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特開2024-161313燃料電池を用いた窒素ガス生成装置、システム及び方法、並びに窒素ガス生成コンテナ及び窒素ガス生成機能付燃料電池車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161313
(43)【公開日】2024-11-18
(54)【発明の名称】燃料電池を用いた窒素ガス生成装置、システム及び方法、並びに窒素ガス生成コンテナ及び窒素ガス生成機能付燃料電池車
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/04 20060101AFI20241111BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20241111BHJP
   H01M 8/04791 20160101ALI20241111BHJP
   H01M 8/04828 20160101ALI20241111BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20241111BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20241111BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20241111BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20241111BHJP
【FI】
C01B21/04 G
H01M8/04 J
H01M8/04791
H01M8/04828
H01M8/04746
H01M8/04858
H01M8/00 Z
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023076416
(22)【出願日】2023-05-06
(71)【出願人】
【識別番号】508243145
【氏名又は名称】マイクロコントロールシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141313
【弁理士】
【氏名又は名称】辰巳 富彦
(72)【発明者】
【氏名】田上 勝通
(72)【発明者】
【氏名】羽柴 壮一
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 元広
(72)【発明者】
【氏名】北沢 健
(72)【発明者】
【氏名】引田 道人
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA06
5H127AB04
5H127AC15
5H127BA02
5H127BB02
5H127DC02
5H127DC22
5H127DC24
5H127DC27
5H127DC35
5H127DC37
5H127DC44
5H127DC45
5H127EE04
5H127FF20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】燃料電池を用いて、純度の高い窒素ガスを、より高い効率若しくは簡便性をもって生成し供給することが可能な装置を提供する。
【解決手段】本窒素ガス生成装置は、(a)空気、又は窒素・酸素含有気体と燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池と、(b)燃料電池から取り出された、空気又は上記気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスと、燃料電池に取り込まれる空気又は上記気体との間で水交換を行い、窒素増大ガスの水分・水蒸気分を低減させる水交換除湿手段と、(c)水分・水蒸気分の低減した窒素増大ガスと燃料気体とを燃焼触媒上で反応させて、窒素増大ガスを、窒素濃度のより増大した高濃度の窒素増大ガスにする触媒燃焼手段とを有する。また、(d)この高濃度の窒素増大ガスを、窒素濃度のより高い、さらに水素濃度のより低い、より高濃度の窒素増大ガスにする窒素フィルタリング手段が設けられていることも好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気、又は窒素及び酸素を含む気体と、燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池と、
前記燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスと、前記燃料電池に取り込まれる当該空気又は当該気体との間で水交換を行い、当該窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させる水交換除湿手段と、
水分又は水蒸気分の低減した当該窒素増大ガスと当該燃料気体とを燃焼触媒上で反応させて、当該窒素増大ガスを、窒素濃度のより増大した高濃度の窒素増大ガスにする触媒燃焼手段と
を有することを特徴とする窒素ガス生成装置。
【請求項2】
前記水交換除湿手段は、前記燃料電池に取り込まれる当該空気又は当該気体の湿度を、該燃料電池において要求される所定の下限湿度以上とし、同時に、該燃料電池から取り出された当該窒素増大ガスの湿度を、前記触媒燃焼手段において要求される所定の上限湿度以下とすることを特徴とする請求項1に記載の窒素ガス生成装置。
【請求項3】
窒素と酸素とについて及び窒素と水素とについて透過する度合いの異なるフィルタを備えており、当該高濃度の窒素増大ガスを、窒素濃度のより高いより高濃度の窒素増大ガスであって、当該高濃度の窒素増大ガスが水素を含有している場合に水素の除去された若しくは水素濃度のより低いより高濃度の窒素増大ガスにする窒素フィルタリング手段を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の窒素ガス生成装置。
【請求項4】
前記触媒燃焼手段において要求若しくは決定される下限圧力、及び前記窒素フィルタリング手段において要求若しくは決定される下限圧力に基づき設定される圧力閾値以上の圧力を有する高圧の当該空気又は当該気体を、前記燃料電池へ供給可能とする高圧ガス供給手段を更に有し、
前記水交換除湿手段は、当該圧力閾値以上の圧力を有する高圧の当該窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させ、
前記触媒燃焼手段は、水分又は水蒸気分の低減した当該高圧の窒素増大ガスを、当該下限圧力以上の圧力の下、高圧の当該高濃度の窒素増大ガスにし、
前記窒素フィルタリング手段は、当該高圧の高濃度の窒素増大ガスを、当該下限圧力以上の圧力の下、高圧の当該より高濃度の窒素増大ガスにする
ことを特徴とする請求項3に記載の窒素ガス生成装置。
【請求項5】
前記燃料電池から取り出された当該窒素増大ガスを、その圧力を高めることなく前記触媒燃焼手段に取り込ませ、該触媒燃焼手段から取り出された当該高濃度の窒素増大ガスを、その圧力を高めることなく前記フィルタリング手段に取り込ませることを特徴とする請求項4に記載の窒素ガス生成装置。
【請求項6】
前記窒素フィルタリング手段と該窒素フィルタリング手段の後段に設けられた背圧弁とを結ぶ配管から分岐しており、当該高圧のより高濃度の窒素増大ガスを取り出すための分岐配管が設けられていることを特徴とする請求項4に記載の窒素ガス生成装置。
【請求項7】
前記触媒燃焼手段において要求若しくは決定される下限圧力、及び前記窒素フィルタリング手段において要求若しくは決定される下限圧力に基づき設定される圧力閾値以上の圧力にまで、水分又は水蒸気分の低減した当該窒素増大ガスの圧力を高めて、高圧の当該窒素増大ガスを生成する増圧手段を更に有し、
前記触媒燃焼手段は、水分又は水蒸気分の低減した当該高圧の窒素増大ガスを、当該下限圧力以上の圧力の下、高圧の当該高濃度の窒素増大ガスにし、
前記窒素フィルタリング手段は、当該高圧の高濃度の窒素増大ガスを、当該下限圧力以上の圧力の下、高圧の当該より高濃度の窒素増大ガスにする
ことを特徴とする請求項3に記載の窒素ガス生成装置。
【請求項8】
水分又は水蒸気分の低減した当該窒素増大ガスを、水分又は水蒸気分の更に低減した当該窒素増大ガスにするドライフィルタリング手段を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載の窒素ガス生成装置。
【請求項9】
前記燃料電池は、取り入れた当該空気若しくは当該気体に含まれる酸素を全て水に変えることを可能にする流量以上の流量の当該燃料気体を取り入れ、該酸素を全て水に変えた場合に流れる量の電流が電極間に流れることを可能にして、当該窒素増大ガスを排出することを特徴とする請求項1又は2に記載の窒素ガス生成装置。
【請求項10】
空気、又は窒素及び酸素を含む気体と、燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池と、
前記燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させる除湿手段と、
水分又は水蒸気分の低減した当該窒素増大ガスと当該燃料気体とを燃焼触媒上で反応させて、当該窒素増大ガスを、窒素濃度のより増大した高濃度の窒素増大ガスにする触媒燃焼手段と、
窒素と酸素とについて及び窒素と水素とについて透過する度合いの異なるフィルタを備えており、当該高濃度の窒素増大ガスを、窒素濃度のより高いより高濃度の窒素増大ガスであって、当該高濃度の窒素増大ガスが水素を含有している場合に水素の除去された若しくは水素濃度のより低いより高濃度の窒素増大ガスにする窒素フィルタリング手段と
を有することを特徴とする窒素ガス生成装置。
【請求項11】
取り入れた当該空気若しくは当該気体に含まれる酸素を全て水に変えることを可能にする流量以上の流量の当該燃料気体を取り入れ、該酸素を全て水に変えた場合に流れる量の電流が電極間に流れることを可能にして、当該窒素増大ガスを排出する燃料電池と、
前記燃料電池から排ガスとして、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスを取り出すための配管と
を有することを特徴とする窒素ガス生成装置。
【請求項12】
空気、又は窒素及び酸素を含む気体と、燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池と、
前記燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスと、前記燃料電池に取り込まれる当該空気又は当該気体との間で水交換を行い、当該窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させる水交換除湿手段と、
水分又は水蒸気分の低減した当該窒素増大ガスと当該燃料気体とを燃焼触媒上で反応させて、当該窒素増大ガスを、窒素濃度のより増大した高濃度の窒素増大ガスにする触媒燃焼手段と
を有することを特徴とする窒素ガス生成システム。
【請求項13】
空気、又は窒素及び酸素を含む気体と、燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池と、
前記燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスを外部に提供するための窒素ガス取出口と
を備えており、可搬であることを特徴とする窒素ガス生成コンテナ。
【請求項14】
前記燃料電池から出力される電力を外部に提供するための電力用コネクタと、
前記燃料電池から取り出された熱を外部に提供するための熱量取出口と、
外部から当該燃料気体を取り入れるための燃料気体取り入れ口と
を更に備えていることを特徴とする請求項13に記載の窒素ガス生成コンテナ。
【請求項15】
空気と燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池から出力される電力によって走行を行う燃料電池車であって、
当該燃料気体及び/又は当該空気の前記燃料電池への流入量と、該燃料電池の電極間に流れる電流量とを制御する燃料電池制御部と、
前記燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスを外部に提供するための窒素ガス取出口と
を備えており、
前記燃料電池制御部は、当該走行の際の当該流入量及び当該電流量を具現するための走行用制御モードと、当該窒素増大ガスを外部に提供する際の当該流入量及び当該電流量を具現するための窒素ガス生成用制御モードと、のいずれをも実施可能となっている
ことを特徴とする窒素ガス生成機能付燃料電池車。
【請求項16】
前記窒素ガス生成用制御モードは、流入してくる当該空気に含まれる酸素を全て水に変えることを可能にする下限流量以上の当該燃料気体の流入量、又は、該酸素を全て水に変えることを可能にする上限流量以下の当該空気の流入量と、該酸素を全て水に変えた場合に流れる量の電流が電極間に流れることが可能な状態とを具現するための制御モードであることを特徴とする請求項15に記載の窒素ガス生成機能付燃料電池車。
【請求項17】
空気、又は窒素及び酸素を含む気体と、燃料気体とを燃料電池へ供給して、該燃料電池を稼働させるステップと、
前記燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスと、前記燃料電池に取り込まれる当該空気又は当該気体との間で水交換を行い、当該窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させるステップと、
水分又は水蒸気分の低減した当該窒素増大ガスと当該燃料気体とを燃焼触媒上で反応させて、当該窒素増大ガスを、窒素濃度のより増大した高濃度の窒素増大ガスにするステップと
を有することを特徴とする窒素ガス生成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純度の高い窒素ガスを生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラル、ひいてはカーボンゼロの実現に向けて、水素エネルギーが脚光を浴びている。この水素エネルギーを利用する燃料電池は、二酸化炭素を排出することなく高効率の電力生成を可能にするのであり、来る水素社会においてまさに要となる技術である。
【0003】
本願発明者等は、このような燃料電池のポテンシャルに注目し、特許文献1~9に記載されているように、燃料電池を利用した種々様々な装置・システムを開発してきた。特に、特許文献6及び7に開示されたように、燃料電池から取り出した排ガスを窒素フィルタに作用させ、このフィルタから窒素濃度の増大したガスを取り出す窒素ガス生成装置を開発している。また特許文献8及び9に開示されたように、窒素ガスの生成において重要となる排ガスの除湿処理を、水封ポンプを用いて実施する構成を発明している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-233549号公報
【特許文献2】特開2016-164987号公報
【特許文献3】特開2017-084796号公報
【特許文献4】特開2018-163890号公報
【特許文献5】特開2019-129110号公報
【特許文献6】特開2020-149838号公報
【特許文献7】特開2021-136084号公報
【特許文献8】特開2022-114256号公報
【特許文献9】国際公開第2021/172260号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
純度の高い窒素ガスは、支燃性も助燃性もなく非常に有用な不活性ガスであり、様々な分野において多くの需要が存在する。しかしながら現在、純度の高い窒素ガスは、空気を原料として、圧力変動吸着(PSA)法、深冷空気分離法や、膜分離法等により生成されているのが現状である。
【0006】
これに対し、空気をそのまま原料とするのではなく、燃料電池の排ガスを利用すれば、純度の高い窒素ガスをより効率的に生成することができる。また、燃料電池を利用して生成された純度の高い窒素ガスならば、より低コストで各種生産・サービス提供現場へ供給することも可能となる。
【0007】
ここで、燃料電池の排ガスの酸素濃度を如何に効率的に低減させるかが1つの課題として挙げられる。また、燃料電池から取り出された、相対湿度が概ね100%である排ガスの除湿を如何に実施するかも重要な課題となっている。勿論、例えば特許文献6~9に開示された窒素ガス生成装置・システムはこれらの課題を解決する重要な解となっている。しかしながら、本願発明者等は、燃料電池を利用した窒素ガス生成の更なる好適な構成、具体的には効率若しくは簡便性のより高い構成、を模索してきたのである。
【0008】
そこで、本発明は、燃料電池を用いて純度の高い窒素ガスを、より高い効率若しくは簡便性をもって生成し提供することが可能な窒素ガス生成装置、システム及び方法、並びに窒素ガス生成コンテナ及び窒素ガス生成機能付燃料電池車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、空気、又は窒素及び酸素を含む気体と、燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池と、
燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスと、燃料電池に取り込まれる当該空気又は当該気体との間で水交換を行い、当該窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させる水交換除湿手段と、
水分又は水蒸気分の低減した当該窒素増大ガスと当該燃料気体とを燃焼触媒上で反応させて、当該窒素増大ガスを、窒素濃度のより増大した高濃度の窒素増大ガスにする触媒燃焼手段と
を有する窒素ガス生成装置、又は窒素ガス生成システムが提供される。
【0010】
本発明によれば、また、空気、又は窒素及び酸素を含む気体と、燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池と、
燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させる除湿手段と、
水分又は水蒸気分の低減した当該窒素増大ガスと当該燃料気体とを燃焼触媒上で反応させて、当該窒素増大ガスを、窒素濃度のより増大した高濃度の窒素増大ガスにする触媒燃焼手段と、
窒素と酸素とについて及び窒素と水素とについて透過する度合いの異なるフィルタを備えており、当該高濃度の窒素増大ガスを、窒素濃度のより高いより高濃度の窒素増大ガスであって、当該高濃度の窒素増大ガスが水素を含有している場合に水素の除去された若しくは水素濃度のより低いより高濃度の窒素増大ガスにする窒素フィルタリング手段と
を有する窒素ガス生成装置が提供される。
【0011】
本発明によれば、さらに、取り入れた当該空気若しくは当該気体に含まれる酸素を全て水に変えることを可能にする流量以上の流量の当該燃料気体を取り入れ、該酸素を全て水に変えた場合に流れる量の電流が電極間に流れることを可能にして、当該窒素増大ガスを排出する燃料電池と、
燃料電池から排ガスとして、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスを取り出すための配管と
を有する窒素ガス生成装置が提供される。
【0012】
本発明によれば、また、空気、又は窒素及び酸素を含む気体と、燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池と、
燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスを外部に提供するための窒素ガス取出口と
を備えており、可搬である窒素ガス生成コンテナが提供される。
【0013】
本発明によれば、さらに、空気と燃料気体とを取り入れて稼働する燃料電池から出力される電力によって走行を行う燃料電池車であって、
当該燃料気体及び/又は当該空気の燃料電池への流入量と、燃料電池の電極間に流れる電流量とを制御する燃料電池制御部と、
燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスを外部に提供するための窒素ガス取出口と
を備えており、
上記の燃料電池制御部は、当該走行の際の当該流入量及び当該電流量を具現するための走行用制御モードと、当該窒素増大ガスを外部に提供する際の当該流入量及び当該電流量を具現するための窒素ガス生成用制御モードとのいずれをも実施可能となっている
窒素ガス生成機能付燃料電池車が提供される。
【0014】
空気、又は窒素及び酸素を含む気体と、燃料気体とを燃料電池へ供給して、該燃料電池を稼働させるステップと、
燃料電池から排ガスとして取り出された、当該空気又は当該気体と比べて窒素濃度の増大した窒素増大ガスと、燃料電池に取り込まれる当該空気又は当該気体との間で水交換を行い、当該窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させるステップと、
水分又は水蒸気分の低減した当該窒素増大ガスと当該燃料気体とを燃焼触媒上で反応させて、当該窒素増大ガスを、窒素濃度のより増大した高濃度の窒素増大ガスにするステップと
を有する窒素ガス生成方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の窒素ガス生成装置、システム及び方法、並びに窒素ガス生成コンテナ及び窒素ガス生成機能付燃料電池車によれば、燃料電池を用いて純度の高い窒素ガスを、より高い効率若しくは簡便性をもって生成し提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による窒素ガス生成装置、システム及びコンテナの一実施形態を示す模式図である。
図2】本発明に係る水交換除湿手段と燃料電池との組合せについての一実施形態を示す模式図である。
図3】本発明に係る加湿器による窒素増大ガスの除湿処理の一実施例を示すグラフ、及び本発明に係る加湿器の配置の一実施形態を説明するための模式図である。
図4】本発明に係る触媒燃焼ユニットによる触媒燃焼処理の一実施例を説明するための模式図及びグラフである。
図5】本発明に係る窒素ガスフィルタの窒素フィルタリング処理の一実施例を示すグラフ、及び本発明に係る窒素ガスフィルタの配置の一実施形態を説明するための模式図である。
図6】本発明による窒素ガス生成装置、システム及びコンテナにおける更なる他の実施形態を示す模式図である。
図7】本発明による窒素ガス生成装置、システム及びコンテナにおける更なる他の実施形態を示す模式図である。
図8】本発明による窒素ガス生成装置、システム及びコンテナにおける更なる他の実施形態を示す模式図である。
図9】本発明に係る燃料電池による酸素低減・除去処理の一実施例を説明するためのグラフである。
図10】本発明による窒素ガス生成機能付燃料電池車の一実施形態を示す模式図である。
図11】本発明に係る燃料電池ユニットにおける他の実施形態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
[窒素ガス生成装置・システム]
図1は、本発明による窒素ガス生成装置、システム及びコンテナの一実施形態を示す模式図である。
【0019】
図1に示した本発明の一実施形態としての窒素ガス生成装置11は、
(A)「空気、又は窒素及び酸素を含む気体」と、「燃料気体」(本実施形態では水素ガス)とを取り入れて稼働する燃料電池104と、
(B)燃料電池104から排ガスとして取り出された、「空気、又は窒素及び酸素を含む気体」と比べて窒素濃度の増大した「窒素増大ガス」と、燃料電池104に取り込まれる「空気、又は窒素及び酸素を含む気体」との間で水交換を行い、「窒素増大ガス」における水分又は水蒸気分を低減させる水交換除湿ユニット(U)105と、
(C)水分又は水蒸気分の低減した「窒素増大ガス」と「燃料気体」とを燃焼触媒上で反応させて、「窒素増大ガス」を、窒素濃度のより増大した「高濃度の窒素増大ガス」にする触媒燃焼U108と
を有することを特徴としている。
【0020】
ここで燃料電池104の排ガスである「窒素増大ガス」は、排出された直後において通常、相対湿度が概ね100%のガスとなっている。そのため、この後の触媒燃焼処理を効果的に且つ継続的に実施するためにも、「窒素増大ガス」の除湿が非常に重要となる。
【0021】
この点、上記(B)の水交換除湿U105は、「窒素増大ガス」から例えば水蒸気交換膜を介して「空気、又は窒素及び酸素を含む気体」へ、水蒸気・水(H2O)分を移動させ(水交換を行い)、「窒素増大ガス」を水分又は水蒸気分の低減したガスにすることができる。すなわち「窒素増大ガス」は、水交換除湿U105によって、この後の触媒燃焼処理を良好に施すことが可能なガスとなる。
【0022】
なお水交換除湿U105によって、燃料電池104へ取り込まれる「空気、又は窒素及び酸素を含む気体」は逆に、加湿されることとなる。その結果(特に、燃料電池104が固体高分子型燃料電池(PEFC)の場合)、燃料電池反応の要である電解質膜(固体高分子膜)は湿潤状態を保って高いプロトン伝導性を維持し、これにより、高効率の燃料電池反応が実現して、酸素の十分に消費された排ガス(窒素増大ガス)が高い効率で生成される。
【0023】
ちなみに、特に燃料電池自動車の分野では、燃料電池に取り込まれる空気を、排ガスからの水蒸気によって湿潤させる加湿器が公知である。例えば、特許文献:特開2006-156203号公報には、排ガスと供給ガスとの間で透過膜(水蒸気交換膜)を介して水交換を行う加湿器が開示されている。しかしながら、この公知の加湿器は、あくまで燃料電池に取り込まれる空気の「加湿」手段として機能し、実際、加湿器から出た排ガスはそのまま排気され、何ら利用されてこなかったのである。
【0024】
一方、水交換除湿U105は、排ガス、すなわち「窒素増大ガス」に対し「除湿」手段として機能し、従来廃棄してきた排ガスを有用な窒素ガスとして提供するに当たり、重要な除湿処理を実施している。以上まとめると、水交換除湿U105は、
(a)湿潤状態の「空気、又は窒素及び酸素を含む気体」を生成することによって、高効率の燃料電池反応を実現させ、これにより、酸素のより消費された「窒素増大ガス」を、高い効率で生成させ、さらに、
(b)この「窒素増大ガス」を除湿することによって、より高効率の触媒燃焼処理を実現させ、これにより、純度の高い窒素ガスを高い効率で生成させる
との複合的な効果を奏する。窒素ガス生成装置11は、このように複合的な効果を奏する水交換除湿U105と、燃料電池104と、触媒燃焼U108とを組み合わせ、すでに窒素濃度の増大した燃料電池104の排ガスを利用することによって、純度の高い窒素ガスを、より高い効率で生成し供給することができる。
【0025】
また、窒素ガス生成装置11は本実施形態において、
(D)窒素と酸素とについて及び窒素と水素とについて透過する度合いの異なるフィルタ(109F)を備えており、触媒燃焼U108から送出された「高濃度の窒素増大ガス」を、窒素濃度のより高い「より高濃度の窒素増大ガス」であって、この「高濃度の窒素増大ガス」が水素を含有している場合に水素の除去された若しくは水素濃度のより低い「より高濃度の窒素増大ガス」にする窒素フィルタリングU109
を更に有している。
【0026】
ここで触媒燃焼U108において、後に詳細に説明するが、燃料気体(水素ガス)を十分に取り込んで酸素をより消費させる触媒燃焼条件が設定される場合、触媒燃焼U108から送出される「高濃度の窒素増大ガス」中に、燃料気体(水素ガス)が残留することも少なくない。これに対し、上記(D)の窒素フィルタリングU109は、これも後に詳述するが、触媒燃焼U108から送出された「高濃度の窒素増大ガス」における
(a)酸素(O2)分と、(b)(水素が含まれている場合に)水素(H2)分と
を、一挙に低減させる又は除去する。これにより、水素の除去された若しくは水素濃度のより低い「より高濃度の窒素増大ガス」を生成することができる。
【0027】
このように、窒素ガス生成装置11における触媒燃焼U108と、その後段の窒素フィルタリングU109とは、純度の高い窒素ガスを生成するに当たり、生成効率の高い、また(水素と酸素とを一挙に且つ同時に低減・除去するという意味で)簡便性の高い、絶妙の組合せとなっていることが理解される。
【0028】
また、本実施形態の窒素ガス生成装置11は、コンテナの内部に収納されて、このコンテナとともに、本発明による窒素ガス生成コンテナの一実施形態である窒素ガス生成コンテナ1を構成している。この窒素ガス生成コンテナ1は本実施形態において、(A)燃料電池104と、(B)水交換除湿U105と、(C)触媒燃焼U108と(、(D)窒素フィルタリングU109と)、さらに、
(E)燃料電池104から排ガスとして取り出された「窒素増大ガス」を外部に提供するための窒素ガス取出口153と
を備えており、可搬であることを特徴としている。
【0029】
ここで窒素ガス生成コンテナ1は、可搬であるが故に、例えば需要家の元へ搬送されて、純度の高い窒素ガスを、その場で生成しつつ需要家に提供することも可能にする。例えば、窒素ガス生成コンテナ1を、窒素ガスを必要とする工場(の側又は内部)まで、例えばトラックで運搬し、そこで窒素ガス取出口153と、工場側の窒素ガス取入口とを接続して、生成した純度の高い窒素ガスを直ちに工場側に供給することもできる。このように窒素ガス生成コンテナ1によれば、より高い効率で生成した純度の高い窒素ガスを、より高い簡便性をもって提供することも可能となる。
【0030】
さらに本実施形態において、窒素ガス生成コンテナ1は、
(F)燃料電池104から出力される電力を外部に提供するための電力用コネクタ154と、
(G)燃料電池104から取り出された熱エネルギーを外部に提供するための熱量取出口155と、
(H)外部から、例えば水素ステーションから、燃料気体(水素ガス)を取り入れるための燃料気体(水素ガス)取入口152と
を更に備えている。また、空気取入口151を備えていることも好ましい。さらに、以上に述べた取出口、取入口やコネクタは、外部に露出する形でコンテナ外面(例えば外側面)に設けられていることも好ましい。
【0031】
なお、上記(G)の熱量取出口155からは、燃料電池104の熱交換器から送り出された水(温水や熱水)や、他の熱交換媒体が取り出されてもよい。またこの場合、熱量取出口155には、熱エネルギーを提供した後の(循環させるべき)水や熱交換媒体を取り入れる媒体取入口も合わせて設けられていてもよい。またより簡易な構成として、外部から取り込まれた水(冷却水)が燃料電池104で加熱され、温水や熱水として熱量取出口155から取り出されるものであってもよい。
【0032】
以上述べたような構成を有する窒素ガス生成コンテナ1は、純度の高い窒素ガスのみならず、電力や熱エネルギーも、高い簡便性をもって需要家に提供することができる。例えば、需要家の工場まで運搬した窒素ガス生成コンテナ1における、窒素ガス取出口153、電力用コネクタ154、及び熱量取出口155をそれぞれ、工場側の窒素ガス取入口、電力取入コネクタ、及び熱量取入口と接続することによって、純度の高い窒素ガス、電力及び熱エネルギーを、直ちに且つ同時に工場側へ供給することも可能となる。いわば、窒素ガス生成装置11、ひいては窒素ガス生成コンテナ1は、3つの有用体を生成・提供可能という意味で、高効率且つ高簡便性のトライジェネレーション(Tri-Generation)装置となっている。
【0033】
また、窒素ガス取出口153、電力用コネクタ154、及び熱量取出口155は、規格化された仕様を有することも好ましい。例えば、これらのうちの2つ又は全部が、1つの規格化されたコネクタにまとめられていてもよい。これにより、例えば様々な分野の需要家の方でも、この規格に沿った取入口やコネクタを準備しておくことにより、より簡便に窒素ガス、電力や熱エネルギーを受け取ることが可能となる。すなわち、窒素ガス生成コンテナ1は、より多くの需要家に提供可能な、汎用性及び簡便性の高いジェネレーション装置とすることもできる。
【0034】
さらに、水素ガス(燃料気体)取入口152も、例えば水素ステーションの水素ガス取出口の仕様に合わせた、規格化された仕様とすることも好ましい。ここで、窒素ガス生成コンテナ1を、水素ステーションまで例えばトラックで運搬して、水素ガス取入口152と水素ステーションの水素ガス取出口とを接続することにより、燃料としての水素ガスの調達を容易に行うことも可能となる。すなわち、窒素ガス生成コンテナ1によれば、燃料調達の観点からしても、より高い効率及びより高い簡便性をもって純度の高い窒素ガスを生成・提供することが可能になる。
【0035】
さらに言えば、窒素ガス生成コンテナ1の容器としてのコンテナも、規格化された仕様を有することも好ましい。例えば、ISO(International Organization for Standardization,国際標準化機構)による規格である20フィートコンテナや、40フィートコンテナであってもよい。また、鉄道コンテナとして使用される12フィートコンテナや(大型トラックと同等の積載容量を有する)31フィートコンテナとすることもできる。このように規格化された仕様を有する窒素ガス生成コンテナ1は、トラック、鉄道や船舶によって簡便に運搬することができ、これにより、水素ステーションや需要家へのアクセスが非常に容易となる。その結果、より高い効率及びより高い簡便性をもって純度の高い窒素ガスを生成・提供することが可能になる。
【0036】
また本実施形態では、上記(A)~(D)の燃料電池104、水交換除湿U105、触媒燃焼U108、及び窒素フィルタリングU109は全て合わさって、1つの装置(窒素ガス生成装置11,窒素ガス生成コンテナ1)を構成している。しかしながら他の実施形態として、燃料電池104、水交換除湿U105、触媒燃焼U108、及び窒素フィルタリングU109のうちの少なくとも1つが、他の構成部とは別の装置に含まれていてもよい。この場合、これらの装置全体をもって、本発明による窒素ガス生成システム11が構成されることになる。例えば窒素ガス生成システム11は、燃料電池104及び水交換除湿U105を備えた装置と、触媒燃焼U108及び窒素フィルタリングU109を備えた装置とから構成されていてもよい。
【0037】
なお、以上に述べた、また以下に使用する文言である「純度の高い」や「高純度の」は、窒素ガス(窒素増大ガス)中における酸素濃度や水素濃度が十分に低減した状態をさす意味となっている。具体的に、「純度の高い」窒素ガス(窒素増大ガス)や「高純度の」窒素ガス(窒素増大ガス)における窒素濃度(媒体100ml中のmlであり単位はvol%)は、窒素ガスの使用分野・用途によって、例えば95vol%以上や、99vol%(2N)以上とされることもあり、さらには99.9vol%(3N)以上や99.99vol%(4N)以上と規定されることもある。ちなみに本実施形態において、窒素濃度の値は、窒素ガス(窒素増大ガス)中に残存する(例えば空気中に元から含まれていた)Ar(アルゴン)等を考慮せずに計測・算出された値となっている。
【0038】
また以下、空気、水素ガス等の圧力(ガス圧)値は、真空を基準とした、すなわち大気圧を1気圧(約0.1メガパスカル(MPa))とした絶対圧の値となっている。例えば以下に示す「0.5MPa」は、空気や排ガスの配管に設置された、大気圧を基準とした圧力計の計測値では0.4MPa(約4気圧)となる。
【0039】
[装置・システム構成]
同じく図1に示したように、本実施形態の窒素ガス生成装置(システム)11は、
(a)高圧ガス供給U101と、
(b)燃料電池104を備えた燃料電池U103と、
(c)水交換除湿U105と、
(d)ドライフィルタ107Fを備えたドライフィルタリングU107と、
(e)窒素ガスフィルタ109Fを備えた窒素フィルタリングU109と、
(g)ボンベ・増圧U123と、
(h)水素回収U129と、
(i)全体制御U131と
を有しており、「空気、又は窒素及び酸素を含む気体」及び「燃料気体」を取り入れて、高純度の窒素ガスを生成し、外部に提供可能となっている。
【0040】
なお本実施形態では、「窒素及び酸素を含む気体」として空気が用いられるが、窒素ガスと酸素ガスとの混合ガスといったような他のガスを用いることも可能である。また、本実施形態では「燃料気体」として、外部(例えば水素ステーション)から取り入れた水素ガスが用いられる。しかしながら、取り入れた都市ガスやLP(Liquefied Petroleum)ガス等の炭化水素ガスから、水蒸気改質反応によって水素含有ガスを生成し、この水素含有ガスを「燃料気体」として用いることも可能である。
【0041】
ちなみに、図1の装置(又はシステム)構成図における構成部間を矢印で接続して示した物質・エネルギー移動や実施される処理の流れは、本発明による窒素ガス生成方法の一実施形態としても理解される。
【0042】
<高圧ガス供給手段>
同じく図1において、本実施形態の高圧ガス供給U101は、大気中から取り込んだ空気を圧縮し、生成した高圧の空気を燃料電池U103(水交換除湿U105)へ向けて供給するコンプレッサと、このコンプレッサを作動させるための電動モータとを備えたユニットである。ここでコンプレッサとして、例えばレシプロ型、スクロール型、スクリュー型、ロータリ型、若しくはスイング型等、又はこれらのうちの2つ以上の組合せ等、様々な方式のものが採用可能である。
【0043】
また本実施形態において、高圧ガス供給U101は、後に詳細に説明するが、触媒燃焼U108において要求若しくは決定される「下限圧力」、及び窒素フィルタリングU109において要求若しくは決定される「下限圧力」に基づき(装置11内の圧力損失を勘案して)設定される「圧力閾値」以上の圧力を有する高圧の空気を、燃料電池U103(水交換除湿U105へ供給する。
【0044】
これにより、水交換除湿U105は、「圧力閾値」以上の圧力を有する高圧の窒素増大ガス(燃料電池排ガス)における水分又は水蒸気分を低減させ、触媒燃焼U108は、自身の「下限圧力」以上の圧力環境下で、水分又は水蒸気分の低減した高圧の窒素増大ガスを、高圧の高濃度の窒素増大ガスにし、窒素フィルタリングU109は、自身の「下限圧力」以上の圧力環境下で、この高圧の高濃度の窒素増大ガスを、高圧のより高濃度の窒素増大ガスにすることができる。ここで「下限圧力」は、これも後に説明するが通常、大気圧(1気圧,約0.1MPa))を大きく超えた圧力値であって例えば0.3MPa以上の高い圧力値に設定される。なお本実施形態において、上記の「圧力閾値」は、ドライフィルタリングU107において要求若しくは決定される「下限圧力」にも基づき設定されることも好ましい。
【0045】
さらに、本実施形態の高圧ガス供給U101は、バッファタンクを有し、このバッファタンクに圧縮した空気を高圧のまま一時的に貯める。また、このバッファタンクから取り出した高圧空気を自ら備えたエアフィルタ及びオイルフィルタに通し、微小ゴミやオイル成分等の除去された高圧空気を供給することも好ましい。ちなみに、窒素ガス生成装置11(窒素ガス生成コンテナ1)を搬入又は導入する現場に、例えば圧縮空気供給設備があれば、この高圧ガス供給U101は省略可能である。
【0046】
同じく図1において、フロー制御器FCaは、例えばガスレギュレータ及びマスフローコントローラ(又はフロースイッチ)を備えており、高圧ガス供給U101から水交換除湿U105へ供給される高圧空気の流量や圧力を制御する。ここで本実施形態において、この高圧空気は、例えば0.3~1MPa(約3~10気圧)の高い圧力を有した状態のまま、水交換除湿U105へ供給される。
【0047】
<水交換除湿手段>
水交換除湿U105は本実施形態において、
(a)上記の「圧力閾値」以上の圧力を有する、本実施形態では例えば0.3~1MPa(約3~10気圧)の高い圧力を有する、受け取った高圧空気と、
(b)燃料電池104から取り出された、空気よりも低い酸素濃度を有する排ガス(窒素増大ガス)と
の間で水交換を行い、上記(b)の窒素増大ガス(排ガス)における水分又は水蒸気分を低減させる手段である。
【0048】
また水交換除湿U105は、上記(a)の高圧空気に対し加湿を行うことによって、燃料電池104での燃料電池反応を好適なものとし、これにより酸素の十分に消費された排ガス(窒素増大ガス)を高い効率で生成することも可能にする。すなわち、湿潤な高圧空気が燃料電池104へ供給されて電解質膜が湿潤状態に保たれ、これにより高効率の燃料電池反応が実現し、その結果、酸素の十分に消費された排ガス(窒素増大ガス)が高い効率で生成可能となる。
【0049】
具体的に水交換除湿U105は、燃料電池U103へ送る高圧空気の相対湿度を、燃料電池104の電解質膜から要求される所定の下限相対湿度(例えば80%)以上とし、同時に、触媒燃焼U108へ送る排ガス(窒素増大ガス)の相対湿度を、後の窒素フィルタリング処理において要求される所定の上限相対湿度(例えば30%)以下とすることも好ましい。またこの相対湿度を、触媒燃焼反応から要求される所定の上限相対湿度(例えば30%)以下とすることも好ましい。この場合、本実施形態の水交換除湿U105は、燃料電池104の電解質膜における湿度に係る課題と、窒素フィルタリングU109での窒素フィルタリング処理における湿度に係る課題(さらには、触媒燃焼U108での触媒燃焼処理における湿度に係る課題)とを、一挙に且つ効果的に解決することができる。なお、このような相対湿度の制御は、高圧空気と排ガス(窒素増大ガス)との温度差を制御することによって実現可能となる。この制御を含め、水交換除湿U105の構成・機能・作用について、後に図2を用いて詳細に説明する。
【0050】
<水素取入手段>
同じく図1において、本実施形態のボンベ・増圧U123は、水素ガス取入口152から取り入れた水素ガスを、高圧状態で一時的に貯蔵する水素吸蔵合金ボンベを備えており、高圧の水素ガスを燃料電池104へ供給可能なユニットである。
【0051】
またフロー制御器FCbは、ボンベ・増圧U123から燃料電池104へ供給される水素ガスの流量や圧力を制御する機器である。具体的には、水素ガス用レギュレータ及び水素ガス用マスフローコントローラ(又はフロースイッチ)を備えていてもよい。ここで本実施形態において、この高圧水素ガスは、上記の高圧空気と同等の圧力であって例えば0.3~1MPa(約3~10気圧)の高い圧力を有した状態のまま、燃料電池104へ供給される。これにより、燃料電池104の電解質膜における各膜面に同等の圧力を及ぼして、電解質膜の破損を防止することができる。
【0052】
同じく図1において、燃料電池U103における水素極側(燃料ガス室側)の排ガス出口の後段に設けられた圧力制御器PCcは、燃料電池104の水素極側(燃料ガス室側)の背圧を所定の設定圧力、本実施形態では例えば0.3~1MPa(約3~10気圧)に維持するための機器である。具体的に圧力制御器PCcは、背圧弁及び圧力計を備えていて、この背圧弁の調整によって水素極側の背圧を制御してもよい。なお以下、水素極側においても空気極側においても「背圧」値は、燃料電池104の排出側が解放状態の場合、すなわち排ガスの圧力が大気圧の場合において1気圧(約0.1MPa)とする。
【0053】
同じく図1において、水素回収U129は、上記の圧力制御器PCcより取り出された排ガスから、例えば公知の水素ガスフィルタやエグゼクタを用いて未反応の残留水素ガスを抽出し、再利用するためのユニットである。ここで本実施形態において、抽出された水素ガスは、フロー制御器FCbの後段の水素混合器Maへ送り返される。なお、水素ガスを抽出した後のガスは、外部へ排出されてもよい。
【0054】
また水素回収U129は、未反応の残留水素ガス抽出処理の前処理として、上記の圧力制御器PCcから取り出された排ガスに対し、なお残留している水蒸気分や水分を除去する除湿処理を施すことも好ましい。ここで、この除湿処理は具体的に、例えばシリカゲルやゼオライト等を用いた除湿器、加圧機構を備えた除湿デバイス、(重力分離型、遠心分離型、ミスト除去器パッド型、翼型分離型や、気圧分離コアレッサ型等の)気液分離器や、ドライフィルタデバイスによって実施されることも好ましい。
【0055】
<燃料電池ユニット>
同じく図1において、本実施形態の燃料電池U103は、燃料電池104を備えており、
(a)上記の「圧力閾値」以上の圧力を有する、本実施形態では例えば0.3~1MPa(約3~10気圧)の高い圧力を有する、水交換除湿U105で加湿された湿潤な高圧空気
を、燃料電池104の空気極側の空気取入口から酸化ガス室に導入し、また、
(b)上記(a)の高圧空気と同等の圧力であって例えば0.3~1MPa(約3~10気圧)の高い圧力を有する、フロー制御器FCbから供給された高圧水素ガス
を、燃料電池104の水素極側の水素取入口から燃料ガス室に導入して、これにより燃料電池104を稼働させる(燃料電池反応を引き起こす)。
【0056】
ここで燃料電池104は、この燃料電池反応の結果として、空気極側の排ガス取出口及び水素極側の排ガス取出口からそれぞれ、
(c)上記の「圧力閾値」以上の圧力を有する、本実施形態では例えば0.3~1MPa(約3~10気圧)の高い圧力を有する、空気よりも低い酸素濃度を有する高圧の窒素増大ガス(排ガス)、及び
(d)上記(c)の窒素増大ガス(排ガス)と同等の圧力を有する高圧の排ガス
を排出する。
【0057】
ここで、上記(c)の高圧の窒素増大ガス(排ガス)はこの後、ドレインDaで結露水をある程度取り除かれ、温度調整器TCaでこの後の水交換除湿処理に好適となる温度への温度調整を受けた後、水交換除湿U105に供給されて、除湿処理を施される。またその後、触媒燃焼処理や、窒素フィルタリング処理等を受けて最終的に、窒素ガス生成装置11(窒素ガス生成コンテナ1)の成果である高純度の窒素ガスに変換される。
【0058】
いずれにしてもこの高圧の窒素増大ガス(排ガス)は通常、相対湿度が概ね100%のガスとなっているので、この後の水交換除湿U105等による除湿処理が非常に重要となる。ちなみに本実施形態では排ガスが高圧状態にあるので、その露点は相当に高くなっており、ドレインDa及びDbに落ちる水量はその分増大する。すなわち、ドレインDa及びDbにおいてもより高い除湿処理が実施される。
【0059】
また以上述べたように、燃料電池104の入出力ガスを高圧にすることによって燃料電池反応を促進させ、その結果、より酸素濃度の低い窒素増大ガス(排ガス)を取り出すことが可能となる。また、(a)空気供給源としての高圧ガス供給U101と、(b)燃料電池U103と、(c)水交換除湿U105と、(後に説明するドライフィルタリングU107と、)(d)触媒燃焼U108と、(e)窒素フィルタリングU109とを、いずれも高圧ガスのやり取りをもって結び付け、高圧空気の導入から高圧の高純度窒素ガスの生成までの処理を、一連の高圧系をもってより高い効率で実施することも可能となる。ここで、途中に電動の増圧ユニットを設けない場合、消費エネルギーがより少なくて済むことから、高純度窒素ガスの生成効率はさらに向上する。
【0060】
また燃料電池104は、公知の構成のものとすることができる。例えば、空気極(酸素極,陰極,カソード)と水素極(燃料極,陽極,アノード)とで電解質膜を挟み込んだ構造を有するセルが、間にセパレータを介して複数スタック(積層)した構成を有していてもよい。この場合、各セルにおいて、空気極側の酸化ガス室と水素極側の燃料ガス室とが、電解質膜を挟むようにして設けられることになる。
【0061】
さらに燃料電池104は、本実施形態において固体高分子型燃料電池(PEFC)であるが、勿論、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、リン酸型燃料電池(PAFC)や、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)等とすることも可能である。ちなみに本実施形態で採用しているPEFCは、比較的低温で稼働し、電池サイズもコンパクト化可能であることから、例えば多くの燃料電池自動車にも採用されている。
【0062】
このPEFC方式を採用した燃料電池104における固体高分子膜(電解質膜)は、高いプロトン伝導性を維持して良好な燃料電池反応を継続させるため、湿潤状態でなければならない。この点、燃料電池104に取り込まれる上記(a)の高圧空気は水交換除湿U105で加湿された湿潤な空気となっている。その結果、固体高分子膜(電解質膜)はこの湿潤な高圧空気から水分・水蒸気分を受けて湿潤状態を保つことができ、これにより、酸素の十分に消費された窒素増大ガス(排ガス)が安定的に供給可能となる。
【0063】
また、本実施形態の燃料電池104は、上述したように、高圧(例えば0.3~1MPa)の空気と、高圧(例えば0.3~1MPa)の水素ガスとを受け取って、酸化ガス室から高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガス(排ガス)と、燃料ガス室から高圧(例えば0.3~1MPa)の排ガスとを排出する高圧対応の燃料電池である。ここでこれらの高圧(例えば0.3~1MPa)は、背圧弁及び背圧計を備えた圧力制御器PCa、並びに水素用背圧弁及び水素用背圧計を備えた圧力制御器PCcによって設定・調整される。ここで、燃料電池104の電解質膜の破損を防止するべく、酸化ガス室側の背圧と燃料ガス室側の背圧とは、例えば0.05MPa未満の誤差で、同等に設定されることも好ましい。なお、酸化ガス室側(空気極側)の背圧が、窒素フィルタリングU109の後段に設けられた後述する圧力制御器PCdによって制御可能な場合、圧力制御器PCaは省略することも可能である。
【0064】
さらに、以上に説明したような燃料電池104を備えた燃料電池U103は、(a)燃料電池104に取り込ませた高圧空気や高圧水素ガスの流量、圧力、温度及び湿度、(b)燃料電池104から排出される排ガスの流量、圧力、温度、及び湿度、並びに(c)燃料電池104の水素極・空気極間における複素インピーダンス、電圧や電流、を測定可能な測定デバイス・センサ群を備えていることも好ましい。さらに、この測定デバイス・センサ群からの測定情報を受け取った全体制御U131によって、燃料電池104の稼働が設定通りに制御されることも好ましい。
【0065】
また、本実施形態の燃料電池U103は、水や他の熱交換媒体を循環させる熱交換器を燃料電池104内に又はその周囲に配置して、稼働した燃料電池104から(燃料電池反応による)熱エネルギーを取り出し、この熱エネルギーを、熱量取出口155を介して外部に提供することができる。この場合、熱量取出口155からは、熱交換器から送り出された水(温水や熱水)や、他の熱交換媒体が取り出されてもよい。またこの場合、熱量取出口155には、熱エネルギーを提供した後の(循環させるべき)水や熱交換媒体を取り入れる媒体取入口も合わせて設けられていることも好ましい。ここで使用可能な熱交換器として、シェル&チューブ式熱交換器等の多管式熱交換器や、アルファ・ラバル製ブレージングプレート式熱交換器等のプレート式熱交換器等が挙げられる。
【0066】
さらに熱交換器の代わりに、燃料電池104における伝導性のセパレータとヒートパイプとを連結した熱伝導システムを用いて、燃料電池104内の熱エネルギーを取り出し、この熱エネルギーを、ヒートパイプの一端をなす熱量取出口155から外部に供給してもよい。いずれにしても、このような熱伝達手段によって、例えば需要家に熱エネルギーを提供することができるだけでなく、燃料電池104のセルの温度を所定温度(例えば80℃)以下に制御し、燃料電池104の好適な稼働を維持することも可能となる。またより簡易な構成として、外部から取り込まれた水(冷却水)が燃料電池104で加熱され、温水や熱水として熱量取出口155から取り出されてもよい。
【0067】
さらに本実施形態において、上記の熱交換器や熱伝導システムといったような熱伝達手段で取り出された熱エネルギーは、
(a)水交換除湿U105へ供給される高圧の窒素増大ガス(排ガス)の温度を調整する温度調整器TCa、
(b)触媒燃焼U108へ供給される高圧の窒素増大ガス(排ガス)の温度を調整する温度調整器TCb、及び
(c)窒素フィルタリングU109へ供給される高圧の窒素増大ガス(排ガス)の温度を調整する温度調整器TCc
に送られて、窒素増大ガス(排ガス)の温度を各処理に適した温度にするための温度調整に使用されることも好ましい。例えば、窒素増大ガス(排ガス)の通った金属細管の温度をこの熱エネルギーで変化させて温度調整を行ってもよい。なおこれらの温度調整器TCa、TCb及びTCcは温度計を備え、窒素増大ガス(排ガス)の温度をモニタして、全体制御U131へ適宜報告してもよい。
【0068】
また、燃料電池104において燃料電池反応により生成された電力は、本実施形態において、電力調整部PWで調整された上で電力用コネクタ154へ送られ、電力用コネクタ154を介し需要家に提供可能となっている。ここで電力調整部PWは、例えば蓄電池及びインバータを有し、燃料電池104からの直流電力を一時的に蓄えた上で、外部で使用される形の交流電力に変換するものであってもよい。また、本実施形態の高圧ガス供給U101は、この燃料電池104からの電力によって、又はこの電力と外部から引き込んだ商用電力とによって、自らに備えられたコンプレッサを稼働させることも好ましい。
【0069】
<ドライフィルタリング手段>
同じく図1において、ドライフィルタリングU107は、水交換除湿U105から取り出された高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガス(排ガス)における水分又は水蒸気分を更に低減させる除湿手段である。具体的に、ドライフィルタリングU107に備えられた本実施形態のドライフィルタ107Fは、高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガスを、フィルタ内の小さな孔から噴出させて断熱的に膨張させ、窒素増大ガスの噴出後の流れから、発生した凝結水が振り落とされるようにして、この窒素増大ガスを除湿する。
【0070】
実際にドライフィルタ107Fとして、日本エアドライヤー販売株式会社製のKAAD300ドライフィルタを用いて実験を行ったところ、ガスを噴出させる孔の径、孔の数、及びこの孔を備えた噴出器の段数を調整することによって、例えばドライフィルタ107Fに導入された相対湿度100%の空気における相対湿度を、約15%にまで低減することができた。
【0071】
なお当然ながら、ドライフィルタ107Fは、上述したような断熱膨張凝結型のものに限定されず、例えば、フッ素系非多孔膜等の中空糸膜を備えた膜分離型ドライフィルタや、ゼオライト等の吸水剤を備えたドライフィルタであってもよい。ただし本実施形態では、メンテナンスが概ね不要となるメリットを有する点から、断熱膨張凝結型のドライフィルタ107Fを採用している。
【0072】
また、本実施形態のドライフィルタリングU107は、以上説明したように、高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガスを除湿することができる。ここで、導入される窒素増大ガスの圧力値(例えば0.3~1MPa)は、ドライフィルタ107Fにおいて、設定された導入流量の下、目標とする又は所望の相対湿度を達成するために必要となる「下限圧力」以上の値とすることも好ましい。このように、ドライフィルタリングU107は、上述したような燃料電池104、水交換除湿U105、触媒燃焼U108、及び窒素フィルタリングU109を包含する一連の高圧系へ組み入れるのに非常に適したユニットとなっている。
【0073】
なお、前段の水交換除湿U105によって窒素増大ガスの除湿処理が十分に実施される場合、例えば水交換除湿U105から送出される窒素増大ガスの相対湿度が、触媒燃焼U108で設定される上限相対湿度以下となる場合、ドライフィルタリングU107は省略することもできる。また逆に、水交換除湿U105を取り止め、ドライフィルタリングU107のみを主な除湿手段とすることも可能である。
【0074】
<触媒燃焼手段>
同じく図1において、本実施形態の触媒燃焼U108は、
(a)水交換除湿手U105(及びドライフィルタリングU107)で水分又は水蒸気分の低減した高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガス(排ガス)と、
(b)ボンベ・増圧U123から送り出された高圧の水素ガス、例えば水素混合器Maの後段から取り出した高圧(例えば0.3~1MPa)の水素ガスと
を燃焼触媒上で、本実施形態では固体触媒108Cの表面上で、接触させて触媒燃焼反応を起こし、上記(a)の高圧の窒素増大ガスにおける酸素濃度をより低減させる、すなわち窒素濃度をより増大させる手段となっている。ここで本実施形態において、上記(a)の導入される窒素増大ガスの圧力値(例えば0.3~1MPa)は、触媒燃焼U108において、設定された導入流量の下、目標とする又は所望の窒素濃度(純度)を達成するために必要となる「下限圧力」以上の値となっている。
【0075】
このように、本実施形態の触媒燃焼U108では、高圧(例えば0.3~1MPa)のガス同士が燃焼触媒上で接触するので、触媒燃焼反応の反応速度が増大して当該反応がより促進され、窒素増大ガスにおける酸素濃度の低減効果がより向上する。さらに、高圧の窒素増大ガスに接触させる高圧の水素ガスも、上記(b)にあるように、装置11内で調達でき、外部から別途取り寄せる必要がない。
【0076】
ここで、触媒燃焼U108において、水素ガスを十分に取り込んで酸素をより消費させる触媒燃焼条件が設定される場合、触媒燃焼U108から送出される高濃度の窒素増大ガス中に、水素ガスが残留することも少なくない。これに対し、後段に設けられた窒素フィルタリングU109は、後に詳述するが、触媒燃焼U108から送出された高濃度の窒素増大ガスにおける
(a)酸素(O2)分と、(b)(水素が含まれている場合に)水素(H2)分と
を、一挙に且つ同時に低減させる又は除去することが可能である。その結果、水素の除去された若しくは水素濃度のより低いより高濃度の窒素増大ガス、すなわち高純度の窒素ガスを生成することが可能となる。またこの場合、触媒燃焼U108は、導入する水素ガスの量(流量)について、それほど高度な制御を要求されない、とのメリットも存在する。このように、触媒燃焼U108と、その後段の窒素フィルタリングU109とは、高純度窒素ガス生成効率を、より簡便な形で高める絶妙な組合せとなっている。
【0077】
また、本実施形態の燃焼触媒である固体触媒108Cは、細かい穴が多数開いていてこれらの穴の内部を含めた表面に白金(Pt)、パラジウム(Pd)や、ニッケル(Ni)等の金属を触媒として担持している金属ハニカムやセラミックスハニカムとすることができる。この固体触媒108Cにおける触媒燃焼反応は、固体触媒108Cを含む反応管内の温度が高くなるほど、反応速度が増大してより促進される。したがって、固体触媒108C(を含む反応管内の雰囲気)を所定の要求される温度(例えば60~200℃)にまで加熱することが重要となるが、この加熱は、例えば電熱線を固体触媒108C又は固体触媒108Cを挿入した反応管に巻き付け通電することによって行うことができる。
【0078】
また他の実施形態として、固体触媒108Cに対し誘導加熱を行ってもよい。具体的には、固体触媒108Cの担体の内部における担体表面近くに、鉄(Fe)やステンレス等の鉄系合金を混入させておき、又は固体触媒108Cの側面に鉄片や鉄系合金板片を接触配置させておき、このような固体触媒108Cに対し、電磁場発生装置を用いて例えば十数キロヘルツ(kHz)~数百kHzの磁場(電磁場)を印加する。これにより、電磁誘導の原理によって発生するうず電流によるジュール熱をもって、固体触媒108Cを直接加熱することが可能となる。
【0079】
ここで、以上述べたような固体触媒108C(を含む反応管内の雰囲気)の加熱に、燃料電池104からの熱エネルギーを用いることも好ましい。具体的には、触媒燃焼U108の固体触媒108Cに対し、燃料電池104からの熱エネルギーを、熱交換器や熱伝導システムといったような熱伝達手段をもって伝達し、少なくともこの熱エネルギーを用いて固体触媒108Cを加熱してもよい。例えば、この熱伝達手段の端部と固体触媒108Cとを接続して直接、熱エネルギーを伝えることも可能である。また、この熱伝達手段で伝達された熱エネルギーをもって、固体触媒108C上(すなわち反応管内)で反応するガスを加熱してもよい。例えば、燃料電池104から流れてきた(燃料電池反応熱によって加熱された)例えば70~90℃の循環水(熱交換媒体)を用いて、固体触媒108C又は反応管内の雰囲気を、例えば60~80℃にまで加熱することができる。具体的には例えば、この循環水の配管を反応管の外側に巻き付けて反応管内の雰囲気を加熱してもよい。この場合、電熱や電磁誘導による加熱を行うことなく、燃料電池104からの熱エネルギーだけで、触媒燃焼U108における温度調整を実施し、触媒燃焼U108における電力消費を低減若しは概ねゼロにすることも可能となる。
【0080】
ちなみに、触媒燃焼U108に導入される窒素増大ガス(排ガス)の酸素濃度は、例えば約0.1~10vol%であり、触媒燃焼の反応熱は十分に大きな量となるので、固体触媒108Cも多くの場合、例えば100℃を超えるような高温にする必要はない。したがって、最終的に提供される高純度窒素ガスのスペックにもよるが、燃料電池104からの熱エネルギーによって、固体触媒108Cの高温化の大部分を賄うことも可能となる。ちなみにこのことも、燃料電池104の後段の触媒燃焼U108と、さらにその後段の窒素フィルタリングU109とを組み合わせることの大きなメリットとなっている。実際、触媒燃焼U108を窒素フィルタリングU109の後段に設けた場合、触媒燃焼U108へ導入される窒素増大ガスの酸素濃度は相当に低いので、固体触媒108Cの加熱に、より多くのエネルギーが必要となってしまう。
【0081】
また、触媒燃焼U108における触媒燃焼反応は、高圧の窒素増大ガス中の水蒸気(H2O)分の影響も強く受け、したがって導入される窒素増大ガスの相対湿度について、必要とされる触媒燃焼反応速度を確保可能な「上限相対湿度」が存在する。したがって、水交換除湿U105(及びドライフィルタリングU107)によって予め、窒素増大ガスの相対湿度をこの「上限相対湿度」以下に下げておくことが非常に重要となる。具体的には例えば、
(a)温度調整器TCaによって、水交換除湿U105に取り込まれる窒素増大ガス(排ガス)の温度を調整し、水交換除湿U105から取り出される窒素増大ガスの相対湿度を、「上限相対湿度」以下となるように制御したり、
(b)圧力制御器PCaや圧力制御器PCdによって、ドライフィルタリングU107(のドライフィルタ107F)へ取り込まれる高圧の窒素増大ガスの圧力を調整し、ドライフィルタリングU107から取り出される高圧の窒素増大ガスの相対湿度を、「上限相対湿度」以下となるように制御したり
することも好ましい。
【0082】
ここで、触媒燃焼U108から送出される高濃度の窒素増大ガスの典型的スペックを説明する。例えば触媒燃焼U108が、例えば約5vol%の酸素濃度を有する高圧の窒素増大ガス(排ガス)を受け取り、これに対しガス圧が例えば0.9MPaの高圧下での触媒燃焼処理を施す場合、触媒燃焼U108から送出される窒素増大ガスを、酸素濃度が例えば100ppm vol(0.01vol%)未満の高純度の窒素ガスとすることも可能となる。したがって、提供される窒素ガスに対し要求されるスペックにもよるが、この後説明する窒素フィルタリングU109を省略し、触媒燃焼U108から送出される高純度の窒素ガスを、窒素ガス取出口から需要家に提供することもできる。またこの場合、触媒燃焼U108に導入する水素ガスの量(流量)を高精度で制御して、提供される窒素ガス中の残留水素濃度を概ねゼロにすることも可能となっている。
【0083】
<窒素フィルタリング手段>
同じく図1において、本実施形態の窒素フィルタリングU109は、触媒燃焼U108から送出された高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガスを、窒素濃度のより高い高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガス、すなわち高純度の窒素ガスにするユニットである。ここで窒素フィルタリングU109は、導入される窒素増大ガスが水素を含有している場合、この窒素増大ガスを、水素の除去された若しくは水素濃度のより低い窒素ガスとすることもできる。
【0084】
具体的に、窒素フィルタリングU109に備えられた窒素ガスフィルタ109Fは、
(a)窒素(N2)と酸素(O2)とについて及び窒素(N2)と水素(H2)とについて透過する度合いの異なる中空糸繊維部(後に説明する図5における109Fa)と、
(b)高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガスを、上記(a)の中空糸繊維部へ作用させるべく導入するためのフィルタ入口部(図5における109Fb)、及びこの中空糸繊維部から窒素濃度のより高い高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガス、すなわち高純度の窒素ガス)を取り出すためのフィルタ出口部(図5における109Fc)と、
(c)上記(a)の中空糸繊維部によって、窒素増大ガス中の窒素(N2)から分離された酸素(O2)及び(窒素増大ガス中に水素が含有されていた場合に)水素(H2)を含むガス(以下、フィルタ排出ガスと略称)を、上記(b)で取り出される高純度の窒素ガスとは別に取り出すフィルタパージ部(図5における109Fd)と
を備えている。
【0085】
このうち、上記(a)の中空糸繊維部は、窒素(N2)よりも酸素(O2)や水素(H2)をより優先して透過させる中空糸の高分子繊維である。高圧(例えば0.3~1MPa)の排ガスが、フィルタ入口部からこの中空糸繊維部中を流れていく間に、酸素(O2)や水素(H2)が選択的にこの高分子繊維を透過し出ていくので、最終的にフィルタ出口部から高純度の窒素ガスが取り出される。
【0086】
またこのような中空糸繊維部においては、導入される窒素増大ガスの圧力(導入圧力)を高くするほど、また取り出される高純度の窒素ガスの流量(出口流量)を小さくするほど、さらに導入される窒素増大ガスの酸素濃度(導入酸素濃度)を低くするほど、フィルタ出口部から、酸素濃度(出口酸素濃度)のより低い(すなわち窒素濃度のより増大した)ガスを取り出すことのできることが、実験によって確認されている。
【0087】
ここで、上記の出口酸素濃度における導入酸素濃度依存性の観点からしても、この窒素ガスフィルタ109F(窒素フィルタリングU109)と、その前段において排ガス(窒素増大ガス)の酸素濃度を予め大幅に低減させておく触媒燃焼U108とは、(スペックとして要求される)高い純度を有する窒素ガスを生成するのに非常に好適な組合せとなっていることが理解される。さらに窒素ガスフィルタ109Fにおいては、導入酸素濃度を小さくするほど回収率(=出口流量/導入流量)が高くなることも実験によって確認されている。したがって、回収率の観点からしても、窒素ガスフィルタ109F(窒素フィルタリングU109)とその前段の触媒燃焼U108とは、(スペックとして要求される)十分な量(流量)の高純度窒素ガスを回収するのに非常に好適な組合せとなっている。
【0088】
なお、触媒燃焼U108から目標とされる又は所望の高い純度を有する窒素ガスが送出される場合、窒素フィルタリングU109は、この窒素ガスにおける水素(H2)を低減又は除去することだけを目的に設けられてもよい。ちなみに、水素濃度が約1vol%である空気・水素混合ガスを、芳香族ポリイミド中空糸を用いた窒素ガスフィルタ109Fに導入する実験を行ったところ、出口水素濃度を数ppm volにまで低下させることができた。ここで、水素濃度が1vol%未満であれば、出口水素濃度を測定限界(1ppm vol)以下にすることも可能である。
【0089】
また、本実施形態の窒素ガスフィルタ109Fは、上述したように、高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガスにおける酸素濃度をより低減させる。ここで、この導入される窒素増大ガスの圧力値(例えば0.3~1MPa)は、ドライフィルタ107Fにおいて、設定された導入流量の下、目標とする又は所望の窒素濃度(純度)を達成するために必要となる(中空糸繊維の特性から決定される)「下限圧力」以上の値となっている。
【0090】
例えば、所望の低い酸素濃度を有する所望流量の高純度窒素ガスを取り出すために、導入圧力は0.8MPa以上とすべき(すなわち下限圧力は0.8MPaとすべき)窒素ガスフィルタ109Fを使用する場合、窒素ガスフィルタ109Fに導入される窒素増大ガスは、例えば0.8~0.85MPaの圧力(導入圧力)を有するガスとすることができる。ちなみにこの場合、高圧空気供給元である高圧ガス供給U101は、この下限圧力(0.8MPa)に基づいて(装置11内の圧力損失を勘案して)設定される圧力閾値(例えば0.85MPa)以上の圧力を有する高圧空気を生成することも好ましい。
【0091】
なお上述したような、窒素(N2)よりも酸素(O2)や水素(H2)をより優先して透過させる窒素ガスフィルタ109Fとして具体的に、UBE(旧宇部興産)社製の芳香族ポリイミド中空糸を用いたUBE N2セパレーターや、ポリプラ・エボニック社製の同じく芳香族ポリイミド中空糸を用いたN2メンブランモジュール・窒素ガスフィルタ等が、使用可能であることを確認している。
【0092】
以下、触媒燃焼U108の前段、及び窒素フィルタリングU109の前段に設けられた各種デバイスについて説明を行う。
【0093】
同じく図1において、各種フィルタユニットFLaは、この後、触媒燃焼U108や窒素フィルタリングU109に供給する高圧の窒素増大ガス(排ガス)に対し、触媒燃焼処理や窒素フィルタリング処理にとって有害となる硫化物、塩化物、炭化水素、フッ化物や、強アルカリ化合物等を除去する又は低減させる処理を施すユニットである。具体的に各種フィルタユニットFLaは、例えば活性炭フィルタを備えており、排ガス中における上記の不純物を除去する又は低減させるものであってもよい。また、各種フィルタユニットFLaは、ミストフィルタ及びダストフィルタも備えており、排ガス中の水ミスト、溶剤ミストや、オイルミスト等のミストを除去する又は低減させることも好ましい。
【0094】
また温度調整器TCbは、取り入れた高圧の窒素増大ガスの温度を、触媒燃焼U108で必要とされる温度(例えば60~200℃)に近づけ又は一致させ、温度調整された高圧の窒素増大ガスを触媒燃焼U108へ供給するためのデバイスである。この温度調整は特に、寒冷地等で使用するケースのように使用環境温度が低い場合に有効となる。また温度調整器TCbは、燃料電池104から出てくる高温の循環水(熱交換媒体)の熱エネルギーを利用して温度調整を行うことも好ましい。さらに、温度調整器TCcは、取り入れた高圧の窒素増大ガスの温度を、窒素ガスフィルタ109Fの特性に基づき予め設定された好適温度(例えば35~60℃)に近づけ又は一致させ、温度調整された高圧の窒素増大ガスを窒素フィルタリングU109へ供給するためのデバイスである。
【0095】
ここで本実施形態において、温度調整器TCb及びTCcは、上述したような循環水(熱交換媒体)の熱エネルギーをもって、または、燃料電池U103から熱伝導システムといったような熱伝達手段で移送された熱エネルギーをもって、例えば高圧の窒素増大ガスの通った金属細管の温度をこの熱エネルギーで変化させて、温度調整を行うことも好ましい。または電熱ヒータを備えており、燃料電池U103から供給される電力によって窒素増大ガスの温度を調整してもよい。なお温度調整器TCcは、取り入れる窒素増大ガスの温度が目標温度よりも高くなるケースでは、例えば空冷器や水冷器等の冷却器を備えていて、取り入れた窒素増大ガスの温度を下げるものであってもよい。
【0096】
同じく図1において、フロー制御器FCcは、例えばガスレギュレータ及びマスフローコントローラ(又はフロースイッチ)を備えており、触媒燃焼U108から窒素フィルタリングU109へ供給される窒素増大ガスの流量や圧力を制御する機器である。
【0097】
次に、窒素フィルタリングU109の後段に設けられた各種デバイスについて説明を行う。
【0098】
同じく図1において圧力制御器PCdは、圧力制御器PCaと同様、背圧弁及び背圧計を備えており、窒素フィルタリングU109における出口圧力(取り出された高純度窒素ガスの圧力)、すなわち背圧を制御する。また、圧力制御器PCdは本実施形態において、各ユニットの下限圧力以上の圧力を有する高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガスを、(ドライフィルタリングU107、)触媒燃焼U108や、窒素フィルタリングU109へ導入させる役割を果たす。すなわち圧力制御器PCdは、これらのユニットを一連の高圧系として維持・管理するための圧力制御手段となっている。また圧力制御器PCdは、上述した圧力制御器PCaを省略した形態においては、燃料電池U103から窒素フィルタリングU109までを一連の高圧系として維持・管理する役割を果たす。
【0099】
同じく図1において、窒素ガスタンクTNは、窒素フィルタリングU109から送出された高圧(例えば0.3~1MPa)の高純度窒素ガスを、一時的に貯めるタンクである。また本実施形態の窒素ガスタンクTNは、ガスレギュレータ及びマスフローコントローラ(又はフロースイッチ)を備えており、例えば全体制御U131の指示を受けて、貯めた高純度窒素ガスを、所定の安定した圧力及び流量をもって窒素ガス取出口153へ送り出す。
【0100】
ここで本実施形態においては、窒素フィルタリングU109と、その後段となる圧力制御器PCdの背圧弁とを結ぶ配管から分岐しており、窒素フィルタリングU109から送出された高圧の高純度窒素ガスを取り出すための分岐配管が設けられている。窒素ガスタンクTNは、この分岐配管を介し高圧の高純度窒素ガスを受け取る。また、この分岐配管の途中には、窒素ガスタンクTNからの高純度窒素ガスの逆流を防止するための逆止弁が設けられている。
【0101】
このような分岐配管を利用した構造を採用することによって、窒素フィルタリングU109から送出された高純度窒素ガスを、その高圧力をそのまま利用して、例えばブースト圧縮ポンプを使用することなく、窒素ガスタンクTNに貯め込むことが可能となる。ここで窒素ガスタンクTNにガス圧計を設けてタンク内圧力をモニタし、タンク内圧力値が所定の上限値(例えば0.65MPa)を下回っている間は、窒素フィルタリングU109から高純度窒素ガスを所定流量で流し続ける設定とすることも好ましい。
【0102】
なお本実施形態において、全体制御U131は、窒素フィルタリングU109の後段に設けられた酸素濃度計Oaから受信した酸素濃度データを確認し、外部に提供する窒素ガスの純度(低酸素濃度性)が、スペックを満たしているか否かをチェックすることも好ましい。
【0103】
以上詳細に説明したように、本実施形態の窒素ガス生成装置11(窒素ガス生成コンテナ1)は、高純度窒素ガスのみならず、電力や、熱エネルギーも需要家に提供可能な、高効率且つ高簡便性のトライジェネレーション(Tri-Generation)装置となっている。また、燃料電池104で生成され、ドレインDa及びDbやドライフィルタリングU107から回収された水(純水)を需要家に提供することも可能である。この場合、本装置(システム)は、窒素ガス・電力・熱・水供給装置(システム)として機能する。
【0104】
さらに、すでに説明したように本実施形態において、高圧対応の燃料電池U103と、水交換除湿U105と、(ドライフィルタリングU107と、)触媒燃焼U108と、窒素フィルタリングU109とは、これらの間に増圧手段を設けることなく、一連の高圧系となっている。これにより、燃料電池反応の効率を促進しつつ、発生する水分・水蒸気分を効率的に除去し、さらに窒素増大ガス(排ガス)中の酸素濃度をより低減させて、純度のより高い窒素ガスを生成することができる。ここで本実施形態のこの高圧系の圧力制御をまとめると、以下の通りとなる。
【0105】
(a)圧力制御器PCd(及び圧力制御器PCa)によって高圧系全体の背圧を調整しつつ、
(a)高圧ガス供給U101は、触媒燃焼U108において要求若しくは決定される「下限圧力」、及び窒素フィルタリングU109において要求若しくは決定される「下限圧力」に基づき設定される「圧力閾値」以上の圧力を有する高圧の空気を、燃料電池U103(燃料電池104)へ供給し、
(b)水交換除湿U105(及びドライフィルタリングU107)は、燃料電池U103(燃料電池104)から排出された「圧力閾値」以上の圧力を有する窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させ、
(c)触媒燃焼U108は、上記(b)の水分又は水蒸気分の低減した窒素増大ガスを、「下限圧力」以上の圧力の下、高圧の、窒素濃度のより増大した高濃度の窒素増大ガスにし、
(d)窒素フィルタリングU109は、上記(c)の高濃度の窒素増大ガスを、「下限圧力」以上の圧力の下、高純度の窒素ガスにする。
【0106】
[水交換除湿U105]
図2は、本発明に係る水交換除湿手段と燃料電池との組合せについての一実施形態を示す模式図である。
【0107】
図2(A)に示した本実施形態の水交換除湿U105は、水蒸気交換膜105Hvを間に挟んだ加湿室105Hh及び除湿室105Hdを有する加湿器105Hを備えており、本実施形態において、
(a)高圧ガス供給U101からフロー制御器FCaを介して加湿室105Hhに導入された高圧(例えば0.3~1MPa)の空気と、
(b)燃料電池104の酸化ガス室104Xから温度調整器TCaを介して除湿室105Hdに導入された高圧(例えば0.3~1MPa)の窒素増大ガス(排ガス)と
の間で水蒸気交換膜105Hvを介した水交換を行い、上記(b)の窒素増大ガスにおける水分又は水蒸気分を低減させる。
【0108】
ここで水蒸気交換膜105Hvは、除湿室105Hdを流れる高圧の窒素増大ガス(排ガス)から水蒸気(H2O)分を受け取って透過させ、加湿室105Hhを流れる高圧空気へ移送させる役割を果たす。なお本実施形態において、水蒸気交換膜105Hvは中空糸膜となっており、湿潤した窒素増大ガスの流れる中空糸の中が、「除湿室105Hd」に相当し、加湿すべき高圧空気が流れる中空糸の周囲が、「加湿室105Hh」に相当する。また、この水蒸気分の膜透過・移行プロセスは吸熱反応となっており、このプロセス(吸熱反応)を進行させるため、除湿室105Hdを流れる高圧の窒素増大ガスの温度は、加湿室105Hhを流れる高圧空気の温度よりも高い状態に維持されなければならない。
【0109】
さらに、この膜透過・移行プロセスの進行度合いは、両者(窒素増大ガス及び高圧空気)の水蒸気分圧(さらには流量)に依存しているのは勿論であるが、吸熱反応であるが故に両者の温度差にも強く依存しており、窒素増大ガスの温度(排ガス)は十分に高い温度に設定される必要がある。この点、燃料電池104から排出される排ガスの温度は、例えばPEFCの場合、通常約55~80℃であり、通常室温(例えば25℃)程度の温度を有する高圧空気と比較して、十分に高い温度となっている。また、例えばこの程度の温度差が維持されれば、高圧の窒素増大ガスの水分・水蒸気分の約30%が高圧空気に移行可能であることが分かっている。
【0110】
ちなみに、上記(a)の高圧空気の圧力(例えば0.3~1MPa)と、上記(b)の窒素増大ガス(排ガス)の圧力(例えば0.3~1MPa)とは、いずれも水交換除湿U105の後段に設置された圧力制御器PCa(図1)、又は圧力制御器PCd(図1)によって制御されており、その流路の構成上、互いに同程度となる。したがって、水蒸気交換膜105Hvが印加される高圧によって損傷する事態は回避することができる。
【0111】
また上述したように、水蒸気交換膜105Hvにおける水蒸気(H2O)分の膜透過・移行プロセスは、継続的に熱を吸熱する反応であるので、上記(a)の高圧空気と上記(b)の窒素増大ガスとの温度差が所定以上となる状態を維持しなければならない。そのため本実施形態では、高圧空気が導入されて取り出される加湿室105Hhの前段及び後段と、高圧の窒素増大ガスが導入されて取り出される除湿室105Hdの前段及び後段とにそれぞれ、ガス温度計Tc及びTdと、ガス温度計Ta及びTbとが設置されている。
【0112】
全体制御U131は、これらのガス温度計の温度をモニタし、上記の温度差が所定以上となるように、フロー制御器FCaによって高圧空気の導入量を調整し、さらに温度調整器TCaによって高圧の窒素増大ガスの温度を調整する。これにより、例えば相対湿度が目標値以下に低下した高圧の窒素増大ガスと、相対湿度が目標値以上に増大した高圧空気とを確実に生成することも可能となる。なおこの高圧空気は、燃料電池104の酸化ガス室104Xへ供給されて、燃料ガス室104Hとの間に設けられた電解質膜104Eを湿潤させ、良好な燃料電池反応を継続させる。
【0113】
また、上記の温度調整器TCaは具体的に、燃料電池104から取り出された高圧の窒素増大ガスの温度を、水交換除湿U105において要求若しくは決定される下限温度以上の温度に制御する。ここでこの下限温度は、水交換除湿U105において設定された除湿効果(相対湿度の低減分)を実現するために最低限必要となる(高圧窒素増大ガスと高圧空気との)温度差から決まる温度値である。例えば、高圧空気の温度が25℃であって、この最低限必要となる温度差が30℃であれば、加湿器105Hへ導入される窒素増大ガスの下限温度は55(=25+30)℃となる。
【0114】
以上、水交換除湿U105の一実施形態を説明したが、この水交換除湿U105に備えられた加湿器105Hとして具体的に、AGCエンジニアリング社製の加湿用膜モジュール等が、使用可能であることを確認している。以下、このような水交換除湿U105と組み合わせて使用される高圧対応の燃料電池104における好適な一実施形態を説明する。
【0115】
図2(B)に示したように、本実施形態の燃料電池104は、
(a)電池本体であるセルスタック104Sと、
(b)セルスタック104Sにおいて燃料電池反応により発生した熱エネルギーを、熱交換媒体をもって外部に移送するための熱交換部104Gと、
(c)セルスタック104S及び熱交換部104Gを、空気等の充填ガスが高圧状態で充填された(本実施形態では、高圧ガス供給U101からの高圧ガスが充填された)自らの内部に収容する圧力容器104Cと、
(d)圧力容器104C内の充填ガスの圧力をモニタする圧力計104Paと、
(e)圧力計104Paによる圧力容器104C内のガス圧のモニタ値に基づいて、圧力容器104Cへその内部から抜けた充填ガス分を補給し、又は圧力容器104Cとの間で充填ガスをやり取りし、圧力容器104C内のガス圧を、所定の高圧値に維持する容器内圧力調整器104Pと
を備えている。
【0116】
ここで、上記(a)のセルスタック104Sは、空気極側の酸化ガス室と水素極側の燃料ガス室とが電解質膜を挟むようにして設けられた構造を有するセルが、複数スタック(積層)した電池本体である。また、上記(e)の容器内圧力調整器104Pは本実施形態において、ガス圧のモニタ値に応じた調整が可能なガスレギュレータを含み、高圧ガス供給U101から充填ガスとしての高圧空気を直接受け取って、圧力容器104C内のガス圧を所定の高圧値とするべく、受け取った高圧空気をガスレギュレータによって調整しつつ圧力容器104Cに供給する。
【0117】
ここでこの所定の高圧値は、セルスタック104Sに導入される高圧ガス(高圧空気や高圧水素ガス)の圧力(導入圧力)と同等の値又はそれよりも若干高い値に設定されることも好ましい。この点、本実施形態では、高圧ガス供給U101からの高圧空気そのものを充填ガスとしているのでこのような圧力設定が容易となっている。またこのことから変更態様として、容器内圧力調整器104Pや圧力計104Paを省略し、高圧ガス供給U101から高圧空気を直接、圧力容器104C内に供給することも可能である。
【0118】
いずれにしても、以上説明したような燃料電池104においては、内部に例えば約0.9MPaの高圧ガスを抱えたセルスタック104Sが、圧力容器104C内の充填ガスから例えば0.9MPa程度の圧縮力を受ける。これにより、燃料電池104は、内部の高圧ガスによって破損・破壊されることなく内部の高圧状態を安定的に維持し、高圧燃料電池反応を継続的に安定して実施することができる。
【0119】
なお、充填ガスとして、燃料電池104の酸化ガス室へ導入する、水交換除湿U105から送出された高圧空気の一部を利用してもよい。また、高圧ガス供給U101からの高圧空気の代わりに、圧縮空気供給設備等からの圧縮空気や、窒素ガスタンク等からの圧縮窒素ガスを充填ガスとして用いることも可能である。さらに、容器内圧力調整器104Pは、圧力容器104Cへ供給する(又は圧力容器104Cとの間でやり取りする)充填ガスの入った圧力・流量制御機能付きのボンベやバッファタンク、及び充填ガス供給用のポンプを備えたものであってもよい。
【0120】
また、高圧対応の燃料電池104は、以上説明したような圧力容器104Cを備えたものに限定されるものではない。例えば、圧力容器104Cを用いず、セルスタック104S自体を耐圧構造にして高い導入圧力に対応したものとすることもできる。ただし、いずれにしても上述したように、燃料電池104の電解質膜104Eの破損を防止するべく、酸化ガス室104Xの導入圧力(背圧)と燃料ガス室104Hの導入圧力(背圧)とは、例えば約0.05MPa未満の誤差で、同等に設定されることも好ましい。
【0121】
図3は、本発明に係る加湿器による窒素増大ガスの除湿処理の一実施例を示すグラフ、及び本発明に係る加湿器の配置の一実施形態を説明するための模式図である。
【0122】
最初に図3(A)及び(B)を用いて、加湿器105Hによる窒素増大ガスの除湿処理の実施例を説明する。本実施例では、加湿器105Hとして、AGCエンジニアリング社製の加湿用膜モジュールHFB-02-100/BNPを用い、装置湿度100%の窒素増大ガスを除湿室に導入し、一方、圧縮空気タンクから取り出した乾燥空気を加湿室に導入した。また、加湿器105H内のガス圧、すなわち加湿器内圧力を、0.34~0.73MPaの範囲で変化させ、送出されるガスの相対湿度の加湿器内圧力依存性を調べた。なお加湿器内圧力は、圧力制御器PCa(図1)の背圧計によって測定された背圧値となっている。また本実施例において、送出されるガスの温度は全圧力範囲で概ね23~24℃であった。
【0123】
図3(A)に示したように本実施例において、除湿室から取り出された窒素増大ガスの相対湿度、すなわち除湿側出口相対湿度は、加湿器内圧力が高いほど小さくなる。具体的に、除湿側出口相対湿度は、加湿器内圧力が0.34MPaの場合、35.8%であるのに対し、加湿器内圧力が0.73MPaの場合、13.8%にまで低下する。このように十分な高圧条件の下では、相対湿度100%の燃料電池排ガスにおける相対湿度を、20%未満に低減させることが可能となる。したがって、この後の触媒燃焼U108における触媒燃焼処理で要求される上限湿度の値次第では、ドライフィルタリングU107(図1)は省略してもよいことが分かる。
【0124】
また図3(B)に示したように、加湿室から取り出された(乾燥)空気の相対湿度、すなわち加湿側出口相対湿度は、加湿器内圧力の全範囲(0.34~0.73MPa)において約95~97%となっている。したがって本実施例の条件下では、十分に加湿された空気を燃料電池104に導入して、良好な燃料電池反応を継続させることが可能となる。
【0125】
次に図3(C)を用いて、加湿器105Hの配置の好適な一実施形態を説明する。図3(C)に示したように本実施形態では、3つの加湿器105H1、105H2及び105H3が、導入されるガスの流れに対し並列に配置され、除湿及び加湿処理を行う。具体的に、燃料電池104(図1)から排出される窒素増大ガスは、3つの流れに分けられてそれぞれ、加湿器105H1、105H2及び105H3の除湿室に導入される。また、この後燃料電池104(図1)へ取り込まれる空気も、3つの流れに分けられてそれぞれ、加湿器105H1、105H2及び105H3の加湿室に導入される。
【0126】
これにより、より多くの量(流量)の窒素増大ガス及び空気をそれぞれ、加湿及び除湿することが可能となる。またその結果、より大型・大出力の燃料電池104を採用して、より多くの量(流量)の高純度窒素ガスを、生成・提供することも可能となる。なお勿論、並列に配置する加湿器105Hの数は3つに限定されず、2つ又は4つ以上の加湿器105Hを並列配置して使用してもよい。
【0127】
[触媒燃焼U108]
図4は、触媒燃焼U108による触媒燃焼処理の一実施例を説明するための模式図及びグラフである。
【0128】
本実施例では、固体触媒108Cとして、田中貴金属工業社製のハニカム触媒(Ptコート)D3HPT2S40Cを採用し、図4(A)に示したように、2つの固体触媒108Cを、ステンレス製の反応管内に直列に並べて使用した。また、燃料電池104(図1)の排ガスを想定して、酸素濃度が11.2vol%である窒素・酸素混合ガスを生成し、これを窒素増大ガスと見立てて、反応管内に導入した。また水素ガスを、導入される窒素増大ガス中の酸素を丁度全て消費すると見込まれる量(流量)を基準とし、この基準から微妙に変化させた量(流量)をもって、反応管内に導入した。また反応管内の圧力(管内圧力)を、0.22~0.50MPaの範囲で変化させ、触媒燃焼U108から送出されるガスの残留酸素濃度及び残留水素濃度の管内圧力依存性を調べた。
【0129】
図4(B)に示したように本実施例において、残留酸素濃度は、管内圧力が高いほど小さくなる。また図4(C)に示したように、残留酸素濃度は、当然ではあるが(触媒燃焼反応の結果としての)残留水素濃度が高いほど小さくなっている。例えば、管内圧力が0.50MPaであって、窒素増大ガス及び水素ガスの導入流量がそれぞれ6.7リットル(L)/分及び約1.5L/分であり、残留水素が2390ppm volとなった場合、残留酸素濃度は、非常に低い260ppm volとなった。またこの場合、熱電対で測定された反応管内の温度は、103.2℃であった。さらに、管内圧力が同じく0.50MPaであって、窒素増大ガス及び水素ガスの導入流量がそれぞれ6.7L/分及び約1.7L/分であり、残留水素が11346ppm volとなった場合、残留酸素濃度は、205ppm volにまで低下した。またこの場合、熱電対で測定された反応管内の温度は、105.7℃であった。
【0130】
また、逆に残留水素濃度を極力抑えた具体例を挙げる。この具体例では、管内圧力を0.50MPaとして、窒素増大ガスの導入流量を6.7L/分とし、一方、酸素ガスの導入流量を(化学式:H2+1/2O2→H2Oを用いた単純な計算で求められた)丁度全ての酸素を消費する流量値あたりに制御した。その結果、残留酸素濃度は1790ppm volとなり上記の場合に比べて高くなったが、残留水素濃度は、0ppm vol(正確には測定限界(約1ppm vol)以下の値)とすることができた。なおこの場合、熱電対で測定された反応管内の温度は、106.0℃であった。
【0131】
以上説明した結果から、提供する窒素ガスにおける目標とされる又は所望の純度や、残留水素濃度の許容範囲次第ではあるが、窒素増大ガスに対する酸素濃度低減処理は、触媒燃焼U108だけで実施し、窒素フィルタリングU109は省略可能な場合もあることが理解される。なお上記の実施例では、2つの固体触媒108Cを用いているが、より多くの(例えば10個の)固体触媒108Cを直列に並べて使用することによって、残留酸素濃度をより低減させることも可能となる。
【0132】
[窒素フィルタリングU109]
図5は、本発明に係る窒素ガスフィルタの窒素フィルタリング処理の一実施例を示すグラフ、及び本発明に係る窒素ガスフィルタの配置の一実施形態を説明するための模式図である。
【0133】
最初に図5(A1)~(A3)を用いて、窒素ガスフィルタ109Fによる窒素フィルタリング処理の一実施例を説明する。本実施例では最初に、定格出力が1キロワット(kW)であるPEFC型の燃料電池104に、圧力が約0.7MPaの高圧空気を導入し、この燃料電池104から、圧力が約0.7MPaの排ガス、すなわち窒素増大ガスを取り出した。ここでこの窒素増大ガスの酸素濃度は、15.7~17.4vol%であった。次いでこの圧力が約0.7MPaの窒素増大ガスを、窒素ガスフィルタ109Fへ、出口流量が0.24~1.90ノルマルリューベ(Nm3)/時の範囲で変化するように導入し、窒素ガスフィルタ109Fから送出される高純度窒素ガスの酸素濃度、すなわち出口酸素濃度における出口流量依存性を調べた。なお窒素ガスフィルタ109Fとして、UBE社製の2インチ径UBE N2セパレーターを用いた。
【0134】
図5(A1)に示したように本実施例において、出口酸素濃度は、出口流量が小さくなるほど低くなり、出口流量が0.24Nm3/時の場合、109ppm volにまで低下する。ちなみに、別の実験結果とはなるが、この出口酸素濃度は、フィルタ内圧力(又は導入圧力)が高くなるほど低くなることも分かっている。このように、窒素ガスフィルタ109Fから送出される窒素ガスの酸素濃度は、より高いフィルタ内圧力の下で出口流量を絞ることによってより低減し、その結果、より高純度の窒素ガスが生成される。
【0135】
次いで本実施例では、以上に述べた実験結果を用いて、より大きい流量の高純度窒素ガスが生成可能となる(したがってより実用的な)定格出力が10kWのPEFC型の燃料電池104を用いた場合における、出口酸素濃度と出口流量との関係を導出した。
【0136】
図5(A2)は、フィルタリング効果指数と、窒素ガスフィルタ109Fに導入される窒素増大ガスの酸素濃度、すなわち導入酸素濃度との関係を示すグラフである。なお同グラフは実験値から決定されている。ここで、フィルタリング効果指数は、次式
(1) (フィルタリング効果指数)
=(空気導入時出口酸素濃度)/(対象ガス導入時出口酸素濃度)
をもって定義される。ここで「対象ガス導入時出口酸素濃度」は、この指数を求める対象のガス(評価対象ガス,本実施例では窒素増大ガス)を窒素ガスフィルタ109Fに導入した場合の出口酸素濃度である。また「空気導入時出口酸素濃度」は、上記の評価対象ガスと同じフィルタ内圧力や出口流量の下、窒素ガスフィルタ109Fに空気を導入した場合の出口酸素濃度である。例えば、ある評価対象ガスのフィルタリング効果指数をXとすると、この評価対象ガスを窒素ガスフィルタ109Fに導入した際の出口酸素濃度は、空気を窒素ガスフィルタ109Fに導入した際の出口酸素濃度のX分の1となる。
【0137】
図5(A2)によれば、このフィルタリング効果指数は、窒素ガスフィルタ109Fに導入する窒素増大ガス(評価対象ガス)の酸素濃度、すなわち導入酸素濃度が小さくなるにつれて、急激に増大する。これは、導入酸素濃度を小さくすれば、フィルタリング効果が著しく向上することを意味する。例えば、導入酸素濃度が1vol%である窒素増大ガスのフィルタリング効果指数は20となる。すなわち、この窒素増大ガスのフィルタリング処理後の酸素濃度は、空気のフィルタリング処理後の酸素濃度と比べて20分の1にまで減少する。以上の結果から、より高純度の窒素ガスを生成するために、燃料電池104から排出される窒素増大ガスの酸素濃度はできるだけ小さくしておくことも好ましい。また、燃料電池104から排出された窒素増大ガスに対し、窒素ガスフィルタ109Fに導入する前に、すでに説明したような触媒燃焼処理を施して、その酸素濃度を十分に低減させておくことも好ましいことが理解される。
【0138】
ここで、図5(A2)に示されたグラフのフィルタリング効果指数曲線は、窒素ガスフィルタ109Fとして、
(a)UBE社製のポリイミド中空糸を使用したUBE N2セパレーター(2インチ径)、及び
(b)ポリプラ・エボニック社製の同じくポリイミド中空糸を使用したN2メンブランモジュール・窒素ガスフィルタ(Selective 6インチ径)
を用いた場合の実験データ点に基づき、決定されている。同グラフ中、「6インチ径」と示されたポリプラ・エボニック社製フィルタのデータ点も、これ以外のUBE社製フィルタのデータ点も、概ね1つのフィルタリング効果指数曲線上に乘っていることが分かる。このことから、図5(A2)に示されたフィルタリング効果指数と導入酸素濃度との関係(フィルタリング効果指数曲線)は、例えばフィルタの製造元に依らず、ポリイミド中空糸フィルタにおける普遍的且つ本質的な特徴を示していると考えられる。
【0139】
この普遍的且つ本質的なフィルタリング効果指数曲線を用いて、図5(A1)に示した(定格出力が1kWの燃料電池104における)導入酸素濃度が15.7~17.4vol%の場合の出口酸素濃度と出口流量との関係から、(定格出力が10kWの燃料電池104における)導入酸素濃度が10vol%、2vol%及び1vol%の場合の出口酸素濃度と出口流量との関係を導出した。この導出結果を図5(A3)に示す。なお、後者の(定格出力が10kWの燃料電池104の)場合の出口流量は、前者の(定格出力が10kWの燃料電池104の)場合の出口流量の10(=10kW/1kW)倍の値に換算している。これは、燃料電池における単位時間当たりの酸素消費量は、燃料電池の発生させる電力に正確に比例することに基づいた流量換算である。
【0140】
図5(A3)に示した導出結果によれば、出口酸素濃度は、出口流量が小さいほど、また導入酸素濃度が低いほど、低くなる。具体的には以下の通りである。
(a)フィルタ内圧力が約0.7MPaの条件下で、導入酸素濃度を10vol%とし、出口流量を2.4Nm3/時とすれば、出口酸素濃度は62ppm volとなる。また同条件下で、出口流量を10Nm3/時と大きくしても、出口酸素濃度は約1000ppm volと低く、純度が3N(99.9vol%以上)程度の窒素ガスを生成することができる。
(b)フィルタ内圧力が約0.7MPaの条件下で、導入酸素濃度を2vol%とし、出口流量を2.4Nm3/時とすれば、出口酸素濃度は12ppm volとなる。また同条件下で、出口流量を10Nm3/時と大きくしても、出口酸素濃度は約200ppm volと低く、純度が4N(99.99vol%以上)程度の窒素ガスを生成することができる。
(c)フィルタ内圧力が約0.7MPaの条件下で、導入酸素濃度を1vol%とし、出口流量を2.4Nm3/時とすれば、出口酸素濃度は7ppm volにまで低減し、純度が5N(99.999vol%以上)の窒素ガスを生成することも可能となる。
【0141】
なお以上の結果から、提供する高純度窒素ガスに要求されるスペック次第では、触媒燃焼U108(図1)は、省略可能であることが理解される。例えば、燃料電池104から排出される窒素増大ガスの酸素濃度が上記(a)の10vol%であっても、窒素フィルタリングU109だけで、すなわち触媒燃焼U108(図1)を用いすに、3N程度の高純度窒素ガスを生成することができる。また、後に図9を用いて説明するように、燃料電池104から排出される窒素増大ガスの酸素濃度を上記(b)の2vol%以内や上記(c)の1vol%以内に抑えこめば、窒素フィルタリングU109だけで、すなわち触媒燃焼U108(図1)を用いすに、4N~5N程度の高純度窒素ガスを生成することも可能となる。
【0142】
次に図5(B)を用いて、窒素ガスフィルタ109Fの配置の好適な一実施形態を説明する。図5(B)に示したように本実施形態では、3つの窒素ガスフィルタ109F1、109F2及び109F3が、導入される窒素増大ガスの流れに対し並列に配置され、窒素フィルタリング処理を行う。具体的に、窒素触媒U108(図1)から排出される窒素増大ガスは、3つの流れに分けられてそれぞれ、窒素ガスフィルタ109F1、109F2及び109F3のフィルタ入口部から中空糸繊維部に導入される。次いで、各中空糸繊維部から各フィルタ出口部を介して送出されたガスは、まとめられて高純度窒素ガスとなる。一方、各フィルタパージ部から出てきたガスもまとめられ、フィルタ排出ガスとして排出される。
【0143】
これにより、より多くの量(流量)の窒素増大ガスに対し窒素フィルタリング処理を施すことができる。またその結果、より大型・大出力の燃料電池104を採用して、より多くの量(流量)の高純度窒素ガスを、生成・提供することも可能となる。なお勿論、並列に配置する窒素ガスフィルタ109Fの数は3つに限定されず、2つ又は4つ以上の窒素ガスフィルタ109Fを並列配置して使用してもよい。
【0144】
[高圧水電気分解U125を含む実施形態]
図6は、本発明による窒素ガス生成装置、システム及びコンテナにおける更なる他の実施形態を示す模式図である。
【0145】
図6に示した本実施形態の窒素ガス生成装置(システム)11’は、図1に示した窒素ガス生成装置(システム)11において、ボンベ・増圧U123(図1)の代わりに、高圧水電気分解U125及び圧力調整ユニットPCfを採用している。この高圧水電気分解U125は、限定された空間(電解セル)において、供給された水若しくは水蒸気、又は水若しくは水蒸気を含む電解対象、を電気分解し、設定された圧力閾値以上の圧力を有する高圧水素ガスを生成する高圧水素生成手段である。
【0146】
具体的に、本実施形態の高圧水電気分解U125は、固体高分子膜等のイオン交換膜125Ecをその両面側から触媒及び電極(陰極125Ea及び陽極125Eb)で挟み込んだ構造の電解セルが、複数スタック(積層)した構成を有する高圧水電気分解器125Eを含む。なお勿論、高圧水電気分解器125Eとして、高圧水素ガスを生成可能であるならば他の種々の構成・方式のものが採用可能である。例えば水電解方式として、AEM(Anion Exchange Membrane)を用いた水電解方式や、PEM(Proton Exchange Membrane)を用いた水電解方式を採用してもよい。
【0147】
ここで本実施形態において、上記の圧力閾値は、高圧ガス供給U101が生成する高圧空気について設定される、すでに説明した圧力閾値と同値に設定されることも好ましい。また高圧水電気分解U125が、例えば数百気圧の高圧水素ガスを生成する場合、生成された高圧水素ガスを、後段のバッファタンク及び圧力調整弁を備えた圧力調整ユニットPCfにおいて、高圧空気と概ね同じ圧力(例えば0.3~1MPa)にまで減圧してもよい。いずれにしても、高圧水電気分解U125は、生成した水素ガスが最終的に高圧空気と概ね同一の高い圧力で燃料電池104へ導入可能なように、十分に高い圧力の高圧水素ガスを生成する。
【0148】
また、高圧水電気分解器125Eは、電気分解効率(水素発生効率)を向上させるべく、高温の水又は水蒸気を生成し、これを電気分解して高圧水素ガスを生成してもよい。この場合、高圧水電気分解器125Eは、燃料電池U103から熱交換器や熱伝導システムといったような熱伝達手段で移送された熱エネルギーを受け取り、少なくともこの熱エネルギーを用いて高温の水又は水蒸気を生成したり、電解セル内の温度を上げて水素ガスの高圧化を進めたりすることも好ましい。
【0149】
さらに高圧水電気分解器125Eは、燃料電池104で生成された電力を受け取り、この電力によって、又はこの電力と外部から引き込んだ商用電力とによって、水電気分解処理を実施することも好ましい。またこのような電力による電熱加熱を行い、高温の水又は水蒸気を生成することも好ましい。さらに、燃料電池U103のドレインDa及びDbや、ドライフィルタリングU107のドライフィルタ107Fから取り出される水(純水)を受け取り、この水も電解対象としてもよい。このように、高圧水電気分解器125Eが、装置(システム)11’内の燃料電池104等の構成要素から、熱エネルギー、電力や水を受け取り利用することによって、電気分解処理のために装置(システム)11’の外部から供給すべき熱エネルギー、電力や水の量を、大幅に低減する若しくはゼロにすることも可能となる。
【0150】
また本実施形態において、高圧水電気分解器125Eで生成された高圧水素ガスの一部は、例えば水素混合器Maの後段から取り出されて触媒燃焼U108へ送られることも好ましい。触媒燃焼U108は、受け取ったこの高圧水素ガスを、触媒燃焼の燃料気体として利用する。これにより触媒燃焼U108は、例えば装置(システム)1の外部から燃料気体を導入せずに触媒燃焼処理を実施することも可能となる。このように、高圧水電気分解U125と、高圧対応の燃料電池104及び触媒燃焼U108との組合せは、後者で必要となる高圧水素ガスを前者が一度に且つ一挙に賄うという意味で、非常に好適な組合せとなっている。
【0151】
ちなみに、高圧水電気分解器125Eにおいて、高圧水素ガスとともに生成された酸素ガスは、例えば酸素タンクに貯蔵して又は所定の配管を介して外部に提供されることも好ましい。
【0152】
以上説明したように、高圧水電気分解U125と、高圧対応の燃料電池104と、さらには水交換除湿U105と、(ドライフィルタリングU107と、)触媒燃焼U108と、窒素フィルタリングU109とは、一連の高圧系を形成可能な意味で、非常に好適な組合せとなっている。またこのような一連の高圧系を形成することによって、水電気分解処理、燃料電池反応処理、除湿処理、及び酸素濃度低減処理を、圧力についてシームレスな状態の下、より高い効率をもって且つより簡便に実施することができる。またその結果、高純度窒素ガスを、より高い効率及び簡便性をもって生成することが可能となる。
【0153】
同じく図6に示したように、本実施形態の窒素ガス生成装置(システム)11’は、自然エネルギー発電U127を備えている。自然エネルギー発電U127は、太陽電池を備えていて太陽光を電力に変換する太陽電池発電ユニットであってもよく、風力によってブレード(羽)付きのロータを回転させて発電機を駆動させ電力を生成する風力発電ユニットとすることもでき、また、水流(水力)によってタービン(水車)を回転させて発電機を駆動させ電力を生成するマイクロ水力発電ユニットであってもよい。
【0154】
また、太陽光の光エネルギーや、風・水流の運動エネルギーを最終的に電気エネルギーに変換するものであれば、その他様々な発電ユニットを自然エネルギー発電ユニット127として採用することが可能である。さらに、自然エネルギー発電ユニット127は、以上に述べたような発電ユニットのうちの2つ以上を組み合わせたものであってもよい。
【0155】
また、本実施形態の自然エネルギー発電ユニット127は、例えばリチウム(Li)電池や、鉛(Pb)蓄電池等の二次電池である蓄電池127Bを備えており、自ら生成した電力を、(交流電力の場合はコンバータで直流電力に変換した上で)蓄電池127Bに保存する。
【0156】
さらに、本実施形態の自然エネルギー発電ユニット127は、自らの発電量を計測する発電量計や蓄電池127Bの蓄電量を計測する蓄電量計を備えていて、各時点での発電量や蓄電量を測定可能となっている。全体制御U131は本実施形態において、測定された発電量や蓄電量を確認した上で、電気分解のための電力が必要となった高圧水電気分解U125や、高圧空気生成のための電力が必要となった高圧ガス供給U101に対し、必要な電力を、蓄電池127Bから供給する。ここで勿論、(不足分を補う形で)商用電力も合わせて供給してもよい。
【0157】
いずれにしても、以上説明した自然エネルギー発電ユニット127と、高圧水電気分解U125と、燃料電池U103と、触媒燃焼U108との組合せは、二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガスを極力排出せずに、高純度窒素ガスの生成に必要となる水素ガスを生成して燃焼させるものとなっている。すなわち、来るカーボンニュートラル社会や、カーボンゼロ社会、さらには水素社会にもマッチした好適な構成となっているのである。
【0158】
また、本実施形態の窒素ガス生成装置11’は、コンテナの内部に収納されて、このコンテナとともに、本発明による窒素ガス生成コンテナの一実施形態である窒素ガス生成コンテナ1’を構成している。この窒素ガス生成コンテナ1’は、窒素ガス生成コンテナ1(図1)と同様、可搬であって、例えば需要家の元へ搬送されて、純度の高い窒素ガスを、その場で生成しつつ供給することも可能にする。例えば、窒素ガス生成コンテナ1’を、窒素ガスを必要とする工場(の側又は内部)まで、例えばトラックで運搬し、そこで窒素ガス取出口153と、工場側の窒素ガス取入口とを接続して、生成した純度の高い窒素ガスを直ちに工場側に提供することもできる。このように窒素ガス生成コンテナ1’によれば、より高い効率で生成した純度の高い窒素ガスを、より高い簡便性をもって供給することも可能となる。
【0159】
ただし、本実施形態の窒素ガス生成コンテナ1’は、窒素ガス生成コンテナ1(図1)とは異なり、自らの内部で高圧水素ガスを生成するので、水素ガス取入口152を有していない。代わりに、高圧水電気分解U125に水(純水)を供給するための水取入口が、、外部に露出する形でコンテナ外面(例えば外側面)に設けられていることも好ましい。
【0160】
このように窒素ガス生成コンテナ1’は、例えば需要家の工場(の側又は内部)に設置すれば、後は例えば工場側から水(純水)を受け取るだけで、高純度窒素ガスを工場に供給することも可能となる。ここで、自然エネルギー発電U127が太陽電池パネルを備えている場合、この太陽電池パネルも、外部に露出する形でコンテナ外面(例えば外側面)に設けられていてもよい。また、自然エネルギー発電ユニット127は、窒素ガス生成コンテナ1’から取り出して外部に設置可能となっていてもよい。
【0161】
いずれにしても、本実施形態の窒素ガス生成コンテナ1’は、窒素ガス生成コンテナ1(図1)と同様、純度の高い窒素ガス、電力及び熱エネルギーを、直ちに且つ同時に需要家へ供給することを可能にする、高効率且つ高簡便性のトライジェネレーション(Tri-Generation)装置となっている。また自ら高圧水素ガスを生成することから、可搬の水素ステーションと捉えることも可能である。さらに、窒素ガス取出口153、電力用コネクタ154、及び熱量取出口155や、上述した水取入口、さらには窒素ガス生成コンテナ1’の容器としてのコンテナは、窒素ガス生成コンテナ1(図1)と同様、規格化された仕様を有することも好ましい。この場合、窒素ガス生成コンテナ1’は、すでに説明したように、高い汎用性及び簡便性を備えたものとなる。
【0162】
[増圧U206を含む実施形態]
図7は、本発明による窒素ガス生成装置、システム及びコンテナにおける更なる他の実施形態を示す模式図である。
【0163】
図7に示した本実施形態の窒素ガス生成装置(システム)21は、非高圧対応の燃料電池204を用いた‘低圧’型の窒素ガス生成装置(システム)である。具体的に窒素ガス生成装置(システム)21は、図1に示した‘高圧’型の窒素ガス生成装置(システム)11において、高圧ガス供給U101の代わりに空気タンク201を設け、ボンベ・増圧U123の代わりに水素タンク223を設け、さらに圧力制御器PCaの代わりに増圧U206を設けた構成となっている。
【0164】
なお、図7に示した窒素ガス生成装置(システム)21における、付された符号が「2**」(*は数字)である構成要素は、窒素ガス生成装置(システム)11(図1)における、付された符号「1**」の下二桁が一致する同名の構成要素と同じ構成・機能を有するものとなっている。ただし、上述した空気タンク201、水素タンク223及び増圧U206は、この例外である。
【0165】
本実施形態の窒素ガス生成装置(システム)21は、例えば外気から空気取入口251を介し空気を取り入れて、空気タンク201に一時的に貯め、また、外部(例えば水素ステーション)から水素ガス取入口を介し水素ガスを取り入れて、水素タンク223に一時的に貯める。次いで、大気圧(約0.1MPa)より若干高い圧力(又は大気圧から0.3MPaまでの圧力)を有する空気を、水交換除湿U205で加湿した後、燃料電池204に導入し、またこの空気と同じ圧力を有する水素ガスも燃料電池204に導入する。次いで窒素ガス生成装置(システム)21は、燃料電池204から排出された窒素増大ガスを、水交換除湿U205で除湿する。また、ここで除湿された窒素増大ガスを、増圧U206に導入する。
【0166】
同じく図7において、増圧U206は、取り入れた窒素増大ガスの圧力を、後段の触媒燃焼U208において要求若しくは決定される下限圧力、及びさらにその後段の窒素フィルタリングU209において要求若しくは決定される下限圧力、に基づき設定される圧力閾値以上の圧力(例えば0.3~1MPa)にまで高める増圧手段である。図1に示した窒素ガス生成装置(システム)11では、高圧対応の燃料電池104に導入される空気が、すでにこの圧力閾値以上の圧力(例えば0.3~1MPa)を有していた。しかしながら、本実施形態の窒素ガス生成装置(システム)21は、非高圧対応の燃料電池204を採用しており、後段の触媒燃焼処理や窒素フィルタリング処理を好適に実施するため、増圧U206を必要とする。
【0167】
ちなみに水交換除湿U205は、大気圧よりも若干高い圧力のガスに対しても、ガス間の相対湿度差に応じた高湿度側から低湿度側への水分・水蒸気分の移動によって、相当の除湿・加湿処理を施すことができることが、実験により確認されている。
【0168】
本実施形態の増圧U206は、流量調整バルブVLと、内蔵タンク付圧縮ポンプ206Pと、バッファタンクTBとを備えている。内蔵タンク付圧縮ポンプ206Pは、増圧U206に導入された窒素増大ガスの圧力を高め、上記の圧力閾値以上の圧力(例えば0.3~1MPa)となった高圧の窒素増大ガスを、後段のユニットへ送出する。なおこの内蔵タンク付圧縮ポンプ206Pは、燃料電池104で生成された電力を受け取り、この電力によって、又はこの電力と外部から引き込んだ商用電力とによって稼働するものであることも好ましい。
【0169】
ここで、燃料電池204から排出され所定の流量で増圧U206に導入される窒素増大ガスは、滞留させることなく所定の流量で高圧ガスとして、後段のユニットへ送出する必要がある。このため例えば、内蔵タンク付圧縮ポンプ206Pの稼働・停止を、窒素増大ガスの導入流量に基づき、例えばPLC(Programmable Logic Controller)によって制御してもよい。しかしながら本実施形態の増圧U206は、このような負担の大きい制御を行わず、内蔵タンク付圧縮ポンプ206Pを連続運転させながら、高圧の窒素増大ガスを、所定の流量で後段のユニットへ送出することができる。
【0170】
具体的に、本実施形態の増圧U206は、内蔵タンク付圧縮ポンプ206Pを、燃料電池204から排出される窒素増大ガスの流量に概ね適合した回転数で連続運転させる。その上で、流量調整バルブVLによって、内蔵タンク付圧縮ポンプ206Pに流入する窒素増大ガスの流量を微調整しつつ、ポンプ206Pの内蔵タンク内に、上記の圧力閾値以上の圧力(例えば0.3~1MPa)を有する高圧の窒素増大ガスを一時的に貯める。最後に増圧U206は、この貯められた窒素増大ガスを、例えばバッファタンクTBを介し所定の圧力及び流量で、後段のユニットへ送出する。
【0171】
このように、本実施形態の増圧U206は、負担の大きい制御を行うことなく非常に簡単な手段を用いて、高圧の窒素増大ガスを安定的に送出することができる。1つの具体例として、増圧U206が、出力6.8kWの燃料電池204から、流量が200ノルマルリットル(NL)/分の窒素増大ガスを受け入れる場合を考える。この場合、増圧U206は、この流量に適合した定常回転数を有する内蔵タンク付圧縮ポンプ206Pを採用することによって、このポンプ206Pの内蔵タンク内に、窒素増大ガスを、例えば非常に高い圧力である1.5MPaをもって貯めることもできる。またこれにより、圧力が1.5MPaであって流量が200NL/分の窒素増大ガスを、後段のユニット(例えば、触媒燃焼U208や窒素フィルタリングU209)へ送出することが可能となる。ちなみに、ポリプラ・エボニック社製の窒素ガスフィルタは、1.1MPaを超える導入圧力の条件下でも使用することができ、本具体例の窒素ガスフィルタ209Fとして採用可能となっている。また本具体例の場合、バッファタンクTBは省略することも可能である。
【0172】
また、窒素ガス生成装置(システム)21においても、水交換除湿U205で十分な除湿処理が実施されるならば、ドライフィルタリングU207は省略可能である。さらに本実施形態において、触媒燃焼U208に供給される高圧水素ガスは、増圧ユニット228によって生成される。ただし当然ではあるが、触媒燃焼U208を用いず、窒素フィルタリングU209のみで窒素増大ガスに対する酸素低減・除去処理を実施する場合、この増圧ユニット228も不要となる。
【0173】
さらに、本実施形態の窒素ガス生成装置21は、コンテナの内部に収納されて、このコンテナとともに、本発明による窒素ガス生成コンテナの一実施形態である窒素ガス生成コンテナ2を構成している。この窒素ガス生成コンテナ2も可搬であって、窒素ガス生成コンテナ1(図1)と同様の取り扱いが可能であり、同様の機能を発揮し、同様のメリットを提供する。すなわち窒素ガス生成コンテナ2も、高効率且つ高簡便性のトライジェネレーション(Tri-Generation)装置となっている。
【0174】
[窒素ガス生成装置・システムの更なる他の実施形態]
図8は、本発明による窒素ガス生成装置、システム及びコンテナにおける更なる他の実施形態を示す模式図である。
【0175】
図8に示した本実施形態の窒素ガス生成装置(システム)31は、酸素低減・除去処理を、高圧対応の燃料電池304のみで実施する装置(システム)である。具体的に窒素ガス生成装置(システム)31は、窒素ガス生成装置(システム)11(図1)において、ドライフィルタリングU107から窒素フィルタリングU109までの構成要素を省略したものとなっている。ただし変更態様として、水交換除湿U305の後段に、ドライフィルタリングU307が設けられていてもよい。
【0176】
なお、図8に示した窒素ガス生成装置(システム)31における、付された符号が「3**」(*は数字)である構成要素は、窒素ガス生成装置(システム)11(図1)における、付された符号「1**」の下二桁が一致する同名の構成要素と同じ構成・機能を有するものとなっている。
【0177】
ここで本実施形態の燃料電池304は、導入される空気中の酸素(O2)を概ね除去し、高純度の窒素ガスを排出するべく、
(α)取り入れた空気(又は窒素酸素混合気体)に含まれる「酸素(O2)」を全て水(H2O)に変えることを可能にする流量以上の流量の水素(H2)ガス(又は他の燃料気体)を取り入れ、
(β)上記の「酸素(O2)」を全て水(H2O)に変えた場合に流れる量の電流が電極間に流れることを可能にする
燃料電池となっている。これにより燃料電池304は、高純度の窒素ガスである窒素増大ガスを排出することができる。
【0178】
ここで燃料電池304は、上記(α)を実施することにより、上記の「酸素(O2)」を全て消費するのに十分な量の水素ガスを、燃料ガス室に用意することができる。例えば、燃料電池304が十分に大きい流量の水素ガスを取り入れ、水素過多の状況で燃料電池反応を起こすならば、上記(α)を実施することになる。
【0179】
この点、従来の燃料電池自動車やコジェネレーションシステムに搭載された燃料電池系はむしろ、無尽蔵にある空気を十分に取り込み、取り入れた燃料である水素ガスを、できる限り多く燃焼させて大電力を得る設計となっている。これに対し、燃料電池304を含む窒素ガス生成装置(システム)31は、それとは全く逆に、取り入れた空気に含まれる「酸素(O2)」をできる限り多く消費させ、酸素濃度の十分に低い排ガス(窒素増大ガス,高純度窒素ガス)を得る設計となっている。
【0180】
また上記(β)に関し、一般に燃料電池は、規格出力が大きいほど、セルのサイズ(電解質膜の面積)が大きいほど、また導入される空気のセル内圧力が高いほど、より多くの「酸素(O2)」を消費することができ、言い換えると、より多くの電流を電極間に流すことができる。そこで本実施形態の燃料電池304は、上記(β)が実施可能なように、大きな規格出力を有する大型の且つ高圧対応の燃料電池となっている。
【0181】
ここで勿論、非高圧対応の燃料電池であっても、上記(β)の電流を流すことができるだけの大きな規格出力を有する大型の燃料電池であれば、本実施形態の燃料電池304として採用可能である。いずれにしても、燃料電池304における具体的な規格出力や電池サイズの数値は、提供する窒素ガスに対し要求されるスペック(純度や流量等)にも依存するものとなっている。
【0182】
なお、上記(α)に係る水素ガスや空気の流量、及び上記(β)に係る電流量(発電量)の制御は、全体制御U331が、高圧ガス供給U301やフロー制御器FCb、さらには燃料電池U303の電力制御回路に対し相当の指示を送信することによって実施される。
【0183】
図9は、本発明に係る燃料電池による酸素低減・除去処理の一実施例を説明するためのグラフである。
【0184】
本実施例では、規格出力が1kWの燃料電池304を用いて、空気の導入流量を、100.0L/分から段階的に小さくして、各空気導入流量の場合における、排出される窒素増大ガス(排ガス)の酸素濃度を測定した。ここで燃料電池304においては、電流値を90アンペア(A)と一定に保ち、電力を900Wと一定にし、水素ガスの導入流量を20L/分と一定にして、燃料電池反応を継続させた。また空気及び水素ガスのセル内圧力(燃料電池内圧力)は0.1MPaであった。なお、このように電流値(電力)及び水素ガスの導入流量を一定にしているので、燃料電池304による酸素(O2)の消費量も一定値となっている。
【0185】
図9のグラフに示したように、空気の導入流量が100.0L/分の場合、窒素増大ガス(排ガス)の酸素濃度の実測値は、16.8vol%となった。これは、導入された水素ガスの流量(20L/分)では、導入された空気の酸素(O2)を全て消費することができず、窒素増大ガス(排ガス)中に多くの酸素(O2)が残留していることを示す。ここで、空気の導入流量が100.0L/分の場合における排ガス中の残留酸素濃度を、流した電流値(90A)から理論的に計算したところ、残留酸素濃度(理論計算値)は、16.2%となり、上記の実測値(16.8vol%)と概ね一致した。
【0186】
次いで、空気の導入流量が100.0L/分から減少していくと、それに伴い窒素増大ガス(排ガス)の酸素濃度も減少し、空気の導入流量が20.0L/分の場合において、窒素増大ガス(排ガス)の酸素濃度の実測値は、0.0vol%(測定限界(10ppm vol)以下)であった。ここで本実施例では上述したように、燃料電池304による酸素(O2)の消費量は一定値となる。そこでこの条件の下、含まれる酸素(O2)が全て消費されることになる空気の導入流量を、流した電流値(90A)から理論的に計算したところ、この導入流量(理論計算値)は、22.5L/分となった。
【0187】
したがって、この理論計算値(22.5L/分)よりもさらに2.5L/分だけ空気導入流量の少ない場合に、すなわち上述した空気導入流量が20.0L/分の場合に、窒素増大ガスの酸素濃度が0.0vol%になるとの上記の実験結果は、まさに理論通りの結果であることが理解される。さらに、図9のグラフに示したように、空気導入流量が20.0~100.0L/分の場合における窒素増大ガス(排ガス)の酸素濃度の実測値も、理論計算値と優れて一致している。ちなみに、空気導入流量が40.0L/分以上の場合における両者の(0.1vol%台の)誤差は、酸素濃度計による酸素濃度の測定誤差に概ね起因するものと考えられる。
【0188】
また以上述べたことから、図9のグラフに示した、空気の導入流量が20.0L/分の場合、さらに言えば(理論計算値である)22.5L/分の場合、すなわち窒素増大ガス(排ガス)の酸素濃度が0.0vol%となる場合には、燃料電池304において、
(α)取り入れた空気に含まれる酸素(O2)を全て水(H2O)に変えることを可能にする流量以上の流量の水素ガスが取り込まれ、且つ
(β)取り入れた空気に含まれる酸素(O2)を全て水(H2O)に変えた場合に流れる量の電流が電極間に流れている
ことが理解される。
【0189】
以上、本実施例の燃料電池304によれば、上記(α)及び(β)の状態を具現させることによって、相当に純度の高い、本実施例では5N相当の高純度窒素ガスを、燃焼触媒や窒素ガスフィルタを用いずに、生成可能となることが分かる。
【0190】
ちなみに、上述した高圧対応の燃料電池104(図1図6)や、非高圧対応の燃料電池204(図7)も、上記(α)及び(β)の状態を具現させることができる燃料電池としてもよい。これにより、非常に純度の高い窒素ガスを生成することも可能となる。また、燃料電池反応の状態が、上記(β)の電流が設定通りに流れる正常状態であるか否かの判定は、燃料電池104の電極間における複素インピーダンスの測定値を用いて実施することができる。例えば、全体制御U(131,231,331)が、複素インピーダンスの測定、及び燃料電池反応の状態が正常であるか否かの判定を実施し、その判定結果(保守点検結果)を、例えば無線通信等の通信ネットワークを介し、外部の管理者へ通知してもよい。
【0191】
図8に戻って、さらに、本実施形態の窒素ガス生成装置31は、コンテナの内部に収納されて、このコンテナとともに、本発明による窒素ガス生成コンテナの一実施形態である窒素ガス生成コンテナ3を構成している。この窒素ガス生成コンテナ3も可搬であって、窒素ガス生成コンテナ1(図1)と同様の取り扱いが可能であり、同様の機能を発揮し、同様のメリットを提供する。すなわち窒素ガス生成コンテナ3も、高効率且つ高簡便性のトライジェネレーション(Tri-Generation)装置となっている。
【0192】
[窒素ガス生成機能付燃料電池車]
図10は、本発明による窒素ガス生成機能付燃料電池車の一実施形態を示す模式図である。
【0193】
図10に示した本実施形態の窒素ガス生成機能付燃料電池車8は、空気と燃料気体(本実施形態では水素ガス)とを取り入れて燃料電池804を稼働させ、燃料電池804から出力される電力によって走行を行う燃料電池自動車である。ここで空気は大気中から空気取入口851を介し取り込まれ、高圧ガス供給U801で高圧空気にされて使用される。さらに水素ガスは、例えば水素ステーションにおいて水素ガス取入口852から高圧の状態で取り込まれ、高圧水素タンク823に貯蔵されて使用される。
【0194】
また、本実施形態の窒素ガス生成機能付燃料電池車8は、取り入れた空気を、燃料電池804によって高純度窒素ガスに変換し、この高純度窒素ガスを、一時的に窒素ガスタンクTNに貯めた上で、窒素ガス取出口853から需要家に供給することができる。すなわち、自在に移動可能な窒素ガス生成装置にもなっている。さらに言えば、窒素ガス生成機能付燃料電池車8は本実施形態において、上述した窒素ガス生成装置11、21及び31と同様、需要家に対し、電力用コネクタ854から電力を供給し、また熱量取出口855から熱エネルギーを供給することができる。すなわち、自在に移動可能な、高効率且つ高簡便性のトライジェネレーション(Tri-Generation)装置となっている。
【0195】
いわば、本実施形態の窒素ガス生成機能付燃料電池車8は、公知の燃料電池自動車と、窒素ガス生成装置31(図8)とを、燃料電池を共有にして融合させた、高効率且つ高簡便性の多機能装置となっているのである。
【0196】
ちなみに、図10に示した窒素ガス生成機能付燃料電池車8における、付された符号が「8**」(*は数字)である構成要素は、窒素ガス生成装置(システム)11(図1)における、付された符号「1**」の下二桁が一致する同名の構成要素と同じ構成・機能を有するものとなっている。ただし、燃料電池804(燃料電池U803)は、燃料電池自動車に使用可能な仕様のものであって、また、燃料電池自動車用として特有の構造・機能を有していてもよい。さらに、上述した水素タンク223や、この後説明する燃料電池制御U802、インバータ86、走行用モータ87、及び変速機88は、上記の例外である。
【0197】
なお、この窒素ガス生成機能付燃料電池車8においても、水交換除湿U805の後段に、ドライフィルタリングU807や、触媒燃焼U808、さらには窒素フィルタリングU109が設けられていてもよい。
【0198】
本実施形態の窒素ガス生成機能付燃料電池車8は、自動車機能と、窒素ガス生成機能とを両立させるべく、燃料電池制御U802を備えている。燃料電池制御U802は、例えばガスレギュレータ及びマスフローコントローラ(又はフロースイッチ)や、電流量(発電量)制御回路を備えていて、取り入れた空気及び水素ガスの燃料電池804への「流入量」と、燃料電池804の電極間に流れる「電流量」とを制御する。
【0199】
具体的に、本実施形態の燃料電池制御U802は、
(a)走行の際の「流入量」及び「電流量」を具現するための走行用制御モードと、
(b)高純度窒素ガスを生成する際の「流入量」及び「電流量」を具現するための窒素ガス生成用制御モードと
のいずれをも実施可能となっている。
【0200】
このうち、走行用制御モードは、公知の燃料電池自動車において実施されている「流入量」及び「電流量」を具現する制御モードであってよい。具体的には、上述したように、無尽蔵にある空気を十分に取り込んで空気の流入量をより大きくし、取り入れた燃料である水素ガスをできる限り多く燃焼させて、走行用モータ87へ出力すべき大電力を生成し、また、このような大電力を生成できるように燃料電池804の電極間の電流量(発電量)を制御する制御モードとすることができる。
【0201】
一方、窒素ガス生成用制御モードは、燃料電池804に流入する空気中の酸素(O2)を概ね除去し、高純度窒素ガスを生成すべく、
(α)流入してくる空気に含まれる「酸素(O2)」を全て水(H2O)に変えることを可能にする下限流量以上の水素ガスの流入量、又は、この「酸素(O2)」を全て水に変えることを可能にする上限流量以下の空気の流入量を具現し、
(β)この「酸素(O2)」を全て水に変えた場合に流れる量の電流が電極間に流れることが可能な状態を具現する
制御モードとすることができる。
【0202】
このように上記(α)及び(β)を具現する窒素ガス生成用制御モードは、燃料電池804を、上述した燃料電池304(図8)と同様に稼働させ、燃料電池804が、図9を用いて説明したように例えば3N相当の高純度窒素ガスを排出できるようにする制御モードである。なお実際に、燃料電池自動車用としても機能する燃料電池804は、例えば定格出力が100kW台のPEFCであり、図9に示した実施例の燃料電池304よりも格段に大きな出力を有する、より大型の燃料電池となっている。したがってこの場合、例えば4N以上の高純度窒素ガスを生成するように制御することも可能である。
【0203】
いずれにしても、燃料電池制御U802は、例えばユーザ(運転者)のモード選択指示を、例えばインパネ(ダッシュボード)に設けられたタッチパネルディスプレイや物理スイッチを介して受け取り、その指示内容に合わせた制御モード(走行用制御モード,窒素ガス生成用制御モード)を実施することも好ましい。
【0204】
これにより例えば、窒素ガス生成機能付燃料電池車8は、水素ステーションにおいて圧縮水素(高圧水素ガス)を充填した後、需要家の工場(の側又は内部)に、例えば公道を走行して赴き、そこで窒素ガス取出口853と、工場側の窒素ガス取入口とを接続して、生成した高純度窒素ガスを直ちに工場側に提供することもできる。また勿論、電力用コネクタ854や熱量取出口855から、工場側に電力や熱エネルギーを供給することも可能となる。すなわち、本実施形態の窒素ガス生成機能付燃料電池車8は、高純度窒素ガス供給車や移動コジェネレーション装置としても機能する。
【0205】
また、窒素ガス取出口853、電力用コネクタ854や、熱量取出口855、さらに水素ガス取入口852は、窒素ガス生成コンテナ1(図1)と同様、規格化された仕様を有することも好ましい。この場合、窒素ガス生成機能付燃料電池車8は、すでに説明したように、高い汎用性及び簡便性を備えたものとなる。ちなみに水素ガス取入口852は、水素ガスステーションの水素取出口における普及した規格に合わせた規格のものとすることも好ましい。
【0206】
同じく図10において、インバータ86は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等の大電流対応高速スイッチング素子を用いて、燃料電池804で生成された直流電力を交流電力に変換する。また走行用モータ87は、窒素ガス生成機能付燃料電池車8の駆動源であり、具体的には例えば三相交流同期モータである。インバータ86から交流電力を受け取った走行用モータ87は、自らの出力軸を回転させる。さらに変速機88は、例えば自動変速機であって、走行用モータ87の出力軸の回転を受けて自らの出力軸を設定された回転速度で回転させる。この変速機88の出力軸の回転は、ディファレンシャルギヤを介して駆動輪の駆動軸に伝達され、その結果、駆動輪(タイヤ)が回転し、窒素ガス生成機能付燃料電池車8が走行する。
【0207】
[燃料電池Uの他の実施形態]
図11は、本発明に係る燃料電池Uにおける他の実施形態を説明するための模式図である。
【0208】
図11に示した本実施形態の燃料電池U103’は、燃料電池104と、制御部103Ca、103Cb及び103Ccとを有している。このうち燃料電池104は、電解質膜を間に挟んだ水素極及び空気極を含む構成単位であるセルを複数備えている。これらのセルは積層されていて、燃料供給上手のセルから下手のセルまで順次、水素(燃料気体)及び空気(窒素及び酸素を含む気体)がそれぞれ、セル内の水素極及び空気極を通るように設計されている。
【0209】
またこれら複数のセルの全体は、複数の機能セル部、図11では発電優先セル部104a、中間セル部104b、及び酸素除去セル部104cに分けられている。これらの機能セル部(104a,104b,104c)の各々は、1つの又は連続する複数の(図11では2つ又は3つの、実際には例えば数~数百個の)セルを含んでおり、また、他の機能セル部と電気的に直列に接続されてはおらず、各々個別に設けられた発電量の制御部(103Ca,103Cb,103Cc)に電気的に接続されている。
【0210】
ここで図11に示したように、制御部103Ca、103Cb及び103Ccはそれぞれ、発電優先セル部104a、中間セル部104b、及び酸素除去セル部104cにおける水素極・空気極間に発生した起電力を受け、担当する機能セル部に合わせた電力(電流)を出力する。またこの際、担当する機能セル部の複素インピーダンスを計測し、この機能セル部に合わせた制御・管理を行うことも好ましい。
【0211】
このような本実施形態の燃料電池104に対し、従来の、特にPEFC型の燃料電池は、1つのセルにおける起電力が通常1ボルト(V)未満であるので、実際の電力源として要求される電力を確保するため、一連の数百段のセルが電気的に直列に接続された構成となっている。ここで、酸素供給量が少ない後段下手のセルにおいては当然、可能となる発電量も小さくなるが、このようなセルを含めて直列に接続されたセル全体における(水素供給量に対する)発電効率は、各セルの発電量をある程度揃える必要があることから、相当に損なわれてしまう。
【0212】
これに対し、本実施形態の燃料電池104においては、
(a)酸素供給量の多い(供給された空気中の酸素がまだそれほど消費されていない)発電優先セル部104aと、
(b)酸素供給量に関し中間となる中間セル部104bと、
(c)酸素供給量の少ない(供給された空気中の酸素が相当に消費されている)酸素除去セル部104cと
が、その酸素供給量に適合した発電量(電流量)制御を個別に受けることができる。
【0213】
また、このような発電量(電流量)制御を実施することによって、燃料電池104における酸素低減効率及び(水素供給量に対する)発電効率をともに最大化若しくは向上させることも可能となる。さらに、各制御部(103Ca,103Cb,103Cc)における(電流量を含む)発電量の制御を合わせて実施することによって、最終的に排出される排ガス(窒素増大ガス)の酸素濃度(出口酸素濃度)を所望値に調整することも可能となる。このように、本実施形態の燃料電池U103’は、高純度窒素ガスの生成用として非常に好適な燃料電池系となっている。
【0214】
ちなみに、本実施形態の燃料電池104における機能セル部の数は当然、3つに限定されるものではなく、2つ又は4つ以上とすることもできる。例えば、数百段のセルのうち、下手の150段のセル群と、上手の残りのセル群とをそれぞれ、第1の機能セル部及び第2の機能セル部とすることも可能である。
【0215】
[全体制御手段]
以下、図6に示した窒素ガス生成装置(システム)11’の全体制御U131を説明する。なお以下の説明の内容は、図1の全体制御U131、図7の全体制御U231、図8の全体制御U331や、図10の全体制御U831においても、共通するユニットについて概ね当てはまるものとなっている。
【0216】
図6に示した全体制御ユニット131は、
(a)高圧ガス供給U101における高圧空気生成処理、
(b)高圧水電気分解U125における高圧水素生成処理、
(c)燃料電池U103における高圧排ガス(窒素増大ガス)生成処理、
(d)水交換除湿U105における高圧窒素増大ガスの除湿処理、及び高圧空気の加湿処理
(e)触媒燃焼U108における高圧窒素増大ガスの酸素低減・除去処理、及び
(f)窒素フィルタリングU109における高圧窒素増大ガスの酸素低減・除去処理
の各々を制御して実施させる制御手段である。
【0217】
具体的に、本実施形態の全体制御ユニット131は、上記(a)~(f)の各ユニット、及びそのユニット内に又はその前後に設けられた各種計器・デバイスと、有線又は無線通信ネットワークを介して通信可能となっており、各種計器・デバイスからの計測データに基づいて、上記(a)~(f)の各ユニットや当該各種計器・デバイスに対し制御・調整指示を送信し、上記(a)~(f)の各処理を制御して実施させる。ちなみに、以上の説明において、流量計、ガス圧計、酸素濃度計Oa、温度計や、湿度計を備えていることを特に明示していないユニットにおいても、適宜、このような計器・デバイスが備えられていてもよい。
【0218】
また本実施形態において、全体制御ユニット131は、プロセッサ及びメモリを備えており、このメモリには、上記(a)~(f)の各処理を制御するための処理制御プログラムが搭載されていて、このプロセッサによってこの処理制御プログラムが実行される。また1つの好適な実施形態として、この処理制御プログラムは、各種計器・デバイスからの計測データを説明変数とし、制御・調整指示情報を目的変数とした処理制御用の機械学習モデル、例えば学習済みのDNN(Deep Neural Network)アルゴリズムで構築されたモデルを用いて、制御処理を実行するものであってもよい。
【0219】
また特に、本実施形態の全体制御U131は、燃料電池104と、(ドライフィルタリングU107と、)触媒燃焼U108と、窒素フィルタリングU109とを、圧力(ガス圧)に関し一連の高圧系として取り扱い、上記の処理制御プログラムを用いて、途中の窒素増大ガス(排ガス)の圧力が一貫して例えば0.3~1MPaの間の圧力、さらには例えば0.8~1MPaの間の圧力となるように、高圧ガス供給U101、フロー制御器FCa、圧力制御器PCaや、圧力制御器PCd等に対し圧力・流量の制御・調整指示を送信することも好ましい。
【0220】
さらに本実施形態の全体制御ユニット131は、同じく上記の処理制御プログラムを用いて、途中の窒素増大ガス(排ガス)の温度が各ユニットにおいて設定された好適温度範囲内の温度となるように、温度調整器TCa、温度調整器TCbや、及び温度調整器TCc等に対し温度制御・調整指示を送信してもよい。
【0221】
またさらに、全体制御ユニット131は、燃料電池U103、触媒燃焼U108、及び窒素フィルタリングU109から取り出される高圧の窒素増大ガス(高純度窒素ガス)の酸素濃度を、該当箇所に設置された酸素濃度計でモニタし、最終的に供給される高純度窒素ガスの酸素濃度を、要求スペックから決まる所定上限値未満とするように制御することも好ましい。
【0222】
この場合具体的に、全体制御ユニット131は例えば、同じく上記の処理制御プログラムを用いて、
(a)燃料電池Uが図11に示した燃料電池U103’である場合とはなるが、各機能セル部(104a,104b,104c)に対応した各制御部(103Ca,103Cb,103Cc)に対し、発電量(電流量)を所定値とする旨の発電量制御・調整指示を送信したり、
(b)触媒燃焼U108での触媒燃焼処理による酸素濃度低減分を制御すべく、触媒燃焼U108に対し、固体触媒108Cの加熱処理(加熱温度)を調整する旨の触媒温度制御・調整指示を送信したり、
(c)窒素フィルタリングU109での窒素フィルタリング処理による酸素濃度低減分を制御すべく、フロー制御器FCcに対し、窒素フィルタリングU109の出口流量や出口圧力を所定値とする旨の流量・圧力制御・調整指示を送信したり
して、各ユニットから取り出される窒素増大ガス中の酸素濃度を制御・調整することができる。
【0223】
以上詳細に説明したように、本発明の窒素ガス生成装置、システム及び方法、並びに窒素ガス生成コンテナ及び窒素ガス生成機能付燃料電池車によれば、燃料電池を用いて純度の高い窒素ガスを確実に生成し、この窒素ガスをより高い効率若しくは簡便性をもって供給することができる。
【0224】
また本発明は、あくまでその一実施形態としてではあるが、来る水素ガス社会において安価に且つ容易に入手可能となる水素ガスを利用し、高純度の窒素ガスを効率的に若しくは簡便に生成し提供することができ、同時に、電力や熱エネルギー、さらに場合によっては純水、を提供することも可能となっている。
【0225】
すなわち本発明は、将来の1つの理想形とされる、地産地消型の且つカーボンゼロのエネルギー・生産物需給体制を構築することにも、大いに貢献するものと考えられる。さらに、喫緊の課題であるカーボンニュートラルの実現のために大いに役立つものと考えられる。
【0226】
なお、以上に述べた実施形態は全て、本発明を例示的に示すものであって限定的に示すものではなく、本発明は、他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。従って、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定される。
【符号の説明】
【0227】
1、1’、2、3 窒素ガス生成コンテナ
11、11’、22、31 窒素ガス生成装置・システム
101、301、801 高圧ガス供給ユニット(U)
103、103’、203、303、803 燃料電池U
103Ca、103Cb、103Cc 制御部
104、204、304、804 燃料電池
104C 圧力容器
104E 電解質膜
104G 熱交換部
104H 燃料ガス室
104P 容器内圧力調整器
104Pa 圧力計
104S セルスタック
104X 酸化ガス室
105、205、305、805 水交換除湿U
105Hd 除湿室
105Hh 加湿室
105Hv 水蒸気交換膜
107、207 ドライフィルタリングU
107F、207F ドライフィルタ
108、208 触媒燃焼U
108C、208C 固体触媒
109、209 窒素フィルタリングU
109F、109F1、109F2、109F3、209F 窒素ガスフィルタ
109Fa 中空糸繊維部
109Fb フィルタ入口部
109Fc フィルタ出口部
109Fd フィルタパージ部
123、323 ボンベ・増圧U
125 高圧水電気分解U
125E 高圧水電気分解器
125Ea 陰極
125Eb 陽極
125Ec イオン交換膜
127 自然エネルギー発電U
127B 蓄電池
129、229、329、829 水素回収U
131、231、331、831 全体制御U
151、251、351、851 空気取入口
152、252、352、852 水素ガス取入口
153、253、353、853 窒素ガス取出口
154、254、354、854 電力用コネクタ
155、255、355、855 熱量取出口
201 空気タンク
206、228 増圧U
206P 内蔵タンク付圧縮ポンプ
223 水素タンク
8 窒素ガス生成機能付燃料電池車
823 高圧水素タンク
86 インバータ
87 走行用モータ
88 変速機

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11