(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161130
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】自己位置推定装置、制御方法、プログラム及び記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G01C 21/28 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
G01C21/28
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024145609
(22)【出願日】2024-08-27
(62)【分割の表示】P 2022160983の分割
【原出願日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2017100228
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107331
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 聡延
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正浩
(72)【発明者】
【氏名】岩井 智昭
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 多史
(57)【要約】
【課題】地図又は計測値のいずれかに誤差が生じた場合であっても、自己位置推定精度の低下を好適に抑制することが可能な自己位置推定装置を提供する。
【解決手段】車載機1の自車位置推定部17は、予測自車位置X
-(t)を示す情報を生成する位置予測部21と、位置推定部22とを有する。位置推定部22は、移動体から対象物までのライダ2による計測距離を示す地物計測値Z(t)及び地物情報に基づき予測された地物予測値Z
-(t)を算出する。そして、位置推定部22は、地物計測値と地物予測値との差分値dx、dyと、位置推定精度σ
Pと、ライダ計測精度σ
Lとに基づく差分評価値Ex、Eyに応じて、カルマンゲインK(t)を補正する係数値a
X(t)、a
Y(t)を決定する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第1取得部と、
移動体から対象物までの計測部による計測距離である第1距離と、前記対象物の位置情報に基づき予測された前記移動体から前記対象物までの距離である第2距離とを取得する第2取得部と、
前記移動体の自己位置精度情報を取得する第3取得部と、
前記第1距離と前記第2距離との差分値に所定の利得を乗じた値により、前記予測された自己位置を補正する補正部と、を備え、
前記補正部は、前記自己位置精度情報に基づき、前記利得に対する補正係数を決定する、
自己位置推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己位置推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両の進行先に設置される地物をレーダやカメラを用いて検出し、その検出結果に基づいて自車位置を校正する技術が知られている。例えば、特許文献1には、計測センサの出力と、予め地図上に登録された地物の位置情報とを照合させることで自己位置を推定する技術が開示されている。また、特許文献2には、カルマンフィルタを用いた自車位置推定技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-257742号公報
【特許文献2】特開2017-72422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
計測センサの出力と、予め地図上に登録された地物の位置情報とを照合させることで自己位置を推定する場合、地図又は計測センサの出力のいずれかに誤差があると、自己位置が誤って補正され、自己位置推定精度が低下する。計測センサの出力に誤差が生じる状況としては、視線誘導標や他車両の反射板等の反射強度の高い物体が多数存在し、それらを誤って対象の地物と検出してしまう場合や、自車と対象の地物の間に他車両が存在し、計測センサによるスキャンの全てあるいは一部が遮蔽(オクルージョン)される場合などがある。また、地図に誤差が生じる状況としては、最新の情報が地図に反映されておらず、地物の位置座標が不正確な場合などがある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、地図又は計測値のいずれかに誤差が生じた場合であっても、自己位置推定精度の低下を好適に抑制することが可能な自己位置推定装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、自己位置推定装置であって、予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第1取得部と、移動体から対象物までの計測部による計測距離を示す第1距離情報と、前記対象物の位置情報に基づき予測された前記移動体から前記対象物までの距離を示す第2距離情報とを取得する第2取得部と、前記移動体の自己位置精度情報を取得する第3取得部と、前記第1距離情報、前記第2距離情報及び前記自己位置精度情報に基づき、前記予測された自己位置を補正する補正部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】車載機の機能的構成を示すブロック図である。
【
図4】状態変数ベクトルを2次元直交座標で表した図である。
【
図5】予測ステップと計測更新ステップとの概略的な関係を示す図である。
【
図7】車両の推定自車位置と地物との位置関係を示す。
【
図9】本実施例に基づく自車位置推定処理の実験結果を示す。
【
図10】本実施例に基づく自車位置推定処理の実験結果を示す。
【
図11】ある地物の地物情報の位置座標を進行方向に80cmずらした場合の従来の自車位置推定処理の実験結果を示す。
【
図12】ある地物の地物情報の位置座標を進行方向に80cmずらした場合の実施例に基づく自車位置推定処理の実験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の好適な実施形態によれば、自己位置推定装置は、予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第1取得部と、移動体から対象物までの計測部による計測距離を示す第1距離情報と、前記対象物の位置情報に基づき予測された前記移動体から前記対象物までの距離を示す第2距離情報とを取得する第2取得部と、前記移動体の自己位置精度情報を取得する第3取得部と、前記第1距離情報及び前記第2距離情報が示す距離の差分値、並びに、前記自己位置精度情報に基づき、前記予測された自己位置を補正する補正部と、を備える。この態様によれば、自己位置推定装置は、第1距離情報及び第2距離情報が示す距離の差分値と、自己位置精度情報とに基づき、予測された自己位置を好適に補正することができる。
【0009】
上記自己位置推定装置の一態様では、前記補正部は、前記差分値と、前記自己位置精度情報と、前記計測部の計測精度情報とに基づき、前記予測された自己位置を補正する。この態様では、自己位置推定装置は、計測部の計測精度をさらに勘案し、自己位置を好適に補正することができる。
【0010】
上記自己位置推定装置の他の一態様では、前記補正部は、前記差分値と、前記自己位置精度情報とに基づき、前記差分値を評価する評価値を算出し、前記予測された自己位置を前記差分値により補正する度合いを前記評価値に基づいて決定する。この態様によれば、自己位置推定装置は、自己位置精度情報に基づき上述の差分値を評価することで、予測された自己位置を上述の差分値により補正する際の度合いを的確に定めることができる。これにより、第1距離情報又は第2距離情報に誤差が存在する場合であっても、自車位置推定精度が低下するのを好適に抑制することができる。この場合、好適には、前記補正部は、前記差分値に所定の利得を乗じた値により、前記予測された自己位置を補正し、前記補正部は、前記評価値に基づいて、前記利得に対する補正係数を決定するとよい。さらに好適には、前記利得は、カルマンゲインであるとよい。
【0011】
上記自己位置推定装置の他の一態様では、前記第2取得部は、前記予測位置情報と、地図情報に記録された前記対象物の位置情報とに基づき、前記第2距離情報が示す距離を算出する。この態様により、自己位置推定装置は、地図情報に基づき第2距離情報を生成し、自己位置推定に好適に用いることができる。
【0012】
本発明の他の好適な実施形態によれば、自己位置推定装置が実行する制御方法であって、予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第1取得工程と、移動体から対象物までの計測部による計測距離を示す第1距離情報、及び、前記対象物の位置情報に基づき予測された前記移動体から前記対象物までの距離を示す第2距離情報を取得する第2取得工程と、前記移動体の自己位置精度情報を取得する第3取得工程と、前記第1距離情報及び前記第2距離情報が示す距離の差分値、並びに、前記自己位置精度情報に基づき、前記予測された自己位置を補正する補正工程と、を有する。自己位置推定装置は、この制御方法を実行することで、予測された自己位置を好適に補正することができる。
【0013】
本発明の他の好適な実施形態によれば、コンピュータが実行するプログラムであって、予測された自己位置を示す予測位置情報を取得する第1取得部と、移動体から対象物までの計測部による計測距離を示す第1距離情報と、前記対象物の位置情報に基づき予測された前記移動体から前記対象物までの距離を示す第2距離情報とを取得する第2取得部と、前記移動体の自己位置精度情報を取得する第3取得部と、前記第1距離情報及び前記第2距離情報が示す距離の差分値、並びに、前記自己位置精度情報に基づき、前記予測された自己位置を補正する補正部として前記コンピュータを機能させる。コンピュータは、このプログラムを実行することで、予測された自己位置を好適に補正することができる。好適には、上記プログラムは、記憶媒体に記憶される。
【実施例0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。なお、任意の記号の上に「^」または「-」が付された文字を、本明細書では便宜上、「A^」または「A-」(「A」は任意の文字)と表す。
[概略構成]
【0015】
図1は、本実施例に係る運転支援システムの概略構成図である。
図1に示す運転支援システムは、車両に搭載され、車両の運転支援に関する制御を行う車載機1と、ライダ(Lidar:Light Detection and Ranging、または、Laser Illuminated Detection And Ranging)2と、ジャイロセンサ3と、車速センサ4と、GPS受信機5とを有する。
【0016】
車載機1は、ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5と電気的に接続し、これらの出力に基づき、車載機1が搭載される車両の位置(「自車位置」とも呼ぶ。)の推定を行う。そして、車載機1は、自車位置の推定結果に基づき、設定された目的地への経路に沿って走行するように、車両の自動運転制御などを行う。車載機1は、道路データ及び道路付近に設けられた目印となる地物に関する情報である地物情報を記憶した地図データベース(DB:DataBase)10を記憶する。上述の目印となる地物は、例えば、道路脇に周期的に並んでいるキロポスト、100mポスト、デリニエータ、交通インフラ設備(例えば標識、方面看板、信号)、電柱、街灯などの地物である。そして、車載機1は、この地物情報に基づき、ライダ2等の出力と照合させて自車位置の推定を行う。車載機1は、本発明における「自己位置推定装置」の一例である。
【0017】
ライダ2は、水平方向および垂直方向の所定の角度範囲に対してパルスレーザを出射することで、外界に存在する物体までの距離を離散的に測定し、当該物体の位置を示す3次元の点群情報を生成する。この場合、ライダ2は、照射方向を変えながらレーザ光を照射する照射部と、照射したレーザ光の反射光(散乱光)を受光する受光部と、受光部が出力する受光信号に基づくスキャンデータを出力する出力部とを有する。スキャンデータは、受光部が受光したレーザ光に対応する照射方向と、上述の受光信号に基づき特定される当該レーザ光の応答遅延時間とに基づき生成される。一般的に、対象物までの距離が近いほどライダの距離測定値の精度は高く、距離が遠いほど精度は低い。ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、GPS受信機5は、それぞれ、出力データを車載機1へ供給する。ライダ2は、本発明における「計測部」の一例である。
【0018】
図2は、車載機1の機能的構成を示すブロック図である。車載機1は、主に、インターフェース11と、記憶部12と、入力部14と、制御部15と、情報出力部16と、を有する。これらの各要素は、バスラインを介して相互に接続されている。
【0019】
インターフェース11は、ライダ2、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及びGPS受信機5などのセンサから出力データを取得し、制御部15へ供給する。
【0020】
記憶部12は、制御部15が実行するプログラムや、制御部15が所定の処理を実行するのに必要な情報を記憶する。本実施例では、記憶部12は、地物情報を含む地
図DB10を記憶する。
図3は、地
図DB10のデータ構造の一例を示す。
図3に示すように、地
図DB10は、施設情報、道路データ、及び地物情報を含む。地物情報は、地物ごとに当該地物に関する情報が関連付けられた情報であり、ここでは、地物のインデックスに相当する地物IDと、緯度及び経度(及び標高)等により表わされた地物の絶対的な位置を示す位置情報とを少なくとも含んでいる。なお、地
図DB10は、定期的に更新されてもよい。この場合、例えば、制御部15は、図示しない通信部を介し、地図情報を管理するサーバ装置から、自車位置が属するエリアに関する部分地図情報を受信し、地
図DB10に反映させる。
【0021】
入力部14は、ユーザが操作するためのボタン、タッチパネル、リモートコントローラ、音声入力装置等である。情報出力部16は、例えば、制御部15の制御に基づき出力を行うディスプレイやスピーカ等である。
【0022】
制御部15は、プログラムを実行するCPUなどを含み、車載機1の全体を制御する。本実施例では、制御部15は、自車位置推定部17を有する。制御部15は、本発明における「第1取得部」、「第2取得部」、「第3取得部」、「補正部」、及びプログラムを実行する「コンピュータ」の一例である。
【0023】
自車位置推定部17は、地物に対するライダ2による距離及び角度の計測値と、地
図DB10から抽出した地物の位置情報とに基づき、ジャイロセンサ3、車速センサ4、及び/又はGPS受信機5の出力データから推定した自車位置を補正する。本実施例では、一例として、自車位置推定部17は、ベイズ推定に基づく状態推定手法に基づき、ジャイロセンサ3、車速センサ4等の出力データから自車位置を推定する予測ステップと、直前の予測ステップで算出した自車位置の推定値を補正する計測更新ステップとを交互に実行する。これらのステップで用いる状態推定フィルタは、ベイズ推定を行うように開発された様々のフィルタが利用可能であり、例えば、拡張カルマンフィルタ、アンセンテッドカルマンフィルタ、パーティクルフィルタなどが該当する。このように、ベイズ推定に基づく位置推定は、種々の方法が提案されている。以下では、一例として拡張カルマンフィルタを用いた自車位置推定について簡略的に説明する。
【0024】
図4は、状態変数ベクトルxを2次元直交座標で表した図である。
図4に示すように、xyの2次元直交座標上で定義された平面での自車位置は、座標「(x、y)」、自車の方位「Ψ」により表される。ここでは、方位Ψは、車の進行方向とx軸とのなす角として定義されている。座標(x、y)は、例えば緯度及び経度の組合せに相当する絶対位置を示す。
【0025】
図5は、予測ステップと計測更新ステップとの概略的な関係を示す図である。また、
図6は、自車位置推定部17の機能ブロックの一例を示す。
図5に示すように、予測ステップと計測更新ステップとを繰り返すことで、自車位置を示す状態変数ベクトル「X」の推定値の算出及び更新を逐次的に実行する。また、
図6に示すように、自車位置推定部17は、予測ステップを実行する位置予測部21と、計測更新ステップを実行する位置推定部22とを有する。位置予測部21は、デッドレコニングブロック23及び位置予測ブロック24を含み、位置推定部22は、地物探索・抽出ブロック25及び位置補正ブロック26を含む。なお、
図5では、計算対象となる基準時刻(即ち現在時刻)「t」の状態変数ベクトルを、「X
-(t)」または「X
^(t)」と表記している(「状態変数ベクトルX(t)=(x(t)、y(t)、Ψ(t))
T」と表記する)。ここで、予測ステップで推定された暫定的な推定値(予測値)には当該予測値を表す文字の上に「
-」を付し、計測更新ステップで更新された,より精度の高い推定値には当該値を表す文字の上に「
^」を付す。
【0026】
予測ステップでは、自車位置推定部17のデッドレコニングブロック23は、車両の移動速度「v」と角速度「ω」(これらをまとめて「制御値u(t)=(v(t)、ω(t))T」と表記する。)を用い、前回時刻からの移動距離と方位変化を求める。自車位置推定部17の位置予測ブロック24は、直前の計測更新ステップで算出された時刻t-1の状態変数ベクトルX^(t-1)に対し、求めた移動距離と方位変化を加えて、時刻tの自車位置の予測値(「予測自車位置」とも呼ぶ。)X-(t)を算出する。また、これと同時に、予測自車位置X-(t)の誤差分布に相当する共分散行列「P-(t)」を、直前の計測更新ステップで算出された時刻t-1での共分散行列「P^(t-1)」から算出する。
【0027】
計測更新ステップでは、自車位置推定部17の地物探索・抽出ブロック25は、地
図DB10に登録された地物の位置ベクトルとライダ2のスキャンデータとの対応付けを行う。そして、自車位置推定部17の地物探索・抽出ブロック25は、この対応付けができた場合に、対応付けができた地物のライダ2による計測値(「地物計測値」と呼ぶ。)「Z(t)」と、予測自車位置X
-(t)及び地
図DB10に登録された地物の位置ベクトルを用いてライダ2による計測処理をモデル化して求めた地物の計測推定値(「地物予測値」と呼ぶ。)「Z
-(t)」とをそれぞれ取得する。地物計測値Z(t)は、時刻tにライダ2が計測した地物の距離及びスキャン角度から、車両の進行方向と横方向を軸とした成分に変換した車両のボディ座標系における2次元ベクトルである。そして、自車位置推定部17の位置補正ブロック26は、以下の式(1)に示すように、地物計測値Z(t)と地物予測値Z
-(t)との差分値を算出する。
【0028】
【数1】
また、自車位置推定部17の位置補正ブロック26は、以下の式(2)に示すように、地物計測値Z(t)と地物予測値Z
-(t)との差分値にカルマンゲイン「K(t)」を乗算し、これを予測自車位置X
-(t)に加えることで、更新された状態変数ベクトル(「推定自車位置」とも呼ぶ。)X
^(t)を算出する。
【0029】
【数2】
また、計測更新ステップでは、自車位置推定部17の位置補正ブロック26は、予測ステップと同様、推定自車位置X
^(t)の誤差分布に相当する共分散行列P
^(t)(単にP(t)とも表記する)を共分散行列P
-(t)から求める。カルマンゲインK(t)等のパラメータについては、例えば拡張カルマンフィルタを用いた公知の自己位置推定技術と同様に算出することが可能である。
【0030】
なお、自車位置推定部17は、複数の地物に対し、地
図DB10に登録された地物の位置ベクトルとライダ2のスキャンデータとの対応付けができた場合、選定した任意の一個の地物計測値等に基づき計測更新ステップを行ってもよく、対応付けができた全ての地物計測値等に基づき計測更新ステップを複数回行ってもよい。なお、複数の地物計測値等を用いる場合には、自車位置推定部17は、ライダ2から遠い地物ほどライダ計測精度が悪化することを勘案し、ライダ2と地物との距離が長いほど、当該地物に関する重み付けを小さくするとよい。
【0031】
このように、予測ステップと計測更新ステップが繰り返し実施され、予測自車位置X-(t)と推定自車位置X^(t)が逐次的に計算されることにより、もっとも確からしい自車位置が計算される。
【0032】
なお、上記の説明において、地物計測値Z(t)は本発明の「第1距離情報」の一例であり、地物予測値Z-(t)は本発明の「第2距離情報」の一例である。
【0033】
[自車位置推定の詳細]
次に、本実施例における自車位置推定の詳細について説明する。概略的には、自車位置推定部17は、地物計測値Z(t)と地物予測値Z
-(t)との差分値を評価する評価値(「差分評価値」とも呼ぶ。)を算出し、差分評価値に応じてカルマンゲインK(t)を補正する。これにより、自車位置推定部17は、地
図DB10又はライダ2の計測値のいずれかに誤差が生じた場合であっても、自車位置推定精度の低下を好適に抑制する。
【0034】
ライダを用いた道路標識などによるEKF(Extended Karman Filter)位置推定においては、上記の式(2)に示すように、地物計測値Z(t)と地物予測値Z-(t)との差分値を用いて自車位置を計算している。式(2)から理解されるように、式(1)に示す差分値が大きくなると、予測自車位置X-(t)に対する補正量が大きくなる。ここで、差分値が大きくなるのは、以下の(A)~(C)のいずれかの原因による。
【0035】
(A)地物計測値に誤差がある。
これには、例えば、ライダの計測精度が低い場合、又は、ライダの計測精度は低くないが、計測時に計測対象の地物と車両との間に他車両などの動体が存在していたため計測精度が低くなってしまった場合(即ちオクルージョンが発生した場合)、などが該当する。
【0036】
(B)地物予測値を求めるために使用する推定自車位置がずれている。
これは、予測自車位置X-(t)あるいは推定自車位置X^(t)の誤差が大きい場合である。
【0037】
(C)地物予測値を求めるために使用する地図データの地物の位置座標がずれている。
これは、例えば地図データの作成時以降に、地物である標識が車両の衝突などにより傾いたり、地物である構造物が撤去又は移動されたりして地物の位置が変化した結果、地図データ中のその地物の位置座標と実際のその地物の位置座標とが一致しなくなっている状態である。すなわち、地図データ上の地物の位置と現実環境における地物の位置とにずれが生じている状態である。
【0038】
上記(A)または(C)に起因して差分値が大きくなっている場合に式(2)に基づき推定自車位置X^(t)を算出すると、自車位置推定精度が低下する。よって、上記(A)または(C)のいずれかが生じている場合、予測自車位置X-(t)に対する補正の度合いをなるべく低くすることが好ましい。
【0039】
図7は、車両の推定自車位置と地物との位置関係を示す。
図7に示す座標系は車両を基準としたボディ座標系であり、x軸は車両の進行方向を示し、y軸はそれと垂直な方向(車両の横方向)を示す。
図7において、推定自車位置は、誤差楕円40により示される誤差の範囲を有する。誤差楕円40は、x方向の位置推定精度「σ
P(x)」とy方向の位置推定精度「σ
P(y)」により規定される。ここで位置推定精度σ
Pは、以下の式(3)により、ヤコビ行列「H(t)」を用いて共分散行列P(t)をボディ座標系に変換することにより得られる。
【0040】
【数3】
式(3)において、「σ
P(x)
2」はx方向の分散、「σ
P(y)
2」はy方向の分散であり、これらの平方根としてx方向の位置推定精度σ
P(x)とy方向の位置推定精度σ
P(y)が得られる。こうして、位置推定精度σ
P(σ
P(x),σ
P(y))が得られる。
【0041】
図7において、地物予測値Z
-(t)は、予測自車位置X
-(t)及び地
図DB10に登録された地物の位置ベクトルを用いてライダ2による計測処理をモデル化して求めたものである。また、地物計測値Z(t)は、地
図DB10に登録された地物の位置ベクトルとライダ2のスキャンデータとの対応付けができた場合の地物のライダ2による計測値である。地物計測値Z(t)は、誤差楕円43で示す誤差の範囲を有する。誤差楕円43は、x方向の計測精度「σ
L(x)」とy方向の計測精度「σ
L(y)」により規定される。一般的に、ライダによる計測誤差はライダと測定対象となる地物との距離の2乗に比例して大きくなるため、推定自車位置から地物計測値Z(t)までの距離に基づいて誤差楕円43を算出することにより、ライダ計測精度σ
L(σ
L(x),σ
L(y))が求められる。また、地物予測値Z
-(t)と地物計測値Z(t)の差分値は、式(1)に示すように、x方向が「dx」、y方向が「dy」である。
【0042】
なお、位置推定精度σPは本発明の「自己位置精度情報」の一例であり、ライダ計測精度σLは本発明の「計測精度情報」の一例である。
【0043】
次に、地物計測値Z(t)と地物予測値Z-(t)との差分値を評価する評価値の算出方法について説明する。自車位置推定部17は、位置推定精度σP(σP(x),σP(y))とライダ計測精度σL(σL(x),σL(y))とを用いて、地物計測値Z(t)と地物予測値Z-(t)との差分値を評価する。言い換えると、自車位置推定部17は、推定自車位置の誤差範囲40とライダ誤差範囲43に対する差分値の割合に基づき、上述の差分値の妥当性を判断する。具体的には、自車位置推定部17は、以下の評価式(4)により、差分評価値「Ex」、「Ey」を算出する。なお、この場合、差分値dx、dyの絶対値が用いられる。
【0044】
【数4】
この場合、差分評価値Ex、Eyが高いほど、上記の(A)又は(C)のいずれかが生じている可能性が高いことが推定される。よって、自車位置推定部17は、差分評価値Ex、Eyの少なくとも一方が所定値より大きい場合、差分値が大きくなった原因として上記の(A)又は(C)が生じていると判定する。よって、この場合、自車位置推定部17は、差分評価値Ex、Eyに応じて、カルマンゲインを小さくするための係数値「a
X(t)」、「a
Y(t)」を算出し、カルマンゲインに乗じる。この場合、係数値a
X(t)、a
Y(t)は、0から1までの値となり、かつ、差分評価値Ex、Eyが大きいほど小さい値になるように、式又はテーブルを用いて設定される。例えば、係数値a
X(t)、a
Y(t)は、以下の式(5)に基づき設定される。
【0045】
【数5】
そして、自車位置推定部17は、係数値a
X(t)、a
Y(t)を用いて、以下の式(6)に基づき更新後のカルマンゲイン「K(t)´」を算出する。
【0046】
【数6】
このようにカルマンゲインを設定することで、自車位置推定部17は、地物予測値の信頼度が低い場合に,その信頼度に応じてカルマンゲインを小さくし、予測自車位置X
-(t)に対する補正量を少なくすることができる。よって、この場合,不正確な補正を防止できるため、推定自車推定精度が向上する。係数値a
X(t)、a
Y(t)は、本発明における「補正係数」の一例である。
【0047】
図8は、車載機1の自車位置推定部17により行われる自車位置推定処理のフローチャートである。車載機1は、
図8のフローチャートの処理を繰り返し実行する。
【0048】
まず、自車位置推定部17は、GPS受信機5等の出力に基づき、自車位置の初期値を設定する(ステップS101)。次に、自車位置推定部17は、車速センサ4から車体速度を取得すると共に、ジャイロセンサ3からヨー方向の角速度を取得する(ステップS102)。そして、自車位置推定部17は、ステップS102の取得結果に基づき、車両の移動距離と車両の方位変化を計算する(ステップS103)。
【0049】
その後、自車位置推定部17は、1時刻前の推定自車位置X
^(t-1)に、ステップS103で計算した移動距離と方位変化を加算し、予測自車位置X
-(t)を算出する(ステップS104)。さらに、ステップS104では、自車位置推定部17は、共分散行列から、式(3)により位置推定精度σ
P(x),σ
P(y)を求める。さらに、自車位置推定部17は、予測自車位置X
-(t)に基づき、地
図DB10の地物情報を参照し、ライダ2の計測範囲となる地物を探索する(ステップS105)。
【0050】
そして、自車位置推定部17は、予測自車位置X-(t)及びステップS105で探索した地物の地物情報が示す位置座標から、車両の進行方向と横方向それぞれの地物の予測位置(即ち地物予測値Z-(t))を算出する(ステップS106)。その後、自車位置推定部17は、ライダ2のスキャンデータから車両の進行方向と横方向それぞれの地物までの計測距離(即ち地物計測値Z(t))を算出し、当該計測距離からライダ計測精度σL(x),σL(y)を算出する(ステップS107)。
【0051】
次に、自車位置推定部17は、地物計測値と地物予測値との差分値dx、dyを式(1)に基づき算出する(ステップS108)。そして、自車位置推定部17は、式(4)に基づき、差分評価値Ex、Eyを算出する(ステップS109)。
【0052】
そして、自車位置推定部17は、差分評価値Ex、Eyが所定値より大きい場合(ステップS110;Yes)、差分評価値Ex、Eyから係数値aX(t)、aY(t)を生成する(ステップS111)。例えば、自車位置推定部17は、式(5)に基づき係数値aX(t)、aY(t)を算出することで、0から1までの値域において、差分評価値Ex、Eyが大きいほど小さい値になるように、係数値aX(t)、aY(t)を算出する。なお、自車位置推定部17は、所定値を超えていない差分評価値が存在する場合には、当該差分評価値に対応する係数値(差分評価値Exの場合には係数値aX(t))を式(5)によらず1に設定してもよい。
【0053】
一方、自車位置推定部17は、差分評価値Ex、Eyが所定値以下の場合(ステップS110;No)、係数値aX(t)、aY(t)を「1」に設定する(ステップS112)。すなわち、差分評価値Exと所定値の比較により係数値aX(t)が設定され、差分評価値Eyと所定値の比較により係数値aY(t)が設定される。
【0054】
次に、自車位置推定部17は、式(6)に基づき、カルマンゲインK(t)に係数値aX(t)、aY(t)を乗じることで、カルマンゲインK(t)´を生成する(ステップS113)。その後、自車位置推定部17は、式(2)に基づき、生成したカルマンゲインK(t)´をK(t)の代わりに用いて予測自車位置X-(t)を補正し、推定自車位置X^(t)を算出する(ステップS114)。
【0055】
[具体例]
次に、本実施例に基づく自車位置推定処理の効果について説明する。
【0056】
図9(A)は、ある走行試験コースにおいて
図8に示す自車位置推定処理を実行しながら車両を走行させた場合のx方向とy方向の位置の推移を示すグラフである。なお、
図9(A)では、RTK-GPSを用いて高精度に計測した自車位置(「リファレンス位置」とも呼ぶ。)と、
図8に示す自車位置推定処理により算出した推定自車位置とがそれぞれ描画されているが、これらは視覚上区別できない程度に重なっている。
【0057】
図9(B)は、
図9(A)の枠70内の走行区間におけるデータを拡大した図である。なお、
図9(B)では、計測対象となった地物の位置が丸印によりプロットされている。また、
図10(A)は、枠70の走行区間での差分値dxの推移を示すグラフであり、
図10(B)は、枠70の走行区間での実施例に基づく推定自車位置とリファレンス位置との進行方向における差を示し、
図10(C)は、枠70の走行区間での実施例に基づく推定自車位置とリファレンス位置との横方向における差を示し、
図10(D)は、枠70の走行区間での実施例に基づく推定自車位置とリファレンス位置との方位差を示す。
【0058】
図9(B)に示すように、自車位置推定部17は、不規則な間隔で存在する地物を対象として地物情報に基づき推定自車位置を推定しており、
図10(A)に示す差分値等に基づき予測自車位置を補正している。その結果、
図10(B)~(D)に示されるように、車両の進行方向及び横方向でのリファレンス位置と推定自車位置との差は、およそ0.1m以内となっており、方位差についても、およそ0.1度以内となっている。
【0059】
図11(A)~(D)は、
図9(B)のプロット71が示す地物に対する地物情報の位置座標を進行方向に80cmずらした場合において、カルマンゲインK(t)を係数値a
X(t)、a
Y(t)により補正せずに用いたときの
図10(A)~(D)と同様の実験結果を示す。
【0060】
図11(A)に示すように、
図9(B)のプロット71が示す地物に対する地物情報の位置座標のずれに起因して、プロット71が示す地物の地物情報の位置座標を用いて算出した差分値dx(丸枠72参照)は、他の地物の地物情報の位置座標を用いて算出した差分値dxと比較して、ずれ量が顕著に大きくなっている。その結果、
図11(B)に示すように、
図9(B)のプロット71が示す地物に対する地物情報の位置座標を用いて算出した推定自車位置は、車両の進行方向においてリファレンス位置とずれが生じている(丸枠73参照)。このようにして生じた推定自車位置の誤差は、次に自車位置推定に用いる地物(
図9のプロット74参照)の検出時まで継続してしまう。
【0061】
図12(A)~(D)は、
図9(B)のプロット71が示す地物に対する地物情報の位置座標を進行方向に80cmずらした場合において、カルマンゲインK(t)を係数値a
X(t)、a
Y(t)により補正したときの
図11(A)~(D)と同様の実験結果を示す。
【0062】
この場合、
図9(B)のプロット71が示す地物を検出した時点での差分値dx、位置推定精度σ
P(x)、ライダ計測精度σ
L(x)は、以下のようになる。
dx=-0.749
σ
P(x)=0.048
σ
L(x)=0.058
【0063】
したがって、これらの値を式(5)に示す係数値aX(t)に代入すると、係数値aX(t)は
0.854×10-3≒0
となる。この場合、カルマンゲインK(t)´は、以下の式(7)に示すように求められる。
【0064】
【数7】
よって、この場合、車両の進行方向については、予測自車位置X
-(t)の補正が行われないため、精度の良い位置推定が維持されることになる。
【0065】
以上説明したように、本実施例に係る車載機1の自車位置推定部17は、予測自車位置X
-(t)を示す情報を生成する位置予測部21と、位置推定部22とを有する。位置推定部22は、移動体から対象物までのライダ2による計測距離を示す地物計測値Z(t)及び地物情報に基づき予測された地物予測値Z
-(t)を算出する。そして、位置推定部22は、地物計測値と地物予測値との差分値dx、dyと、位置推定精度σ
Pと、ライダ計測精度σ
Lとに基づく差分評価値Ex、Eyに応じて、カルマンゲインK(t)を補正する係数値a
X(t)、a
Y(t)を決定する。これにより、車載機1は、地
図DB10又はライダ2の計測値のいずれかに誤差が生じた場合であっても、自車位置推定精度の低下を好適に抑制することができる。
【0066】
[変形例]
以下、実施例に好適な変形例について説明する。以下の変形例は、組み合わせて実施例に適用してもよい。
【0067】
(変形例1)
信頼度が低いと判断される地物情報に基づく予測自車位置X-(t)の補正量を低下させる方法は、係数値aX(t)、aY(t)をカルマンゲインK(t)に乗じることに限定されない。
【0068】
これに代えて、第1の例では、自車位置推定部17は、差分値dx、dyに対して係数値aX(t)、aY(t)を乗じてもよい。即ち、この場合、自車位置推定部17は、以下の式(8)に基づき、推定自車位置を算出する。
【0069】
【数8】
なお、この場合、カルマンゲインK(t)は式(10)で生成された後、式(6)に基づく更新が行われないため、以下の一般式(9)により示される共分散行列P(t)の更新には、信頼度が低い地物情報を用いたということが反映されない。すなわち、位置推定は信頼度を反映する一方、共分散行列は信頼度が反映されないため、その違いを考慮した処理が必要となる。
【0070】
【数9】
第2の例では、自車位置推定部17は、以下の一般式(10)によりカルマンゲインK(t)を算出する際に用いる観測雑音行列「R(t)」の対角成分に、以下の式(11)に示すように係数値a
X(t)、a
Y(t)を乗じてもよい。
【0071】
【0072】
【数11】
この場合、自車位置推定部17は、係数値a
X(t)、a
Y(t)を、式(4)に示される評価値Ex、Eyが大きいほど大きくなるように設定する。例えば、自車位置推定部17は、以下の式(12)に示すように係数値a
X(t)、a
Y(t)を設定する。
【0073】
【数12】
この場合、係数値a
X(t)、a
Y(t)の取り得る範囲は、1から無限大まであるため、上限値を定めるなどのオーバーフローを回避する処理が必要となる。
【0074】
(変形例2)
図1に示す運転支援システムの構成は一例であり、本発明が適用可能な運転支援システムの構成は
図1に示す構成に限定されない。例えば、運転支援システムは、車載機1を有する代わりに、車両の電子制御装置が車載機1の自車位置推定部17の処理を実行してもよい。この場合、地
図DB10は、例えば車両内の記憶部に記憶され、車両の電子制御装置は、地
図DB10の更新情報を図示しないサーバ装置から受信してもよい。