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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161025
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】安定化された濾過装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 67/00 20060101AFI20241108BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/12 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/10 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/16 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/66 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/50 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/48 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20241108BHJP
   B01D 71/04 20060101ALI20241108BHJP
   B01J 13/22 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B01D67/00
B01D71/70
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/68
B01D71/52
B01D71/12
B01D71/10
B01D71/16
B01D71/66
B01D71/56
B01D71/38
B01D71/26
B01D71/50
B01D71/48
B01D71/64
B01D71/42
B01D71/02
B01D71/04
B01J13/22
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024135593
(22)【出願日】2024-08-15
(62)【分割の表示】P 2021550132の分割
【原出願日】2020-02-26
(31)【優先権主張番号】1950252-5
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(71)【出願人】
【識別番号】521378587
【氏名又は名称】レテイン エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イサクソン、シモン
(72)【発明者】
【氏名】アンデルソン、マルティン
(57)【要約】
【課題】水を通過させる膜内在性タンパク質を含む高分子膜構造体を提供する。
【解決手段】高分子膜構造体(2)は、水を通過させる膜内在性タンパク質(IMP)(1)を有する膜(3)を含み、第1の表面上でシリカ層(4)で被覆されている。シリカ層(4)は、水を通過させるIMP(1)の水の通過機能を維持しながら、高分子膜構造体(2)および水を通過させるIMP(1)を安定化させる。この安定化の結果として、高分子膜構造体(2)は、浄水を含む様々な濾過操作のために濾過装置(5)で使用することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む膜(3)であって、前記膜(3)の第1の表面がシリカ層(4)で被覆された膜(3)を含む、高分子膜構造体(2)。
【請求項2】
前記膜(3)が、両親媒性分子を含む二重層膜(3)である、請求項1に記載の高分子膜構造体。
【請求項3】
前記膜(3)が、脂質二重層膜(3)であり、前記脂質二重層(3)の両親媒性脂質が、好ましくは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、コレステロール、スフィンゴミエリン、アソレクチン、ジフィタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジヘプタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DHPC)、1,2-ジヘキサノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DHPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](DMPG)、1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(14:0 リゾPC)または1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(16:0 リゾPC)などのリゾPC、1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(16:0 リゾPE)または1-オレオイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:1 リゾPE)などのリゾPE、1,2-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DDPC)、1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DEPA)、1,2-エルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DEPC)、1,2-ジエルコイ-sn-アリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DEPE)、1,2-リノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLOPC)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DLPA)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセルコ-3-ホスホエタノールアミン(DLPE)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DLPS)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DMPA)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DMPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DOPA)、1,2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DPPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセルコ-3-ホスホセリン(DPPS)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DSPA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオステアルピル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、1-ミリストイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(MSPC)、1-パルミトイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PMPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PSPC)、1-ステアロイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SMPC)、1-ステアロイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SOPC)、1-ステアロイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SPPC)、細胞膜からの脂質、細胞小器官からの脂質、架橋性脂質、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくはPOPCである、請求項2に記載の高分子膜構造体。
【請求項4】
前記両親媒性分子が、両親媒性AB、ABAおよびABCコポリマーならびにそれらの混合物、例えばポリ(メチルオキサゾリン)-ポリ(ジメチルシロキサン)-ポリ(メチルオキサゾリン)(PMOXA-PDMS-PMOXA)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)-b-ポリ(ジメチルシロキサン)-b-ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(PEtOz-PDMS-PEtOz)およびそれらの混合物から選択される、請求項2に記載の高分子膜構造体。
【請求項5】
前記膜(3)が、プロテオリポソームまたはプロテオポリマーソームであり、前記プロテオリポソームまたはプロテオポリマーソームの外面が前記シリカ層(4)で被覆されている、請求項1~4のいずれかに記載の高分子膜構造体。
【請求項6】
水を通過させる膜内在性タンパク質(1)が、アクアポリンであり、好ましくは、hAQP0、hAQP1、hAQP2、hAQP3、hAQP4、hAQP5、hAQP6、hAQP7、hAQP8、hAQP9、hAQP10、hAQP11、hAQP12、好ましくはhAQP0、hAQP1、hAQP2、hAQP4、hAQP5、hAQP6、またはhAQP8、より好ましくはhAPQ4などのヒトアクアポリン(hAQP);bAQP1などのウシアクアポリン;cpAQP1aaなどの魚アクアポリン;Aqy1などの酵母アクアポリン;SoPIP2;1、AtTIP2;1またはAtPIP2;4などの植物アクアポリン;AqpZなどの細菌アクアポリン;およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載の高分子膜構造体。
【請求項7】
前記シリカ層(4)が、0.1nm~1000nm、好ましくは1nm~100nm、より好ましくは1nm~10nmの範囲内で選択される平均厚みを有する、請求項1~6のいずれかに記載の高分子膜構造体。
【請求項8】
前記水を通過させる膜内在性タンパク質(1)が、前記シリカ層(4)の存在下で前記膜(3)に水を通すことができる、請求項1~7のいずれかに記載の高分子膜構造体。
【請求項9】
前記シリカ層(4)が、好ましくはフルオロアルキルシラン(FAS)などのシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)などのアルコキシシラン、またはそれらの組合せを含む官能性シリカ層(4)である、請求項1~8のいずれかに記載の高分子膜構造体。
【請求項10】
濾過装置(5)であって、
複数の細孔(7)を含む多孔性支持体(6)と、
請求項1~9のいずれかに記載の高分子膜構造体(2)と
を含む、濾過装置(5)。
【請求項11】
前記高分子膜構造体(2)が、前記多孔性支持体(6)の表面に設けられている、および/または前記多孔性支持体(6)の前記細孔(7)内に設けられている、請求項10に記載の濾過装置。
【請求項12】
前記多孔性支持体(6)が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリジフェニルフェニレンエーテル、セルロース、ポリビニレンセルロースアセタート、セルロースジアセタート、セルローストリアセタート、セルロースニトラート、ポリフェニレンスルフィド、ニトロセルロース、アセチル化メチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、有機シロキサンカーボネート、ポリエステルカーボネート、有機ポリシロキサン、ポリエチレンオキシド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ナイロンおよびこれらの混合物などのポリマー;アルミニウム、チタン、ジルコニウム、鉄、またはそれらの酸化物などの金属、または前記金属の酸化物;二酸化ケイ素;ガラス繊維;ならびにそれらの混合物からなる群から選択される材料で形成されている、請求項10または11に記載の濾過装置。
【請求項13】
前記濾過装置(5)が、請求項9に記載の高分子膜構造体(2)を含み、および
官能性シリカ層(4)の官能基は、前記高分子膜構造体(2)を前記多孔性支持体(6)に連結する、
請求項10~12のいずれかに記載の濾過装置。
【請求項14】
水濾液を調製する方法であって、請求項1~9のいずれかに記載の高分子膜構造体(2)または請求項10~13のいずれかに記載の濾過装置(5)を通して水溶液を濾過して前記水濾液を得ることを含む、方法。
【請求項15】
水溶液に溶解または分散した化合物を濃縮する方法であって、請求項1~9のいずれかに記載の高分子膜構造体(2)または請求項10~13のいずれかに記載の濾過装置(5)によって前記水溶液を濾過して、前記化合物を含まない水濾液および前記水溶液よりも高濃度で前記化合物を含む保持液を得ることを含む、方法。
【請求項16】
高分子膜構造体(2)を調製するための方法であって、水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む膜(3)をシリカ前駆体と接触させて、前記膜(3)の第1の表面上に被覆されたシリカ層(4)を形成することを含む、方法。
【請求項17】
濾過装置(5)の調製方法であって、
水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む膜(3)を多孔性支持体(6)上および/または多孔性支持体(6)内に沈着させることと、
前記多孔性支持体(6)上および/または前記多孔性支持体(6)内に沈着した水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む前記膜(3)をシリカ前駆体と接触させて、前記膜(3)の第1の表面上に被覆されたシリカ層(5)を形成することと
を含む、方法。
【請求項18】
前記シリカ前駆体が、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、テトラプロピルオルトシリケート、テトラブチルオルトシリケート、メチルトリエトキシシロキサン(MTES)、ジメチルジエトキシシロキサン(DMDES)、テトラキス(グリセロール)オルトシリケート(TGS)またはテトラキス-(2-ヒドロキシエチル)-オルトシリケート(THEOS)などのシリコンアルコキシド;アリルトリメトキシシラン、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、クロロペンタメチルジシラン、1,2-ジクロロテトラメチルジシラン、ジエトキシジフェニルシラン、[3-(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシ(メチル)オクチルシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、イソブチル(トリメトキシ)シラン、メチルトリクロロシラン、ペンタメチルジシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、テトラエチルシラン、1,1,2,2-テトラメチルジシラン、テトラメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシオクチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリメトキシメチルシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、四塩化ケイ素(テトラクロロシラン)、四臭化ケイ素(テトラブロミドシラン)またはγ-アミノプロピルシラントリオール(APSTOL)などのシラン:ケイ酸ナトリウムなどのシリケート:トリス(tert-ペントキシ)シラノールまたはトリス(tert-ブトキシ)シラノールなどのシラノール;シラザン、N-sec-ブチル(トリメチルシリル)アミン、およびそれらの組合せからなる群から選択され、好ましくはTEOSである、請求項16または17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、高分子膜構造体、および当該高分子膜構造体を含む濾過装置、ならびに例えば水濾過におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
浄水を利用できることは、国際連合によって人権として定義されている。しかしながら、何億人もの人々は、きれいな飲料水を利用することができず、飲料水の毒性レベルの汚染物質にさらされる喫緊の危険にある。
【0003】
水処理には、飲料水浄化および廃水処理が含まれ、両方法は通常、所望のレベルの純度に達するためにいくつかの処理段階を含む。濾過は、これらの方法で一般的に使用され、例えば、飲料水中の望ましくない化合物を防止し、廃水排出によって海洋生態系に及ぼされる汚染の程度を制限するために使用される。
【0004】
水処理に使用されるフィルタは、サイズ排除フィルタと溶液拡散フィルタの2つの主なカテゴリーに分けることができる。サイズ排除フィルタは、特定の孔径を有し、したがって、細孔よりも大きい物質が、当技術分野では透過液とも呼ばれる濾液に入るのを防ぐ。これらのフィルタの限界は、例えば、ナトリウムイオンおよび塩化物イオンがフィルタを通過するのを止めるほど十分に小さい直径に孔径を調整できないことであり、これは、海水からの飲料水製造、すなわち脱塩に必要である。海水からの飲料水製造は、利用可能な十分に純粋な淡水の量が減少しているため、ますます普及しつつある。溶液拡散フィルタは脱塩において極めて重要であり、脱塩は一般に逆浸透(RO)によって行われる。ROフィルタの選択層は、通常、界面重合法で形成された薄膜複合(TFC)ポリマー膜からなる。TFC膜を介した水の濾過は、溶液拡散機構に基づいており、水は最初に化学ポテンシャルの高い側でポリマーマトリックスに分子的に溶解し、それによって水はポリマーを通って化学ポテンシャル勾配へと拡散し、最終的に化学ポテンシャルの低い側で脱着する。関与する浸透圧を克服するために、ポンプを使用して濾過方法を推進する。律速段階は、ポリマーマトリックスを通る拡散であり、選択性の低下を犠牲にして改善することができる。したがって、溶液拡散フィルタは、最適ではない水拡散速度を抱えるため、水を浄化するために大量のエネルギーを必要とする。
【0005】
タンパク質工学およびナノテクノロジーの進歩は、高度に選択的な水処理を実行するために生体模倣を利用する可能性を切り開いた。この手法の背後にある主な推進力は、合成TFC膜の使用では不可能な高い選択性と高い流束とを組み合わせる潜在力である。生体模倣に基づくフィルタの開発は、天然環境外で、アクアポリンなどの生体成分の安定性が限られているため、問題があることが判明している。したがって、現実世界での使用に十分な安定した生体模倣フィルタを製造するために、様々なアプローチが検討されている。アクアポリンを安定化するために検討された1つのアプローチは、アクアポリンを含有する支持脂質二重層(SLB)またはプロテオリポソームを多孔性支持体上に沈着させることである。科学的成果から判断されるこれまでの最も一般的なアプローチは、両親媒性ブロックコポリマー(BCP)二重層へのアクアポリンの挿入に基づいている。アクアポリンはまた、他の有機分子、例えば、ボラ両親媒性物質を使用して、および両親媒性ペプチドを最初のアクアポリン安定化、その後のポリマー安定化のために使用した2段階方法で安定化されている。
【0006】
米国特許第9,943,812号は、膜タンパク質を含む高分子膜構造体が、互いに、およびリンカーを介して支持細孔壁に固定された、多孔性支持体を含む、安定性および耐久性を高めるための濾過構造体に関する。
【0007】
国際公開第2010/040353号は、流体間で化合物を選択的に輸送および/または濾過するための膜または薄い布を製造する方法に関する。この文献は、糸に結合して小胞-糸複合体を形成するポリマー小胞に組み込まれた天然または遺伝子操作されたタンパク質を開示している。
【0008】
国際公開第2015/144724号は、多孔性支持体と、その表面に共有結合した、膜貫通タンパク質が組み込まれた複数の小胞を含む層とを含む濾過膜を開示している。小胞は両親媒性ブロックコポリマーから形成され、小胞は互いに共有結合して粘性塊を形成する。
【0009】
国際公開第2010/091078号は、重合プロテオリポソームを含むナノ加工膜を開示している。ナノ加工膜は、化学反応性生体適合性間質マトリックスを有するタンパク質組み込みUV架橋性リポソームを使用したバイオナノ融合選択膜である。
【0010】
Ji et al.,Recent developments in nanofiltration membranes based on nanomaterials,Chinese Journal of Chemical Engineering 2017,25:1639-1652は、金属および金属酸化物ナノ粒子、炭素系ナノ材料、金属有機構造体(MOFS)、水チャネルタンパク質、および有機マイクロナノ粒子を含むナノ濾過膜に関する研究の総説である。
【0011】
上記のアプローチにもかかわらず、ナノスケールの生体模倣水濾過の商業的可能性はまだほとんど検討されていない。商業的実施が限られている主な理由は、特に選択層における巨視的欠陥の形成およびアクアポリンを組み込んだ膜設計での実用に必要な安定性の欠如に関連する製造上の困難である。様々な創造的アプローチを通じて生体模倣水フィルタの開発に投資した努力にもかかわらず、この研究分野は、したがって、その予測される可能性と同等な実世界の性能をまだ提供できていない。
【発明の概要】
【0012】
機械的特性が改善された高分子膜構造体を提供することが一般的な目的である。
【0013】
濾過装置に使用されるのに十分な安定性を有する当該高分子膜構造体を提供することが特定の目的である。
【0014】
これらおよび他の目的は、本明細書に開示される実施形態によって満たされる。
【0015】
本発明は、独立請求項に定義される。本発明のさらなる実施形態は、従属請求項に定義される。
【0016】
実施形態の一態様は、水を通過させる膜内在性タンパク質を含む膜であって、膜の第1の表面がシリカ層で被覆された膜を含む、高分子膜構造体に関する。
【0017】
実施形態の別の態様は、複数の細孔を含む多孔性支持体および上記の高分子膜構造体を含む濾過装置に関する。
【0018】
実施形態のさらなる態様は、水濾液を調製する方法に関する。この方法は、上記の高分子膜構造体または上記の濾過装置を通して水溶液を濾過して水濾液を得ることを含む。
【0019】
実施形態のさらに別の態様は、水溶液に溶解または分散した化合物を濃縮する方法に関する。この方法は、化合物を含まない水濾液および水溶液よりも高濃度で化合物を含む保持液を得るために、上記の高分子膜構造体または上記の濾過装置を通して水溶液を濾過することを含む。
【0020】
実施形態の一態様は、高分子膜構造体の調製方法に関する。この方法は、水を通過させる膜内在性タンパク質を含む膜をシリカ前駆体と接触させて、膜の第1の表面上に被覆されたシリカ層を形成することを含む。
【0021】
実施形態の別の態様は、濾過装置の調製方法に関する。この方法は、水を通過させる膜内在性タンパク質を含む膜を多孔性支持体上および/または多孔性支持体中に沈着させる(デポジットする)ことを含む。この方法は、多孔性支持体上および/または多孔質支持体中に沈着した、水を通過させる膜内在性タンパク質を含む膜をシリカ前駆体と接触させて、膜の第1の表面上に被覆されたシリカ層を形成することも含む。
【0022】
本発明は、濾過装置におけるおよび様々な濾過用途のためのこれらの構造体の使用を可能にするために、水を通過させる膜内在性タンパク質を組み込んだプロテオリポソームなどの高分子膜構造体の安定化を提供する。水を通過させる膜内在性タンパク質を有する膜をシリカ層で被覆することにより、水を通過させる内在性タンパク質の水を通過させる機能を依然維持しながら安定化が達成される。
【0023】
実施形態は、そのさらなる目的および利点と共に、添付の図面と共に以下の説明を参照することによって最もよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】プロテオリポソームのケイ化を示す概略図である。テトラエチルオルトシリケート(TEOS)の添加後、シリカシェルをヒトアクアポリン4(hAQP4)および1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)脂質からなるプロテオリポソーム上に沈着させる。
図2A】hAQP4含有プロテオリポソームのケイ化方法を示すSANSプロファイルである。
図2B】プロテオリポソームのケイ化中のhAQP4のCDスペクトルである。
図3A】幾何学的パラメータが割り当てられた、部分的に開いたケイ化hAQP4含有プロテオリポソームを示す図である。tは内葉脂質頭部の厚みを表し、Dは両葉からの疎水性脂質尾部の厚みを表し、tは外葉脂質頭部の厚みを表し、tSiO2はシリカシェルの厚みを表す。
図3B】リポソーム(四角)およびプロテオリポソーム(丸)のケイ化についての時間の関数としての沈着シリカ体積の比較である。表示する実線は、アヴラミ(Avrami)型方程式に適合する。
図3C】ケイ化方法の概略図である。hAQP4含有プロテオリポソームをシリカ前駆体TEOSと混合すると、プロテオリポソームの外側にシリカシェルが形成される。
図4A】低倍率でのケイ化hAQP4含有POPCプロテオリポソームのTEM顕微鏡写真である。暗線はケイ化アクアポリン含有脂質二重層を示し、アクアポリン含有脂質二重層によって囲まれたまたは関連するより明るい領域はシリカを示す。
図4B】高倍率でのケイ化hAQP4含有POPCプロテオリポソームのTEM顕微鏡写真である。暗線はケイ化アクアポリン含有脂質二重層を示し、アクアポリン含有脂質二重層によって囲まれたまたは関連するより明るい領域はシリカを示す。
図4C】シリカ沈着物が明るい特徴として示されているケイ化プロテオリポソームのSTEM顕微鏡写真を示す。
図4D】シリカ沈着物が明るい特徴として示されているケイ化プロテオリポソームのSTEM顕微鏡写真を示す。
図5】走査型透過電子顕微鏡エネルギー分散型X線分光法(STEM-EDX)画像化を、アクアポリンを含有する乾燥ケイ化小胞で行った。硫黄(アクアポリンにのみ存在)、ケイ素、炭素、リン(POPC脂質にのみ存在)および酸素の元素マップを得た。個々の元素の元素マップは、アクアポリンを含有するケイ化小胞におけるこれらの元素の位置を特定した。これらの元素のすべてが、二重層およびその関連するシリカ被覆に優先的に位置することが示された。同じ試料領域のSTEM高角度環状暗視野(HAADF)顕微鏡写真を左上位置に挿入する。
図6】エネルギーフィルタ透過型電子顕微鏡法(EFTEM)を、アクアポリンを含有する乾燥ケイ化小胞における特定元素の局在化のためのSTEM-EDXに対する相補的方法として使用した。EFTEMは、より軽い元素に対する感度の増加により、STEM-EDXによってマッピングされた元素に加えて、窒素と水素の両方をマッピングすることができた。EFTEMにより、関連する元素のすべてが優先的に二重層およびその関連するシリカ被覆に位置するという点でSTEM-EDXの結果が確認された。同じ試料領域のプラズモンフィルタリングしたEFTEM画像を左上の位置に挿入する。
図7】一実施形態による濾過装置の概略図である。
図8】別の実施形態による濾過装置の概略図である。
図9】さらなる実施形態による濾過装置の概略図である。
図10】さらに別の実施形態による濾過装置の概略図である。
図11】時間分解動的光散乱(DLS)を使用して、ケイ化方法中のリポソームおよびプロテオリポソームの凝集挙動を研究した。
【発明を実施するための形態】
【0025】
一般に、本明細書で使用されるすべての用語は、異なる意味が明確に与えられ、および/または使用される文脈から暗示されない限り、関連する技術分野における通常の意味に従って解釈されるべきである。元素、装置、成分、手段、段階などへのすべての言及は、別段に明記されない限り、元素、装置、成分、手段、段階などのうちの少なくとも1つの例を指すものとして公然と解釈されるべきである。本明細書に開示される任意の方法の段階は、段階が別の段階の後行または先行として明示的に記載されていない限り、および/または段階が別の段階に後行または先行しなければならないことが暗黙的である場合でない限り、開示された順序通りに実行する必要はない。本明細書に開示された実施形態のいずれの任意の特徴も、必要に応じて、任意の他の実施形態に適用され得る。同様に、任意の実施形態のいずれの利点も、任意の他の実施形態に適用することができ、その逆も可能である。添付の実施形態の他の目的、特徴および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【0026】
本発明は、一般に、高分子膜構造体、および当該高分子膜構造体を含む濾過装置、ならびに例えば水濾過におけるそれらの使用に関する。
【0027】
本発明は、膜貫通タンパク質(TP)などの膜内在性タンパク質(IMP)を組み込んだ高分子膜構造体の安定性を、膜の表面をシリカ層で被覆することによって高めることができるという知見に基づいている。シリカによるこのような表面被覆はさらに、IMPまたはTPの機能性、および好ましくはIMPおよびTPの天然の立体構造も維持しながら行うことができる。したがって、ケイ化は、生体模倣膜およびフィルタにおいて十分な安定性を達成する効率的な方法を構成し、例えば、濾過装置および水濾過における実際の用途で当該高分子膜構造体の現実の実施を可能にする。
【0028】
したがって、本発明は、水を通過させるIMPまたはTPを含み、膜の第1の表面上にシリカ層で被覆された膜を含む高分子膜構造体に関する。
【0029】
図1は、水を通過させるIMP1を含む脂質二重層膜3の小胞2(水を通過させるIMP1を用いる当技術分野ではタンパク質含有リポソームまたはプロテオリポソーム2とも呼ばれる)の形態での当該高分子膜構造体の一例を概略的に示す。プロテオリポソーム2は、この例では、その外面にシリカ層またはシェル4を有する。
【0030】
高分子膜構造体2の膜3は、二重層膜3、すなわち2つの層を含む二重層膜3であることが好ましい。二重層膜3の層は、好ましくは両親媒性分子、すなわち、親水性部分と、親油性、つまり疎水性部分とを有する分子から構成される。
【0031】
特定の実施形態では、高分子膜構造体2の膜3は、脂質二重層膜3である。したがって、両親媒性分子は両親媒性脂質である。このような両親媒性脂質の非限定的であるが例示的な例には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、コレステロール、スフィンゴミエリン、アソレクチン、ジフィタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジヘプタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DHPC)、1,2-ジヘキサノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DHPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](DMPG)、1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(14:0 リゾPC)または1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(16:0 リゾPC)などのリゾPC、1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(16:0 リゾPE)または1-オレオイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:1 リゾPE)などのリゾPE、1,2-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DDPC)、1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DEPA)、1,2-エルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DEPC)、1,2-ジエルコイ-sn-アリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DEPE)、1,2-リノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLOPC)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DLPA)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセルコ-3-ホスホエタノールアミン(DLPE)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DLPS)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DMPA)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DMPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DOPA)、1,2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DPPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセルコ-3-ホスホセリン(DPPS)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DSPA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオステアルピル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、1-ミリストイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(MSPC)、1-パルミトイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PMPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PSPC)、1-ステアロイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SMPC)、1-ステアロイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SOPC)、1-ステアロイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SPPC)、およびそれらの混合物が含まれる。現在、両親媒性脂質の好ましい例は、POPCである。
【0032】
両親媒性脂質は、さらにまたは代替として、細胞膜および/または細胞小器官からの脂質などの天然源からも選択されてもよい。そのような細胞小器官の例としては、核、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体、ゴルジ体、リソソームが挙げられる。
【0033】
実のところ、高分子膜構造体の膜は、実際には、水を通過させるIMPを含み、シリカ層で被覆された、酵母細胞または細菌細胞などの無傷の細胞膜であり得る。さらに、このような水を通過させるIMPを含む細胞小器官をシリカ層で被覆して、本発明による高分子膜構造体を形成することができる。これらの場合、細胞または細胞小器官の膜は、典型的には、水を通過させるIMP以外の他の膜タンパク質を含む。
【0034】
膜3は、代替的または追加的に、架橋性脂質、すなわち両親媒性脂質分子の疎水性部分および/または親水性部分に架橋性化学構造を有する両親媒性脂質を含んでもよい。そのような架橋性脂質の例は、国際公開第2010/091078号に開示されており、とりわけ、1-パルミトイル-2-(10Z,12Z-トリコスジイノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1-パルミトイル-2-(10Z,12Z-トリコスジイノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン、1,2-ジ-(10Z,12Z-トリコスジイノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホコリンおよび1-2-(10Z,12Z-トリコスジイノイル)-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミンが挙げられる。架橋性脂質は、好ましくはUV架橋性であり、すなわち架橋はUV曝露によって誘導される。
【0035】
膜は、単一の種類もしくは種の両親媒性脂質、または複数の、すなわち少なくとも2つの異なる種類もしくは種の両親媒性脂質の混合物を含み得る。
【0036】
代替的または追加的に、膜3の両親媒性分子は、両親媒性AB、ABAおよび/またはABCブロックコポリマーなどの両親媒性コポリマーであり得る。このような両親媒性コポリマーの例示的であるが非限定的な例としては、ポリ(メチルオキサゾリン)-ポリ(ジメチルシロキサン)-ポリ(メチルオキサゾリン)(PMOXA-PDMS-PMOXA)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)-b-ポリ(ジメチルシロキサン)-b-ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(PEtOz-PDMS-PEtOz)およびこれらの混合物が挙げられる。より一般的には、両親媒性コポリマーは、(ポリ)2-C1-3アルキル-2-オキサゾリンを含む少なくとも1つの親水性ブロックおよびPDMSを含む少なくとも1つの疎水性ブロック、例えば((ポリ)2-C1-3アルキル-2-オキサゾリン)-PDMS-((ポリ)2-C1-3アルキル-2-オキサゾリン)を含んでよく、式中、各aは、独立して、5~100の数であり、bは5~140の数である。両親媒性コポリマーを有する膜3の場合、高分子膜構造体2はプロテオポリマーソームである。
【0037】
高分子膜構造体2は、好ましくは、図1に示されるような小胞、プロテオリポソームまたはプロテオポリマーソーム2の形態である。そのような場合、膜3は、プロテオリポソームまたはプロテオポリマーソーム2であり、プロテオリポソームまたはプロテオポリマーソーム2の外面はシリカ層4で被覆される。
【0038】
別の実施形態では、高分子膜構造体2は、実質的に平坦または平面構造として膜3を有する実質的に平坦または2D膜構造である。次いで、シリカ層4は、平坦または平面的な膜3の表面の片方に適用される。
【0039】
一実施形態では、高分子膜構造体2の膜3に組み込まれた水チャネルIMP1はアクアポリン1である。
【0040】
水チャネルとも呼ばれるアクアポリンは、生体細胞の膜に細孔を形成し、主に細胞間の水の輸送を促進する主要な内因性タンパク質のより大きなファミリーに由来するIMPである。様々な異なる細菌、真菌、動物および植物細胞の細胞膜は、アクアポリンを含有し、水は、アクアポリンを通って、リン脂質二重層を通って拡散するよりも、より迅速に細胞内外に流れることができる。アクアポリンは、細胞質側にカルボン酸末端およびアミノ末端の両方を有する6つの膜貫通アルファらせんドメインを有する。2つの疎水性ループは、保存されたアスパラギン-プロリン-アラニンNPAモチーフを含有する。
【0041】
一実施形態では、アクアポリンは、ヒトアクアポリン(hAQP)、ウシアクアポリン(bAQP)、魚アクアポリン、酵母アクアポリン、植物アクアポリンおよび細菌アクアポリン、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0042】
13個のヒトアクアポリンが存在し、これらは3つのサブグループに分けられる。水のみを輸送する水選択性(オルソドックス)アクアポリン(hAQP0、hAQP1、hAQP2、hAPQ4、hAPQ5、hAQP6、hAQP8)、水に加えて、グリセロールなどの小さな非荷電溶質を輸送するアクアグリセロポリン(hAQP3、hAQP7、hAQP9、hAQP10)、および輸送特性がさらに解明されるべきであるスーパーアクアポリン(hAQP11、hAQP12)。一実施形態では、hAQPは、hAQP0、hAQP1、hAQP2、hAQP3、hAQP4、hAQP5、hAQP6、hAQP7、hAQP8、hAQP9、hAQP10、hAQP11およびhAQP12からなる群から選択され、好ましくはhAQP0、hAQP1、hAQP2、hAQP4、hAQP5、hAQP6およびhAQP8、すなわち、水選択性ヒトアクアポリンからなる群から選択され、より好ましくはhAPQ4である。
【0043】
ウシアクアポリンはbAQP1が好ましく、魚アクアポリンはcpAQP1aaが好ましい。酵母アクアポリンの好ましい例はAqy1であり、適切な細菌アクアポリンはAqpZである。使用可能な植物アクアポリンの実例としては、SoPIP2;1、AtTIP2;1およびAtPIP2;4が挙げられる。
【0044】
一実施形態では、膜3は、単一の種類または種のアクアポリン1を含む。別の実施形態では、膜3は、複数の種類または種のアクアポリン1を含む。
【0045】
一実施形態では、シリカ層4は、0.1~1000nm、好ましくは1~100nm、より好ましくは1~10nmの範囲内で選択された平均厚みを有する。特定の実施形態では、シリカ層は、2~6nm、好ましくは3~5nm、より好ましくは3~4nmの範囲内の平均厚みを有する。
【0046】
本明細書で前述したように、水を通過させるIMP1を含む膜3は、水を通過させるIMP1の水の通過機能を維持しながら、本明細書に開示されるシリカ層4で被覆することができる。したがって、水チャネルIMP1は、シリカ層4の存在下で水を膜3に通して輸送することができるという点で、高分子膜構造体2において依然として機能的である。したがって、特定の実施形態では、シリカ層4は、水を通過させるIMP1の水の通過または輸送機能を防止または遮断しない。
【0047】
一実施形態では、シリカ層4は官能性シリカ層4である。したがって、シリカ層4は、高分子膜構造体2に対して所望の機能を発揮することができる官能性分子を含む。そのような機能の一例は、連結機能(結合機能)である。したがって、シリカ層4の官能性分子を使用して、高分子膜構造体2を支持体に固定、付着または連結、例えば共有結合することができる。
【0048】
特定の実施形態では、官能性シリカ層4は、フルオロアルキルシラン(FAS)などのシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)などのアルコキシシラン、またはそれらの組合せを含む。次いで、これらの官能性分子を使用して、シラン化学を使用して高分子膜構造体2を支持体に共有結合させることができる。例えば、FASを使用して、シリカ層とアルミナ支持体、またはアルミナ被覆を有する支持体との間に共有結合を形成することができる。
【0049】
高分子膜構造体2は、水を通過させるIMP1を含む膜3をシリカ前駆体と接触させて、膜3の第1の表面上に被覆されたシリカ層4を形成することを含む方法で調製することができる。
【0050】
一実施形態において、シリカ前駆体は、シリコンアルコキシド、シラン、シリケート、シラノール、シラザン、N-sec-ブチル(トリメチルシリル)アミンおよびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0051】
一実施形態において、シリコンアルコキシドは、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、テトラプロピルオルトシリケート、テトラブチルオルトシリケート、メチルトリエトキシシロキサン(MTES)、ジメチルジエトキシシロキサン(DMDES)、テトラキス(グリセロール)オルトシリケート(TGS)、テトラキス-(2-ヒドロキシエチル)-オルトシリケート(THEOS)およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0052】
一実施形態において、シランは、アリルトリメトキシシラン、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、クロロペンタメチルジシラン、1,2-ジクロロテトラメチルジシラン、ジエトキシジフェニルシラン、[3-(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシ(メチル)オクチルシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、イソブチル(トリメトキシ)シラン、メチルトリクロロシラン、ペンタメチルジシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、テトラエチルシラン、1,1,2,2-テトラメチルジシラン、テトラメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシオクチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリメトキシメチルシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、四塩化ケイ素(テトラクロロシラン)、四臭化ケイ素(テトラブロミドシラン)、γ-アミノプロピルシラントリオール(APSTOL)、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0053】
一実施形態では、シリケートはケイ酸ナトリウム(水ガラス)である。
【0054】
一実施形態では、シラノールは、トリス(tert-ペントキシ)シラノール、トリス(tert-ブトキシ)シラノール、およびそれらの組合せからなる群から選択される。
【0055】
一実施形態では、シリカ前駆体はTEOSである。
【0056】
一実施形態では、膜3は、緩衝剤を含む緩衝液中でシリカ前駆体と接触する。緩衝液で使用することができる緩衝剤の非限定的であるが例示的な例としては、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス:Tris)、ホスファート緩衝生理食塩水(PBS)、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)、2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸(TES)、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)および3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)が挙げられる。適切な緩衝剤の一例は、トリスである。次いで、緩衝液はトリス-HCl水溶液であり得る。
【0057】
一実施形態では、緩衝液は、緩衝液のイオン強度を調整または設定するための塩を含む。使用され得る塩の非限定的だが例示的な例としては、塩化物塩、硫酸塩、炭酸塩およびそれらの混合物が挙げられる。実施形態に従って使用することができる塩化物塩としては、NaCl、KCl、CaClおよびMgClが挙げられる。MgSOおよびCaSOは硫酸塩の好適な例である一方、NaCOは炭酸塩の好ましい例である。
【0058】
緩衝液のpHは、1つまたは複数の緩衝剤に基づいて少なくとも部分的に決定される。緩衝液のpHは、酸性pH、すなわち7未満、中性pH、すなわち約7、または塩基性pH、すなわち7超であり得る。緩衝液のpHは、形成されるシリカ層4の特性に影響を及ぼす。例えば、pH2などの酸性pHは、中性または塩基性緩衝液と比較して、より高密度のシリカ層4を生成する。これに対応して、わずかに塩基性の条件(pH8)でのシリカ層の形成は、膜3の周りのケイ酸の初期配置、続いて高密度化によって進行した。
【0059】
水に対する選択性を有する膜3中の水を通過させるIMP1により、ケイ化方法で使用される特定の試薬が水を通過させるIMP1を含む膜に入ることまたは通過することは、効果的に排除された。排除されない場合、試薬は膜3および高分子膜構造体2に悪影響を及ぼし、膜3を通過する濾液に混入する可能性があるため、これは本発明の重要かつ非常に予想外の利点であった。
【0060】
上述の方法に従って調製されるものなどの、実施形態の高分子膜構造体2は、膜3とシリカ層4との間に水の薄層を含んでもよい。そのような水層は、調製方法中に封入されてもよく、典型的にはnmまたはnm未満の範囲の厚みを有する。
【0061】
アクアポリン1を含有するシリカ被覆プロテオリポソーム2の生産方法の一実施形態では、最初に、ホスファチジルコリン脂質、例えば1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロホスファチジルコリン(POPC)を緩衝水溶液に均一に分散させ、この緩衝液は、例えば、pHを設定するためのトリスまたはPBSのいずれかと、イオン強度を設定するためのNaClなどの塩とを含有し得る。脂質は、クロロホルム(CHCl)などの水よりも極性の低い溶媒に溶解していても溶解していなくてもよく、続いて緩衝水溶液に分散させる前にCHClが除去されていてもよい。n-オクチル-β-D-グルコシド(β-OG)またはn-ノニル-β-D-グルコシド(β-NG)などの穏やかな界面活性剤を添加して、リポソームを可溶化することができる。β-OGまたはβ-NGなどの穏やかな界面活性剤で安定化された精製アクアポリンをリポソーム混合物に添加する。次いで、例えばポリスチレンビーズ吸着に続く除去、または例えば1000Daまたは2000Daの分子カットオフを有する酢酸セルロース透析膜を使用する透析を使用して、混合物から界面活性剤を除去することが好ましい。この手順は、アクアポリン1を含有する多重層および多分散の小胞2をもたらす。
【0062】
一実施形態では、小胞2は、多重層性および多分散性の程度を低下させるために、ケイ化の前にさらに処理されてもよい。例えば、アクアポリン1を含有する小胞2は、例えば、30nm~1000nmの範囲の直径を有するポリカーボネート押出膜またはナイロン遠心フィルタの細孔を通して押し出されて、多重層性および多分散性の程度を低下させることができる。
【0063】
次いで、0.1nm~1000nmの厚み範囲のシリカの層4を、アクアポリン1を含有する小胞上に形成することができる。例示的なシリカ被覆手順では、TEOSなどのシリコンアルコキシド、またはカチオン交換ケイ酸ナトリウム(水ガラス)を、アクアポリン1を含有する小胞2に添加する。シリコンアルコキシドは、アクアポリン1を含有する小胞2に添加する前に、小胞2を含まない溶液中で予め加水分解するか、またはアクアポリン1を含有する小胞2に直接添加することができる。シリコンアルコキシドの加水分解は、オルトケイ酸ならびにシリコンアルコキシドのQ1、Q2およびQ3種の形成をもたらし、ここで、0、1、2および3個のアルコキシド基は、シリコンアルコキシドの不完全な加水分解によりシリコンに共有結合している。アクアポリン1を含む小胞2の存在下でこれらの種が縮合すると、アクアポリン1を含む小胞2の外側にシリカの層4が形成される。アクアポリン1を含有するシリカ被覆小胞2は、縮合中に凝集することがあり、これにより、凝集体上に0.1nm~300nmの厚み範囲の第2のシリカ被覆が形成し得る。
【0064】
一実施形態では、シリカ層4の形成に続いて、アクアポリン1を含む小胞2の表面修飾を行ってもよい。例示的な手順では、官能基、例えばシランが、アクアポリン1を含有する小胞2のシリカ層4に導入される。例示的な手順では、アクアポリン1を含有する被覆小胞2を、1%(体積/体積)ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)を含むヘキサンに配置する。シリカ表面上の利用可能なシラノール基(Si-OH)は、メチル化基で部分的に置換されている。使用され得るシランの他の例としては、フルオロアルキルシラン(FAS)およびアルコキシシランが挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
本発明の別の態様は、濾過装置5に関する。図7図9を参照されたい。濾過装置5は、実施形態による複数の細孔7および高分子膜構造体2を含む多孔性支持体6を含む。
【0066】
一実施形態において、高分子膜構造体2は、多孔性支持体6の表面に設けられる。例示的な実施形態では、水を通過させるIMPを含有する小胞2は、例えば0.5~50nmの範囲の孔幅を有する表面に接触可能な細孔7を有する多孔性支持体6に導入される。小胞2は、多孔性支持体6上に吸着され、単細孔を貫通するアクアポリンを含有する担持脂質二重層または複数のアクアポリンを含有する互いに積み重ねられた担持脂質二重層へと崩壊する。
【0067】
代替的または追加的に、高分子膜構造体2は、多孔性支持体6の細孔7中に設けられる。多孔性支持体6の材料に応じて、細孔7は、規則的であっても不規則であってもよく、50nm~5000nmなどの特定の直径を有する明確に画定された細孔7を有するか、またはネットワーク構造によって曖昧に画定されてもよい。孔幅は、多孔性支持体6の厚み全体にわたって同じであってもよく、または多孔性支持体6の一端において他端と比較して幅広くてもよい。孔幅はまた、厚みの位置とは無関係に多孔性支持体6全体にわたって変化してもよい。水を通過させるIMP1を含有する小胞2は、小胞2の溶液中に多孔性支持体6を配置することによって細孔7に導入することができる。例えば、圧力または吸引を加えることによって導入された外力は、導入を成功させるために使用されても使用されなくてもよい。一例では、多孔性支持体6は、チューブを介してシリンジポンプに接続されたフィルタホルダ内に配置される。
【0068】
多孔性支持体6は、高分子膜構造体2と共に、本明細書にさらに開示されるように、様々な液体を濾過するために使用することができる濾過装置5またはフィルタを形成する。膜3をシリカ層4で被覆することにより、高分子膜構造体2および水を通過させるIMP1の安定性が向上し、それらをそのような濾過操作に使用することが可能になり、依然として十分な操作寿命または貯蔵寿命を有する。そうでなければ、これは、従来技術の生体模倣濾過装置の重大な問題である。
【0069】
多孔性支持体6は、半透性である任意の支持体であり、すなわち、濾液が多孔性支持体6およびその中またはその上に存在する高分子膜構造体2を通過することを可能にする。多孔性構造体6は、高分子膜構造体2を支持するが、特定の圧力または化学的環境に耐えることができるなど、実行される操作または方法にも耐久性であるべきである。多孔性支持体は、実行される操作または方法に適合するために、平膜、円形膜などを含む任意の形状をとることができる。
【0070】
多孔性支持体6は、一実施形態では、ポリマー、金属、金属の酸化物、二酸化ケイ素、ガラス繊維、またはそれらの混合物から製造することができる。多孔性支持体6用のポリマー材料の非限定的だが例示的な例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリジフェニルフェニレンエーテル、セルロース、ポリビニレンセルロースアセタート、セルロースジアセタート、セルローストリアセタート、セルロースニトラート、ポリフェニレンスルフィド、ニトロセルロース、アセチル化メチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、有機シロキサンカーボネート、ポリエステルカーボネート、有機ポリシロキサン、ポリエチレンオキシド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ナイロンおよびそれらの混合物が挙げられる。多孔性支持体6用の金属(酸化物)材料の非限定的だが例示的な例には、アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、チタン、二酸化チタン、ジルコニウム、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、鉄、酸化鉄、およびそれらの混合物が含まれる。
【0071】
高分子膜構造体2は、図8に示すように単層の形態で多孔性支持体6上および/または多孔性支持体6の細孔7内に設けられてもよく、または典型的には複数層の高分子膜構造体2を含む図7に示すような高分子膜構造体2のより厚い層を含む。
【0072】
図10は、濾過装置5の実施形態を示し、水を通過させるIMP1を含む膜3は、多孔性支持体6上に沈着された平面構造の形態であり、細孔7を含む。多孔性支持体6に面する膜3の面と反対側の膜3の面は、シリカ層4で被覆されている。
【0073】
高分子膜構造体2のシリカ層4が本明細書で前述したように官能基を有する場合、官能性シリカ層の官能基は、高分子膜構造体2を多孔性支持体6に共有結合などで連結してもよい。例えば、官能基は、高分子膜構造体2を多孔性支持体6の細孔7の壁および/または多孔性支持体6の上面に固定、付着および固着することができる。
【0074】
一実施形態では、濾過装置5の多孔性支持体6上および/または多孔性支持体6内に高分子膜構造体2を沈着させる前に、高分子膜構造体2をシリカ層4で被覆する。別の実施形態では、例えばプロテオリポソーム2の形態の水を通過させるIMP2を含む膜3を、最初に多孔性支持体6上および/または多孔性支持体6中に沈着させ、次いでケイ化方法を実施してプロテオリポソーム2を被覆する。
【0075】
この後者の実施形態では、濾過装置5を調製するための方法は、多孔性支持体6上および/または多孔性支持体6内に水を通過させるIMP1を含む膜3、例えばプロテオリポソーム2を沈着させることと、多孔性支持体6上および/または多孔性支持体6内に沈着した水を通過させるIMP1を含む膜3をシリカ前駆体と接触させて、膜3の第1の表面上に被覆されたシリカ層4を形成することとを含む。
【0076】
一実施形態では、プロテオリポソーム2の形態などの膜3は、ケイ化方法の前に多孔性支持体6に固定または付着され得る。そのような実施形態では、プロテオリポソーム2は、多孔性支持体6の上面および/または多孔性支持体6の細孔7内の壁に接続および固着することができる。付着および固定は、米国第9,943,812号に開示されているようなリンカーによって達成することができる。そのようなリンカーは、第一級アミン架橋剤、スルフヒドリル架橋剤、炭水化物架橋剤、カルボキシル架橋剤および光反応性架橋剤からなる群から選択することができる。第一級アミン架橋剤は、イミドエステル、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、またはグルタルアルデヒドであり、スルフヒドリル架橋剤は、マレイミド、ハロアセチル、またはピリジルジスルフィドであり得る。炭水化物反応性架橋剤は、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミドハイドロクロライドまたは1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミドであり、光反応性架橋剤は、アリールアジドまたはジアジリンであり得る。
【0077】
実施形態の高分子膜構造体2および濾過装置5を、浄水に用いて、水濾液を調製することができる。このような用途では、高分子膜構造体2または濾過装置5を介して水溶液を濾過し、水濾液を得る。
【0078】
水溶液は、例えば、混入または汚染された水、塩水、または実際には、純水濾液を生成するために水から塩イオンなどの混入または汚染を除去することによって濾過または精製されるべき任意の水溶液であり得る。
【0079】
実施形態の高分子膜構造体2および濾過装置5は、水溶液に溶解または分散した化合物を濃縮する方法にも用いることができる。この方法は、高分子膜構造体2または濾過装置5を通して水溶液を濾過して、化合物を含まない水濾液、および水溶液よりも高い濃度で化合物を含む当技術分野で残留供給物とも呼ばれる保持液を得ることを含む。
【0080】
したがって、高分子膜構造体2または濾過装置5を通して水溶液を濾過することによって、水濾液が得られ、保持液に溶解または分散している化合物に関して保持液が濃縮される。
【0081】
したがって、水を通過させるIMP1を含む高分子膜構造体2が沈着し、任意で、多孔性支持体6上および/または多孔性支持体6内に固定されると、得られる濾過装置5は、純水濾液を提供するための水濾過の方法に有用であり得る。これは、正浸透、逆浸透または圧力遅延浸透などの方法を使用して行うことができる。標的分子を含有する溶液から過剰な水を除去することによって標的分子の溶液を濃縮するためにも、同じ構成が使用され得る。
【0082】
アクアポリン1を含む水を通過させるIMP1を含有する膜3または小胞2は、再構成と呼ばれる方法によって、水を通過させるIMP1を膜3または小胞2に組み込むことによって形成され得、これは一般に、特定の界面活性剤を使用することによって、水を通過させるIMP1を可溶化することを含み、これは、水を通過させるIMP1の完全性および生物学的機能を維持しながら、それらの供給源膜からの水を通過させるIMP1の除去を補助する。一旦可溶化されると、水を通過させるIMP1は、目的の標的膜3または小胞2に再挿入され得る。
【0083】
水を通過させるIMP1を含む膜3または小胞2は、供給源膜を膜3および小胞2に変換し、したがってそれらの自然環境を可能な限り保持することによっても形成され得る。そのような変換は、所定の孔径を有する多孔性フィルタを通して供給源膜を押し出し、したがって、供給源膜を特定サイズの小断片および小胞2に縮小することによって実施される。
【実施例0084】
実施例
本例は、プロテオリポソームをシリカの薄層で被覆する方法を開示する。より具体的には、受動的水輸送体のヒトアクアポリン4(hAQP4)をホスファチジルコリン(POPC)リポソーム中で再構成し、次いでこれをシリカの薄層で被覆した。プロテオリポソームのケイ化方法を詳細に監視して、シリカシェル成長の機構を解明した。hAQP4の二次構造も、ケイ化方法全体を通して監視して、このタイプのケイ化におけるタンパク質適合性の評価を提供した。
【0085】
ピキア・パストリス(Pichia pastoris)におけるhAQP4産生およびタンパク質精製
P.パストリス(P.pastoris)におけるタンパク質産生を、遺伝子最適化されたhAQP4の産生に基づくプロトコル[Nyblom et al.,Protein Expr.Purif.2007,56(1):110-120]に従って行い、培養物1Lあたり300g超の湿細胞の収量を得た。細胞を遠心分離(6000g、45分、4℃)によって回収し、-20℃で保存した。膜調製のために、85gの細胞を4℃で解凍し、200mLの破壊緩衝液(150mM NaCl(Sigma-Aldrich)、1mM 2-メルカプトエタノール(Fluka AG)、および2つのEDTA非含有cOmpleteプロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤(Roche)を含有する50mM トリス-HCl pH7.4(Sigma-Aldrich))に再懸濁した。Bead Beater(Bio Spec)を使用して、0.5mmガラスビーズ(Scientific industries)で細胞を破壊し、12×30秒間粉砕し、運転間に60秒間冷却した。未破壊細胞を遠心分離(6000g、10分、4℃)によって回収し、その後、超遠心分離(19000g、60分、4℃)によって上清から粗膜を回収した。得られた膜をホモジナイザーを用いて尿素緩衝液(4M尿素、5mM トリス-HCl pH7.4、2mM EDTA、2mM EGTA)で洗浄し、再度遠心分離した(19000g、60分、4℃)。得られたペレットをホモジナイズし、水酸化ナトリウム洗浄を行い(20mM NaOH)、その後の遠心分離段階を行った(19000g、60分、4℃)。膜再懸濁緩衝液(20mM トリス-HCl pH7.4、250mM NaCl、1mM 2-メルカプトエタノール、10%(重量/体積)グリセロール)中で膜をホモジナイズすることによって微量のNaOHを除去するために最終洗浄を行った。最終遠心分離(19000g、60分、4℃)後、洗浄した膜ペレットを約400mg膜/mlの濃度で再懸濁緩衝液に再懸濁した。
【0086】
hAQP4の膜可溶化は、1:1の体積比でEDTAを含まないプロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤を補充した可溶化緩衝液(25mM トリス-HCl pH7.4、250mM NaCl、1mM 2-メルカプトエタノール、10%(重量/体積)グリセロール、400mM n-オクチル-β-グルコピラノシド(OG、分析グレード、Anatrace))と膜を混合することによって行った。4℃で90分間穏やかに撹拌した後、不溶化物質を超遠心分離(19000g、60分、4℃)によって除去し、イミダゾールの最終濃度が50mMに相当するようにイミダゾールを上清に添加した。
【0087】
hAQP4の精製のために、上清を予め平衡化した5mlのNi-NTA HisTrap HPカラム(GE Healthcare)に充填し、少なくとも2時間循環した。上清を充填する前に、カラムの平衡化を3CV(20mM トリス-HCl pH7.4、300mM NaCl、10%グリセロール、40mM OG、50mMイミダゾール)行った。カラムマトリックスを20mlの平衡緩衝液で洗浄することによって、非特異的に結合したタンパク質を除去した。タンパク質を20mlの溶出緩衝液(20mM トリス-HCl pH7.4、300mM NaCl、10%グリセロール、40mM OG、300mMイミダゾール)で溶出し、画分に回収した。タンパク質画分をSDS-PAGEを用いて分析し、タンパク質含有画分をまとめて貯留した。後続の保存緩衝液(25mMシトラート pH6.0、50mM NaCl、5%(重量/体積)グリセロール、40mM OG、2mM DTT)への緩衝液交換はその後即時に行った。最後に、hAQP4を、50kDaカットオフ濃縮器(Merck Millipore)を使用して9.7mg/mlの最終濃度に濃縮し、-80℃で保存した。
【0088】
プロテオリポソームの調製
プロテオリポソームをPOPCリポソームから形成し、再構成方法でhAQP4を精製した。POPC(Avanti Polar Lipids Inc.)を含むクロロホルム(Sigma-Aldrich)を40℃で3時間回転蒸発させ、引き続いて窒素下で残留クロロホルムを除去した。脂質フィルムを10mgml-1の濃度で再構成緩衝液(50mM トリス-HCl、50mM NaCl、pH8.0)に再懸濁し、SANS実験(pH8.4)用にDO(99.8原子%D、Sigma-Aldrich社)で、残りの実験用にMilli-Q水で調製した。最終脂質濃度4mgml-1のプロテオリポソーム1mlについては、10mgml-1 POPCを含む再構成緩衝液400μlを、30μlの1M NaCl(Sigma-Aldrich)、30μlの1M トリス-HCl pH8(Sigma-Aldrich)、および430μlのMilli-Q水と混合した。次いで、99μlの10%(重量/体積)n-オクチル-β-D-グルコシドを混合して添加し、続いて5分間インキュベーションした。次いで、9.7mgml-1の精製hAQP4を、CD測定用には質量で1つのhAQP4対6つのPOPC脂質(1:6)の最終タンパク質対脂質比(PLR)をもたらす量で、残りの実験用には1:50をもたらす量で加えた。溶液を穏やかに混合し、20℃で10分間インキュベーションした。Biobeads SM2吸着剤(Bio-Rad laboratories)を再構成緩衝液で平衡化し、次いで試料体積の30%(重量/体積)の湿潤画分で添加し、引き続いて暗所の回転テーブル上で20℃で6~10時間インキュベーションした。Biobeadsを試料から除去することにより、使用前に試料を0.2μmスピンカラムフィルタ(WVR)を通して11000rpmで遠心分離した。
【0089】
DLSによるプロテオリポソームの特性評価
DLS分析は、使い捨てUVette(登録商標)キュベット(Eppendorf)を使用して、Malvern Zetasizer Nano ZS(Malvern)機器において、173°の固定検出角度で、0.05mgml-1脂質を含む150μlのリポソームおよびプロテオリポソーム試料で行った。温度は20℃であり、提示データは、連続して実施された3回の反復からの平均である。
【0090】
プロテオリポソームのケイ化
時間分解(time-resolved)DLSおよびストップトフロー(stopped-flow)光散乱を除くすべての実験について、4mgml-1のリポソームおよびプロテオリポソームを含む再構成緩衝液800μlに添加した7.6μlのテトラエチルオルトシリケート(TEOS、98%、Sigma-Aldrich社)を使用して、ケイ化リポソームおよびプロテオリポソームを形成し、3.8μlのTEOSを、2mgml-1のリポソームおよびプロテオリポソームを含む再構成緩衝液800μlに添加した。ケイ化は、インサイチュー(in situ)SANSケイ化動態実験を除くすべての場合において、25℃で4時間~16時間撹拌せずにガラスバイアルで行った。
【0091】
TEM、STEM、SANS、DLS、ストップトフロー光散乱およびCDによる特性評価
透過型電子顕微鏡(TEM)分析のために、4mgml-1ケイ化リポソームおよびプロテオリポソームを含む再構成緩衝液の2μl液滴をLacey炭素300メッシュ銅グリッズ(Ted Pella Inc.)上に置き、周囲空気中で乾燥させた。TEM分析は、300kVで作動するFEI Titan80-300および200kVで作動するFEI Tecnai TF20を使用して行った。走査型TEM(STEM)用の試料をTEM用と同じ方法で調製し、STEM分析を、300kVで作動するFEI Titan80-300を使用して行った。
【0092】
中性子小角散乱(SANS)実験を、ILL(Institut Laue-Langevin、フランス、グルノーブル)のD11機器およびFRMII(Research neutron source Heinz-Maier Leibnitz、ドイツ、ガルヒング)のKWS-1機器で行った。
【0093】
FRMIIでは、狭い石英セルを使用した。回転は加えなかった。4mgml-1の非ケイ化試料およびケイ化試料をMilli-Q水およびDOの両方で調製した。これらの試料は、SLDが3.47のシリカおよびSLDが2.07のケイ素でコントラストが一致するように混合された。それらはそのまま研究され、ケイ化の前、間および後にプロテオリポソーム試料を分析する「動態」研究も行われた。λ=7Åを使用した。検出器は、データセット間の良好な重複を伴って広いq範囲に及ぶように1.5m、8m、および20mに配置された。QtiKWSソフトウェアを使用してデータを削減およびモデル化した。
【0094】
ILLでは、2mmの光路を有するHellma Analytics120-QS石英セルを使用した。それらは、ケイ化方法中の沈降を防止するために、試料を毎分5.5回回転させる電動ホルダに取り付けられた。4mgml-1のプロテオリポソーム試料を含むDOを、3.47のSLDでシリカとコントラストが一致するように希釈した。事前にケイ化されたプロテオリポソーム、およびプロテオリポソームのケイ化方法を研究した。λ=5Åを使用して、可能な限り高い強度を得た。検出器は、データセット間の良好な重複を伴って広いq範囲に及ぶように1.4m、8m、および39mに配置された。両方のSANS実験について温度は25℃であった。BerSANSソフトウェア[Keiderling,Appl.Phys.A-Mater.Sci.Process2002,74:S1455-S1457]を使用してデータを削減した一方、QtiKWSソフトウェアを使用してデータをモデル化した。
【0095】
使い捨てUVette(登録商標)キュベット(Eppendorf)を使用して、Malvern Zetasizer Nano ZS(Malvern)機器において173°の固定検出角度で、2mgml-1の脂質を含むリポソームおよびプロテオリポソーム試料150μlに対して時間分解DLSケイ化分析を行った。最初のDLS記録に続いて、2mgml-1のリポソームおよびプロテオリポソームを含む再構成緩衝液800μlに3.8μlのTEOSを添加した。150μlの試料を30分ごとにDLSによって分析し、その時点で試料をケイ化バイアルに戻した。温度は20℃であり、提示データは、連続して実施された3回の反復からの平均である。
【0096】
2mgml-1のリポソームおよびプロテオリポソームのケイ化試料を含む再構成緩衝液(50mM トリス-HCl、50mM NaCl、pH8.0)を、高浸透圧溶液(300mMスクロースを含む再構成緩衝液)と迅速に混合することによって、時間分解ストップトフロー光散乱実験を行った。最初の記録に続いて、2mgml-1のリポソームおよびプロテオリポソームを含む再構成緩衝液800μlに3.8μlのTEOSを添加した。実験は、80μLの試料および80μLの高浸透圧緩衝液を必要とする各迅速混合で、SFM2000(BioLogic Science Instruments)で1時間間隔で行った。散乱を90°の固定角度で監視し、データを438nmの波長で収集した。水輸送の速度定数を得るために、収集データを2指数関数に適合させ、これをk値として示した。
【0097】
円二色性(CD)スペクトルは、Peltier温度コントローラを備えたChirascan(商標)円二色性分光計で得た。ランプ、モノクロメーターおよび試料チャンバーをN(g)で5分間パージした後、それぞれ1リッター/分、3リッター/分および1リッター/分の流速で分析した。1nmの帯域幅および10秒の時定数を使用して、1mmの経路長の石英キュベットにおいて190nm~250nmでスペクトルを記録した。200nm未満のデータは、緩衝液吸光度が198nm未満で700Vの閾値を超える高圧電圧(HV)を引き起こすために省略された。提示データは、25℃で記録された3回のスキャンの平均である。データは、提示前に背景(純粋な緩衝液)差分に供された。1mgml-1脂質濃度、LPR6の質量で再構成緩衝液で測定を行った。シリカシェルの形成によって引き起こされる吸収の増加を説明するために、印加されたHT電圧のシフトに対してCDデータを正規化した。
【0098】
ケイ化プロテオリポソームについてのSANSモデルの導出
ケイ化プロテオリポソームのSTEM分析は、プロテオリポソームが薄いシリカシェルで覆われているコア-シェル構造を示す。SANSデータ分析に使用される二重層およびシリカシェルの幾何学的モデルパラメータを図3Aに示す。各プロテオリポソームは、半径Rcoreの液体充填コアを包含する球形構造のアクアポリン含有脂質二重層からなる。プロテオリポソームのシェルを構成するタンパク質含有脂質二重層は、組成に基づいて放射状に3つの層、厚みtの内側親水性脂質頭部領域層、タンパク質を含む厚みDの疎水性脂質尾部層、および厚みtの外側親水性頭部層に分割される。したがって、プロテオリポソームの全半径は、赤道での全半径Rtotによって定義され、Rtotは、コア半径Rcoreと、脂質二重層の3つの層の厚み、t、Dおよびtの合計との合計である。このモデルは、脂質二重層の外側に位置する厚みtsilicaのシリカ層も含む。
【0099】
したがって、総散乱強度I(q)は、次のように書くことができる。
【数1】

式中、φは体積分率である。
【0100】
個々の同心球状層の散乱振幅は、下記により説明でき、
【数2】

式中、a(q、x)=3・(sin(q・x)-x・q・cos(q・x))/(q・x)であり、小胞の内部体積Vcoreは、
【数3】

として定義され、
内側脂質頭部の体積Vは、
【数4】

として定義され、
脂質尾部の体積Vは、
【数5】

として定義され、
外側脂質頭部の体積Vは、
【数6】

として定義され、
プロテオリポソームの総量Vtotは、
【数7】

として定義され、
シリカシェルの体積Vsilicaは、
【数8】

として定義される。
【0101】
プロテオリポソームへのシリカ沈着の方法を説明するために、fsilicaを導入して、シリカシェルに覆われたプロテオリポソームの画分を示した。パラメータfproteinを同様に使用して、試料中のタンパク質の体積分率を示した。シリカおよびタンパク質の両方は、内側脂質頭部層(fsil,i、prot,i)、脂質尾部層(fsil,c、prot,c)、および外側脂質頭部層(fsil,o、prot,o)において、
x,i+fx,c+fx,o=1
に制約される比率で、存在することができ、式中、下付き文字xは、silまたはprotを表す。各プロテオリポソーム中の脂質の数Pは、
【数9】

として算出され、
式中、Vtailは、2つの炭化水素鎖で構成される脂質尾部の体積である。内側脂質頭部、外側脂質頭部およびシリカ層の成分として、それぞれfw,i、fw,oおよびfw,silicaとして、水を含めた。ケイ化プロテオリポソームの「乾燥体積」は、
tot=V・(1-fw,i)+V+V・(1-fw,o)+Vsilica・(1-fw,silica
によって与えられた。
【0102】
異なる層のコントラストは、
Δp=phead・(1-fprot,i・fprotein-fsil,i・fsilica-fw,i)+pprot・fprot,i・fprotein+psilica・fsil,i・fsilica+psolvent・fw,i-psolvent
Δp=ptail・(1-fprot,c・fprotein-fsil,c・fsilica)+pprot・fprot,c・fprotein+psilica・fsil,c・fsilica-psolvent
Δp=phead・(1-fprot,o・fprotein-fsil,o・fsilica-fw,o)+pprot・fprot,o・fprotein+psilica・fsil,o・fsilica+psolvent・fw,o-psolvent
Δpsilica=psilica・(1-fw,silica)+psolvent・fw,silica-psolvent
によって定義され、
式中、phead、ptail、psilicaおよびpsolventは、それぞれ脂質頭部、脂質尾部、シリカおよびバルク溶媒の散乱長密度(SLD)である。
【0103】
最後に、各リポソーム/プロテオリポソーム上に沈着したシリカの乾燥体積を、
【数10】

を用いて算出した。
【0104】
結果
リポソームおよびプロテオリポソームの構造的特徴を、DLSおよびSANSを用いて評価した。DLSによって決定された多分散性指数(PDI)は、リポソームについては0.15、プロテオリポソームについては0.27であった。小胞サイズ(約2×10-3-1に位置する)に対応するSANSピークの広さも、試料サイズの多分散性を示唆した。リポソームおよびプロテオリポソームは、それぞれ124.8nm±2.9nmおよび132.9±7.0nmのZ-avg直径を有していた。また、両試料の多分散性のために明らかに存在した大きな小胞からの非比例的な光散乱寄与を補償するために、データを数に応じて重み付けした。次いで、加重平均直径は、リポソームについては78.0nm±5.1nmになり、プロテオリポソームについては66.0nm±3.2nmになった。
【0105】
シリカ前駆体添加前の試料のSANS特性評価を、DOおよびシリカ(CMSiO)の散乱長密度(SLD)とコントラストが一致する2つのコントラストで行った。カスタム設計されたコア-マルチシェルモデルへのこれらのコントラストの同時フィッティングにより、リポソームおよびプロテオリポソームの両方について、45nmの直径、9Åの内部脂質頭部厚および34Åの脂質尾部層厚が得られた。外側脂質頭部の厚みは、リポソームについては10Å、プロテオリポソームについては12Åであった。
【0106】
SANSを使用して、ケイ化方法およびシリカシェルの進化を研究して、リポソームおよびプロテオリポソームが方法においてどのように影響を受けるかを解明した。二重層区画およびシリカシェルのサイズおよび組成を得た。プロテオリポソームのケイ化の過程で得られたSANSプロファイルを図2Aに示す。ケイ化方法に対する妥当な適合は、5つの適合パラメータ、中性子ビーム中の種の濃度(conc.)、シリカ被覆されたリポソーム/プロテオリポソームの割合(fsilica)、外側脂質頭部の厚み(t)、シリカシェルの厚み(tsilica)、およびシリカシェルの含水量(fw,silica)を変えることによって得られた。シリカシェルの乾燥体積(Vsilica,dry、式1を用いて導出)と共に選択されたパラメータの初期および最終適合値を表2に示す。
【数11】
【0107】
silica,dryは、図3Bに時間の関数としても示されている。図3Bに示されるデータを、以下のアヴラミ(Avrami)型成長関数[Avrami,J.Chem.Phys.1940,8:212-224、および、Avram,J.Chem.Phys.1941,9(2):177-184]に適合させた。
【数12】

式中、Vinitialは初期体積、Vfinalは最終体積、kはシリカ形成の速度定数、βはアヴラミ(Avrami)指数である。MATLAB(登録商標)ソフトウェアを使用してリポソームおよびプロテオリポソームのケイ化方法を適合させると、表3に示される値に戻ったが、これらのデータに基づく形成機構を図3Aおよび図3Cに示す。異なるアヴラミ(Avrami)指数にもかかわらず、リポソームとプロテオリポソームの適合を比較する手段として、シリカ形成半減時間パラメータ(t1/2)を導入した。式
【数13】

を用いて分析を行った。
式中、k(T)およびβの値は、フィッティングから得られた。
【0108】
時間分解DLSを利用して、ケイ化方法中のリポソームおよびプロテオリポソームの凝集挙動を研究した。散乱光強度は、リポソームおよびプロテオリポソームの両試料において、ケイ化の約3時間後に増加し始めた(図11)。この散乱の増加は、ケイ化リポソームおよびプロテオリポソームの凝集に起因する。
【0109】
ケイ化方法中およびケイ化時のアクアポリンの機能性を、時間分解ストップトフロー光散乱を用いて評価した。表1に見られるように、k値の小さな変化によって検証されるように、プロテオリポソームは、ケイ化時に高度にそれらの水輸送能力を保持する。脂質膜自体は、わずかに水透過性になるようである。10時間のフィッティングから得られた比較的低いR値は、大きな凝集体が存在することによる小胞収縮のより低いシグナル対ノイズ比に起因する。
【表1】
【0110】
hAQP4二次構造に及ぼすケイ化の効果を、CDを使用して評価した(図2B)。結果は、タンパク質の主にαらせん天然二次構造がケイ化時に大部分保存されたことを示している。
【表2】

【表3】
【0111】
完全なケイ化および乾燥時にTEMを使用して、シリカ被覆リポソームおよびプロテオリポソームを研究した。TEM(図4A図4B)およびSTEM(図4C図4D)を使用して収集した結果により、ケイ化試料の幾何学的および組成的特性がさらに説明された。STEM特性評価は、ケイ化リポソームおよびプロテオリポソームがコア-シェル構築物を主に適合させることを示す。
【0112】
ケイ化プロテオリポソームも元素マッピングに供した。図5に見られるように、STEMエネルギー分散型X線分光法(EDX)を使用して、異なる元素を局在化した。同じ試料領域のSTEM高角度環状暗視野(HAADF)顕微鏡写真も挿入した。結果は、可視化された元素が、プロテオリポソームを裏打ちするケイ化アクアポリン含有脂質二重層に沿ってより豊富であることを示唆した。
【0113】
エネルギー濾過(EF)TEMを使用して、追加の元素マッピングを行った。これは、EDXと比較してより軽い元素に対してより感受性があり、したがって、硫黄、ケイ素、炭素、リンおよび酸素に加えて窒素および水素の両方を検出することができた(図6)。
【0114】
SANSデータモデリングにより、系を記述するために使用されるパラメータのほとんどが、リポソームおよびプロテオリポソームの両ケイ化中、一定のままであることが明らかになった。実際、同じ5つのパラメータ(t、fsilica、conc.、tsilica、およびfw,silica)の変化は、両試料の変化を正確に記述するのに十分であった。このモデルでは、濃度(conc.)を浮動パラメータとして使用し、他のパラメータと直接相互接続した。シリカ被覆リポソーム/プロテオリポソーム(fsilica)の画分は、リポソームおよびプロテオリポソームのケイ化の最初の1時間および3.5時間、それぞれ0で一定のままであった。この「遅滞期」はアルコキシド前駆体の加水分解に関連し、その間にTEOSエステル結合が切断されて最終的にケイ酸およびエタノールが形成された。pH8では、加水分解反応が酸および塩基によって触媒されるため、この方法はゆっくりと進行すると予想される。
【0115】
前駆体の加水分解後、fsilicaは、リポソームおよびプロテオリポソームでそれぞれ1.5時間および3時間の期間中に1に増加した。これは、シリカ沈着が、ケイ化の持続時間全体にわたって連続的ではなく、限られた時間枠内で起こったことを示した。興味深い観察結果は、シリカシェルの厚みが時間と共に直線的に増加しなかったことであった。代わりに、ケイ酸および緩衝液で構成される脂質二重層厚み(約4nm)程度の層が、沈着が始まるとすぐにリポソームおよびプロテオリポソーム上に配置された。リポソームおよびプロテオリポソーム(シリカシェルを含まない)は、膨潤を経験した外側脂質頭部層を除いて変化しないままであった。脂質二重層の外葉は、沈着したケイ酸と直接接触しており、したがって周囲環境の変化を受けやすい。このモデルによれば、鋳型試料の外側脂質頭部層は、リポソームおよびプロテオリポソームについて、それぞれ82%および86%の緩衝液から構成された。特に最初に沈着したケイ酸層中の緩衝液の割合が高いこと(沈着開始までにリポソームで96%の緩衝液およびプロテオリポソームで98%)を考慮すると、ケイ酸は外側脂質頭部層と密接に相互作用した。tの全体的な肥厚は、脂質二重層とシリカシェルとの間の界面水層の存在に起因する可能性がある。
【0116】
もtsilicaも、どちらの試料においても方法全体を通して安定した増減を示さず、わずかな偏向が全体的なパターンを中断した。したがって、式1を採用して、tおよびtsilicaを残りの幾何学的パラメータおよびfw,silicaに結び付けることによってシリカシェルの成長速度を研究した。時間の関数としての、緩衝液を含まないシリカシェルの体積Vsilica,dry図3Bに示す。シリカシェル体積の経時変化は、相変態方法、特に結晶化のために最初に導出されたアヴラミ(Avrami)型成長関数(式2)に適合させたシグモイドパターンに従う。異なる長さの遅滞期は、リポソームおよびプロテオリポソームのケイ化に異なるアヴラミ(Avrami)パラメータβをもたらした。したがって、反応速度kの比較は簡単ではなかった。したがって、βの差に対応するためにケイ化の半減期(t1/2)を算出した(式3)。表3に示すように、プロテオリポソームのケイ化は、リポソームのケイ化のt1/2のほぼ2倍であり、これは、リポソームのケイ化が、プロテオリポソームのケイ化の半分より僅かに短い時間でプラトー体積の半分に達したことを意味する。t1/2は遅滞期および指数期の開始の複合尺度であるため、比較のために別の手法も利用した。初期前駆体の加水分解相を除いて、指数関数的成長の開始から両方のシェル成長過程をプロットした。成長相は著しく類似していた。したがって、リポソームおよびプロテオリポソームのケイ化の差は、方法の第1の部分、すなわち前駆体加水分解の中で生じたと結論付けられた。試料間の唯一の違いはタンパク質であったため、タンパク質の存在はシリカシェルの形成機構を変化させた。シリカシェル形成に影響を及ぼし得る2つの主要なタンパク質特性があり、静電反発および立体障害である。POPC脂質は双性イオンであるため、pH8で中性である。一方、hAQP4は、7.6の等電点のためにわずかに負の正味電荷を有する。TEOSがケイ酸に加水分解されると、ケイ酸のごく一部がイオン化され、したがって負に帯電する。したがって、タンパク質のわずかに負の正味電荷は、ケイ酸の一部が脂質二重層頭部にアクセスするのを妨げ得る静電反発を導入する。しかしながら、これは、特に、シリカシェルが、正に帯電したコリン部分ではなく、負に帯電したホスファチジル部分への水素結合を介して脂質頭部と相互作用するため、唯一の説明である可能性はあまり高くない。したがって、立体障害は、おそらく静電反発と組み合わせて、より可能性の高い選択肢として提示される。hAQP4のC末端ドメインはバルクに達するが、このことが、プロテオリポソームが直接接触しないことを引き起こす可能性がある。これはまた、ケイ化リポソームと同程度に凝集しなかったケイ化プロテオリポソームについても当てはまるようであった。立体障害は、脂質へのケイ酸のアクセス性が低いという点で、プロテオリポソームのケイ化の長期の遅滞期の理由であり得る。
【0117】
リポソームとプロテオリポソームのケイ化の類似性はシリカシェルの厚みであり、これはこれらの形成条件を使用して約4nmになった。興味深いことに、ケイ化および乾燥した試料中にはより小さいシリカ粒子が存在し、これはTEMで明確に見られた(図4B)。これは、シリカシェルを形成する際に消費されたものよりも多くの材料が利用可能であることを示した。両試料について、シリカ形成の大部分は二重層で起こったようであった(図4)。元のプロテオリポソーム組成物がどのように変化したかについての指標を得るために、ケイ化時の他の元素の配置を研究することも興味深いものであった。STEM-EDXは、検出された元素がプロテオリポソームのシリカ裏層に沿って最も豊富であることを示し、アクアポリン含有脂質二重層が無傷であることを示した。マッピングは透過方式で行われたため、マップは3D試料の2D投影を示し、したがって、より低い濃度ではあるが、ケイ化プロテオリポソームの他の部分でも同様に元素が検出された。より軽い元素に対してより感受性であるEFTEMを使用して相補的元素マッピングを行った。したがって、EDXによって検出された元素に加えて、生物学的材料の一般的な成分である窒素および水素も検出することができた。EFTEM元素マッピングは、EDXを使用する際に提供される指標を確認し、アクアポリン含有脂質二重層に関連する元素は、プロテオリポソームを裏打ちするケイ化領域で濃縮されていた。
【0118】
CD研究により、ケイ化方法全体を通してタンパク質が無傷のままであることが明らかになった(図2B)。タンパク質構造のらせん度の変化は、典型的には、ペプチド結合におけるn→π*遷移に対応する吸収222nmの吸収バンドへの変化によって評価される。CDデータから判断して、222nmでの吸収はほぼ同一であり、これはhAPQ4の膜貫通部分が無傷であったことを意味する。したがって、脂質二重層の疎水性尾部領域は同じままであり、結果としてタンパク質二次構造が保持された。209nmでの振幅の小さな変化の理由は、タンパク質の不規則な部分に対する小さな修飾である可能性があり、これは、それらの部分の一部がシリカに曝露されるため、妥当であろう。
【0119】
この例は、薄いシリカシェルに被覆することによってhAQP4含有プロテオリポソームを安定化する方法を開示した。重要なことに、タンパク質の天然の立体構造はケイ化時に維持された。
【0120】
上記の実施形態は、本発明のいくつかの例示的な例として理解されるべきである。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に様々な修正、組合せ、および変更を加えることができることを理解するであろう。特に、異なる実施形態における異なる部分の解決策は、技術的に可能な場合、他の構成で組み合わせることができる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2024-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜(3)を含む高分子膜構造体(2)であって、
前記膜(3)が、水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含、前記膜(3)の第1の表面全体、前記の水を通過させる膜内在性タンパク質(1)の水を通過させる機能を維持しながら、1nm~100nmの範囲内で選択される平均厚みを有するシリカ層(4)で直接的に被覆されていることを特徴とする、高分子膜構造体(2)。
【請求項2】
高分子膜構造体(2)を調製するための方法であって、
水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む膜(3)をシリカ前駆体と接触させて、前記の水を通過させる膜内在性タンパク質(1)の水を通過させる機能を維持しながら、前記膜(3)の第1の表面全体の上に直接的に被覆されたシリカ層(4)を形成することを含ここで、前記シリカ層(4)は1nm~100nmの範囲内で選択される平均厚みを有することによって特徴付けられる、方法。
【請求項3】
濾過装置(5)の調製方法であって、
水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む膜(3)を多孔性支持体(6)上および/または多孔性支持体(6)内に沈着させることと、
前記多孔性支持体(6)上および/または前記多孔性支持体(6)内に沈着した水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む前記膜(3)をシリカ前駆体と接触させて、前記の水を通過させる膜内在性タンパク質(1)の水を通過させる機能を維持しながら、前記膜(3)の第1の表面全体の上に直接的に被覆されたシリカ層(4)を形成することと
を含
ここで、前記シリカ層(4)は1nm~100nmの範囲内で選択される平均厚みを有することによって特徴付けられる、方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0120
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0120】
上記の実施形態は、本発明のいくつかの例示的な例として理解されるべきである。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に様々な修正、組合せ、および変更を加えることができることを理解するであろう。特に、異なる実施形態における異なる部分の解決策は、技術的に可能な場合、他の構成で組み合わせることができる。
本発明に包含され得る諸態様または諸実施形態は、以下のとおり要約される。
[1].
水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む膜(3)であって、前記膜(3)の第1の表面がシリカ層(4)で被覆された膜(3)を含む、高分子膜構造体(2)。
[2].
前記膜(3)が、両親媒性分子を含む二重層膜(3)である、上記項目1に記載の高分子膜構造体。
[3].
前記膜(3)が、脂質二重層膜(3)であり、前記脂質二重層(3)の両親媒性脂質が、好ましくは、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、コレステロール、スフィンゴミエリン、アソレクチン、ジフィタノイルホスファチジルコリン(DPhPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジヘプタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DHPC)、1,2-ジヘキサノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DHPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、ジミリストイルホスファチジルセリン(DMPS)、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](DMPG)、1-ミリストイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(14:0 リゾPC)または1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(16:0 リゾPC)などのリゾPC、1-パルミトイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(16:0 リゾPE)または1-オレオイル-2-ヒドロキシ-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(18:1 リゾPE)などのリゾPE、1,2-ジデカノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DDPC)、1,2-ジエルコイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DEPA)、1,2-エルコイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DEPC)、1,2-ジエルコイ-sn-アリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DEPE)、1,2-リノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLOPC)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DLPA)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセルコ-3-ホスホエタノールアミン(DLPE)、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DLPS)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DMPA)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DMPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DOPA)、1,2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホセリン(DOPS)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DPPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセルコ-3-ホスホセリン(DPPS)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファート(DSPA)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオステアルピル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、1-ミリストイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(MSPC)、1-パルミトイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PMPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(POPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(POPE)、1-パルミトイル-2-ステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(PSPC)、1-ステアロイル-2-ミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SMPC)、1-ステアロイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SOPC)、1-ステアロイル-2-パルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(SPPC)、細胞膜からの脂質、細胞小器官からの脂質、架橋性脂質、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくはPOPCである、上記項目2に記載の高分子膜構造体。
[4].
前記両親媒性分子が、両親媒性AB、ABAおよびABCコポリマーならびにそれらの混合物、例えばポリ(メチルオキサゾリン)-ポリ(ジメチルシロキサン)-ポリ(メチルオキサゾリン)(PMOXA-PDMS-PMOXA)、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)-b-ポリ(ジメチルシロキサン)-b-ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(PEtOz-PDMS-PEtOz)およびそれらの混合物から選択される、上記項目2に記載の高分子膜構造体。
[5].
前記膜(3)が、プロテオリポソームまたはプロテオポリマーソームであり、前記プロテオリポソームまたはプロテオポリマーソームの外面が前記シリカ層(4)で被覆されている、上記項目1~4のいずれかに記載の高分子膜構造体。
[6].
水を通過させる膜内在性タンパク質(1)が、アクアポリンであり、好ましくは、hAQP0、hAQP1、hAQP2、hAQP3、hAQP4、hAQP5、hAQP6、hAQP7、hAQP8、hAQP9、hAQP10、hAQP11、hAQP12、好ましくはhAQP0、hAQP1、hAQP2、hAQP4、hAQP5、hAQP6、またはhAQP8、より好ましくはhAPQ4などのヒトアクアポリン(hAQP);bAQP1などのウシアクアポリン;cpAQP1aaなどの魚アクアポリン;Aqy1などの酵母アクアポリン;SoPIP2;1、AtTIP2;1またはAtPIP2;4などの植物アクアポリン;AqpZなどの細菌アクアポリン;およびそれらの混合物からなる群から選択される、上記項目1~5のいずれかに記載の高分子膜構造体。
[7].
前記シリカ層(4)が、0.1nm~1000nm、好ましくは1nm~100nm、より好ましくは1nm~10nmの範囲内で選択される平均厚みを有する、上記項目1~6のいずれかに記載の高分子膜構造体。
[8].
前記水を通過させる膜内在性タンパク質(1)が、前記シリカ層(4)の存在下で前記膜(3)に水を通すことができる、上記項目1~7のいずれかに記載の高分子膜構造体。
[9].
前記シリカ層(4)が、好ましくはフルオロアルキルシラン(FAS)などのシラン、ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)などのアルコキシシラン、またはそれらの組合せを含む官能性シリカ層(4)である、上記項目1~8のいずれかに記載の高分子膜構造体。
[10].
濾過装置(5)であって、
複数の細孔(7)を含む多孔性支持体(6)と、
上記項目1~9のいずれかに記載の高分子膜構造体(2)と
を含む、濾過装置(5)。
[11].
前記高分子膜構造体(2)が、前記多孔性支持体(6)の表面に設けられている、および/または前記多孔性支持体(6)の前記細孔(7)内に設けられている、上記項目10に記載の濾過装置。
[12].
前記多孔性支持体(6)が、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリジフェニルフェニレンエーテル、セルロース、ポリビニレンセルロースアセタート、セルロースジアセタート、セルローストリアセタート、セルロースニトラート、ポリフェニレンスルフィド、ニトロセルロース、アセチル化メチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、有機シロキサンカーボネート、ポリエステルカーボネート、有機ポリシロキサン、ポリエチレンオキシド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ナイロンおよびこれらの混合物などのポリマー;アルミニウム、チタン、ジルコニウム、鉄、またはそれらの酸化物などの金属、または前記金属の酸化物;二酸化ケイ素;ガラス繊維;ならびにそれらの混合物からなる群から選択される材料で形成されている、上記項目10または11に記載の濾過装置。
[13].
前記濾過装置(5)が、上記項目9に記載の高分子膜構造体(2)を含み、および
官能性シリカ層(4)の官能基は、前記高分子膜構造体(2)を前記多孔性支持体(6)に連結する、
上記項目10~12のいずれかに記載の濾過装置。
[14].
水濾液を調製する方法であって、上記項目1~9のいずれかに記載の高分子膜構造体(2)または上記項目10~13のいずれかに記載の濾過装置(5)を通して水溶液を濾過して前記水濾液を得ることを含む、方法。
[15].
水溶液に溶解または分散した化合物を濃縮する方法であって、上記項目1~9のいずれかに記載の高分子膜構造体(2)または上記項目10~13のいずれかに記載の濾過装置(5)によって前記水溶液を濾過して、前記化合物を含まない水濾液および前記水溶液よりも高濃度で前記化合物を含む保持液を得ることを含む、方法。
[16].
高分子膜構造体(2)を調製するための方法であって、水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む膜(3)をシリカ前駆体と接触させて、前記膜(3)の第1の表面上に被覆されたシリカ層(4)を形成することを含む、方法。
[17].
濾過装置(5)の調製方法であって、
水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む膜(3)を多孔性支持体(6)上および/または多孔性支持体(6)内に沈着させることと、
前記多孔性支持体(6)上および/または前記多孔性支持体(6)内に沈着した水を通過させる膜内在性タンパク質(1)を含む前記膜(3)をシリカ前駆体と接触させて、前記膜(3)の第1の表面上に被覆されたシリカ層(5)を形成することと
を含む、方法。
[18].
前記シリカ前駆体が、テトラメチルオルトシリケート(TMOS)、テトラエチルオルトシリケート(TEOS)、テトラプロピルオルトシリケート、テトラブチルオルトシリケート、メチルトリエトキシシロキサン(MTES)、ジメチルジエトキシシロキサン(DMDES)、テトラキス(グリセロール)オルトシリケート(TGS)またはテトラキス-(2-ヒドロキシエチル)-オルトシリケート(THEOS)などのシリコンアルコキシド;アリルトリメトキシシラン、(3-アミノプロピル)トリエトキシシラン、ブチルトリクロロシラン、クロロペンタメチルジシラン、1,2-ジクロロテトラメチルジシラン、ジエトキシジフェニルシラン、[3-(ジエチルアミノ)プロピル]トリメトキシシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシ(メチル)オクチルシラン、(3-グリシジルオキシプロピル)トリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラン、イソブチル(トリメトキシ)シラン、メチルトリクロロシラン、ペンタメチルジシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、テトラエチルシラン、1,1,2,2-テトラメチルジシラン、テトラメチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシオクチルシラン、トリメトキシフェニルシラン、トリエトキシフェニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリメトキシメチルシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、四塩化ケイ素(テトラクロロシラン)、四臭化ケイ素(テトラブロミドシラン)またはγ-アミノプロピルシラントリオール(APSTOL)などのシラン:ケイ酸ナトリウムなどのシリケート:トリス(tert-ペントキシ)シラノールまたはトリス(tert-ブトキシ)シラノールなどのシラノール;シラザン、N-sec-ブチル(トリメチルシリル)アミン、およびそれらの組合せからなる群から選択され、好ましくはTEOSである、上記項目16または17に記載の方法。
【外国語明細書】