(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161365
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】AAVキャプシドの転写依存性定方向進化を使用するための方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/015 20060101AFI20241112BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20241112BHJP
C12N 15/864 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
C07K14/015 ZNA
C12N15/35
C07K14/015
C12N15/864 100Z
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024113548
(22)【出願日】2024-07-16
(62)【分割の表示】P 2021544346の分割
【原出願日】2020-01-31
(31)【優先権主張番号】62/799,603
(32)【優先日】2019-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】503364445
【氏名又は名称】オレゴン・ヘルス・アンド・サイエンス・ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】Oregon Health & Science University
(74)【代理人】
【識別番号】110003797
【氏名又は名称】弁理士法人清原国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 浩之
(72)【発明者】
【氏名】ファン,サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】足立 圭
(57)【要約】 (修正有)
【課題】転写依存性定方向進化(TRADE)を実施する方法、およびその方法を使用して選択された新しいアデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドを提供する。
【解決手段】TRADE技術は、静脈内投与の後に、脳でのニューロンの形質導入を媒介する新しいAAVベクターを同定するために使用された。インビボのTRADEの適用は、新しいAAVキャプシドの投与の後に、脳でニューロンをAAV9より効率的かつより特異的に形質導入することができる、新しいAAVキャプシドの同定という結果をもたらした。開示される方法は、様々な細胞集団を標的にするAAVキャプシドを同定するために使用されてもよい。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸であって、該核酸は、
ITR配列によって隣接されるパルボウイルス科ゲノムであって、該パルボウイルス科ゲノムは、パルボウイルス科イントロン、パルボウイルス科キャップ遺伝子、および第1配向の第1ポリアデニル化シグナルを含む、パルボウイルス科ゲノムと、
アデノウイルスのヘルパー機能の存在下でパルボウイルス科キャップ遺伝子の発現を推進させる前記第1配向の第1プロモーターと、
前記第1配向に対してアンチセンスである第2配向の第2プロモーターおよび第2ポリアデニル化シグナルであって、前記第2ポリアデニル化シグナルは、パルボウイルス科キャップ遺伝子のアンチセンスmRNA転写の終結を引き起こす位置に位置する、第2配向の第2プロモーターおよび第2ポリアデニル化シグナルと、を含む、核酸。
【請求項2】
前記第2プロモーターは、細胞型特異的プロモーターである、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
前記第2プロモーターは、ユビキタスプロモーターである、請求項1に記載の核酸。
【請求項4】
前記パルボウイルス科ゲノムは、AAVイントロンおよびAAVキャップ遺伝子を含むAAVゲノムである、請求項1~3のいずれかに記載の核酸。
【請求項5】
前記AAVキャップ遺伝子は、野生型のAAVキャップ遺伝子である、請求項4に記載の核酸。
【請求項6】
前記AAVキャップ遺伝子の配列は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、または他の天然のAAV単離キャップ遺伝子配列である、請求項5に記載の核酸。
【請求項7】
前記AAVキャップ遺伝子は、組み換えAAVキャップ遺伝子である、請求項4に記載の核酸。
【請求項8】
前記AAVキャップ遺伝子は、多様なAAVキャップ遺伝子のライブラリーの1つである、請求項4に記載の核酸。
【請求項9】
請求項4に記載の複数の核酸を含む核酸ライブラリーであって、前記核酸は、複数の固有のAAVキャップ遺伝子配列を含む、核酸ライブラリー。
【請求項10】
前記核酸ライブラリーは、約102、103、104、105、106、107または108を上回る固有のAAVキャップ遺伝子配列を含む、請求項9に記載の核酸ライブラリー。
【請求項11】
前記第2配向の対象遺伝子をさらに含む、請求項1~8のいずれかに記載の核酸。
【請求項12】
前記第2ポリアデニル化シグナルは、AAVイントロン内に位置する、請求項4~8または11のいずれかに記載の核酸。
【請求項13】
前記第2ポリアデニル化シグナルは、キャップ遺伝子が第1配向の完全長のキャプシドタンパク質に正確に翻訳され、およびキャップ遺伝子が、完全長のAAVキャップ遺伝子コード配列を含むアンチセンスmRNAへと正確に転写されるように、位置する、請求項4~8または11のいずれかに記載の核酸。
【請求項14】
異なるキャップ遺伝子配列を有する少なくとも1つの他のAAVベクターと比較して、対象組織から細胞を形質導入する能力が増大したキャップ遺伝子配列を有するAAVベクターを同定する方法であって、該方法は、
請求項9または10に記載の核酸ライブラリーをAAVパッケージング細胞株へと導入し、およびパッケージング細胞株から第1回AAV TRADEベクターライブラリーを回収させることによって第1回AAV TRADEベクターライブラリーを調製する工程と、
第1回AAV TRADEベクターライブラリーを1つ以上の動物に注入する工程と、
動物の対象組織の細胞内で富化されるAAVベクターのキャップ遺伝子配列を回収する工程と、
前記豊化されたAAVベクターの回収されたキャップ遺伝子配列を含む第2回のAAV TRADE核酸ライブラリーを調製し、このライブラリーをAAVパッケージング細胞株へ導入し、パッケージング細胞株から第2回AAV TRADEベクターライブラリーを回収する工程と、
第2回のAAV TRADEベクターライブラリーを1つ以上の動物に注入し、および動物の対象組織の細胞内で豊化されるキャップ遺伝子配列を回収することによって第2回の富化を実施する工程と、
富化されたAAVキャップ遺伝子配列を、第1回富化後、第2回富化後、およびその後任意の回の富化後に同定する工程と、を含む方法。
【請求項15】
AAV TRADEベクター、またはAAV TRADEベクターライブラリーを産生する方法であって、該方法は、
請求項4~8または11~13のいずれかに記載の核酸、または請求項9または10に記載の核酸ライブラリーを、AAVパッケージング細胞株へと導入する工程と、AAV TRADEベクターまたはAAV TRADEベクターライブラリーをパッケージング細胞株から回収する工程と、を含む方法。
【請求項16】
対象組織の細胞を形質導入する能力が増大したAAVベクターの新しいキャップ遺伝子の配列を決定する方法であって、該方法は、
請求項14に記載の方法でAAVベクターを同定する工程と、
キャップ遺伝子配列を含むアンチセンスmRNAを回収する工程と、
新しいキャップ遺伝子配列を決定する工程と、を含む方法。
【請求項17】
前記アンチセンスmRNAは、RT-PCRを使用して回収される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記キャップ遺伝子配列を決定する工程をさらに含む、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
請求項4~8または11~13のいずれかに記載の核酸を含む、AAVベクター。
【請求項20】
核酸であって、該核酸は、
ITR配列によって隣接されるパルボウイルス科ゲノムであって、該パルボウイルス科ゲノムは、パルボウイルス科イントロン、パルボウイルス科キャップ遺伝子、および第1配向の第1ポリアデニル化シグナルを含む、パルボウイルス科ゲノムと、
アデノウイルスのヘルパー機能の存在下でパルボウイルス科キャップ遺伝子の発現を推進させる前記第1配向の第1プロモーターと、
アデノウイルスのヘルパー機能の不在下でパルボウイルス科キャップ遺伝子の発現を推進させる前記第1配向の第2プロモーターと、を含む核酸。
【請求項21】
前記第2プロモーターは、細胞型特異的プロモーターである、請求項20に記載の核酸。
【請求項22】
前記第2プロモーターは、ユビキタスプロモーターである、請求項20に記載の核酸。
【請求項23】
前記パルボウイルス科キャップ遺伝子は、野生型のAAVキャップ遺伝子である、請求項20~22のいずれかに記載の核酸。
【請求項24】
前記AAVキャップ遺伝子配列は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、または他の天然のAAV単離キャップ遺伝子配列である、請求項23に記載の核酸。
【請求項25】
前記パルボウイルス科キャップ遺伝子は、組み換えAAVキャップ遺伝子である、請求項20~22のいずれかに記載の核酸。
【請求項26】
前記パルボウイルス科キャップ遺伝子は、多様なAAVキャップ遺伝子のライブラリーの1つである、請求項20~25のいずれかに記載の核酸。
【請求項27】
請求項20に記載の複数の核酸を含む核酸ライブラリーであって、前記核酸は、複数の固有のパルボウイルス科キャップ遺伝子配列を含む、核酸ライブラリー。
【請求項28】
前記核酸ライブラリーは、約102、103、104、105、106、107または108を上回る固有のAAVキャップ遺伝子配列を含む、請求項27に記載の核酸ライブラリー。
【請求項29】
対象遺伝子をさらに含む、請求項20~26のいずれかに記載の核酸。
【請求項30】
異なるキャップ遺伝子配列を有する少なくとも1つの他のAAVベクターと比較して、対象組織から細胞を形質導入する能力が増大したキャップ遺伝子配列を有するAAVベクターを同定する方法であって、該方法は、
請求項27または28に記載の核酸ライブラリーをAAVパッケージング細胞株へと導入し、およびパッケージング細胞株から第1回AAV TRADEベクターライブラリーを回収することによって第1回AAV TRADEベクターライブラリーを調製する工程と、
第1回AAV TRADEベクターライブラリーを1つ以上の動物に注入する工程と、
動物に対象組織の細胞内で富化されるAAVベクターのキャップ遺伝子配列を回収する工程と、
前記豊化されたAAVベクターのキャップ遺伝子配列を含む第2回のAAV TRADE核酸ライブラリーを調製し、このライブラリーをAAVパッケージング細胞株へ導入し、パッケージング細胞株から第2回AAV TRADEベクターライブラリーを回収する工程と、
第2回のAAV TRADEベクターライブラリーを1つ以上の動物に注入し、および動物に対象組織の細胞内で豊化されるキャップ遺伝子配列を回収することによって第2回の富化を実施する工程と、
富化されたAAVキャップ遺伝子配列を、第1回富化後、第2回富化後、およびその後任意の回の富化後に同定する工程と、を含む方法。
【請求項31】
AAV TRADEベクター、またはAAV TRADEベクターライブラリーを産生する方法であって、該方法は、
請求項23~26または29のいずれかに記載の核酸、または請求項27または28に記載の核酸ライブラリーを、AAVパッケージング細胞株へと導入する工程と、AAV TRADEベクターまたはAAV TRADEベクターライブラリーをパッケージング細胞株から回収する工程と、を含む方法。
【請求項32】
対象組織の細胞を形質導入する能力が増大したAAVベクターの新しいキャップ遺伝子の配列を決定する方法であって、該方法は、
請求項30に記載の方法でAAVベクターを同定する工程と、
キャップ遺伝子配列を含むセンスmRNAを回収する工程と、
新しいキャップ遺伝子配列を決定する工程と、を含む方法。
【請求項33】
前記センスmRNAは、RT-PCRを使用して回収する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記キャップ遺伝子配列を決定する工程をさらに含む、請求項32または33に記載の方法。
【請求項35】
請求項23~26または29のいずれかに記載の核酸を含む、AAVベクター。
【請求項36】
前記第2配向の少なくとも1つのmRNAスプライシング抑制突然変異をさらに含む、請求項1~8または11~13のいずれかに記載の核酸。
【請求項37】
前記少なくとも1つのmRNAスプライシング抑制突然変異は、スプライスドナーおよび/またはスプライスアクセプター部位の10のヌクレオチド内に位置する1つ以上のヌクレオチドの変質を含む、請求項36に記載の核酸。
【請求項38】
前記変質は、AAVキャップ遺伝子によってコードされたアミノ酸配列を変更しない、請求項36または37に記載の核酸。
【請求項39】
AAVキャップORF配列であって、スプライシングドナー部位のエキソン-イントロン連結の1つ以上の以下の突然変異:
AAV1 VP1キャップORF 1009-CTTAC(連結)CAGCA-1018*(配列番号:199)
AAV3 VP1キャップORF 1006-CTTAC(連結)CAGCA-1015*(配列番号:199)
AAV1 VP1キャップORF 1228-TTTAC(連結)CTTCA-1237(配列番号:200)
AAV3 VP1キャップORF 1237-TATAC(連結)CTTCG-1246(配列番号:201)
AAV1 VP1キャップORF 1331-ATTAC(連結)CTGAA-1340(配列番号:202)
AAV1 VP1キャップORF 1434-GCTAC(連結)CTGGA-1443(配列番号:203)
AAV1 VP1キャップORF 1502-TTTAC(連結)CTGGA-1510(配列番号:204)
AAV1 VP1キャップORF 1803-ATTAC(連結)CTGGC-1812(配列番号:205)
AAV3 VP1キャップORF 1803-CTTAC(連結)CTGGC-1812(配列番号:206)
AAV1 VP1キャップORF 1835-TGTAC(連結)CTGCA-1844(配列番号:207)
AAV1 VP1キャップORF 2189-GTTAC(連結)CTTAC-2198(配列番号:208)
AAV9 VP1キャップORF 2189-GATAC(連結)CTGAC-2198(配列番号:209)
AAV1 VP1キャップORF 2194-CTTAC(連結)CCGTC-2203(配列番号:210)
AAV3 VP1はORF 2194-CTCAC(連結)ACGAA-2203(配列番号:211)
(*ヌクレオチド番号は異なるが、それらは配列アラインメントにおけるAAVキャップORFの対応するヌクレオチドである。)を含む、AAVキャップORF配列。
【請求項40】
AAVキャップORF配列であって、スプライシングドナー部位のエキソン-イントロン連結の1つ以上の以下の突然変異:
AAV1 VP1キャップORF 305-AGCGT(連結)CTGCA-314(配列番号:212)
AAV1 VP1キャップORF 414-GGCTC(連結)CTGGA-423(配列番号:213)
AAV3 VP1キャップORF 414-GGCTC(連結)CTGGA-423(配列番号:213)
AAV1 VP1キャップORF 495-GCCCG(連結)CTAAA-504(配列番号:214)
AAV9 VP1キャップORF 495-GCCCG(連結)CTAAA-504(配列番号:214)
AAV3 VP1キャップORF 1133-TCACC(連結)CTGAA-1142(配列番号:215)
AAV1 VP1キャップORF 1181-ACTGC(連結)CTGGA-1190(配列番号:216)
AAV1 VP1キャップORF 1331-ATTAC(連結)CTGAA-1340**(配列番号:202)
AAV3 VP1キャップORF 1328-ACTAC(連結)CTGAA-1337**(配列番号:217)
AAV1 VP1キャップORF 1464-CGTTT(連結)CTAAA-1473(配列番号:218)
AAV1 VP1キャップORF 1653-AAACA(連結)CTGCA-1662(配列番号:219)
AAV1 VP1キャップORF 2054-GGGAG(連結)CTGCA-2063(配列番号:220)
AAV3 VP1キャップORF 2054-GGGAG(連結)CTACA-2063(配列番号:463)
(**ヌクレオチド番号は異なっても、それらは配列アラインメントにおけるAAVキャップORFの対応するヌクレオチドである。)を含む、AAVキャップORF配列。
【請求項41】
AAVキャップORF配列であって、スプライシングドナーまたはスプライシングアクセプター部位のエキソン-イントロン連結の1つ以上の以下の突然変異:
スプライスドナー
AAV1 VP1キャップORF 1009-CTTAC(連結)CAGCA-1018*(配列番号:199)
AAV3 VP1キャップORF 1006-CTTAC(連結)CAGCA-1015*(配列番号:199)
AAV1 VP1キャップORF 1228-TTTAC(連結)CTTCA-1237(配列番号:200)
AAV3 VP1キャップORF 1237-TATAC(連結)CTTCG-1246(配列番号:201)
AAV1 VP1キャップORF 1331-ATTAC(連結)CTGAA-1340(配列番号:202)
AAV1 VP1キャップORF 1434-GCTAC(連結)CTGGA-1443(配列番号:203)
AAV1 VP1キャップORF 1502-TTTAC(連結)CTGGA-1510(配列番号:204)
AAV1 VP1キャップORF 1803-ATTAC(連結)CTGGC-1812(配列番号:205)
AAV3 VP1キャップORF 1803-CTTAC(連結)CTGGC-1812(配列番号:206)
AAV1 VP1キャップORF 1835-TGTAC(連結)CTGCA-1844(配列番号:207)
AAV1 VP1キャップORF 2189-GTTAC(連結)CTTAC-2198(配列番号:208)
AAV9 VP1キャップORF 2189-GATAC(連結)CTGAC-2198(配列番号:209)
AAV1 VP1キャップORF 2194-CTTAC(連結)CCGTC-2203(配列番号:210)
AAV3 VP1キャップORF 2194-CTCAC(連結)ACGAA-2203(配列番号:211)
スプライスアクセプター
AAV1 VP1キャップORF 305-AGCGT(連結)CTGCA-314(配列番号:212)
AAV1 VP1キャップORF 414-GGCTC(連結)CTGGA-423(配列番号:213)
AAV3 VP1キャップORF 414-GGCTC(連結)CTGGA-423(配列番号:213)
AAV1 VP1キャップORF 495-GCCCG(連結)CTAAA-504(配列番号:214)
AAV9 VP1キャップORF 495-GCCCG(連結)CTAAA-504(配列番号:214)
AAV3 VP1キャップORF 1133-TCACC(連結)CTGAA-1142(配列番号:215)
AAV1 VP1キャップORF 1181-ACTGC(連結)CTGGA-1190(配列番号:216)
AAV1 VP1キャップORF 1331-ATTAC(連結)CTGAA-1340**(配列番号:202)
AAV3 VP1キャップORF 1328-ACTAC(連結)CTGAA-1337**(配列番号:217)
AAV1 VP1キャップORF 1464-CGTTT(連結)CTAAA-1473(配列番号:218)
AAV1 VP1キャップORF 1653-AAACA(連結)CTGCA-1662(配列番号:219)
AAV1 VP1キャップORF 2054-GGGAG(連結)CTGCA-2063(配列番号:220)
AAV3 VP1キャップORF 2054-GGGAG(連結)CTACA-2063(配列番号:463)を含む、AAVキャップORF配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援の研究に関する陳述
本発明は、National Institutes of Health/National Institute of Neurological Disorders and Strokeによって与えられた第NS088399号の下の政府支援で実施された。政府は本発明において一定の権利を有している。
【0002】
本開示は、遺伝子導入に使用されるウイルスベクターに関する。より具体的には、本開示は、転写依存性定方向進化のための方法、およびこの方法を使用することによって選択されるアデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターに関する。
【背景技術】
【0003】
組み換え型アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターは、インビボの遺伝子導入のための最も有望なものの一つである。AAVベクターの有用性は、自然発生の新規な血清型およびサブタイプの多くがヒトと非ヒト霊長類の組織から分離されて以来、拡張した。Gao et al.,J Virol 78,6381-6388(2004)and Gao et al.,Proc Natl Acad Sci USA 99,11854-11859(2002)。新しく同定されたAAV分離株のうち、AAV血清型8(AAV8)およびAAV血清型9(AAV9)が注目されており、なぜならこれらの2つの血清型に由来したAAVベクターは、全身投与後に肝臓、心臓、骨格筋および中枢神経系を含む様々な器官を高効率で形質導入することができるからである。Ghosh et al.,Mol Ther 15,750-755 (2007);Pacak et al.,Circ Res 99,3-9(2006);Inagaki et al.,Mol Ther 14,45-53 (2006);Zhu et al.,Circulation 112,2650-2659(2005);Wang et al.,Nat Biotechnol 23,321-328(2005);Nakai et al.,J Virol 79,214-224(2005);and Foust et al.,Nature Biotechnol 23,321-328(2009)。AAV8およびAAV9のベクターによるこの安定した形質導入は、これらの細胞型の強力な屈性、ベクターの効率的な細胞取り込み、および/または細胞でのビリオンシェルの迅速な脱殻に帰着された。Thomas et al.,J Virol 78,3110-3122(2004)。加えて、よりよい性能を有するキャプシドに組み換えされたAAVベクターの発生は、ベクターツールキットとしてAAVの効用を大幅に広げた。Asokan et al.,Mol Ther 20,699-708(2012)。
【0004】
AAVに媒介された遺伝子治療を使用する概念実証は、ヒト疾患の多くの前臨床の動物モデルで示された。I/II段階臨床研究は、血友病B(Nathwani et al.,N Engl J Med 71,1994-2004(2014))リポプロテインリパーゼ欠損症(Carpentier et al.,J Clin Endocrinol Metab 97,1635-1644(2012))、レーバー先天黒内障(Jacobson et al.,Arch Ophthalmol 130,9-24(2012)およびPierce and Bennett,Cold Spring Harb Perspect Med 5,a017285(2015))、他のもの(Mingozzi and High,Nat Rev Genet 12,341-355(2011)およびWang et al.,Nat Rev Drug Discov 18,358-378(2019)で掲載された)の処置のための有望な結果を示した。
【0005】
この期待にもかかわらず、人体研究は、AAVに媒介された遺伝子治療で意外な問題および潜在的困難をさらに明らかにした。Manno et al.,Nat Med 12,342-347(2006)。加えて、AAV生物学およびキャプシド表現型関係についての我々の理解(Adachi et al.,Nat Commun 5,3075,(2014);Grimm et al.,Hum Gene Ther 28,1075-1086,(2017);およびOgden et al.,Science 366,1139-1143,(2019))の飛躍的進歩にもかかわらず、我々が合理的に設計することができない臨床的AAVベクターの多くの望ましい性質が残る。
【0006】
そのために、そのような望ましい表現型を有する新しいAAVキャプシドを同定するハイスループットスクリーニング方法は使用されている。具体的に、インビボのAAVライブラリー選択方略の発達によって、予め抵抗性のある細胞型の非常に効率的な形質導入に有能な様々なデザイナーAAV変異体(Kotterman and Schaffer,Nat Rev Genet 15,445-451(2014)およびGrimm et al.,Mol Ther 23,1819-1831(2015)で掲載された)が産生された。
【0007】
インビボのライブラリー選択の最も初期の試み(第1世代)は、切開された組織からのベクターゲノムDNAの回収に依存した。理論上、この方策は、両方の有効なAAV変異体と同様にいくつかを媒介するAAV変異体も回収させるが、ベクターに媒介された導入遺伝子発現(
図1)にすべての工程が必要とされない。したがって、合成AAV変異体の多様なライブラリーのスクリーニングは、場合によっては完全に不効果的遺伝子治療ベクターであるAAV変異体の高いバックグラウンド回収を引き起こす。さらに、特定細胞型を標的とすることは、蛍光活性化細胞選別またはレーザー・キャプチャー・マイクロダイセクションなどのさらなる処理を必要とする。それにもかかわらず、この技術を成功裡に使用することのいくつかの報告があった。Excoffon et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 106,3865-3870(2009);Grimm et al.,J Virol 82,5887-5911(2008);Lisowski et al.,Nature 506,382-386(2014);and Dalkara et al.,Sci Transl Med 5,189ra176(2013)。しかしながら、2016年のDeverman et al.の歴史的な研究は、このプロセスが、Cre依存性選択方策(第2世代)の使用によって大幅に改善することができることを示した。Deverman et al.,Nat Biotechnol 34,204-209(2016)。Cre-依存性ライブラリー選択は、プライマー結合配列を含むベクターゲノムDNAを逆にするために一本鎖DNAではなく二本鎖DNAに作用するCreレコンビナーゼの選択的な能力の利点を有する。この配列の反転は、方向選択的PCRが、二本鎖DNAが一本鎖のAAVゲノムから形成される形質導入の後期を経ることができるAAV変異体によって細胞に送達されたウイルスDNAを特異的に増幅することを可能にする。さらに、Creドライバラインの使用は、効率的に形質導入する新しいAAV変異体の選択を可能にし、細胞型特異的方法でCreレコンビナーゼの選択的遺伝子発現を促進する。確かに、Cre依存性選択の使用は、著者が、C57BL/6Jマウスの全身投与後に親のAAV9より40倍以上形質導入可能なAAV9変異体、AAV-PHP.Bを開発することを可能にした。Deverman et al.,Nat Biotechnol 34,204-209(2016)。あいにく、マウスにAAV-PHP.Bによって示された増強が、非ヒト霊長類において通用しないことは最近明らかになった(Matsuzaki et al.2018 および Hordeaux et al.2019)。意外にも、その増強は、一般的に使用されるすべてのマウス株さえまで及ぼさない(Matsuzaki et al.2018およびHordeaux et al.2019)。したがって、霊長類モデルにおいてAAVライブラリー選択実験の実施によって臨床的に関係のあるAAVベクターの発達を加速するように強力な推進力がある。しかしながら、多量の細胞型特異的トランスジェニックCreドライバラインが既に確立しているマウスでのAAV変異体の選択と異なり、非ヒト霊長類を含む臨床的に関連する大きい動物においてCre依存性選択が扱いしやすはなく、Creトランスジェニック動物が容易に利用可能ではないからである。
【0008】
したがって、我々は、Cre依存性選択によって提供されると同様、またはそれよりよい選択的ストリンジェンシーを有するが、Creレコンビナーゼを必要としない次世代選択方策(第3世代)を開発しようと努力した。このゴールを遂行するために、我々は、転写依存性定方向進化(TRAnscription-dependent Directed Evolution)システム、またはTRADEを開発した。転写依存性選択では、我々は、AAVキャップ遺伝子を、細胞型特異的エンハンサー-プロモーターによって誘導される非コードのアンチセンスmRNAとして発現する。このアンチセンス転写産物をRT-PCRによって回収させることは、Creレコンビナーゼを使用せず、特定細胞型でベクターに媒介されたmRNA発現のレベルでAAVキャップ遺伝子の厳密な回収を可能にする。様々な細胞型の標的化は、単に様々な細胞型特異的エンハンサー-プロモーターをプラスミド構築物へとクローニングすることを必要とする。したがって、TRADEは、臨床の遺伝子治療のための増強されたAAVベクターの発育のために非ヒト霊長類コンテキストを含む幅広い様々なコンテキストに適用することができる、高度な柔軟性のあるシステムである。同じ原理が、センス配向のAAVキャップ遺伝子の発現のために使用され得ることに注目されたい。しかしながら、センス鎖アプローチは、標的細胞での免疫原のキャプシドタンパク質の発現という結果をもたらし、したがって、TRADEシステムによって使用されるアンチセンス鎖アプローチほど理想的ではない。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、転写依存性定方向進化(TRAnscription-dependent Directed Evolution)(「TRADE」)を名付けた次世代の定方向進化方策を提供し、それは、細胞型特異的またはユビキタスmRNA発現のレベルでAAVキャプシド形質導入のために選択する。本明細書に記載される方法は、Cre組み換えベースのAAV標的とされた進化(「CREATE」)、文献で報告されたAAVキャプシド定方向進化の最先端の方法、に対して以下の利点を提供する。Deverman et al.,Nat Biotech 34,204-209 (2016)。まずは、CREATEシステムは、Cre発現を必要とし、それは外生的に送達されるCre発現、またはCreトランスジェニック動物の使用のいずれかによって到達され得る。これに対して、TRADEシステムは、Creトランスジェニック動物を必要とすることなく、したがって、それは動物および任意の動物種に由来した培養細胞に適用され得、非ヒト霊長類を含む大きい動物に容易に適され得る。2番目に、細胞型特異的選択がAAVウイルスゲノム転換のレベルで一本鎖DNAから二本鎖DNAに適用されるCREATEシステムと異なり、TRADEは、AAVゲノム転写のレベルで細胞型特異的選択を可能にする。したがって、TRADEシステムは、CREATEシステムより大きな選択プレッシャを提供することができる。3番目に、複数の定方向進化スキーム(例えば、ニューロン特異的、アストロサイト特異的、オリゴデンドロサイト特異的、およびミクログリア特異的)は、1つのAAVキャプシドライブラリーへと統合されることができ、各細胞型を標的とするAAVベクターの選択は1匹の動物において実施されることができる。4番目に、任意の細胞型特異的、または、組織/器官特異的エンハンサー-プロモーター、あるいはユビキタスエンハンサー-プロモーターは、増強された効能を有する細胞型特異的、またはユビキタス新しいAAVキャプシドの同定を目的とするAAVキャプシド定方向進化のために容易に使用されることができる。5番目に、TRADE方法は、遺伝子送達に使用されていた一般のAAVを含むデペンドパルボウウイルス属(Dependoparvovirus)に制限されないが、さらに広くAAV(例えば、ボカウイルス)以外の種類ボカパルボウイルス(Bocaparvoviruses)およびエリスロパルボウイルス(Erythroparvoviruses)を含むファミリーパルボウイルス科、およびより広くDNAウイルスにも適用されることができる。
【0010】
本開示は、新しいAAVキャプシド突然変異体をさらに提供する。TRADE技術は、静脈内投与後に、脳でのニューロン形質導入を媒介する新しいAAVベクターを同定するために使用された。C57BL/6JマウスおよびアカゲザルにおいてTRADEの適用は、静脈内投与後にマウスおよび非ヒト霊長類の脳においてAAV9よりニューロンを形質導入し得る新しいAAVキャプシドをより効率的におよびより具体的に同定することという結果をもたらした。加えて、我々は、不確定の細胞集団、または肺に存在し、潜在的にニューロンの起原である細胞集団を形質導入し得る新しいAAVキャプシドをAAV9より5~18倍よく同定した。
【0011】
本開示は、さらにAAVキャプシド遺伝子のアンチセンスmRNAのスプライシングを防ぐ方法を提供する。AAVキャップ遺伝子オープン・リーディング・フレーム(「ORF」)から転写されたアンチセンスmRNA前駆体は、(a)切断したmRNA種を作ってスプライシングされることができる。我々が知っている限りでは、これは以前報告されていない新しい発見である。そのようなスプライシングは、AAVキャップORFの全長アンチセンスmRNAの有効な回収を妨害する可能性を有しており、それは、キャップORFの幅広い部位に突然変異が起こされるときにTRADEにとって不可欠である。本開示は、キャップ遺伝子のアンチセンスmRNAのスプライシングを防ぐために新しい方策を提供する。
【0012】
本明細書に記載されるTRADEシステムは、キャプシド配列情報を回収するためにアンチセンスmRNAを使用し、センス鎖mRNAを使用するTRADE(すなわち、センス鎖TRADE)も、同じ原理を使用して、実施可能である。しかしながら、センス鎖TRADEアプローチが、標的細胞の免疫原のキャプシドタンパク質の発現、したがって、アンチセンス鎖アプローチほど推測上理想的でないという結果をもたらすことは注目されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】AAVキャプシドの定方向進化のために利用されたインビボのライブラリー選択方策の概略である。AAVのベクターに媒介された形質導入は、多段階プロセスであり、それは、ビリオンが、細胞外のバリアを克服し、標的細胞上でレセセプターを結合し、エンドサイトーシスを介して細胞に入り、エンドソームを逃れ、核への通行し、脱殻し、二本鎖DNA構成を達成し、最後に転写/翻訳を経ることを必要とする。最初期のインビボのライブラリー選択方策(第1世代)は、組織サンプルからすべてのベクターゲノムDNAを回収した。理論上、この方策は、有効なAAV変異体とともに、ベクターに媒介された導入遺伝子発現に必要なステップすべてではないが、いくつかの工程の媒介するAAV変異体の両方を回収するであろう。加えて、この方策は、さらに細胞に入らず、細胞外マトリックスでとどまるAAVベクター粒子からAAVベクターゲノムDNAを回収するであろう。このように、合成AAV変異体の多様なライブラリーのスクリーニングは、完全に非効果的遺伝子治療ベクターであるAAV変異体の比較的高いバックグラウンド回収をもたらす。さらに、特定細胞型に集中することは、蛍光活性化細胞選別(FACS)またはレーザー・キャプチャー・マイクロダイセクション(LCM)などのさらなる処理を必要とする。ライブラリー選択の第2世代(第2世代)は、形質導入の二本鎖DNA段階を達成することができるAAV変異体のみのCre依存性回収の利用によって選択ストリンジェンシーを実質的に増大させた。さらに、細胞型特異的エンハンサー-プロモーターでCre発現を誘導することは、大量の組織サンプルを処理する利点を保持しながら特定細胞型を標的とすることを可能にする。ライブラリー選択の第3の世代(第3世代)は、Cre発現を要求せず、細胞型特異的エンハンサー-プロモーターの導入遺伝子mRNA発現を媒介することができるAAV変異体の転写依存性回収の使用によるAAV定方向進化技術に基づく。
【
図2A】TRADEの原理。TRADE構成(AAV-TRADE)のAAVベクターゲノムのマップ。細胞型特異的エンハンサー-プロモーターは、アンチセンスmRNAとしてAAVキャップ遺伝子転写発現を誘導するために、アンチセンス配向に置かれる。シミアンウイルス40(SV40)ゲノムに由来したポリアデニル化シグナル(pA)は、アンチセンスAAVキャップ遺伝子mRNA転写を終結させるために、アンチセンス配向のAAVゲノムイントロン内に置かれる。eGFPオープンリーディングフレーム(ORF)は、描写されるように、レポーターとして機能する、またはFACSによって形質導入された細胞の富化を促進するために置くことができるが、そのような標識遺伝子は、TRADEのために厳密に必要とされない。CAGプロモーターなどのユビキタスプロモーターは、TRADEにおいて様々な細胞型を形質導入することができるAAVキャプシドを同定するために細胞型特異的エンハンサー-プロモーターに置かれ使用されることができる。細胞型特異的エンハンサー-プロモーターは、AAVキャップ遺伝子mRNA転写産物の発現をセンス配向に誘導する(つまりセンス鎖TRADE)ために、AAVキャップ遺伝子ORF上流に置くことができる。しかしながら、このアプローチは、TRADEのために理想的ではないこともあり得、なぜならAAVキャプシドタンパク質が標的細胞で発現され、それは定方向進化プロセスでの望ましくない生体影響をもたらす場合があるからである。
【
図2B】TRADEの原理。HEK293細胞でのAAVベクター産生中に、およびアデノウイルスのヘルパー機能の存在下において、AAV2ウイルスp40プロモーターは、キャップ遺伝子発現(フォーワード転写)を誘導し、かつ細胞型特異的転写産物は抑制され、AAV-TRADEベクターゲノムを含む組み換え体AAVベクターの優れた産生が引き起こされる。特定細胞型の形質導入の後で、細胞型特異的エンハンサー-プロモーターは、活性化され、eGFPおよびアンチセンスキャップmRNA配列の発現を誘導する一方、p40プロモーターの転写活性は、アデノウイルスのヘルパー機能の不足により形質導入された細胞において不活性のままである。キャップ遺伝子ORF全体は、細胞型特異的方法で発現される鋳型としてアンチセンスキャップ遺伝子mRNAを使用して、逆転写(RT)-PCRによって回収され得る。我々は、組み換え体AAVベクターは、HEK293細胞のヒトシナプシンI遺伝子(hSynI)エンハンサー-プロモーターから漏出発現による発現されるアンチセンスmRNA転写産物の存在下でさえ高レベルで成功裡に産生することができる、と観察した。さらに、我々は、組み換え体AAVベクターが、高レベルでアンチセンスAAVキャップmRNA転写産物の発現を誘導するCAGプロモーターを使用する場合でさえ、高滴定量で成功裡に産生することができる、と観察した。
【
図3A】脳ニューロンを標的とするTRADEシステムの検証。AAV-PHP.B-hSynI-GFP-TRADEベクターゲノムのマップ。
【
図3B】脳ニューロンを標的とするTRADEシステムの検証。TRADEシステムを実証するために、このAAVベクターゲノムは、一本鎖DNAゲノムとしてAAV-PHP.Bキャプシドへパッケージングされ、および結果として生じるAAVベクターは、1つのマウス当たり3×10
11ベクターゲノム(vg)の投与量で2匹の8週齢のC57BL/6Jマウスに静脈内で注入された。脳組織は、注射12日後に採取された。1匹の動物の脳組織は、4%のパラホルムアルデヒドで固定され、免疫蛍光顕微鏡検査法に使用され、および、他の動物の脳組織は、固定されることなく、AAVベクターゲノムDNAおよびRNAの分子分析に使用された。
【
図3C】脳ニューロンを標的とするTRADEシステムの検証。抗GFP抗体で染色された脳の部分の免疫蛍光顕微鏡検査法画像は、細胞型特異的エンハンサー-プロモーターによって誘導される転写産物の発現を確認した。
【
図3D】脳ニューロンを標的とするTRADEシステムの検証。hSynIエンハンサー-プロモーターによって誘導されるGFP発現は、特異的にニューロン(抗HuC/D+)において観察された。
【
図3E】脳ニューロンを標的とするTRADEシステムの検証。RT-PCRは、全長キャップORF配列(RT+)を回収するために使用された。RT-、逆転写酵素対照なし;Plas、AAV-PHP.B-hSynI-GFP-TRADEベクターゲノム配列を含むプラスミド鋳型を使用して、DNA-PCRで得られた陽性対照);NT、鋳型PCR対照なし。
【
図3F】脳ニューロンを標的とするTRADEシステムの検証。RT-PCR産物のサンガー法シーケンシングは、hSynIエンハンサー-プロモーター(配列番号:190)によって発現されたアンチセンス転写産物のMVMイントロンの予想されるスプライシングを示した。エキソン-エキソン連結は、グレーでハイライトされている。
【
図3G】脳ニューロンを標的とするTRADEシステムの検証。 サンガー法シーケンシングは、PHP.Bペプチド(グレーでハイライトされている)(配列番号:191)の挿入を確認した。
【
図4】AAV9キャップORFのアンチセンスmRNAのスプライシング。2つの細胞株、HEK293およびNeuro2aは、GFPレポーターで、またはそのレポーターなしで、TRADE構成にAAV9キャップORFを含むプラスミドでトランスフェクトされた。それらはそれぞれ、図で、「GFP TRADE」および「TRADE」として示される。細胞は、トランスフェクション3日後に採取され、RNAは抽出され、およびRT-PCRは、完全なキャップORF配列を増幅する1セットのPCRプライマーで実施された。陽性対照(PC)レーンで示されるように、2.4kbの予想されたアンプリコンサイズを回収する代わりに、我々は、約0.7kbのアンプリコンを着実に回収した。これらのRT-PCR産物のサンガー法シーケンシングは、
図5に示されるAAV9キャップORFの1.7kbの領域のスプライシングと一致する切断を同定した。PC、AAV-PHP.B-hSynI-GFP-TRADEベクターゲノム配列を含むプラスミド鋳型を使用する陽性対照;NC、鋳型PCR対照なし。
【
図5】AAV9キャップ遺伝子(配列番号:192)に由来したアンチセンスmRNAにおいて同定されたイントロン。AAV-PHP.Bキャップ遺伝子配列が、ニューロン特異的ヒトシナプシンI(hSynI)エンハンサー-プロモーターの制御下でHEK293細胞またはNeuro2a細胞においてアンチセンス配向で転写された時、スプライシング事象は、潜在スプライスドナーおよびスプライスアクセプター部位で同定された(同様に
図6を参照)。下線された配列は、AAV9キャップORF内に見つかったイントロンを示す。このスプライシング事象は、マウス脳ニューロンで観察されなかった。(1)hSynIエンハンサー-プロモーターはニューロン特異的エレメントとして使用されているが、HEK293細胞内で漏出発現を誘導することを示された;および(2)イントロンスプライシング実験に使用されたAAV9キャップORF配列はC末端付近に以下のサイレント突然変異を有した:
gaaccccgccccattggcacGCgTtacCTGACTCGTAATCTGTAA(配列番号:1)ことに注目されるべきである。イントロン配列は下線され、およびMluI(ACGCGT)認識部位を作成するためにイントロンへと導入されたサイレント突然変異は、大文字で示される。
【
図6】エキソン-イントロン連結の共有の特徴を有する潜在スプライスドナー(SD)およびスプライスアクセプター(SA)部位は、AAVキャップORFでアンチセンス配向で存在する。122の自然発生のAAV株(血清型および変異体)に由来したキャップ遺伝子のヌクレオチド配列は、多数の配列アラインメントプログラムを使用して整列される(配列番号223-316)。AAV9キャップORFに由来したアンチセンスmRNAで同定されたエキソン-イントロン連結は、実線で示される。スプライスアクセプター部位の点線は、配列保存の予想された位置でのスプライスアクセプターAG/TC配列が欠けているAAVキャップORFを推定的スプライスアクセプター部位を示す。スプライスドナー領域の点線は、AAV3キャップORFに由来したアンチセンスmRNAで同定されたスプライスドナー部位を示す(
図7を参照)。T’sのストレッチが後に続くGT/CAスプライスドナー部位およびAG/TCスプライスアクセプターモチーフは、エキソン-イントロン連結の共通特徴であり、多くのAAV株にわたって非常によく保存される。この図で示されるAAV9キャップORFで同定されたスプライスドナーおよびアクセプター部位は、AAV1キャップORFでも同定された。AAV1、3、5および9、以外の血清型については、AAVキャップORFのアンチセンスmRNAのスプライシング事象は現在調査中である。ハイライトされた変異体は共通のAAV血清型である。
【
図7A】AAV3キャップ遺伝子に由来したアンチセンスmRNAで同定されたイントロン。pAAV3-hnLSP-MCS-TRADE2は、MVMイントロン(hnLSP)を有する肝臓特異的エンハンサー-プロモーターの下に置かれた野生型のAAV3キャップORFを運ぶプラスミドである。AAV3キャップORFのヌクレオチド配列は、自然に同定されたAAV3と同様である。HepG2細胞、ヒト肝癌細胞株は、プラスミドpAAV3-hnLSP-MCS-TRADE2でトランスフェクトされた。その後、AAV3キャップORFに由来したアンチセンスmRNAは、RT-PCRによって分析された。2つの切断したRT-PCR産物の配列は、PCR産物の平滑末端TOPOクローニング後のサンガー法シーケンシングによって決定され、それは、アンチセンスAAV3キャップORF(パネルAおよびB、配列番号:193)内で見つかったイントロンを明らかにした。イントロン配列は、下線の小文字である。最上流のスプライスドナー部位は、AAV9キャップORFで同定されたスプライスドナー部位のわずか3bp離れていると確認され、それは
図6で点線で示される。最下流のスプライスアクセプター部位は、AAV9キャップORFの約80bp上流に見つかる。AAV3キャップORFで同定されたすべてのスプライスドナーおよびアクセプター部位は、AAV1キャップORFでも同定されたことに注目されたい。
【
図7B】AAV3キャップ遺伝子に由来したアンチセンスmRNAで同定されたイントロン。pAAV3-hnLSP-MCS-TRADE2は、MVMイントロン(hnLSP)を有する肝臓特異的エンハンサー-プロモーターの下に置かれた野生型のAAV3キャップORFを運ぶプラスミドである。AAV3キャップORFのヌクレオチド配列は、自然に同定されたAAV3と同様である。HepG2細胞、ヒト肝癌細胞株は、プラスミドpAAV3-hnLSP-MCS-TRADE2でトランスフェクトされた。その後、AAV3キャップORFに由来したアンチセンスmRNAは、RT-PCRによって分析された。2つの切断したRT-PCR産物の配列は、PCR産物の平滑末端TOPOクローニング後のサンガー法シーケンシングによって決定され、それは、アンチセンスAAV3キャップORF(パネルAおよびB、配列番号:193)内で見つかったイントロンを明らかにした。イントロン配列は、下線の小文字である。最上流のスプライスドナー部位は、AAV9キャップORFで同定されたスプライスドナー部位のわずか3bp離れていると確認され、それは
図6で点線で示される。最下流のスプライスアクセプター部位は、AAV9キャップORFの約80bp上流に見つかる。AAV3キャップORFで同定されたすべてのスプライスドナーおよびアクセプター部位は、AAV1キャップORFでも同定されたことに注目されたい。
【
図8A】さらなる潜在スプライスアクセプター部位はAAVキャップORFで存在する。122の自然発生のAAV株(血清型および変異体)に由来したキャップ遺伝子のヌクレオチド配列は、多数の配列アラインメントプログラムを使用して整列される(配列番号:317-420)。AAV9キャップORFに由来したアンチセンスmRNAで同定されたスプライスアクセプター部位のエキソン-イントロン連結は、実線で示される。パネルAの点線は、実験的に決定されたスプライスアクセプター部位の付近で代替の推定のスプライスアクセプター部位を示す。T’sのストレッチが後に続くAG/TCスプライスアクセプター部位は、スプライスアクセプター部位のエキソン-イントロン連結の共通の特徴であり、多くのAAV株にわたって非常によく保存される。AAV3キャップORFがハイライトされている。パネルAおよびBで示されるAAV3キャップORFで同定されたスプライスアクセプター部位は、AAV1キャップORFでも同定されている。AAV5キャップORFに関しては、スプライシング事象は、アンチセンスmRNA転写のいずれかの部位でも観察されていない。AAV1、3、5および9、以外の血清型については、AAVキャップORFのアンチセンスmRNAのスプライシング事象は現在調査中である。
【
図8B】さらなる潜在スプライスアクセプター部位はAAVキャップORFで存在する。122の自然発生のAAV株(血清型および変異体)に由来したキャップ遺伝子のヌクレオチド配列は、多数の配列アラインメントプログラムを使用して整列される(配列番号:317-420)。AAV9キャップORFに由来したアンチセンスmRNAで同定されたスプライスアクセプター部位のエキソン-イントロン連結は、実線で示される。パネルAの点線は、実験的に決定されたスプライスアクセプター部位の付近で代替の推定のスプライスアクセプター部位を示す。T’sのストレッチが後に続くAG/TCスプライスアクセプター部位は、スプライスアクセプター部位のエキソン-イントロン連結の共通の特徴であり、多くのAAV株にわたって非常によく保存される。AAV3キャップORFがハイライトされている。パネルAおよびBで示されるAAV3キャップORFで同定されたスプライスアクセプター部位は、AAV1キャップORFでも同定されている。AAV5キャップORFに関しては、スプライシング事象は、アンチセンスmRNA転写のいずれかの部位でも観察されていない。AAV1、3、5および9、以外の血清型については、AAVキャップORFのアンチセンスmRNAのスプライシング事象は現在調査中である。
【
図9】AAVキャップORFで存在するさらなる潜在的スプライスドナー部位。122の自然発生のAAV株(血清型および変異体)に由来したキャップ遺伝子のヌクレオチド配列は、多数の配列アラインメントプログラムを使用して整列される(配列番号:421-461)。AAV3キャップORFに由来したアンチセンスmRNAで同定されたスプライスドナー部位のエキソン-イントロン連結は、実線で示される。この位置でのGT/CAスプライス・ドナー・コンセンサス配列は、AAV株の半分のみによって保持される。このスプライスドナー部位は、AAV1キャップORFで同定された。
【
図10】AAV1キャップORFで同定されたスプライスドナーおよびスプライスアクセプター部位。AAV1キャップORFのヌクレオチド配列は示される(配列番号:194)。AAV1キャップORFは、アンチセンス配向のヒト胚腎臓(HEK)293細胞またはNeuro2a細胞のhSynIエンハンサー-プロモーターによって発現された。その後、AAV1キャップORFに由来したアンチセンスmRNAは、RT-PCRによって分析された。RT-PCR産物の配列は、PCR産物の平滑末端TOPOクローニング後にサンガー法シーケンシングによって決定され、それは、AAV1キャップORF内に見つかったイントロンを明らかにした。アンチセンスAAV1キャップmRNAで同定されたエキソン-イントロン連結は、スプライスドナー部位のためにAG/TC、およびスプライスアクセプター部位のためにGT/CAで示される。大文字のAG/TCおよびGT/CAは、それぞれイントロンの5’末端および3’末端のコンセンサス2ヌクレオチドである。スプライシングがORFのアンチセンスmRNAに起こるので、イントロン配列は、CT(スプライスアクセプター)とAC(スプライスドナー)の間で、上記の配列の様々な組み合わせである。観察されたスプライスドナーおよびアクセプターの組み合わせに関する詳細情報は示されない。太字体で示されたエキソン-イントロン連結(CTまたはAC)の2つの保存されたヌクレオチドは、様々なAAV血清型にわたって高度に保存されるものである。下線されるエキソン-イントロン連結(CTまたはAC)の2つの保存されたヌクレオチドは、アンチセンスAAV3またはAAV9キャップmRNA転写産物で同定されたものである。
【
図11】AAV9キャップORFのスプライシング抑制突然変異誘発。サイレント突然変異は、アンチセンスmRNA転写産物上で観察されたスプライシングを抑制するために、AAV9キャップORFのスプライスアクセプター(SA)部位および/またはスプライスドナー(SD)部位のまわりで導入される。天然の配列(配列番号:195、配列番号:196)のスプライシングされたイントロンは、下線で示される。AAV9NS1ゲノム(配列番号:197)は、SA部位のまわりの1セットの突然変異を有する一方、AAV9NS2ゲノム(配列番号:198)は、SD部位のまわりの1セットの突然変異を有する。AAV9NS3ゲノムは、突然変異の両方のセットを有する。右の数は、AAV9キャップORFの第1ヌクレオチドに対するヌクレオチド位置を示す。
【
図12】スプライスドナーおよび/またはアクセプター部位のまわりで導入された突然変異は、AAV9キャップORFに由来したアンチセンスmRNAのスプライシングを有効に抑制する。Neuro2a細胞は、TRADE構成にAAV9キャップORFおよび様々な潜在的にスプライシング抑制突然変異(NS1-3)を含むプラスミドでトランスフェクトされた。RNAは、トランスフェクションの3日後に採取され、RT-PCRは、キャップORF配列全体を回収することができる1セットのPCRプライマーで実施された。
図4で見られた結果に全く対照的に、全長のアンプリコンは成功裡に回収された。NS1、コドン修飾スプライスアクセプターを有するAAV9-TRADEベクターゲノム。NS2、コドン修飾スプライスドナーを有するAAV9-TRADEベクターゲノム。NS3、コドン修飾スプライスアクセプターおよびスプライスドナーを有するAAV9-TRADEベクターゲノム。PC、AAV-PHP.B-hSynI-GFP-TRADEベクターゲノム配列を含むプラスミド鋳型を使用する陽性対照;NC、鋳型PCR性対照なし。
【
図13A】全身的なAAVベクター注射後の脳ニューロン形質導入のための増強されたAAV変異体を同定するTRADEの適用のための研究設計。AAV9-N272A-hSynI-GFP-TRADE-PepLibベクターゲノムのマップ。hSynIエンハンサー-プロモーターは特異的にニューロン中で発現を誘導するために利用される。肝臓標的解除AAV9-N272Aキャップ(PCT/US2017/068050)は、AAVライブラリー生成のためのプラットフォームとして機能する。(NNK)8でコードされ、かつグリシン・セリン・リンカー(配列番号:2)によって隣接される、ランダムの8つのアミノ酸ペプチドは、AAV9-N272Aキャップ配列(配列番号:222)のQ588に置換された。
【
図13B】全身的なAAVベクター注射後の脳ニューロン形質導入のための増強されたAAV変異体を同定するTRADEの適用のための研究設計。プラスミドライブラリーは、トリプルトランスフェクションプロトコルを使用して、AAVライブラリーを産生するために使用された。ライブラリーは、PEG沈澱反応および2回のCsCl超遠心分離を通じて精製され、その後、3×1011vg/マウスの投与量で尾静脈を介して注入された。脳組織は、注射12日後に採取された。RNAは、TRIzolを使用して、回収され、およびRT-PCRは、ペプチド挿入を含むキャップの断片を回収するために使用され、それはその後、AAVベクタープラスミド骨格に再クローンされた。これは、C57BL/6Jマウスにおいて3回の選択のために反復された。平行して、1回の選択は、2.7×10
12vg/kgの投与量を使用して、アカゲザルにおいて実施された。
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図14A】マウスおよび非ヒト霊長類におけるAAV RNAバーコード-配列による26の新しいAAVキャプシドのニューロン形質導入の検証。二本鎖(ds)AAV-hSynI-GFP-BCベクターのマップ。1対の2つの12ヌクレオチドの長さのDNAバーコード(VBCx-LおよびVBCx-R)は、ヒトシナプシンI(hSynI)遺伝子エンハンサー-プロモーターの下に置かれる。これらの2つのウイルスバーコード(VBC)は、特異的にhSynIエンハンサー-プロモーターが能動的である細胞(つまりニューロン)の転写産物として発現することができる。
【
図14B】マウスおよび非ヒト霊長類におけるAAV RNAバーコード-配列による26の新しいAAVキャプシドのニューロン形質導入の検証。TRADEによって同定された、26の新しいAAV変異体、HN1~HN26(マウスにおいて同定された5つの変異体、および非ヒト霊長類において同定された21の変異体)およびC57BL/6JおよびBALB/cJマウスの3つの対照AAVキャプシド(AAV9、AAV9-N272A、およびAAV-PHP.B)のニューロン形質導入。TRADEによって同定された26の新しいAAV変異体(マウスにおいてTRADEによって同定された5つの変異体、および非ヒト霊長類においてTRADEによって同定された21の変異体)および対照AAVキャプシド(AAV9、AAV9-N272A、およびAAV-PHP.B)を含むDNA/RNAバーコード化されたdsAAV-hSynI-GFP-BCライブラリー(dsAAV-hSynI-GFP-BCLib)は、1匹のマウス当たり5×10
11vgの投与量で3匹の成体オスのC57BL/6Jマウスおよび3匹の成体オスのBALBcJマウスに静脈内注射された。注射2週間後に様々な組織が採取され、およびAAV RNAバーコード-配列によってAAVベクターゲノム転写産物レベルで形質導入が分析された。形質導入レベルは、参照対照、AAV9に対して表現型差異(PD)の値として発現される。HN1~HN26変異体のAAVキャプシドアミノ酸配列情報については、表3を参照する。
【
図14C】マウスおよび非ヒト霊長類におけるAAV RNAバーコード-配列による26の新しいAAVキャプシドのニューロン形質導入の検証。アカゲザルの海馬の26の新しいAAV変異体、および3つの対照AAVキャプシドのニューロンの形質導入。同じDNA/RNAバーコード化AAVライブラリーは、2×10
13vg/kgの投与量で1匹の若いオスのアカゲザルに静脈内に注射された。注射2週間後に様々な脳領域が採取され、およびAAV RNAバーコード-配列によって形質導入が分析された。
【
図14D】マウスおよび非ヒト霊長類におけるAAV RNAバーコード-配列による26の新しいAAVキャプシドのニューロン形質導入の検証。3つのTRADE変異体、HN1、HN2およびHN3およびAAV-PHP.Bの相対的なニューロン形質導入の効率は、パネルCに使用された1匹のアカゲザルの12の様々な脳領域においてAAV RNAバーコード-配列によって分析された。パネルB、CおよびDでは、点線は、AAV9のPD値(つまり、1.0)を示す。
【
図15A】従来のeGFPレポーターベクターおよび組織学的定量化を使用してマウスのAAV9-N272A-HN1の増強されたニューロン形質導入の検証。我々は、hSynIエンハンサー-プロモーター(dsAAV-hSynI-eGFP)の制御下でeGFPを発現する自己相補的AAVゲノムを含むAAV9、AAV-PHP.BおよびAAV9-N272A-HN1ベクターを産生した。精製されたベクターは、3×10
11vg/マウスの投与量で8週齢のオスのC57BL/6JマウスまたはBALB/cJマウス(n=4マウス/ベクター/マウス株)へと尾静脈を介して投与された。注射3週間後、マウスは4%のパラホルムアルデヒドで経心的にかん流させられ、および脳組織は免疫組織化学的検査のために処理された。自己相補的なhSynI-eGFPベクターゲノムのマップ。
【
図15B】従来のeGFPレポーターベクターおよび組織学的定量化を使用してマウスのAAV9-N272A-HN1の増強されたニューロン形質導入の検証。我々は、hSynIエンハンサー-プロモーター(dsAAV-hSynI-eGFP)の制御下でeGFPを発現する自己相補的AAVゲノムを含むAAV9、AAV-PHP.BおよびAAV9-N272A-HN1ベクターを産生した。精製されたベクターは、3×10
11vg/マウスの投与量で8週齢のオスのC57BL/6JマウスまたはBALB/cJマウス(n=4マウス/ベクター/マウス株)へと尾静脈を介して投与された。注射3週間後、マウスは4%のパラホルムアルデヒドで経心的にかん流させられ、および脳組織は免疫組織化学的検査のために処理された。抗GFP抗体で染色された矢状断面の代表的なタイルスキャン画像。
【
図15C】従来のeGFPレポーターベクターおよび組織学的定量化を使用してマウスのAAV9-N272A-HN1の増強されたニューロン形質導入の検証。我々は、hSynIエンハンサー-プロモーター(dsAAV-hSynI-eGFP)の制御下でeGFPを発現する自己相補的AAVゲノムを含むAAV9、AAV-PHP.BおよびAAV9-N272A-HN1ベクターを産生した。精製されたベクターは、3×10
11vg/マウスの投与量で8週齢のオスのC57BL/6JマウスまたはBALB/cJマウス(n=4マウス/ベクター/マウス株)へと尾静脈を介して投与された。注射3週間後、マウスは4%のパラホルムアルデヒドで経心的にかん流させられ、および脳組織は免疫組織化学的検査のために処理された。4つの脳領域のeGFPおよびNeuNを発現する細胞の自動計算に基づく(B)のニューロン形質導入の定量化。
【
図15D】従来のeGFPレポーターベクターおよび組織学的定量化を使用してマウスのAAV9-N272A-HN1の増強されたニューロン形質導入の検証。我々は、hSynIエンハンサー-プロモーター(dsAAV-hSynI-eGFP)の制御下でeGFPを発現する自己相補的AAVゲノムを含むAAV9、AAV-PHP.BおよびAAV9-N272A-HN1ベクターを産生した。精製されたベクターは、3×10
11vg/マウスの投与量で8週齢のオスのC57BL/6JマウスまたはBALB/cJマウス(n=4マウス/ベクター/マウス株)へと尾静脈を介して投与された。注射3週間後、マウスは4%のパラホルムアルデヒドで経心的にかん流させられ、および脳組織は免疫組織化学的検査のために処理された。(B)および(C)の自動計算プロセスの検証。視覚野の代表的な20X共焦点画像が示される。スケールバーは100μmである。
【
図15E】従来のeGFPレポーターベクターおよび組織学的定量化を使用してマウスのAAV9-N272A-HN1の増強されたニューロン形質導入の検証。我々は、hSynIエンハンサー-プロモーター(dsAAV-hSynI-eGFP)の制御下でeGFPを発現する自己相補的AAVゲノムを含むAAV9、AAV-PHP.BおよびAAV9-N272A-HN1ベクターを産生した。精製されたベクターは、3×10
11vg/マウスの投与量で8週齢のオスのC57BL/6JマウスまたはBALB/cJマウス(n=4マウス/ベクター/マウス株)へと尾静脈を介して投与された。注射3週間後、マウスは4%のパラホルムアルデヒドで経心的にかん流させられ、および脳組織は免疫組織化学的検査のために処理された。eGFPおよびNeuNを発現する細胞の盲検観察者による手集計に基づいく(D)のニューロン形質導入の定量化。エラーバーは、+/-平均値の標準誤差(SEM)***p<0.001を示す。
【
図16A】エピトープ標識eGFPレポーターベクターを使用してアカゲザルのAAV9に対して増強されたAAV9-N272A-HN1の形質導入の検証。この研究に使用されたAAV-CAG-nlsGFPベクター。我々は4つのAAVベクターを産生した:AAV9-CAG-FLAGnlsGFP-BCLib、AAV9-CAG-HAnlsGFP-BCLib、AAV9-N272A-HN1-CAG-FLAGnlsGFP-BCLib、およびAAV9-N272A-HN1-CAG-HAnlsGFP-BCLib。nlsGFP(SV40ラージT抗原に由来した核定位シグナルを有するeGFP)は、N末端のFLAGタグまたはHAタグのいずれかで標識された。各ベクターは、9つの様々なDNA/RNAバーコード化ウイルスクローンのおよそ1対1の混合物を含むDNA/RNAバーコード化ライブラリーであったが、この特徴はこの研究で使用されなかった。パネルAで描写された上部半分の2つのベクターは、AAVライブラリー1(AAVLib1)を作るために1:1の比率で混合され、および下部半分の2つのベクターは、AAVライブラリー2(AAVLib2)を作るために1:1の比率で混合された。この実験スキームでは、AAVLib1およびAAVLib2の各々は、1:1の比率でエピトープ標識nlsGFPを発現するAAV9およびAAV9-N272A-HN1ベクターを含むが、キャプシド-エピトープ関係は下流質量スペクトル分析で潜在的抗体バイアスを回避するために反転されている。
【
図16B】エピトープ標識eGFPレポーターベクターを使用してアカゲザルのAAV9に対して増強されたAAV9-N272A-HN1の形質導入の検証。AAVLibを受け入れる1匹の動物の代表的なタイルスキャンされた脳の断面。各AAVライブラリーは、3×10
13vg/kgの投与量で若いアカゲザルへ静脈内に投与された。組織は、注射3週間後に採取され、4mmのスラブに切られ、4%のパラホルムアルデヒドで固定され、および免疫組織化学法のために抗GFP、抗FLAGおよび抗HA抗体で処理された。eGFP発現は、細胞がAAV9またはAAV9-N272A-HN1のいずれか、あるいは両方によって形質導入されたことを示す。FLAG着色は、AAV9キャプシドが形質導入を媒介したことを示す一方、HA着色は、AAV9-N272A-HN1が形質導入を媒介したことを示す。右上の挿入紙、運動皮質、右下の挿入紙、被殻。この実験は、AAV9-N272A-HN1が、脳細胞をAAV9と比較して、強力なニューロン屈性を有してAAV9より数倍良く形質導入することを明らかにした。したがって、ニューロン形質導入を考慮する限り、AAV9-N272A-HN1はAAV9よりはるかに高いニューロン形質導入を媒介する。
【
図17A】マウスおよびアカゲザルにおける全身的な送達後の主要な末梢器官へのAAV9-N272A-HN1の生体内分布。我々は、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリー(パネルA、BおよびC)に含まれた各AAVキャプシドによって送達された、各々の末梢器官のAAVベクターゲノムDNAの相対存在量を決定するためにAAV DNAバーコード-配列を使用した。上記に説明されるように、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリーは、対照、AAV9、AAV9-N272AおよびAAV-PHP.Bとともに、マウスおよび非ヒト霊長類においてTRADEによって同定された26のAAV変異体を含んでいた。DNAは、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリー(表3を参照)の投与後に様々な組織から抽出され、AAV DNAバーコード-配列分析にかけられた。さらに、我々は、
図16A(パネルD)で描写されたssAAV-CAG-nlsGFP-BCLibライブラリーで静脈注射されたアカゲザルの各々の末梢器官のAAV9と比較して相対的な形質導入効率を決定するためにAAV RNAバーコード-配列を使用した。AAV9に対するC57BL/6Jマウス、BALB/cJマウスおよびアカゲザルにおけるAAV9、AAV9-N272A、AAV-PHP.BおよびTRADE変異体の肝臓に対する生体内分布。
【
図17B】マウスおよびアカゲザルにおける全身的な送達後の主要な末梢器官へのAAV9-N272A-HN1の生体内分布。我々は、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリー(パネルA、BおよびC)に含まれた各AAVキャプシドによって送達された、各々の末梢器官のAAVベクターゲノムDNAの相対存在量を決定するためにAAV DNAバーコード-配列を使用した。上記に説明されるように、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリーは、対照、AAV9、AAV9-N272AおよびAAV-PHP.Bとともに、マウスおよび非ヒト霊長類においてTRADEによって同定された26のAAV変異体を含んでいた。DNAは、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリー(表3を参照)の投与後に様々な組織から抽出され、AAV DNAバーコード-配列分析にかけられた。さらに、我々は、
図16A(パネルD)で描写されたssAAV-CAG-nlsGFP-BCLibライブラリーで静脈注射されたアカゲザルの各々の末梢器官のAAV9と比較して相対的な形質導入効率を決定するためにAAV RNAバーコード-配列を使用した。C57BL/6JマウスおよびBALB/cJマウス(n=3マウス/株)におけるAAV9-N272A-HN1の肝臓以外の主要な末梢器官に対する生体内分布。
【
図17C】マウスおよびアカゲザルにおける全身的な送達後の主要な末梢器官へのAAV9-N272A-HN1の生体内分布。我々は、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリー(パネルA、BおよびC)に含まれた各AAVキャプシドによって送達された、各々の末梢器官のAAVベクターゲノムDNAの相対存在量を決定するためにAAV DNAバーコード-配列を使用した。上記に説明されるように、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリーは、対照、AAV9、AAV9-N272AおよびAAV-PHP.Bとともに、マウスおよび非ヒト霊長類においてTRADEによって同定された26のAAV変異体を含んでいた。DNAは、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリー(表3を参照)の投与後に様々な組織から抽出され、AAV DNAバーコード-配列分析にかけられた。さらに、我々は、
図16A(パネルD)で描写されたssAAV-CAG-nlsGFP-BCLibライブラリーで静脈注射されたアカゲザルの各々の末梢器官のAAV9と比較して相対的な形質導入効率を決定するためにAAV RNAバーコード-配列を使用した。dsAAV-hSynI-GFP-BC分析に基づくアカゲザル(n=1)におけるAAV9-N272A-HN1の肝臓以外の主要な末梢器官に対する生体内分布。この実験のために、AAV DNAバーコード-配列分析は、
図14Dで示されるdsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリーを注射された1匹のアカゲザルから採集されたサンプルで実施された。
【
図17D】マウスおよびアカゲザルにおける全身的な送達後の主要な末梢器官へのAAV9-N272A-HN1の生体内分布。我々は、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリー(パネルA、BおよびC)に含まれた各AAVキャプシドによって送達された、各々の末梢器官のAAVベクターゲノムDNAの相対存在量を決定するためにAAV DNAバーコード-配列を使用した。上記に説明されるように、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリーは、対照、AAV9、AAV9-N272AおよびAAV-PHP.Bとともに、マウスおよび非ヒト霊長類においてTRADEによって同定された26のAAV変異体を含んでいた。DNAは、dsAAV-hSynI-GFP-BCLibライブラリー(表3を参照)の投与後に様々な組織から抽出され、AAV DNAバーコード-配列分析にかけられた。さらに、我々は、
図16A(パネルD)で描写されたssAAV-CAG-nlsGFP-BCLibライブラリーで静脈注射されたアカゲザルの各々の末梢器官のAAV9と比較して相対的な形質導入効率を決定するためにAAV RNAバーコード-配列を使用した。ssAAV-CAG-nlsGFP-BC分析に基づくアカゲザル(n=2)におけるAAV9-N272A-HN1の肝臓以外の主要な末梢器官に対する生体内分布。この実験のために、AAV RNAバーコード-配列分析は、
図16Aで示されるssAAV-GAG-nlsGFP-BCLibベクターを注射されたアカゲザルから採集されたサンプル上で実施された。エラーバーは、+/-平均値の標準誤差(SEM)を示す。AAV9-N272A-HN1キャプシドは、AAV9キャプシドと比較して、より低い程度まで末梢器官を形質導入した。
【
図18A】AAV9-N272A-HN1は、マウスにおいて全身投与後で高度な神経向性を有する。強力なユビキタスCAGプロモーターの制御下でnlsGFPを発現するAAV9およびAAV9-N272A-HN1ベクターは、3×1011vg/マウスの投与量で8週齢のオスのBALB/cJマウスに静脈内に注射された。組織は、注射12日後で採取され、抗GFPおよび抗NeuN抗体で免疫染色することによって分析された。この研究で使用される一本鎖(ss)AAV-CAG-nlsGFPベクターゲノムのマップ。
【
図18B】AAV9-N272A-HN1は、マウスにおいて全身投与後で高度な神経向性を有する。強力なユビキタスCAGプロモーターの制御下でnlsGFPを発現するAAV9およびAAV9-N272A-HN1ベクターは、3×1011vg/マウスの投与量で8週齢のオスのBALB/cJマウスに静脈内に注射された。組織は、注射12日後で採取され、抗GFPおよび抗NeuN抗体で免疫染色することによって分析された。AAV9-N272A-HN1-CAG-nlsGFPで形質導入されたマウス大脳皮質の代表的な画像。さらに、AAV9-N272A-HN1-CAG-nlsGFPで形質導入された広大な大半の細胞は、ニューロンマーカーNeuNにも陽性である。スケールバーは100μmである。
【
図18C】AAV9-N272A-HN1は、マウスにおいて全身投与後で高度な神経向性を有する。強力なユビキタスCAGプロモーターの制御下でnlsGFPを発現するAAV9およびAAV9-N272A-HN1ベクターは、3×1011vg/マウスの投与量で8週齢のオスのBALB/cJマウスに静脈内に注射された。組織は、注射12日後で採取され、抗GFPおよび抗NeuN抗体で免疫染色することによって分析された。AAV9およびAAV9-N272A-HN1キャプシドのニューロン特異性。ニューロンの特異性の定量化は、二重陽性の細胞(eGFP+/NeuN+)の数をGFP+細胞の合計数で割ることによって決定された。AAV9-N272A-HN1は、AAV9(56%)と比較して、ニューロン(96%)に高度に特異的である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
いくつかの実施形態では、本開示は、TRADEシステムを提供し、それは、細胞型特異的またはユビキタスの方法で発現されたキャップORFのアンチセンスmRNAを使用して、AAVキャプシドの定方向進化を可能にする。そのようなシステムは、Creトランスジェニック動物を必要としない。したがって、それは、Creトランスジェニック株が容易に利用可能でない非ヒト霊長類を含む大きい動物の細胞型特異的AAVキャプシド進化に適用され得る。いずれかの細胞型特異的または組織/器官特異的エンハンサー-プロモーターまたはユビキタスエンハンサー-プロモーターは、形質転換を必要とせず容易にシステムに適用され得る。細胞型特異的選択は、mRNAレベルで与えられる。ある実施形態では、複数の定方向進化スキームは、1つの定方向進化スキームに組み合わせられてもよい。例えば、細胞型特異的導入遺伝子mRNA発現に基づくニューロン特異的AAVキャプシド、アストロサイト特異的AAVキャプシド、オリゴデンドロサイト特異的AAVキャプシドおよびミクログリア特異的AAVキャプシドの選択は、1匹の動物において同時に実施され得る。
【0015】
いくつかの実施形態では、本開示は、センス鎖TRADEシステムを提供し、それは、標的細胞のAAVキャプシドタンパク質を発現可能な細胞型特異的またはユビキタス方法で発現されたキャップORFのmRNAを使用して、AAVキャプシドの定方向進化を可能にする。センス鎖TRADEは、ここで、データで紹介されるアンチセンス鎖TRADEの同じ利点を有しており、それは、Creトランスジェニック動物を必要としないこと、細胞型特異的選択はmRNAレベルで与えられること、および複数の定方向進化スキームを1匹の動物において行われる1つの定方向進化に組み合わせられ得ることである。しかしながら、見込まれる損失は、免疫原AAVキャプシドタンパク質が標的細胞中で不可避的に持続的に発現される場合があり、それは、キャプシド選択工程の望ましくない結果をもたらす場合がある。
【0016】
いくつかの実施形態では、本開示はさらに新しいAAVキャプシドを提供する。ある実施形態では、これらの新しいAAVキャプシドは、静脈内注射後にC57BL/6JマウスにおいてAAV9より何倍よく脳ニューロンを形質導入することができる。ある実施形態では、新しいAAVキャプシドは、静脈内注射後にC57BL/6JマウスにおいてAAV9より最大8倍よく形質導入された。ニューロン形質導入レベルは、AAV PHP.Bで得られたレベルに到達しない場合があっても、AAV9と比較して、非常に増強される場合がある。ある実施形態では、新しいAAVキャプシドは、脳ニューロンをAAV PHP.Bより効率的に形質導入する場合がある。
【0017】
いくつかの実施形態では、本開示は、静脈内注射後にBALB/cJマウスにおいてAAV9より何倍よく脳ニューロンを形質導入することができる新しいAAVキャプシドを提供する。ある実施形態では、新しいAAVキャプシドは、静脈内注射後にBALB/cJマウスにおいてAAV9より脳ニューロンを最大7倍よく形質導入することができる。形質導入レベルはAAV PHP.Bよりはるかに高い。
【0018】
いくつかの実施形態では、本開示は、静脈内注射後にアカゲザルにおいてAAV9より何倍よく脳ニューロンを形質導入することができる新しいAAVキャプシドを提供する。ある実施形態では、新しいAAVキャプシドは、静脈内注射後にアカゲザルにおいてAAV9より脳ニューロンを最大4倍よく形質導入することができる。これらの形質導入レベルは、AAV PHP.Bより良い。
【0019】
いくつかの実施形態では、本開示は、AAV9より数倍よくニューロンの細胞マーカ発現で肺細胞を形質導入し得るAAVキャプシドを提供する。ある実施形態では、AAVキャプシドは、そのような細胞をAAV9より最大17倍よく形質導入することができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、新しいAAVキャプシドは肝臓標的解除表現型を示す。
【0021】
いくつかの実施形態では、本開示は、アンチセンス方向に発現される時スプライシングされないコドン修飾AAVキャップ配列を提供する。我々は、未修飾AAVキャップORFがアンチセンス方向に発現された時(例えば、AAV1、AAV3およびAAV9)、スプライシングされると観察した。これに対して、本開示に記載されるコドン修飾AAVキャップORFのうちのいくつかはスプライシングされない。推定上のスプライスドナーおよびアクセプター部位に関する我々が展開した知識に基づいて、そのようなスプライシングされていないAAVキャップORFのバージョンを設計することは可能になった。そのようなスプライシングされていないキャップORFの使用は、キャップ遺伝子の突然変異誘発がキャップORFの幅広い領域上に起こるときTRADEシステムを使用して、定方向進化に使用されてもよい。
【0022】
本明細書で使用されるような用語「AAVベクター」は、AAVのコンポーネントを含む、またはAAVのコンポーネントに由来する任意のベクターを意味し、脳、心臓、肺、骨格筋、肝臓、腎臓、脾臓または膵臓などの多くの組織型のうちのいずれかの、ヒト細胞を含む哺乳動物細胞をインビトロまたはインビボ感染させることに適切である。用語「AAVベクター」は、少なくとも対象タンパク質をコードする核酸分子を含むAAV型ウイルス粒子(またはビリオン)を呼ぶために使用されてもよい。
【0023】
さらに、本明細書に開示されるAAVは、血清型の組み合わせ(例えば、「偽型」AAV)を含む様々な血清型、または様々なゲノム(例えば、一本鎖または自己補正的)に由来してもよい。特定の実施形態では、本明細書に開示されるAAVベクターは、所望のタンパク質またはタンパク質変異体を含んでもよい。本明細書で使用されるような「変異体」は、1つ以上のアミノ酸によって変更されるアミノ酸配列を指す。変異体は、置換されたアミノ酸が、類似した構造的または化学的性質を有する「保守的な」変化、例えば、ロイシンをイソロイシンで置き換えることを有してもよい。代替的に、変異体は「非保守的」変化、例えば、グリシンをトリプトファンで置き換えることを有してもよい。類似した小さな変更は、さらにアミノ酸の欠失または挿入、あるいは両方を含んでもよい。
【0024】
本開示のタンパク質をコードする、ポリヌクレオチドなどのヌクレオチド配列は、本明細書に提供される。本開示のヌクレオチドは、RNAまたはDNAのいずれかからなり得る。本開示は、本明細書に開示されるポリヌクレオチドに対して配列で相補的ポリヌクレオチドをさらに包含する。
【0025】
遺伝子コードの縮退のため、多様な様々なポリヌクレオチドの配列は、本開示のタンパク質をコードすることができる。加えて、それは、本明細書に開示されるタンパク質と同様の、または本質的に同様のものをコードする、代替的ポリヌクレオチド配列を作成するように当技術分野において訓練された人の技術において適切である。これらの変異体または代替的ポリヌクレオチド配列は、本開示の範囲内である。本明細書で使用されるように、「本質的に同様の配列」の言及は、本開示のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの検出力を除去しないアミノ酸の置換、欠失、添加または挿入をコードする1つ以上の配列を呼ぶ。
【0026】
本開示は、本明細書に開示されるポリヌクレオチドおよびポリペプチドの変異体をさらに含む。変異体配列は、配列の1つ以上のペプチドまたはヌクレオチドが置換され、欠失させられおよび/または挿入された配列を含む。
【0027】
本開示のポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列は、本明細書に記載されるポリヌクレオチドおよびポリペプチドとの特定の同一性および/または類似性の観点から定義され得る。配列同一性は、典型的に60%上回り、好ましくは75%上回り、さらに好ましくは80%上回り、さらにいっそう好ましくは90%上回り、および95%上回ることがあり得る。配列の同一性および/または類似性は、本明細書に開示される配列と比較して、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であり得る。別段の定めがない限り、本明細書で使用されるように、2つの配列のパーセント配列同一性および/または類似性は、(KarlinおよびAltschul(1993)で修飾されたようなKarlinおよびAltschul(1990)のアルゴリズムを使用して決定され得る。そのようなアルゴリズムは、Altschul et al.(1990)のNBLASTおよびXBLASTプログラムに取り込まれている。BLAST検索は、所望のパーセント配列同一性を有する配列を得るために、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12で実施され得る。比較の目的のためにギャップされた(gapped)アラインメントを得るために、Altschul et al.(1997)に記載されているようにGapped BLASTは使用することができる。BLASTおよびGapped BLASTのプログラムを利用する際、それぞれのプログラム(NBLASTおよびXBLAST)のデフォルトパラメーターを使用することができる。
【0028】
本明細書に開示されるようなAAVベクターを産生する方法は、例えば、パッケージング細胞、補助のウイルスまたはプラスミド、および/またはバキュロウイルスシステムの使用の方法を含んで、当技術分野において公知されている。例えば、Samulski et al.,J.Virology 63,3822(1989);Xiao et al.,J.Virology 72,2224(1998);Inoue et al.,J.Virology 72,7024(1998);WO1998/022607;およびWO2005/072364を参照。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、キメラ(例えば、偽型)AAVウイルスを産生するためにともに混合され得るまたは他のタイプのウイルスと混合され得るAAVの様々な血清型から調製または由来され得る。
【0029】
インビボの投与上、それらの免疫原性を減少させるために、偽型AAVベクターを産生する方法(例えば、WO00/28004を参照)とともに、AAVベクターの様々な修飾または製剤も知られている(例えば、WO01/23001;WO00/73316;WO04/112727;WO05/005610;またWO99/06562を参照)。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、キメラ(例えば、偽型)AAVウイルスを産生するために、ともに混合される、または他のタイプのウイルスと混合されてもよいAAVの様々な血清型から調製されるまたはそれに由来してもよい。
【0030】
特定の実施形態では、AAVベクターはヒト血清型AAVベクターであってもよい。そのような実施形態では、ヒトAAVは、任意の既知の血清型、例えば、血清型1-11のうちのいずれか1つの、例えば、AAV1、AAV2、AAV4、AAV6、またはAAV9に由来してもよい。
【0031】
本明細書に開示されるAAVベクターは、対象タンパク質をコードする核酸を含んでもよい。様々な実施形態では、核酸は、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム導入部位(「IRES」)、タンパク質形質導入ドメイン(「PTD」)をコードする配列、2Aペプチド等などの対象タンパク質の発現、およびいくつかの実施形態では分泌を可能にする、1つ以上の制御配列をさらに含んでもよい。したがって、いくつかの実施形態では、核酸は、感染細胞に対象タンパク質の発現を引き起こすまたは改善するために、コード配列に動作可能に連結したプロモーター領域を含んでもよい。そのようなプロモーターは、例えば、感染した組織でタンパク質の効率的で安定した産生を可能にするために、ユビキタス、細胞または組織に特異的、強く、弱く、調節された、キメラなどであってもよい。一般的に、開示された方法の使用プロモーターは、ヒト細胞において官能性であるが、プロモーターは、コードされたタンパク質に対して相同であってもよく、または異種であってもよい。調節されたプロモーターの例は、限定されることなく、テトオン/オフ要素含有のプロモーター、ラパマイシン誘導可能なプロモーター、タモキシフェン誘導可能なプロモーター、およびメタロチオネインプロモーターを含む。使用されてもよい他のプロモーターは、腎臓、脾臓および膵臓などの組織に組織特異的プロモーターを含む。ユビキタスプロモーターの例は、ウイルスプロモーター、具体的にCMVプロモーター、RSVプロモーター、SV40プロモーターなど、およびホスホグリセレートキナーゼ(PGK)プロモーターおよびβ-アクチンプロモーターなどの細胞のプロモーターを含む。
【0032】
本明細書に開示されるAAVベクターのいくつかの実施形態では、1つ以上のフィードバック要素は、対象タンパク質の過剰発現を弱めるために使用されてもよい。例えば、AAVベクターのいくつかの実施形態は、外因性の転写産物を標的とする1つ以上のsiRNA配列を含んでもよい。他の実施形態では、AAVベクターは、抑制的な転写因子によって認識され得る、1つ以上のさらなるプロモーターを含んでもよい。様々な実施形態では、本明細書に開示されるAAVベクターは、生理的なレベルで対象タンパク質の発現レベルを維持し得る恒常性フィードバックループを作成し得る構築物を含んでもよい。
【0033】
本明細書に開示されるAAVベクターのいくつかの実施形態では、ゲノムを編集する機構は、部位特異的な方法で細胞ゲノムDNAまたはmRNA転写産物を遺伝子的に修飾するために使用されてもよい。Komor et al.,Cell 168,20-36(2017);およびKatrekar et al.,Nature Methods 16:239-242,2019。例えば、AAVベクターのいくつかの実施形態は、部位特異的な方法で細胞の核酸を修飾するために、Cas9などのCRISPRに関連された酵素、DNA塩基エディター、RNAエディターゼ(editase)および/またはガイドRNA(gRNA)を含んでもよい。さらに、AAVベクターは、ゲノム編集のための相同性修復鋳型(HDR)を含んでもよい。
【0034】
様々な実施形態では、本明細書に開示されるAAVベクターは、コードされたタンパク質の分泌を可能にする先導配列を含む場合がある核酸を含み得る。いくつかの実施形態では、対象導入遺伝子と、分泌シグナルペプチド(通常、分泌されたポリペプチドのN末端に位置する)をコードする配列との融合は、形質導入された細胞から分泌され得る形態の治療用タンパク質の産生を可能にする場合がある。そのようなシグナルペプチドの例は、アルブミン、β-グルクロニダーゼ、アルカリ性プロテアーゼ、またはフィブロネクチン分泌シグナルペプチドを含む。
【0035】
本明細書に記載されるように、脳、心臓、肺、骨格筋、腎臓、脾臓、または膵臓において治療用の対象タンパク質の効率的および長期的な発現は、AAV9配列を有する非AAV9ベクターなどの特定のAAVベクターの末梢投与を通じて非侵襲性技術を用いて達成することができる。そのような末梢投与は、脳、心臓、肺、骨格筋、腎臓、脾臓、または膵臓へ直接注入を必要としない任意の投与経路を含んでもよい。より具体的に、末梢投与は、筋肉内注射、血管内(静脈内などの)注射、腹腔内注射、動脈内注射、または皮下注射などの全身的注射を含んでもよい。いくつかの実施形態では、末梢投与は、さらに経口投与(例えば、WO96/40954を参照)、植込剤を使用する送達(例えば、WO01/91803を参照)、または呼吸器システムによる点滴注入による投与、例えば、噴霧剤、エアゾール剤または他の適切な製剤の使用を含んでもよい。
【0036】
様々な実施形態では、AAVベクターの所望の投与量は、例えば、病状、被験体、治療スケジュールなどに応じて当業者によって適合されてもよい。いくつかの実施形態では、投与当たり105~1012のウイルスゲノム、例えば、106~1011、107~1011、108~1011が投与される。他の実施形態では、治療効果を達成するための例示的な投与は、少なくとも約105、106、107、108、109、1010、または1011ウイルスゲノムのウイルス力価を含むことがある。ウイルス力価は、形質導入単位の観点では発現されてもよく、それは当業者によって容易に計算されてもよい。
【0037】
様々な実施形態では、本明細書に開示されるAAVベクターは、任意の適切な形態で、例えば、液体溶液または懸濁液のいずれとして、注射の前に液体の溶解または懸濁に適している固体形態として、ゲル、またはエマルジョンとして投与されてもよい。ベクターは、任意の適切で薬学的に許容可能な賦形剤、キャリヤ、アジュバント、希釈液などで製剤されてもよい。例えば、注射については、適切なキャリヤまたは希釈液は、等張液、緩衝液、無菌および発熱物質なしの水、または例えば、無菌・発熱物質なしのリン酸緩衝生理食塩水であってもよい。吸入剤については、キャリヤは微粒子の形態であってもよい。
【0038】
ベクターは、「治療上有効な」量で、例えば、疾患状態に関連した症状の少なくとも1つを緩和する(例えば、減少する、縮小する)、または被験体の状態の改善を提供することに十分な量で投与されてもよい。いくつかの実施形態では、反復投与が、例えば、同じまたは異なる末梢投与経路および/または、同じベクターまたは明確なベクターを使用して、実施されてもよい。
【実施例0039】
以下の実施例は説明のみを目的とする。本開示に照らして、当業者は、これらの実施例の変形および開示される主題の他の実施形態が、過度の実験無しに可能であることを認識するであろう。
【0040】
全身性送達後に脳ニューロンを効率的に形質導入する、新しいAAVキャプシドを同定するために、C57BL/6Jマウスとアカゲザルの両方に、TRADEシステムを適用した。TRADEシステムは、ITR配列によって隣接される、重なり合った、2シストロン性のAAVゲノムを含むプラスミド構築物を利用する(
図2A)。センス方向では、AAV2 p40プロモーターは、AAVキャップ遺伝子の発現を誘導して、ウイルス粒子の効率的な産性を促進する(
図2B)。アンチセンス方向では、細胞型に特異的なエンハンサープロモーター(例えば、ヒトシナプシI(hSynI)エンハンサープロモーター)は、GFPと、AAV2ゲノムに存在するイントロンに埋め込まれるポリアデニル化シグナル(ポリA)で終結するアンチセンスキャップ配列とをコード化する、転写産物の発現を誘導する(
図2B)。TRADE構築物をクローニングバックボーン(cloning backbone)として利用し、グリシン・セリン・リンカー(5’-GGGS;3’-GGGGS)と共に、AAV9キャプシドのQ588位で置換される無作為の8量体ペプチドを含む、肝臓-標的解除(detargeted)AAV9-N272A(PCT/US2017/068050)キャップ遺伝子プラットフォームに基づいて、AAVライブラリーを生成した。特定の細胞型(ニューロンなど)におけるインビボ選択は、RT-PCRによって脳組織から、アンチセンスキャップORF mRNAとしてキャプシド配列を回収することによって実行された。この方法は、回収された配列が、対象の感染細胞におけるRNA発現を仲介することができる、AAV変異体に由来するのみであることを保証する。hSynIエンハンサープロモーターが使用される場合、ニューロンを形質導入することができるAAVキャプシドの配列のみが取り出され、そのため、AAVキャプシドのニューロンに特異的な選択を可能にする。
【0041】
最初に、TRADEシステムが、AAV-PHP.B-hSynI-GFP-TRADEベクターを使用して、細胞型に特異的なアンチセンスmRNAからAAVキャップ遺伝子の配列を回収する能力をテストした(
図3)。hSynIエンハンサープロモーター誘導GFP発現カセットは、TRADE構成のAAV-PHP.Bキャプシド遺伝子含有AAVベクターゲノムに取り込まれた(
図3A)。このベクターゲノムはAAV-PHP.Bキャプシドの中へパッケージ化され、そして、結果として生じるAAVベクターは、2匹の8週齢のオスのC57BL/6Jマウスに静脈内注射された(
図3B)。注射の12日後に、脳組織が採取された。4%のパラホルムアルデヒドで固定された組織が、免疫蛍光顕微鏡検査法によって分析された。取り外された組織は、RNA抽出およびRT-PCR分析のために利用された。eGFPがニューロンでのみ発現する(
図3Cと3D)ことを確認し、このことは、キャップ遺伝子から転写されたアンチセンスmRNAが、細胞型に特異的な方法で発現することを示す。キャップ遺伝子のアンチセンスのmRNAを、RT-PCRによって効率的に回収した(
図3E)。アンチセンスmRNAに固有なスプライス連結のサンガー法で、RT-PCR産物が実際にhSynIエンハンサープロモーター活性化アンチセンスmRNAに由来していたことが確認された(
図3F)。さらに、サンガー法によって、PHP.Bペプチド挿入の配列が確認された(
図3F)。それと共に、これらの観察は、AAVベクター形質導入脳ニューロンにおいて発現したhSynIエンハンサープロモーター誘導アンチセンスmRNAから、AAVキャップ配列を成功裡に回収する、TRADEシステムの能力を確立した。
【0042】
TRADEシステムの成功的確率によって、2つのAAVキャプシド指向進化実験を実施した;一方は8週齢のオスのC57BL/6Jマウスを使用し、そして他方は8か月齢のオスのアカゲザルを使用した。Q588の位置でGGGS(N
8)GGGGS(配列番号:2)ペプチド挿入を有するAAV9由来の突然変異体キャプシドで構成される、AAV9-N272A-hSynI-GFP-TRADE-Libライブラリーを作り出し、ここで、N
8は、(NNK)
8によってコード化された無作為の8量体ペプチドを表わす。ペプチド挿入については、Q588が各ペプチド配列で置換された。AAVライブラリーの多様性は、少なくとも10
7だった。マウス指向進化実験では、AAVライブラリーを、マウス1匹あたり3×10
11のベクターゲノム(vg)の投与量で、尾静脈を介して注射した。2回目の選択については、2匹のマウスを使用して、1×10
12、1×10
11、1×10
10、または1×10
9のベクターゲノム(vg)の投与量で、AAVライブラリー注射した。3回目の選択については、2匹のマウスを使用して、1×10
11vgの投与量で、AAVライブラリーを注射した。注射後12日で脳組織を採取し、それを3つの領域(つまり大脳、小脳、脳幹)に分離した。大脳サンプルだけが指向進化実験に使用された。大脳から全RNAを抽出し、オリゴdTプライマーを使用してRNAを逆転写し、そして1対のキャップ遺伝子特異的PCRプライマーによる隣接領域を含む、ペプチド領域を増幅させた。その後、RT-PCR産物を使用して、次のAAV9-N272A-hSynI-TRADE-Libプラスミドライブラリーを作成し、該ライブラリーは、その後、次のAAV9-N272A-hSynI-TRADE-Libウイルスライブラリーを産生するのに使用された。2回目と3回目の選択については、GFP ORFを欠くAAV9-N272A-hSynI-TRADE-Libゲノムをパッケージ化した。非ヒト霊長類指向進化実験では、AAV9-N272A-hSynI-GFP-TRADE-Libライブラリーを、1kg当たり2.0×10
12vgの投与量で、伏在静脈を介して注射した。注射後12日で、脳全体を採取し、そして脳マトリックスを使用してスライスし、RNAlater(Thermo Fisher Scientific社)で処理し、そして冷凍保存した。その後、全RNAを以下の脳領域から抽出した:前頭皮質、後頭皮質、小脳(プルキンエと顆粒層)、髄質、脳橋、前頭皮質、視床下部、視床、帯状回、尾状核、被殻、海馬、および視索前野。ペプチド配列を、ネステッドPCRを実施した以外は上記と同じ方法で、RT-PCRによって取り出し、下流工程のイルミナシーケンシング(Illumina sequencing)またはサンガー法の手順に十分なPCR産物を取得した。いくつかのサンプルについては、サンガー法のためにネステッドPCRを実施せず、プラスミドバックボーンに直接、第1のPCR産物のクローンを作成した。マウスにおける3回の選択(表1)と、非ヒト霊長類における1回の選択の後に、AAV9キャプシドに挿入された、いくつかの潜在的な形質導入増強ペプチドを同定した(表2)。その後、バーコード化AAVライブラリーを生成し、そして2つの一般に使用されるマウス系統(C57BL/6JとBALB/cJ)および1匹のアカゲザルに静脈内投与し、その後に、以前Nakai Lab(Adachi et al. Nat Commun 5,3075 (2014);およびPCT/US2017/068050)で開発されたDNA/RNAバーコード-配列技術を利用して、26の選択された新しいAAV変異体の、形質導入効率、向性/生体内分布、および薬物動態を比較した(表3)。結果として、以下を確認した。(1)TRADE技術によって同定された新しい変異体のいくつか、特にAAV9-N272A-TTNLAKNS(HN1)とAAV9-N272A-QQNGTRPS(HN2)は、C57BL/6Jマウスの脳において、AAV9より、最大で8倍優れた性能を見せた(
図14Bと14C)。HNx指定に関しては、表3を参照。(2)以前にHordeaux等によって報告されたように(Hordeaux et al. 2018)、AAV-PHP.Bは、BALB/cJマウスの脳を、AAV9に匹敵するレベル以下にのみ形質導入し(
図14Bと14C)、AAV-PHP.Bの堅調な神経向性増強に対するマウス株の依存性を実証している。(3)対照的に、AAV9-N272A-TTNLAKNS(HN1)とAAV9-N272A-QQNGTRPS(HN2)は、BALB/cJマウスにおける堅調なニューロン形質導入を保持し、AAV9より、最大で7倍優れた形質導入を示した(
図14B)。(4)アカゲザルでは、新しいAAV突然変異体の多くが、特定の脳領域でAAV9よりも最大で4倍大きなニューロン形質導入の増強を示す一方で、AAV-PHP.Bは、非ヒト霊長類の脳では、AAV9同等以下で形質導入した。特に、AAV9-N272A-TTNLAKNS(HN1)は、複数の脳領域において、非ヒト霊長類脳の最も優れた形質導入を示した(
図14Cと14D)。(5)HN1、HN2、およびHN3を含む、AAV9-N272A由来の変異体の全ては、マウスとアカゲザルで、様々な程度の肝臓-標的解除特性を示した(
図17A)。(6)AAV9-N272A-TTNLAKNS(HN1)とAAV9-N272A-QQNGTRPS(HN2)は、マウスのAAV9よりも、最大で17倍優れた肺のhSynIエンハンサープロモーター転写活性を有して、細胞を、形質導入することができる(
図17B、表4と6)。(7)AAV9-N272A-TTNLAKNS(HN1)は、AAV9と比較して、より低程度の末梢器官へのベクターゲノムの広がりを示す(
図17Cと17D)。AAVバーコード-配列データを、表4~9にまとめる。表4~9に提示された代表的データはまた、
図14と
図17でグラフフォーマットで示される。
【0043】
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
実験中、AAV9キャップ遺伝子ORFがHEK293細胞またはNeuro2a細胞のアンチセンス配向で発現すると、アンチセンスAAV9キャップ遺伝子の、mRNA由来のRT-PCR産物の大部分は、およそ1.7kbで切断される(
図4)が、このことは、AAV-PHP.B-hSynI-GFP-TRADE-形質導入マウス脳組織(
図3)から回収されたRNAの場合にはあてはまらない。切断したRT-PCR産物の配列決定は、1694bpの長さの領域がAAV9キャップORF内で欠けていることを明らかにした(
図5)。いかなる特定の理論にも束縛されるものではないが、切断は、エキソン-イントロン連結の一般的特徴を有するPCR産物において、スプライスドナー部位とスプライスアクセプター部位とを同定することができた観察に基づいて、スプライシングイベントに起因すると思われる。興味深いことに、配列アラインメント試験は、エキソン-イントロン連結の一般的特徴を有する、潜在性スプライスドナー部位とスプライスアクセプター部位とがまた、AAV9キャップ遺伝子で同定されるスプライスドナー部位とスプライスアクセプター部位とに対応する領域における多くの自然発生のAAV血清型で同定することができ、そしてそれらが高度に保存されていることを明らかにした(
図6)。これは、スプライシングが、AAV9のキャップORF由来アンチセンスmRNAだけでなく、潜在的に、他のAAV株のキャップORF由来のアンチセンスmRNAでも生じ得ることを示す。今日までに、スプライシングは、HepG2細胞のヒト肝臓に特異的なプロモーター(LSP)の制御化で発現する時に、AAV3キャップORF-由来アンチセンスmRNAで生じることがわかっている。完全な特徴付けが完了していなくても、アンチセンスmRNAに特異的なRTプライマーを使用する予備RT-PCR(preliminary RT-PCR)は、完全長の、スプライシングされなかった産物に加えて、切断RT-PCR産物を産生した。2つの切断RT-PCR産物の配列決定分析は、複数のスプライシングイベントが、アンチセンスmRNAに存在したことを明らかにした(
図7)。配列決定アライメント試験は、追加的で潜在的なスプライスドナー部位とスプライスアクセプター部位を同定した(
図8と
図9)。また、アンチセンスmRNAがHEK293細胞またはNeuro2a細胞のhSynIエンハンサープロモーターによって転写された時に、AAV1キャップORF由来のアンチセンスmRNAにおけるスプライシングイベントが確認された(
図10)。同定されたスプライスドナー部位(GT/CA)とスプライスアクセプター部位(AG/TC)の多くは、異なる血清型にわたって高度に保存されており、これらの部位が潜在的に、未調査のAAV血清型のスプライシングドナー部位とスプライシングアクセプター部位としても利用されることを示す。実際、AAV1、AAV3、およびAAV9キャップORFのアンチセンスmRNA転写産物のスプライシングが、いくつかの共通のスプライスドナー部位とスプライスアクセプター部位とを使用することが確認された(
図10)。今日まで、AAV5キャップORFのアンチセンスmRNA転写産物のスプライシングは、未だ観察されていない。AAV1、3、5、および9以外の血清型については、AAVキャップORFのアンチセンスmRNAにおけるスプライシングイベントは未だ調査されていない。
【0058】
キャップORF由来のアンチセンスmRNAの潜在的なスプライシングは、科学的には興味深いが、完全長のキャップORF配列をアンチセンスmRNAから回収する必要がある場合に、TRADEシステムを妨げ得る。この潜在的問題を克服するために、エキソン-イントロン連結と分岐点とにおいて、おそらくは保存配列を妨害するサイレント突然変異を導入した。このアプローチの原理の証拠を実証するために、プラスミド、pAAV9-N272A-PHP.B-hSyn1-GFP-TRADEに含有されるAAV9キャップORFの中へサイレント突然変異を導入し、これが、スプライスアクセプター(SA)コンセンサス配列(pAAV9NS1構築物)、スプライスドナー(SD)コンセンサス配列(pAAV9NS2構築物)、およびスプライスアクセプターとスプライスドナー両方のコンセンサス配列(pAAV9NS3構築物)を妨害する。NSが「スプライシングされていない」を省略したものであることに留意されたい。これらのコンセンサス配列を妨害するために使用する方法を、以下に説明する。
【0059】
ヒト細胞発現のためのAAVキャップORF配列をコドン最適化する。
【0060】
キャップORFに由来するアンチセンスmRNAで、潜在的なスプライスドナーとスプライスアクセプターとを同定するために、我々の実験的および生物情報科学的観察(つまり
図5、6、7、8、9、および10)に基づいたアンチセンスmRNAの潜在的なスプライスドナー部位とスプライスアクセプター部位とに関する、独自のデータベースを開発および使用する。
【0061】
コドン最適化配列を使用して、少なくとも1つのヌクレオチドを変更することによって、GT(スプライスドナー)および/またはAG(スプライスアクセプター)コンセンサス配列を破壊する。コドン最適化配列が利用可能でない場合、コンセンサス配列を破壊することができる代替ヌクレオチドを使用する。
【0062】
コドン最適化配列に基づくサイレンス突然変異を導入することによって、スプライスアクセプター部位のT’sの上流のストレッチを取り出す。コドン最適化配列がT’sのストレッチを破壊するのには十分でない場合には、代替ヌクレオチドを使用する。
【0063】
また、可能な限り、エキソン終端のGを回避する。
【0064】
分岐点を予測することができるいくつかのプログラム(例えば、ヒトスプライシングファインダー(Desmet,Hamroun et al. 2009))を使用して、潜在的な分岐点を同定し、そしてそれらをコドン最適化配列で置き換える。この方法で達成可能なヌクレオチド変化の程度が十分でない場合には、潜在的な分岐点を分裂させるために、代替ヌクレオチドを導入する。
【0065】
この方法で、AAV9NS1(SA、破壊されている)、AAV9NS2(SD、破壊されている)、およびAAV9NS3(SDとSAの両方、破壊されている)のキャップORFを作成した(
図9)。アンチセンス配向のこれらのORFを、Neuro2a細胞のhSynIエンハンサープロモーターの制御化で、一時的なプラスミドトランスフェクションによって発現させ、そしてアンチセンス転写産物をRT-PCRによって分析した。この実験は、スプライシングが、NS1、NS2、およびNS3キャップORFのすべてにおいて有効に抑制され得ることを明らかにした(
図10)。スプライシングがキャップORF由来アンチセンスmRNAで生じた場合でも、キャップORFの比較的小さなペプチド挿入領域を、RT-PCRによってmRNA前駆体から回収することがなお可能であることに留意されたい。
【0066】
本明細書に記載のTRADE方法は、ウイルスタンパク質の進化にアンチセンスmRNAを使用して、原理の実証を確立し、そして実施するべき方法が成功裡に削減されることを示す。TRADEシステムはまた、ウイルスを産生することができ、そして指向進化手順中の標的細胞におけるウイルスタンパク質の潜在的発現が新しいキャプシドの連続的進化を妨げない限り、mRNAをセンス配向で利用することができる。
【0067】
核酸スプライシングとAAVに関係する追加情報は、Desmet et al.,Nucleic Acids Res 37,e67 (2009);Matsuzaki et al.,Neurosci Lett 665,182-188 (2018);および、Hordeaux et al.,Mol Ther 26,664-668 (2018)に確認することができる。
【0068】
本開示で引用される全ての参考文献は、参照によってその全体が組み込まれる。