(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160866
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】二糖類およびセルラーゼ剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/12 20060101AFI20241108BHJP
C12P 7/08 20060101ALI20241108BHJP
C12N 9/42 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C12P19/12
C12P7/08
C12N9/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076338
(22)【出願日】2023-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502059825
【氏名又は名称】Bio-energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 真司
(72)【発明者】
【氏名】木原 真希
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
【テーマコード(参考)】
4B064
【Fターム(参考)】
4B064AC03
4B064AF03
4B064CA06
4B064CA21
4B064CB30
4B064CD09
4B064CD24
4B064DA16
(57)【要約】
【課題】 希少な糖であるグルコース2分子が脱水縮合した糖の、従来の方法よりもコストや時間の観点から優れている、新たな製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明のグルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法は、グルコースと、β-グルコシダーゼ表層提示微生物とを接触させることを含む。本発明によれば、効率的にセルラーゼ等の誘導効果を有するグルコース2分子が脱水縮合した糖を製造することが可能となる。また、二糖類を用いることで、最終的にセルロース等を含む産業廃棄物などから糖化発酵産物を製造することも可能である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコースと、β-グルコシダーゼ表層提示微生物とを接触させることを含む、グルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法。
【請求項2】
該接触が、グルコースを含む培地中で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グルコース2分子が脱水縮合した糖が、ゲンチオビオース、セロビオース、ソホロース、ラミナリビオースからなる群から選択される糖を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記グルコース2分子が脱水縮合した糖が、ゲンチオビオース、ソホロースおよびラミナリビオースを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記β-グルコシダーゼ表層提示微生物が、β-グルコシダーゼ表層提示酵母である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記β-グルコシダーゼ表層提示酵母が、サッカロマイセス属である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記β-グルコシダーゼがアスペルギルス属菌に由来する、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7に記載の方法により得られたグルコース2分子が脱水縮合した糖を含む培地で、糸状菌を培養することを含む、セルラーゼ剤の製造方法
【請求項9】
前記糸状菌がトリコデルマ属菌である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記トリコデルマ属菌が、トリコデルマ・リーセイである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項8~10に記載の方法により得られたセルラーゼ剤とセルロースとを含む培地で、β-グルコシダーゼ表層提示微生物を培養することを含む、糖化発酵産物の製造方法。
【請求項12】
前記糖化発酵産物が、エタノールである、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース2分子が脱水縮合した糖(例:ソホロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース等)の製造方法、および該二糖類を用いたセルラーゼ剤の製造方法、ならびに該セルラーゼ剤を用いた糖化発酵産物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セルロース系バイオマスの糖化が、燃料エタノールの生産等の観点から注目されており、該糖化のために、セルラーゼ等の酵素が大量に必要となる。セルラーゼ等の生産菌としては、例えば、トリコデルマ(Trichoderma)属糸状菌が知られているが、該菌は、セルロースやバイオマス前処理物等の固形分を酵素生産の原料として用いている。
【0003】
しかしながら固形分を酵素生産の原料とする場合、残存固形分への吸着による生産酵素の回収率低下や、誘導物質の比率の変化に起因する酵素生産性の低下が懸念される。このような背景から、可溶性炭素源を原料とした培養によるセルラーゼの生産に関する種々の取り組みがなされている。
【0004】
上記可溶性炭素源としては、ラクトースのほか、セロビオース、ソホロース、ゲンチオビオース等のβ結合を有する二糖類が使用し得る。しかしながら、ソホロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオースといったグルコース2分子が脱水縮合した糖は自然界では希少な糖であり、定量分析は可能であるものの大量に入手することが難しい。そのため、大量に入手することができるグルコース等を原料に縮合反応を利用して合成する方法が研究されている(非特許文献1)。また、該反応を触媒するβ-グルコシダーゼの改良も多大な労力をかけて研究されている(非特許文献2)。
【0005】
しかしながら、上述したような方法等によりソホロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース等の可溶性炭素源を製造した場合、そのコストは高額なものとなり、ひいてはセルラーゼの価格自体にも多大な影響を及ぼすこととなる。また、ソホロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース等を一旦製造した上で、新たにセルラーゼの製造を行う必要もあり、所望するセルラーゼを取得するまでに多くの時間が必要となることも否めない。そのため、これらの問題点を解消し得るようなソホロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース等のグルコース2分子が脱水縮合した糖の新たな製造方法の確立が切望されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Margarita V. Semenovaら, Open Glycoscience, 2009, 2: 20-24
【非特許文献2】K. Niuら, Bioresour. Bioprocess. (2020) 7:45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、希少な糖であるグルコース2分子が脱水縮合した糖(例:ソホロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース等)の、従来の方法よりもコストや時間の観点から優れている、新たな製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以前の研究において、セルラーゼで処理したセルロース材料を含有する培地を用いて、β-グルコシダーゼ表層提示微生物を培養する工程を含む、β-グルコシダーゼ表層提示微生物の培養方法等を確立している(国際公開第2020/004473号)。そのため、本発明者らは、まず、該β-グルコシダーゼ表層提示微生物を、所望するグルコース2分子が脱水縮合した糖(例:ソホロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース等)の生成に用いることができないかを検討した。この検討において、本発明者らは、β-グルコシダーゼの酵素反応に着目し、グルコースとβ-グルコシダーゼ表層提示微生物とを接触させることで、所望するソホロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース等の二糖類を取得し得るのではないかと着想した。
【0009】
該着想に基づいて、鋭意検討を行ったところ、実際にグルコースとβ-グルコシダーゼ表層提示微生物とを接触させることで、所望する二糖類を取得し得ることを見出した。また、特定の濃度以上のグルコースを含む培地中で、該接触を行った場合、さらに所望する二糖類の収率がよいことも見出した。上記二糖類はセルラーゼ等の誘導について優れた効果を有するため、該二糖類を用いてセルラーゼ等を誘導し、該誘導により得られたものを用いることで、最終的に糖化発酵産物を従来よりもコストや時間の観点から優れた態様にて取得し得ることも見出した。該知見をもとに、さらに研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]グルコースと、β-グルコシダーゼ表層提示微生物とを接触させることを含む、グルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法。
[2]該接触が、グルコースを含む培地中で行われる、[1]に記載の方法。
[3]前記グルコース2分子が脱水縮合した糖が、ゲンチオビオース、セロビオース、ソホロース、ラミナリビオースからなる群から選択される糖を含む、[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記グルコース2分子が脱水縮合した糖が、ゲンチオビオース、ソホロースおよびラミナリビオースを含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]前記β-グルコシダーゼ表層提示微生物が、β-グルコシダーゼ表層提示酵母である、[1]~[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]前記β-グルコシダーゼ表層提示酵母が、サッカロマイセス属である、[5]に記載の方法。
[7]前記β-グルコシダーゼがアスペルギルス属菌に由来する、[1]~[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8][1]~[7]に記載の方法により得られたグルコース2分子が脱水縮合した糖を含む培地で、糸状菌を培養することを含む、セルラーゼ剤の製造方法
[9]前記糸状菌がトリコデルマ属菌である、[8]に記載の方法。
[10]前記トリコデルマ属菌が、トリコデルマ・リーセイである、[9]に記載の方法。
[11][8]~[10]に記載の方法により得られたセルラーゼ剤とセルロースとを含む培地で、β-グルコシダーゼ表層提示微生物を培養することを含む、糖化発酵産物の製造方法。
[12]前記糖化発酵産物が、エタノールである、[11]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明を利用することで、従来よりも、より安価に且つ効率的に、セルラーゼ等の誘導効果を有するグルコース2分子が脱水縮合した糖を製造することが可能となる。また、該二糖類を用いることで、最終的に、セルロース等を含む産業廃棄物などから、従来よりもコストや時間の面から有利な態様にて、糖化発酵産物を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、TJ14-BGL(AG)でのセルラーゼ誘導物質の生成検討の結果を示す。
【
図2】
図2は、グルコース溶液でのトリコデルマ・リーセイ(RUT-C30)培養に関する検討の結果を示す。
【
図3】
図3は、糖転移反応物を含むグルコース溶液でのトリコデルマ・リーセイ(RUT-C30)培養に関する検討の結果を示す。
【
図4】
図4は、SDS-PAGEによる、実施例2および3で生成したタンパク質の組成検討の結果を示す。
【
図5】
図5は、糖化発酵産物(エタノール)の製造検討の結果を示す。
【
図6】
図6は、グルコース2分子が脱水縮合した糖の製造から糖化発酵産物の製造までの工業規模での実装例を示す。図中の1は、β-グルコシダーゼ表層提示微生物(例:酵母など)を培養する工程である。図中の2は、1で培養した微生物の一部を糖転移反応用の触媒として流用する工程である。該流用により、β-グルコシダーゼという糖転移反応作用のある触媒を、外部から調達することなく安価に用意し得る。図中の3は、グルコースとβ-グルコシダーゼ表層提示微生物を接触させて、グルコースの酵素反応(糖転移反応)を行う工程である。該工程では、グルコース溶液に触媒(β-グルコシダーゼ表層提示微生物)を投入し、緩やかに攪拌を行ってもよい。図中の4は、工程3により、糖転移反応物を含む流加液(グルコースのうち一部がラミナリビオース、ゲンチビオース、ソホロース等のセルラーゼの誘導物質に置き換わった可溶性糖質の溶液)を用意する工程である。これをタンクに溜めておき、セルラーゼ生産のフィードストックに用いる。図中の5は、該フィードストックを用いて、セルラーゼ生産用糸状菌(例えば、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei))の培養を行う工程である。該工程により所望するセルラーゼ剤を取得し得る。工程5で取得したセルラーゼ剤を、セルロース材料(例えば、バガスなどの農業残渣を前処理した固形分)に振りかけて、液状化させる工程である。工程6だけでは完全な糖化が行われることがないため、次の発酵工程で糖化発酵を完結させることになる。図中の7は、発酵槽において液化物の糖化発酵を進める工程である。該工程により、例えば、エタノールなどの糖化発酵産物を効率的に得ることができる。該工程では、工程1で培養したβ-グルコシダーゼ表層提示微生物を用いることで、糖化発酵産物の収率を高めることが可能となる。また、上記の工程で用いたβ-グルコシダーゼ表層提示微生物は、回収して再利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.グルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法
本発明は、グルコースと、β-グルコシダーゼ表層提示微生物とを接触させることを含む、グルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法(以下、「本発明の二糖類の製造方法」と称する場合がある。)を提供する。
【0014】
本明細書において、「グルコース2分子が脱水縮合した糖」とは、具体的には、β,β-トレハロース(β1-β1結合)、ソホロース(β1-2結合)、ラミナリビオース(β1-3結合),セロビオース(β1-4結合)およびゲンチオビオース(β1-6結合)等をいう(以下、これらを「β-グルコ二糖類」あるいは「β-グルコ二糖」と称する場合がある。)。これらの糖は、後述するセルラーゼの誘導物質として優れている。
【0015】
(i)接触条件
グルコースとβ-グルコシダーゼ表層提示微生物との接触は、グルコースを含む溶液中で行い得、例えば、グルコースを含む溶液中にβ-グルコシダーゼ表層提示微生物を添加することで接触を開始してもよい。また、該接触は、静置にて行ってもよく、該溶液を攪拌して行ってもよい。
【0016】
上記溶液は、グルコースを溶解し得るものであり、且つグルコースとβ-グルコシダーゼ表層提示微生物との接触により上述のβ-グルコ二糖類が生成されるものであれば特に限定されず、グルコース以外では、例えば、水(例:蒸留水、脱イオン水)、緩衝液(例:酢酸緩衝液、リン酸緩衝液等)、培地(YPD培地、YM培地、PD培地)等を含んでもよい。β-グルコ二糖類の効率的な生成の観点からは、該グルコースを含む溶液は、β-グルコシダーゼ表層提示微生物が少なくとも維持培養されるようなものであってもよい。
【0017】
本発明の接触を行う溶液中のグルコース濃度は、グルコースとβ-グルコシダーゼ表層提示微生物との接触によりβ-グルコ二糖類が生成されるものであれば特に限定されないが、例えば、100g/L~800g/L、好ましくは400g/L~800g/L、より好ましくは500g/L~800g/Lである。グルコースを含む溶液のpHは、グルコースとβ-グルコシダーゼ表層提示微生物との接触によりβ-グルコ二糖類が生成されるものであれば特に限定されないが、例えば、pH2~pH10、好ましくはpH4~pH8、より好ましくは、pH5~pH7である。好気条件での接触の場合、該溶液中の溶存酸素濃度は、例えば、0.1ppm~7ppm、好ましくは0.1ppm~5ppm、より好ましくは0.1ppm~3ppmである。該溶液の温度は、例えば、20℃~80℃、好ましくは40℃~60℃、より好ましくは50℃である。
【0018】
該溶液中のβ-グルコシダーゼ表層提示微生物の量は、所望する量のβ-グルコ二糖類が生成される限り特に限定されないが、例えば、該微生物が酵母の場合、4g(湿潤量)/L以上、好ましくは10g(湿潤量)/L、より好ましくは20g(湿潤量)/L以上である。また、グルコースとβ-グルコシダーゼ表層提示微生物との接触の際に攪拌を行う場合、攪拌速度は、所望する量のβ-グルコ二糖類が生成される限り特に限定されないが、例えば、10rpm~500rpm、好ましくは、20rpm~400rpm、より好ましくは40rpm~200rpmである。グルコースとβ-グルコシダーゼ表層提示微生物とを接触させる時間は、所望する量のβ-グルコ二糖類が生成される限り特に限定されないが、例えば、24時間~96時間程度である。
【0019】
(ii)表層提示微生物の作製
本発明の製造方法で用いる「β-グルコシダーゼ表層提示微生物」とは、β-グルコシダーゼをその菌体細胞の表層である細胞膜、細胞壁、あるいは細胞壁と細胞膜の間の空間(ペリプラズムやinner wall zone)に局在させた微生物をいう。例えば、後述するβ-グルコシダーゼ遺伝子を含む表層提示カセットを用いて宿主微生物の形質転換を行うことにより、β-グルコシダーゼ表層提示形質転換微生物(単に「β-グルコシダーゼ表層提示微生物」ともいう。)が作出される。β-グルコシダーゼは現在、2種類知られており、それぞれβ-グルコシダーゼ1、β-グルコシダーゼ2と称される。β-グルコシダーゼとしては、例えば、アスペルギルス・アクレアタス(Aspergillus aculeatus)由来β-グルコシダーゼ(特に、BGL1)(例えば、国際公開第2015/33948号)、ルミノコッカス・アルブス(Ruminococcus albus)由来のβ-グルコシダーゼ遺伝子(GenBank Sequence ID:X15415.1)が挙げられるが、これに限定されない。
【0020】
表層提示微生物は、後述する本発明の糖化発酵産物の製造方法でも用いるために、β-グルコシダーゼおよびキシロシダーゼを共に表層提示するものであってもよい。β-グルコシダーゼおよびキシロシダーゼを共に表層提示する微生物は、例えば、微生物を培養する培地がセルロースおよびヘミセルロースを含む場合に有用である。「β-グルコシダーゼ表層提示微生物」は、β-グルコシダーゼを表層提示する限り、他の1又は2以上のタンパク質(例えば、キシロシダーゼ、キシラナーゼ、エンドグルカナーゼ等)をさらに表層提示する微生物もまた包含する。「キシロシダーゼ表層提示微生物」は、キシロシダーゼを表層提示する限り、他の1又は2以上のタンパク質(例えば、β-グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ、キシラナーゼ等)をさらに表層提示する微生物もまた包含する。
【0021】
上記キシロシダーゼ表層提示微生物は、キシロシダーゼをその菌体細胞の表層である細胞膜、細胞壁、あるいは細胞壁と細胞膜の間の空間(ペリプラズムやinner wall zone)に局在させた微生物をいう。キシロシダーゼとして、例えば、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)由来β-キシロシダーゼ(XylA)が挙げられる。キシロシダーゼ表層提示微生物は、キシロースを代謝する微生物を用いて作出される。キシロースを代謝することができるように遺伝子組換えされた微生物であってもよい。そのような遺伝子組換え微生物として、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)(通常は六炭糖のグルコースを代謝し、五炭糖のキシロースは代謝することができない)が、キシロース代謝性遺伝子を有するように形質転換され得る。キシロース資化性遺伝子としては、キシロース代謝系酵素の遺伝子、例えば、キシロースレダクターゼ(XR)遺伝子(例えば、ピチア・スチピチス(Pichia stipitis)由来:INSDアクセッション番号X59465またはA16164)、およびキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)遺伝子(例えば、ピチア・スチピチス由来:INSDアクセッション番号X55392またはA16166)、およびキシルロキナーゼ(XK)遺伝子(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ由来:INSDアクセッション番号X82408)が挙げられる。これらの3つの遺伝子を発現するように遺伝子組換えされたサッカロマイセス・セレビシエが、キシロシダーゼ表層提示微生物の作製のために用いられ得る。
【0022】
宿主微生物は、特に限定されないが、例えば、グラム陽性菌、グラム陰性菌等、より具体的には、例えば、酵母、乳酸菌、糸状菌、コリネバクテリウム属菌、大腸菌、ザイモナス菌などが挙げられる。アルコール製造への利用の観点からは、アルコール(例えば、エタノール)の発酵能を有する微生物が好ましく、このような微生物としては例えば、酵母が挙げられる。乳酸製造への利用の観点からは、好ましくは乳酸菌である。
【0023】
酵母としては、例えば、サッカロマイセス属(Saccharomyces)、ピキア属(Pichia)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces)、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces)、カンジダ属(Candida)などが挙げられる。サッカロマイセス属に属する酵母が好ましく、サッカロマイセス・セレビシエがさらに好ましい。サッカロマイセス・セレビシエの菌株としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエNBRC1440株(独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手可能)、サッカロマイセス・セレビシエTJ14株(Moukamnerdら、Appl. Microbiol. Biotechnol.、2010年、第88巻、p.87-94)、サッカロマイセス・セレビシエBY4741株(EUROSCARF等より入手可能)およびサッカロマイセス・セレビシエKF-7株(Tingら、Process Biochem.、2006年、第41巻、p.909-914)が挙げられる。さらに、酵母としては、以下の菌株も挙げられる:ピキア・パストリス(Pichia pastoris)GS115(Invitrogen社製)およびピキア・アノマラ(Pichia anomala)NBRC10213株、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NBRC1628株、クルイベロマイセス・ラクテイス(Kluyveromyces lactis)NBRC1267株およびクルイベロマイセス・マルシアヌス(Kluyveromyces marxianus)NBRC1777株(Yanaseら、Appl Microbiol Biotechnol、2010年、第88巻、p.381-388)、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)NBRC0988株(Tomitaら、PLoS One. 2012; 7(5): e37226)(NBRC株はいずれも独立行政法人製品評価技術基盤機構から入手可能)。
【0024】
乳酸菌とは、代謝または発酵によって糖類から乳酸を産生する細菌の総称である。乳酸菌は、主として、ビフィズス菌、エンテロコッカス菌、ラクトバチルス菌、ストレプトコッカス菌の4種に分類され得る。好ましくは、ラクトバチルス菌が用いられ得る。乳酸菌としては、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、またはリューコノストック属(Leuconostoc)に属する菌が挙げられる。乳酸菌としては、例えば、ストレプトコッカス・サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・フェカーリス(Streptococcus faecalis)、ストレプトコッカス・ラクテイス(Streptococcus lactis)、ラクトバチルス・ブルカリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・デルブルツキイ(Lactobacillus delbrueckii)、ラクトバチルス・アラビノースス(Lactobacillus arabinosus)、ラクトバチルス・カウカシクス(Lactobacillus caucasicus)、ラクトバチルス・ラクテイス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・ライシュマニ(Lactobacillus Leishmanni)、ラクトバチルス・ムシカス(Lactobacillus musicus)、ラクトバチルス・サーモフィルス(Lactobacillus thermophilus)、ラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・アドレスセンティス(Bifidobacterium adolescentis)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ラクトコッカス・ラクテイス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・クレモリス(Lactococcus cremoris)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)、およびロイコノストック・メゼンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)などが挙げられる。乳酸菌には、有胞子性乳酸菌もまた包含される。有胞子性乳酸菌は、有胞子性の乳酸菌の総称である。有胞子性乳酸菌としては、例えば、バチルス属(Bacillus)に属する菌が挙げられる。バチルス属に属する有胞子性乳酸菌は、耐熱性(例えば45℃のような高熱下にて生育可能)、高い発酵速度、および広い糖資化性を有するものであり得る。バチルス属(Bacillus)に属する菌としては、例えば、バチルス・コアグランス(Bacillus coagulans、「スポロ乳酸菌」としても知られる)およびバチルス・リンチェニフォルマイス(Bacillus lincheniformis)が挙げられる。
【0025】
乳酸菌は、遺伝子組換えがされたものであってもよい。例えば、L-またはD-乳酸合成酵素遺伝子のいずれかを組み込むあるいは破壊した組換え微生物が挙げられる。遺伝子組換え微生物として、例えば、ラクトバチルス・プランタルムldhL1::amyA株(Okanoら, Appl. Environ. Microbiol. 2009, Vol.75, 462-467)、およびラクトバチルス・プランタルムΔldhL1::PxylAB-xpk1::tkt-Δxpk2::PxylAB株(Yoshidaら, Appl. Microbiol. Biotechnol., 2011, Vol.92, 67-76)が挙げられる。ラクトバチルス・プランタルムldhL1::amyA株は、α-アミラーゼを分泌しグルコースからD-乳酸を生成する組換え株であり、ラクトバチルス・プランタルムΔldhL1::PxylAB-xpk1::tkt-Δxpk2::PxylAB株は、グルコースとキシロースの両方からD-乳酸を生成する組換え株である。
【0026】
大腸菌(Escherichia coli)としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,60,160 (1968)〕、エシェリヒア・コリJM103〔Nucleic Acids Research,9,309 (1981)〕、エシェリヒア・コリJA221〔Journal of Molecular Biology,120,517 (1978)〕、エシェリヒア・コリHB101〔Journal of Molecular Biology,41,459 (1969)〕、エシェリヒア・コリC600〔Genetics,39,440 (1954)〕などが挙げられる。
【0027】
表層提示微生物は自体公知の方法により作出し得る。該作出のために用いられる、各種宿主微生物に関する表層提示技術としては、具体的には、例えば、特開平11-290078号公報、国際公開第02/085935号、国際公開第2015/033948号、国際公開第2016/017736号、国際公開第2020/004473号、Biotechnology for Biofuels, 7(1):8 (2014)、およびK. Onoderaら,Biochemical Engineering Journal 128 (2017) 195-200(酵母);生物工学会誌,第89巻,第4号,154-160 (2011)、化学工学会第70年会研究発表講演要旨集、セッションID F123(http://doi.org/10.11491/scej.2005.0.255.0)、Appl. Environ. Microbiol., 72(1), 269-275 (2006) およびAppl. Environ. Microbiol., 74(4), 1117-1123 (2008)(乳酸菌)などに記載の技術を用いることができる。表層提示技術では表層提示カセットが用いられ、この表層提示カセットは、アンカータンパク質のアンカードメインをコードするDNAおよび分泌シグナルをコードするDNAを、表層提示されるべきβ-グルコシダーゼ等をコードするDNAと共に、適切な配置で含み得る。表層提示カセットは、プロモーターとターミネーターとの間に配置され得る。アンカードメインおよび分泌シグナルに関してもまた、上記文献に記載される。
【0028】
上記アンカードメインとしては、例えば、酵母について、GPIアンカータンパク質(例えば、SED1、α-またはa-アグルチニン(AGα1、AGA1)、FLO1タンパク質(例:FLO1、FLO2、FLO4、FLO5、FLO9、FLO10、FLO11等)、アルカリホスファターゼなど)のアンカードメインが挙げられる(特開2006-174767号公報等)。本明細書において、「GPIアンカータンパク質」とは、細胞表層局在タンパク質であって、細胞膜上に存在するGPIアンカーを介して細胞膜に結合し得るタンパク質を意味する。
【0029】
乳酸菌については、ペプチドグリカン結合タンパク質AcmAのCAドメインおよびバシルス・ズブチリス(Baccilus subtilis)由来のポリ-γ-グルタミン酸生合成酵素複合体(PgsBCA)のサブユニットであるPgsAタンパク質などが挙げられる(国際公開第2003/014360等)。
【0030】
また、上記以外のアンカータンパク質としては、例えば、大腸菌などの細菌の細胞の表層提示に用いられる、大腸菌由来のタンパク質slp、blc又はhdeD(特開2012-105611号公報等)、コリネバクテリウム属菌由来のポーリン(例:PorA、PorB、PorC、PorH)(特開2006-174767号公報)、コリネバクテリウム属菌由来のABCトランスポーター(amino acid ABC transporter ATP-binding protein:gluA)(Biotechnol Bioeng. 2019 Oct;116(10):2640-2651)などが挙げられる。
【0031】
本明細書において記載されるタンパク質やペプチド(例:β-グルコシダーゼ、キシロシダーゼ、キシラナーゼ、エンドグルカナーゼ、アンカータンパク質など)は、該タンパク質やペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、本発明において所望の機能または効果を実質的に有するタンパク質またはペプチドであってもよく、DNAまたはポリヌクレオチドは、そのようなタンパク質またはペプチドをコードするものを含んでもよい。
【0032】
本明細書において、「所望の機能または効果を実質的に有する」とは、β-グルコシダーゼ、キシロシダーゼ、キシラナーゼ、エンドグルカナーゼ等の酵素であれば、その活性部位が保持されており、触媒活性が失われていないことを意味する。また、アンカータンパク質であれば、β-グルコシダーゼ等の表層提示を所望するタンパク質を細胞膜、細胞壁、あるいは細胞膜と細胞壁の間の空間に局在させるためのアンカー機能が失われていないことを意味する。
【0033】
タンパク質やペプチドのアミノ酸配列に対するアミノ酸の変異(例えば、欠失、置換もしくは付加)は、いずれか1種類であってもよいし、2種類以上が組み合わされていてもよい。また、これらの変異の総数は、1または数個であるが、その所望の機能または効果を実質的に有する限り特に限定されず、タンパク質またはペプチドの大きさにも依存し得る。変異の総数としては、例えば、1個以上10個以下、1個以上9個以下、1個以上8個以下、1個以上7個以下、1個以上6個以下、1個以上5個以下、1個以上4個以下、1個以上3個以下、または1個以上2個以下が挙げられるが、これらに限定されない。また、変異の総数は、例えば、以下に説明する配列同一性を満たす範囲内であり得る。アミノ酸置換の例としては、各機能または効果を実質的に保持する限りにおいていずれの置換であってもよい。例えば、保存的置換が挙げられる。保存的置換としては、具体的には以下のグループ内(すなわち、括弧内に示すアミノ酸間)での置換が挙げられる:(グリシン、アラニン)、(バリン、イソロイシン、ロイシン)、(アスパラギン酸、グルタミン酸)、(アスパラギン、グルタミン)、(セリン、トレオニン)、(リジン、アルギニン)、(フェニルアラニン、チロシン)。
【0034】
他の実施形態としては、本明細書において記載されるタンパク質またはペプチドは、該タンパク質やペプチドのアミノ酸配列に対して、例えば、70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ本発明において所望の機能または効果を実質的に有するタンパク質またはペプチドであってもよく、ポリヌクレオチドは、そのようなタンパク質またはペプチドをコードするものであってもよい。アミノ酸配列における配列同一性はまた、開示されるアミノ酸配列に対して、例えば、70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ本発明において所望の機能または効果を実質的に有するタンパク質またはペプチドをコードするものであってもよい。アミノ酸配列における配列同一性はまた、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上であり得る。
【0035】
本明細書において配列の同一性または類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。配列の「同一性」とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一連の、部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、「類似性」とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一連の、部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸または配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarityと称される。同一性および類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性および類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)プログラム(例えば、Altschulら, J. Mol. Biol.,1990,215:403-410;Altschylら,Nucleic Acids Res., 1997,25:3389-3402)を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではなく、デフォルト値を用いてもよい。
【0036】
表層提示微生物は、担体に固定されてもよい。そのことにより、下述する方法において再使用が可能となる。固定する担体および方法は、当業者が通常用いる担体および方法が用いられる。固定方法としては、例えば、担体結合法、包括法、架橋法などが挙げられる。担体としては、多孔質体が好ましく用いられる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリアクリルアミド、ポリビニルフォルマール樹脂多孔質体、シリコンフォームなどの発泡体あるいは樹脂が好ましい。多孔質体の開口部の大きさは、用いる微生物およびその大きさを考慮して決定され得るが、実用酵母の場合、50~1000μmの範囲内が好ましい。また、担体の形状は問わない。担体の強度、培養効率などを考慮すると、球状あるいは柱状(例えば、立方体状)が好ましい。大きさは、用いる微生物により決定すればよいが、一般には、球状の場合、直径が2~50mm、柱状の場合、2~50mm角が好ましい。
【0037】
上述のようにして作製した表層提示微生物は、グルコースを含む溶液中に該微生物を添加する前に、自体公知の方法により培養しておいてもよい。また、本発明のグルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法により得られたβ-グルコ二糖類(を含む溶液)は、後述する本発明のセルラーゼ剤の製造方法においてそのまま用いてもよく、例えば、遠心分離等の自体公知の方法により表層提示微生物を除去したり、β-グルコ二糖を濃縮等したりした上で用いてもよい。
【0038】
2.セルラーゼ剤の製造方法
本発明は、「1.グルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法」により得られたβ-グルコ二糖類を含む培地で、糸状菌を培養することを含む、セルラーゼ剤の製造方法(以下、「本発明のセルラーゼ剤の製造方法」と称する場合がある。)を提供する。
【0039】
(i)セルラーゼ剤
本明細書において、「セルラーゼ剤」とは、セルロースを含む植物細胞壁成分の分解能を有する酵素のうち、少なくとも1つの酵素を含み、セルラーゼ剤全体として植物細胞壁成分の分解能を有する組成物をいう。従って、本発明において、糸状菌の培養液自体をセルラーゼ剤と称してもよく、また、糸状菌の培養液から、所望するセルラーゼを少なくとも部分的に分離・精製・濃縮等したものをセルラーゼ剤と称してもよい。セルラーゼ剤が分解能を有する細胞壁成分としては、セルロースおよびヘミセルロース、ならびにそれらの分解物が挙げられ、この「分解物」は、二糖以上からなる糖である。セルロースは、グルコースがβ-1,4グリコシド結合(「β-1,4結合」ともいう)により直鎖状に重合した高分子である。また、ヘミセルロースは、植物細胞壁成分のうち、セルロースおよびペクチン以外の不溶性食物繊維の総称であり、キシラン、マンナン、ガラクタンなどから構成される。
【0040】
本発明のセルラーゼ剤に含まれ得る、細胞壁成分の分解能を有する酵素としては、例えば、セルラーゼおよびヘミセルラーゼが挙げられる。
【0041】
本明細書において「セルラーゼ」とは、β-1,4-グルカン(例えば、セルロース)のβ-1,4結合を加水分解する酵素をいう。本明細書における「セルラーゼ」は、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼおよびβ-グルコシダーゼを含み得る。
【0042】
本明細書において、「エンドグルカナーゼ(エンドβ1,4-グルカナーゼ)」は、狭義にて「セルラーゼ」とも称される酵素であり、セルロースを分子内部から切断し、グルコース、セロビオース、および/またはセロオリゴ糖(重合度が3以上であり、そして好ましくは10以下であるが、これに限定されない)を生じる。
【0043】
本明細書において、「セロビオヒドロラーゼ(エキソグルカナーゼ)」は、セルロースをその還元末端または非還元末端のいずれかから分解し、セロビオースを遊離する。
【0044】
本明細書において、「β-グルコシダーゼ」は、セルロースにおいては、非還元末端からグルコース単位を切り離していくエキソ型の加水分解酵素である。β-グルコシダーゼは、アグリコンまたは糖鎖とβ-D-グルコースとのβ-1,4結合を切断し、セロビオースまたはセロオリゴ糖を加水分解してグルコースを生成する。β-グルコシダーゼは、セロビオースまたはセロオリゴ糖を加水分解する酵素の一つの例である。
【0045】
本明細書において「ヘミセルラーゼ」とは、ヘミセルロースを分解する酵素の総称である。ヘミセルラーゼにはキシラン分解酵素が含まれ、キシラン分解酵素として、例えば、キシラナーゼおよびキシロシダーゼが挙げられる。本明細書において「キシラン」は、キシロースがβ-1,4結合により直鎖状に重合した高分子を主鎖とし、種々の糖を側鎖に有するヘテロ糖である。本明細書において、「キシラナーゼ(β1,4-キシラナーゼ)」は、キシランのβ-1,4結合を加水分解する酵素をいう。キシラナーゼは、キシランの主鎖部分を内部からランダムに切断し、キシロース、キシロビオースおよび/またはキシロオリゴ糖(重合度が3以上であり、そして好ましくは10以下であるが、これに限定されない)を生じる。本明細書において、「キシロシダーゼ(β-キシロシダーゼ)」は、キシランを非還元末端からそのβ-1,4結合を加水分解してキシロースを遊離する酵素をいう。
【0046】
本明細書において「セルラーゼ活性」とは、セルロースのβ-1,4結合を加水分解する活性であり、例えば、濾紙分解活性(Filter Paper Unit:FPU)がその指標とされる。濾紙分解活性は、Industrial Crops and Products 20 (2004) 49-57に記載のように、Mandelsら(1976)の方法に基づき測定され得る。濾紙分解活性は、濾紙(例えば、Advantec No.1:東洋濾紙株式会社)を基質として用いて1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量を1ユニット(FPU)として表される。β-グルコシダーゼ活性は、Journal of Bioscience and Bioengineering, VOL.111 No.2, 121-127, 2011に記載のように、p-ニトロフェニルβ-D-グルコピラノシド(pNPG)を基質として用いて、BerghemおよびPetterssonの方法に基づいて測定され得る。β-グルコシダーゼ活性は、1分間に基質p-ニトロフェニルβ-D-グルコピラノシド(pNPG)から1μmolのニトロフェノールを遊離する酵素量を1ユニット(U)として表される。セロビオヒドロラーゼ活性は、基質としてp-ニトロフェニル-β-D-セロビオースに用いた以外はβ-グルコシダーゼ活性と同様にして測定され得る。セロビオヒドロラーゼ活性は、1分間に基質p-ニトロフェニル-β-D-セロビオースから1μmolのニトロフェノールを遊離する酵素量を1ユニット(U)として表される。
【0047】
(ii)糸状菌
本発明のセルラーゼ剤の製造方法で用いる糸状菌は、所望するセルラーゼ剤に含まれ得る酵素(例:エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β-グルコシダーゼ、キシラナーゼ、キシロシダーゼ等)を生成し得る限り特に限定されない。糸状菌としては、例えば、トリコデルマ属菌(Trichoderma)、アスペルギルス属菌(Aspergillus)、リゾープス属菌(Rhizopus)等が挙げられる。本発明で用いる細菌として好ましくは、トリコデルマ(Trichoderma)属菌である。トリコデルマ属菌に属するものの具体例としては、例えば、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・ロンギブラキアタム(Trichoderma longibrachiatum)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)などが挙げられる。好ましくはトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)であり、より好ましくはトリコデルマ・リーセイQM6aおよびその派生株である(R. Petersonら,Microbiology (2012), 158, 58-68)。
【0048】
トリコデルマ・リーセイQM6aは、例えば、ATCCより入手可能(ATCC13631)であり、その派生株として、例えばトリコデルマ・リーセイRUT-C30(ATCC56765)やトリコデルマ・リーセイQM9414(ATCC26921)が入手可能である。なお、製品評価技術基盤機構(NITE)からもトリコデルマ・リーセイQM6a(NBRC31326)およびトリコデルマ・リーセイQM9414(NBRC31329)などが入手可能である。1つの実施形態では、糸状菌(例:トリコデルマ属菌)は、セルラーゼ剤に関して非遺伝子組換え菌株(wild type)である。
【0049】
(iii)培養条件等
糸状菌(例:トリコデルマ属菌)の培養では、通常、マンデルス培地が用いられる。マンデルス培地は、例えば、M.MandelsおよびR.E.Andreotti,Problems and Challenges in the Cellulose to Cellulase Fermentation. Process Biochem 13 (1978) 6-13に記載の方法に従って調製され得る。糸状菌(例:トリコデルマ属菌)の培地は、本発明の二糖類の製造方法により得られたβ-グルコ二糖類(あるいはβ-グルコ二糖類を含む溶液)を含む。該β-グルコ二糖類により、糸状菌(例:トリコデルマ属菌)のセルラーゼ剤の生産が誘導され得る。該培地には、セロビオース、セロビオオリゴ糖、セルロース(例えば、結晶性セルロース(例えば、Avicel(アビセル))などをさらに添加してもよい。糸状菌(例:トリコデルマ属菌)の培地は、該細菌の培養に通常用いられる他の成分(例えば、ペプトン等)をさらに含んでもよい。
【0050】
本発明のセルラーゼ剤の製造方法において、糸状菌(例:トリコデルマ属菌)の培養の際のpHは、少なくとも糸状菌(例:トリコデルマ属菌)の生存が維持でき、且つ所望するセルラーゼ剤に含まれ得る酵素(例:エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β-グルコシダーゼ、キシラナーゼ、キシロシダーゼ等)を生成し得る限り、特に限定されない。具体的には、例えば、pH1~pH10、好ましくはpH2~pH8.5である。上記のpHは塩の添加によって調整され得、このような塩としては、微生物培養の際にpH調整に通常用いられる塩(例えば、水酸化ナトリウム)である。該培養におけるpHの調整のタイミングは、少なくとも糸状菌(例:トリコデルマ属菌)の生存が維持でき、且つ所望するセルラーゼ剤に含まれ得る酵素(例:エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、β-グルコシダーゼ、キシラナーゼ、キシロシダーゼ等)を生成し得る限り、如何なるタイミング(例:培養開始前、培養中)で行ってもよい。
【0051】
後述する本発明の糖化発酵産物の製造方法において用いるセルラーゼ剤に関しては、所望する糖化発酵産物が得られる限り特に限定はされないが、一態様では、以下のようなセルラーゼ剤を使用してもよい。
【0052】
所定のpH範囲(pH1以上5未満、好ましくは、pH3以上5未満)で糸状菌(例:トリコデルマ属菌)を培養することにより、該菌により、濾紙分解活性に対するβ-グルコシダーゼ活性の比率が3より低いセルラーゼが生産され得る。1つの実施形態では、生産されるセルラーゼは、その濾紙分解活性に対するβ-グルコシダーゼ活性の比率が、1より低い、0.5より低い、0.3より低い、0.2より低い、0.1より低い、0.06より低い、0.04より低い、0.03より低いまたは0.02より低いものである。上記比率の数値は、β-グルコシダーゼ活性を50℃(液化に通常用いられ得る温度)にて測定した場合に得られる値である。50℃で測定したβ-グルコシダーゼ活性は、35℃で測定した場合に比べると高い活性を示す傾向にある。生産されるセルラーゼ剤は、好ましくは、エンドグルカナーゼおよびセロビオヒドロラーゼを含む。pH1未満であれば、糸状菌(例:トリコデルマ属菌)の生育を抑制するおそれがある。pH5以上であると、生産されるセルラーゼ剤において、β-グルコシダーゼ活性を高め得ても、セルラーゼ総体としての分解能力を示す濾紙分解活性およびセロビオヒドロラーゼ活性を損ない得る。1つの実施形態では、生産されるセルラーゼ剤は、キシラナーゼをさらに含む。生産されるセルラーゼ剤にはキシロシダーゼもまた含まれ得る。
【0053】
培養の際の温度、通気、細胞量等の培養条件は、糸状菌(例:トリコデルマ属菌)の培養で通常用いる条件を用いることができる。培養時間は、初期細胞量または回収する最終セルラーゼ活性に依存するが、例えば、24時間~240時間、好ましくは、72時間~192時間である。糸状菌(例:トリコデルマ属菌)の培養は、セルラーゼ剤の製造および回収のための培養(「本培養」)を行う前に、予備的な培養(「前培養」)を行ってもよい。
【0054】
一態様では、本発明のセルラーゼ剤の製造方法で製造されたセルラーゼ剤は、トリコデルマ属菌(例:トリコデルマ・リーセイ等)を用いたものである。該セルラーゼ剤は、例えば、固液分離(例えば、遠心分離およびフィルタ濾過)により、トリコデルマ属菌の培養液から回収され得る。該セルラーゼ剤は、回収後、必要に応じて、当業者が通常用いる方法(例えば、エバポレーターおよび膜の使用)によって濃縮されたものであってもよい。
【0055】
本発明のセルラーゼ剤の製造方法について上記以外の事項は、「1.グルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法」に記載の内容を全て援用し得る。
【0056】
3.糖化発酵産物の製造方法
本発明は、「2.セルラーゼ剤の製造方法」により得られたセルラーゼ剤とセルロースとを含む培地で、β-グルコシダーゼ表層提示微生物を培養することを含む、糖化発酵産物の製造方法(以下、「本発明の糖化発酵産物の製造方法」と称する場合がある。)を提供する。
【0057】
(i)表層提示微生物の培養方法および糖化発酵産物の製造方法
本発明においては、上記で得られたセルラーゼ剤(例:TPセルラーゼ剤)で、該セルラーゼ剤が分解し得る多糖基質を含む材料を処理し、この処理物で表層提示微生物の培養を行うことで所望する糖化発酵産物を取得し得る。本発明の糖化発酵産物の製造方法において用いる表層提示微生物は、「1.グルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法」で用いたものでもよく、その記載内容は全て援用し得る。
【0058】
上記材料としては、例えば、セルロース材料およびキシロース含有多糖を含む材料ならびにこれらの混合物が挙げられる。例えば、本発明のセルラーゼ剤でセルロース材料を処理し、この処理物をβ-グルコシダーゼ表層提示微生物の培養に用いることができる。β-グルコシダーゼ表層提示微生物は、このような培養によって、糖化発酵産物を生産し得る。本発明のセルラーゼ剤で、キシロース含有多糖を含む材料を処理し、この処理物を、キシロースの代謝能を有しかつキシロシダーゼを表層提示する微生物(以下、「キシロース代謝キシロシダーゼ表層提示微生物」と称する場合がある。)の培養に用いることができる。「キシロース含有多糖」とは、キシロースを構成成分に含む多糖をいい、少なくとも二糖のキシロースを含む。例えば、キシロース代謝キシロシダーゼ表層提示微生物は、このような培養によって、糖化発酵産物を生産し得る。
【0059】
セルロース材料とは、セルロースを含む任意の材料をいう。キシロース含有多糖としては、例えば、キシラン、キシランを含むヘミセルロースが挙げられる。セルロースおよびキシロース含有多糖はともに、加水分解によってより低分子の糖が生じる(例えば、セルロースからグルコースまたはセロビオース、キシロース含有多糖からキシロースまたはキシロビオース)(この反応を「糖化」ともいう)。糖化反応により得られるグルコースまたはキシロース、あるいはその両方を、発酵微生物(例えば、酵母、乳酸菌など)が基質として利用し、発酵産物(例えば、エタノール、乳酸など)を生産し得る(この反応を「発酵」または「発酵生産」ともいう)。糖化および当該糖化により得られる糖を基質に用いた微生物による発酵を合わせて「糖化発酵」ともいう。糖化発酵によって得られる産物を、本明細書では、「糖化発酵産物」ともいう。
【0060】
セルロース材料として、例えば、セルロース系バイオマスが挙げられる。セルロース系バイオマスとは、生物資源に由来する材料であって、セルロースを含むものをいう。セルロース系バイオマスの利用は、食糧と競合しない点で好ましい。キシロース含有多糖を含む材料としては、例えば、キシランを含む材料およびヘミセルロースを含む材料が挙げられる。セルロース系バイオマスとして植物バイオマスが挙げられる。植物バイオマスは、セルロースおよびヘミセルロースを含み、よって、セルロース材料としても、キシロース含有多糖を含む材料としても用いられ得る。セルロース系バイオマスまたは植物バイオマスとしては、コメ、ムギ、トウモロコシ、サトウキビ、パーム、木材(パルプ)、ネピアグラスなどの生物材料の処理に際して生じる廃棄物などが挙げられる。セルロース系バイオマスまたは植物バイオマスとしては、例えば、稲ワラ、麦ワラ、パーム空果房、バガス(サトウキビ搾汁後の残渣)などが挙げられる。
【0061】
上記材料は、前処理が施されたものであってもよい。前処理とは、酵素で基質を分解する前に、その基質を含む材料に対して行う処理であり、これにより、その材料中に含まれていた基質への酵素の作用を容易にする。例えば、セルロースをグルコースまで加水分解するために、セルロース加水分解酵素で処理する前に、酵素のセルロースへの作用を容易にするために、酵素反応の前にセルロースをセルロース材料(例えば、バイオマス)から分離し、露出させる処理をいう。前処理法としては、特に限定されないが、例えば、水熱分解、圧搾、蒸煮などが挙げられ、また、これらの方法を組み合わせて用いてもよい。水熱分解法では、例えば、セルロース系バイオマスを、必要に応じて粉砕し、例えば、約20質量%(乾燥質量)の含量となるように水と混合し、この混合物を熱処理する。水熱処理は、120℃~300℃、好ましくは150℃~280℃、より好ましくは180℃~250℃にて、15秒間~1時間行われる。処理温度および時間は用いるバイオマスによって変動し得、処理温度の上昇は処理時間を短縮し得る。なお、熱処理中に加圧してもよい。圧搾としては、特に限定されないが、例えば、油圧式圧搾機、スクリュープレス、採肉機、プレス脱水機、または遠心分離機等によりセルロース系バイオマスを圧搾する方法が挙げられる。蒸煮方法としては、特に限定されないが、例えば、セルロース系バイオマスを高温の水蒸気により蒸煮する方法が挙げられる。蒸煮するための条件としては、特に限定されないが、例えば、リグノセルロース系バイオマスに対して1質量%~5質量%の硫酸を含浸させて、1.0Mpa~1.6Mpaの圧力下、180℃~200℃にて5分~30分間蒸煮する条件が挙げられる。植物バイオマスの場合、前処理によって得られるセルロースおよびヘミセルロースの量を調整することができる。材料が植物バイオマスである場合、例えば、植物バイオマスを必要に応じて脱リグニン処理後、シュウ酸アンモニウムで処理してペクチンを除去し、次いでアルカリで処理してヘミセルロースを得ることができる。例えば、アンモニア爆砕処理、粉砕処理、イオン液体処理のような前処理法を用いる場合、植物バイオマスからセルロースおよびヘミセルロースを取得することができる。
【0062】
本発明のセルラーゼ剤での上記材料の処理について、好ましくは撹拌下、混合することによりなされ得る。上記処理について、当該材料の固形分が液化されれば、処理条件は特に限定されない。例えば、本発明のセルラーゼ剤のセルロース材料に対する量は、用いるセルロース材料の種類に依存するが、例えば、1~50FPU/g乾燥材料重量、好ましくは5~20FPU/g乾燥材料重量である。例えば、本発明のセルラーゼ剤(例、TPセルラーゼ剤)のキシロース含有多糖を含む材料に対する量は、用いる材料の種類に依存するが、例えば、10~2000g/kg乾燥材料重量、好ましくは50~800g/kg乾燥材料重量である。処理の温度は、例えば、25~70℃、好ましくは、35~55℃である。
【0063】
β-グルコシダーゼ表層提示微生物は、本発明のセルラーゼ剤で処理されたセルロース材料を含有する培地にて培養される。このような培養によって、β-グルコシダーゼ表層提示微生物は、糖化発酵産物を生産し得る。
【0064】
1つの実施形態では、β-グルコシダーゼ表層提示微生物の酵素力価は、セルロース材料の処理のために(当該微生物の外部から)添加したセルラーゼ(本方法では、本発明のセルラーゼ剤(例:TPセルラーゼ剤))の濾紙分解活性に対する該微生物のβ-グルコシダーゼ活性の比率として表した場合、0.02~2.5、好ましくは、0.1~0.7である。上記数値は、β-グルコシダーゼ表層提示微生物が示すβ-グルコシダーゼ活性を35℃(糖化発酵のための微生物培養に通常用いられ得る温度)にて測定した場合に得られる値である。このようなこの酵素力価の比率の範囲内にあることで、β-グルコシダーゼ表層提示微生物による糖化発酵産物の製造を効率的に行い得る。β-グルコシダーゼ表層提示微生物の酵素力価、すなわち本発明のセルラーゼ剤の濾紙分解活性に対する該微生物のβ-グルコシダーゼ活性の比率は、β-グルコシダーゼ表層提示微生物の種類、培養(例えば、糖化発酵のための培養)の際の初期菌体濃度および温度(例えば、β-グルコシダーゼ表層提示酵母の場合35℃または50℃に設定し得る)によって調整され得る。
【0065】
キシロシダーゼ表層提示微生物は、本発明のセルラーゼ剤(例:TPセルラーゼ剤)で処理されキシロース含有多糖を含む材料を含有する培地にて培養される。このような培養によって、キシロシダーゼ表層提示微生物は、糖化発酵産物を生産し得る。
【0066】
上記培養培地は、処理された上述の材料および本発明のセルラーゼ剤(例:TPセルラーゼ剤)を含むものであってよい。培養培地は、表層提示微生物の培養において通常用いる他の成分をさらに含んでもよい。本発明のセルラーゼ剤での上述の材料の処理は、表層提示微生物の培養前に予め行い得る。また、本発明のセルラーゼ剤での上述の材料の処理と、表層提示微生物の培養とを並行して行ってもよい。
【0067】
表層提示微生物の培養条件は、宿主の微生物の種類に依存するが、当該微生物の生育速度、当該微生物による糖化発酵産物の生産量、および表層提示された酵素(β-グルコシダーゼ、キシロシダーゼなど)の活性などを考慮して、自体公知の方法により、適宜設定され得る。培養の条件について、β-グルコシダーゼ表層提示微生物がβ-グルコシダーゼ表層提示酵母である場合を例示して以下に説明するが、これに限定されない。開始時の菌体濃度は特に限定されず、例えば、2g~20g湿重量/L(1×107個/mL~1×108個/mL)程度が、挙げられる。培養条件は特に限定されず、通常、グルコースを基質としてエタノール発酵する際の条件であってよい。培養温度は、例えば、30℃~37℃であり、培養pHは、例えば、pH4~pH8である。培養時間は、例えば、2日間~3日間である。発酵の終了は、例えば、炭酸ガスの発生量が発酵開始時の10分の1以下になったことなどを目安に判断してもよい。
【0068】
表層提示微生物は、培養終了後に回収し、次の培養に繰り返し利用してもよい。このような微生物の回収および繰り返し培養について、例えば、国際公開第2013/146540号に記載された方法が用いられ得る。
【0069】
上述したように表層提示微生物の培養の工程により、当該微生物によって、セルロース材料からの糖化発酵産物が生産され得る。糖化発酵産物は、培養する表層提示微生物の種類に依存するが、例えば、エタノール(例えば、表層提示酵母の培養により)、乳酸(例えば、表層提示乳酸菌の培養により)などが挙げられる。表層提示微生物は、上記のような表層提示技術以外の改変(例えば、遺伝子組換えによる)を行ってもよい。このような改変として、例えば、生産される糖化発酵産物の変更または糖化発酵産物の生産効率の改善などを目的とした、発酵の代謝系の改変が挙げられる。
【0070】
1つの実施形態では、上記の糖化発酵産物の製造方法は、上記のセルラーゼ剤製造方法によりセルラーゼ剤を製造する工程をさらに含む。例えば、糖化発酵産物(例えば、エタノール)を製造する際に用いるセルラーゼ剤を上記セルラーゼ剤の製造方法により製造することによって、当該糖化発酵産物を製造する現場でセルラーゼ剤の調製を行うことができる。
【0071】
上記表層提示微生物の培養により得られた糖化発酵産物は、当業者が通常用いる方法によって微生物培養培地から回収され、必要に応じて分離および精製され得る。本発明の糖化発酵産物の製造方法について上記以外の事項は、「1.グルコース2分子が脱水縮合した糖の製造方法」および「2.セルラーゼ剤の製造方法」に記載の内容を全て援用し得る。
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例0073】
(測定方法)
本実施例においては、種々の測定を下記のように行った。
【0074】
セルラーゼ活性として、濾紙分解活性(FP活性)をIndustrial Crops and Products 20 (2004) 49-57に記載のように、Mandelsら(1976)の方法に基づき測定した。より詳細には、1cm×6cmの濾紙(Advantec No.1:東洋濾紙株式会社)を基質として用いて、これを試料溶液(0.5mLの希釈セルラーゼ液(培養上清)および1.0mLの0.05Mクエン酸緩衝液(pH5.0)を含む)に添加し、50℃にて60分間置いた後、3mLのDNS試薬を添加して反応を停止させた。この混合物の還元糖量をDNS法でアッセイした。DNS法では、混合物を100℃にて5分間加熱した後、5分間氷冷し、ボルテックス後に15000rpmにて5分間遠心分離し、上清を0.2mL得た。次いでこの上清を蒸留水2.5mLに添加してOD=540にて測定した。濾紙分解活性は、この方法で1分間に1μmolのグルコースを遊離する酵素量を1FPU/mLとして表した。
【0075】
タンパク質濃度をQuick StartTM Bradford(Bio-Rad Laboratories, Inc.)を用いてブラッドフォード法にて測定した(検量線の基質としてウシ血清アルブミン(BSA)を用いた)。
【0076】
β-グルコシダーゼ活性(BGL活性)をJournal of Bioscience and Bioengineering, VOL.111 No.2, 121-127, 2011に記載のように、p-ニトロフェニルβ-D-グルコピラノシド(pNPG)を基質として用いて、BerghemおよびPetterssonの方法に基づいて行った。より詳細には、100μLの3mM pNPG、15μLの1M酢酸緩衝液(pH5.0)、155μLの滅菌水および30μLの酵素希釈液からなる反応液を50℃または35℃にて10分間撹拌した後、0.3mLの1M炭酸ナトリウムを添加して反応を停止させた。遊離したp-ニトロフェノールをマイクロプレートリーダー(SH-1000Lab、株式会社日立ハイテクサイエンス)を用いて400nmにて測定した。β-グルコシダーゼ活性は、1分間に基質から1μmolのニトロフェノールを遊離する酵素量を1ユニット(U)として表した。
【0077】
セロビオヒドロラーゼ活性(CBH活性)は、基質としてp-ニトロフェニル-β-D-セロビオースを用いた以外はβ-グルコシダーゼ活性と同様にして測定した。セロビオヒドロラーゼ活性は、1分間に基質から1μmolのニトロフェノールを遊離する酵素量を1ユニット(U)として表した。エンドグルカナーゼ活性(EG活性)は、基質としてp-ニトロフェニル-β-D-カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた以外はβ-グルコシダーゼ活性と同様にして測定した。エンドグルカナーゼ活性は、1分間に基質から1μmolのニトロフェノールを遊離する酵素量を1ユニット(U)として表した。
【0078】
キシラナーゼ活性(Xyn活性)の測定では、1.5mLチューブに0.1mLの希釈した試料と0.1mLの2(w/v)%キシラン基質溶液とを加え、撹拌しながら50℃で30分間反応させ、DNS試薬0.6mLを加えて反応を停止し、100℃で5分間加熱し、発色させた。氷上に置き急冷した後、遠心分離(15000rpm、5分、4℃)で上清0.4mLを2mLのイオン交換水と混合し、540nmにおける吸光度を測定し、生成した遊離還元糖をキシロース量に換算した。2(w/v)%キシラン基質溶液は2(w/v)%のブナ(Beechwood)由来キシラン(SIGMA社製)を0.1Mクエン酸緩衝液(pH5.0)に懸濁し、4℃で16時間撹拌したものを遠心分離(10000×g、10分、4℃)により不溶性のキシランを集め10mLの同緩衝液に懸濁し、キシラナーゼ活性測定用の基質溶液とした。コントロール値は50℃で30分間撹拌した試料に2(w/v)%キシラン基質溶液を加え50℃でのインキュベーションを行わずに発色させたものとした。キシラナーゼ活性は、1分間に基質からキシロースを1μmol生成する酵素量を1ユニット(U)として表した。
【0079】
キシロシダーゼ活性(Xyd活性)の測定では、1.5mLチューブに試料と合成基質p-ニトロフェニル-β-D-キシロピラノシド(和光純薬工業株式会社製)とを加え、1mM酢酸緩衝液(pH5.0)を50mMになるように調整し、50℃で30分間撹拌しながら反応させ、同量の1M炭酸ナトリウム水溶液を加えて反応を停止し、発色させた。遠心分離(15000rpm、5分、4℃)後の上清を440nmにおける吸光度を測定し、生じたp-ニトロフェノール量を換算した。コントロール値は50℃でのインキュベーション操作を行わずに発色させたものとした。キシロシダーゼ活性は、1分間に基質から1μmolのp-ニトロフェノールを生成する酵素量を1ユニット(U)として表した。
【0080】
微生物菌体の酵素活性の測定では、基質との反応のために、酵素希釈液として培養上清または菌体懸濁液を用い、50℃または35℃にて行った。培養上清は、以下に示す72時間フラスコ培養後の菌体培養液を1mL分取し、3500rpmにて5分間の遠心分離により上清を得ることで調製した。菌体懸濁液は、72時間フラスコ培養後の菌体培養液を1mL分取し、3500rpmにて5分間の遠心分離して沈殿物を得、これを滅菌水で洗浄後、湿菌体重量を測定し、このペレットを滅菌水1mLに懸濁して調製した。菌体の酵素活性を、菌体の湿重量1gあたりの酵素活性(U/g)として決定した。
【0081】
液化液および糖化発酵培養液中のエタノール濃度および糖(例えば、セロビオース、グルコース、キシロースおよび還元糖)濃度は、HPLC(High performance liquid chromatographyシステム;株式会社日立ハイテクフィールディング、LaChrom Elite)により定量した。HPLCの分離用カラムにはULTRON PS-80H(信和化工株式会社,300mm(L)×8mm(ID))を用い、移動相には超純水(日本ミリポア株式会社製Milli-Qによる精製水)に過塩素酸を添加した3mM過塩素酸水を用い、そして検出器には屈折率検出器を用いた。HPLCの条件は、送液量0.7mL/分およびカラム温度80℃とした。
【0082】
各種の二糖の濃度は、HPLC(High performance liquid chromatographyシステム;株式会社島津製作所、Prominence)により定量した。HPLCの分離用カラムにはAsahipak NH2P-50 4E(昭和電工株式会社、250mm(L)×4.6mm(ID))を用い、移動相にはアセトニトリル/水(75/25、v/v)を用い、そして検出器には示差屈折率検出器を用いた。HPLCの条件は、送液量1.0mL/分およびカラム温度40℃とした。
【0083】
(調製例1:β-グルコシダーゼ表層提示酵母の調製)
β-グルコシダーゼ表層提示酵母の調製のため、宿主酵母としてサッカロマイセス・セレビシエTJ14株(Moukamnerdら、Appl. Microbiol. Biotechnol.、2010年、第88巻、p.87-94)を用いた。プラスミドpAUR101-TDH3p-OptBGL-AG-SAG1t(K. Onoderaら,Biochemical Engineering Journal 128 (2017) 195-200:アスペルギウス・アクレアータス由来のβ-グルコシダーゼ遺伝子を含む)をStuIで切断後、酢酸リチウム法によりTJ14株を形質転換し、β-グルコシダーゼ表層提示酵母を得た。なお、該β-グルコシダーゼ表層提示酵母の作製は、国際公開第2020/004473号と上記文献に記載の自体公知の方法に基づいて行った。
【0084】
(実施例1:TJ14-BGL(AG)でのセルラーゼ誘導物質の生成検討1)
菌体を、30℃のYPD液体培地で3日間フラスコ培養した後、遠心分離で回収した湿潤ペレットを用いた。上記の菌体を接触させるための反応液として、50mMの酢酸緩衝液(pH5.0)とグルコース600g/Lを含む液体(水溶液)を調製した。対照実験では、湿菌体を添加しない反応液10mLを用いた。β-グルコシダーゼ表層提示酵母の湿潤ペレット27gを1Lの反応液に添加した。菌体濃度がグルコースの縮合反応に及ぼす影響を検討するために、β-グルコシダーゼ表層提示酵母の湿潤ペレット2.2gを10mLの反応液に添加した。
図1に示す、10mLの反応液を使用する「グルコースと水のみ」と「BGL表層提示酵母220g-wet/L」の実験では、酵母を添加後、50℃の条件下、マグネティックスターラーバーを使って200rpmで撹拌した。撹拌24hと96hのサンプルを採取した。
図1に示す1Lの反応液を使用する「BGL表層提示酵母27g-wet/L」でも、マグネティックスターラーバーを使って200rpmで撹拌した。撹拌24hと96hのサンプルを採取した。
【0085】
図1に示すように、「グルコースと水のみ」では、24h後も96h後もグルコ二糖(具体的には、セロビオース、ソホロース、ゲンチオビオース)がほとんど生成していなかった。一方で、
図1に示すように、「BGL表層提示酵母27g-wet/L」では、24hでセロビオース、ソホロース、ゲンチオビオースがそれぞれ2.8g/L、3.5g/L、13.4g/L生成しており、96hでは6.4g/L、8.5g/L、40.8g/Lに達した。反応時間の延長以外にも、接触させる菌体量の増加によっても影響が見られた。
図1に示すように、「BGL表層提示酵母220g-wet/L」では24hでセロビオース、ソホロース、ゲンチオビオースがそれぞれ9.1g/L、9.6g/L、36.8g/L生成しており、96hでは23.4g/L、16.5g/L、81.0g/Lに達した。これら生成する二糖類の成分比は、反応温度、反応時間、そして接触させる菌体量以外にも、選定するβ-グルコシダーゼの種類によっても影響があると考えられる。ここでは比較的少ない菌体量であっても十分にセルラーゼの生産とそれを用いた糖化発酵産物の生産が増強されることを示すために、1Lで大量調製した「BGL表層提示酵母27g-wet/L」の反応液(96h後)を、以降の実施例に用いることにした。
【0086】
(実施例2:グルコース溶液でのトリコデルマ・リーセイ(RUT-C30)培養に関する検討)
図2は、対照実験としてTrichoderma reesei RUT-C30をグルコースで流加培養したデータであり、培養時間ごとの乾燥菌体濃度(g-dry/L)、培養上清のセルラーゼ活性(50℃での濾紙分解活性、FPU/ml)、そして培養上清のタンパク質濃度(g/L)を示している。
トリコデルマ・リーセイRUT-C30(ATCC56765)のポテトデキストロース寒天培地での培養菌糸懸濁液2mLを、500mLバッフル付き三角フラスコ中に入れた前培養培地(10g/LのCSL(コーンスティープリカー)を含む培地に5g/Lとなるようグルコースを添加したもの)100mLに接種し、28℃にて150rpmで24時間、前培養した。次いで、この前培養液全量(約100mL)を、3Lジャー中の本培養培地(マンデルス培地に0.2(w/v)%ペプトンおよび1(w/v)%アビセルと1(w/v)%グルコースを添加したもの)1Lに接種し、通気条件1.0L/分にて上記菌株を培養した。
【0087】
マンデルス培地は、M.MandelsおよびR.E.Andreotti,Problems and Challenges in the Cellulose to Cellulase Fermentation. Process Biochem 13 (1978) 6-13に記載の方法に従って調製した。すなわち(NH4)2SO4:2.8g/L、KH2PO4:4.0g/L、urea:0.6g/L、CaCl2・2H2O:0.8g/L、MgSO4・7H2O:0.6g/L、FeSO4・7H2O:0.01g/L、CoCl2・6H2O:0.0074g/L、MnSO4・5H2O:0.0034g/LおよびZnSO4・7H2O:0.0028g/Lになるようイオン交換水に混合して使用した。
【0088】
上記培地組成で、ディスクタービン2枚を備える培養槽(東京理化器械株式会社製のファーメンタ:MBF-300ME)を使って本培養した。培養24h以降、600g/Lのグルコース(実施例1の対照実験に相当するもの)を2倍希釈した液を0.04g/分で流加して培養を継続した。5Nのアンモニア水を使って培養液のpHを4.2に制御した。本培養開始直後は、撹拌回転数を200rpmに設定したが、培地中の溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の20%以上になるよう撹拌速度を200rpm~900rpmの範囲で調整した。
図2に培養144時間までの経過を示す。グルコースを流加することで、培地中のグルコースの過剰な蓄積がなく、菌体濃度は最終的に29.5g/Lまで増加した。しかし、セルラーゼ活性は最高値で1.0FPU/ml(タンパク質濃度の最高値は1.07g/L)となり、培養後期に大幅な増加は見られなかった。
【0089】
(実施例3:糖転移反応物を含むグルコース溶液でのトリコデルマ・リーセイ(RUT-C30)培養に関する検討)
実施例2と同様の方法により、まず、トリコデルマ・リーセイ(RUT-C30)培養を行った。培養24h以降、600g/Lのグルコースの糖転移反応物(実施例1の「BGL表層提示酵母27g-wet/L」の反応後の液体に相当するもの)を2倍希釈し、80℃で30分加熱(酵母の生理活性が次の培養結果に及ぼす影響を完全に無くすため)してから室温まで冷却した液を、0.036g/分で流加して培養を継続した。5Nのアンモニア水を使って培養液のpHを4.2に制御した。本培養開始直後は、撹拌回転数を200rpmに設定したが、培地中の溶存酸素濃度が飽和溶存酸素濃度の20%以上になるよう撹拌速度を200rpm~900rpmの範囲で適宜調整した。
図3に培養144時間までの経過を示す。β-グルコシダーゼ表層提示微生物と接触させてグルコース2分子を脱水縮合した糖液を流加することで、菌体濃度は15.5g/Lに達した。一方で、培養上清のセルラーゼ活性は6.43FPU/ml(タンパク質濃度7.57g/L)となり、
図2よりも低い菌体濃度で高いセルラーゼ活性およびタンパク質濃度の値を得た。これは、流加した液体がセルラーゼの生産を誘導していることを示唆している。
【0090】
(実施例4:SDS-PAGEによるタンパク質の組成検討)
実施例2と3の方法で得られたセルラーゼ剤(培養24h、92h、144hの培養上清を原液のままで用いたもの)をSDS-PAGEに供し、タンパク質の組成を調べた。なお、実施例3の原液(図中のMGD(Mixture of Glucose and β-Disaccharide)培養液)ではタンパク質濃度が高すぎてバンドの位置が明瞭に観察されなかったので、希釈した液体もSDS-PAGEに供することで、市販の酵素Cellic CTec2(ノボザイムズ社製)やバガスおよびアビセルを含む培地でセルラーゼが誘導生産されたセルラーゼ剤と比較した。
図4は、SDS-PAGEによるタンパク質の分離および検出(クマシーブリリアントブルー(CBB)染色による)の結果を示す電気泳動図である(レーンM:分子量マーカー、マーカーの横は左から実施例2の24h、92h、144hの培養上清を原液のままで用いたもの、実施例3の24h、92h、144hの培養上清を原液のままで用いたもの、さらに右のマーカーの横左から実施例3の培養上清を希釈したもの、バガスで誘導された培養上清の希釈液、アビセルで誘導された培養上清の希釈液、最後にCellic CTec2)。
【0091】
図4に示すように、実施例3の培養上清(原液)では、実施例2よりも明らかに太いバンドが確認され、タンパク質の濃度が高いことが分かる(即ち、セルラーゼが適切に、強力に誘導されている)。既報(D. Tanedaら,Bioresource Technology 121 (2012) 154-160)に基づいて分子量から酵素種(エンドグルカナーゼEG、セロビオヒドロラーゼCBH、β-グルコシダーゼBGL)を推定すると、BGL(78kDa)、CBH1(63kDa)、CBH2(58kDa)、EG1(55kDa)およびEG2(43kDa)となる。実施例4の方法で得られたセルラーゼは、
図4では分子量マーカーの37kDaから75kDaの範囲にほとんどのタンパク質が含まれていることから、CBHおよびEGを主体とするセルラーゼであることが分かる。
【0092】
一方で、Cellic CTec2のレーンでは、上記の範囲より高い分子量および低い分子量の両方で、数多くのバンドが検出される傾向があった。本酵素はさまざまなバイオマス種に対して高い糖化能力を示すセルラーゼ製剤であり、上記で推定された酵素種(CBH1(63kDa)、CBH2(58kDa)、EG1(55kDa)およびEG2(43kDa))以外にも、セルロース系バイオマスの糖化を直接的に触媒する、あるいは間接的に触媒を介助するさまざまなタンパク質を含むものと考えられる。
【0093】
実施例3の方法で得られたセルラーゼ剤は、トリコデルマ属セルラーゼの主要な酵素のファミリー7に属するCBH1を最も多く含み、さらに同じくトリコデルマ属セルラーゼの主要な酵素種であるCBH2、EG1、およびEG2と推定されるバンドも比較的多い傾向がみられた。このように、実施例1の方法で得られたセルラーゼ剤は、煩雑なセルラーゼ蛋白質群(アクセサリー酵素と呼ばれるマイナーな酵素種を含む)の混合比の調整を伴うことなく、主要なセルラーゼ群が大部分を占める酵素であるということが分かった。
【0094】
(実施例5:糖化発酵産物(エタノール)の製造検討)
酵母(TJ14のwild typeとpAUR101-TDH3p-OptBGL-AG-SAG1t導入株)について、5mLのYPD液体培地(酵母エキス10g/L、ポリペプトン20g/L、グルコース20g/L)を含む試験管で種培養を6時間行い、次いで培養液を100mLのYPD液体培地を含むフラスコに移し、本培養を3日間行った。この培養液を遠心分離し(1200g、5分間)、200g-湿重量/Lの菌体濃度になるように培養上清の液を使って懸濁した。セルラーゼ剤として、実施例3のトリコデルマ培養上清を8000gにて10分間遠心分離後、ナイロンフィルター(11μm)を通して濾液を回収し、次いでこの濾液をエバポレーターで濃縮した。得られた濃縮液は、濾紙分解活性が117.8FPU/mLであった。このようにして得られた濃縮液をセルラーゼ剤として用いた。
【0095】
セルロースのモデル基質としてアビセルを10%または20%(w/w)含む発酵液10g(終濃度0.05Mのクエン酸緩衝液(pHは5.0)を含み、実施例3から得られたセルラーゼ剤を20FPU/g-アビセルの量で添加し、上記の200g-湿重量/Lの酵母液を1.0ml(終濃度は20g-湿重量/L)含み、残りを滅菌水で10gに調整した液体物)を調製した。この発酵液を50mL容量のプラスチック製試験管(コーニング社製)に入れ、サーモブロックローテーター(株式会社日伸理化製SN-06BN)を用いて、35℃にて35rpmの回転速度でインキュベートした。0h、24h、48h、72hの発酵液を少量ずつサンプリングしてHPLCでエタノール濃度を測定したところ、β-グルコシダーゼを表層提示する酵母の方が高いエタノール濃度を示した。つまり、アビセル10%をセルロース原料に用いた発酵系で、TJ14よりもTJ14-BGLの方が0h以降のエタノール濃度が高く、アビセル20%の発酵液でもTJ14よりTJ14-BGLの方が0h以降のエタノール濃度が高かった。上記の実施例のように二糖で誘導生産されたセルラーゼ剤を使ってβ-グルコシダーゼ層提示微生物がセルロースの発酵を行うことで、糖化発酵産物がより効率的に生産されることを示した。
本発明によれば、従来よりも、より安価に且つ効率的に、セルラーゼ等の誘導効果を有するグルコース2分子が脱水縮合した糖を製造することが可能となるため有用である。また、本発明では、該二糖類を用いることで、最終的に、セルロース等を含む産業廃棄物などから、従来よりもコストや時間の面から有利な態様にて、糖化発酵産物を製造することが可能となるため有用である。