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特開2024-161291固体電解コンデンサ及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161291
(43)【公開日】2024-11-15
(54)【発明の名称】固体電解コンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/012 20060101AFI20241108BHJP
   H01G 9/008 20060101ALI20241108BHJP
   H01G 4/232 20060101ALI20241108BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20241108BHJP
   H01G 9/15 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
H01G9/012 303
H01G9/008 303
H01G9/012 305
H01G4/232 Z
H01G9/00 290E
H01G9/15
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024156588
(22)【出願日】2024-09-10
(62)【分割の表示】P 2020098596の分割
【原出願日】2020-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 蓮姫
(72)【発明者】
【氏名】隈川 隆博
(57)【要約】
【課題】良好な電気特性を維持しながら、高い気密性を維持することで高信頼性と高生産性を有した固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】陽極体2、陽極体2を被覆する誘電体酸化被膜層3、及び、陽極体2と絶縁されるように誘電体酸化被膜層3上に形成された陰極体6を有するコンデンサ素子1と、コンデンサ素子1を被覆する外装体10と、陽極体2の端部である陽極端子部9に形成され、所定の表面粗さの表面11Sを有するコンタクト層11と、表面11Sを被覆する陽極側電極層(12)と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体、前記陽極体を被覆する誘電体酸化被膜層、及び、前記誘電体酸化被膜層上に形成された陰極体を有するコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子を被覆する外装体と、
前記陽極体の端部である陽極端子部に形成され、所定の表面粗さの表面を有するコンタクト層と、
前記表面を被覆する陽極側電極層と、
を備える、固体電解コンデンサ。
【請求項2】
表面粗さは、3μm以上である、
請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記陽極体の厚さ方向における前記表面の断面形状は、中央部が凸の形状、またはほぼ直線形状に形成されている、
請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記コンタクト層は、前記陽極端子部に金属粒子が堆積して形成された金属皮膜である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記金属粒子は、球形、またはほぼ球形である、
請求項4に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記コンタクト層と前記陽極端子部とは、金属結合されている、
請求項4または5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記コンタクト層は、前記陽極体よりもイオン化傾向の小さい金属で形成されている、
請求項1から6のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
陽極体を有するコンデンサ素子を形成する工程と、
前記コンデンサ素子を外装体で被覆する工程と、
前記外装体から、前記陽極体の端部である陽極端子部を露出させる工程と、
前記陽極端子部にコンタクト層を形成する工程と、
前記コンタクト層の表面に所定の粗さを形成する工程と、
前記コンタクト層の表面を陽極側電極層で被覆する工程と、
を含む、固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記コンタクト層を形成する工程と、前記コンタクト層の表面に所定の粗さを形成する工程と、は一度に行われる、
請求項8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器の高周波化に伴って電子部品の一つであるコンデンサにも、高周波領域での優れたインピーダンス特性が求められている。このような要求に応えるために電気伝導度の高い導電性高分子を固体電解質に用いた固体電解コンデンサが種々検討されている。このような固体電解コンデンサとして、例えば特許文献1に開示されたものがある。
【0003】
また、近年、パーソナルコンピュータのCPU周り等に使用される固体電解コンデンサには、小型大容量化が強く望まれている。更に、高周波化に対応して低ESR(Equivalent Series Resistance:等価直列抵抗)化や、ノイズ除去や過渡応答性に優れた低ESL(Equivalent Series Inductance:等価直列インダクタンス)化も要望されている。このような要望に応えるために種々の検討がなされている。
【0004】
図6を参照して、特許文献1に記載された従来の積層型固体電解コンデンサの構成について説明する。固体コンデンサ素子31は、複数のコンデンサ素子が積層されて構成されている。コンデンサ素子は、芯部35とその表面に沿って形成される粗面部36とを有する弁作用金属基体34と、粗面部36上に形成された誘電体酸化被膜層37と誘電体酸化被膜層37上に形成された固体電解質層と集電体層の複合層39と、を有する。複数のコンデンサ素子の各集電体層は、互いに電気的に接続されている。
【0005】
電気絶縁性の外装43は、弁作用金属基体34の一方端面が露出された状態で積層体33を被覆している。外装43の一方端面には、弁作用金属基体34の芯部35と電気的に接続された陽極側外部電極47が設けられている。また、外装43の他方の端面には、集電層と電気的に接続された陰極側外部電極48が設けられている。
【0006】
陽極側外部電極47は、第1導電層49、第2導電層50、及び第3導電層51で構成されている。第1導電層49は、弁作用金属基体34の芯部35に直接接するように形成されており、第2導電層50は第1導電層49の外側に形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2014/188833号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示された固体電解コンデンサでは、弁作用金属基体34の一方端面にスパッタリング等で第1導電層49を形成したのち、第1導電層49を覆うように第2導電層50及び第3導電層51が順次形成される。このような場合、導電層同士は、アンカー効果により接合されていると考えられる。
【0009】
アンカー効果による導電層同士の接合は比較的接合強度が低いため、剥離等の不良が発生しやすい。剥離等の不良が発生すると、固体電解コンデンサの電気特性及び機械的特性(機械強度)が低下してしまうため、対策が要望されている。
【0010】
本開示は、電気特性及び機械的特性を向上させた固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る固体電解コンデンサは、陽極体、前記陽極体を被覆する誘電体酸化被膜層、及び、前記誘電体酸化被膜層上に形成された陰極体を有するコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子を被覆する外装体と、前記陽極体の端部である陽極端子部に形成され、所定の表面粗さの表面を有するコンタクト層と、前記表面を被覆する陽極側電極層と、を備える。
【0012】
本開示の一態様に係る固体電解コンデンサの製造方法は、陽極体を有するコンデンサ素子を形成する工程と、前記コンデンサ素子を外装体で被覆する工程と、前記外装体から、前記陽極体の端部である陽極端子部を露出させる工程と、前記陽極端子部にコンタクト層を形成する工程と、前記コンタクト層の表面に所定の粗さを形成する工程と、前記コンタクト層の表面を陽極側電極層で被覆する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0013】
電気特性及び機械的特性を向上させた固体電解コンデンサ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本開示の実施の形態に係る固体電解コンデンサを示す斜視図
図1B】固体電解コンデンサの上面図
図1C図1BのA-A’線における矢視断面図
図2】本開示におけるコンタクト層の好ましい断面形状を示す拡大断面図
図3】コンタクト層がコールドスプレー法以外で形成された場合の拡大断面図
図4A】固体電解コンデンサの製造方法の積層工程における固体電解コンデンサの断面図
図4B】固体電解コンデンサの製造方法の封止工程における固体電解コンデンサの断面図
図4C】固体電解コンデンサの製造方法の端面出し工程における固体電解コンデンサの断面図
図5A】固体電解コンデンサの製造方法のコンタクト層形成工程における固体電解コンデンサの断面図
図5B】固体電解コンデンサの製造方法の電極層形成工程における固体電解コンデンサの断面図
図5C】固体電解コンデンサの製造方法の外部電極形成工程における固体電解コンデンサの断面図
図6】特許文献1に記載された従来の積層型固体電解コンデンサの構成について説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
<構造>
図1Aは、本開示の実施の形態に係る固体電解コンデンサを示す斜視図である。図1Bは、固体電解コンデンサの上面図である。図1Cは、図1BのA-A’線における矢視断面図である。なお、以下の説明における上方向は、図1Cの上方向に対応し、以下の説明における下方向は、図1Cの下方向に対応する。
【0017】
図1A図1Cに示す固体電解コンデンサ20は、コンデンサ素子1、支持部材7、導電材8、陽極端子部9、外装体10、コンタクト層11、陽極側電極層12a、陰極側電極層12b、陽極側外部電極13a、及び陰極側外部電極13bを有する。
【0018】
(コンデンサ素子1)
図1Cに示すように、コンデンサ素子1は、陽極体2、誘電体酸化被膜層3、絶縁層4、固体電解質層5、及び陰極体6を有する。
【0019】
誘電体酸化被膜層3は、例えば弁金属であるAl(アルミニウム)箔両面に化学エッチング等の方法で多孔質層を形成し、その多孔質層上に誘電体被膜を形成して得られる。陽極体2は、多孔質化されずに残っているAl箔の芯材部である。誘電体酸化被膜層3は、陽極体2の上面及び下面に配置されている。
【0020】
陽極体2の厚み及び誘電体酸化被膜層3の厚みは、それぞれ、20μm以上80μm以下である。なお、陽極体2及び誘電体酸化被膜層3の材料としては、Al箔に限定されず、例えば、コンデンサ材料として一般的に使用されるTa(タンタル)等であってもよい。
【0021】
固体電解質層5は、陽極体2の陽極側の端部である。固体電解質層5近傍において、陽極体2の上面及び下面には、絶縁層4が形成されている。絶縁層4により、固体電解質層5と、誘電体酸化被膜層3及び後述する陰極体6と、が電気的に分離されている。
【0022】
絶縁層4の形成方法としては、既知の適宜の方法を採用すればよい。例えば、誘電体酸化被膜層3の一部をレーザや化学エッチングで完全に除去した後に、陽極体2上に絶縁性の樹脂であるポリイミドや、ポリアミド、エポキシ等をコーティングする方法が採用されうる。または、例えば、誘電体酸化被膜層3に圧縮応力を与えて緻密な層にすることで絶縁性を持たせる方法や、多孔質の誘電体酸化被膜層3の一部に絶縁性の樹脂を含侵させる方法等が採用されてもよい。
【0023】
また、図1では絶縁層4が単構造である場合を例示しているが、絶縁層4は、異種材料を組み合わせた複合構造であってもよい。例えば、絶縁層4は、緻密なAl酸化膜とポリイミド樹脂との積層構造であってもよい。
【0024】
絶縁層4により固体電解質層5と絶縁されている誘電体酸化被膜層3は、Al箔両面に化学エッチング等の方法で形成された多孔質層に、固体電解質層が形成された構成である。固体電解質層は、例えば、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子材料を用いて、化学重合または電解重合等の方法によって形成される。
【0025】
誘電体酸化被膜層3上には、陰極体6が形成されている。陰極体6は、例えば印刷法または転写法等により、カーボン層と導電性Ag(銀)ペースト層とが順次積層されたものである。
【0026】
なお、陰極体6は、カーボン層及び導電性Agペースト層の積層構造に限定されない。例えば、陰極体6は、導電性Agペーストの代わりに、Ag以外のフィラーを用いた導電性ペースト、またはシンタリング材等を含むものであってもよい。Ag以外のフィラーの例としては、例えばCu(銅)や、Ni(ニッケル)コア材をAgコートしたものが挙げられる。
【0027】
(コンデンサ素子1)
図1Cに示すように、固体電解コンデンサ20は、上下方向に互いに積層された複数のコンデンサ素子1を有する。図1Cに示す例では、3つのコンデンサ素子1a,1b,1cが積層されているが、本開示では互いに積層されるコンデンサ素子1の数については3つに限定されるものではない。
【0028】
最も下側に配置されているコンデンサ素子1cは、支持部材7上に導電材8を介して固定されている。固定されたコンデンサ素子1cの上には、導電材8を介してコンデンサ素子1b,1aが積層されている。なお、以下の説明において、積層されたコンデンサ素子1a,1b,1cのいずれか1つを指して、または複数のコンデンサ素子をまとめて、コンデンサ素子1と記載することがある。
【0029】
支持部材7としては、例えば、ガラスエポキシ基板、BT(Bismaleimide-Triazine)レジンまたはポリイミド樹脂基板等の耐熱性に優れた基板、またはCu製のリードフレーム等を採用できる。ただし、リードフレーム等の導電材料を用いる場合では、陽極側と陰極側とを絶縁する必要がある。
【0030】
導電材8としては、例えば、導電性Agペースト等の導電性ペーストが採用される。導電材8は、コンデンサ素子1の陰極体6と電気的に接続されている。なお、導電材8は、ペースト状ではなく、貼り付け可能なシート状であってもよい。
【0031】
また、図1Cに示す例では、隣接するコンデンサ素子間には導電材8のみが設けられているが、例えば、導電材8の他に、Al、Cu、またはIn(インジウム)等の金属箔を介在させてもよい。
【0032】
複数のコンデンサ素子1は、陰極側の端部である陰極端子部8b、及び、陽極側の端部である陽極端子部9が露出するように、外装体10で被覆されている。
【0033】
(コンタクト層11)
陽極体2の陽極側の端部には陽極端子部9が形成されており、上述したように、陽極端子部9は外装体10で被覆されていない。
【0034】
陽極端子部9には、陽極体2よりもイオン化傾向が小さい金属材料を用いたコンタクト層11が形成されている。コンタクト層11は、樹脂系材料である外装体10及び絶縁層4には形成されておらず、金属材料である陽極端子部9の表面のみに選択的に形成されている。コンタクト層11のさらに外側には陽極側電極層12a及び陽極側外部電極13aが形成されている。コンタクト層11と、陽極側電極層12a及び陽極側外部電極13aとは、電気的に接続されている。これにより、積層されたコンデンサ素子1の陽極端子部9同士の電気的な導通が、主に陽極側電極層12aを介して行われる。
【0035】
上述したように陽極体2がAlで形成されている場合、コンタクト層11の材料の例としては、Zn(亜鉛)、Ni、Sn、Cu、Ag等が挙げられる。陽極体2よりイオン化傾向が小さい金属材料を用いることにより、コンタクト層11の表面における酸化膜の形成が抑制されるため、コンタクト層11と陽極側電極層12aとの電気的接続をより確実にすることができる。
【0036】
なお、コンタクト層11の材料として、原子間距離が近いCu、Zn、またはAgを用いることがより好ましい。コンタクト層11の材料としてCu、Zn、またはAgを用いた場合、陽極体2との間に金属結合による合金層が形成されるため、コンタクト層11と陽極体2との間の接合強度をより強固にすることができる。なお、コンタクト層11は、単元素金属で構成される以外に、青銅や黄銅などの合金で構成されてもよいし、CuとAg等の異なる金属が積層されて構成されてもよい。
【0037】
図2は、本開示におけるコンタクト層11の好ましい断面形状を示す拡大断面図である。コンタクト層11の陽極側電極層12側の表面11Sは、所定の粗さを有する。コンタクト層11の表面11Sが有する表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば3μm以上であることが好ましい。このような表面粗さにより、表面11Sの表面積が増えるため、コンタクト層11と陽極側電極層12aとの接触面積も増える。これにより、詳細は後述するが、コンタクト層11と陽極側電極層12aとの電気抵抗を下げることができ、接合強度(機械強度)を上げることができる。
【0038】
コンタクト層11の製造工程については後に詳しく説明するが、コンタクト層11はコールドスプレー法で形成されることが好ましい。コールドスプレー法とは、空気、窒素、ヘリウム等の圧縮された気体により、数μmから数十μmオーダーの金属粒子を亜音速、音速または超音速に加速して、固相状態のまま基材に衝突させて金属粒子を基材と接合させ、金属皮膜を形成する技術である。
【0039】
コンタクト層11がコールドスプレー法で形成された場合、表面11Sにおいて、コンタクト層11の形成のために衝突させられた金属粒子の粒形状が残っている。このため、図2に示すように、コンタクト層11の表面11Sは金属粒子の粒形状に起因する凹凸により、上述した表面粗さを有する。理由は後述するが、例えばメジアン径が5μm~10μmの金属粒子を用いることにより、表面11Sの表面粗さを3μm以上とすることができる。
【0040】
なお、本開示において、コンタクト層11は必ずしもコールドスプレー法で形成されなくてもよく、例えばめっき法、半田ディップ法、スパッタリング、または蒸着法等によって形成されてもよい。この場合、めっき法、半田ディップ法、スパッタリング、または蒸着法等によってコンタクト層11を形成したのち、ブラスト法等を用いて表面11Sを物理的に粗化する工程が必要となる。図3は、コンタクト層11がコールドスプレー法以外で形成された場合の拡大断面図である。
【0041】
<陽極側電極層12a及び陰極側電極層12b>
上述したように、コンデンサ素子1の積層体は、外装体10で被覆されているが、陰極側の端部である陰極端子部8b、及び、陽極側の端部である陽極端子部9は外装体10から露出している。以下の説明において、陽極端子部9、絶縁層4の陽極側端面4a、外装体10の陽極側端面10a、及び支持部材7の陽極側端面7aを含むコンデンサ素子1の積層体の端面を、陽極側端面14と記載する。また、導電材8の陰極側端面である陰極端子部8b、外装体10の陰極側端面10b、及び支持部材7の陰極側端面7bを含むコンデンサ素子1の積層体の端面を、陰極側端面15と記載する。
【0042】
陽極側端面14及び陰極側端面15は、それぞれ、陽極側電極層12a及び陰極側電極層12bにより被覆されている。また、陽極側電極層12a及び陰極側電極層12bは、それぞれ、陽極側外部電極13a及び陰極側外部電極13bにより被覆されている。
【0043】
陽極側電極層12a及び陰極側電極層12bの材料は、バインダとなる樹脂材料中にAgまたはCuなどの金属フィラー(金属粒子)を混入させた導電ペースト材料(導電樹脂材料)であることが望ましい。これにより、絶縁層4、外装体10、支持部材7を構成する材料との接着に適したバインダ成分を樹脂材料中に添加することができるので、絶縁層4、外装体10、及び支持部材7と陽極側電極層12a及び陰極側電極層12bとの化学結合または水素結合による結合が期待できる。
【0044】
さらに、絶縁層4の陽極側端面4a及び陰極側端面4b、外装体10の陽極側端面10a及び陰極側端面10b、並びに支持部材7の陽極側端面7a及び陰極側端面7bそれぞれの表面粗さ(Ra)を、5μm以上にすることが望ましい。このような構成により、各端面と陽極側電極層12a及び陰極側電極層12bとの接触面積を増加させることができるとともに、アンカー効果による強固な結合を付与することができる。
【0045】
<製造方法>
次に、本開示の実施の形態に係る固体電解コンデンサの製造方法について、図4A図4C及び図5A図5Cを用いて説明する。図4A図4C及び図5A図5Cは、それぞれ、固体電解コンデンサの製造方法の各工程における固体電解コンデンサの断面図である。
【0046】
(積層工程)
最初に、図4Aに示す積層工程が行われる。積層工程では、支持部材7上に導電材8を適量塗布し、その上に、あらかじめ用意された複数のコンデンサ素子1のうちの1つ(コンデンサ素子1c)を精度良く載置する。
【0047】
次に、コンデンサ素子1cの上に導電材8を適量塗布し、その上にコンデンサ素子1bを載置する。更に、コンデンサ素子1bの上に導電材8を適量塗布し、その上にコンデンサ素子1aを載置する。
【0048】
導電材8の塗布方法としては、例えば、ディスペンス方式、印刷、インクジェット法、ディップ法、または転写法等の既知の方法を適宜採用することができる。
【0049】
そして、高温炉等を用いて導電材8を熱硬化させ、各コンデンサ素子1の陰極体6同士を導通させる。なお、熱硬化の手段としては、高温炉に限定されず、例えば、ホットプレートまたはリフロー炉等を用いてもよい。
【0050】
なお、上記説明では、支持部材7上の一箇所においてコンデンサ素子1を順次積層する場合について説明したが、支持部材7上の複数箇所において(例えば、複数列、複数行のマトリクス状に)複数のコンデンサ素子の積層が同時に行われてもよい。
【0051】
(封止工程)
次に、図4Bに示す封止工程が行われる。封止工程では、図4Bに示すように、積層されたコンデンサ素子1全体を覆うように外装体10で封止する。この際、外装体10は、積層されたコンデンサ素子1同士の隙間、及び、支持部材7とコンデンサ素子1との隙間にも充填されることが好ましい。積層されたコンデンサ素子1同士の隙間、及び、支持部材7とコンデンサ素子1との隙間には、予め外装体10とは別の樹脂材料が充填されていてもよい。
【0052】
外装体10を用いてコンデンサ素子1を封止する方法としては、例えば、トランスファー法、コンプレッション法、または、液状樹脂を型に流し込んだ後に熱硬化させる方法等の既知の方法が適宜採用されればよい。
【0053】
(端面出し工程)
次に、図4Cに示す端面出し工程が行われる。端面出し工程では、外装体10に封止されたコンデンサ素子1の陽極側については、陽極端子部9が外装体10から露出するように端面出しが行われる。これにより、陽極側端面14が形成される。また、陰極側については、陰極端子部8bが露出するように端面出しが行われる。これにより、陰極側端面15が形成される。
【0054】
端面出しの方法としては、例えば、ダイヤモンド粒子をボンド材で固定したダイシングブレードを高速回転させて外装体10に封止されたコンデンサ素子1をカットする方法が採用されればよい。
【0055】
(コンタクト層形成工程)
次に、図5Aに示すコンタクト層形成工程が行われる。コンタクト層形成工程では、まず陽極側端面14を構成する各端面(陽極側端面4a、陽極側端面10a、及び陽極側端面7a)をそれぞれ粗化させる。これにより、陽極側端面4a、陽極側端面10a、及び陽極側端面7aと後述する陽極側電極層12aの密着力がアンカー効果により強化される。そして、陽極端子部9の表面にのみ選択的にコンタクト層11を形成する。
【0056】
上述したように、コンタクト層11の形成方法としては、コールドスプレー法が用いられることが好ましい。コールドスプレー法により、コンタクト層11の材料となるCu粒子が陽極側端面14に噴射されると、Cu粒子は樹脂材料で形成されている陽極側端面4a、陽極側端面10a、及び陽極側端面7aとは結合せず、金属材料で形成されている陽極端子部9にのみ結合する。
【0057】
より詳細には、高速で陽極端子部9に衝突したCu粒子は、陽極端子部9表面の酸化膜を突き破る。これにより、陽極端子部9の材料であるAlとCu粒子とが、衝突箇所において衝突のエネルギーによって塑性変形し、新生面が形成される。AlとCu粒子との新生面同士が接触することで、AlとCuとの金属結合による合金層が形成される。
【0058】
陽極側端面14において、Alで形成される陽極端子部9の厚みは、樹脂で形成される陽極側端面4a、陽極側端面10a、及び陽極側端面7aと比較して薄い。このため、陽極端子部9の端面のうち、樹脂との境界に相当する上下端付近にはCu粒子が付着しにくい。したがって、陽極体2の厚み方向における表面11Sの断面形状は、図2に示すように、中央部が凸の形状となる。また、表面11Sには、Cu粒子が固相の粒子形状を残したまま塑性変形して付着しているため、粒子形状に起因する凹凸が形成される。これにより、表面11Sには、Cu粒子の大きさによって決まる表面粗さが与えられる。上述したように、表面11Sの表面粗さ(Ra)は、3μm以上であることが好ましいため、コンタクト層11の材料として用いられるCu粒子の大きさは、メジアン径で5μm~10μm程度が好ましい。また、Cu粒子は、球形またはほぼ球形であることが好ましい。
【0059】
使用するCu粒子のメジアン径を5μm~10μm程度と大きくすることによって、コールドスプレー法によるコンタクト層11の形成において、十分な加速を行うことができ、陽極端子部9との良好な金属結合状態を形成しやすくなる。
【0060】
また、Cu粒子を球形または球形に近い形状の粒子とすることによって、十分な加速を行うことができ、陽極端子部9との良好な金属結合状態を形成しやすくすることができる。なお、Cu粒子を球形または球形以外の形状の粒子、例えば棒状や多面体形状等である場合、粒子の体積により形成される表面11Sに鋭角の角が生じる。すると、コンタクト層11と後述の電極層形成工程において形成される陽極側電極層12aとの接合面において、陽極側電極層12aに鋭角の角を起点とするクラックが生じやすくなる。つまり、Cu粒子を球形または球形の粒子とすることで、表面11Sが曲面を主体として形成されるため、クラックが生じにくくすることができる。
【0061】
コンタクト層11の表面11Sの表面粗さを3μm以上とすることで、以下のような効果が得られる。コンタクト層11の表面11S側には、後述の電極層形成工程において陽極側電極層12aが形成される。ここで、陽極側電極層12aに含まれるAg等の導電フィラーは、1μm未満程度の大きさを有するため、表面11Sの表面粗さを3μm以上とすることで、表面11Sの凹凸の内部に導電フィラーが入り込みやすくなる。これにより、表面11Sが滑らかに形成されている場合と比較して、表面11Sと陽極側電極層12aとの接触面積を大きくすることができ、接触抵抗を下げることができるようになる。また、表面11Sの凹凸に陽極側電極層12aの一部が入り込むことによって生じるアンカー効果のため、コンタクト層11と陽極側電極層12aとの接合強度(機械的強度)を上げることができるようになる。
【0062】
なお、本開示においては、コンタクト層11の形成にコールドスプレー法が用いられることが好ましいが、上述したように、めっき法、半田ディップ法、スパッタリング、または蒸着法等のような、他の金属皮膜形成方法によりコンタクト層11が形成されてもよい。めっき法を用いる場合、陽極端子部9のAl表面にイオン化傾向が小さいNiを用いためっきが行われればよい。また、Ni+Agめっきのように複数層の組み合わせでコンタクト層11を形成してもよい。このような場合、陽極体2の厚み方向における表面11Sの断面形状は、図3に示すように、ほぼ直線形状となる。
【0063】
めっき法、半田ディップ法、スパッタリング、または蒸着法等のような、コールドスプレー法以外の金属皮膜形成方法を用いる場合、上述したように、金属皮膜の形成後、物理的に表面を粗化する工程が必要となる。粗化の方法としては、アルミナ、砂、ガラス等の非金属粒子を吹き付けるブラスト法等が用いられればよい。このような方法でも、図3に示すような表面粗さを有するコンタクト層11を形成できる。なお、ブラスト処理の際、3μm以上の細かいサイズの非金属粉を用いることで、表面11Sの表面粗さを3μm以上とすることができる。
【0064】
また、図示はしていないが、絶縁層4に絶縁樹脂等を充填して、シール性を向上することにより、めっき液などの侵入を防ぐことも可能である。
【0065】
(電極層形成工程)
次に、図5Bに示すように、電極層形成工程が行われる。電極層形成工程では、陽極側端面14及び陰極側端面15のそれぞれに、陽極側電極層12a及び陰極側電極層12bが形成される。これにより、陽極体2が陽極側電極層12aと電気的に接続されるとともに、陰極体6が陰極側電極層12bと電気的に接続される。
【0066】
具体的には、陽極側電極層12a及び陰極側電極層12bは、Agペーストを、ディップ法、転写法、印刷法、ディスペンス法等を用いて陽極側端面14及び陰極側端面15に塗布し、その後、高温で硬化させることによって形成される。
【0067】
なお、陽極側電極層12aは、陽極側端面14だけでなく、外装体10の上面または支持部材7の下面の少なくとも一部を被覆してもよい。同様に、陰極側電極層12bは、陰極側端面15だけでなく、外装体10の上面または支持部材7の下面の一部を被覆してもよい。
【0068】
(外部電極形成工程)
最後に、図5Cに示すように、外部電極形成工程が行われる。図5Cに示すように、陽極側電極層12aの外表面に陽極側外部電極13aが形成されるとともに、陰極側電極層12bの外表面に陰極側外部電極13bが形成される。
【0069】
具体的には、陽極側外部電極13a及び陰極側外部電極13bは、電解めっき法の一つであるバレルめっき法等を用いて形成される。陽極側外部電極13a及び陰極側外部電極13bは、例えばNiとSnとの積層構造である。
【0070】
なお、陽極側外部電極13a及び陰極側外部電極13bは、上述したコールドスプレー法を用いて、Ag及びSnを含む構造として形成されてもよい。または、陽極側外部電極13a及び陰極側外部電極13bは、バレルめっき法と半田ディップ法との組み合わせで形成されてもよい。
【0071】
更に、陽極側外部電極13a及び陰極側外部電極13bは、予めSn被膜を施したCu材のキャップを、接着剤として機能するAgペーストで形成されている陽極側電極層12a及び陰極側電極層12bに接着させる方法で形成されてもよい。
【0072】
<効果>
本開示の実施の形態に係る固体電解コンデンサ20は、陽極体2、陽極体2を被覆する誘電体酸化被膜層3、及び、誘電体酸化被膜層3上に形成された陰極体6を有するコンデンサ素子1と、コンデンサ素子1を被覆する外装体10と、陽極体2の端部である陽極端子部9に形成され、所定の表面粗さの表面11Sを有するコンタクト層11と、表面11Sを被覆する陽極側電極層12と、を備える。
【0073】
このように、弁作用金属箔からなる陽極端子部9に金属結合され、所定の表面粗さを有するコンタクト層11を備えることにより、コンタクト層11と陽極側電極層12aとの接触面積が大きくなる。このため、コンタクト層11と陽極側電極層12aとの接触抵抗が下がるとともに、コンタクト層11と陽極側電極層12aとの接合強度が上がる。このため、陽極体2から陽極側外部電極13aまで低抵抗な電流経路を確保でき、固体電解コンデンサ20の電気特性を向上させることができるとともに、機械的強度を向上させることができるため、信頼性が上がる。
【0074】
なお、本開示は、上記実施の形態の説明に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の固体電解コンデンサは、良好な電気特性を維持しながら、高い信頼性と生産性を有し、パソコンや携帯端末、産業用や、車載用途など、あらゆる分野のコンデンサとして適用できる。
【符号の説明】
【0076】
20 固体電解コンデンサ
1,1a,1b,1c コンデンサ素子
2 陽極体
3 誘電体酸化被膜層
4 絶縁層
4a 陽極側端面
4b 陰極側端面
5 固体電解質層
6 陰極体
7 支持部材
7a 陽極側端面
7b 陰極側端面
8 導電材
8b 陰極端子部
9 陽極端子部
10 外装体
10a 陽極側端面
10b 陰極側端面
11 コンタクト層
11S 表面
12a 陽極側電極層
12b 陰極側電極層
13a 陽極側外部電極
13b 陰極側外部電極
14 陽極側端面
15 陰極側端面
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-10-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極体、前記陽極体を被覆する誘電体酸化被膜層、及び、前記誘電体酸化被膜層上に形成された陰極体を有するコンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子を被覆する外装体と、
前記陽極体の端部である陽極端子部に形成され、所定の表面粗さの表面を有するコンタクト層と、
前記表面を被覆する陽極側電極層と、
を備え
前記陽極側電極層は、樹脂中に金属フィラーを混入させた導電ペースト材料を含み、
前記金属フィラーの大きさは、前記コンタクト層の表面の表面粗さよりも小さい、
固体電解コンデンサ。
【請求項2】
表面粗さは、3μm以上である、
請求項1に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項3】
前記陽極体の厚さ方向における前記表面の断面形状は、中央部が凸の形状、またはほぼ直線形状に形成されている、
請求項1または2に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項4】
前記コンタクト層は、前記陽極端子部に金属粒子が堆積して形成された金属皮膜である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項5】
前記金属粒子は、球形、またはほぼ球形である、
請求項4に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項6】
前記コンタクト層と前記陽極端子部とは、金属結合されている、
請求項4または5に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項7】
前記コンタクト層は、前記陽極体よりもイオン化傾向の小さい金属で形成されている、
請求項1から6のいずれか1項に記載の固体電解コンデンサ。
【請求項8】
陽極体を有するコンデンサ素子を形成する工程と、
前記コンデンサ素子を外装体で被覆する工程と、
前記外装体から、前記陽極体の端部である陽極端子部を露出させる工程と、
前記陽極端子部にコンタクト層を形成する工程と、
前記コンタクト層の表面に所定の粗さを形成する工程と、
前記コンタクト層の表面を陽極側電極層で被覆する工程と、
を含み、
前記陽極側電極層は、樹脂中に金属フィラーを混入させた導電ペースト材料を含み、
前記金属フィラーの大きさは、前記コンタクト層の表面の表面粗さよりも小さい、
固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項9】
前記コンタクト層を形成する工程と、前記コンタクト層の表面に所定の粗さを形成する工程と、は一度に行われる、
請求項8に記載の固体電解コンデンサの製造方法。