(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161056
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】ポリエステル系繊維用難燃処理剤
(51)【国際特許分類】
C09K 21/12 20060101AFI20241108BHJP
C09K 21/10 20060101ALI20241108BHJP
D06M 13/282 20060101ALI20241108BHJP
D06M 13/325 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C09K21/12
C09K21/10
D06M13/282
D06M13/325
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024141096
(22)【出願日】2024-08-22
(62)【分割の表示】P 2020116034の分割
【原出願日】2020-07-04
(71)【出願人】
【識別番号】000157717
【氏名又は名称】丸菱油化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】三輪 快
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 健汰
(72)【発明者】
【氏名】石川 章
(57)【要約】
【課題】本発明の主な目的は、ポリエステル系繊維本来の物性を実質的に維持しつつも、高い難燃性を付与することができる難燃処理剤を提供する。
【解決手段】ポリエステル系繊維に難燃性を付与するための組成物であって、特定のホスホン酸化合物及び窒素含有化合物を含む難燃処理剤に係る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系繊維に難燃性を付与するための組成物であって、
(1)(a)下記式1-2
【化8】
(但し、Rは、炭素数1~8の分岐又は直鎖のアルキル基、炭素数1~8のアラルキル基又はフェニル基を示す)
で示されるホスホン酸化合物の少なくとも1種及び
(b)下記式2-1及び式2-2
【化9】
(但し、R
1~R
3は、互いに同一又は異なっていて、水素原子又は炭素数1~4の分岐又は直鎖のアルカノール基を示す。Xは、-NH-又は-O-を示す。)
で示される窒素含有化合物の少なくとも1種
が水に溶解してなる水溶液(但し、メタンホスホン酸及びアンモニアを含む水溶液を除く。)であって、
(2)前記水溶液のpHが4~8である
ことを特徴とするポリエステル系繊維用難燃処理剤。
【請求項2】
ホスホン酸化合物及び窒素含有化合物のモル比(ホスホン酸化合物:窒素含有化合物)=1:0.4~1:5である、請求項1に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤。
【請求項3】
前記の式2-1の化合物が、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びトリエタノールアミンの少なくとも1種である、請求項1に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤。
【請求項4】
前記ホスホン酸化合物が、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、イソブチルホスホン酸、n-ペンチルホスホン酸、n-へキシルホスホン酸、ネオペンチルホスホン酸、n-オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸の少なくとも1種である、請求項1に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤。
【請求項5】
(a)下記式1-2
【化10】
(但し、Rは、炭素数1~8の分岐又は直鎖のアルキル基、炭素数1~8のアラルキル基又はフェニル基を示す)
で示されるホスホン酸化合物の少なくとも1種及び
(b)下記式2-1及び式2-2
【化11】
(但し、R
1~R
3は、互いに同一又は異なっていて、水素原子又は炭素数1~4の分岐又は直鎖のアルカノール基を示す。Xは、-NH-又は-O-を示す。)
で示される窒素含有化合物の少なくとも1種(但し、メタンホスホン酸及びアンモニアの組み合わせを除く。)
がポリエステル系繊維に付着してなる難燃性ポリエステル系繊維。
【請求項6】
前記の式2-1の化合物が、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びトリエタノールアミンの少なくとも1種である、請求項1に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤。
【請求項7】
前記ホスホン酸化合物が、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、イソブチルホスホン酸、n-ペンチルホスホン酸、n-へキシルホスホン酸、ネオペンチルホスホン酸、n-オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸の少なくとも1種である、請求項1に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤を用いてポリエステル系繊維を難燃処理する工程を含む、難燃性ポリエステル系繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリエステル系繊維用難燃処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系繊維を用いた素材(織物生地等)は、耐久性、伸縮性、汗速乾性等に優れることから、衣料、自動車内装等をはじめ、各種の産業資材に幅広く用いられている。これらの用途にポリエステル系繊維を用いるに際しては、ポリエステル系繊維に難燃性を付与するための難燃化処理が行われる。
【0003】
難燃化処理する方法としては、原料樹脂に難燃成分を添加し、紡糸することにより難燃性繊維を製造する方法のほか、製造された繊維を難燃剤で処理することにより難燃性繊維を製造する方法がある。
【0004】
前者の方法としては、例えばポリエステル系繊維重量に対して、リン原子の含有量が1000~16000ppmとなるように下記一般式(1)で表されるリン化合物と、0.005wt%~1.5wt%となるように鎖伸長剤が配合されているポリエステル系繊維が提案されている。このような方法では、紡糸段階で難燃成分を添加する必要があるため、既存の繊維製品に対して必要に応じて所望の難燃性を付与するということができない(特許文献1)。
【化1】
【0005】
これに対し、後者の方法では、既存の繊維製品に対して必要に応じて所望の難燃性を後処理工程で付与できるので、工業上利用しやすい。このような方法で用いられている難燃剤としては、水溶解性リン系難燃剤が知られている。これは、例えば(5-エチル-2-メチル-2-オキソ-1,3,2λ(5)-ジオキサホスフィナン-5-イル)メチル=メチル=メチルホスホナートとビス[(5-エチル-2-メチル-2-オキソ-1,3,2λ(5)-ジオキサホスフィナン-5-イル)メチル]=メチルホスホナートの混合物(丸菱油化工業株式会社製「ノンネンR031-5」)のような環状ホスホン酸エステル類が難燃成分として含まれているものであり、広く用いられている難燃剤の一つである。しかし、前記のような難燃剤は、揮発性を有することから、例えば難燃剤を含む処理布を乾燥する際に、用いる乾燥機の内壁、処理布等を揮発成分で汚染してしまうという問題がある。また、前記のような環状ホスホン酸エステル類は、化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法律(いわゆる化兵法)の中で化学兵器の前駆物質になるものとして指定されており、使用者は使用の実績数量等を経済産業大臣に届け出をしなければならないという事務処理上の手間がかかる。
【0006】
また、リン酸グアニジン(例えば丸菱油化工業株式会社製「ノンネン984」)、リン酸アンモニウム、低分子量ポリリン酸アンモニウム等の水溶性リン酸アミン塩も、ポリエステル系繊維の難燃加工剤として汎用されている。しかし、こういった水溶性リン酸塩タイプは、上記環状ホスホン酸エステル類に比較して、特にポリエステル系繊維に対しては難燃性を付与する能力が低く、被処理布に対して相当量を付与する必要がある。そのため、被処理布表面上に経時的に白色固体が析出し、その外観を低下させるおそれがある。結晶の析出を抑制する目的で酸性リン酸エステルのアミン塩等の添加も提案されているものの、これらはさらに難燃性能に劣り、被処理布に対して多量の添加が必要となる。
【0007】
このようなグアニジン系化合物を用いた難燃剤としては、例えばアルキルホスホン酸及びグアニジン系化合物(特にグアニル尿素)からなる塩を水に溶解又は分散させてなる水系難燃加工剤を含む処理液が知られている(特許文献2)。しかし、アルキルホスホン酸とグアニジン系化合物との塩も、所望の難燃性を達成するためには相当量の添加が必要となる。その結果として、難燃化された布には水系の難燃剤に由来するキワツキ(際付き:繊維製品表面に出現する滲み)が発生したり、風合いが失われて硬くなったりするため、用途は限定的にならざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2017-179654号公報
【特許文献2】特開2015-94045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、ポリエステル系繊維が本来有する風合い等を維持しながら、高い難燃性を付与できる難燃処理剤の開発が切望されているが、そのような難燃処理剤の開発に至っていないのが現状である。
【0010】
従って、本発明の主な目的は、ポリエステル系繊維本来の物性を実質的に維持しつつも、高い難燃性を付与することができる難燃処理剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の成分を含む組成物をポリエステル系繊維用の難燃処理剤として採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、下記のポリエステル系繊維用難燃処理剤に係る。
1. ポリエステル系繊維に難燃性を付与するための組成物であって、
(1)(a)下記式1-1及び式1-2
【化2】
(但し、Rは、炭素数1~8の分岐又は直鎖のアルキル基、炭素数1~8のアラルキル基又はフェニル基を示す)
で示されるホスホン酸化合物の少なくとも1種及び
(b)下記式2-1及び式2-2
【化3】
(但し、R
1~R
3は、互いに同一又は異なっていて、水素原子又は炭素数1~4の分岐又は直鎖のアルカノール基を示す。Xは、-NH-又は-O-を示す。)
で示される窒素含有化合物の少なくとも1種
が水に溶解してなる水溶液であって、
(2)前記水溶液のpHが4~8である
ことを特徴とするポリエステル系繊維用難燃処理剤。
2. ホスホン酸化合物及び窒素含有化合物のモル比(ホスホン酸化合物:窒素含有化合物)=1:0.4~1:5である、前記項1に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤。
3. (a)下記式1-1及び式1-2
【化4】
(但し、Rは、炭素数1~8の分岐又は直鎖のアルキル基、炭素数1~8のアラルキル基又はフェニル基を示す)
で示されるホスホン酸化合物の少なくとも1種及び
(b)下記式2-1及び式2-2
【化5】
(但し、R
1~R
3は、互いに同一又は異なっていて、水素原子又は炭素数1~4の分岐又は直鎖のアルカノール基を示す。Xは、-NH-又は-O-を示す。)
で示される窒素含有化合物の少なくとも1種
がポリエステル系繊維に付着してなる難燃性ポリエステル系繊維。
4. 前記項1又は2に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤を用いてポリエステル系繊維を難燃処理する工程を含む、難燃性ポリエステル系繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリエステル系繊維本来の物性を実質的に維持しつつも、高い難燃性を付与することができる難燃処理剤を提供することができる。
【0014】
特に、本発明では、特定のホスホン酸化合物と特定の窒素含有化合物とを含む水性組成物を採用していることから、難燃処理前においてポリエステル系繊維が本来的に有している性質(風合い)を保持しつつも、高い難燃性をポリエステル系繊維に付与することができる。
【0015】
ホスホン酸化合物は、酸性度が非常に高いため、特に高温高湿下では繊維又は生地の脆化を進め、その風合い等を著しく低下させるおそれがある。このため、酸性度を和らげるために塩基性化合物を用いることが考えられるが、塩基性化合物の配合がホスホン酸化合物の難燃性能に悪影響を及ぼし、特にアルカリ金属塩では難燃性が極端に低下してしまう。このため、ポリエステル系繊維に対する高い難燃性の付与と、ポリエステル系繊維本来の物性の維持とを両立させることは困難とされている。
【0016】
これに対し、本発明では、特定のホスホン酸系化合物と特定の窒素含有化合物との組み合わせを採用することにより、ポリエステル系繊維に対して高い難燃性を付与するとともに、ポリエステル系繊維本来の物性を効果的に維持することに成功したものである。より具体的には、特定のホスホン酸化合物と特定の窒素含有化合物との組み合わせにより生成する塩は、難燃成分としてのホスホン酸化合物の難燃性を阻害しないことを見出し、処理対象となるポリエステル系繊維(難燃処理前のもの)が本来有する物性(風合い等)を効果的に維持しつつも、高い難燃性をもたせることが可能となる。
【0017】
また、本発明難燃処理剤に含まれる特定のホスホン酸化合物は、比較的少量でもポリエステル系繊維に対して高い難燃性を付与することができるので、本発明難燃処理剤が水溶液の形態であるにもかかわらず、水系難燃処理剤の使用時に発生するキワツキの発生を抑制ないしは防止することができる。
【0018】
さらに、本発明の難燃処理剤は、環状ホスホン酸エステル類等のような揮発による問題も起こりにくいため、乾燥機の内壁、処理後の繊維の汚染等を効果的に抑制ないしは防止することができる。
【0019】
このような特徴を有する本発明の難燃処理剤は、ポリエステル系繊維及びそれを用いた繊維製品(衣服のほか、車両、船舶、航空機等の内装材、住居用内装材等)の難燃化に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.ポリエステル系繊維用難燃処理剤
本発明のポリエステル系繊維用難燃処理剤(本発明難燃処理剤)は、ポリエステル系繊維に難燃性を付与するための組成物であって、
(1)(a)下記式1-1及び式1-2
【化6】
(但し、Rは、炭素数1~8の分岐又は直鎖のアルキル基、炭素数1~8のアラルキル基又はフェニル基を示す)
で示されるホスホン酸化合物の少なくとも1種及び
(b)下記式2-1及び式2-2
【化7】
(但し、R
1~R
3は、互いに同一又は異なっていて、水素原子又は炭素数1~4の分岐又は直鎖のアルカノール基を示す。Xは、-NH-又は-O-を示す。)
で示される窒素含有化合物の少なくとも1種
が水に溶解してなる水溶液であって、
(2)前記水溶液のpHが4~8である
ことを特徴とする。
【0021】
ホスホン酸化合物は、前記の式1-1及び式1-2で示される化合物の少なくとも1種を用いることができる。
【0022】
前記式1-1の化合物は、1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸である。また、前記式1-2の化合物としては、例えばメチルホスホン酸、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、イソブチルホスホン酸、n-ペンチルホスホン酸、n-へキシルホスホン酸、ネオペンチルホスホン酸、n-オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸等が挙げられる。
【0023】
窒素含有化合物は、前記の式2-1及び式2-2で示される化合物の少なくとも1種を用いることができる。
【0024】
前記式2-1の化合物としては、例えばアンモニア、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。また、前記式2-2の化合物としては、モルホリン、ピペラジンが挙げられる。
【0025】
本発明では、上記のような窒素含有化合物とホスホン酸化合物とを併用することにより、ホスホン酸化合物の難燃性能を阻害することなく、本発明難燃処理剤(水溶液)のpHを中性付近に制御することができる結果、ポリエステル系繊維の本来の特性を効果的に維持しつつ、良好な難燃性を付与することが可能となる。前記ホスホン酸化合物の単独水溶液は通常pH1~2の強酸であるため、当該ホスホン酸化合物単独で加工された繊維材料は、特に高温高湿下で脆化するという問題が起こる。これに対し、本発明において、特定のホスホン酸化合物とともに特定の窒素含有化合物を併用することにより前記問題を解消しつつ、高度な難燃性を付与することができる。
【0026】
かかる見地より、ホスホン酸化合物及び窒素含有化合物のモル比は、(ホスホン酸化合物:窒素含有化合物)=1:0.4~1:5の範囲内とすることが好ましい。これによって、より確実に難燃処理剤のpHを4~8程度(特に4.5~6.5)に制御することができる。pH4未満の場合は、ポリエステル系繊維の脆化が誘発されるおそれがある。また、pH8を超過した場合は、高い難燃性が得られなくなることがある。なお、本発明におけるpHは、温度20℃におけるpHである。
【0027】
本発明難燃処理剤においては、本発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて他の添加剤を添加することもできる。例えば、防腐剤、消臭剤、増粘剤、樹脂バインダー、可縫製向上剤、仕上げ剤、消臭剤、柔軟剤、撥水剤、撥油剤、架橋剤(イソシアネート系、エチレンイミン系、グリシジル系)等が挙げられる。また、本発明の効果を妨げない限り、前記ホスホン酸化合物以外の難燃処理剤(ハロゲン系難燃処理剤、リン系難燃処理剤等)、前記の窒素含有化合物以外のpH調整剤を含んでいても良い。
【0028】
本発明難燃処理剤の形態は、通常はホスホン酸化合物及び窒素含有化合物が水に溶解してなる水溶液の形態である。この場合の濃度は、特に限定されないが、通常はホスホン酸化合物の濃度が10質量%以上であることが好ましく、特に30質量%以上であることがより好ましい。なお、前記濃度の上限は、例えば70質量%程度とすることができるが、これに限定されない。
【0029】
本発明難燃処理剤における水溶液のpHは、前記のようにpH=4~8程度とし、特に4.5~6.5とすることが好ましい。このような範囲内に設定することによって、ポリエステル系繊維の本来の性能を効果的に維持しつつ、高い難燃性をポリエステル系繊維に付与することができる。
【0030】
2.ポリエステル系繊維用難燃処理剤の製造方法
本発明難燃処理剤の製造方法は、前記のような各成分を均一に混合することによって実施することができる。特に、水溶液の形態である場合は、少なくともホスホン酸化合物及び窒素含有化合物を水に溶解させる工程を含む方法を好適に採用することができる。例えば、ホスホン酸化合物の水溶液を調製する工程及び前記ホスホン酸化合物水溶液と窒素含有化合物又はその水溶液とを混合する工程を含む方法を採用することができる。
【0031】
3.難燃性ポリエステル系繊維の製造方法
本発明は、本発明難燃処理剤を用いてポリエステル系繊維を難燃処理する工程を含む、難燃性ポリエステル系繊維の製造方法を包含する。
【0032】
本発明難燃処理剤により難燃性を付与するポリエステル系繊維の種類は、限定的でなく、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等を含む繊維が挙げられる。
【0033】
本発明の効果を妨げない範囲内において、a)他の合成樹脂等とポリエステル樹脂との混合樹脂、ポリマーアロイ等の繊維、b)ポリエステル系繊維と他の合成繊維又は天然繊維(綿、絹、麻等)と混紡された繊維等を本発明難燃処理剤の処理対象とすることもできる。また、繊維の形態も、短繊維又は長繊維のいずれであっても良い。繊維径も、限定的でなく、例えば5~50μm程度とすれば良いが、これに限定されない。
【0034】
また、本発明難燃処理剤の処理対象は、ポリエステル系繊維そのもののほか、ポリエステル系繊維により作製された生地(布地、布帛)であっても良い。生地としては、織物又は不織布のいずれであっても良い。また、生地は、ポリエステル系繊維単体からなる生地に加え、ポリエステル系繊維と他の繊維(合成繊維又は天然繊維)とを含む生地であっても良い。
【0035】
生地の場合、その目付けも限定されず、例えば30~500g/m2程度とすることができるが、これに限定されない。
【0036】
本発明難燃処理剤による処理方法は、特に限定されず、公知の加工方法及び加工機器を使用して実施することもできる。例えば、パディング加工、バッキング加工、浸漬加工、浴中吸尽加工、スプレー加工、サーモゾル加工、グラビア加工等のいずれも適用することができる。
【0037】
より具体的には、1)ポリエステル系繊維に本発明難燃処理剤を接触させる工程(接触工程)及び2)加熱下でキュアリングする工程(キュアリング工程)を含む方法を好適に採用することができる。
【0038】
接触工程では、ポリエステル系繊維に本発明難燃処理剤を接触させることができれば良く、例えばスプレー、浸漬加工等のいずれの方法も採用することができる。繊維に対して均一に処理を行い易いという観点から、浸漬加工がより好ましい。ポリエステル系繊維に対する本発明難燃処理剤の付与量は、所望の難燃性等に応じて適宜設定することができるが、通常はポリエステル系繊維100質量部に対してホスホン酸化合物の量として1~10質量部程度とすることができる。
【0039】
なお、接触工程では、キュアリング工程に先立って、例えば50~120℃程度で乾燥工程を実施することができる。
【0040】
キュアリング工程では、本発明難燃処理剤を含むポリエステル系繊維を熱処理すれば良い。例えば大気中150~200℃程度で熱処理することができる。このようにして本発明難燃処理剤の難燃成分(ホスホン酸化合物のほか、上記ホスホン酸化合物及び上記窒素含有化合物との塩等)を含む難燃性ポリエステル繊維を得ることができる。すなわち、前記ホスホン酸化合物の少なくとも1種及び前記窒素含有化合物の少なくとも1種がポリエステル系繊維に付着してなる難燃性ポリエステル系繊維を提供することができる。ホスホン酸化合物及び窒素含有化合物は、それぞれ単独でポリエステル系繊維に付着していても良いし、両者の塩の形態でポリエステル系繊維に付着していても良い。
【実施例0041】
以下において、実施例及び比較例を示し、本発明の内容より具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の「%」表示(含有量)は「質量%」を示す。
【0042】
実施例1
攪拌機を付帯した200mLガラス製フラスコに60%濃度の1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸水溶液56.40gを測り取り、攪拌しつつ水18.96g加えた。その後、フラスコをアイスバスにて冷却し、これに25%濃度のアンモニア水24.64gを内温25℃を超えないように冷却しながらゆっくり添加することにより中和し、pHを5.7とした。得られた無色透明の水溶液を薬剤A(得量100.0g、ホスホン酸化合物として33.8%含有)とした。
【0043】
実施例2
攪拌機を付帯した200mLガラス製フラスコに60%濃度の1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸水溶液42.60gを測り取り、攪拌しつつ水16.93gを加えた。その後、フラスコをアイスバスにて冷却し、これに85%濃度のジイソプロパノールアミン水溶液40.47gを内温25℃を超えないように冷却しながらゆっくり添加することにより中和し、pHを5.6とした。得られた無色透明の水溶液を薬剤B(得量100.0g、ホスホン酸化合物として25.6%含有)とした。
【0044】
実施例3
攪拌機を付帯した200mLガラス製フラスコに60%濃度の1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸水溶液54.15gを測り取り、攪拌しつつ水27.50g加えた。その後、フラスコをアイスバスにて冷却し、これにモルホリン18.35gを内温25℃を超えないように冷却しながらゆっくり添加することにより中和し、pHを5.5とした。得られた無色透明の水溶液を薬剤C(得量100.0g、ホスホン酸成分32.5%含有)とした。
【0045】
実施例4
攪拌機を付帯した200mLガラス製フラスコにn-ブチルホスホン酸44.26gを測り取り、攪拌しつつ水32.81g加えた。その後、フラスコをアイスバスにて冷却し、これに25%濃度のアンモニア水22.93gを内温25℃を超えないように冷却しながらゆっくり添加することにより中和し、pHを6.4とした。得られた無色透明の水溶液を薬剤D(得量100.0g、ホスホン酸化合物として44.3%含有)とした。
【0046】
実施例5
攪拌機を付帯した200mLガラス製フラスコにn-ブチルホスホン酸30.66gを測り取り、攪拌しつつ水34.82g加えた。その後、フラスコをアイスバスにて冷却し、これに85%濃度のジイソプロパノールアミン34.52gを内温25℃を超えないように冷却しながらゆっくり添加することにより中和し、pHを4.6とした。得られた無色透明の水溶液を薬剤E(得量100.0g、ホスホン酸化合物として30.7%含有)とした。
【0047】
比較例1
60%濃度の1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸水溶液(キレスト株式会社製「キレストPH-210」)を薬剤Fとした(ホスホン酸化合物として60.0%含有)。
【0048】
比較例2
攪拌機を付帯した200mLガラス製フラスコに60%濃度の1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸水溶液57.14gを測り取り、攪拌しつつ水17.14g加えた。その後、フラスコをアイスバスにて冷却し、これに炭酸グアニジン25.72gを内温25℃を超えないように冷却しながらゆっくり添加することにより中和し、pHを4.6とした。得られた無色透明の水溶液を薬剤G(得量90.2g、ホスホン酸化合物として37.6%含有)とした。なお、中和時には、激しい炭酸ガスの発生が確認された。
【0049】
比較例3
リン酸グアニジンの60%水溶液(丸菱油化工業株式会社製「ノンネン984」)を薬剤Hとした。
【0050】
比較例4
攪拌機を付帯した200mLガラス製フラスコにメチルホスホン酸10.00gを測り取り、攪拌しつつ水82.14g加えた。その後、フラスコをアイスバスにて冷却し、これにグアニル尿素7.86gを内温25℃を超えないように冷却しながらゆっくり添加することにより中和し、pHを4.9とした。得られた無色透明の水溶液を薬剤I(得量100.0g、ホスホン酸化合物として10.0%含有)とした。なお、用いたグアニル尿素は、米国特許2,277,823号に記載の製造法に従って製造したものを用いた。
【0051】
試験例1
(1)加工布(試験片)の調製
薬剤A~薬剤Hをホスホン酸化合物ベースで1.5%(比較例3のみ、リン酸ベースで1.5%)になるように、シリコン系可縫製向上剤「POLON MF29(信越化学工業株式会社製)」の0.1%水溶液で希釈し、加工液とした。絞り率80%にてポリエステル布(目付300g/m2のカーシート用黒色ポリエステル布)をパディング処理した。さらに、80℃で10分間予備乾燥した後、180℃で1分間キュアリングを行い、加工布を得た。各薬剤の有効成分(ホスホン酸化合物)の付与量は、いずれも約3.6g/m2とした。
【0052】
(2)試験・評価
各薬剤で処理された加工布を用いて以下の試験を行った。その結果を表1に示す。
(2-1) 難燃性
米国規格FMVSS302法(自動車内装用品の安全基準)に従い、車両用内装材の燃焼距離、燃焼時間及び燃焼速度を測定した。評価基準は、以下の通りとした。
不燃性:A標線を超えて燃焼しない。(A標線前自消)
難燃性:A標線を超えて燃焼するが、燃焼距離が50mm未満、かつ、燃焼速度が80mm/分未満である。
遅燃性:燃焼速度が100mm/分未満である。
不合格:燃焼速度が100mm/分以上である。
(2-2)キワツキ(際付き)
温度80℃の蒸留水3mLを水平にした加工布の表面に滴下し、室温にて風乾した。乾燥後の加工布表面を目視で観察し、キワツキの程度を確認した。キワツキの評価は、以下のように「◎」~「×」の4段階で評価した。
◎:際がわからず、濡れた部分の色調変化がない
〇:際および濡れた部分の色調変化が微かに確認できる
△:際および濡れた部分の色調変化が確認できる
×:際が明確に確認でき、濡れた部分の色調が明らかに異なっている
(2-3)風合い
加工布の風合いを触感で確認した。風合いの評価は、以下のように「◎」~「×」の4段階で評価した。
◎:未処理布と同等の柔軟性(触感)を維持している
〇:未処理布に比べ、微かに触感が硬い
△:未処理布に比べ、ごわつきを感じる
×:未処理布に比べ、強いごわつきを感じる
(2-4)耐湿熱性
温度70℃×湿度95%RHの環境下に加工布を4週間にわたって静置し、その後に温度23℃×湿度50%RHの環境下で24時間の順化を行った。難燃処理の前後で引き裂き試験を行い、加工布の物性低下の度合いを調べた。初期の引き裂き強度(N)を100%としたときの試験後の強度を%で示した。また、試験はn=5で行い、その平均値で評価した。
【0053】
【0054】
表1の結果からも明らかなように、ホスホン酸化合物のみを含む難燃処理剤である比較例1では、高温高湿下で繊維が脆化していることがわかる。
また、ホスホン酸化合物とグアニジン化合物との塩を用いた比較例2では、ある程度の難燃性は認められるものの、キワツキが顕著で風合いも低く、ポリエステル系繊維本来の物性が損なわれていた。
グアニジン化合物単体を用いた比較例3~4では、ポリエステル系繊維に対して十分な難燃性を付与することができなかった。
これら比較例に対し、実施例1~5のように、所定のホスホン酸化合物と窒素含有化合物を含む本発明難燃処理剤をポリエステル系繊維に付与することにより、「不燃」という高い難燃性能が発現し、なおかつ、キワツキ又は風合いを損ねない生地を提供できることがわかる。しかも、これらの実施例では、耐湿熱性試験を行っても、耐湿熱性が68~75%であり、繊維の強度の低下は少ないこともわかる。
前記の式2-1の化合物が、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びトリエタノールアミンの少なくとも1種である、請求項1に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤。
前記ホスホン酸化合物が、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、イソブチルホスホン酸、n-ペンチルホスホン酸、n-へキシルホスホン酸、ネオペンチルホスホン酸、n-オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸の少なくとも1種である、請求項1に記載のポリエステル系繊維用難燃処理剤。
前記の式2-1の化合物が、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン及びトリエタノールアミンの少なくとも1種である、請求項5に記載の難燃性ポリエステル系繊維。
前記ホスホン酸化合物が、エチルホスホン酸、n-プロピルホスホン酸、n-ブチルホスホン酸、イソブチルホスホン酸、n-ペンチルホスホン酸、n-へキシルホスホン酸、ネオペンチルホスホン酸、n-オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸の少なくとも1種である、請求項5に記載の難燃性ポリエステル系繊維。