(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024160939
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】カルマン線の通過を検出するためのデバイスを備える携行型物品、特に携行型時計、及び検出方法
(51)【国際特許分類】
B64G 1/66 20060101AFI20241108BHJP
G04G 21/02 20100101ALI20241108BHJP
【FI】
B64G1/66 Z
G04G21/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】22
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024055347
(22)【出願日】2024-03-29
(31)【優先権主張番号】23171366.0
(32)【優先日】2023-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・クリスト
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア・ダルダネリ
(72)【発明者】
【氏名】ジェラール・シュルムリー
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン・デュボワ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-リュック・ボヴェ
【テーマコード(参考)】
2F002
【Fターム(参考)】
2F002AA12
2F002AB06
2F002GA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ロケットによるカルマン線の通過を十分な精度で検出することができる携行型物品を提供する。
【解決手段】メモリー4と検出デバイス6を備える携行型時計2において、検出デバイス6は、携行型時計にリンクされる三次元座標フレームにおける携行型時計の加速度ベクトルを測定することができる加速度センサー8と、加速度センサーによって与えられた測定結果を処理することができるように構成している電子ユニット12を備える。電子ユニット12は、ロケットに搭乗している携行型時計のみを利用して、ロケットによるカルマン線の通過を検出することができるように構成している。携行型時計によるカルマン線の通過は、検出デバイスによって、ロケットの離陸から、宇宙フライトの前に定められるカルマン線の通過まで、加速度センサーによって行われる断続的な測定に基づいて、メモリーに格納される少なくとも1つの対応する基準値に基づいて、行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与のタイプのロケットによる、所与の高度H
D又は選択された高度H
Sによって定められるカルマン線L
Kの通過を、このロケットの宇宙フライト中に、ユーザーに装着されロケットに搭乗している携行型物品を利用して、検出する方法であって、
前記携行型物品は、メモリーと、タイムベースと、検出デバイスとを備え、
前記検出デバイスは、携行型物品の三次元座標フレームにおける携行型物品の固有加速度ベクトルを測定することができる加速度センサーと、前記加速度センサーによって与えられる測定結果を処理することができるように構成している電子ユニットとによって形成され、
携行型物品の固有加速度ベクトルは、重力を除く携行型物品が受ける力のベクトル和を携行型物品の質量で割ったものに等しく、
前記方法は、宇宙フライトのためにロケットに搭乗している携行型物品にとって予備的である予備的段階を含み、前記予備的段階は、
時間0と定められるロケットの離陸から少なくとも前記所与の高度H
Dの通過までの、時間tの関数として、地球の重力に等しい単位のスカラー値である、前記所与のタイプのロケットの公称運動加速度A
N(t)を用意するステップと、
ロケットの離陸から前記所与の高度H
Dの少なくとも1回の通過までの、時間tの関数として、水平面に対する前記所与のタイプのロケットの理論傾斜角θ
T(t)を用意するステップと、
ロケットの離陸から前記所与の高度H
Dの通過までの、前記所与のタイプのロケットの理論フライト時間T
Kを判断ないし用意するステップと、
前記公称運動加速度及び前記理論傾斜角に基づいて、次の式によって地球の引力を単位として定められる、時間の関数である、前記所与のタイプのロケットについての理論固有加速度A
PT(t)を判断するステップと、
数値的及び/又は数学的手段によって、ロケットの離陸に対応する時間0(t=0)と前記理論フライト時間に対応する時間T
Kの間の、前記理論固有加速度A
PT(t)の二重積分、又は前記理論固有加速度から重力加速度のノルムを引いたものの二重積分、によって定められ、かつ、カルマン線L
Kの前記所与の高度H
Dで割った値が前記所与のタイプのロケットについての補正係数F
Cを定める、理論測定距離D
MTを計算するステップと、
前記理論測定距離D
MT及び/又は前記補正係数F
Cを携行型物品のメモリーに記録するステップであって、ここで、該当する場合、前記電子ユニットにおいて、宇宙フライトの開始時点を定めるロケットの離陸の前に、前記補正係数F
Cと前記選択された高度H
Sを乗算されて、基準距離D
MRを得る、ステップと、
ロケットの離陸の前に、ロケットに搭乗している携行型物品の前記検出デバイスを活性化させるステップとを含み、
前記検出方法は、検出段階を含み、前記検出段階は、
測定頻度F
Mで、前記検出デバイスを利用して携行型物品の固有加速度ベクトルを断続的に測定し、前記電子ユニットにおいて、前記測定ごとに、測定された固有加速度ベクトルのノルムA
M(t
n)、又は前記ノルムA
M(t
n)から重力加速度のノルムを引いた補正ノルム、を計算するステップであって、t
nは、n・Pに等しい時間であり、ここで、nは、少なくともロケットの離陸以降に行われた測定の回数であり、新しい測定ごとに1単位ずつ増分され、Pは、前記測定頻度によって定められる期間である、ステップと、
前記電子ユニットにおいて、ロケットの離陸からの又は少なくともロケットの離陸からの、携行型物品の固有加速度ベクトルのノルム、又はこのノルムから重力加速度のノルムを引いたもの、についての時間にわたっての二重積分を数値的に計算するステップであって、固有加速度ベクトルのノルムは、断続的に測定された固有加速度ベクトルの前記ノルムA
M(t
n)に基づいて決められて、時間t
mにおける比較距離D
C(t
m)が得られ、ここで、mは、正の整数であり、各mは、前記数nの1つに対応する、ステップと、
各比較距離D
C(t
m)を、前記所与の高度H
Dを用いる場合には理論測定距離D
MTと、又は選択された高度H
Sを用いる場合には基準距離D
MRと、比較し、比較距離D
C(t
m)が理論測定距離D
MT又は基準距離D
MRよりも大きいときに、前記検出デバイスによって、携行型物品のメモリーに、携行型物品によるカルマン線の通過の検出を記録するステップとを含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電子ユニットにおいて携行型物品の固有加速度ベクトルのノルム、又はこのノルムから重力加速度のノルムを引いたもの、の時間にわたっての二重積分を計算する前記ステップは、固有加速度ベクトルの各測定後に、時間tn-1とtnの間の各期間Pにわたっての固有加速度ベクトルのノルムの定数値AC(tn)を定めることによって、増分によって二重積分を行うことを伴い、
この定数値は、ノルムAM(tn)及び/又はノルムAM(tn-1)によって決められ、これによって、各期間Pごとに、前記定数値、又は前記定数値から重力加速度のノルムを引いた値、に対応する速度の増加を計算して、前記定数値、又は前記定数値から重力加速度のノルムを引いた値、及び時間tn-1における推定速度VE(tn-1)に基づいて、時間tnにおける推定速度VE(tn)と基本距離dnを決め、
そして、固有加速度ベクトルの前回の測定の最後に得られた基本距離d1~dn-1の合計を基本距離dnに加えて、時間tnにおける比較距離DC(tn)を得る
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記理論フライト時間T
Kは、次の式を数学的及び/又は数値的に解くことによって、前記予備的段階において、公称運動加速度と理論傾斜角に基づいて決められ、
ここで、H
Dは、前記所与の高度であり、時間Tは、変数であり、
である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記選択された高度HSは、このロケットによるカルマン線の通過に対して選択されるロケットの傾斜角の関数として決められ、
前記傾斜角は、ロケットとの宇宙フライトの前に携行型物品に与えられる
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記理論測定距離は、選択可能な複数の別個の所与の高度HD j(j=1からJ)の所与の高度ごとに決められ、
各理論測定距離DMT j及び/又は対応する各補正係数FC jは、携行型物品のメモリーに格納されて、理論測定距離DMT jの1つ又は補正係数FC jの1つを、直接又はカルマン限界の高度を選択することによって、選択することを可能にする
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記加速度センサーは、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
メモリー(4)と、タイムベースと、検出デバイス(6)とを備える、ユーザーが着用することができる携行型物品(2)であって、
前記検出デバイス(6)は、携行型物品にリンクされた三次元座標フレーム(10)における携行型物品の加速度ベクトルを測定することができる加速度センサー(8)と、前記加速度センサーによって与えられる測定結果を処理することができる電子ユニット(12)とによって形成され、
前記検出デバイス(6)は、所与のタイプのロケットの宇宙フライト中に、このロケットに搭乗している携行型物品によるカルマン線LKの通過を自律的に検出することができるように構成しており、
前記カルマン線LKは、所与の高度HD、又は直接又は別の空間変数を選択することによってユーザーが選択することができる選択された高度HS、によって定められ、
携行型物品によるカルマン線の通過は、ロケットの離陸からカルマン線LKの通過まで前記加速度センサーによって行われる携行型物品の加速度ベクトルの断続的な測定と、前記離陸の前に前記メモリー(4)に格納された所定の基準値、又は事前に決められ前記離陸の前に前記メモリーに格納された補正係数FCによって決められ前記電子ユニット(12)において計算された基準値と、前記離陸の前にカルマン線のためにユーザーによって選択された高度HSとに基づいて、前記電子ユニット(12)によって検出することができ、
前記所定の基準値と前記補正係数FCは、前記所与の高度HDに対して相対的なものであり、
前記電子ユニットは、携行型物品の加速度ベクトルの前記断続的な測定結果に基づいて、時間にわたっての比較距離の変化を計算し、そして、この時間にわたっての比較距離を、前記所定の基準値又は計算された前記基準値と比べて、携行型物品によるカルマン線の通過を検出することができるように構成している
ことを特徴とする携行型物品(2)。
【請求項8】
前記検出デバイス(6)は、前記加速度センサー(8)によって測定される前記三次元座標フレーム(10)における加速度ベクトルのノルムに基づいて前記比較距離が計算されるように構成しており、
前記電子ユニット(12)は、前記ノルムを計算することができるように構成している
ことを特徴とする請求項7に記載の携行型物品(2)。
【請求項9】
前記補正係数FCは、前記所定の基準値を前記所与の高度HDで割った値に等しい
ことを特徴とする請求項7に記載の携行型物品。
【請求項10】
前記所定の基準値は、ロケットの離陸からカルマン線LKの前記所与の高度HDまでの、ロケットに関連する空間変数の少なくとも1つの理論関数に基づいて定められる
ことを特徴とする請求項7に記載の携行型物品。
【請求項11】
前記メモリー(4)は、複数の所与の高度HD j(j=1からJ)にそれぞれ対する複数の所定の基準値を含むことができ、
前記所定の基準値はそれぞれ、ロケットの離陸から対応する所与の高度までの、ロケットに対する空間変数の少なくとも1つの理論関数に基づいて定められ、
前記所与の高度はそれぞれ、携行型物品によるカルマン線の通過が検出されたときに計算される、前記比較距離の、時間にわたっての比較を可能にするようにユーザーによって選択可能である
ことを特徴とする請求項7に記載の携行型物品(2)。
【請求項12】
前記メモリー(4)は、複数の所与の高度HD j(j=1からJ)にそれぞれ関連する複数の補正係数を含むことができ、
各補正係数は、選択された補正係数及び選択された高度によって決まる基準値との、携行型物品によるカルマン線の通過が検出されたときに計算される、前記比較距離の、時間にわたっての比較を可能にするように、ユーザーによってカルマン線LKに対して選択された高度の関数として選択可能である
ことを特徴とする請求項7に記載の携行型物品(2)。
【請求項13】
前記複数の所与の高度HD jに対して複数の所定の基準値がそれぞれ定められ、
所定の基準値はそれぞれ、ロケットの離陸から対応する所与の高度まで、ロケットに関連する空間変数の少なくとも1つの理論関数に基づいて定められ、
前記補正係数はそれぞれ、前記所定の基準値をそれぞれ前記所与の高度で割った値に等しい
ことを特徴とする請求項12に記載の携行型物品。
【請求項14】
前記加速度センサー(8)は、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される
ことを特徴とする請求項7~9及び11のいずれか一項に記載の携行型物品(2)。
【請求項15】
前記加速度センサー(8)は、微小電気機械システム(MEMS)によって形成され、
前記所定の基準値は、さらに、ロケットの公称運動加速度AN(t)に基づいて定められる
ことを特徴とする請求項10に記載の携行型物品(2)。
【請求項16】
前記加速度センサーは、微小電気機械システム(MEMS)によって形成され、
各所定の基準値は、さらに、ロケットの公称運動加速度AN(t)に基づいて定められる
ことを特徴とする請求項12又は13に記載の携行型物品。
【請求項17】
前記検出デバイス(6)は、前記加速度センサー(8)を利用して、前記三次元座標フレーム(10)における携行型物品(2)の固有加速度ベクトルを、測定頻度FMで、断続的に測定することができるように構成しており、
この固有加速度ベクトルは、重力を除く携行型物品が受ける力のベクトル和を携行型物品の質量で割ったものに等しく、
前記検出デバイス(6)は、前記電子ユニット(12)において、測定ごとに、この測定された固有加速度ベクトルの、ノルムAM(tn)、又はこのノルムAM(tn)から重力加速度のノルムを引いた補正ノルム、を計算し、
tnは、n・Pに等しく、ここで、nは、少なくともロケットの離陸以降に行われた測定の回数であり、順次的な測定ごとに1単位ずつ増分され、Pは、前記測定頻度によって定められる期間であり、
前記電子ユニット(12)は、携行型物品の固有加速度ベクトルのノルム、又はこのノルムから重力加速度のノルムを引いたもの、についての、少なくともロケットの離陸からの、時間にわたっての二重積分を数値的に計算することができるように構成しており、
固有加速度ベクトルのノルムは、断続的に測定された固有加速度ベクトルの前記ノルムAM(tn)に基づいて決まって、時間tmにおける比較距離DC(tm)が得られ、ここで、mは、正の整数であり、各mは、前記数nの1つに対応し、
前記検出デバイス(6)は、各比較距離DC(tm)を、メモリーに格納された前記所定の基準値と、又は前記補正係数を介して選択された高度HSに対して得られた前記基準値と、比較して、したがって、前記比較距離DC(tm)が前記所定の基準値又は前記基準値よりも大きいかどうかを検出することができるように構成している
ことを特徴とする請求項14に記載の携行型物品(2)。
【請求項18】
前記電子ユニットにおいて行われる、時間にわたっての前記二重積分の計算は、固有加速度ベクトルの各測定後に、時間tn-1とtnの間の各期間Pにわたっての、固有加速度ベクトルのノルムの定数値AC(tn)を定めることによって、増分によって二重積分を行うことを伴い、
この定数値は、ノルムAM(tn)及び/又はノルムAM(tn-1)によって決められ、これによって、各期間Pごとに、前記定数値、又は前記定数値から重力加速度のノルムを引いた値、に対応する速度の増加以下までの速度の増加を計算して、
前記定数値AC(tn)、又は前記定数値から重力加速度のノルムを引いた値、及び時間tn-1における推定速度VE(tn-1)、に基づいて、時間tnにおける推定速度VE(tn)と、基本距離dnを決め、
そして、固有加速度ベクトルの前回の測定の最後に得られた、基本距離d1~dn-1の合計に、基本距離dnを加えて、時間tnにおける比較距離DC(tn)を得る
ことを特徴とする請求項17に記載の携行型物品。
【請求項19】
前記検出デバイスが携行型物品によるカルマン線の通過を検出するとすぐに、携行型物品によるカルマン線の通過を表すことができるように構成している、視覚的手段及び/又は振動手段及び/又は音発生手段を備える
ことを特徴とする請求項7~13のいずれか一項に記載の携行型物品。
【請求項20】
前記携行型物品(2)は、携行型物品によるカルマン線の少なくとも第1の通過、好ましくは携行型物品によるカルマン線の各通過、を記録するように構成しており、
前記携行型物品(2)は、携行型物品によるカルマン線の通過が行われたかどうかを、自動的かつ/又はコマンドに応じて、表すことができ、好ましくは、この事象が行われた回数を表すことができるように構成しているディスプレー手段を備える
ことを特徴とする請求項7~13のいずれか一項に記載の携行型物品(2)。
【請求項21】
携行型物品によるカルマン線の通過の、検出、好ましくは各検出、をメモリーに恒久的に記録することができるように構成しており、
この記録は、メモリーの保護部分(4a)に行われて、携行型物品のユーザーが前記保護部分をプログラムできないようにする
ことを特徴とする請求項20に記載の携行型物品(2)。
【請求項22】
携行型物品は、携行型時計、特に腕時計、である
ことを特徴とする請求項7~13のいずれか一項に記載の携行型物品(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットないしスペースシャトルを利用して空間において移動する宇宙飛行者又は他の個人のための、宇宙関連の、携行型物品、特に携行型時計(例、腕時計、懐中時計)、に関する。より具体的には、本発明は、カルマン線の通過を検出するための検出デバイスを備える、携行型物品、特に携行型時計、及びカルマン線の通過を検出する方法に関する。カルマン線は、伝統的な地球の大気と宇宙の間の境界を定める。カルマン線は、典型的には、高度100kmに対応するとされている。しかし、この高度は、様々な組織に応じて変わり、特に85km~110kmの範囲内で変わる。また、カルマン線は、宇宙船が、フライトを維持するために、地球のまわりの軌道を維持することができる軌道速度で実質的に飛ばなければならない境界でもある。
【背景技術】
【0002】
宇宙ミッションにおいて様々な携行型時計が宇宙飛行者によって着用されてきた。宇宙飛行者が着用する携行型時計の中には、宇宙におけるフライトやミッションに固有の機能はないのに堅牢性と精度のために選択されるものがある。しかし、宇宙におけるミッションに役立つ特定の機能を提供する、他の携行型時計、特に電子式の携行型時計、もある。この特定の機能は、典型的には、カウントダウンやアラームのような時間の測定に関連するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、携行型時計が搭乗している、ロケットないしスペースシャトル(以下、すべてを「ロケット」と呼ぶ)による、少なくとも所与のタイプのロケット(宇宙フライトの技術分野において、1つのタイプの打ち上げ乗り物とも呼ばれる)による、カルマン線の通過を十分な精度で検出することができる、携行型物品、特に携行型時計、を提供することを目的とする。
【0004】
具体的には、本発明の目的の1つは、宇宙フライト中にカルマン線の通過を自律的に検出することを可能にする、携行型物品、特に携行型時計、を提供することであり、この検出は、特に外部通信信号を受信することによらず、したがって、グローバル測位システム(GPS)を使用せず、関心事の宇宙フライトのリアルタイムデータに関連する信号をロケットから受信することによらず行われ、この宇宙フライト中に、ロケットによるカルマン線の通過をこのロケットに搭乗している携行型物品を利用して検出するように意図されている。
【0005】
本発明の別の目的の1つは、自身によるカルマン線の通過を十分な精度で検出することができる、携行型物品、特に携行型時計、であって、携行型物品、特に携行型時計、に容易に組み込むことができる、比較的限定的ではあるが正確で省空間性が高い技術的手段を備えるものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、メモリーと、タイムベースと、検出デバイスとを備える、ユーザーが着用することができる携行型物品に関し、前記検出デバイスは、前記携行型物品にリンクされた座標フレームを定める3つの直交軸に沿った前記携行型物品の加速度ベクトルを測定することができる(すなわち、この携行型物品の三次元座標フレームにおける携行型物品の加速度ベクトルを計測することができる)加速度センサーと、前記加速度センサーによって与えられる測定結果を処理することができるように構成している電子ユニットとによって形成される。
前記検出デバイスは、メモリーと連係して、所与のタイプのロケットの宇宙フライト中に、このロケットに搭乗している前記携行型物品によるカルマン線の通過を自律的に検出することができるように構成しており、前記カルマン線LKは、所与の高度HD、又は直接又は選択可能な別の空間変数を介してユーザーが選択することができる高度HS、によって定められる。前記電子ユニットは、前記ロケットによるカルマン線の通過を、前記ロケットの離陸からカルマン線LKの通過まで前記加速度センサーによって行われる前記携行型物品の加速度ベクトルの断続的な測定と、前記離陸の前に前記メモリーに格納された所定の基準値、又は事前に決められ前記離陸の前に前記メモリーに格納された補正係数FCによって決められ前記電子ユニットにおいて計算された基準値と、前記離陸の前にカルマン線LKのためにユーザーによって選択された高度HSとに基づいて、検出することができる。前記所定の基準値と前記補正係数FCは、前記所与の高度HDに関連するものである。前記電子ユニットは、前記携行型物品の加速度ベクトルの前記断続的な測定結果に基づいて、時間にわたっての比較距離の変化を計算し、そして、この時間にわたっての比較距離を、前記所定の基準値又は計算された前記基準値と比べて、前記携行型物品、したがって、ロケット、によるカルマン線の通過を検出することができるように構成している。
【0007】
したがって、本発明に係る携行型物品は、必要な唯一の技術的手段として、メモリーと、この携行型物品にリンクされる座標フレームにおける携行型物品に対する加速度ベクトルの成分を測定することができる加速度センサーを備える検出デバイスと、加速度センサーによって与えられる測定結果を処理するための電子ユニットとによって、所与のタイプのロケットに搭乗しているこの携行型物品によるカルマン線の通過を自律的に検出することができるように設計されている点で注目に値する。したがって、本発明に係る携行型物品は、微小電気機械システム(「MEMS」とも呼ばれる)によって形成される三軸ジャイロメーターを必要とせず、これは、確かに小型であることができるが、典型的には、あまり正確ではなく、いずれの場合も、宇宙フライト中の前記加速度センサーに固有の座標フレームの向きの変化を正確に検出することができて、離陸とカルマン線の通過の間の任意の時間においてロケットの運動の加速度の鉛直方向の成分を判断して、その高度を時間にわたって判断することができるほどに、十分に正確ではない。したがって、本発明は、比較的不正確であって、携行型物品の角速度の十分に正確な測定結果を提供して、一時的な向き及び空間における位置、特に高度、の変化、を判断することができない、小さなジャイロメーターに関連する問題を防ぐことができる。一方、同じオーダーの大きさの小さな寸法構成を有する比較的安価な加速度センサーは、3つの軸に沿った加速度の正確な測定を提供することができる。
【0008】
主要な実施形態において、前記携行型物品は、携行型時計である。
【0009】
1つの好ましい実施形態において、前記加速度センサーは、微小電気機械システム(頭字語「MEMS」によっても知られている)である。このようなセンサーは、小型であるため、携行型時計内に容易に組み込むことができる。なお、このような加速度センサーは、小型であるにもかかわらず、非常に正確であることができる。また、このような加速度センサーを選択することによって、前記所定の基準値も、有利なことに、ロケットの公称運動加速度に基づいて定められる。「運動加速度」という用語は、速度の時間微分に対応する加速度を意味するものと理解され、この運動加速度は、常に、空間における、ロケット、したがって、携行型物品、の軌道、に対して接線方向のベクトル、すなわち、ロケットの一時的な方向ベクトルと同一方向のベクトル、を定める。「公称」という用語は、関心事のロケットのタイプ又は特定のロケットの仕様において与えられる値を意味するものと理解される。したがって、その値は、理論値であり、本発明に関連して、この場合は、時間に依存し、関心事のロケットに対して予測されたものであり、そのロケットの設計と、特に打ち上げからカルマン線の通過までの、そのロケットを用いた宇宙フライトの計画、に起因するものである。しかし、MEMSタイプの加速度計は、運動加速度を与えず、固有加速度を与え、これは、空間におけるロケットの一時的な向きに関する十分に正確なデータがない場合に、運動加速度、特に、ロケットの一時的な高度を判断するときに主に考慮されるこのような加速度の鉛直方向成分を判断することを可能にはしない。本発明は、以下の詳細な説明によって明らかになるように、この問題に対する注目すべき手法を提供する。
【0010】
1つの好ましい代替的実施形態において、前記検出デバイスは、前記比較距離が、前記加速度センサーによって測定され携行型物品にリンクされる前記座標フレームにおいて成分が与えられる加速度ベクトルのノルムに基づいて計算されるように構成しており、前記電子ユニットは、これらのノルムを計算することができるように構成している。より具体的には、前記加速度センサーは、固有座標フレームにおける加速度ベクトルを与えるが、加速度ベクトルのノルムは、座標フレームに依存しない。すなわち、この加速度ベクトルが与えられる座標フレームの空間的な向きにかかわらず不変である。したがって、加速度測定における測定座標フレームの向きの不確定性は問題にならない。この好ましい代替的実施形態は、非常に有利である。なぜなら、携行型物品にリンクされる座標フレーム、すなわち、携行型物品に対して固定されている加速度センサーによって定められる座標フレームが、地球の座標フレームに対する向きを有するということを克服するためであり、この向きは、特にロケットが鉛直方向の線形的な軌道をたどるわけではないために、ロケットの打ち上げ基地とカルマン線の間の宇宙フライト中に、変動する。また、携行型物品の向きは、それを装着しているユーザーの運動の結果として、ロケットに対して時間とともに変わる可能性がある。
【0011】
1つの有利な代替的実施形態において、前記補正係数は、前記所定の基準値を前記所与の高度で割った値に等しい。
【0012】
一般的な実施形態において、前記所定の基準値は、前記ロケットの離陸からカルマン線の前記所与の高度までの、前記ロケットに関連する空間変数の少なくとも1つの理論関数に基づいて定められる。
【0013】
一般的な代替的実施形態において、前記携行型物品は、そのメモリーの保護された部分に、カルマン線の通過の記録がされるように構成しているため、この携行型物品のユーザーは、この保護された部分に書き込むことができない。
【0014】
本発明は、さらに、請求項1に記載の、本発明に係る携行型物品を利用して、この携行型物品が搭乗している所与のタイプのロケットによるカルマン線の通過を検出する方法に関する。この請求項1に従属する請求項に、代替的実施形態を記載している。
【0015】
以下において、添付の図面を参照しながら例を用いて本発明についてより詳細に説明する。なお、これに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る携行型時計を概略的に示しており、この携行型時計は、この携行型時計を形成する様々な電子部品を備える。
【
図2】宇宙におけるフライト中に、ロケットが離陸してからカルマン線の通過までの間に、ロケットがたどる軌道(図において中断されている)と、この軌道に沿ったフライトに関連する様々な変数を示している。これらの変数は、本発明に係るカルマン線の通過を検出する方法、及び本発明の主要な実施形態に係る、カルマン線の通過を検出するための検出デバイスにおけるその実装に関わる。
【
図3】
図2と比較して拡大された、本発明に係るカルマン線の通過を検出する方法に関与する様々な加速度のベクトル和の拡大図を示している。直交軸X
t及びZ
tは、
図2のX軸及びZ軸に平行であり、関心事のロケットの軌道T
F(x)上の点P
S(t)に原点があり、この点P
S(t)は、時間にわたってのロケットの高度H
F(t)及び水平距離E
H(t)を定める。
【
図4】時間の関数としての特定のタイプのロケットの運動加速度の理論曲線を示している。
【
図5】ロケットのフライト中に測定された、時間にわたっての前記ロケットの傾斜角を示している曲線と、この傾斜角の理論曲線を示している。
【
図6】時間にわたっての前記ロケットの理論高度を示している曲線を示している。
【
図7】
図7A~7Dは、1つの代替的実施形態に係る、宇宙におけるフライト中に携行型時計によってユーザーに与えられる様々なメッセージ、及び本発明に係る検出方法を実装する、本発明に係る携行型時計によるカルマン線の通過の検出を示している。
【
図8】
図8A及び8Bは、1つの代替的実施形態に係る、携行型時計がカルマン線の通過を検出した後に、特に宇宙フライト又はミッションの完了後に、携行型時計によって表示することができる、携行型時計のユーザーへの2つのメッセージを示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、携行型時計からなる本発明に係る携行型物品、及び本発明の主要な実施形態に係る、前記のような携行型物品によるカルマン線の通過を検出する方法についての実施形態について説明する。
【0018】
一般的な実施形態において、携行型時計2は、メモリー4と検出デバイス6を備え、この検出デバイス6は、携行型時計2にリンクされる三次元座標フレーム10における携行型時計の加速度ベクトルを測定することができる加速度センサー8と、加速度センサー8によって与えられる測定結果を処理することができるように構成している電子処理ユニット12(以下、「電子ユニット」とも呼ばれる)とを備える。携行型時計2は、さらに、電子制御ユニット14を備え、これは、特に、外側制御メンバーのアクチュエートに応答して検出デバイス6を活性化させることができるように構成している。この携行型時計2は、様々な外側制御メンバー、特に、2つの押しボタン16及び17とステムリュウズ18、を備える。なお、携行型時計2は、触覚制御手段、特にディスプレー手段を覆う触覚風防、を備えることができ、このような触覚制御手段は、例えば、特に宇宙フライトや宇宙ミッションの前後における、携行型時計のメモリー4へのデータ入力のため、かつ/又はディスプレー手段による特定のデータの表示を制御するため、に設けられる。
図7Aに示している特定の代替的実施形態において、携行型時計2は、目盛りに関連づけられた、針によって形成されるアナログディスプレー34と、携行型時計2の表盤の大部分を形成する電子ディスプレーモジュールによって形成されるデジタルディスプレー30とを備える。なお、前記針は、伝統的に、時刻データを表すために用いることができるが、他のものを表すためにも用いることができ、例えば、この検出方法における現在のステップを表すために、カルマン線の通過のような事象を表すために、また、フライトの前における操作の正しい進行又はその完了を表すためにも用いることができる。
【0019】
電子ユニット12は、少なくとも所与のタイプのロケットに対して、ロケットによるカルマン線LKの通過を、加速度センサー8とメモリー4と連係して、このロケットに搭乗している携行型時計2のみを利用して、検出することができるように構成している。したがって、ロケットの宇宙フライト中に、携行型時計によって、この携行型時計の検出デバイスを用いて、検出が自律的に行われる。カルマン線LKは、所与の高度HDによって定められ、又は直接又は別の空間変数の選択を介してユーザーが選択可能な高度HSによって定められる。「所与の高度」という用語は、ユーザーによってではなく、携行型時計の製造メーカー、又は権限のある人や会社によって、事前に定められた/事前に決められた高度を意味するものと理解すべきである。しかし、所与の高度が複数ある場合、それらをユーザーによって選択可能であることがありえる。すなわち、ユーザーは、複数の所与の高度から1つの所与の高度を選択することができる。
【0020】
携行型時計2が搭乗しているロケット22によるカルマン線LKの通過は、ロケットの離陸からカルマン線の通過までの、加速度センサー8によって行われた、この携行型時計の加速度ベクトルの断続的な測定と、このカルマン線に対して定められた高度に対応する基準値とに基づいて、検出デバイス6によって検出することができる。この基準値は、宇宙フライトの前に携行型時計のメモリー4において記録され、この宇宙フライト中に、ロケットによるカルマン線のために定められた前記高度の通過が、このロケットに搭乗している携行型時計を利用して、検出されるように意図されている。以下において、前記基準値を定め計算するためのいくつかの代替的実施形態について説明する。携行型時計は、加速度ベクトルの断続的な測定を行うための期間を順次的に判断することを可能にするタイムベースを備える。より一般的には、携行型物品の場合、この携行型物品は、順次的な期間を決め、したがって、検出デバイスが加速度ベクトルの断続的測定を実行することを可能にするように構成しているタイムベースを備える。1つの代替的実施形態において、前記タイムベースは、検出デバイスとは別個のものであるが検出デバイスに関連づけられたユニットであることができ、これによって、特に、加速度センサーの断続的な活性化を可能にする。別の代替的実施形態において、前記タイムベースは、検出デバイスに組み込まれる。1つの特定の代替的実施形態において、このタイムベースは、加速度ベクトルの測定を同期させることができるように、加速度センサーに直接関連づけられる。
【0021】
より具体的には、前記基準値は、メモリーに予め記憶された所定の基準値、又は予め決められメモリー4に予め記憶された補正係数FC、及びユーザーによってカルマン線LKのために選択された高度HSによって決められ電子ユニットにおいて計算される基準値である。前記所定の基準値と前記補正係数は、所与の高度HDに対して相対的なものである。電子ユニット12は、ロケットの加速度の断続的測定結果に基づいて時間にわたっての比較距離の変化を計算することができ、かつ、この時間にわたっての比較距離を所定の基準値又は計算された基準値と比較することができるように構成しており、これによって、携行型時計2、したがって、ロケット22、によるカルマン線の通過を検出することができるようにする。有利なことに、この基準値を携行型時計に与えるように構成している特定のデバイスを利用して、「工場で」又はその後に、携行型時計がプログラムされるときに、基準値がメモリー4に記録される。より単純な代替的実施形態において、前記携行型時計は、携行型時計が備える制御メンバーを介して、携行型時計に、すなわち、メモリー4に、基準値を入力することができるように構成していることができる。
【0022】
1つの有利な代替的実施形態において、補正係数FCは、前記所定の基準値を前記所与の高度HDで割った値に等しい。
【0023】
好ましい代替的実施形態において、前記所定の基準値は、ロケットの離陸からカルマン線LKに対応する所与の高度HDまでの、前記ロケットに関連する空間変数の少なくとも1つの理論関数に基づいて定められる。
【0024】
第1の特定の実施形態において、メモリー4は、複数の所与の高度HD j(j=1からJ)にそれぞれ関連する複数の所定の基準値を含むように構成している。前記所定の基準値はそれぞれ、一般的に、ロケットの離陸から対応する所与の高度までの、関心事のロケットに関連する空間変数の少なくとも1つの理論関数に基づいて定められ、前記所与の高度HD jはそれぞれ、携行型時計がカルマン線の通過を検出したときに計算される、時間にわたっての前記比較距離を、対応する所定の基準値と比較することができるように、ユーザーによって選択可能である。
【0025】
第2の特定の実施形態において、メモリー4は、複数の所与の高度HD j(j=1からJ)にそれぞれ関連する複数の補正係数FC j(j=1からJ)を含むように構成している。各補正係数FC jは、検出デバイスによって自動的に、又は随意的にユーザーによって、このユーザーがカルマン線LKに対して選択した高度HSの関数として選択され、これによって、携行型時計がカルマン線の通過を検出したときに計算される、時間にわたっての前記比較距離を、選択された補正係数と選択された高度HSによって決まる基準値と比較することを可能にすることができる。
【0026】
第2の特定の実施形態の有利な代替的実施形態において、複数の所与の高度HD jに対して複数の所定の基準値がそれぞれ定められ、前記所定の基準値はそれぞれ、一般的な方法で、ロケットの離陸から対応する所与の高度まで、関心事のロケットに関連する空間変数の少なくとも1つの理論関数に基づいて定められる。複数の補正係数FC jはそれぞれ、複数の所定の基準値それぞれを複数の所与の高度HD jで割った値に等しい。各補正係数のおかげで、選択可能であり、したがって、可変である、カルマン線の高度HSと乗算することによって、基準値を得ることが可能になり、この基準値によって、携行型時計の電子ユニットにおいて、関心事のロケットの宇宙フライト中に検出デバイスによって与えられる比較距離と比較することが可能になり、したがって、携行型時計、そして、ロケット、によるカルマン線の通過を検出することが可能になる。
【0027】
1つの好ましい実施形態において、加速度センサー8は、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される。
【0028】
1つの好ましい実施形態において、1つの所定の基準値のみが用意される場合、この所定の基準値も、ロケットの公称運動加速度に基づいて定められる。また、複数の基準値が用意される場合、各所定の基準値も、ロケットの離陸からカルマン線に対応する所与の高度HDまでの、ロケットの公称運動加速度に基づいて定められる。
【0029】
以下において、本発明に係る携行型時計を用いたロケットによるカルマン線の通過を検出する方法について説明する。以下の説明によって、様々な変数や機能がどのように定められ、かつ/又は得られるか、そして、それらが本発明に関連してどのように寄与するかを正確に理解することが容易になる。この検出方法は、以下において説明する主要な実施形態に係る携行型時計によって実装することができる。
【0030】
本発明は、このロケットの宇宙フライト中における、所与の高度H
D、又は選択された高度H
S、によって定められる、所与のタイプのロケット22によるカルマン線L
Kの通過を検出するための検出方法に関し、この検出は、ユーザーが着用することができる携行型物品によって行われ、この携行型物品は、特に、このロケットに搭乗しており、メモリー4と、タイムベースと、検出デバイス6とを備える携行型時計2であり、前記検出デバイス6は、加速度センサー8と電子ユニット12によって形成され、前記加速度センサー8は、携行型時計にリンクされた三次元座標フレーム10における携行型時計の固有加速度ベクトルa
M
*を測定するように構成しており、前記電子ユニット12は、加速度センサー8によって与えられる測定結果を処理することができるように構成しており、前記固有加速度ベクトルa
M
*は、ロケットの第1の近似において、この携行型時計の運動ベクトルの加速度a
*から、任意の瞬間/任意の時間tにおける重力加速度ベクトルa
E
*を引いたものに等しい。なお、この文章においては、ベクトルを示すためにアスタリスク(*)を用いており、
図2及び3においては、伝統的な方法で関心事の変数の上に位置している矢印を用いてベクトルを示している。一般的には、携行型時計の固有加速度ベクトルは、重力を除く携行型時計が受ける力のベクトル和をその質量で割ったものに等しい。すなわち、物品の固有加速度は、この物品が自由落下のときに観察者に対して経験する加速度である。
【0031】
この検出方法は、計画された宇宙フライトのためにロケットに搭乗している携行型物品にとって予備的である予備的段階を含み、この予備的段階は、以下の予備的ステップを含む。
(A)時間0を定めるロケットの離陸から、少なくともカルマン線L
Kに対応する所与の高度H
Dの通過までの、ロケット22の公称運動加速度A
N(t)を、時間tの関数として用意するステップであって、この公称運動加速度は、地球の重力に等しい単位のスカラー値(公称運動ベクトル加速度のノルム)である(したがって、この無次元のスカラー値は、公称運動ベクトル加速度のノルムを地球の重力のノルムで割った値に対応する。
図4を参照)、ステップである。
(B)ロケットの離陸から所与の高度H
Dの少なくとも1回の通過までの、時間tの関数としての、所与のタイプのロケットについての水平面に対する理論傾斜角θ
T(t)を用意するステップである(
図5を参照)。
(C)ロケットの離陸から所与の高度H
Dの通過までの、所与のタイプのロケットの理論フライト時間T
Kを用意し又は判断するステップである。
(D)前記公称運動加速度と前記理論傾斜角に基づいて、時間の関数として、所与のタイプのロケットについての理論固有加速度A
PT(t)を判断するステップであって、この理論固有加速度の値は、地球の重力に等しい単位にて、次の式によって定められる。
【0032】
【0033】
(E)ロケットの離陸に対応する時間0(t=0)と理論フライト時間に対応する時間TKの間の、理論固有加速度APT(t)、又は前記理論固有加速度から重力加速度のノルムを引いた値、の二重積分によって定められる理論測定距離DMTを、数値的及び/又は数学的手段によって計算するステップであって、前記理論測定距離DMTをカルマン線LKの所与の高度HDで割った値は、所与のタイプのロケットに対する補正係数FCを定める、ステップである。
(F)前記理論測定距離DMT及び/又は前記補正係数FCを、携行型時計のメモリーに記録するステップであって、この補正係数FCは、該当する場合、前記宇宙フライトの開始を定めるロケットの離陸の前に、選択された高度HSと乗算されて、基準距離DMRを得る、ステップである。
(G)ロケットの離陸の前に、このロケットに搭乗している携行型時計の検出デバイスを活性化させるステップである。
【0034】
そして、前記検出方法は、以下のいくつかの検出ステップを含む検出段階を含む。
(H)測定頻度FMで、携行型時計の三次元座標フレームにおける携行型時計の固有加速度ベクトルを、前記検出デバイスを利用して、断続的に測定し、電子ユニットにおいて、各測定結果に対して、測定された固有加速度ベクトルのノルムAM(tn)、及びノルムAM(tn)から重力加速度のノルムを引いたノルムに等しい補正ノルムを計算するステップであって、tnは、n・Pに等しい時間であり、ここで、nは、少なくともロケットの離陸以降に行われた、新しい測定ごとに1単位ずつ増分される測定結果の数であり、Pは、測定頻度によって定められる期間である、ステップである。
(I)電子ユニットにおいて、ロケットの離陸からの又は少なくともロケットの離陸からの、携行型時計の固有加速度ベクトルのノルム、又はこのノルムから重力加速度のノルムを引いた値についての、時間にわたっての二重積分を数値的に計算するステップであって、固有加速度ベクトルのノルムは、断続的に測定された固有加速度ベクトルの前記ノルムAM(tn)に基づいて判断されて、時間tmに対する比較距離DC(tm)を得る、ステップである。ここで、mは正の整数であり、各mは、前記数nの1つに対応する。
(J)各比較距離DC(tm)を、前記所与の高度HDを用いる場合は理論測定距離DMTと、又は選択した高度HSを用いる場合は基準距離DMRと、比較し、比較距離DC(tm)がそれぞれ、理論測定距離DMT又は基準距離DMRよりも大きいときに、携行型物品のメモリーに、この携行型物品によるカルマン線の通過の検出デバイスによる検出を記録するステップである。
【0035】
この検出方法の1つの好ましい代替的実施形態において、携行型時計、したがって通常はロケット、の固有加速度ベクトルを測定するために用いられる加速度センサーは、この携行型時計に組み込まれる微小電気機械システム(MEMS)である。
【0036】
ステップA)に関して、
図4は、ロケットの離陸から前記所与の高度H
Dによって定められるカルマン線を越えるまでの、特定のロケットについての公称運動加速度A
N(t)の曲線の例を示している。なお、加速度A
N(t)を与えることは、少なくとも離陸から前記所与の高度の通過までの、複数の順次的な時間、特に断続的な時間、における、この加速度A
N(t)の少なくとも複数の所定の値を与えることを伴うことができる。また、
図4のグラフに示しているように、理論運動加速度A
N(t)は、一時的に負になる可能性があり、すなわち、ロケットの速度は、一時的に低下する可能性がある。したがって、公称運動加速度は、その数学的符号とともに与えられ、ステップD)において与えられる式においては、この数学的符号とともに入力する必要がある。
【0037】
1つの代替的実施形態において、加速度AN(t)は、少なくとも離陸から少なくとも所与の高度HDの通過までの、少なくとも複数の順次的な時間、特に断続的な時間、における、時間にわたってのロケットによる理論移動距離LFT(t)を与えることによって用意される。そして、加速度AN(t)は、時間の関数としてのロケットによる理論移動距離LFT(t)から、この理論移動距離の二重導関数を介して、数学的及び/又は数値的に決まる。別の代替的実施形態において、加速度AN(t)は、少なくとも複数の順次的な時間、特に断続的な時間、における時間にわたってのロケットの理論高度HFT(t)と、出発から少なくとも所与の高度の通過までの、空間におけるロケットの理論軌道z=TFT(x)(簡明性のために、鉛直方向面X-Zにおけるもの。zは、高度に対応する変数であり、xは、ロケットの出発地点からの水平距離に対応する変数である)とを与えることによって用意される。そして、公称運動加速度AN(t)は、数学的及び/又は数値的に、ロケットの理論高度HFT(t)と、空間においてこのロケットがたどる理論軌道TFT(x)とから、判断され、これらの2つの関数のおかげで、上記の理論移動距離LFT(t)を得ることができる。
【0038】
この検出方法のステップ(B)に関して、
図5は、関心事のロケットの理論傾斜角θ
T(t)の曲線の例を時間の関数として示している。
図5は、さらに、特定のタイプのロケットの宇宙フライト中における、経時的に測定された傾斜角θ
M(t)の曲線を示している。これは、ロケットが傾き始める時間T
Bからの線形近似が、ここでは比較的正確であることを示している。時間T
Bまで、ロケットは、時間0と時間T
Bの間で理論傾斜角θ
T(t)が90°であるように鉛直方向をたどる。なお、理論傾斜角θ
T(t)を与えることは、ロケットの離陸から少なくとも所与の高度の通過までの、複数の順次的な時間、特に断続的な時間、における、この理論傾斜角θ
T(t)の少なくとも複数の所定の値を与えることを伴うことができる。
【0039】
図2は、ロケット22の軌道z=T
F(x)の例を示している(この図においては、スケールの違いのために、軌道が中断している)。図面に示している例は、考えることができる理論曲線を何ら制限するものではなく、これは、通常、ロケットの各タイプ(特にスペースシャトルにおいては、打ち上げ乗り物のタイプ)に固有である。時間tにおけるロケットの方向と水平面の間の時間tにおける傾斜角θ(t)は、空間的位置P
S(t)におけるロケットの軌道z=T
F(x)におけるタンジェントによって定められ、変数xは、時間の関数である。したがって、角度θ(t)のtan関数は、ロケットの空間的位置P
S(t)までの水平距離xに対する軌道T
F(x)の導関数に等しくなる。これによって、数学的な関係、tanθ(t)=dT
F(x)/dxが得られる。ここで、x=E
H(t)であり、E
H(t)は、時間の関数としての、出発地点からのロケットの水平距離である。同様に、T
FT(x)は、所与のタイプのロケットの理論軌道であり、θ
T(t)は、時間tにおけるこのロケットの理論傾斜角であり、理論傾斜角θ
T(t)は、数学的及び/又は数値的手段によって、前記数学的関係、tanθ
T(t)=dT
FT(x)/dxを介して、理論軌道z=T
FT(x)によって判断することができる。ここで、x=E
HT(t)であり、E
HT(t)は、時間の関数としての、出発地点からのロケットの理論水平距離である。なお、関数E
HT(t)は、数学的及び/又は数値的に、時間の関数としての、ロケットの、理論軌道T
FT(x)と公称運動加速度A
N(t)、又は理論高度H
FT(t)に基づいて判断することができる。したがって、1つの代替的実施形態において、理論傾斜角θ
T(t)は、空間におけるロケットの理論軌道T
FT(x)と、このロケットの理論水平距離E
HT(t)を与えることによって、この検出方法のステップ(B)において用意される。この理論水平距離E
HT(t)は、特に、数学的及び/又は数値的に、時間の関数としての、ロケットの、公称運動加速度A
N(t)及び理論軌道z=T
FT(x)に基づいて、又は代わりに、この理論軌道及び理論高度H
FT(t)に基づいて、判断することができる。
【0040】
理論フライト時間TKに関連するステップ(C)に関して、単純化した代替的実施形態において、関心事のタイプのロケットによる少なくとも1回の以前の宇宙フライトに基づいて、この理論フライト時間を推定することが可能となる。以前のフライトを必要としない1つの有利な代替的実施形態において、理論フライト時間TKは、数学的及び数値的手段によって、ロケットの公称運動加速度AN(t)と理論傾斜角θT(t)に基づいて決まる。このために、ロケットの理論移動距離LT(t)を時間の関数として定めることによって、以下のアプローチを採用することができる。フライト中のロケットの理論高度HFT(t)と、このロケットの理論移動距離LT(t)との間に数学的関係を確立することができる。すなわち、理論高度における無限小/単元的な変動、dHFT(t)=dLT(t)sinθT(t)であり、ここで、dHFT(t)は、理論移動距離の無限小/単元的な変動である。一方、変動dLT(t)=VN(t)dtであり、ここで、VN(t)は、時間tにおけるロケットの公称速度であり、dtは、時間における無限小/単元的な変動である。速度が時間についての加速度の積分に等しい場合、公称速度VN(t)は、運動AN(t)の公称加速度に基づいて数学的及び/又は数値的に判断することができる。したがって、上記の数学的関係に基づいて、理論高度HFT(t)の無限小/基本変動dHFT(t)を、所与の(公称/理論上の)変数の関数として定義できる。これによって、以下のようになる。
dHFT(t)=VN(t)sinθT(t)dt
ここで、
【0041】
【0042】
理論高度HFT(t)は、数学的及び/又は数値的手段によって計算されるdHFT(t)の時間にわたっての積分に等しい。理論フライト時間TKを判断するために、式、HFT(T)=HDが解かれ、ここで、HDは、所与の高度であり、Tは、変数である。
【0043】
図6は、
図4に示している公称運動加速度A
N(t)の曲線と、
図5に示している理論傾斜角θ
T(t)の曲線とに基づく、時間の関数としての理論高度H
FT(t)の曲線の例を示している。
【0044】
この検出方法のステップD)及びE)は、以下の特徴を有する。これらのステップD)及びE)は、所定の基準値に対応する理論測定距離DMTを正確に判断することを可能にするように設計されており、この理論測定距離DMTと、本発明の主要な実施形態において、その後に携行型時計の電子ユニットにおいて正確に計算される比較距離とを、携行型時計が搭乗しているロケットによる宇宙フライト中に、携行型時計に配置された加速度センサーによって与えられる固有加速度の測定結果に基づいて、比較することができる。携行型時計のこの主要な実施形態において、自律検出デバイスは、その測定手段として、携行型時計が経験する固有加速度のベクトルを測定することができるように構成している加速度センサーのみを用いることが考えられる。この方法は、事前に、すなわち、関心事の宇宙フライトの前の予備的ステップにおいて、架空の理論距離である理論測定距離DMTを判断することを伴う。架空の理論距離であるのは、ロケットが地上とカルマン線の間を理論的に移動した距離ではなく、携行型時計の固有加速度が測定されているということに起因する理論距離に対応するからである。また、測定手段が限られることを考慮すると、固有加速度のノルムにのみ依存する基準値が与えられ、その携行型時計2の座標フレームにおけるベクトルは、加速度センサーによって与えられ、これは、有利なことに、固有加速度のノルムから、そして、そしてロケットの軌道から、それを引くことによって、重力加速度のノルムによって、補正される。したがって、カルマン線の通過は、携行型時計の固有加速度、したがって通常は、その携行型時計が搭乗しているロケット、の固有加速度のノルムに基づいて定められ、このノルムは、上記のように、加速度センサーの座標フレームの空間的な向きとは独立である。
【0045】
この検出方法は、所与の運動加速度に対する固有加速度ベクトルのノルムがロケットの傾きに応じて変わることを考慮に入れている。実際に、このノルムは、重力加速度のノルムを引かれて、ロケットが鉛直方向に向いていない場合に、携行型時計/ロケットの運動を加速させない。
図2及び3は、ロケットについての、運動加速度a
*、測定された固有加速度a
M
*、及び重力加速度a
E
*の間のベクトル関係を示している。運動加速度ベクトルa(t)
*、及び測定された固有加速度ベクトルa
M(t)
*は、宇宙フライトの時間tにおけるロケットの空間的位置P
S(t)に対応し、重力加速度ベクトルa
E
*は、常に鉛直方向を向いており、ロケットの空間的位置とは独立である。なお、ロケットが徐々に傾くに従って経験する小さな求心加速度は、このような求心加速度を含むロケットの固有加速度と、ロケットの運動加速度との間の関係においては、考慮されていない。なぜなら、この求心加速度は、地上とカルマン線の間にあるロケットにおいては小さく取るに足らないものであるためである。この検出方法においては、宇宙フライトの前の予備的ステップ、具体的にはステップD、において、ステップA)及びB)においてそれぞれ与えられた、公称運動加速度A
N(t)の関数としての時間tにわたってのロケットの理論固有加速度A
PT(t)と、ロケットの理論傾斜角θ
T(t)とを計算する。そして、ステップE)において、ロケットの離陸に対応する時間0(t=0)と、ステップC)において計算された理論フライト時間に対応する時間T
Kの間の、理論固有加速度A
PT(t)、又は、有利なことに、この理論固有加速度から重力加速度A
Eのノルムを引いたもの、についての二重積分によって、理論測定距離D
MTが計算される。
【0046】
なお、加速度ベクトルについて言及していることを示す情報がないときに、ここにおける説明においては、言及された加速度の値(運動の向きの関数として与えられる数学的符号付きのベクトルの長さであり、ここにおける説明においては運動加速度にのみ関連する)、又は加速度ベクトルのノルム(すなわち、ロケットの固有加速度と重力加速度の場合のように、ベクトルの長さの絶対値)について言及している。より具体的には、加速度について言及される場合、加速度とは、その加速度の値を意味し、加速度のノルムについて言及される場合、加速度のノルムとは、対応する加速度ベクトルのノルム、すなわち、加速度の絶対値、を意味する。
【0047】
理論測定距離DMTをカルマン線LKの所与の高度HDで割った値は、本発明に係る検出方法に関連して、所与のタイプのロケットについての、補正係数FCを定める。
【0048】
ステップF)においては、宇宙フライトの前に、すなわち、ロケットの離陸の前に、理論測定距離DMT及び/又は補正係数FCを携行型時計のメモリーに格納する。補正係数FCは、ユーザーが携行型時計においてカルマン線の高度HSを選択することができることが期待される場合に、基準距離DMRを得るために有用である。この場合、補正係数FCに、カルマン線に対して選択された高度HSを掛けて、基準距離DMRを計算する。なお、この基準距離DMRは、ここにおいて所与の高度HDに対して正確に決まる理論測定距離DMTに基づいて行われる線形近似を考慮すると、実際には近似的な理論距離である。
【0049】
この検出方法のステップH)~J)は、本発明に係る携行型物品、特に、主要な実施形態に係る携行型時計、を利用して、所与のタイプのロケットの宇宙フライト中におけるカルマン線の通過を検出するステップに関する。したがって、携行型時計2の検出デバイス6は、加速度センサーによって定められる三次元座標フレームの3つの直交軸に沿った、携行型時計の固有加速度ベクトルの成分を、測定頻度FMで、断続的に測定し、そして、電子ユニットは、各測定に対して、ステップE)における理論測定距離DMTの計算において理論固有加速度APT(t)が重力加速度のノルムによって減少したかどうかに応じて、各測定時間tnで測定されたこの固有加速度ベクトルのノルムAM(tn)、又はノルムAM(tn)から重力加速度AEのノルムを引いた値に等しい補正ノルム、を計算する。携行型時計の加速度ベクトルの測定を断続的に行うことができるようにするために、携行型時計は、計画された測定頻度に対応する期間の順次的な決定を可能にし、したがって、検出デバイスが加速度センサーを制御して、計画された断続的測定を行うことを可能にするように構成しているタイムベースを備える。
【0050】
その後で、前の予備的ステップにおいて行われた理論計算に従って、電子ユニット12は、ロケットの離陸からの、ロケットに搭乗している携行型時計の固有加速度AP(t)のノルム、又は有利なことにこのノルムから重力加速度を引いた値、についての時間にわたっての二重積分を数値的に計算する。固有加速度AP(t)のノルムは、一般的には、断続的に測定された固有加速度ベクトルの上記のノルムAM(tn)に基づいて判断されて、時間tmに対する比較距離DC(tm)を得る。ここで、mは、正の整数であり、各mは、前記数nの1つに対応する。1つの好ましい代替的実施形態において、時間tnで行われる各測定に対して、比較距離DC(tn)が計算される。最後に、各比較距離DC(tm)は、好ましくはほぼリアルタイムで、所与の高度HDを用いる場合は理論測定距離DMTと、又は選択された高度HSを用いる場合は基準距離DMRと、比較される。比較距離DC(tm)は、理論測定距離DMTや基準距離DMRのような架空の距離である。時間tmにおける比較距離DC(tm)がそれぞれ理論測定距離DMTよりも大きい又は基準距離DMRよりも大きい場合、検出デバイスの電子ユニットは、携行型時計のメモリーに、携行型時計、したがって、ロケット、がカルマン線LKを通過したことを記録する。ロケットの離陸は、断続的であって離陸の前に開始されて測定された固有加速度のノルムAM(tn)に基づいて、容易に検出することができる。実際に、このノルムが重力加速度のノルムと実質的に等しいかぎり、電子ユニットは、ロケットがまだ離陸していないと結論付け、例えば、測定された固有加速度のノルムが特定の所与の制限値を超えたときを、ロケットの離陸時間であると判断することができる。なお、携行型時計の固有加速度AP(t)のノルムから重力加速度AEのノルムを引いた値を用いる主要な有利な代替的実施形態において、有利なことに、ロケットの離陸の前に重力によって補正されたこの固有加速度の積分の計算を開始することが、この値には理論的に価値がなく実際には実質的にゼロであることを考慮すると、可能である。したがって、積分の値は、ロケットの離陸の前に実質的にゼロであることを維持する。なお、加速度センサーによって行われた固有加速度の測定結果は、有利なことに、寄生ノイズをいずれも除去するようにフィルタリングされる。
【0051】
特定の実装において、この検出方法において、電子ユニットにおいて時間にわたっての二重積分を計算するステップI)は、以下を行うことを伴う。すなわち、固有加速度の各測定後に、2つの順次的な測定の時間tn-1とtnの間の各期間Pにわたっての固有加速度のノルムの定数値AC(tn)を定めることによって、増分によって二重積分を行うことを伴い、この定数値は、ノルムAM(tn)及び/又はノルムAM(tn-1)によって決まる。また、各期間Pに対して、前記定数値、又は前記定数値から重力加速度のノルムを引いた値、に対応する速度の増加を計算して、時間tnにおける推定速度VE(tn)を判断し、定数値AC(tn)又はこの定数値から重力加速度を引いた値と時間tn-1における推定速度VE(tn-1)、に基づいて基本距離dnを判断し、そして、固有加速度の前回の測定の最後に得られた、基本距離d1~dn-1の合計に基本距離dnを加えて、時間tnにおける比較距離DC(tn)を得ることを伴う。なお、電子ユニットにおいて行われる計算は、有利なことに、比較的低い計算能力しか必要としない。
【0052】
ユーザーがカルマン限界LKに対応する高度HSを選択することができるような代替的実施形態において、この選択は、間接的であり、すなわち、携行型時計が備える制御メンバーを介して、このロケットによるカルマン線の通過に対応するロケットの傾斜角をユーザーが選択することができるようにされる。傾斜角の選択は、関心事の宇宙フライトのデータに基づいて任意の値を入力すること、又は携行型時計が順次的に表示することができるリストにおける複数の提案値から特定の値を選択することを伴う。この選択は、選択された高度HSが直接与えられる場合と同様に、所与のタイプのロケットでの関心事の宇宙フライトの前に行われる。選択された高度HSは、選択された傾斜角の関数として判断され、電子ユニット12は、与えられた傾斜角を対応する選択された高度HSに変換できるように構成している。
【0053】
改善された実装によると、本発明に係る検出方法においては、携行型時計のユーザーが選択することができる複数の別個の所与の高度HD j(j=1からJ)の所与の高度ごとに、理論測定距離DMTを判断し、各理論測定距離DMT j及び/又は対応する各補正係数FC jが、携行型時計のメモリー4に格納されて、理論測定距離DMT jの1つ、又は補正係数FC jの1つを、直接又はカルマン限界の高度HSを選択することによって、選択することができる。なお、この改善された実装は、カルマン線LKに対して選択可能な高度HSの範囲が、拡張された範囲、例えば、80km~110kmの間、である場合に有利である。この場合、複数の所定の高度は、例えば、80km~90kmの選択可能な高度の範囲の第1の部分における値85km、90km~100kmの選択可能な高度の範囲の第2の部分における値95km、そして、100km~110kmの間の選択可能な高度の範囲の最終的な第3の部分における値105kmを含む。したがって、複数の理論測定距離DMT j及び/又は対応する補正係数FC jが、事前に決められ、携行型時計のメモリー4に入力される。したがって、各補正係数は、選択可能な高度の範囲の一部のみに対応する特定の基準距離を、前記範囲の関連する部分の実質的に中央に位置する所与の高度の理論的測定距離に基づく線形近似を介して、与えるように用いられる。
【0054】
以下、本発明に係る検出方法を実装することを可能にする本発明に係る携行型時計の主要な実施形態について説明する。
【0055】
本実施形態に係る携行型時計2においては、検出デバイス6は、加速度センサー8によって定められ携行型時計にリンクされている三次元座標フレーム10の3つの直交軸に沿った携行型時計の固有加速度ベクトルの成分を、測定頻度FMで、断続的に測定することができるように構成しており、すなわち、携行型時計の座標フレームにおいて検出デバイスを利用して固有加速度ベクトルを測定し、この固有加速度ベクトルは、重力を除くこの携行型時計が受ける力のベクトル和を質量で割ったものに等しい。なお、このような固有加速度ベクトルは、好ましい代替的実施形態において設けられる、微小電気機械システム(MEMS)によって形成される加速度センサーによって与えることができる。そして、検出デバイス6は、電子ユニット12において、各測定ごとに、加速度センサー8によって測定された固有加速度ベクトルのノルムAM(tn)又はノルムAM(tn)から重力加速度AEのノルムを引いたものに等しい補正ノルム、を計算することができるように構成しており、tnは、n・Pに等しく、ここで、nは、少なくともロケットの離陸以降に行われた測定の数であり、順次的な測定ごとに1ずつ増分し、Pは、測定頻度によって定められる期間である。
【0056】
また、電子ユニット12は、携行型時計、したがって、ロケット、の、固有加速度AP(t)、すなわち、固有加速度ベクトルのノルムAP(t)、又はこの固有加速度/ノルムから重力加速度のノルムを引いたもの、についての、少なくともロケットの離陸からの、時間にわたっての二重積分を数値的に計算することができるように構成している(携行型時計は、ユーザーからの加速度を、ロケットが携行型時計に対して発生させたものを除いて、ほとんど又はまったく受けないと仮定する)。固有加速度AP(t)は、断続的に測定された固有加速度ベクトルの前記ノルムAM(tn)に基づいて決まり、時間tmにおける比較距離DC(tm)を得る。ここで、mは、正の整数であり、各mは、上記の数nに対応する。そして、検出デバイス6は、各比較距離DC(tm)を、メモリーに格納される所定の基準値と、又は補正係数FCを介して選択された高度HSに対して得られた、計算された基準値と、比較し、したがって、比較距離DC(tm)が前記所定の基準値又は前記基準値よりも大きいかどうかを検出することができるように構成しており、これらの値及びこの補正係数は、携行型時計の一般的な実施形態に関連して上において定められているものである。
【0057】
1つの有利な代替的実施形態において、電子ユニット12において行われる、時間にわたっての二重積分の前記計算は、固有加速度の各測定の後に、時間tn-1とtnの間の各期間Pにわたっての、固有加速度ベクトルのノルムに対応する、ノルムAM(tn)及び/又はノルムAM(tn-1)によって判断される、定数値AC(tn)を定めることによって、増分によって二重積分を行って、各期間Pごとに、前記定数値、又は前記定数値から重力加速度のノルムを引いた値、に対応する速度の増加を計算し、これによって、定数値AC(tn)、又はこの定数値から重力加速度のノルムと時間tn-1における推定速度VE(tn-1)を引いたもの、に基づいて、時間tnにおける推定速度VE(tn)と、基本距離dnとを判断し、そして、固有加速度の前回の測定の最後に得られた、基本距離d1~dn-1の合計に、基本距離dnを加えて、時間tnにおける比較距離DC(tn)を得る。
【0058】
特定の代替的実施形態において、携行型時計は、携行型時計によるカルマン線の通過を検出デバイスが検出してすぐに、携行型時計によるカルマン線の通過を表すことができるように構成している、視覚的手段及び/又は振動的手段(バイブレーター)、及び/又は随意的に、音発生手段を備える。携行型時計における計算能力が、時間tnにおける携行型時計の固有加速度のベクトルの各測定の直後に比較距離DC(tn)を計算するために十分である場合、この携行型時計、したがって、ロケット、によるカルマン線の通過は、ほぼリアルタイムで検出される。
【0059】
1つの一般的な代替的実施形態において、携行型時計は、この携行型時計によるカルマン線の少なくとも最初の通過、そして、好ましくはこの携行型時計によるカルマン線の各通過、を記録することができるように構成している。また、この携行型時計は、携行型時計によるカルマン線の通過が行われたかどうかを、自動的かつ/又はコマンドに応じて、表し、そして、好ましくは、この事象が行われた回数を表すことができるように構成しているディスプレー手段30を備える。
【0060】
1つの好ましい代替的実施形態において、携行型時計は、この携行型時計によるカルマン線の通過の検出をメモリー4に恒久的に記録することができるように構成しており、この記録は、メモリーの保護された部分4aにおいて行われて、携行型時計のユーザーがこの保護された部分4aをプログラムすることができないようにされる。
【0061】
図7A~7Dは、宇宙フライト中にデジタルディスプレー30を介して携行型時計2によって与えられる様々なメッセージを示している。押しボタン16を長い時間押すことによって、ロケットに搭乗しているユーザーは、カルマン線の通過を検出するための携行型時計のモードを活性化させる。そして、携行型時計は「KARMAN DET READY(カルマン線の通過を検出する準備ができている)」(
図7A)を表示する。すなわち、検出デバイス6が、携行型時計2又はロケットによるカルマン線の通過を検出する準備ができていることを表示する。そして、検出デバイスは、携行型時計の固有加速度の測定結果に基づいて、ロケットが離陸しているときにそのことを判断することができる。この時点で、デジタルディスプレーは「KARMAN ON TK OFF(カルマン機能がオン、離陸)」(
図7B)を表す。すなわち、検出デバイスがアクティブであり、ロケットが離陸(take off)していることを表示する。そして、デジタルディスプレーは、所与の時点における離陸からの経過時間を表す。例えば、「FLIGHT TM 125(飛行時間は125秒)」を表示することによって、125秒を表す(
図7C)。最後に、携行型時計がカルマン線の通過を検出して宇宙への進入を検出するとすぐに、携行型時計は、「U ARE IN SPACE(あなたは宇宙にいる)」(
図7D)(「U」は「YOU」の略語)というメッセージを表示する。すなわち、宇宙飛行者がロケットとともに宇宙に到達したことを表示する。
【0062】
図8A及び8Bは、特に、宇宙飛行者によるカルマン線の通過を検出するための機器として携行型時計が関与した少なくとも1つの宇宙ミッション中ではないときにおいて、携行型時計が表示することができるメッセージの例を示している。2つの押しボタン16及び17を同時に押すことによって、携行型時計は「WORN IN SPACE(宇宙で着用された)」というメッセージを表示する(
図8A)。すなわち、携行型時計が宇宙で着用されたことがあり、カルマン線を通過したことを、そのメモリーに、好ましくは、1回だけ書き込むことができる不揮発性メモリー(「OTP」メモリー)によって形成された保護された部分4aに、格納されたデータに基づいて、表示する。好ましくは、その後に押しボタン17を押すことによって、携行型時計は、その携行型時計が宇宙に進入した回数を、「KARMAN DET NB」というメッセージ及び前記回数(すなわち、
図8Bに示している例においては「2」)によって表す。
【0063】
様々な選択可能なパラメータ及び/又は変数、特に、この事象時のカルマン限界の高度、又はロケットの意図された傾斜角、の入力を可能にするように携行型時計を構成することができることはすでに説明した。このデータは、特に、携行型時計の風防に形成されたタッチスクリーンを介して、かつ/又はデジタルディスプレー30の一部をスクロールする数を増やすことによって、そして、スクロールを予測値において停止したりスクロールを行うようにしたりすることを可能にする押しボタンを介して、入力することができる。代わりに、この目的のためにアナログディスプレー34の針を用いることができる。
【0064】
なお、所定の基準値を定める理論測定距離DMT、及び計算された基準値を判断することを可能にする対応する補正係数FCは、上記のように所与のタイプのロケット(「打ち上げ乗り物のタイプ」とも呼ばれる)に関連する。1つの改善された実施形態において、いくつかのロケットのタイプに対して、理論測定距離DMT及び/又は対応する補正係数を携行型時計のメモリー4に入力することができる。この場合、携行型時計は、宇宙フライトの前に、カルマン線の通過を計画的に検出するために、関心事のロケットのタイプを選択する手段を備える。この選択手段は、特に、携行型時計の検出用途のために想定される様々なタイプのロケットを含むリストを用いることができ、このリストは、携行型時計の制御メンバーを利用して、想定された様々なタイプのロケットをスクロールし、別の制御メンバーを用いて選択することによって、見ることができる。
【0065】
なお、最後に、各理論測定距離DMT及び対応する各補正係数FCは、所与の高度HDに対して相対的なものである。この所与の高度は、海面から測定される高度、すなわち、ロケット打ち上げ場所とは独立した高度、又は特定の打ち上げ場所から測定される高度であることができる。
【0066】
1つの洗練された代替的実施形態において、携行型時計の制御メンバーとディスプレー手段を介して宇宙フライトの前にユーザーによって、打ち上げ場所を選択することもできる。したがって、各打ち上げ場所は、1つ又は複数の理論測定距離と、1つ又は複数の対応する補正係数に対応する。この場合、ユーザーによって選択される高度HSは、海面からの高度になる。正確でありつつより単純であるために、事前に一又は複数の基準値を判断するために用いられる前記所与の高度HDを用いる場合と、ユーザーによって選択された高度HSを用いる場合の両方において、任意の打ち上げ場所から測定された高度、すなわち、ロケットの出発地点において地上から測定される高さを、用いることが有利であることがわかる。
【符号の説明】
【0067】
2 携行型物品
4 メモリー
4a 保護された部分
6 検出デバイス
8 加速度センサー
10 三次元座標フレーム
12 電子ユニット
16、17 押しボタン
18 ステムリュウズ
22 ロケット
30 ディスプレー手段
34 アナログディスプレー
【外国語明細書】