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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161397
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】一価選択性陽イオン交換膜
(51)【国際特許分類】
   B01J 47/12 20170101AFI20241112BHJP
   B01J 39/18 20170101ALI20241112BHJP
   B01J 41/12 20170101ALI20241112BHJP
   B01J 49/75 20170101ALI20241112BHJP
   C02F 1/42 20230101ALI20241112BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20241112BHJP
   B01J 39/07 20170101ALI20241112BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241112BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B01J47/12
B01J39/18
B01J41/12
B01J49/75
C02F1/42 A
C02F1/42 B
B01J39/05
B01J39/07
B01D61/46 500
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/82 500
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024120227
(22)【出願日】2024-07-25
(62)【分割の表示】P 2021510336の分割
【原出願日】2019-09-25
(31)【優先権主張番号】62/736,176
(32)【優先日】2018-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/737,373
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/861,608
(32)【優先日】2019-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】513180152
【氏名又は名称】エヴォクア ウォーター テクノロジーズ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】Evoqua Water Technologies LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ グ
(72)【発明者】
【氏名】サヴァス ハジキリアコウ
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ピー デュークス
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ジェイ ショー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】一価選択性イオン交換膜、一価選択性陽イオン交換膜支持体、一価選択性陽イオン交換膜を製造する方法、イオン交換膜を用いる水処理システム、及び電気化学的分離装置を用いて水処理を容易にする方法を提供する。
【解決手段】一価選択性イオン交換膜は、ポリマー微孔性基板、基板の表面上の架橋イオン輸送ポリマー層、及びイオン輸送層に共有結合した帯電機能化層を含む。一価選択性陽イオン交換膜を製造する方法は、スチレン中間層をポリマー微孔性基板の表面上の架橋イオン輸送ポリマー層に化学的に吸着させること、スチレン中間層をクロロスルホン化して塩化スルホニル基層を付着させること、スルホニル基層をアミノ化してアミン基層を付着させること、及びアミン基層を帯電化合物層で機能化して陽イオン交換膜を製造することを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー微孔性基板;
前記基板の表面上の架橋イオン輸送ポリマー層;および
前記架橋イオン輸送ポリマー層に共有結合した帯電機能化層
を含む、一価選択性イオン交換膜。
【請求項2】
前記膜が、約20μm~約155μmの総厚さを有する、請求項1に記載の一価選択性
イオン交換膜。
【請求項3】
前記膜が、約25μm~約55μmの総厚さを有する、請求項2に記載の一価選択性イ
オン交換膜。
【請求項4】
陽イオン交換膜であり、前記帯電機能化層が、正に帯電した機能化層である、請求項1
に記載の一価選択性イオン交換膜。
【請求項5】
前記正に帯電した機能化層が、スルホン酸基、カルボン酸基、第四級アンモニウム、お
よび正に帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミン基のうちの少なくとも1つ
を含む、請求項4に記載の一価選択性イオン交換膜。
【請求項6】
陰イオン交換膜であり、前記帯電機能化層が負に帯電した機能化層である、請求項1に
記載の一価選択性イオン交換膜。
【請求項7】
少なくとも100%の対イオン選択透過性を有する。請求項1に記載の一価選択性イオ
ン交換膜。
【請求項8】
室温で8~12倍のNa/Ca(ppm)の初期選択性を有する、請求項1に記載の一
価選択性イオン交換膜。
【請求項9】
約5Ω-cm未満の抵抗率を有する、請求項1に記載の一価選択性イオン交換膜。
【請求項10】
前記ポリマー微孔性基板が、高密度ポリエチレン(HDPE)および超高分子量ポリエ
チレン(UHMWPE)のうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の一価選択性イ
オン交換膜。
【請求項11】
ポリマー微孔性基板;
前記基板の表面上の架橋イオン輸送ポリマー層;および
前記架橋イオン輸送ポリマー層に共有結合したアミン基を含む中間層
を含む、一価選択性陽イオン交換膜支持体。
【請求項12】
前記中間層が、第一級アミン基または第二級アミン基を含む、請求項11に記載の一価
選択性陽イオン交換膜支持体。
【請求項13】
前記中間層が、ポリエチレンイミン(PEI)を含む、請求項11に記載の一価選択性
陽イオン交換膜支持体。
【請求項14】
前記中間層が、少なくとも600g/molの分子量を有する分岐PEIを含む、請求
項11に記載の一価選択性陽イオン交換膜支持体。
【請求項15】
前記中間層が、スチレン基によって前記架橋イオン輸送ポリマー層に共有結合している
、請求項11に記載の一価選択性陽イオン交換膜支持体。
【請求項16】
前記スチレン基が、クロロスルホン化ジビニルベンゼン(DVB)に化学的に結合して
いる、請求項15に記載の一価選択性陽イオン交換膜支持体。
【請求項17】
一価選択性陽イオン交換膜を製造する方法であって、
スチレン中間層を、ポリマー微孔性基板の表面上の架橋イオン輸送ポリマー層に化学的
に吸着させることと、
前記スチレン中間層をクロロスルホン化して、塩化スルホニル基層を前記ポリマー微孔
性基板の表面に付着させることと、
前記スルホニル基層をアミノ化して、アミン基層を前記ポリマー微孔性基板の表面に付
着させることと、
前記アミン基層を帯電化合物層で機能化して、前記一価選択性陽イオン交換膜を製造す
ることと、
を含む、一価選択性陽イオン交換膜を製造する方法。
【請求項18】
ポリマー微孔性基板の表面上の前記架橋イオン輸送ポリマー層にスチレンDVBを化学
的に吸着することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記スチレンDVBをクロロスルホン酸(ClSOH)でクロロスルホン化して、C
lSO基をスチレンDVBに結合させることを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ClSOをPEIでアミノ化することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも600g/molの分子量を有する分岐PEIで前記ClSOをアミノ化
することを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記アミン基層を正に帯電した基で機能化することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記アミン基層を正に帯電したアンモニウムで機能化することを含む、請求項22に記
載の方法。
【請求項24】
前記ポリマー微孔性基板を、イオノゲンモノマー、多官能モノマー、および重合開始剤
を含む溶液に浸漬して、前記架橋イオン輸送ポリマー層を製造することをさらに含む、請
求項17に記載の方法。
【請求項25】
処理される水源;
前記処理される水源に流体的に接続されており、陽イオン交換膜の表面に共有結合した
帯電機能化層を有する少なくとも1つの一価選択性陽イオン交換膜を含む、電気化学的分
離装置;および
前記電気化学的分離装置に流体的に接続されている処理水出口
を含む、水処理システム。
【請求項26】
前記処理される水源が、Ca2+およびMg2+から選択される少なくとも1つの硬度
イオンを含む、請求項25に記載の水処理システム。
【請求項27】
前記帯電機能化層が、スルホン酸基、カルボン酸基、第四級アンモニウム、および正に
帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミン基のうちの少なくとも1つを含む正
に帯電した機能化層である、請求項25に記載の水処理システム。
【請求項28】
前記帯電機能化層が、化学的に吸着された分岐PEI層によって前記陽イオン交換膜の
表面に共有結合している、請求項27に記載の水処理システム。
【請求項29】
電気化学的分離装置を用いて水処理を容易にする方法であって、
陽イオン交換膜の表面に共有結合した帯電機能化層を有する一価選択性陽イオン交換膜
を準備することと、
前記電気化学的分離装置に前記一価選択性陽イオン交換膜を取り付けるようにユーザー
に指示することと、
を含む、電気化学的分離装置を用いて水処理を容易にする方法。
【請求項30】
前記電気化学的分離装置を、Ca2+およびMg2+から選択される少なくとも1つの
硬度イオンを含む処理される水源に流体的に接続するようにユーザーに指示することを含
む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記一価選択性陽イオン交換膜を提供することが、
ポリマー微孔性基板の表面に共有結合したアミン基層を有するポリマー微孔性基板を有
する一価選択性陽イオン交換膜支持体を準備することと、
前記アミン基層を帯電化合物層で機能化して前記陽イオン交換膜を製造するようにユー
ザーに指示することと、
を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
一価選択性陽イオン交換膜であって、
ポリマー微孔性基板および前記ポリマー微孔性基板の表面に共有結合した正に帯電した
機能化層を含み、
前記一価選択性陽イオン交換膜が、室温で8~12倍のNa/Ca(pm)の初期選択
性を有する、一価選択性陽イオン交換膜。
【請求項33】
室温で0.5M NaClで400日後に4~8倍のNa/Ca(ppm)の選択性を
有する、請求項32に記載の一価選択性陽イオン交換膜。
【請求項34】
80℃で10~40倍のNa/Ca(モル)の初期選択性を有する、請求項32に記載
の一価選択性陽イオン交換膜。
【請求項35】
80℃で0.5M NaClで30日後に3~6倍のNa/Ca(モル)の選択性を有
する、請求項34に記載の一価選択性陽イオン交換膜。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、米国特許法第119条の下で2018年9月27日に提出された題名「一
価選択性陽イオン交換膜」の米国仮出願番号第62/737,373、2018年9月2
5日に提出された題名「UV開始重合による陽イオン交換膜」の米国仮出願番号第62/
736,176、および2019年6月14日に提出された題名「UV光重合による交換
膜調製」の米国仮出願番号第62/861,608の優先権を主張し、これらのそれぞれ
は、あらゆる目的のためにその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本明細書に開示される態様および実施形態は、概して、イオン交換膜、より具体的には
、一価選択性イオン交換膜に関する。
【発明の概要】
【0003】
一態様によれば、一価選択性イオン交換膜が提供される。一価選択性イオン交換膜は、
ポリマー微孔性基板を含み得る。一価選択性イオン交換膜は、基板の表面上の架橋された
イオン輸送ポリマー層を含み得る。一価選択性イオン交換膜は、架橋されたイオン輸送ポ
リマー層に共有結合した帯電機能化層を含み得る。
【0004】
いくつかの実施形態では、膜は、約20μm~約155μmの総厚を有し得る。膜は、
約25μm~約55μmの総厚を有し得る。
【0005】
一価選択性イオン交換膜は、陽イオン交換膜であり得る。帯電機能化層は、正に帯電し
た機能化層であり得る。
【0006】
いくつかの実施形態において、正に帯電した機能化層は、スルホン酸基、カルボン酸基
、第四級アンモニウム、および正に帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミン
基のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0007】
一価選択性膜は、陰イオン交換膜であり得る。帯電した機能化層は、負に帯電した機能
化層であり得る。
【0008】
一価選択性イオン交換膜は、少なくとも100%の対イオン選択透過性を有し得る。
【0009】
一価選択性イオン交換膜は、室温で8~12倍のNa/Ca(ppm)の初期選択性を
有し得る。
【0010】
一価選択性膜は、約5Ω-cm未満の抵抗を有し得る。
【0011】
ポリマー微孔性基板は、高密度ポリエチレン(HDPE)および超高分子量ポリエチレ
ン(UHMWPE)のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0012】
別の態様によれば、一価選択性陽イオン交換膜支持体が提供される。一価選択性陽イオ
ン交換膜支持体は、ポリマー微孔性基板を含み得る。一価選択性陽イオン交換膜支持体は
、その基板の表面上の架橋されたイオン輸送ポリマー層を含み得る。一価選択性陽イオン
交換膜支持体は、架橋されたイオン輸送ポリマー層に共有結合したアミン基を含む中間層
を含み得る。
【0013】
いくつかの実施形態では、中間層は、第一級アミン基または第二級アミン基を含み得る
【0014】
中間層は、ポリエチレンイミン(PEI)を含み得る。
【0015】
中間層は、少なくとも600g/molの分子量を有する分岐PEIを含み得る。
【0016】
中間層は、スチレン基によって、架橋されたイオン輸送ポリマー層に共有結合されてい
てもよい。
【0017】
スチレン基は、クロロスルホン化ジビニルベンゼン(DVB)に化学的に結合していて
もよい。
【0018】
別の態様によれば、一価選択性陽イオン交換膜を製造する方法が提供される。この方法
は、スチレン中間層を、ポリマー微孔性基板の表面上の架橋されたイオン輸送ポリマー層
に化学的に吸着させることを含み得る。この方法は、スチレン中間層をクロロスルホン化
して、塩化スルホニル基層をポリマー微孔性基板の表面に付着させることを含み得る。こ
の方法は、スルホニル基層をアミノ化して、アミン基層をポリマー微孔性基板の表面に付
着させることを含み得る。この方法は、アミン基層を帯電化合物層で機能化して、一価選
択性陽イオン交換膜を製造することを含み得る。
【0019】
いくつかの実施形態では、この方法は、ポリマー微孔性基板の表面上の架橋されたイオ
ン輸送ポリマー層にスチレンDVBを化学的に吸着することを含み得る。
【0020】
この方法は、スチレンDVBをクロロスルホン酸(ClSOH)でクロロスルホン化
して、ClSO基をスチレンDVBに結合させることを含み得る。
【0021】
この方法は、ClSOをPEIでアミノ化することを含み得る。
【0022】
この方法は、少なくとも600g/molの分子量を有する分岐PEIでClSO
アミノ化することを含み得る。
【0023】
この方法は、アミン基層を正に帯電した基で機能化することを含み得る。
【0024】
この方法は、正に帯電したアンモニウムでアミン基層を機能化することを含み得る。
【0025】
この方法は、ポリマー微孔性基板を、イオノゲンモノマー、多官能モノマーおよび重合
開始剤を含む溶液に浸漬して、架橋されたイオン輸送ポリマー層を生成することをさらに
含み得る。
【0026】
別の態様によれば、水処理システムが提供される。水処理システムは、処理される水の
源を含み得る。水処理システムは、処理される水源に流体接続され、陽イオン交換膜の表
面に共有結合された帯電機能化層を有する少なくとも1つの一価選択性陽イオン交換膜を
含む、電気化学的分離装置を含み得る。水処理システムは、電気化学的分離装置に流体的
に接続された処理水出口を含み得る。
【0027】
いくつかの実施形態では、処理される水源は、Ca2+およびMg2+から選択される
少なくとも1つの硬度イオンを含み得る。
【0028】
いくつかの実施形態において、帯電機能化層は、スルホン酸基、カルボン酸基、第四級
アンモニウム、および正に帯電したアンモニウムに加水分解された第三級アミン基のうち
の少なくとも1つを含む正に帯電した機能化層であり得る。
【0029】
いくつかの実施形態では、帯電した機能化層は、化学的に吸着された分岐PEI層によ
って、陽イオン交換膜の表面に共有結合されていてもよい。
【0030】
別の態様によれば、電気化学的分離装置を用いて水処理を容易にする方法が提供される
。この方法は、陽イオン交換膜の表面に共有結合した帯電機能化層を有する一価選択性陽
イオン交換膜を準備することを含み得る。この方法は、電気化学的分離装置に一価選択性
陽イオン交換膜を設置するようにユーザーに指示することを含み得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、この方法は、電気化学的分離デバイスを、Ca2+およびM
2+から選択される少なくとも1つの硬度イオンを含む処理される水源に流体接続する
ようにユーザーに指示することを含み得る。
【0032】
この方法は、ポリマー微孔性基板の表面に共有結合したアミン基層を有するポリマー微
孔性基板を有する一価選択性陽イオン交換膜支持体を準備することを含み得る。この方法
は、アミン基層を帯電化合物層で機能化して陽イオン交換膜を生成するようにユーザーに
指示することをさらに含み得る。
【0033】
さらに別の態様によれば、一価選択性陽イオン交換膜が提供される。陽イオン交換膜は
、ポリマー微孔性基板と、ポリマー微孔性基板の表面に共有結合した正に帯電した機能化
層とを含み得る。一価選択性陽イオン交換膜は、室温で8~12倍のNa/Ca(ppm
)の初期選択性を有し得る。
【0034】
一価選択性陽イオン交換膜は、室温で0.5M NaCl中で400日後に4~8倍の
Na/Ca(ppm)選択性を有し得る。
【0035】
一価選択性陽イオン交換膜は、80℃で10~40倍のNa/Ca(モル)の初期選択
性を有し得る。
【0036】
一価選択性陽イオン交換膜は、80℃で0.5M NaCl中で30日後に3~6倍の
Na/Ca(モル)選択性を有し得る。
【0037】
本開示は、前述の態様および/または実施形態のいずれか1つ以上のすべての組み合わ
せ、ならびに詳細な説明および任意の例に記載された実施形態のいずれか1つ以上との組
み合わせを企図する。
【0038】
添付の図面は、原寸に比例して描かれることを意図したものではない。図面では、様々
な図に示されている各同一またはほぼ同一の構成要素は、同様の数字で表されている。明
確さのために、すべての構成要素がすべての図面で標識化されているわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、第一級(-NH2)、第二級(-NH-)、および第三級アミン基を示すポリエチレンイミン(PEI)分子の化学構造の表現である。
図2図2は、一実施形態による、PEIの第一級または第二級アミンと陽イオン交換膜表面のスルホン酸基との間の物理吸着によるイオン結合の形成の表現である。
図3図3は、一実施形態による、PEIの第一級または第二級アミンとクロロスルホン酸(ClSOH)との間の化学吸着による共有結合の形成の表現であり、これは2段階プロセスとして起こる。
図4図4Aは、従来の膜を用いた水処理についての、経時的な希薄ストリーム中のCa2+およびNaの濃度のグラフである。図4Bは、代替の従来の膜を用いた水処理についての、経時的な希薄ストリーム中のCa2+およびNaの濃度のグラフである。
図5図5は、一実施形態による、一価選択性イオン交換膜を用いた水処理についての、経時的な希薄ストリーム中のCa2+およびNaの濃度のグラフである。
図6図6Aは、一実施形態による、一価選択性イオン交換膜で処理された実験地下水のイオン濃度およびナトリウム吸収率(SAR)値のグラフである。図6Bは、従来の陽イオン交換膜で処理された実験地下水のイオン濃度とSAR値のグラフである。
図7図7は、一実施形態による、一価選択性イオン交換膜で処理された実験海水中のイオン濃度のグラフである。
図8図8は、一実施形態による、一価選択性イオン交換膜を用いた水処理についての経時的な一価輸送選択性のグラフである。
図9図9は、膜選択性実験装置の概略図である。
図10図10Aは、一実施形態による、一価選択性陽イオン交換膜によって脱塩された希薄ストリーム中の標的陽イオンの濃度を示すグラフである。図10Bは、従来の陽イオン交換膜によって脱塩された希薄ストリーム中の標的陽イオンの濃度を示すグラフである。図10Cは、一実施形態による、一価選択性陽イオン交換膜によって生成された希薄ストリーム中の標的陽イオンの濃度を示すグラフである。図10Dは、従来の陽イオン交換膜によって生成された希薄ストリーム中の標的陽イオンの濃度を示すグラフである。
図11図11Aは、一実施形態による、300A/mの印加密度で海水を処理するための一価選択性陰イオン交換膜を使用した濃縮コンパートメント内の選択イオンの濃度のグラフである。図11Bは、一実施形態による、300A/mの印加電流密度で海水を処理するための一価選択性陽イオン交換膜を使用した濃縮コンパートメント内の選択イオンの濃度のグラフである。
図12図12Aは、一実施形態による、従来の/市販の一価選択性膜および本明細書に開示される一価選択性膜の80℃での寿命選択性(安定性)を示すグラフである。図12Bは、一実施形態による、従来の/市販の一価選択性膜および本明細書に開示される一価選択性膜の室温での寿命選択性(安定性)を示すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0040】
本明細書に開示される実施形態は、イオン交換膜およびそれらの製造のためのプロセス
を提供する。本明細書に記載の電気透析(ED)膜は、一般に、低抵抗と高選択透過性を
組み合わせることができる。それらの特性は、水淡水化用途、特に海水淡水化において、
それらを非常に効果的にし得る。それらの特性は、灌漑用水の処理、特にナトリウム吸収
率(SAR)値の調整において、それらを非常に効果的にし得る。本明細書に記載のイオ
ン交換膜は、1つ以上の単官能性イオノゲンモノマーを、任意に、中性モノマー、少なく
とも1つの多官能モノマーと多孔質基板の細孔内で重合することによって製造することが
できる。
【0041】
イオン交換膜は、通常、電気的または化学的ポテンシャルの下で陽イオンまたは陰イオ
ンを輸送するために使用される。イオン交換膜は、その膜の大部分を構成するポリマー材
料に付着した負または正のいずれかに帯電した基を有し得る。各基の対イオンは、通常、
輸送可能なイオンとして機能する。陽イオン交換膜は、固定された負電荷と可動性の正に
帯電した陽イオンを有し得る。陰イオン交換膜は、固定された正に帯電した基と可動性の
負に帯電した陰イオンを有し得る。イオン交換膜の特性は、固定されたイオン基の量、種
類、および分布を制御することによって操作することができる。これらの膜は、強酸、強
塩基、弱酸、または弱塩基膜として説明することができる。強酸陽イオン交換膜は、通常
、帯電した基としてスルホン酸基を有する。弱酸膜は、通常、固定された帯電した基を構
成するカルボン酸基を有する。四級および三級の正に帯電したアンモニウムは、それぞれ
、強塩基および弱塩基の陰イオン交換膜において、固定された正に帯電した基を生成し得
る。
【0042】
イオン交換膜は、電気透析(ED)による水の脱塩について、逆電気透析の発電源、ま
たは燃料電池のセパレーターとして使用できる。したがって、本明細書に開示される水処
理システムは、脱塩システム、発電システム、もしくは逆電気透析システムであり得るか
、または脱塩システム、発電システム、もしくは逆電気透析システムを含み得る。その他
の用途には、電気めっきおよび金属仕上げ産業での金属イオンの回収、ならびに食品およ
び飲料産業での用途が含まれる。他の実施形態では、本明細書に開示される水処理システ
ムは、金属イオン回収システムもしくは食品および飲料処理システムであり得るか、また
は金属イオン回収システムもしくは食品および飲料処理システムを含み得る。
【0043】
特定の例示的な実施形態では、本明細書に開示されるイオン交換膜は、地下水処理およ
び/または農業環境で使用することができる。本明細書に開示される水処理システムは、
地下水処理システムであり得るか、または地下水処理システムを含み得る。本明細書に開
示される水処理システムは、農業灌漑流去水処理システムであり得るか、または農業灌漑
流去水処理システムを含み得る。この方法は、地下水を処理することを含み得る。この方
法は、農業用水流去水を処理することを含み得る。
【0044】
電気透析は、一般に、直流電圧の原動力下で、対の陰イオンおよび陽イオン選択膜を通
してイオンおよびいくつかの帯電有機物を移動させることによって水を脱塩する。ED装
置は、セルの対向する壁として配置された、導電性で実質的に水不透過性の陰イオン選択
性および陽イオン選択性膜を含み得る。隣接するセルは、通常、セル対を形成する。膜ス
タックには、多くの、時には数百のセル対が含まれる場合がある。EDシステムには、多
くのスタックが含まれる場合がある。各膜スタックは、通常、スタックの一方の端にDC
(直流)アノードを有し、もう一方の端にDCカソードを有する。DC電圧下では、イオ
ンは、反対の電荷の電極に向かって移動し得る。
【0045】
セル対には、希薄セルと濃縮セルの2つのタイプのセルが含まれる。各タイプのセルは
、対向する膜によって画定され得る。1つの例示的なセル対は、2つのセルを形成する共
通の陽イオン輸送膜壁および2つの陰イオン輸送膜壁を含み得る。すなわち、第1の陰イ
オン輸送膜と陽イオン輸送膜が希薄セルを形成し、その陽イオン輸送膜と第2の陰イオン
輸送膜が濃縮セルを形成する。希薄セルでは、陽イオンは通常、アノードに面する陽イオ
ン輸送膜を通過するが、カソードに面する方向に濃縮セルの対の陰イオン輸送膜によって
停止される場合がある。同様に、陰イオンは、カソードに面する希薄セルの陰イオン輸送
膜を通過するが、アノードに面する隣接する対の陽イオン輸送膜によって停止される場合
がある。このようにして、希薄セル内の塩を除去することができる。隣接する濃縮セルで
は、陽イオンは一方向から入り、陰イオンは反対方向から入る場合がある。スタック内の
流れは、希薄な流れと濃縮した流れが別々に保たれるように配置することができる。した
がって、脱塩された水ストリームは、希薄な流れから生成され得る。
【0046】
十分な品質の灌漑用水の不足は、作物の収穫量に悪影響を及ぼし、需要の少ない作物種
の選択が必要になる場合がある。点滴灌漑などの技術を使用して、使用する水の量を減ら
す新しい灌漑方法も、灌漑に使用される水から土壌に塩と不純物が蓄積するため、持続不
可能な状態を引き起こす可能性がある。土壌の塩分は、作物と蒸発によってほとんどの水
が使用されるため、灌漑用水よりもはるかに高い濃度に上昇する場合がある。灌漑の状態
と、土壌を浸出させるための不十分な原水または不十分な降雨を伴う土壌の状態は、灌漑
水自体の4~5倍の土壌塩分をもたらし得る。さらに、土地が比較的浅い不浸透性の地層
で構成されている場合、灌漑用水が地下水面を上昇させることがある。高塩分地下水が作
物の根のレベルに達すると、その水は作物の成長に害を及ぼし得る。また、塩性土壌は、
土壌表面からの水の飛沫により、葉物作物に損傷を与え得る。さらに、農地から塩水が排
水されると、セレンもしくはホウ素などの土壌中の微量不純物または硝酸塩などの肥料使
用による残留汚染物質が排水を汚染し、安全な排水管理が困難になり得る。
【0047】
作物を灌漑する場合、収量は、総溶解塩(TDS)濃度の影響を受け得る。TDSは通
常、導電率の値と相関関係がある。例えば、1mS/cmの導電率値は、約500~70
0ppmTDSに対応する。様々な植物が、低TDS灌漑水から恩恵を受けている。例え
ば、豆、ニンジンおよびイチゴは、1mS/cm未満の導電率の水を用いた灌漑で恩恵を
受け得る。他の植物は、約5mS/cmの導電率の灌漑用水に耐えることができる。さら
に、あるTDSおよび導電率でのSAR値の制御は、土壌の凝集と効率的な水の浸透に影
響を与え得る。例えば、導電率が1mS/cm未満の灌漑用水は、土壌構造を維持するた
めに3を超えるSAR値の恩恵を受け得る。導電率が2~3mS/cmの灌漑用水は、約
10のSAR値の恩恵を受け得る。
【0048】
灌漑用水の必要性は、人間用の飲料水、家畜および野生生物用の汚染物質のない水とも
競合している。したがって、農業地域では灌漑用水と飲料水を組み合わせた水源が必要に
なるのが一般的である。本明細書に記載の膜は、農業灌漑用水処理に使用することができ
る。特に、本明細書に記載の膜は、農業用灌漑用水のTDS、導電率、およびSAR値を
制御するために使用することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の膜は
、1mS/cm未満の導電率を有する水を提供することができる。本明細書に記載の膜は
、2~3mS/cmの間、3~5mS/cmの間、または5mS/cmを超える(例えば
、5~7mS/cmの間)の導電率を有する水を提供し得る。本明細書に記載の膜は、3
を超える、例えば、3~5の間のSAR値を有する水を提供し得る。本明細書に記載の膜
は、5を超える、例えば5~10の間のSAR値を有する水を提供し得る。本明細書に記
載の膜は、約10以上、例えば10~12の間のSAR値を有する水を提供することがで
きる。
【0049】
一価選択性または一価選択性の膜は、主に一価のイオンを移動させる。一価選択性膜は
、電荷および/またはサイズに基づいてイオンを分離することができる。一価選択性膜は
、一価のイオンと二価のイオンを区別することができる。一価選択性陽イオン輸送膜は、
例えば、ナトリウムおよびカリウムなどの+1の電荷を有するイオンと、より大きな正電
荷を有するイオン、例えば、マグネシウムおよびカルシウムとを区別することができる。
したがって、本明細書に記載の一価選択性陽イオン交換膜は、カルシウムおよびマグネシ
ウムイオンなどの二価イオンの輸送を遮断しながら、ナトリウムおよびカリウムイオンな
どの一価イオンを選択的に輸送することができる。同様に、一価選択性陰イオン膜は、塩
化物、臭化物、硝酸塩などの-1の電荷を有するイオンを、より大きな負電荷を有するイ
オンから分離することができる。したがって、本明細書に記載の一価陰イオン交換膜は、
硫酸イオンなどの二価イオンの輸送を遮断しながら、塩化物イオンおよび硝酸イオンなど
の一価イオンを選択的に輸送することができる。
【0050】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、汽水および廃水の脱塩を処理するために使用す
ることができる。EDは一般に海水の使用には高価すぎると考えられているが、本明細書
に開示されるイオン交換膜は、海水の淡水化に効率的に使用することができる。効果的か
つ効率的な海水淡水化は、1Ω-cm未満、例えば、0.8Ω-cm未満、または0
.5Ω-cm未満の膜抵抗で実施することができる。本明細書に開示されるイオン交換
膜はまた、90%を超える、例えば、95%を超える、または98%を超えるイオン選択
透過性を提供し得る。さらに、本明細書に開示されるイオン交換膜は、同等の従来のイオ
ン交換膜よりも長い耐用年数ならびにより大きな物理的強度および化学的耐久性を有する
。最後に、本明細書に開示されるイオン交換膜は、比較的低コストで製造することができ
る。
【0051】
結果として、本明細書に開示されるイオン交換膜は、逆電気透析(RED)に使用され
得る。REDは、塩分濃度の異なる2つの水溶液を混合することで生成された自由エネル
ギーを電力に変換するために使用できる。一般的に、塩分濃度の差が大きいほど、発電の
可能性が高くなる。本明細書に開示される水処理システムは、REDシステムであり得る
か、またはREDシステムを含み得る。本明細書に開示される方法は、電力を生成するた
めに使用することができる。
【0052】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、高分子電解質膜(PEM)として使用すること
ができる。PEMは、電解質としてもセパレーターとしても機能し、アノードからの水素
とカソードに供給される酸素とが直接物理的に混合するのを防ぐことができるタイプのイ
オン交換膜である。PEMは、結合された、またはPEMを構成するポリマーの一部とし
て、スルホン酸基などの負に帯電した基を含み得る。プロトンは通常、ある固定された負
電荷から別の電荷にジャンプして膜を透過することによって、膜を通って移動する。
【0053】
本明細書に開示される膜は、一般に、イオン交換膜支持体およびそのイオン交換膜支持
体に共有結合した帯電機能化層を含み得る。イオン交換膜支持体は、ポリマー微孔性基板
およびその基板の表面上の架橋イオン輸送ポリマー層を含み得る。中間製造工程として、
膜支持体は、架橋イオン輸送ポリマー層に共有結合したアミン基層をさらに含み得る。
【0054】
本明細書に記載の膜は、一般に、良好な機械的強度を示し得る。機械的強度は、膜が連
続的な膜製造プロセスの応力に耐え、製造され、操作のある時間後に現れる可能性のある
明白な損傷または隠れた損傷なしに最終的な膜保持デバイスまたはモジュールに密封され
得ることを可能にするのに十分であり得る。さらに、機械的強度は、高い寸法安定性を提
供するのに十分であり得る。膜は、一般に、脱塩装置として機能している間、洗浄、消毒
もしくは防汚レジームの間、または輸送中もしくは保管中に、寸法の最小の変動を示し得
る。例えば、膜に接触する流体のイオン含有量または温度の変化に対する高い寸法安定性
が提供され得、その結果、動作中に、電流の非効率につながる可能性のある膜対間の距離
の変動が最小限に抑えられる。電気透析中の寸法の変化は、拘束された膜に応力を引き起
こし、膜の欠陥および性能の低下につながる可能性があり、一般に最小限に抑えることが
できる。
【0055】
本明細書に記載の膜は、低い抵抗を示し得る。一般に、抵抗が低いと、淡水化に必要な
電気エネルギーが減り、運用コストが下がる。比膜抵抗は、Ω-cmで測定されることが
ある。もう1つの工学的尺度は、Ω-cmである。抵抗は、電解質溶液中の既知の面積
の2つの電極を有するセルを使用する抵抗試験プロセスによって測定することができる。
電極には通常、白金または黒色のグラファイトが使用される。次に、電極間の抵抗が測定
される。既知の面積の膜サンプルを、電解質溶液中の電極間に配置することができる。電
極は膜に触れない。次に、膜を所定の位置に置いた状態で抵抗を再度測定する。次に、膜
が所定の位置にある場合の試験結果から、膜がない場合の電解質抵抗を差し引くことによ
って、膜抵抗を見積もることができる。
【0056】
抵抗はまた、膜によって分離された2つの十分に撹拌されたチャンバーを有するセル内
の電圧対電流曲線を決定することによって測定され得る。カロメル電極を使用して、膜全
体の電位降下を測定することができる。電位降下対電流曲線の傾きは、電圧を変化させて
電流を測定することによって得られる。
【0057】
電気化学的インピーダンスも計算に使用できる。この方法では、交流電流を膜全体に印
加することができる。単一周波数での測定によって、膜の電気化学的特性に関連するデー
タが得られる。周波数と振幅の変動を使用することによって、詳細な構造情報を取得でき
る。
【0058】
本明細書に記載の膜は、高い対イオン選択透過性を有し得る。選択透過性は、一般に、
電気透析中の対イオンの共イオンへの相対輸送を指す場合がある。理論的に理想的な陽イ
オン交換膜の場合、正に帯電したイオンのみが膜を通過し、1.0または100%の対イ
オン選択透過性が得られる。選択透過性は、異なる濃度の一価塩溶液を分離しながら、膜
全体の電位を測定することによって見つけることができる。
【0059】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、減少した水の透過を有し得る。希薄ストリーム
と濃縮ストリームとの間の浸透圧差の駆動力下での膜欠陥を通る希薄流の浸透は、効率を
低下させ得る。水の浸透は、純水を除去することで、現在の効率と精製水の生産性を低下
させ得る。膜の濃縮物(塩水)側と膜の純水側との間の高い濃度差は、通常、浸透圧駆動
力を増大させるため、薄い膜を用いた海水電気透析では、水分損失が特に深刻になり得る
。膜の欠陥は、高い浸透圧がそのような欠陥を通して純水を強制し、水の損失を増加させ
、電力消費を増加させる傾向があるため、操作に特に有害であり得る。
【0060】
本明細書に開示される膜は、一般に、陽イオンの高い透過性および低い浸透流を可能に
する構造を有し得る。本明細書で使用される見かけの対イオン選択透過性は、対イオン(
陽イオン)と共イオン(陰イオン)の輸送速度の比である。従来の測定パラメータは、対
イオン除去率を示していない。特定の実施形態において、本明細書に開示される膜は、陽
イオン透過性を制御するように操作され得る。
【0061】
陽イオンの透過性は、そのイオンの構造(分子サイズと総電荷)および膜の微細構造の
影響によって制御し得る。膜が比較的小さい細孔を有するように設計されている場合、膜
の微細構造は対イオン透過性を遅らせることができる。相対的な用語は、対イオンが、見
かけの直径よりわずかに大きいトンネルを通過しているかのように、膜を通過する際に膜
材料との相互作用から高い抵抗に遭遇することを意味すると解釈できる。膜の含水量は比
較的低く、対イオン透過性の経路が減少する傾向がある。対イオン透過性を高めるための
親水性モノマーの含有量と架橋モノマーの量と性質のバランスをとることによって、膜の
含水量と有効細孔径を操作することができる。架橋性モノマーは、疎水性または親水性モ
ノマーであるように選択することができる。
【0062】
本明細書に開示される膜は、一般に、イオン交換膜支持体を含み得る。イオン交換膜支
持体は、ポリマー微孔性基板およびその基板の表面上の架橋イオン輸送ポリマー層を含み
得る。膜支持体は、適切な多孔質基板を選択し、その基板の表面に架橋イオン輸送ポリマ
ー層を組み込むことを含むプロセスによって製造することができる。
【0063】
微孔性膜基板は、ポリオレフィン、ポリフッ化ビニリデン、または他のポリマーから製
造することができる。基板の1つの例示的なクラスは、薄いポリオレフィン膜を含む。別
の例示的なクラスの基板は、高密度ポリエチレン(HDPE)から製造される。別の例示
的なクラスの基板は、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)から製造される。微孔性
基板は、ポリプロピレン、高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、またはポリ
フッ化ビニリデンの微孔性膜を含み得る。基板は、一般に、約155μm未満、例えば、
約55μm未満または約25μm未満の厚さを有し得る。
【0064】
例示的な微孔性膜材料は、例えば、すべての目的のためにその全体が参照により本明細
書に組み込まれる米国特許第8,703,831号に開示されるように、非常に薄いイオ
ン交換膜を製造するために使用され得る。例示的なイオン交換膜は、12~100μm、
例えば、25~32μmの厚さを有し得る。薄い膜は、膜の大部分にわたって効果的な、
以下でより詳細に説明される高速クロロスルホン化反応を可能にする。例えば、バルクク
ロロスルホン化を完了するには、5分間のクロロスルホン化反応で十分な場合がある。し
たがって、本明細書に記載の方法は、膜の大部分を約5分でクロロスルホン化するのに有
効なクロロスルホン化反応を実施することを含み得る。
【0065】
さらに、特定の例示的な微孔性膜材料を使用して、攻撃的な化学物質に対する安定性を
提供することができる。例えば、HDPEの膜基板は、一般的にClSOHに対して安
定である。ポリプロピレンなどの材料は、ClSOHに対して十分に安定でない場合が
ある。
【0066】
基板膜の実施形態は、約45%を超える、例えば、約60%を超える多孔度を有し得る
。特定の実施形態では、基板膜は、約70%を超える多孔度を有し得る。基板膜は、約0
.05μm~約10μm、例えば、約0.1μm~約1.0μm、または約0.1μm~
約0.2μmの定格孔径を有し得る。
【0067】
膜支持体は、基板の細孔内のモノマー溶液を飽和させることによって製造することがで
きる。モノマー溶液は、細孔内の機能性モノマー、架橋剤、および重合開始剤から重合さ
れて、架橋された帯電ポリマーを形成し得る。特定の実施形態では、機能性モノマーは、
イオノゲンモノマー、例えば、単官能性イオノゲンモノマー、および多官能性モノマー、
例えば、架橋剤を含み得る。本明細書で使用される場合、イオノゲンモノマーという用語
は、一般に、少なくとも1つの帯電基が共有結合しているモノマー種を指し得る。以下で
より詳細に説明するように、帯電基は、正に帯電していても負に帯電していてもよい。単
官能性モノマーは、一般に、重合反応を進めるための単一の部位を有するモノマーを指し
得る。多官能性モノマーは、一般に、複数の重合反応部位を有し、したがってネットワー
ク化または架橋されたポリマーを形成することができるモノマーを指し得る。
【0068】
基板の細孔内で架橋イオン輸送ポリマー層を重合するプロセスは、単官能性イオノゲン
モノマー、多官能性モノマー、および重合開始剤を含む溶液で基板を飽和させることを含
み得る。このプロセスは、多孔質体積を溶液で飽和させたままにし、重合を開始しながら
、基板の表面から過剰な溶液を除去することを含み得る。重合は、必要に応じて実質的に
すべての酸素が存在しない状態で、熱、紫外線(UV)光、または電離放射線の適用によ
って開始することができる。このプロセスは、基板の細孔を実質的に完全に満たす架橋イ
オン輸送ポリマー層を組み込むために実施することができる。
【0069】
したがって、特定の実施形態では、膜支持体は、1つ以上のイオノゲンモノマー、中性
モノマー、および適切な架橋剤モノマーの重合によって生成され得る。例示的な中性モノ
マーは、ヒドロキシエチルアクリレートおよびヒドロキシメチルメタクリレートである。
他の中性モノマーは、本開示の範囲内にある。イオノゲンモノマーは、陽イオン交換膜ま
たは陰イオン交換膜を生成するように選択することができる。
【0070】
負に帯電した基を含むモノマーには、代表的な例として、そのような例に限定されない
が、陽イオン交換容量を提供するのに適したスルホン化アクリルモノマー、例えば、2-
スルホエチルメタクリレート(2-SEM)、2-プロピルアクリル酸、2-アクリルア
ミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、スルホン化グリシジルメタクリレー
ト、3-スルホプロピルメタクリレート、1-アリルオキシ-2 ヒドロキシプロピルス
ルホン酸ナトリウムなどが含まれる。他の例示的なモノマーは、アクリル酸およびメタク
リル酸またはそれらの塩、スチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸、スルホ
ン化ビニルベンジルクロリドナトリウム1-アリルオキシ-2ヒドロキシプロピルスルホ
ネート、4-ビニル安息香酸、トリクロロアクリル酸、ビニルリン酸およびビニルスルホ
ン酸である。好ましいモノマーは、2-スルホエチルメタクリレート(2-SEM)、ス
チレンスルホン酸およびその塩、ならびに2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスル
ホン酸(AMPS)である。
【0071】
本明細書に記載の陽イオン交換膜の実施形態は、約1.0Ω-cm未満、例えば、約
0.5Ω-cm未満の抵抗率を有し得る。本明細書に記載の陽イオン交換膜の特定の実
施形態は、約95%を超える、例えば、約99%を超える選択透過性を有し得る。いくつ
かの実施形態において、陽イオン交換膜の製造のためのイオノゲンモノマーは、2-スル
ホエチルメタクリレート(2-SEMもしくは2-アクリルアミド-2-メチルプロパン
スルホン酸(AMPS)であり得るか、または2-スルホエチルメタクリレート(2-S
EMもしくは2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)を含み得
る。1つの例示的な架橋剤は、エチレングリコールジメタクリレートである。他のイオノ
ゲンモノマーおよび架橋剤は、本開示の範囲内にある。
【0072】
正に帯電した基を含むモノマーには、代表的な例として、そのような例に限定されない
が、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチルアンモニウ
ムエチルメタクリレート、ポリアミンの第四級塩およびビニル芳香族ハロゲン化物、例え
ば、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンジ(ビニルベンジルクロリド)、(
1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)とピペラジンジビニルク
ロリドの第4級塩)、または環状エーテル、ポリアミン、およびハロゲン化アルキルの反
応によって形成される第4級塩、例えば、ヨードエチルジメチルエチレンジアミノ2-ヒ
ドロキシルプロピルメタクリレート(グリシジルメタクリレート(GMA)をN,N-ジ
メチルエチレンジアミンおよびヨウ化エチルと反応させることによって形成される第四級
アンモニウム塩)、およびビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドが含まれる。
陰イオン交換膜のための他の例示的なモノマーには、トリメチルアンモニウムエチルメタ
クリルクロリド、3-(アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N
,N,N’,N’,N”-ペンタメチルジエチレントリアミンジ(ビニルベンジルクロリ
ド(N,N,N’,N’,N”-ペンタメチルジエチレントリアミンとビニルベンジルク
ロリドの第四級塩)、グリシジルメタクリレート/トリメチルアミン、またはグリシジル
メタクリレート/N,N-ジメチルエチレンジアミン反応生成物が含まれる。
【0073】
本明細書に記載の陰イオン交換膜の実施形態は、約1.0Ω-cm未満、例えば、約
0.5Ω-cm未満の抵抗率を有し得る。特定の実施形態では、本明細書に記載の陰イ
オン交換膜は、約90%を超える、例えば、約95%を超える選択透過性を有し得る。い
くつかの実施形態では、陰イオン交換膜を製造するためのイオノゲンモノマーは、エチレ
ングリコールジメタクリレートで架橋されたトリメチルアンモニウムエチルメタクリルク
ロリド、またはエチレングリコールジメタクリレートで架橋されたグリシジルメタクリレ
ート/N,N-ジメチルエチレンジアミン反応生成物およびN,N,N’,N’,N”-
ペンタメチルジエチレントリアミンジ(ビニルベンジルクロリドの重合によって形成され
た架橋イオン輸送ポリマー(N,N,N’,N’,N”-ペンタメチルジエチレントリア
ミンとビニルベンジルクロリドの四級塩)または1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]
オクタンジ(ビニルベンジルクロリド)(1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタ
ン(DABCO)とビニルベンジルクロリドの四級塩)であり得るか、またはそれらを含
み得る。
【0074】
1つ以上のイオン性基を含む多官能性モノマーを使用することができる。その例に限定
されることなく、1,4-ジビニルベンゼン-3スルホン酸またはその塩などのモノマー
を使用することができる。架橋の程度は2%~60%の範囲であり得る。負または正に帯
電した基を含むモノマーとの架橋を提供するのに適した多官能性モノマーには、代表的な
例として、そのような例に限定されないが、エチレングリコールジメタクリレート、1,
3-ブタンジオールジメタクリレート、1,3-ブタンジオールジアクリレート、1,4
-ブタンジオールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,6-
ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、テトラエチ
レングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリアク
リレート、イソホロンジイソシアネート、グリシジルメタクリレート、トリメチロールプ
ロパントリメタクリレート、エトキシル化(n)ビスフェノールAジ(メタ)アクリレー
ト(n=1.5、2、4、6、10、30)、エトキシル化(n)トリメチロールプロパ
ントリ(メタ)アクリレート(n=3,6,9,10,15,20)、プロポキシル化(
n)トリメチロールプロパントリアクリレート(n=3,6)、ビニルベンジルクロリド
、グリシジルメタクリレートなどが含まれる。
【0075】
重合開始剤は、フリーラジカル重合開始剤であり得る。使用できるフリーラジカル重合
開始剤には、例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)、過硫酸アンモニウム、2,2’-ア
ゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンア
ミジン)二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2イル)プロパン]
二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、およ
びジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)が含まれる。
【0076】
基板の細孔充填または飽和プロセスは、空気の溶解度を下げるために、わずかに高い温
度(例えば、>40℃)で実行できる。他の実施形態では、基板の細孔または飽和プロセ
スは、配合溶液に沈められた基板サンプルの穏やかな真空処理の後に行うことができる。
基板サンプルを事前に浸してから、ポリエステルまたは同様のシート上に置き、カバーシ
ートで覆うことができる。浸されて覆われた基板は、滑らかにして気泡を除去することが
できる。いくつかの事前に浸した部分を層状にしてから、ポリエステルまたは同様のシー
ト上に置き、カバーシートで覆い、滑らかにして気泡を除去することができる。
【0077】
浸漬された基板は、完全な重合を開始するのに十分な温度および必要な時間、オーブン
内で加熱され得る。浸漬された基板は、重合を開始および完了するのに十分な温度および
必要な時間、加熱された表面上に置くことができる。重合反応を開始するための代替方法
を使用することができる。紫外光またはガンマ線もしくは電子ビーム放射などの電離放射
線を使用して、重合反応を開始することができる。
【0078】
連続パイロットまたは製造方法は、多孔質基板を飽和させること、重合を開始および完
了すること、および現在形成されている膜から非重合種を洗浄または浸出させることを含
み得る。膜は、任意に乾燥させることができる。塩溶液による調整は、塩溶液のタンクを
介して、または巻き上げられた膜のロールを浸漬することによって、またはモジュールに
製造した後など、連続浸漬プロセスで実行することができる。
【0079】
モノマー溶液が基板を濡らす溶媒で配合される場合、プロセスは、基板をロールからモ
ノマー配合物のタンクに供給し、そしてそれを通して、過剰な溶液を拭き取ることによっ
て開始することができる。浸漬された基板は、ロールから供給されたプラスチックシート
の2つの層の間に組み立てられ、2つのロールの間に挟まれて、空気を除去し、滑らかな
多層アセンブリを生成することができる。1つの例示的なシート材料は、ポリエチレンテ
レフタレートフィルムである。他のシート材料を使用することができる。そのアセンブリ
は、オーブンを通して、または加熱されたロール上で処理されて、重合を開始し、完了す
ることができる。1つの代替方法は、不活性ガスで覆われたオーブンを通して飽和シート
を流すことを含み得る。不活性ガスは、高沸点の溶媒での使用に適している場合がある。
【0080】
適切な重合開始剤によるUV光開始を使用することができる。この方法は、重合を開始
および完了するのに十分な強度および必要な時間で、アセンブリにUV光を照射すること
を含み得る。例えば、記載された3層アセンブリは、ウェブの片側または両側にUV光源
を備えた基板ウェブ用の入口および出口を有するトンネルまたは他のプロセス装置を介し
て実行され得る。高沸点配合物を用いて、この方法は、不活性ガス雰囲気中で実施するこ
とができる。
【0081】
カバーシートは、重合後に除去することができる。それから形成された膜は、洗浄され
、任意に乾燥され得る。
【0082】
有機溶媒を反応物担体として使用することができる。溶媒の1つの有用なクラスは、双
極性非プロトン性溶媒である。適切な溶媒のいくつかの例には、ジメチルアセトアミド、
ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルアミドまたは-ト
リアミド、アセトンアセトニトリル、およびアセトンが含まれる。有機溶媒は、イオン性
基を含むモノマーおよび水溶性ではないモノマーを溶媒和するために使用することができ
る。1つの例示的な溶媒は、N-メチルピロリドンである。使用できる他の溶媒は、N-
プロパノールおよびジプロピレングリコールである。特定の実施形態では、アルコール、
例えばイソプロパノール、ブタノール、様々なグリコールなどのジオール、またはグリセ
リンなどのポリオールなどの同様のヒドロキシ含有溶媒を使用することができる。他の溶
媒は、本開示の範囲内にある。議論された溶媒は、単独でまたは組み合わせて使用するこ
とができる。一部の溶媒は、イオン含有有機物の溶解度を高めるために水とともに使用さ
れ得る。
【0083】
モノマー混合物を選択して、架橋コポリマーを操作し、所望のバランスの特性を有する
膜を生成することができる。例えば、水溶性および/または膨潤性イオノゲンモノマーを
非水膨潤性コモノマーと組み合わせると、高度のイオン性基および水中での膨潤が低減さ
れたコポリマーを生成することができる。このようなイオン交換膜は、脱塩に使用するこ
とができる。特に、例示的なコポリマーは、水中でより良好な物理的強度を有し、水のイ
オン含有量の変化または温度変化に起因する使用時の寸法変化が少ない場合がある。した
がって、例示的なイオン交換膜は、例えば、海水電気透析のために、適切な機械的強度、
低い電気抵抗、および高い対イオン選択透過性を示し得る。
【0084】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、架橋イオン輸送ポリマー層に共有結合された帯
電機能化層を含み得る。
【0085】
多くのイオン交換膜は、多価選択的である。多価イオン選択性膜は、多価イオンの輸送
を選択するイオン交換膜を指し得る。例えば、EDに使用される一般的な陽イオンイオン
交換膜は、一価イオンよりも高速な多価イオン輸送を可能にする。多価イオンのより速い
輸送は、通常、同じ電場下での移動中に、より大きな電荷数のイオンがより大きな電気力
によって引き付けられるために発生する。
【0086】
本明細書に開示されるイオン交換膜は、一価選択性膜であり得る。イオン交換膜は、表
面枯渇条件、膜疎水性、架橋度、および膜固有電荷条件などの電荷因子を制御することに
よって、多価イオンに対して一価イオンを選択するように設計することができる。例えば
、陽イオン交換膜の架橋度および親水性の変更は、多価イオンに不利な膜内の低水条件を
作り出すことによって、多価イオン対一価イオンの有意な遅延をもたらし得る。
【0087】
本明細書に開示される一価選択性膜は、操作された表面修飾を有し得る。イオン交換膜
の表面修飾は、膜の表面に帯電分子を提供することによって生成し、より高い原子価電荷
数でイオン輸送を遅らせることができる。一価選択性陽イオンイオン交換膜は、表面に正
に帯電した分子を有し得る。例えば、強酸陽イオン交換膜は、帯電基としてスルホン酸基
で機能化され得る。弱酸膜は、固定帯電基を構成するカルボン酸基で機能化することがで
きる。四級および三級の正に帯電したアンモニウムを使用して、それぞれ、強塩基および
弱塩基の陰イオン交換膜の正に帯電した基で膜を機能化することができる。一価選択性陰
イオンイオン交換膜は、表面に負に帯電した分子を有し得る。
【0088】
さらに、表面電荷忌避剤の強度は、膜の表面上の電荷分布を制御することによって操作
することができる。電荷忌避剤の強度は、通常、同じ数の帯電分子が表面に提供されてい
る場合の電荷分布に依存する。簡単に言えば、イオン交換膜の電界強度はdq/dxで定
義され、式中、qは、電荷数または濃度、xは、イオン輸送に沿った深さである。
【0089】
したがって、いくつかの実施形態では、膜の表面に形成される帯電機能化層は、一価イ
オンと比べて多価イオンに強い障壁または非常に大きなdq/dx値を提供しながら、イ
オン輸送抵抗に実質的に影響を及ぼさない単層であるように選択され得る。さらに、単層
は、膜のコンダクタンス全体に大きな影響を与えない場合がある。例えば、単層は、イオ
ンによる水分子の輸送に大きな影響を与えない場合がある。
【0090】
イオン交換膜支持体の架橋イオン輸送ポリマー層は、中間層をポリマー層に共有結合さ
せ、中間層を帯電機能化層と反応させることによって機能化することができる。特定の実
施形態では、中間層は、アミン基を含む分子であり得る。中間反応中に、アミン基は、水
と交換して4つの共有結合またはアンモニウムを形成し得る。中間層は、表面吸着ポリエ
チレンイミン(PEI)を含み得る。様々な第一級、第二級および第三級アミンは、多価
イオンに有意な選択性を提供し得る。PEI分子構造が図1に示されている。
【0091】
前述のように、帯電機能化層は、単層であるように選択することができる。特に、帯電
機能化層は、イオン交換膜の表面上の単層であり得る。膜の大部分への機能化層の浸透は
、帯電したイオン輸送層と反応する場合があり、その結果、膜の選択透過性機能が低下す
る。したがって、中間層は、膜の細孔を実質的に貫通することなく、架橋ポリマーでコー
ティングされた微孔性ポリマー膜の表面に結合するのに十分なサイズを有し得る。例えば
、中間層は、ポリマー基板の微細孔を貫通することを実質的に阻害するのに十分なサイズ
を有し得る。
【0092】
中間層は、微孔性ポリマー基板の細孔よりも大きいサイズを有するように選択すること
ができる。したがって、いくつかの実施形態では、中間層は、少なくとも100g/mo
l、例えば、少なくとも600g/molの分子量を有する分子を含み得る。中間層は、
少なくとも1,000g/mol、例えば、少なくとも10,000g/molの分子量
を有する分子を含み得る。中間層は、少なくとも40,000g/mol、例えば、少な
くとも50,000g/molまたは少なくとも60,000g/molの分子量を有す
る分子を含み得る。中間層は、少なくとも70,000g/mol、少なくとも80,0
00g/molの分子量を有する分子を含み得る。中間層は、60,000g/mol~
120,000g/molの分子量を有する分子を含み得る。例示的な実施形態では、中
間層は、分岐PEIを含み得る。分岐PEIは、本明細書に記載されるような分子量を有
し得る。
【0093】
従来、PEIは、物理吸着によって陽イオン交換分子の表面にコーティングされ得る。
簡単に言えば、物理吸着は、図2に示されるように、架橋ポリマー層上にPEIのイオン
結合をもたらす物理吸着反応である。ただし、イオン結合は一般に安定ではないため、表
面が帯電した分子が水に溶解して選択性が失われる場合がある。
【0094】
本明細書に開示される方法は、化学吸着によって、中間層を架橋イオン輸送ポリマー層
に付着させることを含み得る。化学吸着は、一般に、中間層が共有結合によって結合され
るように、中間層をポリマー層に化学的に吸着させることを含み得る。したがって、本明
細書に開示されるイオン交換膜支持体は、共有結合によって結合された中間層を有し得る
。共有結合は、イオン交換膜の表面安定性を向上させ得る。結果として、共有結合は、よ
り長い寿命のために膜の選択性を高め得る。いくつかの実施形態では、イオン交換膜は、
150日を超える、例えば、室温での使用で400日を超える動作寿命を有し得る。イオ
ン交換膜は、室温での使用において2年以上または3年以上の動作寿命を有し得る。さら
に、イオン交換膜は、80℃での使用で30日を超える動作寿命を有し得る。
【0095】
中間層は、中間層を架橋イオン輸送ポリマー層に共有結合するように構成された結合基
を有し得る。結合基は、安定性を高めるために選択し得る。例えば、結合基は、使用中に
処理される水中の有機化合物に耐えるのに十分に安定である結合を提供するように選択さ
れ得る。特に、結合基は、使用中に長期間ベンザイン、トルエン、エチルベンゼン、およ
びキシレンなどの有機汚染物質に耐えるのに十分に安定であり得る。したがって、本明細
書に開示されるイオン交換膜は、生成水、地下水、汽水、塩水、および海水などの有機汚
染物質を含む廃水を処理するために使用することができる。廃水は、例えば、約100~
1000ppmのTDSを含み得る。特定の実施形態では、廃水は、例えば、約100~
400ppmのTDS、約400~600ppmのTDS、または約600~1000p
pmのTDSを含み得る。
【0096】
本明細書に開示される一価選択性陽イオン交換膜は、少なくとも1つの硬度イオンを含
む水を処理するために使用され得る。例えば、処理される水は、少なくとも1つの正に帯
電した二価イオンを含み得る。特定の実施形態では、処理される水は、Ca2およびM
g2から選択される少なくとも1つの硬度イオンを含み得る。さらに、本明細書に開示
される一価選択性陽イオン交換膜は、高ナトリウム含有量の水を使用すると土壌に損傷を
与える可能性があるが、マグネシウムおよびカルシウムが有益である、農業用水処理に使
用できる。
【0097】
例示的な一実施形態では、結合基は、スチレン基であり得る。アミン中間層をイオン架
橋ポリマー層に化学吸着することは、アミン中間層をその表面にプラズマグラフトするこ
とを含み得る。
【0098】
中間層の化学吸着は、多段階法で実施することができる。1つの例示的な実施形態では
図3に示すように、アミン基は、塩化スルホニルと反応して、一連の反応において安定
な固定化アミン基を形成し得る。簡単に言えば、イオン交換膜を製造する方法は、スチレ
ン層を架橋ポリマー層に共有結合させて、第1の中間層を形成することを含み得る。スチ
レン層は、塩化スルホニル基を含み得る。反応は、スチレン層を基板の大部分に結合する
のに十分な時間実施することができる。例えば、反応は、スチレン層が基板の細孔に浸透
するのに十分な時間実施され得る。十分な時間は、特に基板が約155μm未満、例えば
約25μm未満の厚さを有する実施形態では、数時間のオーダーであり得る。例えば、反
応は、約10時間未満で実施され得る。反応は、約1~2時間、約2~5時間、約3~6
時間、または約4~7時間で実施することができる。
【0099】
例示的な実施形態では、スチレン層は、ジビニルベンゼン(DVB)を含み得る。その
ような実施形態では、この方法は、塩化スルホニル基をDVBスチレン層に付着させるこ
とをさらに含み得る。塩化スルホニル基をDVBスチレン層に結合させるために、この方
法は、DVBを重合およびクロロスルホン化することを含み得る。例示的な実施形態では
、クロロスルホン化は、DVB上で濃硫酸またはクロロスルホン酸(ClSOH)を発
煙させることによって実施することができる。クロロスルホン酸は、苛性溶液で加水分解
することができる。そのような例示的な実施形態では、クロロスルホン化反応は、ClS
基をDVBに結合させる。
【0100】
クロロスルホン化反応は、基板の大部分に浸透するのに十分な時間実施することができ
る。クロロスルホン化反応に十分な時間は、数時間のオーダーであり得る。例えば、クロ
ロスルホン化反応は、約10時間未満で実施することができる。クロロスルホン化反応は
、約1~2時間、約2~5時間、約3~6時間、または約4~7時間で実施することがで
きる。
【0101】
イオン交換膜を製造する方法は、第1の中間層の塩化スルホニル基をアミン基層でアミ
ノ化して、膜支持体の表面上に化学的に固定されたアミン含有基を生成することを含み得
る。アミン基は、第一級または第二級アミンを含み得る。化学的に固定されたアミン基は
、一般に、機能化可能なアミンを含み得る。機能化可能なアミンは、設計された帯電分子
に基づいて選択することができる。さらに、アミン基は、基板の細孔を貫通することを実
質的に阻害されながら、基板の外面を結合するのに十分なサイズを有し得る。アミノ化反
応は、一晩行うことができる。例えば、アミノ化反応は、約10~18時間実施され得る
。化学的に固定されたアミン含有基は、前述のように、PEIまたは分岐PEIであり得
る。
【0102】
方法は、表面中間層を帯電機能化層と反応させることによって、イオン交換膜支持体を
機能化することを含み得る。例えば、方法は、帯電した官能基を化学的に固定されたアミ
ン層に結合させることを含み得る。上記の帯電機能化分子のいずれかを膜支持体に付着さ
せることができる。特定の実施形態において、例えば、陽イオン交換膜を生成するために
、方法は、PEIをスルホン酸基、例えば、スルホニルヒドロキシドで加水分解すること
を含み得る。製造した陽イオン交換膜は、一般に、イオン交換膜支持体に共有結合した帯
電機能化層を有するであろう。共有結合は、前述のように、使用中のイオン交換膜のより
優れた選択性と安定性を提供し得る。
【0103】
本明細書に開示される一価選択性イオン交換膜は、少なくとも100%の対イオン選択
透過性を有し得る。例えば、本明細書に開示される一価選択性イオン交換膜は、約100
%~105%または約100%~103%の間の対イオン選択透過性を有し得る。本明細
書に開示される一価選択性イオン交換膜は、室温で8~12倍のNa/Ca(ppm)の
初期選択性を有し得る。本明細書に開示される一価選択性膜は、約7Ω-cm未満、例
えば、約5Ω-cm未満、約2~7Ω-cmの間、または約3~5Ω-cmの間の
抵抗率を有し得る。
【0104】
これらおよび他の実施形態の機能および利点は、以下の実施例からよりよく理解するこ
とができる。これらの例は、本質的に例示を意図したものであり、本発明の範囲を限定す
るとはみなされない。
【実施例0105】
例1:陽イオン交換膜テストクーポンの作製
次の実験方法を使用して、抵抗率および対イオン選択透過性試験用の小さなクーポンを
作製して、配合およびプロセス効果を調査した。多孔質膜基板の直径43mmのクーポン
をダイカットした。透明なポリエステルシートのやや大きなディスク(直径50mmまた
は100mm)もダイカットした。105mmのアルミニウム製計量ボートを使用してク
ーポンのセットを保持した。クーポンを2枚のポリエステルフィルムディスクの間に挟ん
だ。
【0106】
まず、基板クーポンをモノマー溶液で完全に濡らしてテンプレートを作成した。これは
、配合した溶液をそのアルミニウムボートに加え、そして多孔質支持体が飽和するように
、基板クーポンがその上に層状にされたポリエステルフィルムディスクをその溶液に浸す
ことによって行った。次に、飽和支持体をモノマー溶液から除去し、一片のポリエステル
フィルム上に置いた。気泡は、例えば、小さなガラス棒などの便利な工具を使用してクー
ポンを滑らかにするか、またはしぼることによって、または手でクーポンから除去された
。次に、第2のポリエステルディスクを第1のクーポンの上に層状にし、クーポンと下部
および上部ポリエステルフィルム層との間の完全な表面接触を有するように平滑化した。
次に、第2の多孔質基材を上部ポリエステルフィルム上に層状にし、飽和、平滑化、およ
びポリエステルフィルムの上層の追加を繰り返して、2つのクーポンおよび3つの保護ポ
リエステルフィルム層の多層サンドイッチを得た。典型的な実験の実行では、10個以上
の飽和した基板クーポン層の多層サンドイッチがある。必要に応じて、アルミボートの縁
を圧着してディスク/クーポンアセンブリを保持した。
【0107】
ボートとクーポンアセンブリを含むサンプルを80℃のオーブンに最大30分間入れた
。次にそのバッグを取り外して冷却し、反応した陽イオン交換膜クーポンを0.5N N
aCl溶液に40℃~50℃で少なくとも30分間入れ、最大18時間のNaCl浸漬で
十分であることがわかった。
【0108】
記載した方法は、陽イオン交換膜テストクーポンを調製するのに適していた。
【0109】
例2:陽イオン交換膜の一価選択性
一価イオンと多価イオンの間の選択性を評価するために、0.15M NaClと0.
15 CaClを含む溶液を使用して希薄コンパートメントに供給した。濃縮物と2つ
の電極には0.30M KNO溶液を供給した。希薄ストリームは、総量が約75ml
の150mlのサンプルリザーバーであった。濃縮ストリーム(0.3M KNO)は
、ごくわずかな濃度上昇を確実にするために1000mlの溶液であった。通常、3時間
の実験時間で7cmの膜サンプルに対して70mAで25%の塩除去に達することがで
きる。
【0110】
電流密度は、100A/mであった。3つのストリームはすべて、それぞれ200m
l/分の公称ポンプ速度を有する3つの蠕動ポンプによって循環した。希薄ストリームを
イオンクロマトグラフィー(IC)分析のためにサンプリングした。採取した各サンプル
は100.0μlで、分析のために50mlに希釈した。通常、4~6個のサンプルをそ
れぞれの膜実験を通して採取した。サンプルの除去は、希薄ストリームの総量に影響を与
えなかった。ほとんどの場合、濃縮ストリームと希薄ストリームの間のわずかな濃度差の
ために、水の損失はわずかであった。IC分析サンプルでは体積調整は必要なかった。
【0111】
従来の陽イオン交換膜
図4A~4Bは、上記の実験手順に記載されているように、2つの従来の膜を使用した
脱塩の経時(秒)での希薄ストリーム中のCa2+およびNaイオンのモル量(モル/
L)のグラフである。グラフは、Ca/Naの選択性(mol/L)を示している。Ca
2+とNaの間のモル輸送比は、従来の陽イオン交換膜では約2であった。その結果は
、主に電荷効果によるものである。Ca2+は、イオンの電荷が大きいため、Naより
も速く膜を通って電界内を移動する。しかし、線の傾きが示すように、Ca2+イオンと
Naイオンの両方が着実に除去された。
【0112】
一価選択性陽イオン交換膜
本明細書に開示される方法によって(例えば、以下の例5に記載されるように)調製し
た、分子量600g/molを有するPEIを有する一価選択性陽イオン交換膜を、上記
のように試験した。結果を図5のグラフに示す。簡単に言うと、Ca22+/Naの選
択透過性は11であった。したがって、Ca2+は、上記の未変性の従来の膜と比較して
、輸送が22倍遅れていた。したがって、本明細書に記載の一価選択性陽イオン交換膜は
、従来の陽イオン交換膜と比較して、増大した選択透過性を提供する。
【0113】
例3:膜テストクーポンの準備
多孔質ポリエチレン(PE)フィルム(厚さ24または34μm)をスチレン(ST)
/ジビニルベンゼン(DVB)/N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液に0.01
~4時間浸して膜を調製した。その混合物に重合開始剤を添加し、ST:DVB:NMP
の組成を7:1:2(質量)にした。PEフィルムをその溶液で飽和させ、2枚のマイラ
ーシートの間に配置した。マイラーシート間の気泡を取り除いた。長時間の曝露後の溶液
の蒸発による「白い領域」を回避するために、さらに溶液を追加した。膜を約80~90
℃に1~4時間加熱した。このような実験の典型的な膜の寸法は、4×15インチである
【0114】
そのように調製した膜を、1.5インチのディスククーポンにカットした。クーポンを
、ClSOH:CHClの組成が1:2(体積)のClSOH/CHCl溶液に
、4℃の温度で24時間浸した。膜を溶液から除去し、NMPおよびメタノールですすい
だ。次に、すすいだ膜をナプキンで乾燥させ、その後の処理およびテストの準備ができて
いるとみなした。
【0115】
このような膜の抵抗は、通常2500Ω-cmであり、選択透過性はない。報告した
抵抗は、機器の測定を超えていた。
【0116】
例4:例3の膜テストクーポンからの陽イオン交換膜の調製
例3の膜テストクーポンを処理して、陽イオン交換膜テストクーポンを製造した。
【0117】
ナプキンで乾燥させた後、膜を1N NaOH溶液に約15分間入れた。膜をNaOH
溶液から取り出し、水ですすぎ、0.5M NaCl溶液で調整した。
【0118】
膜は、抵抗が1.8~3Ω-cmで、対イオンの選択透過性が101%~104%で
あった。
【0119】
例5:例4の陽イオン交換膜テストクーポンの表面変性
例4の陽イオン交換膜テストクーポンを機能化して、一価および多価選択性陽イオン交
換膜テストクーポンを調製した。
【0120】
ナプキンで乾燥させた後、膜をPEI水溶液に一晩(約15時間)置いた。PEI溶液
がpH8~12.6であることをテストした。膜をPEI溶液から取り出し、水ですすい
だ。膜を1N NaOH溶液に15~22分間浸し、基板の大部分のSOCl基がSO
Naに完全に変換されたことを確認した。
【0121】
膜表面をPEIポリマー分子で変性し、様々なテストを行った。膜は、抵抗が2.8~
7Ω-cmで、対イオンの選択透過性が100%~103%であった。
【0122】
例6:地下水の改良
代表的な地下水として、800ppmのNa、250ppmのCa2+、50ppm
のMg2+を含むサンプル水を用意した。実際には、地下水にはその3つの陽イオンの大
きな変動がある。本明細書で試験した組成は平均値であった。
【0123】
そのサンプル地下水を、例5に記載の一価選択性陽イオン交換膜および例3に記載の従
来の陽イオン交換膜で処理した。結果を図6Aおよび6Bのグラフに示す。Na、Ca
2+、およびMg2+イオンの濃度を測定した。ナトリウム吸着率(SAR)も測定した
。SARは、灌漑に使用される水の水硬度要件の重要な指標である。
【0124】
簡単に言えば、結果は、例5の一価選択性膜が処理水のSAR値を3に低減できること
を示している。比較すると、例3の陽イオン交換膜はすべてのイオンを除去し、多価イオ
ンの除去によってSAR値を増加させる。したがって、本明細書に記載の一価選択性膜は
、処理した地下水のSAR値を低下させ得る。
【0125】
例7:海水の処理
例5に記載のような一価選択性陽イオン交換膜を使用して、硬度を除去するために海水
を処理した。
海水中の硬度の除去は、次亜塩素酸塩の生成、油の抽出、食卓塩の製造などの多く
のプロセスにとって重要であり得る。結果を図7に示す。具体的には、希薄ストリーム中
の経時的なMg2+、Ca2+、およびNaイオンの濃度の変化を図7のグラフに示す
。簡単に言うと、Mg2+とCa2+の濃度は比較的一定のままであるが、Naイオン
の濃度が低下する。したがって、本明細書に記載の一価選択性膜を使用して、海水中のN
イオン濃度を低下させることができる。
【0126】
例8:一価選択性陽イオン交換膜の安定性
例5の一価選択性陽イオン交換膜を、室温で0.5M NaCl溶液に浸した。物理吸
着されたPEIを有する従来の陽イオン交換膜もテストした。図8は、経時的な膜選択透
過性の変化のグラフである。簡単に言えば、150日間の浸漬後、一価選択性膜は、Na
イオン対Ca2+イオンについて、9を超える選択透過性を有する。一価選択性膜は、
市販の従来の製品よりも高い選択性を有し、また、経時的に有意な安定性を示す。したが
って、一価選択性膜は、従来の膜よりも優れた選択性とより長い耐用年数を有し、長期間
の使用後も安定である。
【0127】
例9:一価選択性陽イオン膜性能調査
一価選択性陽イオン膜の性能を、7cmの表面積を有する膜クーポンを使用して実験
室条件下で調査した。選択性は、希薄および濃縮コンパートメントを含むラボEDモジュ
ール(図9に示す)を使用して決定した。これらのコンパートメント内の溶液を、アノー
ドコンパートメントとカソードコンパートメントを循環するKSO電解質と、蠕動ポ
ンプを介して独立して循環した。希薄ストリームは約75mlの総量を有し、そのイオン
成分をイオンクロマトグラフィー(IC)によって監視した。テストで使用した陽イオン
交換膜と陰イオン交換膜はどちらも、対イオンの98%の優先輸送を伴う高い共イオン排
他性を有していた。電流密度を選択して制限電流を超えて動作することを避けた。
【0128】
合成地下水組成物(800ppmのNa、260ppmのCa2+、76ppmのM
2+を有する)を使用して、30A/mの電流密度で一価選択性陽イオン交換膜の選
択性をテストした。図10Aおよび10Bは、経時的な希薄コンパートメント内の標的陽
イオンの濃度を示している。図10Bは、非選択性膜を通過することによって減少するす
べての陽イオン濃度を示すのに対し、図10Aは、一価選択性陽イオン交換膜によって希
釈されるNaのみを示している。図10Cおよび10Dは、経時的な希薄コンパートメ
ント内の標的陽イオンの濃度をmol/Lで示している。
【0129】
海塩の回収も実験で実証される。
希釈コンパートメントは、500ppmのTDSに希釈された海水の主要イオン(17
000ppmのCl、2800ppmのSO 2-、9000ppmのNa、120
0ppmのMg2+、および300ppmのCa2+)を含む初期溶液を含む。図11A
および11Bは、一価選択性陰イオン交換膜および300A/mの印加電流密度を有す
る一価選択性陽イオン交換膜を使用した、濃縮コンパートメント内の選択イオンの濃度を
示す。青い四角は、元の海水中の主要イオンの濃度を表している。
【0130】
グラフは、経時的な濃縮コンパートメント内の硫酸塩に対する塩化物(図11A)およ
びカルシウムに対するナトリウム(図11B)の濃度の増加を明確に示している。一価選
択性陰イオンおよび陽イオン交換膜の組合せは、両方の膜を有するEDプロセスを使用し
て海水から海塩を回収するための適用性を示している。さらに、非選択性および一価選択
性膜セル対を組み合わせて、EDR生成水中に特異的に標的化されたイオン組成物を生成
することができる。
【0131】
従来の/市販の一価選択性膜と本明細書に開示される一価選択性膜の初期選択性および
寿命選択性(安定性)の比較を図12Aおよび図12Bに示す。図12Aおよび12Bの
選択性は、百万分率(ppm)またはモル(M)濃度スケールでの、カルシウムイオン濃
度に対するナトリウムイオン濃度の変化倍率で表される。
【0132】
従来の/市販の膜は、PEIの物理吸着を含む方法によって製造した。図12Aは、8
0℃の温度での0.5M NaCl溶液への浸漬時間での膜選択性を示している。結果は
、2.5/10℃の傾きを持つアレニウスプロットでの実験から以前に導出された温度補
正を使用して推定した。加速試験に示すように、本明細書に開示される一価陽イオン選択
性膜による選択性の喪失は、従来の膜と比較して、時間とともにかなり減少する。さらに
、(図12Bに示されるように)高温から通常の動作温度までの寿命を外挿することによ
って、本明細書に開示される一価選択性陽イオン交換膜の許容寿命は、二価陽イオンに対
する一価陽イオンの高い選択性で決定される。
【0133】
例10:一価選択性陽イオン交換膜の使用
本明細書に開示される一価選択性陽イオン交換膜が水処理システムにおいてどのように
使用され得るかの例は、以下の例に記載されている。EDR製品とリジェクトの水質は、
一価選択性陽イオン交換膜用の社内有限要素解析(FEA)投影ソフトウェアを使用して
モデル化した。リジェクト水のスケーリングインデックス(SI)は、PHREEQCソ
フトウェア(さまざまな水性地球化学計算を実行するように設計されたC++プログラミ
ング言語で記述されたコンピュータープログラム)を使用して、さまざまな瞬間EDRリ
カバリーで計算した。結果は、非選択的EDRインストールおよびFEAモデルからのフ
ィールドデータと比較した。
【0134】
応用1:工業用水ブラインの最小化
多くの産業用途では、逆浸透(RO)を使用して低塩分水を生成する。多くの場合、R
Oシステムは潜在的なスケール形成のために回収率が低く制限されるが、ブラインの処分
はプロセス全体のコストのかかる部分になり得る。一価選択性陽イオン交換膜EDRを使
用してブラインを処理し、排出制限を達成して、廃棄コストを大幅に削減できる。
【0135】
ある比較アプリケーションサイトは、2297mg/LのリジェクトストリームTDS
で75%の回収率でROを運用している。さらに処理しないと、総供給流量の25%をブ
ライン廃棄物として処分する必要がある。非選択的EDRを採用することにより、このブ
ラインを供給流量の5.7%に減らすことができる。一価選択性陽イオン交換膜は、Ca
COスケールを沈殿させる危険の前に、EDRプロセスの回収率を82%から90%に
増やすことによって、ブライン廃棄物を供給流量の3.2%にさらに減らすことができる
。表1は、フィールドテストと一価選択性陽イオン交換膜モデリングからのストリームの
主なイオン濃度と、最大EDR回収率でのCaCOのSIを示している。
【0136】
【表1】
【0137】
応用2:生成水排出
石油とガスを収穫するために使用されるプロセスは、環境排出物の処理が課題となる「
生成水」を生成する場合もある。EDRシステムを、淡水化が処理プロセスの主要なコン
ポーネントである生成水施設で試験運用した。サンプル水は、圧力駆動の膜回収を制限す
る高濃度のシリカを含む水である。
【0138】
EDRパイロット研究では、2段階プロセスの最初の段階でTDSを8587mg/L
から2107mg/Lに減らしながら、88%の瞬間回復を示したが、BaSOスケー
ルが形成される可能性があるため、より高い回復を達成できなかった。一価選択性陽イオ
ン交換膜からの選択性を適用することによって、98%の期待される回収率で動作しなが
ら同じTDSの削減を達成することができる。表2は、97%の回収率で予測される製品
と濃縮物のストリーム分析を示している。
【0139】
【表2】
【0140】
応用3:農業淡水化
農業用途における淡水源への負荷を減らすために、汽水品質の代替供給を検討する必要
がある。大麦と綿などの一部の作物は塩水条件に対してより耐性があるが、汽水を絶えず
使用すると、一般に土壌に塩が蓄積し、淡水を追加して適切に浸出せずに収量に悪影響を
及ぼす。果樹を含む塩分に敏感な作物の場合、さらに注意を払う必要があり、多くの場合
、脱塩が必要になる。
【0141】
全体的な塩分に加えて、陽イオン濃度は土壌の構造安定性にさまざまな影響を与える可
能性がある。この効果は、ナトリウム吸着比(SAR)と構造安定性の陽イオン比(CR
OSS)で表すことができる。これらのパラメータが農業収量に与える影響は特定の作物
と塩分に依存するが、SARまたはCROSS値が低いほど、通常、土壌の安定性が高い
ことを示す。SARとCROSSの式を以下に示す。
【数1】
【0142】
一価選択性陽イオン交換膜EDRは、カルシウムとマグネシウムよりもナトリウムとカ
リウムを選択的に除去し得る。その結果、それは、農業用途のTDSを削減し、低いSA
R値を維持するのに適している可能性がある。特に、一価選択性陽イオン交換膜EDRは
、多くの作物で必要とされるように、低エネルギーで追加のプロセスステップなしで製品
TDS濃度の範囲全体で低いSAR値を維持する。
【0143】
サンプル汽水給水は、同じ製品TDSを使用した非選択的EDRと一価選択性EDRで
モデル化した。プロダクトイオン濃度を表3に示す。一価選択性陽イオン交換生成水のS
AR値は、0.16であり、対して、非選択性プロセスは6.59である。
【0144】
【表3】
【0145】
したがって、本明細書に開示される一価選択性陽イオン交換膜は、工業用水ブラインの
最小化、生成水排出、および農業脱塩などの用途に適している。
【0146】
本書で使用されている表現および用語は、説明を目的としたものであり、限定とみなさ
れるべきではない。本明細書で使用される場合、「複数」という用語は、2つ以上の項目
または要素を指す。「含む」、「含む」、「運ぶ」、「有する」、「含む」、および「含
む」という用語は、書面による説明またはクレームなどのいずれにおいても、オープン形
式の用語であり、すなわち、「含むがこれらに限定されない」という意味である。したが
って、そのような用語の使用は、その後に列挙される項目、およびその同等物、ならびに
追加の項目を包含することを意味する。クレームに関して、「からなる」および「から本
質的になる」という移行フレーズのみが、それぞれ、閉じたまたはセミクローズ移行フレ
ーズである。クレーム要素を修飾するためのクレームでの「第1」、「第2」、「第3」
などの通常の用語の使用は、それ自体では、あるクレーム要素の別のクレーム要素に対す
る優先順位、順位、または順序または方法の動作が実行される一時的な順序を意味するも
のではないが、クレーム要素を区別するために、特定の名前を有するあるクレーム要素を
同じ名前(序数の用語の使用以外)を持つ別の要素から区別するためのラベルとしてのみ
使用される。
【0147】
このように少なくとも1つの実施形態のいくつかの態様を説明したので、様々な変更、
修正、および改善が当業者に容易に生じることが理解されるべきである。任意の実施形態
で説明される任意の特徴は、任意の他の実施形態の任意の特徴に含まれるか、またはそれ
らの代わりになり得る。そのような変更、修正、および改善は、本開示の一部であること
が意図されており、本発明の範囲内にあることが意図されている。したがって、前述の説
明および図面は、単なる例にすぎない。
【0148】
当業者は、本明細書に記載のパラメータおよび構成が例示的なものであり、実際のパラ
メータおよび/または構成は、開示された方法および材料が使用される特定の用途に依存
することを理解する。当業者はまた、開示された特定の実施形態と同等のものを、日常的
な実験のみを使用して認識または確認することができるはずである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2024-08-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一価選択性陽イオン交換膜を製造する方法であって、
スチレン中間層を、ポリマー微孔性基板の表面上の架橋イオン輸送ポリマー層に化学的に吸着させることと、
前記スチレン中間層をクロロスルホン化して、塩化スルホニル基層を前記ポリマー微孔性基板の表面に付着させることと、
前記スルホニル基層をアミノ化して、アミン基層を前記ポリマー微孔性基板の表面に付着させることと、
前記アミン基層を帯電化合物層で機能化して、前記一価選択性陽イオン交換膜を製造することと、
を含む、一価選択性陽イオン交換膜を製造する方法。
【外国語明細書】