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特開2024-161060真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる断熱部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161060
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる断熱部材
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
F04D19/04 G
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024141698
(22)【出願日】2024-08-23
(62)【分割の表示】P 2021188660の分割
【原出願日】2021-11-19
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
(57)【要約】
【課題】断熱部の剛性と断熱効果を向上させて、ポンプ内部の構成部品の温度をねらい通りに管理しやすくする真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる断熱部材を提供する。
【解決手段】少なくとも冷却機能を備えているターボ分子ポンプ100は、ネジ付131に配設され、軸方向に沿って形成された複数の空洞204Bを周方向に繰り返し設けて成る中空構造を呈した断熱材203を備えている。空洞204Bは、開口方向から視て略平行四辺状に形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱機能又は冷却機能の少なくとも一方を備えている真空ポンプであって、
加熱又は冷却される被温調部品に配設され、軸方向または半径方向に沿って形成された複数の空洞を周方向に繰り返し設けて成る中空構造を呈する断熱部を備え、
前記空洞の少なくとも一部は、開口方向から視て略平行四辺形状に形成されている、
ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記空洞の少なくとも一部は、開口方向から視て略三角形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記空洞は、少なくとも一部が塞がれている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
軸方向に多段状に配列された複数の回転翼を有する回転体と、前記複数の回転翼間に配設された複数の固定翼と、を備えているターボ分子ポンプ機構をさらに備え、
前記被温調部品は、前記複数の固定翼のうちの少なくとも1つの固定翼であり、
前記断熱部は、前記固定翼の支持部に配設された、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
半径方向で互いに対向する回転円筒の外周面と固定円筒の内周面の少なくとも一面にネジ溝が形成されたホルベック型ポンプ機構をさらに備え、
前記被温調部品は、前記固定円筒であり、
前記断熱部は、前記固定円筒の支持部に配設された、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
軸方向で互いに対向する回転円板と固定円板とを有し、前記回転円板と対向する前記固定円板の少なくとも一面に渦巻き状山部と渦巻き状谷部を有する渦巻き状溝が形成されたシグバーン型ポンプ機構をさらに備え、
前記被温調部品は、前記固定円板であり、
前記断熱部は、前記固定円板の支持部に配設された、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
加熱機能又は冷却機能の少なくとも一方を備えている真空ポンプに用いられる断熱部材であって、
加熱又は冷却される被温調部品に配設され、軸方向または半径方向に沿って形成された複数の空洞を周方向に繰り返し設けて成る中空構造を呈し、
前記空洞の少なくとも一部は、開口方向から視て略平行四辺形状に形成されている、
ことを特徴とする断熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる断熱部材に関するものであり、特に、低真空から超高真空に亘る圧力範囲で利用可能な真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる断熱部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メモリや集積回路灯の半導体装置を製造する際、空気中の塵等による影響を避けるために、高真空状態のチャンバ内で高純度の半導体基板(ウエハ)にドーピングやエッチングを行う必要があり、チャンバ内の排気には、例えば、ターボ分子等の真空ポンプが使用されている。
【0003】
このような真空ポンプとして、円筒状のケーシングと、ケーシング内に入れ子で固定されると共にネジ溝が配設された円筒状のステータと、ステータ内で高速回転可能に支持されたロータと、を備えているもの等が知られている。
【0004】
真空ポンプでは、ケーシングの吸気口から吸引したガスによっては、ポンプ内部(ケーシング内部)で圧縮する過程で気体から固体に相変化を起こし、ポンプ内部で固化する場合がある。その結果、ポンプ内部に固化物が堆積し、ガス流路が閉塞するという不具合が生じる場合がある。
【0005】
その不具合を解決する方法として、真空ポンプを加熱し、温度を上げると固化が防止できることが従来から知られている。しかしながら、内部の温度状態を把握せず、ポンプを加熱すると、加熱したくない箇所の温度が適温を超えた温度、すなわち過熱状態に陥る可能性がある。そこで、加熱したい部分と加熱したくない部分との間に断熱材を設置し、加熱したい部分のみを選択的に加熱する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-151932号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、断熱部の断熱効果を上げるためは、断熱部の肉厚を薄くして断面積を低減する必要がある。しかし、断面積を低減すると断熱部の剛性が低下する。そして、剛性が低くなることから、次のような問題点があった。
(1)座屈のリスクが増加する。
(2)固有振動数が低下し、共振が発生する。
(2)外部からの衝撃などで変形し、回転部と固定部が接触して故障の原因となる。
(3)加工中に歪みが発生し易く、加工が難しいのでコストアップになる。
したがって、それらの問題点を考慮すると、断熱部は、肉厚で長い部品となり、スペース上の制約も出て来る。そのため、必要十分な断熱効果を得るのが容易ではなかった。
【0008】
そこで、断熱部の剛性と断熱効果を向上させて、ポンプ内部の構成部品の温度をねらい通りに管理しやすくする真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる断熱部材を提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1に記載の発明は、加熱機能又は冷却機能の少なくとも一方を備えている真空ポンプであって、加熱又は冷却される被温調部品に配設され、軸方向または半径方向に沿って形成された複数の空洞を周方向に繰り返し設けて成る中空構造を呈する断熱部を備え、前記空洞の少なくとも一部は、開口方向から視て略平行四辺形状に形成されている、真空ポンプを提供することにある。
【0010】
この構成によれば、部品の一部である断熱部が中空構造をなしているので、断熱部の断面二次モーメントが増加し、これにより剛性が向上する。このため、断熱部の断面積を同じにしても、剛性及び断熱効果が共に向上し、真空ポンプ内部の構成部品の温度を狙い通りに管理し易くなる。すなわち、下流側の流路など、必要な部品のみを選択的に加熱又は冷却をすることができる。さらに、空洞の穴形状を開口方向から視て略平行四辺形状に形成すると、半径方向の剛性を選択的に下げられ、内側の部品が熱膨張しても、略平行四辺形の部分が変形して負荷を緩和できる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成において、前記空洞の少なくとも一部は、開口方向から視て略三角形状に形成されている、真空ポンプを提供する。
【0012】
この構成によれば、空洞の穴形状を開口方向から視て略三角の穴形状にすると、断熱部の剛性が上がり、また断熱部も形成しやすくなる。これにより、コストを抑えて断熱効果を上げることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の構成において、前記空洞は、少なくとも一部が塞がれている、真空ポンプを提供する。
【0014】
この構成によれば、空洞の少なくとも一部を塞ぐことにより、空洞が通し穴の場合に比べて、剛性が更に向上する。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載の構成において、軸方向に多段状に配列された複数の回転翼を有する回転体と、前記複数の回転翼間に配設された複数の固定翼と、を備えているターボ分子ポンプ機構をさらに備え、前記被温調部品は、前記複数の固定翼のうちの少なくとも1つの固定翼であり、前記断熱部は、前記固定翼の支持部に配設された、真空ポンプを提供する。
【0016】
この構成によれば、軸方向に多段状に配列された複数の回転翼を有する回転体と、前記複数の回転翼間に配設された複数の固定翼と、を備えているターボ分子ポンプ機構において、中空構造である断熱部を固定翼の支持部にスペーサとして設けているので、ターボ分子ポンプ機構における断面二次モーメントが増加する。これにより、モータ全体の剛性及び断熱効果が共に向上し、真空ポンプ内部の構成部品の温度を狙い通りに管理し易くなる。その結果、下流側の流路など、必要な部品のみを選択的に加熱又は冷却をすることができる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載の構成において、半径方向で互いに対向する回転円筒の外周面と固定円筒の内周面の少なくとも一面にネジ溝が形成されたホルベック型ポンプ機構をさらに備え、前記被温調部品は、前記固定円筒であり、前記断熱部は、前記固定円筒の支持部に配設された、真空ポンプを提供する。
【0018】
この構成によれば、半径方向で互いに対向する回転円筒の内周面と固定円筒の外周面の少なくとも一面にネジ溝が形成されたホルベック型ポンプ機構を備える真空ポンプにおいて、中空構造である断熱部を固定円筒の支持部にスペーサとして設けているので、ホルベック型ポンプ機構における断面二次モーメントが増加する。これにより、ポンプ全体の剛性及び断熱効果が共に向上し、真空ポンプ内部の構成部品の温度を狙い通りに管理し易くなる。その結果、下流側の流路など、必要な部品のみを選択的に加熱又は冷却をすることができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載の構成において、軸方向で互いに対向する回転円板と固定円板とを有し、前記回転円板と対向する前記固定円板の少なくとも一面に渦巻き状山部と渦巻き状谷部を有する渦巻き状溝が形成されたシグバーン型ポンプ機構をさらに備え、前記被温調部品は、前記固定円板であり、前記断熱部は、前記固定円板の支持部に配設された真空ポンプを提供する。
【0020】
この構成によれば、軸方向で互いに対向する回転円板と固定円板とを有し、回転円板と対向する固定円板の少なくとも一面に渦巻き状山部と渦巻き状谷部を有する渦巻き状溝が形成されたシグバーン型ポンプ機構を備える真空ポンプにおいて、中空構造である断熱部を固定円板の支持部にスペーサとして設けているので、シグバーン型ポンプ機構における断面二次モーメントが増加する。これにより、ポンプ全体の剛性及び断熱効果が共に向上し、真空ポンプ内部の構成部品の温度を狙い通りに管理し易くなる。その結果、下流側の流路など、必要な部品のみを選択的に加熱又は冷却をすることができる。
【0021】
請求項7に記載の発明は、加熱機能又は冷却機能の少なくとも一方を備えている真空ポンプに用いられる断熱部材であって、加熱又は冷却される被温調部品に配設され、軸方向または半径方向に沿って形成された複数の空洞を周方向に繰り返し設けて成る中空構造を呈し、前記空洞の少なくとも一部は、開口方向から視て略平行四辺形状に形成されている、断熱部材を提供する。
【0022】
この構成によれば、軸方向または半径方向に沿って空洞に形成された中空構造を呈している断熱部材を真空ポンプに用いることにより、断熱部の断面二次モーメントが増加し、剛性が向上する。これにより、ポンプ全体の剛性及び断熱効果が共に向上し、真空ポンプ内部の構成部品の温度を狙い通りに管理し易くなる。その結果、下流側の流路など、必要な部品のみを選択的に加熱又は冷却をすることができる。さらに、空洞の穴形状を開口方向から視て略平行四辺形状に形成すると、半径方向の剛性を選択的に下げられ、内側の部品が熱膨張しても、略平行四辺形の部分が変形して負荷を緩和できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、部品の一部である断熱部が中空構造をなしているので、断熱部の断面二次モーメントが増加し、これにより剛性が向上する。このため、断熱部の断面積を同じにしても、剛性及び断熱効果が共に向上し、真空ポンプ内部の構成部品の温度を狙い通りに管理し易くなる。その結果、下流側の流路など、必要な部品のみを選択的に加熱又は冷却することができる。これにより、加熱を必要とする場合は、ポンプの真に必要な部分(箇所)を加熱し、反応生成物の堆積を防ぐことができる。反対に、冷却を必要とする場合は、ポンプの新に必要な部分(箇所)を冷却し、ポンプの加熱を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの第1実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
図2】同上第1実施例のターボ分子ポンプにおけるアンプ回路の一例を示す図である。
図3】同上第1実施例のターボ分子ポンプにおけるアンプ回路で検出した電流指令値が検出値より大きい場合の一制御例を示すタイムチャートである。
図4】同上第1実施例のターボ分子ポンプにおけるアンプ回路で検出した電流指令値が検出値より小さい場合の一制御例を示すタイムチャートである。
図5】同上第1実施例のターボ分子ポンプにおける断熱材の部分拡大図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のA-A線矢視断面図、(c)は(b)の変形例として示す断面図である。
図6図5に示した同上断熱材の他の変形例として示す平面図である。
図7】断熱材が中実の板構造の場合における剛性と中空の板構造の場合における剛性との違いを説明する図であり、(a)は中実の板構造の剛性を説明する図、(b)は図5に示す中空の板構造の剛性を説明する図、(c)は図6に示す中空の板構造の剛性を説明する図である。
図8】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの第2実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
図9】同上第2実施例のターボ分子ポンプにおける断熱材の部分拡大図であり、(a)は平面図、(b)は(a)のB-B線矢視断面図、(c)は(b)の変形例として示す断面図である。
図10】本発明の実施の形態に係る真空ポンプの第3実施例として示すターボ分子ポンプの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、断熱部の剛性と断熱効果を向上させて、ポンプ内部の構成部品の温度をねらい通りに管理しやすくする真空ポンプ及び該真空ポンプに用いられる断熱部材を提供するという目的を達成するために、加熱機能又は冷却機能の少なくとも一方を備えている真空ポンプであって、加熱又は冷却される被温調部品に配設され、軸方向または半径方向に沿って空洞に形成された中空構造を呈する断熱部を備えている、構成としたことにより実現した。
【実施例0026】
以下、本発明の実施形態に係る一実施例を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0027】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0028】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。また、断面図では、構成要素の断面構造を分かり易くするために、一部の構成要素のハッチングを省略することがある。
【0029】
また、以下の説明において、上下や左右等の方向を示す表現は、絶対的なものではなく、本発明の真空ポンプの各部が描かれている姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。また、実施例の説明の全体を通じて同じ要素には同じ符号を付している。
【0030】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0031】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、図示せぬ制御装置に送るように構成されている。
【0032】
この制御装置においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0033】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0034】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置に送られるように構成されている。
【0035】
そして、制御装置において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0036】
このように、制御装置は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0037】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0038】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0039】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123a、123b、123c・・・が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0040】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0041】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0042】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0043】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0044】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0045】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0046】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の円筒部102dの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0047】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0048】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0049】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0050】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])、かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100の内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100の内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0051】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ、例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つように、ヒータ等によるの加熱や水冷管149等による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0052】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0053】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0054】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0055】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0056】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0057】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0058】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0059】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0060】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0061】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0062】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図9に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0063】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図10に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0064】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0065】
ところで、上述したように、ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。この問題を解決するために、ベース部129等の外周に図示しない例えばヒータを巻着して加熱機能を持たせる。あるいは環状の水冷管149を巻着させて冷却機能の少なくとも一方を設ける(本実施例では冷却機能を設けている)とともに、ベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つように、ヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(TMS)が行われている。
【0066】
そのため、軸方向に多段状に配列された複数の回転翼102を有する回転体103と、複数の回転翼102間に配設された複数の固定翼123と、を備えている、ターボ分子ポンプ機構201側の温度や、ネジ溝ポンプ機構部202側の温度がベース部129の温度制御に影響を与えないようにするのに、また逆に、ベース部129側に影響を与えないようにするのに、ネジ付スペーサ131とベース部129との間に断熱部としての断熱材203を設けている。
【0067】
なお、ターボ分子ポンプ100のネジ溝ポンプ機構部202は、半径方向で、回転円筒である円筒部102dの外周面と対向する固定円筒であるネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aを設けているホルベック型ポンプ機構として構成しているが、ネジ溝131aは回転円筒である円筒部102dの外周面に設けた構成にしてもよい。
【0068】
断熱材203は、ネジ付スペーサ131とベース部129の間の熱伝達を断つための断熱部として機能する。断熱材203は、ステンレス製であり、アルミニウム製のネジ付スペーサ131及びベース部129より低い熱伝導率を示す。なお、断熱材203の具体的な材質は、ネジ付スペーサ131又はベース部129の何れか一方より低い熱伝導率を示すものであれば、如何なるものであっても良く、望ましくはアルミニウム製のネジ付スペーサ131及びベース部129より低い熱伝導率を示すもの好ましい。
【0069】
そして、断熱材203は、環状部材であって、図1に示すように、固定円筒の支持部としてのネジ付スペーサ131の下端側軸方向支持部131Aの外周面131Bに、断熱材203の内周面203Aを対向させるともに、断熱材203の上側の端面203Bをネジ付スペーサ131の下端面131Cに当接させ、さらに下側の端面203Cをベース部129の上面129Aに当接させて、ネジ付スペーサ131の下端面131Cとベース部129の上面129Aとで挟まれて配設されている。
【0070】
また、断熱材203は、図5に示すように、内周面203Aと外周面203Dとの間、すなわち厚み部分に、上側の端面203Bから下側の端面203Cまで貫通している空洞204Aが、繰り返し設けられている。空洞204Aは、端面203B側(開口方向)から視て略三角の穴形状に形成されており、略三角形状の空洞204Aが、その頂点と底辺を内側(内周面203A側)と外側(外周面203D側)に交互に向けて規則正しく配列されて設けられている。このように、空洞204Aの穴形状を開口方向(端面203B方向)から視て略三角の穴形状にすると、断熱部(断熱材203)の剛性が上がり、また断熱部も形成しやすくなる。これにより、コストを抑えて断熱効果を上げることができる。なお、断熱材203の空洞204Aは、上側の端面203Bから下側の端面203Cまで貫通している空洞204Aとして形成している場合を示した。しかし、図5の(c)に示すように、例えば空洞204Aの一端側(端面203C側)の開口部分を塞ぐようにして、空洞204内に、空洞204Aを塞いでいる閉塞部203Hを形成すると、空洞204Aが通し穴となっている構造の場合と比べて、断熱材203の剛性を更に上げることができる。このように、閉塞部203Hを設けた空洞204Aの構造であっても、少なくとも一方の面が空洞となり、接触面積を減少させているので、接触部の熱伝導を低下させ、断熱効果を持たせることが可能となる。また、閉塞部203Hは、空洞204A内の中間の部分、又は両端の部分を塞ぐようにしてもよい。また、複数の空洞204Aの中の一部の空洞204Aに設けてもよい。
【0071】
また、断熱材203は、図6に示すように、内周面203Aと外周面203Dとの間、すなわち厚み部分に、上側の端面203Bから下側の端面203Cまで貫通している設けられる空洞204Bを、端面203B側(開口方向)から視て略平行四辺形の穴形状に形成してもよい。図6に示す空洞204Bは、略平行四辺形をした空洞204Bが、その対向し合う2つの辺を内側(内周面203A側)と外側(外周面203D側)とに向けて規則正しく配列されて設けられている。このように、空洞204Bの穴形状を開口方向(端面203B方向)から視て略平行四辺形の穴形状にすると、断熱部(断熱材203)の剛性が上がり、また断熱部も形成しやすくなる。これにより、コストを抑えて断熱効果を上げることができる。また、空洞204Bを略平行四辺形の形状に形成すると、半径方向の剛性が選択的に下げられ、内側の被温調部品(例えば、ネジ付スペーサ131、ベース部129等)が熱膨張しても、略平行四辺形の部分が変形をして負荷を緩和できる。なお、なお、図6に示す断熱材203の場合も、複数の空洞204Bの中、少なくとも一部の空洞204Bの一端の部分、又は中間の部分、あるいは両端の部分を各々塞ぐようにして形成すると、空洞204Bが通し穴となっている構造の場合に比べて、断熱材203の剛性を更に上げることができる。
【0072】
ここで、断熱材203が中空構造をなしている場合と、中空構造を成していない場合とでの剛性の違いを、図7を用いて検証する。図7は断熱材203として、空洞を有しない中実の板を使用した場合と、略三角形の空洞204A及び略平行四辺形の空洞204Bを使用した場合との図で、(a)は中実の板の場合、(b)は三角形の空洞204Aを有する中空の板の場合、(c)は略平行四辺形の空洞204Bを有する中空の板の場合である。ここでの検証は、(a)の中実の板の場合は、板の厚みTが4mm(ミリ)、周方向(横幅)の長さLが2.8mmであり、(b)及び(c)の中空の板の厚みTがそれぞれ5mm、周方向(横幅)の長さLがそれぞれ2.8mmとして行った。また、(b)及び(c)の中空の板における空洞204Aと空洞204Aとの間を仕切っている梁205の厚みtは、0.5mmで、開口率は66パーセントとした。
【0073】
そして、図7の(a)の中実の板の場合では、図7中に線206で囲まれる斜線部分の断面二次モーメントIは、図7中の式(1)で表され、断面積Sは、式(2)で表される。
【0074】
図7の(b)の中空板の場合では、図7中の線206で囲まれる斜線部分の断面二次モーメントIは、式(3)で表され、断面積Sは、式(4)で表される。
【0075】
図7の(c)の中空板の場合は、図7の(b)の中空板の場合とほぼ同じであり、図7中の線206で囲まれる斜線部分の断面二次モーメントIは、近似的に式(3)で表され、断面積Sは、式(4)で表される。なお、厳密には、図7の(b)の中空板の場合よりも、梁部分の断面積が増えているので、わずかだが二次モーメントが大きくなっているが、ここでは同等であるとして近似計算している。
【0076】
この試算から、図7中の(b)及び(c)の中空板の場合は(a)の中実の板の場合と断面二次モーメントIがほぼ同程度でも、断面積Sを半分以下にできるため長さを半分以下にしても同様の断熱効果が得られ、同じ長さにすると2倍の断熱効果が得られて、また剛性も向上することが分かる。
【0077】
図8は、本発明の真空ポンプに係るターボ分子ポンプ100の第2実施例を示すものである。第2実施例の構成は、断熱材203の構造を変更したものであって、他の構成は図1と同一であるから、同一の構成部分は同一符号を付して重複説明を省略する。
【0078】
第2実施例に示すターボ分子ポンプ100も、第1実施例の場合と同様に、ホルベック型ポンプ機構として構成されており、ネジ溝ポンプ機構部202は、半径方向で、回転円筒である円筒部102dの外周面と対向する固定円筒であるネジ付スペーサ131の内周面に、ネジ溝131aを設けている。ここでのターボ分子ポンプ100も、ネジ溝131aを回転円筒である円筒部102dの外周面に設けた構成にしてもよい。
【0079】
また、第2実施例に示すターボ分子ポンプ100も、第1実施例の場合と同様に、ターボ分子ポンプ機構201側の温度やネジ溝ポンプ機構部202側の温度がベース部129の温度制御に影響を与えないようにするのに、また逆に、ベース部129側の制御された温度がターボ分子ポンプ機構201側やネジ溝ポンプ機構部202側に影響を与えないようにするのに、ネジ付スペーサ131とベース部129との間に断熱部としての断熱材203を設けている。
【0080】
図9は、同上第2実施例のターボ分子ポンプ100における断熱材203の部分拡大図であり、(a)はその平面図、(b)は(a)のB-B線矢視断面図である。
図9に示す断熱材203も、例えばステンレス製であり、アルミニウム製のネジ付スペーサ131及びベース部129より低い熱伝導率を示す。また、断熱材203は、環状部材であって、図8に示すように、固定円筒の支持部としてのネジ付スペーサ131の下端側軸方向支持部131Aの外周面131Bに、断熱材203の内周面203Aを対向させるともに、断熱材203の上側の端面203Bをネジ付スペーサ131の下端面131Cに当接させ、さらに下側の端面203Cをベース部129の上面129Aに当接させて、ネジ付スペーサ131の下端面131Cとベース部129の上面129Aとで挟まれて配設されている。
【0081】
また、断熱材203は、図9に示すように、内周面203Aと外周面203Dとの間、すなわち厚み部分は、内側から順に、内周層203Eと中間層203Fと外周層203Gの、3層に形成されている。内周層203Eには、複数個の空洞204Cが円周方向に連なって環状に設けられ、中間層203Fには、複数個の空洞204Dが円周方向に連なって環状に設けられ、外周層203Gには、複数個の空洞204Eが円周方向に連なって環状に設けられている。
【0082】
図9に示す、断熱材203の内周層203Eには、略三角形状の空洞204Cが、その頂点と底辺を内側(内周面203A側)と外側(外周面203D側)に交互に向けて、周方向に沿って規則正しく配列して設けられており、中間層203Fには、同じく略三角形状の空洞204Cが、その頂点と底辺を内側(内周面203A側)と外側(外周面203D側)に交互に向け、かつ、内周層203Eの略三角形状の空洞204Cの底辺に中間層203Fの略三角形状の空洞204Dの底辺を隣り合わせた状態にして規則正しく配列して設けられている。一方、外周層203Gには、開口方向から視て略平行四辺形をした空洞204Eが、その一辺を中間層203Fの略三角形の空洞204Dの底辺に隣り合わせた状態にして、周方向に沿って規則正しく配列して設けられている。空洞204Cと空洞204Dと空洞204Eは、断熱材203の上側の端面203Bから下側の端面203Cまで各々貫通している。なお、外周層203Gに設けられている空洞204Eは、周方向に若干傾斜した平行四辺形状に形成しているが、図6に設けた空洞204Bと同様に、周方向に傾斜させない略平行四辺形状に形成してもよい。また、外周層203Gの下側の端面203Cからの高さは、内周層203E及び中間層203Fの高さの半分よりも若干小さく形成されている。
【0083】
このようにして、内周層203Eと中間層203Fにそれぞれ略三角形状の空洞204Cと空洞204Dを設けるとともに、外周層203Gに略平行四辺形状をした空洞204Eを設けることにより、断熱部の剛性が上がり、また形成もし易くなる。また、外周層203Gの空洞204Eを略平行四辺形状に形成することにより、半径方向の剛性が選択的に下げられ、内側の被温調部品(例えば、ネジ付スペーサ131、ベース部129等)が熱膨張しても、略平行四辺形の部分が変形をして負荷を緩和できる。
【0084】
なお、断熱材203の内周層203E及び中間層203Fに設けた空洞204C及び空洞204Dと、外周層203Gに設けた空洞204Eは、それぞれ上側の端面203Bから下側の端面203Cまで貫通している空洞204C、204D、204Eとして形成している場合を示した。しかし、第2の実施例のターボ分子ポンプ100の場合の断熱材203も、図9の(c)に示すように複数の空洞204C、204D、204Eの中、少なくとも一部の空洞204C、204D、204Eに、空洞204C、204D、204Eの一端側(端面203C側)を塞いでいる閉塞部203Hを設けると、空洞204C、204D、204Eが通し穴となっている構造の場合に比べて、断熱材203の剛性を更に上げることができる。また、塞ぐ部分は、空洞204C、204D、204E内の中間の部分、又は両端の部分を塞ぐようにしてもよい。
【0085】
図10は、図8に示したターボ分子ポンプ100の第3実施例の変形例を示すものである。この変形例の構成は、ネジ溝ポンプ機構部202の構成をシグバーン型ポンプ機構として構成されたものであり、他の構成は第2実施例と同一であるから、同一の構成部分は同一符号を付して重複説明を省略する。
【0086】
図10に示すターボ分子ポンプ100のネジ溝ポンプ機構部202は、軸方向で互いに対向する回転円板202Aと固定円板202Bとを有し、回転円板202Aと対向する固定円板202Bの両面202Cに渦巻き状山部202Dと渦巻き状谷部202Eを有する渦巻き状溝としてのネジ溝202Fが形成された構造になっている。
【0087】
固定円板202Bは、その外周部の両面が固定翼スペーサ126Aと固定翼スペーサ126Bとにより挟まれて外筒127に固定されている。一方、回転円板202Aは回転体103の円筒部102dの外周面から略直角に回転翼状に突出した状態にして形成されて、固定円板202Bの上下両面にそれぞれ対向した状態で形成されている。
【0088】
断熱材203は、固定円板202Bの支持部としての固定翼スペーサ126Bの下端側軸方向支持部126Cの外周面126Dと、断熱材203の内周面203Aを対向させるともに、断熱材203の上側の端面203Bを固定翼スペーサ126Bの下端面126Eに当接させ、さらに下側の端面203Cをベース部129の上面129Aに当接させて、固定翼スペーサ126Bの下端面126Eとベース部129の上面129Aとで挟まれて配設されている。
【0089】
この変形例のターボ分子ポンプ100も、固定翼スペーサ126Bとベース部129との間に、図8及び図9に示した3層構造をした断熱材203を設けているので、第2実施例の場合と同様に、ターボ分子ポンプ機構201側の温度やネジ溝ポンプ機構部202がベース部129側の温度制御に影響を与えないようにする、また逆に、ベース部129側の制御された温度がターボ分子ポンプ機構201側やネジ溝ポンプ機構部202に影響を与えないようにすることができる。また、断熱材203は、内周層203Eと中間層203Fにそれぞれ略三角形状の空洞204Cと空洞204Dを設けるとともに、外周層203Gに略平行四辺形をした空洞204Eを設けることにより、断熱部の剛性が上がり、また形成もし易くなる。また、外周層203Gの空洞204Eを略平行四辺形状に形成することにより、半径方向の剛性が選択的に下げられ、内側の部品が熱膨張しても、略平行四辺形の部分が変形をして負荷を緩和できる。
【0090】
なお、上記実施例での断熱部(断熱材203)の空洞204C、空洞204D、空洞204Eを軸方向に沿って形成した構造を開示したが、半径方向に沿って形成した構造にしてもよいものである。
【0091】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を成すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0092】
100 :ターボ分子ポンプ
101 :吸気口
102 :回転翼
102d :円筒部(回転円筒)
103 :回転体
104 :上側径方向電磁石
105 :下側径方向電磁石
106A :軸方向電磁石
106B :軸方向電磁石
107 :上側径方向センサ
108 :下側径方向センサ
109 :軸方向センサ
111 :金属ディスク
113 :ロータ軸
120 :保護ベアリング
121 :モータ
122 :ステータコラム
123 :固定翼
123a :固定翼
123b :固定翼
123c :固定翼
125 :固定翼スペーサ
126A :固定翼スペーサ
126B :固定翼スペーサ
126C :下端側軸方向支持部
126D :外周面
126E :下端面
127 :外筒
129 :ベース部
129A :上面
131 :ネジ付スペーサ
131A :下端側軸方向支持部
131B :外周面
131C :下端面
131a :ネジ溝
133 :排気口
141 :電子回路部
143 :基板
145 :底蓋
149 :水冷管
150 :アンプ回路
151 :電磁石巻線
161 :トランジスタ
161a :カソード端子
161b :アノード端子
162 :トランジスタ
162a :カソード端子
162b :アノード端子
165 :ダイオード
165a :カソード端子
165b :アノード端子
166 :ダイオード
166a :カソード端子
166b :アノード端子
171 :電源
171a :正極
171b :負極
181 :電流検出回路
191 :アンプ制御回路
191a :ゲート駆動信号
191b :ゲート駆動信号
191c :電流検出信号
201 :ターボ分子ポンプ機構
202 :ネジ溝ポンプ機構部
202A :回転円板
202B :固定円板
202C :両面
202D :渦巻き状山部
202E :渦巻き状谷部
202F :ネジ溝
203 :断熱材(断熱部)
203A :内周面
203B :端面
203C :端面
203D :外周面
203E :内周層
203F :中間層
203G :外周層
203H :閉塞部
204A :空洞
204B :空洞
204C :空洞
204D :空洞
204E :空洞
205 :梁
I :断面二次モーメント
S :断面積
T :板の厚み
t :梁の厚み
Tp1 :パルス幅時間
Tp2 :パルス幅時間
Ts :制御サイクル
iL :電磁石電流
iLmax :電流値
iLmin :電流値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10