(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161229
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/52 20060101AFI20241108BHJP
F16C 33/32 20060101ALI20241108BHJP
F16C 33/62 20060101ALI20241108BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20241108BHJP
F16C 41/00 20060101ALI20241108BHJP
F16C 35/07 20060101ALI20241108BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
F16C19/52
F16C33/32
F16C33/62
F16C19/06
F16C41/00
F16C35/07
B23B19/02 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024152823
(22)【出願日】2024-09-05
(62)【分割の表示】P 2020126143の分割
【原出願日】2020-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 翔平
(72)【発明者】
【氏名】植田 敬一
(72)【発明者】
【氏名】浜北 康之
(57)【要約】
【課題】軸受周辺の部品に電波を伝播し易くするための空間を形成しなくても、データを無線で外部に送信可能な軸受装置を提供する。
【解決手段】
軸受装置(30)は、主軸(4)を回転自在に支持する2つの軸受(5a,5b)と、2つの軸受(5a,5b)の間に配置される間座(6)と、間座(6)に配置される通信モジュール(140)とを備える。軸受(5a)は、金属製の内輪(5ia)および外輪(5ga)と、内輪(5ia)と外輪(5ga)との間に配置される複数の転動体(Ta)とを含む。通信モジュール(140)は、複数のセンサと、センサの検出結果を無線で送信する通信装置とが内蔵されている。軸受(5a)の内輪(5ia)の外径寸法(D1)は、軸受(5a)の外輪(5ga)の内径寸法(D2)未満に設定される。転動体(Ta)の素材は、電磁波を通すことができる窒化ケイ素である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジングの内部に収容される軸受装置であって、
内輪と外輪と前記内輪および前記外輪の間に配置される複数の転動体とを有する第1軸受と、
前記第1軸受と前記第1軸受とは異なる第2軸受との間に配置され、電磁波を用いた無線通信を行なう通信装置とを備え、
前記ハウジングの内径面と前記内輪との間のいずれかの領域に、前記電磁波を通過させるための非磁性領域が形成される、軸受装置。
【請求項2】
前記第1軸受と前記第2軸受との間に配置され、前記通信装置に電力を供給する自己発電装置をさらに備える、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記内輪の外径は前記外輪の内径以下となるように形成され、
前記非磁性領域は、前記内輪と前記外輪とで挟まれた領域に形成される、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記複数の転動体は、前記内輪と前記外輪とで挟まれたピッチ円周上に互いに所定間隔を隔てて配置され、
前記ピッチ円周上における前記複数の転動体の占有率は、40%以上かつ90%以下である、請求項1~3のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項5】
前記複数の転動体の素材は、非磁性材料である、請求項3または4に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記非磁性材料は、窒化ケイ素である、請求項5に記載の軸受装置。
【請求項7】
前記複数の転動体の素材は、磁性材料である、請求項3または4に記載の軸受装置。
【請求項8】
前記磁性材料は、高炭素クロム鋼である、請求項7に記載の軸受装置。
【請求項9】
前記外輪の外径面と前記ハウジングの内径面との間に配置され、非磁性材料を素材とする部品をさらに備え、
前記非磁性領域は、前記外輪の外径面と前記ハウジングの内径面とで挟まれた領域に形成される、請求項1~8のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項10】
前記通信装置は、前記第1軸受が許容回転速度で回転している時における前記転動体の公転周期を上回る周波数の電磁波を用いた無線通信を行なう、請求項1~9のいずれかに記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無線通信機能を備えた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸などに用いられる、転がり機構あるいは揺動機構を含む機械には、機械の制御あるいは状態監視を行うために、センサなどの検出装置が取り付けられることがある。特に、転がり軸受を用いた機械においては、機械内部の軸受近傍で特性を検出することが有効であることから、回転センサ、温度センサなどの各種センサを機械内部の軸受近傍に配置することが望ましい。
【0003】
また、従来、センサが検出したデータの送信には電線が多用されるが、機械内部に電線を配置することは、機械内部の他の機構との干渉や、その機構の機能低下(例えば寸法精度の低下や形状精度の低下)を招く可能性がある。また、機械の組立性も悪化し、生産性を低下させる要因ともなり得る。
【0004】
上記のような問題に対して、たとえば特開2003-28151号公報(特許文献1)には、アンテナ付きのワイヤレスセンサが軸受の外輪に取り付けられ、このワイヤレスセンサによって検出されたデータを電波によって無線で外部に送信する軸受装置が開示されている。この軸受装置においては、軸受およびその周辺部品(ハウジングおよび蓋など)が電波を伝播し難い金属製(磁性材料製)であることに鑑み、ワイヤレスセンサが取り付けられた部分の周辺に位置するハウジングに、ワイヤレスセンサから送信される電波を外部に伝播し易くするための空間(穴あるいは溝)が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、特開2003-28151号公報に開示された軸受装置においては、ワイヤレスセンサが取り付けられた部分の周辺に位置するハウジングに、電波を伝播し易くするための空間(穴あるいは溝)が形成されている。
【0007】
しかしながら、通常、軸受周辺のハウジングには、軸受を冷却するための他の機構などが設けられており、他の機構と干渉する場合にはハウジングに十分な空間を形成することができない場合が生じ得る。また、他の機構との干渉を回避するためにハウジングに複雑な形状の空間を形成すると、ハウジングの形状精度の劣化やコストの上昇を招くことが懸念される。
【0008】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、軸受周辺の部品に電波を伝播し易くするための空間を形成しなくても、データを無線で外部に送信可能な軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本開示による軸受装置は、筒状のハウジングの内部に収容される。この軸受装置は、内輪と外輪と内輪および外輪の間に配置される複数の転動体とを有する第1軸受と、第1軸受と第1軸受とは異なる第2軸受との間に配置され、電磁波を用いた無線通信を
行なう通信装置とを備える。ハウジングの内径面と内輪との間のいずれかの領域に、電磁波を通過させるための非磁性領域が形成される。
【0010】
(2) ある態様においては、第1軸受と第2軸受との間に配置され、通信装置に電力を供給する自己発電装置をさらに備える。
【0011】
(3) ある態様においては、内輪の外径は外輪の内径以下となるように形成される。非磁性領域は、内輪と外輪との間の領域に形成される。
【0012】
(4) ある態様においては、複数の転動体は、内輪と外輪とで挟まれたピッチ円周上に互いに所定間隔を隔てて配置される。ピッチ円周上における複数の転動体の占有率は、40%以上かつ90%以下である。
【0013】
(5) ある態様においては、複数の転動体の素材は、非磁性材料である。
(6) ある態様においては、非磁性材料は、窒化ケイ素である。
【0014】
(7) ある態様においては、複数の転動体の素材は、磁性材料である。
(8) ある態様においては、磁性材料は、高炭素クロム鋼である。
【0015】
(9) ある態様においては、軸受装置は、外輪の外径面とハウジングの内径面との間に配置され、非磁性材料を素材とする部品をさらに備える。非磁性領域は、外輪の外径面とハウジングの内径面との間の領域に形成される。
【0016】
(10) ある態様においては、通信装置は、第1軸受の回転時における転動体の公転周期を上回る周波数の電磁波を用いた無線通信を行なう。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、軸受周辺の部品に電波を伝播し易くするための空間を形成しなくても、データを無線で外部に送信可能な軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】軸受装置を備えるスピンドル装置の概略構成を示す断面図(その1)である。
【
図2】通信モジュールの構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】軸受内の転動体の配置の一例を示す図である。
【
図4】軸受装置を備えるスピンドル装置の概略構成を示す断面図(その2)である。
【
図5】軸受装置を備えるスピンドル装置の概略構成を示す断面図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0020】
図1は、本実施の形態による軸受装置30を備えるスピンドル装置1の概略構成を示す断面図である。
【0021】
図1に示すスピンドル装置1は、たとえば、工作機械のビルトインモータ方式のスピンドル装置として使用される。この場合、工作機械主軸用のスピンドル装置1で支持されている主軸4の一端側(
図1においては右側)には図示しないモータが組み込まれ、他端側
(
図1においては左側)には図示しないエンドミル等の切削工具が接続される。本実施の形態において、主軸4の軸径は70mmに設定され、主軸4の最高回転速度は20000回転/分に設定されている。
【0022】
スピンドル装置1は、軸受装置30を備える。軸受装置30は、2つの軸受5a,5bを含む軸受5と、軸受5aと軸受5bとの間に配置される間座6とを備える。主軸4は、外筒2の内径部に埋設された筒状のハウジング3の内部に設けられ、軸受5a,5bによって回転自在に支持される。
【0023】
軸受5aは、金属製の内輪5iaと、金属製の外輪5gaと、内輪5iaと外輪5gaとの間に配置される複数の転動体Taと、保持器Rtaとを含む、転がり軸受である。複数の転動体Taは、保持器Rtaによって間隔が保持されている。
【0024】
軸受5bは、金属製の内輪5ibと、金属製の外輪5gbと、内輪5ibと外輪5gbとの間に配置される複数の転動体Tbと、保持器Rtbとを含む、転がり軸受である。複数の転動体Tbは、保持器Rtbによって間隔が保持されている。
【0025】
主軸4には、軸方向に離隔した軸受5aの内輪5iaおよび軸受5bの内輪5ibが締まり嵌め状態(圧入状態)で嵌合されている。
【0026】
間座6は、内輪間座6iと、外輪間座6gとを含む。内輪間座6iは内輪5ia-5ib間に配置され、外輪間座6gは、外輪5ga-5gb間に配置される。
【0027】
軸受5a,5bは、アンギュラ玉軸受、深溝玉軸受、またはテーパころ軸受等を用いることができる。
図1に示す軸受装置30にはアンギュラ玉軸受が用いられ、2個の軸受5a,5bが背面組み合わせ(DB組み合わせ)で設置されている。なお、軸受の配列は背面組み合わせに限定されるものではなく、たとえば正面組合せであってもよい。
【0028】
ここでは、2つの軸受5a,5bで主軸4を支持する構造を例示して説明するが、2つ以上の軸受で主軸4を支持する構造であってもよい。
【0029】
ハウジング3には冷却媒体流路が形成される。ハウジング3と外筒2との間に冷却媒体を流すことにより、軸受5a,5bを冷却することができる。
【0030】
軸受5aと軸受5bとの間には、センサを内蔵した通信モジュール140が配置される。より具体的には、通信モジュール140は、外輪間座6gの軸方向の軸受5a側(切削工具側)の端面に露出する状態で外輪間座6gに取り付けられている。なお、外輪間座6gの軸方向の軸受5b側(モータ側)の端面にも、通信モジュール140と同様の通信モジュールを設けるようにしてもよい。
【0031】
図2は、本実施の形態による通信モジュール140の構成の一例を示すブロック図である。通信モジュール140には、主軸4の制御や軸受装置30の状態監視を行うための複数のセンサ(熱流束を測定する熱流センサ11と、温度を測定する温度センサ56と、振動を測定する振動センサ57と、予圧荷重を測定する荷重センサ59)と、通信装置141と、発電装置142とが内蔵されている。
【0032】
通信装置141は、各センサに電線で接続され、各センサの検出結果を示すデータを収集する。なお、通信装置141が、各センサと無線で接続され、各センサの検出結果を示すデータをワイヤレスで収集するようにしてもよい。
【0033】
通信装置141は、各センサから収集したデータを、電磁波を用いた無線通信によって軸受装置30の外部に設けられた外部装置200に送信する。本実施の形態においては、通信装置141が、Bluetooth(登録商標)の通信規格に準拠しており、2.4GHzの周波数帯の電波を用いて各センサの検出結果を示すデータを外部装置200に無線送信する。なお、外部装置200は、軸受5aの軸方向外側(
図1では軸受5aよりも左側)の位置に配置されることが想定される。したがって、通信装置141と外部装置200との間には軸受5aが存在することになる。
【0034】
発電装置142は、通信装置141に接続され、通信装置141を駆動させるための電力を自己発電する。発電装置142としては、たとえば、ゼーベック効果によって発電を行なう熱電素子(ペルチェ素子)を使用することができる。なお、発電装置142は、各センサを駆動させるために電力が必要な場合には、そのセンサに発電装置142からの電力を供給するようにしてもよい。
【0035】
なお、本実施の形態においては各センサと通信装置141と発電装置142とが通信モジュール140として1つにモジュール化されて外輪間座6gに配置される例について説明するが、各センサと通信装置141と発電装置142とがモジュール化されずに個々に配置されるようにしてもよい。
【0036】
<データの無線送信について>
上述のように、本実施の形態による軸受装置30においては、複数のセンサと通信装置141とを内蔵する通信モジュール140が軸受5aと軸受5bとの間に配置され、各センサの検出結果を示すデータを無線で外部に送信するように構成される。
【0037】
しかしながら、軸受5aの内輪5iaおよび外輪5gaは、どちらも金属製であり、電波を伝播し難い。さらに、内輪5iaと外輪5gaとの間に配置される複数の転動体Taは、内輪5iaの回転に伴って内輪5iaと外輪5gaとに接触しながら公転するため、仮に複数の転動体Taをも金属製にしてしまうと、通信モジュール140から軸受5aの外部に電波を通過させることは難しい。
【0038】
また、仮にハウジング3における軸受5a周辺の部分に電波を伝播し易くするための空間を径方向に形成すると、ハウジング3の冷却媒体流路との干渉、さらには、ハウジング3の形状精度の劣化およびコストの上昇を招くといった問題が生じ得る。
【0039】
この点に鑑み、本実施の形態による軸受装置30においては、
図1に示されるように、軸受5aの内輪5iaの外径寸法D1が軸受5aの外輪5gaの内径寸法D2未満に設定されており、内輪5iaと外輪5gaとで挟まれた領域に空間が確保される。その上で、内輪5iaと外輪5gaとの間に配置される複数の転動体Taの素材として、電磁波を通すことができる窒化ケイ素(Si
3N
4など)が用いられる。これにより、電磁波を通過させるために必要な非磁性領域を、軸受5aの内輪5iaと外輪5gaとで挟まれた領域に形成することができる。
【0040】
これにより、本実施の形態による軸受装置30においては、通信モジュール140からのデータを、軸受5aの内輪5iaと外輪5gaとの間の非磁性領域を経由させて、軸受装置30の外部に無線で送信することが可能となる。これにより、軸受5a周辺に配置されるハウジング3等の部品に電波を伝播し易くするための空間を形成しなくても、データを無線で外部に送信することができる。その結果、軸受5a周辺の他の機構との干渉問題や、ハウジング3の形状精度の劣化、コストの上昇を防ぎつつ、各センサの検出情報をワイヤレスで軸受装置30の外部に送信することができる。
【0041】
さらに、本実施の形態による軸受装置30においては、通信装置141を駆動させるための電力を自己発電する発電装置142が、通信装置141と同じ、軸受5aと軸受5bとの間に配置される。そのため、通信装置141に駆動電力を供給するための電線を軸受装置30の外部に設けることなく、通信装置141を駆動することができる。
【0042】
なお、データを軸受5bの軸方向外側(
図1では軸受5bよりも右側)にも無線送信する場合には、軸受5bを軸受5aと同様に構成すればよい。すなわち、軸受5bの内輪5ibの外径寸法を軸受5bの外輪5gbの内径寸法未満にして内輪5ibと外輪5gbとで挟まれた領域に空間を確保した上で、内輪5ibと外輪5gbとの間に配置される複数の転動体Tbの素材を窒化ケイ素とすればよい。
【0043】
また、転動体Taあるいは転動体Tbの素材は、電磁波を通すことができる非磁性材料であればよく、上述の窒化ケイ素に限定されるものではない。たとえば、転動体Taあるいは転動体Tbの素材は、アルミナ、ジルコニアなどのセラミック材料でもよいし、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)やPPS(ポリフェニレンサルファイド)などの樹脂材料でもよいし、炭素繊維やガラス繊維で強化した材料でもよいし、ガラスやゴムでもよい。
【0044】
また、複数の転動体Taの素材を非磁性材料とすることによって軸受5aの内輪5iaと外輪5gaとの間の空間に非磁性領域が確保されるのであれば、軸受5aの内輪5iaの外径寸法D1が軸受5aの外輪5gaの内径寸法D2と同じであってもよい。
【0045】
[変形例1]
上述の実施の形態においては、軸受5aの内輪5iaの外径寸法D1を外輪5gaの内径寸法D2未満にし、かつ転動体Taの素材を非磁性材料とすることによって、内輪5iaと外輪5gaとの間に非磁性領域を形成している。
【0046】
これに対し、本変形例2においては、上述の実施の形態と同様に軸受5aの内輪5iaの外径寸法D1を外輪5gaの内径寸法D2未満にしつつ、内輪5iaと外輪5gaとで挟まれたピッチ円周上における複数の転動体Taの占有率を40%以上かつ90%以下とすることによって、内輪5iaと外輪5gaとの間に非磁性領域を形成する。その他の構成は、上述の実施の形態と同じである。
【0047】
図3は、本変形例1による軸受5a内の転動体Taの配置の一例を示す図である。複数の転動体Taは、内輪5iaと外輪5gaとで挟まれたピッチ円周上に所定間隔を隔てて配置されるように、保持器Rtaによって保持されている。
【0048】
そして、
図3には、ピッチ円周上における複数の転動体Taの占有率を約50%とする例が示されている。このように、ピッチ円周上における複数の転動体Taの占有率を50%とすることによって、軸受5aの負荷容量を確保しつつ、隣接する転動体Ta同士の間にデータを送信するために必要な空間を確保することによって非磁性領域を形成する。
【0049】
なお、ピッチ円周上における複数の転動体Taの占有率が40%未満の場合、軸受5aの負荷容量が不足し得る。また、ピッチ円周上における複数の転動体Taの占有率が90%を超える場合、隣接する転動体Ta同士の間にデータを無線送信するために必要な空間を確保できず、非磁性領域を形成できない。したがって、ピッチ円周上における複数の転動体Taの占有率は、40%以上かつ90%以下にすることが望ましい。特に、40%以上かつ90%以下の範囲のうち、50%以上の範囲が軸受5aの十分な負荷容量を確保しつつ隣接する転動体Ta同士の間に非磁性領域を形成できる最適範囲である。
【0050】
ピッチ円周上における複数の転動体Taの占有率を40%以上かつ90%以下にする場合、隣接する転動体Ta同士の間にデータを無線送信するために必要な空間が確保されるため、転動体Taの素材としては、非磁性材料ではなく、金属(磁性材料)を用いることができる。たとえば、転動体Taの素材を、耐摩耗性に優れた高炭素クロム鋼にすることができる。なお、転動体Taの素材を非磁性材料とすることで、より電波を送信し易くするようにしてもよい。また、複数の転動体Taのうち、半数以上の転動体Taの素材を磁性材料とし、残りの転動体Taの素材を非磁性材料とするようにしてもよい。
【0051】
また、通信モジュール140は、Bluetooth(登録商標)の通信規格に準拠しており、2.4GHzの周波数帯の電波を送信するところ、内輪5iaが主軸4の最高回転速度20000回転/分で回転した時の転動体Taの外輪5gaに対する公転周波数は100~150Hz程度であり、送信電波の周波数は転動体Taの公転周波数よりも十分に高い。そのため、内輪5iaの回転中においても、通信モジュール140からの電波は転動体Ta同士の間を十分に通過し得る。
【0052】
以上のように、軸受5aの内輪5iaの外径寸法D1を外輪5gaの内径寸法D2未満にしつつ、内輪5iaと外輪5gaとで挟まれたピッチ円周上における複数の転動体Taの占有率を40%以上かつ90%以下とすることによって、内輪5iaと外輪5gaとの間に非磁性領域を形成するようにしてもよい。
【0053】
[変形例2]
図4は、本変形例2による軸受装置30Aを備えるスピンドル装置1Aの概略構成を示す断面図である。軸受装置30Aは、上述の
図1に示す軸受装置30の通信モジュール140を通信モジュール140Aに変更し、かつ非磁性材料を素材とするOリング160を追加したものである。スピンドル装置1Aおよび軸受装置30Aのその他の構成は、上述のスピンドル装置1および軸受装置30と同じである。
【0054】
通信モジュール140Aは、外輪間座6gの外径面に露出する状態で外輪間座6gに取り付けられている。なお、通信モジュール140Aの基本構成は、上述の通信モジュール140と同じである。
【0055】
軸受5aの外輪5gaの外径面および軸受5bの外輪5gbの外径面には、それぞれ、円周方向に延びる2本の円周溝161が並行に設けられている。それらの円周溝161には、非磁性材料を素材とする円環状のOリング160がそれぞれ取り付けられている。Oリング160の素材としては、非磁性材料であればよく、たとえば、ニトリルゴムであってもよいし、樹脂であってもよい。
【0056】
このような軸受装置30Aをハウジング3に挿入することで、データを無線送信するために必要な非磁性領域を、軸受5aの内輪5iaと外輪5gaとの間の領域に加えて、各軸受5a,5bの外輪5ga,5gbの外径面とハウジング3の内径面との間の領域にも、形成することができる。
【0057】
これにより、本変形例2による軸受装置30Aにおいては、通信モジュール140Aからのデータを、軸受5aの内輪5iaと外輪5gaとの間の領域に形成される非磁性領域、および軸受5aの外輪5gaの外径面とハウジング3の内径面との間の領域に形成される非磁性領域を経由させて、軸受装置30Aの外部に無線で送信することが可能となる。
【0058】
なお、本変形例2による軸受装置30Aにおいては、軸受5aの外輪5gaの外径面とハウジング3の内径面との間の領域にOリング160を設けることで非磁性領域が形成されるため、軸受5aの内輪5iaと外輪5gaとの間の領域は必ずしも非磁性領域でなく
てもよい。すなわち、軸受装置30Aにおいて、軸受5aの転動体Taの素材は、金属等の磁性材料であってもよい。
【0059】
[変形例3]
図5は、本変形例3による軸受装置30Bを備えるスピンドル装置1Bの概略構成を示す断面図である。軸受装置30Bは、上述の
図4に示す軸受装置30AのOリング160に代えてバンド162を追加したものである。スピンドル装置1Bおよび軸受装置30Bのその他の構成は、上述のスピンドル装置1および軸受装置30と同じである。
【0060】
ハウジング3の内径面における、軸受5aの外輪5gaおよび軸受5bの外輪5gbが嵌合する部分は、それぞれ、円周方向に延びる2本の円周溝163が並行に設けられている。それらの円周溝163には、非磁性材料を素材とする円環状のバンド162がそれぞれ取り付けられている。バンド162の素材としては、非磁性材料であればよく、たとえば、ニトリルゴムであってもよいし、樹脂であってもよい。
【0061】
本変形例3による軸受装置30Bにおいても、上述の変形例2による軸受装置30Aと同様に、データを無線送信するために必要な非磁性領域を、軸受5aの内輪5iaと外輪5gaとの間の領域に加えて、各軸受5a,5bの外輪5ga,5gbの外径面とハウジング3の内径面との間の領域にも、形成することができる。
【0062】
なお、本変形例3による軸受装置30Bにおいても、上述の変形例2による軸受装置30Aと同様に、軸受5aの外輪5gaの外径面とハウジング3の内径面との間の領域に非磁性領域が形成されるため、軸受5aの内輪5iaと外輪5gaとの間の領域は必ずしも非磁性領域でなくてもよい。すなわち、軸受装置30Bにおいて、軸受5aの転動体Taの素材は、金属等の磁性材料であってもよい。
【0063】
[変形例4]
各軸受5a,5bの外輪5ga,5gbの外径面とハウジング3の内径面との間に配置する部品は、上述の変形例2におけるOリング160や変形例3におけるバンド162のような円環状の部品に限定されない。たとえば、短冊形状の部品や、紙片状の部品を外輪外径面とハウジング内径面の間に配置することによって、データを送信するために必要な空間を確保するようにしてもよい。
【0064】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1 スピンドル装置、2 外筒、3 ハウジング、4 主軸、5,5a,5b 軸受、5ga,5gb 外輪、5ia,5ib 内輪、6 間座、6g 外輪間座、6i 内輪間座、11 熱流センサ、30,30A,30B 軸受装置、56 温度センサ、57 振動センサ、59 荷重センサ、140,140A 通信モジュール、141 通信装置、142 発電装置、160 Oリング、161,163 円周溝、162 バンド、200 外部装置、Rta,Rtb 保持器、Ta,Tb 転動体。
【手続補正書】
【提出日】2024-10-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のハウジングの内部に収容される軸受装置であって、
内輪と外輪と前記内輪および前記外輪の間に配置される複数の転動体とを有する第1軸受と、
前記第1軸受と前記第1軸受とは異なる第2軸受との間に配置される間座に露出した状態で取り付けられ、電磁波を用いた無線通信を行なう通信モジュールとを備え、
前記ハウジングの内径面と前記内輪との間のいずれかの領域に、前記電磁波を前記ハウジングおよび前記間座を経由させることなく前記軸受装置の外部に通過させるための非磁性領域が形成される、軸受装置。
【請求項2】
前記内輪の外径は前記外輪の内径以下となるように形成され、
前記非磁性領域は、前記内輪と前記外輪とで挟まれた領域に形成され、
前記間座は、前記外輪と前記第2軸受の外輪との間に配置される外輪間座を含み、
前記通信モジュールは、前記外輪間座の軸方向の端面に露出した状態で取り付けられる、請求項1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記第1軸受および前記第2軸受は、アンギュラ玉軸受であり、
前記複数の転動体は、前記内輪と前記外輪とで挟まれたピッチ円周上に互いに所定間隔を隔てて配置され、
前記ピッチ円周上における前記複数の転動体の占有率は、40%以上かつ90%以下である、請求項1または2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記複数の転動体の素材は、非磁性材料である、請求項1~3のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項5】
前記複数の転動体の素材は、磁性材料である、請求項1~3のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項6】
前記第1軸受と前記第2軸受との間に配置され、前記通信モジュールに電力を供給する自己発電装置をさらに備える、請求項1~5のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項7】
前記通信モジュールは、前記第1軸受が許容回転速度で回転している時における前記転動体の公転周期を上回る周波数の電磁波を用いた無線通信を行なう、請求項1~6のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項8】
前記第1軸受および前記第2軸受は、工作機械の主軸の支持に用いられるものである、請求項1~7のいずれかに記載の軸受装置。