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特開2024-16145口腔用ハイドロキシアパタイト、口腔用組成物及び口腔用ハイドロキシアパタイトの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016145
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】口腔用ハイドロキシアパタイト、口腔用組成物及び口腔用ハイドロキシアパタイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20240130BHJP
   A61K 8/24 20060101ALI20240130BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240130BHJP
   A61K 6/75 20200101ALI20240130BHJP
【FI】
C01B25/32 P
A61K8/24
A61Q11/00
A61K6/75
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023187756
(22)【出願日】2023-11-01
(62)【分割の表示】P 2019011635の分割
【原出願日】2019-01-25
(71)【出願人】
【識別番号】517450703
【氏名又は名称】株式会社バイオアパタイト
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100169236
【弁理士】
【氏名又は名称】藤村 貴史
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘一
(72)【発明者】
【氏名】酒井 有紀
(72)【発明者】
【氏名】川本 忠
(57)【要約】
【課題】優れた歯磨きなどの口腔用組成物を提供する。
【解決手段】線源としてCuKα線を用いたX線回折において、2θ=31.5~32.5°におけるピークから算出した結晶子サイズが10~200Åであるハイドロキシアパタイトを含有する口腔用組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線源としてCuKα線を用いたX線回折において、2θ=31.5~32.5°におけるピークから算出した結晶子サイズが10~200Åである口腔用ハイドロキシアパタイト。
【請求項2】
線源としてCuKα線を用いたX線回折において、2θ=31.5~32.5°におけるピークから算出した結晶子サイズが10~200Åであるハイドロキシアパタイトを含有する口腔用組成物。
【請求項3】
前記ハイドロキシアパタイトを1~99質量%含有する請求項2記載の口腔用組成物。
【請求項4】
前記ハイドロキシアパタイトの平均粒径が、1~30μmである請求項2または3記載の口腔用組成物。
【請求項5】
前記ハイドロキシアパタイトが生物由来である請求項2~4のいずれか一項記載の口腔用組成物。
【請求項6】
前記ハイドロキシアパタイトが卵殻由来である請求項2~5のいずれか一項記載の口腔用組成物。
【請求項7】
ペースト状である請求項2~6のいずれか一項記載の口腔用組成物。
【請求項8】
カルシウム塩とリン酸とを90℃以下で反応させる工程を有することを特徴とする口腔用ハイドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項9】
カルシウム塩とリン酸とを90℃以下で反応させる工程の後に、反応液を80℃以上で乾燥させる工程を有する請求項8記載の口腔用ハイドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項10】
前記カルシウム塩が生物由来である請求項8または9記載の口腔用ハイドロキシアパタイトの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の結晶構造を有するハイドロキシアパタイト、ハイドロキシアパタイトを含有する口腔用組成物、及び、口腔用ハイドロキシアパタイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの歯は、食物中に含まれる糖など由来の酸の作用によって、カルシウムイオンやリン酸イオンが溶け出し浸食されるいわゆる脱灰によって損壊していき、やがて穴があいてしまい、いわゆる虫歯となる。
この脱灰に抗する働きとして、唾液には、カルシウムイオンやリン酸イオンを歯に供給して修復する再石灰化という作用がある。
【0003】
また、ハイドロキシアパタイトなどのカルシウムを含むミネラルやフッ素も再石化作用を促進するとして、歯磨き粉などに採用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、健康寿命の長期化という課題が社会に浸透する中、8020運動に代表されるように高齢になっても自前の歯を維持していくことが目標とされており、その目標を達成するための道具として、優れた歯磨きなどの口腔用組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定の結晶構造を有するハイドロキシアパタイトを含有する口腔用組成物が、優れた歯の再石灰化作用を奏することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、以下の[1]~[12]のとおりである。
[1]線源としてCuKα線を用いたX線回折において、2θ=31.5~32.5°におけるピークから算出した結晶子サイズが10~200Åである口腔用ハイドロキシアパタイト。
[2]線源としてCuKα線を用いたX線回折において、2θ=31.5~32.5°におけるピークから算出した結晶子サイズが10~200Åであるハイドロキシアパタイトを含有する口腔用組成物。
[3]前記ハイドロキシアパタイトを1~99質量%含有する[2]の口腔用組成物。
[4]前記ハイドロキシアパタイトの平均粒径が、1~30μmである[2]または[3]の口腔用組成物。
[5]前記ハイドロキシアパタイトが生物由来である[2]~[4]のいずれかの口腔用組成物。
[6]前記ハイドロキシアパタイトが卵殻由来である[2]~[5]のいずれかの口腔用組成物。
[7]ペースト状である[2]~[6]のいずれかの口腔用組成物。
[8]カルシウム塩とリン酸とを90℃以下で反応させる工程を有することを特徴とする口腔用ハイドロキシアパタイトの製造方法。
[9]カルシウム塩とリン酸とを90℃以下で反応させる工程の後に、反応液を80℃以上で乾燥させる工程を有する[8]の口腔用ハイドロキシアパタイトの製造方法。
[10]前記カルシウム塩が生物由来である[8]または[9]の口腔用ハイドロキシアパタイトの製造方法。
[11]前記カルシウム塩が卵殻由来である[8]~[10]のいずれかのハイドロキシアパタイトの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の口腔用組成物は、優れた歯の再石灰化作用を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1のハイドロキシアパタイトのX線回折の結果を表したグラフ図である。
図2】結晶型ハイドロキシアパタイトのX線回折の結果を表したグラフ図である。
図3】非結晶型ハイドロキシアパタイトのX線回折の結果を表したグラフ図である。
図4】実施例1の歯の表面の光学顕微鏡写真である。
図5】実施例1の歯の表面のSEM写真である。
図6】実施例1の歯の表面のSEM写真である。
図7】実施例1の歯の表面のSEM写真である。
図8】実施例1の歯の表面のSEM写真である。
図9】実施例1の歯の表面のSEM写真である。
図10】実施例1の歯の表面のSEM写真である。
図11】実施例1の歯の表面のSEM写真である。
図12】比較例1の歯の表面のSEM写真である。
図13】比較例1の歯の表面のSEM写真である。
図14】比較例1の歯の表面のSEM写真である。
図15】比較例1の歯の表面のSEM写真である。
図16】比較例1の歯の表面のSEM写真である。
図17】比較例1の歯の表面のSEM写真である。
図18】比較例1の歯の表面のSEM写真である。
図19】比較例1の歯の表面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ハイドロキシアパタイト]
本発明で用いられるハイドロキシアパタイトは、X線構造解析において、2θが31.500~32.500°に現れるピークの結晶子サイズが10~200Å、好ましくは30~150Å、より好ましくは50~120Åのハイドロキシアパタイトである(以下、説明のために「特定ハイドロキシアパタイト」とも称する。)。結晶子サイズとは、結晶粒の大きさを表し、結晶性を表す目安となる数値である。結晶子サイズの数値が大きいほど、測定対象である物質の結晶性が高いことを意味する。結晶子サイズが前記範囲にあるハイドロキシアパタイトは、結晶化していない(非結晶型)ハイドロキシアパタイトのみ又は非結晶型ハイドロキシアパタイトと結晶化の程度が低い(低結晶型)ハイドロキシアパタイトとが混合されたものを意味する。ここで、本発明における「非結晶型ハイドロキシアパタイト」とは、X線解析によって、図3のようなチャートが得られる物質を意味する。また、本発明における「低結晶型ハイドロキシアパタイト」とは、X線解析によって得られるチャートが、結晶型ハイドロキシアパタイトのX線解析によって得られるチャート(例えば、図2のチャート参照)と比較してピークの分離の程度が比較的低い物質である。
結晶子サイズは、例えば、株式会社リガク社製のX線解析装置 型番:RINT2200V/PCにより測定できる。
【0010】
本発明の口腔用組成物中の特定ハイドロキシアパタイトは、平均粒子径が1~30μmであることが好ましく、より好ましくは1~20μm、さらに好ましくは1~10μmで
ある。平均粒子径は、レーザー光散乱回折法で測定することができる。
【0011】
本発明の口腔用組成物に含まれる特定ハイドロキシアパタイトの量は、好ましくは、口腔用組成物1リットル当たり、1~99質量%であり、20~99質量%であることがさらに好ましく、20~90質量%であることがさらに好ましい。口腔用組成物に含まれる特定ハイドロキシアパタイトの量を前記範囲とすることにより、優れた歯の再石灰化効果を発揮することができる。なお、本発明の口腔用組成物には、特定ハイドロキシアパタイト以外のハイドロキシアパタイト等を含んでいてもよく、他の通常用いられる研磨剤を含んでいてもよい。
【0012】
本発明の口腔用組成物に含まれる特定ハイドロキシアパタイトは、生物由来、好ましくは、化石サンゴ、貝殻または卵殻由来のハイドロキシアパタイトであることが好ましい。生物由来のハイドロキシアパタイトとは、貝殻や卵殻などの生物材料から得られるカルシウム分を原料にして得られたハイドロキシアパタイトのことをいう。
【0013】
[特定ハイドロキシアパタイトの製造方法の例]
本発明の口腔用組成物に含まれる特定ハイドロキシアパタイトの製造方法の例を説明する。
この製造方法は、酸化カルシウム懸濁液または水酸化カルシウム懸濁液(被添加液)にリン酸溶液(添加液)を添加し又はリン酸溶液(被添加液)に酸化カルシウム懸濁液(添加液)を添加して、前記ハイドロキシアパタイト分散液を得るというものである。
添加液を被添加液に添加する際には、通常のいかなる添加方法も使用可能である。具体的な方法は、例えば、容器に被添加液を入れて、前記容器に滴下ロート等の器具を用いて添加液を滴下する方法が挙げられる。なお、酸化カルシウム懸濁液を添加液として使用する場合には、滴下ロート等に入れた酸化カルシウム懸濁液(または水酸化カルシウム懸濁液)を攪拌しながら滴下することが好ましい。
添加液の添加速度は、例えば、被添加液中に含まれる酸化カルシウム(水酸化カルシウム)又はリン酸1モルに対して、添加液中に含まれる酸化カルシウム(水酸化カルシウム)又はリン酸換算で0.01~8.0モル/hであることが好ましく、0.05~5.0モル/hであることがより好ましく、0.1~2.0モル/hであることがさらに好ましい。添加速度を前記数値範囲とすることで、ハイドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム化合物の生成を抑制できる。
【0014】
特定ハイドロキシアパタイトの製造方法において、添加液を被添加液に添加する際にはpH調整のための水酸化ナトリウム等のアルカリ剤添加をしなくともよい。
酸化カルシウム懸濁液中の酸化カルシウムの総量と、リン酸溶液中のリン酸の総量の比率は、例えば、モル比でカルシウムイオン:リン酸イオンが10:6~9:6となるようにすることが好ましい。勿論、反応条件等によって、前記比率を変更することも可能である。前記モル比率の調整は、添加液及び被添加液の濃度及び量を調整することにより調整できる。
【0015】
酸化カルシウムなどのカルシウム塩にリン酸を添加する際、或いは、リン酸に対してカルシウム塩を添加する際の温度条件は、90℃以下とする。この場合、添加液及び被添加液の双方を90℃以下にしておくことが好ましい。さらに好ましくは、添加液及び被添加液の温度を5~90℃の範囲とすることが好ましく、20~80℃の範囲とすることがより好ましく、40~70℃の範囲とすることがさらに好ましい。添加液及び被添加液の温度を前記範囲とすることにより、ハイドロキシアパタイトの結晶化を抑制し、かつハイドロキシアパタイトを得るための反応をスムーズに進行させるという効果が得られる。
被添加液を攪拌しながら添加液を添加することも可能である。
【0016】
上記温度条件のもとで被添加液に添加液を添加することにより、X線構造解析において、2θが31.500~32.500°に現れるピークの結晶子サイズが10~200Å、好ましくは30~150Å、より好ましくは50~120Åであるハイドロキシアパタイトの微細な粒子が分散された分散液(反応液)が得られる。この分散液をそのまま口腔用組成物に配合しても良いし、水等の溶媒を用いて希釈し又は溶媒を蒸発させて濃縮することにより、濃度を調整してから口腔用組成物に配合してもよいが、分散液(反応液)を80℃以上に加熱して、乾燥させることが好ましい。乾燥温度は80~500℃がより好ましく、120~400℃がさらに好ましい。乾燥させることにより、特定ハイドロキシアパタイト粉末が得られ、溶媒の量を気にせずに、特定ハイドロキシアパタイトを口腔用組成物に配合することができる。
【0017】
[酸化カルシウム懸濁液または水酸化カルシウム懸濁液]
本発明において、前記特定ハイドロキシアパタイトを得る際の出発物質として、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムを用いる。本発明においては、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムを溶媒に添加して得られる懸濁液の状態で使用することが好ましい。上記特定ハイドロキシアパタイトの製造方法では、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウムを溶解させるため及び/又はpH調整のために酸性又はアルカリ性物質を添加する必要が無く、工程を大幅に省略できる。
酸化カルシウム懸濁液を調製する際に使用する酸化カルシウムは、市販されている酸化カルシウムを用いることが出来る。水酸化カルシウム懸濁液についても同様に、市販の水酸化カルシウムを用いることができる。酸化カルシウム(水酸化カルシウム)懸濁液は、酸化カルシウムを溶媒に添加して得られる。酸化カルシウム(水酸化カルシウム)の添加量は、例えば、溶媒1リットルに対して0.2~9.0モル添加することが好ましく、1.0~5.0モル添加することがより好ましく、1.5~4.0モル添加することがさらに好ましい。添加量を前記範囲とすることにより、基材のより良好な生産効率を達成できる。溶媒は、メタノール又はエタノール等のアルコール溶媒及び水から選択される溶媒を使用できる。生産効率及び作業上の安全性の観点から、溶媒として水を使用することが好ましい。
【0018】
また、生物の外殻、鱗及び/又は骨、特に貝殻や卵殻を焼成して得られた粉末を前記溶媒に添加することにより、酸化カルシウム懸濁液を調製することが好ましい。このように調製された酸化カルシウム懸濁液は、生物由来の原料を使用することにより、人体に悪影響を及ぼす不純物が含まれていないため、より好ましい。生物の外殻として、化石サンゴや、ホタテやアコヤガイ等の貝殻が例示できる。生物の鱗として、魚類又はは虫類の鱗が例示できる。生物の骨として、ほ乳類、魚類、は虫類又は両生類の骨が例示できる。卵殻として、鶏の卵殻を例示できる。入手及び加工が容易であることから、生物の外殻、例えばホタテ又はアコヤガイの貝殻または卵殻を使用することがより好ましい。
前記粉末は、貝殻や卵殻を、例えば、800~1050℃の温度で、1~96時間、好ましくは5~72時間焼成することにより調製できる。焼成前に貝殻や卵殻を粉末化しても良いし、焼成後に粉末化しても良い。
前記粉末を水に添加して酸化カルシウム懸濁液を調製する場合には、前記粉末の添加量を、前記溶媒1リットルに対して、酸化カルシウム換算で0.2~9.0モル添加することが好ましく、1.0~5.0モル添加することがより好ましく、1.5~4.0モル添加することがさらに好ましい。前記粉末に含まれる酸化カルシウムの量は、塩酸滴定等通常の方法により確認できる。
【0019】
[リン酸溶液]
本発明で使用するリン酸溶液は、市販のリン酸をエタノール又はメタノール等のアルコール溶媒及び水から選択される溶媒に溶解させて調製できる。生産効率及び作業上の安全性の観点から、溶媒として水を使用することが好ましい。リン酸溶液の濃度は、基材のよ
り良好な生産効率を達成する観点から、例えば、0.5~10.0Mにすることが好ましく、1.0~7.0Mにすることがより好ましく、2.0~5.0Mにすることがさらに好ましい。
【0020】
[その他の成分]
本発明の口腔用組成物は、特定ハイドロキシアパタイト以外に、歯磨き粉などの口腔用組成物に一般的に用いられる成分を含んでいてもよい。
そのような成分として、研磨剤;、界面活性剤;、粘結剤;、粘稠剤;、甘味料;、防腐剤;、ハッカ、メントールなどの香料;、溶剤;、トリクロサン、塩化セチルピリジニウム、グリチルリチン酸2カリウムなどの殺菌剤;、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウムなどのフッ素化合物;、β-グリチルレチン酸などの抗炎症剤;、無水ピロリン酸ナトリウムなどの清掃助剤;、酸化チタンなどの安定剤などが挙げられる。
【0021】
研磨剤としては、例えば、ポリリン酸ナトリウム、沈降性シリカ、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤、リン酸カルシウム系研磨剤、炭酸カルシウム等が挙げられる。研磨剤を配合する場合の好適な配合量は、口腔用組成物中、1~50質量%である。
【0022】
界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0023】
粘結剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースガム等のセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸又はその誘導体、キサンタンガム等のガム類、カラギーナン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウムなどの有機粘結剤、ゲル化性シリカ、ゲル化性アルミニウムシリカ、ビーガム、ラポナイト等の無機粘結剤が挙げられる。粘結剤を配合する場合の好適な配合量は、口腔用組成物中、0.1~10質量%である。
【0024】
粘稠剤としては、例えば、ソルビット、キシリット等の糖アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、平均分子量160~4000のポリエチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。粘稠剤を配合する場合の好適な配合量は、口腔用組成物中、3~50質量%である。
【0025】
甘味剤としては、例えば、キシリトール、サッカリンナトリウム、ソルビトール、スクラロース等が挙げられる。
【0026】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル等のパラオキシ安息香酸エステル、安息香酸ナトリウム等の安息香酸又はその塩などが挙げられる。
【0027】
溶剤としては、エタノールなどのアルコール、水などが挙げられる。
【0028】
本発明の口腔用組成物は、液体状の洗口液、ペースト状の歯磨き粉のいずれであってもよいが、ペースト状であることが好ましい。また、本発明の特定ハイドロキシアパタイトはその粉末を粉歯磨きとして用いることができる。
【実施例0029】
以下、実施例により本開示の内容をさらに詳しく説明する。実施例により、本開示の範囲が限定されないことは言うまでもない。
【0030】
[実施例1]
卵殻由来のハイドロキシアパタイトの製造
<1.酸化カルシウム溶液の調製>
ニワトリの卵殻を1000℃で12時間焼成した。得られた焼成後の粉末620gを水5リットルに添加して酸化カルシウム懸濁液を調製した。塩酸滴定により、酸化カルシウム懸濁液が、水1リットル当たり2モルの酸化カルシウムを含むことを確認した。
【0031】
<2.リン酸溶液の調製>
次に、リン酸(和光純薬製 CAS7664-38-2)1リットル(14.5モル)を水3リットルで希釈し、3.625Mのリン酸溶液を調製した。
【0032】
<3.ハイドロキシアパタイトの調製>
上記酸化カルシウム懸濁液及びリン酸溶液の温度を、25℃に調整した。200mlの酸化カルシウム懸濁液及びマグネチックスターラーの攪拌子を、1000mlの三角フラスコに入れ、当該フラスコをラボミキサー(ヤマト科学株式会社 ラボスターラー LT400C)を用いて攪拌した。66.2mlのリン酸溶液を滴下ロートに入れ、当該滴下ロートを固定台に固定し、滴下口を前記三角フラスコの口に差し込んだ。ラボミキサーにより攪拌しながら、滴下ロートから1.6ml/s(酸化カルシウム懸濁液中の酸化カルシウム1モルに対して、リン酸換算で0.9モル/h)の速度で、リン酸溶液を滴下した。滴下終了後、得られた溶液をX線解析装置で測定し、ハイドロキシアパタイトの存在を確認した。また、得られたハイドロキシアパタイト分散液に含まれるハイドロキシアパタイトの量は、前記分散液1リットル当たり0.15モルであった。
得られたハイドロキシアパタイト分散液を、130℃に設定したインキュベーターに入れて、加熱により溶媒を蒸発させて、ハイドロキシアパタイト粉末を得た。ハイドロキシアパタイトの31.500~32.500°(実測値:32.018°)(2θ)のピークの結晶子サイズは78.1Åであった。X線回折の結果を図1に示す。
【0033】
卵殻由来のハイドロキシアパタイトによる歯の再石灰化試験
年齢が20代の女性から抜歯された前歯を、毎日一度、上記で得られたハイドロキシアパタイト0.5gを1mlの水で溶いたハイドロキシアパタイト液を用いて歯ブラシで磨いた。
歯ブラシで磨いた後は、上記前歯を水洗いし、その後、疑似体液(SBF、Lonza社製Hank’s balanced salt solution)に浸漬し、36℃に保温しながら、24時間振盪した。
この疑似体液への浸漬と、24時間ごとに一度のハイドロキシアパタイト液を用いた歯磨きのサイクルを30日間繰り返した。
上記サイクルを開始する前の前歯の状態(ハイドロキシアパタイト処理前)と、上記サイクルを30日間繰り返した後(ハイドロキシアパタイト処理後)の前歯の状態を、光学顕微鏡とSEM(日本電子株式会社製JSM-7800F Prime)によって撮影した。
結果を図面に示す。
【0034】
図4の左側の写真がハイドロキシアパタイト処理前の前歯全体を光学顕微鏡で撮影した写真であり、図4の右側の写真がハイドロキシアパタイト処理前の前歯全体を光学顕微鏡で撮影した写真である。図4の左右の写真とを比較すると、全体的に歯の汚れが、ハイドロキシアパタイト処理によってなくなっていることが分かる。また、歯の左側のシミが、ハイドロキシアパタイト処理によってかなり薄くなっていることが分かる。
【0035】
図5図10は全て前歯の同じ位置を拡大して撮影した写真である。図5図10の左側の写真は、ハイドロキシアパタイト処理前の歯をSEMで撮影した写真である。図5
図10の右側の写真は、前歯の同じ位置をハイドロキシアパタイト処理後にSEMで撮影した写真である。図5が500倍、図6が1000倍、図7が2500倍、図8が5000倍、図9が10000倍、図10が20000倍の倍率である。
【0036】
図5図10の左右の写真の比較から、ハイドロキシアパタイト処理前の前歯の表面にはアパタイト小柱と呼ばれる鱗状の凹凸が形成されているのに対して、ハイドロキシアパタイト処理によって、この鱗状の凹凸の凹部、溝が均一に埋まっていることが分かる。これは、ハイドロキシアパタイト処理によって歯の再石灰化が起こり、歯の表面の溝や凹部が埋められたことによるものであり、これにより歯の表面が滑らかになった。
【0037】
図11は、ハイドロキシアパタイト処理後の前歯の図5図10とは別の位置のSEM写真である。図17から、歯のクラックが再石灰化によって埋まっている様子がみてとれる。
【0038】
[比較例1]
女性から抜歯された前歯の代わりに、女性から抜歯された奥歯を用いた点、ハイドロキシアパタイトの代わりに炭酸カルシウムを用いた点以外は実施例1と同様にして再石灰化試験を行った。
上記サイクルを開始する前の奥歯の状態(炭酸カルシウム処理前)と、上記サイクルを30日間繰り返した後(炭酸カルシウム処理後)の奥歯の状態を、光学顕微鏡とSEM(日本電子株式会社製JSM-7800F Prime)によって撮影した。
結果を図面に示す。
【0039】
図12の左側の写真がハイドロキシアパタイト処理前の奥歯全体を光学顕微鏡で撮影した写真であり、図12の右側の写真がハイドロキシアパタイト処理前の奥歯全体を光学顕微鏡で撮影した写真である。図12の左右の写真とを比較すると、炭酸カルシウム処理によって、むしろ歯の表面のクラックが目立つようになったことが分かる。
【0040】
図13図18は全て奥歯の同じ位置を拡大して撮影した写真である。図13図18の左側の写真は、ハイドロキシアパタイト処理前の歯をSEMで撮影した写真である。図13図18の右側の写真は、奥歯の同じ位置をハイドロキシアパタイト処理後にSEMで撮影した写真である。図13が500倍、図14が1000倍、図15が2500倍、図16が5000倍、図17が10000倍、図18が20000倍の倍率である。
【0041】
図13図14の左右の写真の比較から、炭酸カルシウム処理によって、歯の表面の溝が埋まる様子は確認できるが、その度合いが均一ではなく、むしろ歯の表面の凹凸が強調されていることが分かった。
また、ハイドロキシアパタイト処理とは異なり、溝を埋めているのは大きさがバラバラの結晶体であり、これは炭酸カルシウム結晶の破片であると推測される。
【0042】
図19は、炭酸カルシウム処理前後の奥歯の図13図18とは別の位置のSEM写真である。図19から、歯の細かいクラックは炭酸カルシウム処理によって埋まらなかったことが分かる。
【0043】
以上のように、本発明の特定のハイドロキシアパタイトを含む口腔用組成物で歯を処理することによって、歯の表面に均一な再石灰化が起こり、歯のクラックを修復して滑らかにすることができることが明らかとなった。
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