの注水が15秒で実施される。循環工程においては、除水/逆濾過ポンプ1333の送液方向は除水方向のままで、除水速度F=設定除水速度f1(=10ml/min)で体重分の除水が継続され、例えば、1秒~2秒程度の短い時間で実施される。循環工程は、血液や透析液の濃度を整えて透析治療の効率を向上させるための工程であり、実質的には、透析工程は、回収工程及び補液工程のサイクルが繰り返して実施されている。このようにして、例えば、本実施形態においては、補液工程において15秒で血液中に急速に水分が補充され、回収工程において90秒から補液に要する15秒を減じた値で実施されており、透析予定時間(例えば、4時間)に達するまで、補液の実施間隔が短い時間のサイクル(例えば、90秒)で、1サイクル(回収工程、循環工程、補液工程、循環工程)が継続的に繰り返される。
【0060】
補液の実施間隔を短い時間のサイクル(例えば、90秒)で実施すると、透析液回路130を流通する透析液の透析液圧の圧力変動や、血液回路110を流通する血液の静脈圧の圧力変動が、大きくなる。透析液回路130を流通する透析液の透析液圧の圧力や、血液回路110を流通する血液の静脈圧の圧力が上がり過ぎて、患者の負担が大きくなることがある。一方で、補液速度を低下させ過ぎると、1回の透析における総補液量が少なくなり、総補液量を多くすることで得られる効果が低減されることがある。そのため、制御部140は、血液の圧力(静脈圧)や透析液の圧力を監視して、補液速度を調整する制御を実施している。
【0061】
次に、本実施形態における透析装置100の透析工程が実施される場合における透析液圧に基づいて行われる補液速度の制御について説明するが、まず、
図5に示すように、回収工程、循環工程、補液工程及び循環工程において、透析液回路130を流通する透析液の透析液圧及び血液回路110を流通する血液の静脈圧の圧力変動について説明する。透析液圧は、透析液導出ライン132bに設けられる透析液圧センサPS2により検出される。静脈圧は、ドリップチャンバ112cに接続される静脈圧センサPS1により検出される。
【0062】
図5に示す回収工程においては、
図2に示す回収工程が実施されることで、
図5に示すように、患者から水分を引っ張るため圧力は低下して、例えば、0mmHgから-120mmHg程度まで徐々に低下されて、-120mmHg程度に達した後に、-120mmHg程度の透析液圧で、回収工程の終了まで保持される。
【0063】
その後、回収工程から循環工程に移行されて、透析液回路130を流通する透析液の透析液圧は、循環工程においては時間経過と共に上昇されて、循環工程から補液工程に移行される。そして、
図5に示す補液工程においては、
図3に示す補液工程が実施されることで、
図5に示すように、患者に補液されることで圧力が上昇し、補液工程の初期において、最大液圧に達し、最大液圧Vpに達した後に、補液工程の終了まで、徐々に低下される。その後、補液工程から移行された循環工程においては、透析液圧は、時間経過と共に低下される。循環工程の後に、次回のサイクルの回収工程に移行し、次回のサイクルにおいても、同様の圧力変動が繰り返される。
【0064】
また、
図5に示すように、血液回路110を流通する血液の静脈圧の圧力変動についても、透析液回路130を流通する透析液の透析液圧とは圧力値の数値自体は異なるが、透析液回路130を流通する透析液の透析液圧の圧力変動と同様の傾向で圧力変動が繰り返される。
【0065】
透析液回路130を流通する透析液の透析液圧に基づいて行われる補液速度の制御について説明する。
制御部140は、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが第1上限閾値Va1を上回った場合に、次回のサイクルにおいて、補液工程における補液速度を低下させるように透析液送液部133を制御する。これにより、実施中の補液工程においては、補液速度を変更せずに、次回のサイクルの補液工程において補液速度を低下させることで、複数回のサイクルで補液が実施される透析工程において、患者の負担を低減させることができる。第1上限閾値Va1としては、例えば、すぐに補液速度を低下させるまでの緊急性はないが、そのままの補液速度で次回のサイクルを継続すると患者の負担が増えるため次回のサイクルで補液速度を低下させる必要がある透析液圧力の下限値が設定される。
【0066】
制御部140は、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の液圧Vが第2上限閾値Va2を上回った場合に、実施中の補液工程において、補液速度を低下させるように透析液送液部133を制御する。これにより、実施中の補液工程において、すぐに補液速度を低下させることで、患者の負担を低減できる。第2上限閾値Va2としては、例えば、患者の負担が大き過ぎてすぐに補液速度を低下させる必要がある透析液圧力の下限値が設定される。
【0067】
制御部140は、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが下限閾値Vbを下回った場合に、次回のサイクルにおいて、補液工程における補液速度を上昇させるように透析液送液部133を制御する。これにより、補液速度が低すぎて補液速度を上昇させる余地がある場合に、次回のサイクルの補液工程において補液速度を上昇させることで、複数回のサイクルで補液が実施される場合において、総補液量を増加させることができる。下限閾値Vbとしては、例えば、補液速度が低すぎて補液速度を上昇させる余地があって補液量を増加させることができると共に補液速度を上昇させても患者の負担が増えない透析液圧力の上限値が設定される。
【0068】
図6を参照して、一例として、主に、透析治療において透析液圧に基づいて補液速度が調整される制御について説明する。
図6は、
図3のステップS103の補液工程において実行される制御を示すフローチャートである。透析装置100は、
図3に示すように、透析工程において、回収工程、循環工程、補液工程及び循環工程を1サイクルとして、複数回のサイクルが継続して実施される。
【0069】
図6に示すステップS201において、補液工程が開始されることで、補液動作が開始される。
【0070】
今回のサイクルの補液工程における補液動作は、前回のサイクルの補液工程における補液動作において次回のサイクルの補液速度を変更しないと判定された場合には、前回のサイクルの補液工程の補液速度から変更されずに、前回のサイクルの補液工程の補液速度と同じ補液速度で実施される。
【0071】
一方で、今回のサイクルの補液工程における補液動作は、前回のサイクルの補液工程における補液動作において次回のサイクルの補液速度を変更すると判定された場合には、変更された補液速度及び変更された補液速度により再計算された除水量で除水されるように、除水量が調整される。
【0072】
補液動作が開始されて患者に補液されることで、
図5に示す補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の圧力が上昇し、補液工程の初期において、透析液回路130を流通する透析液の圧力は最大液圧Vpに達し、最大液圧Vpに達した後に、補液工程の終了まで、徐々に低下される。本実施形態においては、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpの変動に応じて制御される閾値として、第1上限閾値Va1(350mmHg)と、下限閾値Vb(250mmHg)とが設定されている。また、透析液回路130を流通する透析液の液圧Vの変動に応じて制御される閾値として、第1上限閾値Va1よりも高い第2上限閾値Va2(400mmHg)が設定されている。
【0073】
次に、ステップS202において、制御部140は、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の液圧Vが第2上限閾値Va2を上回ったか否かを判定する。本実施形態においては、例えば、第2上限閾値Va2は、400mmHgに設定されている。
【0074】
透析液回路130を流通する透析液の液圧Vが第2上限閾値Va2を上回った場合(YES)には、処理はステップS203に移行する。透析液回路130を流通する透析液の液圧Vが第2上限閾値Va2を上回らない場合(NO)(
図5参照)には、処理はステップS206に移行して補液動作が終了する。ステップS206の後に処理はステップS207に移行する。
図5における補液工程においては、透析液の液圧Vは、第2上限閾値Va2に達しておらず、透析液回路130を流通する透析液の液圧Vが第2上限閾値Va2を上回っていない。
【0075】
ステップS202における透析液回路130を流通する透析液の液圧Vが第2上限閾値Va2を上回った場合(YES)におけるステップS203において、警報を報知して、ステップS204において、実施中の補液工程において、補液速度を低下させるように透析液送液部133を制御する。これにより、透析液の液圧Vが上昇し過ぎて、患者の負担が大きくなり過ぎることを抑制できる。第2上限閾値Va2としては、例えば、患者の負担が大き過ぎてすぐに補液速度を低下させる必要がある透析液圧力の下限値が設定される。ステップS204の後、ステップS205において警報を解除して、処理は、ステップS202に戻る。
【0076】
ステップS207において、制御部140は、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが第1上限閾値Va1を上回ったか否かを判定する。本実施形態においては、例えば、第1上限閾値Va1は、350mmHgに設定されている。透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが第1上限閾値Va1を上回った場合(YES)(
図7参照)には、処理はステップS208に移行する。透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが第1上限閾値Va1を上回らない場合(NO)には、処理はステップS210に移行する。
図7における補液工程においては、透析液の最大液圧Vpは、第1上限閾値Va1を上回っている。
【0077】
ステップS207における透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが第1上限閾値Va1を上回った場合(YES)におけるステップS208において、次回のサイクルにおける補液工程において、補液工程における補液速度を低下させるように透析液送液部133を制御するように設定し、ステップS208の後のステップS209において、次回のサイクルの補液工程における補液時の補液量を計算する。ステップS209の後に、補液工程の処理は終了する。
【0078】
これにより、すぐに補液速度を低下させるまでの緊急性はないが透析液の最大液圧Vpが上昇している場合において、次回のサイクルの補液工程において、補液速度を低下させて、透析液の最大液圧を低下させることができる。第1上限閾値Va1としては、例えば、すぐに補液速度を低下させるまでの緊急性はないが、そのままの補液速度で次回のサイクルを継続すると患者の負担が増えるため、次回のサイクルで補液速度を低下させる必要がある透析液圧力の下限値が設定される。
【0079】
次回のサイクルにおいては、1回のサイクルの補液工程における補液量が予め設定されていることから、補液工程における補液速度を低下させると、補液時間が長くなる。これにより、体重分の除水が継続される時間が長くなり、除水量が増加する。これに対して、1サイクル中の除水量が予め設定した除水量となるように、補液工程において、除水量を見込んだ実質的な正味の補液量を計算して、補液速度を計算する。これにより、サイクル毎に正味の補液量を計算することで除水量の調整が行われた状態で、次回のサイクルにおける補液工程の補液動作が実行される。
【0080】
ステップS210において、制御部140は、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが下限閾値Vbを下回ったか否かを判定する。透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが下限閾値Vbを下回った場合(YES)(
図8参照)には、処理はステップS211に移行する。透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが下限閾値Vbを下回らない場合(NO)には、補液工程の処理は終了する。
図8における補液工程においては、透析液の最大液圧Vpは、下限閾値Vbを下回っている。
【0081】
ステップS210における透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが下限閾値Vbを下回った場合(YES)におけるステップS211において、次回のサイクルにおける補液工程において、補液工程における補液速度を上昇させるように透析液送液部133を制御するように設定し、ステップS211の後のステップS209において、次回のサイクルの補液工程における補液時の補液量を計算する。ステップS209の後に、補液工程の処理は終了する。
【0082】
これにより、補液工程における補液速度を上昇させた速い速度で維持させて、補液量を増加させることができる。下限閾値Vbとしては、例えば、補液速度が低すぎて補液速度を上昇させる余地があって補液量を増加させることができると共に補液速度を上昇させても患者の負担が増えない透析液圧力の上限値が設定される。
【0083】
以上説明した本実施形態の透析装置100によれば、以下のような効果を奏する。
【0084】
(1)間歇補充型血液濾過透析法により透析を行う透析装置100において、制御部140に、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが下限閾値Vbを下回った場合に、次回のサイクルにおいて、補液工程における補液速度を上昇させるように透析液送液部133を制御させた。
これにより、補液工程における補液速度を上昇させた速い速度で維持させて、1回の透析における総補液量を増加させることができる。
【0085】
(2)間歇補充型血液濾過透析法により透析を行う透析装置100において、制御部140に、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpが、第1上限閾値Va1を上回った場合に、次回のサイクルにおいて、補液工程における補液速度を低下させるように透析液送液部133を制御させた。
そのため、すぐに補液速度を低下させるまでの緊急性はないが透析液の最大液圧Vpが上昇している場合において、透析液の最大液圧Vpが第1上限閾値Va1を上回った場合に、次回のサイクルの補液工程において、補液速度を低下させて、透析液の最大液圧Vpを低下させることができる。これにより、透析液回路130の圧力値が上昇し過ぎない状態で、補液速度を上昇させた速い速度で維持するように制御することができる。
【0086】
(3)間歇補充型血液濾過透析法により透析を行う透析装置100において、制御部140に、補液工程において、透析液回路130を流通する透析液の液圧Vが、第1上限閾値Va1よりも高い第2上限閾値Va2を上回った場合に、実施中の補液工程において、補液工程における補液速度を低下させるように透析液送液部133を制御させた。
そのため、実施中の補液工程において補液工程における補液速度を低下させることで、透析液の液圧Vが上昇し過ぎることを抑制して、患者の負担が大きくなり過ぎることを抑制できる。これにより、透析液回路130の圧力値が上昇し過ぎない状態で、補液速度を上昇させた速い速度で維持するように制御することができる。
【0087】
(4)間歇補充型血液濾過透析法により透析を行う透析装置100において、制御部140に、所定の補液量(例えば100ml/回)及び所定の補液速度r(例えば400ml/min)に基づいて補液を実施する時間(15秒/回)を算出させ、補液実施中以外は、予め設定された設定除水速度f1(例えば10ml/min)で体重分の除水を行うと共に、所定の補液量に基づいた補液回収速度f2で補液回収分の除水を行うように透析液送液部133を制御させ、補液実施中は、所定の補液速度r(例えば400ml/min)から設定除水速度f1(例えば10ml/min)を減じて算出した逆濾過速度Rで補液を行うように透析液送液部133を制御させた。
【0088】
これにより、所定の補液速度rから設定除水速度f1を減じて算出した逆濾過速度Rで補液を行い、実質的な補液量及び除水不足量の合計である所定の補液量に基づいて補液分の回収を行うことで、補液の不実施や追加等の実施態様によらず、設定除水速度f1で体重分の除水を行うことができ、設定除水速度の再計算を不要にできる。また、従来の制御では、設定された除水速度よりもわずかに大きい除水速度で体重分の除水が行われていたが、本発明では、除水速度を増加させることなく設定通りの除水速度で体重分の除水を行うことができる。このわずかな除水速度の上昇により、除水速度の制限のある患者では、血圧低下等のリスクが大きくなったが、本発明では、設定通りの除水速度で除水が行われるので、血圧低下等のリスクを低減できる。
【0089】
以上、本発明の透析装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0090】
例えば、上述の実施形態では、第1上限閾値Va1又は第2上限閾値Va2を上回ったか、或いは、下限閾値Vbを下回ったか、を判定する最大液圧や液圧を、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpや液圧Vにより判定したが、これに限定されず、例えば、制御部140は、血液回路110を流通する血液の最大液圧Vpや液圧Vにより判定してもよい。第1上限閾値Va1,第2上限閾値Va2及び下限閾値Vbは、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧や液圧を判定する場合と、血液回路110を流通する血液の最大液圧や液圧を判定する場合とではそれぞれ数値が異なるが、患者に負担とならずに補液量を増加させることができる圧力値が適宜設定される。
【0091】
また、上述の実施形態では、制御部140は、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧Vpや液圧Vが、第1上限閾値Va1又は第2上限閾値Va2を上回った場合、或いは、下限閾値Vbを下回った場合に、補液工程における補液速度を低下又は上昇させるように制御したが、これに限られず、例えば、制御部140は、回収工程における回収速度を低下又は上昇させるように制御してもよい。また、透析工程における複数回のサイクルにおいて、補液工程における補液速度を低下又は上昇させるように行う制御と、回収工程における回収速度を低下又は上昇させる制御とを、併用してもよい。回収工程において血液の濃縮が進むと、血液の粘度が上昇して、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧や液圧又は血液回路110を流通する血液の最大液圧や液圧の圧力値が上昇する。そのため、上述の実施形態に限られず、回収工程における回収速度を低下又は上昇させるように制御してもよい。回収工程における回収速度を低下又は上昇させることで、血液の濃縮を調整することができるため、透析液回路130を流通する透析液の最大液圧や液圧又は血液回路110を流通する血液の最大液圧や液圧の圧力値を低下又は上昇させることができる。
【0092】
また、上記実施形態では、制御部140は、補液工程において、透析液の液圧や血液の液圧が、第1上限閾値Va1を上回ったか、或いは、下限閾値Vbを下回った場合に、次回のサイクルにおいて、補液工程における補液速度や回収工程における回収速度を変更するように制御したが、これに限定されず、現在のサイクルにおいて、補液工程における補液速度や回収工程における回収速度を変更するように制御してもよい。
【符号の説明】
【0093】
100 透析装置
110 血液回路
120 血液浄化手段
130 透析液回路
133 透析液送液部
140 制御部