(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161422
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】組織の老化のマーカー及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6876 20180101AFI20241112BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241112BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20241112BHJP
C12Q 1/6806 20180101ALI20241112BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241112BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241112BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20241112BHJP
A61K 31/4535 20060101ALI20241112BHJP
A61K 31/473 20060101ALI20241112BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241112BHJP
G01N 33/573 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
C12Q1/6876 Z
C12N15/12 ZNA
C12Q1/26
C12Q1/6806 Z
A61K45/00
A61P13/12
A61P17/00
A61P25/00
A61P43/00 105
A61P15/00
A61P43/00 111
A61K31/4535
A61K31/473
G01N33/53 M
G01N33/573 A
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】42
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024126677
(22)【出願日】2024-08-02
(62)【分割の表示】P 2022106473の分割
【原出願日】2018-03-02
(31)【優先権主張番号】2017900740
(32)【優先日】2017-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.BRIJ
3.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】519319440
【氏名又は名称】ザ ユニヴァーシティー オブ ニューカッスル
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】スミス ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】マイティ カウシーク
(57)【要約】
【課題】胎盤組織、皮膚、腎臓、及び脳組織を含む組織の老化及び/又は酸化損傷を検出又は判定する方法を提供する。
【解決手段】本明細書では、胎盤組織、皮膚、腎臓、及び脳組織を含む組織の老化及び/又は酸化損傷を検出又は判定する方法が提供される。一実施形態は、体組織の老化を検出又は判定するための方法を提供し、この方法は、生物学的試料中のアルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又は1つ若しくは複数のマーカーのレベルが組織の老化の指標である。本明細書では、1つ又は複数の細胞又は組織の老化又は酸化損傷に関連する疾患又は状態を処置する方法も提供され、この方法は、AOX1の阻害剤を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体組織の老化を検出又は判定するための方法であって、対象から得られた生物学的試料中のアルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又は1つ若しくは複数のマーカーのレベルが組織の老化の指標である、方法。
【請求項2】
前記対象が妊娠中である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組織が胎盤組織である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的試料には、前記妊娠中の対象、胎盤、又は胎児からの試料が含まれる、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記生物学的試料には、血液、羊水、胎盤組織、又はそれらに由来する試料が含まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記生物学的試料には、血液又はそれに由来する試料が含まれる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記生物学的試料には、全血、血漿、又は血清が含まれる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記生物学的試料が、母体由来の試料である、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記試料が母体血である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーが、前記生物学的試料中に存在する遊離RNA若しくは遊離DNA、胎盤細胞の断片、エキソソーム、又は微粒子に由来する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記AOX1の発現の1つ又は複数のマーカーには、AOX1 mRNA及び/又はAOX1タンパク質が含まれる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記AOX1活性の1つ又は複数のマーカーには、8-ヒドロキシ-デオキシグアノシン(8OHdG)、8-ヒドロキシ-グアノシン(8HOG)、4-ヒドロキシノネナール(4HNE)、又はマロンジアルデヒド(MDA)が含まれる、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
AOX1の発現又は活性の2つ以上のマーカーの組み合わせが測定される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記2つ以上のマーカーには、AOX1 mRNA及び/又はタンパク質並びに4HNEが含まれる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
参照値と比較した、前記生物学的試料中のAOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルの増加が、前記組織の酸化ストレス及び/又は老化を示す、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
酸化ストレスの1つ又は複数の追加のマーカーも又、前記生物学的試料又はさらなる生物学的試料で測定される、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記妊娠中の対象において、参照値と比較した前記生物学的試料中のAOX1の活性若しくは発現又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルの増加が、胎盤の老化、子癇前症、子宮内発育遅延、出産予定日を超過した妊娠のリスク、死産のリスク、出産予定日を超過した妊娠若しくは死産を防止するための介入の必要性、又は出産の適切な時期を示す、請求項2~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
出産予定日を超過した妊娠又は死産を防止するための前記介入には、予防的帝王切開、陣痛の誘発、及び/又は胎盤の老化を予防若しくは遅らせる、又は子宮内胎児の生存を引き延ばすための治療の実施が含まれる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーが、経時的に前記対象から得られた、妊娠中の対象からの1つ又は複数の生物学的試料で測定される、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
妊娠中の死産のリスクを監視するために使用される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記1つ又は複数の生物学的試料が、前記妊娠中の対象から隔週、毎週、又は毎日得られ;AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーの経時的な増加が死産のリスクの増加を示す、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
胎盤の老化を検出するための方法であって、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及び前記生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルが、胎盤の老化の指標である、方法。
【請求項23】
参照値と比較して増加したAOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルが胎盤の老化を示す、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
出産予定日を超過した妊娠又は死産のリスクを予測するための方法であって、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及び前記生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、前記AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルが、出産予定日を超過した妊娠又は死産のリスクを示す、方法。
【請求項25】
参照値と比較して増加したAOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーが死産のリスクを示す、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
出産予定日を超過した妊娠又は死産を防止するための介入の必要性を判断するための方法であって、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及び前記生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、前記AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルが介入の必要性の指標である、方法。
【請求項27】
参照値と比較して増加したAOX1の発現若しくは活性、又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルが、死産を防止するための介入の必要性を示す、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記介入には、予防的帝王切開、陣痛の誘発、又は胎盤の老化を遅らせる若しくは子宮内胎児の生存を引き延ばすための治療の実施の少なくとも1つが含まれる、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
胎盤の酸化ストレスを検出するための方法であって、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及び前記生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、前記AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルが胎盤の酸化ストレスの指標である、方法。
【請求項30】
参照値と比較して増加したAOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルの増加が胎盤の酸化ストレスを示す、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
胎盤の老化、胎盤の酸化ストレス、又は妊娠期間中の出産予定日を超過した妊娠若しくは死産のリスクを監視するための方法であって:
(i)妊娠期間中の最初の時点で妊娠中の対象から生物学的試料を得ること;
(ii)前記生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定すること;
(iii)前記妊娠期間中の1つ又は複数の後の時点で、前記対象から1つ又は複数のさらなる生物学的試料を得ること;及び
(iv)前記1つ又は複数のさらなる生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、
前記AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルの経時的な増加が、胎盤の老化、胎盤の酸化ストレス、又は出産予定日を超過した妊娠若しくは死産のリスクを示す、方法。
【請求項32】
前記1つ又は複数のマーカーの測定を妊娠中期に開始する、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記生物学的試料が妊娠約20週から得ることができる、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記時点間の間隔が、毎日、毎週、隔週、又は毎月である、請求項31~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
1つ又は複数の細胞又は組織の老化又は酸化損傷を遅くする又は防止する方法であって、前記1つ又は複数の細胞又は組織をAOX1の阻害剤に曝露することを含む、方法。
【請求項36】
前記組織が、胎盤、皮膚、腎臓、又は脳組織である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記AOX1の阻害剤が妊娠中の対象に投与される、請求項35又は36に記載の方法。
【請求項38】
1つ又は複数の細胞又は組織の老化又は酸化損傷に関連する疾患又は状態を処置する方法であって、AOX1の阻害剤をそれを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【請求項39】
出産予定日を超過した妊娠又は死産のリスクを防止又は低減するための方法であって、妊娠中の対象にAOX1の阻害剤を投与することを含む、方法。
【請求項40】
前記AOX1の阻害剤が、ラロキシフェン又はGタンパク質共役エストロゲン受容体1(GPER1)アゴニストである、請求項35~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記GPER1アゴニストがG-1である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
老化若しくは酸化損傷を低減若しくは防止するため、組織の老化若しくは酸化損傷に関連する疾患若しくは状態を処置するため、又は出産予定日を超過した妊娠若しくは死産のリスクを防止若しくは低減するための薬剤の製造におけるAOX1の阻害剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、胎盤組織、皮膚、腎臓、及び脳組織などの組織の老化及び/又は酸化損傷を検出又は判定する方法に関する。本開示は又、そのような組織における老化及び/又は酸化損傷を遅延させる、遅くする、又は防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の累積したランダムな損傷は、組織の機能に影響を与え、老化の一因となり得る。代謝プロセス及び細胞の増殖は、タンパク質、脂質、及び核酸に損傷を与え得る活性酸素種を生成する。細胞は、カタラーゼ及びスーパーオキシドジスムターゼのような酵素などの、酸化ストレスに対する防御機構を備えているが、修復機構が活性酸素種の生成を補うのに不十分な場合、組織の損傷及び老化が起こり得る。
【0003】
増殖経路は、一般に、酸化ストレスの増加に関連している。胎児の成長を促進する胎盤の機能により、特に胎児の成長が速い妊娠末期近くで、酸化損傷の指標が胎盤に現れ得ることは驚くべきことではない。本発明者らは、死産は、老化した胎盤の胎児を維持する能力の低下に関連し得ると仮定した(Smith et al 2013,Placenta,34:310-313)。この見解を支持して、満期での原因不明の子宮内死の症例に関連する胎盤の組織病理学的研究により、91%が母体のらせん動脈壁の肥厚を示し、54%が胎盤梗塞を含み、10%が石灰化領域を有し、13%が血管閉塞;他の臓器の老化に関連する変化を示したことが明らかにされた。本発明者らは、出産が遅れた又は死産した女性からの胎盤には、老化及び酸化ストレスの生化学的証拠があることを実証した。
【0004】
原因不明の胎児死亡は、先進国では200の妊娠のうちの約1つの妊娠で発生し、発展途上国ではより頻繁に起きる妊娠の一般的な合併症である。原因不明の胎児死亡は、乳幼児突然死症候群の40倍も一般的であるが、あまり注目されていない。しかしながら、この出来事は、関係する家族に大打撃を与える。原因は確定していないが、死産は、胎児の発育遅延、先天異常、分娩前出血、周産期感染症、子癇前症、並びに母親の身長及び年齢、肥満、高血圧、糖尿病、喫煙、親の血族関係、民族性、及び出生国などの母体因子に関連し得る。死産の危険因子は存在するが、多くの場合、原因不明のままである。
【0005】
一部の分娩前の症例では、死産の前に胎児が動かなくなることもあるが、警告サインがない場合もあり得る。死産の原因の理解不足により、妊娠中のリスクを予測することが困難である。死産は、妊娠20週以上又は出生時体重400g以上での出産前又は出産中の胎児の死亡として定義することができる(Perinatal Society of Australia and New Zealand Clinical Practice Guideline for Perinatal Mortality; Second Edition,version 2.2,April 2009)。死産のリスクの指標を特定することにより、胎児のリスクを減らすために予防的帝王切開又は陣痛の誘発を受ける機会を妊婦に提供することができる。したがって、死産のリスクの診断バイオマーカーは、死産の防止に非常に有益であるはずである。
【0006】
妊娠の最適な期間は個体間で異なる可能性がある。早産の場合、乳児は生存可能であり得るが、子宮内で十分に発達していなければ合併症が起きる可能性が高い。一般に、より長い妊娠期間(最大約41週間)は、乳児の解剖学及び生理学系のより良い発達に関連する。実際、妊娠41週で生まれた乳児は、妊娠37週で生まれた乳児よりも後年に特別な教育を必要とする可能性が低い。しかしながら、妊娠期間が長引くと、胎児が成長し続けて栄養素のさらなる供給を必要とする過熟妊娠症状(post-maturity symptom)になることがある。過熟妊娠症候群(post-maturity syndrome)は、妊娠後期の栄養不良の証拠を示す出産予定日を超過して生まれた乳児(post-dated infant)に見られる状態である。満期で生まれた正常なヒトの乳児は、体脂肪が12~14%であるが、過熟妊娠症候群は、皮下脂肪不足により皮膚に重度のしわのある乳児の誕生に関連している。過熟妊娠症候群は、陣痛が自然に起きなかった場合は陣痛の誘発又は帝王切開を使用して、通常は妊娠42週未満で出産が行われる現代の産科診療ではめったに見られない。特に、死産のリスクは、過期妊娠で大幅に増加し、そのレートは、妊娠が38週を超えると指数関数的に上昇する。したがって、妊娠には最適な妊娠期間があるように思われるが、この期間は個体間で異なる可能性が高い。現在、個々の妊娠についての理想的な妊娠期間を決定する方法が存在しない。胎盤の老化は、出産する適切な時期の指標であり得るが、胎児へのリスクが最小限で妊婦の胎盤の酸化状態を決定する方法は現在存在しない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、アルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)の発現及び活性(及び4-ヒドロキシノネナール、4HNEなどのそのマーカーのレベル)が胎盤及び腎臓を含む複数の組織における組織の老化及び酸化損傷に相関するという発明者らの驚くべき発見に基づいている。本発明者らは、ラロキシフェンなどのAOX1の阻害剤、又はG1などのGタンパク質共役エストロゲン受容体1(GPER1)アゴニストの投与によって胎盤の酸化ストレスを低減できることも実証した。本明細書に例示されるように、AOX1の阻害は、胎盤組織における酸化的変化及びリソソーム変化を防止する。
【0008】
したがって、本発明者らは、それによって妊娠が死産のリスクにさらされ得ることを示す胎盤の酸化ストレスの指標を得るために非侵襲的にサンプリングすることができる効果的なバイオマーカーを特定した。胎盤で観察されるものと同様の酸化的変化及びリソソーム変化は、加齢に関連する疾患(例えば、アルツハイマー病、ハンチントン病)でも見ることができる。したがって、AOX1は、複数の組織型における酸化損傷及び老化のマーカー、並びにそれらの処置又は予防の標的も提供する。
【0009】
本開示の第1の態様は、体組織の老化を検出又は判定するための方法を提供し、この方法は、対象から得られた生物学的試料中のアルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、1つ又は複数のマーカーのレベルによって決定されるAOX1の発現又は活性のレベルは組織の老化の指標である。
【0010】
一実施形態では、組織は、胎盤組織、皮膚、腎臓、又は脳組織から選択される。
【0011】
例示的な一実施形態では、対象は妊娠中であり、組織は胎盤組織である。
【0012】
生物学的試料は、例えば、関連する組織の試料、又は血液(全血、血漿、若しくは血清)、尿、唾液、若しくは羊水などの液体試料であり得る。対象が妊娠中である実施形態では、試料には、例えば、母体血、胎児血、尿、唾液、又は羊水が含まれ得る。対象が妊娠中である実施形態では、生物学的試料は、典型的には母体由来であり、任意選択により母体血である。対象が妊娠中である他の実施形態では、生物学的試料は、母体血に由来する全RNAなどの、妊娠中の対象、胎盤組織、及び/又は胎児からの試料の誘導体を含み得、この全RNAは、母体由来、胎盤由来、又は胎児由来であり得る。
【0013】
AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーは、老化組織から血液中に放出された物質から測定することができる。対象が妊娠中である実施形態では、AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーは、老化胎盤組織から母体血中に放出された物質から測定することができる。したがって、1つ又は複数のマーカーは母体血で測定することができる。例示的な実施形態では、1つ又は複数のマーカーは、生物学的試料中に存在する遊離RNA若しくは遊離DNA、胎盤細胞の断片、エキソソーム、又は微粒子に由来する。
【0014】
AOX1の発現は、mRNA若しくは遺伝子レベルで、又はポリペプチド若しくはタンパク質レベルで測定することができる。例示的な実施形態では、AOX1の発現又は活性の適切なマーカーには、AOX1 mRNAが含まれ得る。他の実施形態では、AOX1の発現又は活性の適切なマーカーには、脂質過酸化生成物などのAOX1の下流の分子が含まれ得る。例示的な脂質過酸化生成物は、4-ヒドロキシノネナール(4HNE)及びマロンジアルデヒド(MDA)である。測定することができる他の酸化損傷の生成物には、8-ヒドロキシ-デオキシグアノシン(8OHdG)、8-ヒドロキシグアノシン(8HOG)が含まれ得る。例示的な実施形態では、AOX1の発現又は活性の任意の2つ以上のマーカーを組み合わせて決定又は測定することができる。例えば、AOX1 mRNAは、4HNEなどの脂質過酸化生成物と組み合わせて測定することができる。
【0015】
典型的には、1つ又は複数のマーカーにより決定される、対象におけるAOX1の発現又は活性のレベルが、酸化損傷が存在しない組織におけるAOX1の発現若しくは活性の1つ若しくは複数の参照値、又はその1つ若しくは複数のマーカーと比較される。参照値は、1つ又は複数の対照又は参照個体から得る又は導出することができる。あるいは、参照値は、異なる時点で対象から得られた1つ又は複数の生物学的試料から導出することができ、対象からのさらなる生物学的試料を比較することができるベースライン値として使用することができる。当業者であれば、適切な参照試料を決定及び選択する方法に精通しているであろう。
【0016】
典型的には、参照値と比較した、対象からの生物学的試料中のAOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルの増加は、組織の酸化ストレス及び/又は老化を示す。例示的な実施形態では、組織は胎盤組織であり、生物学的試料は母体血である。
【0017】
特定の実施形態では、胎盤又は胎児の酸化ストレスなどの酸化ストレスの追加のマーカーも、生物学的試料又はさらなる生物学的試料で測定することができる。そのような追加の酸化損傷又は酸化ストレスのマーカーの非限定的な例としては、AOX1タンパク質、グルタチオン、又はタンパク質カルボニルを挙げることができる。
【0018】
対象が妊娠中である実施形態では、本方法は、妊娠中の任意の時点、特に、ヒト対象の場合には妊娠約20週などの妊娠の後半で1回又は複数回行うことができる。特定の実施形態では、この方法は、例えばヒト対象の場合には妊娠40週以降の出産予定日を超過した妊娠(post-dated pregnancy)で行うことができる。
【0019】
本開示の方法の特定の用途は、死産のリスクを予測するために妊娠中の対象の胎盤の老化を検出することであり、参照値と比較した、生物学的試料中のAOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルの増加は、胎盤の老化及び死産のリスクを示す。胎盤の老化は、胎盤及び/又は胎児の酸化損傷、胎児の健康状態の悪化、並びに死産のリスクの増加に関連し得る。胎盤の酸化ストレス及び胎盤の老化は、胎児への栄養分の不十分な移動にも関連し得る。この方法は、妊娠中の対象の子癇前症を診断するため、又は胎児の子宮内発育遅延を診断するためにも使用することができる。この方法は又、出産予定日を超過した妊娠のリスクを予測するために使用することができる、又はこの出産予定日を超過した妊娠に関連し得る。
【0020】
本開示のさらなる実施形態は、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及び妊娠中の死産を防止するための介入の必要性を判断するために、この生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、参照値と比較して増加したAOX1の発現若しくは活性、又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは介入が必要であり得ることを示す。そのような介入には、予防的帝王切開、陣痛の誘導、及び/又は胎盤の老化を防止若しくは遅延させる、又は子宮内胎児の生存を引き延ばすための治療の実施が含まれ得る。したがって、一実施形態では、この方法は、胎盤の酸化ストレスが胎児が死産のリスクにさらされているレベルであるか否かを判断することによって、子供を出産するのに適切な時期を決定するために使用することができる。参照値と比較して増加したAOX1の発現若しくは活性、又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは、子供を出産するのに適切な時期を示唆又は示し得る。
【0021】
一実施形態では、本開示の方法は、経時的に対象から得た1つ又は複数の生物学的試料中のAOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することによって胎盤組織の老化を検出又は判定することにより、妊娠中の死産のリスクを監視するために使用することができる。そのような方法では、妊娠中の複数の時点で、例えば隔週、毎週、又は毎日、妊娠中の対象から生物学的試料を得て、胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを各時点の各生物学的試料で測定する。AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルの経時的な増加は、死産のリスクの増加を示し得、したがって死産を防止するための介入の必要性を示し得る。
【0022】
本開示の第2の態様は、胎盤の老化を検出するための方法を提供し、この方法は、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及びこの生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは胎盤の老化の指標である。
【0023】
典型的には、参照値と比較して増加したAOX1の発現若しくは活性、又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは胎盤の老化を示す。適切な参照値は、胎盤組織が酸化損傷の兆候を示さない1つ若しくは複数の個体の組織からの試料から導出若しくは得ることができる、又は妊娠中のより早い時点で対象から導出若しくは得ることができる。
【0024】
胎盤の老化は、死産のリスクの増加、子癇前症、胎児の子宮内発育遅延、及び/又は出産予定日を超過した妊娠のリスクの増加に関連し得る。
【0025】
本開示の第3の態様は、妊娠中の死産のリスクを予測するための方法を提供し、この方法は、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及びこの生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは死産のリスクの指標である。
【0026】
死産のリスクは、直接的又は間接的に判定することができる。例えば、AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは、子癇前症、胎児の子宮内発育遅延、及び/又は出産予定日を超過した妊娠のリスクの増加の指標であり得、これらはそれぞれ、死産のリスク増加に関連する指標又は因子である。
【0027】
典型的には、参照値と比較して増加したAOX1の発現若しくは活性、又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは死産のリスクを示す。参照値は、1つ又は複数の対照又は参照個体から得る又は導出することができる。適切な参照値は、胎盤組織が酸化損傷の兆候を示さない1つ若しくは複数の個体の組織からの試料から導出する若しくは得ることができる、又は妊娠中のより早い時点で対象から導出する若しくは得ることができる。
【0028】
したがって、本開示の第4の態様は、出産予定日を超過した妊娠又は妊娠中の死産を防止するための介入の必要性を判断するための方法を提供し、この方法は、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及びこの生物学的試料中の胎盤アルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルが介入の必要性の指標である。
【0029】
介入には、予防的帝王切開、陣痛の誘発、又は胎盤の老化を遅延させる若しくは子宮内胎児の生存を引き延ばすための治療の実施のうちの少なくとも1つが含まれ得る。安全に出産するには胎児が未熟すぎる、又は生存するには発達が遅れすぎている場合、介入には、本開示のさらなる態様及び実施形態で論じられるように、酸化ストレス又はAOX1の発現若しくは活性を低下させる対象の処置が含まれ得る。
【0030】
本開示の第5の態様は、胎盤の酸化ストレスを検出するための方法を提供し、この方法は、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及びこの生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは胎盤の酸化ストレスの指標である。
【0031】
典型的には、参照値と比較して増加したAOX1の発現若しくは活性、又はその1つ又は複数のマーカーのレベルは胎盤の酸化ストレスを示す。参照値は、1つ若しくは複数の対照又は参照個体から得る又は導出することができる。適切な参照値は、胎盤組織が酸化損傷の兆候を示さない1つ若しくは複数の個体の組織からの試料から導出する若しくは得ることができる、又は妊娠中のより早い時点で対象から導出する若しくは得ることができる。
【0032】
本開示の第6の態様は、胎盤の老化、胎盤の酸化ストレス、又は妊娠期間中の出産予定日を超過した妊娠若しくは死産のリスクを監視するための方法を提供し、この方法は:(i)妊娠期間中の最初の時点で妊娠中の対象から生物学的試料を得ること;(ii)この生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定すること;(iii)妊娠中の1つ又は複数の後の時点で、対象から1つ又は複数のさらなる生物学的試料を得ること;及び(iv)1つ又は複数のさらなる生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルの経時的な増加は、胎盤の老化、胎盤の酸化ストレス、又は出産予定日を超過した妊娠又は死産のリスクを示す。
【0033】
1つ又は複数のマーカーの測定は、例えば妊娠中期に開始することができる。例示的な実施形態では、生物学的試料は、妊娠約20週で得ることができる。時点間の間隔は、当業者が決定してもよく、毎日、毎週、隔週、毎月、又は開業医によって決定される別の適切な期間であってもよい。時点は、妊娠期間を通して、特に出産予定日を超過した妊娠で頻度を増加させてもよい。
【0034】
本開示の第7の態様では、1つ又は複数の細胞又は組織の老化又は酸化損傷を遅くする又は防止する方法が提供され、この方法は、1つ又は複数の細胞又は組織をAOX1の阻害剤に曝露することを含む。
【0035】
阻害剤は、AOX1に直接的又は間接的に作用し得る。例示的な一実施形態では、AOX1の阻害剤は、ラロキシフェン又はGタンパク質共役エストロゲン受容体1(GPER1)アゴニストである。例示的なGPER1アゴニストは、G-1((1-[4-(6-ブロモベンゾ[1,3]ジオキソール-5イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-イル]-エタノン)である。
【0036】
例示的な一実施形態では、組織は胎盤組織である。したがって、AOX1の阻害剤は、妊娠中の対象に投与される。
【0037】
さらなる例示的な実施形態では、組織は、皮膚、腎臓、又は脳組織である。
【0038】
本開示の第8の態様では、1つ又は複数の細胞又は組織の老化又は酸化損傷に関連する疾患又は状態を処置する方法が提供され、この方法は、AOX1の阻害剤をそれを必要とする対象に投与することを含む。
【0039】
本開示の第9の態様では、出産予定日を超過した妊娠又は死産のリスクを防止又は低減する方法が提供され、この方法は、妊娠中の対象にAOX1の阻害剤を投与することを含む。
【0040】
さらなる態様は、老化若しくは酸化損傷を軽減若しくは防止するため、老化若しくは酸化損傷に関連する疾患若しくは状態を処置するため、又は出産予定日を超過した妊娠若しくは死産のリスクを防止若しくは低減するための薬剤の製造における阻害剤又はAOX1の使用を提供する。
【0041】
本開示の態様及び実施形態は、以下の図面を参照して、単に非限定的な例として本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】アルデヒドオキシダーゼは、死産に関連する胎盤の酸化損傷を調節する。脂肪酸の酸化損傷は、リソソーム及び/又はオートファゴソーム機能の変化に関連する4-ヒドロキシノネアール(4HNE)によって実証することができる。酸化損傷は又、細胞内の核酸(DNA及び/又はRNA)を変化させることがあり、これは、8-ヒドロキシ-グアノシン(8OHdG)又は8-ヒドロキシグアノシン(8HOG)の存在によって実証することができる。4HNE、8OHdG、及び8HOGは、胎盤の老化を示し得る。アルデヒドオキシダーゼは、ラロキシフェンによって、及びアゴニストG1を使用してGタンパク質共役エストロゲン受容体1と相互作用することによって阻害することができる。
【
図2】死産と継続妊娠数との間の関係。妊娠期間の関数としての継続妊娠数のカプランマイヤープロット、及び1000の継続妊娠当たりの原因不明の死産のプロット;Omigbodun and Adewuyi(1997)(J Natl Med Assoc,89:617)及びSutan et al(2010)(J Perinatol,30:311-318)からのデータ。プロットは、Johnson et al(1999)(Cell,96:291-302)によって提案された老化の使用可能な定義と一致して時間とともに死産のリスクが増加すること、及び以前の出産により41週までの死産のリスクのある妊娠数が比較的少ないことを示している。
【
図3】出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤におけるDNA/RNAの酸化。このグラフは、出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤が、満期胎盤と比較して、高い強度の核8OHdG/8HOG染色を有することを例示している(出産予定日を超過した胎盤ではp<0.0001、死産の胎盤ではp=0.0005、マン・ホイットニー検定)。白丸及び黒丸はそれぞれ、満期帝王切開の非分娩の胎盤(n=10)及び満期経膣分娩の胎盤(n=8)を表す。白い四角及び黒い四角はそれぞれ、出産予定日を超過した帝王切開の胎盤(n=5)及び出産予定日を超過した経膣分娩の胎盤(n=13)を表す。黒い三角は、妊娠後期の経膣分娩での原因不明の死産の胎盤(n=4)を表す。グラフの各点は、100倍の倍率及び1.4の光学解像度で撮影された胎盤に付き6枚の画像における60の核の8OHdG/8HOGの平均強度を表す。
【
図4】脂質過酸化は、出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤で増加している。4HNEの強度は、出産予定日を超過した胎盤(p<0.0001、マン・ホイットニー検定)及び死産の胎盤(p=0.0013、マン・ホイットニー検定)で有意に増加している。白丸及び黒丸はそれぞれ、満期帝王切開の非分娩の胎盤(n=21)と満期経膣娩分娩の胎盤(n=14)を表す。白い四角及び黒い四角はそれぞれ、出産予定日を超過した帝王切開の胎盤(n=10)及び出産予定日を超過した経膣分娩の胎盤(n=18)を表す。黒い三角は、妊娠後期の経膣分娩での原因不明の死産の胎盤(n=4)を表す。グラフの各点は、100倍の倍率及び1.4の光学解像度で撮影された個々の胎盤についての6枚の画像の単位面積当たりの平均強度を表す。
【
図5】早期(n=17)、後期(n=26)、子癇前症(PE、n=22)、及び子宮内発育遅延(IUGR、n=24)の症例からの母体血漿中の4HNEのレベル。後期群、PE群、及びIUGR群は、早期群よりも有意に高いレベルの4HNEを有する。早期対後期、p=0.0016;早期対PE、p=0.0017;早期対IUGR、p=0.0016。
【
図6】出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤におけるリソソーム分布の変化。リソソームマーカーであるLAMP2の免疫組織化学により、リソソームが、(例えば、白い線で示されるように)主に満期胎盤(A)の頂端面に局在することを示したが、リソソーム分布は、出産予定日を超過した胎盤(B)及び死産の胎盤(C)の合胞体栄養細胞の核周囲及び基底面に及んでいることが示された。合胞体栄養細胞全体の強度計算により、出産予定日を超過した胎盤(n=5、
図5F)及び原因不明の死産の胎盤(n=4、
図5G)におけるLAMP2の分布は、核周囲及び基底面にシフトするのに対し、満期帝王切開の胎盤(n=5、
図5D)及び満期経膣分娩の胎盤(n=5、
図5E)におけるリソソーム分布は、合胞体栄養細胞の頂端領域に残ったことが示された。DAPI染色は核を識別する。
図5D~
図5Gでは、それぞれの色付きの線は、個々の胎盤での結果を表し、胎盤に付き6枚の個々の画像ごとに5つのランダムな部位(5A、5B、及び5Cの明るい緑色の線で表された例)における合胞体栄養細胞全体のLAMP2の平均強度を示す。画像は、100倍の倍率及び1.4の光学解像度で撮影した。スケールバー、20μm。
【
図7】より大きいオートファゴソームは、出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤で存在する。NIS要素ソフトウェアを使用してオートファゴソームのサイズを定量化し、その直径を、1000~3000の任意の強度範囲、直径範囲0.2~1μm、及び円形範囲0.5~1で測定した。分析により、出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤は、満期胎盤よりも有意に大きい(それぞれ、p=0.012及びp=0.0019、マン・ホイットニー検定)オートファゴソームを有することが示された。白丸及び黒丸はそれぞれ、満期帝王切開の非分娩の胎盤(n=ll)及び満期経膣分娩の胎盤(n=10)を表す。白い四角及び黒い四角はそれぞれ、出産予定日を超過した帝王切開の胎盤(n=8)及び出産予定日を超過した経膣分娩の胎盤(n=15)を表す。黒い三角は、原因不明の死産の胎盤(n=4)を表す。グラフの各点は、それぞれの胎盤で撮影された6枚の画像におけるLC3B粒子の平均直径を表す。
【
図8】出産予定日を超過した胎盤のオートファゴソーム内の酸化脂質。代表的な二重標識蛍光免疫染色により、オートファゴソームマーカーであるLC3Bが脂質過酸化のマーカーである4HNEと共局在していることが示された。ドット(Cの矢印が指している)は、共局在化を示す。DAPI染色は核を示す。元の倍率は100倍;スケールバー20μm。
【
図9】RNA-配列決定データにより、出産予定日を超過した胎盤が満期胎盤よりも有意に高いAOX1 mRNAの発現を有することが示された。
【
図10】4HNEの産生におけるアルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)の役割。出産予定日を超過した胎盤(A~C)及び死産の胎盤(D~F)における代表的な二重標識蛍光免疫染色により、AOX1陽性粒子が4HNEと共局在していることが示された。ドット(C及びFの矢印が指している)は、共局在化の程度を示す。核はDAPIで染色されている。リアルタイムPCRにより、AOX1 mRNAの発現が、満期胎盤(G)と比較して、出産予定日を超過した胎盤(p=0.0097)及び死産の胎盤(p=0.012)で増加していることが示された。元の倍率は100倍;スケールバー20μm。
【
図11】胎盤における4HNEの産生及びGPER1の発現の薬理学的阻害。(血清飢餓によって誘発される)4HNEの産生は、胎盤外植片をAOX1阻害剤であるラロキシフェン(A)及び膜エストロゲン受容体GPER1アゴニストであるG1(B)で処理した後に有意に減少している。データは平均±SEM、
*p<0.05(N=6)である。
【
図12】無血清培地で培養された胎盤外植片におけるオートファゴソームサイズの変化。免疫組織化学分析により、オートファゴソーム(LC3B陽性粒子)のサイズが、0時間と比較して血清飢餓の24時間後に増加したことが示された。データは平均±SEM、
***p=0.0002(N=13)として表示された。
【
図13】リアルタイムPCR及びウェスタンブロット法による異なる組織におけるGPER1の検出。リアルタイムqPCRデータにより、GPER1のmRNAが、羊膜、絨毛膜、及び脱落膜よりも満期胎盤でより多く発現していることが示された(A)。GPER1のmRNAの発現量は、これらの組織では次の順である:脱落膜<絨毛膜<羊膜<胎盤(A)。これらのタンパク質は、乳癌細胞株MCF-7、満期胎盤、満期子宮筋層、満期羊膜、満期絨毛膜、満期脱落膜から抽出され、ウェスタンブロット法が行われた(B)。胎盤、子宮筋層、及びMCF-7細胞株は、羊膜、絨毛膜、又は脱落膜よりも多量のGPER1を発現した(B)。ウェスタンブロット法のデータにより、すべての組織がグリコシル化GPER1(
**又は
***で示される)及び非グリコシル化新生GPER1(
*で示される)を発現したことが示された。同じPVDF膜のsypro-ruby染色は、内部ローディング対照として使用されている(C)。
【
図14】AOX1 mRNAは、満期妊娠と比較して、死産の症例の母体全血で増加している。
【
図15】66歳の対象(A)及び21歳の対象(B)からの腎臓組織における4HNEの免疫染色。特に指示がない限り、すべての画像は20倍の倍率である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
特段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての科学技術用語は、本開示が属する一般的な技術者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書に記載の方法及び材料と類似又は同等のあらゆる方法及び材料を、本開示の実施又は試験において使用することができるが、典型的な方法及び材料が説明される。
【0044】
冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、本明細書では、冠詞の文法的目的語の1つ又は2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)を指すために使用される。ほんの一例として、「要素」は、1つの要素又は複数の要素を意味する。
【0045】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、「含む(comprise)」という語、及び「含む(comprises)」又は「含んでいる(comprising)」などの変形は、述べられた整数若しくは工程又は整数群若しくは工程群の包含を意味するが、その他の整数若しくは工程又は整数群若しくは工程群を除外するものではないことを理解されよう。
【0046】
本明細書で使用される「対象」という用語には、ヒト、非ヒト霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、その他のげっ歯類)、及びコンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ)などのあらゆる哺乳動物が含まれる。典型的な実施形態では、対象はヒトである。同様に、「個体」という用語には、ヒト、非ヒト霊長類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ロバ、ヤギ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、その他のげっ歯類)、及びコンパニオンアニマル(例えば、イヌ、ネコ)などのあらゆる哺乳動物が含まれる。典型的な実施形態では、個体はヒトである。
【0047】
本明細書における「死産」という用語は、妊娠約20週以上又は出生時体重約400g以上の出産前又は出産中の胎児の死亡を指す(Perinatal Society of Australia and New Zealand Clinical Practice Guideline for Perinatal Mortality;Second Edition,version 2.2,April 2009)。
【0048】
「出産予定日を超過した」という用語は、予定妊娠期間を超えた妊娠を指す。本開示の文脈において、ヒトの妊娠に言及する場合、「出産予定日を超過した」という用語は、妊娠40週を超える妊娠を示すために使用される。出産予定日を超過した妊娠は過期妊娠とも呼ばれることもある。
【0049】
本明細書で使用される「酸化ストレス」という用語は、「酸化損傷」という用語と互換的に使用され、活性酸素種と抗酸化機構との間の不均衡、及びそのような不均衡によって引き起こされる損傷を指す。酸化損傷の非限定的な例には、例えば8-ヒドロキシ-デオキシグアノシン又は8-ヒドロキシグアノシン(8OHdG又は8HOG)の分析又は測定によって試料で検出され得るDNA又はRNAなどの核酸の酸化、及び、例えば4-ヒドロキシノネナール(4HNE)などのアルケナールの測定によって試料で検出され得る脂質の酸化が含まれる。特に、本明細書では、「胎盤の酸化ストレス」という用語は、胎盤で発生する酸化ストレスを指す。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、胎盤における酸化ストレスの増加は、胎盤の老化に関連し、胎盤が胎児を適切に維持する能力の欠如をもたらし得ると提示している。したがって、本発明者らは、胎盤の酸化ストレスが死産のリスクの増加と関連し得ると仮定している。
【0050】
本明細書で使用される「バイオマーカー」という用語は、遺伝子、核酸配列、タンパク質若しくはその断片、又は他の代謝産物などの天然に存在する生物学的に機能的な化合物又は分子を指し、この化合物又は分子は、胎盤、皮膚、腎臓、及び脳などの様々な体組織における組織の老化の診断のための予測値、子癇前症の診断のための予測値、子宮内発育遅延の診断のための予測値、並びに出産予定日を超過した妊娠及び死産のリスクの診断及び評価のための予測値を有する。生物学的試料中のマーカーのレベル又は活性の決定には、マーカー自体又はその前駆体、誘導体、若しくは代謝産物の検出及び定量化が含まれ得る。「バイオマーカー」及び「マーカー」という用語は、本明細書で互換的に使用することがある。
【0051】
本開示の文脈において、バイオマーカーは、RNA又は他の核酸配列であり得る。胎盤組織の老化、並びに関連する状態及び影響が評価される実施形態では、mRNAは、胎盤に由来し、母体血で測定することができる。又、本開示の実施形態によると、本明細書で特定されるバイオマーカーの前駆体、誘導体、変異体、類似体、及び機能的断片の発現の決定である。バイオマーカーの変異体には、それ自体が変異体であるこのバイオマーカーの機能活性の少なくとも一部を示す分子が含まれる。
【0052】
本開示の文脈において、所与の試料中のマーカーの発現の増加への言及は、典型的には1つ若しくは複数の対照若しくは参照試料における発現レベルと比較した場合、又は同じ対象の試料のベースライン測定と比較した場合の試料中の当該マーカーの発現レベルの増加を意味する。酸化ストレス又は組織の老化の兆候のなく、且つ/又は妊娠中の個体の場合は出産予定日を超過した妊娠又は死産のリスクがない1つ又は複数の個体から得られた試料を示すために、本明細書では、対照又は参照試料を使用することができる。
【0053】
一態様では、本開示は、体組織の老化を検出又は判定する方法を提供し、この方法は、対象から得られた生物学的試料中のアルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、1つ又は複数のマーカーのレベルによって決定されるAOX1の発現又は活性のレベルは組織の老化の指標である。
【0054】
本開示のさらなる態様は、胎盤の老化を検出するための方法を提供し、この方法は、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及びこの生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは胎盤の老化の指標である。さらなる態様は、妊娠中の死産のリスクを予測するための方法を提供し、この方法は、妊娠中の対象から生物学的試料を得ること、及びこの生物学的試料中の胎盤AOX1の発現又は活性の1つ又は複数のマーカーを測定することを含み、AOX1の発現若しくは活性又はその1つ若しくは複数のマーカーのレベルは死産のリスクの指標である。
【0055】
本明細書に開示及び例示される本発明者の新規の発見は、いくつかの実施形態では、出産予定日を超過した妊娠又は死産のリスクを予測するための正確で費用効果の高い迅速な方法を提供する。したがって、例示的な実施形態では、死産のリスクの予測及びリスクのある妊娠のための治療的予防又は予防的な療法の特定を容易にする単純な生化学的検査が本明細書に開示される。
【0056】
本明細書に開示及び例示される本発明者の新規の発見は、いくつかの実施形態では、例えば胎盤、皮膚、腎臓、及び脳組織を含む様々な体組織において組織の老化の検出又は判定のため、及び組織の酸化損傷の検出又は判定のための正確で費用効果の高い迅速な方法も提供する。
【0057】
本発明者らは、妊娠38週~41週の間で胎盤の生化学及び生理学に劇的な変化が生じることを本明細書で実証する。特に、DNA及び脂質の酸化損傷の増加、合胞体栄養細胞の核周囲及び基底面に蓄積するリソソームの位置の変化、酸化脂質に関連するより大きなオートファゴソームの形成、及び酵素AOX1の発現の増加が起こる。死産に関連する胎盤でも同じ変化が観察されている。脂質の酸化、リソソームの局在化、及びオートファゴソームのサイズの同様の変化は、成長因子を奪われた胎盤外植片で起こり、これらの変化はAOX1の阻害によってブロックすることができる。
【0058】
本発明者らは又、41週での胎盤の生理学的機能が、他の組織で老化の多くの特徴を有する低下の証拠を示すことを本明細書で実証する。したがって、妊娠38週後に発生する原因不明の子宮内死亡の既知の指数関数的な増加は、胎盤の老化、及び成長中の胎児の要求の増加に応えるために適切に機能する能力の低下の結果であり得る。この知識は、胎盤が老化して重大な障害点(point of critical failure)に達する前に確実に乳児が生まれるようにするべく、産科診療に影響を与え得る。
【0059】
前述したように、死産のリスクは妊娠期間とともに増加し、特に妊娠が38週を超えると指数関数的に上昇する。同様に、胎盤が老化するにつれて酸化損傷の兆候が増加する。しかしながら、当業者は、胎盤の老化の兆候及びそのための酸化損傷が、異なる個体で異なる時間に現れ、異なる速度で進行し得ることを理解されよう。したがって、本発明の方法を開始するべき特定の妊娠期間、又は本発明の方法をいつから開始するべきかの特定の妊娠期間、又は方法を利用するべき妊娠中の回数を指示することはできない。例えば、本開示の方法は、ヒト対象の場合は、妊娠約18週間、19週間、20週間、21週間、22週間、23週間、24週間、25週間、26週間、27週間、28週間、29週間、30週間、31週間、32週間、33週間、34週間、35週間、36週間、37週間、38週間、39週間、40週間、又は41週間から行うことができる。この方法は、妊娠中に1回又は複数回、例えば毎週又は隔週で行うことができる。本明細書に開示される方法を用いた試験及び監視の頻度は、妊娠期間が長くなるにつれて増加し得る。本開示による試験及び監視の開始の適切なタイミング並びに適切な頻度は、過度の負担もさらなる発明の必要もなく、熟練した受信者が症例ごとに決定することができる。
【0060】
本発明者らは又、自分達の知見が胎盤組織以外の組織にも及ぶことを本明細書で実証し、AOX1が腎臓の酸化損傷を引き起こすという証拠を提供する。
【0061】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、胎盤、皮膚、腎臓、又は脳などの組織におけるAOX1の発現又は活性の増加が、その組織の酸化損傷及び酸化ストレスをもたらし、組織の老化に寄与することを示唆している(
図1、胎盤の文脈において)。胎盤組織の場合、胎盤の老化は、胎児への適切な栄養素の送達不足をもたらし、子宮内発育遅延及び/又は死産を引き起こし得る。本発明者らは、胎盤アルデヒドオキシダーゼなどの胎盤の酸化ストレスの指標が母体血中で測定可能であり、胎児へのリスクを最小限に抑えて非侵襲的にアッセイできる胎盤の完全性のバイオマーカーを提供できることを示した。したがって、AOX1発現などの胎盤の酸化ストレスのバイオマーカーを使用して、妊娠中の死産のリスクをアッセイするための適切な方法が本明細書に開示される。本発明者らは又、そのような酸化ストレスがAOX1阻害により防止され得ることを実証する。
【0062】
本発明者らは又、酸化損傷及びリソソーム局在化などの胎盤の老化の指標がアルツハイマー病などの他の病理と共有されていることに注目し、そして、老化及び酸化ストレス全般がAOX1に関連し得、AOX1阻害により遅延も又は防止もできることを示唆している。
【0063】
本開示の特定の実施形態では、この方法は、母体血中の胎盤AOX1 mRNAの測定を含む。AOX1の発現又は活性についての代用となる追加の胎盤の酸化ストレスバイオマーカーには、限定されるものではないが:脂質の酸化損傷を示す4-ヒドロキシノネナール(4HNE)及びその他のヒドロキシアルケナールなどの脂質過酸化生成物;核酸の酸化損傷を示す8-ヒドロキシグアノシン(8OHdG)及び8-ヒドロキシグアノシン(8HOG);並びにマロンジアルデヒド(MDA)、イソプロスタン、オキシステロール、又はタンパク質カルボニル濃度の増加などの酸化ストレスを示す他のマーカーが含まれる。
【0064】
本開示の実施形態は、出産予定日を超過した妊娠及び死産のリスクを検出及び判定するための方法を含み、この方法では、AOX1 mRNA又はAOX1の発現若しくは活性の他のマーカーのベースライン(典型的には、前述の1つ又は複数の参照値によって決定される)を超える増加は、胎盤の酸化ストレス、及び出産予定日を超過した妊娠又は死産のリスクの増加を示す。死産は妊娠のあらゆる段階で起こり得るため(定義では、妊娠21週以上又はヒトでは400g以上)、本明細書で開示される方法は、妊娠中の様々な時点での母体全血中における本明細書で開示される酸化ストレスマーカーの存在とレベルの監視を企図している。そのようなマーカーは、ヒトでは、例えば妊娠20週から1週間、2週間、3週間、又は4週間の間隔で妊娠期間にわたって検出及び測定することができる。AOX1 mRNA又はAOX1の発現若しくは活性のマーカーのベースラインからの増加は、出産予定日を超過した妊娠又は死産のリスクの増加を示すであろう。
【0065】
本明細書に開示される実施形態に従ってバイオマーカーのレベルを決定するために使用される生化学的検査は、当技術分野で公知の任意の手段を用いて実施することができ、本開示は、バイオマーカーのレベルが決定される手段への言及によって限定されるものではない。バイオマーカーのレベルの決定は、検出及び/又は定量を含んでもよく、そのような決定に利用可能な方法及び技術は当業者に周知である。典型的には、バイオマーカーがmRNAである場合、本開示のアッセイは定量的リアルタイムPCRであろう。本明細書のバイオマーカーを検出する他の方法には、限定されるものではないが、PCR、DNAアレイ、マイクロアレイ、リガーゼ連鎖反応、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ、cDNAマイクロアレイ、次世代シーケンシング、ノーザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、及び個体の差次的発現を決定するためのさらなる統計分析が含まれる。
【0066】
タンパク質バイオマーカーを測定するための適切な方法及び技術には、限定されるものではないが、スペクトル分析、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動法、質量分析及びタンパク質スポットの識別、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ウェスタンブロット、画像の取得と分析(磁気共鳴画像法(MRI)分光法、単一光子放射型コンピューター断層撮影法(SPECT)など)、免疫染色、HPLC、LC/MAの使用も含まれ得る。本明細書に開示される実施形態に従ってバイオマーカーのレベルを決定するために使用される生化学的検査は、病院、診療所、外科診療若しくは医療行為、又は病理検査室などの任意の適切な環境又は設定で利用することができる。
【0067】
所望のバイオマーカーを分析する能力を有する1つ又は複数の装置に適切な生化学的検査を組み込み、それによって検査プロセスのある程度の又は完全な自動化を可能にすることができる。適切な装置は、典型的には、生物学的試料を受け取り、前記試料中の1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを分析し、リアルタイムで前記バイオマーカーのレベルに関するデータを提供する能力を有し、したがって、基礎から臨床(bench-to-bedside)及び治療現場の分析、診断、リスク評価、及び/又は処置を容易にする。発現のレベル又はマーカーのレベルを決定することへの言及は、対象の関連組織における所望のマーカーの発現レベル又はレベルに関連する情報を提供することになる任意の適切な技術の使用への言及を意図することを理解されたい。したがって、これらの技術には、リンコイルを用いたMRIイメージングなどのin vivo技術と、対象から抽出された生物学的試料に適用されるin vitro技術との両方が含まれる。4HNE、8OHdG、又は8HOGなどの他の酸化ストレスマーカーは、当技術分野で周知の方法によって、例えば、蛍光検出、免疫組織化学法、又はHPLCなどのクロマトグラフィー法などによって検出することができる。
【0068】
酸化ストレスマーカーのレベルを決定するために個体から得られた生物学的試料は、任意の適切な体液又は組織に由来し得る。典型的には、本開示の方法では、試料には、血液(赤血球、白血球、全血、血漿、若しくは血清など)、尿、羊水、唾液、又は組織が含まれ得る。対象が妊娠中である場合、生物学的試料は、母体由来、胎盤由来、又は胎児由来であり得る。一実施形態では、生物学的試料は母体全血である。
【0069】
胎児の細胞又は核酸が母体血中に存在し得ることは当技術分野で公知である。したがって、本開示の方法で測定されるバイオマーカーは、胎盤から母体循環へ放出される遊離DNA若しくは遊離RNA、胎盤細胞、胎盤細胞の断片、エキソソーム、又は微粒子などの試料で測定することができる。
【0070】
自然陣痛の前に増加したAOX1 mRNA又はバイオマーカーのレベルが検出された場合、医師は、死産のリスクを低減するための利用可能な選択肢を検討することができる。そのような選択肢には、例えば、胎児が生まれたときに生存している可能性が高い段階にある場合、陣痛誘発又は帝王切開が含まれる。乳児が早産とみなされる月齢で増加したAOX1 mRNA又はバイオマーカーのレベルが検出された場合、胎盤の老化を遅らせる又は妊娠期間を長くする選択肢を検討することができる。本明細書に開示及び例示されるように、選択肢には、例えば、抗酸化処置又は1つ若しくは複数のAOX1阻害剤で妊娠中の母親を処置することが含まれ得る。以下でさらに論じられるように、適切なAOX1阻害剤の例には、ラロキシフェン、又はG-1などのGタンパク質共役エストロゲン受容体1(GPER1)のアゴニストが含まれる。
【0071】
本開示の実施形態は、AOX1の発現又は活性のマーカーを、組織の老化のさらなる指標としての1つ又は複数の臨床評価と組み合わせて決定又は測定できることを提供する。例えば、妊娠中の対象では、胎児の動きの変化、胎児の成長の測定、又は胎盤動脈、胎盤静脈、若しくは胎児の大脳動脈の修正ドップラー超音波検査(altered Doppler study)などの臨床評価を、AOX1の発現又は活性のマーカーと組み合わせて使用して、胎盤の老化、死産のリスク、死産を防止するための介入の必要性、及び胎盤の酸化ストレスを評価することができる。文脈に適切な臨床評価は、当業者が容易に決定することができる。
【0072】
本開示は又、本開示の方法に従って使用するのに適したキットを提供する。そのようなキットには、例えば、本明細書に開示される識別バイオマーカー(AOX1 mRNA、4HNE、8HOG、及び8OHdGなど)の発現レベルを検出するための試薬を含む生物学的試料をアッセイするための予後キットが含まれる。本開示によるキットには又、緩衝液及び/又は希釈剤などの、本開示の方法を実施するために必要な他の構成要素も含まれ得る。キットには、典型的には、様々な構成要素を収容するための容器、及び本開示の方法でキットの構成要素を使用するための説明書が含まれる。
【0073】
本開示は又、酸化損傷又は組織の老化を阻止するための治療薬の投与を企図する。いくつかの実施形態では、超未熟児のため出産が不可能である場合を含め、死産のリスクが高いと判明している妊娠中の胎盤の酸化損傷又は胎盤の老化の場合、妊娠中に適切な治療薬を投与することができる。理論に拘束されることを望むものではないが、本発明者らは、胎盤が、9ヶ月の期間で独自に老化するヒト組織の老化の扱いやすいモデルを提供できることを示唆している。本明細書では、本発明者らは、アルツハイマー病及びハンチントン病などの老化疾患の変化に類似している胎盤の酸化ストレスマーカー及びリソソームの位置の変化を実証する(実施例を参照)。胎盤の老化と神経変性疾患における老化との間の酸化損傷及びリソソーム(lysosymal)分布の類似性は、これらの状態には同様の老化機構が存在し得ることを示唆している。したがって、本開示は、酸化ストレスによる老化、並びに酸化損傷が病因である疾患及び状態を、GPER1アゴニスト又はラロキシフェンなどのAOX1阻害剤、及びAOX1の他の阻害剤又は本明細書で企図されるGPER1アゴニストの投与で防止する、遅延させる、又は処置することができることが本開示で企図される。
【0074】
したがって、他の実施形態では、適切な治療薬を投与して、皮膚、腎臓、又は脳組織における老化及び酸化ストレス又は損傷を予防する、遅延させる、遅くする、遅らせる、又は処置することができる。そのような組織の酸化ストレス及び酸化損傷は、単に老化プロセスの結果であるか、又は他の様々な要因によって引き起こされる、加速される、又は悪化され得る。ほんの一例として、皮膚の酸化損傷及び老化は、日光への長時間の曝露又は日焼けに関連し得、腎臓の酸化損傷及び老化は、急性又は慢性の腎臓損傷又は腎臓疾患、喫煙及び薬物乱用、高血圧、脂質異常症、肥満、及び炎症性疾患に関連し得、且つ脳の酸化損傷及び老化は、脳外傷若しくは脳損傷、又は記憶喪失、アルツハイマー病、及びパーキンソン病などの神経変性状態と関連し得る。
【0075】
本開示の方法によると、本開示に従って使用される治療薬には、例えば、限定されるものではないが、ラロキシフェン及びGタンパク質共役受容体1(GPER1)アゴニストを含む、AOX1の阻害剤が含まれる。例えば、本開示の実施形態では、GPER1のアゴニストを使用して、胎盤の酸化ストレスを低減又は予防することができる。本開示に従って使用されるGPER1の特に適切なアゴニストの1つは、G-1、(1-[4-(6-ブロモベンゾ[1,3]ジオキソール-5イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロ-3H-シクロペンタ[c]キノリン-8-イル]-エタノン)である。G-1は、高親和性GPERアゴニストとして作用する細胞透過性の非ステロイド系ジヒドロキノリン化合物である。
【0076】
しかしながら、当業者であれば、本開示の範囲はそれほど限定されず、GPER1受容体又はその下流経路を直接的又は間接的に活性化できるその他のAOX1阻害剤又は薬剤を使用できることを理解されよう。本開示の方法での使用にも適したAOX1の他の阻害剤には、例えば、タモキシフェン、エストラジオール、エチニルエストラジオール、フェノチアジン、三環系抗うつ薬、三環系非定型抗精神病薬、ジヒドロピリジンカルシウムチャネル遮断薬、ロラチジン、シクロベンザプリン、アモジアキン、マプロチリン、オンダンセトロン、プロパフェノン、ドンペリドン、キナクリン、ケトコナゾール、ベラパミル、タクリン、及びサルメテロールが含まれる。
【0077】
GPER1又はAOX1を標的とする治療化合物と組み合わせて、又はその代わりに使用できる追加の治療法には、抗酸化分子、化合物又は処置、例えばチオール、アスコルビン酸、又はフェノール(ポリフェノールなど)、スーパーオキシドジスムターゼ、カタラーゼ、ペルオキシレドキシン、チオレドキシン、グルタチオン、カロテン、α-トコフェロール、レスベラトロール、及びフラボノイドが含まれる。
【0078】
本開示の目的のために、投与用の治療薬を含む組成物は、当業者に周知の方法によって調製することができる。したがって、この組成物には、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤、及び/又はアジュバントが含まれ得る。担体、希釈剤、賦形剤、及びアジュバントは、組成物の他の成分と適合性であるという点から「許容可能」でなければならず、且つ組成物を摂取する対象にとって有害であってはならない。使用されるべき薬学的に許容され得る担体、希釈剤、賦形剤、及び/又はアジュバントは、この組成物の意図された投与経路次第であり得、当業者には周知であろう。組成物は、例えば、局所、経口、経鼻、若しくは他の粘膜経路、又は皮下、筋肉内、若しくは動脈内などの非経口を含む任意の便利な経路若しくは適切な経路を介して投与することができる。投与経路は、処置が行われる組織を含むいくつかの因子によって決まるであろう。同様に、組成物が投与される形態又はビヒクルは、処置が行われる組織を含む多くの因子によって決まるであろう。例示的な形態には、局所投与用の注射可能な溶液又は懸濁液、ローション、リニメント剤、ゲル、クリーム、軟膏、泡、油、及び粉末など、並びに経口投与用の錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、カシェ剤、顆粒、粉末、ゲル、ペースト、溶液、懸濁液、可溶性サシェ、カプレット、ロゼンジ、発泡錠、チュアブル錠、及び多層錠などが含まれ得る。
【0079】
皮膚の老化又は皮膚の酸化損傷を処置する、予防する、遅くする、遅らせる、又は遅延させるための組成物の投与のための例示的な一実施形態では、本明細書に開示される適切なAOX1阻害剤又はGPERアゴニストは、皮膚への局所適用のためにリニメント剤、ゲル、クリーム、軟膏、泡、又はオイルなどに製剤化することができる。そのような製剤は、皮膚に直接適用してもよいし、又は溶液槽に製剤を加えることによって適用してもよい。製剤は又、例えば、紫外線の影響を最小限にし、且つ/又は皮膚の保湿及び/若しくは修復を助けるために、日焼け止め、ビタミンE、又は他の適切な成分を含み得る。
【0080】
薬学的に許容され得る担体、希釈剤、賦形剤、及びアジュバントの例には、限定されるものではないが、脱塩水又は蒸留水;食塩水;落花生油(peanut oil)、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油、落花生油(arachis oil)、又はココナッツ油などの落花生油(peanut oil)、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、トウモロコシ油、ゴマ油などの植物由来の油;メチルポリシロキサン、フェニルポリシロキサン、及びメチルフェニルポリソルポキサンなどのポリシロキサンを含むシリコーン油;揮発性シリコーン;流動パラフィン、軟パラフィン、又はスクワランなどの鉱油;メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、又はヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体;低級アルカノール、例えばエタノール又はイソプロパノール;低級アラルカノール(aralkanol);低級ポリアルキレングリコール又は低級アルキレングリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、又はグリセリン;パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、又はオレイン酸エチルなどの脂肪酸エステル;ポリビニルピリドン;寒天;カラギーナン;トラガカントゴム又はアカシアゴム、及びワセリンが含まれる。
【0081】
本明細書におけるあらゆる先行刊行物(若しくはそれに由来する情報)、又は既知のあらゆる事項への言及は、これらの先行刊行物(若しくはそれに由来する情報)又は既知のあらゆる事項が、本明細書に関する努力傾注分野における共通の一般知識の一部を構成するということの承認若しくは許可又は任意の形態の提案ではないし、そのようにみなされるべきものでもない。
【0082】
ここで、本開示は、以下の特定の実施例を参照して説明するが、これらの実施例は、本開示の範囲を決して限定するとして解釈されるべきものではない。
【実施例0083】
以下の実施例は、本開示の例示であり、本明細書全体を通した記述の開示の一般的性質を決して限定するとして解釈されるべきものではない。
【0084】
一般的な方法
組織の倫理、収集、及び処理
この研究は、Hunter New England Health Services及びUniversity of Newcastle,NSW,Australiaのヒト研究倫理委員会によって承認された。書面によるインフォームドコンセントを助産師が患者から得た後にヒト胎盤を採取した。胎盤は、正常経膣分娩の経験のある、以前に帝王切開を受けたために帝王切開により出産した妊娠38~39週(満期)の女性、及び正常経膣分娩の経験のある、帝王切開により出産した妊娠41週以上の女性、及び死産の経験のある、経膣分娩で出産した女性から採取した。胎盤を出産直後に採取し、遅滞なく処理した。絨毛組織を複数の部位から採取し、これを、組織学及びRNA抽出のために調製した。各胎盤について、胎盤の少なくとも5つの異なる領域及び絨毛膜板の下4~5mmから組織を得た。個々の胎盤からの試料を液体窒素下で直ちに凍結し、次の実験まで-80℃で保存した。組織学実験のために、組織を24時間2%ホルムアルデヒドで固定し、室温(RT)で50%エタノールに保存し、パラフィンに包埋した。胎盤ロールを形成するために、膜に付着した少量の胎盤を維持しながら、胎盤の周辺から絨毛羊膜の2cmのストリップを切り出した。ストリップをピンセットの周りに巻き付けて、円筒ロールの中心に残留胎盤を残した。次いで、円筒ロールを円筒軸に垂直に切断して、厚さ4mmの切片を得た。次いで、組織をホルマリンで固定し、パラフィンブロックにマウントした。感染症、糖尿病、子癇前症、前置胎盤、子宮内発育遅延、又は早期剥離の患者の胎盤は除外した。
【0085】
胎盤外植片の培養
in vitro実験では、選択的(計画的な繰り返しの)帝王切開後に、陣痛の症状を伴わない正常な単胎妊娠の女性からヒト満期胎盤(妊娠38~39週)を得た。分娩直後に胎盤を採取し、外植片培養の準備をした。胎盤の絨毛組織を、胎盤の異なる領域及び絨毛膜板の下4~5mmからランダムにサンプリングした。滅菌条件下でダルベッコのリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で組織を数回洗浄して、過剰な血液を除去した。約2mm3の絨毛外植片を切り出し、これらを、10%(v/v)のウシ胎児血清(FBS)が添加された、2mM L-グルタミン、1%Na-ピルビン酸、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(100倍)溶液を添加した25mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を含む100×20mm培養皿(30片/皿)に置き、95%空気(20%酸素)及び5%CO2を維持しながら、37℃の温度で24時間細胞培養チャンバーで培養した。2日目に、絨毛外植片を新鮮な30mlの増殖培地に移し、細胞培養チャンバーで90分間インキュベートした。この後、FBSを含まないDMEM(「無血清培地」又は「成長因子欠損培地」と呼ばれる)で組織を洗浄した。次に、重さ約400mgの6~7個の絨毛組織を、その後の最大24時間のインキュベーションのために薬理作用のある物質、例えばラロキシフェン(1nM)及びGPER1アゴニストG1(1nM)を含む、又は含まない無血清培地6mlを含む培養皿(60×15mm)に移した。24時間の終わりに、いくつかの組織を2%ホルムアルデヒドで固定し、通常の組織学的処理を行い、パラフィンワックスに包埋し、一部の組織を直ちに液体窒素で凍結し、次の実験まで-80℃で保存した。各胎盤外植片の培養について、試料を「0(ゼロ)」時間で、すなわち無血清培地でのインキュベーションの前に収集し、ホルマリン固定し、さらなる実験まで-80℃で凍結保存した。
【0086】
ウェスタンブロット法
ウェスタンブロット法は、Maiti,K et al(2011,Endocrinology,152:2448-2455)に従って実施した。胎盤の試料(1g)を液体窒素下で粉砕した。胎盤組織100mgのアリコートを1mLの溶解緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、1%Triton-X-100、0.1%Brij-35、1×プロテアーゼ阻害剤、1×ホスファターゼ阻害剤、pH7.4)でホモジナイズした。各胎盤抽出物のタンパク質濃度を、BCAタンパク質測定キットを用いて測定し、40μgの胎盤抽出物をNuPage bis-trisプレキャスト12ウェルゲルで電気泳動によって200Vの定電圧で50分間分離した。Novexトランスファーシステムを70分間使用して、分離したタンパク質をニトロセルロース膜に移し、0.1%tween-20を含むトリス緩衝生理食塩水(TBST)中の1%ウシ血清アルブミン(BSA)で一晩ブロックした。次いで、膜をTBST中の1%BSAで一次抗体とともに2時間インキュベートし、次いでTBSTで3回洗浄し、次いでTBST中の1%BSAでHRP結合二次抗体とともに1時間インキュベートした。TBSTでさらに3回洗浄した後、Luminata試薬で免疫反応性バンドを発生させ、Intelligent Dark Box LAS-3000 Imager(Fuji Photo Film,Tokyo,Japan)を用いて検出した。
【0087】
母体血漿中の4HNEの検出
母体血漿中の4HNEタンパク質付加物の検出及び定量のために、本発明者らはOxiSelect(商標)HNE Adduct Competitive ELISA Kit(Cell Biolabs Inc,STA-838)を使用した。このアッセイは、HNEコンジュゲートとHNEタンパク質に対する抗HNE抗体との競合に基づいている。このアッセイでは、まず、HNEコンジュゲートをELISAプレートにコーティングする。次いで、未知のHNEタンパク質試料又はHNE-BSA標準をHNEコンジュゲート再吸収ELISAプレートに加える。短時間のインキュベーション後、抗HNE抗体を加え、続いて二次抗体(HRPコンジュゲート)を加える。未知の試料中のHNEタンパク質付加物の量を、所定のHNE-BSA標準曲線から推定した。
【0088】
このアッセイでは、まず、HNEコンジュゲートを96ウェルプレートにコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。HNEコンジュゲートを除去し、ウェルを1×PBSで2回すすいだ。アッセイ希釈液を各ウェルに添加し、室温で1時間ブロックし、次いで使用するまで4℃に移した。使用直前に、アッセイ希釈液を除去し、50μlの母体血漿試料及びHNE-BSA標準を加えた。次いで、プレートをオービタルシェーカー上で室温で10分間インキュベートした。希釈した抗HNE抗体を各ウェルに添加し、オービタルシェーカー上で室温で2時間インキュベートした。次いで、プレートを1×洗浄緩衝液で3回洗浄し、各洗浄の間に完全に吸引した。希釈したHRPコンジュゲート二次抗体をすべてのウェルに添加し、オービタルシェーカー上で室温で1時間インキュベートした。次いで、ストリップウェルを1×洗浄緩衝液でさらに3回洗浄した。基質溶液を各ウェルに添加し、オービタルシェーカー上で室温で2~5分間インキュベートし、色の変化を監視した。停止溶液を各ウェルに添加して、酵素反応を停止させた。各ウェルの吸光度を、一次波長として450nmを使用して、マイクロプレートリーダー(SPECTROstar Nano,BMG LABTECH)で読み取った。未知の試料中のHNEタンパク質付加物の含有量は、GraphPad Prismソフトウェアを使用して、所定のHNE-BSA標準曲線との比較によって決定した。結果をグラフ化し、GraphPad Prismソフトウェアを使用して統計分析を行った。
【0089】
免疫組織化学
6μmのパラフィン胎盤切片を脱パラフィンし、水和させ、次いで抗原回復のために電子レンジ内でトリス-EDTA緩衝液(pH9)で加熱した。切片を、TBST中の1%BSAで、室温で1時間ブロックした。切片を一次抗体とともに一晩インキュベートし、TBSTで3回洗浄した後、Alexaコンジュゲート二次抗体とともに90分間インキュベートした。切片を、DAPIによる退色防止溶液でマウントした。
図3~
図7、
図9、及び
図11の蛍光写真は、Nikon eclipse 90i共焦点顕微鏡で撮影した。
図10の蛍光写真は、Nikon eclipse Ti蛍光顕微鏡で撮影した。
【0090】
RNAの単離及びリアルタイムPCR
胎盤組織を液体窒素下で粉砕した。約100mgの破砕した胎盤組織を、Ultra Turraxホモジナイザーによって2mlのTrizol試薬でホモジナイズした。全RNAを、Direct-zol(商標)RNA MiniPrepによってTrizol抽出物から抽出した。RNAをDNAseで処理し、RNA Clean&Concentrator(商標)-5キットで精製した。DNAse処理試料を1×TAE緩衝液中の臭化エチジウムを含むアガロースゲルで泳動することによってRNAの品質を監視した。精製したRNAを用いて、SuperScript(登録商標)III First-Strand Synthesis Systemキットを使用してcDNAを作製した。このcDNAを使用して、アルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)のTaqmanプライマー及び内部対照18sリボソームRNAを含むTaqman遺伝子発現マスターミックスによってリアルタイムPCRを実行し、AOX1のmRNAを定量した。SyBrグリーンマスターミックスを用いて、Applied Biosystem 7500 PCRシステムを使用して内部対照としてのβ-アクチンに対してGタンパク質共役受容体1(GPER1)のmRNAを定量した。
【0091】
GPER1プライマーは、5’-CGTCCTGTGCACCTTCATGT-3’(フォワード、配列番号1)及び5’-AGCTCATCCAGGTGAGGAAGAA-3’(リバース、配列番号2)であった。AOX1プライマーは、Thermo-fisher Scientificから入手した(CAT:4331182、アッセイ番号:Hs00154079_m1)。AOX1 TaqManアッセイは、エクソン27/28境界で、NM_001159.3(本明細書では配列番号3)の3270の塩基から84bpのアンプリコンを検出するように設計した。
【0092】
統計分析
個々の図面の説明文に試料数が示されている。
図3、
図4、
図6、
図9、及び
図12のデータを、マン・ホイットニー検定(二元配置(two way))を使用して分析し、結果を中央値又は標準誤差を示す散布図として示している。
図10及び
図11のデータは、ウィルコクソンマッチドペア符号付き順位検定を使用して分析した。すべてのp値は、Graphpad Prismソフトウェアを使用して計算した。
【0093】
実施例1-死産のリスクと妊娠期間との関係
死産のリスクと妊娠期間との間の関係を例示するために、発明者らは、Omigbodun and Adewuyi(1997,J Natl Med Assoc,89:617)による医学的介入が比較的低いレベルの集団におけるヒトの妊娠期間についてのデータのカプランマイヤープロットを作成し、これを、Sutan et al.(2010,J Perinatol,30:311-318)による1000の継続妊娠当たりの死産のリスクについてのデータと組み合わせた(
図2)。このデータは、死産が、Johnson et al.(1999,Cell,96:291-302)によって定義された老化原因と一致していることを示している。
【0094】
実施例2-胎盤組織におけるDNA/RNA及び脂質の酸化
酸化損傷が多くの老化組織で観察されているため、本発明者らは、DNA/RNA酸化のマーカーとして、8-ヒドロキシ-デオキシグアノシン/8-ヒドロキシグアノシン(8OHdG/8HOG)によって測定される胎盤DNA/RNA酸化の証拠を探した。8OHdG/8HOGについて免疫組織化学(IHC)を胎盤で行い、核/フレームでの8OHdG/8HOG染色の平均強度が、出産予定日を超過した胎盤及び死産に関連する胎盤でのDNA/RNA酸化の有意な増加を実証した(
図3)。
【0095】
DNA酸化の増加は、脂質過酸化にもつながる可能性があるフリーラジカル損傷を示唆した。4-ヒドロキシノネナール(4HNE)の生成によって測定される脂質過酸化はアルツハイマー病で増加することが観察されている(Markesbery and Lovell,1998,Neurobiol Aging,19:33-36)。したがって、本発明者らは、出産予定日を超過した胎盤組織、死産の胎盤組織、及び満期胎盤組織における4HNEについて免疫組織化学を行った。これにより、
図4に示す死産に関連する胎盤でも観察された、出産予定日を超過した合胞体栄養細胞の4HNE染色の顕著な増加が明らかになった。出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤における高レベルの8OHdG/8HOG及び4HNEは、これらの胎盤で胎盤の老化が起きた可能性があることを示唆している。
【0096】
本発明者らは、早期出生、後期出産(出産予定日を超過した出産)、子癇前症、及び子宮内発育遅延(IUGR)の場合に、市販のELISAキットを使用して母体血漿中の4HNEレベルも調べた。早期と比較した場合、出産予定日を超過した出産、子癇前症、及びIUGRのそれぞれの場合で、4HNEレベルが有意に高いことが判明した(
図5)。出産予定日を超過した出産、子癇前症、及びIUGRはすべて、死産のリスクの増加と関連していることが知られている。
【0097】
実施例3-出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤におけるリソソームの移動とクラスター化
誤って折り畳まれたタンパク質及び損傷したミトコンドリアは、通常は、リソソームを含むタンパク質分解酵素とのオートファゴソーム融合を伴うプロセスにおいてオートファゴソームで再利用される。異常なタンパク質の蓄積、例えば、アルツハイマー病におけるタウ及びアミロイドタンパク質並びにハンチントン病における突然変異huntinの蓄積は、老化、特に脳の老化において役割を果たすと考えられている。ハンチントン病では、ニューロン内のリソソームの分布が変化し、リソソームの核周囲蓄積が増加する。本発明者らは、リソソームマーカーであるリソソーム関連膜タンパク質-2(LAMP2)を使用して、免疫組織化学によって胎盤のリソソームの分布を分析した。これは、満期胎盤の合胞体栄養細胞の頂端面に位置するリソソームを示したが(
図6A、
図6D、及び
図6E)、リソソームは、出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤では核周囲面及び基底面に移動していた(
図6B、
図6C、
図6F、及び
図6G)。
【0098】
現在のデータは、出産予定日を超過した胎盤及び死産に関連する胎盤の合胞体栄養細胞の核周囲面及び基底面におけるリソソームマーカーLAMP2に陽性の粒子の顕著な蓄積を実証している。
【0099】
実施例4-4HNEを含むより大きなオートファゴソームは、出産予定日を超過した胎盤及び死産に関連する胎盤に存在する
リソソームとの融合の失敗によるオートファゴソーム機能の阻害は、オートファゴソームのサイズの増加をもたらす。このプロセスは、アルツハイマー病、ダノン病、及び神経変性で見られるオートファジー機能全体の阻害につながる。現在の研究では、本発明者らは、LC3Bに対する抗体を用いた免疫組織化学を使用してオートファゴソームを検出した。オートファゴソームのサイズの有意な増加が、満期胎盤と比較して、出産予定日を超過した胎盤及び死産関連胎盤の両方で観察された(
図7)。二重標識蛍光免疫染色により、出産予定日を超過した及び死産の胎盤のより大きなオートファゴソームが脂質過酸化の産物である4HNEを含むことが示された(
図8)。
【0100】
オートファジーは、酸性リソソームとオートファゴソームの融合を伴う。現在のデータは、死産の胎盤及び出産予定日を超過した胎盤が、満期胎盤よりも大きなオートファゴソームを含むことを示し、これらの胎盤における自己貪食プロセスの阻害を示唆している。これらのデータは、融合の失敗で、オートファゴソームが4HNEの形態の酸化脂質でコーティングされていることをさらに示している。オートファゴソームの機能におけるそのような障害は、異常なタンパク質の蓄積及び合胞体栄養細胞の機能の低下をもたらし得る。
【0101】
実施例5-胎盤の酸化損傷におけるアルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)の役割
当業者に周知の方法を使用して、本発明者らは、6つの満期胎盤及び6つの出産予定日を超過した胎盤から単離されたRNAを配列決定した。RNA配列決定データの分析により、胎盤で発現された20111の遺伝子のうち、アルデヒドオキシダーゼ1(AOX1)が満期胎盤と比較して出産予定日を超過した胎盤で有意に増加したことが示された(
図9)。
【0102】
AOX1は、4HNEを含む様々なアルデヒドを酸化して対応する酸及び過酸化物にするモリブドフラボ酵素(molybdoflavoenzyme)である。次いで、本発明者らは、AOX1が、出産予定日を超過した胎盤及び死産関連胎盤で観察される4HNEの増加の生成に関与しているという仮説を検証した。二重標識蛍光IHCにより、AOX1が、出産予定日を超過した胎盤(
図10A~
図10C)及び死産の胎盤(
図10D~
図10F)において4HNE陽性粒子に共局在することが示された。さらに、Life Technologies TaqManアッセイHs00154079_m1を使用したリアルタイムqPCRによって、出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤が満期胎盤よりも有意に高いAOX1に対してmRNAを発現することが確認された(
図10G)。これらのデータは、AOX1が、出産予定日を超過した胎盤及び死産関連胎盤で発生する酸化損傷に役割を果たし得るという概念を支持している。
【0103】
実施例6-胎盤外植片培養を用いた4HNEの産生の薬理学的阻害
現在のデータは、脂質酸化の増加、異常なリソソーム-オートファゴソーム相互作用、及び出産予定日を超過した胎盤及び死産の胎盤の合胞体栄養細胞でのAOX1発現の増加の明確な証拠を提供する。これらの事象に因果関係があるかどうかを判断するために、発明者らは無血清(成長因子欠乏)培地で培養された満期胎盤組織を用いる胎盤外植片培養系を開発した。IHCは、血清枯渇がインキュベーションの24時間後に4HNEの産生を有意に増加させたことを示した(
図11A及び
図11B)。オートファゴソームのサイズの有意な増加は、無血清培地での24時間のインキュベーション後にも見られ(
図12A及び
図12B)、死産の胎盤及び出産予定日を超過した胎盤で観察されるように、24時間での酸化損傷によるオートファジーの阻害を示唆している。AOX1のmRNAは24時間で増加し、AOX1の酸化損傷への関与を示唆した。
【0104】
本発明者らは、胎盤外植片を血清及びAOX1の非存在下で培養したときに観察された脂質酸化の発生間の因果関係を決定しようとした。GPERアゴニストG-1を使用して、アルデヒドオキシダーゼを阻害した。強力なAOX1阻害剤であるラロキシフェンも使用した。本発明者らが合胞体栄養細胞の頂端面上でのGPER発現を検出したため、G-1を選択し(
図11C及び
図11D)、GPER1アゴニストは、腎臓における4HNEの産生を阻害することが示された(Lindsey et al.,2011,Hypertension,58:665-671)。ラロキシフェン及びG-1は共に、24時間の処置後に血清飢餓胎盤外植片での4HNEの産生を阻害し(
図11A及び
図11B)、これらの組成物が、脂質の酸化損傷並びにオートファゴソームのサイズ及びリソソームの位置の異常も阻止できることを実証した(
図12)。
【0105】
実施例7-合胞体栄養細胞の頂端面上の細胞表面エストロゲン受容体GPER1の存在
G-1は胎盤外植片培養において明らかな効果を有していたため、本発明者らは、胎盤組織におけるGPER1発現の特徴付けを行った。蛍光免疫組織化学によって検出された胎盤ロールの切片におけるGPER1の発現は、GPER1が胎盤絨毛で発現することを示し(データは示していない)、より高い倍率(100倍)では胎盤絨毛の頂端面に局在化していたが、満期の羊膜、絨毛膜、及び脱落膜は、GPER1発現をほとんど示さなかった(データは示していない)。LC3Bに対する抗体を用いた蛍光免疫染色により、血清飢後の胎盤外植片におけるオートファゴソームのサイズの変化が示された(
図12)。
【0106】
GPER1プライマーは、Invitrogenから供給された:GPER1フォワードプライマー5’-CGTCCTGTGCACCTTCATGT-3’(配列番号1)及びGPER1リバースプライマー5’-AGCTCATCCAGGTGAGGAAGAA-3’(配列番号2)。GPER1のリアルタイムPCRにより、胎盤絨毛が、羊膜、絨毛膜、及び脱落膜よりも有意に高いGPER1の発現を有することが示された(
図13A)。GPER1のウェスタンブロットにより、胎盤絨毛組織におけるGPER1のタンパク質レベルが羊膜、絨毛膜、及び脱落膜よりも高いことが確認された(
図13B)。
【0107】
合胞体栄養細胞頂端膜上の細胞表面エストロゲン受容体GPERの存在は新規の発見であり、この受容体が胎盤内の酸化損傷の調節において役割を果たし得ることを示唆している。過熟妊娠症候群の胎児を有する妊婦の尿は、正常な胎児を有する女性よりもエストロゲン:クレアチニン比が低いことが示されている(Rayburn et al.,1982,Obstet Gynecol,60:148-153)。これらのデータは、低エストロゲン濃度が、AOX1のGPER媒介阻害の減少、並びに結果として胎盤の酸化損傷及び機能障害をもたらし得る可能性を支持している。
【0108】
実施例8-母体血中のAOX1 mRNAの検出
胎児AOX1 mRNAが、当業者に周知の方法によって母体血で検出された。簡単に説明すると、母親の血液試料を、PAXgene(登録商標)Blood RNA Tubeで収集した。RNAの単離に使用するまで、血液試料を-30℃で保存した。PAXgene Blood miRNA Kit及び完全自動化RNA単離システムQIAcube(Qiagen)を用いて、2.5mlの母体全血試料中の全RNAを単離した。試料からのRNAの品質は、バイオアナライザー(Agilent Technologies)でRNA試料を泳動させることで確認した。28Sと18Sの1を超える比率の値は、全血から得られた良質のRNAとみなした。cDNAの調製に使用する前に、全RNAをRNAseフリーDNAseで処理した。SuperScript(登録商標)III First-Strand Synthesis System(Life technologies)を用いて、全RNAからcDNAを調製した。Taqman遺伝子発現系、及び内部対照としてヒト18SリボソームRNAを用いる7500 applied biosystem PCRマシンを使用して、cDNAを用いてAOX1のmRNAを定量した。
【0109】
母体血中のAOX1 mRNAの大部分は胎盤に由来するため、母体血のAOX1 mRNAを、胎盤の酸化ストレスの指標として使用することができる。本発明者らは、満期の(37~39週の妊娠期間が完了している)7人の母親の母体血AOX1 mRNAを測定し、死産となった2人の妊婦の血液試料を妊娠31週及び36週で測定した。AOX1 mRNAの平均量は、満期妊娠と比較して、死産の母体血で有意に増加していた(
図14)。
【0110】
実施例9-腎臓のアルデヒドオキシダーゼ媒介老化
21歳の対象及び66歳の対象からの腎臓組織を、アルデヒドオキシダーゼによって生成された酸化脂質のマーカーとして4HNEについて染色した。
図15に示されている結果は、アルデヒドオキシダーゼが、老化のマーカーである酸化損傷を腎臓に引き起こすことを実証している。したがって、アルデヒドオキシダーゼを発現する組織は、酸化損傷によって老化し得る。