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特開2024-160935偏波切り換え装置を有するRFID読み取り装置用アンテナ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160935
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】偏波切り換え装置を有するRFID読み取り装置用アンテナ
(51)【国際特許分類】
   H01Q 21/24 20060101AFI20241108BHJP
   H01Q 13/08 20060101ALI20241108BHJP
   G06K 7/10 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q13/08
G06K7/10 236
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024035362
(22)【出願日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】23171296
(32)【優先日】2023-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591005615
【氏名又は名称】ジック アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン プデンツ
【テーマコード(参考)】
5J021
5J045
【Fターム(参考)】
5J021AA01
5J021AB06
5J021CA03
5J021CA06
5J021DB03
5J021FA31
5J021FA34
5J021JA05
5J021JA06
5J045AA11
5J045DA10
5J045JA12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】偏波の切り換えが可能なアンテナを改良する。
【解決手段】RFID読み取り装置(12)用のアンテナであって、4つの給電点(P1~P4)を持つアンテナ素子(22)と、該アンテナが円偏波又は直線偏波で駆動されるように入力信号(20)を給電点(P1~P4)に選択的に接続する給電網とを備えるアンテナを提示する。給電網は複数の異なるスイッチ状態を設定可能な回路装置(24、28)を備えており、給電網は各々のスイッチ状態において入力信号(20)の様々な位相及び/又は電力割当分を前記給電点(P1~P4)に供給する。また、回路装置(24、28)内では水平偏波、垂直偏波、右旋円偏波及び左旋円偏波という4種類の偏波のうち少なくとも3種類に対応するスイッチ状態が設定可能である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RFID読み取り装置(12)用のアンテナ(10)であって、4つの給電点(P1~P4)を持つアンテナ素子(22)と、該アンテナ(10)が円偏波又は直線偏波で駆動されるように入力信号(20)を前記給電点(P1~P4)に選択的に接続するように構成された給電網とを備えるアンテナ(10)において、
前記給電網が複数の異なるスイッチ状態を設定可能な回路装置(24、28)を備えており、該給電網が各々のスイッチ状態において前記入力信号(20)の様々な位相及び/又は電力割当分を前記給電点(P1~P4)に供給すること、及び、前記回路装置(24、28)内で、水平偏波、垂直偏波、右旋円偏波及び左旋円偏波という4種類の偏波のうち少なくとも3種類に対応するスイッチ状態が設定可能であること
を特徴とするアンテナ(10)。
【請求項2】
前記給電点(P1~P4)が対称に、特に正方形状に配置されている、請求項1に記載のアンテナ(10)。
【請求項3】
前記回路装置(24、28)が第1のスイッチ素子(24)及び第2のスイッチ素子(28)並びにそれらの間にある多数の接続配線、特に4本の接続配線を備えている、請求項1に記載のアンテナ(10)。
【請求項4】
前記第1のスイッチ素子(24)と前記第2のスイッチ素子(28)の間の接続配線に90度ハイブリッドカプラ(30)が、特に該接続配線のうち2本に設けられている、請求項3に記載のアンテナ(10)。
【請求項5】
前記第1のスイッチ素子(24)が、入力側に前記入力信号(20)用の少なくとも1つの接続部、そして出力側に前記アンテナ素子(22)への4つの接続部を備えており、特に該第1のスイッチ素子(24)が前記入力側にアンテナ終端(26)と接続された別の接続部を備えている、請求項3に記載のアンテナ(10)。
【請求項6】
前記第1のスイッチ素子(24)が、4方スイッチ、特にDP4Tとして、又は、双投スイッチ(24a~b)の組み合わせ、特に1つのDPDTの後段に2つのSPDTを接続したものとして、構成されている、請求項5に記載のアンテナ(10)。
【請求項7】
特にSP3Tとして構成された前記第1のスイッチ素子(24)が、入力側に前記入力信号用の1つの接続部、そして出力側に前記アンテナ素子(22)への3つの接続部を備えており、前記90度ハイブリッドカプラ(30)が1つのアンテナ終端(48)に固定的に接続されている、請求項3に記載のアンテナ(10)。
【請求項8】
前記第1のスイッチ素子(24)が前記出力側に別のアンテナ素子用の追加の接続部(44)を備えている、請求項3に記載のアンテナ(10)。
【請求項9】
前記第2のスイッチ素子(28)が2つの双投スイッチを備えており、それらの各々により特に2本の接続配線のうち1本を選択的にアンテナ素子(22)に連結可能である、請求項3に記載のアンテナ(10)。
【請求項10】
前記給電網が2つの180度電力分配器(32)を備えており、そのうち一方の180度電力分配器が2つの給電点(P1、P3)に接続され、他方の180度電力分配器が残りの2つの給電点(P2、P4)に接続されることで、各々の2つの接続された給電点(P1、P3;P2、P4)が前記入力信号(20)の部分信号を180度の位相差で供給し、特に、各180度電力分配器(32)がそれぞれ前記第2のスイッチ素子(28)の1つの双投スイッチに接続されている、請求項2に記載のアンテナ(10)。
【請求項11】
前記180度電力分配器(32)がハイブリッドリングカプラ(ラットレースハイブリッド)として構成されている、又は、
前記180度電力分配器(32)がウィルキンソン分配器又はT形電力分配器として構成されており、それぞれ該ウィルキンソン分配器又はT形電力分配器と給電点(P1~P4)との間の接続に180度の位相差を生じさせる遅延配線(46)を備えている、
請求項10に記載のアンテナ(10)。
【請求項12】
前記給電網が交差なしで構成されている、請求項1に記載のアンテナ(10)。
【請求項13】
一方の面に前記アンテナ素子(22)、他方の面に前記給電網が配置された回路基板(38)を備えており、特に前記アンテナ素子(22)がアンテナパッチとして構成されている、請求項1に記載のアンテナ(10)。
【請求項14】
請求項1~13のいずれかに記載のアンテナ(10)を備えるRFID読み取り装置(12)であって、前記アンテナ(10)に接続されたトランシーバ(14)と該トランシーバ(14)に接続されたRFID制御及び評価ユニット(16)とを備えるRFID読み取り装置(12)。
【請求項15】
RFID読み取り装置(12)用アンテナ(10)の偏波の切り換え方法であって、前記アンテナ(10)が4つの給電点(P1~P4)を有するアンテナ素子(22)を備えており、前記アンテナ(10)が円偏波又は直線偏波で駆動されるように、該アンテナ(10)の給電網を用いて入力信号(20)を複数の異なる方法で選択的に前記給電点(P1~P4)に接続する方法において、
水平偏波、垂直偏波、右旋円偏波及び左旋円偏波という4種類の偏波のうち少なくとも3種類に対応するスイッチ状態が設定可能である前記給電網の回路装置(24、28)が、選択された偏波に対応するスイッチ状態に切り換えられることで、前記選択された偏波に対応する前記入力信号(20)の位相及び/又は電力割当分が前記給電点(P1~P4)に供給される
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1及び15のプレアンブルにそれぞれ記載のRFID読み取り装置用アンテナ及びアンテナの偏波の切り換え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RFID読み取り装置は物体及び品物の識別に役立ち、とりわけ物流の自動化に利用されている。識別場所において、特に品物の所有者の変更や輸送手段の変更がある場合に、品物に固定されたRFIDトランスポンダが読み取られ、場合によっては逆に該トランスポンダへ情報が書き込まれる。得られた情報は商品及び製品の転送及び選別を制御するために用いられる。自動識別のための重要な応用には、小包発送業者等の物流配送センター、又は空港での手荷物チェックインがある。
【0003】
RFID読み取り装置は、そのアンテナを通じて電磁波の放射により読み取り領域内にあるRFIDトランスポンダを励起してそこに保存された情報を放射させ、それに対応するトランスポンダ信号を受信して評価する。そのためにしばしばUHF周波数域(極超短波)が用いられる。なぜなら、この帯域にはISO18000-6規格で定められた枠組みがあり、加えて数ミリメートルから数メートルまで様々な距離でトランスポンダを読み取ることができるからである。UHF-RFIDトランスポンダは非常にコンパクトな構造形態で利用可能であり、従って非常に小さい物体にも取り付けることができる。
【0004】
多くの応用において、RIFD読み取り装置に対するRFIDトランスポンダの向きは固定されていないか、少なくとも分かっていない。その場合、RFIDトランスポンダの向きの変動を補償するために円偏波のアンテナを用いることが射程及び読み取り速度のために有利である。しかし、ほとんどのRFIDトランスポンダは直線偏波のアンテナを用いているため、最も良い場合でも受信エネルギーの半分しか取り込まれない。それ故、RIFD読み取り装置に対するRFIDトランスポンダの向きが固定された応用では適切な向きの直線偏波のアンテナを優先すべきである。なぜなら、そうすればRFIDトランスポンダが明らかにより多くのエネルギーを取り込むことができ、それにより識別射程が相応に長くなるからである。故に、応用事例によっては様々な偏波を有するRFID読み取り装置の使用を検討することができる。
【0005】
特許文献1は様々な偏波の電磁波を送受信するためのRFIDアンテナ装置を開示している。このアンテナはその基本形において2つの給電点を備えている。それだけで既に回路のコスト、特に使用するミキサを駆動するためのコストが高くなる上、給電網内に比較的大きな損失がある。もっとも、4つの給電点を用いればようやく(特に軸比に関して)良好なアンテナ特性が得られ、それが例えばアンテナ付近の金属製の物体による妨害に対する頑強性をもたらす。特許文献1には4つの給電点に対応する回路変形も紹介されてはいる。しかしそれは2点給電用の給電網の二重化に基づくものであり、それにより前述の欠点がむしろより悪化する。
【0006】
特許文献2にはアンテナ偏波を変更する方法が記載されている。そのために選択的に用いられる複数のアンテナが設けられており、それが構造上のコストと所要の組立空間を著しく増大させる。
【0007】
特許文献3は垂直偏波と直線偏波の間で切り換えることができるパッチアンテナを開示している。これでは円偏波を用いることはできない。
【0008】
特許文献4から、アースへの接続を切り換えることにより信号路を選択できる入口配線の配列を有するアンテナ切り換え装置が知られている。これによれば、2つの出力接続部に直線偏波又は円偏波の信号が現れる。このやり方では左右両方の回転方向の円偏波を発生させることはできない。
【0009】
特許文献5に記載のアンテナ装置は複数の異なる偏波間で切り換えることができるが、そのために水平偏波のアンテナと垂直偏波のアンテナを用いている。加えてその給電網は4つの給電点のために用いることはできない。
【0010】
特許文献6は直線偏波と円偏波を選択的に発生させるための別のアンテナ装置を開示している。用いられている給電網は確かに4つの給電点を駆動するが、パッチアンテナに現れる不整合を補償することができない。
【0011】
特許文献7に記載のアンテナ網は、アンテナが交互に左回転及び右回転で偏波されるように該アンテナを円偏波又は楕円偏波させて駆動することができる。しかしこれでは直線偏波は不可能である。
【0012】
特許文献8には、RFID信号を様々なアンテナに分配するRFIDマルチプレクサが記載されている。これは1つのアンテナ内で様々な偏波を発生させることはできない。
【0013】
特許文献9は六角形のラスタの稜線上にある直線的な配線部分で構成されたRFID信号用配線構造を提示している。該文献は偏波切り換え装置に関するものではない。
【0014】
未公開の欧州特許出願第22188151.9号はRFID装置用モジュラーアンテナの製造方法を開示している。該文献は偏波制御論理回路に言及しているが、それは詳細に説明されてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】DE 20 2015 106 025 U1
【特許文献2】US 7 932 867 B2
【特許文献3】US 7 068 224 B2
【特許文献4】US 2011/0032079 A1
【特許文献5】EP 3 220 554 A1
【特許文献6】KR 10 0976087 B1
【特許文献7】EP 2 368 210 B1
【特許文献8】EP 1 987 468 B1
【特許文献9】DE 20 2015 105 455 U1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
故に本発明の課題は偏波の切り換えが可能なアンテナを更に改良することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この課題は請求項1及び15にそれぞれ記載のRFID読み取り装置用アンテナ及びアンテナの偏波の切り換え方法により解決される。本アンテナは信号の放射若しくは受信に用いられるアンテナ素子を備えている。該アンテナ素子には4つの給電点が設けられている。円偏波又は直線偏波のアンテナが選択的に出現するように給電網が入力信号を給電点に接続する。その際、偏波状態に応じて全ての給電点が給電されるかその一部のみが選択されて給電される。
【0018】
本発明の出発点となる基本思想は、給電網内で回路装置を用いて複数の異なるスイッチ状態を設定することにある。各スイッチ状態はそれぞれ1種類の偏波に対応している。RFID読み取り装置については全部で4種類の偏波、即ち、水平偏波、垂直偏波、右旋円偏波及び左旋円偏波が関心の対象となる。前記給電網はこれら4種類の偏波のうち少なくとも3つに対するスイッチ状態が設定可能である。各々のスイッチ状態では、入力信号から導出されたある位相及び出力の信号が各給電点にそれぞれ供給され、該信号から、選択された偏波が全体として生じるようになっている。幾つかの偏波及び給電点については、それは信号が印加されないことを意味しうる。つまり給電網は、異なる出力部に、互いに異なる位相角を持つ異なる出力レベルを出力することができ、その出力と位相がスイッチ状態に応じて給電点を介してアンテナ素子に該当の偏波を生じさせる。
【0019】
本発明には、使用状況及び読み取り対象のトランスポンダに応じてその都度最適な偏波でアンテナを駆動することができるという利点がある。本発明に係る給電網は、入力信号を非常に少ない損失で4つの給電点に結合することができる。他方で信号分配と転送のための損失が少なければ少ないほどアンテナ利得は高くなる。しかもRFIDアンテナの場合はそれが二重に効果を奏する。なぜなら同じアンテナが送信と受信の動作に用いられるからである。これにより全体として読み取り速度と射程が増大する。
【0020】
前記給電点は対称に、特に正方形状に配置されていることが好ましい。このようにすれば、アンテナ特性及び偏波特性が非常に良くなるとともに構造が明瞭で簡素になる。
【0021】
前記回路装置は第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子並びにそれらの間にある多数の接続配線、特に4本の接続配線を備えていることが好ましい。2段階のスイッチ構造により、複雑さを抑えながらも様々な偏波を発生させるための十分な柔軟性が得られる。
【0022】
第1のスイッチ素子と第2のスイッチ素子の間の接続配線に90度ハイブリッドカプラが、特に該接続配線のうち2本に設けられていることが好ましい。これによれば、90度ハイブリッドカプラをスイッチ状態に応じて選択的に給電に含めることができる。具体的には円偏波に90度の位相が用いられる。直線偏波の場合は該当するスイッチ状態により90度ハイブリッド導体を有する接続配線を迂回することができる。これによりアンテナの整合性がより良好になる。
【0023】
第1のスイッチ素子は、入力側に入力信号用の少なくとも1つの接続部、そして出力側にアンテナ素子への4つの接続部を備えていることが好ましい。このようにすれば第1のスイッチ素子は入力信号を4つの出力のうちの1つに切り換え可能に用意し、そして好ましくは該4つの出力が前記4本の接続配線に接続されている。一実施形態ではそれが1:4の割り当てになっている。特に好ましくは、第1のスイッチ素子が入力側にアンテナ終端と接続された別の接続部を備えている。これは2:4の割り当ての実施形態となる。アンテナ終端を含めることによりアンテナの整合が明らかに改善される。
【0024】
第1のスイッチ素子は、4方スイッチ、特にDP4T(Double Pole Quadruple Throw)として、又は、双投スイッチの組み合わせ、特に1つのDPDT(Double Pole Double Throw)の後段に2つのSPDT(Single Pole Double Throw)を接続したものとして、構成されていることが好ましい。これらは2:4の割り当てに適した具体的で簡素なスイッチ部品である。入力側には入力信号とアンテナ終端が接続され、出力側では第2のスイッチ素子に至る前記4本の接続配線が接続されていることが好ましい。
【0025】
第1のスイッチ素子は、入力側に入力信号用の1つの接続部、そして出力側にアンテナ素子への3つの接続部を備えており、前記90度ハイブリッドカプラが1つのアンテナ終端に固定的に接続されていることが好ましい。これは1:3の割り当てに相当するものであり、3種類の偏波、即ち2種類の直線偏波と1種類の円偏波だけを選択可能とし、該円偏波の回転方向が給電網により定まっているような実施形態に適している。ここではアンテナ終端が、90度ハイブリッドカプラが組み込まれるスイッチ状態に固定的に割り当てられているため、入力側には2つの接続部は必要ない。円偏波の回転方向は90度ハイブリッドカプラがどちら側で第1のスイッチ素子若しくはアンテナ終端と接続されているかによって回路技術的に選択され、それを入れ替えれば回転方向が逆になる。この実施形態のための具体的且つ模範的なスイッチ部品はSP3T(Single Pole Triple Throw)である。
【0026】
第1のスイッチ素子は出力側に別のアンテナ素子用の追加の接続部を備えていることが好ましい。それにはn>4で1:nの割り当てが必要になる。例えば、4種類の偏波を選択できるアンテナをもう1つ接続するならn=8である。これは、例えば前段の2:2型スイッチ(DPDT)と2つの4方スイッチ(SP4T)の組み合わせにより達成できる。
【0027】
第2のスイッチ素子が2つの双投スイッチを備えており、それらの各々により特に2本の接続配線のうち1本を選択的にアンテナ素子に連結可能であることが好ましい。2つの双投スイッチ、特にSPDTは、特に入力側で対になって第1のスイッチ素子からの4本の接続配線と接続され、その結果、それぞれ2:1の割り当てで一対の接続配線が双投スイッチの1本の給電点向き出力配線へと接続される。その場合、各対は第1のスイッチ素子の直通の接続配線と90度ハイブリッドカプラを介して通された接続配線とで構成されることが好ましい。なお、第1のスイッチ素子が1:3の割り当てを有する先に挙げた実施形態においても4本目の接続配線、つまり90度ハイブリッドカプラ上のアンテナ終端の接続配線があるということを述べておく。
【0028】
前記給電網が2つの180度電力分配器を備えており、そのうち一方の180度電力分配器が2つの給電点に接続され、他方の180度電力分配器が残りの2つの給電点に接続されており、各々の2つの接続された給電点が入力信号の部分信号を180度の位相差で供給することが好ましい。180度電力分配器は入ってくる信号を分割し、180度の位相差を持つ部分信号をそれぞれ割り当てられた給電点に供給する。好ましくは、二対の給電点が該給電点の配列内で対角線を成している。好ましくは、各180度電力分配器がそれぞれ第2のスイッチ素子の前記双投スイッチの1つに接続されている。
【0029】
前記180度電力分配器はハイブリッドリングカプラ(ラットレースハイブリッド)として構成されていることが好ましい。これは、1つの信号から互いに180度の位相差を持つ2つの部分信号を生成するための定評のある好適な回路素子である。代案では、前記180度電力分配器がウィルキンソン分配器又はT形電力分配器として構成される。その場合、180度の位相差は特に、ウィルキンソン分配器又はT形電力分配器と給電点との間の接続において前記部分信号の一方に対して遅延配線を用いて発生させる。
【0030】
前記給電網は交差なしで構成されていることが好ましい。これは、巧みな幾何学的配置、特に冒頭に挙げた特許文献9に記載の六角形の蜜房に基づく回路構造を利用することによって可能である。他方で、交差のない給電網は単一の層で製造することができ、そのため回路基板層又はボード層を変更する必要がない。これにより非常に安価で取り扱いの容易な部品となる。
【0031】
前記アンテナは、一方の面にアンテナ素子、他方の面に給電網が配置された回路基板を備えていることが好ましい。これにより非常にコンパクトな構造形態となる。これは前の段落に記載した交差のない給電網と一緒にすれば特に好都合である。そうすれば1枚の簡単な回路基板で十分であり、複雑な多層構造は必要ない。またアンテナ素子はアンテナパッチとして構成されていることが好ましい。なぜなら、そのようなパッチは同様に平らに一層にして貼り付けることができるからである。良好なアンテナ特性を持ち、最大4種類の偏波からの選択が可能な、非常にコンパクトなパッチアンテナが得られる。
【0032】
好ましい発展形態では、RFID読み取り装置が、本発明に係るアンテナと、該アンテナに接続されたトランシーバと、該トランシーバに接続されたRFID制御及び評価ユニットとを備えている。この場合、前記アンテナはRFID読み取り装置の内部又は外部アンテナとして駆動することができる。該アンテナはRFID読み取り装置によってRFIDトランスポンダへのRFID信号の発信及び/又はRFIDトランスポンダからのRFID信号の受信に用いられる。ここでは発信器と受信器のあらゆる組み合わせをトランシーバと呼ぶ。RFID制御及び評価ユニットは、マイクロプロセッサ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のデジタル式計算モジュールを少なくとも1つ備えるものであって、RFID情報のRFID信号への符号化及び/又はRFID信号からのRFID情報の読み出しを行うように構成されている。トランシーバ及びRFID制御及び評価ユニットは共通の計算モジュールとしたり、少なくとも部分的に1つの計算モジュールを共用したりできる。このようなRFID読み取り装置は、好ましくはベルトコンベア又は読み取りポータルの読み取り領域付近に固定的に取り付けられ、該ベルトコンベア上で又は該読み取りポータルを通って移動する少なくとも1つのRFIDトランスポンダの読み取りに用いられる。使用状況に応じて適切な偏波を設定することができ、それを駆動中に動的に変更することもできる。
【0033】
本発明に係る方法は同様のやり方で仕上げていくことが可能であり、それにより同様の利点を示す。そのような有利な特徴は、本願の独立請求項に続く従属請求項に模範的に記載されているが、それらに限られるものではない。
【0034】
以下、本発明について、更なる特徴及び利点をも考慮しつつ、実施形態に基づいて模範的に、添付の図面を参照しながら詳しく説明する。図面の各図に示すものは次の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】アンテナを有するRFID読み取り装置の概略図。
図2】4つの給電点と4種類の偏波に対応した給電網の概略図。
図3図2に示した給電網の別の図。
図4】各偏波とそれらに対応する給電網のスイッチ位置の表。
図5】給電網の模範的なレイアウト。
図6】給電網の別の実施形態であって、入力側でDP4Tの代わりに1つのDPDTと2つのSPDTを用いたものの概略図。
図7】給電網の別の実施形態であって、別のアンテナ用の追加の接続部を有するものの概略図。
図8】給電網の別の実施形態であって、リングカプラの代わりにウィルキンソン分配器と180度遅延配線を用いたものの概略図。
図9】給電網の別の実施形態であって、ウィルキンソン分配器の代わりにT形電力分配器を用いたものの概略図。
図10】給電網が1種類の円偏波のみサポートする別の実施形態の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1はRFID読み取り装置12内のアンテナ10の概略図を示している。アンテナ10は例えば約900MHz付近のISMバンド用に設計されている。アンテナ10にはRFID読み取り装置12のトランシーバ14が接続されており、更にそれには、アンテナ10で受信されたRFID信号を評価したり情報をRFID信号としてトランスポンダに送ったりするための制御及び評価ユニット16が接続されている。制御及び評価ユニット16は更に、データ交換やパラメータ設定等を行ったりするために有線接続又は無線のインターフェイス18に接続されている。
【0037】
例えばISO18000-6に準拠したUHF周波数域(極超短波)用のRFID読み取り装置の機能の仕方そのものは公知であり、故に詳しい説明は行わない。本発明は、引き続き他の図2~10を参照して詳しく説明するように、アンテナ10若しくはその給電網に関するものである。図示した内部アンテナ10の代わりに外部アンテナも考えられ、その場合、トランシーバ14と制御及び評価ユニット16は、アンテナ10から分離され、ケーブルを通じて接続された少なくとも1つの別のケーシング内に収納されている。
【0038】
図2はアンテナ10用の給電網の概略図を示している。給電網は、入力信号20を分配して適正な電力レベル及び位相で4つの給電点P1~P4においてアンテナ素子22に結合させることで、全体として所望の偏波のアンテナ10が得られるようにする機能を有する。アンテナ素子22は好ましくはアンテナパッチであり、その結果、パッチアンテナが得られる。図示した給電網では、スイッチ状態に応じて、水平偏波、垂直偏波、右旋円偏波及び左旋円偏波、即ち4種類の偏波が可能である。後で図10を参照して紹介する給電網の実施形態では円偏波が1種類のみであり、従って3種類の偏波が可能である。
【0039】
給電網は第1のスイッチ素子24を備えている。図示した例では2つの入力側接続部を有する4方スイッチ(DP4T, Double Pole Quadruple Throw)であり、これを用いて入力信号20が4つの接続部へ分配される。2番目の入力側接続部にはアンテナ終端26が設けられている。第1のスイッチ素子24の後段に第2のスイッチ素子28が配置されている。これは例えば2つの単極双投スイッチ(SPDT, Single Pole Double Throw)を備えている。第1のスイッチ素子24の4つの出力側接続部から第2のスイッチ素子28までの4本の接続配線は対になって単極双投スイッチの入力側接続部に接続されている。各対の接続配線のうちの1本には90度ハイブリッドカプラ30が接続されている(ブランチラインハイブリッド、90度3dB分配器)。第2のスイッチ素子28の出力側には2つの180度電力分配器32が、本実施形態ではリングカプラ(ラットレースハイブリッド、180度3dB分配器)として接続されており、その各々がまたそれ自身で終端34を備えている。これにより第2のスイッチ素子28の2つの単極双投スイッチからの2つの部分信号の各々が再び分配され、その結果生じる部分信号は180度の位相差で給電点P1、P3若しくはP2、P4に送られる。
【0040】
図3図2に示した給電網の別の図を示している。アンテナ素子22の領域にその対称軸36が書き込まれており、それに対して給電点P1~P4も対称に、好ましくは中心の合った正方形状に配置されている。給電点を対称に配置した場合、円偏波には90度の位相差が、また直線偏波には180度の位相差がそれぞれ必要であり、本給電網によりそれが用意される。それとは違った非対称な配置も可能ではあるが、そうすると相応に位相を整合させることが必要となるか、それぞれの所望の偏波が近似的にしか得られなくなる。
【0041】
図4は各偏波とそれらに対応する給電網のスイッチ位置の表を示している。第1列には複数の異なる偏波が記入されている。「Open1」及び「Open2」という変種はアンテナ10の本来の駆動には必要とされない特殊なケースである。開放された又はアースに対して短絡された配線端に入力信号20を明確に切り換えることは、例えばトランシーバ14を含むRFIDフロントエンドと給電網との間の区間の特性を調べるための参照測定又は較正に利用できる。これは例えば長めのケーブルを用いてアンテナを取り外した場合の配線減衰を測定するために行われる。
【0042】
第2列は第1列の各偏波状態に対して第1のスイッチ素子24の入力側接続部P1、P2が同素子の出力側接続部P3~P6とどのように接続されるかを示している。第3列と第4列にはそれに対応して第2のスイッチ素子28の2つの単極双投スイッチ28a~bのスイッチ状態が示されている。なお、符号Pxは複数の異なるスイッチ素子の接続部に対して多重的に用いられており、給電点にも用いられていることに注意されたい。もっともその符号が何を指しているのかはそれぞれの文脈から一義的に明らかである。後半の4列は給電点P1~P4に到来する信号を記載している。なお、表中の給電点は図3で既にout1~out4で示した通りである。また、Pinは各々の入力電力を意味する。
【0043】
読み取り例として、表の第1行に記載の第1の円偏波は、第1のスイッチ素子24が点P4及びP5経由で90度ハイブリッドカプラのある内側の各接続配線との接続を作り出す一方、第2のスイッチ素子28がこの内側の各接続配線を第1の単極双投スイッチ28aの点P3及び第2の単極双投スイッチ28bの点P2経由で180度電力分配器32へと導通させることにより達成することができる。従って、第2のスイッチ素子28から出力される2つの部分信号は互いに90度位相がずれており、それにより180度電力分配器は給電点P1には0度の部分信号、P2には90度の部分信号、P3には180度の部分信号、そして、P4には270度の部分信号を発生させる。
【0044】
アンテナ10はその4つの給電点を用いて軸比の小さい円偏波を発生させることができる。これにより、アンテナ10は外部からの妨害、特にアンテナ10付近の金属製の物体又は反射器に対してより頑強になる。直線偏波を発生させるには、それぞれ部分信号を180度の位相差で2つの給電点に結合させればよい。減衰はいずれの偏波の場合もわずかである。直線偏波の場合は90度ハイブリッドカプラ30を迂回するため、円偏波の場合よりも減衰をより抑えることさえできる。
【0045】
図5図3に概略的に示した給電網をボード又は回路基板38上で模範的且つ具体的にレイアウトしたものを示している。回路基板38の背面側にあるアンテナ素子22は輪郭のみ分かるように示してある。90度ハイブリッドカプラ30の構造も、2つの180度電力分配器32の構造も、冒頭に挙げた特許文献9に記載の六角形のラスタ上の配線構造を利用している。それらはインピーダンス整合されたマイクロストリップ配線40として実装された接続線により接続されている。2つの180度電力分配器32の出力側では接続配線42が給電点P1からP4に通じており、対応する図3に概略的に描いたこれらの点の対称な配置がより良く認識できる。
【0046】
図示した給電網の特徴は単一の銅層(レイヤ)内に実装できる点にある。該給電網は、配線の交差なしで、従ってボード層の変更も配線の交差に必要な部品もなしで済ませることができる。何と言っても適切な交差(バイア)にはインピーダンス整合のために減衰と位相差に関する特別な注意が必要となる。従って、図5のように給電網を単層のレイアウトにすることより複雑さが軽減され、コストを低減しながらも非常に良好なアンテナ特性と偏波特性を達成することができる。給電網を回路基板38の一方の側又は面(裏側)に(特に単層で)設けるとともに、アンテナ素子22を他方の側又は面(表側)に(特にアンテナパッチの形で)設ければ、アンテナ10の構造形態が非常にコンパクトになる。このような良好に統合可能な構造によれば、冒頭に挙げた未公開の欧州特許出願第22188151.9号に記載されているような様々なハウジングのためのモジュール式の変形も容易に行うことができる。
【0047】
図6は給電網の別の実施形態の概略図を示している。これまで説明してきた実施形態とは異なり、ここでは第1のスイッチ素子が1つの双極双投スイッチ24a(DPDT, Double Pole Double Throw)と2つの単極双投スイッチ24b(SPDT, Single Port Double Throw)を前後に並べたものとして構成されている。これにより4方スイッチ(DP4T, Double Port Quadruple Throw)を模して置き換えることができる。
【0048】
図7は給電網の別の実施形態の概略図を示している。これまで説明してきた実施形態とは異なり、ここでは別のアンテナ(図示せず)を複数の異なる切り換え可能な偏波で用いるための追加の接続部44が第1のスイッチ素子に用意されている。そのためにここでは模範例として双極双投スイッチ(DPDT)の後段に2つの4方スイッチ(SP4T)が配置されている。従って、第1のスイッチ素子の出力側には計8個の接続部があり、そのうち4つの接続部はこれまでと同様にアンテナ10の4種類の偏波を発生させるために、別の4つの接続部は別のアンテナのための追加の接続部として、それぞれ用いることができる。
【0049】
図8は給電網の別の実施形態の概略図を示している。これまでの実施形態とは異なり、ここでは180度電力分配器32がもはやハイブリッドリングカプラではなく、ウィルキンソン分配器32aとして構成されている。180度の位相差は適切な遅延を持つ遅延配線を用いて達成される。代わりに、適切な位相差の場合に給電網のより広い周波数範囲にわたり電力を分配できるようにするため、シッフマン位相シフタを用いることも考えられよう。これによれば、ウィルキンソン分配器32aに基づいて3dBの180度電力分配が同様に可能である。リングカプラに対する利点は、寸法を正しく決めれば伝送損失がより少なくなることにある。他方で出力ポート間の分離が弱くなりはするが、それはアンテナ10の構造にとってさほど重要ではない。なぜなら、各信号は同じアンテナ素子22に結合させられるからであり、またそこでは、特にアンテナパッチとして設計する場合、いずれにせよ2つの隣接する給電点の間にはやや強めの結合が存在するからである。
【0050】
図9はまた図8に代わるものを示しており、今度はウィルキンソン分配器32aがT形電力分配器32bに置き換えられている。その他については図8の説明を参照されたい。好適な180度電力分配器32、32a、32bの選択はあらゆる実施形態で可能であり、図8及び9の特殊な描画に限定されるものではない。
【0051】
図10は別の実施形態の概略図を示している。この形態では給電網が左右両方の回転方向の円偏波ではなく一方の円偏波のみをサポートしている。第1のスイッチ素子24としてここでは3方スイッチが用いられている(SP3T, Single Pole Triple Throw)。90度ハイブリッドカプラ30へ切り換え可能な接続は1つしかなく、該カプラの他方の接続部はアンテナ整合器48に固定的に接続されている。円偏波の回転方向はここでは回路設計によってのみ選択可能である。従って、図10に示した給電網は3種類の偏波の間でしか選択ができないが、その代わりスイッチの数がより少ないことやスイッチ部品の設計がより簡単であることから損失が低減するという利点がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【外国語明細書】