(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161143
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241108BHJP
C08K 3/016 20180101ALI20241108BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20241108BHJP
C08L 31/04 20060101ALI20241108BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20241108BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20241108BHJP
C09K 21/02 20060101ALI20241108BHJP
C09K 21/14 20060101ALI20241108BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/016
C08L27/06
C08L31/04 S
C08L9/00
C08L23/00
C09K21/02
C09K21/14
E04B1/94 T
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024146052
(22)【出願日】2024-08-27
(62)【分割の表示】P 2024001642の分割
【原出願日】2015-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2014172997
(32)【優先日】2014-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島本 倫男
(72)【発明者】
【氏名】矢野 秀明
(57)【要約】
【課題】押出成形が可能で、かつ高膨張性と高残渣硬さとを兼ね備えた押出成形用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】樹脂組成物は、樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛3~300重量部、及び無機充填材2~200重量部を含有し、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛3~300重量部、及び無機充填材2~200重量部を含有し、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が、樹脂成分の分解開始温度よりも15℃以上低い、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が200℃以下であり、樹脂成分の分解開始温度が200℃よりも高い、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂であって、かつ熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は215℃以下であるか、または
樹脂成分がEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)、EPDM、ポリブテン及びポリブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一つであり、かつ熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は300℃以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を備えた耐火部材。
【請求項7】
請求項6に記載の耐火部材を備えた建具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連分野の相互参照)
本願は、2014年8月27日に出願した特願2014-172997号明細書の優先権の利益を主張するものであり、当該明細書はその全体が参照により本明細書中に援用される。
(技術分野)
本発明は、耐火性の成形体を製造しうる樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂は成形性がよく、均一な製品を大量に製造しうるので建築材料として広く使用されているが、合成樹脂は容易に溶融又は燃焼し、ガスや煙を発生するので、火災時の安全性のために発煙性が低く耐火性の優れた材料が要求されている。特に、ドアや窓のサッシにおいては、単に材料が燃え難いだけでなく、たとえ、燃えたとしても、その形状を保持し、火炎がドアや窓の外(裏側)に回ることを防止しうる材料が要求されている。
【0003】
このような要求に対応する材料として、特許文献1,2には耐火性能を発現すると共に、燃焼時の低発煙性を発現する塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂組成物が記載されており、この塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、及び無機充填剤を含有し、塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛との合計量が20~200重量部、無機充填剤が30~500重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛:リン化合物の重量比が9:1~1:9である。
【0004】
さらには、特許文献3には、サッシのような断面形状が複雑な異型成形体を長時間安定的に押出成形できる塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂組成物が記載されており、この塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部、熱膨張性黒鉛3~300重量部、無機充填剤3~300重量部、及び可塑剤20~200重量部からなり、リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く)を含有しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-227747号公報
【特許文献2】特開平10-95887号公報
【特許文献3】特許第53522017号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、熱膨張性樹脂組成物では、膨張性が高いと樹脂組成物の燃焼後の残渣硬さが著しく低下するため、これらを両立させることは困難と考えられていたが、上記の文献ではかかる課題については取り組まれていなかった。
【0007】
本発明の目的は、高膨張性と高い残渣硬さとを兼ね備えた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討した結果、意外にも、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度より低い場合、さらにはその差が大きい場合に、高い膨張性と燃焼後の高い残渣硬さとが得られることを見出し、本発明を完成するに到った
。
【0009】
本発明は以下の通りである。
【0010】
項1.樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛3~300重量部、及び無機充填材2~200重量部を含有し、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いことを特徴とする樹脂組成物。
項2.熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が、樹脂成分の分解開始温度よりも15℃以上低い、項1に記載の樹脂組成物。
項3.熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が200℃以下であり、樹脂成分の分解開始温度が200℃よりも高い、項1又は項2に記載の樹脂組成物。
項4.樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂であって、かつ熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は215℃以下であるか、または樹脂成分がEVA(エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂)、EPDM、ポリブテン及びポリブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一つであり、かつ熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は300℃以下である項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
項5.リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする項1~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
項6.項1~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物を備えた耐火部材。
項7.項6に記載の耐火部材を備えた建具。
【発明の効果】
【0011】
本発明の樹脂組成物は、長時間安定的に押出成形することができ、特に、サッシのような断面形状が複雑な異型成形体を長時間安定的に押出成形することができると共に、得られた成形体は高い膨張性と高い残渣硬さとを有するため、耐火性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の樹脂組成物を成形体をサッシ枠に設けた耐火窓を示す略正面図である。
【
図2】各試料の膨張倍率と残渣硬さの関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、単数形(a, an, the)は、本明細書で別途明示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数と複数を含むものとする。
【0014】
本発明の樹脂組成物は、樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛3~300重量部、及び無機充填材2~200重量部を含有し、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度が低いことを特徴とする。
【0015】
本発明に使用する樹脂成分としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂、又はゴム等であってもよい。
【0016】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1-)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂類、ポリスチレン樹脂類、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂類、アクリル樹脂類、ポリアミド樹脂類、ポリ塩化ビニル樹脂類、ポリイソブチレン樹脂等が挙げられる。
【0017】
熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、イソシアヌレート樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、
ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0018】
ゴムとしては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム、ポリクロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリイソブチレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエン・アクリロニトリルゴム、ニトリルゴム、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体ゴム等のゴム樹脂等が挙げられる。
【0019】
これらの合成樹脂及び/又はゴムは、一種もしくは二種以上を使用することができる。樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい。
【0020】
上記樹脂成分には、耐火性能を阻害しない範囲で、架橋や変性が施されてもよい。上記樹脂分の架橋や変性を行う場合は、予め樹脂分に架橋や変性を施してもよく、後述のリン化合物や無機充填剤等の他の成分の配合時又は配合した後で架橋や変性を施してもよい。
【0021】
架橋方法については、特に限定されず、上記樹脂分について通常行われる架橋方法、例えば、各種架橋剤、過酸化物等を使用する架橋方法、電子線照射による架橋方法などが挙げられる。
【0022】
一つの実施形態では、樹脂成分は塩素化塩化ビニル樹脂を含み、別の実施形態では、樹脂成分はEPDM、ポリブテン及びポリブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一つを含む。
【0023】
塩素化塩化ビニル樹脂は、塩化ビニル樹脂の塩素化物であり、塩素含有量は少なくなると耐熱性が低下し、多くなると溶融押出成形しにくくなるので60~72重量%の範囲であることが好ましい。
【0024】
塩化ビニル樹脂は特に限定されず、従来公知の任意の塩化ビニル樹脂であればよく、例えば、塩化ビニル単独重合体;塩化ビニルモノマーと、該塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体;塩化ビニル以外の(共)重合体に塩化ビニルをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0025】
塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとしては、塩化ビニルモノマーと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα-オレフィン類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;ブチルビニルエーテル、セチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル類;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のN-置換マレイミド類などが挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0026】
塩化ビニルをグラフト共重合する(共)重合体としては、塩化ビニルをグラフト(共)重合するものであれば特に限定されず、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル-一酸化炭素共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート-一酸化炭素共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリウレタン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、二種以上が併用されてもよい。
【0027】
塩化ビニル樹脂の平均重合度は、特に限定されるものではないが、小さくなると成形体の機械的物性が低下し、大きくなると溶融粘度が高くなって溶融押出成形が困難になるので、600~1500が好ましい。
【0028】
本発明に使用するEPDMとしては、例えば、エチレン、プロピレン及び架橋用ジエンモノマーとの三元共重合体が挙げられる。
【0029】
EPDMに用いられる架橋用ジエンモノマーとしては特に限定されず、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-5-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエン等の環状ジエン類、1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエン等の鎖状非共役ジエン類等が挙げられる。
【0030】
EPDMは、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が4~100の範囲であることが好ましく、20~75の範囲であればより好ましい。
【0031】
ムーニー粘度が4以上であると、柔軟性に優れる。またムーニー粘度が100以下の場合は硬くなりすぎるのを防止することができる。
【0032】
なお、ムーニー粘度は、EPDMのムーニー粘度計による粘度の尺度のことをいう。
【0033】
EPDMは、架橋用ジエンモノマーの含有量が2.0重量%~20重量%の範囲であることが好ましく、5.0重量%~15重量%の範囲であればより好ましい。
【0034】
2.0重量%以上であれば、分子間の架橋が進むことから柔軟性に優れる、また20重量%以下の場合には耐候性に優れる。
【0035】
またポリブタジエンとしては、市販品を適宜選択して使用することができる。かかるポリブタジエンとしては、例えば、クラプレンLBR-305(クラレ社製)などのホモポリマータイプ、Poly bd(出光興産社製)などの1,2-結合型ブタジエンと1,
4-結合型ブタジエンとのコポリマータイプ、クラプレンL-SBR-820(クラレ社製)などのエチレンと1,4-結合型ブタジエンと1,2-結合型ブタジエンとのコポリマータイプ等のものが挙げられる。
【0036】
またポリブテンは、ASTM D 2503に準拠した方法で測定した重量平均分子量が300~2000であることが好ましい。
【0037】
重量平均分子量が300未満であると、粘度が低いため、成形後、成形品表面に前記ポリブテンがにじみ出る傾向がある。また2000を超えると、粘度が大きくなるため押出成形が困難になる傾向がある。
【0038】
本発明に使用するポリブテンとしては、例えば、出光石油化学社製「100R」(重量平均分子量:940)、「300R」(重量平均分子量:1450)、日本石油化学社製「HV-100」(重量平均分子量:970)、AMOCO社製「H-100」(重量平均分子量:940)などが挙げられる。
【0039】
本発明に使用する樹脂成分は、EPDMに対してポリブテン及びポリブタジエンの少な
くとも一方を添加したものが、成形性向上の面から好ましい。
【0040】
樹脂成分100重量部に対する前記ポリブテン及びポリブタジエンの少なくとも一方の添加量は、1~30重量部の範囲であることが好ましく、3~25の範囲であればより好ましい。
【0041】
熱膨張性黒鉛は、従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理してグラファイト層間化合物を生成させたもので、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0042】
熱膨張性黒鉛は、酸処理して得られた熱膨張性黒鉛がアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和されていてもよい。
【0043】
脂肪族低級アミンとしては、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。このように熱膨張性黒鉛の具体例としては、例えば、日本化成社製「CA-60S」等が挙げられる。
【0044】
熱膨張性黒鉛の粒度は、細かくなりすぎると黒鉛の膨張度が小さく、発泡性が低下し、大きくなりすぎると膨張度が大きいという点では効果があるが、樹脂と混練する際に、分散性が悪く成形性が低下し、得られた押出成形体の機械的物性が低下するので20~200メッシュのものが好ましい。
【0045】
熱膨張性黒鉛の添加量は、少なくなると耐火性能及び発泡性が低下し、多くなると押出成形しにくくなり、得られた成形体の表面性が悪くなり、機械的物性が低下するので、樹脂成分100重量部に対して、3~300重量部である。
【0046】
熱膨張性黒鉛の添加量は、樹脂成分100重量部に対して、10~200重量部の範囲であれば好ましい。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いことにより、高い膨張性と燃焼後の高い残渣硬さとが得られる。樹脂成分の分解開始温度とは、固体の樹脂成分が分解し、重量減少が確認し始める温度を指す。この理由として、理論に束縛されることは望まないが、樹脂組成物を加熱した場合、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低いと、樹脂成分が分解するよりも先に膨張性黒鉛が膨張を開始するため、膨張性黒鉛の硬い断熱層が形成され、樹脂成分の分解が遅延化し、断熱層の隙間を埋めるように樹脂成分が配置されるため、高い膨張性を確保しつつ、高い残渣硬さも保持すると考えられる。
【0048】
例えば、樹脂成分が塩素化塩化ビニル樹脂又はポリ塩化ビニル樹脂の場合、通常、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は215℃以下であり、樹脂成分がEVA、EPDM、ポリブテン及びポリブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一つである場合、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は300℃以下である。
【0049】
一実施形態では、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が、樹脂成分の分解開始温度よりも15℃以上低い。別の一実施形態では、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が、樹脂成分の分解開始
温度よりも15~80℃低い。別の実施形態では、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が200℃以下であり、樹脂成分の分解開始温度が200℃よりも高い。別の実施形態では、樹脂組成物は、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度及び樹脂成分の分解開始温度よりも高い温度で、熱膨張性黒鉛が膨張及び樹脂成分が分解するのに十分な時間加熱した場合に、加熱後の樹脂組成物の膨張倍率が10を超え、かつ残渣硬さが0.25kgf/cm2を超える。特
には、600℃で30分加熱した場合に、加熱後の樹脂組成物の膨張倍率が10を超え、かつ残渣硬さが0.25kgf/cm2を超える。より好ましい実施形態では、残渣硬さ
は0.3kgf/cm2以上2kgf/cm2以下である。さらに好ましい実施形態では、残渣硬さは0.5kgf/cm2以上2kgf/cm2以下である。膨張倍率は樹脂組成物の試験片の(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)として算出される。残渣硬さは、加熱後の試験片を公知の圧縮試験機にかけて圧縮し、破断点応力を測定することにより算出されるが、本願では圧縮試験機で0.25cm2の圧子で0.1cm/秒の
速度で圧縮し、破断点応力を測定したものを指す。
【0050】
無機充填剤は、一般に塩化ビニル樹脂成形体を製造する際に使用されている無機充填剤であれば、特に限定されず、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーンナイト、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏繊維、ケイ酸カルシウム、タルク、クレー、マイ力、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサイト、ガラス繊維、ガラスビーズ、シリカバルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコニア鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素、ステンレス繊維、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、スラグ繊維、フライアッシュ、脱水汚泥等が挙げられ、炭酸カルシウム及び加熱時に脱水し、吸熱効果のある水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の含水無機物が好ましい。又、酸化アンチモンは難燃性向上の効果があるので好ましい。これら無機充填剤は単独で用いられてもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0051】
無機充填剤の添加量は、少なくなると耐火性能が低下し、多くなると押出成形しにくくなり、得られた成形体の表面性が悪くなり、機械的物性が低下するので、樹脂成分100重量部に対して、3~200重量部である。
【0052】
無機充填剤の添加量は、樹脂成分100重量部に対して、10~150重量部の範囲であれば好ましい。
【0053】
上述の通り、本発明の樹脂組成物は、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、及び無機充填剤を含有するが、リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有すると、押出成形性が低下するので、好ましくはリン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しない。尚、後述する可塑剤である燐酸エステル可塑剤は含有してもよい。
【0054】
押出成形性を阻害するリン化合物は次の通りである。
【0055】
赤リン、
トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル、
リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、
ポリリン酸アンモニウム類、
下記化学式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0056】
【0057】
式中、R1及びR3は、水素、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6~16のアリール基を表し、
R2は、水酸基、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1~1
6の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、又は、炭素数6~16のアリールオキシ基を表す。
【0058】
前記化学式(1)で表される化合物としては、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。
【0059】
ポリリン酸アンモニウム類としては、特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。
【0060】
本発明においては、これらの押出成形性を阻害するリン化合物を使用するものではない。
【0061】
本発明の樹脂組成物は、可塑剤をさらに含んでもよい。一実施形態において、樹脂成分が塩化ビニル樹脂の場合、本発明の樹脂組成物は可塑剤を含む。
【0062】
可塑剤は、一般に塩化ビニル樹脂成形体を製造する際に使用されている可塑剤であれば、特に限定されず、例えば、ジ-2-エチルヘキシルフタレート(DOP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジヘプチルフタレート(DHP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等のフタル酸エステル可塑剤;ジ-2-エチルヘキシルアジペート(DOA)、ジイソブチルアジペート(DIBA)、ジブチルアジペート(DBA)等の脂肪酸エステル可塑剤;エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル可塑剤;アジピン酸エステル、アジピン酸ポリエステル等のポリエステル可塑剤;トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート(TOTM)、トリイソノニルトリメリテート(TINTM)等のトリメリット酸エステル可塑剤;トリメチルホスフェート(TMP)、トリエチルホスフェート(TEP)等の燐酸エステル可塑剤などが挙げられ、これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0063】
可塑剤の添加量は、少なくなると押出成形性が低下し、多くなると得られた成形体が柔らかくなり過ぎるので、樹脂成分100重量部に対して、20~200重量部である。
【0064】
本発明の樹脂組成物には、その物性を損なわない範囲で、必要に応じて、塩化ビニル樹脂組成物の熱成形の際に一般に使用されている、リン化合物以外の熱安定剤、滑剤、加工助剤、熱分解型発泡剤、酸化防止剤、帯電防止剤、顔料等が添加されてもよい。
【0065】
熱安定剤としては、例えば、三塩基性硫酸鉛、三塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛等の鉛熱安定剤;有機錫メルカプト、有機錫マレート、有機錫ラウレート、ジブチル錫マレート等の有機錫熱安定剤;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸熱安定剤等が挙げられ、これらは単独で用いられもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0066】
滑剤としては、例えば、ポリエチレン、パラフィン、モンタン酸等のワックス類;各種エステルワックス類;ステアリン酸、リシノール酸等の有機酸類;ステアリルアルコール等の有機アルコール類;ジメチルビスアミド等のアミド化合物等が挙げられ、これらは単独で用いられもよいし、二種以上が併用されてもよい。
【0067】
加工助剤としては、例えば、塩素化ポリエチレン、メチルメタクリレート-エチルアクリレート共重合体、高分子量のポリメチルメタクリレート等が挙げられる。
【0068】
熱分解型発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、p,p-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が挙げられる。
【0069】
本発明の樹脂組成物は、常法に従って、一軸押出機、二軸押出機等の押出機で130~170℃で溶融押出することにより長尺の成形体を得ることができる。本発明の樹脂組成物は、窓、障子、扉(すなわちドア)、戸、ふすま、及び欄間等の建具;船舶;並びにエレベータ等の構造体に耐火性を付与するために使用されるが、特に、本発明の樹脂組成物は成形性が優れているので、長尺で断面形状が複雑な形状に適合させた異型成形体を容易に得ることができる。
【0070】
従って、本発明には、上記の本発明の樹脂組成物を備えた、成形体を初めとする耐火部材、ならびにかかる耐火部材を備えた建具も包含される。例えば、
図1は、本発明の樹脂組成物から形成された成形体4を付与した、建具としての窓1のサッシ枠を示す略図である。この例では、サッシ枠は2つの内枠2と、内枠2を包囲する1つの外枠3とを有し、内枠2および外枠3の枠本体の各辺に沿って、内枠2および外枠3の内部に成形体4が取り付けられている。このようにして、成形体4を設けることにより、窓1に耐火性を付与することができる。
【実施例0071】
以下に図面を参照しつつ実施例により本発明を詳細に説明する。なお本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0072】
(実施例1~2、比較例1~2)
表1に示した所定量の塩素化塩化ビニル樹脂(徳山積水社製「HA-53F」、重合度1000、塩素含有量64.0重量%、分解開始温度230℃、以下「CPVC」と言う。)、中和処理された熱膨張性黒鉛、炭酸カルシウム(白石カルシウム社製「ホワイトンBF300」)、三酸化アンチモン(日本精鉱社製「パトックスC」)、ジイソデシルフタレート(ジェイ・プラス社製「DIDP」、以下「DIDP」と言う。)、Ca-Zn複合安定剤(水沢化学社製「NT-231」)、ステアリン酸カルシウム(堺化学社製「SC-100」)、塩素化ポリエチレン(威海金弘社製「135A」)及びポリメチルメ
タクリレート(三菱レーヨン社製「P-530A」)からなる配合物を一軸押出機(池貝機販社製、65mm押出機)に供給し、150℃で断面形状がE字状(底辺の幅が100mmであり、底辺の両端部及び中央からそれぞれ50mmの3本の側壁が垂設された形状であり、底辺の厚さは3.0mm、側壁の厚さは2.0mmである。)の長尺異型成形体を1m/hrの速度で2時間押出成形した。
【0073】
熱膨張性黒鉛としてADT社製「ADT501」(膨張開始温度160℃)を用いた場合を実施例1、ADT社製「ADT351」(膨張開始温度200℃)を実施例2、東ソ一社製「GREP-EG」(膨張開始温度220℃)を比較例1、又はエアウォーター社製「MZ160」)(膨張開始温度260℃)を比較例2とした。
【0074】
(成形性)
実施例1,2及び比較例1,2のいずれとも、表面が美麗な長尺異型成形体を2時間押出成形でき、2時間押出成形した後のスクリュー及び金型への配合物の付着もなく、成形性は良好であった。
【0075】
(膨張倍率)
得られた成形体から作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。
【0076】
(残渣硬さ)
膨張倍率を測定した加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、0.25cm2の圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し
、破断点応力を測定した。
【0077】
得られた成形体の膨張倍率及び残渣硬さの測定結果は、
図2に示す通りである。熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも低い実施例1,2では、比較的高い膨張倍率と高い残渣硬さが維持されていたが、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度が樹脂成分の分解開始温度よりも高い比較例1,2では残渣硬さが急激に低下していた。
【0078】
(残渣の形状保持性)
上記残渣硬さは膨張後の残渣の硬さの指標になるが、測定が残渣の表面部分に限られるため、残渣全体の硬さの指標にならないことがあるので、残渣全体の硬さの指標として形状保持性を測定した。残渣の形状保持性は、膨張倍率を測定した試験片の両端部を手で持って持ち上げて、その際の残渣の崩れやすさを目視して測定した、試験片が崩れることなく持ち上げられた場合をPASSと評価し、試験片が崩壊して持ち上げられない場合をFAILと評価した。
【0079】
【0080】
(実施例3~22)
表2に示した配合の成分を含有する配合物を、実施例1~2および比較例1~2に関して上記に記載したのと同様に一軸押出機に供給し、150℃で断面形状がE字状の長尺異型成形体を1m/hrの速度で2時間押出成形した。
【0081】
樹脂成分として、実施例3~6ではCPVC、実施例7~10ではポリ塩化ビニル樹脂(重合度1000、分解開始温度215℃、「PVC」と言う)、実施例11~15ではエチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(分解開始温度225℃、「EVA」と言う)、実施例16~20ではエチレン-プロピレン-ジエンゴム(分解開始温度230℃、「EPDM」と言う)、実施例21,22ではエポキシ樹脂(分解開始温度275℃、「エポキシ」と言う)を用いた。
【0082】
ポリリン酸アンモニウムはクラリアント社製「AP422」、軟化剤は出光興産株式会社製「ダイアナプロセスオイルPW-90」とした。
【0083】
(成形性)
実施例3~22のいずれとも、表面が美麗な長尺異型成形体を2時間押出成形でき、2時間押出成形した後のスクリュー及び金型への配合物の付着もなく、成形性は良好であった。
【0084】
(膨張倍率)
得られた成形体から作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。
【0085】
(残渣硬さ)
膨張倍率を測定した加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、0.25cm2の圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し
、破断点応力を測定した。
【0086】
実施例3~22の成形体のいずれも、実施例1,2と同様、比較的高い膨張倍率と高い残渣硬さが維持されていた(データ非図示)。
【0087】
(残渣の形状保持性)
上記残渣硬さは膨張後の残渣の硬さの指標になるが、測定が残渣の表面部分に限られるため、残渣全体の硬さの指標にならないことがあるので、残渣全体の硬さの指標として形状保持性を測定した。残渣の形状保持性は、膨張倍率を測定した試験片の両端部を手で持って持ち上げて、その際の残渣の崩れやすさを目視して測定した、試験片が崩れることなく持ち上げられた場合をPASSと評価し、試験片が崩壊して持ち上げられない場合をFAILと評価した。
【0088】