(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161038
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】里芋の乾燥機
(51)【国際特許分類】
A23B 7/02 20060101AFI20241108BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20241108BHJP
A23L 19/10 20160101ALI20241108BHJP
A23N 12/08 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
A23B7/02
A23L19/00 B
A23L19/10
A23N12/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024140681
(22)【出願日】2024-08-22
(62)【分割の表示】P 2022069470の分割
【原出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】513156250
【氏名又は名称】株式会社藤田青果
(74)【代理人】
【識別番号】100142217
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 宜紀
(74)【代理人】
【識別番号】100119367
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 理
(72)【発明者】
【氏名】藤田 暦喜
(57)【要約】
【課題】大量の里芋を、出荷する前に比較的短時間で、輸送中の里芋の良品率が向上する
よう処理することができる里芋の乾燥機を提供する。
【解決手段】里芋Tの乾燥機1は、単位乾燥室5、単位乾燥室5の上側に配置した、供給する熱風の温度を調節することができる熱風発生装置6、及び、単位乾燥室5の下側に配置した、熱風発生装置6で発生した熱風を排出するための排気ダクト7を有する、一列に並ぶ複数の乾燥ユニット4と、前後方向に一列に並ぶ単位乾燥室5を連結して構成した乾燥室2を貫通する搬送路3Aを有するコンベヤー3とを備え、熱風発生装置6で発生した熱風を乾燥室2に供給して該乾燥室2を通過させながら該乾燥室2内の温度を摂氏50度以上に維持し、多数の里芋Tをコンベヤー3で搬送路沿いに搬送して乾燥室内2を通過させることにより、里芋Tの欠き口を乾燥させて該欠き口に乾燥層を形成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位乾燥室、前記単位乾燥室の上側に配置した、供給する熱風の温度を調節することができる熱風発生装置、及び、前記単位乾燥室の下側に配置した、前記熱風発生装置で発生した熱風を排出するための排気ダクトを有する、一列に並ぶ複数の乾燥ユニットと、
前後方向に一列に並ぶ前記単位乾燥室を連結して構成した乾燥室を貫通する搬送路を有するコンベヤーとを備え、
前記熱風発生装置で発生した熱風を前記乾燥室に供給して該乾燥室を通過させながら該乾燥室内の温度を摂氏50度以上に維持し、
多数の里芋を前記コンベヤーで前記搬送路沿いに搬送して前記乾燥室内を通過させることにより、
前記里芋の欠き口を乾燥させて該欠き口に乾燥層を形成することを特徴とする里芋の乾燥機。
【請求項2】
請求項1に記載の里芋の乾燥機であって、
前記コンベヤーは、前記里芋を載せる搬送用無端ベルトとしてメッシュベルトを備え、
前記搬送用無端ベルトは、前記乾燥室の下方を通る帰還路を経て前記搬送路に再び戻るよう循環し、
前記乾燥室は、当該乾燥室の上側に前記熱風の供給口を有すると共に、当該乾燥室の下側に前記熱風の排出口を有し、かつ前記搬送路の直下に配設した、前記熱風の下方への流れを妨げるプレートを有することを特徴とする里芋の乾燥機。
【請求項3】
請求項2に記載の里芋の乾燥機であって、
前記プレートは、前記里芋の搬送方向に波状に湾曲させた波板からなることを特徴とする里芋の乾燥機。
【請求項4】
請求項3に記載の里芋の乾燥機であって、
前記搬送路は、搬送方向の少なくとも一箇所に段差を有することを特徴とする里芋の乾燥機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、里芋を出荷前に処理するために用いる里芋の乾燥機に関する。
【背景技術】
【0002】
前述の里芋の出荷前の処理方法は、主に、農家等の里芋生産者から大量の里芋を集荷する里芋選果場において、スーパーマーケット等の小売業者や消費者へ出荷する前に、輸送中及び消費者に届いた後も当該里芋の品質を極力良好に維持することができるようにするために実施される。
【0003】
一般に、畑から掘取った里芋は里芋選果場に集められる。そして集荷された多量の里芋は、里芋選果場で形状・品質や大きさに応じて仕分けられ、箱詰等の必要な包装が施された後、出荷される。ところが、里芋選果場から出荷された里芋が輸送中に腐って不良品となり、その不良品が小売業者や消費者に届くことがあった。そのため、里芋の輸送中の良品率を向上させことが要望されていた。
【0004】
従来、里芋の腐敗については、貯蔵中の里芋にフザリウム菌によって乾腐病が発生して腐ることが知られており、この貯蔵中の里芋の乾腐病を防ぐために、例えば特許文献1には、里芋に吸水させ、この里芋を遠赤外線の連続照射により、里芋の表面温度を60~70℃として1~5分保持する乾腐病の防除方法、及び里芋を載置して搬送するメッシュベルトを備えたコンベヤーと、メッシュベルトの上下両側に設置し里芋に遠赤外線を照射するヒーターと、このヒーターの出力およびコンベヤーの速度を、里芋の表面温度60~70℃で1~5分保持するように、あらかじめ求めたデータを基に制御する制御装置とから構成した里芋の乾腐病の防除装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した従来の乾腐病の防除方法や乾腐病の防除装置は、種芋となる里芋を冷蔵庫に長期保存するために有効かもしれないが、里芋選果場では、集荷された大量の里芋を極力早く出荷する必要があるため、その大量の里芋を出荷前に短時間で、輸送中及び消費者に届いた後も里芋の品質を極力良好に維持できるよう処理するためには適していない。
【0007】
即ち、上述した従来の乾腐病の防除方法では、里芋が充分に吸水するために例えば24時間というような長時間を要するだけでなく、里芋を水に所定時間浸漬して吸水させる必要があり、そのための貯水槽等の設備が必要になる。
【0008】
また、上述の里芋の乾腐病の防除装置では、里芋の表面温度を所要温度にするために、メッシュベルトの上下両側に設置したヒーターから、コンベヤーのメッシュベルト上の里芋に遠赤外線を照射するので、里芋の、遠赤外線が直接当たる部分と陰の部分とでは、遠赤外線が届く量が異なる。また里芋表面の各部分における赤外線入射角度も異なる。そのため里芋の表面全体が一様に発熱せず里芋の表面各部間に温度差が生じ得る。特に、里芋は、欠き口が湿っていると、その欠き口から腐敗が進行すると考えられ、大量の里芋をメッシュベルトを備えたコンベヤーで搬送し、その搬送路の上下両側に設けたヒーターから遠赤外線を照射したとしても、里芋相互間において里芋の欠き口に乾燥ムラが生じ易く、輸送中の里芋の良品率向上を望めない。
【0009】
本発明は、従来の、このような問題点に鑑みてなされたものである。本発明の主な目的は、大量の里芋を、出荷する前に比較的短時間で、輸送中の里芋の良品率が向上するよう処理することができる里芋の乾燥機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0010】
本発明の第1の側面に係る里芋の乾燥機によれば、単位乾燥室、前記単位乾燥室の上側に配置した、供給する熱風の温度を調節することができる熱風発生装置、及び、前記単位乾燥室の下側に配置した、前記熱風発生装置で発生した熱風を排出するための排気ダクトを有する、一列に並ぶ複数の乾燥ユニットと、前後方向に一列に並ぶ前記単位乾燥室を連結して構成した乾燥室を貫通する搬送路を有するコンベヤーとを備え、前記熱風発生装置で発生した熱風を前記乾燥室に供給して該乾燥室を通過させながら該乾燥室内の温度を摂氏50度以上に維持し、多数の里芋を前記コンベヤーで前記搬送路沿いに搬送して前記乾燥室内を通過させることにより、前記里芋の欠き口を乾燥させて該欠き口に乾燥層を形成するよう構成できる。
【0011】
前記構成により、大量の里芋を出荷する前に輸送中の里芋の良品率が向上するよう比較的短時間で処理することができる。
【0012】
本発明の第2の側面に係る里芋の乾燥機によれば、前記コンベヤーは、前記里芋を載せる搬送用無端ベルトとしてメッシュベルトを備え、前記搬送用無端ベルトは、前記乾燥室の下方を通る帰還路を経て前記搬送路に再び戻るよう循環し、前記乾燥室は、当該乾燥室の上側に前記熱風の供給口を有すると共に、当該乾燥室の下側に前記熱風の排出口を有し、かつ前記搬送路の直下に配設した、前記熱風の下方への流れを妨げるプレートを有するよう構成できる。
【0013】
前記構成により、メッシュベルトを通過した熱風をプレートで受け止めて、メッシュベルト上の里芋の下側にも充分な熱風を当てることができるので、多量の里芋の表面全体を夫々効率良く乾燥させることができ、里芋の欠き口に乾燥ムラが生じるのを抑えることができる。
【0014】
本発明の第3の側面に係る里芋の乾燥機によれば、前記プレートは、前記里芋の搬送方向に波状に湾曲させた波板からなるよう構成できる。
【0015】
前記構成により、波板からなるプレートに当たった熱風はコンベヤーの搬送方向に逃げにくいので、欠き口を含む里芋の表面全体を更に効果的に乾燥させることが可能になる。
【0016】
本発明の第4の側面に係る里芋の乾燥機によれば、前記搬送路は、搬送方向の少なくとも一箇所に段差を有するよう構成できる。
【0017】
前記構成により、搬送中の里芋が段差の部分で転がり、里芋の上下が反転するので、欠き口を含む里芋全体を一層均等に乾燥させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】比較例1に係る里芋の欠き口の縦断面表層付近の拡大写真である。
【
図4】実施例4に係る里芋の欠き口の縦断面表層付近の拡大写真である。
【
図5】実施例6に係る里芋の欠き口の縦断面表層付近の拡大写真である。
【
図6】処理後の経過日数と商品価値ある里芋の個数及び良品率との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための里芋の乾燥機を例示するものであって、本発明はそれらを以下のものに特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
(乾燥機)
【0020】
図1及び
図2は、本発明の里芋の乾燥機の一例を示し、この乾燥機1は、乾燥室2と、里芋Tの搬送路3Aを有するコンベヤー3とを備えており、里芋Tの搬送路3Aは乾燥室2を貫通している。
図1の紙面左側が乾燥室2の前側であり、
図1の紙面右側が乾燥室2の後側である。コンベヤー3は、里芋Tを乾燥室2の前側から後側へ搬送路3Aに沿って搬送する。
【0021】
乾燥機1は、この実施形態では、里芋Tを効果的に乾燥させるためにコンベヤー3による搬送方向に一列に並ぶ6台の乾燥ユニット4を備えており、この乾燥ユニット4は、夫々単位乾燥室5と、単位乾燥室5の上側に配置した熱風発生装置6と、単位乾燥室5の下側に配置した排気ダクト7とを備えている。そして乾燥室2は、乾燥ユニット4毎の単位乾燥室5を前後方向に連結して構成してある。なお
図1では単位乾燥室5及び排気ダクト7を、乾燥室2の前後方向に伸びた鉛直面で切断したと仮定したときの断面図で示している。
【0022】
単位乾燥室5は、その前後左右及び上下を夫々板で囲んで直方体状に形成してあり、その前側及び後側の板に形成した、コンベヤー3及び里芋Tを通すための開口8a、8bと、その上側の板に形成した、熱風発生装置6で発生した熱風を導入するための供給口9と、その下側の板に形成した、熱風を排気ダクト7に排出するための複数の排出口10とを有している
【0023】
図2において、熱風発生装置6は、空気取入口11aを有する燃焼ダクト11内にバーナー12でLPGガスを噴射して燃焼ダクト11内で燃焼させることで熱風を発生させ、この熱風を送風機13で乾燥室2に送ることができるように構成されている。更に、熱風発生装置6は、熱風の供給口9の近くに配置した、単位乾燥室5に供給される熱風の温度を検出する温度センサ14を備え、この温度センサ14で検出した熱風の温度が、予め設定した温度になるようバーナー12を自動的に操作する図示しない温度調節装置を備えている。
【0024】
排気ダクト7の上面は、
図1に示すように夫々単位乾燥室5の排出口10から排出される熱風を受け入れるために開口しており、6台の乾燥ユニット4の排気ダクト7は、隣り合う同士で結合されて一つの排気路15を形成している。最も後側の排気ダクト7は、乾燥機1の外部に設けた図示しない排気ダクトに通じる開口16を有している。この開口16は、必要に応じて、例えば乾燥ユニット4毎に設けてもよい。
【0025】
コンベヤー3は、里芋Tを載せる搬送用無端ベルト17として、熱風を表面側から裏面側へ通過させることができる金網状のメッシュベルトを備えている。搬送用無端ベルト17は、
図2に二点鎖線で示すように乾燥室2の左右方向に所定の幅を有し、
図1に一点鎖線で示すようにローラ部18a、18b、18c、18d、18e、18f、18g、18h及び18iに掛けてあり、ローラ部18hをモータ19により回転駆動することで、乾燥室2の下側にある排気ダクト7の下方を通る帰還路3Bを経て搬送路3Aに再び戻るよう循環する。搬送路3Aはローラ部18a~18dによって形成され、帰還路3Bはローラ部18d、18e~18i、18aによって形成されている。また搬送路3Aは、その一部分が搬送方向に下降するよう傾斜した段差20を有しており、この段差20は、ローラ部18bと18cによって形成されている。
【0026】
コンベヤー3の前端部分には、乾燥機1の機外から、図示しないコンベアにより里芋Tが随時供給されるようになっており、乾燥室2を通過した里芋Tは、コンベヤー3の後端部分から、図示しないコンベヤーにより、乾燥機1の機外の所定位置に搬出されるようになっている。
【0027】
熱風発生装置6で発生した熱風は、供給口9から単位乾燥室5に供給され、搬送路3Aに沿って搬送される里芋Tに吹付けられ、搬送用無端ベルト17を上側から下側へ通過し、更に排出口10から排気ダクト7へ排出される。搬送用無端ベルト17を上側から下側へ通過した熱風を里芋Tの下側部分の乾燥に十分利用できるようにするために、単位乾燥室5は、搬送路3Aの直下に配設したプレート21を有している。このプレート21は、搬送用無端ベルト17を通過した熱風が、そのまま下方へ流れるのを妨げるためのものであり、搬送用無端ベルト17の里芋Tの搬送方向に波状に湾曲させた波板からなる。
(里芋の出荷前の処理方法)
【0028】
本発明の里芋の乾燥機を用いて里芋を出荷前に処理するには、上述の里芋の乾燥機1を設置しておき、熱風発生装置6で発生した熱風を乾燥室2に供給して該乾燥室2を通過させながら該乾燥室2内の温度つまり乾燥室2を通過する熱風の温度を調節して所定値に維持しておく。そして多数の里芋Tを、コンベヤー3で搬送路3A沿いに搬送して乾燥室2内を通過させることにより、乾燥室2内を里芋Tが通過する間に、里芋Tの欠き口を乾燥させて該欠き口に後述する乾燥層を形成する。里芋Tの欠き口は、里芋の親芋と子芋と又は子芋と孫芋とを分離したときにできる分離面、或いは里芋を切断したときにできる切断面である。このとき里芋Tの表皮部分に水分が付着していても、その水分が乾燥室2内を里芋Tが通過する間に蒸発して表皮部分も乾燥する。里芋Tの出荷前の処理が終わると、熱風発生装置6から乾燥室2への熱風の供給を停止すると共にコンベヤー3の作動を停止する。
【実施例0029】
本発明の里芋の出荷前の処理方法によって処理された里芋の品質の変化を把握するために、300個の里芋を50個ずつ6組に分け、この6組に対し、乾燥機1を用い、各組毎に乾燥室2内の温度を異なる温度に保って里芋の出荷前の処理方法を夫々実施した。
【0030】
この乾燥機1において、コンベヤー3の搬送重量が最大毎分60キログラムであり、コンベヤー3の搬送速度は毎分6メートルである。またバーナー12はLPGガスバーナーであり、乾燥室2内に供給される風量は、乾燥ユニット4毎の送風機13が送り出す風量を合計して毎分480立方メートルであり、乾燥室2の通過時間は135秒である。乾燥室2内の温度は、乾燥室2内の搬送路3A付近に設置した温度計22で実施例毎に計測し、その計測した温度が、実施例1では摂氏30度、実施例2では摂氏50度、実施例3では摂氏60度、実施例4では摂氏64度、実施例5では摂氏68度、実施例6では摂氏72度になるよう乾燥室2内の温度を調節し、その調節した温度毎に50個の里芋をコンベヤー3に供給して乾燥室2を通過させた。
【0031】
更に、比較例1として、乾燥室2内に熱風を供給することなく、50個の里芋をコンベヤー3に供給して乾燥室2を通過させた。このときの乾燥室2内の温度は摂氏8度であった。
【0032】
実施例1~実施例6及び比較例1で使用した各50個の里芋は、上述の処理をする一日前に同一の生産者から里芋選果場に出荷されたものであり、しかも出荷された里芋の中から欠き口が腐りかけているものや、腐っている里芋を取り除いたものである。
(処理後の欠き口の状態)
【0033】
実施例1~実施例6及び比較例1について、乾燥室2から搬出された直後に里芋の欠き口の乾燥状態を夫々観察した。
【0034】
比較例1に係る里芋については、乾燥室2に搬入する前と、乾燥室2を通過した後とを比較しても里芋の欠き口の状態に変化は見られず、乾燥室2から搬出された里芋の欠き口は、液体による光沢が認められ、液体が滲み出て湿っているように見えた。また、指先で欠き口に触れて指先を欠き口から離すとき僅かな粘着力を感じた。
【0035】
実施例1に係る里芋は充分には乾燥していないように見え、実施例2に係る里芋、実施例3に係る里芋、実施例4に係る里芋、実施例5に係る里芋及び実施例6に係る里芋には、何れも欠き口の表面に液体の滲み出しや、液体の光沢が認められず、さらさらに乾燥しているように見えた。また指先で欠き口に触れて指先を離すとき、比較例1に係る里芋の欠き口のような粘着力を感じなかった。実施例1~実施例6に係る里芋の夫々の欠き口の色は、乾燥室2内の温度が高かったものほど白色に近いように見えた。
【0036】
更に、比較例1に係る里芋、実施例4に係る里芋、及び実施例6に係る里芋について、夫々欠き口を、その表面に対して略直交方向に切断し、その欠き口の切断面(つまり欠き口の縦断面)の表層付近を、顕微鏡を用いて撮影した。
図3は比較例1に係る拡大写真であり、
図4は実施例4に係る拡大写真であり、
図5は実施例6に係る拡大写真である。
図3~
図5の写真の右寄り部分には里芋が写っており、左寄り部分には背景が写っている。
図3において、里芋の、写真の中央付近に見られる欠き口の表層部分も、写真の右端寄り部分に見られる、表層部分より深い部分も略一様な組織となっている。
図4及び
図5において、夫々、写真の中央付近に見られる里芋の表層部分の組織と、写真の右寄りに見られる、表層部分より深い部分の組織とは相違している。そして写真中の矢印で指示する箇所に、つまり欠き口の表層部分と、それより深い部分との境界に中空部分が生じている。このような欠き口の表面に近くの中空部分や、欠き口の表層部分は、欠き口の乾燥によって生じたものであり、このような表層部分が欠き口に生じることにより、里芋の欠き口からの腐敗が抑制されると考察される。ここで
図4及び
図5に見られるような欠き口の表層部分を乾燥層と呼ぶことにする。なお
図4及び
図5において、写真中央付近の色の濃い部分は、欠き口の表面に付着していた土と思われる。
(実施例の効果の検証)
【0037】
乾燥室2を通過した実施例1~実施例6及び比較例1に係る各50個の里芋を、実施例毎に別々のナイロン袋に入れ、それらを別々の箱に収容することで、傷みやすい状態にして常温で保管し、その里芋の品質の劣化具合を一定期間1日毎に観察した。観察時に、欠き口にぬめりがあり、柔らかくなったもので、組織が溶けたような里芋が見つかると、その里芋は傷んだもの、つまり商品価値がなくなったものとして箱の外へ取り出した。この観察結果を表1及び
図6に示す。
【表1】
【0038】
表1は、処理後の経過日数と、傷みや黴等が生じた里芋の個数の関係を示すものであり、表1の「傷み」の列の数字は、傷んで商品価値のなくなった里芋の個数を示し、「黴等」の列の数字は、黴が生じて商品価値が無くなった里芋の個数を示す。また表1の「黴等」の列の「A」~「F」は、一部の里芋に、商品価値は有するものの品質劣化の徴候が見られたことを示すもので、「A」は、欠き口に赤い斑点が生じたこと、「B」は欠き口が柔らかくなったこと、「C」はナイロン袋内に臭いが生じたこと、「D」は欠き口にぬめりが生じたこと、「E」は里芋の尻の部分が柔らかくなったこと、「F」は、里芋が萎びたことを示している。
【0039】
表1に示すように、実施例1~実施例6では、里芋に品質劣化の兆候が表れる時期が、比較例1に比べて遅くなっている。更に、摂氏60度の乾燥室2を通過した実施例3や、摂氏64度の乾燥室2を通過した実施例4では、里芋の品質劣化の兆候が表れる時期が、他の実施例に比べて遅くなっている。
【0040】
通常、里芋選果場からスーパーマーケット等の小売業者に里芋を出荷した場合、その里芋の輸送に一週間程度を要し、小売業者が、入荷した里芋を包装して店頭に並べ、その里芋を消費者が購入するまでに一週間程度かかり、その里芋を消費者が消費するまでに一週間程度かかると見込んでいる。また小売業者は、輸送期間中に傷んだ里芋が、ある程度生じることは認めており、入荷した里芋の良品率が95%以上であれば、里芋選果場に対してクレームを付けることはない。したがって、本発明の里芋の出荷前の処理方法を施して里芋選果場から出荷した里芋の3週間後の良品率が95%以上であれば十分であり、その里芋は、輸送中及び消費者に届いた後も良好に品質を維持できると評価できる。
【0041】
図6は、処理後の経過日数と、箱内に残った商品価値のある里芋の個数及び良品率との関係を示す線図である。
図6において、1週間(7日)経過後の里芋の良品率に注目すると、摂氏30度の乾燥室2を通過した実施例1に係る里芋は50個中1個が傷んでおり、その良品率は98%であり、摂氏50度の乾燥室2を通過した実施例2に係る里芋は50個中傷んだものは1個もなく良品率は100%、摂氏60度の乾燥室2を通過した実施例3に係る里芋は50個中傷んだものは1個も無く良品率は100%、摂氏64度の乾燥室2を通過した実施例4に係る里芋は50個中傷んだものは1個もなく良品率は100%、摂氏68度の乾燥室2を通過した実施例5に係る里芋は50個中1個が傷んでおり、その良品率は98%、摂氏72度の乾燥室2を通過した実施例6に係る里芋は50個中3個が傷んでおり、その良品率は94%、無風及び無加温状態の乾燥室2を通過した比較例1に係る里芋は50個中3個が傷んでおり、その良品率は94%である。したがって、比較例1に係る里芋の1週間経過後の良品率が94%であるのに対し、実施例1~実施例5に係る里芋は、1週間経過後でも良品率95%以上を維持しているので、実施例1~実施例5での里芋の処理が有効であったことが判る。摂氏72度の乾燥室2を通過した実施例6に係る里芋については、その欠き口等の表層部分の細胞組織が熱により破壊されることで傷み易くなったと考察される。
【0042】
また、
図6において、出荷から3週間経過後の実施例1~実施例6及び比較例1に係る里芋の良品率に注目すると、摂氏30度の乾燥室2を通過した実施例1に係る里芋は50個中7個が傷んでおり、その良品率は86%であり、摂氏50度の乾燥室2を通過した実施例2に係る里芋は50個中1個傷んでおり、その良品率は98%、摂氏60度の乾燥室2を通過した実施例3に係る里芋は50個中4個傷んでおり、その良品率は92%、摂氏64度の乾燥室2を通過した実施例4に係る里芋は50個中傷んだものは1個もなく、その良品率は100%、摂氏68度の乾燥室2を通過した実施例5に係る里芋は50個中3個が傷んでおり、その良品率は94%、摂氏72度の乾燥室2を通過した実施例5に係る里芋は50個中10個が傷んでおり、その良品率は80%、無風及び無加温状態の乾燥室2を通過した比較例1に係る里芋は50個中12個が傷んでおり、その良品率は76%である。したがって、摂氏50度の乾燥室2を通過した実施例2に係る里芋、摂氏64度の乾燥室2を通過した実施例4に係る里芋は、夫々処理後3週間を経過しても良品率95%以上を維持しているので、実施例2及び実施例4での里芋の処理は有効であったことが判る。
【0043】
摂氏60度の乾燥室2を通過した実施例3に係る里芋、及び摂氏68度の乾燥室2を通過した実施例5に係る里芋は、3週間経過後の良品率が94%、92%で、何れも良品率90%を越えており、無風及び無加温状態の乾燥室2を通過した比較例1に係る里芋の3週間経過後の良品率が76%であるのと比べると、かなり高い良品率を維持している。
【0044】
実施例1~実施例6及び比較例1に係る里芋は、乾燥室2を通過した後、傷みやすい状態にして常温で保存しているが、実際には、里芋選果場や小売店では、入荷した大量の里芋を冷蔵庫に入れて保管する等、極力傷みにくい状態で保管する。それゆえ、実施例3、実施例5に係る里芋も、実際の流通過程において普段通り適切に保管していれば、里芋選果場から出荷後3週間経過しても良品率が95%以上となることは十分期待できる。
【0045】
以上のように、本発明の里芋の出荷前の処理方法は、実際の管理条件よりも悪条件で実施しても、実施例2及び実施例4に係る里芋は、処理から3週間経過後の良品率95%以上という設定条件を達成しており、また実施例3、実施例5に係る里芋についても、処理から3週間経過後の良品率が90%以上となっており、出荷後3週間経過しても良品率が95%以上になることが十分期待できるので、環境に応じて乾燥機1の稼働条件を最適化すれば、大量の里芋を短時間で処理する里芋の出荷前の処理方法としては十分な実用性を発揮し得るといえる。