(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161404
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】操作されたレシーバ細胞への核酸配列のリコンビナーゼ媒介カセット交換組込み中の細胞のトレース及び操作のための細胞表面タグ交換(CSTE)システム
(51)【国際特許分類】
C12N 15/63 20060101AFI20241112BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20241112BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241112BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241112BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241112BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241112BHJP
C12Q 1/6897 20180101ALN20241112BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20241112BHJP
C12Q 1/68 20180101ALN20241112BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C40B40/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12Q1/6897
C12Q1/02
C12Q1/68
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024122545
(22)【出願日】2024-07-29
(62)【分割の表示】P 2021500636の分割
【原出願日】2019-07-09
(31)【優先権主張番号】18182353.5
(32)【優先日】2018-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519162570
【氏名又は名称】ジェノヴィー エービー
【氏名又は名称原語表記】GENOVIE AB
【住所又は居所原語表記】Forskargatan 20 C,151 36 Sodertalje,Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】ジャービス,リーガン マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ペース,ルーク ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ヒル,ライアン エドワード
(57)【要約】 (修正有)
【課題】組込み期間中の操作細胞のトレース及び操作のための効果的で改良された方法を提供する。
【解決手段】2つの別個の成分を含む組合せシステムであって、第1成分が、第1の細胞表面タグ(CST)エキソンと、アンチセンス方向に興味対象の遺伝子(GOI)とをコードするタグ交換ドナーベクター(TEDV)であり、第2成分が、タグ交換レシーバ部位(TERS)をゲノム内に含む操作細胞であり、TEDVとTERSとの間でのリコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)により、導出操作細胞が第2のCST及びレポータ遺伝子に代えて第1のCST及びGOIを発現する組合せシステムを使用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの別個の成分を含む組合せシステムであって、
第1成分が、3'イントロンフラグメントが隣接する第1の細胞表面タグ(CST)エキソンと、アンチセンス方向に興味対象の遺伝子(GOI)とをコードするタグ交換ドナーベクター(TEDV)であり、
第2成分が、タグ交換レシーバ部位(TERS)をゲノム内に含む操作細胞であり、該TERSは、第1のCSTとは異なる第2のCSTエキソンをコードし、また、レポータ遺伝子をアンチセンス方向にコードし、第2のCSTエキソンは、全長イントロン配列により、膜貫通ドメインをコードするエキソンに繋がれており、
ここで、対のリコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)エレメントがTEDV及びTERSに含まれており、TEDVとTERSとの間でのRMCEにより、TEDVにコードされるGOIとレポータエレメントとの交換及び第2のCSTエキソンと第1のCSTエキソンとの交換が生じる結果、導出操作細胞が第2のCST及びレポータ遺伝子に代えて第1のCST及びGOIを発現する、組合せシステム。
【請求項2】
第1成分が、
a.第1のRMCEエレメント、
b.3'イントロンフラグメント、
c.CSTエキソン、
d.第1の転写ターミネータ、
e.第2の転写ターミネータ、
f.GOI、
g.コザック配列、
h.第2のRMCEエレメント
を含むTEDVであり、CSTエキソン及び第1の転写ターミネータは、GOI及び関連転写ターミネータ並びにコザック配列からアンチセンス方向にコードされる、請求項1に記載の組合せシステム。
【請求項3】
第2成分が:
a.転写プロモータエレメント、
b.コザック配列、
c.膜貫通ドメインエキソン、
d.イントロン、
e.イントロン配列d内にコードされる第1のRMCEエレメント、
f.CSTエキソン、
g.第1の転写ターミネータ、
h.第2の転写ターミネータ、
i.レポータ遺伝子、
j.コザック配列、
k.第2のRMCEエレメント、
l.第2の転写プロモータエレメント、
を含むTERSであり、
膜貫通ドメインエキソン及びCSTエキソンはレポータ遺伝子からアンチセンス方向にコードされており、第1の転写プロモータエレメントは膜貫通ドメイン及びCSTの組合せの転写を駆動し、第2の転写プロモータエレメントはレポータ遺伝子の転写を駆動する、請求項1又は2に記載の組合せシステム。
【請求項4】
TEDVの第1のRMCEエレメントがTERSの第1のRMCEエレメントと対であり、TEDVの第2のRMCEエレメントがTERSの第2のRMCEエレメントと対である、請求項1~3のいずれか1項に記載の組合せシステム。
【請求項5】
各CSTエキソンが、1又は2以上の分子親和性タグをコードする配列を含み、TEDVにコードされるCSTとTERSにコードされるCSTとは異なる、請求項1~4のいずれか1項に記載の組合せシステム。
【請求項6】
操作細胞がゲノム内に単一のTERSを含む、請求項1~4のいずれかに記載の組合せシステム。
【請求項7】
TERS遺伝子座からTEDVにコードされるGOIを発現する導出操作細胞を作製する方法であって、
a.GOIをコードするTEDVを作製することと、
b.前記TEDVを、該TEDVと対をなすTERSを含む操作細胞株に、該TERSにコードされるRMCEエレメントにマッチするリコンビナーゼ酵素と共に送達することと、
c.TEDVにコードされるCST及びTERSにコードされるCSTに特異的な2又は3以上の親和性試薬を細胞と接触させることと、
d.GOIが組み込まれた細胞を選択するために、レポータ遺伝子及びTERSにコードされるCSTの発現の減弱とTEDVにコードされるCSTの発現の増加とに基づいて導出操作細胞を選択することと
を含む方法。
【請求項8】
工程cで用いる親和性試薬が、TERSにコードされるCSTの発現の減弱及びTEDVにコードされるCSTの発現の増加を検出するように蛍光標識されており、蛍光活性化セルソーティングにより、前記発現に基づく細胞の分配及び選択が可能である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
基材親和性方法、例えば磁気活性化セルソーティングを用いて標的細胞集団中の、TERSにコードされるCSTを発現する細胞を枯渇させ得るか又はTEDVにコードされるCSTを発現する細胞を濃縮させ得るように、工程cで用いる親和性試薬が基材に固定化されている、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
TEDVのプールから、TEDVにコードされる一連のGOIを発現する複数の導出操作細胞を作製する方法であって、
a.各々がユニークなGOI配列をコードし、各々がTEDVにコードされるユニークなCSTを有する2又は3以上のTEDVのライブラリを作製することと、
b.前記TEDVライブラリをプールとして、該TEDVと対をなすTERSを含む操作細胞株に、該TERSにコードされるRMCEエレメントにマッチするリコンビナーゼ酵素と共に送達することと、
c.TEDVにコードされる複数のCST及びTERSにコードされるCSTに特異的な3又は4以上の親和性試薬を細胞と接触させることと、
d.レポータ遺伝子及びTERSにコードされるCSTの発現の減弱とTEDVにコードされるユニークなCSTの各々の発現の増加とに基づいて導出操作細胞を選択することと、
を含む方法。
【請求項11】
- 各々がユニークなGOI配列をコードし、各々がTEDVにコードされるユニークなCSTを有する2又は3以上のTEDVのライブラリを作製する工程、
- 前記TEDVライブラリをプールとして、該TEDVと対をなすTERSを含む操作細胞株に、該TERSにコードされるRMCEエレメントにマッチするリコンビナーゼ酵素と共に送達する工程
により作製される細胞のプール内で、TEDVにコードされる一連のGOIを発現する導出操作細胞の細胞系統をトレースする方法であって、
a.TEDVにコードされる複数のCSTに特異的な2又は3以上の親和性試薬を細胞と接触させること、
b.TEDVにコードされるユニークなCSTの各々の発現に基づいて導出操作細胞の含量を分析すること、
を含む方法。
【請求項12】
3'イントロンフラグメントが隣接する細胞表面タグ(CST)エキソンと、アンチセンス方向に興味対象の遺伝子(GOI)とをコードするタグ交換ドナーベクター(TEDV)。
【請求項13】
a.第1のRMCEエレメント、
b.3'イントロンフラグメント、
c.CSTエキソン、
d.第1の転写ターミネータ、
e.第2の転写ターミネータ、
f.GOI、
g.コザック配列、
h.第2のRMCEエレメント
を含み、CSTエキソン及び第1の転写ターミネータが、GOI及び関連転写ターミネータ並びにコザック配列からアンチセンス方向にコードされる、請求項12に記載のタグ交換ドナーベクター(TEDV)。
【請求項14】
タグ交換レシーバ部位(TERS)をゲノム内に含む操作細胞であって、
該TERSは、細胞表面タグ(CST)エキソンをコードし、レポータ遺伝子をアンチセンス方向にコードし、前記CSTエキソンは、全長イントロン配列により膜貫通ドメインをコードするエキソンに繋がれており、
ここで、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)エレメントがTERSに含まれており、TERSとタグ交換ドナーベクター(TEDV)との間でのRMCEにより、TEDVにコードされる興味対象の遺伝子(GOI)とレポータエレメントとの交換が生じる、操作細胞。
【請求項15】
前記TERSが:
a.転写プロモータエレメント、
b.コザック配列、
c.膜貫通ドメインエキソン、
d.イントロン、
e.第1のRMCEエレメント、
f.CSTエキソン、
g.第1の転写ターミネータ、
h.第2の転写ターミネータ、
i.レポータ遺伝子、
j.コザック配列
k.第2のRMCEエレメント、
l.第2の転写プロモータエレメント
を含み、
膜貫通ドメインエキソン及びCSTエキソンがレポータ遺伝子からアンチセンス方向にコードされており、第1の転写プロモータエレメントが膜貫通ドメイン及びCSTの組合せの転写を駆動し、第2の転写プロモータエレメントがレポータ遺伝子の転写を駆動する、請求項14に記載の操作細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞工学及び組換えDNA技術の分野に関する。特に、本発明は、興味対象遺伝子のリコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)ベースの組込み中に操作細胞を作製、精製、トレース及び操作するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子操作及び免疫学の分野のうちで、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)は、目標を定めた遺伝子改変のための有用なツールになってきている。例えば、Turanら、Gene (2013):515:1-27を参照されたい。一般的に、正しい場所への興味対象遺伝子(GOI)の組込みを確認するためのRMCE後の方法は、細胞の破壊と試料の加工を必要とする。最近記載されたアプローチは、細胞破壊のそのような必要性を克服し、蛍光マーカータンパク質の発現を追うことにより組換え事象をモニタリング及び単離できることを示している(Phanら、Sci Rep. (2017):7(1):17771)。Phanらによるアプローチは細胞破壊の必要性を回避するものの、このアプローチは細胞内タンパク質蛍光に依存するので、この技術は、蛍光タンパク質により提供されるユニークな光学的特性のセットが限られていることから、組み込まれた構築物のハイコンテントスクリーニングには適さない。その結果、記載された方策を用いて同時に標識及び検出され得る遺伝子の数が制限されてしまう。更に、細胞内蛍光タンパク質は、細胞操作ワークフロー中のハイスループット及びパラレライゼーションの可能性、又はハイコンテント細胞ライブラリの操作の効率の増加の可能性をもたらす磁気活性化セルソーティング(MACS)のような基材親和性方法により細胞を分配するための物理的な操作に適していない。
【0003】
現在、さしあたってRMCE技術がある中で、細胞が個別の興味対象遺伝子のプールを含むベクターのプールで同時にトランスフェクトされている場合、又は基材親和性方法による細胞の選択が望ましい場合に特に、ハイスループット及びハイコンテントの両方のアプリケーションにおいて迅速でしっかりした細胞の操作のためのツールが必要とされている。よって、効果的で改良された方法を提供するための明確な必要性が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、興味対象遺伝子(GOI)のリコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)ベースの組込みの期間中の操作細胞のトレース及び操作のための二成分細胞表面タグ交換(CSTE)システムの提供に関する。CSTEシステムの第1部は、組込み用のGOIを第1の細胞表面タグ(CST)と共にコードするタグ交換ドナーベクター(TEDV)であって、第1のCSTに、スプライスアクセプター部位を含むイントロン配列の3'フラグメントが隣接している、TEDVである。このTEDV構築物はRMCEエレメントに挟まれている。CSTEの第2部は、操作された標的細胞のゲノム内に含まれるタグ交換レシーバ部位(TERS)であって、該TERSは、選択遺伝子と第2のCSTとをコードし、第2のCSTには、インフレームの膜貫通ドメインが第1のRMCEエレメントをコードする全長イントロン配列により繋がれており、第2のRMCEエレメントが選択遺伝子コーディング配列に隣接する、TERSである。TERSにコードされるCSTは、本質的には、単一イントロンにより繋がれた2つのエキソンとしてコードされる。TEDV及びTERSに含まれる対のRMCEエレメントは、2つの構築物間でRMCEが生じると、TERS中で、TEDVのCST及びGOIが交換されて、TERSにコードされるCST及び選択遺伝子を喪失するように設計されている。RMCEによりユニークなCSTエキソン配列が交換されると、TEDVにより送達されるCSTはTERSにコードされる膜貫通ドメインを利用する。TERSからのCST及び選択遺伝子/GOIの発現を駆動するプロモータエレメントは、RMCE交換後の構築物に関して外来であり、よって、TEDVにより送達される配列は、一般には、忠実なRMCEによってのみ発現される。このCSTEシステムにより、CSTが細胞表面に提示する親和性エピトープの検出によって条件的に確認できる迅速で確実なRMCEが可能となり、基材固定化親和性法を用いる細胞の物理的分配も可能になる。このCSTEシステムは、CSTエレメントとして複数の親和性エピトープを用いることによりGOI組込みの多重化及び系統トレースも可能にする。このCSTEシステムは、ハイスループット及びハイコンテントの両方のアプリケーションにおける迅速でしっかりした細胞工学のためのツールである。
【0005】
第1の態様において、本発明は、
2つの別個の成分を含む組合せシステムであって、
第1成分が、3'イントロンフラグメントが隣接する第1の細胞表面タグ(CST)エキソンと、アンチセンス方向での興味対象遺伝子(GOI)とをコードするタグ交換ドナーベクター(TEDV)であり、
第2成分が、タグ交換レシーバ部位(TERS)をゲノム内に含む操作細胞であり、該TERSは、第2のCSTエキソンをコードし、また、レポータ遺伝子をアンチセンス方向にコードし、第2のCSTエキソンは、全長イントロン配列により、膜貫通ドメインをコードするエキソンに繋がれており、
対のリコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)エレメントがTEDV及びTERSに含まれており、その結果、TEDVとTERSとの間でのRMCEにより、TEDVにコードされるGOIとレポータエレメントとの交換及び第2のCSTエキソンと第1のCSTエキソンとの交換が生じ、したがって導出操作細胞が第2のCST及びレポータ遺伝子に代えて第1のCST及びGOIを発現する、組合せシステムを提供する。
【0006】
一実施形態では、第1成分は、
a.第1のRMCEエレメント-「非機能的」な非コーディング3'イントロンフラグメント内にコードされる5'RMCEエレメント、
b.分岐点配列(branch point sequence)、ポリピリミジントラクト及び3'スプライスアクセプター部位を含む3'イントロンフラグメント、
c.5'→3'方向でTEDVにコードされるCSTを含むエキソン、
d.5'→3'方向にコードされるCST用の第1の転写ターミネータ配列、
e.3'→5'にコードされるGOI用の第2の転写ターミネータ、
f.3'→5'方向にGOIをコードする配列、
g.コザック配列、
h.5'RMCEエレメント
を含むTEDVであり、CSTエキソン及び第1の転写ターミネータは、GOI及び関連転写ターミネータ並びにコザック配列からアンチセンス方向にコードされる。
【0007】
別の実施形態では、第2成分は、
a.転写プロモータエレメント、
b.コザック配列、
c.2型膜タンパク質膜貫通ドメインエキソン、
d.5'イントロンスプライスドナー部位、
e.TEDVの5'RMCEエレメントの等価物であって該RMCEと対をなしている、「非機能的」な非コーディング3'イントロンフラグメントにコードされる5'RMCEエレメント、
f.分岐点配列、ポリピリミジントラクト及び3'スプライスアクセプター部位を含む3'イントロンフラグメントの機能的配列、
g.(TEDVにコードされるCSTとは異なる)5'→3'方向でTERSにコードされるCSTを含むエキソン、
h.5'→3'方向にコードされるCST用の転写ターミネータ配列、
i.3'→5'方向の配列用の転写ターミネータ配列、
j.3'→5'方向で選択遺伝子をコードする配列、
k.選択遺伝子転写産物の効率的翻訳開始のためのコザック配列、
l.3'RMCEエレメント、
m.CST転写産物の発現調節及びトラッキングを担う3'ゲノムエレメント
を含むTERSであり、膜貫通ドメインエキソン及びCSTエキソンはレポータ遺伝子からアンチセンス方向にコードされており、第1の転写プロモータエレメントは膜貫通ドメイン及びCSTの組合せの転写を駆動し、第2の転写プロモータエレメントはレポータ遺伝子の転写を駆動する。
【0008】
第2の態様において、本発明は、
TERS遺伝子座からTEDVにコードされるGOIを発現する導出操作細胞を作製する方法であって、
a.GOIをコードするTEDVを作製することと、
b.前記TEDVを、該TEDVと対をなすTERSを含む操作細胞株に、該TERSにコードされるRMCEエレメントにマッチするリコンビナーゼ酵素と共に送達することと、
c.TEDVにコードされるCST及びTERSにコードされるCSTに特異的な2又は3以上の親和性試薬を細胞と接触させることと、
d.GOIが組み込まれた細胞を選択するために、レポータ遺伝子及びTERSにコードされるCSTの発現の減弱とTEDVにコードされるCSTの発現の増加とに基づいて導出操作細胞を選択することと
を含む方法を提供する。
【0009】
第3の態様において、本発明は、3'イントロンフラグメントが隣接する細胞表面タグ(CST)エキソンと、アンチセンス方向の興味対象の遺伝子(GOI)とをコードするタグ交換ドナーベクター(TEDV)を提供する。
【0010】
第4の態様において、本発明は、タグ交換レシーバ部位(TERS)をゲノム内に含む操作細胞であって、該TERSは、細胞表面タグ(CST)エキソンをコードし、レポータ遺伝子をアンチセンス方向にコードし、前記CSTエキソンは、全長イントロン配列により膜貫通ドメインをコードするエキソンに繋がれており、ここで、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)エレメントがTERSに含まれており、TERSとタグ交換ドナーベクター(TEDV)との間でのRMCEにより、TEDVにコードされる興味対象の遺伝子(GOI)とレポータエレメントとの交換が生じる、操作細胞を提供する。
【0011】
本発明は、RMCEによりGOIを操作細胞株に組込むためのシステムであって、前記組込みのレポートが、共に組み込まれた細胞表面タグ(CST)の分析により条件的に検出される、システムを提供する。更に、GOIの組込みにより、操作細胞株からの別のCSTの付随する喪失が、GOIを発現する導出操作細胞の二重のポジティブ/ネガティブ選択を可能にする。この「タグ交換」は、非常にしっかりしており、CSTEシステムにより可能になる厳密なポジティブ/ネガティブ選択の基礎である。第2選択遺伝子もTERS部位から失われ、GOIを発現する導出操作細胞の作製中の非常にしっかりした二重ネガティブ選択及び単一ポジティブ選択を可能にする。重要なことに、CSTシステムのこの性質は、これらのマーカーが、検出のために同族の親和性試薬の選択的な添加を必要とするように条件的であるだけでなく、基材に固定された親和性試薬法を用いることにより標的細胞集団を物理的に分配するために活用できることを意味する。このことにより、蛍光活性化セルソーティング(FACS)のような方法をパラレライゼーションするためにより長い時間がかかりかつより難しいこととは反対に、磁気活性化セルソーティング(MACS)のような方法を用いて細胞を分配することにより導出操作細胞を作製するための効率的なハイスループット方法が可能になる。最後に、組込みのマーカーとしての蛍光タンパク質及び抗生物質耐性遺伝子の細胞内発現に代わって、CSTEシステムは、より大きい選択マーカー空間を提供する。特に、広い空間的オーバーラップを伴う蛍光タンパク質又は非常に限定されたセットの抗生物質耐性遺伝子とは反対に、条件的選択のための多数のユニークなCSTエピトープの作製が容易に達成される。選択マーカーへのアクセスがより広いことにより、効率が増加したハイスループットな導出細胞の生成について異なる形態が可能になり、細胞工学、経路工学及び実験的ワークフローにおける細胞ライブラリ創出及び細胞系統追跡の両方のためのハイコンテント法が更に可能になる。
【0012】
詳細な説明
CSTEシステムの全体構造及び動作を
図1に示す。このCSTEシステムは、ドナー/レシーバ対として動作し、ここで、タグ交換ドナーベクター(TEDV)は、GOI配列及び細胞表面タグ(CST)エキソンを、TEDVと対をなすタグ交換レシーバ部位(TERS)(これは一般には操作細胞株のゲノム内に含まれる)に送達するように作用する。TERSは、別異のCSTエキソン及び選択遺伝子をコードし、これらはそれぞれTEDVにコードされるCST及びGOIと交換される。
TEDVにコードされるCSTエキソンは、センス(5'→3')方向に、3'イントロンフラグメントとインフレームでコードされ、該3'イントロンフラグメントは、スプライスアクセプター部位とポリピリミジントラクトと分岐点配列とを含む。これら機能的イントロン配列の5'側に、「非機能的」イントロン配列内で、第1のRMCEエレメントがコードされる。GOIは、アンチセンス(3'→5')方向にコードされる。GOI転写開始部位に隣接する、本構築物の3'端部に、第2のRMCEエレメントがコードされる。
【0013】
操作細胞株が保有する、TEDVと対をなすTERS構築物は、全長イントロン配列とインフレームでCSTエキソンをコードし、「非機能的」イントロン配列内に第1のRMCEエレメントを有し、該第1のRMCEエレメントはTEDVの第1のRMCEエレメントと対であり、TEDVの第1のRMCEエレメントの等価物である。第1のRMCE部位がコードされている全長イントロン配列は、それ自体が膜貫通ドメイン(TD)エキソンとインフレームでコードされる5'スプライスドナー部位を含む。このTDは、転写開始部位及びプロモータ配列を含み、TERS構築物の5'側の転写を駆動する。よって、TERSにコードされるCSTは、スプライスされた転写産物から翻訳されると、細胞表面に発現される。同様に、TEDVとTERSとの間でRMCEが生じると、TEDVにコードされるCSTエキソンがTERSにコードされるCSTエキソンと交換される。このことにより、「タグ交換」が行われ、導出操作細胞株は、TERSにコードされるCSTではなくTEDVにコードされるCSTを細胞表面に発現する。このプロセスにおいて、TEDVにコードされるCSTエキソンは、5'スプライスドナー部位、TDドメイン、転写開始部位及びプロモータ配列をTERS構築物から「得て」、TEDVにコードされるCSTの発現が可能となり、TEDVにコードされる配列の組込みに対する厳格な部位特異的制御がもたらされる。
【0014】
上で述べたように、TERSは、アンチセンス(3'→5')方向に選択遺伝子を、TERS構築物の3'端までこの選択遺伝子の転写を駆動できるプロモータ配列と共にコードする。TERSの選択遺伝子の転写開始部位と3'プロモータ配列との間に、TEDV中にコードされる第25'RMCEエレメントと対をなす第2のRMCEエレメントがコードされる。よって、TEDVとTERSとの間でRMCEが実行されると、TEDVにコードされるGOIが、TERSにコードされる選択遺伝子と交換される。
TEDVがプロモータ配列を含まないので、TEDVにコードされるCSTエキソン及びGOIは共に、それらの転写を可能にするために、プロモータ配列を補充されなければならないことに注目することが重要である。重要なことに、上で概説したように、イントロン及びCSTエキソンについてのTDエキソン補充を含むことにより、TEDVにコードされる配列の組込みについて更により厳密な部位選択性がもたらされる。CSTEにおいてイントロンエレメントを用いることにより、構築物の無作為な組込みが細胞表面で発現され得るTEDVにコードされるCSTをもたらさないことが更なるレベルで確実になる。TDを含む全長CST ORFを送達し得るドナーベクターとは対照的に、CSTEシステムは、CSTエピトープエキソン及びスプライスアクセプター部位のみをもたらす。よって、ドナー構築物の無作為で異常な組込みは、活性プロモータに隣接して組み込まれる必要があるだけでなく、適当な5'スプライスドナー配列と共に、II型膜貫通ドメイン又はその等価物の獲得も必要とする。このことにより、TEDVにコードされるCSTを発現する無作為に組み込まれた構築物の出現が非常に起こりにくく、送達されたGOIを発現する導出操作細胞の作製中に、そのような無作為で望ましくない事象の選択が最小限になる。
TEDV及びTERSを含む、CSTEシステム成分の具体的な構造を、以下に詳述する。
【0015】
TERSの構造
操作細胞株に含まれるTERSは、TERSにコードされるCST及び選択遺伝子を構成的に発現し、これらは、TERSと対にされるTEDVとのRMCEに際して、それぞれ、TEDVにコードされるCST及びGOIと交換される。TERSの遺伝子構造を
図3に示す。
TERSは、代表的には、次を含む:
a)コザック配列
b)2型膜タンパク質び膜貫通ドメインをコードするエキソン
c)5'イントロンスプライスドナー部位
d)TEDVの5'RMCEエレメントの等価物であって該5'RMCEエレメントと対をなしている、「非機能的」な非コーディング3'イントロンフラグメント内にコードされる5'RMCEエレメント
e)分岐点配列、ポリピリミジントラクト及び'スプライスアクセプター部位を含む3'イントロンフラグメントの機能的配列
f)TERSにコードされるCSTを5'→3'方向に含むエキソン
g)5'→3'方向にコードされるCST用の転写ターミネータ配列
h)3'→5'にコードされる選択遺伝子用の転写ターミネータ配列
i)3'→5'方向に選択遺伝子をコードする配列
j)選択遺伝子の転写産物の効率的翻訳開始のためのコザック配列
k)3'RMCEエレメント
x)CST転写産物の発現調節及びトラッキングを担う5'ゲノムエレメント。このゲノムエレメントは、最小限、CST転写を駆動するプロモータ配列を含む。
y)選択遺伝子転写産物の発現調節及びトラッキングを担う3'ゲノムエレメント。このゲノムエレメントは、最小限、選択遺伝子転写を駆動するプロモータ配列を含む
ここで、a)は、RMCE実行前にTERSにコードされるCST及びRMCE実行後にTEDVにコードされるCSTの両方について、TERSから駆動される繋がれたTD/CST転写産物からの効率的翻訳開始を確実にするために提供される。b)は、転写産物のスプライシングによりCSTエキソンに繋がれ、細胞膜への翻訳タンパク質構築物の挿入を媒介し、CSTを細胞外空間に提示するTDである。d)は、TERS構築物のイントロン配列内に位置し、TEDVの5'RMCEエレメントの等価物であるRMCEエレメントであり、CSTEシステム内でのRMCE実行に際してCSTエキソン交換を媒介する。e)は、TERSから駆動されるTD/CST転写産物からのRMCEエレメントを含むイントロンのスプライシングを可能にする、イントロンのスプライスアクセプター部位及び関連する機能的配列である。f)は、TERS内のCSTエピトープをコードするエキソンであり、発現されたTD/CSTタンパク質は、同族親和性試薬を用いて条件的に検出できる前記エピトープを細胞外空間に提示する。g)は、5'→3'方向にコードされるTD/CSTオープンリーディングフレーム用の転写ターミネータである。h)は、TERS内に3'→5'方向にコードされる選択遺伝子オープンリーディングフレーム用の転写ターミネータである。i)は、操作細胞株中でTERSから発現される選択遺伝子をコードするオープンリーディングフレームである。j)は、RMCE実行前のTERSから駆動される選択遺伝子転写産物からの効率的翻訳開始を確実にするために提供されるコザック配列である。k)は、選択遺伝子の転写開始部位と、そのオープンリーディングフレームの転写を駆動するプロモータ配列との間に位置し、TEDVの3'RMCEエレメントの等価物であるRMCEエレメントであり、CSTEシステム内でのRMCEに際してTEDVにコードされるGOIと選択遺伝子との交換を媒介する。x)は、最小限、RMCE前にTERSにコードされるTD/CSTオープンリーディングフレーム、及びRMCE実行後にTEDVにコードされるTD/CSTの転写を駆動するプロモータ配列である。y)は、最小限、RMCE前にTERSにコードされる選択遺伝子オープンリーディングフレーム、及びRMCE実行後にTEDVにコードされるGOIの転写を駆動するプロモータ配列である。
TERSクローニングフラグメントの模式図を、
図3に示す。
【0016】
TERSは、本質的に、5'RMCE部位を含む十分に機能的なイントロン配列をコードする。このような配列は、宿主操作細胞におけるTD/CST転写産物の効率的スプライシングを可能にする任意のイントロンであり得る。TEDVのスプライスアクセプター部位は、TERSのスプライスドナー部位と協働して機能的である必要がある。よって、TEDV及びTERSにコードされるスプライスアクセプター配列は同一であるか又は同等物であるべきである。
RMCE部位がコードされる「非機能的」な非コーディングイントロン配列は、更なる遺伝子エレメント、例えば、転写エンハンサー、転写インスレータ、操作細胞内のTERS構築物の機能若しくはレポートのための別の所望成分をコードする別異のオープンリーディングフレーム、又は転写産物及び/若しくは構築物のトレース及び定量に用いる他のユニーク
配列をコードしてもよい。
TERSに関しては、コードされるTD/CST及び選択遺伝子は共に、転写産物及び/若しくは構築物のトレース及び定量に用いるユニーク配列をコードするか又は例えば転写産物の安定性の調節を付与する5'及び3'非翻訳領域(UTR)を含んでよい。
【0017】
選択遺伝子は、以下から選択できる:
a.抗生物質耐性遺伝子、
b.レポータ遺伝子、
c.栄養要求性補完遺伝子、
d.誘導性自殺遺伝子。
ここで、このようなポジティブ選択マーカーの選択、フォーマット及び適用は、当業者に周知である。誘導性自殺遺伝子の使用は、GOIを発現する導出操作細胞の作製においてRMCEの実行後に親の操作細胞を消去するために用いることができる。レポータ遺伝子は、細胞表面での条件的又は構成的レポートのためのユニークTD/CST構築物であり得る。TERSのこの部分に複数の選択遺伝子を含めて、操作細胞株作製中のポジティブ選択及び導出操作細胞株作製中のネガティブ選択を可能にすることができる。
【0018】
5'及び3'ゲノムエレメントは、最小限、TD/CST及び選択遺伝子の転写を媒介するプロモータ配列をコードする。このようなプロモータは、構成性又は誘導性プロモータであり得る。これらのゲノムエレメントは、更なる遺伝子エレメント、例えば、転写エンハンサー、転写インスレータ、操作細胞内のTERS構築物の機能若しくはレポートのための別の所望成分をコードする別異のオープンリーディングフレーム、又は転写産物及び/若しくは構築物のトレース及び定量に用いる他のユニーク配列をコードしてもよい。
本明細書において、(
図3に示すように)TD/CSTはセンス(5'→3')方向にコードされ、選択遺伝子はアンチセンス(3'→5')方向にコードされることに留意することが重要である。この向きは説明の明確性のためである。TERS/TEDVに関して、TD/CST構築物が、TEDVの3'イントロンフラグメント内のRMCE部位と対である等価なRMCE部位もコードする機能的イントロン配列を組み込むことができれば、向きを逆にできない現実的理由はない。
選択遺伝子を含めることは、CSTEシステムの動作に必須ではないが、RMCE後のGOI発現のための三重選択に役立つため望ましい。更に、センス及びアンチセンスの両方向のレポータを用いる操作細胞株を作製し維持することにより、RMCEの前に、5'及び3'ゲノムエレメント内に含まれるプロモータ配列が、TEDVにコードされるGOIを発現する導出操作細胞を作製するに十分に機能的であることを確実にできる。
【0019】
細胞表面タグ(CST)の構造
CSTEシステムの鍵となる機能的特徴の1つは、当初のTERS構築物の存在及びRMCEによりTEDVにコードされる配列が組み込まれた交換後の構築物の存在を条件的にレポートする複数のユニークなCST構築物の使用である。
CSTEシステム内でTD補充配置を達成するためには、或る型のTDエキソンだけが適切である。つまり、3'側に位置するCSTエキソンと共にスプライスされ得る一方、CSTタンパク質フラグメントを細胞外に露出させることもできるものである。
発現されるCSTエピトープ提示タンパク質生成物を単純にし、TDエキソンのサイズ及び複雑さを最小限にすることを目的として、II型膜タンパク質のTDが最も適切である。II型TDは膜を1回貫通し、膜の細胞質側であるタンパク質のN末端に位置して、C末端のCSTエピトープが細胞外に露出されることを可能にする。スプライスされたCST転写産物がCSTエピトープを細胞外空間に露出させることを条件として、複数回貫通型TDを含む他のTDを用いてもよい。
【0020】
スプライスされた転写産物においてTDと繋がれるCSTエキソンは、同族の親和性試薬の使用により条件的に検出され得るユニークエピトープを細胞外に単純に提示する機能を有する。一般的に、このようなエピトープは、合成配列、宿主操作細胞の生物とは別の生物にコードされる配列、又は宿主操作細胞と同じ生物からの配列であるが、細胞外で発現されない配列を含む。
概して、TDとCSTエピトープとの間にリンカードメインを含むことが望ましい。CSTエピトープは僅か数アミノ酸から成り得るので、このようなリンカー領域により、親和性試薬結合のために細胞表面のCSTが確実に利用可能になる。このようなリンカー領域は、フレキシブルな「構造不定」領域、又は構造が定まった完全に折り畳まれたタンパク質ドメインを含んでよい。
CSTエキソンにコードされるエピトープの性質は、TERSを含む操作細胞の細胞表面にてそうでなければ発現されるエピトープの状況におけるユニークさのみを反映し、よって、特異的親和性試薬を調達できる任意のタンパク質配列を表してよい。
一般的に、CST構築物は、全体として、細胞機能に関して機能的に中立であるべきである。頻繁にリンカー配列を介して、外来の機能的ドメインを含まない不活性なエピトープ構造と単純に融合された膜貫通ドメインが好ましい。
【0021】
本発明の状況では、親和性試薬は、CSTエピトープの活性を同定、追跡、捕捉又は該活性に影響するためのより大きい標的分子に特異的に結合する任意の抗体、ペプチド、核酸、又は他の小分子と定義される。頻繁に、このような親和性試薬は、蛍光、比色、放射計又は同族のCSTを発現する細胞を追跡するためのその他の検出可能な標識で標識される。或いは、このような親和性試薬は、CST発現操作細胞を分配するための基材親和性濃縮法を可能にする基材に官能化してよい。
【0022】
TERSを含む操作された細胞株
TERSを含む細胞株は、合成TERS構築物が挿入されているので、操作されたものである。一般に、このことは、操作細胞のゲノムへのTERS構築物の組込みを意味するが、遺伝子構築物のエピソーム維持の方法のような、TERS構築物の核での維持のためのその他の方法も含んでよい。
標的哺乳動物細胞のゲノムに構築物を組み込む方法は、当業者に周知であり、相同組換え(HDR)及び/又は無作為組込み法により達成してよい。ここで、HDRは、HDRを起こすゲノム遺伝子座の標的化変異により促進してよく、それらに限定されないが、
i.ジンクフィンガーヌクレアーゼ
ii.CRISPR/Cas9媒介標的
iii.合成転写アクチベータ様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)
による部位特異的変異誘発を含む種々の手段により達成できる。ここで、前記部位特異的ヌクレアーゼは、標的遺伝子座でのHDRによる部位特異的DNA修復を誘導する。この事象後、ある割合の細胞はHDRベクターが組み込まれ、以下の任意の組合せにより選択及び/又は決定できる:
iv.非破壊的表現型発現解析
v.破壊的表現型発現解析
vi.遺伝子解析
ここで、iv及びviは、ゲノム組込み事象の成功の選択及び決定のために好ましい方法である。
或いは、ウイルスベクターを用いて、必要な成分を部位特異的又は非特異的な様式で送達できる。
【0023】
TERS構築物組込みの方法論は、細胞表面にTERSにコードされる検出可能なCSTが存在し、(含まれるコーディング配列の転写に関して当該構築物が機能的であることを示す)選択遺伝子が発現される限り、TERSの動作の中核ではない。実際、TERSにコードされるCSTと選択遺伝子とは共に、TERSを含む操作細胞株の作製のための好都合な選択マーカーである。
注目すべき1つの重要な態様は、組み込まれるTERS構築物のコピー数の制御がいくつかの用途、特に、TEDV構築物のライブラリから単一GOIを発現する導出操作細胞株の細胞ベースのアレイを作製できる能力を活用するもの、及び同様の「多重化」法のために必要とされることである。このことに注目すると、TERS構築物のエピソーム維持は、導出操作細胞株作製のためのこのような多重化法とほぼ相容れない。操作細胞のゲノム内での構築物コピー数を明らかにするための方法は、当業者に周知である。
【0024】
TEDVの構造
TEDVは、RMCEが行われた際に、操作細胞株に含まれるTERSにコードされるCSTエキソン及び選択遺伝子とそれぞれ交換されるCSTエキソン及びGOIをコードする。TEDVの一般構造を
図2に示す。
TEDVは、代表的には、次を含む:
1)「非機能的」な非コーディング3'イントロンフラグメント内にコードされる5'RMCEエレメント
2)分岐点配列、ポリピリミジントラクト及び3'スプライスアクセプター部位を含む3'イントロンフラグメント
3)TEDVにコードされるCSTを5'→3'方向に含むエキソン
4)5'→3'方向にコードされるCST用の転写ターミネータ配列
5)3'→5'にコードされるGOI用の転写ターミネータ配列
6)3'→5'方向にGOIをコードする配列
7)コザック配列
8)3'RMCEエレメント。
ここで、1)は、TEDV構築物の3'イントロンフラグメントの非機能的な非コーディングイントロン配列内に位置するRMCEエレメントであり、CSTEシステム内でRMCEが行われる際にCSTエキソン交換を媒介するTERSの5'RMCEエレメントと等価である。2)は、TEDVとTERSとの間でRMCEが行われた後に、組み込まれたTEDVにコードされるCSTエキソンのTD/CST転写産物の効率的なスプライシングが行われて、GOIを発現する導出操作細胞を作製するための、分岐点配列とポリピリミジントラクトと3'スプライスアクセプター部位とを提供する3'イントロンフラグメントである。3)は、TEDV構築物内でCSTエピトープコードするエキソンであり、TEDVとTERSとの間でRMCEが行われた後に補完されて発現されるTD/CSTタンパク質は、前記エピトープを細胞外空間に提示し、該エピトープは同族親和性試薬を用いて条件的に検出できる。4)は、RMCEが行われた際にはTEDVにコードされるCSTが補完されたTD/CSTの転写ターミネータとして作用する、5'→3'方向にコードされるCSTエキソン用の転写ターミネータである。5)は、RMCEが行われた際には、TERS部位に組み込まれたGOIコーディング配列の転写ターミネータとして作用する、TEDV内で5'→3'方向にコードされるGOIオープンリーディングフレーム用の転写ターミネータである。6)は、GOIを発現する導出操作細胞を作製するために、操作細胞に組み込まれるGOIをコードするオープンリーディングフレームである。7)は、RMCEの実行後のTERSから生じるGOI転写産物の効率的転写開始を確実にするために提供される。8)は、TEDV構築物の3'端部のRMCEエレメントであり、選択遺伝子の転写開始部位と、そのオープンリーディングフレームの転写を駆動するプロモータ配列との間に位置するTERSの3'RMCE部位と等価である。
TEDVクローニングフラグメントの模式図を、
図2に示す。
【0025】
TEDVは、合成DNA構築物、又は当業者に周知の方法により生成されるクローニングされた構築物であってよい。クローニング法を補助するために、TEDVは、様々なCSTエキソン及び/又はGOI配列を構築物に挿入するための制限エンドヌクレアーゼ配列を含んでよい。このようなクローニング部位を含めること及び用いることは、当業者に周知である。
【0026】
本発明の状況では、TEDVは、一般的に、細菌で増殖するプラスミド構築物であり、複製起点及び選択遺伝子も含んでよい。
TEDVは、当業者に周知のウイルスベクターのような特異的送達ベクターに前記構築物をパッケージングできる配列モチーフを有する構築物であってもよい。TERSを含む操作細胞のウイルスベクター形質導入の使用は、トランスフェクションが難しい細胞におけるCSTEシステムの使用のために有益であろう。
TEDVは、適当な逆転写酵素の提供により逆転写され得るRNA構築物であってよい。
【0027】
本発明の状況では、GOIは、興味対象の任意のコーディング又は非コーディング配列と定義される。これは、任意のタンパク質-もしくはポリペプチド-オープンリーディングフレーム、非タンパク質コーディングRNA、例えばマイクロRNA、低分子ヘアピン型RNA、tRNAもしくはrRNAを含んでよい。
重要なことに、GOIは、単一オープンリーディングフレームのバリアントのライブラリであってよく、このようなGOIをコードするTEDVは、TEDVのプールされたライブラリに従ってよい。CSTEシステムによりコピー数が正確に制御でき、GOI組込みのレポートが信頼性のある多因子かつ条件的であるので、標的細胞のプール中の導出操作細胞のそれぞれにおいて単一GOIだけを発現する導出操作細胞のハイコンテントライブラリを生成できる。このことは、生細胞の状況での様々な細胞、経路、タンパク質及び特異的GOI操作されたに活用してよい(以下を参照されたい)。
【0028】
RMCEエレメント及び酵素
部位特異的リコンビナーゼ(SSR)の使用は、細胞のゲノムを改変するための予想できるツールであることが証明されている。SSRには2つの主なクラスがあり、Serインテグラーゼは、それらに限定されないが、ΦC31、γδ-res、ParA、Tn3、Gin、ΦBT1、R4、Bxb1、TP901-1から成り立ち、Tyrリコンビナーゼは、それらに限定されないが、Flp、Cre、Rから成り立つ。これらのクラスは共にRMCEを行うことができるが、Serインテグラーゼは、最初のクロスオーバーに依存する制限があるので、所望のTEDVにコードされるCST及びGOI又はTEDVベクター主鎖のいずれかの導入が起こる。全てのTyrリコンビナーゼが網羅的に実験により評価されたわけではないが、Cre及びFlpは、RMCEを行うために広く用いられている。TEDVにコードされるCST及びGOI遺伝子エレメントの単一コピーを組込む目的のために、よく特徴づけられた異種特異的FRT部位と共にFlpを用いることが最適である。なぜなら、ヒトゲノムにおいてコードされる偽FRT部位がないからである。このことは、LoxPゲノム偽部位についての乱雑な活性を示すCreには当てはまらない。
【0029】
導出操作細胞作製のための方法
哺乳動物細胞におけるRMCEの使用は、当業者に周知であり、ここでは、ドナー構築物が、それらに限定されないが、化学的トランスフェクション、エレクトロポレーション又はウイルスベクター送達を含む様々な方法により標的細胞に送達され得る。ドナー構築物の提供に加えて、特異的リコンビナーゼ酵素も準備されなければならない。これは、通常、ドナー構築物と共に標的細胞に共送達される別の発現構築物として準備される。あるいくつかの場合では、TERSを発現する操作細胞を改変して、必要なリコンビナーゼ酵素を条件的に発現させて、全体的なプロセスの効率を増加させることが望ましいことがある。
CSTEシステムの状況では、TERSを含む操作細胞へのTEDVの送達によりRMCEが一旦実行された後に、成長期間を行うと、標的細胞集団は、TEDVにコードされるGOIを発現する導出操作細胞の作製について分析又は選択され得る。このことは、CSTEシステムに固有であり、GOI発現の検出に依存しない3つの方法により行うことができる。
導出操作細胞株は、タグ交換の成功を反映して、TERSにコードされるCSTのネガティブ選択及び/又はTEDVにコードされるCSTのポジティブ選択に基づいて選択され得る。これらは、条件的にレポートされ、各CSTについて同族親和性試薬の添加を必要とする。このような選択方法は、蛍光標識親和性試薬の添加によるFACS及び所望のCST発現プロファイルの選択を活用することができる。CSTエピトープが細胞外提示されるので、細胞分配も、MACSのような基材に基づく濃縮アプローチにより達成できる。
【0030】
更なるネガティブ選択は、TERSにコードされる選択遺伝子に基づいて達成でき、ここでは、前記選択遺伝子が、レポータ遺伝子又は誘導性自殺遺伝子である。レポータ遺伝子は、例えば蛍光レポータ遺伝子の場合にFACSを、又はレポータ遺伝子自体がユニークなCSTであるならばFACS及び/もしくはMACSを利用できる。誘導性自殺遺伝子を用いて、培養物から親の操作細胞をネガティブ選択して、GOIを発現する導出操作細胞を濃縮することができる。
全体として、二重ポジティブ選択及び単一ネガティブ選択は、条件的にレポートされ得る、導出操作細胞の高度にしっかりした選択を提供し、基材に固定化された親和性試薬を用いる細胞の分配のために用いることができる。この選択は、GOIの性質が、導出操作細胞内の非破壊的検出に対して修正可能であるならば、TEDVにコードされるGOIについてのポジティブ選択を更に含んでよい。上記の選択は、連続的又は並行して用いて、ハイスループット又は正確でハイコンテントな導出操作細胞集団を達成できる。
【0031】
これらの上記の表現型分析は、当業者に周知の方法を用いる、導出操作細胞におけるTEDV配列のコピー数の遺伝子型確認により通常支持される。このことは、CST発現の高度に標準化された状況を考慮して、TEDV構築物の異常な組込みが細胞表面でのTEDVにコードされるCSTの発現をもたらす非常にまれな場合が、TEDVにコードされるCST発現が高い細胞の除外により、特にFACS選択方法を利用する場合に、ネガティブ選択され得る程度に表現型により達成されてもよい。複数のTERS部位を発現する操作細胞の場合(以下を参照されたい)、コピー数の制御は、細胞表面で発現されるTEDVにコードされるCSTの度合いに基づいて同様に達成できる。
【0032】
基材に固定化した親和性試薬による細胞の分配法
CSTEシステムの鍵となる利点は、CSTエピトープの細胞表面露出であり、よって、基材固定化親和性方法に基づく細胞分配が可能なことである。このことは、ハイスループット法、又はハイコンテント導出操作細胞ライブラリ作製における段階的選択のために特に有用である。当業者に周知の方法は、表面エピトープの特異的発現に基づく細胞の捕捉及び物理的分配のための様々なその他の親和性試薬により官能化された基材の中でも、強磁性ビーズに基づくMACSアプローチである。細胞表面CST発現に基づくこのような迅速で条件的なポジティブ及び/又はネガティブ選択は、高度にパラレライゼーション可能であり、よって、ハイスループット方法に適しており、抗生物質耐性選択よりもスピードがはるかに速く正確であり、細胞内蛍光タンパク質に限定されるFACS選択と比較してスピードがはるかに速く、コストが低減されている。更に、親の操作細胞及び導出操作細胞を共にポジティブ及びネガティブ選択できることは、1つ以上のGOIを発現する導出操作細胞の正確でハイコンテントなライブラリ作製を導く。
【0033】
多重及び多価CSTを用いる細胞表面「バーコーディング」法
CSTEシステムの利点は、利用可能な選択マーカー空間の量が増えていることである。パラレライゼーション可能なマーカーが一握りしかない標準的な蛍光タンパク質レポータ及び抗生物質耐性遺伝子システムとは対照的に、同族親和性試薬と共に単純なエピトープを用いることにより、多くのユニークマーカーを迅速に作製できる。あるものは、利用可能なCSTエピトープ及び同族試薬の数によってのみ限定されない。なぜなら、利用可能なCSTエピトープ及び同族検出試薬の全てのユニークな組合せについて、マルチエピトープCSTドメインを容易に構築できるからである。拡張され、パラレライゼーション可能な条件的レポータ空間により、多様なハイスループットでハイコンテントな方法が可能になる。
異なるGOI又はGOIバリアント配列にそれぞれが関連するTEDVにコードされる多重CSTエピトープの使用により、ハイスループット細胞工学の効率を増加できる。例えば、このようなユニークベクターのプールを、TERSを発現する操作細胞のプールに組込むことができる。これらは、上で概説するように、ネガティブ選択中まとめて取り扱うことができ、ユニークなTEDVにコードされるCST発現に基づいて後で分配できる。
同様に、TEDVにコードされる多重CSTエピトープの使用により、生細胞系列の追跡及び選択のためのミディアムコンテントライブラリの生成が可能になる。例えば、ユニークなCSTと関連するGOIのライブラリを、導出操作細胞のプールに組込むことができ、特異的GOIを発現するこれらの細胞系列の持続性又は機能を、時間的にトレースできる。このことは、タンパク質、経路又は細胞工学もしくは分析のための培養系における選択に応用できるか、或いは細胞を生存動物に植え継ぎ、分析のために生細胞として後で回収する場合において同様に用いてよい。
【0034】
ハイコンテントライブラリ及びマルチTERS操作細胞
GOIを発現する導出操作細胞のポジティブ及びネガティブ選択がしっかりしているので、多重の形態で正確なハイコンテントライブラリを作製して、タンパク質、経路及び細胞工学ワークフローを支持できる。
最も単純な概念において、単一CSTエピトープであるが多重GOIをコードするTEDVライブラリを、細胞のプールに組込むことができる。TERS及びTEDVにコードされるCSTを用いる標準的なポジティブ/ネガティブCST選択の適用は、例えば、選択された集団の各細胞において単一GOIバリアントを発現する導出操作細胞の集団を導くであろう。これらのハイコンテント細胞ライブラリを、次いで、ワークフローにおける機能選択に供して、組入れられたバリアントGOIに基づいて、タンパク質、細胞経路又はより一般的には細胞機能を操作されたできる。
ユニークなCSTエピトープを有する多重のTERSを、単一操作細胞及びユニークなCSTエピトープを有する複数のTEDVライブラリに加えて、バリアントGOIの多重のファミリーをこのような操作されたワークフローに組入れ、例えばコンビナトリアルバリアントGOIとして生合成経路における酵素を処理してよい。操作細胞が多重のTERSを含むこのような状況を用いて、単一GOIの全体的な発現を促進できる。マルチTERS操作細胞は、通常、GOI組込み及び選択の効率及び安定性を確実にするために、各TERS/TEDV対についてユニークな異種特異的リコンビナーゼの使用を必要とする。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】細胞表面タグ交換(CSTE)システムの組成及び動作 CSTEシステムの模式図。上パネルは、タグ交換ドナーベクター(TEDV)(左)と、タグ交換レシーバ部位(TERS)(右)を含む操作細胞とを含んでなるシステム成分を示す。 TEDVは、当該構築物の両端に、TERSに含まれるRMCE部位と対をなすRMCEエレメント(白抜三角及び黒塗三角)をコードする。TEDV構築物の5'端部のRMCEエレメント(黒塗三角)は、3'イントロンフラグメントである配列内にコードされ、RMCEエレメントの直ぐ3'側にイントロンの3'側エレメント(白抜丸)が存在し、これには分岐点配列、ポリピリミジントラクト及びスプライスアクセプター部位が含まれる。よって、RMCEは、「非機能的」な非コーディングイントロン配列内に含まれ、TEDVに含まれる3'イントロンフラグメントは、5'スプライスドナー部位を欠く。スプライスアクセプター部位の直ぐ3'側で、TEDVは細胞表面タグ(CST)の3'エキソンをコードする。このことは、該エキソンが、ユニークな分子結合モチーフを含むCSTの部分(灰色長方形)をコードすることを意味する。CST配列は5'→3'方向にコードされる。TEDVは、3'→5'方向にコードされる、TERSに組み込まれる興味対象遺伝子(GOI)(斜線付き長方形)もコードする。 操作細胞に含まれるTERSの中央部は、同様な構造であるが、TEDVのものとは異なるエレメントをコードする。すなわち、TERSは、TEDVのものと対であるRMCEエレメント(白抜三角及び黒塗三角)間に、TEDVにコードされるCSTのものとは異なるCSTエキソン(チェック柄長方形)をコードし、このCSTの直ぐ5'側に、スプライスアクセプター部位及び関連する3'イントロン配列を有する(白抜丸)。同様に、選択遺伝子(黒塗長方形)は、TEDV中のGOIと同様に、TERS内でアンチセンス方向にコードされる。構築物の5'端部に、CSTの転写を駆動するプロモータ配列(右向き矢印)が含まれる。このプロモータ配列の3'側に、膜貫通ドメイン(TD)のエキソン(白抜長方形)がコードされ、その直ぐ3'側に5'イントロン配列(黒塗丸)を有する。このことは、RMCEエレメント含有イントロンとインフレームでコードされるTDエキソン及びCSTエキソンが、一続きの転写産物として生成され、この転写産物がスプライスされてエキソンが繋がり単一コーディングmRNAとなることを意味する。TERSにコードされるTD-CST産物(白抜/チェック柄のダンベル形)は、細胞表面で発現される。TERS構築物の3'末端に、3'→5'方向に選択遺伝子(黒塗長方形)の転写を駆動して、発現選択遺伝子(黒塗正方形)をもたらす別のプロモータエレメントがある。 TERSを含む操作細胞にTEDVを、TEDV/TERS中で対をなすRMCEエレメントに特異的なリコンビナーゼの適切な発現構築物と共に導入することにより、RMCEが生じ、GOIを発現する導出操作細胞が作製される(下パネル)。TERSにコードされるエレメントは、TEDVにコードされるエレメントに交換される。よって、導出細胞株は、TEDVにコードされるCSTを、元々TERSにコードされるTD(白抜/灰色ダンベル形)を有するTD-CST生成物として細胞表面に発現し、GOI(斜線付き正方形)を発現する。 まとめると、TEDVとTERSとの間でRMCEが生じると、選択遺伝子及びTERSにコードされるCSTの発現が喪失し、TEDVにコードされるCST及びGOIの発現を獲得した導出操作細胞が作製される。
【
図2】タグ交換送達ベクター(TEDV)の構造 番号を付した各箱が本構築物の構造の鍵となるエレメントを表す直線状構築物として示すTEDVの模式図。本構築物は、TEDVにコードされるCST及び興味対象遺伝子(GOI)の両方を含む。 1)は、「非機能的」な非コーディング3'イントロンフラグメント内にコードされる5'RMCEエレメントを表す。 2)は、分岐点配列、ポリピリミジントラクト及び3'スプライスアクセプター部位を含む3'イントロンフラグメントの機能的配列を表す。 3)は、TEDVにコードされるCSTを5'→3'方向にコードするエキソンを表す。 4)は、5'→3'方向にコードされるCST用の転写ターミネータ配列を表す。 5)は、3'→5'にコードされるGOI用の転写ターミネータ配列を表す。 6)は、3'→5'方向にGOIをコードする配列を表す。 7)は、GOI転写産物の効率的翻訳開始のためのコザック配列を表す。 8)は、3'RMCEエレメントを表す。
【
図3】タグ交換レシーバ部位(TERS)オープン構造-タグ交換前 文字を付した各箱が本構築物構造の鍵となるエレメントを表す直線状構築物として示すTERSの模式図。本構築物は、TERSにコードされるCST及び選択遺伝子の両方を含む。 a)は、繋がれた膜貫通ドメイン(TD)/CST転写産物の効率的翻訳開始のためのコザック配列を表す。 b)は、2型膜足場タンパク質ドメインをコードするエキソンを表す。 c)は、5'イントロンスプライスドナー部位を表す。 d)は、TEDVの5'RMCEエレメントの等価物であって該5'RMCEエレメントと対をなしている、「非機能的」な非コーディング3'イントロンフラグメント内にコードされる5'RMCEエレメントを表す。 e)は、分岐点配列、ポリピリミジントラクト及び3'スプライスアクセプター部位を含む3'イントロンフラグメントの機能的配列を表す。 f)は、TERSにコードされるCSTを5'→3'方向にコードするエキソンを表す。 g)は、5'→3'方向にコードされるCST用の転写ターミネータ配列を表す。 h)は、3'→5'にコードされる選択遺伝子用の転写ターミネータ配列を表す。 i)は、3'→5'方向に選択遺伝子をコードする配列を表す。 j)は、選択遺伝子転写産物の効率的翻訳開始のためのコザック配列を表す。 k)は、3'RMCEエレメントを表す。 x)は、CST転写産物の発現調節及びトラッキングを担う5'ゲノムエレメントを表す。このゲノムエレメントは、最小限、CST発現を駆動するプロモータ配列を含む。 y)は、CST転写産物の発現のトラッキングの調節を担う5'ゲノムエレメントを表す。このゲノムエレメントは、最小限、CST発現を駆動するプロモータ配列を含む。
【
図4】導出操作細胞の交換後のTERS TEDVにコードされるエレメントとのRMCE媒介交換後のTERS遺伝子座の模式図。
図1に示すように、TEDVのRMCE部位間にコードされるエレメントは、TERSのRMCE部位間にコードされる等価な構造の配列と交換される。このことにより、導出操作細胞株内で交換後TERSが得られる。文字及び番号が付された箱は、それぞれ
図2及び
図3で詳述した鍵となる遺伝子エレメントを表す。
【
図5】交換後のTEDV副生成物 TERSにコードされるエレメントとのRMCE媒介交換後のTEDV副生成物の模式図。
図1に示すように、TEDVのRMCE部位間にコードされるエレメントは、TERSのRMCE部位間にコードされる等価な構造の配列と交換される。このことにより、導出操作細胞株の作製の間に不安定な交換後TEDV副生成物が得られる。文字及び番号が付された箱は、それぞれ
図2及び
図3で詳述した鍵となる遺伝子エレメントを表す。
【
図6】操作細胞へのTERSの組込み a)操作細胞株集団ACL-1163は、MycエピトープCST及びRFP選択遺伝子をコードするTERSカセットを、親の細胞株ACL-128に相同組換えで組込むことにより創出した。エレクトロポレーションの10日後、細胞を抗Myc抗体で染色し、TERSにコードされる選択マーカーであるMycエピトープCST及びRFPについてフローサイトメトリにより分析した。プロットは、RFP対Mycとしての生存単細胞を示し、トランスフェクトされた細胞のうち、親の細胞(Q2右パネル)と比較して、RFP及びMycについて高いシグナルを示すトランスフェクタント集団(Q2左パネル)が存在することを示す。b)RFP及びMycシグナルが高い細胞を選択し、成長させ、代表的な操作モノクローンACL-1163を、フローサイトメトリにより分析した。プロットは、ゲーティングした生存単細胞のRFP対Mycパラメータを示す。モノクローンACL-1163は、予想されたように、RFP及びMycシグナルが高い(Q2)。
【
図7】タグ交換及びGOI送達を伴うTEDVとのRMCEによる導出操作細胞の作製 Flpリコンビナーゼ媒介タグ交換を、ACL-1163操作細胞において行った。RFP選択遺伝子及びMycエピトープCSTをコードするTERSを有するACL-1163細胞を、SBPエピトープCST及びGOIをコードするTEDVと、flpリコンビナーゼをコードする構築物と共に、トランスフェクトした。エレクトロポレーションの7日後に、細胞を抗Myc及び抗SBP抗体で染色し、RFP、Myc及びSBPシグナルについてフローサイトメトリにより分析した。RFP及びMycシグナルは低減したが、SBP表面発現シグナルは高い細胞を選別し、モノクローンとして拡大させた。a及びb) 親細胞(右)と比較した、代表的な導出操作細胞モノクローンACL-3426(左)を示す等高線図。導出細胞は、親細胞(Q4右上パネル)と比較して、RFP及びMycシグナルの喪失(Q4左上パネル)を示す。導出操作細胞モノクローンACL-3426は、抗SBP抗体で染色したときのシグナルの増加(Q5右下パネル)により示されるように、TEDVにコードされるSBPエピトープCSTの発現に成功している。これら結果は、Flpリコンビナーゼ媒介タグ交換が成功したことを示唆する。なぜなら、ACL-3426細胞は、TERSとTEDVとの間のCSTタグ交換に対して予想されたとおりに、RFP及びMycマーカーのシグナルを喪失し、SBP表面発現を獲得したからである。c)C末端FLAGタグと共に組み込まれたGOIの発現の3つの例を示すイムノブロット。GOI(RSV-1 ORF)発現の検出は、Flagタグに対する抗体を用いるイムノブロッティングにより達成した。親のモノクローン系統ACL-1163を対照として含める。CSTEを3つの独立した実験で行い、細胞を、flpリコンビナーゼと、 SBPエピトープCST及びRSV-1 P遺伝子をコードするTEDV(得られる細胞株モノクローンはACL-3374)又はSBPエピトープCST及びRSV-1 N遺伝子をコードするTEDV(得られる細胞株モノクローンはACL-3386)又はSBPエピトープCST及びRSV-1 M2長遺伝子をコードするTEDV(得られる細胞株モノクローンはACL-3433)のいずれかとをコードする構築物でトランスフェクトした。タンパク質をモノクローン体から抽出し、マウス抗Flag抗体を用いてイムノブロッティングを行った。ウェスタンブロットの結果は、対応する細胞における各GOIの予想分子量に対応する単一バンドの存在及び親細胞株におけるシグナル不在により証明されるように、各RSV-1 ORFが発現されたことを証明する。
【
図8】磁気活性化セルソーティング(MACS)による、タグ交換後の混合細胞集団からのTag2(SBP)の濃縮又はTag1(Myc)の枯渇 この図は、表面タグ技術を、タグ交換後の細胞混合集団からTag2保有細胞のMACS濃縮又はTag1保有細胞の枯渇に用いることができることを証明する。2つの操作されたモノクローン細胞株APL-4535及びAPL-3015を出発混合集団として用いて、MACSにより、タグ交換事象後のTag2(SBP)発現細胞を濃縮し、又はTag1(Myc)発現細胞を枯渇させた。APL-4535細胞内のTERSは、SBPエピトープCST及び細胞内タンパク質をコードする全長FLAGタグGOIをコードしていた一方、APL-3015細胞内のTERSは、MycエピトープCST及びRFP選択遺伝子をコードしていた。2つの細胞集団を90%(APL-3015細胞)対10%(APL-4535細胞)の割合で混合し、MACSを用いて、SBP陽性細胞を濃縮し(a)又は別の実験でMyc陽性細胞を枯渇させた(b)。a)全ての細胞を抗SBP-Alexa488蛍光体で標識し、抗マウスIgG鉄ビーズとインキュベートした。試料をMACSに通し、濃縮前、フロースルー(通過)細胞及び結合細胞の3つの実験時点にて画分を回収した。3画分全てを抗c-Myc-Alexa 405で対比染色し、BD Influx装置でデータを得た。グラフは、3つの実験画分全てにおけるSBP陽性細胞及びMyc陽性細胞のパーセンテージを示す。MACS前画分は、出発細胞集団が90%のMyc陽性細胞及び10%のSBP陽性細胞からなることを示す。SBP陽性細胞の濃縮に成功したことは、フロースルー画分におけるSBPシグナルの欠如(>0.01%SBP陽性細胞)により示される一方、SBP標的化濃縮後、結合細胞の95%はSBP陽性であった。b)別の実験において、全ての細胞を抗c-Myc-Alexa 405蛍光体で標識し、抗マウスIgG鉄ビーズとインキュベートした。標識細胞を、MACSを用いて枯渇させ、上記に示した3つの実験時点にて画分を回収した。3つの画分全てを抗SBP-Alexa 488で対比染色し、BD Influx装置でデータを得た。グラフは、3つの実験画分全てにおけるSBP陽性細胞及びMyc陽性細胞のパーセンテージを示す。MACS前画分は、再び、出発細胞集団が90%のMyc陽性細胞及び10%のSBP陽性細胞からなることを示した。Myc陽性細胞の枯渇に成功したことは、フロースルー画分におけるMyc陽性細胞数の低減(25%)及びSBP陽性細胞数の増加(75%)により示された。更に、結合画分は、>90%のMyc陽性細胞及び<5%のSBP陽性細胞を含んでいた。c)合計546のSBP陽性染色モノクローンを個々に、SBPに連結されたGOIをコードするかについて評価した。図は、96.52%のSBP陽性細胞がGOIを組み込んでいた一方、3.48%のSBP陽性細胞はGOIをコードしていなかったことを示す。 この結果は、混合細胞集団から、Tag2(SBP)陽性細胞の濃縮又はTag1(Myc)陽性細胞の枯渇にMACSを用いることができることを証明する。更に、Tag2(SBP)の存在を、タグ交換及びGOIゲノム組込みの成功の指標として用いることができる。
【
図9】バーコードを用いる細胞表面タグ交換(CSTE)システムの構成及び動作 バーコーディングを用いるCSTEシステムの模式図。a)は、タグ交換ドナーベクター(TEDV)の成分を示す。各TEDVは、構築物の両末端に、TERSに含まれるRMCE部位と対をなすRMCEエレメント(白抜三角及び黒塗三角)をコードする。TEDV構築物の5'端のRMCEエレメント(黒塗三角)は、3'イントロンフラグメント配列内にコードされ、このRMCEエレメントの直ぐ3'側に、分岐点配列、ポリピリミジントラクト及びスプライスアクセプター部位を含むイントロンの3'エレメント(白抜丸)が存在する。TEDVは、スプライスアクセプター部位の直ぐ3'側に、細胞表面タグ(CST)の3'エキソンをコードする。このことは、このエキソンが、ユニークな分子結合モチーフを含むCSTの部分(灰色長方形)をコードすることを意味する。このCST配列は5'→3'方向にコードされる一方、TEDVは、3'→5'方向にコードされる、TERSに組み込まれる興味対象遺伝子(GOI)(斜線付き長方形)もコードする。 この例における各CSTは、3つのユニークなエピトープ(A、B、C)から選択した2つのエピトープ(6つのユニークな組合せが可能である)から構成される。ABはBAと効果として等価である。この例において、AX組合せを、3つのバリアントを有するGOIファミリー(GOI a-i、GOI a-ii及びGOI a-iii)に割り当て、BX組合せを、3つのバリアントを有する第2のGOIファミリー(GOI b-i、GOI b-ii、GOI b-iii)に割り当てた。この例の個々のTEDVをプールする。b)は、タグ交換レシーバ部位(TERS)の成分を示す。TERS RMCEエレメントはTEDVのRMCEエレメントと対をなす(白抜及び黒塗三角)。TERSは、TEDVにコードされるCSTのエキソンとは別異のCSTエキソン(チェック柄の長方形)をコードし、スプライスアクセプター部位及び関連する3'イントロン配列(白抜丸)がこのCSTの直ぐ5'側に存在する。同様に、選択遺伝子(黒塗長方形)は、TEDV中のGOIと同様に、TERS内でアンチセンス方向にコードされる。構築物の5'端部に、CSTの転写を駆動するプロモータ配列(右向き矢印)が含まれる。このプロモータ配列の3'側に、膜貫通ドメイン(TD)のエキソン(白抜長方形)がコードされ、その直ぐ3'側に5'イントロン配列(黒塗丸)を有する。TERSにコードされるTD-CST生成物(白抜/チェック柄のダンベル形)は、細胞表面で発現される。TERS構築物の3'末端に、3'→5'方向に選択遺伝子(黒塗長方形)の転写を駆動して、発現選択遺伝子(黒塗正方形)をもたらす別のプロモータエレメントがある。c)は、TERSを含む操作細胞集団に、TEDVプールを、TEDV/TERS中で対をなすRMCEエレメントに特異的なリコンビナーゼの適切な発現構築物と共に導入することにより、RMCEが生じて種々のGOIを発現する導出操作細胞集団が作製されることをを示す。RMCEの間に、TERSにコードされるエレメントは、TEDVにコードされるエレメントに交換される。よって、導出細胞集団は、TEDVにコードされるCSTを、元々TERSにコードされるTD(白抜/灰色ダンベル形)を有するTD-CST生成物として細胞表面に発現し、GOI(斜線付き正方形)を発現する。d)RMCE後、GOIを発現する操作細胞のプールを、ユニークなCSTバーコードの発現に基づいて、FACSにより個々のメンバーに更に単離することができる。このことは、所望のバーコードのバルク集団として又はシングルセルソーティング法による個別細胞単離により達成できる。或いは、プールの分析は、デジタルデータセット内の興味対象集団を同定する手段としてバーコードを用い、ソーティングを行わないFACにより行うことができる。e)CSTEシステムを用いて操作細胞にバーコードを付する原理を証明するために、ACL-5及びACL-1細胞を、CSTをコードするプラスミド又はCSTを含まない対照プラスミドのいずれかで、当業者に公知の標準的方法を用いる化学的トランスフェクション(ACL-5)又はエレクトロポレーション(ACL-1)によりトランスフェクトした。このCSTは、(配列番号20に示されるように)3つのユニークなエピトープFLAG、MYC及びHAを含んでいた。トランスフェクションの48時間後、細胞を採集し、蛍光体と接合した同族抗体:抗FLAG-PE、抗MYC-AF647及び抗HA-AF488で染色した。細胞をフローサイトメトリにより分析した。生存細胞を前方散乱(FSC)及び側方散乱(SSC)によりゲーティングした。生存細胞の平均蛍光強度(MFI)を3エピトープの各々について決定し、それぞれのエピトープを発現する生存細胞のパーセンテージを決定した。3つ全てのエピトープが、空ベクターでトランスフェクトされた細胞と比較して、バーコードを付されたCSTをコードするプラスミドでトランスフェクトされた細胞において、高い割合及び強度で検出された。このことから、複数のエピトープから構成されるCSTの能力が証明される。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下の非限定的な実施形態のリストは、本発明を更に説明する。
1.2つの別個の成分を含む組合せシステムであって、
第1成分が、3'イントロンフラグメントが隣接する第1の細胞表面タグ(CST)エキソンと、アンチセンス方向の興味対象の遺伝子(GOI)とをコードするタグ交換ドナーベクター(TEDV)であり、
第2成分が、タグ交換レシーバ部位(TERS)をゲノム内に含む操作細胞であり、該TERSは、第2のCSTエキソンをコードし、また、レポータ遺伝子をアンチセンス方向にコードし、第2のCSTエキソンは、全長イントロン配列により、膜貫通ドメインをコードするエキソンに繋がれており、
ここで、対のリコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)エレメントがTEDV及びTERSに含まれており、TEDVとTERSとの間でのRMCEにより、TEDVにコードされるGOIとレポータエレメントとの交換及び第2のCSTエキソンと第1のCSTエキソンとの交換が生じる結果、導出操作細胞が第2のCST及びレポータ遺伝子に代えて第1のCST及びGOIを発現する、組合せシステム。
2.前記第1の細胞表面タグ(CST)エキソンが前記第2のCSTと異なる、実施形態1による組合せシステム。
3.第1成分が、
a.第1のRMCEエレメント、
b.3'イントロンフラグメント、
c.CSTエキソン、
d.第1の転写ターミネータ、
e.第2の転写ターミネータ、
f.GOI、
g.コザック配列、
h.第2のRMCEエレメント
を含むTEDVであり、CSTエキソン及び第1の転写ターミネータは、GOI及び関連転写ターミネータ並びにコザック配列からアンチセンス方向にコードされる、実施形態1又は2に記載の組合せシステム。
4.第1成分が:
a.第1のRMCEエレメント-「非機能的」な非コーディング3'イントロンフラグメント内にコードされる5'RMCEエレメント
b.分岐点配列、ポリピリミジントラクト及び3'スプライスアクセプター部位を含む3'イントロンフラグメント、
c.5'→3'方向でTEDVにコードされるCSTを含むエキソン、
d.5'→3'方向にコードされるCST用の第1の転写ターミネータ配列、
e.3'→5'にコードされるGOI用の第2の転写ターミネータ、
f.3'→5'方向にGOIをコードする配列、
g.コザック配列、
h.5'RMCEエレメント、
を含むTEDVであり、CSTエキソン及び第1の転写ターミネータは、GOI及び関連転写ターミネータ並びにコザック配列からアンチセンス方向にコードされる、実施形態1~3のいずれか1つに記載の組合せシステム。
【0037】
5.第1成分が:
a.第1のRMCEエレメント、
b.3'イントロンフラグメント、
c.CSTエキソン、
d.第1の転写ターミネータ、
e.第2の転写ターミネータ、
f.GOI、
g.コザック配列、
h.第2のRMCEエレメント、
を含むTEDVであり、CSTエキソン及び第1の転写ターミネータは、GOI及び関連転写ターミネータ並びにコザック配列からアンチセンス方向にコードされる、実施形態1~3のいずれか1つに記載の組合せシステム。
6.第2成分が:
a.転写プロモータエレメント、
b.コザック配列、
c.膜貫通ドメインエキソン、
d.イントロン、
e.第1のRMCEエレメント、
f.CSTエキソン、
g.第1の転写ターミネータ、
h.第2の転写ターミネータ、
i.レポータ遺伝子、
j.コザック配列、
k.第2のRMCEエレメント、
l.第2の転写プロモータエレメント、
を含むTERSであり、
膜貫通ドメインエキソン及びCSTエキソンはレポータ遺伝子からアンチセンス方向にコードされており、第1の転写プロモータエレメントは膜貫通ドメイン及びCSTの組合せの転写を駆動し、第2の転写プロモータエレメントはレポータ遺伝子の転写を駆動する、実施形態1~5のいずれか1つに記載の組合せシステム。
7.第2成分が:
a.転写プロモータエレメント、
b.コザック配列、
c.2型膜タンパク質膜貫通ドメインエキソン、
d.5'イントロンスプライスドナー部位、
e.TEDVの5'RMCEエレメントの等価物であって該RMCEエレメントと対をなしている、「非機能的」な非コーディング3'イントロンフラグメントにコードされる5'RMCEエレメント、f.分岐点配列、ポリピリミジントラクト及び3'スプライスアクセプター部位を含む3'イントロンフラグメントの機能的配列、
g.(TEDVにコードされるCSTとは異なる)5'→3'方向でTERSにコードされるCSTを含むエキソン、
h.5'→3'方向にコードされるCST用の転写ターミネータ配列、
i.3'→5'方向の配列用の転写ターミネータ配列、
j.3'→5'方向で選択遺伝子をコードする配列、
k.選択遺伝子転写産物の効率的翻訳開始のためのコザック配列、
l.3'RMCEエレメント、
m.CST転写産物の発現調節及びトラッキングを担う3'ゲノムエレメント、
を含むTERSであり、膜貫通ドメインエキソン及びCSTエキソンはレポータ遺伝子からアンチセンス方向にコードされており、第1の転写プロモータエレメントは膜貫通ドメイン及びCSTの組合せの転写を駆動し、第2の転写プロモータエレメントはレポータ遺伝子の転写を駆動する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の組合せシステム。
8.第2成分が:
a.転写プロモータエレメント、
b.コザック配列、
c.膜貫通ドメインエキソン、
d.イントロン、
e.第1のRMCEエレメント、
f.CSTエキソン、
g.第1の転写ターミネータ、
h.第2の転写ターミネータ、
i.レポータ遺伝子、
j.コザック配列、
k.第2のRMCEエレメント、
l.第2の転写プロモータエレメント、
を含むTERSであり、膜貫通ドメインエキソン及びCSTエキソンはレポータ遺伝子からアンチセンス方向にコードされており、第1の転写プロモータエレメントは膜貫通ドメイン及びCSTの組合せの転写を駆動し、第2の転写プロモータエレメントはレポータ遺伝子の転写を駆動する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の組合せシステム。
【0038】
9.TEDVの第1のRMCEエレメントがTERSの第1のRMCEエレメントと対であり、TEDVの第2のRMCEエレメントがTERSの第2のRMCEエレメントと対である、実施形態1~8のいずれか1つに記載の組合せシステム。
10.各CSTエキソンが、1又は2以上の分子親和性タグをコードする配列を含み、TEDVにコードされるCSTとTERSにコードされるCSTがは異なる、実施形態1~9のいずれか1つに記載の組合せシステム。
11.操作細胞がゲノム内に単一のTERSを含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の組合せシステム。
12.TERS遺伝子座からTEDVにコードされるGOIを発現する導出操作細胞を作製する方法であって、
a.GOIをコードするTEDVを作製することと、
b.前記TEDVを、該TEDVと対をなすTERSを含む操作細胞株に、該TERSにコードされるRMCEエレメントにマッチするリコンビナーゼ酵素と共に送達することと、
c.TEDVにコードされるCST及びTERSにコードされるCSTに特異的な2又は3以上の親和性試薬を細胞と接触させることと、
d.GOIが組み込まれた細胞を選択するために、レポータ遺伝子及びTERSにコードされるCSTの発現の減弱とTEDVにコードされるCSTの発現の増加とに基づいて導出操作細胞を選択
することと
を含む方法。
13.工程cで用いる親和性試薬が、TERSにコードされるCSTの発現の減弱及びTEDVにコードされるCSTの発現の増加を検出するように蛍光標識されており、蛍光活性化セルソーティングにより、前記発現に基づく細胞の分配及び選択が可能である、実施形態12に記載の方法。
14.基材親和性方法、例えば磁気活性化セルソーティングを用いて標的細胞集団中の、TERSにコードされるCSTを発現する細胞を枯渇させ得るか又はTEDVにコードされるCSTを発現する細胞を濃縮させ得るように、工程cで用いる親和性試薬が基材に固定化されている、実施形態12に記載の方法。
15.TEDVのプールから、TEDVにコードされる一連のGOIを発現する複数の導出操作細胞
を作製する方法であって、
a.各々がユニークなGOI配列をコードし、各々がTEDVにコードされるユニークなCSTを有する2又は3つ以上のTEDVのライブラリを作製することと、
b.前記TEDVライブラリをプールとして、該TEDVと対をなすTERSを含む操作細胞株に、該TERSにコードされるRMCEエレメントにマッチするリコンビナーゼ酵素と共に送達することと、
c.TEDVにコードされる複数のCST及びTERSにコードされるCSTに特異的な3又は4以上の親和性試薬を細胞と接触させることと、
d.レポータ遺伝子及びTERSにコードされるCSTの発現の減弱とTEDVにコードされるユニークなCSTの各々の発現の増加とに基づいて導出操作細胞を選択することと、
を含む方法。
【0039】
16.実施形態15の工程a及びbにより作製される細胞のプール内で、TEDVにコードされる一連のGOIを発現する導出操作細胞の細胞系列をトレースする方法であって、
a.TEDVにコードされる複数のCSTに特異的な2又は3以上の親和性試薬を細胞と接触させることと、
b.TEDVにコードされるユニークなCSTの各々の発現に基づいて導出操作細胞の含量を分
析することと、
を含む方法。
17.- 各々がユニークなGOI配列をコードし、各々がTEDVにコードされるユニークなCSTを有する2又は3以上のTEDVのライブラリを作製する工程と、
- 前記TEDVライブラリをプールとして、該TEDVと対をなすTERSを含む操作細胞株に、該TERSにコードされるRMCEエレメントにマッチするリコンビナーゼ酵素と共に送達する工程により作製される細胞のプール内で、TEDVにコードされる一連のGOIを発現する導出操作細胞の細胞系列をトレースする方法であって、
a.TEDVにコードされる複数のCSTに特異的な2又は3以上の親和性試薬を細胞と接触させることと、
b.TEDVにコードされるユニークなCSTの各々の発現に基づいて導出操作細胞の含量を分析することと、
を含む方法。
18.3'イントロンフラグメントが隣接する細胞表面タグ(CST)エキソンと、アンチセンス方向の興味対象の遺伝子(GOI)とをコードするタグ交換ドナーベクター(TEDV)。
19.a.第1のRMCEエレメント、
b.3'イントロンフラグメント、
c.CSTエキソン、
d.第1の転写ターミネータ、
e.第2の転写ターミネータ、
f.GOI、
g.コザック配列、
h.第2のRMCEエレメント
を含み、CSTエキソン及び第1の転写ターミネータが、GOI及び関連転写ターミネータ並びにコザック配列からアンチセンス方向にコードされる、実施形態18に記載のタグ交換ドナーベクター(TEDV)。
20.タグ交換レシーバ部位(TERS)をゲノム内に含む操作細胞であって、
該TERSは、細胞表面タグ(CST)エキソンをコードし、レポータ遺伝子をアンチセンス方向にコードし、前記CSTエキソンは、全長イントロン配列により膜貫通ドメインをコードするエキソンに繋がれており、
ここで、リコンビナーゼ媒介カセット交換(RMCE)エレメントがTERSに含まれており、TERSとタグ交換ドナーベクター(TEDV)との間でのRMCEにより、TEDVにコードされる興味対象の遺伝子(GOI)とレポータエレメントとの交換が生じる、操作細胞。
【0040】
21.前記TERSが:
a.転写プロモータエレメント、
b.コザック配列、
c.膜貫通ドメインエキソン、
d.イントロン、
e.第1のRMCEエレメント、
f.CSTエキソン、
g.第1の転写ターミネータ、
h.第2の転写ターミネータ、
i.レポータ遺伝子、
j.コザック配列
k.第2のRMCEエレメント、
l.第2の転写プロモータエレメント
を含み、
膜貫通ドメインエキソン及びCSTエキソンがレポータ遺伝子からアンチセンス方向にコードされており、第1の転写プロモータエレメントが膜貫通ドメイン及びCSTの組合せの転写を駆動し、第2の転写プロモータエレメントがレポータ遺伝子の転写を駆動する、実施形態20に記載の操作細胞。
【実施例0041】
材料及び方法
操作細胞株へのTERSの組込み
エレクトロポレーションを用いて、必要なDNA構築物を送達して、相同組換えによりAAVS1部位に組み込まれた単一TERS部位を有する操作細胞を作製した。
反応あたり4×106細胞を以下の設定:矩形波285V、パルス長12.5ms、1秒間隔で2パルスでGene Pulser XcellTM(Bio-Rad)を用いて、Glutamax-I(Life Technologies)を含む500ulのRPMI 1640中でエレクトロポレーションした。用いたDNA濃度は、TERS組込みベクター(V9.F.5)については15ug/ul、Cas9-P2A-GFPコーディングプラスミド(V1.A.8)については10ug/ml、組込み部位であるAAVS1部位を標的にするgRNAをコードするベクター(V2.J.6)については7.5ug/mlであった(表3)。
エレクトロポレーション後、細胞をGlutamax-I+10% FBSを含むRPMI 1640培地中で2日間インキュベートした(37℃、5%CO2)後に分析した。
【0042】
ポリクローナルGFP発現トランスフェクタント細胞の選別
Cas9-P2A-GFP(V1.A.8)又はGFP選択マーカーをコードするプラスミド(V1.A.4)でエレクトロポレーションされた細胞は、FACSJAzzTMセルソーター(BD Biosciences)を用いて一過性GFP発現について選別した。細胞を洗浄し、適切な容量のDPBSに再懸濁した後に、Glutamax-Iと20% HI-FBS及びAnti-Anti 100X (Life Technologies)を含むRPMI 1640中で選別した。
【0043】
TERSを安定発現するモノクローナル細胞の選別
FACSを用いて、TERS受容カセットから発現されるMycエピトープCST及びRFP選択遺伝子を構成的に発現する単細胞を得た。Myc CSTを検出するために、細胞を抗Myc抗体(抗c-Myc-Alexa 647、SantaCruz)で染色した後に、選別した。細胞をDPBSで洗浄した後に、Glutamax-Iと、20% HI-FBS及びAnti-Anti 100X (Life Technologies)を含むRPMI 1640中で選別した。
【0044】
【0045】
GFP及びRFPの蛍光は、表4に列挙するフィルターセットでInfluxTM(BD Biosciences)FACSにより検出した。Myc及びRFPを発現する単細胞を、200ulの成長培地を含む96ウェルプレートに選別し、モノクローンコレクションを成長させた。
【0046】
【0047】
モノクローナル集団の表現型スクリーニング
成長したモノクローンコレクションの20,000細胞の試料を、分析用のマイクロタイタープレートに移し、細胞を250ulのDPBS 1X(Life Technologies)に再懸濁し、LRSFortessaTM(BD Biosciences)で分析した。モノクローナル集団(ACL-1163)をMycエピトープCST及びRFPの存在についてスクリーニングした。Myc発現を、Alexa Fluor 647蛍光体で標識した抗Myc 抗体を用いて検出した。染色液は、100ulの染色緩衝液(DPBS+2%FBS)で希釈した推奨抗体容量を用いて調製した。細胞を4℃にて1時間インキュベートし、次いで500ulの染色液で2回洗浄した後に分析した。
【0048】
モノクローンの遺伝子型スクリーニング-正しいゲノム位置での組込みの確認
ACL-1163細胞を、Glutamax-I+10%HI-FBSを含むRPMI 1640の通常の成長培地中で維持した。10~12×106に達するまで、細胞の集密度を毎日モニタリングした。DNAを、5×106細胞からQIAamp DNAミニキット(Qiagen)を用いて抽出した。残りの細胞を更に増やし、3×106細胞/mlの密度にて、70%成長培地+20%HI-FBS+10%DMSO中で低温保存した。
ACL-1163モノクローンをスクリーニングし、分子レベルにて評価した。これは、Q5(登録商標)ホットスタートハイフィデリティDNAポリメラーゼ(NEB)を用いるPCRにより、20ulの反応中で、表5及び6にそれぞれ列挙する成分及び反応条件を用いて行った。TERS組込みカセットがAACS1遺伝子座に組み込まれたかを決定するために、プライマー15.F.9及び19.E.7を用いた(表7)。このプライマーは、それぞれ、左相同アームの前の領域及び膜貫通ドメインを標的する。正確な左相同アーム組換えは、2.1kbアンプリコンにより示された。最初に、PCRマスターミックスを、全ての成分(Q5(登録商標)反応緩衝液、dNTP、ホットスタートQ5(登録商標)DNAポリメラーゼ、プライマーFwd及びRev、100ngのDNA鋳型並びにH2O)を用いて調製した。PCR反応はC1000 TouchTMサーマルサイクラー(Bio-Rad)を用いて行った。PCR産物を1×TAE緩衝液中1%アガロースゲルでPowerPac Basic (Bio-Rad)を用いて泳動し、10,000倍希釈のsybersafeを用いて染色し、Fusion SL (Vilber Lourmat)
を用いて分析した。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
遺伝子コピー数の同定
選択されたモノクローンのDNAを、細胞ゲノムに組み込まれたTERSカセットの数について評価した。このことを達成するため、液滴デジタルPCR(ddPCR)を、TERSカセット及び参照遺伝子(TRAC)に特異的なプライマー及びプローブを用いて行った(表8)。TERS特異的プローブはFAMと接合し、参照遺伝子特異的プローブはHEXと接合した。組み込まれたコピー数により、ACL-1163細胞が参照遺伝子(TRAC)について二倍体であると考えられた。ddPCRの前に、DNAをMfeI(NEB)で消化してタンデム組込みを分離した。反応セットアップ及びサイクル条件は、プローブ用ddPCRTM Supermix(dUTPなし)(Bio-Rad)についてのプロトコールに従い、QX200TM液滴リーダ及び液滴ジェネレータ並びにC1000 TouchTMディープウェルサーマルサイクラー(Bio-Rad)を用いた。データは、QuantaSoftTMソフトウェアを用いて得て、Ch1を用いてFAMを、Ch2を用いてHEXを検出した。
【0053】
【0054】
導出操作細胞株におけるGOI配列のFlp媒介組込み
エレクトロポレーションを用いて、必要なDNA構築物を送達して、Flpリコンビナーゼ媒介タグ交換を促進した。反応当たり4×106細胞を、以下の設定:矩形波285V、パルス長12.5 ms、1秒間隔で2パルスでGene Pulser XcellTM(Bio-Rad)を用いて、Glutamax-I (Life Technologies)を含む500ulのRPMI 1640中でエレクトロポレートした。用いたDNA濃度は、TEDVベクター(V9.F.5)については7.5μg/ml、FLPOコーディングプラスミド(V12.A.8)については10ug/ml、DNA送達をトレースするGFPをコードするためのベクター(V1.A.4)については7.5μg/mlであった(表3)。
エレクトロポレーション後、細胞をGlutamax-I+10%FBSを含むRPMI 1640培地中で2日間インキュベートした(37℃、5%CO2)後に分析し、GFP陽性細胞を細胞選別した。
【0055】
タグ交換についての表現型決定
Flpリコンビナーゼ媒介タグ交換が起きたかを決定するために、細胞をMyc及びSBPの表面発現について染色し、RFP蛍光強度を測定した。
細胞を、エレクトロポレーションの7~10日後に採集し、以下の抗体(抗SBP-Alexa647及び抗c-Myc-AlexaPE、SantaCruz)を用いてSBP及びMycについて表面染色した。GFP及びRFP蛍光を、表4に列挙するフィルターセットでInfluxTM(BD Biosciences)FACSにより検出した。
SBPを発現するがMyc及びRFPを発現しない単細胞を選別して、200ulの成長培地を含む96ウェルプレートに移し、モノクローンコレクションを成長させた。
モノクローンの表現型決定をシングルセルソーティングの20~24日後に行った。フローサイトメトリ分析のために、細胞をウェルから移し、チューブあたり300μlのRPMIを加えた。細胞を3分間400g、4℃にて遠心分離し、上清を吸引し、細胞ペレットを25μl染色ミックス(染色ミックス:抗SBP-Alexa647及び抗c-Myc-AlexaPE)又はRPMI(未染色対照)に再懸濁し、4℃にて30分間インキュベートした。細胞を染色緩衝液(SB)(DBPS+2%FBS)で2回洗浄し、400gにて3分間遠心分離した。細胞を200ulのSBに再懸濁し、96ウェルプレートに移して、LSRFortessaでデータを獲得した。分析はFlowJoを用いて行った。
【0056】
GOI発現の確認
成長させ採集した後、細胞を150mM NaCl、50mM Tris pH8、1%CHAPS、5mMイミダゾール、1mM PMSF、1×プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤(Thermo)で20分間、4℃にてロータで溶解した。溶解物を4℃、17000gで10分間の遠心分離により明澄化し、10%アクリルアミドプレキャストゲル(Biorad)上で140Vにて1時間、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ゲル電気泳動に供した。ゲルをPVDFメンブレン(Biorad)にターボブロッティングし、これを次いでトリス緩衝生理食塩水/tween 20(TBST)1×中のSeaブロック1×(Thermo)中で15分間ブロッキングし、マウス抗flag抗体(Sigma)と2時間、室温にてインキュベートした。3×5分間TBST1×中でメンブレンから未結合の一次抗体を洗い流し、抗マウスセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)接合ヤギ抗体と1時間、室温にてインキュベートした。最後に、3×5分間TBST1×中でメンブレンから未結合二次抗体を洗い流し、HRPシグナルをECL基質(Biorad)で発色させ、Fusion SL Vilberシステムで取得した。
【0057】
GOIゲノム組込みの確認
細胞表面タグ2(SBP)を発現するモノクローン細胞株を、GOIコーディング配列の共組込みについて分子レベルにて評価した。これは、30ul反応液中で、表9及び10にそれぞれ列挙する成分及び反応条件を用いて、Q5(登録商標)ホットスタートハイフィデリティDNAポリメラーゼ(NEB)を用いるPCRにより行った。GOIがゲノムに組み込まれたかを決定するために、プライマー12.G.5及び21.G.8を用いた(表7)。これらプライマーは、GOIの3'UTR領域を標的にする。最初に、PCRマスターミックスを、全ての成分(Q5(登録商標)反応緩衝液、dNTP、ホットスタートQ5(登録商標) DNAポリメラーゼ、プライマーFwd及びRev、100ngのDNA鋳型並びにH2O)を用いて調製した。PCR反応は、C1000 TouchTMサーマルサイクラー(Bio-Rad)を用いて行った。PCR生成物を1×TAE緩衝液中1%アガロースゲルでPowerPac Basic(Bio-Rad)を用いて泳動し、10,000倍希釈のsybersafeを用いて染色し、Fusion SL(Vilber Lourmat)を用いて分析した。正確なサイズのバンドがGOI 3'UTRの配列をコードすることをサンガー配列により確認した。
【0058】
【0059】
【0060】
表面タグ発現細胞のMACS濃縮/枯渇
濃縮/枯渇のための製造業者のMACSプロトコールに概ね従った(Miltenyi Biotec、#130-047-101、IM0001377.PDF)。
【0061】
試料調製
細胞を採集し、染色緩衝液-M(SB-M:冷ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(DPBS)、2%FBS、2mM EDTA)中で遠心分離(300×g、4℃にて3分間)により1回洗浄した。SB-Mに再懸濁した細胞を、40μm細胞ストレイナーを通して濾過して、単細胞懸濁物を得た。細胞を、3mlの冷SB-Mで洗浄し、細胞ペレットを回収した。適当な抗体又は死細胞除去試薬を含む80μlの染色液を10百万細胞あたり用いて、試料を4℃にて30分間インキュベートした。細胞を3ml SB-M緩衝液で2回洗浄し、ペレットにした。
【0062】
磁性ビーズ標識
ペレットにした細胞を、細胞を160μlのSB-Mに再懸濁し、抗マウスIgG1 MACSマイクロビーズ(Miltenyi)(40μl MACSマイクロビーズを10百万細胞あたり加えた)を加えることにより、磁性ビーズで標識した。4℃にて20分間インキュベーションした後に、細胞を3ml SB-Mで洗浄し、500ul SB-Mに最終的に再懸濁した。
【0063】
磁気分離
LSカラム(Miltenyi)を適切なMACS分離装置(Miltenyi)の磁場に置き、3ml SB-Mで濯いだ。MACS前画分も回収した。細胞懸濁物をカラムに加え、未標識細胞を含むフロースルー画分を15 mlコニカルチューブに回収した(これを、フロースルー画分という)。カラムを分離装置から取り出し、適切な回収チューブに入れた。5ml SB-Mを、磁性標識細胞を含むカラムに加えた。供給されたプランジャを用いて、プランジャがカラムの底に到達するまで加圧した。磁性標識細胞を、カラムから溶出し(これを、結合画分という)。、画分を下流の用途に用いた。
【0064】
実施例1-操作細胞株へのTERSの組込み
本実施例は、ゲノムに単一TERSを含む操作細胞株モノクローンACL-1163を生成するための細胞株へのTERSの安定的組込みについて記載する。
本実施例において、配列番号1として表すTERSは、2つの遺伝子をコードする以下の選択された遺伝子エレメントから構成された。センス方向にコードされる第1の遺伝子は、2つのエキソンにわたってコードするORFの上流にEF1aプロモータを含む。第1のエキソンは、膜貫通II型タンパク質ドメイン(TD)をコードし、第2のエキソンは、Mycエピトープタグをコードする。2つのエキソン間のイントロンは、ヒトGAPDH遺伝子に由来し、第1の異種特異的FRT部位(FRT)を5'イントロンスプライスドナー部位とイントロン分岐点配列との間にコードするように改変されていた。ORFの3'端は、SV40ポリアデニル化シグナルターミネータをコードする。アンチセンス方向にコードされる第2の遺伝子は、蛍光レポータRFPをコードするORFの上流にEF1aプロモータを含む。コザック配列とプロモータとの間の領域は、第2の異種特異的FRT部位(F3)をコードする。RFP ORFの3'端は、bGHpAポリアデニル化シグナルターミネータをコードする。
ゲノムのセーフハーバー遺伝子座AAVS1へのTERSの安定的ゲノム組込みを促進するために、プラスミドを構築した。このプラスミドでは、TERSのDNAエレメントをAAVS1の左右相同アームで挟んだ。各アームは、AAVS1ゲノム遺伝子座と相同な>500bpの配列から構成された。TERSの安定的組込みは、ゲノムのセーフハーバー遺伝子座AAVS1での相同組換え(HDR)のプロセスにより達成した。
【0065】
ACL-128細胞株を、AAVS1の右左相同アームに挟まれたTERS遺伝子エレメントをコードするプラスミド、AAVS1遺伝子座を標的にする最適gRNAをコードするプラスミド及びCas9-P2A-GFPをコードするプラスミドでトランスフェクトした。2日後、Cas9-P2A-GFPプラスミド取込みについて陽性細胞をGFP蛍光に基づいてFACS選別した。GFPで選別された細胞を、更に7日より長期間拡大させた。TERSでトランスフェクトした細胞を抗Myc抗体で染色し、RFP及びMycエピトープCSTの存在についてフローサイトメトリにより分析した(
図6a)。ゲノムにTERSが組み込まれた細胞は、RFP及びMycシグナルの増加を示した。これら細胞を選別し、拡大させ、モノクローンコレクションとした。
図6bに示す代表的なモノクローンACL-1163は、RFP及びMyc表面発現の安定的で強い発現を示した。標的化されたAAVS1部位へのゲノムレシーバカセットの組込みを決定するために、選択されたACL-1163細胞株からゲノムDNAを抽出し、TERS受容カセットの内部のプライマー及びAAVS1遺伝子座に特異的なプライマー(15.F.9及び19.E.7、
図7を参照)を用いてPCR反応を行った。予想サイズのPCRアンプリコンを検出した(データは示さず)。更に、プライマー及びプローブ(フォワードプライマー1.I.7、リバースプライマー1.I.8、プローブ1.I.9、表8を参照)を用いるddPCRにより、TERS受容カセットの単一コピーのみが組み込まれたことが確認された(データは示さず)。
得られた操作細胞株ACL-1163は、対とされる適切なTEDVとのRMCEのために設計されたTERSの単一コピーを含んでいた。
【0066】
実施例2-導出操作細胞の作製のための、タグ交換及びGOI送達を伴う、TEDVとのRMCE
本実施例は、TEDVにコードされる配列とTERSとの間のRMCE駆動反応であるCSTEが、細胞表面でのCSTの交替をもたらし、よってTEDVにコードされる配列及びGOIが組み込まれた交換後の構築物をレポートすることを示す。本実施例において、上記のACL-1163を標的操作細胞株として用いた。
本実施例におけるTEDVは、センス方向に、第1の異種特異的FRT部位(FRT);分岐点配列、ポリピリミジントラクト及び3'スプライスアクセプター部位を含む3'イントロンフラグメント;並びにストレプトアビジン結合ペプチド(SBP)及びSV40ポリアデニル化シグナルターミネータをコードするエキソンをコードする。呼吸器多核体ウイルス(RSV)に由来する3つの別個のGOIは、別個のTEDV中でアンチセンス方向にコードされ、各GOI ORFは、第2の異種特異的FRT部位(F3)と3'bGHpAポリアデニル化シグナルターミネータとの間に位置した。配列番号3~配列番号5の配列は、SBPエピトープCST及びGOIをコードする、用いた3つの独立したTEDV構築物を表す。
【0067】
本実施例において、実施例1で構築した操作細胞株ACL-1163を、TEDV(配列番号3~配列番号5の配列から選択される)及びRMCEリコンビナーゼ酵素をコードする発現ベクター(FLPO、V4.1.8、表3、配列番号2)でエレクトロポレートした。細胞を7~10日間インキュベートして、組込カップルを生じさせ、次いで抗Myc及び抗SBP抗体で染色し、RFP、Myc及びSBPレポータシグナルについてフローサイトメトリにより分析した。「タグ交換」を示すRFP及びMycシグナルの低減並びにSBPシグナルの増加を示す細胞を選別し、拡大させ、モノクローンのコレクションとした。代表的なモノクローンACL-3426の特徴決定を、
図7a及び7bに示す。表面タグ交換の成功を確認するために、モノクローンACL-3426を、Mycに対する抗体及びSBPに対する抗体で染色して、RFP及びMyc表面発現の喪失(
図7a)及びSBPシグナルの獲得(
図7b)についてフローサイトメトリにより分析した。実際、CSTEが行われた細胞は、SBPのシグナルを示した一方、Myc又はRFPのシグナルを示さないことにより、タグ交換が成功していることを示した。並行して親の細胞を分析したが、高いRFP及びMycシグナル(
図7a右パネル)と低いSBPシグナル(
図7b右パネル)が持続したことを示した。
【0068】
CSTE後に、GOI ORFが組み込まれて発現されることを証明するため、異なるRSV-1 GOIをコードする上記各TEDVを用いた独立実験の3モノクローンを、イムノブロッティングにより評価した(
図7c)。TEDVにより提供される各々がFlagタグをコードするGOI ORFは、RSV-1の3つの遺伝子P、N遺伝子及びM2遺伝子(長)であった。CSTEを行うことにより、細胞を、flpリコンビナーゼをコードする構築物と、SBPエピトープCST及びRSV-1 P遺伝子をコードするTEDV(得られる細胞株モノクローンはACL-3374);又はSBPエピトープCST及びRSV-1 N遺伝子をコードするTEDV(得られる細胞株モノクローンはACL-3386);SBPエピトープCST及びRSV-1 M2長遺伝子をコードするTEDV(得られる細胞株モノクローンはACL-3433)のいずれかとでトランスフェクトした。モノクローンからタンパク質を抽出し、試料を、マウス抗Flag一次抗体を用いてイムノブロットした後に、抗マウスセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)接合ヤギ抗体とインキュベートした。ECL基質を用いてHRPシグナルを発色させた。CSTEの成功は、各GOIの予想分子量のflagについて陽性の単一バンドの存在により示された(
図7cレーン2~4)。並行して親の細胞を分析したが、Flagタグシグナルは存在しなかった(
図7cレーン5)。
まとめると、本実施例は、細胞表面タグ交換を用いて、当初TERS構築物の存在及びRMCEによりTEDVにコードされる配列が組み込まれた交換後の構築物の存在を条件的にレポートすることができ、GOIの組込み及び発現を、GOI自体の検出とは独立してレポートできることを示す。
【0069】
実施例3-タグ交換後の混合操作細胞集団からの、磁気活性化セルソーティング(MACS)によるTag2(SBP)の濃縮又はTag1(Myc)の枯渇
本実施例は、表面タグ技術を、MACSによるTag2(SBP)濃縮又はTag1(Myc)枯渇に用いることができることを証明する。更に、Tag2(SBP)の存在を利用して、タグ交換後の興味対象遺伝子(GOI)の組込みをモニタリングすることができる。2つの操作されたモノクローン細胞株APL-3015及びAPL-4535の出発混合集団を用いた。細胞集団を、90%のMyc陽性APL-3015細胞及び10%のSBP陽性APL-4535細胞として混合した。APL-4535細胞内のタグ交換レシーバ部位(TERS)は、SBPエピトープCST及び細胞内タンパク質をコードする全長FLAGタグGOIをコードする一方、APL-3015細胞内のTERSは、MycエピトープCST及びRFP選択遺伝子をコードした。磁気活性化セルソーティング(MACS)を用いて、混合集団からSBP陽性APL-4535細胞を濃縮した。別の実験において、MACSを用いて、混合集団からMyc陽性APL-3015細胞を枯渇させた。
【0070】
第1の場合において、混合細胞集団を、抗SBP-Alexa488蛍光体で標識した後に、抗マウスIgG鉄ビーズとインキュベートした。MACSを用いてSBP標識細胞を濃縮し、抗c-Myc-Alexa 405蛍光体で対比染色した。
図8aは、3つの実験ステップにおけるSBP陽性細胞及びMyc陽性細胞の比率を示す。:1)混合細胞集団中のSBP陽性細胞及びMyc陽性細胞の開始比を確実にするためのMACS前、2)MACSカラムを磁場中に置いたときカラムに捕捉されないSBP陽性細胞及びMyc陽性細胞の比率を評価するためのフロースルー、及び3)MACSカラムに捕捉されるSBP陽性細胞及びMyc陽性細胞の比率を評価するための結合画分。3画分は全て抗c-Myc Alexa 405蛍光体で対比染色し、データをBD Influx装置で得た。
図8aは、フロースルー画分中のSBP陽性細胞の欠如(<0.01)によりSBP陽性細胞の濃縮が成功したことを示す一方、SBP標的化濃縮後は、結合細胞の95%がSBP陽性であった。
【0071】
表面タグ技術が、混合細胞集団から、Tag1(Myc)を発現するベース細胞株をMACSにより枯渇させるために使用できることを証明するため、全ての細胞を抗c-Myc-Alexa 405蛍光体で標識し、抗マウスIgG鉄ビーズとインキュベートした。標識細胞を、MACSを用いて枯渇させ、示した画分を回収した。3つ全ての画分を抗SBP-Alexa 488で対比染色し、データをBD Influx装置で得た。Myc陽性細胞の枯渇の成功は、フロースルー画分中のMyc陽性細胞数の低減(25%)及びSBP陽性細胞数の増加(75%)により証明された。
更に、Tag2(SBP)の存在をレポータとして用いてタグ交換後のGOI組込みをモニタリングできることを証明するため、合計546のSBP陽性モノクローンを個々に、SBPに連結されたGOIをコードするかについて評価した。
図8cのチャートは、SBP陽性細胞の96.52%がGOIをコードする一方、SBP陽性細胞の3.48%はGOIを発現しなかったことを示す。
この結果は、表面タグ技術が、タグ交換後の混合細胞集団から、Tag2(SBP)を発現するモノクローンの濃縮又は未改変のベース細胞株(Tag1(Myc)発現モノクローン)の枯渇に適切であることを証明する。更に、Tag2(SBP)の存在はタグ交換後のGOI組込みと関連するので、細胞表面でのTag2(SBP)の存在を、操作細胞株内でTERSへのGOI送達が成功したことの指標として用いることができる。
【0072】
実施例4-バーコードを用いる細胞表面タグ交換(CSTE)システムの構成及び動作
本実施例は、CSTEシステムを用いて、GOIを発現する操作細胞にバーコードを付する概念についての模式図を示す。
図9は、GOIを発現する細胞にバーコードを付するためのCSTEシステムの使用に関する模式図である。パネルa及びbは、それぞれ、タグ交換ドナーベクター(TEDV)のプール及びタグ交換レシーバ部位(TERS)を含む操作細胞を含むシステム成分を示す。
【0073】
各TEDVは、構築物の5'及び3'末端に、TERSに含まれるRMCE部位と対をなすRMCEエレメントをコードする。TEDV構築物の5'端のRMCEエレメントは、3'イントロンフラグメント配列内にコードされ、このRMCEエレメントの直ぐ3'側に、分岐点配列、ポリピリミジントラクト及びスプライスアクセプター部位を含むイントロンの3'エレメントが存在する。よって、RMCEは、「非機能的」な非コーディングイントロン配列内に含まれ、TEDVに含まれる3'イントロンフラグメントは、5'スプライスドナー部位を欠く。TEDVは、スプライスアクセプター部位の直ぐ3'側に、細胞表面タグ(CST)の3'エキソンをコードする。このことは、このエキソンが、ユニークな分子結合モチーフを含むCSTの部分をコードすることを意味する。このCST配列は5'→3'方向にコードされる一方、TEDVは、3'→5'方向にコードされる、TERSに組み込まれる興味対象遺伝子(GOI)もコードする。
【0074】
本実施例における各CSTは、3つのユニークなエピトープ(A、B、C)から選択した2つのエピトープ(6つのユニークな組合せが可能である)から構成される。各エピトープの配置は現在の技術では区別が困難であるので、ABはBAと実質的に等価である。本実施例において、AX組合せを、3つのバリアントを有するGOIファミリー(GOI a-i、a-ii及びa-iii)に割り当て、BX組合せを、3つのバリアントを有する第2のGOIファミリー(GOI b-i、b-ii、b-iii)に割り当てた。本実施例の個々のTEDVをプールする(
図9a)。
操作細胞に含まれるTERSの中央部は、同様な構造であるが、TEDVのものとは異なるエレメントをコードする。すなわち、TERSは、TEDVのものと対をなすRMCEエレメント間に、TEDVにコードされるCSTのものとは異なるCSTエキソンをコードし、このCSTの直ぐ5'側に、スプライスアクセプター部位及び関連する3'イントロン配列を有する。同様に、選択遺伝子は、TEDV中のGOIと同様に、TERS内でアンチセンス方向にコードされる。構築物の5'端に、CSTの転写を駆動するプロモータ配列が含まれる。このプロモータ配列の3'側に、膜貫通ドメイン(TD)エキソンがコードされ、その直ぐ3'側に5'イントロン配列を有する。このことは、RMCEエレメント含有イントロンとインフレームでコードされるTDエキソン及びCSTエキソンが、一続きの転写産物として生成され、この転写産物がスプライスされてエキソンが繋がり単一コーディングmRNAとなることを意味する。TERSにコードされるTD-CST産物は細胞表面で発現される。TERS構築物の3'末端に、3'→5'方向に選択遺伝子の転写を駆動して、選択遺伝子の発現をもたらす別のプロモータエレメントがある(
図9b)。
【0075】
TERSを含む操作細胞集団にTEDVプールを、TEDV/TERS中で対をなすRMCEエレメントに特異的なリコンビナーゼの適切な発現構築物と共に導入することにより、RMCEが生じ、GOIを発現する導出操作細胞のプールが作製される(
図9c)。TERSにコードされるエレメントは、TEDVにコードされるエレメントに交換される。よって、導出細胞集団は、TEDVにコードされるCSTを、元々TERSにコードされるTDを有するTD-CST生成物として細胞表面に発現し、GOIを発現する。
まとめると、TEDV及びTERSのプール間でRMCEが生じると、選択遺伝子及び元々TERSにコードされるCSTの発現を喪失した導出操作細胞プールが作製され、プール中の各細胞は、TEDVプールのTEDVにコードされるCSTのメンバーの1つ及びGOIの発現を獲得する。GOI発現操作細胞のプールを、FACSにより個々のメンバーに更に分析/単離でき、例えばユニークなCSTバーコードの発現に基づいて単離できる(
図9d)。このことは、所望のバーコードのバルク集団として又はシングルセルソーティングによる個別細胞単離により達成できる。或いは、プールの分析は、デジタルデータセット内の興味対象集団を同定する手段としてバーコードを用い、ソーティングを行わないFACにより、例えばバリアントのGOI発現又は細胞機能を関連付ける細胞機能の二次分析と共に行うことができる。
【0076】
CSTが複数のエピトープから構成され得るという概念を証明するため、ACL-1及びACL-5細胞を、CSTをコードするプラスミド又はCSTを含まない対照プラスミドのいずれかでトランスフェクトした(
図9e)。このCSTは、(配列番号20の配列により示されるように)3つのユニークなエピトープFLAG、MYC及びHAを含んでいた。当業者に公知の標準的方法を用いる化学的トランスフェクション(ACL-5)又はエレクトロポレーション(ACL-1)を用いて細胞をトランスフェクトした。48時間後、細胞を採集し、蛍光体と接合した同族抗体:抗FLAG-PE、抗MYC-AF647及び抗HA-AF488で染色した。細胞をフローサイトメトリにより分析した。生存細胞を前方散乱(FSC)及び側方散乱(SSC)によりゲーティングした。生存細胞の平均蛍光強度(MFI)を3エピトープの各々について決定し、それぞれのエピトープを発現する生存細胞のパーセンテージを決定した。3つ全てのエピトープが、空ベクターでトランスフェクトされた試料と比較して、バーコードを付されたCSTをコードするプラスミドでトランスフェクトされた試料の細胞において、高い割合及び強度で検出された。このことから、複数のエピトープから構成されるCSTの能力が証明される。
これら結果は、CSTが複数のエピトープから構成され得るので、表面タグ技術は細胞株のバーコード付与に適切であることを証明するものである。
【0077】
略語のリスト
AAVS1 アデノ随伴ウイルス組込み部位1
APC 抗原提示細胞
Cas9 CRISPR関連遺伝子9
CMV サイトメガロウイルス
cre Creリコンビナーゼ
CRISPR クラスター化規則的配置短回文配列リピート
CST 細胞表面タグ
CSTE 細胞表面タグ交換
DMSO ジメチルスルホキシド
DNA デオキシリボ核酸
DPBS ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水
DSB 二本鎖破断
dUTP デオキシウリジン三リン酸
EDTA エチレンジアミン四酢酸
EF1アルファ 伸長因子アルファ(真核生物翻訳のため)
FACS 蛍光活性化セルソーティング
FAM フルオレセインアミダイト
FBS ウシ胎仔血清
FLP フリッパーゼ
FRT フリッパーゼ認識標的
GFP 緑色蛍光タンパク質
GOI 興味対象遺伝子
gRNA ガイドリボ核酸
HDR 相同組換え
HLA ヒト白血球抗原
IRES 内部リボソーム進入部位
MACS 磁気活性化セルソーティング
NEB ニューイングランドバイオラブズ
NHEJ 非相同末端結合
【0078】
ORF オープンリーディングフレーム
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
RFP 赤色蛍光タンパク質
RMCE リコンビナーゼ媒介カセット交換
RPMI ロズウェルパーク記念研究所
RSV 呼吸器多核体ウイルス
RT 逆転写
RNA リボ核酸
SBP ストレプトアビジン結合ペプチド
SSR 部位特異的リコンビナーゼ
SV40 サルウイルス40
SV40pA サルウイルス40ポリ(A)
TAA 腫瘍関連抗原
TALEN 転写アクチベータ様エフェクターヌクレアーゼ
TAE トリス酢酸-EDTA
T細胞 Tリンパ球
TCR T細胞受容体
TCS 標的コーディング配列
TD 膜貫通ドメイン
TEDV タグ交換ドナーベクター
TERS タグ交換レシーバ部位
rRNA リボソームRNA
tRNA トランスファーRNA
UTR 非翻訳領域
ZNF ジンクフィンガーヌクレアーゼ
【0079】
定義のリスト
アンプリコン:PCRを含む種々の方法を用いる人工的増幅の供給源及び/又は生成物であるDNA又はRNA片。
抗体:B細胞とよばれる免疫系の特化された細胞により発現され、2つの鎖を含む親和性分子。B細胞は、自己タンパク質と通常は結合しないが、宿主に脅威を与え得る病原体又は毒素と結合し中和化できる抗体の非常に大きく非常に多様なレパートリを発現する。天然の又は人工操作された抗体は親和性試薬として用いられることがある。
栄養要求:通常の株が必要としない特定の追加の栄養素を必要とする変異生物(特に細菌又は真菌)。
シス作用性エレメント:近傍のORFの転写を調節する非コーディングDNA領域。
CST:組み込まれた興味対象遺伝子のレポートを可能にする共に組み込まれた細胞表面タグ。
CSTEシステム:ドナー/レシーバ対として動作するシステムであって、タグ交換ドナーベクターは、興味対象遺伝子配列及び細胞表面タグエキソンを、操作細胞株のゲノム内に含まれる、対をなすタグ交換レシーバ部位に送達するように作用する。
導出操作細胞:更に遺伝子改変され、CSTが交換されGOIが組み込まれている操作細胞。
【0080】
DNA:デオキシリボ核酸。遺伝子及びタンパク質をコードする遺伝物質を形成する分子の化学名称。
操作細胞:遺伝子改変によりゲノムが操作された細胞。
エピトープ:抗体又は他の親和性試薬が結合する抗体標的の領域。
真核生物条件的調節エレメント:規定された条件下で誘導又は抑制され得るプロモータの活性に影響し得るDNA配列。
真核生物プロモータ:RNAポリメラーゼ結合部位及び応答エレメントをコードするDNA配列。プロモータ領域の配列は、RNAポリメラーゼ及び転写因子の結合を制御するので、プロモータは、興味対象遺伝子が発現する場所及び時期の決定に大きな役割を果たす。
真核生物ターミネータ/シグナルターミネータ:RNAポリメラーゼIIと結合し、転写終結プロセスを誘引するタンパク質因子により認識されるDNA配列。これはポリAシグナルもコードする。
【0081】
FACS/フローサイトメトリ:蛍光活性化セルソーティング。フローサイトメトリは、特定の細胞表面及び細胞内マーカーの発現について個々の細胞をまとめて分析できる技術である。セルソーティング技術の変法は、規定されたマーカーセットを有する細胞を、更なる分析のために回収することを可能にする。
フリッパーゼ:パン酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の2μmプラスミドに由来するリコンビナーゼ(フリッパーゼ、Flp)。
蛍光(タンパク質)マーカー:特異的な消光及び発光特性を有し、顕微鏡、FACS及び関連技術により検出できる分子。
遺伝子シス作用性エレメント:調節する遺伝子と同じDNA分子上に存在する。一方、トランス調節エレメントは、それが転写された遺伝子から離れた遺伝子を調節できる。シス調節エレメントは1又は2以上のトランス作用性因子の結合部位であることが多い。
遺伝子バーコーディング:DNAバーコーディングは、生物のDNA中の短い遺伝子マーカーを用いて特定の種に属することを同定する分類法である。
GOI:興味対象遺伝子は、任意の興味対象の核酸コーディング又は非コーディング配列と定義される。
【0082】
異種特異的リコンビナーゼ部位:2つのDNA分子のクロスオーバーを促進するリコンビナーゼ酵素により認識されるDNA配列。
相同アーム:相補的相同アームとほぼ同一の配列同一性を有し、よって細胞プロセスである相同性指向修復による2つのDNA分子の交換を促進するDNAストレッチ。
インスレータ:遺伝子がその近傍の遺伝子の活性化又は抑制により影響されることを妨げるDNA配列。インスレータは、サイレント化された遺伝子から活発に転写される遺伝子へのヘテロクロマチンの拡散も妨げる。
組込み:細胞の染色体へのDNA配列の物理的ライゲーション。
内部リボソーム進入部位(IRES):転写されると、キャップ非依存様式で翻訳開始を可能にするRNAエレメントをコードするDNA配列。
イントロン:RNA分子がタンパク質に翻訳される前にスプライスされて除去されるRNA転写産物の非コーディング区間又はそれをコードするDNA。
イントロン分岐点配列:5'スプライスドナー部位に求核攻撃を開始する分岐点配列ヌクレオチド。次いで、上流イントロンの遊離端が、3'スプライスアクセプター部位に第2の求核攻撃を開始して、イントロンをRNAラリアットとして放出し、2つのエキソンを共有結合させる。
【0083】
K:ケト(Keto)を示すヌクレオチドコードである(K=G又はT)。
コザック配列:効率的翻訳開始に必要な短い配列。
M:アミノ(aMino)を示すヌクレオチドコードである(M=A又はC)。
MACS:磁気活性化セルソーティング:磁場を利用する分離用の磁性粒子を含む親和性分子で細胞を標識する細胞単離技術。
マッチする:2つの成分が、相補成分間の相互作用を導き及び制限する遺伝子エレメントをコードするとき、当該2つの成分はマッチしている。
モノクローン性細胞株:細胞複製の反復により単一祖先細胞から生じ規定された細胞群。
N:任意(aNy)のヌクレオチドを示すヌクレオチドコードである(N=A、T、C又はG)。
天然:細胞に対して天然に生じる実体。
ネガティブ選択マーカー:ベクター及び/又はマーカー保有ベクターを有する宿主生物のネガティブ選択を可能とする選択マーカー。
非コーディング遺伝子:機能的な非コーディングRNA分子に転写されるタンパク質をコードしないDNA配列。
複製起点:複製が開始する、ベクター、プラスミド又はゲノム内の特定の配列。
【0084】
ORF:オープンリーディングフレーム。リボソームによるタンパク質(ポリペプチド)合成のための翻訳フレームをコードする遺伝子材料のストレッチ。
オーバーハング:二本鎖核酸分子の末端の一本鎖配列。しばしば、粘着又は付着末端と呼ばれる。
PCR:特定の標的DNA分子が指数関数的に増幅されるポリメラーゼ連鎖反応。
ペプチド:典型的には6~30アミノ酸長の、一続きの短いアミノ酸。
表現型分析:細胞の観察可能な特徴の分析。
プラスミド:染色体とは独立に複製可能な遺伝子構築物、典型的には、細菌又は原生動物の細胞質中の小さい環状DNA鎖。
ポリペプチド:三次元構造を形成するペプチドストレッチからなるタンパク質。
ポリピリミジンモチーフ:CAGイントロン3'端の上流に存在する、ピリミジンが多い(CnTn)モチーフ。
ポジティブ選択マーカー:ベクター及び/又はマーカー保有ベクターを有する宿主生物のポジティブ選択を可能にする選択マーカー。
【0085】
プライマー:例えばPCR中に標的DNA配列の特異的認識を可能にする短いDNA配列。
プロモータ:遺伝子発現の開始を制御する調節DNAエレメント。
リコンビナーゼ:遺伝子組換えを媒介し、RMCEを触媒する酵素。
レポータエレメント:当該エレメントを有する生物又はベクター内でレポートされるシグナルを媒介する遺伝子エレメント。ポジティブ又はネガティブ選択マーカーとして用いることができる。
制限酵素切断配列:固有又は制限酵素の認識配列に固有であり得る、制限酵素により切断される遺伝子配列。
制限酵素認識配列:制限酵素により認識され、制限酵素が結合する遺伝子配列。
RMCE:リコンビナーゼ媒介カセット交換。リコンビナーゼにより触媒される、ゲノムレシーバ部位での遺伝物質の交換。
スプライスアクセプター部位:イントロンの3'端のDNA配列。
スプライスドナー部位:イントロンの5'端のDNA配列。
自殺遺伝子:この遺伝子を有する宿主生物内で細胞死を媒介する遺伝子。ポジティブ又はネガティブ選択マーカーとして用いることができる。
合成:人工的に作製された実体。
【0086】
TEDV:操作細胞のゲノム内に含まれるタグ交換レシーバ部位と対をなすタグ交換ドナーベクター。これは、興味対象遺伝子及び細胞表面タグエキソンを送達するために用いられる。
TERS:操作細胞株のゲノム内に含まれる、TEDVと対をなすタグ交換レシーバ部位。
II型膜貫通ドメイン:シグナル/アンカー配列の組合せとして働く、N末端に近い疎水性残基からなる単一の非開裂性膜貫通ストレッチであって、N末端部分が膜内部にあり、C末端部分が細胞外部又はER内腔に露出されるストレッチ。
ベクター:ベクターは、遺伝情報を有する遺伝子構築物である。本発明に関しては、ベクターは、通常、プラスミドDNAベクターを表す。ベクターは、宿主生物において増幅及び選択できる任意のこのような構築物のことであり得る。
W:弱(Weak)を示すヌクレオチドコードである(W=A又はT)。
TEDVの第1のRMCEエレメントがTERSの第1のRMCEエレメントと対であり、TEDVの第2のRMCEエレメントがTERSの第2のRMCEエレメントと対である、請求項1に記載の組合せシステム。
工程cで用いる親和性試薬が、TERSにコードされるCSTの発現の減弱及びTEDVにコードされるCSTの発現の増加を検出するように蛍光標識されており、蛍光活性化セルソーティングにより、前記発現に基づく細胞の分配及び選択が可能である、請求項6に記載の使用。
基材親和性方法、例えば磁気活性化セルソーティングを用いて標的細胞集団中の、TERSにコードされるCSTを発現する細胞を枯渇させ得るか又はTEDVにコードされるCSTを発現する細胞を濃縮させ得るように、工程cで用いる親和性試薬が基材に固定化されている、請求項7に記載の使用。