(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161140
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】薬液注入器およびそれを備えた薬液注入装置
(51)【国際特許分類】
A61M 5/145 20060101AFI20241108BHJP
【FI】
A61M5/145 506
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024145900
(22)【出願日】2024-08-27
(62)【分割の表示】P 2021513689の分割
【原出願日】2020-04-08
(31)【優先権主張番号】P 2019074469
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391039313
【氏名又は名称】株式会社根本杏林堂
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】根本 茂
(72)【発明者】
【氏名】吹越 由美子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康史
(72)【発明者】
【氏名】増田 和正
(72)【発明者】
【氏名】森川 浩昭
(57)【要約】
【課題】複数の薬液シリンジを保持して被検者に向けて薬液を送出する薬液注入器においてコンパクトに構成可能な薬液注入器等を提供する。
【解決手段】注入ヘッド110は、第1のシリンジのピストン部材を移動させるため進退移動するラム部材を有する第1のピストン駆動機構130と、第2のシリンジのピストン部材を移動させるため進退移動するラム部材を有する第2のピストン駆動機構130と、第1および第2のシリンジを並列に保持するシリンジホルダ170と、を備える。シリンジホルダ170は、2本の前記ラム部材の間に延在するように配置されたセンターフレーム181に設けられている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のシリンジのピストン部材を移動させるため進退移動するラム部材を有する第1のピストン駆動機構と、
第2のシリンジのピストン部材を移動させるため進退移動するラム部材を有する第2のピストン駆動機構と、
前記第1および第2のシリンジを保持するシリンジホルダと、
を備え、
前記シリンジホルダは、2本の前記ラム部材の間に延在するように配置されたセンターフレームの先端部に設けられている、薬液注入器。
【請求項2】
前記センターフレームは炭素繊維材料である、請求項1に記載の薬液注入器。
【請求項3】
前記センターフレームは板状部材である、請求項1または2に記載の薬液注入器。
【請求項4】
並列に保持された前記第1および第2のシリンジの側方に薬液注入器を構成する支持部材が配置されていない、請求項1~3のいずれか一項に記載の薬液注入器。
【請求項5】
前記センターフレームは、前記第1および第2のピストン駆動機構の一部を保持する保持プレートに固定されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の薬液注入器。
【請求項6】
前記センターフレームおよび前記保持プレートは、一体的に形成された炭素繊維材料の単一部材である、請求項5に記載の薬液注入器。
【請求項7】
前記シリンジホルダは全体として略U字型に形成され、板状部材である前記センターフレームの一方の面と他方の面とに設けられている、請求項1~6のいずれか一項に記載の薬液注入器。
【請求項8】
さらに、筐体を備え、
前記センターフレームが前記筐体から薬液注入器の前端側に向かって突出している、
請求項1~7のいずれか一項に記載の薬液注入器。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の薬液注入器と、
それに接続されたコンソールと、
を備える薬液注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の薬液シリンジを保持して被検者に向けて薬液を送出する薬液注入器および薬液注入装置に関し、特には、コンパクトに構成可能な薬液注入器および薬液注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、医療用の画像診断装置として、CT(Computed Tomography)スキャナ、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、超音波診断装置、血管造影(アンギオグラフィ)撮像装置等が知られている。このような撮像装置を使用する際、被験者に造影剤や生理食塩水など(以下、これらを単に「薬液」とも言う)を注入することがある。
【0003】
薬液を自動注入する装置としては従来、種々のものが知られている。装置の構成や性能は、その装置がどのような検査で使用されるか(換言すれば、どのような種類の撮像装置とともに使用されるか)等によって異なっているが、例えばMRI検査の場合、ガドリニウム系の造影剤を注入する造影剤注入装置が用いられる。この造影剤注入装置では、MRI装置での撮像に電磁波の影響を与えないように、ピストン駆動機構の駆動源に例えば非磁性体の超音波モータが駆動源として使用される。また、生理食塩水と造影剤との2本のシリンジを搭載して必要に応じてそれらを同時に注入する薬液注入装置も従来公知である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の注入ヘッドは、2本のシリンジを平行に保持するものであるが、注入ヘッドのシリンジ保持部およびその周辺構造のサイズが比較的大きく構成され、小型化に関してさらなる改良の余地が残されている。造影剤を注入する注入ヘッド(薬液注入器)の小型化は、造影剤を注入される被験者の心理的負担を軽減する観点からも好ましい。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、複数の薬液シリンジを保持して被検者に向けて薬液を送出する薬液注入器においてコンパクトに構成可能な薬液注入器等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一形態による薬液注入器は、下記の通りである:
第1のシリンジのピストン部材を移動させるため進退移動するラム部材を有する第1のピストン駆動機構と、
第2のシリンジのピストン部材を移動させるため進退移動するラム部材を有する第2のピストン駆動機構と、
前記第1および第2のシリンジを保持するシリンジホルダと、
を備え、
前記シリンジホルダは、2本の前記ラム部材の間に延在するように配置されたセンターフレームの先端部に設けられている。
【0008】
(用語の説明)
・「薬液注入装置」とは、薬液を注入する薬液注入装置のことをいい、次の構成要素を備えていてもよい:1つまたは複数のピストン駆動機構、1つまたは複数の制御回路(制御部等であってもよい)、1つまたは複数のヘッドディスプレイおよび1つまたは複数のディスプレイ。薬液注入装置が注入ヘッドおよびコンソール等を備える場合には、注入ヘッドにピストン駆動機構およびそれを制御する制御回路が備えられ、コンソールにディスプレイおよびそれを制御する制御回路が備えられてもよい。
・「薬液」とは、例えば、造影剤、生理食塩水、所定の薬剤、またはそれらを混合したものをいう。
・方向を示す用語について、「前」はシリンジの先端側に対応し、「後」はその反対側に対応する。なお、注入ヘッドは、例えば水平軸周りで回動可能に保持され、(i)シリンジの先端側が水平より下方側を向く使用時姿勢と、(ii)シリンジ内に薬液を吸引する場合等の姿勢である、シリンジの先端側が鉛直上方側を向いた非使用時姿勢とに切替え可能となっている。本明細書では、説明の都合上、シリンジが水平となる姿勢(この姿勢では、ピストン駆動機構のラム部材も水平となる)を基準として説明する。
【0009】
・「撮像装置」としては、例えば、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、CT(Computed Tomography)装置、アンギオ撮像装置、PET(Positron Emission Tomography)装置、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置、CTアンギオ装置、MRアンギオ装置、超音波診断装置、および血管撮像装置がある。
【0010】
・「シリンジ」に関し、シリンジにはICタグが付されていてもよい。ICタグには、シリンジに関する情報(シリンジの識別情報、シリンジの耐圧、シリンダ部材の内径、ピストン部材のストローク等)や、該シリンジに充填された薬液の情報(名称(例えば製品名)、ヨード量またはガドリニウム量などの成分情報、消費期限、薬液容量等)が記憶されていてもよい。ICタグに限らず、バーコードなどの他のデータ保持媒体を利用してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複数の薬液シリンジを保持して被検者に向けて薬液を送出する薬液注入器においてコンパクトに構成可能な薬液注入器等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本発明の一実施形態の注入ヘッドの斜視図である(シリンジ装着状態)。
【
図2】薬液注入装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】第1のシリンジおよびシリンジアダプタを示す斜視図である。
【
図4】楕円状に形成された第2のシリンジのシリンダを示す斜視図である。
【
図5】第2のシリンジのピストン部材を示す斜視図である。
【
図6】シリンダフランジ後面の構造を説明するための斜視図である。
【
図7】シリンダフランジ後面の構造を説明するための背面図である。
【
図9】シリンジホルダの部材のうち後方側の部材のみを示す図である。
【
図10】シリンジホルダにシリンダフランジが挿入された状態を上方側から見た平面図である。
【
図11】係合部材の構成を説明するための斜視図である。
【
図12】ラム部材の先端部に設けられたプレッサー部材とその前端部に設けられたフランジ把持機構とを示す斜視図である。
【
図13】プレッサー部材とフランジ把持機構とを上方側から見た平面図である。
【
図14】一対の回転爪のみを示す図である(初期状態)。
【
図15】回転爪とピストンフランジとの関係を説明するための斜視図である。
【
図16】回転爪とピストンフランジとの関係を説明するための正面図である。
【
図17】一対の回転爪がピストンフランジの径方向に拡がることができるように構成されている場合の一例を示す図である。
【
図18】一対の回転爪によってピストンフランジが把持される動作を示す図である(正面図)。
【
図19】一対の回転爪によってピストンフランジが把持される動作を示す図である(平面図)。
【
図20】シリンジアダプタの構成例を示す斜視図である(前方側から見た状態)。
【
図21】シリンジアダプタの構成例を示す斜視図である(後方側から見た状態)。
【
図22】注入ヘッドの保持スタンドおよびヘッドディスプレイの一例を示す斜視図である。
【
図25】薬液注入器を正面側から見た斜視図である。
【
図26】薬液注入器を背面側から見た斜視図である。
【
図33】薬液注入器を正面側から見た参考図である(第1のシリンジがアダプタを介してシリンジホルダに装着され、第2のシリンジはアダプタを介さずシリンジホルダに装着された状態)。
【
図35】楕円シリンジの他の例を示す図であり、(a)が導管部側から見た図、(b)がピストン部材側から見た図、(c)がシリンダフランジを上面側から見た図である。
【
図39】ラムを吸子の穴に挿入する前のシリンジの概略断面図である。
【
図40】ラムを吸子の穴に挿入した状態のシリンジの概略断面図である。
【
図41】ラムとガスケットとが連結した状態のシリンジの概略断面図である。
【
図42】他の態様に係るシリンジの概略分解斜視図である。
【
図43】楕円タイプのシリンジをフロントローディング方式で保持可能な注入ヘッドの構成例を示す図である。
【
図44】
図43の注入ヘッドに対して汎用的なシリンジをセットするためのアダプタの一例である。
【
図45】シリンジのピストンがホールドされていない場合の開閉バルブ等の動作例を説明するための模式図である。
【
図46】薬液容器からシリンジ(薬液収容体)への薬液充填を可能にする構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一形態について図面を参照して以下に説明する。なお、以下では薬液注入装置の具体的な一例が開示されているが、本発明は必ずしもこれらの具体的構成に限定されるものではない。以下では、また、基本的に装置や機器の構成について図面の符号を付して説明するが、説明の都合上符号を省略して説明することもある。
【0014】
図1A、
図1B、
図2に示すように、本実施形態の薬液注入装置100は、造影剤等の薬液を薬液回路900経由で被検者に向けて注入するためのものであり注入ヘッド110とコンソール150とを備えている。最初に、注入ヘッド110を含めた薬液注入装置全体の構成について説明し、その後、他の図面を参照しながら注入ヘッド110の具体的な構造について説明するものとする。
【0015】
(注入ヘッド)
注入ヘッド110は、一例としてMRI検査用のものである。注入ヘッド110は、2本のシリンジ200A、200Bを装着可能な二筒式のものであり、一方のシリンジ200Aに造影剤が充填され、もう一方のシリンジ200Bに生理食塩水が充填されている。なお、本発明は、必ずしもMRI検査用の注入ヘッドに限定されるものではなく、CT検査用や血管造影検査用の注入ヘッドにも適用可能である。本明細書では、シリンジ200A、200Bをそれぞれ第1のシリンジ、第2のシリンジと言うこともあり、また、それらを区別せずに単にシリンジ200と言うこともある。シリンジ200A側の各種機構に関し「A側の機構」のように表現することがあり、シリンジ200B側の各種機構に関し「B側の機構」のように表現することもある。第2のシリンジ200Bには、生理食塩水に代えて、他の薬液が充填されてもよい。
【0016】
注入ヘッド110は、
図1Aに示すような筐体111を有しており、この筐体111の前端部からシリンジ200A、200Bのピストン部材を動かすためのピストン駆動機構130のラム部材133が突出するとともに、シリンジ200A、200Bを保持するシリンジホルダ170が設けられている。
【0017】
筐体111上には、注入ヘッド110に各種動作を行わせるための複数の物理的ボタン161が設けられている。物理的ボタン161としては、特に限定されないが、次のものであってもよい:ピストン駆動機構のラム部材を前進させるための前進ボタン、ラム部材を後退させるための後退ボタン、前進ボタンまたは後退ボタンと同時に押すことでラム部材の移動速度を早くするアクセラレータボタン、および、ヘッドの動作を停止させる停止ボタン等。なお、筐体111、物理的ボタン161および/またはボタン周辺構造には撥水加工(例えば、コーティング、塗装、保護部材の装着等)が施され、仮に薬液が滴下したような場合でも付着が防止されるようになっていてもよい。また、このような構成によれば、注入ヘッド内への薬液の侵入の防止も可能となる。
【0018】
ピストン駆動130は、
図2に模式的に示すように、駆動源であるモータ131と、その駆動モータの回転出力を伝達して直線運動に変換する伝達機構132と、その機構に連結され、シリンジのピストン部材を前進および/または後退させるラム部材133とを有している。伝達機構132は、具体的には、モータのシャフトに接続された伝達要素と、その伝達要素に接続されたネジ軸と、ネジ軸に取り付けられた台形ネジナットと、台形ネジナットに接続された駆動要素とを有するものであってもよい。伝達機構は、モータからの回転をネジ軸に伝達し、これによりネジ軸が回転し、台形ネジナットの作用により、駆動要素が前進方向または後進方向に移動する。
【0019】
MRI検査用の機器の場合、注入ヘッド110を構成する部品には非磁性体材料が使用される。例えば、非磁性体材料としては、ステンレス、アルミニウム、プラスチック、真鍮、銅、またはセラッミックス等が挙げられる。モータ131は、非磁性体材料を用いて構成されている超音波モータであってもよい。この超音波モータにおいては、例えば、弾性体がリン青銅から形成され、シャフト、ネジおよびスペーサが真鍮から形成され、ケース、ベースおよびローターがアルミニウムから形成され、ブッシュがフッ素樹脂から形成されるものであってもよい。
【0020】
注入ヘッド110には、ラム部材133がシリンジのピストン部材を押圧する力を検出するためのロードセル138(
図2参照)が設けられていてもよい。ロードセル138の検出結果を利用して、薬液を注入しているときの薬液の圧力の推定値を求めることができる。この推定値の算出は、針のサイズ、薬液の濃度、注入条件なども考慮して行われてもよい。他にも、ロードセル138を用いるのではなく、モータ131のモータ電流に基づいて圧力の算出を行うものであってもよい。
【0021】
(コンソール)
コンソール150は、
図2に示すように、グラフィカルユーザインターフェース等を表示するディスプレイ151と、タッチパネル153と、制御部155と、1つまたは複数の物理的スイッチ157と、ハードディスクなど記憶媒体である記憶部159を有するものであってもよい。一例として、これらの要素が1つ筐体(不図示)内に設けられ、コンソール150が注入ヘッド110とは別体の機器として設けられていてもよい。コンソール150は、注入ヘッド110に有線接続または無線接続で接続され注入ヘッド110との間でデータの送受信が行われるように構成されている。コンソール150はまた外部のネットワークや機器に対してデータを送信および/または受信するデータ送受信ユニット(不図示)を有していてもよい。なお、コンソールに関し、上述したような要素が1つ筐体内に一体的に設けられていることは本質的な事項ではなく、例えば制御部やディスプレイ等が別々の機器として構成されていてもよい。なお、コンソールの具体的な構成例については他の図面を参照して後述するものとする。
【0022】
制御部155は、注入プロトコルの作成や注入の実行などを制御する機能を有し、一例として、設定画面表示機能、注入プロトコル作成機能、注入制御機能、履歴生成機能、および履歴出力機能等を含んでいてもよい。
【0023】
設定画面表示機能は、注入プロトコルを設定するための画面、具体的には、注入プロトコル設定用のグラフィカルユーザインターフェースをディスプレイ151および/または他のディスプレイ(例えば
図22を参照して後述する注入ヘッド151-1の近傍に設けられるヘッドディスプレイ)に表示させる機能に相当する。
【0024】
注入プロトコル作成機能は、例えば、医師または医療従事者(単に操作者とうもいう)によるディスプレイ151のタッチパネル153等への入力操作を受け付け、その内容が反映された注入プロトコルを作成する機能に相当する。プロトコル作成機能では、例えば、薬液の種類、薬液の注入速度、薬液の注入量、被験者の身体情報(例えば体重)、撮像を行う被験者の身体区分、撮像部位、被験者の生体情報などから選ばれる情報に基づき、それに対応して、注入プロトコルの所定のパラメータを算出する。
【0025】
注入制御機能は、作成された注入プロトコルにしたがってピストン駆動機構(詳細下記)の動作を制御する機能に相当する。注入制御部は、ピストン駆動機構の一方のみを動作させること、および、両方を同時に動作させることを行う。なお、この注入制御機能は、注入ヘッド110の制御回路115が実施するものであってもよい。
【0026】
履歴生成機能は、注入履歴データ(薬液注入データ)を生成する機能に相当する。「注入履歴データ」としては、例えば、注入作業ごとに固有の識別情報である注入作業ID、注入開始および終了の日時、薬液注入装置の識別情報、造影剤および/または生理食塩水の注入条件、造影剤および/または生理食塩水の注入結果、および、薬液や撮像部位の識別情報の少なくとも1つであってもよい。履歴出力機能は、注入履歴データを外部に送信する機能に相当する。具体的には、外部の所定の機器および/またはネットワーク上のデータベースにデータを送信するものであってもよい。
【0027】
記憶部159には、例えば、ディスプレイに表示される画像やグラフィカルユーザインターフェースのデータ等が記憶されていてもよい。また、注入条件を設定するための計算式などを含むアルゴリズムや、注入プロトコルのデータが記憶されていてもよい。
【0028】
本実施形態の注入ヘッド110は次のような幾つかの技術的特徴部を有する:
(A)楕円シリンジおよびシリンジホルダ
(B)センターフレームおよびピストン駆動機構の具体的構造
(C)ピストンフランジ把持機構
以下、注入ヘッド110に装着されるシリンジ200A、200Bの基本的構成について説明を行った後、上記技術的特徴部について順に説明する。
【0029】
(シリンジ)
シリンジに関し、第1のシリンジ200Aと第2のシリンジ200Bとは同形状であってもよいが、本実施形態では、比較的小さいサイズで造影剤が充填される第1のシリンジ200Aと、それより大きいサイズに形成され生理食塩水が充填される第2のシリンジ200Bとが用いられる。なお、シリンジは予め薬液が充填されたプレフィルドタイプであってもよいし、空のシリンジに薬液を吸引して使用する吸引式のものであってもよい。
【0030】
図3に示すように、第1のシリンジ200Aは、中空筒状のシリンダ部材210と、そのシリンダ部材210にスライド自在に挿入されたピストン部材220とを有している。シリンダ部材210の前端部には導管部213が形成されており、シリンダ部材210の後端部にはシリンダフランジ211が形成されている。ピストン部材220の先端部には不図示のガスケットが設けられており、後端部には一例として円板形状に形成されたピストンフランジ221が形成されている。第1のシリンジ200Aは、シリンジアダプタ270を介して注入ヘッド110に保持されてもよい。
【0031】
第1のシリンジ200Aには、MRI検査用の造影剤が充填される。限定されるものではないが、このシリンジ200Aの容量は50ml以下程度であってもよい。
図3では、シリンダフランジ211が上下方向に延在する姿勢でシリンジ200Aが描かれているが、シリンダフランジが水平方向に延在するような姿勢でシリンジアダプタ270に装着されるように構成されていてもよい。シリンジアダプタ270の具体的な構成例については別の図面を参照しながら後述するものとする。
【0032】
図4~
図7に示すように、第2のシリンジ200Bも、中空筒状のシリンダ部材230と、そのシリンダ部材230にスライド自在に挿入されたピストン部材240を有している。なお、第1および第2のシリンジに共通する事項として、ピストン部材は、必ずしも図示のような長いロッドのものに限らず、いわゆるロッドレスタイプのもの(単に「プランジャ」などと称することもできる)であってもよい。シリンジの形状は特に限定されるものではないが、本実施形態の第2のシリンジ200Bでは、シリンジの軸線方向に垂直な面内の断面形状が楕円形のものが用いられている。
【0033】
図4に示すように、シリンダ部材230の前端部には導管部233が形成されており、後端部にはシリンダフランジ231が形成されている。
図5に示すように、ピストン部材240は、断面形状が楕円形に形成された挿入筒部243と、その挿入筒部243から後部側に延びる軸部247とを含んでいる。挿入筒部243の先端部にはガスケット245が設けられている。軸部247の後端部には円板形状のピストンフランジ241が形成されている。
【0034】
図6、
図7に示すように、シリンダ部材230の内部空間230sの断面形状は楕円形であり、この内部空間230sにピストン部材240の挿入筒部243が挿入されるようになっている。シリンダフランジ231は、楕円形状に形成されていてもよいが、本実施形態では略卵形状の輪郭に形成され、筒状部からの張り出し寸法が上部と下部とで異なるように設計されている。限定されるものではないが、シリンダフランジ231は、
図6、
図7の向き(図示下方が卵形状の突出側となる向き)で、後述するシリンジホルダ170にセットされるように構成されている。
【0035】
シリンダフランジ231の板厚は一定であり、その後面には、同面から僅かに突出した楕円形状のリブ236が形成されている。リブ236はシリンダ部材230の開口部に沿うような形状に形成されている。また、シリンダフランジ231の後面には、水平方向に延在する2本のフランジリブ237、237が左右両側に形成されている。なお、「水平方向」は、シリンダフランジ231をシリンジホルダ170に挿入する方向(垂直方向)に直行する方向である。
【0036】
図7に示すように、シリンジの中心を通る水平方向の中心線L2を挟むように、その中心線L2の上下にフランジリブ237が平行に形成されていてもよい。2本のフランジリブ237の間には、後述するシリンジホルダの係止部材が嵌まり込む係止凹部239が形成されている。
【0037】
図7に示すように、シリンダフランジ231自体は略卵形状で上下非対称となっているが、上下2本のフランジリブ237に関しては、中心線L2を挟んで対称に形成されていてもよい。また、右側の2本のフランジリブ237と左側の2本のフランジリブ237とが、垂直方向の中心線L1を挟んで対称に形成されていてもよい。
【0038】
(A:シリンジホルダ)
続いて、
図8~
図10を参照しながら、シリンジホルダ170について説明する。シリンジホルダ170は、各シリンジ200A、Bに対応するように1つずつ設けられており、基本的に同様の構造となっている。ここではシリンジ200Bに対応するシリンジホルダ170を例として説明する。
【0039】
シリンジホルダ170は、この例では全体として略U字型に形成されており、注入ヘッドの前方側に位置する第1部材171と後方側に位置する第2部材173とで構成されている。もっとも、このように2つの部材に限らず、単一の部材で構成してもよいし、3つ以上の複数の部材で構成してもよい。これらの部材171、173の材質は特に限定されるものではないが、樹脂製または金属製であってもよい。シリンジホルダ170は、シリンダフランジ231を受け入れる受入れ溝175を有している。受入れ溝175は、一例として、シリンダフランジ231の外形と相補的な形状の略U状であってもよい。
【0040】
なお、
図9は、注入ヘッドの前方側から第2の部材173を見た状態の図であるが、この例では、受入れ溝175の底部分が開口部175hとなっており、シリンダフランジ231がセットされた状態で、シリンダフランジ231の最下部がシリンジホルダ170の底部から下方に僅かに突出するようになっている。必ずしもこのような構成とする必要はないものの、このようなシリンジホルダ170の構造によれば、ホルダの一部を肉抜きすることで小型化を図ることができる点で有利である。この開口部175hは、また、ホルダ上に液体がこぼれた場合にこの開口部175hを介して液体を逃がす役割を果たすものであってもよい。
【0041】
図8、
図9に示すように、受入れ溝175内の左右両側には、シリンダフランジ231の係合凹部239に嵌まり込む係合部材176が設けられている。係合部材176は、シリンジを装着する際に、シリンダフランジ231のリブ237を乗り越えて係合凹部239に嵌まり込むものであればどのような形状であってもよく、第2の部材173の一部を突起させた構造部であってもよいし、第2部材173とは別の部材であってもよい。
【0042】
一例として、
図11に示すように、第2部材173とは別体の係合部材176が、第2部材173の一部に取り付けられる構成としてもよい。具体的には、第2部材173に形成された孔173hに対して、第2部材173の後面側から係合部材176が嵌め込まれ、係合部材176の一部が受入れ溝175に突出するように設けられていてもよい。
【0043】
係合部材176の材質としては、シリンダフランジ231のリブ237が当接した際に実質的に変形しないような硬質な材料であってもよいし、または、シリンダフランジ231のリブ237が当接した際に弾性的に変形する弾性部材であってもよい。係合部材176は交換可能に設けられていてもよい。係合部材176の外形は特に限定されるものではないが、柱状、円柱状、ブロック状、または板状等であってもよい。
【0044】
シリンダフランジ231(
図6、
図7参照)をシリンジホルダ170の受入れ溝175内に平行に挿入していくと、まず下側のフランジリブ237がそれぞれ係合部材176に当接し、さらにシリンダフランジ231を下方に押し込むと、係合部材176がフランジリブ237を超えて係合凹部239に嵌り込んで係合する。このような構成により、シリンダフランジ231をシリンジホルダ170内に保持固定させることができる。
【0045】
シリンダフランジ231を受入れ溝175内に装着する際の感触は、係合部材176の突出量やフランジリブ237の形状、および、係合部材176の材質等に依存する。本実施形態のように、シリンジホルダ170を構成する部材と係合部材176とを別体とすることで、例えば材質の選択により、装着時の感触を適宜設定することができる。また、交換可能な構成とすることで、例えば係合部材176の損耗時に、同部材の交換のみでシリンジホルダ170を引き続き使用することができるという利点もある。
【0046】
なお、楕円形シリンジの利点としては次の点が挙げられる。すなわち、楕円形の長軸が鉛直方向となるような姿勢でシリンジが保持される本実施形態の構成によれば、水平方向におけるシリンジの幅が減少する分、水平方向におけるシリンダフランジ170の幅も減少する。その結果、水平方向における注入ヘッドの幅を減少させ、注入ヘッドのサイズを小さくすることができる。つまり、シリンジが円状の断面形状を有する場合と比較して、シリンジの幅が減少するため、注入ヘッドを小型化できる。特に、2つ以上のシリンジを搭載可能な注入ヘッドにおいては、小型化の効果が大きい。
【0047】
上記の利点は、換言すれば、注入ヘッドのサイズは従来品と同程度であるが、より大容量のシリンジを搭載できることを意味する。近年、例えば、血栓発症の防止等を目的としたKVO(Keep Vein Open)機能として、薬液の微速注入を継続するという注入手法も用いられるようになってきており、薬液の消費量が多くなる傾向も見られる。本実施形態の構成によれば、注入ヘッドの大型化を招くことなくこうした大容量の薬液注入にも対応可能となる。
【0048】
(B:センターフレーム)
図1A、
図1Bに示すように、本実施形態の注入ヘッド110では、シリンジホルダ170がセンターフレーム181によって支持される構成となっている。センターフレーム181は、ピストン駆動機構130の2本のラム部材133の間に位置し、注入ヘッド110の前後方向に延在するように設けられている。
【0049】
センターフレーム181は、薬液の吸引や注入に支障をきたさないよう十分な剛性を有するものであればどのような材質および/または形状であってもよい。本実施形態では一例で平板状の部材が用いられている。板状部材であるセンターフレーム181は、その板厚方向が
図1Aの左右方向となるような姿勢で配置されている。
【0050】
センターフレーム181の材質としては、樹脂材料、金属材料、炭素繊維材料(CFRP炭素繊維強化プラスチック:Carbon Fiber Reinforced Plastics)等であってもよい。特に、軽量かつ高剛性の炭素繊維材料は、注入ヘッドの小型軽量化に有利であり好ましい。
【0051】
図1Bを参照すると、センターフレーム181の後端部は、注入ヘッド110の幅方向に延在するように設けられた保持プレート183に固定され、センターフレーム181と保持プレート183が略T字型のフレームを構成している。保持プレート183の片端にはさらにシャフトプレート185が固定されている。シャフトプレート185はサポートシャフト116(
図1A参照)を支持するための部材である。保持プレート183やシャフトプレート185の材質も、センターフレーム181のものと同様であってもよく、一例で炭素繊維材料であってもよい。
【0052】
なお、本実施形態では、センターフレーム181、保持プレート183、およびシャフトプレート185のように複数の部材を用いているが、これら全部を一体部材として形成してもよい。または、センターフレーム181と保持プレート183とを一体部材とする、もしくは、保持プレート183とシャフトプレート185とを一体部材としてもよい。炭素繊維材料を用いる場合、それぞれの部材を炭素繊維材の積層体としてもよいし、または成形による一体部品としてもよい。
【0053】
再び
図1A、
図1Bを参照し、センターフレーム181の先端部には、センターフレーム181を挟むようにシリンジホルダ170が1つずつ取り付けられている。限定されるものではないが、一方のシリンジホルダ170と他方のシリンジホルダ170とは、センターフレーム181を挟んで略対称に設けられていてもよい。
【0054】
上述したように、センターフレーム181でシリンジホルダ170を支持する構成によれば、次のような作用効果を有する。すなわち、シリンジホルダ170を支持するための構成としては、例えばそれぞれのラム部材133の両側に支持シャフト(不図示)を設け、その2本の支持シャフトでシリンジホルダを支持する構造などが考えられる。しかしながら、本実施形態のように、両側の支持シャフトを設けることなく、ラム部材133間に設けたセンターフレーム181のみでシリンジホルダ170を保持する構成によれば、注入ヘッド110の幅方向のサイズを押さえ、注入ヘッドを小型化できるという利点がある。
【0055】
また、ラム部材133は、シリンジ200A、200Bのピストン部材を押圧するための部材であり、互いに所定の距離をあけて配置されるのが通常であるところ、本実施形態のセンターフレーム181はそのスペースに設けられているので、注入ヘッドの大型化を招くこともない。このようにセンターフレーム181のみでシリンジホルダ170、170を支持する構成であっても、その材質を例えば炭素繊維材料を用いたり、十分に剛性が確保できる形状に設計したりすることで、薬液注入時、シリンジ200A、200Bに押圧力が加わった場合でも部材の変形が抑えられ、良好に薬液注入を実施することができる。
【0056】
なお、本実施形態では、センターフレーム181に1つの板状部材を用いているが、ラム部材133、133間に配置される複数の部材でセンターフレームを構成するようにしてもよい。
【0057】
続いて、
図1Bを参照しながら、ピストン駆動機構130の具体的構造について説明する。本実施形態では、注入ヘッド110の後端部から前端側に向かって、超音波モータであるモータ131と、伝達機構132と、ラム部材133とが順に配置されている。伝達機構132は、より具体的には、モータ131に隣接して設けられたベースモジュール132-1と、そのベースモジュール132-1よりも前方に配置されたシリンダモジュール132-2とを有し、全体がモジュール化されている。
【0058】
ベースモジュール132-1は、この例では略円筒状のケーシングを有しており、その内部に、モータ131のシャフトからの出力を伝達するためのギア(不図示)等が設けられている。シリンダモジュール132-2も略円筒状のケーシングを有しており、その内部に、ラム部材131を進退移動させるための直動機構等(不図示)が設けられている。なお、シリンダモジュール132-2のケーシングは、保持プレート183に連結され固定されていてもよい。
【0059】
棒状に形成されたラム部材133は、保持プレート183を通って、注入ヘッド110の前端側に向かって延出するように配置されている。ラム部材133の基端側(不図示)はシリンダモジュール132-2内で保持されており、ラム部材133の先端側にはプレッサー部材135が設けられている。ラム部材133は、一例で、シリンダモジュール132-2のケーシングと同軸に配置されていてもよい。
【0060】
限定されるものではないが、隣接して配置された2つのシリンダモジュール132-2の間に基板モジュール115′を配置するようにしてもよい。基板モジュール115′内には制御回路115(
図2参照)等が収容されている。
【0061】
以上のような構成によれば、ピストン駆動機構130がモジュール化されているので、例えば故障等の対応が容易であり、メンテナンス性に優れたものとなる。また、例えば、3本以上のシリンジから薬液を注入するような場合でも、ピストン駆動機構130の増設が容易である。
【0062】
(C:フランジ把持機構)
図12~
図18を参照して、本実施形態のフランジ把持機構140について説明する。
図12は、ラム部材133の先端部に設けられたプレッサー部材135と、その前端部に設けられたフランジ把持機構140とを示す斜視図である。なお、注入ヘッドのA側とB側とで異なるフランジ把持機構140としてもよいが、本実施形態では共通の構成としている。以下では、B側のフランジ把持機構140を例として説明する。したがって、説明はシリンジ200Bに関連する部材についてのものとなるが、当然ながら、下記する事項はA側の機構についても当てはまる。
【0063】
フランジ把持機構140は、例えば、シリンジホルダ170にシリンジ200Bがセットされた状態でラム部材133を前進させることでシリンジ200Bのピストンフランジ241を把持するものである。したがって、厳密には、シリンジ200Bを固定側のフランジ把持機構140に対して移動させていくものではないが、以下では、説明を分かりやすくするため、「ピストンフランジを一対の回転爪側に押し込む」といった表現も用いるものとする。
【0064】
図12に示されているように、プレッサー部材135は、シリンジのピストン部材を押圧するための部材であり、この例では平坦な押圧面135aを有している。
図12では図示は省略するが、プレッサー部材135の内部には、ピストン部材を押圧する圧力を検出するためのロードセル等が設けられていてもよい。また、プレッサー部材135の近傍にプレッサー部材135と一緒に移動するように構成された所定のセンサ(不図示)が設けられており、そのセンサを利用して、プレッサー部材135とピストン部材との位置関係が検出されるようになっていてもよい。具体的には、プレッサー部材135がピストン部材に近接したことを検出するものであってもよい。所定のセンサとしては、物理的センサ、光学式センサ、磁気センサ、接触式、非接触式など種々のものを利用することができる。限定されるものではないが、特許6422939号に開示される発光部および受光部を有する光学式の対象物検知センサのようなものを用いてもよい。
【0065】
図12、
図13に示すように、フランジ把持機構140は、左右一対の回転爪143を有しており、この一対の回転爪143はピストンフランジ241を両側から把持するためのものである。詳細な動作については後述するが(
図18参照)、回転爪143はラム部材133と並行な方向に延びる軸149周りに回動できるように構成されている。具体的には、
図18に示すようにいずれの回転爪143も軸149を中心として同方向(この例では時計回り)に回るようになっており、これにより、ピストンフランジ241を把持する際、一方の回転爪143(図示右側)は上方に向かってに回動し、他方の回転爪143(図示左側)は下方に向かってに回動するように構成されている。なお、このように各回転爪143が上下に複合的に動作するものであれば、本発明において、特に回転方向は限定されるものではない。回転爪143の回転方向は時計回りではなく軸149を中心とした反時計回りであってもよい。
【0066】
回転爪143およびその周辺構造について詳細に説明すると、まず、回転爪143は、
図14に示すように、軸149に回転自在に支持されるベース部146と、そのベース部146から張り出すように形成された爪部145とを有している。この例では、一対の回転爪143は、爪部145が互いに対向するような向きで配置される。
【0067】
爪部145は、全体として略板状の部位であり、ピストンフランジ241が押し込まれていく際に、そのピストンフランジ241の外周部に当接するテーパ面145sが形成されている。このようなテーパ面145sを形成している理由は、ピストンフランジ241の外周部が同面に押し当てられたときに、回転爪143を軸149周りで回動させるための周方向の力を発生させるためである。この力によって生じるモーメントによって回転爪143が回動する。
【0068】
回転爪143が回動する原理は、
図15に分かりやすく示すように示すように、ピストンフランジ241を矢印a方向に直線的に移動させていった場合に、その外周部の一部がテーパ面145sの一部に当接し、ピストンフランジ241がテーパ面145sを押圧する力の分力が、軸149周りの周方向の力として作用するためである。ピストンフランジ241を押し込んでいくにつれて、ピストンフランジ241の外周部とテーパ面145sとが摺動しながら、回転爪143は徐々に回動していくこととなる。このような原理を利用するものであれば、テーパ面145sの具体的な形状や大きさ等は適宜変更可能である。
【0069】
本実施形態では、
図15に示すように、テーパ面145sは矢印a方向に対して三次元的に傾斜する(テーパ面145sの法線方向と矢印a方向とが三次元的に交差する)ように形成されている。テーパ面145sの大きさは、使用が想定されるピストンフランジ241の大きさや形状に応じて適宜設定すればよい。
【0070】
本実施形態では、
図16に示すようにテーパ面145sを比較的広い範囲で設けることで、比較的小さいサイズのピストンフランジ241′の外周部に当接可能であるとともに、比較的大きいサイズのピストンフランジ241′′の外周部も当接可能となっている。このような構成によれば、単一サイズに限らず、複数サイズのピストンフランジに対応することが可能となる。
【0071】
なお、回転爪143の材質は金属材料、樹脂材料、炭素繊維材料など特に限定されるものではないが、一例で金属材料であってもよい。
【0072】
再び
図13、
図14を参照し、爪部145の後面145tは、ピストンフランジ241の前面に対向する面である。したがって、後面145tは、ピストンフランジ241の前面と平行な平面としてもよい。
図14(b)に示すように、爪部145のコーナ部145a、145aはなだらかにカーブするアール形状に形成されていてもよい。
【0073】
図14(b)、
図16に示すように、一対の回転爪143の初期位置は、各回転爪143の爪部145が中心O方向に向かって延在するような向きである。この初期状態では付勢手段(不図示)によって軸149周りの付勢力が付与されており、これにより初期状態の姿勢が維持されるようになっている。付勢手段としては、限定されるものではないが、軸149に通されたコイルバネ(ねじりバネ)であってもよい。このコイルバネによる付勢力は、強すぎるとピストンフランジ241がテーパ面145sに押し当たった際に回転爪143がうまく回動せず、弱すぎるとピストンフランジ241が回転爪143間に入った際に回転爪143が初期位置に戻らずうまくフランジを把持できないおそれがあるので、回転爪143やピストンフランジ241の材質・形状等を考慮したうえで適宜設定することが好ましい。付勢手段としては他にも各種のものを使用でき、板バネ等を利用してもよい。
【0074】
本実施形態では、さらに、
図17示すように、一対のアーム141の先端部に上記した回転爪143が設けられていてもよい。一対のアーム141は、プレッサー部材135の両側に設けられている。アーム141は、それぞれが、軸141aに回動自在に支持されており、これにより一対のアーム141はピストンフランジ241の径方向に拡がったり閉じたりできるようになっている。各アーム141は、不図示の付勢手段によって軸141a周りの付勢力が付与されており、これにより閉状態が維持されるようになっている。付勢手段としては、軸141aに通されたコイルバネ(ねじりバネ)であってもよい。なお、上述したように、回転爪143の軸149周りの回動に関しても付勢手段が用いられているが、付勢手段の付勢力としては、アーム141が開く動作と回転爪143が回動する動作とのうち後者の動作が優先的に起こるように設定されていることが望ましい。
【0075】
<動作>
上記の説明したフランジ把持機構の動作について以下説明する。
【0076】
まず、ピストン駆動機構130のラム部材133を後退させた状態で、薬液が入った状態または空の状態のシリンジ200Bをシリンジホルダ170に対して装着する。装着は、シリンジ200Bのピストンフランジ231がシリンジホルダ170の受入れ溝175に挿入されるように、シリンジ200Bをシリンジホルダ170に対して直線的に動かして行う(
図1Aの「下」方向参照)。
【0077】
シリンジ200Bがシリンジホルダ170に装着されたら、例えば、注入ヘッド110の物理的ボタン161を操作して、
図19(a)に示すように、ラム部材133を前進させる。ラム部材133がある程度の位置まで前進すると、ピストンフランジ241の外周部が各回転爪143のテーパ面145sに当接する。
【0078】
この状態でさらにラム部材133の前進を続けると、
図18を参照して説明したように、ピストンフランジ241によって回転爪143が押されることにより、各回転爪143がそれぞれ軸149周りに回動して爪が徐々に開いていく。そして、一対の回転爪143が、その間をピストンフランジ241が通過できる程度まで開くと、
図19(b)に示すように、一対の回転爪143の間にピストンフランジ241が入り込み、同時に、軸149周りの付勢手段の復元力によって回転爪143がもとの位置に戻り、これにより、一対の回転爪143によってピストンフランジ241が把持された状態となる。以上一連の把持動作は、一対のアーム141を拡げることなく実施することも可能であるが、スムーズな挿入等の観点から一対のアーム141が拡がりつつ、ピストンフランジ241が一対の回転爪143間に受け入れられるようになっていてもよい(それぞれの爪の回動動作と一対のアームの拡がり動作との併用)。
【0079】
このように、本実施形態のフランジ把持機構140によれば、ピストン部材に対して同把持機構を直線的に近づけていくだけでピストン部材の一部を把持することができ、操作者による煩雑な作業を必要としない。また、回転爪143は、上述したように様々なサイズのピストンフランジを把持することができるため、使用するピストンフランジのサイズに応じて、複数の使用のフランジ把持機構140を用意する必要もない。
【0080】
本発明としては、ピストンフランジ241を把持する際、一方の回転爪143と他方の回転爪143とが鉛直方向の中心線L1(
図16参照)を基準とした線対称の動作をする(つまり、
図16の例で言えば例えば両方の回転爪143とも上方に持ち上がるように回動する)ようになっていてもよいが、
図16等に示すように本実施形態では、点対称となるように逆向きの動作をする。このような構成によれば、ピストンフランジ241に加わる力が対称的になるため回転爪143を良好に動作させることが可能となる。
【0081】
なお、上述した実施形態では一対の回転爪143を用いたが、変形例としては例えば3つ以上の複数の構成も想定される。また、このようなフランジ把持機構は、必ずしも注入装置の一部品として利用されるものに限定されず、シリンジのフランジを把持する機能を備える種々の機器(例えば薬液吸引器)で用いられてもよい。
【0082】
(シリンジアダプタ)
次に、
図20、
図21を参照して、造影剤が充填されるシリンジ200Aを保持するアダプタ270の具体例について説明する。
【0083】
例えばCT検査における造影剤注入では、生理食塩水のシリンジ200Bと同様のサイズのシリンジ200Aが用いられることもあり、この場合は、第1および第2のシリンジのいずれもシリンジホルダ170に対して直接装着すればよい。しかしながら、MRI検査等の場合、少量の造影剤で済むことから比較的小型のシリンジが用いられることもある。こうした場合に対応するため、本実施形態ではシリンジ200Aを、シリンダアダプタ270を介してシリンジホルダ170に装着できる構成となっている。
【0084】
シリンジアダプタ270は、
図20、
図21に示すように、シリンジ200Aのシリンダ部材210を受け入れるシリンダ保持部273と、シリンダフランジ211を受け入れるフランジ保持部271とを有している。シリンダアダプタ270は、操作者によって回されるように設けられ、セットされたシリンジを上から押さえるストッパーアーム277を一例で有している。シリンダ保持部273は、シリンダ部材210の外形と相補的な内面形状となるよう略U字状に湾曲した凹部273aを有している。フランジ保持部271は、シリンダフランジ211を受け入れる受入れ溝271aを有している。
【0085】
フランジ保持部271の外形は、
図6、
図7を参照しながら説明したシリンジ200Bのシリンダフランジ231のものと部分的に同様の構成であってもよい。すなわち、フランジ保持部271は、一例としてシリンダフランジ231と同じように逆卵型輪郭形状(より正確には、逆卵型輪郭形状の下側略半分の形状)を有するものであってもよい。その後面に、シリンジセット時に、シリンジのピストン部材220が位置することとなるU字状の凹部272が形成されている。
【0086】
図21に示すように、凹部272の周囲には、肉厚部286、リブ287、係合凹部289が形成されている。リブ287は、肉厚部286から水平方向に左右に延在しており、リブ287の上方にはそれぞれ係合凹部289が形成されている。この係合凹部289が、
図7を参照して説明したシリンジ200Bの係合凹部239と共通の機能を果たし、シリンジホルダ170にシリンジアダプタ270をセットするとその係合部材176が当該係合凹部289に嵌まり込んで係合するようになっている。
【0087】
上記のように構成されたシリンダアダプタ270は、シリンジ200B等を装着する手順と同様の手順でシリンジホルダ170にセットすることができる。
【0088】
なお、楕円形状のシリンジに関し、B側のシリンジのみに限らず、A側のシリンジをも楕円形状のシリンジとしてもよい。また、必ずしも厳密な楕円形状に限定されるものではなく、断面形状の長軸と短軸との長さが異なる任意の非円形形状を採用してもよい。シリンジ200A、200Bの一方または両方に関し、薬液が収容された収容容器から必要に応じて薬液を吸引して複数回使用されるものであってもよい。
【0089】
上記実施形態では、ピストン部材をその軸線の向きに移動させることで、ピストンフランジが一対の回転爪に把持される動作について説明した。しかしながら、他の把持方法としては、いわゆるサイドローディング方式での装着手順のように、ピストン部材をその軸線に直交する向きに移動させピストンフランジを一対の回転爪間に把持させるようにしてもよい。
【0090】
以上、本発明の一形態について図面を参照しながら具体的に説明したが、本発明は上述した具体的構成に限定されるものではない。以下、注入ヘッドとともに使用される幾つかの周辺機器等について説明する。
【0091】
(P1.スタンドおよびディプレイ)
注入ヘッド110は、
図22に示すような可動式の保持スタンド103に保持されてもよい。この保持スタンド103は、複数のキャスターを有するベース部と、そのベース部に支持された支柱とを有している。支柱の上端部側に注入ヘッド110が回動自在に保持されている。
【0092】
保持スタンド103には、ディスプレイ151-1が取り付けられていてもよい。このディスプレイ151-1は、注入ヘッド110および/またはコンソール150に接続され、薬液注入に関する種々の情報を表示するものであってもよい。ディスプレイ151-1の保持に関し、具体的には
図23に示すように、高さ調整可能な保持バー103aによって保持される構成としてもよい。
【0093】
保持スタンド103には、また、薬液の入ったボトルなどの容器を保持するための容器ホルダ104が設けられていてもよい。容器ホルダ104は、限定されるものではないが、第1のシリンジ200Aに吸引される薬液を収容した容器と、第2のシリンジ200Bに吸引される薬液を収容した容器とを保持できるように、2つの保持部105-1、105-2を有するものであってもよい。
【0094】
なお、
図22、23に示される機器等に関しても、MRI検査で利用される場合には、非磁性体材料で構成されていることが好ましい。あるいは、検査に影響を及ぼさないタイミングでのみ機器が動作させられるものであってもよい。
【0095】
本発明の一形態の注入ヘッド110はコンパクトかつ軽量に構成可能であるので、
図22のようなスタンドの他にも、天井吊り下げ式の保持器具でも良好に保持することができる。
【0096】
ヘッドディスプレイ151-1を利用した制御としては例えば次のようなものであってもよい:
・ヘッドディスプレイ151-1を介して操作者が注入プロトコルの入力および/または変更を行うことができ、それに基づいて薬液注入動作等が実施される。この場合の注入プロトコルは、本注入のためものであってもよいし、テストショットのためのものであってもよい。
・別の機器(例えばコンソール)で設定された注入プロトコルがヘッドディスプレイ151-1に表示され、操作者がその内容を確認できる。
・ヘッドディスプレイ151-1に対する所定の入力により、薬液注入装置の操作を実施する。所定の入力としては、タッチパネル入力、物理的ボタンの押下、音声入力等であってもよい。薬液注入装置の操作としては、薬液注入の開始、一時停止、再開、終了などであってもよい。
・ヘッドディスプレイ151-1には、薬液注入開始前の所定の情報(例えば注入プロトコルに関する情報)だけでなく、薬液注入中の所定の情報(シリンジ残量、注入量、注入速度、注入圧力、経過時間等から選ばれる1つまたは複数)が表示されるようになっていてもよい。
【0097】
本発明の一形態の構成によれば、注入ヘッドの脇のディスプレイにてテストを実施することが可能である。したがって、操作者が、患者の針刺部を見て薬液の漏出がないこと確認したり、漏出が発生を確認した場合や、患者の具合が悪くなった場合でもすぐに動作停止したりすることができ、安全な薬液注入の実施が可能となる。
【0098】
(P2.コンソール)
注入ヘッド110とともに使用されるコンソール150に関しても、薬液注入装置の用途に応じて種々のものを利用可能であるが、一例として、
図24のようなものを利用してもよい。このコンソール150は、机などの上に置いて使用される据え置き型のものであり、ディスプレイ151やスイッチ157等が設けられている。タッチパネル式のディスプレイであってもよい。コンソール150の筐体158の形状も特に限定されるものではないが、高さに対して横幅が比較的広く設けられた安定性の高い設計としてもよい。
【0099】
(P3.注入ヘッドの外観例)
注入ヘッド110としては、より具体的には、
図25~
図33に示すような外観を有するものであってもよい。本明細書は、
図25~
図33に表される注入ヘッドの意匠についても開示する。なお、注入ヘッドの全体意匠に限らず、例えば、次のような部分を対称とした部分意匠をも開示する:シリンジホルダ、フランジ把持機構、センターフレーム、筐体、物理的ボタンの形状および/または配置等。
【0100】
物品の説明:本物品は、造影剤などの薬液が充填されたシリンジを保持し、シリンジ内の薬液を患者に向けて注入するための薬液注入器用インジェクタである。シリンジをセットした状態で、ラム部材を前進させることで、シリンジ内のピストンが押され薬液が押し出される。本物品上面に配置された操作ボタンは、ラム部材の前進、後退、停止等を操作するためのものである。
【0101】
(P4.シリンジ)
本発明の一形態では、
図34~
図38に示すような形状のシリンジを利用してもよい。なお、これらの図面では上述したシリンジ200Bの各部を表す符号と対応する符号(英文字Mを付したもの)が用いられているが、重複する説明については省略するものとする。
図34のシリンジM200は、略楕円筒状のシリンダ部材M230とそれに挿入されるピストン部材M240を備えている。シリンダ部材M230およびピストン部材240Mの後端部にはそれぞれフランジM231、M241が形成されている。
【0102】
シリンダフランジM231の輪郭形状は、上下対称であってもよいが、この例では非対称形状である。シリンダフランジM231の図示下端付近には矢印マークの凹凸部が形成され、上面側には「SET」などの文字が形成されていてもよい。ピストン部材M240は、この例のように、複数本の補強リブを形成することで強度をもたせた構成であってもよい。
【0103】
ガスケットM245は、限定されるものではないが、
図36のような形状に形成された弾性体であってもよく、ピストン部材M240の先端部に取り付けられる。シリンダ部材M230は、一例で
図37のような形状であってもよく、また、その先端部に形成される導管部も任意の形状に設けることができる。限定されるものではないが、
図38(a)に示すような導管部M233としてもよいし、
図38(b)に示すような導管部M233′としてもよい。
【0104】
(P5-1.ロッドレスシリンジとそれに対応した駆動機構)
本発明の一形態においていわゆるロッドレスタイプのシリンジを使用してもよいことは前述のとおりであるが、具体的には、
図39~
図41に示すような構造のシリンジおよびピストン駆動機構を使用してもよい。以下、これらの図を参照して、ラム1110とガスケット1100の連結構造について説明する。なお、ここで、ラム1110はピストン駆動機構の一部としてその軸線方向に沿って直線的に進退移動する部品であり、ガスケット1100は、シリンジ1090の外筒であるシリンダ1091に挿入される部品である。
【0105】
図39~
図41の例では、シリンダ1091は円筒形状であり、それに挿入されるガスケット1100は輪郭形状が円形で、入口が拡径された穴Hを有している。すなわち、穴Hにおいて、ラム1110が挿入される入口はラム1110の端面が押圧する底と比較してより長い内径を有している。ガスケット1100は、また、複数の係合爪1122を有しており、これらの爪は、拡がった位置(
図40)と窄まった位置(
図41)との間で変位するように構成されている。この係合爪1122は、穴Hを画定する第1内面1126および第2内面1127を含む内面S1と、穴H(底)の中心を通る垂線Pから離れる方向に傾斜する外面S2とを含んでいる。外面S2にはOリング1130が嵌められている。第1内面1126は、ラム1110の前端部1111の端面が当接する穴Hの底からリング状に延在している。第1内面1126は、垂線Pと平行に延在している。第2内面1127は、第1内面1126から突起1124までリング状に延在している。また、第2内面1127は、第1内面1126に対して、穴Hの入口に近づくにつれて垂線Pから離れる方向に傾斜している。
【0106】
係合爪1122の外面S2は、穴Hの入口に近づくにつれて垂線Pから離れるように傾斜している。そのため、垂線Pと交差しかつ複数の係合爪1122の外縁を結ぶ線分の長さは、シリンダ1091の内径の長さよりも長い。すなわち、係合爪1122の外縁は、シリンダ1091の内面よりも径方向外側に位置している。係合爪1122は、垂線Pに向かって突出する突起1124を有している。
【0107】
ラム1110には、突起1124が係合される環状の係合溝1112が形成されている。なお、窄まった位置に変位した係合爪1122の突起1124が環状に配置されていない場合、係合溝1112は、突起1124に対応する位置に形成してもよい。ラム1110の前端部1111において、係合溝1112より端面側の部分の外面も、ラム1110の中心軸Rに対してわずかに傾斜している。この外面の中心軸Rに対する傾斜角度(一例として、1~5度)は、第2内面1127の垂線Pに対する傾斜角度(一例として、4~10度)よりも小さく設定されていることが好ましい。前端部1111の外面が傾斜していることにより、前端部1111の挿入時に中心軸Rが垂線Pとの位置合わせされるように、前端部1111を穴H内に導くことができる。
【0108】
図40に示すような状態まで、ラム1110が穴Hに挿入されると、前端部1111の端面(先端面)が穴Hの底に当接する。このとき、係合爪1122は拡がった位置にあり、前端部1111の外面は、係合爪1122の第1内面1126と第2内面1127との境界部分(面どうしの接続部分)と当接する。別の言い方をすれば、穴Hの内寸は、当該境界部分において前端部1111の外面と当接するようなサイズに設定されている。境界部分に対応する位置には、係合爪1122の変形の起点となる環状溝1125が形成されている。この環状溝1125は、限定されるものではないが、断面略半円状の形状を有している。そして、境界部分は、環状溝1125の底の中央に対応する位置に設定されている。すなわち、環状溝1125の底の中央と境界部分とが、この例では、長手方向に直交する同一の断面内に位置するように設けられている。内面S1は境界部分を境に傾斜して形成されており、そのため、前端部1111の挿入時には、前端部1111の外面と第2内面1127との間には隙間が生じる。一方、前端部1111の外面もわずかに傾斜しているため、当該外面と第1内面1126との間にも隙間が生じることとなる。なお、環状溝1125は、内側に向かって窄まるように、略台形状又は略三角形状の断面形状を有していてもよい。
【0109】
ラム1110がガスケット1100を押すと、ガスケット1100はシリンダ1091内を前進する。ガスケット1100が前進すると、係合爪1122の外面S2(
図39)が傾斜しているため、係合爪1122の外面S2はシリンダ1091の内面と当接する。そして、前進するにつれて、シリンダ1091の内面からの反力によって、係合爪1122は垂線P側に向かって変位する。このとき、係合爪1122は、環状溝1125の底の中央を起点として変形する。そのため、第1内面1126と第2内面1127との境界部分が前端部1111に押し付けられる。
【0110】
すなわち、第1内面1126と第2内面1127との境界部分は、吸子の垂線Pに向かって変位する。これにより、穴H内において前端部1111が垂線Pに対して偏った位置に挿入されていても、前端部1111の中心軸Rの位置が垂線Pと合わされるように、前端部1111が変位する。つまり、前端部1111は、境界部分Bに押されて穴Hの中心に向かって変位する。そのため、中心軸Rがガスケット1100に対して傾くことを抑制できる。さらに、製造公差等に起因して前端部1111と吸子の穴Hとの間に隙間が生じていても、境界部分において前端部1111が保持される。これにより、ガスケット1100に対してラム1110がガタつくことを抑制できる。
【0111】
図41に示すような状態まで、ガスケット1100がシリンダ1091内に挿入されると、シリンダ1091の内面からの反力を受けて係合爪1122が窄まる。そして、係合爪1122の突起1124が係合溝1112内に侵入し、突起1124が係合溝1112と係合する。これにより、ガスケット1100とラム1110とが機械的に連結された状態となる。なお、係合爪1122の変位に伴い、環状溝1125は拡がるように変形する。その後、ガスケット1100がシリンダ1091内を前進すると、シール部材1140はシリンダ1091内の薬液を押圧する。これにより、薬液がシリンジ先端部から押し出される。
【0112】
薬液注入後は、ラム1110が後退し、ラム1110と連結しているガスケット1100も後退する。そして、ラム1110およびガスケット1100が
図40に示す位置まで後退すると、シリンダ1091の内面による規制が解除され、係合爪1122が外方に拡がって係合爪1122とラム1110との連結が解除される。
【0113】
上述したようなラム1110およびガスケット1100によれば、環状溝1125の底の中央を起点として係合爪1122が変形する。そのため、複数の係合爪1122が垂線Pに向かって均等に変位する。また、第1内面1126と第2内面1127との境界部分において前端部1111が保持されているため、ラム1110の前端部1111の中心軸Rの位置は、垂線Pと合わせされている。これにより、ラム1110がガスケット1100から離脱する際に、前端部1111が垂線Pに対して偏った位置に位置することを抑制できる。そのため、前端部1111の係合溝1112が突起1124に引っ掛ってしまうことを防止できる。また、ガスケット1100とラム1110とを連結する際に、ガスケット1100に対してラム1110がガタつくことを抑制できる。さらに、ガスケット1100とラム1110とが直接連結されるため、シリンジ1090と押圧部(ピストン駆動機構)との間の距離を短くすることができる。そのため注入ヘッドのサイズを小さくすることができる。
【0114】
なお、ラム1110は、例えばステンレスまたはアルミ製であってもよく、具体的な一例としては、中空のパイプに中実の略円柱状の前端部を溶接して製造してもよい。代替的に、中空のパイプに中実の前端部をねじ込むことによって製造してもよい。前端部は、ステンレスまたはアルミ以外の材料、例えばガスケットよりも高硬度の材料であってもよい。
【0115】
(P5-2.ロッドレスシリンジとそれに対応した駆動機構の他の例)
上記では円筒状のシリンダ1091に対して輪郭形状が円形のガスケット1100が挿入される例について説明したが、本発明の一形態においては、さらに、楕円状のシリンダに関してそのような特徴的構造が応用されたものであってもよい。以下、
図42を参照して簡単に説明する
【0116】
図42の例では楕円状のシリンジ2090が描かれており、このシリンジ2090は、後端側にフランジが形成されたシリンダ2091と、ガスケット2100とを有している。シリンダ2091内に挿入されたガスケット2100の外面はシリンダ2091の内面と当接する。ガスケット2100は、ラム1110の前端部1111と係合し、ラム1110によってシリンダ2091内を進退移動するようになっている。
【0117】
ガスケット2100は、楕円状の断面形状を有する先端部としてシール部材2140を有している。このシール部材2140の断面においては、高さ方向の長さが、当該高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い。また、ガスケット2100は、分割された複数の係合爪2122を有する吸子2120を備え、吸子2120の先端はシール部材2140に挿入されている。吸子2120は、例えばPOM(ポリアセタール樹脂)等の弾性樹脂製であり、成型によって製造することができる。シール部材2140は、例えばブチルゴム製であり、成型によって製造することができる。
【0118】
ガスケット2100の動作に関し、係合爪2122がラム1110と連結した状態でピストン駆動機構のモータ(不図示)が回転すると、ラム1110およびガスケット2100が前進する。係合爪2122は、Oリングが嵌め込まれる溝を備えていてもよく、Oリングを嵌め込むことによって係合爪2122の拡がりを規制することができる。シリンダ2091はガスケット2100と相補的な断面形状を有している。すなわち、シリンダ2091は、略楕円状の断面形状を有しており、当該断面における高さ方向の長さが、当該高さ方向に直交する幅方向の長さよりも長い。このような楕円形のシリンジを用いる場合であっても、
図39~
図41を参照しながら説明したような連結構造を利用可能であり、円形のシリンジを例とした上記説明と同様の利点を得ることができる。
【0119】
なお、
図42において、シリンダ2091のフランジ後面に符号2095で示されているのは、同面から突出するように形成された突起である。このように2つの突起2095が上下に所定の間隔をあけて形成されていることで、突起どうしの間が凹部となり、この凹部に、シリンダ2091を位置決めおよび/または固定するための所定の係合部が係合するようになっている。係合部としては、注入ヘッドの一部として設けられた構造部であってあってもよいし、アダプタの一部として設けられた構造部であってもよい。
【0120】
(P6.ピストン駆動機構によるプレフィルドシリンジのコントロール)
薬液の自動注入を行う装置にセットされるシリンジとしては、薬液(例えば造影剤)が予め充填されたプレフィルドシリンジが用いられることも多い。プレフィルドシリンジの場合、一般的には、病院施設においてシリンジ内に薬液を吸引する必要がないことから、シリンジのガスケットとピストン駆動機構のラムとが必ずしも機械的に連結される必要はない(連結される例として
図39~
図42参照)。
【0121】
このような場合であっても、
図39~
図42に示したような略円柱棒状のラム1110を有するピストン駆動機構を用い、ラム1110を進展させてプレフィルドシリンジのガスケット(不図示)の押し込みを行い、薬液の注入を実施するようにしてもよい。
【0122】
(P7.フロントローディング式の注入ヘッドにアダプタを介して搭載されるシリンジ)
図1Aに示した注入ヘッドはセンターフレーム181の先端側にシリンジホルダ170が保持される構成のものであったが、
図43に示すように、いわゆるフロントローディングタイプの注入ヘッドも利用可能である。この注入ヘッドP110は、ピストン駆動機構(不図示)等が内部に収容された筐体P111を有し、その前端部にシリンジホルダP170が設けられている。このシリンジホルダP170は、楕円形状のロッドレスシリンジP200A、P200Bを保持できるように構成されており、具体的には、シリンダ部材P230のシリンダフランジP231を受け入れる略U字状の受け溝を有している。シリンダフランジP231自体は、楕円形状であってもよいし、前述したように略卵形状であってもよい。
【0123】
このような注入ヘッドP110において、造影剤シリンジを、シリンジP200Aに代えて
図44に示すようにアダプタP270を介してプレフィルドシリンジ200を保持する構成としてもよい。プレフィルドシリンジ200は、
図3に例示したものと同様、円筒状のシリンダ部材210に長尺なピストン部材220が挿入されたものであり、ピストン部材220の後端にはピストンフランジ221が形成されている。限定されるものではないが、ピストンプランジ221は輪郭が円形で、後面はフラットな面となっている。
【0124】
アダプタP270は、全体として円筒を半割したような形状をしており、プレフィルドシリンジ200は同アダプタに対して図示上方から載せるようにセットされる。アダプタP270は、この例では、図示するように、シリンダ部材210から引き出されたピストン部材220とシリンダ部材210の一部とを保持するような長さに設けられている。アダプタP270の一部には、プレフィルドシリンジ200のシリンダフランジ211を直接またはアダプタを介して保持する保持溝P277が形成されている。アダプタP270の後端部には、注入ヘッドのシリンジホルダP170に対応して楕円形状または略卵形状の輪郭形成されたアダプタフランジP271が設けられている。このアダプタフランジP271をシリンジホルダP170の受け溝内に嵌め込むことで、アダプタP270が保持されるようになっている。このようなアダプタP270を利用することにより、従来病院施設において使用されている造影剤プレフィルドシリンジを、楕円タイプのシリンジP200Aを保持する注入ヘッドP110においても良好に使用することが可能となる。
【0125】
なお、上記のようなアダプタP270に関し、その種類を認識することができるように所定の識別手段が設けられていてもよい。こうした識別手段は、
図44のアダプタP270ではなく、
図20、
図21等に示したアダプタ270に適用されるものであってもよい。例えば、アダプタの物理的形状を、所定のセンサや接触式のスイッチ(一例で注入ヘッド側に設けられる)で読み取って、アダプタの種別を認識するものであってもよい。または、アダプタにデータ記憶媒体が設けられており、これを所定の読取りデバイス(一例で注入ヘッド側に設けられる)で読み取って、アダプタの種別を認識するものであってもよい。また、マグネット等がアダプタに設けられており、それをホールセンサで検出することでアダプタの種別を認識する構成としてもよい。アダプタの識別・検出のためのデバイスとしては特に限定されるものではなく近接センサ等を利用してもよい。認識される情報としては特に限定されるものではなく、アダプタに関する情報の他にも、例えばそれに保持されるシリンジに関する情報(シリンジそのものについての情報および/または収容されている薬液についての情報)であってもよい。このような識別手段を利用し、シリンジのサイズに応じた速度の設定、注入量の設定、および/またはピストン(プランジャ)の移動範囲(前後リミット)の設定がなされてもよい。
【0126】
限定されるものではないが、
図43の注入ヘッドP110のように、本発明の一形態においては、薬液回路の一部の開閉状態を切り替えるための切替機構P615がさらに設けられていてもよい。切替機構P615としては、所定のアクチュエータ(不図示)を駆動源として動作する開閉バルブであってもよいし、チューブを挟むことで薬液回路を閉止するクランプ機構などであってもよい。MRI用の注入ヘッドの場合、MRI装置の高磁場環境下でも支障なく用いることができる非磁性体の超音波モータを上記切替機構のアクチュエータとして用いることが好ましい。また、こうした切替機構P615は、例えば筐体P111側から延出したアームP601に保持されてもよい。あるいは、注入ヘッドとは別体の器具に保持されてもよい。なお、超音波モータは、DCモータやブラシレスモータといった他のモータと比較して保持トルクが高い(非制御時においても)という特徴がある。薬液回路を閉状態(一例)に保つために専用のブレーキ機構等を設けてもよいが、超音波モータを利用した構成の場合には、超音波モータの保持力自体で位置固定を行うようにし、ブレーキ機構は省略するようにしてもよい。
【0127】
(P8.異なるタイプのシリンジの使用とそれに対応した薬液回路について)
本発明の一形態において、注入ヘッドは必ずしも同形状および/または同サイズのシリンジを複数保持するものではなく、異なるタイプのシリンジをそれぞれのピストン駆動機構で保持するものであってもよい。具体的な一例について
図45を参照しながら説明する。
図45の例では、注入ヘッドは
図39~
図42に示したようなラム1110を有するタイプのピストン駆動機構を備える。つまり、この実施形態ではラム1110はシリンジのピストンフランジを把持する爪部材を有していない。したがって、
図39~
図42のような特殊構造のガスケット1100を用いたシリンジであればラム1110とガスケット1100との連結が達成されるものの(結果として、ガスケット1100を後退移動させることができる)、そうでない場合には、ラム1110とガスケットとの連結は達成されない。
【0128】
図45では、造影剤側が一般的なシリンジ200Aで、生理食塩水側が特殊構造の上記ガスケット1100を利用したシリンジ1090となっている。このような構成の場合、シリンジ200Aのピストン部材がピストン駆動機構(ラム)によって連結保持されていないことから、次のような課題が生じる可能性がある。
【0129】
前提として
図45の構成について説明すると、ここでは、Y字型の薬液回路900が各シリンジ200A、1090に接続されている。薬液回路900は、シリンジ200Aからの流路911と、シリンジ1090からの流路912とが合流して1つの流路913に続いており、流路913の図示しない端部側に注入針等が接続される。なお、流路911と流路912との合流部には、デバイス内で螺旋流を生じさせそれにより複数の薬液を効率的に混和するミキシングデバイス(ミキシングコネクタ)を設けるようにしてもよい。
図45の実施形態では、各流路911~913に開閉バルブV-1~V-3がそれぞれ配置されている。開閉バルブV-1~V-3は、流路の開閉を切り替えられるものであればどのようなものであってもよい。開閉バルブV-1~V-3は、注入ヘッドの一部として設けられた切替機構、または、注入ヘッドの付属品として設けられた切替機構によって自動的に切替可能な構造のものが好ましい。開閉バルブの一部または全部を一方弁で代替してもよいし、クランプ機構等を利用してもよい。開閉バルブV-1~V-3は全てが必須という訳ではなく、いずれか1つまたは任意の組合せの2つを設けるようにしてもよい。
【0130】
このような薬液回路900において、開閉バルブが設けられていない場合、仮にシリンジ1090側のラム1110を引いてシリンジ内に薬液を吸引しようとすると、シリンジ1090内が負圧になり、それに応じて、同シリンジと薬液回路900を介して接続されている他方のシリンジ200A内の薬液が薬液回路900側に吸い出されるおそれがある。そこで、この場合には、当該動作を行う際、開閉バルブV-1を自動的に閉じるように制御することが一形態において好ましい。これにより、意図しない薬液の回り込みを防止することができる。
【0131】
上記のような吸引動作を行なわない場合であっても、例えば、薬液注入のために注入ヘッドの姿勢を変えた際(具体的にはシリンジ先端側が末端側よりも下方となる姿勢)、薬液の自重によって、薬液回路内を意図せず薬液が流れてしまうこともあり得る。これを防止するため、開閉バルブV-1~V-3の少なくとも1つ(具体的には、例えば、ピストン部材が保持されない側のシリンジからの薬液の流出を防止するためのバルブV-1および/またはV-3)を自動的に閉じるように制御することも一形態において好ましい。また、被検者側の血液等が混入した薬液が薬液回路の上流側へと逆流することを防止するため、開閉バルブV-3を閉じたり、一方弁で流れを方向を規制したりするようにしてもよい。開閉バルブV-2に関し、シリンジ200Aとシリンジ1090との容量が大きく異なる場合、シリンジ200Aでの注入時に他方側(シリンジ1090側)に薬液が回り込む可能性もあるため、注入時には、他方側の開閉バルブV-2を閉止するように制御することも好ましい。容量の大きい側のシリンジの注入時に、他方側の開閉バルブを閉じるようにしてもよい。
【0132】
上述した意図しない薬液の回り込み(シリンジ200A側からシリンジ1090側への薬液の移動)は、シリンジ200Aのサイズが相対に小さく、シリンジ1090のサイズが相対的に大きい場合により顕著に生じることとなる。言い換えれば、上述したような動作制御は、第2のシリンジの容量が第1のシリンジの容量の2倍以上、5倍以上、10倍以上、または20倍以上の場合に、特に好ましく利用可能である。薬液どうしの混和に関して言えば、薬液の比重の相違に起因して、意図しない混和が生じる可能性もある。そのため、こうしたパラメータについても、上記動作制御を採用するか否かの考慮事項としてもよい。
【0133】
なお、シリンジ1090を例として説明したが、こうした特殊なシリンジでなくとも相対的にサイズの大きい一般的なシリンジを用いる場合において、上記技術を適用してもよい。また、上記の動作制御は、ラム1110がシリンジ200のピストン部材を何ら保持固定しない構成を前提として説明したが、例えば、一対の爪(一例で12の符号143参照)でピストン部材後端を保持する構成であっても、多少のクリアランスによってピストン部材が僅かに動いて意図しない薬液の移動が生じうる可能性はある。したがって、このような構成の場合であっても、必要であれば、上記のような動作制御を採用するようにしてもよい。
【0134】
(P9.ボトル等からのデータ読取り)
本発明の一形態としては、
図46に示すように、
図2に示したような構成に加えて、シリンジ内に吸引される薬液を貯留する1つまたは複数の薬液容器890A、890Bがセットされる容器ホルダ800が設けられた構成を採用してもよい。
図46の構成は、容器ホルダ800等の構成以外は
図2と基本的に同様であるので重複する説明は省略する。なお、薬液回路900の詳細な構造は図示していないが、薬液容器からの吸引が行えるように実際には各薬液容器890A、890Bとシリンジ200A、200Bとを接続するような回路が使用される。
【0135】
容器ホルダ800は、注入ヘッド110とともに、可動式の支持スタンドによって支持されてもよいし(例えば
図23の容器ホルダ104のような態様)、天井吊下げ式の支持アーム(不図示)によって支持されてもよい。薬液ホルダ800には、薬液容器890A、890B(単に薬液容器890ともいう)のいずれかまたは双方に付されたデータ保持手段である表示コード895を読み取る読取りデバイス500が設けられている。
【0136】
表示コード895は、例えば、バーコードや二次元コードのような情報保持媒体であり、具体的には、QR(Quick Response)コードを始めとするマトリクス型の二次元コードなどを使用するものであってもよい。表示コード895によって保持される情報としては、薬液の種類、製品名、製造会社名、使用期限、容量、濃度、薬液容器のサイズ、材質、製造番号、製造年月日等のうち1つまたは複数の組合せであってもよい。表示コード895は具体的には、GS1規格のコードであってもよく、対象物の製造年月日、梱包番号、品質保証日、発注番号、数量などのうち1つまたは複数の情報を有するものであってもよい。本発明の一形態において、表示コード895には、薬価基準収載医薬品コード、個別医薬品コード、レセプト電算処理システム用コード、JANコード、基準番号(HOTコード)、ATCコード等のうち1つまたは複数の組合せが含まれてもよい。また、バーコードのような情報保持媒体の他にも、ICチップとアンテナ等を含み無線通信で情報のやり取りを行うICタグ(RFIDタグ)を利用するようにしてもよい。
【0137】
読取りデバイス500は、情報を光学的に読み取るためのユニットを有するものであってもよい。光学的なリーダは、MRI環境下において磁場干渉を起こしにくく、MRI用の薬液注入装置において特に好適である。このような構成を利用し、薬液容器890がセットされると、所定の情報(一例で、造影剤の情報、容量の情報、濃度の情報および残量の情報のうち1つまたは組合せ)が読み取られ、その情報がシステム内の任意のディスプレイに表示されてもよい。また、それらの情報を利用して薬液容器の照合が行われてもよい。
【0138】
以上、本発明の複数の形態について具体的に説明したが、本発明は上述した具合的な構成に限定されるものではなくその趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、ある実施形態として開示された内容と他の実施形態として開示した内容を適宜組み合せることとも可能である。
【0139】
本出願は以下の発明を開示する:
(付記A)
1.シリンダ部材およびそれにスライド自在に挿入されたピストン部材を有し前記シリンダ部材の後端部にはシリンダフランジ(231)が形成されている薬液シリンジの保持機構であって、
前記シリンダフランジの後面には係合凹部(239)が形成され、
前記シリンダフランジ(231)の一部を受け入れる受入れ溝(175)を有する部材と、
前記受入れ溝内に配置され、弾性を有する材質で形成された係合部材(176)と、
を備え、
前記シリンダフランジを前記受入れ溝内に挿入していくと、前記係合部材が前記係合凹部に弾性的に嵌り込んで係合する、
フランジ保持機構。
【0140】
2.前記係合部材が、前記シリンダフランジの両側に位置するように少なくとも2つ設けられている、上記記載のフランジ保持機構。
【0141】
3.前記係合凹部に隣接してフランジリブ(237)が形成されている、上記記載のフランジ保持機構。
【0142】
4.前記シリンダフランジの外形が、円形、楕円形または卵形であって、
前記フランジリブ(237)は、水平方向に延在するように形成されている、上記記載のフランジ保持機構。なお、シリンダフランジのフランジ保持機構に対する装着方向を垂直方向とし、「水平方向」はそれに直交する方向である。
【0143】
(付記B)
1.第1のシリンジのピストン部材を移動させるため進退移動するラム部材を有する第1のピストン駆動機構と、
第2のシリンジのピストン部材を移動させるため進退移動するラム部材を有する第2のピストン駆動機構と、
上記第1および第2のシリンジを保持するシリンジホルダと、
を備え、
上記シリンジホルダは、2本の上記ラム部材の間に延在するように配置されたセンターフレームの先端部に設けられている、薬液注入器。
【0144】
2.上記センターフレームは炭素繊維材料である、上記記載の薬液注入器。
【0145】
3.上記センターフレームは板状部材である、上記記載の薬液注入器。
【0146】
4.並列に保持された上記第1および第2のシリンジの側方(センターフレームの反対側の側部)に薬液注入器を構成する支持部材が配置されていない、上記記載の薬液注入器。
【0147】
5.上記センターフレームは、上記第1および第2のピストン駆動機構の一部を保持する保持プレートに固定されている、上記記載の薬液注入器。
【0148】
6.上記センターフレームおよび上記保持プレートは、一体的に形成された炭素繊維材料の単一部材である、上記記載の薬液注入器。
【0149】
7.上記シリンジホルダは全体として略U字型に形成され、板状部材である上記センターフレームの一方の面と他方の面とに設けられている、上記記載の薬液注入器。
【0150】
8.さらに、筐体を備え、上記センターフレームが上記筐体から薬液注入器の前端側に向かって突出している、上記記載の薬液注入器。
【0151】
9.上記記載の薬液注入器と、それに接続されたコンソールと、を備える薬液注入装置。
【0152】
(付記C)
1.薬液シリンジのピストン部材のピストンフランジ(221、241)を一対の回転爪(143)で把持する把持機構(140)あって、
上記一対の回転爪(143)は、閉状態と開状態との間で可動するように構成されており、(i)閉状態の上記一対の回転爪に対して上記ピストン部材を近づけていくと、上記ピストンフランジが上記回転爪のテーパ面に押し当たって上記回転爪が上記ピストン部材の軸線方向と平行な回転軸(149)周りに回動し、これにより、上記ピストンフランジを上記一対の回転爪間に挿入可能な開状態となり、(ii)上記ピストンフランジが上記一対の回転爪間に入ると、付勢力により上記一対の回転爪が閉状態の位置に戻され、一対の回転爪によって上記ピストンフランジが把持されるように構成されている、フランジ把持機構(140)。
【0153】
2.上記ピストンフランジを把持する際、一方の回転爪と他方の回転爪とがピストンフランジの中心を基準として点対称となるように逆向きの動作をするように構成されている、上記記載のフランジ把持機構。
【0154】
3.上記回転爪の上記テーパ面は、上記ピストン部材の外周部に当接する、上記記載のフランジ把持機構。
【0155】
4.上記テーパ面が、ピストンフランジの半径方向の一定範囲にわたって形成されていることで、
比較的小経である第1のサイズのピストンフランジの外周部が上記テーパ面に当接し、
比較的大径である第2のサイズのピストンフランジの外周部も上記テーパ面に当接可能に構成されている、上記記載のフランジ把持機構。
【0156】
5.上記一対の回転爪は、一対のアームの先端部に形成されている、上記記載のフランジ把持機構。
【0157】
6.上記アームが所定の軸(141a)周りに回動可能となっており、これにより、上記一対の回転爪が互いに近接する第1の状態と、上記一対の回転爪が互いに離れた第2の状態とに移動可能に構成されている、上記記載のフランジ把持機構。
【0158】
7.薬液シリンジのピストン部材を進退移動させるラム部材(133)を有するピストン駆動機構(130)と、
上記ラム部材の先端部に設けられた上記記載のフランジ把持機構(140)と、
を備える、薬液注入装置。
【0159】
8.上記ピストン駆動機構を2系統有し、各ピストン駆動機構に上記フランジ把持機構が設けられている、上記記載の薬液注入装置。
【符号の説明】
【0160】
100 薬液注入装置
103 保持スタンド
104 容器ホルダ
110 注入ヘッド
111 筐体
115 制御回路
116 サポートシャフト
130 ピストン駆動機構
131 モータ
132 伝達機構
132-1 ベースモジュール
132-2 シリンダモジュール
133 ラム部材
135 プレッサー部材
135a 押圧面
138 ロードセル
140 フランジ把持機構
141 アーム
143 回転爪
145 爪部
145s テーパ面(受け面)
146 ベース部
149 軸
150 コンソール
151、151-1 ディスプレイ
153 タッチパネル
155 制御部
157 スイッチ
158 筐体
159 記憶部
161 物理的ボタン
170 シリンジホルダ
171 第1部材
173 第2部材
173h 孔
175 受入れ溝
175h 開口部
176 係合部材
181 センターフレーム
183 保持プレート
185 シャフトプレート
200A、200B(200) シリンジ
210 シリンダ部材
211 シリンダフランジ
213 導管部
220 ピストン部材
221 ピストンフランジ
230 シリンダ部材
230s 内部空間
233 導管部
231 シリンダフランジ
237 フランジリブ
239 係合凹部
240 ピストン部材
241 ピストンフランジ
243 挿入部筒部
245 ガスケット
247 軸部
270 シリンジアダプタ
271 フランジ保持部
271a 受入れ溝
272 凹部
273 シリンダ保持部
277 ストッパーアーム
286 肉厚部
287 リブ
289 係合凹部
500 読取りデバイス
800 容器ホルダ
890A、890B 薬液容器
895 表示コード(データキャリア)
900 薬液回路
911、912、913 流路
1090、2090 シリンジ
1091、2091 シリンダ
1100、2100 ガスケット
1110 ラム
1111 前端部
1122 係合爪
1125 環状溝
1130 Oリング
2120 吸子
2140 シール部材
P110 注入ヘッド
P170 シリンジホルダ
P200A、P200B シリンジ
P231 シリンダフランジ
P270 アダプタ
P271 アダプタフランジ
P277 保持溝
P601 アーム
P615 切替機構
O 中心
H 穴