(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161037
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】積層シート、容器、キャリアテープ、及び電子部品包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20241108BHJP
B65D 73/02 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
B32B27/30 B
B65D73/02
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024140673
(22)【出願日】2024-08-22
(62)【分割の表示】P 2022508226の分割
【原出願日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2020049712
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐子
(72)【発明者】
【氏名】藤原 純平
(72)【発明者】
【氏名】谷中 亮輔
(57)【要約】
【課題】 十分な耐折強度を有するとともに、打抜きやスリット加工によってバリが発生しにくい積層シート、並びにそれを用いて得られる容器、キャリアテープ、及び電子部品包装体を提供すること。
【解決手段】 積層シート10は、基材層1と、該基材層1の少なくとも一方の面に積層された表面層2,3と、を備え、基材層1が、第1の熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、を含み、表面層2,3が、第2の熱可塑性樹脂と、導電性材料と、を含み、基材層1における無機フィラーの含有量が、基材層全量を基準として、0.3~28質量%である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、該基材層の少なくとも一方の面に積層された表面層と、を備え、
前記基材層が、第1の熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、を含み、
前記表面層が、第2の熱可塑性樹脂と、導電性材料と、を含み、
前記基材層における前記無機フィラーの含有量が、基材層全量を基準として、6~28質量%(10重量%以下の範囲を除く)であり、
前記第1の熱可塑性樹脂が、スチレン系樹脂を含み、
前記第2の熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂を含む、
積層シート。
【請求項2】
基材層と、該基材層の少なくとも一方の面に積層された表面層と、を備え、
前記基材層が、第1の熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、を含み、
前記表面層が、第2の熱可塑性樹脂と、導電性材料と、を含み、
前記基材層における前記無機フィラーの含有量が、基材層全量を基準として、6~28質量%であり、
前記第1の熱可塑性樹脂が、アクリロニトリル-スチレン共重合体を含み、
前記第2の熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂を含む、
積層シート。
【請求項3】
基材層と、該基材層の少なくとも一方の面に積層された表面層と、を備え、
前記基材層が、第1の熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、を含み、
前記表面層が、第2の熱可塑性樹脂と、導電性材料と、を含み、
前記基材層における前記無機フィラーの含有量が、基材層全量を基準として、6~28質量%であり、
前記第1の熱可塑性樹脂が、耐衝撃性ポリスチレン樹脂を含み、
前記第2の熱可塑性樹脂が、耐衝撃性ポリスチレン樹脂を含み、
前記無機フィラーの平均一次粒径が25nm~5.0μmである、
積層シート。
【請求項4】
前記無機フィラーの平均一次粒径が25nm~5.0μmである、請求項1又は2に記載の積層シート。
【請求項5】
前記基材層が、前記無機フィラーとして、カーボンブラックを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項6】
前記基材層が、前記第1の熱可塑性樹脂として、前記表面層に含まれる前記第2の熱可塑性樹脂と同じ種類の熱可塑性樹脂を含み、前記無機フィラーとして、前記表面層に含まれる前記導電性材料と同じ材料からなる無機フィラーを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項7】
前記表面層における前記導電性材料の含有量が、表面層全量を基準として、10~30質量%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項8】
前記基材層の厚みが、積層シート全体の厚みに対して70~97%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の積層シートの成形体である、容器。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の積層シートの成形体であって、物品を収容できる収容部が設けられている、キャリアテープ。
【請求項11】
請求項10に記載のキャリアテープと、前記キャリアテープの前記収容部に収容された電子部品と、蓋材として前記キャリアテープに接着されたカバーフィルムと、を備える、電子部品包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シート、容器、キャリアテープ、及び電子部品包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や自動車などの工業製品の中間製品の包装容器には、樹脂シートを加熱成形して得られる真空成形トレイ、エンボスキャリアテープなどが使用されている。そして静電気を嫌うICや、ICを有する各種の部品の包装容器用シートとして、熱可塑性樹脂からなる基材層に、熱可塑性樹脂とカーボンブラック等の導電性材料とを含有する表面層を積層した積層シートが使用されている(例えば、下記特許文献1~3参照)。キャリアテープを作製する際には、必要に応じて原反シートをスリット加工したスリット品などが用いられる。エンボスキャリアテープにおいては、IC等の各種電子部品の封入工程等での搬送に使われる送り穴等が設けられる(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-76422号公報
【特許文献2】特開平9-76425号公報
【特許文献3】特開平9-174769号公報
【特許文献4】特開平5-201467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、IC等の電子部品の小型化にともなって、キャリアテープ等の性能として、原反シートをスリット加工する際や送り穴等を打ち抜く際にその断面に発生するバリが小さいことが求められている。一方で、エンボスキャリアテープを形成するための樹脂シートにおいては、打抜きやスリット加工によるバリが発生しにくいだけでなく、真空成形、圧空成形、プレス成形等の公知のシート成形方法によっても割れが発生しにくくなるように十分な耐折強度を有している必要もある。
【0005】
本発明は、十分な耐折強度を有するとともに、打抜きやスリット加工によってバリが発生しにくい積層シート、並びにそれを用いて得られる容器、キャリアテープ、及び電子部品包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一側面は、基材層と、該基材層の少なくとも一方の面に積層された表面層と、を備え、基材層が、第1の熱可塑性樹脂と、無機フィラーと、を含み、表面層が、第2の熱可塑性樹脂と、導電性材料と、を含み、基材層における無機フィラーの含有量が、基材層全量を基準として、0.3~28質量%である、積層シートを提供する。
【0007】
上記の積層シートにおいて、無機フィラーの平均一次粒径が25nm~5.0μmであることが好ましい。
【0008】
上記基材層は、無機フィラーとして、カーボンブラックを含むことができる。
【0009】
上記基材層は、第1の熱可塑性樹脂として、表面層に含まれる第2の熱可塑性樹脂と同じ種類の熱可塑性樹脂を含み、無機フィラーとして、表面層に含まれる導電性材料と同じ材料からなる無機フィラーを含むことができる。
【0010】
上記表面層における導電性材料の含有量は、表面層全量を基準として、10~30質量%とすることができる。
【0011】
上記基材層の厚みは、積層シート全体の厚みに対して70~97%とすることができる。
【0012】
本発明の別の側面は、上記の積層シートの成形体である容器を提供する。
【0013】
本発明の別の側面は、上記の積層シートの成形体であって、物品を収容できる収容部が設けられている、キャリアテープを提供する。
【0014】
本発明の別の側面は、上記キャリアテープと、キャリアテープの収容部に収容された電子部品と、蓋材として前記キャリアテープに接着されたカバーフィルムと、を備える、電子部品包装体を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、十分な耐折強度を有するとともに、打抜きやスリット加工によってバリが発生しにくい積層シート、並びにそれを用いて得られる容器、キャリアテープ、及び電子部品包装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】積層シートの一実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】キャリアテープの一実施形態を示す一部切り欠き斜視図である。
【
図3】電子部品包装体の一実施形態を示す一部切り欠き斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
[積層シート]
本実施形態の積層シートは、基材層と、該基材層の少なくとも一方の面に積層された表面層とを備え、基材層が、第1の熱可塑性樹脂と、無機フィラーとを含み、表面層が、第2の熱可塑性樹脂と、導電性材料とを含む。なお、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂は、同じ樹脂であってもよいし、互いに異なる樹脂であってもよい。
【0019】
図1は、本実施形態の積層シートの一実施形態を示す模式断面図である。
図1に示す積層シート10は、基材層1と、基材層1の両面に積層された表面層2,3とを備える。表面層は、基材層1の一方面にのみ積層されていてもよい。
【0020】
<基材層>
基材層に含まれる第1の熱可塑性樹脂としては、スチレン系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリエステル樹脂(PET、PBT等)などが挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、一種を単独で或いは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン樹脂(GPPS)、耐衝撃性ポリスチレン樹脂(ゴム変性スチレン樹脂、HIPS)、並びに、アクリロニトリル、ブタジエン、エチレン-プロピレン-ジエン、ブタジエン、メタクリル酸メチル等の単量体とスチレンとの共重合体(AS、ABS、AES、MS等)が挙げられる。
【0022】
スチレン系樹脂を構成する芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン等が挙げられる。これらの芳香族ビニル単量体のうち、スチレン、ビニルトルエン、o-メチルスチレン等を使用することができ、スチレンを使用することが好ましい。
【0023】
耐衝撃性ポリスチレン樹脂とは、共役ジエンを主分とするゴム状弾性体にスチレン単量体がグラフト重合したポリスチレン樹脂である。使用される共役ジエンとしては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン等が挙げられる。これらのうち、1,3-ブタジエンを使用することが好ましい。
【0024】
オレフィン系樹脂としては、例えば、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン等のポリエチレン樹脂;ポリプロピレン樹脂;エチレンと、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン等の炭素数3以上のαオレフィン系炭化水素とを共重合させたエチレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。オレフィン系樹脂は、オレフィンと、オレフィンと共重合可能な極性基を有する単量体との共重合体であってもよい。このような樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エチル共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体等の3元共重合体等が挙げられる。これらのオレフィン系樹脂は、単独で或いは他のオレフィン系樹脂と併用して使用することができる。
【0025】
ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族-脂肪族ポリカーボネートが挙げられる。芳香族ポリカーボネート樹脂は、通常エンジニアプラスチックに分類されるもので、一般的なビスフェノールAとホスゲンとの重縮合又はビスフェノールAと炭酸エステルとの重縮合により得られるものを用いることができる。機械的強度の点で芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0026】
ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸とジオールとの重縮合反応によって得られる樹脂を用いることができる。ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、及び無水マレイン酸等が挙げられる。これらは一種を単独で或いは二種以上を組み合わせて使用することができる。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、及び1,3-プロパンジオール等が挙げられる。これらは一種を単独で或いは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
基材層は、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂のうちの一種以上を含むことが好ましい。
【0028】
基材層に含まれる無機フィラーとしては、カーボンブラック、グラファイト、CNT、黒鉛、炭酸カルシウム、タルク、シリカ等が挙げられる。これらの無機フィラーは、一種を単独で或いは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
無機フィラーは、熱可塑性樹脂との相溶性や分散性の向上のため、酸化処理やコーティング等の表面改質が施されたものであってもよい。
【0030】
無機フィラーの形状としては、特に限定されないが、球状、針状、板状、鱗片状であってもよい。
【0031】
無機フィラーの平均一次粒径は、バリの抑制と耐折強度とを高水準で両立する観点から、25nm~5.0μmが好ましく、25nm~100nmがより好ましく、25nm~55nmが更に好ましい。
【0032】
なお、無機フィラーの平均一次粒径は以下の方法によって求められる。
まず、超音波分散機を用い、150kHz、0.4kWの条件で無機フィラーの試料をクロロホルムに10分間分散させて、分散試料を調製する。この分散試料を、カーボン補強した支持膜に振り掛けて固定し、これを透過型電子顕微鏡(日本電子製、JEM-2100)で撮影する。50000~200000倍に拡大した画像からEndterの装置を用いてランダムに1000個以上の無機フィラーの粒子径(球状以外の形状の場合は最大径)を測定し、その平均値を平均一次粒子径とする。
【0033】
基材層における無機フィラーの含有量は、基材層全量を基準として、0.3~28質量%とすることができる。このような基材層を備える積層シートは、十分な耐折強度を有するとともに、打抜きやスリット加工によってバリが発生しにくいものになり得る。無機フィラーの含有量は、バリを一層抑制する観点から、基材層全量を基準として、0.9~28質量%であることが好ましく、6~28質量%であることがより好ましい。無機フィラーの含有量は、耐折強度をする観点から、基材層全量を基準として、0.3~25質量%であることが好ましく、0.3~10質量%であることがより好ましい。
【0034】
上記と同様の観点から、基材層における無機フィラーの含有量は、第1の熱可塑性樹脂及び無機フィラーの質量の合計質量を基準として、0.3~28質量%であってもよく、0.9~28質量%であってもよく、6~28質量%であってもよく、0.3~25質量%であってもよく、0.3~10質量%であってもよい。
【0035】
基材層には、可塑剤、加工助剤、導電材などの各種添加剤を添加することができる。
【0036】
基材層は再生材が配合されたものであってもよい。再生材としては、例えば、基材層及び表面層が積層された積層シートの両端部を粉砕したものや、製造工程中の端材などが挙げられる。基材層における再生材の配合割合は、基材層全量を基準として、2~30質量%とすることができ、2~20質量%であってもよく、2~15質量%であってもよい。
【0037】
基材層は、第1の熱可塑性樹脂として、表面層に含まれる第2の熱可塑性樹脂と同じ種類の熱可塑性樹脂を含み、無機フィラーとして、表面層に含まれる導電性材料と同じ材料からなる無機フィラーを含むことができる。このような基材層は、上述した再生材の配合により形成することができる。この場合、基材層における無機フィラーの含有量が上述した範囲内になるように再生材の配合量を適宜設定することができる。
【0038】
基材層の厚みは、100~300μmであってもよい。基材層の厚み(
図1におけるT
1)は、積層シート全体の厚み(
図1におけるT
0)に対して70~97%とすることができる。表面層が基材層の両面に設けられている場合、基材層の厚みは、積層シート全体の厚みに対して70~94%であることが好ましい。表面層が基材層の片面のみに設けられている場合、基材層の厚みは、積層シート全体の厚みに対して85~97%であることが好ましい。
【0039】
<表面層>
表面層に含まれる第2の熱可塑性樹脂としては、上述した第1の熱可塑性樹脂と同様の樹脂を用いることができる。
【0040】
表面層は、スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂のうちの一種以上を含むことが好ましい。
【0041】
表面層に含まれる導電性材料としては、カーボンブラック、グラファイト、CNT、黒鉛、ケッチェンブラック等が挙げられる。これらの導電性材料は、一種を単独で或いは二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
導電性材料は粒子であってもよく、その場合の導電性材料の平均一次粒径は、10nm~5.0μmであってもよく、20~50nmであってもよい。導電性材料の平均一次粒径は、上述した無機フィラーの平均一次粒径と同様の方法で求められる。
【0043】
表面層における導電性材料の含有量は、表面層全量を基準として、10~30質量%とすることができ、20~30質量%であってもよい。
【0044】
表面層は、表面抵抗率が102~1010Ω/□であることが好ましい。表面層の表面抵抗率がこの範囲であると、静電気による電子部品の破壊や、外部から電気が流入することによる電子部品の破壊を防止することが容易となる。
【0045】
表面層には、滑剤、可塑剤、加工助剤などの各種添加剤を添加することができる。
【0046】
表面層の厚みは、10~100μmであってもよい。表面層が基材層の両面に設けられている場合、それぞれの表面層の厚み(
図1におけるT
2、T
3)は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0047】
積層シートの厚みは、用途に応じて適宜設定することができ、100μm~1.0mmとすることができる。小型化した電子部品の包装容器或いはキャリアテープに用いられる場合、例えば、100~300μmとすることができる。
【0048】
本実施形態の積層シートは、加工が施されていない原反シートであってもよく、スリット品などの所定の加工が施されたものであってもよい。
【0049】
本実施形態の積層シートは、真空成形法、圧空成形法、プレス成形法等といった公知の熱成形方法によって、用途に応じた形状に成形することができる。
【0050】
本実施形態の積層シートは、IC等の能動部品、ICを備える部品、コンデンサやコネクタ等の受動部品や機構部品の包装容器の材料として使用することができ、真空成形トレー、マガジン、エンボスが設けられたキャリアテープ(エンボスキャリアテープ)などに好適に使用できる。
【0051】
本実施形態の積層シートによれば、打抜きやスリット加工によってバリが発生しにくいことから、スリット品においてはスリットする際に発生するバリを極めて小さくすることができ、エンボスキャリアテープにおいては送り穴等を打ち抜く際にその断面に発生するバリを極めて小さくすることができる。また、本実施形態の積層シートによれば、十分な耐折強度を有していることから、成形時の割れの発生を抑制できる。
【0052】
[積層シートの製造方法]
本実施形態に係る積層シートは、一般的な方法で製造することができる。例えば、基材層を形成するための基材層形成用組成物として、基材層を構成する原料を押出機等の公知の方法を用いて混練、ペレット化したペレットと、表面層を形成するための表面層形成用組成物として、表面層を構成する原料を押出機等の公知の方法を用いて混練、ペレット化したペレットとを用意し、これらのペレットを用いて、押出機等の公知の方法によって積層シートとすることにより製造することができる。押出機温度は例えば200~280℃に設定することができる。
【0053】
基材層と表面層は、基材層形成用組成物及び表面層形成用組成物のそれぞれを別々の押出機によりシートもしくはフィルム状に成形した後、熱ラミネート法、ドライラミネート法および押出ラミネート法等により段階的に積層してもよく、或いは、予め基材層形成用組成物から成形した基材層シートの片面又は両面に、表面層形成用組成物からなる表面層を押出コーティング等の方法により積層してもよい。
【0054】
また、積層シートは、基材層及び表面層を構成する原料(例えば、上記ペレット)をそれぞれ個別の押出機に供給し、マルチマニホールドを有する多層Tダイを用いた押出成形、又はフィードブロックを用いたTダイ法押出成形などの多層共押出法によって製造することができる。この方法は一工程で積層シートが得られる点で好ましい。
【0055】
基材層に再生材を配合する場合、基材層の原料と再生材とを、基材層を形成する押出機に供給することができる。この場合、所定の基材層の組成が得られるように、再生材の種類及び配合量に応じて押出機に供給する原料の配合量は適宜調整される。
【0056】
[容器、キャリアテープ及び電子部品包装体]
本実施形態の容器は、上記の本実施形態に係る積層シートの成形体である。容器は、用途に応じた形状に本実施形態に係る積層シートを成形することにより得ることができる。成形方法としては、真空成形法、圧空成形法、プレス成形法等の公知の熱成形方法を用いることができる。
【0057】
成形温度としては、100~500℃が挙げられる。
【0058】
本実施形態のキャリアテープは、上記の本実施形態に係る積層シートの成形体であって、物品を収容できる収容部が設けられている。
図2は、キャリアテープの一実施形態を示す斜視図である。
図2に示すキャリアテープ100は、エンボス成形によって収容部20が設けられた本実施形態に係る積層シートの成形体12からなるエンボスキャリアテープである。成形体12には、IC等の各種電子部品の封入工程等での搬送に使用することができる送り穴30が設けられている。収容部20の底部には、電子部品検査のための穴が設けられていてもよい。
【0059】
送り穴30は、例えば、打抜き加工によって設けることができる。本実施形態に係る積層シートは、打抜き断面に発生するバリを極めて小さくすることができることから、送り穴30の径が小さい場合であっても、バリ脱離による部品への異物混入とそれに伴う実装時のショートの影響を十分に小さくすることができる。そのため、本実施形態のキャリアテープは、小型化した電子部品の包装容器として好適である。
【0060】
本実施形態のキャリアテープにおいては、上記の形状を有する送り穴における打抜きバリ比率を4.0%以下とすることができる。ここで、打抜きバリ比率とは、打抜き方向からみた、バリが生じない所定の打抜き面積に対するバリの面積の比率を意味する。例えば、打抜きの形状が真円である場合、打抜き面積はバリのない真円の面積を指す。
【0061】
本実施形態のキャリアテープは、リール状に巻き取ることができる。
【0062】
本実施形態のキャリアテープは、電子部品の包装用容器として好適である。電子部品としては、例えば、IC、LED(発光ダイオード)、抵抗、液晶、コンデンサー、トランジスター、圧電素子レジスター、フィルター、水晶発振子、水晶振動子、ダイオード、コネクター、スイッチ、ボリュウム、リレー、インダクタ等が挙げられる。電子部品は、上記の部品を使用した中間製品であってもよく、最終製品であってもよい。
【0063】
本実施形態の電子部品包装体は、上記の本実施形態のキャリアテープと、キャリアテープの収容部に収容された電子部品と、蓋材として前記キャリアテープに接着されたカバーフィルムと、を備える。
図3は、電子部品包装体の一実施形態を示す一部切り欠き斜視図である。
図3に示す電子部品包装体200は、収容部20及び送り穴30が設けられた本実施形態に係る積層シートの成形体12からなるエンボスキャリアテープと、収容部20に収容された電子部品40と、エンボスキャリアテープに接着されたカバーフィルム50とを備える。
【0064】
カバーフィルムとしては、例えば、特許第4630046号や特許第5894578号に開示されるものが挙げられる。
【0065】
カバーフィルムは、電子部品を収容したエンボスキャリアテープの上面にヒートシールによって接着することができる。
【0066】
本実施形態の電子部品包装体は、リール状に巻き取ったキャリアテープ体として、電子部品の保管及び搬送に用いることができる。
【実施例0067】
以下、実施例及び比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
[積層シートの作製]
(実施例1~17、比較例1~2)
表1及び2に示す原料を同表に示す組成割合(質量%)となるように各々計量し、高速混合機により均一混合した後、φ45mmベント式二軸押出機を用いて混練し、ストランドカット法によりペレット化し、表面層形成用樹脂組成物及び基材層形成用樹脂組成物をそれぞれ得た。これらの組成物を用い、φ65mm押出機(L/D=28)、φ40mm押出機(L/D=26)及び500mm幅のTダイを用いたフィードブロック法により、基材層の両面に形成される表面層がほぼ同じ肉厚となるように表面層/基材層/表面層の積層構造を有する積層シートを作製した。なお、積層シートの厚みは0.25mmであり、表面層/基材層/表面層の厚みの比は1:18:1であった。
【0069】
表1及び2に示す原料の詳細は下記のとおりである、
熱可塑性樹脂1:ポリカーボネート樹脂(帝人社製、製品名「パンライトL-1225L」)
熱可塑性樹脂2:ポリブチレンテレフタレート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、製品名「ノバデュラン5010R8M」)
熱可塑性樹脂3:耐衝撃性ポリスチレン樹脂(デンカ社製、製品名「H700」)
熱可塑性樹脂4:アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(デンカ社製、製品名「SE-10」)
熱可塑性樹脂5:アクリロニトリル-スチレン共重合体(デンカ社製、製品名「GR-ATR」)
導電性材料1:カーボンブラック(デンカ社製、製品名「デンカブラック粒状」、平均一次粒子径:35nm)
無機フィラー1:カーボンブラック(東海カーボン社製、製品名「TOKABLAC#5500」、平均一次粒子径:25nm)
無機フィラー2:カーボンブラック(旭カーボン社製、製品名「旭#51」、平均一次粒子径:91nm)
無機フィラー3:シリカ(アドマテックス社製、製品名「YA010C」、平均一次粒子径:10nm)
無機フィラー4:シリカ(日本触媒社製、製品名「KE-P10」、平均一次粒子径:100nm)
【0070】
なお、導電性材料及び無機フィラーの平均一次粒子径は、以下の方法によって求めた。
まず、超音波分散機を用い、150kHz、0.4kWの条件で無機フィラー又は導電性材料の試料をクロロホルムに10分間分散させて、分散試料を調製した。この分散試料を、カーボン補強した支持膜に振り掛けて固定し、これを透過型電子顕微鏡(日本電子製、JEM-2100)で撮影した。50000~200000倍に拡大した画像からEndterの装置を用いてランダムに1000個以上の無機フィラーの粒子径(球状以外の形状の場合は最大径)を測定し、その平均値を平均一次粒子径とした。
【0071】
[積層シートの評価]
積層シートの押出方向にサンプリングし、以下に示す方法によって評価を行った。これらの結果を表1及び2にまとめて示す。
【0072】
(1)打抜きバリ比率
温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下に24時間放置したシートサンプルに、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下にて、Muehlbauer社製の真空ロータリー成形機(CT8/24)を用いて、打抜き穴を設けた。なお、打抜きは、スプロケットホールピン先端径1.5mmの円柱状打抜きピンと、直径1.58mmのダイ穴とを備える打抜き装置を用い、240m/hの速度で行った。
【0073】
上記で形成したシート打抜き穴を、顕微測定機(ミツトヨ社製、製品名「MF-A1720H(画像ユニット6D)」)を用いて、落射が0%、透過が40%、リングが0%の光源環境で撮影した。撮影した画像を、Adobe Photoshop Elements 14(Adobe、製品名)を用いて、2階調化フィルターでしきい値128を指定し、スプロケットホール部分のみ白色となるように処理した。直径1.5mmの穴の大きさに対応するピクセル数を「バリの無いスプロケットホールの白色ピクセル数」とした。白色のピクセル数を記録し、下記の式から打抜きバリ比率を求めた。
打抜きバリ比率(%)=(1-(記録した白色のピクセル数)/(バリの無いスプロケットホールの白色ピクセル数))×100
【0074】
(2)耐折強度
シートサンプルから、JIS-P-8115(2001年)に準拠し、シート押出方向に長さ150mm、幅15mm、厚さ0.25mmの試験片を作製した。この試験片を、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下に24時間放置後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気下にて東洋精機製作所製のMIT耐折疲労試験機を用いてMIT耐折強度の測定を行った。測定は、折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175回毎分、測定荷重250gの条件で行った。この測定を繰り返したときに、試験片が切れたときの折り曲げ回数を耐折強度として評価した。
【0075】
【0076】
【0077】
表1及び2に示すように、実施例1~17の積層シートは、10回以上の耐折強度を有するとともに、打抜きバリ比率が4.0%以下となることが確認された。特に、実施例9及び10の積層シートは、2.0%以下の打抜きバリ比率と、100回以上の耐折強度とを両立することができた。一方、比較例1の積層シートは、打抜きバリ比率が4.0%を超えており、比較例1の積層シートは、耐折強度が10回未満であった。
1…基材層、2,3…表面層、10…積層シート、12…成形体、20…収容部、30…送り穴、40…電子部品、50…カバーフィルム、100…キャリアテープ、200…電子部品包装体。