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特開2024-161285全固体電池の端子用樹脂フィルム及び全固体電池
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  • 特開-全固体電池の端子用樹脂フィルム及び全固体電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161285
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】全固体電池の端子用樹脂フィルム及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/198 20210101AFI20241108BHJP
   H01M 50/193 20210101ALI20241108BHJP
   H01M 50/186 20210101ALI20241108BHJP
   H01M 50/197 20210101ALI20241108BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241108BHJP
【FI】
H01M50/198
H01M50/193
H01M50/186
H01M50/197
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024155302
(22)【出願日】2024-09-09
(62)【分割の表示】P 2022015008の分割
【原出願日】2022-02-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】村木 拓也
(57)【要約】
【課題】金属端子にヒートシールさせる場合に気泡の発生を抑制できる全固体電池の端子用樹脂フィルム及び全固体電池を提供すること。
【解決手段】全固体電池を構成する電池本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面にヒートシールにより接着される全固体電池の端子用樹脂フィルムであって、含水率が2700質量ppm以下である、全固体電池の端子用樹脂フィルム。端子用樹脂フィルムは、絶縁層と、絶縁層の少なくとも一面側に設けられるシーラント層とを有する多層フィルムからなってもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池を構成する電池本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面にヒートシールにより接着される全固体電池の端子用樹脂フィルムであって、
含水率が2700質量ppm以下である、全固体電池の端子用樹脂フィルム。
【請求項2】
絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも一面側に設けられるシーラント層とを有する多層フィルムからなる、請求項1に記載の全固体電池の端子用樹脂フィルム。
【請求項3】
前記多層フィルムのうち前記シーラント層が酸変性ポリオレフィン樹脂層である、請求項2に記載の全固体電池の端子用樹脂フィルム。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂を含むポリオレフィンフィルム又はポリエステル系樹脂を含むポリエステルフィルムである、請求項1~3のいずれか一項に記載の全固体電池の端子用樹脂フィルム。
【請求項5】
250℃以下の融点を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の全固体電池の端子用樹脂フィルム。
【請求項6】
150℃以上の融点を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の全固体電池の端子用樹脂フィルム。
【請求項7】
固体電解質を含む電池本体と、
前記電池本体と電気的に接続された金属端子と、
前記金属端子を挟持し且つ前記電池本体を収容する外装袋と、
前記金属端子の一部の外周面にヒートシールにより接着される端子用樹脂フィルムとを備え、
前記端子用樹脂フィルムが、請求項1~5のいずれか一項に記載の端子用樹脂フィルムからなる、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池の端子用樹脂フィルム及び全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量化が可能な全固体電池の開発が急速に進んでいる。全固体電池は、現在のリチウムイオン電池とは異なり、電解質が固体であることから今までは実現できなかった高温での使用が可能となり、電池を冷却する設備が不要となるため、それに伴うスペース効率の向上、コストダウン、低電力化が期待される。
【0003】
このような全固体電池は、固体電解質及び電極などの電池本体を収容する外装袋と、電池本体から電流を取り出すためのタブと呼ばれる金属端子とを備えており、金属端子の一部の外周面は、端子用樹脂フィルム(「タブシーラント」と呼ばれることもある)によって覆われている。
【0004】
このような端子用樹脂フィルムとして、従来、例えば下記特許文献1に記載のものが知られている。同文献には、電流取出し端子に対する密着性を有する樹脂組成物からなり、この樹脂組成物が、融点が160℃以上の熱可塑性樹脂を含み、且つ、融点が160℃未満の熱可塑性樹脂を含まない端子用樹脂フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2020/004412号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1に記載の全固体電池の端子用樹脂フィルムは、以下に示す課題を有していた。
すなわち、上記特許文献1に記載の端子用樹脂フィルムは、金属端子に対してヒートシールさせると、端子用樹脂フィルムに全面的に気泡の発生が見られることがあった。
【0007】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、金属端子にヒートシールさせる場合に気泡の発生を抑制できる全固体電池の端子用樹脂フィルム及び全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のように端子用樹脂フィルムに全面的に気泡の発生が見られる現象が生じる原因について検討した。その結果、端子用樹脂フィルムに全面的に気泡の発生が見られたのは、金属端子に端子用樹脂フィルムを高温でヒートシールさせることが原因ではないかと考えた。すなわち、端子用樹脂フィルムを金属端子に高温でヒートシールさせると、端子用樹脂フィルム中の水分が気化し、生成された気泡が一気に膨張して他の気泡と容易に結合して成長し、冷却後に残るためではないかと本発明者らは考えた。また、上記現象は、端子用樹脂フィルム中の含水率に大きく依存するのではないかと本発明者らは考えた。そこで、本発明者らはさらに鋭意研究を重ねた結果、以下の開示により上記課題を解決し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本開示は、全固体電池を構成する電池本体と電気的に接続される金属端子の一部の外周面にヒートシールにより接着される全固体電池の端子用樹脂フィルムであって、含水率が2700質量ppm以下である、全固体電池の端子用樹脂フィルムである。
【0010】
上記端子用樹脂フィルムによれば、当該端子用樹脂フィルムを、金属端子の一部の外周面にヒートシールさせる場合に、当該端子用樹脂フィルムにおける気泡の発生を抑制できる。このため、端子用樹脂フィルムに粗な部分(気泡が多い部分)と密な部分(気泡が少ない部分)とが生じて粗な部分で金属端子に対するシール強度が低下することが抑制される。したがって、高温環境下での全固体電池の使用により固体電解質を含む電池本体が膨張して外装袋に開封しようとする力が働いても、端子用樹脂フィルムは外装袋の密封状態を維持させることができる。このため、全固体電池が固体電解質として硫化物系固体電解質を外装袋内に収容する場合に、全固体電池の外装袋内で水分と硫化物系固体電解質との反応により硫化水素等のガスが発生しても、そのようなガスの漏洩を抑制することができる。また、端子用樹脂フィルムにおいて、水分の通路となりやすい気泡の発生が抑制されるため、外装材の外部から端子用樹脂フィルムへの水分の侵入が抑制される。このため、全固体電池が固体電解質として硫化物系固体電解質を外装袋内に収容する場合には、水分と硫化物系固体電解質との反応による硫化水素の発生を抑制することもできる。
【0011】
上記端子用樹脂フィルムは、絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも一面側に設けられるシーラント層とを有する多層フィルムからなることが好ましい。
【0012】
この場合、端子用樹脂フィルムを機能分離させることが可能となる。すなわち、絶縁層により端子用樹脂フィルムの厚みが担保されてヒートシール時の絶縁性が確保される。一方、シーラント層は、端子用樹脂フィルムと金属端子との隙間を埋めることが可能となる。また、端子用樹脂フィルムを金属端子にヒートシールする時にシーラント層が流動化されてシーラント層の絶縁性にバラツキが生じても、絶縁層によって端子用樹脂フィルムの厚みが担保されるため、安定した絶縁性が確保される。
【0013】
上記端子用樹脂フィルムにおいては、前記多層フィルムのうち前記シーラント層が酸変性ポリオレフィン樹脂層であることが好ましい。
【0014】
この場合、酸変性ポリオレフィン樹脂層が金属との密着性に優れるため、端子用樹脂フィルムのシーラント層と金属端子との密着性をより向上させることができる。
【0015】
上記端子用樹脂フィルムは、ポリオレフィン系樹脂を含むポリオレフィンフィルム又はポリエステル系樹脂を含むポリエステルフィルムであることが好ましい。
【0016】
この場合、全固体電池において、金属端子及び外装袋に対するシール性がより良好となる。また、ポリオレフィンフィルム及びポリエステルフィルムは耐熱性を有するため、端子用樹脂フィルムは、全固体電池の耐熱性をより向上させることができる。
【0017】
上記端子用樹脂フィルムは、250℃以下の融点を有することが好ましい。
【0018】
この場合、端子用樹脂フィルムが250℃以下の融点を有することで、ヒートシール温度を低下させることができる。このため、当該端子用樹脂フィルムを金属端子にヒートシールさせる際に、端子用樹脂フィルムにおいて気泡の発生をより抑制することができる。したがって、端子用樹脂フィルムのシール強度及びバリア性の低下がより抑制される。このため、上記端子用樹脂フィルムは、全固体電池の外装袋の密封性をより十分に維持させることができる。また、端子用樹脂フィルムは、当該端子用樹脂フィルムを通じた水分の侵入を抑制することもできる。
【0019】
上記端子用樹脂フィルムは、150℃以上の融点を有することが好ましい。
【0020】
この場合、端子用樹脂フィルムが150℃以上の融点を有することで、端子用樹脂フィルムが高温環境下で使用されても、金属端子に対する端子用樹脂フィルムのシール強度が低下することを抑制することができる。このため、全固体電池が固体電解質として硫化物系固体電解質を外装袋内に収容する場合に、全固体電池の外装袋内で水分と硫化物系固体電解質との反応により硫化水素等のガスが発生しても、そのようなガスの漏洩をより抑制することができる。
【0021】
また、本開示は、固体電解質を含む電池本体と、前記電池本体と電気的に接続された金属端子と、前記金属端子を挟持し且つ前記電池本体を収容する外装袋と、前記金属端子の一部の外周面にヒートシールにより接着される端子用樹脂フィルムとを備え、前記端子用樹脂フィルムが、上述した端子用樹脂フィルムからなる、全固体電池である。
【0022】
この全固体電池によれば、端子用樹脂フィルムが、ヒートシールにより金属端子の一部の外周面に接着される。ここで、上述した端子用樹脂フィルムによれば、当該端子用樹脂フィルムを金属端子にヒートシールさせる場合に、当該端子用樹脂フィルムにおける気泡の発生を抑制できる。このため、本開示の全固体電池によれば、端子用樹脂フィルムに粗な部分と密な部分とが生じて粗な部分で金属端子に対するシール強度が低下することが抑制される。したがって、高温環境下での全固体電池の使用により電池本体が膨張して外装袋に開封しようとする力が働いても、全固体電池は端子用樹脂フィルムにより外装袋の密封状態を維持できる。また、端子用樹脂フィルムにおいて、水分の通路となりやすい気泡の発生が抑制されるため、全固体電池の外部からの水分の侵入が抑制される。
【0023】
なお、本開示において、「融点」はJIS K7121-1987に記載の方法に準拠して求められる「融解ピーク温度」を意味し、融解ピークが2個以上独立して現れる場合には最も低い融解ピーク温度が採用される。
【0024】
また、本開示において、端子用樹脂フィルムが多層フィルムである場合には、融点とは、多層フィルムを構成する層のうち最も低い融点を有する層の融点をいうものとする。
【発明の効果】
【0025】
本開示によれば、金属端子にヒートシールさせる場合に気泡の発生を抑制できる全固体電池の端子用樹脂フィルム及び全固体電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本開示の一実施形態に係る全固体電池の端子用樹脂フィルムを模式的に示す断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る全固体電池を示す斜視図である。
図3図2に示す端子用樹脂フィルム及び金属端子のA-A線方向の部分断面図である。
図4図1に示す外装材の一例を模式的に示す断面図である。
図5】本開示の他の実施形態に係る端子用樹脂フィルムを模式的に示す断面図である。
図6】実施例及び比較例における評価用サンプルを得るための構造体を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0028】
[全固体電池の端子用樹脂フィルム]
図1は、本開示の一実施形態に係る全固体電池の端子用樹脂フィルムを模式的に表す断面図である。図1に示すように、本実施形態の全固体電池の端子用樹脂フィルム(以下、単に「端子用樹脂フィルム」ともいう)10は、第1シーラント層1、絶縁層2及び第2シーラント層3をこの順に備える。すなわち、端子用樹脂フィルム10は多層フィルムである。また、端子用樹脂フィルム10の含水率は2700質量ppm以下である。なお、端子用樹脂フィルム10は、第1シーラント層1と絶縁層2とを接着する接着剤層を有してもよい。また、端子用樹脂フィルム10は、第2シーラント層3と絶縁層2とを接着する接着剤層を有してもよい。
【0029】
端子用樹脂フィルム10は、端子用樹脂フィルム10の含水率が2700質量ppmを超える場合に比べて、当該端子用樹脂フィルム10を金属端子にヒートシールさせる場合に、端子用樹脂フィルム10における気泡の発生をより抑制することができる。また、端子用樹脂フィルム10が、絶縁層2と、絶縁層2の両面側に設けられる第1シーラント層1及び第2シーラント層3とを含む多層フィルムからなるため、端子用樹脂フィルム10を機能分離させることが可能となる。すなわち、絶縁層2により端子用樹脂フィルム10の厚みが担保されてヒートシール時の絶縁性が確保される。一方、第1シーラント層1は、端子用樹脂フィルム10と金属端子との隙間を埋めることが可能となる。他方、第2シーラント層3は、全固体電池の外装袋にヒートシール(熱融着)させることが可能となる。また、端子用樹脂フィルム10を金属端子にヒートシールする時に第1シーラント層1が流動化されて第1シーラント層1の絶縁性にバラツキが生じても、絶縁層2によって端子用樹脂フィルム10の厚みが担保されるため、安定した絶縁性が確保される。
【0030】
端子用樹脂フィルム10の含水率は2700質量ppm以下であればよいが、好ましくは2000質量ppm以下であり、より好ましくは1500質量ppm以下である。端子用樹脂フィルム10の含水率は0質量ppmであってもよい。
【0031】
なお、端子用樹脂フィルム10においては、全体として含水率が2700質量ppm以下であればよい。したがって、第1シーラント層1、絶縁層2及び第2シーラント層3の各々において、含水率が2700質量ppm以下であってもよいが、一部の層で含水率を2700質量ppm以下とし残りの層で含水率を2700質量ppmより大きくしても、全体として含水率が2700質量ppm以下となればよい。
【0032】
以下、端子用樹脂フィルム10を構成する各層について詳細に説明する。
【0033】
<第1シーラント層>
第1シーラント層1は、本実施形態では、金属端子14の一部の外周面にヒートシール(熱融着)により接着される層である。
【0034】
第1シーラント層1としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂を含むフィルムを用いることができる。上記に挙げた各種樹脂をブレンドしポリマーアロイ化することで、シール適正や耐熱性を制御することができる。
【0035】
中でも、ポリオレフィン系樹脂を含むフィルム(以下、「ポリオレフィンフィルム」ともいう)又はポリエステル系樹脂を含むフィルム(以下、「ポリエステルフィルム」ともいう)を用いることが好ましい。この場合、金属端子及び外装袋に対するシール性がより良好となる。また、ポリオレフィンフィルム及びポリエステルフィルムは耐熱性を有するため、端子用樹脂フィルム10は、全固体電池の耐熱性をより向上させることができる。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度、中密度又は高密度のポリエチレン;エチレン-αオレフィン共重合体;ポリプロピレン;プロピレンを共重合成分として含むブロック又はランダム共重合体;及び、プロピレン-αオレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン樹脂を酸又はグリシジルで変性してなる酸変性ポリオレフィン樹脂であってもよい。
中でも、第1シーラント層1は、酸変性ポリオレフィン樹脂を含む酸変性ポリオレフィン樹脂層であることが好ましい。この場合、酸変性ポリオレフィン樹脂層が金属との密着性に優れるため、端子用樹脂フィルム10と金属端子との密着性をより向上させることができる。
【0037】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂、及び、それらの共重合体等が挙げられる。これらポリエステル系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、任意の酸とグリコールを共重合させたものを使用してもよい。
【0038】
第1シーラント層1は、シール性、耐熱性およびその他機能性を付与させるために、例えば酸化防止剤、スリップ剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、光安定剤、脱水剤、粘着付与剤、結晶核剤、可塑剤等の添加剤を必要に応じてさらに含んでもよい。
【0039】
第1シーラント層1の融点は、特に制限されるものではないが、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは155℃以上であり、より一層好ましくは、160℃以上である。第1シーラント層1の融点が150℃以上であることで、端子用樹脂フィルム10が高温環境下で使用されても、金属端子に対する端子用樹脂フィルム10のシール強度の低下を抑制することができる。このため、全固体電池が固体電解質として硫化物系固体電解質を外装袋内に収容する場合に、全固体電池の外装袋内で水分と硫化物系固体電解質との反応により硫化水素等のガスが発生しても、そのようなガスの漏洩をより抑制することができる。
【0040】
第1シーラント層1の融点は、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは240℃以下であり、より一層好ましくは230℃以下である。この場合、第1シーラント層1の融点が250℃以下であることで、ヒートシール温度を低下させることができる。このため、端子用樹脂フィルム10を金属端子にヒートシールさせる際に、第1シーラント層1において気泡の発生をより抑制することができる。したがって、端子用樹脂フィルム10の金属端子に対するシール強度及びバリア性の低下がより抑制される。このため、端子用樹脂フィルム10は、全固体電池の外装袋の密封性をより十分に維持させることができる。また、端子用樹脂フィルム10は、当該端子用樹脂フィルム10を通じた水分の侵入を抑制することもできる。
【0041】
第1シーラント層1の厚さは、特に限定されるものではないが、10~200μmであることが好ましく、20~150μmであることがより好ましい。第1シーラント層1の厚さが10μm以上であることで、金属端子と端子用樹脂フィルム10との隙間が第1シーラント層1を構成する樹脂によって埋め込まれやすくなる。また、第1シーラント層1の厚さが200μm以下であることで、第1シーラント層1を溶かすために必要な熱量を低下させることができるため、金属端子への端子用樹脂フィルム10のシールを低温・短時間で行うことができ、タクトタイムを短縮することができ、生産性をより向上させることができる。
【0042】
第1シーラント層1の厚さは、第2シーラント層3の厚さより大きくても、第2シーラント層3の厚さ以下であってもよいが、第2シーラント層3の厚さより大きいことが好ましい。端子用樹脂フィルム10の厚さが同一である場合、第1シーラント層1の厚さが、第2シーラント層3の厚さより大きい方が、端子用樹脂フィルム10を高温で金属端子に対してヒートシールさせる場合に第1シーラント層1と金属端子との隙間を埋める樹脂の量を第2シーラント層3よりも多くすることができるため、その隙間をより埋め易くすることができる。
また、第1シーラント層1と第2シーラント層3の厚さは同じであり、第1シーラント層1及び第2シーラント層3が同じ樹脂を含むことが好ましい。この場合、第1シーラント層1を第2シーラント層3として、第2シーラント層3を第1シーラント層1として使用することができるようになり、端子用樹脂フィルム10の金属端子への融着処理に際して、第1シーラント層1と第2シーラント層2とを区別する必要がなくなり、融着処理作業を効率よく行うことができる。ここで、第1シーラント層1及び第2シーラント層3に含まれる樹脂は、酸変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。この場合、第2シーラント層3が金属端子にヒートシールされる場合でも、金属端子と端子用樹脂フィルムとの密着性がより良好になる。
【0043】
<絶縁層2>
絶縁層2は、ヒートシール時の端子用樹脂フィルム10の薄層化(シール痩せ)を抑制し、金属端子と外装材の金属層との間の絶縁性を確保するための層である。
【0044】
絶縁層2としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂を含むフィルムを用いることができる。上記に挙げた各種樹脂をブレンドしポリマーアロイ化することで、シール適正や耐熱性を制御することができる。
【0045】
中でも、ポリオレフィンフィルム又はポリエステルフィルムを用いることが好ましい。この場合、ポリオレフィンフィルム又はポリエステルフィルムが耐熱性を有するため、端子用樹脂フィルム10は、全固体電池の耐熱性をより向上させることができる。
【0046】
また、絶縁層2は、シール性、耐熱性およびその他機能性を付与させるために、例えば酸化防止剤、スリップ剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、光安定剤、脱水剤、粘着付与剤、結晶核剤、着色剤、可塑剤等の添加剤を必要に応じてさらに含んでもよい。
【0047】
絶縁層2の融点は、特に制限されるものではないが、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは155℃以上であり、より一層好ましくは、160℃以上である。絶縁層2の融点が150℃以上であることで、端子用樹脂フィルム10が高温環境下で使用されても、金属端子に対する端子用樹脂フィルム10のシール強度の低下を抑制することができる。このため、全固体電池が固体電解質として硫化物系固体電解質を外装袋内に収容する場合に、全固体電池の外装袋内で水分と硫化物系固体電解質との反応により硫化水素等のガスが発生しても、そのようなガスの漏洩をより抑制することができる。
【0048】
絶縁層2の融点は、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは240℃以下であり、より一層好ましくは230℃以下である。
【0049】
絶縁層2の融点は、第1シーラント層1及び第2シーラント層3に含まれる樹脂の融点より高くてもよく、第1シーラント層1及び第2シーラント層3に含まれる樹脂の融点以下であってもよいが、第1シーラント層1及び第2シーラント層に含まれる樹脂の融点より高いことが好ましい。この場合、端子用樹脂フィルム10を、金属層からなるバリア層を含む外装材をヒートシールさせる際に、絶縁層2のシール痩せ(薄層化)を抑制でき、外装材のバリア層と金属端子との間で絶縁性を確保しやすくなる。
【0050】
絶縁層2の厚さは、特に限定されるものではないが、10~200μmであることが好ましく、20~150μmであることがより好ましい。絶縁層2の厚さが10μm以上であることにより、十分な絶縁性を得ることができる。絶縁層2の厚さが100μm以下であることにより、端子用樹脂フィルム10の周縁部からの水蒸気の浸入量を低減することができる。
【0051】
<第2シーラント層>
第2シーラント層3は、本実施形態では、全固体電池の外装袋にヒートシール(熱融着)される層である。
【0052】
第2シーラント層3としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂を含むフィルムを用いることができる。上記に挙げた各種樹脂をブレンドしポリマーアロイ化することで、シール適正や耐熱性を制御することができる。
【0053】
中でも、ポリオレフィンフィルム又はポリエステルフィルムを用いることが好ましい。この場合、金属端子及び外装袋に対するシール性がより良好となる。また、ポリオレフィンフィルム及びポリエステルフィルムは耐熱性を有するため、端子用樹脂フィルム10は、全固体電池の耐熱性をより向上させることができる。
【0054】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度、中密度又は高密度のポリエチレン;エチレン-αオレフィン共重合体;ポリプロピレン;プロピレンを共重合成分として含むブロック又はランダム共重合体;及び、プロピレン-αオレフィン共重合体等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン樹脂を酸又はグリシジルで変性してなる酸変性ポリオレフィン樹脂であってもよい。
【0055】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、ポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂、及び、それらの共重合体等が挙げられる。これらポリエステル系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、任意の酸とグリコールを共重合させたものを使用してもよい。
【0056】
第1シーラント層1及び絶縁層2がポリオレフィンフィルムで構成される場合には、第2シーラント層3もポリオレフィンフィルムで構成されることが好ましい。この場合、第1シーラント層1、絶縁層2及び第2シーラント層3からなる積層フィルムを共押し出しで製膜でき、層間の密着強度をより高くすることができる。また、第1シーラント層1及び絶縁層2がポリエステルフィルムで構成される場合には、第2シーラント層3もポリエステルフィルムで構成されることが好ましい。この場合、第1シーラント層1、絶縁層2及び第2シーラント層3を、耐熱性を有するポリエステル系接着剤で接着する場合に良好な密着性が得られる。
【0057】
また、第2シーラント層3は、シール性、耐熱性およびその他機能性を付与させるために、例えば酸化防止剤、スリップ剤、難燃剤、アンチブロッキング剤、光安定剤、脱水剤、粘着付与剤、結晶核剤、可塑剤等の添加剤を必要に応じてさらに含んでもよい。
【0058】
第2シーラント層3の融点は、特に制限されるものではないが、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは155℃以上であり、より一層好ましくは160℃以上である。第2シーラント層3の融点が150℃以上であることで、端子用樹脂フィルム10が高温環境下で使用されても、金属端子に対する端子用樹脂フィルム10のシール強度の低下を抑制することができる。このため、全固体電池が固体電解質として硫化物系固体電解質を外装袋内に収容する場合に、全固体電池の外装袋内で水分と硫化物系固体電解質との反応により硫化水素等のガスが発生しても、そのようなガスの漏洩をより抑制することができる。
【0059】
第2シーラント層3の融点は、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは240℃以下であり、より一層好ましくは230℃以下である。この場合、第2シーラント層3の融点が250℃以下であることで、ヒートシール温度を低下させることができる。このため、端子用樹脂フィルム10を外装袋にヒートシールさせる際に、第2シーラント層1において気泡の発生をより抑制することができる。したがって、端子用樹脂フィルム10の金属端子に対するシール強度及びバリア性の低下がより抑制される。このため、端子用樹脂フィルム10は、全固体電池の外装袋の密封性をより十分に維持させることができる。また、端子用樹脂フィルム10は、当該端子用樹脂フィルム10を通じた水分の侵入を抑制することもできる。
【0060】
第2シーラント層3の融点は、第1シーラント層1の融点と同一でも異なってもよいが、同一であることが好ましい。
【0061】
第2シーラント層3の厚さは、特に限定されるものではないが、10~200μmであることが好ましく、20~150μmであることがより好ましい。第2シーラント層3の厚さが10μm以上であることにより、十分なシール強度を得ることができる。第2シーラント層3の厚さが200μm以下であることにより、第2シーラント層3を溶かすために必要な熱量を低下させることができるため、全固体電池の外装袋への端子用樹脂フィルム10のシールを低温・短時間で行うことができ、タクトタイムを短縮することができ、生産性をより向上させることができる。
【0062】
<硫化水素分解吸着材料>
端子用樹脂フィルム10が硫化物系固体電解質を有する全固体電池に用いられる場合、本実施形態の端子用樹脂フィルム10を構成する層のうちの少なくとも一層は、硫化水素を分解又は吸着する硫化水素分解吸着材料を含有していてもよい。この場合、全固体電池において、水と硫化物系固体電解質とが反応して硫化水素が発生しても、硫化水素が端子用樹脂フィルム10を透過することが抑制される。硫化水素分解吸着材料は、例えば第1シーラント層1、絶縁層2、第2シーラント層3又は接着剤層のいずれかに含まれる。
【0063】
硫化水素分解吸着材料としては、酸化亜鉛、非晶質金属ケイ酸塩(主に金属が銅、亜鉛であるもの)、ジルコニウム・タンタノイド元素の水和物、4価金属リン酸塩(特に金属が銅であるもの)、ゼオライト及び亜鉛イオンの混合物、ゼオライトと酸化亜鉛と酸化銅(II)との混合物、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、硫酸銀、酢酸銀、酸化アルミニウム、水酸化鉄、イソシアネート化合物、ケイ酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、ゼオライト、活性炭、アミン系化合物、アイオノマー等が挙げられる。また、硫化水素分解吸着材料は、硫化水素をより無害化しやすく、コストや取り扱い性の観点から、酸化亜鉛(ZnO)及び/又は亜鉛イオンを含むものであることが好ましい。硫化水素分解吸着材料は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
硫化水素分解吸着材料としては、以下のような硫化水素について消臭効果がある消臭剤を用いてもよい。具体的には、例えば、大日精化工業株式会社製の「ダイムシュー PE-M 3000-Z」(ポリエチレンマスターバッチ品)、東亞合成株式会社製の「ケスモン」、ラサ工業株式会社製の「シュークレンズ」、並びに、株式会社シナネンゼオミック製の「ダッシュライト ZU」及び「ダッシュライト CZU」等が挙げられる。
【0065】
硫化水素分解吸着材料を含有する層には、硫化水素分解吸着材料の分散性を向上させる観点から、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸を添加してもよい。硫化水素分解吸着材料を金属石鹸と併用することで、層内での硫化水素分解吸着材料の分散性を高めることができ、硫化水素を無毒化する効果の偏りが生じ難くなると共に、硫化水素分解吸着材料を含有する層の機能(例えば、密着強度やシール強度等)の低下を抑制し易い。
【0066】
硫化水素分解吸着材料は、予めマスターバッチ化して用いてもよい。
硫化水素分解吸着材料が、第1シーラント層1、絶縁層2、第2シーラント層3及び接着剤層のうちの少なくとも1層に配合される場合は、マスターバッチとして事前に高濃度配合品を作製して置き、その後適切な濃度になる様に、第1シーラント層1、絶縁層2、第2シーラント層3及び接着剤層のうちの少なくとも1層の樹脂にマスターバッチを配合してもよい。なお、硫化水素分解吸着材料は、絶縁層2に配合されることが好ましい。この場合、硫化水素分解吸着材料が第1シーラント層1及び第2シーラント層3に配合されないため、端子用樹脂フィルムの第1シーラント層1と金属端子との強度が低下することをより抑制できるとともに、端子用樹脂フィルムの第2シーラント層3と外装材との強度が低下することをより抑制できる。硫化水素分解吸着材料は、第2シーラント層3に配合されてもよい。この場合でも、硫化水素分解吸着材料が第1シーラント層1に配合されないため、端子用樹脂フィルムの第1シーラント層1と金属端子との強度が低下することをより抑制できる。
硫化水素分解吸着材料が上記接着剤層に配合される場合で、接着剤層が塗工される場合は塗工液に直接配合してもよいし、接着剤層が押出等で形成される場合は上記第1シーラント層1と同様にマスターバッチを作製して配合してもよい。なお、マスターバッチを作製する場合、樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0067】
硫化水素分解吸着材料を含有する層における硫化水素分解吸着材料の含有量は、当該層全量を基準として0.01質量%以上30質量%以下であってよく、0.05質量%以上20質量%以下であってよく、0.1質量%以上15質量%以下であってよい。硫化水素分解吸着材料の含有量が上記下限値以上であることで、硫化水素無害化の効果が十分に得られ易く、上記上限値以下であることで、硫化水素分解吸着材料を含有する層の機能(例えば、密着強度やシール強度等)の低下を抑制できる。
【0068】
[端子用樹脂フィルムの製造方法]
次に、端子用樹脂フィルム10の製造方法について説明する。但し、端子用樹脂フィルム10の製造方法は、下記の製造方法に限定されない。
【0069】
端子用樹脂フィルム10は、例えば第1シーラント層1、絶縁層2及び第2シーラント層3を共押出しすることにより得ることができる。
【0070】
端子用樹脂フィルム10は、第1シーラント層1、絶縁層2、第2シーラント層3を予め用意しておき、これらを積層して熱ラミネートさせることにより得ることもできる。
熱ラミネート時の温度は、第1シーラント層1の融点及び第2シーラント層3の融点よりも高い温度であればよい。
【0071】
端子用樹脂フィルム10が第1シーラント層1、接着剤層、絶縁層2、第2シーラント層3を有する場合、絶縁層2及び第2シーラント層3からなる2層フィルムを事前に製膜した後、接着剤を用いて2層フィルムと第1シーラント層1とを、接着剤を用いたドライラミネート法により積層してもよい。
【0072】
[端子用樹脂フィルムの融着方法]
図1に示した端子用樹脂フィルム10と外装袋とを溶融接着する融着処理について説明する。
【0073】
まず、端子用樹脂フィルム10と金属端子14とを溶融接着する融着処理を行う。このとき、図1に示した端子用樹脂フィルム10の第1シーラント層1を金属端子14側に向け、加熱による第1シーラント層1の溶融と、加圧による第1シーラント層1と金属端子14との密着とを同時に行いながら、端子用樹脂フィルム10と金属端子14とを熱融着させる(図3参照)。
【0074】
融着処理では、端子用樹脂フィルム10と金属端子14との充分な密着性及び封止性を得る観点から、第1シーラント層1の融点+20℃以上の温度に加熱することが好ましい。
【0075】
端子用樹脂フィルム10の加熱温度は、例えば、155~285℃であってよい。また、熱融着の時間は、金属端子14との密着性、及び生産性を考慮して決定することができる。熱融着の時間は、例えば、1~60秒の範囲内で適宜設定することができる。
【0076】
次に、端子用樹脂フィルム10と外装材13とを溶融接着する融着処理を行う(図2参照)。具体的には、加熱による第2シーラント層3の溶融と、加圧による第2シーラント層3と外装材との密着とを同時に行いながら、端子用樹脂フィルム10と外装材とを熱融着させる。
【0077】
融着処理では、端子用樹脂フィルム10の第2シーラント層3及び外装材13のシーラント層を加熱して溶融させる。このとき、加熱温度は、端子用樹脂フィルム10の第2シーラント層3及び外装材13のシーラント層の両方が溶融する温度であればよいが、端子用樹脂フィルム10の第2シーラント層3及び外装材13のシーラント層の充分な密着性及び封止性を得る観点から、端子用樹脂フィルム10の第2シーラント層3及び外装材13のシーラント層のうち融点が高い方のシーラント層の融点+20℃以上の温度とすることが好ましい。
【0078】
端子用樹脂フィルム10の加熱温度は、例えば、155~285℃であってよい。熱融着の時間は、外装材13との密着性、及び生産性を考慮して決定することができる。熱融着の時間は、例えば、1~60秒の範囲内で適宜設定することができる。
【0079】
[全固体電池]
図2は、上述した端子用樹脂フィルムを用いて作製した全固体電池の一実施形態を示す斜視図である。図2に示されるように、全固体電池50は、固体電解質としての硫化物系電解質を有する電池本体11と、電池本体11から電流を外部に取り出すための2つの金属端子(電流取出し端子)14と、端子用樹脂フィルム10と、電池本体11を気密状態で収容する外装袋54とを含む。外装袋54は電池本体11を収容する容器として用いられる。端子用樹脂フィルム10は、金属端子14の一部の外周面に接着されており、金属端子14は、端子用樹脂フィルム10を介して外装袋54によって挟持されている。端子用樹脂フィルム10では、第1シーラント層3が金属端子14に接着され、第2シーラント層3が外装袋54に接着されている。
【0080】
全固体電池50によれば、端子用樹脂フィルム10がヒートシールにより金属端子14と接着される。ここで、端子用樹脂フィルム10によれば、当該端子用樹脂フィルム10を金属端子14にヒートシールさせる場合に、端子用樹脂フィルム10における気泡の発生を抑制できる。このため、全固体電池50によれば、端子用樹脂フィルム10に粗な部分と密な部分とが生じて粗な部分で金属端子に対するシール強度が低下することが抑制される。したがって、高温環境下での全固体電池50の使用により電池本体11が膨張して外装袋54に開封しようとする力が働いても、全固体電池50は、端子用樹脂フィルム10により外装袋54の密封状態を維持できる。その結果、外装袋54内で硫化水素が発生しても、その硫化水素が外装袋54から漏洩することが抑制される。また、第1シーラント層1において、水分の通路となりやすい気泡の発生が抑制されるため、端子用樹脂フィルム10の外部からの水分の侵入が抑制される。その結果、水分と硫化物系電解質との反応により硫化水素が発生することを抑制することができる。
【0081】
以下、電池本体11、金属端子14及び外装袋54について詳細に説明する。
【0082】
<電池本体>
電池本体11は、正極、固体電解質及び負極からなる発電素子を少なくとも1つ有する。固体電解質は、硫化物系固体電解質に限られず、酸化物系固体電解質などであってもよい。
<金属端子>
図2及び図3に示すように、一対の金属端子14は、金属端子本体14-1と、腐食防止層14-2とを有する。一対の金属端子本体14-1のうち、一方の金属端子本体14-1は、電池本体11の正極と電気的に接続されており、他方の金属端子本体14-1は、電池本体11の負極と電気的に接続されている。一対の金属端子本体14-1は、電池本体11から離間する方向に延在しており、その一部が外装材13から露出されている。一対の金属端子本体14-1の形状は、例えば、平板形状とすることができる。
【0083】
金属端子本体14-1の材料としては、金属を用いることができる。この金属は、電池本体11の構造や電池本体11の各構成要素の材料等を考慮して決めることができる。
【0084】
全固体電池50がリチウムイオン二次電池である場合、正極用集電体としてアルミニウムを用いることができ、負極用集電体として銅を用いることができる。全固体電池50がリチウムイオン二次電池である場合、電池本体11の正極と接続される金属端子本体14-1の材料は、アルミニウムであることが好ましい。また、電池本体11の正極と接続される金属端子本体14-1の材料は、1N30等の純度97%以上のアルミニウム素材であってもよい。さらに、金属端子本体14-1を屈曲させる場合には、柔軟性を付加する目的で十分な焼鈍により調質したO材を用いてもよい。電池本体11の負極と接続される金属端子本体14-1の材料は、例えば表面にニッケルめっき層が形成された銅、又はニッケルで構成することができる。
【0085】
金属端子本体14-1の厚さは、全固体電池50のサイズや容量に応じて決めることができる。全固体電池50が小型である場合、金属端子本体14-1の厚さは、50μm以上であってよい。蓄電、車載用途等の大型の全固体電池の場合、金属端子本体14-1の厚さは、100~1000μmの範囲内で適宜設定することができる。
【0086】
腐食防止層14-2は、金属端子本体14-1の表面を覆うように配置されている。全固体電池50において、腐食防止層14-2は、硫化水素等の腐食成分から金属端子本体14-1が腐食されることを抑制するための層である。
【0087】
<外装袋>
図2に示すように、外装袋54は、2枚の外装材13を重ね合わせ、重なり合った周縁部同士をヒートシールすることで得られる。外装袋54は、外装材13を半分に折り曲げて重なり合った周縁部同士をヒートシールすることによっても得られる。外装材13は、電池本体11側から、シーラント層21と、第1接着剤層22と、腐食防止処理層23-1と、バリア層24と、腐食防止処理層23-2と、第2接着剤層25と、基材層26と、をこの順に備える(図4参照)。
【0088】
シーラント層21は、外装材13に対し、ヒートシールによる封止性を付与する層であり、全固体電池50の組み立て時に内側に配置されてヒートシール(熱融着)される層である。シーラント層21の母材としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸等をグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることができる。上記ポリオレフィン樹脂としては、低密度、中密度、高密度のポリエチレン;エチレン-αオレフィン共重合体;ホモ、ブロック、又はランダムポリプロピレン;プロピレン-αオレフィン共重合体等を用いることができる。これらの中でも上記ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレンを含むことが好ましい。これらポリオレフィン樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0089】
シーラント層21は、必要とされる機能に応じて、単層フィルム、又は複数の層を積層させた多層フィルムであってよい。具体的には、防湿性を付与するために、エチレン-環状オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン等の樹脂を介在させた多層フィルムであってよい。シーラント層21は、各種添加剤(難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等)を含んでよい。
【0090】
シーラント層21の厚さは、10~150μmであることが好ましく、30~80μmであることがより好ましい。シーラント層21の厚さが10μm以上であることで、外装材13は、外装材13、又は、端子用樹脂フィルム10との間で、充分な密着性を有することが可能となる。また、シーラント層21の厚さが150μm以下であることで、外装材13のコストを抑えることができる。
【0091】
第1接着剤層22としては、ドライラミネーション用接着剤、酸変性された熱融着性樹脂等の公知の接着剤を適宜選択して用いることができる。
【0092】
図4に示すように、腐食防止処理層23-1、23-2は、バリア層24の両面に形成することが性能上好ましいが、コストを抑える観点から、第1接着剤層22側に位置するバリア層24の面のみに腐食防止処理層23-1を配置してよい。
【0093】
バリア層24は、導電性を有する金属層であってよい。バリア層24の材料としては、アルミニウム及びステンレス鋼等が挙げられ、コスト、質量(密度)等の観点から、アルミニウムが好ましい。
【0094】
第2接着剤層25としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール等を主剤としたポリウレタン系の接着剤を用いることができる。
【0095】
基材層26としては、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の単層膜、及び多層膜であってよい。基材層26は、シーラント層21と同様に、各種添加剤(難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等)を含んでよい。
【0096】
また、外装材13は、基材層26のシーラント層21とは反対側の面上に、基材層26を保護する保護層(図示せず)を更に備えていてもよい。
【0097】
また、外装材13においては、第1接着剤層22に代えて、接着性樹脂層を用いてもよい。
【0098】
本実施形態の外装材13を構成する層のうちの少なくとも一層は、端子用樹脂フィルム10と同様、硫化水素分解吸着材料を含有していてもよい。この場合、全固体電池50において、水と硫化物系固体電解質とが反応して硫化水素が発生しても、硫化水素が外装材13を透過することが抑制される。硫化水素分解吸着材料は、例えば第1接着剤層22、第2接着剤層25、シーラント層21又はこれらのうち少なくとも一層に含有される。特に、硫化水素分解吸着材料は、シーラント層21に含まれることが好ましい。この場合、硫化水素が外装材13を透過することが効果的に抑制される。
【0099】
以上、本開示の好ましい実施形態について詳述したが、本開示は上記の実施形態に限定されるものではない。
例えば、端子用樹脂フィルム10は、第1シーラント層1、絶縁層2及び第2シーラント層3を備えているが、外装袋54が金属層を有さない場合には、端子用樹脂フィルム10は絶縁層2を有していなくてもよい。また、端子用樹脂フィルムは、図5に示す端子用樹脂フィルム110のように、単層フィルムで構成されていてもよい。この場合、この端子用樹脂フィルム110は、2700質量ppm以下の含水率を有する。端子用樹脂フィルム110は、第1シーラント層1、絶縁層2又は第2シーラント層3のいずれかで構成されてもよい。
【実施例0100】
以下、実施例に基づいて本開示をより具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0101】
(実施例1)
酸変性ポリプロピレンからなるフィルム(厚み:25μm、融点:140℃)と、ポリプロピレンからなるフィルム(厚み:50μm、融点:164℃)と、酸変性ポリプロピレンからなるフィルム(厚み:25μm、融点:140℃)を共押出しして、厚さ100μmのポリオレフィンフィルム1(POフィルム1)を得た。得られたPOフィルム1の含水率は358質量ppmであった。
【0102】
(実施例2)
POフィルム1を、ポリプロピレン-ポリエチレンランダム共重合体(フタムラ化学株式会社製、商品名:FHK2、融点:135℃)からなるポリオレフィンフィルム2(POフィルム2)に変更し、厚みを100μmから40μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして端子用樹脂フィルムを得た。得られた端子用樹脂フィルムの含水率は516質量ppmであった。
【0103】
(実施例3)
POフィルム1を、ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ株式会社製、商品名:エンブレット、融点:257℃)からなるポリエステルフィルム(ポリエステルフィルム1)に変更し、厚みを100μmから25μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして端子用樹脂フィルムを得た。得られた端子用樹脂フィルムの含水率は2682質量ppmであった。
【0104】
(実施例4)
POフィルム1を、ポリエチレンナフタレート(東洋紡株式会社製、商品名:テオネックス、融点:265℃)からなるポリエステルフィルム(ポリエステルフィルム2)に変更し、厚みを100μmから25μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして端子用樹脂フィルムを得た。得られた端子用樹脂フィルムの含水率は2637質量ppmであった。
【0105】
(実施例5)
POフィルム1を、複数種類のポリエチレンテレフタレートの共重合体(融点:210℃)からなるポリエステルフィルム(ポリエステルフィルム3)に変更し、厚みを100μmから25μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして端子用樹脂フィルムを得た。得られた端子用樹脂フィルムの含水率は1648質量ppmであった。
【0106】
(実施例6)
POフィルム1を、酸変性ポリプロピレンからなるフィルム(厚み:25μm、融点:165℃)、ポリプロピレンからなるフィルム(厚み:50μm、融点:165℃)及び酸変性ポリプロピレンからなるフィルム(厚み:25μm、融点:165℃)を共押出ししてなる積層体からなるポリオレフィンフィルム3(POフィルム3)に変更したこと以外は実施例1と同様にして端子用樹脂フィルムを得た。得られた端子用樹脂フィルムの含水率は546質量ppmであった。
【0107】
(比較例1)
POフィルム1を、ナイロン6(東洋紡株式会社製、商品名:ハーデンN1102、融点:225℃)からなるポリアミドフィルム(PAフィルム)に変更し、厚みを100μmから25μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして端子用樹脂フィルムを得た。得られた端子用樹脂フィルムの含水率は23729質量ppmであった。
なお、含水率は、以下のようにして測定した。
すなわち、10cm角にカットした端子用樹脂フィルムを23℃/50%RHの環境下で二日間放置した後、300℃に設定した加熱水分気化装置(株式会社HIRANUMA製、商品名:EV-2000)を用いて加熱し、発生した水分の量を、微量水分測定装置(カールフィッシャー:株式会社HIRANUMA製「AQ-2100」)にて測定した。このとき、キャリアガスとして、乾燥したNガスを用いた。そして、上記のようにして測定した水分量の値を用い、下記式に基づいて含水率を算出した。
含水率(質量ppm)=測定した水分量(g)/端子用樹脂フィルムの質量(g)
【0108】
<端子用樹脂フィルムの評価>
端子用樹脂フィルムを120mm×60mmのサイズに切り出し、半分に折りたたみ、端子用樹脂フィルムの長手方向の両端部を重ね合わせ、これらの両端部を、0.6MPaの圧力で加圧しながら、端子用樹脂フィルムの融点+20℃の温度で10秒間にわたってヒートシールし、幅が10mmのヒートシール部(図6の斜線部)を形成し、構造体を作製した。その後、構造体を12時間室温で保管した。その後、構造体からヒートシール部の長手方向における中央部を幅15mm×30mmで切り出し(図6を参照)、評価用サンプルを作製した。そして、この評価用サンプルを、融着部で2つの分離片に分離させた。そして、分離した分離片のうち融着部を目視にて観察し、以下の基準に基づいて端子用樹脂フィルムの気泡の発生状態の評価を行った。結果を表1に示す。なお、「端子用樹脂フィルムの融点」は、端子用樹脂フィルムが多層フィルムである場合には、多層フィルムを構成する層のうち最も融点の低い層であって最も外側に配置されるシーラント層の融点とした。
(評価基準)
◎:気泡の発生が見られない
〇:局所的に気泡の発生が見られる
×:全面的に気泡の発生が見られる
【0109】
【表1】
【0110】
表1に示す結果より、含水率が2700質量ppm以下である実施例1~6の端子用樹脂フィルムは、含水率が2700質量ppmを超える比較例1の端子用樹脂フィルムに比べて、気泡の発生が抑制されることが分かった。
【0111】
したがって、本開示の全固体電池の端子用樹脂フィルムによれば、金属端子にヒートシールさせる場合に気泡の発生を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0112】
1…第1シーラント層(シーラント層)、2…絶縁層、3…第2シーラント層(シーラント層)、10,110…端子用樹脂フィルム、11…電池本体、14…金属端子、50…全固体電池。
図1
図2
図3
図4
図5
図6