(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161266
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】繊維複合樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20241108BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20241108BHJP
B29B 7/48 20060101ALI20241108BHJP
B29B 9/06 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/02
B29B7/48
B29B9/06
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024153946
(22)【出願日】2024-09-06
(62)【分割の表示】P 2023013691の分割
【原出願日】2018-03-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、環境省、平成29年度セルロースナノファイバー製品製造工程の低炭素化対策の立案事業委託業務 (セルロースナノファイバー製品製造工程におけるCO2排出削減に関する技術開発)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100113170
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 和久
(72)【発明者】
【氏名】名木野 俊文
(72)【発明者】
【氏名】浜辺 理史
(72)【発明者】
【氏名】今西 正義
(57)【要約】
【課題】成型品の強度を低下させることなく、溶融成形時の溶融粘度低下を実現できる繊維複合樹脂組成物を提供する。
【解決手段】繊維複合樹脂組成物において、繊維状フィラー2の解繊処理、変性処理を目的とした湿式分散による前処理を行わずに、主剤樹脂1や分散剤などと一緒に溶融混練処理を行う。それにより、繊維状フィラー2の繊維長方向の端部から解繊が進み、その際に、同時投入している疎水性向上用の分散剤成分が、解繊され表面積拡大した端部の解繊部3に対して、より選択的に吸着する。その結果、メジアン繊維径が5μm以上30μm以下の非解繊部4と比較してメジアン繊維径が0.1μm以上2μm以下の解繊部3の疎水化が促進され、繊維状フィラー2の繊維長方向における疎水性の差を形成できる。これにより、繊維状フィラー2を多く添加した場合でも、成型部品の強度を低下させることなく溶融成形時の溶融粘度を低下することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤樹脂中に繊維状フィラーを含有し、前記繊維状フィラーの繊維長方向の端部に、同繊維状フィラーの繊維長方向の中央部のメジアン繊維径が5μm以上30μm以下の非解繊部と比べて疎水性が高いメジアン繊維径が0.1μm以上2μm以下の解繊部が形成されていることを特徴とする繊維複合樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状フィラーを含有した繊維複合樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)等のいわゆる「汎用プラスチック」は、非常に安価であるだけでなく、成形が容易で、しかも金属またはセラミックスに比べて重さが数分の一と軽量である。そのため、汎用プラスチックは、袋、各種包装、各種容器、シート類等の多様な生活用品の材料として、また、自動車部品、電気部品等の工業部品として、さらに日用品、雑貨用品等の材料として、よく利用されている。
【0003】
しかしながら、汎用プラスチックは、機械的強度が不十分である等の欠点を有している。そのため、汎用プラスチックは、自動車等の機械製品や、電気・電子・情報製品をはじめとする各種工業製品などに用いられる材料に対して要求される十分な特性を有しておらず、その適用範囲が制限されているのが現状である。
【0004】
一方、「エンジニアリングプラスチック」は、機械的特性に優れており、自動車等の機械製品や、電気・電子・情報製品をはじめとする各種工業製品などに用いられている。しかし、エンジニアリングプラスチックは、高価であり、モノマーリサイクルが難しく、環境負荷が高いといった課題を有している。
【0005】
そこで、汎用プラスチックの材料特性(機械的強度等)を大幅に改善することが要望されている。繊維状フィラーである天然繊維、ガラス繊維、炭素繊維などを汎用プラスチックの樹脂中に分散させることにより、その汎用プラスチックの機械的強度を向上させる技術が知られている。中でもセルロースなどの有機繊維状フィラーは、安価であり、かつ廃棄時の環境性にも優れていることから、強化用繊維として注目視されている。
【0006】
しかしながら、汎用プラスチックの機械的強度を改善するために繊維状フィラーを複合すると、成形時の溶融粘度が上がり精密な成形ができなくなる。このため、各社、溶融粘度を下げる検討を進めている。たとえば特許文献1では、低融点の樹脂材料を添加することで繊維複合樹脂組成物の溶融粘度を下げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら特許文献1では、主剤樹脂よりも分子量が低い樹脂材料を複合化しているため、成形時の溶融粘度は低下できるが、分子量が低い樹脂材料の影響で成形品の強度が低下する課題がある。
本発明は、上記従来の課題を解決するものであって、成型品の強度を低下させることなく、成形時の樹脂組成物の溶融粘度低下を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の繊維複合樹脂組成物は、主剤樹脂に繊維状フィラーを含有した繊維複合樹脂で構成し、前記繊維複合樹脂中における、各繊維状フィラーの繊維長方向の端部に、前記繊維状フィラーの中央部のメジアン繊維径が5μm以上30μm以下の非解繊部と比べて疎水性が高いメジアン繊維径が0.1μm以上2μm以下の解繊部が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の繊維複合樹脂組成物によれば、主剤樹脂と繊維状フィラーとの合計量を100質量%としたときに繊維状フィラーの含有量が10質量%以上80質量%以下である範囲で、樹脂組成物のJIS K 7210で規定されるメルトマスフローレイト(MFR)の値が、主剤樹脂のMFRの値に対して50%以上かつ100%未満の値であることが好適である。
【0011】
本発明の繊維複合樹脂組成物によれば、繊維状フィラーがセルロース類の天然繊維であることが好適である。
【0012】
本発明の繊維複合樹脂組成物によれば、主剤樹脂がオレフィン系樹脂であることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の繊維複合樹脂組成物によると、繊維長方向の端部に疎水性の高い解繊された解繊部が形成された繊維状フィラーを主剤樹脂に複合できるため、繊維状フィラーを多く添加した場合でも、成型部品の強度を低下させることなく成形時の溶融粘度を低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態の繊維複合樹脂組成物の組織を示す図
【
図2】本発明の実施の形態の繊維複合樹脂組成物の製造プロセスを説明するフロー図
【
図3】本発明の実施の形態の繊維複合樹脂組成物を用いた成形時の溶融流れ状態を示す模式図
【
図5】成形時のさらに他の溶融流れ状態を示す模式図
【
図6】実施例1~2および比較例1~5についての、繊維状フィラー添加量に対するMFRの相関を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態の繊維複合樹脂組成物およびその製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
本発明の実施の形態の繊維複合樹脂組成物は、主剤樹脂と、繊維状フィラーと、分散剤とを含有する溶融混練物から得られる。この繊維複合樹脂組成物では、
図1に示すように、主剤樹脂1中に繊維状フィラー2が分散されている。
【0017】
主剤樹脂1は、良好な成形性を確保するために、熱可塑性樹脂であることが必要である。熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂(環状オレフィン系樹脂を含む)、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂またはその誘導体、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(2、6-キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)、ゴムまたはエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエン系ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)等が挙げられる。上記の樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用されてもよい。なお、主剤樹脂1は、熱可塑性を有していれば、上記の材料に限定されるものではない。
【0018】
主剤樹脂1は、これらの熱可塑性樹脂のうち、比較的低融点であるオレフィン系樹脂であることが好ましい。オレフィン系樹脂としては、オレフィン系単量体の単独重合体の他、オレフィン系単量体の共重合体や、オレフィン系単量体と他の共重合性単量体との共重合体が挙げられる。オレフィン系単量体としては、例えば、鎖状オレフィン類(エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンなどのα-C2-20オレフィンなど)や、環状オレフィン類などが挙げられる。これらのオレフィン系単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用されてもよい。上記オレフィン系単量体のうち、エチレン、プロピレンなどの鎖状オレフィン類が好ましい。他の共重合性単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系単量体;マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸などの、不飽和ジカルボン酸またはその無水物;カルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど);ノルボルネン、シクロペンタジエンなどの環状オレフィン;ブタジエン、イソプレンなどのジエン類などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用されてもよい。オレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン(低密度、中密度、高密度または線状低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1などの三元共重合体などの鎖状オレフィン類(特にα-C2-4オレフィン)の共重合体などが挙げられる。
【0019】
次に繊維状フィラー2について説明する。各繊維状フィラー2は、長さ方向の両端に形成された解繊部3と、それ以外の部分である解繊されていない部位すなわち非解繊部4とを有する。
【0020】
繊維状フィラー2は、機械的特性の向上や、線膨張係数の低下による寸法安定性の向上などを主要な目的として、本発明の樹脂組成物に用いられる。この目的のため、繊維状フィラー2は主剤樹脂1よりも弾性率が高いことが好ましい。具体的な繊維状フィラー2としては、パルプ、セルロースナノファイバー、リグノセルロース、リグノセルロースナノファイバー、綿、絹、羊毛あるいは麻等の天然繊維;ジュート繊維、レーヨンあるいはキュプラなどの再生繊維;アセテート、プロミックスなどの半合成繊維;ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミド、ポリオレフィンなどの合成繊維;カーボンファイバー(炭素繊維);カーボンナノチューブ;さらにはそれらの表面及び末端に化学修飾した変性繊維などが挙げられる。また更に、これらの中で、入手性、弾性率の高さ、線膨張係数の低さ、環境性の観点から、セルロース類の天然繊維が特に好ましい。
【0021】
繊維状フィラー2の含有量は、主剤樹脂と繊維状フィラーとの合計量を100質量%としたときに、10質量%以上80質量%以下であることが好ましい。繊維状フィラー2が添加されることで当然に機械的強度の向上を期待できるが、この範囲よりも少量であると機械的強度を十分に上げることができないという問題が生じやすく、反対にこの範囲よりも多量であると繊維状フィラーの分散性が極端に低下するという問題を生じやすいためである。
【0022】
次に分散剤について説明する。
【0023】
繊維状フィラー2には、主剤樹脂1中での分散性、主剤樹脂1との接着性、繊維複合樹脂組成物中での疎水性を向上させる目的で、分散剤が添加されている。さらに本発明においては、分散剤によって、繊維状フィラー2の解繊部3に、非解繊部4に比べて高い疎水性を付与させる。
【0024】
そのための分散剤としては、各種のチタネート系カップリング剤;シランカップリング剤;不飽和カルボン酸、マレイン酸、無水マレイン酸をグラフトした変性ポリオレフィン;脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなどによって表面処理した分散剤などを挙げることができる。分散剤は、熱硬化性もしくは熱可塑性のポリマー成分で表面処理されたものでも問題ない。
【0025】
繊維複合樹脂組成物における分散剤の含有量は、主剤樹脂1の量に対して0.01質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上、10質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上、5質量%以下であることがさらに好ましい。分散剤の含有量が、0.01質量%未満であると、分散不良が発生する。一方、分散剤の含有量が20質量%を超えると、繊維複合樹脂組成物を用いて製造した成形品の強度が低下する。分散剤は、主剤樹脂1と繊維状フィラー2との組み合わせにより、その種類や使用量が適切に選択される。
【0026】
次に繊維複合樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0027】
図2は、本発明の実施の形態の繊維複合樹脂組成物の製造プロセスを例示するフロー図である。
【0028】
まず、溶融混練処理装置内に、主剤樹脂1、繊維状フィラー2、疎水性を向上させる分散剤が投入され、溶融混練処理装置内で溶融混練される。これにより、主剤樹脂1が溶融し、溶融された主剤樹脂1に、繊維状フィラー2と分散剤が分散される。また同時に装置の剪断作用により、繊維状フィラー2の凝集塊の解繊が促進され、繊維状フィラー2を主剤樹脂1中に細かく分散させることができる。
【0029】
従来、繊維状フィラー2としては、湿式分散などの前処理により、事前に繊維を解繊したものが使用されている。しかし、湿式分散で用いられる溶媒中で事前に繊維状フィラー2を解繊すると、溶融した主剤樹脂1中で解繊されるよりも解繊されやすいため、端部のみ解繊することが難しく、繊維状フィラー2全体が解繊された状態となってしまう。このため、後述の本発明のように繊維状フィラー2の繊維長方向に沿って疎水性の差を形成することはできない。また前処理を合わせることで工程が増え、生産性が悪くなるといった課題がある。
【0030】
これに対して、本実施の形態における繊維複合樹脂組成物の製造プロセスでは、繊維状フィラー2の解繊処理および変性処理を目的とした湿式分散による前処理を行わずに、繊維状フィラー2を主剤樹脂1や分散剤などと一緒に溶融混練処理の対象とする。このような工法では、繊維状フィラー2についての前段階での湿式分散処理を行わないことにより、繊維状フィラー2の繊維長方向の端部から解繊が進み、その際に、同時投入している疎水性向上用の分散剤の成分が、解繊されて表面積が増大した繊維端部の解繊部3に対して、より選択的に吸着する。これにより、非解繊部4と比較して解繊部3の疎水化が促進され、繊維状フィラー2の繊維長方向に沿って疎水性の差を形成することができる。また工程数も少なく、生産性を向上させることができる。
【0031】
繊維状フィラー2の疎水化状態は、次のようにして確認されている。すなわち、本発明者による実験結果から、主剤樹脂1中での分散状態において、非解繊部4では疎水性の主剤樹脂1との間に隙間が発生しているのに対して、解繊部3においては疎水性である主剤樹脂1との間の隙間が見られず密着性が向上しており、非解繊部4に対して解繊部3の疎水化が促進されていることが確認されている。
【0032】
図3、
図4、
図5は、繊維状フィラー2の繊維形状と疎水性との違いによる成形時の溶融流れ状態の違いを示す断面模式図である。
【0033】
図3は、本発明の実施の形態の樹脂組成物を用いたときの溶融流れ状態を示す。ここでは、繊維状フィラー2は、その端部に疎水性が高い解繊部3が形成されているとともに、それ以外の部分には解繊部3よりも疎水性の低い非解繊部4が形成されている。つまり、繊維状フィラー2は、その繊維長方向において疎水性に差が形成されているため、疎水性である主剤樹脂1の流れ方向に整流化されやすくなる。そして、その効果によって、繊維状フィラー2を多く添加した場合でも成形時の溶融粘度を低くすることができる。
【0034】
図4では、繊維状フィラー2が強力すなわち過剰に解繊され、解繊部3のみが短繊維の形で分散されており、非解繊部が明確に存在せず、したがって繊維状フィラー2の繊維長方向での疎水性の差を形成することができない。さらに繊維状フィラー2の全表面積が非常に大きい。このため、繊維状フィラー2を多く添加した場合に成形時の溶融粘度が高くなってしまい、精密な成形をすることができなくなる。
【0035】
図5では、繊維状フィラー2が十分に解繊されておらず、非解繊部4の繊維径が太く、繊維状フィラー2は、解繊部3がほぼ存在しない状態で分散されている。そのため、繊維状フィラー2の繊維長方向での疎水性の差が十分形成できていない。その結果、疎水性である主剤樹脂1の流れ方向に整流化されにくく、繊維同士が絡みやすく凝集塊となりやすくなるため、流れ性を阻害してしまう。そして、その影響により、繊維状フィラー2を多く添加した場合に成形時の溶融粘度が高くなってしまい、精密な成形をすることができなくなる。
【0036】
最適な繊維状フィラー2の形態については、本発明者による実験やシミュレーションの結果から、解繊部3のメジアン繊維径は0.1μm以上2μm以下、かつ、非解繊部4のメジアン繊維径は5μm以上30μm以下であることが確認されている。
【0037】
溶融混練装置から押し出された繊維複合樹脂は、ペレタイザー等による切断工程を経て、ペレット形状に作製される。ペレット化の方式として、樹脂溶融後すぐに行う方式としては、空中ホットカット方式、水中ホットカット方式、ストランドカット方式などがある。あるいは、一度成形品やシートを成形したあとで、粉砕、切断することによる、粉砕方式などもある。
【0038】
本発明によれば、前記のように、複合された繊維状フィラー2の繊維長方向の端部から解繊が進み、その際に、同時投入している疎水性向上用の分散剤成分が、解繊され表面積が拡大した繊維端部の解繊部3に対して、より選択的に吸着する。それにより、非解繊部4と比較して解繊部3の疎水化が促進され、繊維状フィラー2の繊維長方向において疎水性の差が形成された構造を有することになる。このため、繊維状フィラー2を多く添加した場合でも成形時の溶融粘度を低くすることができ、繊維状フィラー2を添加することによる高い剛性と、溶融成形時における金型等に対する流れ性との両方を高めた繊維複合樹脂組成物を得ることができる。
【0039】
流れ性について、具体的には、主剤樹脂と繊維状フィラーとの合計量を100質量%としたときに繊維状フィラーの含有量が10質量%以上80質量%以下である範囲で、樹脂組成物のJIS K 7210で規定されるメルトマスフローレイトの値が、主剤樹脂のメルトマスフローレイトの値に対して50%以上かつ100%未満の値であるようにすることができる。すなわち、メルトマスフローレイトの値が小さくなると、その分だけ粘度が高く流れ性が悪くなることを意味するが、本発明によれば、上記のように主剤樹脂のメルトマスフローレイトの値に対して50%以上の値を達成することができる。つまり流れ性の低下を十分許容できる範囲内に抑えることができる。
【実施例0040】
以下、本発明者らが行った実験にもとづく実施例および各比較例について説明する。
【0041】
(実施例1)
下記の製造方法によってパルプ分散ポリプロピレンペレットを製造し、そのペレットを用いて各種評価を実施した。
【0042】
すなわち、主剤樹脂としてのポリプロピレン(プライムポリマー社製 商品名:J108M)に対して、繊維状フィラーとしての綿状針葉樹パルプ(三菱製紙社製 商品名:NBKP Celgar)の含有量が、主剤樹脂と繊維状フィラーとの合計量を100質量%としたときに0、10、15、20、50、80、85、90質量%となる各条件で秤量した。そして、これらの各条件において、疎水性を向上させる分散剤としての無水マレイン酸(三洋化成工業社製 商品名:ユーメックス)を、主剤樹脂であるポリプロピレン100質量部に対して5質量部となるよう秤量し、ドライブレンドした。例えば、綿状針葉樹パルプが15質量%である条件においては、ポリプロピレンを85質量%、無水マレイン酸を4.25質量%秤量した。その後、二軸混練機(クリモト鉄工所社製 S-1KRCニーダ:スクリュー径φ25mm、L/D=10.2)にて溶融混練分散を行った。
【0043】
そのとき、二軸混練機のスクリュー構成を変えることでせん断力を変えることができ、実施例1では中せん断タイプの仕様としたうえで、混練部温度180℃、押出速度0.5kg/hに設定した。さらに、この条件での溶融混練分散処理を10回繰り返し、長時間処理を実施した。そして樹脂溶融物をホットカットして、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。得られたパルプ分散ポリプロピレンペレットについて、以下の方法により評価した。
【0044】
(解繊されていない非解繊部のメジアン繊維径、解繊部のメジアン繊維径)
上述の各条件で作製したパルプ分散ポリプロピレンペレットをキシレン溶媒に浸漬してポリプロピレンを溶解させ、残ったパルプ繊維についてSEM観察を実施した。具体的には、SEM(PHENOM-World社製 走査型電子顕微鏡 Phenom G2pro)を用いて、代表的な繊維を約100本計測した。繊維径測定結果からメジアン繊維径を算出した結果、非解繊部のメジアン繊維径は5.2μm以上9.8μm以下となり、繊維長方向の端部には解繊部がみられ、解繊部のメジアン繊維径は0.3μm以上0.7μm以下であった。
【0045】
(メルトマスフローレイト)
上記の各条件で作製したパルプ分散ポリプロピレンペレットを用い、JIS K 7210に準じて、メルトマスフローレイト(MFR)を測定した。その際、主剤樹脂がポリプロピレンであることから、試験温度=230℃、試験荷重=2.16kg(JIS K 6921-1)の条件で測定した。
【0046】
(実施例2)
実施例1と比べて、溶融混練分散処理を3回繰り返すことに短縮したことを変更点とした。そして、それ以外の条件は実施例1と同様として、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。評価についても実施例1と同様に実施した。
【0047】
(比較例1)
実施例1と比べて、綿状針葉樹パルプに事前に湿式解繊処理を施すことにより繊維の解繊が進んだパルプ繊維を用いたことを変更点とした。そして、それ以外は実施例1と同様として、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。評価についても実施例1と同様に実施した。
【0048】
(比較例2)
実施例1と比べて、スクリュー構成を高せん断タイプに変更した。そして、それ以外の条件は実施例1と同様として、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。評価についても実施例1と同様に実施した。
【0049】
(比較例3)
比較例2と同様の高せん断タイプのスクリュー構成とし、このスクリュー構成での溶融混練分散を3回処理に短縮した。そして、それ以外の条件は実施例1と同様として、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。評価についても実施例1と同様に実施した。
【0050】
(比較例4)
比較例2と同様の高せん断タイプのスクリュー構成とし、このスクリュー構成での溶融混練分散を1回処理に短縮した。そして、それ以外の条件は実施例1と同様として、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。評価についても実施例1と同様に実施した。
【0051】
(比較例5)
実施例1と比べて、スクリューの構成を低せん断タイプに変更した。そして、それ以外の条件は実施例1と同様として、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。評価についても実施例1と同様に実施した。
【0052】
実施例1~2および比較例1~5についての評価結果を表1に示す。また、それら測定結果にもとづく、実施例1~2および比較例1~5についての、繊維状フィラー添加量に対するMFRの相関を、
図6に示す。
【0053】
【0054】
表1および
図6から明らかなように、繊維状フィラーを添加して、非解繊部のメジアン繊維径が5μm以上30μm以下、かつ解繊部のメジアン繊維径が0.1μm以上2μm以下の解繊状態を実現できている実施例1、2に関しては、繊維状フィラーの繊維長方向の端部から解繊が進み、その際に同時投入している疎水性向上用の分散剤成分が、解繊により表面積が拡大した端部の解繊部に対して、より選択的に吸着することにより、非解繊部と比較して疎水化が促進され、繊維状フィラーの繊維長方向における疎水性の差を形成できていた。このため、疎水性である主剤樹脂の流れ方向に整流化されやすくなる効果によって、繊維状フィラーの含有量が主剤樹脂量に対して10質量%以上80質量%以下である範囲において、繊維複合樹脂組成物のMFRの値が、主剤樹脂のMFRの値と比べて50%以上かつ100%未満の値となることを確認した。つまり、通常の成形条件に対する流れ性を確保できていることを確認した。
【0055】
それに対して、繊維状フィラーとしての綿状針葉樹パルプを事前に湿式解繊処理することにより繊維の解繊が進んだパルプ繊維を用いた比較例1では、繊維状フィラーが溶融樹脂中で極端に解繊されやすいため、端部のみ解繊することが難しく、繊維状フィラー全体が解繊された状態となってしまった。このため、繊維状フィラーの繊維長方向において疎水性の差を形成することができず、さらに繊維状フィラーの表面積が大きいため、繊維状フィラーの含有量が主剤樹脂量に対して15質量%以上の範囲においてMFRが大きく低下し、通常の成形条件に対する流れ性を確保できない結果となった。
【0056】
スクリュー構成を高せん断タイプに変更した比較例2では、せん断がかかり過ぎたために、解繊部のメジアン繊維径が0.1μm未満まで細くなり、解繊されていない非解繊部のメジアン繊維径としても0.9μm以上1.3μm以下と細くなりすぎた結果として、繊維状フィラーの繊維長方向における疎水性の差が小さ過ぎて、本発明の効果を発揮できなかった。すなわち、さらに繊維状フィラーの表面積が大きいことも原因して、繊維状フィラーの含有量が主剤樹脂量に対して10質量%以上の範囲においてMFRが大きく低下し、通常の成形条件に対する流れ性を確保できない結果となった。
【0057】
比較例2と同様にスクリュー構成を高せん断タイプに変更し、さらに溶融混練分散処理の回数を3回まで減らして短時間処理へ変更した比較例3では、解繊部のメジアン繊維径は0.5μm以上0.8μm以下と細い状態まで解繊されており、繊維状フィラーの繊維長方向での疎水性の差がある程度形成できていたものの、本発明の効果を発揮できる程度のものではなかった。しかも非解繊部のメジアン繊維径が2.2μm以上4.1μm以下と細く解繊されすぎていたことも原因して、繊維状フィラーの表面積が大きくなり過ぎ、その影響により、繊維状フィラーの含有量が主剤樹脂量に対して15質量%以上の範囲においてMFRが大きく低下し、通常の成形条件に対する流れ性を確保できない結果となった。
【0058】
比較例3からさらに溶融混練分散処理の回数を1回まで減らして短時間処理へ変更した比較例4では、解繊部のメジアン繊維径は1.0μm以上1.5μm以下と十分解繊されているにも関わらず、解繊されていない非解繊部(不十分なほぐれ部分含む)のメジアン繊維径が35.2μm以上38.4μm以下と太くなっていたため、繊維状フィラーの繊維長方向での疎水性の差がある程度形成できていたものの、本発明の効果を発揮できる程度のものではなかった。さらに繊維同士が絡みやすく凝集塊となりやすいものであったため、流れ性を阻害してしまう影響により、繊維状フィラーの含有量が主剤樹脂量に対して20質量%以上の範囲においてMFRが大きく低下し、通常の成形条件に対する流れ性を確保できない結果となった。
【0059】
スクリュー構成を低せん断タイプに変更した比較例5では、非解繊部のメジアン繊維径は20.5μm以上25.2μm以下まで細くできているが、低せん断であるために解繊部のメジアン繊維径が2.2μm以上3.0μm以下と解繊が不十分な状態となってしまい、このため繊維状フィラーの繊維長方向での疎水性の差が十分形成できておらず、本発明の効果を発揮できるものではなかった。さらに疎水性である主剤樹脂の流れ方向に整流化されにくく、繊維同士が絡みやすく凝集塊となりやすくなるため、流れ性を阻害してしまう影響もあって、繊維状フィラーの含有量が主剤樹脂量に対して50質量%以上の範囲においてMFRが大きく低下し、通常の成形条件に対する流れ性を確保できない結果となった。
【0060】
以上の評価結果から、本発明によれば、繊維状フィラーの繊維長方向における非解繊部のメジアン繊維径が5μm以上30μm以下、かつ解繊部のメジアン繊維径が0.1μm以上2μm以下となり、非解繊部と比較して解繊部の疎水化が促進され、繊維状フィラーの繊維長方向における疎水性の差を大きく形成できることで、疎水性である主剤樹脂の流れ方向に繊維状フィラーが整流化されやすくなる効果を得ることができる。その結果、繊維状フィラーの含有量が主剤樹脂量に対して10質量%以上、80質量%以下である範囲において、MFRの値が主剤樹脂のMFRの値と比べて50%以上100%未満の値となり、したがって通常の成形条件に対する流れ性を確保できる繊維複合樹脂組成物を提供できることが分かった。
本発明は、繊維状フィラー添加による高剛性と溶融成形時の金型等への流れ性との両方を高めた繊維複合樹脂組成物を得ることができる。この樹脂組成物は、エンジニアリングプラスチックの代替物、または金属材料の代替物として利用され得る。従って、エンジニアリングプラスチック製または金属製の各種工業製品、または生活用品の製造コストを大幅に削減し得る。さらには家電筐体、建材、自動車部材への利用が可能である。
前記繊維状フィラーの前記解繊部におけるメジアン繊維径が0.1μm以上2μm以下であり、前記繊維状フィラーの前記非解繊部におけるメジアン繊維径が5μm以上30μm以下である、請求項1に記載の繊維複合樹脂組成物。
前記繊維状フィラーの前記解繊部位における繊維径は、解繊されていない部位における繊維径の1/1000以上、1/10以下である、請求項1から8のいずれか一項に記載の繊維複合樹脂組成物。