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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161263
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】舶用過給機
(51)【国際特許分類】
   C11D 9/30 20060101AFI20241108BHJP
   C11D 9/26 20060101ALI20241108BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C11D9/30
C11D9/26
F01D25/00 R
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024153831
(22)【出願日】2024-09-06
(62)【分割の表示】P 2020187962の分割
【原出願日】2020-11-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】岩間 由華
(72)【発明者】
【氏名】和田山 勝也
(57)【要約】
【課題】 タービンインペラに付着した汚れを除去する際の洗浄効果を向上させる洗浄剤及び舶用過給機を提供する。
【解決手段】 舶用過給機1のタービンインペラ4を洗浄するのに用いられる洗浄剤CLは、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、又は、2-ヒドロキシ-1,3-ジアミノプロパン四酢酸を含有する。また、舶用過給機1は、舶用内燃機関の燃焼器から排出された排気ガスを受けて回転するタービンインペラ4と、タービンハウジング2と、燃焼器から排出された排気ガスをタービンハウジング2の内部に導入させる排気管3と、洗浄剤CLを収容する洗浄剤タンク5と、洗浄剤タンク5から排気管3へ洗浄剤CLを流通させる洗浄剤配管6とを備える。排気管3の壁部3aは、洗浄剤配管6の排出側の開口端6aと連通して洗浄剤CLを排気管3の内部に注入する注入口7を有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C重油を燃料とする舶用内燃機関の燃焼器から排出された排気ガスを受けて回転するタービンインペラと、
前記タービンインペラを内部に配置するタービンハウジングと、
前記タービンハウジングに設けられている前記排気ガスの導入口に接続され、前記燃焼器から排出された前記排気ガスを前記タービンハウジングの内部に導入させる排気管と、
前記タービンインペラを洗浄するのに用いられる洗浄剤を収容する洗浄剤タンクと、
前記洗浄剤タンクから前記排気管へ前記洗浄剤を流通させる洗浄剤配管と、を備え、
前記排気管の壁部は、前記洗浄剤配管の排出側の開口端と連通して前記洗浄剤を前記排気管の内部に注入する注入口を有し、
前記洗浄剤は、2-ヒドロキシ-1,3-ジアミノプロパン四酢酸を含有する、舶用過給機。
【請求項2】
前記注入口よりも前記排気管の下流側の範囲では、前記排気管の前記注入口が設けられている位置での軸方向と、前記洗浄剤配管の排出側の前記開口端での軸方向とのなす角は、鋭角である、請求項1に記載の舶用過給機。
【請求項3】
前記洗浄剤は、グリセリンを含有する、請求項1又は2に記載の舶用過給機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、舶用過給機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレードを含む内燃機関としてのガスタービンでは、運用中のタービンブレードの表面に汚れが付着する場合がある。このような汚れが堆積することは、タービンの回転が不安定になるなどの一因ともなり、望ましくない。これに対して、特許文献1は、主にタービンコンプレッサ部を洗浄するものとして、燃焼器の上流にあるタービンコンプレッサ部の入口側から注入される洗浄液に関連する技術を開示している。
【0003】
一方、重油を燃料とする舶用内燃機関等に設置され、ガスタービンと同様にブレードを含む舶用過給機では、運用中のタービンインペラの表面に、燃焼残渣が主体の固化した汚れが付着する場合がある。このようなタービンインペラに付着した汚れを除去するために、従来、舶用過給機の運用時には、タービンインペラに直接注水することによる洗浄が実施され、舶用過給機のメンテナンス時には、浸漬洗浄が実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003-515666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、舶用過給機のタービンインペラに付着した汚れを除去する場合には、従来の注水洗浄や浸漬洗浄を実施することで得られる洗浄効果よりも高い洗浄効果が望まれている。
【0006】
一方、舶用過給機のタービンインペラを洗浄するときに、特許文献1に開示されているような洗浄剤を使用することも考えられる。しかし、舶用内燃機関の燃料が例えば重油である場合、タービンインペラに付着する汚れの成分は重油に依拠したものとなるため、従来の洗浄剤を用いることが必ずしも洗浄効果の向上につながるとは限らない。
【0007】
そこで、本開示は、タービンインペラに付着した汚れを除去する際の洗浄効果を向上させる洗浄剤を用いた舶用過給機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係る舶用過給機は、C重油を燃料とする舶用内燃機関の燃焼器から排出された排気ガスを受けて回転するタービンインペラと、タービンインペラを内部に配置するタービンハウジングと、タービンハウジングに設けられている排気ガスの導入口に接続され、燃焼器から排出された排気ガスをタービンハウジングの内部に導入させる排気管と、タービンインペラを洗浄するのに用いられる洗浄剤を収容する洗浄剤タンクと、洗浄剤タンクから排気管へ洗浄剤を流通させる洗浄剤配管と、を備え、排気管の壁部は、洗浄剤配管の排出側の開口端と連通して洗浄剤を排気管の内部に注入する注入口を有し、洗浄剤は、2-ヒドロキシ-1,3-ジアミノプロパン四酢酸を含有する。
【0009】
上記の舶用過給機では、注入口よりも排気管の下流側の範囲では、排気管の注入口が設けられている位置での軸方向と、洗浄剤配管の排出側の開口端での軸方向とのなす角は、鋭角であってもよい。
【0010】
また、上記の洗浄剤は、グリセリンを含有してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、タービンインペラに付着した汚れを除去する際の洗浄効果を向上させる洗浄剤を用いた舶用過給機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一実施形態に係る舶用過給機の構成を示す概略図である。
図2】第1試験における洗浄効果の温度依存性の評価結果を示すグラフである。
図3】第1試験における洗浄効果の時間依存性の評価結果を示すグラフである。
図4】第2試験における洗浄性に関する評価結果を示すグラフである。
図5】第3試験における展延性の評価結果を示すグラフである。
図6】他の実施形態に係る舶用過給機の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面等を参照して説明する。ここで、各実施形態に示す寸法、材料、その他、具体的な数値等は例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。また、実質的に同一の機能及び構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、本開示に直接関係のない要素については図示を省略する。
【0014】
図1は、一実施形態に係る舶用過給機1の構成を示す概略図である。例えば、船舶の航行用の駆動源として、舶用ディーゼルエンジン等の舶用内燃機関がある。舶用過給機1は、このような舶用内燃機関に設置され、エンジン性能や燃費性能の向上のために、舶用内燃機関から排出された排気ガスを利用して生成した圧縮空気を再供給する装置である。
【0015】
舶用過給機1は、まず、タービンハウジング2と、排気管3と、タービンインペラ4と、不図示のコンプレッサと、洗浄剤タンク5と、洗浄剤配管6とを備える。
【0016】
タービンハウジング2は、タービンインペラ4を内部に配置する。タービンハウジング2は、不図示の舶用内燃機関の燃焼器から排出された排気ガスを導入する導入口2aと、内部の排気ガスを外部に排出する排出口2bとを有する。
【0017】
排気管3は、導入口2aに接続され、燃焼器から排出された排気ガスをタービンハウジング2の内部に導入させる。図1では、排気ガスの導入方向を白抜きの矢印で示している。本実施形態では、排気管3の本数は1つであり、図1では直管として描画されている。なお、排気管3は曲管であってもよい。
【0018】
タービンインペラ4は、排気管3を介してタービンハウジング2の内部に導入された排気ガスを受けて回転する。タービンインペラ4は、具体的には、複数の翼部が形成された円盤状の回転体である。タービンインペラ4には、同軸上に不図示の回転軸が接続されている。
【0019】
コンプレッサは、タービンインペラ4から伝達された回転力を利用して圧縮空気を生成する。コンプレッサは、コンプレッサハウジングと、コンプレッサインペラとを備える。コンプレッサハウジングは、コンプレッサインペラを内部に配置する。コンプレッサハウジングは、外部から空気を導入する空気導入口と、内部で生成された圧縮空気を舶用内燃機関の燃焼器に向けて排出する圧縮空気排出口とを有する。なお、空気導入口には、消音器が設置されてもよい。コンプレッサインペラは、具体的には、複数の翼部が形成された円盤状の回転体である。コンプレッサインペラには、タービンインペラ4とは反対側から、同軸上に上記の回転軸が接続されている。コンプレッサインペラは、排気ガスを受けたタービンインペラ4が回転することにより自身も回転することで、コンプレッサハウジングの内部に導入された空気を圧縮することができる。
【0020】
洗浄剤タンク5は、タービンインペラ4を洗浄するのに用いられる洗浄剤CLを収容する。本実施形態において採用される洗浄剤CLについては、以下で詳説する。
【0021】
洗浄剤配管6は、洗浄剤タンク5から排気管3へ洗浄剤CLを流通させる。洗浄剤配管6の導入側の開口端は、洗浄剤タンク5の不図示の供給口に接続される。一方、排気管3の壁部3aは、洗浄剤CLを排気管3の内部に注入する注入口7を有する。洗浄剤配管6の排出側の開口端6aは、注入口7に連通している。本実施形態では、排気管3の壁部3aには、一例として2つの注入口7が形成されている。2つの注入口7は、排気管3の同一横断面上にあり、互いに対向している。この場合、洗浄剤配管6は、洗浄剤タンク5に接続される上流側では1本であり、2つの注入口7に接続される下流側では2本となるように、途中位置から分岐する。
【0022】
また、洗浄剤配管6には、例えば、第1バルブ10と、第2バルブ12と、圧力計14と、調圧弁16とが設置されていてもよい。第1バルブ10は、分岐後の2本の洗浄剤配管6のそれぞれに設置され、例えば、各々の注入口7からの洗浄剤CLの注入の有無、又は、排気管3に注入する洗浄剤CLの注入量を個別に調整することができる。第2バルブ12は、分岐前の洗浄剤配管6で、かつ、洗浄剤タンク5の近傍に設置され、例えば、洗浄剤CLの注入の有無を切り替える。第2バルブ12は、洗浄剤CLを注入する洗浄時には開とされ、洗浄剤CLを用いた洗浄を行わないときには閉とされる。また、作業者が、圧力計14が指し示す数値を確認しつつ調圧弁16により圧力を調整することで、洗浄剤CLの注入量を調整することができる。
【0023】
また、注入口7よりも排気管3の下流側では、排気管3の注入口7が設けられている位置での軸方向と洗浄剤配管6の排出側の開口端6aでの軸方向とのなす角θは、鋭角であってもよい。ここで、排気管3の軸方向とは、排気管3の中心軸AX1に対して平行に延伸する方向をいう。一方、洗浄剤配管6の軸方向とは、洗浄剤配管6の中心軸AX2に対して平行に延伸する方向をいう。なお、本実施形態における注入口7は、切りっぱなし形状となっているが、注入口7には、更にオリフィスや噴霧器などが設けられてもよい。
【0024】
次に、舶用過給機1で採用され得る、タービンインペラ4の洗浄に用いられる洗浄剤CLについて説明する。ここでは、タービンインペラ4を洗浄するのに好適な洗浄剤CLを特定するために、以下のような試験を実施した。
【0025】
まず、洗浄剤CLに含有させるキレート剤の成分を特定するための第1試験を実施した。第1試験では、舶用過給機1の連続運転によりタービンインペラ4の表面に付着すると想定される疑似汚れを予め選定し、選定された疑似汚れに対する洗浄性を評価する。特に、ここでの洗浄性の評価は、洗浄効果の温度依存性の評価と、洗浄効果の時間依存性の評価である。
【0026】
また、第1試験では、試料として4つのキレート剤A~Dを選定した。キレート剤A~Dのそれぞれの成分、試料溶液の濃度及びpHを(表1)に示す。なお、希釈には精製水が用いられている。また、唯一、キレート剤Bに関する試料溶液の濃度は、10倍希釈液に調整して得られた値である。
【0027】
【表1】
【0028】
第1試験の方法として、まず、キレート剤A~Dを(表1)に示すように希釈した各種の試料溶液(キレート剤水溶液)を準備する。次に、30mlネジ付き試験管に、秤量した疑似汚れ(約0.5g)を入れる。次に、試験管に試料溶液を10ml加えて振り混ぜる。次に、試験管を所定温度又は所定時間静置する。ただし、静置の間は、24時間ごとに振り混ぜ操作が行われている。所定時間経過後、秤量した1μメンブレンフィルターを用いて試験管の内容物をろ過し、ろ過物を乾燥後、秤量する。そして、ろ過物の重量から疑似汚れの残存比率(%)を算出する。
【0029】
また、第1試験では、疑似汚れとして2種類の試薬を選定し、これらの試薬ごとに評価を行った。第1の試薬は、硫酸カルシウム・二水和物(CaSO・2HO)(98%、粒径:~100μm)である。第2の試薬は、五酸化バナジウム試薬(V)(99%、粒径:~100μm)である。ここで、舶用内燃機関がC重油(日本産業規格:JIS K 2205;重油3種)を燃料とする舶用ディーゼルエンジンである場合、タービンインペラ4の表面に付着する汚れは、硫酸カルシウムや五酸化バナジウムなどの無機残渣である燃料残渣が主体となる。つまり、第1試験の評価で用いられる試薬は、実際の汚れの成分に準じた物質が選択されている。
【0030】
図2は、第1試験における洗浄効果の温度依存性の評価結果を示すグラフである。図2(a)は、疑似汚れが硫酸カルシウムである場合の結果を示している。図2(b)は、疑似汚れが五酸化バナジウムである場合の結果を示している。なお、両評価では、比較対象として、キレート剤に代えて精製水(pH5.7)を用いた場合の結果も含めている。ここで、横軸の試験温度[℃]は、25(室温)、50及び100であり、浸漬時間(試験時間)は、72時間である。キレート剤は、疑似汚れを水溶液中に可溶化するので、縦軸の試験後の汚れ残存率[wt%]が小さいほど、洗浄性が良好である。
【0031】
図2(a)を参照すると、疑似汚れが硫酸カルシウムである場合では、各種の試料溶液は、いずれも精製水より洗浄性が良好である。また、この結果によれば、これらのキレート剤A~Cのなかでは、キレート剤Cの洗浄性が良好であることがわかる。
【0032】
図2(b)を参照すると、疑似汚れが五酸化バナジウムである場合では、温度が25℃のときであれば、キレート剤Bが最も洗浄性が良好である。ところが、キレート剤Bでは、温度が上昇するにつれて汚れ残存率が急激に上昇する。これは、キレート剤Bを用いた場合、温度が100℃のときに、重量増加と、疑似汚れの固化(粉体から固体への変化)とが確認されたので、バナジウム塩が形成されたからと推察される。特に、舶用過給機1の運用時に洗浄剤CLを用いた洗浄を行う場合もあり得ることに鑑みると、高温状態において洗浄性が低下することは望ましくない。そのため、洗浄剤CLに含有させるキレート剤としては、キレート剤Bを採用しづらい。一方、キレート剤Cの洗浄性は、疑似汚れが硫酸カルシウムである場合と同様に、これらのキレート剤A~Dのなかでは良好であることがわかる。
【0033】
図3は、第1試験における洗浄効果の時間依存性の評価結果を示すグラフである。図3(a)は、疑似汚れが硫酸カルシウムである場合の結果を示している。図3(b)は、疑似汚れが五酸化バナジウムである場合の結果を示している。ここでも、両評価では、比較対象として、キレート剤に代えて精製水を用いた場合の結果も含めている。ここで、横軸の浸漬時間(試験時間)[時間]は、1、3、6、24、48及び72であり、試験温度は、25℃(室温)である。
【0034】
図3(a)及び図3(b)を参照すると、キレート剤Bとキレート剤Cの洗浄性は、キレート剤A又は精製水の洗浄性よりも良好であることがわかる。ここで、キレート剤Cに関しては、疑似汚れが硫酸カルシウム又は五酸化バナジウムのいずれであっても、浸漬時間が1時間で疑似汚れの溶解量が飽和に達する。つまり、浸漬時間が1~3時間の範囲であれば、疑似汚れが硫酸カルシウムであるか五酸化バナジウムであるかを問わず、キレート剤Cは、キレート剤Bよりも汚れの除去が容易になると考えられる。
【0035】
このように、予め選定されたキレート剤A~Dを比較することで得られる第1試験の評価によれば、洗浄剤CLに含有させることが望ましいキレート剤は、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸を成分とするキレート剤Cであることがわかる。
【0036】
次に、洗浄剤CLに含有させるキレート剤の成分を特定するための第2試験を実施した。第2試験では、第1試験と同様に、疑似汚れとして硫酸カルシウム及び五酸化バナジウムを予め選定し、選定された疑似汚れに対する洗浄性を評価する。また、第2試験の方法も、第1試験に準拠したものとする。
【0037】
また、第2試験では、試料として、第1試験で用いられたキレート剤とは異なる4つのキレート剤E~Hを選定した。キレート剤E~Hのそれぞれの成分、試料溶液の濃度及びpHを(表2)に示す。なお、希釈には精製水が用いられている。ここで、試料溶液のpHが中性域である場合、キレート剤の成分によっては、タービンインペラ4に部分腐食が発生することもあり得る。そこで、第2試験で用いられる試料溶液は、pH11前後のアルカリ性域となるように調整されている。
【0038】
【表2】
【0039】
図4は、第2試験における洗浄性に関する評価結果を示すグラフである。なお、第2試験では、試験温度及び浸漬時間(試験時間)を一定としている。具体的には、試験温度は、100℃であり、浸漬時間は、疑似汚れの溶解量が飽和となる3時間である。また、比較対象として、キレート剤に代えて精製水を用いた場合の結果を含めている。
【0040】
図4を参照すると、キレート剤E、キレート剤G及びキレート剤Hは、精製水よりも良好な洗浄性を有している。しかし、キレート剤Eは、汚れ残存率の結果は良好であるものの、ろ過物の固化が確認された。そのため、洗浄剤CLに含有させるキレート剤としては、キレート剤Eを採用しづらい。また、キレート剤Fは、疑似汚れが硫酸カルシウムである場合に精製水よりも残存率が増加しており、ここでもろ過物の固化が確認されたので、カルシウム塩が形成されたと推察される。そのため、洗浄剤CLに含有させるキレート剤としては、キレート剤Fを採用しづらい。そして、キレート剤Gとキレート剤Hとを比較した場合、図4から明らかであるとおり、疑似汚れが硫酸カルシウムであるか五酸化バナジウムであるかを問わず、キレート剤Hの洗浄性の方が、キレート剤Gよりも良好である。
【0041】
このように、予め選定されたキレート剤E~Hを比較することで得られる第2試験の評価によれば、洗浄剤CLに含有させることが望ましいキレート剤は、2-ヒドロキシ-1,3-ジアミノプロパン四酢酸を成分とするキレート剤Hであることがわかる。
【0042】
ここまでの第1試験及び第2試験は、疑似汚れを用いた浸漬試験である。これに対して、発明者は、更に、汚れが付着した実機のタービンインペラ4を準備し、メンテナンス時の浸漬洗浄(常温)と、舶用過給機1の運用中の直接注入洗浄(高温)とを実施した。これらの浸漬洗浄及び直接注入洗浄の追加試験では、上記のキレート剤C及びキレート剤Hのほか、キレート剤A及び精製水を用いて洗浄性を評価した。このとき、浸漬洗浄及び直接注入洗浄の双方において、キレート剤Aを含有した洗浄剤又は精製水を用いて汚れを除去しようとした場合よりも、キレート剤C又はキレート剤Hを含有した洗浄剤を用いた方が、洗浄性が良好であることが目視で確認された。
【0043】
次に、洗浄剤CLに含有させる添加剤の成分を特定するための第3試験を実施した。ここで、運用中の舶用過給機1への直接注入洗浄は、150~250℃の環境下で実施される。そこで、第3試験では、上記特定されたキレート剤を含有する洗浄剤がこのような高温環境下で使用されても、タービンインペラ4への付着を阻害したり(付着留まり性)、表面での広がり(展延性)が低下したりすることを抑えるのに有効な添加剤を検討した。
【0044】
(表3)は、第3試験に際して選定された5つの添加剤A~Eの成分と、付着留まり性の評価結果とを示す表である。試料としての各種の添加剤A~Eは、精製水により希釈された水溶液中に25wt%又は50wt%配合されるように調整されている。そして、これらの添加剤水溶液が、上記のキレート剤Cが含有されているキレート剤水溶液に、濃度が0.1mol/Lとなるように更に配合されている。
【0045】
【表3】
【0046】
付着留まり性については、精製水のみでの洗浄よりも良好(〇)か否(×)かで判断した。(表3)に示す結果のとおり、配合量が50wt%の添加剤水溶液が添加されたキレート剤水溶液は、添加剤A~Eのいずれの添加剤を用いても、250℃のステンレス鋼板(SUS304)上に留まることができる。
【0047】
図5は、第3試験における展延性の評価結果を示すグラフである。展延性については、キレート剤水溶液の液滴の広がりが大きいほど展延性が良好であると評価する。特に200℃以上の高温環境下では、添加剤Eのみが良好な結果が得られた。その他の添加剤A~Dは、添加剤Eよりも沸点が低く、揮発が早いためと推察される。
【0048】
このように、予め選定された添加剤A~Eを比較することで得られる第3試験の評価によれば、付着留まり性や展延性を維持又は向上させる観点から、グリセリンを成分とする添加剤Eを洗浄剤CLに添加させることが望ましいことがわかる。
【0049】
次に、本実施形態に係る洗浄剤CL、それを用いた舶用過給機1、及び、舶用過給機1のタービンインペラ4の洗浄方法による効果について説明する。
【0050】
本実施形態に係る洗浄剤CLは、舶用過給機1のタービンインペラ4の洗浄に用いられる洗浄剤であって、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、又は、2-ヒドロキシ-1,3-ジアミノプロパン四酢酸を含有する。
【0051】
このような洗浄剤CLによれば、キレート剤として上記のいずれかの物質を含有するので、タービンインペラ4に付着する汚れが、重油等を燃料とした舶用内燃機関から排出される燃料残渣が主体であっても、従来よりも洗浄性を向上させることができる。ここで、洗浄剤CLは、舶用過給機1の運用時に実施される主に高温環境下での直接注入洗浄、又は、舶用過給機1のメンテナンス時に実施される主に常温環境下での浸漬洗浄のいずれにも用いることができる。また、洗浄剤CLに上記のキレート剤が含まれる場合、洗浄剤CLを構成するキレート剤水溶液は、アルカリ性域のpHに調整されることもあり得る。この点、上記の評価結果のとおり、タービンインペラ4に付着している汚れを洗浄する場合に、アルカリ性域のpHに調整されているキレート剤水溶液を含むものであればどのような洗浄剤でも洗浄性の向上に寄与するわけではない。本実施形態に係る洗浄剤CLに、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、又は、2-ヒドロキシ-1,3-ジアミノプロパン四酢酸のいずれかを含有させることは、キレート剤水溶液がアルカリ性域のpHに調整されているものの中でも特に有効となり得る。
【0052】
このように、本実施形態によれば、タービンインペラ4に付着した汚れを除去する際の洗浄効果を向上させる洗浄剤CLを提供することができる。ひいては、このような洗浄剤CLを用いてタービンインペラ4を洗浄することで、タービンインペラ4を備える舶用過給機1の過給機効率を向上させることができる。
【0053】
また、本実施形態に係る洗浄剤CLは、グリセリンを含有してもよい。
【0054】
このような洗浄剤CLによれば、添加剤としてグリセリンを含有するので、付着留まり性や展延性を維持又は向上させることができる。
【0055】
一方、本実施形態に係る舶用過給機1は、舶用内燃機関の燃焼器から排出された排気ガスを受けて回転するタービンインペラ4と、タービンインペラ4を内部に配置するタービンハウジング2とを備える。舶用過給機1は、タービンハウジング2に設けられている排気ガスの導入口2aに接続され、燃焼器から排出された排気ガスをタービンハウジング2の内部に導入させる排気管3を備える。また、舶用過給機1は、タービンインペラ4を洗浄するのに用いられる洗浄剤を収容する洗浄剤タンク5と、洗浄剤タンク5から排気管3へ洗浄剤を流通させる洗浄剤配管6とを備える。排気管3の壁部3aは、洗浄剤配管6の排出側の開口端6aと連通して洗浄剤を排気管3の内部に注入する注入口7を有する。洗浄剤は、上記の洗浄剤CLである。
【0056】
このような舶用過給機1によれば、洗浄剤タンク5に収容されている洗浄剤CLを、洗浄剤配管6を介して排気管3の内部に供給し、タービンハウジング2の導入口2aからタービンインペラ4に散布することができる。したがって、特に舶用過給機1の運用中にタービンインペラ4に洗浄剤CLを散布して洗浄するような直接注入洗浄を、より簡易的な構成で実施することができる。また、直接注入洗浄で用いられる洗浄剤CLは、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、又は、2-ヒドロキシ-1,3-ジアミノプロパン四酢酸を含有するので、上記のとおり、タービンインペラ4に付着した汚れを除去する際の洗浄効果を向上させることができる。
【0057】
このように、本実施形態によれば、タービンインペラ4に付着した汚れを除去する際の洗浄効果を向上させる舶用過給機1を提供することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る舶用過給機1では、注入口7よりも排気管3の下流側の範囲では、排気管3の注入口7が設けられている位置での軸方向と、洗浄剤配管6の排出側の開口端6aでの軸方向とのなす角θは、鋭角であってもよい。
【0059】
このような舶用過給機1によれば、排気管3又は洗浄剤配管6の管形状に関わりなく、洗浄剤配管6は、注入口7の近傍では排気管3の下流側に倒れ込む姿勢となる。そのため、洗浄剤配管6の延伸方向に沿って流通して最終的に注入口7から注入される洗浄剤CLは、図1に示すように、タービンハウジング2の導入口2aの側、すなわちタービンインペラ4の側に向かいやすくなる。したがって、タービンインペラ4の表面に対する洗浄剤CLの散布性に有利となり得る。
【0060】
また、本実施形態に係る、舶用過給機1のタービンインペラ4の洗浄方法は、燃焼器で燃焼ガスを生成するステップと、燃焼ガスに洗浄剤を導入するステップと、洗浄剤を含んだ燃焼ガスをタービンインペラ4へ供給するステップとを備える。洗浄剤は、上記の洗浄剤CLである。
【0061】
このような洗浄方法によれば、上記の各ステップを含む直接注入洗浄で用いられる洗浄剤CLは、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、又は、2-ヒドロキシ-1,3-ジアミノプロパン四酢酸を含有する。したがって、上記のとおり、タービンインペラ4に付着した汚れを除去する際の洗浄効果を向上させることができる。
【0062】
なお、上記説明した一実施形態では、舶用内燃機関の燃焼器から排出された排気ガスを舶用過給機1に導入させる排気管3が1つであるものとした。しかし、タービンハウジング2の導入口2aに接続される排気管3の本数は、必ずしも1つに限らず、2つ以上あってもよい。例えば、図6に示すように、タービンハウジング2の導入口2aに対して第1排気管20と第2排気管21との2つの排気管が接続されている場合には、注入口7は、第1排気管20の壁部20aと第2排気管21の壁部21aとの双方にそれぞれ設けられてもよい。
【0063】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正又は変形をすることが可能である。上記の各実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に抜き出して組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 舶用過給機
2 タービンハウジング
2a 導入口
3 排気管
3a 壁部
4 タービンインペラ
5 洗浄剤タンク
6 洗浄剤配管
6a 開口端
7 注入口
CL 洗浄剤
図1
図2
図3
図4
図5
図6