(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161264
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】粉体塗料組成物、塗膜および塗装体
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241108BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20241108BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241108BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20241108BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20241108BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20241108BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/03
C09D7/61
C09D7/65
C09D167/00
C09D133/00
C09D127/12
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024153861
(22)【出願日】2024-09-06
(62)【分割の表示】P 2023055627の分割
【原出願日】2023-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】田邉 祥子
(72)【発明者】
【氏名】上原 成海
(72)【発明者】
【氏名】北川 将司
(57)【要約】
【課題】光沢がありかつ優れた光輝性を有する塗膜の形成が可能であり、しかも、回収再利用性にも優れる粉体塗料組成物等を提供すること。
【解決手段】本発明の粉体塗料組成物は、樹脂含有粉体粒子(A)、光輝顔料(B)および結着剤(C)を含有し、結着剤(C)は、混合する溶媒との溶解性を判別するハンセン溶解球HSSにおける中心座標(δ
d、δ
p、δ
h)を(19.0、7.0、5.0)とするとき、相互作用距離R
aが20以上である溶媒(D)に溶解または分散し、Tgが30℃以上、かつ重量平均分子量が1000~100000の樹脂である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂含有粉体粒子(A)、光輝顔料(B)および結着剤(C)を含有する粉体塗料組成物であって、
前記結着剤(C)は、
混合する溶媒との溶解性を判別するハンセン溶解球における中心座標(δd、δp、δh)を(19.0、7.0、5.0)とするとき、相互作用距離Raが20以上である溶媒(D)に溶解または分散し、Tgが30℃以上、かつ重量平均分子量が1000~100000の樹脂であることを特徴とする粉体塗料組成物。
【請求項2】
前記結着剤(C)は、前記相互作用距離Raが30以上である溶媒(D)に溶解または分散する樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項3】
前記結着剤(C)は、Tgが40℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項4】
前記樹脂含有粉体粒子(A)を構成する樹脂(A1)は、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選択される1種以上のバインダー樹脂(A11)と、エポキシ基を有する化合物またはその重合物、アミド化合物、イソシアネート化合物からなる群より選択される1種以上の硬化剤(A12)とを反応させて得られる樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項5】
前記溶媒(D)は、水、エチレングリコール、およびメタノールからなる群より選択される1種以上の溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項6】
前記溶媒(D)は、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項7】
前記光輝顔料(B)は、フレーク状のアルミニウム片であることを特徴とする請求項1に記載の粉体塗料組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粉体塗料組成物を用いて形成された塗膜。
【請求項9】
基材と、
前記基材の表面に、請求項1~7のいずれか1項に記載の粉体塗料組成物を用いて形成された塗膜と、を有する塗装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料組成物、塗膜および塗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、耐候性および基材への付着性を有する粉体塗料として、フッ素樹脂と非フッ素樹脂、顔料を含む熱硬化型の粉体塗料が知られている。この粉体塗料において顔料として光輝顔料を用いると、光輝性を有する塗膜を形成することができる(例えば、特許文献1参照)。塗膜の形成方法としては、例えば静電粉体塗装法が用いられる。
【0003】
ところで、一般的に、粉体塗料を構成する、樹脂粉末と、光輝顔料(例えば金属顔料)とは、帯電率が大きく異なる。このため、樹脂粉末と光輝顔料とを含む粉体塗料を用いて静電粉体塗装を行うと、塗装時に樹脂粉末と光輝顔料との間に分離現象が生じやすい。この分離現象が生じると、得られる塗膜の意匠性が低下しやすいという問題がある。また、上記分離現象が生じると、塗布前後の粉体塗料の顔料含有率が変化しやすい。この顔料含有率が変化すると、回収して再使用した後の粉体塗料を用いて得られる塗膜と、再使用前の粉体塗料を用いて得られる塗膜と、の間で色調が変化しやすいことから、粉体塗料のリサイクル(回収再利用)が難しいという問題がある。
【0004】
これに対し、従来、種々の提案がされている。例えば、特許文献2および特許文献3には、熱硬化性樹脂粉末と金属顔料との間の分離現象を回避するために、熱硬化性樹脂粉末の表面と光輝顔料とを粘着性を備えた結合剤で付着させる方法(ボンディング法)が開示されている。また、特許文献2および特許文献3の実施例には、結合剤としてテルペン系の樹脂を用いることが開示されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、樹脂粉末のうち特にフッ素樹脂粉末に対するボンディング法が開示されている。具体的には、特許文献4には、フッ素樹脂と非フッ素樹脂とを含む樹脂粉末、光輝顔料および結着剤を含有する粉体塗料であって、融点25℃以上の界面活性剤からなる結着剤を用いて熱硬化性樹脂粉末の表面と光輝顔料とを付着させる方法が開示されている。特許文献4の実施例には、結合剤の溶媒としてフルオロ系のハロゲン含有溶媒を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-12119号公報
【特許文献2】特開2004-175813号公報
【特許文献3】特許第3926270号公報
【特許文献4】特許第6841235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2および特許文献3の実施例で用いられるテルペン系の樹脂を、粘着性を備えた結合剤として用いる場合には、テルペン系の樹脂を、n-ヘプタン等の低極性溶媒に溶解させる必要がある。しかし、一般的に、これらの低極性溶媒はフッ素樹脂も溶解させるため、フッ素樹脂を含む熱硬化性樹脂粉末粒子に用いると問題が生じやすい。具体的には、フッ素樹脂を含む熱硬化性樹脂粉末粒子に上記低極性溶媒を用いると、フッ素樹脂の一部が溶解して熱硬化性樹脂粉末同士が結着することにより、熱硬化性樹脂粉末の粒子径が増大したり、塗装作業性が低下したり、塗膜の外観が低下したりするおそれがある。
【0008】
また、一般的に、特許文献4の実施例で用いられるフルオロ系のハロゲン含有溶媒はフッ素樹脂を溶解させる。このため、フッ素樹脂を含む熱硬化性樹脂粉末粒子に上記フルオロ系のハロゲン含有溶媒を用いると、特許文献2および特許文献3の低極性溶媒を用いる場合と同様に、熱硬化性樹脂粉末の粒子径が増大したり、塗装作業性が低下したり、塗膜の外観が低下したりするおそれがある。
【0009】
なお、粉体塗料がカルボキシル基を有する樹脂を含む粉体塗料である場合に、特許文献2~4に開示された結着剤を用いると、塗膜の外観の光沢が低下しやすいという問題もあった。
【0010】
ボンディング方法用の、樹脂含有粉体粒子、光輝顔料および結着剤を含有する粉体塗料組成物では、結着剤を溶解しつつ樹脂含有粉体粒子の樹脂を溶解しない溶媒を含むことが望まれる。これに対し、特許文献2~4に開示された粉体塗料組成物は、特定の樹脂および特定の結着剤の組み合わせに係る場合に限って、ボンディング方法に使用することができるにすぎない。当業界においては、粉体塗料組成物の設計の自由度の観点から、様々な種類の樹脂含有粉体粒子に幅広く適用できるボンディング方法が望まれている。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、光沢がありかつ優れた光輝性を有する塗膜の形成が可能であり、しかも、回収再利用性にも優れる粉体塗料組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、上記粉体塗料組成物を用いて形成される塗膜および塗装体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、樹脂含有粉体粒子、光輝顔料および結着剤を含有する粉体塗料組成物において、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)(δd、δp、δh)を用いて特定のハンセンの溶解球を形成し、結着剤が、特定のハンセンの溶解球の中心座標に対する距離である相互作用距離Raが20以上の溶媒に溶解または分散する樹脂であると、光沢がありかつ優れた光輝性を有する塗膜の形成が可能であり、しかも、回収再利用性にも優れる粉体塗料組成物を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明に係る粉体塗料組成物は、樹脂含有粉体粒子(A)、光輝顔料(B)および結着剤(C)を含有する粉体塗料組成物であって、前記結着剤(C)は、混合する溶媒との溶解性を判別するハンセン溶解球(HSS)における中心座標(δd、δp、δh)を(19.0、7.0、5.0)とするとき、相互作用距離Raが20以上である溶媒(D)に溶解または分散し、Tgが30℃以上、かつ重量平均分子量が1000~100000の樹脂であることを特徴とする。
【0014】
(2)前記結着剤(C)は、前記相互作用距離Raが30以上である溶媒(D)に溶解または分散する樹脂であることが好ましい。
【0015】
(3)前記結着剤(C)は、Tgが40℃以上であることが好ましい。
【0016】
(4)前記樹脂含有粉体粒子(A)を構成する樹脂(A1)は、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選択される1種以上のバインダー樹脂(A11)と、エポキシ基を有する化合物またはその重合物、アミド化合物、イソシアネート化合物からなる群より選択される1種以上の硬化剤(A12)とを反応させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0017】
(5)前記溶媒(D)は、水、エチレングリコール、およびメタノールからなる群より選択される1種以上の溶媒であることが好ましい。
【0018】
(6)前記溶媒(D)は、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒であることが好ましい。
【0019】
(7)前記光輝顔料(B)は、フレーク状のアルミニウム片であることが好ましい。
【0020】
(8)本発明に係る塗膜は、前記粉体塗料組成物を用いて形成される。
【0021】
(9)本発明に係る塗装体は、基材と、前記基材の表面に、前記粉体塗料組成物を用いて形成された塗膜と、を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、光沢がありかつ優れた光輝性を有する塗膜の形成が可能であり、しかも、回収再利用性にも優れる粉体塗料組成物を提供することができる。また、本発明によれば、上記粉体塗料組成物を用いて形成された塗膜、およびこの塗膜を有する塗装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】HSP(δ
d、δ
p、δ
h)を用いて、ハンセンの3Dグラフ上に、特定の中心座標および特定の相互作用半径R
0を有するハンセンの溶解球を作成するときの方法を説明するための図である。
【
図2】特定のハンセン溶解球の形成に用いた樹脂(仮想樹脂X)を溶解する溶媒群と、前記樹脂(仮想樹脂X)を溶解しない溶媒群とを示した図である。
【
図3】特定のハンセン溶解球の形成に用いた樹脂(仮想樹脂X)を溶解する溶媒群と、前記樹脂(仮想樹脂X)を溶解しない溶媒群と、特定のハンセン溶解球の中心座標(CC)から相互作用距離R
aに位置する溶媒とを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、図の形状、大きさは、説明の便宜のため適宜変更している。このため、本発明は図面の形状に拘束されるものではない。
【0025】
[粉体塗料組成物]
本発明に係る粉体塗料組成物は、樹脂含有粉体粒子(A)、光輝顔料(B)および結着剤(C)を含有する。
【0026】
(樹脂含有粉体粒子(A))
樹脂含有粉体粒子(A)は、少なくとも樹脂(A1)を含む。樹脂(A1)は、少なくともバインダー樹脂(A11)を含み、必要に応じて、硬化剤(A12)を含んでもよい。ここで、硬化剤(A12)は、バインダー樹脂(A11)と反応する化合物または重合物である。硬化剤(A12)は、樹脂含有粉体粒子(A)調製時には反応せず、粉体塗料組成物を用いて成膜する際に反応することが好ましい。
【0027】
樹脂含有粉体粒子(A)は、例えば、少なくともバインダー樹脂(A11)と、必要に応じて配合される硬化剤(A12)とを含む混合物を溶融混錬した後、冷却し粉砕することにより樹脂(A1)を含むように作製される。なお、前記混合物は、必要により、表面調整剤、滑剤等の添加剤(A2)、着色顔料(A3)等をさらに含んでいてもよい。
【0028】
前記混合物が、添加剤(A2)をさらに含む場合、得られる樹脂含有粉体粒子(A)は、樹脂(A1)と、添加剤(A2)に由来する成分とを含む。ここで、「添加剤(A2)に由来する成分」とは、添加剤(A2)そのもの、または添加剤(A2)と他の成分との反応生成物、を意味する。
【0029】
また、前記混合物が、着色顔料(A3)をさらに含む場合、得られる樹脂含有粉体粒子(A)は、樹脂(A1)と、着色顔料(A3)とを含む。
【0030】
さらに、添加剤(A2)および着色顔料(A3)をさらに含む場合、得られる樹脂含有粉体粒子(A)は、樹脂(A1)と、添加剤(A2)に由来する成分と、着色顔料(A3)とを含む。
【0031】
<バインダー樹脂(A11)>
バインダー樹脂(A11)としては、例えば、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選択される1種以上が用いられ、複数種類のバインダーを組み合わせて配合してもよい。
【0032】
バインダー樹脂(A11)に用いられるフッ素樹脂は、含フッ素モノマーを重合または共重合して得られた含フッ素共重合体である。
【0033】
フッ素樹脂としては、例えば、常温で固体状の樹脂であり、軟化点50~150℃のものが用いられる。
【0034】
含フッ素モノマーとしては、例えば、フッ化ビニルや、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ペンタフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロピレン、(パー)フルオロアルキルトリフルオロビニルエーテル〔(パー)フルオロアルキル基の炭素数は、1~18個である。〕等が用いられる。
【0035】
フッ素樹脂は、含フッ素モノマーと、含フッ素モノマー以外の重合性モノマーとを共重合させたものとであってもよい。重合性モノマーとしては、ビニルエーテル類、オレフィン類、アリルエーテル類、ビニルエステル類、アリルエステル類、(メタ)アクリル酸エステル類、クロトン酸エステル類等が用いられる。
【0036】
重合性モノマーとしては、例えば、
メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;
エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、シクロヘキセン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のオレフィン類;
スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー類;
メチルアリルエーテル、エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル等のアルキルアリルエーテル類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等の脂肪酸ビニルエステル類;
プロピオン酸アリル、酢酸アリル等の脂肪酸アリルエステル類;
(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類;
(メタ)アクリル酸アミド等の(メタ)アクリル酸アミド類;アクリロニトリル、2,4-ジシアノブテン-1等のシアノ基含有モノマー類;
イソプレン、ブタジエン等のジエン類
等の重合性モノマーが用いられる。
【0037】
フッ素樹脂は、硬化剤等と反応する反応性部位を有していてもよい。また、フッ素樹脂は、上記含フッ素モノマーおよび重合性モノマーの1種以上と、反応性基含有モノマーとの共重合体であってもよい。
【0038】
反応性基含有モノマーとしては、
水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、ニトリル基、グリシジル基、イソシアネート基等の官能基を含むモノマーが用いられる。反応性基含有モノマーとしては、例えば、水酸基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、アミド基含有モノマー、ニトリル基含有モノマー、グリシジル基含有モノマー、イソシアネート基含有モノマー等が用いられる。
【0039】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、
アリルアルコール;
2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、4-ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類;
2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、3-ヒドロキシプロピルアリルエーテル、4-ヒドロキシブチルアリルエーテル、4-ヒドロキシシクロヘキシルアリルエーテル等のヒドロキシアルキルアリルエーテル類;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
ヒドロキシ酢酸ビニル、ヒドロキシイソ酪酸ビニル、ヒドロキシプロピオン酸ビニル、ヒドロキシ酪酸ビニル、ヒドロキシ吉草酸ビニル、ヒドロキシシクロヘキシルカルボン酸ビニル等のヒドロキシアルキルカルボン酸とビニルアルコールとのエステル類;
ヒドロキシエチルアリルエステル、ヒドロキシプロピルアリルエステル、ヒドロキシブチルアリルエステル、ヒドロキシイソブチルアリルエステル等のヒドロキシアルキルアリルエステル類
等が用いられる。
【0040】
また、カルボキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、カルボキシアルキルアリルエステル等が用いられる。アミノ基含有モノマーとしては、アミノアルキルビニルエーテル類、アミノアルキルアリルエーテル類が用いられる。アミド基含有モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド等が用いられる。ニトリル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリロニトリルが用いられる。グリシジル基含有モノマーとしては、グリシジルアリルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート等が用いられる。イソシアネート基含有モノマーとしては、ビニルイソシアネート、イソシアネートエチルアクリレート等が用いられる。
【0041】
本発明で用いるフッ素樹脂は、フッ素含有量が10~70質量%のものが好ましい。
【0042】
また、硬化剤成分(A12)として、水酸基と反応するものを用いる場合、フッ素樹脂の水酸基価は10~100mgKOH/gのものが好ましく、30~70mgKOH/gであることがより好ましい。
【0043】
硬化剤成分(A12)として、カルボキシル基と反応するものを用いる場合、フッ素樹脂の酸価は1~80mgKOH/gのものが好ましく、10~60mgKOH/gであることがより好ましい。
【0044】
バインダー樹脂(A11)に用いられるポリエステル樹脂は、カルボン酸と多価アルコールとを公知の方法で反応させたものであり、常温で固体状の樹脂である。ポリエステル樹脂の軟化点は、好ましくは100~150℃である。
【0045】
カルボン酸を含むカルボン酸成分としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,2-オクタデカンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸、これらの多価カルボン酸の低級アルキルエステルおよびその無水物、またはリンゴ酸、酒石酸、1,2-ヒドロキシステアリン酸、パラオキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸等が用いられる。
【0046】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ネオペンチルグリコール、スピログリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等が用いられる。
【0047】
ポリエステル樹脂は、上記のカルボン酸成分と多価アルコールとを原料とし、粉体塗料用ポリエステル樹脂製造の常法によって製造することができる。例えば、上記の諸原料を適当な組み合わせ、配合比で用い、常法に従って200~280℃でエステル化またはエステル交換反応を行った後、減圧下で触媒を用い、230~290℃で重縮合反応を行い、その後、アルコール成分で解重合反応を行ってポリエステル樹脂を製造することができる。
【0048】
ポリエステル樹脂は、その数平均分子量は8000以下であり、かつ、重量平均分子量が10000~20000であると、溶融粘度の制御の観点から好ましい。
【0049】
硬化剤成分(A12)として、水酸基と反応するものを用いる場合、ポリエステル樹脂の水酸基価は、好ましくは20~100mgKOH/g、より好ましくは30~80mgKOH/gである。
【0050】
また、硬化剤成分(A12)として、カルボキシル基と反応するものを用いる場合、ポリエステル樹脂の酸価は、好ましくは1~80mgKOH/g、より好ましくは10~60mgKOH/gである。
【0051】
また、フッ素樹脂とポリエステル樹脂を含む粉体塗料に関しては、用いられるポリエステル樹脂の溶融粘度が3.5Pa・s(190℃)以下であり、かつ、レオメーターにより200℃から降温速度10℃/分で溶融粘度を測定したときの100~120℃での温度と粘度のアレニウスプロットから求めた傾きが15000以上であると、塗膜成膜時にフッ素樹脂成分が塗膜表層に偏在しやすい。このようにフッ素樹脂成分が塗膜表層に偏在すると、塗膜の耐候性が良好となる。
【0052】
なお、上記傾きは、例えば以下の方法で算出される。はじめに、ティー・エイ・インスツルメント社製レオメーターARESを用い、直径40mmのパラレルプレート、ギャップ幅1.0mm、周波数9.42rad/s、歪み1.0%の測定条件で粘度を測定する。次に、得られた測定結果を用い、横軸に温度T(K)の逆数1/Tと縦軸に粘度Vの対数lnVをそれぞれグラフにプロットする(アレニウスプロット)。そして、得られた直線の100~120℃での傾きを求め、この値を上記傾きとする。
【0053】
上記傾きは、塗膜の層分離が容易である観点から、より好ましくは16000~20000である。
【0054】
バインダー樹脂(A11)に用いられるアクリル樹脂は、常温で固体状の樹脂であり、アクリル酸エステル類またはメタクリル酸エステル類の重合体である。上記アクリル樹脂としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸ならびにそのエステル、アミドおよびニトリル等から選択されるアクリル成分の1種または複数種を重合させて得られる重合体が用いられる。また、上記アクリル樹脂としては、アクリル成分と、例えば、スチレン等の非アクリル成分とを重合させて得られる重合体も用いられる。上記アクリル樹脂は、軟化点が100~150℃であり、その数平均分子量が8000以下であり、かつ、重量平均分子量が10000~20000であると、溶融粘度の制御の観点から好ましい。
【0055】
アクリル成分としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n-アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体や、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、2-アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3-アミノプロピル(メタ)アクリレート、2-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等の官能基含有モノマー等が用いられる。また、アクリル成分としては、アクリル酸やメタクリル酸;アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド等のアミド系モノマー;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β-(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、およびγ-(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体等も用いられる。
【0056】
アクリル樹脂を構成する成分全体に対するアクリル成分の割合は、例えば、40~100質量%である。
【0057】
非アクリル成分としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、ビニルバーサチック酸等のカルボキシル基含有単量体;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル系モノマー;マレイン酸アミド等のアミド系モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体;ジアルキルフマレート、アリルアルコール、ビニルピリジン、ブタジエン等が用いられる。
【0058】
硬化剤成分(A12)として、水酸基と反応するものを用いる場合、アクリル樹脂の水酸基価は、好ましくは20~100mgKOH/g、より好ましくは30~80mgKOH/gである。
【0059】
また、硬化剤成分(A12)として、カルボキシル基と反応するものを用いる場合、アクリル樹脂の酸価は、好ましくは1~80mgKOH/g、より好ましくは10~60mgKOH/gである。
【0060】
<硬化剤(A12)>
硬化剤(A12)としては、エポキシ基を有する化合物またはその重合物、アミド化合物、イソシアネート化合物からなる群より選択される1種以上が用いられる。
【0061】
エポキシ基を有する化合物としては、分子中に複数のエポキシ基を有する化合物が好ましく、トリグリシジルイソシアヌレートが代表例として挙げられる。
エポキシ基を有する重合物(以下、エポキシ樹脂とも呼ぶ)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルアミン型樹脂、複素環式エポキシ樹脂、多官能型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独使用または併用することができる。
【0062】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAとエピクロロヒドリン等のエピハロヒドリンとから合成される固形エポキシ樹脂、ビスフェノールAと2価フェノール類およびエピハロヒドリンから誘導されるエポキシ樹脂とビスフェノールAとの伸長反応により得られる固形エポキシ樹脂等が用いられる。
【0063】
市場に流通するエポキシ樹脂としては、三菱化学(株)製jER1004、jER1004F、jER1007、jER4005P、DIC(株)製EPICLON3050、EPICLON4050、新日鉄住金化学(株)製エポトートYD014D、南亜プラスチック(株)製EPONANYANPES-904等が用いられる。
【0064】
エポキシ樹脂の軟化点は特に限定されるものではないが、好ましくは60~150℃である。エポキシ樹脂のエポキシ当量も特に限定されるものではないが、好ましくは400~3000である。
【0065】
エポキシ樹脂としては、エポキシ当量の異なる複数のエポキシ樹脂を混合して用いることができる。複数のエポキシ樹脂を混合する場合、エポキシ当量が1000以下のエポキシ樹脂と、1000以上のエポキシ樹脂とを組み合わせることが好ましい。
【0066】
また、エポキシ樹脂は、最小のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂(A-min)と最大のエポキシ当量を有するエポキシ樹脂(A-max)のエポキシ当量の差が、通常300以上、好ましくは500以上、より好ましくは800以上である。
【0067】
アミド化合物としては、例えばβ-ヒドロキシアルキルアミドが用いられる。β-ヒドロキシアルキルアミドは、低温硬化性や塗装して得られる塗膜の耐水性の観点から、好ましくは一分子当たりの官能基を2個以上有するβ-ヒドロキシアルキルアミドである。β-ヒドロキシアルキルアミドは、低温硬化性や塗装して得られる塗膜の耐水性の観点から、より好ましくは、N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)アセトアミド、ビス(β-ヒドロキシエチル)アジポアミド、ビス(β-ヒドロキシプロピル)アジポアミド、ビス〔N,N-ジ(β-ヒドロキシエチル)〕アジポアミド、ビス〔N,N-ジ(β-ヒドロキシプロピル)〕アジポアミドである。β-ヒドロキシアルキルアミドは、樹脂中のカルボキシル基に対するヒドロキシルアミド基の当量が、好ましくは0.5~1.5当量である。
【0068】
イソシアネート化合物としては、例えば、ブロックイソシアネート化合物が用いられる。イソシアネート化合物は、好ましくは常温で固体のものが用いられる。
【0069】
ブロックイソシアネート化合物は、例えば、脂肪族、芳香族または芳香脂肪族のジイソシアネートと、活性水素を有する低分子化合物とを反応させて得たポリイソシアネートを、ブロック剤と反応させ、マスキングすることにより製造できるため、製造が容易である。
【0070】
ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が用いられる。
【0071】
活性水素を有する低分子化合物としては、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン等の他、イソシアヌレート、ウレチジオン、ヒドロキシル基を含有する低分子量ポリエステル、ポリカプロラクトン等が用いられる。
【0072】
ブロック剤としては、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、フェノール、クレゾーン等のフェノール類、カプロラクタム、ブチロラクタム等のラクタム類、シクロヘキサノン、オキシム、メチルエチルケトオキシム等のオキシム類が用いられる。
【0073】
例えば、ブロックイソシアネートの具体例としては、ε-カプロラクタムでブロックされたイソホロンジイソシアネート(エボニック社製ベスタゴン B1530、バイエル社製クレラン UI)等が用いられる。
【0074】
イソシアネート化合物は、その軟化点が、好ましくは10~120℃、より好ましくは40~100℃である。軟化点が10℃未満であると、粉体塗料組成物が常温環境下で硬化したり、粒状の塊ができたりするおそれがある。一方、軟化点が120℃を超えると、溶融練合により粉体塗料組成物を製造する際、イソシアネート化合物を該粉体塗料組成物中で均質に分散させることが難しくなり、得られる塗膜の平滑性、塗膜強度、耐湿性等の性能が損なわれるおそれがある。
【0075】
イソシアネート化合物は、樹脂中の水酸基に対するイソシアネート基の当量が、好ましくは0.05~1.5当量、より好ましくは0.8~1.2当量である。イソシアネート基が0.05当量未満であると、粉体塗料組成物の硬化度が不足し、密着性、塗膜硬度、耐薬品性等の塗膜性能が低くなるおそれがある。また、イソシアネート基が1.5当量を超えると、塗膜が脆くなったり、耐熱性、耐薬品性、耐湿性等が劣ったりするおそれがある。さらに、ブロックイソシアネートは高価であるため、ブロックイソシアネートを過剰に使用する場合には、費用が増大しやすい。
【0076】
樹脂含有粉体粒子(A)を構成する樹脂(A1)は、好ましくは、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、およびアクリル樹脂からなる群より選択される1種以上のバインダー樹脂(A11)と、エポキシ基を有する化合物またはその重合物、アミド化合物、イソシアネート化合物からなる群より選択される1種以上の硬化剤(A12)とを含むものである。
【0077】
樹脂含有粉体粒子(A)を構成する樹脂(A1)は、より好ましくは、フッ素樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される1種以上のバインダー樹脂(A11)と、イソシアネート化合物からなる硬化剤(A12)とを含むものである。
【0078】
樹脂含有粉体粒子(A)を構成する樹脂(A1)は、より好ましくは、ポリエステル樹脂からなるバインダー樹脂(A11)と、エポキシ基を有する化合物またはその重合物からなる硬化剤(A12)とを含むものである。
【0079】
樹脂含有粉体粒子(A)を構成する樹脂(A1)は、より好ましくは、ポリエステル樹脂からなるバインダー樹脂(A11)と、アミド化合物からなる硬化剤(A12)とを含むものである。
【0080】
<添加剤(A3)>
添加剤(A3)としては、例えば、一般塗料用添加剤である可塑剤、硬化促進剤、架橋促進触媒、表面調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、流動性調整剤、垂れ防止剤および消泡剤等が用いられる。
【0081】
<着色顔料(A4)>
着色顔料(A4)としては、例えば、酸化チタン、黄色酸化鉄、チタン黄、ベンガラ(赤色酸化鉄)、リトポン、酸化アンチモン等の無機系顔料や、ハンザイエロー5G、パーマネントエローFGL、フタロシアニンブルー、インダンスレンブルーRS、パーマネントレッドF5RK、ブリリアントファーストスカーレットG等の有機顔料等が用いられる。
【0082】
樹脂含有粉体粒子(A)は、上記のように、例えば、少なくともバインダー樹脂(A11)と硬化剤(A12)とを含む混合物を溶融混錬した後、冷却し粉砕することにより樹脂(A1)を含むように作製される。
【0083】
樹脂含有粉体粒子(A)は、必要により、樹脂(A1)に加え、添加剤(A2)に由来する成分、着色顔料(A3)等をさらに含んでいてもよい。
【0084】
樹脂含有粉体粒子(A)は、50%体積平均粒子径が、例えば15~100μm、好ましくは20~70μm、より好ましくは30~50μmである。
【0085】
(光輝顔料(B))
光輝顔料(B)としては、例えば、アルミニウム粉顔料、ニッケル粉顔料、ステンレス粉顔料、銅粉、ブロンズ粉、金粉、銀粉、雲母顔料、グラファイト顔料、ガラスフレーク顔料、薄片化加工したプラスチック顔料、鱗片状酸化鉄顔料等が用いられる。アルミニウム粉顔料としては、例えば、フレーク状のアルミニウム片が用いられる。光輝顔料(B)がフレーク状のアルミニウム片であると光輝性が高いため好ましい。
【0086】
光輝顔料(B)は、50%体積平均粒子径が、例えば3~100μm、好ましくは5~80μm、より好ましくは15~60μmである。
【0087】
光輝顔料(B)は、アスペクト比が、例えば2~60、好ましくは3~40、より好ましくは5~25である。
【0088】
(結着剤(C))
結着剤(C)は、樹脂含有粉体粒子(A)と光輝顔料(B)とを結着(ボンディング)させる樹脂である。なお、結着剤(C)は、樹脂含有粉体粒子(A)と光輝顔料(B)との結着(ボンディング)の際に、流動性を有するように、溶媒(D)に溶解または分散して用いられる。
【0089】
本発明に係る粉体塗料組成物を構成する結着剤(C)は、樹脂含有粉体粒子(A)と光輝顔料(B)との結着(ボンディング)の際に、樹脂含有粉体粒子(A)を構成する樹脂(A1)を溶解させずかつ結着剤(C)を溶解または分散させる溶媒(D)、と共に用いられるようになっている。
【0090】
具体的には、結着剤(C)は、ハンセン(Hansen)の3Dグラフ上におけるハンセン溶解球の特定の中心座標(δd、δp、δh)=(19.0、7.0、5.0)からの距離である相互作用距離Raが特定範囲内にある溶媒(D)に溶解または分散すると共に、Tgおよび重量平均分子量が特定範囲内にある樹脂になっている。
【0091】
より具体的には、結着剤(C)は、混合する溶媒との溶解性を判別するハンセン溶解球における中心座標(δd、δp、δh)を(19.0、7.0、5.0)とするとき、相互作用距離Raが20以上である溶媒(D)に溶解または分散し、Tgが30℃以上、かつ重量平均分子量が1000~100000の樹脂になっている。
【0092】
上記ハンセンの3Dグラフ、ハンセン溶解球、中心座標(δd、δp、δh)、および相互作用距離Raは、HSP(δd、δp、δh)に基づいて形成、算出される。以下、これらの概念について図面を参照して説明する。
【0093】
<ハンセン溶解度パラメータ(HSP)>
図1は、HSP(δ
d、δ
p、δ
h)を用いて、ハンセンの3Dグラフ上に、特定の中心座標および特定の相互作用半径R
0を有するハンセンの溶解球を作成するときの方法を説明するための図である。
【0094】
ある物質Xのハンセン(Hansen)HSP(δd、δp、δh)は、下記式(1)により規定されるパラメータである。
【0095】
【数1】
(δ:物質Xのヒルデブラント(Hildebrand)溶解度パラメータ(SP)[KJ/cm
3]
1/2、ΔE
V:物質Xのモル蒸発エネルギー[KJ/mol]、V:物質Xのモル分子容[cm
3/mol]、ΔE
d
V:物質Xの分散力項のモル蒸発エネルギー[KJ/mol]、ΔE
p
V:物質Xの双極子間力項のモル蒸発エネルギー[KJ/mol]、ΔE
h
V:物質Xの水素結合力項のモル蒸発エネルギー[KJ/mol]、δ
d:物質XのHSPの分散力項、δ
p:物質XのHSPの双極子間力項、δ
h:物質XのHSPの水素結合力項)
【0096】
なお、本発明では、上記物質Xとして、樹脂含有粉体粒子(A)を構成する多くの樹脂(A1)に適用可能な樹脂として仮想樹脂Xを設定している。具体的には、本発明では、この仮想樹脂Xを、ハンセン溶解球における特定の中心座標(δd、δp、δh)=(19.0、7.0、5.0)に位置する樹脂と設定した。本発明では、ハンセン溶解球の中心座標として、特定の中心座標(δd、δp、δh)=(19.0、7.0、5.0)を設定したために、様々な種類の樹脂含有粉体粒子に対して、光輝顔料をボンディングすることが可能になる。
【0097】
図1に示すように、HSP(δ
d、δ
p、δ
h)は、δ
d軸、δ
p軸およびδ
h軸の3本の軸を有するハンセンの3DグラフG上に表される。ハンセンの3DグラフG上において、HSP(δ
d、δ
p、δ
h)は、
図1の点XCに表される。
【0098】
本発明では、
図1の点XC(δ
d、δ
p、δ
h)の具体的数値として、上記のように仮想樹脂Xの(δ
d、δ
p、δ
h)=(19.0、7.0、5.0)を用い、この(δ
d、δ
p、δ
h)=(19.0、7.0、5.0)を、ハンセン溶解球HSSの中心座標CCとして設定する。
【0099】
本発明では、仮想樹脂Xの(δd、δp、δh)=(19.0、7.0、5.0)を中心座標CCとして、ハンセン溶解球HSSを作成する。ハンセン溶解球HSSは、仮想樹脂Xを溶解する溶媒のみを含む最小の球である。最小の球は、仮想樹脂Xと、種々の溶媒との間で溶解するか否かを試験またはシミュレートした場合の、仮想樹脂Xを溶解する溶媒のみを含む最小の球として算出される。
【0100】
ハンセン溶解球HSSの半径は、相互作用半径R0と定義される。相互作用半径R0は、下記式(2)で規定されハンセンの3DグラフG上における中心座標CCからの距離である相互作用距離Raのうち、ハンセン溶解球HSSが仮想樹脂Xを溶解する溶媒のみを含む最小の球の半径である。なお、下記式(2)において、成分1を仮想樹脂X、成分2を溶媒とした。本発明では、前述の「仮想樹脂Xと、種々の溶媒との間で溶解するか否かを試験またはシミュレートした」結果から、仮想樹脂Xの相互作用半径R0を20未満(ただし、0は除く)に設定できることを見出した。
【0101】
【数2】
(R
a:相互作用距離、δ
d,1:成分1(仮想樹脂X)のHSPの分散力項、δ
d,2:成分2(溶媒)のHSPの分散力項、δ
p,1:成分1(仮想樹脂X)のHSPの双極子間力項、δ
p,2:成分2(溶媒)のHSPの双極子間力項、δ
h,1:成分1(仮想樹脂X)のHSPの水素結合力項、δ
h,2:成分2(溶媒)のHSPの水素結合力項)
【0102】
ところで、一般的に、下記式(3)で規定されるΔδ、すなわち、成分1(仮想樹脂X)のハンセンの3DグラフG上における溶解度パラメータHSP(δd,1、δp,1、δh,1)と成分2(溶媒)のハンセンの3DグラフG上におけるHSP(δd,2、δp,2、δh,2)との距離Δδは、成分1(仮想樹脂X)と成分2(溶媒)との溶解性を示す指標となる。Δδが小さいほど2つの成分が溶解しやすくなり、Δδが大きいほど2つの成分が溶解しにくくなるといえる。
【0103】
【数3】
(Δδ:成分1(仮想樹脂X)のハンセンの3DグラフG上における溶解度パラメータHSP(δ
d,1、δ
p,1、δ
h,1)と成分2(溶媒)のハンセンの3DグラフG上におけるHSP(δ
d,2、δ
p,2、δ
h,2)との距離、δ
d,1:成分1(仮想樹脂X)のHSPの分散力項、δ
d,2:成分2(溶媒)のHSPの分散力項、δ
p,1:成分1(仮想樹脂X)のHSPの双極子間力項、δ
p,2:成分2(溶媒)のHSPの双極子間力項、δ
h,1:成分1(仮想樹脂X)のHSPの水素結合力項、δ
h,2:成分2(溶媒)のHSPの水素結合力項)
【0104】
図2は、特定のハンセン溶解球の形成に用いた樹脂(仮想樹脂X)を溶解する溶媒群と、前記樹脂(仮想樹脂X)を溶解しない溶媒群とを示した図である。
【0105】
図2において、プロット「○(白抜き丸)」の溶媒は、中心座標CC、相互作用半径R
0のハンセン溶解球HSSの内にあり、仮想樹脂Xを溶解する。また、プロット「□(白抜き四角)」の溶媒は、上記ハンセン溶解球HSSの外にあり、仮想樹脂Xを溶解しない。
【0106】
図3は、特定のハンセン溶解球の形成に用いた樹脂(仮想樹脂X)を溶解する溶媒群と、前記樹脂(仮想樹脂X)を溶解しない溶媒群と、特定のハンセン溶解球の中心座標CCから相互作用距離R
aに位置する溶媒と、を示した図である。
【0107】
図3において、プロット○の溶媒は、中心座標CC、相互作用半径R
0のハンセン溶解球HSSの内にあり、仮想樹脂Xを溶解する。また、プロット□の溶媒は、上記ハンセン溶解球HSSの外にあり、仮想樹脂Xを溶解しない。さらに、プロット□の溶媒のうちプロットDDの溶媒は、ハンセン溶解球HSSの外にあり、しかも、相互作用距離R
aが相互作用半径R
0に比較してかなり大きいため、仮想樹脂Xを確実に溶解しないといえる。
【0108】
結着剤(C)は、相互作用距離Raが20以上である溶媒(D)、好ましくは25以上である溶媒(D)、より好ましくは30以上である溶媒(D)、に溶解または分散する樹脂である。溶媒(D)については後述する。
【0109】
結着剤(C)は、Tgが30℃以上、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上である。Tgが30℃未満の場合、溶媒揮発後も結着剤が粘着性を示すため樹脂含有粉体粒子と光輝顔料の十分な結着性が得られず、さらに粉体粒子表面に残存した結着剤により、樹脂含有粉体粒子(A)同士が結着して樹脂含有粉体粒子(A)の粒子径が増大する。
【0110】
結着剤(C)は、重量平均分子量が1000~100000、好ましくは2000~70000である。より好ましくは2000~50000である。結着剤(C)の重量平均分子量が1000よりも小さいと、樹脂含有粉体粒子と光輝顔料との十分な結着性が得にくい。結着剤(C)の重量平均分子量が100000を超えると、溶媒への溶解性または分散性が悪くなりやすい。なお、乳化剤や分散剤等をさらに用いると結着剤の分散性を高めることができるが、この場合、樹脂含有粉体粒子と光輝顔料との結着性が低下しやすい。
【0111】
(溶媒(D))
溶媒(D)は、結着剤(C)を溶解または分散させる溶媒である。溶媒(D)としては、例えば、水、エチレングリコール、およびメタノールからなる群より選択される1種以上の溶媒が用いられる。溶媒(D)が、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒であると、樹脂含有粉体粒子への不溶性を十分に保ちつつ、結着剤が樹脂含有粉体粒子の表面に濡れやすくなるため好ましい。
【0112】
(作用)
本発明に係る粉体塗料組成物においては、あらかじめ溶媒(D)に結着剤(C)を溶解または分散させた溶解液または分散液を調製した後、得られた溶解液または分散液を樹脂含有粉体粒子(A)に添加して十分に混合し、その後、溶媒(D)を完全に揮発させることにより、樹脂含有粉体粒子(A)と光輝顔料(B)とを結着剤(C)で結着(ボンディング)させることができる。
【0113】
ここで、「溶媒(D)に結着剤(C)を溶解または分散させた溶解液または分散液を樹脂含有粉体粒子(A)に添加し十分に混合する方法」としては、例えば、「樹脂含有粉体粒子(A)を撹拌しながら、溶媒(D)に結着剤(C)を溶解または分散させた溶解液または分散液を特定の速度で少しずつ滴下する」方法や、「樹脂含有粉体粒子(A)を撹拌しながら、溶媒(D)に結着剤(C)を溶解または分散させた溶解液または分散液をスプレーノズル等でミスト化して噴霧する方法」が挙げられる。
【0114】
また、溶媒(D)を完全に揮発させる方法としては、真空吸引を用いる方法が好ましい。また、溶媒を揮発させる温度は0~80℃が好ましい。上記温度が0~80℃の範囲内にあると、良好な結着(ボンディング)状態の粉体塗料組成物を得やすい。
【0115】
なお、溶媒(D)は、結着剤(C)を溶解または分散させるものの、樹脂含有粉体粒子(A)およびこれを構成する樹脂(A1)については溶解しない。このため、溶媒(D)を配合しても樹脂含有粉体粒子(A)同士が結着して樹脂含有粉体粒子(A)の粒子径が増大したり、塗装作業性が低下したり、塗膜の外観が低下したりするおそれがない。
【0116】
このため、本発明に係る粉体塗料組成物は、光沢がありかつ優れた光輝性を有する塗膜の形成が可能であり、しかも、回収再利用性にも優れる。
【0117】
また、本発明に係る粉体塗料組成物では、樹脂含有粉体粒子(A)を構成する多くの樹脂(A1)に適用可能な樹脂として特定の仮想樹脂Xを設定し特定の中心座標CC(δd、δp、δh)=(19.0、7.0、5.0)の特定のハンセン溶解球を設定している。このため、結着剤(C)の溶媒として、この特定のハンセン溶解球の外部に存在する溶媒(D)を用いると、ハンセン溶解球の内部に存在する多くの樹脂(A1)を溶解させずに結着剤(C)を溶解または分散させることができる。したがって、本発明では、様々な種類の樹脂含有粉体粒子に対して、光輝顔料をボンディングすることが可能である。
【0118】
(効果)
本発明に係る粉体塗料組成物によれば、高い光輝性および光沢を有する塗膜を形成可能で回収再利用性に優れる粉体塗料組成物を提供することができる。
【0119】
[塗膜]
本発明に係る塗膜は、本発明に係る粉体塗料組成物を用いて形成される。塗膜の形成方法としては、例えば静電粉体塗装法、コロナ帯電、およびトリボ帯電粉体塗装方法等が用いられる。
【0120】
塗膜の厚さは、特に制限されないが、好ましくは20~1000μm、より好ましくは20~500μm、さらに好ましくは20~300μmである。塗膜がアルミニウムカーテンウォール等の高層ビル用の部材の塗膜である場合、塗膜の厚さは、好ましくは20~90μmである。塗膜が、海岸沿いに設置してあるエアコンの室外機、信号機のポール、標識等の耐候性の要求が高い部材の塗膜である場合、塗膜の厚さは、好ましくは100~200μmである。
【0121】
塗膜の形成方法としては、特に限定されない。塗膜の形成方法としては、例えば、本発明に係る粉体塗料組成物を基材に塗装し、粉体塗料組成物の溶融物からなる溶融膜を形成し、次いで溶融膜を冷却して塗膜を形成する方法を用いることができる。
【0122】
上記の粉体塗料組成物の溶融物からなる溶融膜は、例えば、基材への粉体塗料組成物の塗装と同時に形成する方法、基材に粉体塗料組成物を付着させた後に基材上で粉体塗料組成物を加熱溶融させて形成する方法、で得られる。
【0123】
なお、粉体塗料組成物が硬化剤を含む場合、粉体塗料組成物が加熱溶融されるとほぼ同時に、組成物中の反応成分の硬化反応が開始する場合がある。この場合、塗膜の形成方法としては、粉体塗料組成物の加熱溶融と基材への付着をほぼ同時に行う方法や、粉体塗料組成物を基材に付着させた後に粉体塗料組成物を加熱溶融する方法が好ましい。
【0124】
粉体塗料組成物の加熱溶融、およびこの加熱溶融状態を所定時間維持するための加熱温度(以下、「焼付温度」ともいう。)および加熱維持時間(以下、「焼付時間」ともいう。)は、粉体塗料組成物の原料成分の種類や組成、所望する塗膜の厚さ等により適宜設定される。
【0125】
粉体塗料組成物が硬化剤を含まない場合、焼付温度は、好ましくは160~300℃である。粉体塗料組成物が硬化剤を含む場合、焼付温度は、硬化剤の反応温度に応じて設定することが好ましい。硬化剤を用いた場合の焼付け温度は、好ましくは120~240℃である。
【0126】
硬化剤の反応温度は、粉体塗料組成物の弾性率の変化を測定することで求められる。弾性率の変化は、例えば、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン株式会社製レオメーターARES等のレオメーターを用いて測定することができる。
【0127】
焼付時間は、好ましくは2~60分間である。このうち、粉体塗料組成物が硬化剤を含まない場合、焼付時間は、より好ましくは5~60分間、さらに好ましくは10~50分間である。また、粉体塗料組成物が硬化剤を含む場合、焼付時間は、より好ましくは2~50分間、さらに好ましくは5~40分間である。
【0128】
塗膜の形成方法で用いられる塗装方法としては、静電塗装法、静電吹付法、静電浸漬法、噴霧法、流動浸漬法、吹付法、スプレー法、溶射法、プラズマ溶射法等が用いられる。このうち、溶融膜の表面平滑性に優れる点から、粉体塗装ガンを用いた静電塗装法が好ましい。粉体塗装ガンとしては、コロナ帯電型塗装ガン、摩擦帯電型塗装ガン等が用いられる。ここで、コロナ帯電型塗装ガンとは、粉体塗料組成物をコロナ放電処理して吹き付けるガンを意味する。また、摩擦帯電型塗装ガンとは、粉体塗料組成物を摩擦帯電処理して吹き付けるガンを意味する。
【0129】
溶融膜の冷却の温度は、好ましくは20~25℃である。本発明に係る粉体塗料組成物が硬化剤を含む場合、形成される塗膜は硬化膜となる。焼付後の冷却は、急冷、徐冷いずれでもよく、基材から塗膜がはがれにくい点で、徐冷が好ましい。
【0130】
(効果)
本発明に係る塗膜によれば、高い光輝性および光沢を有する塗膜を形成可能で回収再利用性に優れる粉体塗料組成物を用いて形成することができる。
【0131】
[塗装体]
本発明に係る塗装体は、基材と、前記基材の表面に、本発明に係る粉体塗料組成物を用いて形成された塗膜と、を有する。
【0132】
(基材)
基材としては、例えば、金属(鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、チタン、真鍮、アルミニウム合金等)、鋼鉄、鋳鉄等からなる基材が好ましく用いられる。鋼鉄としては、合金鋼、特殊鋼や炭素鋼が用いられる。
【0133】
アルミニウム合金からなる基材の具体例としては、建築用サッシや建築用パネル等が挙げられる。炭素鋼からなる基材の具体例としては、鉄道橋、道路橋、ガスタンク、石油タンク、鉄塔、ばね等が挙げられる。
【0134】
本発明に係る塗装体は、本発明に係る粉体塗料組成物を用い、本発明に係る塗膜の項で説明した塗膜の形成方法を実施することで得られる。
【0135】
(効果)
本発明に係る塗装体によれば、光沢がありかつ優れた光輝性を有する塗膜の形成が可能であり、しかも、回収再利用性にも優れる粉体塗料組成物を用いて形成することができる。
【実施例0136】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例の記載について「部」および「%」は質量基準に基づくものである。
【0137】
以下に示す実施例および比較例では、以下の原料を用いた。
【0138】
<1.粉体塗料組成物の原料>
(1)樹脂含有粉体粒子(A)の原料
(1-1)バインダー樹脂(A11)
・フッ素樹脂1:ルミフロン LF710F、水酸基含有フッ素樹脂(水酸基価:46mgKOH/g、AGC株式会社製)
・ポリエステル樹脂1:ユピカコート GV560、水酸基含有ポリエステル樹脂(水酸基価:50mgKOH/g、酸価:5mgKOH/g、軟化点:125℃、日本ユピカ株式会社製)
・ポリエステル樹脂2:クリルコート 1683-0、カルボン酸含有ポリエステル樹脂(酸価:50mgKOH/g、ダイセル・オルネクス株式会社製)
・ポリエステル樹脂3:クリルコート 2630-2、カルボン酸含有ポリエステル樹脂(酸価:33mgKOH/g、ダイセル・オルネクス株式会社製)
【0139】
(1-2)硬化剤(A12)
・硬化剤1:ε-カプロラクタムブロックイソシアネート(エボニック・デグサ株式会社製、商品名:ベスタゴン B1530)
・硬化剤2:Bis-A型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名:jER(登録商標) 1004)
・硬化剤3:β-ヒドロキシルアルキルアミド(エムスケミー株式会社製、商品名
:プリミド XL-552)
【0140】
(1-3)添加剤(A3)
・添加剤1:シリカ系表面調整剤(ビッグケミー株式会社製、商品名:BYK360P)
・滑剤1:非晶二酸化ケイ素(富士シリシア株式会社製、商品名:SYLYSIA 358)
【0141】
(2)光輝顔料(B)
・アルミニウムフレーク1:PCF7620A(東洋アルミニウム株式会社製)
【0142】
(3)結着剤(C)
・結着剤1:Joncryl JDX-C3000(BASF社製、アクリル樹脂、有効成分100質量%、Tg57℃、重量平均分子量10000)
・結着剤2:プラスコート Z-730(互応化学工業株式会社製、ポリエステル樹脂水溶液、有効成分25質量%、Tg46℃、重量平均分子量3000)
・結着剤3:BURNOCK WD-551P(DIC株式会社製、水系水酸基含有アクリル樹脂ディスパージョン、有効成分40質量%、Tg40℃、重量平均分子量 28000)
・結着剤4:WATERSOL EFD-5580(DIC株式会社製、水系アクリル樹脂ディスパージョン、有効成分40質量%、Tg15℃、重量平均分子量70000)
・結着剤5:JER 1001(三菱ケミカル株式会社製、エポキシ樹脂、有効成分100質量%、Tg64℃、重量平均分子量3000)
・結着剤6:HA 3509(株式会社レゾナック・ホールディングス製、アクリル樹脂溶液、有効成分55質量%、Tg50℃、重量平均分子量7500)
・結着剤7:YSポリスターTH130(ヤスハラケミカル株式会社製、テルペン・フェノール樹脂、有効成分100質量%、Tg130℃、重量平均分子量1500)
【0143】
(4)溶媒(D)
・溶媒1:イオン交換水
・溶媒2:イオン交換水75wt%とメタノール(関東化学株式会社製)25wt%を混合
・溶媒3:イオン交換水50wt%とメタノール(関東化学株式会社製)50wt%を混合
・溶剤4:イオン交換水25wt%とメタノール(関東化学株式会社製)75wt%を混合
・溶媒5:メタノール(関東化学株式会社製)
・溶媒6:エチレングリコール(関東化学株式会社製)
・溶媒7:キシレン(関東化学株式会社製)
・溶媒8:n-ヘプタン(関東化学株式会社製)
・溶媒9:ペルフルオロメチルシクロヘキサン(冨士フィルム和光純薬株式会社製)
【0144】
結着剤(C)の、乾燥前の塗料分質量に対する乾燥後の塗料分質量の占める割合であるNV(%)、ガラス転移点Tg(℃)、重量平均分子量Mwを、表2に示す。
【0145】
[試験例1]
ハンセンの溶解度パラメータ計算ソフト「Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)」を用い、各溶媒(D)についてHSP(δd、δp、δh)を算出した。なお、溶媒(D)についてのHSPは上記式(2)および(3)における(δd,2、δp,2、δh,2)であるが、試験例および以下の実施例、比較例においては、簡単に(δd、δp、δh)と表記することにする。
また、各溶媒(D)について、3DグラフG上における(δd、δp、δh)=(19.0、7.0、5.0)の特定の中心座標CCからの距離である相互作用距離Raを算出した。
HSP(δd、δp、δh)および相互作用距離Raを、表2に示す。
【0146】
【0147】
【0148】
[試験例2]
(溶解性評価試験)
結着剤1、2、5~7のそれぞれを、25℃、760mmHg(ゲージ圧)の減圧環境にて、固形分100%とした後、0.01gを測り取った。次に、測り取った結着剤1、2、5~7のそれぞれを、溶媒1~9のそれぞれ10mlと混合し、25℃で30分間撹拌した。攪拌終了後、24時間放置し、得られた物の状態を目視にて評価した。評価結果を表3に示す。評価基準は以下のとおりである。
なお、結着剤3、4は樹脂成分が水(溶媒1)に分散された状態であり、固形分100%とすると成膜するため、本来の樹脂の溶解性を判断することが不可能となる。このため、結着剤3については、0.04g(固形分含有量0.01g)を測り取った後、水/メタノールの混合比が溶媒2、3と同等になるようにメタノールを添加し、分散状態を評価した。結着剤4については、0.018g(固形分含有量0.01g)を測り取った後、水/メタノールの混合比が溶媒2、3と同等になるようにメタノールを添加し、分散状態を評価した。
【0149】
<評価>
以下のように評価した。
◎(優良):透明液であり、溶解している。
○(良好):白濁液であり、分散状態にある(沈殿物は生じない)。
×(不良):沈殿物が攪拌時から生じている状態である。
-:分散評価未実施。
【0150】
【0151】
[実施例1~36、比較例1~15]
(1.粉体塗料組成物の調製)
<1-1:樹脂含有粉体粒子(A)の調製>
(1)1-1-1:フッ素樹脂およびポリエステル樹脂を含有する粉体粒子の調製
表1および表2に示す原料を用い、表4および表5に示す配合割合になるように各成分を混合して、フッ素樹脂およびポリエステル樹脂を含有する粉体粒子(A)を得た。具体的には、フッ素樹脂と、ポリエステル樹脂と、硬化剤(ブロックイソシアネート)と、添加剤と、滑剤とを、高速ミキサー内に投入して1分間混合した。そして、120℃に温度調整した1軸練合機(BUSS社製)を用いて混練を行い、吐出された混練物を冷却ロールで冷間圧延した。その後、ピンミルを用いて粉砕し、150メッシュの網で分級し、粉体塗料組成物(塗料1~17)の原料となる各粉体粒子(A)(50%体積平均粒子径:約35μm)を得た。
【0152】
(2)1-1-2:ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂を含有する粉体粒子の調製
表1および表2に示す原料を用い、表6および表7に示す配合割合になるように各成分を混合して、ポリエステル樹脂およびエポキシ樹脂を含有する粉体粒子(A)を得た。具体的には、ポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂と、添加剤とを、高速ミキサー内に投入して1分間混合した。そして、120℃に温度調整した1軸練合機(株式会社ブッス(BUSS)製)を用いて混練を行い、吐出された混練物を冷却ロールで冷間圧延した。その後、ピンミルを用いて粉砕し、150メッシュの網で分級し、滑剤を添加し、粉体塗料組成物(塗料18~34)の原料となる各粉体粒子(A)(50%体積平均粒子径:約35μm)を得た。
【0153】
(3)1-1-3:ポリエステル樹脂およびアミド化合物を含有する粉体粒子の調製
表1および表2に示す原料を用い、表8および表9に示す配合割合になるように各成分を混合して、ポリエステル樹脂およびアミド化合物を含有する粉体粒子(A)を得た。具体的には、ポリエステル樹脂と、アミド化合物と、添加剤と、滑剤とを、高速ミキサー内に投入して1分間混合した。そして、120℃に温度調整した1軸練合機(株式会社ブッス(BUSS)製)を用いて混練を行い、吐出された混練物を冷却ロールで冷間圧延した。その後、ピンミルを用いて粉砕し、150メッシュの網で分級し、粉体塗料組成物(塗料35~51)の原料となる各粉体粒子(A)(50%体積平均粒子径:約35μm)を得た。
【0154】
<1-2:結着剤液の調製>
表4~表9に示す配合割合になるように結着剤と結着剤溶媒を混合し、粉体塗料組成物(塗料1~51)の製造に使用するための結着剤液をそれぞれ調製した。
【0155】
<1-3:粉体塗料組成物(塗料1~51)の調製>
表4~表9に示す配合割合となるように、上述の方法により得られた粉体粒子(A)に光輝顔料(東洋アルミニウム株式会社製、PCF7620A、平均粒子径21μm、樹脂被覆アルミニウム粉末)を加えて、均一になるよう薬匙で混合した。
次に、上述の方法により得られた結着剤液を添加して、混練しながら1時間自然乾燥させた。これを1リットルのメスフラスコに充填し、エバポレーターを用い、30分回転混合させながら、20分間常温で真空乾燥させた。このようにして得られた粉末を目開き100μm目開きの網で分級することで、粉体塗料組成物(塗料1~51)を得た。
【0156】
(2.特性評価)
得られた粉体塗料組成物(塗料1~51)について、特性評価を行った。各評価試験の結果は、表4~表9に示す。なお、光輝性および表面平滑性の評価試験では、次のようにして作製した試験片を用いた。
【0157】
<2-1:試験片の作製方法>
各粉体塗料を用い、クロメート処理を行ったアルミニウム板(基材)の一面に、粉体塗装ガンを備える静電塗装機(小野田セメント社製、商品名:GX3600C)を用いて静電塗装し、200℃雰囲気中で20分間保持した。このまま放置して室温まで冷却することにより、厚さ55~65μmの塗膜(硬化膜)付きアルミニウム板(試験片)を得た。
【0158】
<2-2:評価>
以下のようにして、層分離性、光輝性、表面平滑性、および回収再利用性を測定し、評価した。
【0159】
(1)層分離性
実施例1~12、比較例1~5の塗膜について、塗膜断面をマイクロスコープ(キーエンス社)を用いて観察し、塗膜内部が上下層に分離しているか否かを評価した。また、同じく塗膜断面を走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社超高分解能分析走査電子顕微鏡SU-70)を用いて観察し、元素分析によりフッ素元素(フッ素樹脂)の塗膜断面中の分布を確認した。
【0160】
以下のように評価した。
○(良好):フッ素元素が塗膜表層に偏在していた。
×(不良):フッ素元素の塗膜表層への偏在は認められなかった。
【0161】
(2)光輝性
以下のように評価した。
各試験片について、目視で塗膜の色ムラを以下の基準で評価した。
○(良好):色ムラの発生が試験片の全体面積に対して20%以下。
×(不良):色ムラの発生が試験片の全体面積に対して20%超。
【0162】
(3)表面平滑性
以下のように評価した。
試験板作成後の塗膜表面の状態を目視にて評価した。
◎(優良):異常なし
○(良好):ユズ肌
×(不良):肌荒れ
【0163】
(4)回収再利用性
以下のように評価した。
1回目の塗装時に塗着しなかった塗料を再塗装し、各試験片について、目視で塗膜の色ムラを以下の基準で評価した。
○(良好):色ムラの発生が試験片の全体面積に対して20%以下。
×(不良):色ムラの発生が試験片の全体面積に対して20%超。
【0164】
結果を、表4~表9に示す。
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
実施例および比較例より、実施例の粉体塗料組成物は、光輝性、表面平滑性、および回収再利用性のすべてが良好であることが分かった。