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特開2024-161437精子の受精能獲得を決定することによる男性受精能の状態の特定、及びコンパニオン回収キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161437
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】精子の受精能獲得を決定することによる男性受精能の状態の特定、及びコンパニオン回収キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/92 20060101AFI20241112BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20241112BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 1/02 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 5/076 20100101ALN20241112BHJP
   C07K 14/76 20060101ALN20241112BHJP
【FI】
G01N33/92 C
G01N33/48 P
C12Q1/02
C12N1/02
C12N5/076
C07K14/76
【審査請求】有
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024133326
(22)【出願日】2024-08-08
(62)【分割の表示】P 2021524139の分割
【原出願日】2019-11-01
(31)【優先権主張番号】62/755,087
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/884,785
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518222620
【氏名又は名称】アンドロヴィア ライフサイエンシーズ, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・トラヴィス
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・ジー・オスターマイアー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒトの男性の受精能状態を特定するための方法。
【解決手段】a)ヒトの男性から精子サンプルを得る工程と、b)希釈した精子サンプルを得るために、前記精子サンプルに、一定量の精液希釈剤溶液を希釈容量比で導入する工程と、c)前記希釈した精子サンプルを、約4℃~約25℃の温度範囲で2時間を超える長期間維持する工程と、d)Cap-Scoreを決定するために、工程(c)の前記希釈した精子サンプルに対してCap-Scoreアッセイを行う工程と、e)前記ヒトの男性の受精能状態を決定する工程とを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトの男性の受精能状態を特定するための方法であって、
a)ヒトの男性から精子サンプルを得る工程と、
b)希釈した精子サンプルを得るために、前記精子サンプルに、一定量の精液希釈剤溶液を希釈容量比で導入する工程と、
c)前記希釈した精子サンプルを、約4℃~約25℃の温度範囲で2時間を超える長期間維持する工程と、
d)Cap-Scoreを決定するために、工程(c)の前記希釈した精子サンプルに対してCap-Scoreアッセイを行う工程と、
e)前記ヒトの男性の受精能状態を決定する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記希釈した精子サンプルについてCap-Scoreアッセイから得られたCap-Scoreが、同一個体から得た、同様に処理された新鮮なサンプルから得られたCap-Scoreと有意な差がない請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度範囲が、約4℃~約20℃である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記温度範囲が、約8℃~約10℃である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記精液希釈剤溶液が、重炭酸塩バッファー、クエン酸塩バッファー、ヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)バッファー、TRIS/クエン酸バッファー、TRIS/クエン酸塩バッファー、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)バッファー、HEPES/TRISバッファー、N’-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタン(TES)及びヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)バッファー(TES/TRISバッファー)、及びそれらの組合せからなる群から選択されるバッファーを含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記バッファーが、TES/TRISバッファーである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記精液希釈剤溶液が、アルブミン、胎児臍帯血清限外濾過液、プラズマネート、卵黄、スキムミルク、リポタンパク質、脂肪酸結合タンパク質、及びそれらの組合せからなる群から選択されるタンパク質を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記タンパク質が、卵黄である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記精液希釈剤溶液が、抗生物質を更に含む請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記抗生物質が、ゲンタマイシンである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記Cap-Scoreアッセイが、(i)前記精子サンプル及び前記精液希釈剤溶液から精子細胞を分離する工程と、(ii)前記精子細胞の第1の部分を受精能獲得刺激を含有する緩衝系(Cap)に再懸濁し、前記精子細胞の第2の部分を受精能獲得刺激を含有しない緩衝系(non-Cap)に再懸濁する工程と、(iii)得られた細胞懸濁液を受精能獲得緩衝系及び非受精能獲得緩衝系で37℃にて3時間インキュベートする工程とを含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記精子サンプル対前記精液希釈剤溶液の希釈体積比が、約10:1~約1:10である請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記精子サンプル対前記精液希釈剤溶液の希釈体積比が、約1:1である請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記精子サンプルが、円錐形の底部及び封止キャップを備えたプラスチックチューブに保存される請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記プラスチックチューブが、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリアロマー(PA)、及びポリカーボネート(PC)からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記長期間が、2時間より長く約24時間以内である請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記長期間が、少なくとも18時間である請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記方法が、1以上の精子保存容器、トランスファーピペット、絶縁ポーチ、コールドパック、断熱容器、及び精液希釈剤溶液を含む精子サンプル回収キットを使用することを更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項19】
ヒトの男性個体の受精能状態を特定するための方法であって、
a)ヒトの男性から精子サンプルを得る工程と、
b)希釈した精子サンプルを得るために、前記精子サンプルに、一定量の精液希釈剤溶液を希釈容量比で導入する工程と、
c)冷却希釈精子サンプルを得るために、工程(b)の前記希釈した精子サンプルを、断熱容器内で約8℃~約10℃の範囲の温度に冷却する工程と、
d)前記冷却希釈精子サンプルを約8℃~約25℃の温度範囲で長期間維持し、前記温度が、前記希釈した精子サンプルを、所定温度に冷却されたコールドパックを備えた断熱ポーチに入れることによって維持される工程と、
e)受精能獲得に起因するガングリオシドGM1パターンの分布を決定するために、工程(d)の前記希釈した精子サンプルに対してCap-Scoreアッセイを行い、前記ヒトの男性の受精能状態を決定する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
冷却工程(c)が、約1時間に亘って行われる請求項19に記載の方法。
【請求項21】
工程(d)の長期間が、少なくとも18時間である請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記コールドパックが、4℃に冷却される請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記コールドパックが、-20℃に冷却される請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記方法が、1以上の精子保存容器、トランスファーピペット、絶縁ポーチ、コールドパック、断熱容器、及び精液希釈剤溶液を含む精子サンプル回収キットを使用することを更に含む請求項19に記載の方法。
【請求項25】
男性の受精能状態を決定するためのキットであって、1以上の精子保存容器、トランスファーピペット、絶縁ポーチ、コールドパック、断熱性全体容器(insulating over-all container)、精液希釈剤溶液、受精能獲得を刺激するための剤、受精能獲得培地、非受精能獲得培地、固定試薬、及びGM1パターンの分布を決定するための試薬を含むことを特徴とするキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連技術の相互参照
本願は、参照によりその全体を本明細書に援用する、2019年8月9日出願の米国仮出願第62/884,785号及び2018年11月2日出願の米国仮出願第62/755,087号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、男性受精能の分野に関し、より詳細には、約4℃~約25℃に維持した希釈剤(extender)溶液を含有する培地に2時間超保存した精子サンプルから精子の受精能獲得を決定した後に、ガングリオシド、GM1の分布パターンに基づく男性受精能を決定すること、及びCap-ScoreTMアッセイで使用するためのコンパニオン回収キットに関する。
【背景技術】
【0003】
米国では、カップルの10%が不妊症に関連する医学的所見を有しており、不妊症の約40%~約50%が男性に起因している。世界的規模に換算すると、これは7300万人を超える不妊カップルに相当する。典型的な男性の生殖健常性検査は、精子の数、外観、及び運動性を評価する。残念なことに、不妊症男性の半数超は、これらの記述的基準の正常なパラメータを満たす精子を有しており、自然妊娠と、子宮内授精(IUI)などの生殖補助医療技術との両方で失敗を繰り返した後、「特発性不妊症」であると判断される。失敗に終わった各サイクルは、カップルに大きな身体的、感情的、経済的な犠牲をもたらし、米国のヘルスケアシステムでは、年間50億ドル超の費用が掛かるので、精子機能の実用試験に対する必要性が大きい(非特許文献1)。このような試験により、臨床医は、妊娠を引き起こす最良の機会を与える生殖補助医療技術に患者を導くことができる(非特許文献2)。
【0004】
精子は、女性の生殖管に侵入しても、直ちには卵子と受精することはできない。むしろ、それらは「受精能獲得」として知られる機能的成熟プロセスを経る必要がある。このプロセスは、細胞膜における特定の変化、即ち、受精能獲得のための刺激への曝露に応答するガングリオシドGM1の分布パターンの変化を示すことによる特定刺激に対する応答能力に依存する。
【0005】
Cap-ScoreTMアッセイは、精子サンプル中の特定のGM1分布パターンの違いを測定することによって男性受精能を評価するために使用される。Cap-ScoreTMアッセイの際、通常は、精子サンプルを新たに調製し、体温で保温し、約30分間以内に試験ラボに輸送していた。Cap-ScoreTMアッセイを行う際、精子サンプルを、2時間よりも長期間は保存していなかった(非特許文献2)。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、精子サンプルを希釈するための方法、及びCap-ScoreTMアッセイ用に精子サンプルを調製する前の精子サンプルの保存時間を延ばすための方法を提供する。より詳細には、本発明は、特定条件下で少なくとも2時間以上保存されたときに、精子細胞の受精能獲得に対する耐性を改善し、患者(又は医師)が精子サンプルを回収し、回収した精子サンプルを、Cap-ScoreTMアッセイを行うことができる実験室に送ることを可能にする。精子サンプルの在宅での回収の利便性は、正確性及び効率を損なうことなく、Cap-ScoreTMアッセイの利用性を大幅に向上させる。
【0007】
本発明の実施形態では、本開示は、男性受精能の状態を特定するための方法を提供する。
【0008】
一実施形態では、ヒトの男性の受精能状態を特定するための方法は、a)ヒトの男性から精子サンプルを得る工程と、b)希釈した精子サンプルを得るために、前記精子サンプルに、一定量の精液希釈剤溶液を希釈容量比で導入する工程と、c)前記希釈した精子サンプルを、約4℃~約25℃の温度範囲で2時間を超える長期間維持する工程と、d)受精能獲得を経験することができる精子の割合(Cap-ScoreTM)を決定するために、工程(c)の前記希釈した精子サンプルに対してCap-ScoreTMアッセイを行う工程と、e)ヒトの男性の受精能状態を決定する工程とを含む。一実施形態では、希釈した精子サンプルについてCap-ScoreTMアッセイから得られたCap-ScoreTMは、同一個体から得た、同様に処理された新鮮なサンプルから得られたCap-ScoreTMと有意な差がない。
【0009】
一実施形態では、ヒトの男性の受精能状態を特定するための方法は、希釈した精子サンプルの温度を約4℃~約25℃の範囲に2時間超維持することを含む。いくつかの実施形態では、ヒトの男性の受精能状態を特定するための方法は、希釈した精子サンプルの温度を約4℃~約10℃の範囲に2時間超維持することを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、精子サンプルの保存のための長期間は、約2時間~約24時間である。いくつかの実施形態では、精子サンプルの輸送における長期間は、約12時間~約48時間である。いくつかの実施形態では、精子サンプルの輸送における長期間は、少なくとも12時間である。いくつかの実施形態では、精子サンプルの輸送における長期間は、少なくとも18時間である。
【0011】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、緩衝系を含む。当技術分野で知られたいずれの緩衝系も、本発明において有用である。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、重炭酸塩バッファー、クエン酸塩バッファー、ヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)バッファー、TRIS/クエン酸バッファー、TRIS/クエン酸塩バッファー、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)バッファー、HEPES/TRISバッファー、N’-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタン(TES)及びヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)バッファー(TES/TRISバッファー)、及びそれらの組合せからなる群から選択されるバッファーを含む。いくつかの実施形態では、バッファーは、TES/TRISバッファー(又は「TEST」バッファー)を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、少なくとも1種のタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、アルブミン、ウマ血清、ウシ血清、大豆タンパク質、胎児臍帯血清限外濾過液、プラズマネート、卵黄、スキムミルク、リポタンパク質、脂肪酸結合タンパク質、及びそれらの組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、精液希釈剤溶液は、卵黄、乳タンパク質、及びそれらの組合せからなる群から選択されるタンパク質を含む。一実施形態では、精液希釈剤溶液は、卵黄を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、抗生物質を更に含む。いくつかの実施形態では、前記抗生物質は、ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシン、及びそれらの組合せからなる群から選択される。実施形態では、前記抗生物質は、ゲンタマイシンである。
【0014】
いくつかの実施形態では、前記方法は、Cap-ScoreTMアッセイを行う前に、1以上の追加工程を行うことを含む。いくつかの実施形態では、前記追加工程は、希釈した精液サンプルを遠心分離して精子細胞から精漿を分離し、精子細胞ペレットを回収すること、精子細胞ペレットを1以上の受精能獲得刺激を含有する、mHTFなどの培地(Cap)及び任意に、受精能獲得刺激を含有しない、mHTFなどの培地(non-Cap)に再懸濁すること、及び得られた細胞懸濁液をCap培地及び任意にnon-Cap培地中、37℃で3時間インキュベートすることから選択される工程を含む。
【0015】
いくつかの実施形態では、精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比は、約10:1~約1:10である。いくつかの実施形態では、精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比は、約1:10である。いくつかの実施形態では、精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比は、約10:1である。いくつかの実施形態では、精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比は、約1:1である。
【0016】
いくつかの実施形態では、精子サンプルは、円錐形の底部及び封止キャップを備えたプラスチックチューブに保存される。いくつかの実施形態では、前記プラスチックチューブは、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリアロマー(PA)、及びポリカーボネート(PC)からなる群から選択される。
【0017】
いくつかの実施形態では、前記方法は、精子保存容器、トランスファーピペット、絶縁ポーチ、コールドパック、断熱容器、及び精液希釈剤溶液のうちの1以上を含む精子サンプル回収キットを使用することを更に含む。
【0018】
実施形態では、本開示は、ヒトの男性個体の受精能状態を特定するための方法であって、a)ヒトの男性から精子サンプルを得る工程と、b)希釈した精子サンプルを得るために、前記精子サンプルに、一定量の精液希釈剤溶液を希釈容量比で導入する工程と、c)冷却希釈精子サンプルを得るために、工程b)の前記希釈した精子サンプルを、断熱容器内で約4℃~約10℃の範囲の温度に冷却する工程と、d)前記冷却希釈精子サンプルを約4℃~約25℃の温度範囲で長期間維持し、前記温度が、希釈した精子サンプルを、所定温度に冷却されたコールドパックを備えた断熱ポーチに入れることによって維持される工程と、e)工程(d)の前記希釈精子サンプルに対してCap-ScoreTMアッセイ(受精能獲得に起因するGM1パターンの分布の決定)を行い、前記ヒトの男性の受精能状態を決定する工程とを含む方法を提供する。
【0019】
いくつかの実施形態では、冷却工程(c)は、約1時間に亘って行われる。いくつかの実施形態では、工程(d)における長期間は、少なくとも18時間である。いくつかの実施形態では、コールドパックは、4℃に冷却される。いくつかの実施形態では、コールドパックは、-20℃に冷却される。いくつかの実施形態では、前記方法は、精子保存容器、トランスファーピペット、絶縁ポーチ、コールドパック、断熱容器、及び精液希釈剤溶液のうちの1以上を含むコンパニオン精子サンプル回収キットを使用することを更に含む。
【0020】
実施形態では、本発明は、精子保存容器、トランスファーピペット、絶縁ポーチ、コールドパック、断熱容器、精液希釈剤溶液、受精能獲得を刺激するための剤、受精能獲得培地、非受精能獲得培地、固定試薬、及びGM1パターンの分布を決定するための試薬のうちの1以上を含む男性の受精能状態を決定するためのキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、精液サンプルの調製とタイムラインを示すフローチャートを示す。
【0022】
図2図2は、図2A図2Eを含むが、4℃に冷却されたコールドパックを含む在宅回収キットを使用した、希釈したヒトの未処理射精液の輸送を示す。
【0023】
図3図3は、封止断熱発泡スチロール容器内で4℃に冷却したコールドパックの、24時間に亘って測定された温度プロファイルを示す。
【0024】
図4図4は、図4A図4Dを含むが、4℃の冷蔵庫に維持された精液サンプルの温度プロファイルのモニタリングを示す。
【0025】
図5図5は、冷蔵庫で4℃にて24時間に亘って維持したサンプルの温度プロファイルを示す。
【0026】
図6図6は、封止断熱発泡スチロール容器内で、4℃に冷却したコールドパックで保存したサンプルのCap-ScoreTM試験の結果を示す。
【0027】
図7図7は、4℃で冷蔵庫内に維持されたサンプルのCap-ScoreTM試験の結果を示す。
【0028】
図8図8は、図8A図8Eを含むが、-20℃に冷却したコールドパックを含む在宅回収キットを使用した、希釈したヒトの未処理射精液の輸送を示す。
【0029】
図9図9は、封止断熱発泡スチロール容器内で-20℃に冷却したコールドパックによって生成された、24時間に亘って測定された温度プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示は、特定のGM1分布パターンが男性の受精能状態に関する情報を提供し得るという知見に基づいている。GM1パターンの決定は、例えば、参照により開示内容を本明細書に援用する米国特許第7,160,676号明細書、同第7,670,763号明細書、及び同第8,367,313号明細書、並びに米国公開第20170248584号明細書に記載されている。Cap-ScoreTMアッセイは、受精能獲得刺激への曝露による特定のGM1分布パターンの頻度の変化に基づいている。本開示は、男性の受精能状態を決定するための方法及びコンパニオン回収/輸送キットを提供する。コンパニオンキットは、2時間を超える長期間の精子の保存及び輸送中に、精子細胞の生存率を維持するための精液希釈剤溶液を含む。
【0031】
本開示においては、精液を、患者の自宅などの私的な環境で回収でき、得られるCap-ScoreTMに著しい悪影響及び著しい変化を伴わずに、一晩の輸送用に調製及び保存することができるという予想外の知見が示される。
定義
【0032】
先行するセクション及び本明細書中の後続する全体を通して、特段の断りがない限り、本明細書中で使用される技術的及び科学的な用語はいずれも、本発明が属する技術分野の当業者によって通常理解される意味と同一の意味を有する。本明細書中で言及される特許及び刊行物はいずれも、それらの全体を参照により援用する。
【0033】
本明細書で使用される用語「受精能獲得」(Cap)条件は、一般に、精子細胞が受精能獲得のための1以上の刺激と共にインキュベートされる条件を意味する。具体的には、これは、培地中の重炭酸塩及び/又はカルシウムイオンの存在、及び血清アルブミン又はシクロデキストリンなどのステロール受容体の存在を必要とする。受精能獲得条件に首尾よく応答した精子は、先体エキソサイトーシスを起こす能力を獲得すると共に運動性の過剰活性化パターンを獲得する。
【0034】
本明細書で使用される用語「非受精能獲得」(non-Cap)条件は、精子細胞が受精能獲得のための1以上の刺激と共にインキュベートされない条件を意味する。受精能獲得条件に曝露されていない、又は曝露されたが受精能獲得条件に応答しない精子は、透明帯、透明帯からの可溶化タンパク質、又はプロゲステロンなどの生理学的リガンドによって誘発される先体エキソサイトーシスを起こさない。更に、そのような精子は、過剰に活性化された運動性を示さない。
【0035】
本明細書で使用される用語「Cap-ScoreTMアッセイ」は、一般に、以下の(1)~(3)の工程を含む、ヒトの男性個体の受精能状態を特定するための方法を意味する。(1)GM1について、同一個体から得た、固定され且つ受精能が獲得された精子サンプル及び任意に固定され且つ受精能が獲得されていない精子サンプルを染色する工程。(2)染色した固定精子サンプルを画像化して、受精能を獲得した精子及び任意に受精能を獲得していない精子における、選択したGM1パターンの頻度を決定する工程。(3)受精能獲得条件に応答する精子に関連する選択したGM1パターンの頻度を、精子のGM1パターンの合計頻度と比較し、その値を既知の受精能を有する集団における参照値と比較する工程。この試験は、分子レベルでの精子の分析を提供し、受精能獲得が可能な精子の割合を決定する(Cap-ScoreTM)。
【0036】
いくつかの実施形態では、男性の受精能状態を特定するための方法が記載される。いくつかの実施形態では、前記方法は、個体から精子サンプルを得ることを含む。いくつかの実施形態では、精子サンプルは、本明細書でより詳細に記載されるように、在宅回収キットを使用して得られる。いくつかの実施形態では、精子サンプルは、在宅環境で個体によって回収される。いくつかの実施形態では、精子サンプルは、診療所、実験室、又はクリニックで回収される。
【0037】
いくつかの実施形態では、精液サンプルは、Cap-ScoreTMアッセイを行う前に、開閉可能な蓋を備えた容器に保存される。いくつかの実施形態では、前記容器は、プラスチック、ガラス、又は他の耐久性を有する材料であることができる。いくつかの実施形態では、前記容器は、プラスチックである。いくつかの実施形態では、前記容器は、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリアロマー(PA)、及びポリカーボネート(PC)からなる群から選択されるプラスチックを含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、精子サンプルは、精液希釈剤と混合される。
【0039】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤の使用は、精子サンプルの生存を延ばすために採用される。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、任意の市販の又は後に開発された精液希釈剤溶液である。精液希釈剤は、浸透圧的に平衡な塩溶液を表し、エネルギー源(例えば、グルコース、フルクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、ピルビン酸塩などの糖)、脂質(例えば、大豆レシチン、卵黄脂質、乳脂質)、タンパク質源(例えば、カゼイン、アルブミン、精漿)、抗生物質(例えば、ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシン)、緩衝系及び/又は電解質(例えば、平衡及び等張電解質溶液、TRIS、TES、TES/TRIS(TEST)、クエン酸、クエン酸ナトリウム、HEPES)のうちの1以上を含むことができる。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、卵黄、グルコース、及びクエン酸塩を含む。
【0040】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、低温ショック保護剤としての使用のための1以上のタンパク質又は脂質を含む。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、アルブミン、ウマ血清、ウシ血清、大豆タンパク質、大豆レシチン、胎児臍帯血清限外濾過液、プラズマネート、卵黄、卵黄レシチン、スキムミルク、カゼイン、リポタンパク質、脂肪酸結合タンパク質、及びそれらの組合せからなる群から選択されるタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、卵黄、大豆タンパク質、ミルク、及びそれらの組合せからなる群から選択されるタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質は、卵黄を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質は、鶏卵黄を含む。卵黄血漿の主成分は、低密度リポタンパク質(LDL)である。卵黄のLDLは、リン脂質に囲まれた液体脂質コアを有する。いくつかの実施形態では、タンパク質は、LDLを含む。
【0041】
いくつかの実施形態では、タンパク質は、全卵黄を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質は、全卵黄の画分、例えば、全卵黄の遠心分離によって調製された清澄化卵黄、又は卵黄血漿からのLDL画分の抽出によって調製された低密度タンパク質を含む。
【0042】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、動物源に由来するリン脂質、例えば、LDLのリン脂質(卵黄レシチン)を含む。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、非動物源に由来するリン脂質、例えば、大豆レシチンを含む。
【0043】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、細胞の生存率を維持するpHを示すように、生物学的に緩衝化することができる。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、精液希釈剤において約6.9~約7.5のpHを維持するためのバッファーを含む。いくつかの実施形態では、pHは、約6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、又は7.5に維持される。一般に使用される生物学的バッファーは、TRIS、HEPES、及びTESなどの名称で入手できる。希釈剤に含有される生物学的バッファーの量は、生物学的バッファーの強度及び希釈剤の所望の緩衝能に依存し、例えば、一般に使用されるバッファーの濃度は、約10mMの重炭酸塩、20~25mMのHEPES、又は約20~25mMのTRIS-HClが挙げられる。
【0044】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、重炭酸塩バッファー、クエン酸塩バッファー、クエン酸ナトリウムバッファー、ヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)バッファー、TRIS/クエン酸バッファー、TRIS/クエン酸塩バッファー、4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)バッファー、HEPES/TRISバッファー、N’-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタン(TES)及びヒドロキシメチルアミノメタン(TRIS)バッファー(TES/TRISバッファー)、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパンスルホン酸(TAPS)バッファー、2-(ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ)酢酸(ビシン)バッファー、3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(トリシン)バッファー、3-[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸(TAPSO)バッファー、3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)バッファー、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)バッファー、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)バッファー、及びそれらの組合せからなる群から選択されるバッファーを含む。
【0045】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、卵黄ベースの希釈剤である。いくつかの実施形態では、卵黄ベースの希釈剤は、16.0体積%~24.0体積%の卵黄及び45.0体積%~70.0体積%のバッファー溶液を含むことができる。いくつかの実施形態では、卵黄ベースの希釈剤は、全鶏卵黄を含む。いくつかの実施形態では、卵黄ベースの希釈剤は、16.0体積%、20.0体積%、又は24.0体積%の卵黄を含むことができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、卵黄及びクエン酸塩バッファーを含む。いくつかの実施形態では、卵黄ベースの希釈剤は、卵黄及びTRISバッファーを含む。いくつかの実施形態では、卵黄ベースの希釈剤は、卵黄及びTRIS/クエン酸塩バッファーを含む。いくつかの実施形態では、卵黄ベースの希釈剤は、卵黄及びTRIS/クエン酸塩バッファーを含む。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、全鶏卵黄及びクエン酸塩バッファーを含む。いくつかの実施形態では、卵黄ベースの希釈剤は、全鶏卵黄及びTRISバッファーを含む。いくつかの実施形態では、卵黄ベースの希釈剤は、全鶏卵黄及びTRIS/クエン酸塩バッファーを含む。いくつかの実施形態では、卵黄ベースの希釈剤は、全鶏卵黄及びTRIS/クエン酸バッファーを含む。
【0047】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、約250mOsM~約350mOsMの浸透圧を示す。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、約290mOsM~約320mOsMの浸透圧を示す。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、少なくとも約90重量%の水を含む。
【0048】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、精子細胞にエネルギーを与えるための炭水化物などのエネルギー源を含むことができる。いくつかの実施形態では、炭水化物は、単糖である。いくつかの実施形態では、炭水化物は、ソルビトール、フルクトース、スクロース、デキストロース、グルコース、及びラクトースからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、炭水化物は、単独で、又は1以上の他のエネルギー源と組み合わせて使用することができる。本発明の実施形態では、炭水化物は、細胞にエネルギーを与えるのに十分な量で存在する。一実施形態では、炭水化物源としてのグルコースの量は、約0.09g/L~約1.8g/Lである。いくつかの実施形態では、炭水化物源としてのグルコースの量は、約0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、又は3.0g/Lである。
【0049】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、抗生物質を含む。いくつかの実施形態では、抗生物質は、ペニシリン、テトラサイクリン、セファロスポリン、リンコマイシン、マクロライド、グリコペプチド、アミノグリコシド、カルバペネム、及びそれらの組合せからなる群から選択される化合物である。いくつかの実施形態では、抗生物質は、ゲンタマイシン、トブラマイシン、アミカシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アモキシシリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、テトラサイクリン、エラバサイクリン、セファレキシン、クリンダマイシン、リンコマイシン、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、メトロニダゾール、アジスロマイシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン、セフロキシム、セフトリアキソン、セフジニル、ダルババンシン、オリタバンシン、テラバンシン、バンコマイシン、エルタペネム、ドリペネム、メロペネム、イミペネム/シラスタチン、バシトラシン、ネオマイシン、ポリミキシンB、アンフォテリシン、及びそれらの組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、抗生物質は、ゲンタマイシンである。
【0050】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、初期の精子サンプルの生存率及び運動性を維持する能力に関連して選択される。いくつかの実施形態では、精子サンプルの生存率は、初期の生存率の少なくとも40%であり、運動性は、初期の運動性の少なくとも40%のレベルに相当する。いくつかの実施形態では、生存率及び運動性の各レベルは、初期の値の少なくとも約70%である。いくつかの実施形態では、本発明に係る在宅回収キットに含まれる精液希釈剤組成物の成分は、精子細胞の生存率及び運動性の維持を助長するように選択することができる。
【0051】
本発明において有用であり得る精液希釈剤としては、(1)CYB培地(Weidel et al., J. Androl. 8: 41-47 (1987))及び(2)冷蔵培地-ゲンタマイシン含有TYB(Irvine Scientific, Santa Ana, CA; catalogue #90129)が挙げられる。
【0052】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、動物源に由来する成分を含むことができる及び/又は精液希釈剤組成物は、非動物源に由来する成分を含むことができる。いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、動物源に由来する成分を実質的に含まないことを特徴とすることができる。「実質的に含まない」は、希釈剤が含む動物源由来の成分が、約0.1重量%未満であることを意味すると理解すべきである。動物源に由来する成分を含む又は含まないという精液希釈剤の特徴は、精液希釈剤組成物に添加される精液又は射精液を反映することを意図しないと理解すべきである。
【0053】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、動物源に由来する如何なる成分も含まないことができる。いくつかの実施形態では、精液希釈剤組成物は、動物に由来する1つ又は複数の成分を含むことができ、これらの成分は、精液希釈剤組成物の重量に基づいて0.1重量%を超える量で精液希釈剤組成物中に存在することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、精子サンプルは、約10:1~約1:10の精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比で精液希釈剤溶液に導入される。いくつかの実施形態では、精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比は、約10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、又は1:10である。いくつかの実施形態では、精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比は、約3:1、2:1、又は1:1である。いくつかの実施形態では、精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比は、約1:10である。いくつかの実施形態では、精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比は、約1:10である。いくつかの実施形態では、精子サンプル対精液希釈剤溶液の希釈体積比は、約1:1である。
【0055】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約1℃~約25℃、約1℃~約24℃、約1℃~約23℃、約1℃~約22℃、約1℃~約21℃、約1℃~約20℃、約1℃~約19℃、約1℃~約18℃、約1℃~約17℃、約1℃~約16℃、約1℃~約15℃、約1℃~約14℃、約1℃~約13℃、約1℃~約12℃、約1℃~約11℃、約1℃~約10℃、約1℃~約9℃、約1℃~約8℃、約1℃~約7℃、約1℃~約6℃、約1℃~約5℃、約1℃~約4℃、約1℃~約3℃、及び約1℃~約2℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0056】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約2℃~約25℃、約2℃~約24℃、約2℃~約23℃、約2℃~約22℃、約2℃~約21℃、約2℃~約20℃、約2℃~約19℃、約2℃~約18℃、約2℃~約17℃、約2℃~約16℃、約2℃~約15℃、約2℃~約14℃、約2℃~約13℃、約2℃~約12℃、約2℃~約11℃、約2℃~約10℃、約2℃~約9℃、約2℃~約8℃、約2℃~約7℃、約2℃~約6℃、約2℃~約5℃、約2℃~約4℃、及び約2℃~約3℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0057】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約3℃~約25℃、約3℃~約24℃、約3℃~約23℃、約3℃~約22℃、約3℃~約21℃、約3℃~約20℃、約3℃~約19℃、約3℃~約18℃、約3℃~約17℃、約3℃~約16℃、約3℃~約15℃、約3℃~約14℃、約3℃~約13℃、約3℃~約12℃、約3℃~約11℃、約3℃~約10℃、約3℃~約9℃、約3℃~約8℃、約3℃~約7℃、約3℃~約6℃、約3℃~約5℃、及び約3℃~約4℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0058】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約4℃~約25℃、約4℃~約24℃、約4℃~約23℃、約4℃~約22℃、約4℃~約21℃、約4℃~約20℃、約4℃~約19℃、約4℃~約18℃、約4℃~約17℃、約4℃~約16℃、約4℃~約15℃、約4℃~約14℃、約4℃~約13℃、約4℃~約12℃、約4℃~約11℃、約4℃~約10℃、約4℃~約9℃、約4℃~約8℃、約4℃~約7℃、約4℃~約6℃、及び約4℃~約5℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0059】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約5℃~約25℃、約5℃~約24℃、約5℃~約23℃、約5℃~約22℃、約5℃~約21℃、約5℃~約20℃、約5℃~約19℃、約5℃~約18℃、約5℃~約17℃、約5℃~約16℃、約5℃~約15℃、約5℃~約14℃、約5℃~約13℃、約5℃~約12℃、約5℃~約11℃、約5℃~約10℃、約5℃~約9℃、約5℃~約8℃、約5℃~約7℃、及び約5℃~約6℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0060】
本発明の実施形態では、希釈された精子サンプルは、約6℃~約20℃の温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約6℃~約25℃、約6℃~約24℃、約6℃~約23℃、約6℃~約22℃、約6℃~約21℃、約6℃~約20℃、約6℃~約19℃、約6℃~約18℃、約6℃~約17℃、約6℃~約16℃、約6℃~約15℃、約6℃~約14℃、約6℃~約13℃、約6℃~約12℃、約6℃~約11℃、約6℃~約10℃、約6℃~約9℃、約6℃~約8℃、及び約6℃~約7℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0061】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約7℃~約25℃、約7℃~約24℃、約7℃~約23℃、約7℃~約22℃、約7℃~約21℃、約7℃~約20℃、約7℃~約19℃、約7℃~約18℃、約7℃~約17℃、約7℃~約16℃、約7℃~約15℃、約7℃~約14℃、約7℃~約13℃、約7℃~約12℃、約7℃~約11℃、約7℃~約10℃、約7℃~約9℃、及び約7℃~約8℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0062】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約8℃~約25℃、約8℃~約24℃、約8℃~約23℃、約8℃~約22℃、約8℃~約21℃、約8℃~約20℃、約8℃~約19℃、約8℃~約18℃、約8℃~約17℃、約8℃~約16℃、約8℃~約15℃、約8℃~約14℃、約8℃~約13℃、約8℃~約12℃、約8℃~約11℃、約8℃~約10℃、及び約8℃~約9℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0063】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約9℃~約25℃、約9℃~約24℃、約9℃~約23℃、約9℃~約22℃、約9℃~約21℃、約9℃~約20℃、約9℃~約19℃、約9℃~約18℃、約9℃~約17℃、約9℃~約16℃、約9℃~約15℃、約9℃~約14℃、約9℃~約13℃、約9℃~約12℃、約9℃~約11℃、及び約9℃~約10℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0064】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約10℃~約25℃、約10℃~約24℃、約10℃~約23℃、約10℃~約22℃、約10℃~約21℃、約10℃~約20℃、約10℃~約19℃、約10℃~約18℃、約10℃~約17℃、約10℃~約16℃、約10℃~約15℃、約10℃~約14℃、約10℃~約13℃、約10℃~約12℃、及び約10℃~約11℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。
【0065】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約11℃~約25℃、約11℃~約24℃、約11℃~約23℃、約11℃~約22℃、約11℃~約21℃、約11℃~約20℃、約11℃~約19℃、約11℃~約18℃、約11℃~約17℃、約11℃~約16℃、約11℃~約15℃、約11℃~約14℃、約11℃~約13℃、及び約11℃~約12℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約12℃~約25℃、約12℃~約24℃、約12℃~約23℃、約12℃~約22℃、約12℃~約21℃、約12℃~約20℃、約12℃~約19℃、約12℃~約18℃、約12℃~約17℃、約12℃~約16℃、約12℃~約15℃、約12℃~約14℃、及び約12℃~約13℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約13℃~約25℃、約13℃~約24℃、約13℃~約23℃、約13℃~約22℃、約13℃~約21℃、約13℃~約20℃、約13℃~約19℃、約13℃~約18℃、約13℃~約17℃、約13℃~約16℃、約13℃~約15℃、及び約13℃~約14℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約14℃~約25℃、約14℃~約24℃、約14℃~約23℃、約14℃~約22℃、約14℃~約21℃、約14℃~約20℃、約14℃~約19℃、約14℃~約18℃、約14℃~約17℃、約14℃~約16℃、及び約14℃~約15℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約15℃~約25℃、約15℃~約24℃、約15℃~約23℃、約15℃~約22℃、約15℃~約21℃、約15℃~約20℃、約15℃~約19℃、約15℃~約18℃、約15℃~約17℃、及び約15℃~約16℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約16℃~約25℃、約16℃~約24℃、約16℃~約23℃、約16℃~約22℃、約16℃~約21℃、約16℃~約20℃、約16℃~約19℃、約16℃~約18℃、及び約16℃~約17℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約17℃~約25℃、約17℃~約24℃、約17℃~約23℃、約17℃~約22℃、約17℃~約21℃、約17℃~約20℃、約17℃~約19℃、及び約17℃~約18℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約18℃~約25℃、約18℃~約24℃、約18℃~約23℃、約18℃~約22℃、約18℃~約21℃、約18℃~約20℃、及び約18℃~約19℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約19℃~約25℃、約19℃~約24℃、約19℃~約23℃、約19℃~約22℃、約19℃~約21℃、及び約19℃~約20℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約20℃~約25℃、約20℃~約24℃、約20℃~約23℃、約20℃~約22℃、及び約20℃~約21℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約21℃~約25℃、約21℃~約24℃、約21℃~約23℃、及び約21℃~約22℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約22℃~約25℃、約22℃~約24℃、及び約22℃~約23℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約23℃~約25℃及び約23℃~約24℃からなる群から選択される温度範囲で維持される。いくつかの実施形態では、サンプルは、約24℃~約25℃の範囲の温度で維持される。
【0066】
いくつかの実施形態では、サンプルは、約1℃、約2℃、約3℃、約4℃、約5℃、約6℃、約7℃、約8℃、約9℃、約10℃、約11℃、約12℃、約13℃、約14℃、約15℃、約16℃、約17℃、約18℃、約19℃、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、及び約25℃からなる群から選択される温度で維持される。
【0067】
いくつかの実施形態では、希釈された精子サンプルを保存する時間は、約2時間~96時間である。いくつかの実施形態では、希釈された精子サンプルを保存する時間は、少なくとも12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、84時間、又は96時間である。いくつかの実施形態では、希釈された精子サンプルを保存する時間は、2時間超である。いくつかの実施形態では、希釈された精子サンプルを保存する時間は、少なくとも12時間である。いくつかの実施形態では、希釈された精子サンプルを保存する時間は、少なくとも18時間である。いくつかの実施形態では、希釈された精子サンプルを保存する時間は、少なくとも24時間である。いくつかの実施形態では、希釈された精子サンプルを保存する時間は、少なくとも36時間である。いくつかの実施形態では、希釈された精子サンプルを保存する時間は、少なくとも48時間である。いくつかの実施形態では、希釈された精子サンプルを保存する時間は、少なくとも60時間である。
【0068】
いくつかの実施形態では、前記方法は、精子サンプルにバッファーを添加して、サンプルのpHを維持することを含む。いくつかの実施形態では、そのようなバッファーは、2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、(3-(N-モルホリノ)プロパンスルホン酸)(MOPS)、ピペラジン-N,N’-ビス(2-エタンスルホン酸)(PIPES)、酢酸塩、ホウ酸塩、クエン酸塩、グリシン、重炭酸塩、TRIS、リン酸塩、HEPES、クエン酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0069】
実施形態では、本発明は、精子サンプルを精液希釈剤で約10:1~1:10の比で希釈することと、希釈したサンプルを封止された断熱容器内に、約4℃~約25℃で2時間、4時間、8時間、12時間、18時間、24時間、36時間、48時間、60時間、72時間、84時間、又は96時間保存することとを含む、精子サンプルを保存する方法を提供する。
【0070】
本発明はまた、男性個体の受精能状態を特定するためのCap-ScoreTMアッセイでの使用のためなどの、本発明の方法で使用するための回収キットを提供する。いくつかの実施形態では、回収キットは、以下の1以上を含む:1以上の無菌精子保存容器、トランスファーピペット、精液希釈剤溶液、前記保存容器を保存するための絶縁ポーチ、温度を約8℃~約20℃に制御するためのコールドパック(例えば、KOOLIT(登録商標)冷媒)、サンプル/絶縁ポーチ及びコールドパックを保存する断熱容器、及び使用説明書。いくつかの実施形態では、キットは、精子サンプルと混合するためのバッファー溶液を更に含む。いくつかの実施形態では、そのようなバッファーは、MES、MOPS、PIPES、酢酸塩、ホウ酸塩、クエン酸塩、グリシン、重炭酸塩、TRIS、リン酸ナトリウム、HEPES、クエン酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0071】
いくつかの実施形態では、前記方法は、トランスファーピペットを用いて精子サンプルの一部又は全部を15mLコニカルチューブに移し、精子サンプルを回収カップに回収することと、精子サンプルを精液希釈剤で1:1(v/v)の比で希釈することと、コニカルチューブとその内容物を絶縁バブルフォイルポーチに包装することと、フォイルポーチに包装されたサンプルチューブを発泡スチロールボックスに入れることと、4℃に冷却したコールドパックを、バブルフォイルポーチに包装されたサンプルチューブパック上に置くことと、発泡スチロールボックスを封止することと、発泡スチロールボックスを輸送用容器に入れることとを含む(図2を参照)。
【0072】
いくつかの実施形態では、前記方法は、15mLコニカルチューブ中の精子サンプルを、予熱した冷蔵培地-TYB培地(TYB希釈剤;Irvine Scientific;90129-20×5mL)にて1:1(v/v)で希釈することと、チューブをフォイルバブルポーチメーラー(Therapak;56362G)に入れることと、4℃に維持したコールドパック(Therapak;562200)をメーラー上に置くことと、メーラー/コールドパックを発泡ポリスチレンクーラー(壁厚3/4”の63/8”×47/8”×21/4”内径)に入れることと、クーラーを段ボール箱に入れることとを含む(図2)。
【0073】
いくつかの実施形態では、前記方法は、トランスファーピペットを用いて精子サンプルの一部又は全部を15mLコニカルチューブに移し、精子サンプルを回収カップに回収することと、精子サンプルを精液希釈剤で1:1(v/v)の比で希釈することと、コニカルチューブとその内容物を絶縁バブルフォイルポーチに包装することと、フォイルポーチに包装されたサンプルチューブを発泡スチロールボックスに入れることと、-20℃に冷却したコールドパックを、バブルフォイルポーチに包装されたサンプルチューブパック上に置くことと、発泡スチロールボックスを封止することと、発泡スチロールボックスを輸送用容器に入れることとを含む。
【0074】
いくつかの実施形態では、回収した精子サンプルは、精液希釈剤の添加後に、Cap-ScoreTMアッセイ用に処理される。いくつかの実施形態では、回収した精子サンプルは、Cap-ScoreTMアッセイ用に、回収直後に(精液希釈剤を添加せずに)処理される。いくつかの実施形態では、精子サンプルの処理は、精液希釈剤を除去すること、精子サンプルを洗浄すること、精子サンプルの1以上の部分を培地中に再懸濁すること、及び受精能獲得剤を精子サンプルの1以上の部分に添加し、受精能獲得を誘発することからなる群から選択される1以上の工程を含む。いくつかの実施形態では、処理は、回収した精子サンプルの一部に、受精能獲得バッファー又は非受精能獲得バッファーを添加することを含む(図1)。
【0075】
いくつかの実施形態では、希釈剤及び精漿は、遠心分離及び後続のペレット化された精子サンプルの培地による洗浄、例えば、mHTF(Irvine Scientific;レファレンス90126)による洗浄によって精子から分離される。いくつかの実施形態では、遠心分離速度は、約50g~約20,000gの範囲である。いくつかの実施形態では、遠心分離速度は、約100g~約2000gの範囲である。いくつかの実施形態では、遠心分離速度は、約300g~約600gの範囲である。
【0076】
いくつかの実施形態では、封止された試料容器(Fisher Scientific、14-375-462)中の自宅で回収した射精液を、空気インキュベーター内で37℃で液状とする。希釈剤及び/又は精漿を除去するために、サンプル1mLをEnhance S-Plus Cell Isolation Media(Vitrolife、レファレンス:15232 ESP-100-90%)1mLに重層した。実施形態では、サンプルを300gで10分間遠心分離し、細胞ペレットを回収し、Modified Human Tubal Fluid培地(mHTF)(Irvine Scientific;レファレンス90126)約4mLに再懸濁し、600gで10分間ペレット化する。
【0077】
いくつかの実施形態では、精液希釈剤は、Enhance S-Plus Cell Isolasion Media(Vitrolife;Goteborg、スウェーデン;カタログ番号15232 ESP-100-90%)による精子の遠心分離によって分離され、精子は、培地、例えば、改変Human Tubal Fluid培地(mHTF;Irvine Scientific、サンタアナ、CA;カタログ番号90126)で洗浄される。精子サンプルチューブを600gで10分間遠心分離する。いくつかの実施形態では、精子細胞を、精子受精能獲得剤(例えば、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Sigma;セントルイス、MO;カタログ番号C0926))を含有する、mHTFなどの培地(Cap)及び任意に、精子受精能獲得剤を含有しない、mHTFなどの培地(NonCap)に再懸濁させる(図1)。
【0078】
いくつかの実施形態では、精子細胞を、Ehance S-Plus Cell Isolasy Media(Vitrolife、Englewood、CO、レファレンス:15232 ESP-100-90%)で300gにて10分間遠心分離することによって精液希釈剤から分離した。一実施形態では、精子細胞を回収し、約4mLのヒト卵管液(HTF)(Irvine Scientific、サンタアナ、CA、レファレンス90125)又は改変ヒト卵管液(mHTF)(Irvine Scientific、レファレンス90126)で再懸濁し、600gで10分間再度遠心分離する。得られた精子細胞ペレットを、HTF又はmHTFに再懸濁し、受精能獲得剤と共に(Cap)及び任意に、受精能獲得剤なしで(Non-Cap)インキュベートした2つの別々のアリコートに分ける。精子濃度を、1本のチューブ当たり1,000万個の精子細胞/mlに調整し、37℃で3時間インキュベートする。いくつかの実施形態では、精子細胞を、重炭酸塩バッファーを含有するHTF中で、5%CO2を有するインキュベーター内で37℃でインキュベートする。いくつかの実施形態では、精子細胞は、HEPESバッファーを含有するmHTF中で、空気インキュベーター内にて37℃でインキュベートする。
【0079】
いくつかの実施形態では、受精能獲得剤と共に又は任意に受精能獲得剤なしでインキュベーションした後、精子サンプルは、Cap-ScoreTMを決定する前に、少なくとも18時間固定され、包装され、及び輸送また保存される。本発明の別の実施形態では、受精能獲得剤とのインキュベーションは、少なくとも18時間の輸送及び/又は保存後に行われる。
【0080】
いくつかの実施形態では、単離された精子細胞は、その上部に層を形成し、密度勾配によって遠心分離すること;その上部に層を形成し、密度勾配によって遠心分離した後、精子に富む画分を回収し、続いて再懸濁及び洗浄すること;その上部に層を形成し、密度勾配によって遠心分離した後、精子に富む画分を回収し、その上部に、運動性の精子がスイムアップする密度のより低い培地を重ねること;密度のより低い培地をサンプルの上に重ね、運動性の精子がその中にスイムアップすることを可能にすることからなる群から選択される1以上の選択プロセスに付される。
【0081】
いくつかの実施形態では、精子細胞を数え、所定の数の精子を容器(例えば、チューブ)に入れ、非受精能獲得培地又は受精能獲得剤含有培地で希釈して、精子の所望の最終濃度を達成する。いくつかの実施形態では、精子の所望の最終濃度は、1000万個/mLである(最終濃度範囲は、250×10個の精子/mL~250×10個の精子/mLの範囲でで変化し得る)。
【0082】
いくつかの実施形態では、本発明において有用な培地(例えば、精子を再懸濁するための培地、精子サンプルを洗浄するための培地、及び/又は非受精能獲得及び受精能獲得条件下で精子をインキュベートするための培地)は、生理学的バッファー溶液である。いくつかの実施形態では、培地は、ヒト卵管液(HTF);改変されたヒト卵管液(mHTF);Whittenの培地;改変されたWhittenの培地;KSOM;リン酸緩衝生理食塩水;HEPES-緩衝生理食塩水;トリス緩衝生理食塩水;HamのF-10;Tyrodeの培地;改変されたTyrodeの培地;TES-トリス(TEST)-卵黄バッファー;又はBiggers、Whitten、及びWhittingham(BWW)培地からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、培地は、1以上の記載された又は混合されたタンパク質源を含む。いくつかの実施形態では、タンパク質源は、胎児臍帯血清限外濾過液、プラズマネート、卵黄、スキムミルク、アルブミン、リポタンパク質、及び脂肪酸結合タンパク質からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、培地へのタンパク質の添加は、生存率を向上させる及び/又は受精能獲得の誘発を助長する。
【0083】
いくつかの実施形態では、精子サンプルは、Cap-ScoreTM分析を行うために少なくとも1つの受精能獲得剤に接触される。いくつかの実施形態では、受精能獲得のための刺激は、重炭酸塩(典型的には、5~50mMの範囲で20~25mM)、カルシウム(典型的には、0.1~10mMの範囲で1~2mM)、及び/又はシクロデキストリン(典型的には、0.1~20mMの範囲で1~3mM)のうちの1以上である。いくつかの実施形態では、シクロデキストリンは、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0084】
いくつかの実施形態では、受精能獲得剤又は刺激は、重炭酸イオン、カルシウムイオン、ステロール流出のメディエーター、及びそれらの組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ステロール流出のメディエーターは、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン、メチル-β-シクロデキストリン、血清アルブミン、高密度リポタンパク質、リン脂質小胞、胎児臍帯血清限外濾過液、脂肪酸結合タンパク質、リポソーム、及びそれらの組合せからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、対照サンプルの受精能獲得又は任意に非受精能獲得条件への曝露を、試験サンプルと並行して行うことができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、受精能獲得剤又は刺激とのインキュベーション温度は、約30℃~約40℃、約30℃~約39℃、約30℃~約38℃、約30℃~約37℃、約30℃~約36℃、約30℃~約35℃、約30℃~約34℃、約30℃~約33℃、約30℃~約32℃、又は約30℃~約31℃である。いくつかの実施形態では、インキュベーション温度は、約30℃、約31℃、約32℃、約33℃、約34℃、約35℃、約36℃、約37℃、約38℃、約39℃、又は約40℃である。いくつかの実施形態では、受精能獲得剤とのインキュベーション時間は、約30分間~約18時間である。いくつかの実施形態では、インキュベーション時間は、約1時間~約4時間である。いくつかの実施形態では、インキュベーション時間は、約30分間、即ち、0.5時間である。いくつかの実施形態では、インキュベーション時間は、約1時間である。いくつかの実施形態では、インキュベーション時間は、約2時間である。いくつかの実施形態では、インキュベーション時間は、約3時間である。いくつかの実施形態では、ベースラインサンプル又は測定値は、インキュベーション期間の開始時に取得される。
【0086】
いくつかの実施形態では、精子細胞は、受精能獲得剤の有無にかかわらず、インキュベーション後のGM1パターンの可視化のために固定される。固定は、一部のGM1パターンを評価するためには必要がないが、固定により精子細胞が保存されるので、精子細胞を可視化する機会が拡がり、精子細胞が動かないようにすることができる。精子の組織学的研究のための様々な固定剤は、当業者の知識の範囲内である。いくつかの実施形態では、適切な固定剤としては、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ブアン固定剤、及びカコジル酸ナトリウム、塩化カルシウム、ピクリン酸、タンニン酸などを含む固定剤が挙げられる。いくつかの実施形態では、パラホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、又はそれらの組合せが使用される。
【0087】
いくつかの実施形態では、固定化剤の量は、約0.004%(重量/体積)パラホルムアルデヒド~約4%(重量/体積)パラホルムアルデヒド、約0.01%~約1%(重量/体積)パラホルムアルデヒド、約0.005%(重量/体積)パラホルムアルデヒド~約1%(重量/体積)パラホルムアルデヒド、約4%のパラホルムアルデヒド(重量/体積)、約0.1%グルタルアルデヒド(重量/体積)、及びリン酸緩衝生理食塩水中の約5mMのCaClからなる群から選択される。
【0088】
予備試験では、重炭酸塩(HCO )又はHEPES緩衝培地のいずれを使用した場合でも、Cap-ScoreTMアッセイにおける生存率又は精子回収率に違いは見られなかった。受精能獲得刺激は、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Sigma、セントルイス、MO、カタログ番号C0926)からなった。パイロット試験では、この刺激は、Cap-ScoreTMで測定されるヒトの精子の受精能獲得促進に関し、3時間のインキュベーションで、アルブミンの6時間と同程度有効であることが示された。インキュベーション後、サンプルをパラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Services、カタログ番号15712)で固定した。いくつかの実施形態では、Cap-ScoreTMアッセイは、本発明に記載されるように精子サンプルに対して行われる。Cap-ScoreTMアッセイは、Androvia LifeSciencesによって開発された独自のアッセイであり、米国特許出願第15/512,357号明細書、同第15/387,965号明細書、同第15/435,875号明細書に記載されている。Cap-ScoreTMアッセイは、GM1ガングリオシドに特異的な親和性を有する親和性結合分子を使用して、生きている精子細胞又は固定された精子細胞のGM1分布パターンの違いを測定する。いくつかの実施形態では、親和性分子は、検出可能な標識(例えば、フルオロフォア)に直接連結される。いくつかの実施形態では、親和性分子は、検出可能な標識を有する第2の親和性分子によって検出される。いくつかの実施形態では、標識された(例えば、蛍光標識された)コレラ毒素bサブユニットを用いて、GM1分布パターンを得る。いくつかの実施形態では、使用されるコレラ毒素bサブユニットフルオロフォア標識の量は、約0.01~約10.0μg/mlである。いくつかの実施形態では、使用されるコレラ毒素bサブユニットフルオロフォア標識の量は、約0.01、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.4、2.6、2.7、2.7、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、又は10.0μg/mLである。いくつかの実施形態では、前記量は、約2μg/mLである。いくつかの実施形態では、コレラ毒素bサブユニットに対する標識化抗体を使用して、GM1分布パターンを可視化する。いくつかの実施形態では、GM1に直接結合する一次抗体又はコレラ毒素のbサブユニットに結合する一次抗体のいずれかに結合する標識化二次抗体が使用される。いくつかの実施形態では、本発明において有用な他の検出可能な標識は、放射性核種、酵素、蛍光剤、又は発色団から選択される。いくつかの実施形態では、本発明に係る精子サンプル中のGM1分布の標識(又は染色)及び可視化は、当技術分野において知られた標準的な技法によって行われ、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の使用、GM1分子の関連するエピトープのペプチド模倣物の生成、又は低分子との結合の模倣が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
米国特許出願第15/512,357号明細書、同第15/387,965号明細書、同第15/435,875号明細書に十分に述べられているように、Cap-ScoreTMは、受精能獲得精子サンプルと受精能非獲得精子サンプルのGM1分布パターンを比較し、受精能獲得の刺激に応答する精子の割合を反映するそれらのパターンの違いに基づいてCap-ScoreTMを割り当てることによって決定される。ヒトの精子については、いくつかの異なるGM1パターンが報告された。これらのパターンは、INTER(中間体)、APM(先体原形質膜)、AA(アピカル先体)、PAPM(ポスト先体原形質膜)、AA/PA(アピカル先体/ポスト先体)、ES(エクアトリアルセグメント)、DIFF(ディフューズ)、及びLined Cellとして示される。受精能閾値は、AA及び/又はAPMのレベルの値であり、これらの値で、AA及び/又はAPMのレベルを上昇させるための母集団の受精能の上昇が実質的に止まる。個体は、個体のAA及び/又はAPMレベルに基づいて、「不妊」、「準不妊」、又は「非不妊」として表示することができる(米国特許出願第15/512,357号明細書の実施例1を参照)。実施形態では、受精能を獲得したことの指標となるパターン(例えば、AA+APM)を有する細胞の割合を評価した。
【0090】
本発明はまた、男性個体の受精能状態を特定するためのCap-ScoreTMアッセイでの使用を含む、本明細書に記載の方法で使用するための回収キットを提供する。いくつかの実施形態では、回収キットは、以下の1以上を含む:1以上の無菌精子保存容器、トランスファーピペット、精液希釈剤溶液、前記保存容器を保存するための絶縁ポーチ、温度を約4℃~約25℃に制御するためのコールドパック、サンプル/絶縁ポーチ及びコールドパックを保存する断熱容器、及び使用説明書。いくつかの実施形態では、キットは、精子サンプルと混合するためのバッファー溶液を更に含む。いくつかの実施形態では、前記バッファーは、MES、MOPS、PIPES、酢酸塩、ホウ酸塩、クエン酸塩、グリシン、重炭酸塩、TRIS、リン酸ナトリウム、HEPES、クエン酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0091】
いくつかの実施形態では、キットは、使用説明書と、輸送、保管、及び識別の目的に有用なラベル及び容器/バッグ/ポーチとを含む。いくつかの実施形態では、キットは、フォイルポーチと、精子サンプルを郵送するための吸収性材料を含有するバイオハザードバッグと、吸収剤を含有する再封止可能なバッグと、発泡チューブプレースホルダーとを含む。いくつかの実施形態では、容器は、ガラス、プラスチック、又は他の耐久性を有する材料であることができる。
【0092】
いくつかの実施形態では、キットは、以下の1以上を含む:受精能獲得培地、非受精能獲得培地、固定剤組成物、GM1染色パターンを決定するための試薬、比較チャート、所定の基準、比較のためのGM1パターンの表現、又は閾値。
【0093】
いくつかの実施形態では、キットは、細胞単離培地(例えば、Enhance S-Plus Cell Isolation Media、90%、Vitrolife、レファレンス:15232 ESP-100-90%)を更に含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、キットは、大型オリフィスピペットチップ(例えば、200μLの大型オリフィスチップ、USA scientific、カタログ番号1011-8400)又は大型オリフィストランスファーピペット(例えば、General Purpose Transfer Pipets、Standard Bulbレファレンス番号:202-20S、VWRカタログ番号14670-147)を更に含むことができる。
【0095】
いくつかの実施形態では、キットは、回収及び/又は保存チューブ、例えば、1.5mLチューブ(例えば、USA Scientific、カタログ番号14159700)及び/又は120mL検体回収カップ(Fisher Scientific、14375462)を更に含むことができる。いくつかの実施形態では、回収チューブの1以上が、受精能獲得を刺激するシクロデキストリンを含む。いくつかの実施形態では、シクロデキストリンなどの受精能獲得剤は、キット中に分けて入れられる。
【0096】
いくつかの実施形態では、キットは、精子サンプルから精漿又は精液希釈剤を除去する密度勾配材料及び/又は説明書を更に含む。
【実施例0097】
以下、本明細書に包含される実施形態を、以下の実施例を参照して説明する。これらの実施例は、例示目的としてのみ提供されており、本明細書に包含される開示は、これらの実施例に何ら限定されると解釈するべきではなく、本明細書に与えられる教示の結果として明らかになるあらゆる変形例を包含すると解釈するべきである。
【0098】
全実施例の材料及び方法
以下の実施例は、回収した精子サンプルが、長期間(例えば、2時間超)維持された回収キットの使用を示す。
【0099】
男性のドナーが精子サンプルを120mlの検体容器に採取し、15分間以上2時間以下液状とした後、大型オリフィストランスファーピペットを用いて15mLコニカルチューブに移した。精子サンプルを精液希釈溶液にて1:1で希釈し、コールドパックを含む絶縁ボックスに入れて、温度を約4~約25℃に維持した。低温でのサンプルの維持は、平均して少なくとも12時間であった。
【0100】
低温で一晩維持した後、精子細胞を精漿及び希釈剤から分離した。これは、15mLコニカルチューブ内のEnhance S-Plus Cell Isolation Media(1mL)の上に1mLの精液/希釈剤を層状に重ねることによって達成した。十分な数のコニカルチューブを用いて、精液/希釈剤の全量から精子を分離した。精液/希釈剤及び細胞単離培地を含むチューブを、300gで10分間遠心分離した。精漿と希釈剤を全チューブから除去し、下部の約1mL画分を新たな15mLチューブに移した後、4mLのmHTFに再懸濁した。再懸濁した精子を600gで10分間遠心分離した。上清を除去し、精子細胞のペレットを~0.25mLのmHTFに再懸濁した。次いで、洗浄した精子細胞の濃度と運動性を評価した。次いで、精子細胞を2つのチューブに分け、各チューブの最終体積が300μL、精子の最終濃度が10,000,000個/mLになるようにした。1番目のチューブには、300μLのmHTF(非受精能獲得条件)を含有させ、2番目のチューブには、300μLのmHTFと最終濃度3mMの2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(受精能獲得条件)を含有させた。精子細胞を、37℃で3時間インキュベートした。
【0101】
インキュベーション期間の終了後に、各チューブの内容物を穏やかに混合し、33μLの1%(重量/体積)パラホルムアルデヒドを添加して、0.1%の最終濃度を達成した。いくつかの実施形態では、0.1%(重量/体積)のパラホルムアルデヒドを添加して、0.01%の最終濃度を達成した。これらのチューブを穏やかに混合し、室温で一晩維持した。翌日、Alexa Fluor 488とコンジュゲートさせた0.5mg/mLのコレラ毒素bサブユニットを1μL添加した。2本のチューブの内容物を再度穏やかに混合し、室温で更に10分間静置した。各チューブから5μLを取り出し、スライドガラス上に置き、蛍光顕微鏡による評価を行った。
【0102】
輸送、処理、インキュベーション、及び一晩の固定の後、各サンプルを、2μg/mLのAlexa Fluor 488コンジュゲートコレラ毒素ベータサブユニット(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、MA、カタログ番号C34775)で標識した。10分間後、5μLの標識化された精子を顕微鏡スライド上に載せ、カバースリップ(22×22mm no.1)で覆い、イメージングステーションに移動させた。
【0103】
イメージングは、Nikon Eclipse NI-E顕微鏡で行った。この顕微鏡は、CFI60 Plan Apochromat Lambda 20× Objectives;C-FL AT GFP/ FITC Long-Pass Filter Sets;Hamamatsu ORCA-Flash 4.0 cameras;H101F-ProScan III Open Frame Upright Motorized H101F Flat Top Microscope Stages;及び64-bit imaging workstations running NIS Elements software (Nikon; Melville NY)を備えていた。
【0104】
受精能獲得を経験したサンプル中の精子の割合を決定し、Cap-Score(受精能獲得に関連するパターンを有する精子の数/(受精能獲得に関連するパターンを有する精子の数+他のパターンを有する精子の数))として報告した。読み取りはいずれも、信頼性のある方法(Moody, Cardona et al. 2017)にしたがって、且つClinical Laboratory Improvement Amendments(CLIA)-College of American Pathologists(CAP)-及びClinical Laboratory Evaluation Program(CLEP)が承認した品質管理と保証の最善のプラクティスに沿って行った。簡単に言えば、十分な精子がサンプル中に含有されている場合には、各条件について少なくとも150の合計パターンを決定した。利用可能な細胞が不十分な場合、Cap-ScoreTMを計算するには最低100パターンが必要である。それ以外の場合には、サンプルを排除した。
【0105】
実施例1.24時間の保存/輸送中の精子細胞の生存率に対する精液希釈剤及び温度の影響
通常の手順にしたがい、精液サンプルを回収し、分けた。半分を対照(Control)として用い、残りの半分を試験(Test)として用いた。Controlサンプルを処理し、2つの処理群を作成した。一方は、受精能獲得刺激あり(Control-CAP)、他方は、受精能獲得刺激なし(Control-NonCAP)である。サンプルをインキュベートし、固定し、一晩維持してから、Cap-Score(Control-CAP-24時間-固定及びControl-NonCAP-24時間-固定)について評価した。Testサンプルを、冷蔵培地(TYB希釈剤)にて1:1で希釈し、一方の実験では、コールドパックと共に一晩維持し(Test-CP)、他方の実験では、冷蔵庫に維持した(Test-Ref)。TYB希釈剤中で低温にて一晩維持した後、試験サンプルを処理し、受精能獲得刺激含有処理群(Test-「CP又はRef」-CAP)を作成した。サンプルをインキュベートし、固定し、再度一晩維持した後、Cap-Scoreを決定した(Test-「CP又はRef」-CAP-24時間-固定)(図1)。
【0106】
以下の表1のサンプル1~8の精液サンプルを、マスターベーションによって回収し、最大2時間液状とした(Moody,Cardona et al.2017)。液状化後、サンプルを分けた(図1)。半分は対照として用い、Cap-ScoreTM(Control)用に通常処理した。残りの半分は試験処理(Test)として用い、予熱した冷蔵培地(TYB希釈剤;Irvine Scientific;90129-20X5mL[176mMの2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸[TES]、80mMの2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール[Tris]、9mMのデキストロース、10μLのゲンタマイシン硫酸塩、20%v/vの熱不活化卵黄])にて1:1で希釈した。患者の自宅から、処理目的で実験室にサンプルを輸送する間に経験される時間と潜在的な環境をシミュレートするために、2種の異なる一晩維持プロトコルを試験サンプルについて評価した。まず、一部の試験サンプルを、4℃に冷却したコールドパックを備えた発泡スチロールボックス内に維持した(Test-CP;図2;n=5)。サンプルと希釈剤とを含有する15mLコニカルチューブを絶縁フォイルポーチに入れた(図2A)。コールドパックを4℃でポーチで包み、輪ゴムで固定した(図2B)。サンプル、ポーチ、及びコールドパックを発泡スチロールボックスに入れた(図2C)。次いで、サンプル、ポーチ、コールドパック、発泡スチロールボックスを段ボール箱に入れ、一晩維持した(図2D)。温度プローブをポーチに挿入して、5分間ごとに温度を読み取った(図2E)。代表的な温度プロファイルを図3に示す。次に、一部の試験サンプルを4℃で冷蔵庫内に維持した(Test-Ref;図4;n=3)。約20mLの水を50mLチューブに添加した(図4A)。希釈したサンプルを含む15mLコニカルチューブを水に入れた(図4B)。コニカルチューブを回収カップに入れ、4℃で維持された冷蔵庫に入れた(図4C)。温度プローブを水浴に挿入して、5分間ごとに温度を読み取った(図4D)。代表的な温度プロファイルを図5に示す。
【0107】
Controlの液状化後及び試験サンプルの一晩維持後に、Enhance S-Plus Cell Isolation Media(Vitrolife;Goteborg、スウェーデン;カタログ番号15232 ESP-100-90%)による遠心分離により、精子を精漿又はTYB希釈剤から除去し、改変Human Tubal Fluid培地(mHTF;Irvine Scientific、サンタアナ、CA;カタログ番号90126、97.8mMのNaCl、4.69mMのKCl、0.20mMのMgSO、0.37mMのKHPO、2.04mMのCaCl、4mMのNaHCO、21mMの4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸[HEPES]、2.78mMのC12、0.33mMのピルビン酸ナトリウム、21.4のmMの乳酸ナトリウム、10μg/mlのゲンタマイシン、5mg/Lのフェノールレッド)で洗浄した。受精能獲得を促進するために、精子を、2-ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(Sigma;セントルイス、MO;カタログ番号C0926)不含(NonCAP)又は含有(CAP)mHTFに再懸濁した(Moody,Cardona et al.2017)。3時間のインキュベーション後、サンプルを固定した。対照サンプルでは、NonCAP及びCAPのCap-Scoreを、固定から約24時間後に決定した(Control-CAP-24時間-固定及びControl-NonCAP-24時間-固定)。試験サンプルでは、Cap-Scoreは、室温で更に一晩維持した後に決定した(Test-CP-CAP-24時間-固定又はTest-Ref-CAP-24時間-固定)。精子をTYBに曝露すると受精能獲得が制限される可能性があるので(Ostermeier,Cardona et al.2018)、サンプルが最大の受精能獲得レベルに達するには、更に一晩固定する必要があると想定される。
【0108】
図6に示すように、精液サンプルを回収し、分けた。半分を対照(Control)として用い、半分を試験(Test)として用いた。対照サンプルを液状とし、次いで、受精能獲得刺激なし(Control-NonCAP)及び受精能獲得刺激あり(Control-CAP)のサンプルを作成した。インキュベーション後、対照サンプルを固定して一晩維持した後、Cap-Score(Control-NonCAP-24時間-固定及びControl-CAP-24時間-固定)について評価した。この一連の実験では、まず、試験サンプルを冷蔵培地中で希釈し、次いで、コールドパックと共に一晩維持した(Test-CP)。次いで、これらのサンプルを処理し、インキュベートし、一晩固定し、Cap-Scoreを決定した(Test-CP-CAP-24時間-固定)。射精液(n=5)を分けたので、事前に予定した比較(pre-planned comparisons)には対応のあるt検定を使用した。予想通り、Control-CAP-24時間-固定は、Control-NonCAP-24時間-固定よりも大きかった(p<0.001)。Control-CAP-24時間-固定とTest-CP-CAP-24時間-固定との間に差は見られなかった(p=0.865)。
【0109】
図7に示すように、精液サンプルを回収し、分けた。半分は対照(Control)として用い、半分は試験(Test)として用いた。対照サンプルを液状とし、次いで、受精能獲得刺激なし(Control-NonCAP)及び受精能獲得刺激あり(Control-CAP)のサンプルを作成した。インキュベーション後、対照サンプルを固定して一晩維持した後、Cap-Score(Control-NonCAP-24時間-固定及びControl-CAP-24時間-固定)について評価した。まず、試験サンプルを冷蔵培地中で希釈し、次いで、冷蔵庫内で一晩維持した(Test-Ref)。次いで、これらのサンプルを処理し、インキュベートし、一晩固定し、Cap-Scoreを決定した(Test-Ref-CAP-24時間-固定)。射精液(n=3)を分けたので、事前に予定した比較には対応のあるt検定を使用した。予想通り、Control-CAP-24時間-固定は、Control-NonCAP-24時間-固定よりも大きかった(p<0.021)。Control-CAP-24時間-固定とTest-Ref-CAP-24時間-固定との間に差は見られなかった(p=0.482)。
【0110】
キャップスコアは、コールドパック実験(図6)と冷蔵庫実験(図7)の両方におけるControl-NonCAP-24時間-固定と比較したとき、Control-CAP-24時間-固定サンプルの方が大きかった(p<0.05)。これは、標準的なアプローチを使用した両実験における良好な受精能獲得応答を示している。Control-CAP-24時間-固定とTest-CP-CAP-24時間-固定との間で同様のCap-Score値が観測され(図6)、このことは、射精液をTYB希釈剤中で一晩維持し、翌日に処理できることを示している。同様に、冷蔵庫の実験では、Control-CAP-24時間-固定のCap-Scoreは、Test-Ref-CAP-24時間-固定サンプルと違いがなかった(図7)。この観察結果は、射精液を冷蔵培地で一晩維持し、翌日に、Cap-Scoreのための処理ができることを更に示している。
【0111】
4℃に冷却されたコールドパック実験で生成された温度プロファイル(図3)と4℃の冷蔵庫実験で生成された温度プロファイル(図5)は、互いに異なるように見える。コールドパックを用いるセットアップでは、温度は、約0.75時間で約11℃に低下した後、約4.5時間で室温(約20℃)に戻った。したがって、サンプルは、室温で約19時間維持された。これとは異なり、冷蔵庫を用いるセットアップでは、温度は、約2.5時間で約4℃に低下し、翌日にサンプルが処理されるまでその温度が維持された。これらの結果は、TYB希釈剤中の精子を広い温度範囲で一晩維持した後に処理して、標準的な処理を用いて生成されたものに匹敵するCap-Scoreが得られることを示唆した。
【0112】
より緩やかな温度プロファイルを生成できるかどうか、サンプルが前記した極端な環境のいずれかに達するのを防ぐことができるかどうかを判断するために、模擬サンプルを-20℃に冷却したアイスパック入りのボックスに入れた(図8)。サンプルと希釈剤とを含有する15mLコニカルチューブを絶縁フォイルポーチに入れた(図8A)。フォイルポーチをサンプルに巻き付け、輪ゴムでポーチを固定した後、発泡スチロールボックスに入れた(図8B)。-20℃に平衡化されたアイスパックを、固定されたポーチとサンプルの上に置いた(図8C)。サンプル、ポーチ、アイスパック、及び発泡スチロールボックスを段ボール箱に入れ、一晩維持した(図8D)。温度プローブをポーチに挿入して、5分間ごとに温度を読み取った(図8E)。代表的なプロファイルを図9に示す。実際に、アイスパックのセットアップを使用した場合、サンプルは約1時間で約12℃に達し、約19.5時間が経過するまで室温に戻らなかった。
【0113】
まとめると、これらのデータは、自宅でのCap-ScoreTM回収キットの開発を支持している。このキットにより、患者は、自宅で射精液を簡便に採取でき、処理のために集約型実験室に一晩で送ることができる。
【0114】
Cap-ScoreTMアッセイを、保存中に様々な温度処理に付された希釈ヒト精子サンプルで行い、精子細胞の受精能獲得能力に対する希釈剤溶液及び温度制御の影響を決定した。Cap-ScoreTMアッセイの結果を表1にまとめる。
表1.精子受精能獲得スコアに対する希釈剤及び温度の影響
【表1】
1 Test-CP-CAP-24時間-固定 時間=24時間;精子サンプルをTYBで希釈し、4℃に冷却されたコールドパックで冷却された発泡スチロールボックス中に保存した。
2 Test-Ref-CAP-24時間-固定:時間=24時間;精子サンプルをTYBで希釈し、4℃で冷蔵庫内で保存した。
【0115】
コールドパックで一晩維持した希釈精液サンプル(Test-CP)に関し、対照サンプルを液状とした後に処理して、受精能獲得刺激不含サンプル(Control-NonCAP)及び受精能獲得刺激含有サンプル(Control-CAP)を作成した。インキュベーション後、対照サンプルを固定して一晩維持した後、Cap-Scoreについて評価した(Control-NonCAP-24時間-固定及びControl-CAP-24時間-固定)。この一連の実験では、まず、試験サンプルを冷蔵培地中で希釈し、次いで、コールドパックと共に一晩維持した(Test-CP)。次いで、これらのサンプルを処理し、インキュベートし、一晩固定し、Cap-Scoreを決定した(Test-CP-CAP-24時間-固定)。射精液(n=5)を分けたので、事前に予定した比較には対応のあるt検定を使用した。予想通り、Control-CAP-24時間-固定は、Control-NonCAP-24時間-固定よりも大きかった(p<0.001)。Control-CAP-24時間-固定とTest-CP-CAP-24時間-固定との間に差は見られなかった(p=0.865)(図6)。
【0116】
冷蔵庫で保存した精液サンプルに関し、対照サンプルを液状とした後に処理して、受精能獲得刺激不含サンプル(Control-NonCAP)及び受精能獲得刺激含有サンプル(Control-CAP)を作成した。インキュベーション後、対照サンプルを固定して一晩維持した後、Cap-ScoreTMについて評価した(Control-NonCAP-24時間-固定及びControl-CAP-24時間-固定)。まず、試験サンプルを冷蔵培地中で希釈し、次いで、冷蔵庫内で一晩維持した(Test-Ref)。次いで、これらのサンプルを処理し、インキュベートし、一晩固定し、Cap-ScoreTMを決定した(Test-Ref-CAP-24時間-固定)。射精液(n=3)を分けたので、事前に予定した比較には対応のあるt検定を使用した。予想通り、Control-CAP-24時間-固定は、Control-NonCAP-24時間-固定よりも大きかった(p<0.021)。Control-CAP-24時間-固定とTest-Ref-CP-CAP-24時間-固定との間に差は見られなかった(p=0.482)(図7)。
【0117】
表1の結果から、対照サンプルと、低温で一晩維持したサンプルとの間に有効な差がないことが示された。TYB希釈剤(Irvine Scientific、カタログ番号90129)に対する、冷却温度での長期間に亘る精子細胞の受精能獲得能力の耐性により、臨床Cap-ScoreTM試験ラボにて、開業医の監視下で精子サンプルを回収する必要性が低減した。換言すれば、8℃~25℃の温度での希釈剤に対する精子細胞の受精能獲得能力の耐性により、患者は自宅で精子サンプルを回収し、希釈した精子サンプルを一晩で臨床Cap-ScoreTM試験ラボに送ることができる。精子サンプルの在宅回収の利便性は、正確性及び効率を損なうことなく、Cap-Scoreアッセイの利用性を大幅に向上させる。
【0118】
実施例2.Cap-Score TM によって決定された、ヒトの精子の受精能獲得能力に対するTEST卵黄バッファー(TYB)と冷却の影響
この試験は、精子の受精能獲得の時間を延ばす能力に対するTEST(TES及びTris)卵黄バッファー及び冷却の影響を評価することである。
【0119】
以下の表2の精液サンプル1~3を回収し、液状として、前記実施例1に記載の手順にしたがって対照サンプルと試験サンプルに分けた(図1、Moody,Cardona et al.2017)。半分は対照として用い、Cap-ScoreTM(Control)用に通常処理し、残りの半分は試験サンプル(Test)として用いた。試験サンプルをTYB培地(Irvine Scientific;90129-20X5mL[176mMの2-[[1,3-ジヒドロキシ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-2-イル]アミノ]エタンスルホン酸[TES]、80mMの2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール[Tris]、9mMのデキストロース、10μLのゲンタマイシン硫酸塩、20%v/vの熱不活化卵黄])中で希釈した。希釈精液試験サンプルは、精液:TYBが1:1(n=5)、1:6(n=7)、又は8:5(n=5)の体積比で希釈した。TYB希釈試験精液サンプル1~3は、-20°Cに冷却されたコールドパックを備えた封止絶縁発泡スチロールボックスに、一晩(即ち、約18時間~約24時間)保存した。
【0120】
まず、一晩保存後、冷却サンプルを加温し室温に戻す。次に、サンプルを洗浄し、非受精能獲得(NC)条件又は受精能獲得(CAP)条件に3時間曝露した後、一晩固定しCap-Scoreを決定した。表2の試験サンプル1~3のCap-Scoreは、前記実施例1に記載のアッセイ手順にしたがって決定し、対応のあるt検定を使用して、試験サンプルを対照と比較した。
【0121】
いずれの実験においても、Cap-Scoreは、control-NCと比較したときに、control-CAPの方が大きかった(p<0.05)。いずれの希釈率においても、control-CAPとtest-CAPとの間に有意差は見られなかった(比率1:1:39.7±4%対40.0±2%;p=0.87;比率1:6:32.0±4%対34.0±3%;p=0.33;比率8:5:36.0±2%対34.2±1%;p=0.5)。Cap-ScoreTM試験の結果を以下の表2にまとめる。
表2.精子受精能獲得スコアに対するTYB及び冷却の影響
【表2】
【0122】
表2の結果によれば、いずれの実験においても、対照で良好な受精能獲得応答が観察された。このことは、CAP条件による適切な刺激を示唆している。精液:TYBの体積比は、一般的な射精量を模倣するように選択され、一定量の希釈剤を、精子の受精能獲得能力を維持する在宅精液回収キットに利用できる可能性がある。様々な異なる射精量に一定量のTYBの添加することは、ユーザー種(user input)を制限する。control-CAPとtest-CAPとの間の類似したCap-Score値は、比率によらず、翌日の機能への影響を最小限に抑えつつ、射精液を、様々な濃度のTYB中で一晩維持できることを示している。
【0123】
この試験から、TYBが精子の受精能を延ばし得ることが示された。TYBは、本明細書に記載されるように、在宅回収キットの効果的な精液希釈剤として使用することができる。
【0124】
全体として、分散分析(ANOVA)を使用して、全ての実験(1:1コールドパック、1:1冷蔵庫、1:6アイスパック、8:5アイスパック、1:1輸送用インキュベーター、及び1:1輸送用冷凍庫)間で、CAP-ScoreTMと濃度値を比較した。対照処理群又は試験処理群について、実験の全般的効果(overall effect)は観察されなかった。サンプルを、試験温度範囲に維持されることを確実にするために、2つの温度モニターを在宅回収キット内に設けて、-5℃に達するサンプル(Telatemp-Cold Snap CT -5℃;1:1輸送用冷凍庫データを参照)と、1時間超で20℃を超えるサンプル(Telatemp-Warm Mark 3TM+20℃;1:1コールドパックデータを参照)とを特定する。
【0125】
自宅でのサンプル回収により、リソースが限られたクリニックでサンプルを処理する負担を軽減することができる。また、クリニックでのサンプル調製又はクリニックに持ち込む際のプライバシーが主な障壁となっている男性の精密検査の実施を促進することもできる。それはまた、精子機能試験の地理的利用性を、クリニックから遠く離れて住んでいる人々に広げ、仕事から離れる時間及び労力に関連する経済的負担を減らすことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0126】
【非特許文献1】Babigumira et al., Journal of Assisted Reproduction and Genetics, 2018, 35(1): 99-106
【非特許文献2】Cardona et al., Molecular Reproduction and Development, 2017, 84(5): 423-435; Schinfeld et al., Molecular Reproduction and Development 2018, 85(8-9): 654-664
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9