IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人慶應義塾の特許一覧 ▶ 株式会社ヤクルト本社の特許一覧

<>
  • 特開-併用抗がん剤の感受性の判定マーカー 図1
  • 特開-併用抗がん剤の感受性の判定マーカー 図2
  • 特開-併用抗がん剤の感受性の判定マーカー 図3
  • 特開-併用抗がん剤の感受性の判定マーカー 図4
  • 特開-併用抗がん剤の感受性の判定マーカー 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016105
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】併用抗がん剤の感受性の判定マーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240130BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240130BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240130BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20240130BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20240130BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20240130BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
G01N33/68
A61P35/00
A61K45/00 101
A61P43/00 121
A61K31/282
A61K31/513
A61K31/519
A61K39/395 N
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023185180
(22)【出願日】2023-10-30
(62)【分割の表示】P 2020549320の分割
【原出願日】2019-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2018185142
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 伸二
(72)【発明者】
【氏名】谷川原 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松尾 光寿
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛行
(57)【要約】      (修正有)
【課題】抗がん剤治療開始後早期感受性判定マーカーの提供。
【解決手段】2AMAD、2ABA、2CYPR、5OPRO、6AHXA、ADEN、ASP、BETNC、CARB、CSSG、DOPM、GGLCY、GSSG、HYPT、METSF、N6MDA、NOMTR、PHEP、PRO及びRIB5Pから選ばれる1以上の分子からなる、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
cysteine-glutathione disulphide(CSSG)からなる、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカー。
【請求項2】
抗がん剤が、さらにベバシズマブを含む請求項1記載のマーカー。
【請求項3】
少なくとも1サイクルのオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療を受けたがん患者由来の生体試料中のCSSGの量を測定する工程を含む、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測のための方法。
【請求項4】
抗がん剤が、さらにベバシズマブを含む請求項3記載の予後予測のための方法。
【請求項5】
少なくとも1サイクルのオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療を受けたがん患者由来の生体試料中のCSSGの量を測定するためのプロトコールを含むことを特徴とする請求項3又は4記載の予後予測のための方法を実施するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象となる患者のがんが、使用する抗がん剤に治療反応性を有するか否かを抗がん剤治療開始後早期に判定するために用いる抗がん剤感受性判定マーカー及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤には、アルキル化剤、白金製剤、代謝拮抗剤、抗がん性抗生物質、抗がん性植物アルカロイド等の種類がある。そしてこれらの抗がん剤には、がんの種類によって効果を示す場合と効果を示さない場合がある。しかし、有効であると認められている種類のがんであっても、個々の患者によって効果を示す場合と効果を示さない場合があることが知られている。このような個々の患者のがんに対して抗がん剤が効果を示すか否かを抗がん剤感受性という。
【0003】
オキサリプラチン(SP-4-2)-[(1R,2R)-cyclohexane-1,2-diamine-κN,κN’][ethanedioato(2-)-κO1,κO2]platinum(IUPAC)は第三世代白金錯体系抗悪性腫瘍薬である。作用機序は先行薬剤であるシスプラチン(CDDP)やカルボプラチン(CBDCA)と同様、DNA塩基との架橋形成によるDNA合成阻害、蛋白合成阻害と考えられているが、CDDPやCBDCAが無効な大腸癌に対してもオキサリプラチン(L-OHP)は抗腫瘍効果を示し、従来の白金錯体系抗悪性腫瘍薬とは異なる抗腫瘍スペクトルを示す。アメリカでは2004年1月にフルオロウラシル(5-FU)/レボホリナート(LV)との併用で転移性結腸・直腸癌のファーストライン治療として承認されており、日本においても2005年4月、「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」に対して他の抗悪性腫瘍剤との併用(本剤はレボホリナート及びフルオロウラシルの静脈内持続投与法等との併用の場合に有用性が認められている)にて薬価収載された。進行再発大腸癌の治療は、1990年代前半まで行われていた5-FU/LV療法での生存率は10~12ヶ月であったのに対し、オキサリプラチンを加えたFOLFOX療法での生存期間は19.5ヶ月とほぼ2倍にまで到達している。さらに2009年8月には、同じくレボホリナート及びフルオロウラシルの静脈内持続投与法との併用による「結腸癌における術後補助化学療法」が効能・効果として追加され、大腸癌患者での使用拡大と有益性が期待できる薬剤である。大腸癌以外でも、2009年8月には治癒切除不能な膵癌で、2015年3月には胃癌で、いずれも他の化学療法剤との併用で効能・効果が追加されている。
【0004】
しかし、それでもなお進行再発大腸癌に対するFOLFOX療法の奏効率は50%程度であり、換言すれば治療を受けた患者の半数は効果が得られていないことを意味する。また、オキサリプラチンの使用により好中球減少症のほか高頻度の末梢神経障害を呈し、これは致死的副作用ではないものの治療継続を困難にする因子ともなっている。したがって、治療開始前に効果の期待できる患者(レスポンダー)と、効果の期待できない患者(ノンレスポンダー)を予測し、治療反応性を早期に診断できるバイオマーカーにより、有効性と安全性の高い化学療法が実現する。
【0005】
さらに、一般にがん化学療法の治療スケジュールは長期に渡るため、治療継続中における抗がん剤に対する感受性の経時的モニターは治療継続の可否の判定を可能とし、患者負担や副作用軽減につながるのみならず医療経済の観点からも有用であると考えられる。個々の患者における治療反応性を予測、そして早期に診断して適切な薬剤や治療レジメンを選択する「個別化治療」実現のためには、オキサリプラチン等の抗がん剤の効果予測もしくは治療応答性の早期診断を可能とするバイオマーカーの確立は急務である。
【0006】
かかる観点から本発明者らは、薬剤感受性の異なる複数のヒトがん細胞株あるいは当該細胞株を移植した担癌マウスに薬剤を曝露し、薬剤曝露後の細胞内代謝変動についてキャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析計(CE-TOF MS)を用いて網羅的に解析し、薬剤感受性と比較解析することにより、抗がん剤感受性判定マーカーの探索を行い、いくつかのマーカーを報告した(特許文献1~4)。しかしながら、これらのマーカーは、いまだ実用化には至っていない。また、近年では、FOLFOX療法にベバシズマブ、セツキシマブやパニツムマブ等の抗体医薬を加えた併用療法も確立されていることから、FOLFOX療法の効果予測もしくは治療応答性の早期診断を可能とするバイオマーカーの重要性は益々増大している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2009/096189号
【特許文献2】国際公開第2011/052750号
【特許文献3】国際公開第2012/127984号
【特許文献4】国際公開第2013/125675号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、個々の患者の治療反応性を治療開始後早期に判別できる抗がん剤感受性判定マーカーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、結腸・直腸がん患者の血液検体を対象とし、ベバシズマブ併用mFOLFOX6療法1サイクル実施後又は2サイクル実施後の血中代謝物をCE-Q-TOF MS及びCE-TOF MSを用いて網羅的に測定し、得られた代謝物の濃度を説明変数とし、臨床効果を目的変数としたロジスティック解析を行った。その結果、ベバシズマブ併用mFOLFOX6療法に対する治療反応性の高いレスポンダー群の患者と治療反応性の低いノンレスポンダー群の患者との間で、特定の物質の濃度が相違すること、また、これらの物質が抗がん剤の治療開始後早期の感受性判定マーカーとして有用であることを見出した。また、本発明者らは、当該がん患者の1サイクル実施後の血中代謝物と残余の全生存期間、又は2サイクル実施後の血中代謝物と残余の全生存期間について、比例ハザードモデル解析を行った。その結果、特定の物質の血中濃度が高いほど生存期間が長いこと、別の特定の物質の血中濃度が高いほど生存期間が短いこと、また、これらの物質が抗がん剤の治療開始後早期の予後予測マーカーとして有用であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔15〕の発明を提供するものである。
〔1〕2-aminoadipic acid(2AMAD)、2-aminobutyric acid(2ABA)、2-cyanopyridine(2CYPR)、5-oxoproline(5OPRO)、6-aminohexanoic acid(6AHXA)、adenosine(ADEN)、aspartic acid(ASP)、betonicine(BETNC)、carbachol(CARB)、cysteine-glutathione disulphide(CSSG)、dopamine(DOPM)、gamma-glutamylcysteine(GGLCY)、oxidized glutathione(GSSG)、hypotaurine(HYPT)、methionine sulfoxide(METSF)、N6-methyl-2’-deoxyadenosine(N6MDA)、N-omega-methyltryptamine(NOMTR)、phenyl phosphate(PHEP)、proline(PRO)及びribulose 5-phosphate(RIB5P)から選ばれる1以上の分子からなる、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカー。
〔2〕抗がん剤が、さらにベバシズマブを含む〔1〕記載のマーカー。
〔3〕少なくとも1サイクルのオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療を受けたがん患者由来の生体試料中の2AMAD、2ABA、2CYPR、5OPRO、6AHXA、ADEN、ASP、BETNC、CARB、CSSG、DOPM、GGLCY、GSSG、HYPT、METSF、N6MDA、NOMTR、PHEP、PRO及びRIB5Pから選ばれる1以上の分子の量を測定する工程を含む、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定方法。
〔4〕さらに、前記測定結果を対照レベルと比較することにより、当該がん患者の抗がん剤に対する感受性を判定する工程を含む〔3〕記載の判定方法。
〔5〕当該がん患者が1サイクルの抗がん剤治療を受けた患者であり、2AMAD、2CYPR、6AHXA、BETNC、CARB、CSSG、GGLCY、GSSG、N6MDA、NOMTR、PHEP及びRIB5Pから選ばれる1以上の分子の量を測定するものであり、前記対照レベルがレスポンダーのカットオフ値であって、該カットオフ値が2AMADの場合に2.091×10-2≦であり、2CYPRの場合に3.444×10-3≦であり、6AHXAの場合に7.175×10-3≦であり、BETNCの場合に1.589×10-2≦であり、CARBの場合に≦8.472×10-3であり、CSSGの場合に2.198×10-2≦であり、GGLCYの場合に7.389×10-3≦であり、GSSGの場合に5.606×10-4≦であり、N6MDAの場合に≦1.208×10-3であり、NOMTRの場合に≦7.006×10-2であり、PHEPの場合に≦1.801×10-2であり、RIB5Pの場合に≦3.005×10-3である〔4〕記載の判定方法。
〔6〕当該がん患者が1サイクルの抗がん剤治療を受けた患者であり、さらに、次式(1)により、レスポンダーである確率(p)を算出し、当該がん患者がレスポンダーであるか否かを判定する工程を含む〔3〕記載の判定方法。
【数1】
(式中、2AMADは、2AMADの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-16.2688を、カットオフ値未満であった場合に16.2688を示し、BETNCは、BETNCの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-8.6560を、カットオフ値未満であった場合に8.6560を示し、CSSGは、CSSGの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-1.4372を、カットオフ値未満であった場合に1.4372を示し、N6MDAは、N6MDAの測定結果がカットオフ値以下であった場合に-8.6658を、カットオフ値を超えた場合に8.6658を示し、RIB5Pは、RIB5Pの測定結果がカットオフ値以下であった場合に-1.3451を、カットオフ値を超えた場合に1.3451を示し、該カットオフ値は、2AMADの場合に2.091×10-2であり、BETNCの場合に1.589×10-2であり、CSSGの場合に2.198×10-2であり、N6MDAの場合に1.208×10-3であり、RIB5Pの場合に3.005×10-3である。)
〔7〕当該がん患者が2サイクルの抗がん剤治療を受けた患者であり、2ABA、5OPRO、6AHXA、ADEN、ASP、DOPM、HYPT、METSF及びPROから選ばれる1以上の分子の量を測定するものであり、前記対照レベルがレスポンダーのカットオフ値であって、該カットオフ値が2ABAの場合に2.507×10-1≦であり、5OPROの場合に1.843×10-1≦であり、6AHXAの場合に4.568×10-3≦であり、ADENの場合に2.305×10-2≦であり、ASPの場合に≦1.170×10-1であり、DOPMの場合に5.606×10-4≦であり、HYPTの場合に≦1.768×10-2であり、METSFの場合に3.836×10-2≦であり、PROの場合に2.9876≦である〔4〕記載の判定方法。
〔8〕当該がん患者が2サイクルの抗がん剤治療を受けた患者であり、さらに、次式(2)により、レスポンダーである確率(p)を算出し、当該がん患者がレスポンダーであるか否かを判定する工程を含む〔3〕記載の判定方法。
【数2】
(式中、2ABAは、2ABAの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-2.3059を、カットオフ値未満であった場合に2.3059を示し、ASPは、ASPの測定結果がカットオフ値以下であった場合に-1.8154を、カットオフ値を超えた場合に1.8154を示し、DOPMは、DOPMの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-1.6345を、カットオフ値未満であった場合に1.6345を示し、HYPTは、HYPTの測定結果がカットオフ値以下であった場合に-2.4113を、カットオフ値を超えた場合に2.4113を示し、METSFは、METSFの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-1.5555を、カットオフ値未満であった場合に1.5555を示し、PROは、PROの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-9.0794を、カットオフ値未満であった場合に9.0794を示し、該カットオフ値は、2ABAの場合に2.507×10-1であり、ASPの場合に1.170×10-1であり、DOPMの場合に5.606×10-4であり、HYPTの場合に1.768×10-2であり、MESFの場合に3.836×10-2であり、PROの場合に2.9876である。)
〔9〕抗がん剤が、さらにベバシズマブを含む〔3〕~〔8〕のいずれかに記載の判定方法。
〔10〕10-hydroxydecanoic acid(10HDA)、2AMAD、alanine(ALA)、benzimidazole(BEZIZ)、cholic acid(CHOA)、CSSG、dodecanedioic acid(DDNA)、GGLCY、gluconic acid(GLCOA)、glutamic acid(GLU)、glutaric acid(GLTA)、glycerol-3-phosphate(GLC3P)、glycylleucine(GLYLE)、guanidinosuccinic acid(GUSA)、leucine(LEU)、lysine(LYS)、N6-acetyllysine(N6ALY)、octanoic acid(OCTA)、pipecolic acid(PIPEC)、quinic acid(QUINA)、threonine(THR)及びvaline(VAL)から選ばれる1以上の分子からなる、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカー。
〔11〕抗がん剤が、さらにベバシズマブを含む〔10〕記載のマーカー。
〔12〕少なくとも1サイクルのオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療を受けたがん患者由来の生体試料中の10HDA、2AMAD、ALA、BEZIZ、CHOA、CSSG、DDNA、GGLCY、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、GLYLE、GUSA、LEU、LYS、N6ALY、OCTA、PIPEC、QUINA、THR及びVALから選ばれる1以上の分子の量を測定する工程を含む、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測方法。
〔13〕抗がん剤が、さらにベバシズマブを含む〔12〕記載の予後予測方法。
〔14〕少なくとも1サイクルのオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療を受けたがん患者由来の生体試料中の2AMAD、2ABA、2CYPR、5OPRO、6AHXA、ADEN、ASP、BETNC、CARB、CSSG、DOPM、GGLCY、GSSG、HYPT、METSF、N6MDA、NOMTR、PHEP、PRO及びRIB5Pから選ばれる1以上の分子の量を測定するためのプロトコールを含むことを特徴とする〔3〕~〔9〕のいずれかに記載の判定方法を実施するためのキット。
〔15〕少なくとも1サイクルのオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療を受けたがん患者由来の生体試料中の10HDA、2AMAD、alanine(ALA)、BEZIZ、CHOA、CSSG、DDNA、GGLCY、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、GLYLE、GUSA、LEU、LYS、N6ALY、OCTA、PIPEC、QUINA、THR及びVALから選ばれる1以上の分子の量を測定するためのプロトコールを含むことを特徴とする〔12〕又は〔13〕記載の予後予測方法を実施するためのキット。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカー又は抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーを用いれば、個々の患者の抗がん剤感受性又は予後を治療開始後早期に評価することが可能となり、治療を継続すべきか否かの判定ができる。その結果、治療効果の高い抗がん剤については、継続投与の判断が可能となる一方、治療効果の得られない抗がん剤については、継続投与を回避できるため、継続投与していた場合に想定されるがんの進行、副作用の増大を防止でき、患者の負担軽減、医療費の削減にもつながる。本発明の抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカー又は抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーの測定試薬は、抗がん剤の治療開始後早期感受性判定試薬又は抗がん剤の治療開始後早期予後予測試薬として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ベバシズマブ併用mFOLFOX6療法に対する治療反応性の異なるレスポンダー(R)群とノンレスポンダー(N-R)群で治療1サイクル実施後の濃度に有意差が見られた物質を示す図である。
図2】ベバシズマブ併用mFOLFOX6療法に対する治療反応性の異なるレスポンダー(R)群とノンレスポンダー(N-R)群で治療2サイクル実施後の濃度に有意差が見られた物質を示す図である。
図3】(a)式(1)の抗がん剤の治療開始後早期感受性判定モデルのROC曲線を示す図である。(b)式(2)の抗がん剤の治療開始後早期感受性判定モデルのROC曲線を示す図である。
図4】(a)式(1)により治療1サイクル実施後の代謝物を元にR群とN-R群に分けた上で、カプラン・マイアー曲線を描いた図である。(b)式(2)により治療2サイクル実施後の代謝物を元にR群とN-R群に分けた上で、カプラン・マイアー曲線を描いた図である。
図5】(a)治療1サイクル実施後の代謝物濃度と残余のOSの関係をCOXの比例ハザードモデルで解析した際に有意差を示した代謝物のハザード比とその95%信頼区間の図である。(b)治療2サイクル実施後の代謝物濃度と残余のOSの関係をCOXの比例ハザードモデルで解析した際に有意差を示した代謝物のハザード比とその95%信頼区間の図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明における抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、2-aminoadipic acid(2AMAD)、2-aminobutyric acid(2ABA)、2-cyanopyridine(2CYPR)、5-oxoproline(5OPRO)、6-aminohexanoic acid(6AHXA)、adenosine(ADEN)、aspartic acid(ASP)、betonicine(BETNC)、carbachol(CARB)、cysteine-glutathione disulphide(CSSG)、dopamine(DOPM)、gamma-glutamylcysteine(GGLCY)、oxidized glutathione(GSSG)、hypotaurine(HYPT)、methionine sulfoxide(METSF)、N6-methyl-2’-deoxyadenosine(N6MDA)、N-omega-methyltryptamine(NOMTR)、phenyl phosphate(PHEP)、proline(PRO)及びribulose 5-phosphate(RIB5P)の20種の代謝物質である。
後記実施例に示すように、結腸・直腸がん患者由来の血液検体を対象とし、ベバシズマブ併用mFOLFOX6療法1サイクル実施後の血中代謝物の量をCE-Q-TOF MS及びCE-TOF MSを用いて網羅的に解析した結果、2AMAD、2CYPR、6AHXA、BETNC、CSSG、GGLCY及びGSSGについては、ベバシズマブ併用mFOLFOX6療法に対する治療反応性の高いレスポンダー群の患者で、治療反応性の低いノンレスポンダー群の患者に比して濃度が高いことが判明した。また、CARB、N6MDA、NOMTR、PHEP及びRIB5Pについては、レスポンダー群の患者で、ノンレスポンダー群の患者に比して濃度が低いことが判明した。したがって、これら12物質は、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤に対する治療開始後早期感受性判定マーカー、特にオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩とベバシズマブを含む抗がん剤に対する治療開始後早期感受性判定マーカーとして有用である。中でも、2AMAD、BETNC、CSSG、N6MDA及びRIB5Pの5物質の組み合わせは特に有用であり、これらを用いることで対象とするがん患者がレスポンダーであるか否かをより高い精度で判定することが可能となる。
さらに、後記実施例に示すように、結腸・直腸がん患者由来の血液検体を対象とし、ベバシズマブ併用mFOLFOX6療法2サイクル実施後の血中代謝物の量をCE-Q-TOF MS及びCE-TOF MSを用いて網羅的に解析した結果、2ABA、5OPRO、6AHXA、ADEN、DOPM、METSF及びPROについては、レスポンダー群の患者で、ノンレスポンダー群の患者に比して濃度が高いことが判明した。また、ASP及びHYPTについては、レスポンダー群の患者で、ノンレスポンダー群の患者に比して濃度が低いことが判明した。したがって、これら9物質は、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤に対する治療開始後早期感受性判定マーカー、特にオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩とベバシズマブを含む抗がん剤に対する治療開始後早期感受性判定マーカーとして有用である。中でも、2ABA、ASP、DOPM、HYPT、METSF及びPROの6物質の組み合わせは特に有用であり、これらを用いることで対象とするがん患者がレスポンダーであるか否かをより高い精度で判定することが可能となる。
【0014】
本発明における抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーは、10-hydroxydecanoic acid(10HDA)、2AMAD、alanine(ALA)、benzimidazole(BEZIZ)、cholic acid(CHOA)、CSSG、dodecanedioic acid(DDNA)、GGLCY、gluconic acid(GLCOA)、glutamic acid(GLU)、glutaric acid(GLTA)、glycerol-3-phosphate(GLC3P)、glycylleucine(GLYLE)、guanidinosuccinic acid(GUSA)、leucine(LEU)、lysine(LYS)、N6-acetyllysine(N6ALY)、octanoic acid(OCTA)、pipecolic acid(PIPEC)、quinic acid(QUINA)、threonine(THR)及びvaline(VAL)の22種の代謝物質である。
後記実施例に示すように、結腸・直腸がん患者由来の血液検体を対象とし、ベバシズマブ併用mFOLFOX6療法1サイクル実施後の血中代謝物の量と残余の全生存期間(OS)をCOXの比例ハザードモデルで解析した結果、BEZIZ、CSSG、GLC3P、GLYLE及びQUINAは、血中の濃度が高いほど生存期間が長いこと、また、DDNA、GUSA及びOCTAは血中濃度が高いほど生存期間が短いことが判明した。
加えて、後記実施例に示すように、結腸・直腸がん患者由来の血液検体を対象とし、ベバシズマブ併用mFOLFOX6療法2サイクル実施後の血中代謝物の量と残余の全生存期間をCOXの比例ハザードモデルで解析した結果、2AMAD、ALA、BEZIZ、CSSG、GGLCY、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、LEU、LYS、N6ALY、QUINA、THR及びVALは、血中の濃度が高いほど生存期間が長いこと、また、10HDA、CHOA及びPIPECは血中濃度が高いほど生存期間が短いことが判明した。したがって、これら22物質は、単独で、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤、特にオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩とベバシズマブを含む抗がん剤の治療開始後早期の予後予測マーカー、特に、二次治療以降も含めたOSの長短の予測マーカーとして有用である。
【0015】
ここで、「レスポンダー」とは、RECIST基準(J Natl Cancer Inst.2000 Feb 2;92(3):205-16)に従い放射線診断医による画像診断の結果、試験治療期間中の最大の効果がcomplete responseあるいはpartial responseを示した患者のことをさし、「ノンレスポンダー」とは、RECIST基準に従い放射線診断医による画像診断の結果、試験治療期間中の最大の効果がstable diseaseあるいはprogressive diseaseの患者をさす。
本明細書において、「抗がん剤治療開始後早期」とは、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤、特にオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩とベバシズマブを含む抗がん剤による治療を少なくとも1サイクル、好ましくは1サイクル以上4サイクル以下、より好ましくは1サイクル以上3サイクル以下、さらに好ましくは1サイクル又は2サイクル受けた状態を指す。
【0016】
2AMADは、リシンの代謝経路上の代謝物である。しかし、2AMADがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
さらに、2AMADがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0017】
2ABAは、システイン・メチオニン代謝経路上の代謝物であるが、2ABAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0018】
2CYPRは、ピリジン誘導体の一種である。しかし、2CYPRがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0019】
5OPROは、グルタミン酸から生成されるアミノ酸の一種である。しかし、5OPROがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0020】
6AHXAは、カプロラクタム代謝物であり、フィブリンに拮抗してプラスミノーゲンに結合することでフィブリンの分解を抑制し出血を抑制することが知られており、止血剤として用いられることがある。しかし、6AHXAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル又は2サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0021】
ADENは、生体内でDNA等の塩基として用いられている。しかし、ADENがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0022】
ASPはアミノ酸の一つであり、一般的には生体内の窒素処理で中心的な役割を持つことが知られている。すでに、ASPがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩を含む抗がん剤の感受性判定マーカーとして使用でき、オキサリプラチン高感受性の細胞株で低感受性の細胞株と比較して高濃度となることが知られている(国際公開第2013/125675号)。しかし、ASPがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が低いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0023】
BETNCは、プロリン関連化合物である。しかし、BETNCがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0024】
CARBは、副交感神経を刺激する物質として知られている。しかし、CARBがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が低いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0025】
CSSGとGSSGは共に、薬物の解毒化に関与する物質として知られるGSHの代謝物である。CSSGは、GSHとCysが結合したものであり、GSSGはGSHが酸化されることにより形成されるGSHの2量体である。血中のGSHは採血後速やかに酸化されGSSGになること、GSHは採血後速やかに血中にGSHより豊富に存在するCysとより多くが結合し数分でCSSGを形成する等の知見が知られているが、薬効とCSSG、GSSGに注目した報告は、がんと関連した報告も含めてない。CSSG又はGSSGがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
さらに、CSSGがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に1サイクル又は2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0026】
DOPMは、中枢神経系に存在する神経伝達物質で、運動調節、ホルモン調節、感情、意欲、学習などに関与する物質であるが、DOPMがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0027】
GGLCYは、グルタチオン代謝経路上の代謝物である。しかし、GGLCYがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
さらに、GGLCYがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0028】
HYPTは、システインからタウリンの生合成における中間産物であり、3-sulfino-L-alanineやcysteamineの酸化により合成される。HYPTは、抗炎症作用(特開2017-7980号公報)や抗酸化作用(特開2017-14167号公報)が知られている。しかし、HYPTがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が低いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0029】
METSFは、CYS及びmethionine代謝経路上の物質として知られており、前立腺がんもしくは酸化ストレスのバイオマーカー又はうつ病を診断するためのバイオマーカーとしても知られている。しかし、METSFがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0030】
N6MDAは、ヌクレオシドの類似体として知られている。しかし、N6MDAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が低いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0031】
NOMTRは、様々な種類の植物の樹皮、新芽、葉などに存在することが知られており、セロトニン4レセプター(5-HT4)レセプターアゴニストであり、自閉症やてんかん患者の尿から検出されることが知られている。しかし、NOMTRがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が低いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0032】
PHEPは、アミノベンゾエート代謝系路上の産物として知られている。しかし、PHEPがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が低いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0033】
PROは、アミノ酸の一種である。しかし、PROがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0034】
RIB5Pは、ペントースリン酸経路の最終産物の一つである。しかし、RIB5Pがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーとして使用できること、治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が低いときにレスポンダーと判定できることは全く知られていない。
【0035】
10HDAは、ローヤルゼリーに含まれている化合物である。しかし、10HDAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が短いと判定できることは全く知られていない。
【0036】
ALAは、アミノ酸の一種で、ALA、aspartate及びglutamate代謝経路、CYS及びmethionine代謝経路、Taurine及びhypotaurine代謝経路だけでなく様々な代謝経路上の物質として知られている。また、うつ病を診断するためのバイオマーカー又は前立腺がんのバイオマーカーとしても知られている。しかし、ALAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0037】
BEZIZは、ベンゼン環とイミダゾール環からなる複素環式化合物である。しかし、BEZIZがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に1サイクル又は2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0038】
CHOAは、胆汁酸の一種である。しかし、CHOAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が短いと判定できることは全く知られていない。
【0039】
DDNAは、ジカルボン酸であり脂肪と炭水化物の中間体であることが知られており、また肝臓carnitine palmitoyltransferase I欠損症の指標として知られている。しかし、DDNAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が短いと判定できることは全く知られていない。
【0040】
GLCOAは、グルコースの1位の炭素を酸化することにより生成するカルボン酸である。しかし、GLCOAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0041】
GLUは、アミノ酸の一種である。しかし、GLUがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0042】
GLTAは、生体内でクエン酸回路に関与している物質である。しかし、GLTAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0043】
GLC3Pは、グリセロ脂質やグリセロリン酸代謝経路やがんにおけるコリン代謝経路上の代謝物である。しかし、GLC3Pがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に1サイクル又は2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0044】
GLYLEは、アミノカルボン酸の一種である。しかし、GLYLEがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0045】
GUSAは、尿毒症起因物質の一つと考えられている化合物である。さらに血小板機能障害,とくに血小板第3因子能および血小板凝集能を阻害することが指摘されている。しかし、GUSAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が短いと判定できることは全く知られていない。
【0046】
LEUは、必須アミノ酸の一つであり、VAL、LEU及びILE合成並びに代謝経路上の物質であることが知られている。また、癌の血中バイオマーカー又はうつ病を診断するためのバイオマーカーとしても知られている。しかし、LEUがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0047】
LYSは、アミノ酸の一つであり、LYS合成及び代謝経路上の物質であることが知られている。また、口腔癌検出用の癌用唾液バイオマーカー又はうつ病を診断するためのバイオマーカーとしても知られている。しかし、LYSがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0048】
N6ALYは、LYS代謝経路上の物質として知られている。しかし、N6ALYがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0049】
OCTAは、脂肪酸合成経路上の代謝物として知られている。しかし、OCTAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に1サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が短いと判定できることは全く知られていない。
【0050】
PIPECは、リジン代謝系路上の物質であり、生体内でリジンを原料として生成される。慢性肝障害時に血漿中濃度が上昇することが知られている。しかし、PIPECがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が短いと判定できることは全く知られていない。
【0051】
QUINAは、フェニルアラニン・チロシン・トリプトファン合成経路上の代謝物である。しかし、QUINAがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に1サイクル又は2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0052】
THRは、アミノ酸の一つであり、Glycine、SER及びTHR代謝経路上の物質であること、VAL、LEU及びILE合成並びに代謝経路上の物質であることが知られている。すでに、THRがうつ病を診断するためのバイオマーカーであることが知られている。しかし、THRがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0053】
VALは、必須アミノ酸の一つであり、VAL、LEU及びILE合成並びに代謝経路上の物質であることが知られている。また、癌の血中バイオマーカー又はうつ病を診断するためのバイオマーカーとして知られている。しかし、VALがオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーとして使用できること、抗がん剤治療開始後早期、特に2サイクル実施後の濃度が高いほど生存期間が長いと判定できることは全く知られていない。
【0054】
本発明の抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーの対象となる抗がん剤はオキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤であるが、体内で代謝されてオキサリプラチン、フルオロウラシル又はレボホリナートに変換される抗がん剤も同様に対象となる。具体的には、テガフール(tegaful)やカペシタビン(capecitabine)は体内で代謝されてフルオロウラシルに変換されることが明らかになっているため、オキサリプラチン又はその塩とテガフール又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤、オキサリプラチン又はその塩とカペシタビン又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤も対象となる。
【0055】
オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤と組み合わせて使用する他の抗がん剤としては特に限定されないが、例えばシクロフォスファミド(cyclophosphamide)、イフォスファミド(ifosfamide)、チオテパ(thiotepa)、メルファラン(melphalan)、ブスルファン(busulfan)、ニムスチン(nimustine)、ラニムスチン(ranimustine)、ダカルバジン(dacarbazine)、プロカルバジン(procarbazine)、テモゾロミド(temozolomide)、シスプラチン(cisplatin)、カルボプラチン(carboplatin)、ネダプラチン(nedaplatin)、メトトレキサート(methotrexate)、ペメトレキセド(pemetrexed)、テガフール/ウラシル(tegaful・uracil)、ドキシフルリジン(doxifluridine)、テガフール/ギメラシル/オテラシル(tegaful・gimeracil・oteracil)、カペシタビン(capecitabine)、シタラビン(cytarabine)、エノシタビン(enocitabine)、ゲムシタビン(gemcitabine)、6-メルカプトプリン(6-mercaptopurine)、フルダラビン(fuludarabin)、ペントスタチン(pentostatin)、クラドリビン(cladribine)、ヒドロキシウレア(hydroxyurea)、ドキソルビシン(doxorubicin)、エピルビシン(epirubicin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、イダルビシン(idarubicine)、ピラルビシン(pirarubicin)、ミトキサントロン(mitoxantrone)、アムルビシン(amurubicin)、アクチノマイシンD(actinomycin D)、ブレオマイシン(bleomycine)、ペプレオマイシン(pepleomycin)、マイトマイシンC(mytomycin C)、アクラルビシン(aclarubicin)、ジノスタチン(zinostatin)、ビンクリスチン(vincristine)、ビンデシン(vindesine)、ビンブラスチン(vinblastine)、ビノレルビン(vinorelbine)、パクリタキセル(paclitaxel)、ドセタキセル(docetaxel)、イリノテカン(irinotecan)、イリノテカン活性代謝物(SN-38)、ノギテカン(nogitecan、topotecan)、エトポシド(etoposide)、プレドニゾロン(prednisolone)、デキサメタゾン(dexamethasone)、タモキシフェン(tamoxifen)、トレミフェン(toremifene)、メドロキシプロゲステロン(medroxyprogesterone)、アナストロゾール(anastrozole)、エキセメスタン(exemestane)、レトロゾール(letrozole)、リツキシマブ(rituximab)、イマチニブ(imatinib)、ゲフィチニブ(gefitinib)、ゲムツズマブ・オゾガマイシン(gemtuzumab ozogamicin)、ボルテゾミブ(bortezomib)、エルロチニブ(erlotinib)、セツキシマブ(cetuximab)、ベバシズマブ(bevacizumab)、スニチニブ(sunitinib)、ソラフェニブ(sorafenib)、ダサチニブ(dasatinib)、パニツムマブ(panitumumab)、アスパラギナーゼ(asparaginase)、トレチノイン(tretinoin)、三酸化ヒ素(arsenic trioxide)、又はそれらの塩、又はそれらの活性代謝物等が挙げられる。このうち、イリノテカン、SN-38若しくはそれらの塩又はベバシズマブが好ましく、特にベバシズマブが好ましい。
【0056】
本発明の抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーを用いて抗がん剤感受性を判定するには、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療開始後早期のがん患者由来の生体試料(検体)中の2AMAD、2ABA、2CYPR、5OPRO、6AHXA、ADEN、ASP、BETNC、CARB、CSSG、DOPM、GGLCY、GSSG、HYPT、METSF、N6MDA、NOMTR、PHEP、PRO及びRIB5Pから選ばれる1以上の分子の量を測定すること、詳細にはさらに当該測定結果を対照レベル(標準濃度、レスポンダーにおける濃度範囲、レスポンダーにおけるカットオフ値(以下、カットオフ値はLC/MS用内部標準溶液の濃度を1とした場合の相対濃度を意味する)等)と比較することにより行うことができる。
【0057】
具体的には、本発明の抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーのうち、2AMAD、2CYPR、6AHXA、BETNC、CARB、CSSG、GGLCY、GSSG、N6MDA、NOMTR、PHEP及びRIB5Pから選ばれる1以上の分子を用いて抗がん剤感受性を判定するには、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤を含む抗がん剤による治療1サイクル実施後のがん患者由来の生体試料(検体)中の当該分子の量を測定すること、詳細にはさらに当該測定結果を対照レベル(標準濃度、レスポンダーにおける濃度範囲、レスポンダーにおけるカットオフ値等)と比較することにより行うことができる。あるいは、抗がん剤治療1サイクル実施後のがん患者由来の生体試料(検体)中の2AMAD、BETNC、CSSG、N6MDA及びRIB5Pの量を測定すること、詳細にはさらに当該測定結果を各物質のレスポンダーのカットオフ値と比較して数値化し、特定の算出式に代入することにより行うことができる。
【0058】
また、本発明の抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーのうち、2ABA、5OPRO、6AHXA、ADEN、ASP、DOPM、HYPT、METSF及びPROから選ばれる1以上の分子を用いて抗がん剤感受性を判定するには、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤を含む抗がん剤による治療2サイクル実施後のがん患者由来の生体試料(検体)中の当該分子の量を測定すること、詳細にはさらに当該測定結果を対照レベル(標準濃度、レスポンダーにおける濃度範囲、レスポンダーにおけるカットオフ値等)と比較することにより行うことができる。あるいは、抗がん剤治療2サイクル実施後のがん患者由来の生体試料(検体)中の2ABA、ASP、DOPM、HYPT、METSF及びPROの量を測定すること、詳細にはさらに当該測定結果を各物質のレスポンダーのカットオフ値と比較して数値化し、特定の算出式に代入することにより行うことができる。
【0059】
本発明の抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーを用いた抗がん剤治療時の長期予後の予測方法は、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療開始後早期のがん患者由来の生体試料(検体)中の10HDA、2AMAD、ALA、BEZIZ、CHOA、CSSG、DDNA、GGLCY、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、GLYLE、GUSA、LEU、LYS、N6ALY、OCTA、PIPEC、QUINA、THR及びVALから選ばれる1以上の分子の量を測定すること、詳細にはさらに当該測定結果を対照レベル(標準濃度、レスポンダーにおけるカットオフ値等)と比較することにより行うことができる。
【0060】
具体的には、本発明の抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーのうち、BEZIZ、CSSG、DDNA、GLC3P、GLYLE、GUSA、OCTA及びQUINAから選ばれる1以上の分子を用いた予後予測方法は、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療1サイクル実施後のがん患者由来の生体試料(検体)中の当該分子の量を測定すること、詳細にはさらに当該測定結果を対照レベル(標準濃度、レスポンダーにおけるカットオフ値等)と比較することにより行うことができる。
【0061】
また、本発明の抗がん剤の治療開始後早期予後予測マーカーのうち、10HDA、2AMAD、ALA、BEZIZ、CHOA、CSSG、GGLCY、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、LEU、LYS、N6ALY、PIPEC、QUINA、THR及びVALから選ばれる1以上の分子を用いた予後予測方法は、オキサリプラチン又はその塩とフルオロウラシル又はその塩とレボホリナート又はその塩を含む抗がん剤による治療2サイクル実施後のがん患者由来の生体試料(検体)中の当該分子の量を測定すること、詳細にはさらに当該測定結果を対照レベル(標準濃度、レスポンダーにおけるカットオフ値等)と比較することにより行うことができる。
【0062】
ここで、がん患者としては、がんを有する被験者又はがんを有していた被験者が包含される。生体試料としては、例えば血液、血清、血漿、がん組織生検検体、がん摘出手術標本、便、尿、腹水、胸水、脳脊髄液、喀痰等が挙げられるが、血清が特に好ましい。
【0063】
また、本発明の対象となるがんとしては、咽頭がんを代表とする口唇、口腔及び咽頭がん、食道がん、胃がん、結腸・直腸がんなどを代表とする消化器がん、肺がんを代表とする呼吸器及び胸腔内臓器がん、骨及び関節軟骨がん、皮膚の悪性黒色腫、有棘細胞がん及びその他の皮膚のがん、中皮腫を代表とする中皮及び軟部組織がん、乳房がん、子宮がん、卵巣がんを代表とする女性性器がん、前立腺がんを代表とする男性性器がん、膀胱がんを代表とする尿路がん、脳腫瘍を代表とする眼、脳及び中枢神経系がん、甲状腺及びその他の内分泌腺がん、非ホジキンリンパ腫やリンパ性白血病を代表とするリンパ組織、造血組織及び関連組織がん、及びこれらを原発巣とする転移組織のがん等が挙げられ、結腸・直腸がん(大腸がん)に対して好適に利用できるが、化学療法未治療がんが特に好ましい。
【0064】
検体中の2AMAD、2ABA、2CYPR、5OPRO、6AHXA、ADEN、ASP、BETNC、CARB、CSSG、DOPM、GGLCY、GSSG、HYPT、METSF、N6MDA、NOMTR、PHEP、PRO、RIB5P、10HDA、ALA、BEZIZ、CHOA、DDNA、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、GLYLE、GUSA、LEU、LYS、N6ALY、OCTA、PIPEC、QUINA、THR及びVALから選ばれる分子の測定手段は、被測定対象物質により適宜決定すればよく、例えばCE-Q-TOF MS、CE-TOF MS、Gas chromatography-mass spectrometry(GC-MS)等の各種質量分析装置、HPLC、免疫学的測定法、生化学的測定法等により測定可能である。
【0065】
2AMAD、2CYPR、6AHXA、BETNC、CSSG、GGLCY及びGSSGから選ばれる1以上の分子により、対象とする抗がん剤に対する感受性を判定するには、抗がん剤治療1サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中の2AMAD、2CYPR、6AHXA、BETNC、CSSG、GGLCY及びGSSGから選ばれる1以上の分子の量、例えば濃度を測定すればよい。濃度が所定の対照レベルより高いと判断される濃度を有する場合は、そのがんは対象とする抗がん剤に対して感受性であると判定できるため、これら抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できる。一方、濃度が所定の対照レベルより低いと判断される濃度を有する場合は、そのがんは対象とする抗がん剤に対して感受性ではないと判定できる。対象とする抗がん剤に対して感受性を有さない場合は、治療効果の期待できない抗がん剤の投与が継続されることになり、がんの進行、副作用が危惧される。このように、本発明における抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できるのに加え、治療効果の期待できない抗がん剤の継続投与に伴うがんの進行や副作用を回避するためのマーカーとしても使用できる。
対照レベルとしては、例えば、カットオフ値が挙げられ、カットオフ値としては、2AMADの場合に2.091×10-2≦、2CYPRの場合に3.444×10-3≦、6AHXAの場合に7.175×10-3≦、BETNCの場合に1.589×10-2≦、CSSGの場合に2.198×10-2≦、GGLCYの場合に7.389×10-3≦、GSSGの場合に5.606×10-4≦が挙げられる。
【0066】
CARB、N6MDA、NOMTR、PHEP及びRIB5Pから選ばれる1以上の分子により、対象とする抗がん剤に対する感受性を判定するには、抗がん剤治療1サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中のCARB、N6MDA、NOMTR、PHEP及びRIB5Pから選ばれる1以上の分子の量、例えば濃度を測定すればよい。濃度が所定の対照レベルより低いと判断される濃度を有する場合は、そのがんは対象とする抗がん剤に対して感受性であると判定できるため、これら抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できる。一方、濃度が所定の対照レベルより高いと判断される濃度を有する場合は、そのがんは対象とする抗がん剤に対して感受性ではないと判定できる。対象とする抗がん剤に対して感受性を有さない場合は、治療効果の期待できない抗がん剤の投与が継続されることにより、がんの進行、副作用が危惧される。このように、本発明における抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できるのに加え、治療効果の期待できない抗がん剤の継続投与に伴うがんの進行や副作用を回避するためのマーカーとしても使用できる。
対照レベルとしては、例えば、カットオフ値が挙げられ、カットオフ値としては、CARBの場合に≦8.472×10-3、N6MDAの場合に≦1.208×10-3、NOMTRの場合に≦7.006×10-2、PHEPの場合に≦1.801×10-2、RIB5Pの場合に≦3.005×10-3が挙げられる。
【0067】
2AMAD、BETNC、CSSG、N6MDA及びRIB5Pにより、対象とする抗がん剤に対する感受性を判定するには、抗がん剤治療1サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中の2AMAD、BETNC、CSSG、N6MDA及びRIB5Pの量、例えば濃度を測定し、測定結果に応じて所定の数値を式(1)に代入すればよい。
【数3】
(式中、2AMADは、2AMADの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-16.2688を、カットオフ値未満であった場合に16.2688を示し、BETNCは、BETNCの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-8.6560を、カットオフ値未満であった場合に8.6560を示し、CSSGは、CSSGの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-1.4372を、カットオフ値未満であった場合に1.4372を示し、N6MDAは、N6MDAの測定結果がカットオフ値以下であった場合に-8.6658を、カットオフ値を超えた場合に8.6658を示し、RIB5Pは、RIB5Pの測定結果がカットオフ値以下であった場合に-1.3451を、カットオフ値を超えた場合に1.3451を示す。)
各物質のカットオフ値は、以下の通りである。2AMADの場合に2.091×10-2であり、BETNCの場合に1.589×10-2であり、CSSGの場合に2.198×10-2であり、N6MDAの場合に1.208×10-3であり、RIB5Pの場合に3.005×10-3
式(1)により算出されるpは、対象とするがん患者がレスポンダーである確率を示す。pが0.5を超えれば、該がん患者のがんは対象とする抗がん剤に対して感受性である、すなわち該がん患者はレスポンダーであると判定できるため、これら抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できる。一方、pが0.5以下であれば、該がん患者のがんは対象とする抗がん剤に対して感受性ではない、すなわち該がん患者はノンレスポンダーであると判定できる。対象とする抗がん剤に対して感受性を有さない場合は、治療効果の期待できない抗がん剤の投与が継続されることにより、がんの進行、副作用が危惧される。このように、本発明における抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できるのに加え、薬効の期待できない抗がん剤の継続投与に伴うがんの進行や副作用を回避するためのマーカーとしても使用できる。
【0068】
2ABA、5OPRO、6AHXA、ADEN、DOPM、METSF及びPROから選ばれる1以上の分子により、対象とする抗がん剤に対する感受性を判定するには、抗がん剤治療2サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中の2ABA、5OPRO、6AHXA、ADEN、DOPM、METSF及びPROから選ばれる1以上の分子の量、例えば濃度を測定すればよい。濃度が所定の対照レベルより高いと判断される濃度を有する場合は、そのがんは対象とする抗がん剤に対して感受性であると判定できるため、これら抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できる。一方、濃度が所定の対照レベルより低いと判断される濃度を有する場合は、そのがんは対象とする抗がん剤に対して感受性ではないと判定できる。対象とする抗がん剤に対して感受性を有さない場合は、治療効果の期待できない抗がん剤の投与が継続されることにより、がんの進行、副作用が危惧される。このように、本発明における抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できるのに加え、薬効の期待できない抗がん剤の継続投与に伴うがんの進行や副作用を回避するためのマーカーとしても使用できる。
対照レベルとしては、例えば、カットオフ値が挙げられ、カットオフ値としては、2ABAの場合に2.507×10-1≦、5OPROの場合に1.843×10-1≦、6AHXAの場合に4.568×10-3≦、ADENの場合に2.305×10-2≦、DOPMの場合に5.606×10-4≦、METSFの場合に3.836×10-2≦、PROの場合に2.9876≦が挙げられる。
【0069】
ASP及びHYPTから選ばれる1以上の分子により、対象とする抗がん剤に対する感受性を判定するには、抗がん剤治療2サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中のASP及びHYPTから選ばれる1以上の分子の量、例えば濃度を測定すればよい。濃度が所定の対照レベルより低いと判断される濃度を有する場合は、そのがんは対象とする抗がん剤に対して感受性であると判定できるため、これら抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できる。一方、濃度が所定の対照レベルより高いと判断される濃度を有する場合は、そのがんは対象とする抗がん剤に対して感受性ではないと判定できる。対象とする抗がん剤に対して感受性を有さない場合は、治療効果の期待できない抗がん剤の投与が継続されることにより、がんの進行、副作用が危惧される。このように、本発明における抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できるのに加え、薬効の期待できない抗がん剤の継続投与に伴うがんの進行や副作用を回避するためのマーカーとしても使用できる。
対照レベルとしては、例えば、カットオフ値が挙げられ、カットオフ値としては、ASPの場合に≦1.170×10-1、HYPTの場合に≦1.768×10-2が挙げられる。
【0070】
2ABA、ASP、DOPM、HYPT、METSF及びPROにより、対象とする抗がん剤に対する感受性を判定するには、抗がん剤治療2サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中の2ABA、ASP、DOPM、HYPT、METSF及びPROの量、例えば濃度を測定し、測定結果に応じて所定の数値を式(2)に代入すればよい。
【数4】
(式中、2ABAは、2ABAの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-2.3059を、カットオフ値未満であった場合に2.3059を示し、ASPは、ASPの測定結果がカットオフ値以下であった場合に-1.8154を、カットオフ値を超えた場合に1.8154を示し、DOPMは、DOPMの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-1.6345を、カットオフ値未満であった場合に1.6345を示し、HYPTは、HYPTの測定結果がカットオフ値以下であった場合に-2.4113を、カットオフ値を超えた場合に2.4113を示し、METSFは、METSFの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-1.5555を、カットオフ値未満であった場合に1.5555を示し、PROは、PROの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-9.0794を、カットオフ値未満であった場合に9.0794を示す。)
各物質のカットオフ値は、以下の通りである。2ABAの場合に2.507×10-1であり、ASPの場合に1.170×10-1であり、DOPMの場合に5.606×10-4であり、HYPTの場合に1.768×10-2であり、MESFの場合に3.836×10-2であり、PROの場合に2.9876である。
式(2)により算出されるpは、対象とするがん患者がレスポンダーである確率を示す。pが0.5を超えれば、該がん患者のがんは対象とする抗がん剤に対して感受性である、すなわち該がん患者はレスポンダーであると判定できるため、これら抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できる。一方、pが0.5以下であれば、該がん患者のがんは対象とする抗がん剤に対して感受性ではない、すなわち該がん患者はノンレスポンダーであると判定できる。対象とする抗がん剤に対して感受性を有さない場合は、治療効果の期待できない抗がん剤の投与が継続されることにより、がんの進行、副作用が危惧される。このように、本発明における抗がん剤の治療開始後早期感受性判定マーカーは、治療効果を期待出来る患者に対して積極的に治療を継続するためのマーカーとして使用できるのに加え、薬効の期待できない抗がん剤の継続投与に伴うがんの進行や副作用を回避するためのマーカーとしても使用できる。
【0071】
BEZIZ、CSSG、GLC3P、GLYLE及びQUINAから選ばれる1以上の分子により、対象とする抗がん剤による治療時の予後を予測するには、抗がん剤治療1サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中のBEZIZ、CSSG、GLC3P、GLYLE及びQUINAから選ばれる1以上の分子の量、例えば濃度を測定すればよい。濃度が所定の対照レベルより高いと判断される濃度を有する場合は、低いと判断される濃度を有する場合と比較して、予後がよいと予測できる。
【0072】
DDNA、GUSA及びOCTAから選ばれる1以上の分子により、対象とする抗がん剤による治療時の予後を予測するには、抗がん剤治療1サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中のDDNA、GUSA及びOCTAから選ばれる1以上の分子の量、例えば濃度を測定すればよい。濃度が所定の対照レベルより低いと判断される濃度を有する場合は、高いと判断される濃度を有する場合と比較して、予後がよいと予測できる。
【0073】
2AMAD、ALA、BEZIZ、CSSG、GGLCY、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、LEU、LYS、N6ALY、QUINA、THR及びVALから選ばれる1以上の分子により、対象とする抗がん剤による治療時の予後を予測するには、抗がん剤治療2サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中の2AMAD、ALA、BEZIZ、CSSG、GGLCY、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、LEU、LYS、N6ALY、QUINA、THR及びVALから選ばれる1以上の分子の量、例えば濃度を測定すればよい。濃度が所定の対照レベルより高いと判断される濃度を有する場合は、低いと判断される濃度を有する場合と比較して、予後がよいと予測できる。
【0074】
10HDA、CHOA及びPIPECから選ばれる1以上の分子により、対象とする抗がん剤による治療時の予後を予測するには、抗がん剤治療2サイクル実施後において、がん患者由来の生体試料中の10HDA、CHOA及びPIPECから選ばれる1以上の分子の量、例えば濃度を測定すればよい。濃度が所定の対照レベルより低いと判断される濃度を有する場合は、高いと判断される濃度を有する場合と比較して、予後がよいと予測できる。
【0075】
本発明の抗がん剤の治療開始後早期感受性判定方法を実施するには、検体中の2AMAD、2ABA、2CYPR、5OPRO、6AHXA、ADEN、ASP、BETNC、CARB、CSSG、DOPM、GGLCY、GSSG、HYPT、METSF、N6MDA、NOMTR、PHEP、PRO及びRIB5Pから選ばれる1以上の分子を測定するためのプロトコールを含むキットを用いるのが好ましい。また、本発明の抗がん剤の治療開始後早期予後予測方法を実施するには、検体中の10HDA、2AMAD、ALA、BEZIZ、CHOA、CSSG、DDNA、GGLCY、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、GLYLE、GUSA、LEU、LYS、N6ALY、OCTA、PIPEC、QUINA、THR及びVALから選ばれる1以上の分子を測定するためのプロトコールを含むキットを用いるのが好ましい。当該キットには、これら代謝物質の測定試薬、及びプロトコール(測定試薬の使用方法、及び抗がん剤感受性の有無を判定するための基準等)が含まれる。当該基準には、これら代謝物質の標準濃度、高いと判断される濃度、低いと判断される濃度、測定結果に影響を与える要因とその影響の程度等が含まれ、これらの濃度は対象とする抗がん剤ごとに設定することが可能である。当該基準を用いて、前記のように判定又は予測することができる。
【実施例0076】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0077】
(1)方法
(a)試薬
LC/MS用メタノール(和光純薬工業製)、HPLC用クロロホルム(和光純薬工業製)、逆浸透水(Direct-Q UV、Millipore製)を溶解およびサンプル調製に用いた。
LC/MS用内部標準溶液(カチオン)として、Internal Standard Solution Compound C1(ISC1)およびInternal Standard Solution Compound C2(ISC2)を使用した。ISC1は、水溶液中に10mMのL-methionine sulfone(Human Metabolome Technologies製)を含み、ISC2は、水溶液中に10mMのL-Arginine-136 hydrochloride(Sigma-Aldrich製)、L-Asparagine-152 monohydrate(Cambridge Isotope Laboratories製)、β-Alanine-13315N(Sigma-Aldrich製)とTubercidin(Sigma-Aldrich製)を含む。
LC/MS用内部標準溶液(アニオン)として、Internal Standard Solution Compound A1(ISA1)およびInternal Standard Solution compound A2(ISA2)を使用した。ISA1は、水溶液中に10mMのD-camphor-10-sulfonic acid sodium salt(Human Metabolome Technologies製)を含み、ISA2は、水溶液中に10mMのchloranilic acid(東京化成工業製)を含む。
これらの内部標準溶液は、信号強度を標準化し、遊走時間を調整するのに用いた。また、ISC1およびISA1は得られた各代謝物の相対的な濃度を算出するためにも用いた。
【0078】
(b)臨床サンプル
(b-1)患者背景
組織学的に確認された進行結腸・直腸癌(ACRC)患者で、標準的な化学療法の一次治療を行う対象として適格な合計68名の患者から、前向きに血清サンプルを採取した。本研究の登録基準(適格性)は以下の通りである。
・登録時の年齢が20歳以上
・Eastern Corporative Oncology Group(ECOG)のPerformance status(PS)が0あるいは1
・結腸・直腸癌であることが組織病理学的に確認されている
・治癒切除不能で化学療法未治療の進行性あるいは再発性疾患(ただし、5-FU系薬剤による術後補助化学療法に限り、再発確認日から6ヶ月前に終了していれば登録可能とする)
・予測生存期間が3ヵ月以上
・主要臓器に重大な機能障害がない
・本試験登録前に、遺伝子多型検査やプロテオーム・メタボローム分析を含む試験の参加について、患者本人による署名、日付が記載された同意書が得られている。
【0079】
(b-2)患者への治療
全ての患者は一次化学療法として、bevacizumab(BV) 5mg/kgを30~90分にわたって静脈内に投与され、引き続きoxaliplatin(L-OHP) 85mg/m2とlevofolinate(l-LV) 200mg/m2を120分で静脈内に投与された。その後、5-FU 400mg/m2を静脈内にbolus投与され、引き続き5-FU 2400mg/m2を46時間で静脈内に持続点滴投与された(mFOLFOX6療法)。この治療は、2週ごとに繰り返された。
L-OHPの治療が中断された後でも、必要な場合BV処置の有無にかかわらず簡略化されたl-LVと5-FUの併用投与(sLV5FU2)は試験治療と認められた。
疾患進行、更なる試験治療を中止しなければならない有害事象の出現、医師の判断、患者からの試験治療継続の拒否、腫瘍の治癒切除手術に移行などがない限り、試験治療として最長24サイクル継続した。
【0080】
(b-3)抗腫瘍効果の評価
抗腫瘍効果は、独立外部レビュー・ボードによってthe Response Evaluation Criteria in Solid Tumors Guideline 1.0(RECIST)に基づき評価した。
治療前の腫瘍径の総和は、登録前1ヵ月以内のコンピューター断層装置または磁気共鳴画像によって撮影された画像を用いて計測した、そして、治療開始後は治療前と同様の方法で8週ごと繰り返し撮影された画像を用いて計測した。
【0081】
(b-4)サンプルの採取
血液サンプルは、化学療法開始前2週間以内と化学療法開始後からoxaliplatinによる治療が中止されるまでの間、各治療サイクルの化学療法実施後2週後に採取した。
採取した血液検体は、室温で15分の間放置し凝固させた後、4℃で30分間、3000rpmで遠心した。その後、血清は4つのポリプロピレン管に等しい量ずつ移し、液体窒素で直ちに凍結した。全てのこれらの手順は、採血から1時間以内で終了した。血清サンプルは、分析までの間-80℃で保管した。
【0082】
(b-5)サンプルの調製
サンプル調製は、既報告の方法(J Proteome Res.2003 Sep-Oct;2(5):488-94,Metabolomics.2010 Mar;6(1):78-95,Metabolomics.2013 Apr;9(2):444-453)に準じて行った。血清サンプルは氷上で解凍し、1800μLのメタノールを入れた遠沈管に200μLの血清と内部標準(ISA1あるいはISC1 10μM)とクロロホルム2000μLおよび逆浸透水800μLを入れ混合した。vortexingしたあと、混合物は4℃、5分間、4600gで遠心分離した。その後、上層の1500μLをタンパク質の除去のため5kDaフィルタ(Millipore製)に移し、4℃、9100gで2~4時間遠心ろ過した。濾過液は、減圧遠心分離機によって乾燥した。CE-TOF MS分析の直前に、乾燥した濾過液は氷の上でISC2あるいはISA2を終濃度0.1mMで含む逆浸透水50μLに溶解し、分析バイアルに入れ4℃、10分間、1000gで遠心し、分析に供した。
【0083】
(c)CE-TOF MSによるサンプル中の代謝物質測定
全てのサンプルは、duplicateで測定した。CE-Q-TOF MSを用いて陽イオン測定条件で、また、CE-TOF MSを用いて陰イオン測定条件で、質量数1000以下の代謝物質を網羅的に測定した。
【0084】
(c-1)カチオン性代謝物質測定条件
1)測定機器
カチオン性代謝物質の測定には、Agilent 7100 CE systemを装備したAgilent 6530 Accurate-Mass Q-TOF MS system(Agilent Technologies製)を使用した。キャピラリーには、Human Metabolome Technologies,Inc.(HMT)のcatalogue number(Cat.No.)H3305-2002のフュ-ズドシリカキャピラリー(内径50μm、全長80cm)を用いた。緩衝液には、HMTのCat.No.3301-1001の緩衝液を用いた。印加電圧は+27kv、キャピラリー温度は20℃で測定した。試料は加圧法を用いて50mbarで10秒間注入した。
【0085】
2)飛行時間型質量分析計(Q-TOF MS)の分析条件
カチオンモードを用い、イオン化電圧は4kv、フラグメンター電圧は80v、スキマー電圧は50v、octRFV電圧は650vに設定した。乾燥ガスには窒素を使用し、温度300℃、圧力5psigに設定した。シース液はHMTのCat.No.H3301-1020のシース液を使用した。reference massはm/z 65.059706およびm/z 622.08963に設定した。
【0086】
(c-2)アニオン性代謝物質測定条件
1)測定機器
アニオン性代謝物質の測定には、Agilent 1600 CE systemを装備したAgilent 6210 TOF system(Agilent Technologies製)を使用し、キャピラリー及びその温度はカチオンと同じ設定のものを使用した。緩衝液には、HMTのCat.No.H3302-1021の緩衝液を用いた。印加電圧は30kv、試料は加圧法を用いて50mBarで25秒間で注入した。
【0087】
2)飛行時間型質量分析計(TOF MS)の分析条件
ニューアニオンモードを用い、イオン化電圧は3.5kv、フラグメンター電圧は125v、スキマー電圧は50v、octRFV電圧は175vに設定した。乾燥ガス及びシース液は、陽イオンと同じものを同じ条件で使用した。reference massはm/z 51.013854及びm/z 680.035541に設定した。
【0088】
(c-3)データ処理
m/z、遊走時間(MT)とピークの領域を含むピークの情報を得るために、CE-Q-TOF MS あるいはCE-TOF MSによって見つけられたピークの生データはMaster Hands自動統合ソフトウェア version 2.0(慶應義塾大学製)によって処理した。当該ソフトウェアにより、全てのピークを見つけ、ノイズを除去し、代謝物の注釈と相対的なピーク面積を含むデータマトリクスを生成した。ピークは、CEから得られるm/zとTOF MSから得られるMTを元に、HMTのメタボライト・データベースから推定される代謝物名を注釈としてつけた。アニオンのピークに注釈をつけるMT、m/z、最小限のS/N比の条件は各々1.5分、50ppm、20に設定した、そして、カチオンのそれは各々0.5分、50ppm、20に設定した。
注釈がつけられた各代謝物の相対濃度は、ISC1(カチオン)あるいはISA1(アニオン)の面積で、各々の代謝物のピークの面積を除することで算出した。
CE-Q-TOF MS及びCE-TOF MS分析において、個々の患者の抗腫瘍効果は、分析者にマスキングした。
処理されたピークのリストは、更なる統計解析のために外部に出力された。統計解析では、duplicateで測定したアノテートされた各代謝物の相対濃度の平均をとった。
【0089】
(d)統計解析
臨床及びメタボロミクス・データ処理と統計解析は、Microsoft Windows 7上でJMP 64ビット版バージョン12(SAS Institute製)を用いた。
本試験では、68例の患者で本試験治療開始前、サイクル1実施後、サイクル2実施後のそれぞれ68の血清サンプルが得られた。治療効果予測因子の検討のために、サイクル1実施後、サイクル2実施後のそれぞれ68の血清サンプルから得られた代謝物のデータを使用した。
本試験では、試験治療期間中の最大の抗腫瘍効果を把握し、治療反応群(レスポンダー)と治療無反応群(ノンレスポンダー)を以下のように定義した。
・レスポンダー(R):RECIST基準に従い放射線診断医による画像診断の結果、試験治療期間中の最大の効果がcomplete responseあるいはpartial responseを示した患者。
・ノンレスポンダー(N-R):RECIST基準に従い放射線診断医による画像診断の結果、試験治療期間中の最大の効果がstable diseaseあるいはprogressive diseaseの患者。
患者背景の違いを確認するのにχ二乗テストを用いた。
各代謝物のN-R群とR群の差異を検討するために、測定した代謝物について網羅的に名義ロジスティック解析を行い、モデル全体で有意となったものを抗がん剤治療開始後早期感受性判定マーカーの候補物質とした。
次に、抗がん剤治療開始後早期感受性判定マーカーの候補物質を基に効果予測モデルを確立するため、単変量で有意になった各代謝物についてROC曲線からカットオフ値を求め、その値を元に二値化した。その二値化した値を用いてSTEP WISE法でベイズ情報量基準(BIC)を指標にして変数増加法にて変数を選択した。そこで選択された変数を用い、多変量名義ロジスティック回帰分析を行った。抗がん剤治療開始後早期感受性判定マーカーの候補物質の効果の予測力を評価するために受信者動作特性(ROC)を用いた。
実際の臨床効果と予測モデルに基づく効果予測の性能を評価するため、Confusion matrixを作成し、レスポンダーの予測性能を感度、特異度、精度から評価した。
効果予測モデルの予後予測の性能を検討する目的で、残余の全生存期間をカプラン・マイアー法を用いて推定し、レスポンダーとノンレスポンダーの差異をログランク検定を用いて検討した。
さらに、治療開始後早期の血中代謝物の濃度と各患者の残余の全生存期間から、予後を予測する代謝物をCOXの比例ハザードモデルで解析した。以上の統計解析については、p値<0.05を有意とした。
【0090】
(2)結果
(a)R群とN-R群で有意差が見られた物質
表1に示すように、29人の患者はN-Rと定義され、39人の患者はRと定義された。R群とN-R群の間で患者背景に差は見られなかった。
【0091】
【表1】
【0092】
本試験治療の前に得られた血清サンプルで発現が見られた480の代謝物のうち検出率が25%以上の代謝物について網羅的に治療への反応(レスポンダーかノンレスポンダーか)を目的変数とする名義ロジスティック解析を行った。その結果、表2に示すようにサイクル1では12代謝物が有意となり、またサイクル2では9代謝物が有意となった。各代謝物のレスポンダーとノンレスポンダーの分布を図1及び図2に示した。
【0093】
【表2】
【0094】
25%以上の患者で検出された代謝物のうち、サイクルごとに網羅的に名義ロジスティック解析を行った結果、有意になった代謝物についてレスポンダーとノンレスポンダーの閾値を求め、それに基づき二値化したときの予測性能を、ROC AUC、レスポンダー/ノンレスポンダーの予測精度、感度、特異度および精度を求めた。それぞれの結果を表3に示した。各物質のカットオフ値は、以下の通りであった。サイクル1の代謝物として、2AMAD(2.091×10-2≦);2CYPR(3.444×10-3≦);6AHXA(7.175×10-3≦);BETNC(1.589×10-2≦);CARB(≦8.472×10-3);CSSG(2.198×10-2≦);GGLCY(7.389×10-3≦);GSSG(5.606×10-4≦);N6MDA(≦1.208×10-3);NOMTR(≦7.006×10-2);PHEP(≦1.801×10-2);RIB5P(≦3.005×10-3)であった。また、サイクル2の代謝物として、2ABA(2.507×10-1≦);5OPRO(1.843×10-1≦);6AHXA(4.568×10-3≦);ADEN(2.305×10-2≦);ASP(≦1.170×10-1);DOPM(5.606×10-4≦);HYPT(≦1.768×10-2);METSF(3.836×10-2≦);PRO(2.9876≦)であった。そして、サイクル1ではCSSGが特に良好なAUC(0.7≦)を示した。さらに、サイクル1の2ABAとサイクル2のPROは、特異性と陽性的中率が単独で100%であった。
【0095】
【表3】
【0096】
(b)抗がん剤感受性判定モデルの算出
抗がん剤感受性判定モデルを、ステップワイズ法を用いて説明変数を取捨選択し、作成した。その結果は表4に示すように、サイクル1では2AMAD、BETNC、CSSG、N6MDA、RIB5Pの5代謝物でモデル形成され、サイクル2では2ABA、ASP、DPMN、HYPT、METSF、PROの6代謝物でモデル形成された。
【0097】
【表4】
【0098】
抗がん剤感受性判定モデル(サイクル1モデル及びサイクル2モデル)は、それぞれ下記式(1)および(2)に示す通りである。
【数5】
(式中、2AMADは、2AMADの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-16.2688を、カットオフ値未満であった場合に16.2688を示し、BETNCは、BETNCの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-8.6560を、カットオフ値未満であった場合に8.6560を示し、CSSGは、CSSGの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-1.4372を、カットオフ値未満であった場合に1.4372を示し、N6MDAは、N6MDAの測定結果がカットオフ値を超えた場合に8.6658を、カットオフ値以下であった場合に-8.6658を示し、RIB5Pは、RIB5Pの測定結果がカットオフ値を超えた場合に1.3451を、カットオフ値以下であった場合に-1.3451を示し、該カットオフ値は、2AMADの場合に2.091×10-2であり、BETNCの場合に1.589×10-2であり、CSSGの場合に2.198×10-2であり、N6MDAの場合に1.208×10-3であり、RIB5Pの場合に3.005×10-3である。)
【0099】
【数6】
(式中、2ABAは、CSSGの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-2.3059を、カットオフ値未満であった場合に2.3059を示し、ASPは、ASPの測定結果がカットオフ値を超えた場合に1.8154を、カットオフ値以下であった場合に-1.8154を示し、DOPMは、DOPMの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-1.6345を、カットオフ値未満であった場合に1.6345を示し、HYPTは、HYPTの測定結果がカットオフ値を超えた場合に2.4113を、カットオフ値以下であった場合に-2.4113を示し、METSFは、METSFの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-1.5555を、カットオフ値未満であった場合に1.5555を示し、PROは、PROの測定結果がカットオフ値以上であった場合に-9.0794を、カットオフ値未満であった場合に9.0794を示し、該カットオフ値は、2ABAの場合に2.507×10-1であり、ASPの場合に1.170×10-1であり、DOPMの場合に5.606×10-4であり、HYPTの場合に1.768×10-2であり、MESFの場合に3.836×10-2であり、PROの場合に2.9876である。)
【0100】
上記サイクル1モデル及びサイクル2モデルは、患者がレスポンダーであるか否かを判定する式である。p値は患者がレスポンダーである確率を表し、p値が0.5を超えた場合にレスポンダーと判断する。
サイクル1モデルのROC曲線のAUCは0.94であった(図3a)。その感度、特異度、陽性的中率および陰性的中率は、表5に示したとおり、各々100%、65.5%、79.6%、100%であった。
また、サイクル2モデルのROC曲線のAUCは0.97であった(図3b)。その感度、特異度、陽性的中率および陰性的中率は、表5に示したとおり、各々92.3%、85.7%、90.0%、88.9%であった。
【0101】
【表5】
【0102】
(c)サイクル1モデル及びサイクル2モデルにおけるOSの予測性能
上記サイクル1モデル及びサイクル2モデルのOSについての予測可能性を検証するために、上記モデルにより治療開始前の代謝物を元にレスポンダーと判断された群(R群)とノンレスポンダーと判断された群(N-R群)に分けた上で、カプラン・マイアー曲線を描き、R群とN-R群でOSに差が出るか確認した。R群とN-R群のOSは、ログランク検定で比較した。
その結果、サイクル1モデル及びサイクル2モデルの両方において、R群はN-R群に比べ有意にOSが長く(それぞれ、p=0.0008、p=0.0020)、本代謝物モデルの有用性を示す結果となった(図4a及び図4b)。
【0103】
(d)代謝物のCOX比例ハザードモデルによるOSの解析
サイクル1及びサイクル2の投与日からの生存期間を元に代謝物を網羅的にCOXの比例ハザードモデルで解析し、その結果有意となった代謝物のハザード比とその95%信頼区間を図5a及び図5bに示した。サイクル1では、BEZIZ、CSSG、GLC3P、GLYLE、QUINAは、血中の濃度が高いほど生存期間が長いこと、また、DDNA、GUSA、OCTAは、血中濃度が高いほど生存期間が短いことが見出された。
また、サイクル2では、2AMAD、ALA、BEZIZ、CSSG、GGLCY、GLCOA、GLU、GLTA、GLC3P、LEU、LYS、N6ALY、QUINA、THR、VALは、血中の濃度が高いほど生存期間が長いこと、また10HDA、CHOA、PIPECは、血中濃度が高いほど生存期間が短いことが見出された。
図1
図2
図3
図4
図5