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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161455
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】コード-ゴム複合体、およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/20 20060101AFI20241112BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20241112BHJP
   B60C 9/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
B60C9/20 E
D07B1/06 A
B60C9/00 K
B60C9/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024134999
(22)【出願日】2024-08-13
(62)【分割の表示】P 2024532184の分割
【原出願日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2023027700
(32)【優先日】2023-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹也
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 賢
(72)【発明者】
【氏名】松岡 映史
(57)【要約】      (修正有)
【課題】外力が加わった際に破損しにくいスチールコードを提供する。
【解決手段】単線のスチールコードであって、表面にブラスめっき膜を有し、コード径Dが0.20mm以上0.42mm以下であり、長手軸に沿って、屈曲部と非屈曲部とを交互に繰り返し有しており、連続する3つの前記屈曲部を、前記長手軸に沿って順に第1屈曲部、第2屈曲部、および第3屈曲部とし、前記第2屈曲部の頂点と前記第1屈曲部の頂点および前記第3屈曲部の頂点に接する直線との間の距離を屈曲高さHと定義すると、前記屈曲高さHと前記コード径Dとは、2.2≦H/D≦2.8の関係を満たす、スチールコード。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ベルト層を含み、
前記第1ベルト層は、ゴムと、スチールコードと、を有し、
前記スチールコードは、前記ゴムに埋設されており、
前記スチールコードは、単線のスチールコードであって、
表面にブラスめっき膜を有し、
コード径Dが0.20mm以上0.42mm以下であり、
長手軸に沿って、屈曲部と非屈曲部とを交互に繰り返し有しており、
連続する3つの前記屈曲部を、前記長手軸に沿って順に第1屈曲部、第2屈曲部、および第3屈曲部とし、
前記第2屈曲部の頂点と前記第1屈曲部の頂点および前記第3屈曲部の頂点に接する直線との間の距離を屈曲高さHと定義すると、
前記屈曲高さHと前記コード径Dとは、2.2≦H/D≦2.8の関係を満たし、
前記第1ベルト層を1m×1mのサイズとなるように切断し、平坦な第1試験台上に置き、外力を加えていない状態において、前記第1試験台からの最大高さが20mm未満であり、
前記第1ベルト層を平坦な第2試験台上に置き、前記第1ベルト層を単位面積当たり0.05kg/mmの荷重で前記第2試験台に押し付けた状態において、前記第1ベルト層に含まれる連続して配列された5本の前記スチールコードの、前記第1ベルト層の厚さに沿った位置のばらつき幅の平均値が0.5mm未満である、コード-ゴム複合体。
【請求項2】
前記ブラスめっき膜が、コバルト、ニッケル、スズ、鉄、およびマンガンから選択された1つ以上の元素を含む、請求項1に記載のコード-ゴム複合体。
【請求項3】
連続する3つの前記屈曲部のすべてのセットについての前記屈曲高さHの平均値Havと、前記コード径Dとは、2.2≦Hav/D≦2.8の関係を満たす、請求項1または請求項2に記載のコード-ゴム複合体。
【請求項4】
前記第1ベルト層のエンズが、30本/50mm以上60本/50mm以下である、請求項1または請求項2に記載のコード-ゴム複合体。
【請求項5】
積層された複数のベルト層を有しており、
前記第1ベルト層が、前記コード-ゴム複合体の少なくとも1つの表面に配置されている、請求項1または請求項2に記載のコード-ゴム複合体。
【請求項6】
積層された複数のベルト層を有しており、
前記第1ベルト層以外のベルト層は、直線状のスチールコードを含む、請求項1または請求項2に記載のコード-ゴム複合体。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のコード-ゴム複合体を含む、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スチールコード、コード-ゴム複合体、およびタイヤに関する。
本出願は、2023年2月24日出願の日本出願第2023-027700号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、空気入りタイヤが開示されている。この空気入りタイヤのトレッド部におけるカーカス層の外周近傍に、ベルト層が埋設されている。ベルト層は、引き揃えられた複数の単線スチールワイヤを含む。単線スチールワイヤは扁平断面形状を有する。トレッド部における溝下ゴム厚さは1.0mmから2.0mmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-058515号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示のスチールコードは、単線のスチールコードであって、表面にブラスめっき膜を有し、コード径Dが0.20mm以上0.42mm以下であり、長手軸に沿って、屈曲部と非屈曲部とを交互に繰り返し有しており、連続する3つの前記屈曲部を、前記長手軸に沿って順に第1屈曲部、第2屈曲部、および第3屈曲部とし、前記第2屈曲部の頂点と前記第1屈曲部の頂点および前記第3屈曲部の頂点に接する直線との間の距離を屈曲高さHと定義すると、前記屈曲高さHと前記コード径Dとは、2.2≦H/D≦2.8の関係を満たす。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本開示の一態様に係るスチールコードの模式的断面図である。
図2図2は、本開示の一態様に係るスチールコードにおける、屈曲部、非屈曲部、屈曲高さ、およびピッチの説明図である。
図3図3は、本開示の一態様に係るスチールコードのコイル径についての説明図である。
図4図4は、本開示の一態様に係るスチールコードの製造方法の説明図である。
図5図5は、本開示の一態様に係るスチールコードの製造方法の説明図である。
図6図6は、本開示の一態様に係るコード-ゴム複合体の模式的断面図である。
図7図7は、図6のVII-VII線での模式的断面図である。
図8図8は、本開示の一態様に係るコード-ゴム複合体の製造方法の説明図である。
図9A図9Aは、水平化装置の一構成例の説明図である。
図9B図9Bは、水平化装置の一構成例の説明図である。
図9C図9Cは、水平化装置の一構成例の説明図である。
図10図10は、本開示の一態様に係るタイヤの模式的断面図である。
図11図11は、シャルピー衝撃試験の評価方法の説明図である。
図12図12は、湾曲性評価の評価方法の説明図である。
図13図13は、位置精度の評価方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
自動車の燃費向上を目的として、タイヤを軽くし、転がり抵抗を低減することが求められている。タイヤを軽量化する方法として、タイヤのベルト層の厚みを抑制する方法が考えられる。そこで、タイヤのベルト層に用いるスチールコードのコード径を小さくすることにより、スチールコードを細径化することが検討されている。
【0007】
しかし、スチールコードのコード径を小さくすると、スチールコードに外力が加わった際に、スチールコードが破損し易くなる可能性がある。
【0008】
本開示は、外力が加わった際に破損しにくいスチールコードを提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、外力が加わった際に破損しにくいスチールコードを提供することが可能となる。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0011】
(1)本開示の一態様に係るスチールコードは、単線のスチールコードであって、表面にブラスめっき膜を有し、コード径Dが0.20mm以上0.42mm以下であり、長手軸に沿って、屈曲部と非屈曲部とを交互に繰り返し有しており、連続する3つの前記屈曲部を、前記長手軸に沿って順に第1屈曲部、第2屈曲部、および第3屈曲部とし、前記第2屈曲部の頂点と前記第1屈曲部の頂点および前記第3屈曲部の頂点に接する直線との間の距離を屈曲高さHと定義すると、前記屈曲高さHと前記コード径Dとは、2.2≦H/D≦2.8の関係を満たす。
【0012】
第2屈曲部の頂点は、第2屈曲部の、第1屈曲部の頂点および第3屈曲部の頂点に接する線から最も遠い点である。
第2屈曲部の頂点とこの直線との間の距離は、第2屈曲部の頂点からこの直線までの最短距離である。この最短距離は、第2屈曲部の頂点からこの直線までの垂線の長さに等しい。言い換えると、第1屈曲部、第2屈曲部、および第3屈曲部の頂点を結ぶ三角形において、第1屈曲部および第3屈曲部の頂点を結ぶ線分をこの三角形の底辺としたときに、この三角形の高さが、第2屈曲部の頂点とこの直線との間の距離である。
スチールコードを、平面上に、第1屈曲部、第2屈曲部、および第3屈曲部を含む面が、その平面に垂直で、第1屈曲部と第3屈曲部がその平面に接するように置いたときに、第1屈曲部のその平面に接している点が第1屈曲部の頂点であり、第3屈曲部のその平面に接している点が第3屈曲部の頂点である。
コード径Dは、スチールコードの直線状の部分(例えば、非屈曲部)の、その直線と垂直な断面において、直交する2つの直径の平均値である。
【0013】
スチールコードをゴム中に埋設してコード-ゴム複合体とする場合に、ブラスめっき膜に含まれる銅が、ゴムに含まれる硫黄(S)と反応する。ゴム内の、スチールコードとゴムとの界面の近くに、反応生成物である硫化銅(CuS)を含有する接着層が生成される。
【0014】
接着層は、スチールコードとゴムとの初期接着性能を高めることができる。
【0015】
ブラスめっき膜に含まれる亜鉛は、接着層を形成する反応を促進し、制御していると考えられる。
【0016】
スチールコードのコード径が0.42mm以下であることで、スチールコードをコード-ゴム複合体に適用した場合に、コード-ゴム複合体の厚さを薄くできる。このため、コード-ゴム複合体を含むタイヤを軽くできる。また、コード径が0.42mm以下であることで、タイヤの衝撃吸収性能を高め、このタイヤを装備した自動車の乗り心地を良くできる。
【0017】
コード径が0.20mm以上であることで、スチールコードの破断強度を高められる。このため、コード-ゴム複合体またはタイヤを製造する際に、要求される曲げ剛性等の特性を充足するために必要なスチールコードの数が減り、コード-ゴム複合体またはタイヤの生産性を高められる。コード径が0.20mm以上であることで、コード-ゴム複合体を製造する際に必要なスチールコードの数を減らすことができる。したがって、スチールコード間の間隔を十分にすることができ、スチールコード間に十分な量のゴムを配置できる。また、スチールコードとゴムとの密着性を高め、コード-ゴム複合体またはタイヤの耐久性を高められる。
【0018】
スチールコードが、長手軸に沿って、屈曲部と非屈曲部を交互に繰り返し有することで、スチールコードに外力が加えられた際に、スチールコードが変形し、衝撃を吸収できる。このため、外力が加わった際に、スチールコードが破損しにくい。本開示の一態様に係るスチールコードをタイヤに用いた場合に、衝撃吸収性能を高め、悪路走行性能を高められる。
【0019】
屈曲高さHのコード径Dに対する比(H/D)が2.2以上となるように屈曲部と非屈曲部を設けることで、スチールコードに外力を加えた際の耐久性と衝撃吸収性能を高められる。H/Dが2.8以下であることで、屈曲部を設ける場合でも破断強度を低下しにくくできる。
【0020】
(2)上記(1)において、コイル径が500mm以上600mm以下であってもよい。
【0021】
コイル径が500mm以上であることで、スチールコードをコード-ゴム複合体に適用した場合に、コード-ゴム複合体を湾曲しにくくできる。このため、コード-ゴム複合体を用いたタイヤ等の製品を製造する際の生産性を高められる。
【0022】
コイル径が600mm以下であることで、スチールコードがねじれにくくなる。スチールコードをコード-ゴム複合体に適用した場合に、コード-ゴム複合体内での、スチールコードの位置精度を高められる。このため、スチールコードを埋設するために必要なゴム、つまりスチールコードの周囲に配置するゴム、の厚さを薄くでき、コード-ゴム複合体またはタイヤを軽くできる。
【0023】
(3)上記(1)または(2)において、前記ブラスめっき膜が、コバルト、ニッケル、スズ、鉄、およびマンガンから選択された1つ以上の元素を含んでいてもよい。
【0024】
コバルト、ニッケル、スズ、鉄、およびマンガンのイオン化傾向は、銅のイオン化傾向よりも大きい。ブラスめっき膜が、銅および亜鉛に加えて、添加元素(コバルト、ニッケル、スズ、鉄、およびマンガンから選択された1つ以上の元素)を含むことで、ブラスめっき被膜が犠牲防食膜として機能でき、あるいは銅および亜鉛の合成電位を貴にできる。ブラスめっき膜が添加元素を含むことで、スチールコードの耐腐食性を高めることができる。
【0025】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、連続する3つの前記屈曲部のすべてのセットについての前記屈曲高さHの平均値Havと、前記コード径Dとは、2.2≦Hav/D≦2.8の関係を満たしてもよい。
【0026】
このようにすることで、スチールコードに外力を加えた際の耐久性と衝撃吸収性能をさらに高められ、屈曲部を設ける場合でも破断強度をさらに低下しにくくできる。
【0027】
(5)本開示の一態様に係るコード-ゴム複合体は、第1ベルト層を含み、前記第1ベルト層は、ゴムと、上記(1)から(4)のいずれかのスチールコードと、を有し、前記スチールコードは前記ゴムに埋設されている。
【0028】
本開示の一態様に係るコード-ゴム複合体の第1ベルト層が有するスチールコードは、細径であり、かつ外力が加わった際に破損しにくい。
【0029】
第1ベルト層においては、スチールコードを埋設するために必要なゴムの厚さを薄くできる。したがって、第1ベルト層および第1ベルト層を含むコード-ゴム複合体の厚さを薄くでき、第1ベルト層およびコード-ゴム複合体を軽くできる。
【0030】
第1ベルト層および第1ベルト層を含むコード-ゴム複合体は、外力が加わった際の耐久性および衝撃吸収性能に優れる。
【0031】
(6)上記(5)において、前記第1ベルト層のエンズが、30本/50mm以上60本/50mm以下であってもよい。
【0032】
第1ベルト層のエンズが30本/50mm以上であることで、スチールコード間の隙間が小さくなるため、高密度でスチールコードを配置できる。このため、コード-ゴム複合体の耐打ち抜き性を高められ、コード-ゴム複合体を含むタイヤ等の製品の耐久性を特に高められる。コード-ゴム複合体の耐打ち抜き性は、コード-ゴム複合体に異物が刺さった場合に、異物がコード-ゴム複合体を貫通することを防止する特性である。
【0033】
第1ベルト層のエンズが60本/50mm以下であることで、第1ベルト層またはコード-ゴム複合体を製造する際に、スチールコードを供給する供給装置の数が減り、生産性を高められる。
【0034】
(7)上記(5)または(6)に記載のコード-ゴム複合体が、積層された複数のベルト層を有しており、前記第1ベルト層が、前記コード-ゴム複合体の少なくとも1つの表面に配置されていてもよい。
【0035】
第1ベルト層がコード-ゴム複合体の少なくとも1つの表面に第1ベルト層を配置することで、コード-ゴム複合体の表面に外力が加えられた際の耐久性および衝撃吸収性能を高めることができる。
【0036】
(8)上記(5)から(7)のいずれかに記載のコード-ゴム複合体が、積層された複数のベルト層を有しており、前記第1ベルト層以外のベルト層は、直線状のスチールコードを含んでもよい。
【0037】
第1ベルト層以外のベルト層が直線状のスチールコード、つまり屈曲部を有さないスチールコード、を有することで、第1ベルト層に埋設したスチールコードが、弾性変形領域を超えて変形しにくい。したがって、コード-ゴム複合体を繰り返し変形できるように構成できる。
【0038】
(9)本開示の一態様に係るタイヤは、上記(1)から(4)のいずれかに記載のスチールコード、または上記(5)から(8)のいずれかに記載のコード-ゴム複合体を含む。
【0039】
本開示の一態様に係るタイヤが含むスチールコードは、細径であり、かつ外力が加わった際に破損しにくい。本開示の一態様に係るタイヤが含むコード-ゴム複合体は、外力が加わった際の耐久性および衝撃吸収性能に優れる。
【0040】
このため、本開示の一態様に係るタイヤを軽くでき、悪路走行時の耐久性および衝撃吸収性能に優れる。
【0041】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係るスチールコード、コード-ゴム複合体、およびタイヤの具体例を、以下に図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0042】
本明細書において、部材の名称に第1、第2、第3などを付加して説明する場合がある。例えば、第1ベルト層、第2ベルト層、第1ロール、第2ロール、および第3ロール、と記載している。ベルト層およびロールに付加している第1、第2、および第3は、各部材を識別し、説明の際に混同を生じることを防止するために記載しているに過ぎず、配置および優先順位を表すものではない。混同の恐れがない場合および総称する場合には、ベルト層またはロールと表記できる。
【0043】
〔スチールコード〕
以下、本実施形態に係るスチールコードについて、図1図2、および図3に基づき説明する。
<1>スチールコードの構造について
図1は、スチールコード10の直線部分の長手軸(直線と平行な軸)と垂直な模式的断面図である。
【0044】
図1に示すように、スチールコード10は単線のスチールコードである。単線のスチールコードは、複数の素線を撚り合わせた撚線ではなく、1本の素線のみから構成されている。スチールコード10は、長手軸に沿ってねじり加工が施されていなくてもよい。すなわち、スチールコード10は、ストレートスチールコードであってもよい。
【0045】
スチールコード10の断面は、円形状であってもよい。円形状は、真円であってもよいが、真円に限定されず、真円に類似の形状であってもよい。また、スチールコード10の断面は、楕円形状、楕円に類似の形状、またはレーストラック形状であってもよい。
【0046】
スチールコード10は、表面にブラスめっき膜12を有する。具体的には、スチールコード10は、線材11と、線材11を覆うブラスめっき膜12とを有する。
(線材)
線材11は、例えば鋼線である。線材11は、高炭素鋼線であってもよい。
(ブラスめっき膜)
ブラスめっき膜12は、銅(Cu)と亜鉛(Zn)とを含む。図1に示すように、ブラスめっき膜12は、線材11の側面11Aを覆っている。
【0047】
スチールコード10をゴム中に埋設して、コード-ゴム複合体を形成する場合に、ブラスめっき膜12に含まれる銅が、ゴムに含まれる硫黄(S)と反応する。この反応における反応生成物が硫化銅(CuS)であり、ゴム内の、スチールコード10とゴムとの界面の近くに、硫化銅を含有する接着層が生成される。
【0048】
接着層は、スチールコード10とゴムとの初期接着性能を高めることができる。スチールコード10とゴムとの初期接着性能とは、コード-ゴム複合体またはコード-ゴム複合体を含むタイヤの製造時に加硫を行った直後での、スチールコード10とゴムとの接着性能である。
【0049】
ブラスめっき膜12に含まれる亜鉛は、接着層を形成する反応を促進し、制御していると考えられる。
【0050】
ブラスめっき膜12は、銅と亜鉛以外の元素を含有してもよい。ブラスめっき膜12は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、鉄(Fe)、およびマンガン(Mn)から選択された1つ以上の元素を含んでもよい。
【0051】
コバルト、ニッケル、スズ、鉄、およびマンガンのイオン化傾向は、銅のイオン化傾向よりも大きい。ブラスめっき膜12が、銅と亜鉛に加えて、添加元素(コバルト、ニッケル、スズ、鉄、およびマンガンから選択された1つ以上の元素)を含むことで、ブラスめっき膜12が犠牲防食膜として機能でき、あるいは銅と亜鉛の合成電位を貴にできる。したがって、ブラスめっき膜12が添加元素を含むことで、スチールコード10の耐腐食性を高めることができる。
【0052】
(屈曲部と非屈曲部)
図2は、連続する3つの屈曲部21を含む面に垂直な方向からスチールコード10を見たときの図である。つまり、図2は、スチールコード10の側面図である。図2では、Y軸がスチールコード10の長手軸である。屈曲部21Aが第1屈曲部であり、屈曲部21Bが第2屈曲部であり、屈曲部21Cが第3屈曲部である。屈曲部21A(第1屈曲部)の頂点と屈曲部21C(第3屈曲部)の頂点が直線20と接している。図2では、図示されている他の連続する3つの屈曲部21のうち、1つおきの屈曲部21の頂点も直線20に接している。非屈曲部は、直線状であってもよい。非屈曲部の一部は、直線状でなくてもよい。
スチールコード10は、長手軸に沿って屈曲部21と非屈曲部22とを交互に繰り返し有する。スチールコード10が長手軸に沿って屈曲部21と非屈曲部22とを交互に繰り返し有することで、スチールコード10に外力が加えられた際にスチールコード10が変形し、衝撃を吸収できる。このため、外力が加わった際に、スチールコード10は破損しにくい。また、スチールコード10をタイヤに用いた場合に、衝撃吸収性能を高め、悪路走行性能を高められる。
【0053】
直線20と直線20から離れた屈曲部21(第2屈曲部)の頂点との間の距離を屈曲高さHと定義する。例えば、図2において、直線20と屈曲部21Bの頂点との間の距離が、屈曲高さHである。
【0054】
直線20と第2屈曲部の頂点との距離は、ノギスを用いて測定する。スチールコード10において、屈曲高さHは一定であってもよい。
【0055】
屈曲高さHとコード径Dとは、2.2≦H/D≦2.8の関係を満たす。
【0056】
H/Dが2.2以上となるように屈曲部21と非屈曲部22を設けることで、スチールコード10に外力を加えた際の衝撃吸収性能を高められる。H/Dが2.8以下であることで、屈曲部21を設けても、破断強度を低下しにくくできる。
【0057】
屈曲高さHとコード径Dとは、2.3≦H/D≦2.75の関係を満たしてもよく、2.4≦H/D≦2.74の関係を満たしてもよい。
連続する3つの屈曲部のすべてのセットについての屈曲高さHの平均値Havと、コード径Dとは、2.2≦Hav/D≦2.8を満たしてもよく、2.3≦Hav/D≦2.75を満たしてもよく、2.4≦Hav/D≦2.74を満たしてもよい。これにより、スチールコード10に外力を加えた際の衝撃吸収性能をより高められ、屈曲部21を設ける場合でも破断強度をより低下しにくくできる。
また、連続する3つの屈曲部のすべてのセットについての屈曲高さHと、コード径Dとは、2.2≦H/D≦2.8を満たしてもよく、2.3≦H/D≦2.75を満たしてもよく、2.4≦H/D≦2.74を満たしてもよい。これにより、スチールコード10に外力を加えた際の衝撃吸収性能をさらに高められ、屈曲部21を設ける場合でも破断強度をさらに低下しにくくできる。
【0058】
ピッチPは、屈曲部21を設ける間隔である。ピッチPは、スチールコード10のコード径Dおよび要求される衝撃吸収性能に応じて選択でき、特に限定されない。ピッチPは、2.0mm以上10.0mm以下であってもよく、4.0mm以上5.5mm以下であってもよい。ピッチPが10.0mm以下であることで、単位長さ当たりに十分な数の屈曲部21を形成でき、スチールコード10の衝撃吸収性能を高められる。ピッチPが2.0mm以上であることで、単位長さ当たりの屈曲部21の数が過度に多くならず、生産性を高められる。
ピッチPは、同じ形状の屈曲部21間の距離である。つまり、ピッチPは、屈曲部から2つ隣の屈曲部までの、スチールコード10の長手軸に沿った長さである。より詳細には、ピッチPは、屈曲部の頂点から2つ隣の屈曲部の頂点までの、スチールコード10の長手軸に沿った長さである。例えば、図2では、ピッチPは、屈曲部21Aの頂点から屈曲部21Cの頂点までの長さである。屈曲部から2つ隣の屈曲部までのスチールコード10の長手軸に沿った長さが一定でない場合、すべての屈曲部と2つ隣の屈曲部の間の長さを測定し、それらの長さの平均値がピッチPである。ピッチPは、ノギスを用いて測定する。
【0059】
<2>スチールコードの特性
<2-1>コード径
スチールコード10は、コード径Dが0.20mm以上0.42mm以下である。コード径Dは、0.21mm以上0.40mm以下であってもよく、0.22mm以上0.38mm以下であってもよく、0.22mm以上0.37mm以下であってもよい。
【0060】
コード径Dが0.42mm以下であることで、スチールコードをコード-ゴム複合体に適用した場合に、コード-ゴム複合体の厚さを薄くできる。このため、コード-ゴム複合体を含むタイヤを軽くできる。コード径Dが0.42mm以下であることで、スチールコードをタイヤに適用した場合に、タイヤの衝撃吸収性能を高め、このタイヤを装備した自動車の乗り心地を良くできる。
【0061】
コード径Dが0.20mm以上であることで、スチールコード10の破断強度を高められる。このため、コード-ゴム複合体またはタイヤを製造する際に、要求される曲げ剛性等の特性を充足するために必要となるスチールコードの数を減らすことができ、生産性を高められる。コード径Dが0.20mm以上であることで、コード-ゴム複合体またはタイヤを製造する際に必要となるスチールコードの数が少なくなる。スチールコード間に十分な間隔があるため、スチールコード間に十分な量のゴムを配置できる。このため、スチールコードとゴムとの密着性が高くなり、コード-ゴム複合体またはタイヤの耐久性を高められる。
スチールコード10の直線状の部分(例えば、非屈曲部)の、その直線と垂直な任意の一断面において、互いに直交する直径D10Aと直径D10Bを測定する。直径D10Aと直径D10Bの平均値が、コード径Dである。直径D10Aと直径D10Bは、マイクロメータで測定する。
【0062】
<2-2>コイル径
スチールコード10は、コード径Dが0.42mm以下である。このような細径のスチールコードを用いて、シート形状のコード-ゴム複合体を形成すると、コード-ゴム複合体が湾曲することがある。シート形状のコード-ゴム複合体を形成する場合、一定の張力を加えた複数のスチールコードを引き揃え、ゴム中に埋設する。ゴムが十分に硬化するまでに、スチールコードの位置がずれ、コード-ゴム複合体内でのスチールコードの位置がばらつくことがある。このため、スチールコードをゴム中に十分に埋設するために、スチールコードの上下に配置するゴムを厚くする必要がある。したがって、スチールコードが細径であるにも関わらず、コード-ゴム複合体を薄くできない可能性がある。
【0063】
上述のように、スチールコードが細径である場合、コード-ゴム複合体が湾曲し、コード-ゴム複合体中のスチールコードの、ゴム厚さ方向の位置精度が低下することがある。従来、コード-ゴム複合体の湾曲とスチールコードの位置精度の低下の原因として、コイル径は着目されていなかった。しかし、本発明の発明者らは検討をおこなって、コイル径が、コード-ゴム複合体の湾曲とスチールコードのゴム厚さ方向の位置精度の低下に影響していることを見出した。
【0064】
スチールコード10は、コイル径が500mm以上600mm以下であってもよい。
【0065】
コイル径が500mm以上であることで、スチールコード10をコード-ゴム複合体に適用した場合に、コード-ゴム複合体を湾曲しにくくできる。このコード-ゴム複合体を用いると、タイヤ等の製品を製造する際の生産性を高められる。
【0066】
コイル径が600mm以下であることで、スチールコード10がねじれにくくなる。スチールコード10をコード-ゴム複合体に適用した場合に、コード-ゴム複合体内での、スチールコード10の位置精度が高められる。スチールコード10を埋設するために必要なゴム、つまりスチールコード10の周囲に配置するゴム、の厚さが薄くなり、コード-ゴム複合体またはタイヤを軽くできる。
【0067】
図3に示すように、コイル径D31は、環状部31の直径である。図3では、環状部31は、スチールコード10を切断した場合に、スチールコード10に力を加えることなく、おのずと形成されている。コイル径D31を測定する場合には、水平な試験台30上に切断したスチールコード10を置く。環状部31が試験台30上に形成された場合に、互いに直交する直径D31Aと直径D31Bをノギスで測定する。直径D31Aと直径D31Bの平均値が、コイル径D31である。コイル径D31を測定する際には、水平な試験台30に接する環状部31が形成されるまで、スチールコード10の切断片を繰り返し形成する。
【0068】
<2-3>破断強度について
スチールコード10は、破断強度が2500MPa以上4500MPa以下であってもよく、2900MPa以上4200MPa以下であってもよい。
【0069】
スチールコード10の破断強度が大きいほど、スチールコード10を引っ張った場合にスチールコード10が破断しにくい。スチールコード10の破断強度が2500MPa以上であることで、スチールコード10をコード-ゴム複合体に適用する際に、コード-ゴム複合体に要求される曲げ剛性等の特性を充足するために必要となるスチールコードの数を減らすことができる。このため、コード-ゴム複合体またはタイヤ等の製品を軽くできる。スチールコード10の破断強度が4500MPa以下であることで、スチールコード10を製造する際の生産性を高められる。
【0070】
<3>スチールコードの製造方法
スチールコードの製造方法は、特に限定されない。例えば、表面にブラスめっき膜を有するコード母材を、ダイスおよびロールを用いて伸線加工した後、屈曲部を形成することにより、スチールコードを製造できる。
【0071】
例えば、図4に示すようにブロック矢印に沿って搬送されているコード母材40を、ダイス411およびダイス412に通して伸線加工する。次いで、ダイスにより伸線加工されたコード母材40を、ロール42により押圧することで、さらに伸線加工して、コード径を所望のコード径にする。
【0072】
ロール42は、図4に示すように配置してもよい。図4では、伸線加工するコード母材40の上方に、上部ロール421A、上部ロール421B、および上部ロール421Cが配置され、コード母材40の下方に、下部ロール422Aおよび下部ロール422Bが配置されている。上部ロール421A、上部ロール421B、および上部ロール421Cが上からコード母材40を押圧し、下部ロール422Aおよび下部ロール422Bが下からコード母材40を押圧する。
【0073】
ダイスの数、および配置は、特に限定されない。ロール42を構成するロールの形状、数、および配置は、特に限定されない。予備試験を実施し、予備試験で製造したスチールコードのコード径とコイル径に応じて、ダイスの数および配置を選択してもよく、ロールの形状、数、および配置を選択してもよい。また、予備試験で製造したスチールコードのコード径とコイル径に応じて、コード母材に加える圧力等の加工条件を選択してもよい。例えば伸線加工の加工条件を求めるために、予備試験を実施してもよい。また、予備試験を実施することにより、伸線加工後に所望の屈曲高さとピッチを有するスチールコードのコード径とコイル径との関係を求めることができる。予備試験の結果に基づいて、屈曲部が形成されたスチールコードのコード径とコイル径が所望の値となるように、伸線加工の加工条件を選択できる。
【0074】
伸線加工の加工条件は、ロールの溝の形状により変更してもよい。ロールの溝の形状は、例えば、溝の長手軸と垂直な断面において、曲率が一定な形状である。
上部ロールと下部ロールを、コード母材40の搬送経路に沿って隣接して配置してもよい。上部ロールと下部ロールの溝の形状は、溝の長手軸と垂直な断面において、曲率が一定な形状であり、かつ上部ロールと下部ロールの溝の曲率半径が異なってもよい。これらの曲率半径の差の上限は、スチールコードのコード径の30%であってもよい。上部ロールと下部ロールの溝の形状を適切に選択することで、スチールコードのコイル径等のパラメータの制御性を高くすることができる。
【0075】
例えば図5に示すように、複数のプリフォーム51を配置する。伸線加工後のスチールコード50を、ブロック矢印に沿って搬送し、プリフォーム51間に通すことで、屈曲部を形成することができる。プリフォーム51の配置、大きさ、または形状を変更することで、屈曲部の形状および非屈曲部の長さを変更することができる。プリフォーム51は、例えば、ピン形状(円柱形状)または歯車形状を有する。
屈曲部を形成後、スチールコード50の連続する3つの屈曲部が含まれる面の向き(傾き)が変化しないように、搬送ロールで挟みながら搬送し、リールに巻き取ってもよい。この面がリールの胴体の表面に沿うように、スチールコード50をリールに巻き取ってもよい。リールの胴体は、スチールコード50を巻き取る軸部分である。リールを胴体の中心軸に沿って移動させ、リールの胴体におけるスチールコード50を巻き取る位置を変化させながら、スチールコードを巻き取ってもよい。
【0076】
[コード-ゴム複合体]
図6にコード-ゴム複合体60の側面図を示す。図7に、図6のVII-VII線での模式的断面図を示す。図7では、屈曲部21をわかりやすくするため、スチールコード10のコード径を図6よりも小さくしている。図6および図7において、X軸は、コード-ゴム複合体60およびベルト層の幅方向に沿った軸である。Y軸は、コード-ゴム複合体60およびベルト層の長手軸(スチールコード10の長手軸)である。Z軸は、コード-ゴム複合体60およびベルト層の厚さ方向に沿った軸である。XZ平面がスチールコード10の長手軸と垂直な面である。
【0077】
図6に示すように、コード-ゴム複合体60は、第1ベルト層601を含む。第1ベルト層601は、ゴム61と、ゴム61に埋設されたスチールコード10と、を有する。
【0078】
第1ベルト層601に含まれるスチールコード10は、細径であり、かつ外力が加わった際に破損しにくい。第1ベルト層601においては、スチールコード10を埋設するために必要なゴムの厚さを薄くできる。このため、第1ベルト層601および第1ベルト層601を含むコード-ゴム複合体60の厚さを薄くでき、コード-ゴム複合体60を軽くできる。第1ベルト層601および第1ベルト層601を含むコード-ゴム複合体60は、外力が加わった際の耐久性および衝撃吸収性能に優れる。
【0079】
[1]第1ベルト層が含有する部材
[1-1]スチールコード
第1ベルト層601は、複数のスチールコード10を含んでもよい。各スチールコード10は、その長手軸が図6中のY軸に平行となるように配列してもよい。図6では、複数のスチールコード10は、X軸に沿って配列されている。
【0080】
複数のスチールコード10は並列に配列されていてもよい。
【0081】
図7に示すように、連続する3つの屈曲部21を含む面が第1ベルト層601の幅方向に沿うように、各スチールコード10が配列されていてもよい。スチールコード10をこのように配列することで、コード-ゴム複合体60の厚さおよび第1ベルト層601の厚さT60を薄くできる。
【0082】
スチールコード10は、屈曲部21と非屈曲部22とを有するため、隣接するスチールコード10が互いに接しないように、屈曲高さHを考慮して、スチールコード10間の距離を設定してもよい。スチールコード10の詳細については既に説明したので、ここでは説明を省略する。
【0083】
[1-2]ゴム
コード-ゴム複合体60のゴム61は、ゴムの組成物を成形し、必要に応じて加硫することで製造できる。
【0084】
ゴム61の組成は、特に限定されない。ゴム61の組成は、コード-ゴム複合体60を適用するタイヤ等の製品の用途および要求される特性に応じて選択することができる。ゴム61は、ゴム成分と、硫黄と、加硫促進剤とを含んでもよい。
【0085】
ゴム成分は、天然ゴム(NR:natural rubber)およびイソプレンゴム(IR:isoprene rubber)から選択された1つ以上のゴムを、60質量%以上含んでもよく、70質量%以上含んでもよく、100質量%含んでもよい。
【0086】
ゴム成分中の天然ゴムおよびイソプレンゴムから選択された1つ以上のゴムの割合が、60質量%以上であることで、コード-ゴム複合体60またはタイヤの破断強度を高めることができる。
【0087】
天然ゴムおよびイソプレンゴムから選択された1つ以上のゴムとともに用いるゴム成分は、例えば、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)から選択された1つ以上のゴムである。
【0088】
ゴム61に硫黄を含ませる方法は、特に限定されない。例えば、ゴム工業において一般的な加硫剤を用いて、ゴム61に硫黄を含ませることができる。
【0089】
ゴム61の硫黄含有量は、特に限定されない。硫黄含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5質量部以上8質量部以下であってもよい。
【0090】
硫黄含有量が、ゴム成分100質量部に対して5質量部以上であることで、得られるゴムの架橋密度を高め、特にスチールコード10とゴム61との接着力を高めることができる。硫黄含有量がゴム成分100質量部に対して8質量部以下であることで、硫黄をゴム61内に特に均一に分散させることができ、ブルーミングが生じにくくできる。
【0091】
加硫促進剤は、特に限定されない。加硫促進剤は、例えばN,N′-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系促進剤である。加硫促進剤は、2-メルカプトベンゾチアゾール等のチアゾール系促進剤であってもよく、テトラベンジルチウラムジスルフィド等のチウラム系促進剤であってもよい。
【0092】
コード-ゴム複合体60に用いるゴム組成物は、ゴム成分等の原料を混練し、熱入れおよび押し出しすることにより製造することができる。
【0093】
ゴム61は、コバルト単体およびコバルトを含有する化合物の少なくとも1つを含有してもよい。
【0094】
コバルトを含有する化合物は、例えば有機酸コバルトおよび無機酸コバルトである。
【0095】
有機酸コバルトは、例えば、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、およびトール油酸コバルトから選択された1つ以上である。有機酸コバルトは、有機酸の一部をホウ酸で置き換えた複合塩でもよい。
【0096】
無機酸コバルトは、例えば、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、リン酸コバルト、およびクロム酸コバルトから選択された1つ以上である。
【0097】
ゴム61は、有機酸コバルトを含有してもよい。ゴム61が有機酸コバルトを含有することで、スチールコードとゴムとの初期接着性能を特に向上させることができる。
【0098】
本発明たちの発明者の検討によれば、コバルトをゴムに添加することで、接着層中の硫化銅(CuS)の割合を高めることができ、スチールコードとゴムとの接着力を高めることができる。有機酸コバルトを用いてコバルトを添加した場合、その傾向が顕著である。このため、ゴム61は、コバルト、特に有機酸コバルトを含有してもよい。この場合、耐久性に優れたコード-ゴム複合体60またはタイヤとすることができる。
ゴム61は、上記ゴム成分、硫黄、加硫促進剤、およびコバルト以外に、任意の成分を含んでもよい。ゴム61は、カーボンブラック、シリカ等の補強剤、ワックス、または老化防止剤などの周知のゴム用添加剤、を含有してもよい。
【0099】
[2]第1ベルト層の特性
第1ベルト層601に含まれるスチールコード10の数は、特に限定されない。スチールコード10の数は、コード-ゴム複合体60またはコード-ゴム複合体60を含むタイヤに要求される特性に応じて選択できる。第1ベルト層601のスチールコードの長手軸と垂直な断面における、第1ベルト層601の50mmの幅あたりのスチールコードの数をエンズとする。つまり、第1ベルト層60のスチールコードの長手軸と垂直な断面において、すべてのスチールコードを数え、50mmの幅あたりのスチールコードの数に換算した値がエンズである。本明細書において、エンズの単位は「本/50mm」である。第1ベルト層601のエンズは、30本/50mm以上60本/50mm以下であってもよい。第1ベルト層601のエンズは、36本/50mm以上60本/50mm以下であってもよく、40本/50mm以上60本/50mm以下であってもよい。
【0100】
第1ベルト層601のエンズが30本/50mm以上であることで、第1ベルト層601に含まれるスチールコード10間の隙間が小さくなり、高密度でスチールコードを配置できる。このため、コード-ゴム複合体60の耐打ち抜き性を高められる。また、コード-ゴム複合体60を含むタイヤ等の製品の耐久性を特に高められる。
【0101】
第1ベルト層601のエンズが60本/50mm以下であることで、第1ベルト層601およびコード-ゴム複合体60を製造する際に、スチールコードを供給する供給装置の数が減り、生産性を高められる。
コード-ゴム複合体60が複数のベルト層を有する場合、第1ベルト層601以外の各ベルト層において、エンズが上記範囲であってもよい。
【0102】
[3]コード-ゴム複合体の構成
コード-ゴム複合体60は、第1ベルト層601のみから構成されていてもよい。ベルト層は、1層の第1ベルト層601のみであってもよい。
【0103】
コード-ゴム複合体60は、複数のベルト層を含んでもよい。図6では、コード-ゴム複合体60は、第1ベルト層601に加えて、第2ベルト層602を含む。ベルト層とは、第1ベルト層601と同じく、ゴムと、ゴムに埋設された複数のスチールコードを含む層である。
【0104】
コード-ゴム複合体60が複数のベルト層を有する場合、複数のベルト層は積層されていてもよい。
【0105】
第1ベルト層601以外のベルト層、例えば第2ベルト層602は、ゴム63と、ゴム63に埋設されたスチールコード62とを有してもよい。第1ベルト層601以外のベルト層において、スチールコード62は、屈曲部を有さないスチールコード、すなわち直線状のスチールコードであってもよい。第2ベルト層602(第1ベルト層601以外のベルト層)が直線状のスチールコードを有することで、第1ベルト層601に埋設したスチールコード10が、弾性変形領域を超えて変形しにくい。したがって、コード-ゴム複合体60を繰り返し変形できるように構成できる。スチールコード62を直線状のスチールコードとする点以外は、第1ベルト層601に用いたスチールコード10とゴム61を、第2ベルト層602に用いることができる。このため、第2ベルト層602のスチールコード62とゴム63の説明を省略する。第1ベルト層601と第2ベルト層602は、スチールコードのコード径、スチールコードの材質、エンズおよびゴムの組成が同じであってもよく、異なっていてもよい。コード-ゴム複合体60は、1つの第2ベルト層602を有してもよく、複数の第2ベルト層602を有してもよい。
【0106】
コード-ゴム複合体60が積層された複数のベルト層を有する場合、第1ベルト層601が、コード-ゴム複合体60の少なくとも1つの表面に配置されてもよい。すなわち、第1ベルト層601は、コード-ゴム複合体60の最表面に配置されてもよい。図6では、コード-ゴム複合体60の表面60Aにおいて、第1ベルト層601が露出している。
【0107】
第1ベルト層601は、屈曲部と非屈曲部を含むスチールコード10を含んでいる。スチールコード10は各屈曲部で折り返すように曲がっている。Z軸に沿って(ベルト層の厚さ方向に沿って)スチールコード10を見ると、スチールコード10はジグザグ形状である(例えば、図7を参照)。第1ベルト層601に含まれるスチールコード10は、外力が加えられた際に変形し、衝撃を吸収できる。第1ベルト層601は、外力が加わった際の耐久性と衝撃吸収性能に優れている。したがって、第1ベルト層601が、コード-ゴム複合体60の少なくとも1つの表面に配置されることで、その表面に外力が加えられた際の耐久性と衝撃吸収性能を高めることができる。
【0108】
[4]コード-ゴム複合体の製造方法
コード-ゴム複合体60の製造方法は、リール設置工程、引き出し工程、配列工程、および埋設工程を有してもよい。図8図9A図9B、および図9Cを参照して、コード-ゴム複合体60の製造方法を説明する。
(リール設置工程)
リール設置工程では、複数のリール82がスチールコード供給装置81に設置される(図8を参照)。コード-ゴム複合体60のベルト層のゴム内に埋設するスチールコード10の数に基づいて、リール82の数を設定できる。各リール82にはスチールコード10が巻かれている。スチールコード供給装置81は、各リール82の回転を制御し、各リール82からスチールコード10を供給する。スチールコード供給装置81はリールサプライと呼ばれることもある。図8は模式図であるため、2個のリール82のみが記載されている。リール82の数は、コード-ゴム複合体60のベルト層に埋め込むスチールコード10の数に等しくてもよい。
(引き出し工程)
引き出し工程では、スチールコード供給装置81により、各リール82からスチールコード10が引き出され、配列工程をおこなう位置へと搬送される。
【0109】
(配列工程)
配列工程では、リール82から引き出された複数のスチールコード10が、スチールコード10の長手軸と垂直な断面において一列になるように配列される。配列工程では、例えば、配列装置83により複数のスチールコード10を一列に配列する。
【0110】
配列装置83の構成は特に限定されない。スチールコード10を一列に配列するため、配列装置83は、ガイド板831を有してもよい。ガイド板831にはスチールコード10を通す溝が設けられている。
【0111】
配列工程では、各スチールコード10の連続する3つの屈曲部を含む面がコード-ゴム複合体60の幅方向に沿うように、複数のスチールコード10を配列してもよい。
【0112】
連続する3つの屈曲部を含む面がコード-ゴム複合体60の幅方向に沿うように、スチールコード10を配列する方法は、特に限定されない。配列装置83は、例えば図8に示すように、水平化装置832を有してもよい。水平化装置832は、上記の面がコード-ゴム複合体60の幅方向に沿うように、スチールコード10を搬送経路上に配列することができる。
【0113】
水平化装置832の構成は特に限定されない。水平化装置832は、図9Aに示すように、3本のロールを含む配列ロール90を有してもよい。図9Aでは、3本のロールは、第1ロール91、第2ロール92、および第3ロール93である。スチールコード10を、第1ロール91、第2ロール92、および第3ロール93に掛け、通すことで、連続する3つの屈曲部を含む面を水平にできる。図9Aでは、スチールコード10はブロック矢印に沿って搬送されている。配列ロール90を配置する場所は特に限定されない。スチールコード10の搬送経路上の、ガイド板831よりも下流に、配列ロール90を配置してもよい。
【0114】
水平化装置832は、図9Aに示した配列ロール90の形態に限定されない。水平化装置832は、図9Bに示すように、水平化ロール94を有してもよい。水平化ロール94は、上部ロール941と下部ロール942とを有する。図9Bでは、スチールコード10はブロック矢印の方向に搬送される。上部ロール941および下部ロール942は、スチールコード10の搬送経路に沿った位置に、スチールコード10を上下から挟めるように配置してもよい。上部ロール941と下部ロール942がスチールコード10を挟むことで、連続する3つの屈曲部を含む面がコード-ゴム複合体60の幅方向に沿うように、スチールコード10を配列できる。上部ロール941と下部ロール942は、スチールコード10が塑性変形しない程度に、スチールコード10を挟んでもよい。複数組の上部ロール941と下部ロール942を、スチールコード10の搬送経路に沿って配置してもよい。
【0115】
水平化装置832は、図9Cに示すように、ダイス95を有してもよい。ダイス95には、スチールコード10が通る貫通孔951が設けられている。貫通孔951により、連続する3つの屈曲部を含む面が、コード-ゴム複合体60の幅方向に沿うように、スチールコード10を配列できる。スチールコード10が破損しないように、貫通孔951の形状およびサイズを選択できる。貫通孔951の高さH951は、搬送経路に沿って一定としてもよい。スチールコード10の搬送経路に沿って、高さH951が変化してもよい。図9Cでは、高さH951が、スチールコード10の搬送経路に沿って、上流よりも下流で小さい。
【0116】
水平化装置832として、いくつかの構成例を示したが、水平化装置832はこれらの構成に限定されない。水平化装置832は、複数の装置、例えば配列ロール90(図9A)と水平化ロール94(図9B)、を含んでもよい。
【0117】
図8に示すように、配列装置83は、必要に応じて溝付きロール833を有してもよい。配列装置83が溝付きロール833を有する場合、配列工程において、溝付きロール833により、スチールコード10の位置をさらに補正して、スチールコード10を配列することができる。
【0118】
(埋設工程)
埋設工程では、複数のスチールコード10がゴムの中に埋設される。例えば、カレンダーロール85により、ゴム84の中に複数のスチールコード10を配置し、カレンダー処理を行うことで、コード-ゴム複合体60を製造できる。コード-ゴム複合体60が複数のベルト層を有する場合、ベルト層毎にリール設置工程から埋設工程までの工程を実施してもよい。
【0119】
〔タイヤ〕
本実施形態におけるタイヤ100について図10に基づき説明する。
【0120】
タイヤ100は、スチールコード10を含む。
【0121】
図10は、タイヤ100の外周と垂直な模式的断面図(タイヤ100の回転方向と垂直な模式的断面図)である。図10では、タイヤ100のセンターライン(CL)よりも左側部分のみを示している。タイヤ100は、センターラインを対称軸として、センターラインの右側にも同じ構造を有している。
【0122】
図10では、タイヤ100は、トレッド部101と、サイドウォール部102と、ビード部103とを備えている。
【0123】
トレッド部101は、路面と接する部分である。ビード部103は、トレッド部101よりタイヤ100の回転軸に近い位置に設けられている。ビード部103は、車両のホイールのリムに接する部分である。サイドウォール部102は、トレッド部101とビード部103とを接続している。トレッド部101が路面から衝撃を受けると、サイドウォール部102が弾性変形し、衝撃を吸収する。
【0124】
図10では、タイヤ100は、インナーライナー104と、カーカス105と、第1ベルト層106と、第2ベルト層107と、ビードワイヤー108とを備えている。
【0125】
インナーライナー104は、ゴムで構成されており、タイヤ100とホイールとの間の空間を密閉する。
【0126】
カーカス105は、タイヤ100の骨格を形成している。カーカス105は、有機繊維またはスチールコードと、ゴムと、により構成されている。有機繊維は、例えば、ポリエステル、ナイロン、またはレーヨンである。
【0127】
ビードワイヤー108は、ビード部103に設けられている。ビードワイヤー108は、カーカス105に作用する引っ張り力を受け止める。
【0128】
タイヤ100は、複数のベルト層を含んでもよい。図10では、タイヤ100は、2つのベルト層(第1ベルト層106と第2ベルト層107)を有している。ベルト層106およびベルト層107は、カーカス105を締め付けて、トレッド部101の剛性を高めている。
【0129】
第1ベルト層106および第2ベルト層107のそれぞれは、複数のスチールコードと、ゴムとを有している。複数のスチールコードは、並列に配列されている。複数のスチールコードは、第1ベルト層106または第2ベルト層107の長手軸に垂直な断面において、一列に配列されている。第1ベルト層106は図6の第1ベルト層601と同じであってもよい。第2ベルト層107は図6の第2ベルト層602と同じであってもよい。図10では、第1ベルト層106と第2ベルト層107によりコード-ゴム複合体が構成されている。
【0130】
タイヤ100が複数のベルト層を含む場合、第1ベルト層106は、コード-ゴム複合体の少なくとも1つの表面に配置されてもよい。すなわち、第1ベルト層106は、コード-ゴム複合体の最表面に配置されてもよい。ここで、第1ベルト層106は、第1ベルト層601と同じである。
タイヤ100が複数のベルト層を含む場合、第1ベルト層106は、他のベルト層よりもトレッド部101に近い位置に配置されてもよい。第1ベルト層106を、他のベルト層よりもトレッド部101に近い位置に配置することで、タイヤ100の耐久性と衝撃吸収性能を高めることができる。ここで、第1ベルト層106は、第1ベルト層601と同じである。他のベルト層は、第2ベルト層602と同じである。
【0131】
タイヤ100が含むスチールコードは、細径であり、かつ外力が加わった際に破損しにくい。このため、タイヤ100は、軽量であり、悪路走行時の耐久性と衝撃吸収性能に優れる。
【0132】
[実施例]
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
《1》スチールコードの評価方法
スチールコードの評価方法を説明する。
《1-1》コード径
スチールコード10を透明樹脂に埋め込み、スチールコード10の直線部分(例えば非屈曲部)のその直線と垂直な断面が露出するように試料を切り出す。
スチールコード10の直線状の部分の、その直線と垂直な断面において、直交する直径D10Aと直径D10Bを測定する(図1を参照)。直径D10Aと直径D10Bの平均値が、スチールコード10のコード径Dである。
【0133】
《1-2》シャルピー指数
図11に示したシャルピー衝撃試験装置を用い、シャルピー衝撃試験によりシャルピー衝撃値を測定する。シャルピー衝撃値からシャルピー指数を算出する。
【0134】
シャルピー衝撃試験では、図11に示すように、質量mのハンマー111を初期位置Sから回転軸112を中心として回転させ、ハンマー111の移動経路上に予めセットしておいた試料110に対して振り下ろす。ハンマー111は、試料110を破壊した後、さらに回転方向に進行し、到達位置Eに達する。
【0135】
試料110の位置を基準とした初期位置Sの高さが初期高さHSであり、試料110の位置を基準とした到達位置Eの高さが到達高さHEである。この場合、初期位置Sの位置エネルギーと到達位置Eの位置エネルギーとの差であるmg(HS-HE)が、試料110を破壊する際の吸収エネルギーである。この吸収エネルギーがシャルピー衝撃値である。シャルピー衝撃値が大きいほど、衝撃吸収性能に優れたスチールコードである。
【0136】
シャルピー指数は、基準スチールコードのシャルピー衝撃値を100として表している。基準スチールコードは、直線状のスチールコードであり、屈曲部を有さない。基準スチールコードの構成材料およびコード径Dは、シャルピー衝撃試験をおこなうスチールコードの構成材料およびコード径Dと同じである。
例えば、実験例1から実験例11の場合、実験例と同じ環境下での基準スチールコードのシャルピー衝撃値を100としてシャルピー指数を示している。この基準スチールコードのコード径Dは、0.37mmであり、基準スチールコードを構成する材料は、実験例1から実験例11のスチールコードを構成する材料と同じである。
【0137】
《1-3》破断強度、強度低下率
オートグラフ(株式会社島津製作所製型式:AGS-H 10kN)を用いて、スチールコードの長手軸に沿って荷重を加える。スチールコードの破断時にスチールコードに加えられている荷重と、コード径から求めたスチールコードの断面積とから破断強度を算出する。算出した破断強度と基準スチールコードの破断強度を比較し、破断強度の低下率が強度低下率である。
【0138】
基準スチールコードの破断強度をSA、各実験例のスチールコードの破断強度をSBとした場合、強度低下率は以下の式(1)により算出される。
強度低下率(%)=(SA-SB)÷SA×100・・・(1)
【0139】
《1-4》判定
シャルピー指数が102以上であり、かつ強度低下率が4.6%以下の場合に、スチールコードをAと評価する。シャルピー指数が100より大きく、かつ強度低下率が5%以下であり、Aの要件を満たさない場合に、スチールコードをBと評価する。シャルピー指数が100以下である、または強度低下率が5%を超える場合に、スチールコードをCと評価する。
評価がAの場合、スチールコードは、外力が加わった際に特に破損しにくい。評価がB、Cの順に、スチールコードの破損しにくさが低下する。評価がAまたはBの場合に、スチールコードは、外力が加わった際に、破損しにくいと判定する。
【0140】
《1-5》コイル径
図3に示すように、水平な試験台30上に切断したスチールコード10を置く。環状部31が試験台30上に形成された場合に、環状部31の直交する直径D31Aと直径D31Bを測定する。直径D31Aと直径D31Bの平均値が、コイル径D31である。コイル径D31を測定する際には、水平な試験台30に接する環状部31が形成されるまで、スチールコード10の切断片を繰り返し形成する。
【0141】
《2》コード-ゴム複合体の評価方法
《2-1》湾曲性評価
実験例で作製したコード-ゴム複合体60を1m×1mのサイズとなるように切断する。
【0142】
図12に示すように、試験台120の上面120Aに、上記サイズに切断したコード-ゴム複合体60である第1ベルト層601を置く。第1ベルト層601に外力を加えていない状態で、最大高さH60を定規で測定する。最大高さHは、上面120Aとコード-ゴム複合体60の上面120Aから最も遠い点との距離である。
【0143】
最大高さH60が5mm未満の場合にコード-ゴム複合体の湾曲性をAと評価し、5mm以上20mm未満の場合にコード-ゴム複合体の湾曲性をBと評価し、20mm以上の場合にコード-ゴム複合体の湾曲性をCと評価する。
評価がAの場合に、コード-ゴム複合体は、特に湾曲しにくい。B、Cの順に湾曲しにくさが低下する。評価がAまたはBの場合に、コード-ゴム複合体は、湾曲しにくいと判定する。
【0144】
《2-2》位置精度
図13に示すように、コード-ゴム複合体60である第1ベルト層601を平坦な試験台130上に設置する。スチールコード10A、10B、10C、10D、および10Eは続けて配列されており、これらのスチールコードが露出している断面が測定領域となるように第1ベルト層601を設置する。この断面は、スチールコード10の長手軸と垂直である。
【0145】
次いで、コード-ゴム複合体60の試験台130と接する面と反対の面131上に、図示しない錘を設置する。コード-ゴム複合体60を、単位面積当たり0.05kg/mm2の荷重で、試験台130に押し付ける。錘は板状であり、錘のコード-ゴム複合体60と向かい合う面の面積は、コード-ゴム複合体60の面131の面積と同じである。
【0146】
試験台130に接する面および錘と接する面131がいずれも正方形になるように、コード-ゴム複合体60を切断する。
【0147】
コード-ゴム複合体60に含まれるスチールコード10のうち、スチールコード10Aは、コード-ゴム複合体60の端部に配置されている。スチールコード10Aの中心を通るように、試験台130の上面と平行な基準線Lを設定する。
【0148】
次いで、スチールコード10B、10C、10D、および10Eそれぞれについて、コード-ゴム複合体60の厚さ方向に沿った、ばらつき幅をノギスで測定する。
【0149】
各スチールコード10のばらつき幅は、基準線Lと各スチールコード10の中心との間の、コード-ゴム複合体60の厚さ方向に沿った距離である。図13では、各スチールコード10の中心を黒い点で示している。スチールコード10Bのばらつき幅はL10B、スチールコード10Cのばらつき幅はL10C、スチールコード10Dのばらつき幅はL10D、スチールコード10Eのばらつき幅はL10Eである。
【0150】
ばらつき幅L10B、ばらつき幅L10C、ばらつき幅L10D、およびばらつき幅L10Eの平均値が、スチールコード10の位置のばらつき幅である。
【0151】
スチールコード10の位置のばらつき幅が0.3mm未満の場合に位置精度をAと評価し、0.3mm以上0.5mm未満の場合に位置精度をBと評価し、0.5mm以上の場合に位置精度をCと評価する。
【0152】
評価がAの場合に、スチールコード10の位置のばらつきが小さく、位置精度が最も高い。評価がB、Cの順に、位置のばらつきが大きくなり、位置精度が低下する。評価がAまたはBの場合に、コード-ゴム複合体におけるスチールコード10の位置精度が十分に高いと判定する。
【0153】
以下に、各実験例におけるスチールコードの製造条件を説明する。実験例2、3、4、6から11、13、14、15が実施例である。実験例1、5、12、16、17、18が比較例である。
[実験例1]
(スチールコードの製造)
図4および図5に示した装置により、スチールコード50を製造する。
【0154】
鋼製のコード母材40を用意する。コード母材40の表面には、ブラスめっき層が形成されている。コード母材40を伸線加工することで、スチールコード50を製造する。
【0155】
図4に示すように、伸線加工では、コード母材40をまずダイス411およびダイス412に通して、徐々にコード径を細める。ロール42の、スチールコード50と接する面には溝が設けられており、コード母材40をロール42の間を通過させることで加工する。こうして、コード母材40からスチールコード50が製造される。
【0156】
スチールコード50に屈曲部が形成された後に、スチールコード50が表1に示すコード径Dおよびコイル径を有するように、ロール42の数、溝の形状、および圧力を選択している。ここでは、ロール42に設けた溝は、溝の長手軸と垂直な断面において、曲率が一定な形状を有する。
【0157】
次いで、図5に示すように、伸線加工後のスチールコード50を複数のプリフォーム51間に通すことで屈曲部を形成する。スチールコード50の屈曲高さHおよびピッチPが表1に示す値となるように、複数のプリフォーム51の形状、サイズ、および配置を選択している。
【0158】
本実験例を含め、すべての実験例において、スチールコード10の屈曲高さHおよびピッチPは、スチールコード10内で一定であり、表1に示す値と一致する。スチールコードについての評価結果を表1に示す。
【0159】
(コード-ゴム複合体の製造)
表1に示すエンズとなるように、複数のスチールコード10をゴム中に埋設し、コード-ゴム複合体60を製造する。
【0160】
具体的には、図8に示したコード-ゴム複合体製造装置を用いて製造する。
【0161】
以下のリール設置工程、引き出し工程、配列工程、および埋設工程を実施することで、コード-ゴム複合体を製造する。
【0162】
リール設置工程では、複数のリール82をスチールコード供給装置81に設置する。ベルト層のゴム内に埋設するスチールコード10の数に応じて、リール82の数を設定する。各リール82には、スチールコード10が巻かれている。
【0163】
引き出し工程では、スチールコード供給装置81により、各リール82からスチールコード10が引き出され、配列装置83へと搬送される。
【0164】
配列工程では、リール82から引き出した複数のスチールコード10を、スチールコード10の長手軸と垂直な断面において一列になるように配列する。
【0165】
配列工程では、スチールコード10を通す溝が設けられたガイド板831により複数のスチールコード10を一列に配列する。
【0166】
配列工程では、各スチールコード10の連続する3つの屈曲部を含む面が水平になるように、スチールコード10を配列する。
【0167】
図9Aに示すように、スチールコード10の搬送経路上に、水平化装置832を配置する。水平化装置832は、3本のロールを含む配列ロール90である。図9Aでは、3本のロールは、第1ロール91、第2ロール92、および第3ロール93である。スチールコード10を、第1ロール91、第2ロール92、および第3ロール93に掛けて、通している。
【0168】
配列工程では、溝付きロール833により、スチールコード10の位置をさらに補正し、配列する。
【0169】
埋設工程では、カレンダーロール85により、ゴム84の中に複数のスチールコード10を配置し、カレンダー処理を行うことで、複数のスチールコード10をゴム中に埋設する。
【0170】
ゴムは、ゴム組成物から製造する。ゴム組成物は、ゴム成分と添加剤とを含む。ゴム組成物は、ゴム成分として天然ゴムを100質量部含む。ゴム組成物は、添加剤として、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを60質量部、硫黄を7質量部、加硫促進剤を0.5質量部、酸化亜鉛を8質量部、有機酸コバルトとしてステアリン酸コバルトを2質量部含む。
【0171】
本実験例のスチールコード10を用いてコード-ゴム複合体60を予め試作し、スチールコード10の位置のばらつき幅を測定する。スチールコード10の位置のばらつき幅に、予め設定した定数を加えた値をゴム厚さとしてもよい。ゴム厚さをこのようにすることにより、スチールコード10をゴムに埋設することができる。
【0172】
本実験例のコード-ゴム複合体60を製造する際には、スチールコード10の上下に配置するゴムの厚さが、予め求めておいたゴム厚さとなるように製造条件を選択する。
【0173】
スチールコード10の上に配置するゴムの厚さは図6における厚さT611に相当し、スチールコード10の下に配置するゴムの厚さは図6における厚さT612に相当する。コード-ゴム複合体60についての評価結果を表1に示す。
【0174】
[実験例2から実験例8]
スチールコードを製造する際、各実験例において、コード径D、コイル径、屈曲高さH、およびピッチPが表1に示す値となるように加工を行っている。コード径Dとコイル径は、ダイス411およびダイス412のサイズと、ロール42の圧力により調整する。屈曲高さHとピッチPは、プリフォーム51の形状、サイズ、および配置により調整する。
実験例2から実験例8では、以上の点以外は、実験例1と同じ条件でスチールコードとコード-ゴム複合体を製造している。評価結果を表1に示す。
【0175】
[実験例9]
鋼製のコード母材40を用いる。コード母材40の表面には、銅、コバルト、および亜鉛がめっきされ、ブラスめっき層が形成されている。スチールコードを製造する際、各実験例において、コード径D、コイル径、屈曲高さH、およびピッチPが表1に示す値となるように加工する。コード径D、コイル径、屈曲高さH、およびピッチPは、実験例2から実験例8と同じように調整する。
実験例9では、以上の点以外は、実験例1と同じ条件でスチールコードとコード-ゴム複合体を製造している。評価結果を表1に示す。
【0176】
[実験例10、実験例11]
スチールコードを製造する際、各実験例において、コード径D、コイル径、屈曲高さH、およびピッチPが表1に示す値となるように、加工する。コード径D、コイル径、屈曲高さH、およびピッチPは、実験例2から実験例8と同じように調整する。
実験例10と実験例11では、以上の点以外は、実験例1と同じ条件でスチールコードとコード-ゴム複合体を製造し、評価を行っている。評価結果を表1に示す。
【0177】
[実験例12から実験例18]
スチールコードを製造する際、各実験例において、コード径D、コイル径、屈曲高さH、およびピッチPが表1に示す値となるように加工する。コード径D、コイル径、屈曲高さH、およびピッチPは、実験例2から実験例8と同じように調整する。
【0178】
実験例12から実験例18では、以上の点以外は、実験例1と同じ条件でスチールコードとコード-ゴム複合体を製造している。評価結果を表1に示す。
【0179】
【表1】
表1によると、実験例2、3、4、6から11、13から15のスチールコードでは、コード径が0.20mm以上0.42mm以下であり、屈曲高さHのコード径Dに対する比(H/D)が2.2以上2.8以下である。これらの実験例のスチールコードでは、シャルピー指数が100を超え、強度低下率が5%以内である。これらの実験例のスチールコードは、外力が加わった際に破損しにくい。
【符号の説明】
【0180】
10 スチールコード
11 線材
11A 側面
12 ブラスめっき膜
D10 コード径
D10A、D10B 直径
20 直線
21、21A、21B、21C 屈曲部
22 非屈曲部
H 屈曲高さ
P ピッチ
30 試験台
31 環状部
D31 コイル径
D31A、D31B 直径
40 コード母材
411、412 ダイス
42 ロール
421A、421B、421C 上部ロール
422A、422B 下部ロール
50 スチールコード
51 プリフォーム
60 コード-ゴム複合体
60A 表面
601 第1ベルト層
602 第2ベルト層
61、63 ゴム
62 スチールコード
T611、T612 厚さ
T60 厚さ
81 スチールコード供給装置
82 リール
83 配列装置
831 ガイド板
832 水平化装置
833 溝付きロール
84 ゴム
85 カレンダーロール
90 配列ロール
91 第1ロール
92 第2ロール
93 第3ロール
94 水平化ロール
941 上部ロール
942 下部ロール
95 ダイス
951 貫通孔
H951 高さ
CL センターライン
100 タイヤ
101 トレッド部
102 サイドウォール部
103 ビード部
104 インナーライナー
105 カーカス
106 第1ベルト層
107 第2ベルト層
108 ビードワイヤー
110 試料
111 ハンマー
112 回転軸
S 初期位置
E 到達位置
HS 初期高さ
HE 到達高さ
120 試験台
120A 上面
H120 最大高さ
130 試験台
10A、10B、10C、10D、10E スチールコード
131 面
L 基準線
L10B、L10C、L10D、L10E ばらつき幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13