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特開2024-161505HLA感作患者を脱感作し患者における腎移植を改善するためのクラザキズマブの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161505
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】HLA感作患者を脱感作し患者における腎移植を改善するためのクラザキズマブの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241112BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241112BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20241112BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61P37/06
A61P31/00
A61K45/00
C07K16/24
C12N15/13
A61K39/395 N
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024135834
(22)【出願日】2024-08-16
(62)【分割の表示】P 2021524317の分割
【原出願日】2019-11-08
(31)【優先権主張番号】62/757,676
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/855,988
(32)【優先日】2019-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】398062149
【氏名又は名称】セダーズ-シナイ メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【弁理士】
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】スタンレー・シー・ジョーダン
(72)【発明者】
【氏名】アシュリー・ヴォー
(72)【発明者】
【氏名】ノリコ・アマーマン
(72)【発明者】
【氏名】ジュア・チョイ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】臓器移植を必要とする患者の脱感作の方法を提供する。
【解決手段】クラザキズマブで処置されている、不適合な腎移植を待っているヒト白血球抗原感作患者は、ドナー特異的抗体のレベルの低下または消失を示し、移植率の改善を示す。本方法の様々な実施形態での使用のために、クラザキズマブおよびバリアントが提供される。いくつかの実施形態では、クラザキズマブまたはそのバリアントを、静注用免疫グロブリンと同時にまたは順次に投与する。
【選択図】図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト白血球抗原(HLA)感作対象においてドナー特異的抗体を減少させるおよび/または除去する方法であって、
クラザキズマブ;クラザキズマブのインターロイキン-6(IL-6)結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの有効量を対象に投与すること
を含み、
該対象は、固形臓器移植を必要とするかまたは受けている、
前記方法。
【請求項2】
有効量の医薬組成物を対象に投与することであって、該医薬組成物は、
クラザキズマブ;クラザキズマブのIL-6結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドと;
1種またはそれ以上の薬学的に許容される賦形剤と
を含む、前記投与することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、固形臓器移植の前に投与する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、固形臓器移植の後に投与するか、固形臓器移植の最中に投与するか、または両方で投与する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、固形臓器移植の前後の両方で投与する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
静注用免疫グロブリン(IVIG)投与、リツキシマブ投与、血漿交換、またはこれらの組合せを含む標準治療処置を施すことをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
標準治療処置を、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドの前に施す、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
固形臓器は、腎臓である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
固形臓器は、心臓、肝臓、肺、膵臓、および腸の内の1つまたはそれ以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、皮下投与するか、または静脈内投与する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項11】
クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、少なくとも1ヶ月および最大18ヶ月にわたり、約0.1~1mg/月、1~5mg/月、5~10mg/月、10~20mg/月、20~30mg/月、または30~40mg/月の
平均用量で皮下投与する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドの複数回の用量を、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、または12ヶ月にわたり月約1回の間隔で投与する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、固形臓器移植前に1回、2回、3回、4回、5回、または6回にわたり、および固形臓器移植後に1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、または12回にわたり、約10~30mg/回の平均用量で皮下投与する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項14】
対象は、ヒトである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項15】
1種またはそれ以上の抗感染剤を対象に投与することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項16】
1種またはそれ以上の抗感染剤を、固形臓器移植と共に投与するか、または固形臓器移植の後に投与する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
抗感染剤は、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、フルコナゾール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、またはこれらの組合せを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
静注用免疫グロブリン(IVIG)投与、リツキシマブ投与、血漿交換、もしくはこれらの組合せを含む標準治療処置;抗感染剤;または標準治療処置および抗感染剤の組合せを投与することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項19】
算出されたパネル反応性抗体(cPRA)が50%以上であるヒト対象を選択すること、またはパネル反応性抗体アッセイを実行すること、およびcPRAが50%以上であるヒト対象を決定することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項20】
固形臓器移植の後、対象は、固形臓器移植の抗体媒介性拒絶反応の発生の検出可能な証拠を示さないか、ウイルス感染の発生の検出可能な証拠を示さないか、または両方である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項21】
固形臓器移植の後に、アレムツズマブ、抗胸腺細胞グロブリン、もしくは両方を含む抗体導入治療を施すこと;タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、プレドニゾン、もしくはこれらの組合せを含む免疫抑制治療を施すこと;または抗体導入治療および免疫抑制治療を施すことをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項22】
固形臓器移植を必要とする対象は、固形臓器移植を受けるか、または対象は、固形臓器移植を受けたことがあり、方法は、対象に対する1回またはそれ以上の免疫モニタリングを行なうことをさらに含み、該免疫モニタリングは、対象の血液サンプルをアッセイして、CRP、Treg、Tfh、Th17、B細胞、IL-6、形質細胞、形質芽細胞IgG、またはこれらの組合せを含むマーカーのレベルを定量することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項23】
固形臓器移植時にもしくは固形臓器移植の前に得たベースライン測定値と比較してレベルが低い1つまたは複数のマーカーに基づいて、または過去の免疫モニタリングから得ら
れたものと比較して低い1つまたは複数のレベルに基づいて、免疫モニタリングが改善を示す場合には、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドのさらなる投与を、中止するか、またはさらなる6ヶ月以下に限定し;ベースライン測定値または過去の免疫モニタリングから得られたものと比較してレベルが同等かまたは高いマーカーに基づいて、免疫モニタリングが不十分な成績を示す場合には、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドの1回またはそれ以上の用量を投与する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
固形臓器移植を必要とする対象は、固形臓器移植を受けるか、または対象は、固形臓器移植を受けたことがあり、方法は、固形臓器移植後に、糸球体濾過率、DSA,または両方の量の測定することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項25】
糸球体濾過率、DSA,または両方の量が、固形臓器移植前にまたは固形臓器移植時に測定されたベースラインレベルと比較して類似しているかまたは低い場合には、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドのさらなる投与を、中止するか、またはさらなる6ヶ月以下に限定し;糸球体濾過率、DSA,または両方の量が、ベースラインレベルと比べて高い場合には、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドの1回またはそれ以上の用量を投与する、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月8日に出願された米国仮特許出願第62/757,676号明細書および2019年6月1日に出願された米国仮特許出願第62/855,988号明細書(これらの全体が、参照により本明細書に組み入れられる)に対する35 U.S.C.§119(e)での優先権の主張を含む。
【0002】
本発明は、感作された患者における脱感作のためのおよび臓器移植の改善のための治療および処置方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書の全ての刊行物は、個々の刊行物または特許出願が参照により組み入れられることが明確にかつ個々に示されたのと同程度に、参照により組み入れられる。下記の説明は、本発明の理解に有用であり得る情報を含む。本明細書で提供されるあらゆる情報が先行技術であるかもしくは現在特許請求されている発明に関連すること、または明確にもしくは暗黙のうちに参照されているあらゆる刊行物が先行技術であることを認めるものではない。
【0004】
腎臓の同種移植の減少を加速させる原因は、多因子である。近年のデータから、カルシニューリン阻害薬(CNI)の毒性が慢性的な同種移植失敗の大部分の主な原因となっていたという長年の見解が覆されている。現在では、米国で年間合計5,000例の腎臓の同種移植失敗の大部分は同種免疫反応が原因となっていることが認識されている。失敗した同種移植に関連する費用は、医療システムにとって相当な経済的負担となり、さらには患者の寿命および生活の質を低下させる。同種移植失敗後に移植リストに戻る患者は、現在、米国における新規患者リストの4番目に大きいカテゴリーとなっている。この患者は、ヒト白血球抗原(HLA)で強く感作されており、大幅な脱感作なしに別の移植を受けられる可能性は低いことから、移植センターにとって大きな問題である。現在、このカテゴリーでは、FDA承認薬が存在しない。アロ感作(allo-sensitization)を減少させ、移植率を改善するための新規の治療法の開発は、非常に重要である。今日では、これは、移植医療の最も重要は目標の一つである。
【0005】
HLA分子は、多形性である。各HLA分子は、多形のプライベートなエピトープ(private epitope)と、複数のHLA分子により共有されるエピトープを表す多数のパブリックな決定基(public determinant)とを発現する。過去の移植、輸血、または妊娠の後の免疫化により、HLA特異的抗体の発生が引き起こされ得る。免疫遺伝学研究室の重要な責務は、移植前後の患者の血清中に存在するHLA特異的抗体を同定して分析することである。アロ抗体の特異性を知ることは、クロスマッチに適合するドナーを見出す可能性の予測に役立ち得、患者が感作しているHLA抗原を持つドナーによる移植を回避するのに役立ち得、最適なクロスマッチ法を選択するのに役立ち得、および/または臨床的に無関係な抗体を除外することによりドナーとの偽陽性クロスマッチを回避するのに役立ち得る。
【0006】
HLA抗原に対する抗体は、同種移植片の損傷および喪失の媒介に強い影響を及ぼし、世界中の腎移植リスト上の数千例の患者にとっては、依然として、成功裏の移植への持続的で多くの場合には頑強な障害となっている。事前に形成されているかまたはデノボのドナー特異的抗体(DSA)は、補体を活性化し、内皮細胞の増殖を誘発し、抗体依存性細
胞傷害性(ADCC)を媒介し、これにより、レシピエントは高度にHLA感作され、同種移植片への持続的な免疫攻撃に悩まされ、間質性線維症、尿細管萎縮(IF/TA)、ならびに同種移植片の機能不全および喪失が進行する。透析に戻る患者は、次の移植を受ける望みがほとんどなく、透析中に死亡するリスクがより高くなることが多い。DSAはまた、同種移植片でのアテローム性動脈硬化を促進し、そのため腎臓の血管死を早めることも知られている。
【0007】
感作患者での腎移植率を増加させるために、HLA脱感作の新規のプロコトルが登場している。このアプローチは、静注用免疫グロブリン(IVIG)、リツキシマブ、および血漿交換(plasma exchange)(血漿交換(plasmapheresis)、PLEX)の適用を必要とする。移植時の抗体減少を改善するためのより安価でより利便な新規の免疫調節剤を開発することへの関心が高まっている。
【0008】
既存のIVIG関連の治療は、主に、2種の脱感作レジメン(即ち、血漿交換を伴う低用量静注用免疫グロブリン(IVIG/PLEX)、および高用量IVIG(HD-IVIG))を有する。IVIG/PLEXは、ABO不適合なおよび陽性クロスマッチ(+CMX)の生体ドナー腎移植で成功裏に使用されており、HD-IVIGは、待機リスト上の生体ドナー+CMSレシピエントおよび高HLA感作死後ドナー(HS-DD)レシピエントの両方を脱感作するのに使用されている。複数回の投与レジメンでのHD-IVIG(2g/kg)は、脱感作のための合理的なアプローチと見なされる。B細胞除去剤であるリツキシマブは、HD-IVIGプロトコルおよびIVIG/PLEXプロトコルと組み合わせて使用されることが多い。IVIG/リツキシマブプロトコルでのリツキシマブは、アロ反応性B細胞を改変してDSAのリバウンドを防ぎ得ることが分かっている。
【0009】
既存の脱感作レジメンの主な問題は、IVIGおよびリツキシマブが検査血清中に存在する場合でのCMXおよびDSAの結果の解釈にある。2mg/kg(最大140グラム)の用量で投与されたIVIGは、DSAに関するLUMINEX検査に干渉する可能性が高く、偽陽性の結果をもたらす。これは、IVIGの半減期が30~40日であることから、理論的には、LUMINEX単一抗原ビーズ(LSA)検査の実施をIVIG投与後少なくとも1ヶ月待つことにより回避し得る。リツキシマブは、LSA検査プラットフォームに干渉しないが、DSAに起因すると誤って解釈される場合がある「偽陽性」CDC+およびフローサイトメトリークロスマッチ(FCMX)陽性のB細胞クロスマッチを生じる。FCMXおよびCDC検査前のB細胞のプロナーゼ処理により、一般に、リツキシマブの効果が減少するが、常にこれを当てにできるわけではない。
【0010】
アロ抗体は、救命臓器移植へのアクセスおよび成功の大きな妨げである。脱感作の進歩にもかかわらず、病原性抗HLA抗体を除去するための効率的で効果的な手段を設計することは、依然として重要な医学的課題である。既存の脱感作プロトコルには、多くの注目すべき欠陥が存在する。例えば、現在の治療は、移植前にDSAを実質的に完全には除去できないために、急性拒絶反応のリスクがある。同種移植片への急性および慢性の損傷を伴う、移植後にリバウンドDSA形成のリスクもある。現在のプロトコルのいくつか(特に、補体阻害剤を用いて慢性の抗体媒介性拒絶反応(cABMR)を予防するもの)は、未だに、望ましい転帰を得ることができない。したがって、患者が救命臓器移植を受けることが可能となるであろうレベルまで既存のHLA抗体を減少させるかまたは除去する能力を改善するという、満たされていない医療ニーズが存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、HLA感作対象の固形臓器移植率を改善するために、既
存の標準的な脱感作処置との併用のための、この脱感作処置の改善のための、またはこの脱感作処置の代替での使用のための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
下記の実施形態およびその態様は、範囲を限定するものではなく例示的であり、例証であることが意味されている組成物および方法と共に、説明されており、図示されている。
【0013】
ヒト白血球抗原(HLA)感作ヒト対象においてドナー特異的抗体を減少させるためのおよび/またはこの対象における脱感作のための方法が提供される。この方法は、クラザキズマブ(clazakizumab);クラザキズマブのIL-6結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの有効量をこの対象に投与することを含み、この対象は、固形臓器移植を必要とするかまたは受けている。様々な実施形態では、対象はヒトであることが提供される。
【0014】
一実施形態では、本明細書で開示されているクラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、移植の前に投与する。別の実施形態では、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、移植の後に投与する。さらに別の実施形態では、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、移植の前後の両方で投与することが提供される。
【0015】
本開示の方法のいくつかの実施形態では、本明細書で開示されているクラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドの投与に加えて、静注用免疫グロブリン(IVIG)投与、リツキシマブ投与、血漿交換、またはこれらの組合せを含む標準治療処置を施すことが提供される。一態様では、この標準治療処置を、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドの前に施す。別の態様では、この標準治療処置を、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドの投与と同時にまたはこの投与の後に施す。
【0016】
一実施形態では、本方法は、腎移植を待っているHLA感作ヒト患者を脱感作させるためのものであり、この方法は、本明細書で開示されているクラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドの有効量を投与することを含むことが提供される。別の実施形態では、腎移植を待っているHLA感作ヒト患者を脱感作させる方法は、有効量の(1)本明細書で開示されているクラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチド、(2)標準治療処置、例えば、IVIG、血漿交換、リツキシマブ、またはこれらの組合せ、および場合により(3)抗感染剤を投与することを含むことが提供される。
【0017】
他の実施形態では、本方法の1つまたはそれ以上は、心臓、肝臓、肺、膵臓、または腸を含む他の固形臓器移植のためにHLA感作ヒト患者を脱感作させるためのものであることが提供される。
【0018】
一実施形態では、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドを、移植前に、1回、2回、3回、4回、5回、または6回にわたり、および移植後に4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、または12回にわたり、約1~5、5~10、10~20、または20~30mg/回の平均用量で皮下投与し、対象は、処置前と比較して処置後にドナー特異的抗体の量が減少している。様々な態様では、移植後の本明細書で開示されているクラザキズマブ、その抗原結合断片、またはポリペ
プチドを月約1回の間隔で投与することが提供される。一実施形態では、移植前にクラザキズマブ、IVIG、および血漿交換の1回の用量を対象に投与し、続いて、移植後にクラザキズマブの6回の用量または12回の用量を対象に投与することが提供される。様々な実施形態では、本開示の方法は、HLAで感作されており、腎移植を必要とするかまたは受けているヒト対象に、本明細書で開示されているクラザキズマブ、その抗原結合断片、またはポリペプチドを投与することを含み、この対象のクレアチニンレベルは、処置前と比較して処置後に低下しており、ドナー特異的抗体が存在しないかもしくはこの存在が検出不能であり、および/またはこの対象は、抗体媒介性拒絶反応の検出可能な症状もしくは発症の証拠を有しない(例えば、血清クレアチニンおよび推定糸球体ろ過率により測定される同種移植片機能の悪化がない;毛細血管炎、炎症、もしくは補体(C4d)沈着の検出可能な証拠がない)ことが提供される。実施形態のさらなる態様では、対象のクレアチニンレベルは低下しており、本明細書で開示されているクラザキズマブ、その抗原結合断片、またはポリペプチドの投与と同時にまたはこの投与の後に、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月にわたり、またはより長く、低下したレベルを維持することが提供される。
【0019】
HLA感作対象を脱感作し、移植率を増加させるためのHLA感作対象への投与での使用のための医薬組成物も提供される。この医薬組成物は、本明細書で開示されているクラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドと、薬学的に許容される賦形剤(例えば、アミノ酸、ソルビトール、および希釈剤)とを含む。
【0020】
様々な実施形態では、HLAで感作されており、不適合の腎移植を待っている患者におけるクラザキズマブの使用であって、DSA、補体依存性細胞傷害(CDC)、および/または抗体依存性細胞傷害(ADCC)が減少するかまたは除去される(例えば、血清においてDSAが減少するかまたは除去される)、使用が提供される。いくつかの実施形態では、クラザキズマブで処置されている患者は移植に適しており、抗体反応の可能性が低い。
【0021】
いくつかの態様では、本開示の方法の内の1つまたはそれ以上は、HLAで感作されており、不適合の死後ドナー(DD)または生体ドナー(LD)の腎移植を待っている哺乳類(例えばヒト)患者を選択することをさらに含むことが提供される。
【0022】
本発明の他の特徴および利点は、本発明の実施形態の様々な特徴を例として示す添付の図面と併せて、下記の詳細な説明から明らかになるだろう。
【0023】
例示的な実施形態を、参照図面に示す。本明細書で開示されている実施形態および図面は、制限的ではなく例示的であると見なされことになっていることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】対象「ClazaDES01」に関する試験でのDSAプロファイルを示し、この対象は、生検で証明された巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)に続発する末期腎不全(ESRD)の病歴がある50歳のアフリカ系アメリカ人女性であり、2008年11月から透析を受けており(即ち、B+血液型に関する約10年の待機期間)、算出されたパネル反応性抗体(cPRA)は58%である。患者の感作事象には、4回の妊娠期間および輸血が含まれた。
図2】移植前後の対象「ClazaDES05」に関するDSAプロファイルを示す。(蛍光強度中央値、MFI)。対象「ClazaDES05」は、IgA腎症に続発するESRDの病歴がある36歳の女性であり、2008年6月から透析を受けており(即ち、A+血液型に関する約10年の待機期間)、cPRAは100%である。患者の感作事象には、過去の移植および輸血が含まれた。対象「ClazaDES05」は、クラザキズマブの4回の用量の後に、死後ドナーからの腎移植を受けた。患者は、移植前後に2種のDSAを有した(クラスIおよびII)。DSA強度は、クラスIの場合には移植時のMFI>12,500MFIから移植後10日でのMFI=0まで減少し、クラスIIの場合には移植時のMFI>17,500から移植後10日でのMFI>3250まで減少した。試験プロトコルに従って、患者に、移植後6ヶ月にわたり月1回のクラザキズマブを継続した。
図3A】クラザキズマブ脱感作試験における全体的なC反応性タンパク質の量を示す。全体として、C反応性タンパク質(CRP)は、2ヶ月でベースラインからほぼゼロまで減少した。各時点での分析に含まれる対象の数を、括弧内に示す。
図3B】ベースラインから7ヶ月目までのクラザキズマブ脱感作試験における個々のC反応性タンパク質の量を示す。
図4】血漿交換(PLEX)前(PLEX前)からクラザキズマブの5回目の用量までの経時的なMFIの合計を示す(N=9)。典型的には、MFIは、PLEX/IVIGの完了後に約1~3ヶ月で回復する傾向がある。ここで、月1回のクラザキズマブ注射により、MFIの合計は、PLEX前と比較した場合に経時的に減少し続けた。現在までに、3例の患者が移植を受けた。患者ClazaDES01およびClazaDES03は、クラザキズマブの1回目の用量後に移植を受けた。患者ClazaDES05は、クラザキズマブの4回目の用量後に移植を受けた。
図5】腎移植の前にHLA感作患者を脱感作するための例示的な方法の概要を示す。患者は、クラザキズマブの最大6回の用量を受け、同時に、試験中の選択された時点で、抗HLA抗体(DSAレベル)、Treg細胞、および形質芽細胞をモニタリングする。例えば、7日目を除いて、0日目を含む全ての時点で、DSAレベルを収集する。0日目を除いて、ベースライン(-15日)を含む全ての時点で、C反応性タンパク質(CRP)および定量的免疫グロブリン(QIC)の量を収集する。加えて、ベースライン(-15日)および180日目に、下記を収集する:CD4+/CD25+/Fox P3+/CD127低細胞数(Tregs);Th17+細胞数;およびCD19+/CD38+/CD27+/IL-6+(形質芽細胞)。180日目前に移植を受ける対象に関しては、移植前に、専門の検査を実施する。180日前に移植を受ける対象に関しては、移植前に、移植0日目に専門の検査を行なう。維持のために、標準的なレジメンは、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、およびステロイドを含む。
図6】ドナー特異的抗体を減少させるための移植後の予防および/または処置のための例示的な方法の概要を示す。図5で例示されている移植前処置後の態様では、IVIGおよびクラザキズマブを、移植後に投与する(図6では、移植日は0日目である)。DSAレベルを、0日目、90日目、および180日目にモニタリングし、2回目の投与を受けている人では、270日目にもモニタリングする。CRPおよびQIGのレベルを、0日目、30日目、60日目、90日目、120日目、150日目、および180日目に収集し、2回目の投与を受けている人では、240日目および300日目にも収集する。移植後180日目(約6ヶ月目)に、下記のレベルを収集する:CD4+/CD25+/Fox P3+/CD127低細胞数(Tregs);Th17+細胞数;およびCD19+/CD38+/CD27+/IL-6+(形質芽細胞)。(サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス、ポリオーマウイルス、BKウイルス、JCウイルス、およびパルボウイルスB19に関する)ウイルスPCT検査を、30日目、90日目、180日目に実施し、患者が2回目の投与を受けている場合には、270日目、330日目にも実施する。維持のために、標準的なレジメンは、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、およびステロイドを含む。「追加の計画」は、患者が、a)6M プロトコル生検Banff 2015読み取り;b)糸球体濾過率(GFR);c)DSAでの安定を示すかまたは改善を示す場合には、患者は、さらに6回の用量にわたり月1回のクラザキズマブ(約180日目、210日目、240日目、270日目、300日目、および330日目)を継続することになることを含む。
図7】実施例の試験における患者「ClazaDES03」に対する処置の時系列と、処置前から処置後までのこの患者のクレアチニンレベル(mg/dL)とを示す。
図8】患者「ClazaDES03」の移植後約2ヶ月での腎移植生検(尿細管傷害、動脈硬化、および非常に局所的な尿細管炎を含む)を示す。
図9】患者「ClazaDES03」の移植後約6ヶ月での腎移植生検(急性尿細管壊死、まれな同じ大きさの空胞(rare isometric vacuole)、および軽度の尿細管間質性炎症を含む)を示す。
図10図10A-Bは、脱感作前および移植後(Tx後)でのフローパネル反応性抗体検査(フロー-PRA)クラスI/クラスIIをそれぞれ示す。
図11】クラザキズマブを投与された対象DES03に関する脱感作前と移植後約6~12ヶ月での最後のフォローアップ(F/U)とでの、様々なマーカーのHLAクラスI &クラスII抗体と全体量とを示す。移植時および移植後では、DSAを検出しなかった。
図12-1】図12A-12Cは、クラザキズマブを投与された対象DES05に関する脱感作前および移植後での、様々なマーカーのHLAクラスI&クラスII抗体と全体量とを示す。
図12-2】図12-1の続き。
図13-1】図13A-13Cは、クラザキズマブを投与された対象DES07に関する脱感作前および移植後での、様々なマーカーのHLAクラスI&クラスII抗体と全体量とを示す。
図13-2】図13-1の続き。
図14】対象DES02(移植を受けていない)に関する脱感作前およびクラザキズマブ後での、様々なマーカーのHLAクラスI&クラスII抗体と全体量とを示す。
図15】対象DES09(移植を受けていない)に関する脱感作前およびクラザキズマブ後での、様々なマーカーのHLAクラスI&クラスII抗体と全体量とを示す。
図16】全ての試験患者(N=10)に関するクラザキズマブ前後でのHLAクラスI&クラスII抗体を示す。
図17-1】図17A-Cは、移植を受けた患者(N=8)に関するクラザキズマブ前後でのHLAクラスI抗体(図17A)、クラスII抗体(図17B)を示す(図17Cにおいてまとめて比較している)。
図17-2】図17-1の続き。
図18】脱感作前、移植時、および移植後でのクラスI&クラスIIに関して、個々の患者に関するDSAを示す(N=8)。
図19】脱感作前、移植時、&移植後でのクラスI&クラスIIに関して、平均DSA MFIを示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書で引用されている全ての参考文献は、完全に記載されているかのように、その全体が参照により組み入れられる。別途定義しない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者により一般に理解されるのと同じ意味を有する。Singleton et al.,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 3rd ed.,Revised,J.Wiley & Sons(New York,NY 2006);March,Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure 7th ed.,J.Wiley & Sons(New York,NY 2013);およびSambrook and Russel,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 4th ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(Cold Spring Harbor, NY 2012)は、本出願で使用される用語の内の多くの一般的なガイドを当業者に提供する。抗体を調製する方法の参考のために、D.Lane,Antibodies:A Labora
tory Manual 2nd ed.(Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor NY, 2013);Kohler
and Milstein,(1976)Eur.J.Immunol.6:511;Queen et al.米国特許第5,585,089号明細書;およびRiechmann et al.,Nature 332:323(1988);米国特許第4,946,778号明細書;Bird, Science 242:423-42(1988);Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883(1988);Ward et al.,Nature 334:544-54(1989);Tomlinson I.and Holliger P.(2000)Methods Enzymol,326,461-479;Holliger P.(2005)Nat.Biotechnol.Sep;23(9):1126-36)を参照されたい。
【0026】
当業者は、本発明の実施で使用される可能性がある、本明細書で説明されているものと類似のまたは等価の多くの方法および物質を認識するだろう。実際に、本発明は、説明されている方法および物質に決して限定されない。本発明の目的のために、下記の用語が下記で定義される。
【0027】
用語「移植率」は、概して、1年間の間に、待機リスト上の100例の患者毎に移植を受ける患者の数を指す。いくつかの態様では、この移植率は、あるプログラムの待機リスト上の患者がどの程度の頻度で移植を受けるかの尺度である。数字を比較しやすくするために、いくつかの態様では、この率は、「100例の患者当たり/年」と記載されており、この記載は、この率が、正規化されて、1年間にわたりリスト上に100例の患者がいた場合に移植を受けた患者の数となっていることを意味する。例えば、100例の患者当たり5例/年の移植率は、1年にわたり、リスト上の100例の患者毎に5例の移植が実施されることを意味する。これは正規化された率であることから、数字は、例えば100例の患者当たり5.1例/年のように、小数を含む場合がある。このことは、1年間の間に、リスト上の100例の患者毎に5例をわずかに超える患者が移植を受けると予想されることを意味する。
【0028】
クロスマッチ陽性(+CMX)は、潜在レシピエントの血清中におけるドナー特異的アロ抗体(DSA)の存在を示し、80%超える移植片喪失率に関連することが多い。
【0029】
実施例の試験における「HLA感作(HS)患者」は、移植臓器供給米国ネットワーク(United Network for Organ Sharing)(UNOS)待機リスト上の腎移植を待つ患者であって、算出されたパネル反応性抗体(cPRA)またはクロスマッチ不適合ドナーの可能性の割合が50%以上であり、様々な実施形態において、LUMINEXビーズ技術を使用して実証可能なDSAも有し、感作事象歴(例えば、過去の移植、輸血、および/または妊娠)も有する患者を指す。患者の血清を、HLAタイプのドナーのパネルからの細胞に対して試験するか、または固体支持体に付着した可溶化HLA抗原に対して試験するかにより、HLA特異的抗体の存在を決定し得る。一般に、HLA感作患者は、cPRAが10%、20%、30%、40%、または50%以上である患者を指す。
【0030】
「対象」は、ヒトまたは動物を意味する。通常、この動物は、霊長類、齧歯類、飼育動物、または狩猟動物等の脊椎動物である。霊長類として、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、およびマカクが挙げられ、例えばアカゲザルが挙げられる。齧歯類として、マウス、ラット、ウッドチャック、フェレット、ウサギ、およびハムスターが挙げられる。飼育動物および狩猟動物として、ウシ;ウマ、ブタ、シカ、バイソン、バッファロー、ネコ科の種(例えばイエネコ)、およびイヌ科の種(例えば、イヌ、キツネ、オオカミ)が
挙げられる。「患者」、「個体」、および「対象」という用語は、本明細書では互換的に使用される。ある実施形態では、対象は動物である。この動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシであり得るが、これらの例に限定されない。加えて、本明細書で説明されている方法を使用して、飼育動物および/またはペットを処置し得る。
【0031】
「処置する(treat)」、「処置」、「処置する(treating)」、または「軽快」という用語は、治療的処置を指し、この目的は、疾患または障害に関連する状態の進行または重症度を反転させるか、軽減するか、軽快させるか、阻害するか、遅延させるか、または停止させることである。「処置する」という用語は、状態、疾患、または障害の少なくとも1つの悪影響または症状(例えば、癌性悪液質に起因する体重減少または筋肉減少)を減少させるかまたは軽減することを含む。処置は、一般に、1つまたはそれ以上の症状または臨床マーカーが減少する場合に「有効」である。或いは、処置は、疾患の進行が抑えられるかまたは停止する場合に「有効」である。即ち、「処置」には、症状またはマーカーの改善だけでなく、処置を行なわない場合に予測されるであろう進行の少なくとも遅延の停止または症状の悪化も含まれる。有益なまたは望ましい臨床結果として下記が挙げられるが、これらに限定されない:1つまたはそれ以上の症状の軽減、疾患の程度の減弱、疾患の状態の安定化(即ち、悪化しないこと)、疾患の進行の遅延または減速、疾患状態の軽快または緩和、および検出可能なままたは検出不能な(部分的なまたは全体的な)寛解。疾患の「処置」という用語にはまた、疾患の症状または副作用の緩和(緩和処置を含む)をもたらすことも含まれる。
【0032】
「抗体」という用語は、インタクトな免疫グロブリンを指すか、または本明細書では「Fc断片」もしくは「Fcドメイン」と称されるFc(結晶化可能な断片)領域もしくはFc領域のFcRn結合断片を有するモノクローナル抗原結合断片もしくはポリクローナル抗原結合断片を指す。抗原結合断片は、組換えDNA技術により作製されてもよいし、インタクトな抗体の酵素的開裂または化学的開裂により作製されてもよい。抗原結合断片として、とりわけ、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、dAb、および相補的決定領域(CDR)断片、一本鎖抗体(scFv)、単一ドメイン抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、およびポリペプチドであって、このポリペプチドへの抗原の特異的結合を付与するのに十分な、免疫グロブリンの少なくとも一部を含むポリペプチドが挙げられる。Fcドメインは、抗体の2つまたは3つのクラスに寄与する2本の重鎖の一部を含む。Fcドメインは、組換えDNA技術により作製されてもよいし、インタクトな抗体の酵素的開裂(例えばパパイン開裂)または化学的開裂により作製されてもよい。抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であり得る。抗体は、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、またはIgG4抗体であり得る。いくつかの態様では、本明細書の抗体は、エフェクター機能、半減期、タンパク質分解、またはグリコシル化の内の少なくとも1つを変更するように改変されているFc領域を有する。
【0033】
「抗体断片」という用語は、インタクトな抗体の一部のみを含むタンパク質断片であって、一般にはインタクトな抗体の抗原結合部位を含み、そのため抗原に結合する能力を保持するタンパク質断片を指す。この定義に包含される抗体断片の例として、下記が挙げられる:(i)Vドメイン、Cドメイン、Vドメイン、およびCH1ドメインを有するFab断片;(ii)CH1ドメインのC末端で1つまたはそれ以上のシステイン残基を有するFab断片であるFab’断片;(iii)VドメインおよびCH1ドメインを有するFd断片;(iv)VドメインおよびCH1ドメインを有し、このCH1ドメインのC末端で1つまたはそれ以上のシステイン残基も有するFd’断片;(v)抗体の単一アームのVドメインおよびVドメインを有するFv断片;(vi)VドメインからなるdAb断片;(vii)単離CDR領域;(viii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFab’断片を含む二価断片であるF(ab’)2断片;
(ix)一本鎖抗体分子(例えば、一本鎖Fv、scFv);(x)同一のポリペプチド鎖中で軽鎖可変ドメイン(V)に接続された重鎖可変ドメイン(V)を含む、2つの抗原結合部位を有する「二重特異性抗体」;(xi)相補的な軽鎖ポリペプチドと一緒に一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(V-CH1-V-CH1)を含む「直鎖状抗体(linear antibody)」。抗体または抗体断片は、scFv、ラクダ抗体(camelbody)、ナノボディ、IgNAR(サメに由来する一本鎖抗体)、およびFab断片、Fab’断片、またはF(ab’)断片であり得る。
【0034】
「選択的に結合する」または「特異的に結合する」は、本明細書で説明されている抗体またはその抗体断片の、K 10-5M(10000nM)以下(例えば、10-6M、10-7M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、10-12M、またはより低い)で標的(例えば、細胞表面上に存在する分子)に結合する能力を指す。特異的な結合は、例えば、ポリペプチド剤の親和性および結合活性ならびにポリペプチド剤の濃度の影響を受ける可能性がある。当業者は、本明細書で説明されているポリペプチド剤が、適切な細胞結合アッセイにおけるポリペプチド剤の滴定等の任意の適切な方法を使用して標的に選択的に結合する適切な条件を決定し得る。
【0035】
「無効な」処置は、対象に処置が施された場合に症状の改善が5%未満であることを指す。特許請求の範囲で具体的に記載されている場合には、無効な処置は、症状の1%、2%、3%、4%、6%、7%、8%、9%、または10%未満の改善を指し得る。
【0036】
「有害事象」、有害事象は、要因にかかわらず、試験中の医薬品(IMP)または他のプロトコルにより課せられた介入の使用に一時的に関連するあらゆる望ましくなく、意図されていない兆候、症状、または疾患である。有害事象は、医薬品と関連すると見なされるかどうかに関わりなく、医薬品の使用に一時的に関連するあらゆる望ましくなく、意図されていない兆候(異常な検査所見)、症状、または疾患であり得る。外科手術は、有害事象ではなく、手術を必要とする症状の治療的手段である。しかしながら、手術が必要な状態は、本実施例での試験中に生じたかまたは検出された場合には、有害事象である。計画された手術手段と、この手段に至る状態とは、試験の処置の開始前にこの状態が分かっていた場合には有害事象ではない。後者の場合には、この状態を、病歴として報告すべきである。
【0037】
持病は、本試験の開始時に存在するものである。この試験中に悪化した持病は、有害事象と見なされる。持病は、この試験期間中に状態の頻度、強度、または特徴が悪化した場合には、有害事象と記録すべきである。
【0038】
「異常な検査所見」、下記の基準の内のいずれか1つを満たす異常な検査所見は、有害事象とみなすべきである:
検査結果が、随伴症状に関連する;
検査結果が、追加の診断試験または医学的/外科的な介入を必要とする;
検査結果が、試験処置投与の変化(例えば、用量の変更、中断、もしくは永続的な中止)、または併用薬処置(例えば、追加、中断、もしくは中止)、または付随する医薬もしくは治療の任意の他の変化につながる;
検査結果が、重篤な有害事象の定義に含まれる転帰のいずれかにつながる(注記:これは、重篤な有害事象と報告されるだろう);
検査結果が、治験責任医師により有害事象とみなされる。
【0039】
基準範囲外であり、上記の基準の内の1つを満たさない検査結果は、有害事象として報告すべきではない。上記の条件の非存在下での異常な検査を繰り返しても、有害事象は構
成されない。エラーであると決定される任意の異常な検査結果は、有害事象として報告する必要はない。
【0040】
「重篤な有害事象」、重篤な有害事象(SAE)は、任意の用量で下記の通りであるあらゆる有害な医療上の発生である:
致命的である(死亡に至る);
生命を脅かしている:有害事象が発生した場合に、患者は、この有害事象から直ちに死亡のリスクがあった。これには、より深刻な形で発生したかまたは継続した場合には死亡に至る可能性があった事象は含まれない;
入院が必要であるか、または既存の入院の延長が必要である;
持続的なまたは顕著な障害/能力喪失に至る;
先天的異常/先天性欠損である(本試験処置に曝露された患者の子供の場合);
死亡に至らないか、生命を脅かしていないか、または入院を必要としない場合がある重要な医学的事象は、適切な医学的判断に基づいて、この事象が対象を危険にさらす場合があり、この定義に列挙された転帰の内の1つを防ぐために医学的介入または外科的介入を必要とする場合には、SAEとみなされ得る。そのような事象の例は、入院に至らないアレルギー性気管支痙攣、血液疾患、もしくは痙攣、または薬物依存もしくは薬物乱用の発生に関する緊急治療室または自宅での集中処置である。
【0041】
入院に至る有害事象は、重篤とみなされる。医療機関への最初の入院または病院内での急性/集中治療室への移動にいたるあらゆる有害事象は、重篤と見なされる。
【0042】
引き金となる臨床有害事象がない入院または入院の延長は、それ自体は重篤な有害事象ではない。重篤な有害事象と見なされない例として、下記が挙げられる:(1)新たな有害事象の発症または既存の状態の悪化に関連しない既存の状態の処置のための入院、(2)社会的なまたは行政的な入院、(3)引き金となる臨床有害事象に関連しない任意の入院、(4)事前に計画された処置または外科手術は、ベースラインの文書に記載すべきではない。
【0043】
全ての有害事象には、研究者による重症度の評価が必要である。下記の基準を使用して重症度が評価される:
軽度:不快感に気付くが、通常の日常の活動に支障はない;
中程度:日常の活動を減少させるかまたはこの活動に影響を及ぼすのに十分な不快感;および
重度:仕事をするかまたは日常の活動を行なうことができない。
【0044】
同義語ではない用語「重篤」と用語「重度」との差異を明確にするために、「重度」という用語は、軽度、中程度、または重度の心筋梗塞等の特定の事象の強度(重症度)を説明するために使用されることが多いことに留意されたい。しかしながら、この事象自体は、重度の頭痛等の比較的軽微な医学的意義の場合がある。これは、患者の生命または機能にとっての脅威をもたらす事象に通常は関連する患者/事象の転帰または行動の基準に基づく「重篤」と同一ではない。重篤度(重症度ではない)は、規制当局による報告義務を定義するための指針としての役割を果たす。
【0045】
因果関係の評価は、本試験の処置が有害事象を引き起こすかまたはこの有害事象の一因となった合理的な可能性が存在するかどうかを決定することである。「関連していない」とは、試験の処置の投与との時間的な関連が失われているかもしくは信じがたいことを説明するか、または別の原因の証拠が存在することを説明する。「関連の可能性が低い」とは、試験の処置の投与との時間的関係からの因果関係が信じがたく、他の薬物、化学物質、または基礎疾患がもっともらしい説明を提供することを説明する。「関連の可能性があ
る」は、試験の処置の投与との合理的な時間的順序を説明するが、この事象は、他の薬物または化学物質の併発症によっても説明され得た。薬物の離脱に関する情報は、不足しているかまたは不明確な場合がある。「確かな関連」は、試験の処置の投与とのもっともらしい時間的な関連を説明し、事象は、併発症または他の薬物もしくは化学物質では説明され得なかった。薬物の中断(薬物投与中断)への反応は、臨床的に妥当であるべきである。この事象は、必要に応じて十分な再チャレンジの手順を使用して、薬理学的または現象学的に確定されなければならない。
【0046】
インターロイキン-6は、炎症、ならびにT細胞、B細胞、および形質細胞の発生、成熟、および活性化の重要なメディエータである。過剰なIL-6産生は、過剰で無秩序な抗体産生および自己免疫を特徴とする多くのヒト疾患と関連している。
【0047】
HLA感作対象を脱感作するための、ドナー特異的抗体の量を減少させるための、および/または臓器移植率もしくは移植生存率を改善するための本開示の方法は、クラザキズマブ;またはクラザキズマブもしくはクラザキズマブの相補性決定領域(CDR)に対して少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の配列相同性(同一性)を共有する抗体もしくはその抗原結合断片の有効量を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態は、これらの方法の内の1つまたはそれ以上が、IVIGの有効量または血漿交換を投与することをさらに含むことを提供する。
【0048】
クラザキズマブは、インターロイキン-6を標的とする(ウサギ親抗体からの)グリコシル化ヒト化モノクローナル抗体である。クラザキズマブのペプチド配列および構造の情報は、IMGT/mAb-db record #414から入手可能である。BLASTによるペプチド配列分析から、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第8,062,864号明細書で特許請求されているペプチドとの完全な一致が明らかである。クラザキズマブおよびそのバリアントのさらなる説明は、全体が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第7,935,340号明細書で示されており、この抗体または抗体断片は、同種移植片の移植を受ける必要があるかまたは受けている対象においてドナー特異的抗体を減少させるかまたは除去するための本明細書で開示されている方法に適している。例えば、この抗体は、配列番号1(V CDR1)、配列番号2または3(V CDR2)、および配列番号4(V CDR3)にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有する。この抗ヒトIL-6抗体は、配列番号8、9、または10に含まれる可変重鎖と、配列番号11または12に含まれる可変軽鎖とを含む。
Asn-Tyr-Tyr-Val-Thr(配列番号1)
Ile-Ile-Tyr-Gly-Ser-Asp-Glu-Thr-Ala-Tyr-Ala-Thr-Trp-Ala-Ile-Gly(配列番号2)
Ile-Ile-Tyr-Gly-Ser-Asp-Glu-Thr-Ala-Tyr-Ala-Thr-Ser-Ala-Ile-Gly(配列番号3)
Asp-Asp-Ser-Ser-Asp-Trp-Asp-Ala-Lys-Phe-Asn-Leu(配列番号4)
Gln-Ala-Ser-Gln-Ser-Ile-Asn-Asn-Glu-Leu-Ser(配列番号5)
Arg-Ala-Ser-Thr-Leu-Ala-Ser(配列番号6)
Gln-Gln-Gly-Tyr-Ser-Leu-Arg-Asn-Ile-Asp-Asn-Ala(配列番号7)。
【0049】
可変重鎖配列は、下記に記載されている:配列番号8-METGLRWLLLVAVLKGVQCQSLEESGGRLVTPGTPLTLTCTASGFSLSNY YVTWVRQAPGKGLEWIGIIYGSDETAYATWAIGRFTISKTSTTVDLKMTS LTAADTATYFCARDDSSDWDAKFNLWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPS SKSTSGGTAALGCLVK。
【0050】
置換された可変重鎖配列は、下記に記載されている:配列番号9-EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFSLSNYYVTWVRQAPGKGLEWVGIIYGSDETAYATWAIGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDDSSDWDAKFNL。
【0051】
別の置換された可変重鎖配列は、下記に記載されている:配列番号10-EVQLVESGGGLVQPGGSLRLSCAASGFSLSNYYVTWVRQAPGKGLEWVGIIYGSDETAYATSAIGRFTISRDNSKNTLYLQMNSLRAEDTAVYYCARDDSSDWDAKFNL。
【0052】
可変軽鎖配列は、下記に記載されている:配列番号11-MDTRAPTQLLGLLLLWLPGARCAYDMTQTPASVSAAVGGTVTIKCQASQS INNELSWYQQKPGQRPKLLIYRASTLASGVSSRFKGSGSGTEFTLTISDL ECADAATYYCQQGYSLRNIDNAFGGGTEVVVKRTVAAPSVFIFPPSDEQL KSGTASVVCLLNN。
【0053】
置換された可変軽鎖配列は、下記に記載されている:配列番号12-IQMTQSPSSLSASVGDRVTITCQASQSINNELSWYQQKPGKAPKLLIYRASTLASGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPDDFATYYCQQGYSLRNIDNA。
【0054】
クラザキズマブは、約4pMの親和性でヒトIL-6に結合する遺伝子操作されたヒト化免疫グロブリンG1(IgG1)抗体である。IL-6単独(古典的シグナル伝達を測定するため)およびIL-6とsIL-6Rとの組合せ(トランスシグナル伝達を測定するため)に反応するシグナル伝達および細胞機能に関する複数のアッセイを使用して、クラザキズマブが、シグナル伝達因子および転写活性化因子3(STAT3)のリン酸化、ならびに細胞増殖、分化、活性化、免疫グロブリンのB細胞産生、および急性期タンパク質(C反応性タンパク質[CRP]およびフィブリノーゲン)の肝細胞産生等の細胞機能により測定した場合に、IL-6により誘発されるシグナル伝達の強力で完全なアンタゴニストであることが実証された。加えて、クラザキズマブは、IL-6により誘発される細胞増殖の競合的アンタゴニストであることが分かっている。
【0055】
クラザキズマブは、同種移植片に対する破壊的なアロ抗体反応に対処し得、高HLA感作患者に関する腎移植率を改善するための脱感作剤として有用であり得る幅広い免疫調節作用を示す。クラザキズマブは、関節リウマチの患者で広く評価されているが、あらゆる状態に関してFDAによりまだ承認されていない。IL-6/IL-6R遮断薬の導入以来、IL-6/IL-6R経路の阻害は、全身性エリテマトーデス(SLE)および他の血管炎障害で顕著に有益であり得、処置され患者では抗体産生細胞が減少することが報告されている。現在、不適合(HLAi)移植を待つ高感作患者でのまたは抗体媒介性拒絶反応の処置のためのクラザキズマブの情報はない。
【0056】
今日まで、健康な対象でのクラザキズマブの研究、ならびに関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎(PsA)、クローン病、移植片対宿主病(GVHD)、および腫瘍を有する
対象でのクラザキズマブの研究にもかかわらず、腎移植を受けている高感作患者による対象では、クラザキズマブによる研究は行なわれていない。
【0057】
様々な実施形態は、算出されたパネル反応性抗体(cPRA)またはクロスマッチ不適合ドナーの可能性の割合が少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、または70%であることを特徴とする、HLA感作対象においてドナー特異的抗体を減少させる1つまたはそれ以上の方法であって、腎移植前の、腎移植後の、または腎移植の前後の両方の対象に、クラザキズマブ;その抗原結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの有効量を投与することを含む方法を提供する。この方法の様々な実施形態は、同種移植片の移植を受ける前かまたは後にHLA感作されている対象に、配列番号8、9、または10の可変重鎖と、配列番号11または12の可変軽鎖とを含む抗ヒトIL-6抗体または抗体断片の有効量を投与して、同種移植片の移植後に、この対象においてドナー特異的抗体を減少させるかまたは除去することを提供する。この方法のいくつかの実施形態は、算出されたパネル反応性抗体(cPRA)またはクロスマッチ不適合ドナーの可能性の割合が少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、または70%である対象を選択することをさらに含む。この方法のいくつかの実施形態は、この対象で腎移植を実施することをさらに含む。この方法のさらなる実施形態は、クラザキズマブもしくはその抗原結合断片の投与に起因する、腎移植後のドナー特異的抗体の減少を特徴とするか;またはクラザキズマブもしくはその抗原結合断片の投与に起因する、腎移植後の約1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、もしくは6ヶ月から始まるドナー特異的抗体の検出不能な量を特徴とする。
【0058】
様々な実施形態は、HLA感作対象においてドナー特異的抗体を減少させる1つまたはそれ以上の方法であって、(1)IVIGの有効量、ならびに(2)クラザキズマブ;クラザキズマブのIL-6結合断片;または配列番号1に含まれるCDR1のポリペプチド、配列番号2もしくは3に含まれるCDR2のポリペプチド、および配列番号4に含まれるCDR3のポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5に含まれるCDR1のポリペプチド、配列番号6に含まれるCDR2のポリペプチド、および配列番号7に含まれるCDR3のポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの有効量を投与することを含む方法を提供する。一実施形態では、IVIGを、クラザキズマブ;クラザキズマブのIL-6結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの前かまたは同時に投与する。いくつかの態様では、HLA感作対象は、固形臓器の移植を受けることになっており、一態様では、この固形臓器は、クロスマッチドナー由来であり(即ち、このHLA感作対象は、ドナーの臓器由来のHLAに対する移植前抗体を含む)、別の態様では、この固形臓器は、陽性クロスマッチドナーに由来しない。他の態様では、この1つまたはそれ以上の方法は、(1)IVIGの有効量、ならびに(2)クラザキズマブ;クラザキズマブのIL-6結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの有効量の投与に加えて、固形臓器移植を実施することをさらに含む。
【0059】
HLA感作対象においてドナー特異的抗体を減少させる方法のいくつかの実施形態は、
(1)IVIGおよびクラザキズマブの組合せの有効量;(2)IVIGおよびクラザキズマブのIL-6結合断片の組合せの有効量;または(3)IVIG、ならびに配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの組合せの有効量を投与することを含む。一実施形態では、IVIGを、クラザキズマブ;クラザキズマブのIL-6結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの前かまたは同時に投与する。別の実施形態では、IVIGを、この対象における固形臓器移植の直前、最中、または直後にさらに投与する。
【0060】
さらなる実施形態は、HLA感作対象においてドナー特異的抗体を減少させる方法であって、(1)IVIG、血漿交換、およびクラザキズマブの組合せの有効量;(2)IVIG、血漿交換、およびクラザキズマブのIL-6結合断片の組合せの有効量;または(3)IVIG、血漿交換、ならびに配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの組合せの有効量を投与することを含む方法を提供する。一実施形態では、IVIGおよび血漿交換を、クラザキズマブ;クラザキズマブのIL-6結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの前かまたは同時に投与する。
【0061】
様々な実施形態では、クラザキズマブに起因する脱感作は、(1)実施例の試験において10例の患者中の8例での移植につながり、(2)cPRAは有意に変化しなかったが、HLA特異性の有意な減少につながり、ならびに(3)クラザキズマブの有効量の投与の継続により、移植時のおよび移植後のDNAの減少につながる。
【0062】
さらなる実施形態では、抗IL-6処置(例えば、クラザキズマブ投与)は、クラスII/クラスII HLA抗体のMFIレベルの低下に顕著な影響を及ぼし、それにより、HLA感作患者の移植率が増加するか、または個々のHLA感受性患者の移植生存の可能性もしくは割合が増加する。抗IL-6は、IL-6を産生する形質細胞の減少を介して、このことを媒介する(抗HLA)。処置後、抗IL-6治療は、DSAレベルを低下させるかまたは除去し、デノボでのDSA生成を予防する。さらなる態様は、クラザキズマブおよび固形臓器移植を受けている患者が、移植の抗体媒介性拒絶反応を発症していないことも提供する。
【0063】
様々な実施形態は、本開示の方法が、固形臓器移植を必要とするHLA感作患者を同定すること、PLEXおよびIVIGと、クラザキズマブの月1回の用量とを投与すること、固形臓器移植(例えた腎移植)を実施することを、アレムツズマブおよび/またはTHYMOGLOBULIN(抗胸腺細胞グロブリン)等の導入治療を施すこと、ならびにタクロリムス、CELLCEPT(ミコフェノール酸モフェチル)、および漸減するプレドニゾン等の免疫抑制治療を施すことを含むことを提供する。一態様では、クラザキズマブおよびPLEX/IVIGによる脱感作後のHLA感作対象の移植率は、少なくとも50
%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%である。別の態様では、HLA感作対象のクラザキズマブおよびPLEX/IVIGによる移植前脱感作の完了後の移植までの時間は、0日~1週間、1週間~1ヶ月、1ヶ月~3ヶ月、3ヶ月~6ヶ月、6ヶ月~1年、1年~2年であるか、またはより長い。さらなる態様では、クラザキズマブ(場合によりPLEX/IVIGとの組合せ)の有効量による脱感作処置を受けており、同種移植片の腎移植を受けている、既にHLAで感作された対象は、移植の抗体媒介性拒絶反応の兆候または症状が少なくとも95%、90%、85%、80%、75%、または70%ない。この方法のさらなる態様は、対象が、関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎(PsA)、クローン病、移植片対宿主病(GVHD)、がん、またはこれらの組合せを有しないことを含む。この方法のさらなる態様は、ドナー特異的抗体を減少させるおよび/または除去する方法のために、関節リウマチ(RA)、乾癬性関節炎(PsA)、クローン病、移植片対宿主病(GVHD)、またはがんを有しないかまたは有したことがなく、HLA感受性であり、固形臓器(例えば腎臓)移植を必要とするかまたは受けている対象を選択することをさらに含む。
【0064】
様々な実施形態は、本開示の方法の内の1つまたはそれ以上が、同種移植片の移植の前および/または後の対象で、サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス、ポリオーマウイルス、BKウイルス、JCウイルス、パルボウイルスB19、またはこれらの組合せに関連する感染の有無に関して1つまたはそれ以上のアッセイを実施することをさらに含むことを提供する。他の実施形態では、本開示の方法の内の1つまたはそれ以上は、同種移植片の移植の前および/または後に、対象が、サイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス、ポリオーマウイルス、BKウイルス、JCウイルス、パルボウイルスB19、またはこれらの組合せに関連する感染の検出可能な量を有しないことを特徴とする。さらなる実施形態は、本開示の移植後クラザキズマブ法の内の1つまたはそれ以上での対象が、固形臓器移植の慢性の抗体媒介性拒絶反応を有しないか、または慢性の抗体媒介性拒絶反応の証拠の非存在に関して検査されていることを提供する。
【0065】
同種移植片の移植を必要とするかまたは受けているHLA感作対象におけるドナー特異的抗体を減少させるかもしくは除去するための、および/またはこのHLA感作対象を脱感作するための方法の様々な実施形態は、時間と共に1回またはそれ以上の用量で、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、配列番号8、9、もしくは10の可変重鎖と、配列番号12もしくは12の可変軽鎖とを含むポリペプチド、または配列番号1のCDR1、配列番号2もしくは3のCDR2、および配列番号4のCDR3を有する可変重鎖と、配列番号5のCDR1、配列番号6のCDR2、および配列番号7のCDR3を有する可変軽鎖とを含むポリペプチドの有効量を投与することを含み、(1)この対象は、同種移植片の移植の前に、予め形成されたドナー特異的抗体(DSA)を有するか、もしくは有したことがあり、および/または同種移植片の移植の後にDSAが発生しているか、もしくは発生したことがあるか、(2)この対象は、算出されたパネル反応性抗体が50%以上であるか、(3)この対象は、例えば単一抗原LUMINEXビーズアッセイにより決定され、クラスIもしくはクラスIIに関して9,000、10,000、11,000、12,000超の、もしくはより高い平均蛍光強度(MFI)で表される、ドナー特異的抗体の高い強度を有するか、または(4)この対象は、1回もしくはそれ以上の妊娠、輸血、および/もしくは過去の移植を経験したことがある。一態様では、この対象は、言及されている特徴の内の1つを有する。別の態様では、この対象は、言及されている特徴の内の2つを有する。さらに別の態様では、この対象は、言及されている特徴の内の3つを有する。さらに別の態様では、この対象は、言及されている特徴の内の4つを有する。
【0066】
本明細書に開示されている方法の追加の実施形態は、同種移植片の移植の前および/または後に免疫モニタリングの1つまたはそれ以上の工程を含む。様々な態様では、同種移
植片の移植前に、事前に形成されているDSA、50%以上のcPRA、または高強度のDSAを有していた対象において、ドナー特異的抗体を減少させるかまたは除去する方法であって、この対象は、その後に、同種移植片の移植(例えば、この同種移植片は、この対象にHLA不適合である)を受けており、この方法は、(i)1回または複数回の用量で、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、または上記で開示されているポリペプチドの有効量を投与すること;(ii)1回またはそれ以上にわたり個々に(例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、15ヶ月、18ヶ月、24ヶ月、またはより長い等の期間にわたり、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはこのポリペプチドの1回またはそれ以上の用量後に毎回)、(a)この対象の血液サンプルをアッセイして、Treg、Tfh、Th17、B細胞、IL-6、CRP、形質細胞、形質芽細胞IgGレベル、もしくはこれらの組合せを定量すること等のこの対象の免疫モニタリング、(b)移植後の生検評価;(c)糸球体濾過率の測定;および/または(d)この対象におけるDSAの量の測定を行なうこと;ならびに、場合により、(iii)(a)免疫モニタリングが、免疫反応性の改善(例えば、過去の免疫モニタリングまたは同種移植片の移植時のもしくは移植前のベースライン測定値と比較してレベルが低いCRP、Treg、Tfh、Th17、B細胞、IL-6、形質細胞、もしくは形質芽細胞IgGを特徴とすること、または健康な対象もしくは脱感作されている対象と比較して同等なレベルのCRP、Treg、Tfh、Th17、B細胞、IL-6、形質細胞、もしくは形質芽細胞IgGレベル)を示す場合には、(b)移植の生検評価が、細胞媒介性拒絶反応および抗体媒介性拒絶反応の非存在、同種移植片の機能不全の非存在もしくは証拠の減少(例えば、Banff 2015基準を使用して、C4d染色および移植糸球体症により決定される)、ならびに/またはBanff 2015基準に従う改善を示す場合には、(c)糸球体濾過率が安定している場合には(例えば、最後の測定値もしくは移植前と比較してレベルが類似しているかもしくは低下している場合には)、または(d)DSAの量が安定している場合には(例えば、最後の測定値もしくは移植前と比較してレベルが類似しているかもしくは低い場合には)、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドのさらなる投与を、中止するか、またはさらなる6ヶ月以下に限定し;免疫モニタリングが、例えば上記で説明されている免疫反応性が改善されていないかまたは糸球体濾過率もしくはDSAの量が安定していないことを示す場合には、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、もしくはポリペプチドの投与を継続するか、または調整された投与量で継続し;移植の生検評価が、細胞媒介性拒絶反応および/または抗体媒介性拒絶反応の存在を示す場合には、標準治療処置(例えば、IVIG、血漿交換、または両方)を施して、この拒絶反応を処置することを含む。場合によっては、(ii)および(iii)の工程を、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、もしくは10回繰り返すか、または必要に応じて、もしくは改善、安定化、またはさらには治癒が観察されるまで繰り返す。
【0067】
いくつかの態様では、抗体媒介性拒絶反応の証拠が観察される場合には、対象を、抗体媒介性拒絶反応の処置に誘導する。いくつかの態様では、(i)および(ii)の工程の後に、1週間、2週間、3週間、4週間、2ヶ月、および3ヶ月等の期間(「休止」)にわたり、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドのそれ以上の用量の投与を実施せず、「休止」後に、免疫反応性をモニタリングするか、または移植片の生検を評価し、工程(iii)での特徴付け等の結果に応じて、当業者は、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、またはポリペプチドの投与を中止するかまたは継続して、この対象におけるDSAをさらに減少させるかまたは除去するだろう。
【0068】
投与量
一実施形態では、対象(例えばヒト対象)におけるドナー特異的抗体の減少およびHL
A脱感作のための方法は、移植前に、クラザキズマブまたはクラザキズマブの抗原結合断片の有効量を投与する(例えば、最大6回の用量にわたり4週間ごとに約25mg/用量を皮下投与する)ことを含む。一実施形態では、対象(例えばヒト対象)におけるドナー特異的抗体の減少およびHL脱感作のための方法は、移植前に、5回、6回、または7回にわたり血漿交換(plasma exchange)(または血漿交換(plasmapheresis))を施し、続いて(例えば、140gの最大で約2g/対象kgにて)IVIGの有効量を投与すること、およびクラザキズマブの有効量を投与すること(例えば、最大6回の用量にわたり4週間毎に約25mgで皮下投与すること)を含む。さらなる実施形態では、この方法は、この対象に同種移植片を移植することを含む。さらなる態様では、同種移植片の移植は、クラザキズマブの最後の投与と、IVIGの投与から約270日との間である。このことを図5に示す。一態様では、HLA感作対象におけるDSAのレベルを低下させるためのクラザキズマブの有効量は、4回、5回、6回、またはより多くの用量にわたり約12.5mg/用量である。一態様では、HLA感作対象におけるDSAのレベルを低下させるためのクラザキズマブの有効量は、4回、5回、6回、またはより多くの用量にわたり約25mg/用量である。一態様では、HLA感作対象におけるDSAのレベルを低下させるためのクラザキズマブの有効量は、4回、5回、または6回の用量の月1回の用量で25mg/用量ではない。
【0069】
別の実施形態では、対象(例えばヒト対象)におけるドナー特異的抗体の減少およびHL脱感作のための方法は、移植後に、クラザキズマブまたはその抗原結合断片の有効量を投与すること(例えば、最大6回の用量にわたり、移植後約5~7日で開始して4週間毎に約25mgで皮下投与すること)を含む。さらなる実施形態では、この方法は、(例えば、移植後最大330日目で、さらなる6回の用量にわたり)クラザキズマブの追加の有効量を投与することを含む。このことを図6に示す。一態様では、HLA感作対象における固形臓器移植後のDSAのレベルを低下させるためのクラザキズマブの有効量は、1回、2回、3回、4回、5回、またはより多くの用量にわたり約12.5mg/用量である。一態様では、HLA感作対象における固形臓器移植後のDSAのレベルを低下させるためのクラザキズマブの有効量は、1回、2回、3回、4回、5回、またはより多くの用量にわたり約25mg/用量である。一態様では、HLA感作対象における固形臓器移植後のDSAのレベルを低下させるためのクラザキズマブの有効量は、4週間毎に投与される25mg/用量ではない。
【0070】
別の実施形態では、対象(例えばヒト対象)におけるドナー特異的抗体の減少およびHL脱感作のための方法は、移植前に、クラザキズマブまたはクラザキズマブの抗原結合断片の有効量を投与すること(例えば、最大6回の用量にわたり4週間毎に約25mg/用量で皮下投与すること)、および移植後に、クラザキズマブまたはその抗原結合断片の有効量を投与すること(例えば、最大6回の用量にわたり、移植後約5~7日で開始して4週間毎に約25mgで皮下投与すること)を含む。
【0071】
これらの方法のいくつかの実施形態は、患者からの生検をアッセイすること、ならびに長時間にわたる糸球体濾過率(GFR)の安定したレベル(例えば、2回、3回、または4回の連続した生検にわたり10%、20%、または30%未満の変動)ならびに脱感作処置前と比較してまたは移植後に実施された以前の生検と比較して低レベル(例えば、10%、20%、または30%未満)のDSAを確認することを提供する。いくつかの実施形態では、GFRのレベルが安定していないかまたはDSAレベルが高い場合には、この方法は、GFRのレベルが安定化し、DSAのレベルが低くなるまで、IVIGおよびクラザキズマブの有効量の反復投与をさらに含む。
【0072】
さらに別の実施形態は、高HLA感作対象(例えばヒト対象)におけるドナー特異的抗体の減少およびHLA感作のための方法が、移植前に、血漿交換(plasma exc
hange)(または血漿交換(plasmapheresis))を施すこと;移植前に、移植中に、または移植後に、IVIGの有効量を投与すること;および前に、後に、または両方で、この対象にクラザキズマブの有効量を投与することを含み、この対象は、長時間にわたる糸球体濾過率(GFR)の安定したレベル(例えば、2回、3回、または4回の連続した生検にわたり10%、20%、または30%未満の変動)、および脱感作処置前と比較して低レベル(例えば、10%、20%、または30%未満)のDSAを有することを提供する。
【0073】
1時間のIV注入としてのクラザキズマブの投与後に、クラザキズマブの薬物動態は、健康な対象では30mg~640mgの用量範囲にわたり、および関節リウマチ(RA)を有する対象では80mg~320mgの用量範囲にわたり、これらの用量レベルでの一貫したクリアランスで示されるように直線であった。全ての用量でのクラザキズマブのT-halfは、健康な男性対象とRAを有する対象とで非常に類似しており、ヒト化IgG1抗体に関して予想されるものと一致していた。試験した用量にわたり、クラザキズマブの平均T-halfは、健康な男性対象では19.5~31.0日の範囲であり、RAを有する対象では26.4~30.9日の範囲であった。健康な男性対象でのSC投与後のクラザキズマブのT-halfは、IV投与と類似していた。健康な男性対象でIVおよびSC投与を比較する第1相試験では、クラザキズマブの平均T-halfは、単回のIV用量後に30.7日であり、SC投与後に31.1~33.6日であった。SC投与後のクラザキズマブのバイオアベイラビリティは、IV製剤の60%であった。予想されるように、IV投与と比較して、SC投与ではCmaxが低く、Tmaxが長かった。
【0074】
RA、PsA、および健康な対象での臨床試験のデータの母集団PK分析は、体重の増加に伴ってクリアランスおよび中心分布容積の両方が増加するように体重がクラザキズマブのPKに影響を及ぼすことを示している。したがって、より重い対象は、より軽い対象と比較して薬物曝露が少ない。
【0075】
対象へのクラザキズマブの有効量は、安全性の評価に基づいて検討され得るかまたは制限され得る。安全性評価として、問診、有害事象の記録、身体検査、血圧、および検査室測定が挙げられる。対象は、一般に、この試験への参加中の各試験訪問で、有害事象(全てのグレード)、重篤な有害事象、および試験薬の中断または中止を必要とする有害事象に関して評価される。
【0076】
いくつかの実施形態では、本開示の方法での投与に適した、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの有効量は、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、もしくはより多い用量の合計にわたり、または必要に応じて、対象におけるDSAの量を減少させ続けるために、約10~50μg/用量、50~100μg/用量、100~150μg/用量、150~200μg/用量、100~200μg/用量、200~300μg/用量、300~400μg/用量、400~500μg/用量、500~600μg/用量、600~700μg/用量、700~800μg/用量、800~900μg/用量、900~1000μg/用量、1000~1100μg/用量、1100~1200μg/用量、1200~1300μg/用量、1300~1400μg/用量、1400~1500μg/用量、1500~1600μg/用量、1600~1700μg/用量、1700~1800μg/用量、1800~1900μg/用量、1900~2000μg/用量、2000~2100μg/用量、2100~2200μg/用量、2200~2300μg/用量、2
300~2400μg/用量、2400~2500μg/用量、2500~2600μg/用量、2600~2700μg/用量、2700~2800μg/用量、2800~2900μg/用量、または2900-3000μg/用量の範囲であり得、1日1回、1週間に1回、2週間に1回、月1回、もしくは2ヶ月に1回、またはこれらの組合せの頻度で投与され得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、上記方法での対象の単位重量当たりの、本開示の方法での投与に適した、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの有効量として、10~100μg、100~200μg、200~300μg、300~400μg、400~500μg、500~600μg、600~700μg、700~800μg、800~900μg、1~5mg、5~10mg、10~20mg、20~30mg、30~40mg、40~50mg、50~60mg、60~70mg、70~80mg、80~90mg、90~100mg、100~200mg、200~300mg、300~400mg、400mg~500mg、500mg~1g、または1g~10gが挙げられる。対象の単位重量は、体重1kg当たりであり得るか、または1例の対象当たりであり得る。一実施形態では、同種移植片の腎移植を必要とするかまたは受けている既にHLA感作されているヒト対象のDSAのレベルの低下および脱感作のためのクラザキズマブの有効量は、約25mg/月である。一実施形態では、同種移植片の腎移植を必要とするかまたは受けている既にHLA感作されているヒト対象のDSAのレベルの低下および脱感作のためのクラザキズマブの有効量は、約25mg/月ではない。
【0078】
さらなる実施形態では、本開示の方法での投与に適した、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCD1Rポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの有効量は、0.01~0.05mg/kg、0.05~0.1mg/kg、0.1~1mg/kg、1~5mg/kg、5~10mg/kg、10~50mg/kg、50~100mg/kgの範囲であり得る。追加の実施形態では、クラザキズマブ、クラザキズマブの抗原結合断片、または本開示のポリペプチドの有効量は、約1~2mg/kg、2~3mg/kg、3~4mg/kg、4~5mg/kg、5~6mg/kg、6~7mg/kg、7~8mg/kg、8~9mg/kg、9~10mg/kg、10~11mg/kg、11~12mg/kg、12~13mg/kg、13~15mg、15~20mg/kg、または20~25mg/kgである。追加の実施形態では、クラザキズマブ、クラザキズマブの抗原結合断片、または本開示のポリペプチドの有効量は、約100~125mg、125~150mg、150~175mg、160~170mg、175~200mg、155~165mg、160~165mg、165~170mg、155~170mg、またはこれらの組合せの内のいずれか1つまたはそれ以上であり、この有効量を、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、11回、12回、13回、14回、15回、16回、17回、または18回の用量にわたり投与し得、この一部は移植前であり、他は移植後である。
【0079】
様々な実施形態では、本開示の方法での投与に適した、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、
CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドを、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、14ヶ月、16ヶ月、18ヶ月、約24ヶ月、約30ヶ月、約36ヶ月、またはこれらの組合せにわたり、少なくとも1回、1週間当たり1~7回、1ヶ月当たり1~7回、または1年当たり1~12回、または必要に応じて1回もしくはそれ以上の回数にて、本明細書で説明されている投与量の内のいずれか1つまたはそれ以上で投与する。
【0080】
医薬組成物
様々な実施形態では、本発明は、医薬組成物を提供する。この医薬組成物は、(1)クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドと、(2)薬学的に許容される賦形剤とを含む。
【0081】
本発明に係る医薬組成物は、任意の薬学的に許容される賦形剤を含み得る。「薬学的に許容される賦形剤」は、一般に安全であり、非毒性であり、望ましい医薬組成物の調製で有用な賦形剤を意味しており、ヒトの医薬用途としてだけでなく獣医用途としても許容される賦形剤を含む。そのような賦形剤は、固形であってもよいし、液体であってもよいし、半固体であってもよいし、エアロゾル組成物の場合には気体であってもよい。賦形剤の例として下記が挙げられるが、これらに限定されない:アミノ酸、デンプン、糖類、微結晶セルロース、希釈剤、造粒剤、潤滑剤、結合剤、崩壊剤、湿潤剤、乳化剤、着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、保存料、酸化防止剤、可塑剤、ゲル化剤、増粘剤、硬化剤(hardener)、硬化剤(setting agent)、懸濁剤、界面活性剤、保湿剤、担体、安定剤、およびこれらの組合せ。
【0082】
一実施形態では、本開示の方法は、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン一塩酸塩、ソルビトール、ポリソルベート-80、および注射用水と、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドとを含む医薬組成物を投与することを含む。
【0083】
様々な実施形態では、本発明に係る医薬組成物を、任意の投与経路による送達用に製剤化し得る。一実施形態では、この医薬組成物を、対象に静脈内投与するかまたは皮下投与する。「投与経路」は、当分野で既知のあらゆる投与経路(例えば、限定されないが、エアロゾル、経鼻、経口、経粘膜、経皮、非経口、または経腸)を指し得る。「非経口」は、一般に注射に関連する投与経路(例えば、眼窩内、注入、動脈内、関節内、心臓内、皮内、筋肉内、腹腔内、肺内、脊髄内、胸骨内、髄腔内、子宮内、静脈内、くも膜下、被膜下、皮下、経粘膜、または経気管)を指す。非経口経路により、この組成物は、注入用のまたは注射用の溶液または懸濁液の形態であってもよいし、凍結乾燥粉末としての形態であってもよい。非経口経路により、この組成物は、注入用のまたは注射用の溶液または懸濁液の形態であり得る。経腸経路により、この医薬組成物は、錠剤、ゲルカプセル、糖衣錠、シロップ、懸濁液、溶液、粉末、顆粒、エマルション、マイクロスフィアもしくはナノスフィア、または制御放出が可能な脂質小胞もしくはポリマー小胞の形態であり得る。典型的には、この組成物を、注射により投与する。これらの投与の方法は、当業者に既知である。
【0084】
本発明に係る医薬組成物は、任意の薬学的に許容される担体を含み得る。「薬学的に許容される担体」は、本明細書で使用される場合、目的の化合物を、ある組織、臓器、または身体の一部から別の組織、臓器、または身体の一部への運搬または輸送に関与する薬学的に許容される物質、組成物、またはビヒクルを指す。例えば、担体は、液状または固体状の充填剤、希釈剤、賦形剤、溶媒、もしくはカプセル化材料、またはこれらの組合せであり得る。担体の各成分は、製剤の他の成分に適合しなければならないという点で「薬学的に許容され」なければならない。同様に、接触し得る任意の組織または臓器との接触での使用に適していなければならず、このことは、治療上の利益を過剰に上回る毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、またはあらゆる他の合併症のリスクを保有してはならないことを意味する。
【0085】
本発明に係る医薬組成物をまた、カプセル化し得るか、錠剤化し得るか、またはエマルションで調製し得る。薬学的に許容される固体状または液状の担体を添加して、この組成物を強化し得るかもしくは安定化し得るか、この組成物の調製を容易にし得るか、またはこの組成物の持続的なもしくは制御された放出(もしくは半減期の増加)をもたらし得る。液状担体として、シロップ、ラッカセイ油、オリーブ油、グリセリン、生理食塩水、アルコール、および水が挙げられる。固体状担体として、デンプン、ラクトース、硫酸カルシウム、二水和物、白土、ステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸、タルク、ペクチン、アカシア、寒天、またはゼラチンが挙げられる。エマルション担体として、リポソーム、または当分野で既知の制御放出ポリマーナノ粒子が挙げられる。リポソーム送達システムを調製する方法は、Gabizon et al.,Cancer Research(1982)42:4734;Cafiso,Biochem Biophys Acta(1981)649:129;およびSzoka,Ann Rev Biophys Eng(1980)9:467で論じられている。他の薬物送達システムは当分野で既知であり、例えば、Poznansky et al.,DRUG DELIVERY SYSTEMS(R.L.Juliano,ed.,Oxford,N.Y.1980),pp.253-315;M.L.Poznansky,Pharm Revs(1984)36:277で説明されている。担体として、単独のまたはワックスとの一緒の、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセル等の徐放物質も挙げられ得る。
【0086】
本医薬調製物を、薬学の従来の技術(例えば、錠剤形態の場合には、粉砕、混合、造粒、および必要な場合には圧縮;または硬質ゼラチンカプセル形態の場合には、粉砕、混合、および充填)に従って製造する。液状担体が使用される場合には、この調製物は、シロップ、エリキシル、エマルション、または水性懸濁液もしくは非水性懸濁液の形態である。そのような液状製剤を、p.o.で直接投与してもよい、軟質ゼラチンカプセルに充填してもよい。
【0087】
本発明に係る医薬組成物を、治療上有効な量で送達し得る。正確な治療上有効な量とは、所与の対象における処置の効能に関して最も有効な結果が得られる組成物の量のことである。この量は、様々な因子に応じて変動し、この因子として下記が挙げられるが、これらに限定されない:治療用化合物の特性(例えば、活性、薬物動態、薬力学、およびバイオアベイラビリティ)、対象の生理学的状態(例えば、年齢、性別、疾患の種類およびステージ、全身の身体状態、所与の投与量に対する反応性、ならびに薬物の種類)、製剤中の薬学的に許容される担体の性質、ならびに投与経路。臨床分野および薬理学分野の当業者は、日常的な実験により、例えば、化合物の投与に対する対象の反応をモニタリングし、それに応じて投与量を調整することにより、治療上有効な量を決定し得る。さらなるガイダンスに関して、Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Gennaro ed.20th edition,
Williams & Wilkins PA,USA)(2000)を参照されたい。
【0088】
患者への投与の前に、製剤化剤(formulant)を、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドに添加し得る。液状製剤が好ましい場合がある。例えば、この製剤化剤は、油、ポリマー、ビタミン、炭水化物、アミノ酸、塩類、緩衝液、アルブミン、界面活性剤、充填剤、またはこれらの組合せを含み得る。
【0089】
炭水化物製剤化剤として、糖もしくは糖アルコール(例えば、単糖類、二糖類、もしくは多糖類)、または水溶性グルカンが挙げられる。サッカライドまたはグルカンとして、フルクトース、デキストロース、ラクトース、グルコース、マンノース、ソルボース、キシロース、マルトース、スクロース、デキストラン、プルラン、デキストリン、アルファシクロデキストリンおよびベータシクロデキストリン、可溶性デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、およびカルボキシメチルセルロース、またはこれらの混合物が挙げられ得る。「糖アルコール」は、-OH基を有するC4~C8炭化水素と定義されており、ガラクチトール、イノシトール、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、グリセロール、およびアラビトールが挙げられる。上述されているこれらの糖または糖アルコールを、単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。糖または糖アルコールが水性調製物に可溶である限りにおいて、使用される量は制限されていない。一実施形態では、糖または糖アルコールの濃度は、1.0w/v%~7.0w/v%であり、より好ましくは2.0~6.0w/v%である。
【0090】
アミノ酸製剤化剤として、カルニチン、アルギニン、およびベタインの左旋性(L)形態が挙げられるが、他のアミノ酸を添加してもよい。
【0091】
いくつかの実施形態では、製剤化剤としてのポリマーとして、平均分子量が2,000~3,000であるポリビニルピロリドン(PVP)または平均分子量が3,000~5,000であるポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。
【0092】
凍結乾燥前または復元後の溶液のpH変化を最小限に抑えるために、本組成物で緩衝液を使用することも好ましい。ほとんどの生理的緩衝液(例えば、限定されないが、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、コハク酸緩衝液、およびグルタミン酸緩衝液、またはこれらの混合物)を使用し得る。いくつかの実施形態では、濃度は、0.01~0.3モル濃度である。本製剤に添加され得る界面活性剤は、欧州特許第270,799号明細書および同第268,110号明細書で示されている。
【0093】
液状医薬組成物を調製した後、この液状医薬組成物を凍結乾燥させて、分解を防止し得、無菌性を維持し得る。液状組成物を凍結乾燥させる方法は、当業者に既知である。使用直前に、追加の成分を含み得る無菌希釈剤(例えば、リンゲル液、蒸留水、または無菌生理食塩水)で組成物を復元し得る。復元されると、この組成物を、当業者に既知の方法を使用して対象に投与する。
【0094】
抗感染剤
様々な実施形態は、脱感作の方法が、細菌感染、ウイルス感染、または真菌感染に対する予防または治療として、好ましくは移植後に、1種またはそれ以上の抗感染剤を投与することをさらに含むことを提供する。
【0095】
本開示の方法での使用に適した例示的な抗感染剤として、下記が挙げられる:抗生物質、例えば、アミノグリコシド(例えば、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン)、アンサマイシン(例えば、ゲルダナマイシン、ハービマイシン)、カルバセフェム(例えばロラカルベフ)、カルバペネム(例えば、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム、シラスタチン、メロペネム)、セファロスポリン(例えば、第1世代:セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン(cefalotin)またはセファロチン(cefalothin)、セファレキシン;第2世代:セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム;第3世代:セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン;第4世代:セフェピム;第5世代:セフトビプロール)、糖ペプチド(例えば、テイコプラニン、バンコマイシン)、マクロライド(例えば、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン、スペクチノマイシン)、モノバクタム(例えばアズトレオナム)、ペニシリン(例えば、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリン、ピペラシリン、チカルシリン)、ポリペプチド系抗生物質(例えば、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンb)、キノロン(例えば、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン)、リファマイシン(例えば、リファンピシンまたはリファンピン、リファブチン、リファペンチン、リファキシミン)、スルホンアミド(例えば、マフェニド、プロントジル、スルファセタミド、スルファメチゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフイソキサゾール、トリメトプリム、トリメトプリム-スルファメトキサゾール(コトリモキサゾール、「tmp-smx」)、およびテトラサイクリン(例えば、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン)、ならびにアルスフェナミン、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、エタンブトール、ホスホマイシン、フシジン酸、フラゾリドン、イソニアジド、リネゾリド、メトロニダゾール、ムピロシン、ニトロフラントイン、プラテンシマイシン、ピラジナミド、キヌプリスチン/ダルホプリスチン組合せ、およびチニダゾール。いくつかの実施形態では、HLA感作対象において同種移植片の移植の前および/または後にドナー特異的抗体を減少させる方法は、この対象に、クラザキズマブ、またはクラザキズマブのIL-6結合抗体断片の有効量を投与すること、およびこの対象に、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、フルコナゾール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、またはこれらの組合せの有効量を投与することを含む。
【0096】
キット
様々な実施形態では、本発明は、臓器移植レシピエントの脱感作のためのキットを提供する。このキットは、材料または構成要素の集合体(例えば、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチド;臓器移植前後の脱感作のための投与に関する説明書またはマニュアル;容器(container)としての1つまたはそれ以上の容器(vessel);ならびに場合により、1種またはそれ以上の希釈剤)である。
【0097】
本発明のキットで構成されている構成要素の正確な性質は、その意図された目的に依存する。一実施形態では、このキットは、特にヒト対象用に構成されている。さらなる実施
形態では、このキットは、獣医学的用途用に構成されており、限定されないが家畜、飼育動物、および実験動物等の対象を処置する。
【0098】
このキットには、使用説明書が含まれ得る。「使用説明書」は、典型的には、所望の転帰をもたらすために(例えば、対象のがん性悪液質を処置するかまたは阻害するために)キットの構成要素の使用で用いられる技術を説明する有形の表現を含む。場合により、このキットはまた、他の有用な構成要素も含み、例えば、測定器具、希釈剤、緩衝液、薬学的に許容される担体、シリンジ、または当業者が容易に認識するような他の有用な道具も含む。
【0099】
このキットを組み立てる材料または構成要素は、その操作性および実用性を維持する任意の便利で適切な方法で保存されて施術者に提供され得る。例えば、構成要素は、溶解、脱水、または凍結乾燥の形態であり得、室温、冷蔵温度、または冷凍温度で提供され得る。構成要素は、典型的には、適切な包装材料に収容されている。本明細書で用いられ場合、「包装材料」という語句は、本発明の組成物および同類のもの等のキットの内容物を収容するために使用される1つまたはそれ以上の物理的構造を指す。包装材料は、周知の方法により構成されており、好ましくは、無菌で汚染されていない環境を提供するように構成されている。本明細書で使用される場合、「包装」という用語は、個々のキット構成要素を保持し得る適切な固体マトリックスまたは材料(例えば、ガラス、プラスチック、紙、ホイル、および同類のもの)を指す。そのため、例えば、包装は、クラザキズマブ、クラザキズマブのIL-6結合断片、または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドを含む本発明の組成物の適切な量を含むために使用されるボトルであり得る。包装材料は、一般に、キットおよび/またはその構成要素の内容および/または目的を示す外部ラベルを有する。
【実施例0100】
下記の実施例は、特許請求されている発明をよりよく説明するために提供されるものであり、この発明の範囲を限定すると解釈されてはならない。具体的な材料が言及されている限りにおいて、この材料は、単に説明を目的としており、本発明を限定することは意図されていない。当業者は、発明能力を発揮することなく、本発明の範囲から逸脱することなく、等価の手段または反応物を開発し得る。
【0101】
試験:腎移植を待つ高HLA感作(HS)患者においてドナー特異的HLA抗体を除去して移植率を改善するためのクラザキズマブの安全性および忍容性を評価するための第I/II相試験。
この試験は、HLA不適合(HLAi)腎移植を待つHS患者におけるDSAの除去およびTregサブセットの誘発でのクラザキズマブの安全性および効能を評価するための非盲検デザインである。このプロトコルの概要を、図5および図6に示す。安全性の決定は、クラザキズマブの投与に関連するあらゆる副作用と、腎HLAi移植を待つHS患者の脱感作のためのクラザキズマブ治療に関連する感染合併症のリスクとの評価を目的とする。限定的な効能の決定は、移植率の増加を可能にするDSAレベルの低下と、その後の、クラザキズマブ処置後のABMR(eGFR、SCr)の予防との評価を含む。
【0102】
試験薬であるクラザキズマブは、遺伝子操作されたヒト化抗IL-6モノクローナ抗体という有効成分を有する。Ajinomoto Althea (San Diego CA)で製造された場合、クラザキズマブは、25mg/mLの強度を有する。クラザキズマブは、L-ヒスチジン、L-ヒスチジン一塩酸塩、ソルビトール、ポリソルベート-
80、および注射用水を含む賦形剤を含む。非希釈注射用の25mg/mLの単回用量バイアルに入っている。クラザキズマブバイアルは、遮光して-20℃(-4°F)以下で保存すべきである。調製したシリンジを、2~8℃(36~46°F)≦-20℃(-4°F)の冷蔵庫で最大24時間にわたり保存し得、この24時間の内の最大4時間を、15~25℃(59~77°F)の室温で保存し得る。調製したシリンジを遮光すべきである。投与前に、使用前に30~60分にわたり冷蔵することなく保存することにより、クラザキズマブを室温にすべきである。
【0103】
手順
これは、腎移植を待つ高HLA感作患者におけるクラザキズマブの第I/II相臨床試験であった。この試験は、3年の継続期間が意図されていた。HLA抗体を、Cedars-Sinai Medical Center HLA Laboratoryで現在用いられている固相アッセイシステムを使用して検出した。
【0104】
通常、この試験に参加している患者に、PLEX(5~7回)+IVIGを最初に投与し、IVIGの1週間後にクラザキズマブ 25mgを皮下(SC)投与した。初回の用量後に、安全性/忍容性/効能の問題を観察しなかった場合には、この患者に、4週間毎(Q4W)に5回の追加の注射を行なった。患者がHLAi移植を受けた場合には、クラザキズマブを、(移植後5日目に開始して)6回の用量にわたり25mg SC Q4Wで、移植後6Mにわたり継続した。移植後6Mでプロトコル生検を実施し、Banff 2015基準を使用して、C4d染色およびTGを含むABMRの証拠に関して、同種移植片を評価した。クラザキズマブの6回目の用量の後に改善が見られた場合には、6ヶ月にわたり、患者は、別の6回の用量を継続するだろう。持続的な同種移植片の機能不全の証拠が現れた患者は、この原因のために、非プロトコル生検を受け得る。移植後にクラザキズマブの12回の用量を投与された患者は、12Mプロトコル生検を受けるだろう。患者が、クラザキズマブの6回の用量を投与された後に改善を示さなかった場合には、さらなる処置を受けず、この患者は、最終試験の訪問のために365日目に戻った。
【0105】
具体的には、移植時(0日目)に、IVIGの1回の投与量を投与した(IVIG #1)。1日目に、IVIGの2回目の投与量を投与した。その後、処置期間が始まった。クラザキズマブを、それぞれ5日目±2d、30日目±7d、60日目±7d、90日目±14d、120日目±14d、および150日目±14で6回投与した。
【0106】
図7は、患者ClazaDes03に関する試験のタイムラインと、この患者の経時的なクレアチニンレベルとを示す。患者「ClazaDES03」は、不明瞭な病因に続発する末期腎不全の病歴を有する32歳の男性である。この患者は、2016年に失敗した2012年の生体非血縁腎移植後の状態である。患者「ClazaDES03」の場合、クラザキズマブの1回目の用量(25mgの皮下)の後に、クラザキズマブの2回目の用量の前に、移植を行なった。この患者に、-15日目にPLEX(5~7回)を投与し;0日目に2g/kgでIVIGを投与し;7日目(2018年4月5日)に移植後#1クラザキズマブ(25mg SQ)を投与し;21日目(2018年4月29日)に死後ドナー腎移植を行ない;月約1回の間隔で移植後#1~#6クラザキズマブ(25mg SQ)を投与し;アレムツズマブ(CAMPATH 1H)を導入し、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)、およびプレドニゾンで維持した。移植の約2ヶ月の2018年6月28日に、腎臓の同種移植片の生検を検査して(図8)、次善のクレアチニンレベルが示され、2018年8月14日に、ベラタセプトの月1回の投与を開始した。2018年10月23日に、6M生検を検査した(図9)。2018年10月31日に開始して、第2ラウンド(#7~#12)のクラザキズマブの投与を開始した(#7移植後クラザキズマブ)。この患者に関しては、移植後にドナー特異的抗体が存在していなかった。
【0107】
抗HLA抗体は、天然に生じてもよいし、過去の妊娠、輸血、または過去の移植から生じてもよい。脱感作のためにクラザキズマブの6回の用量で処置された患者を、HLA抗体に関して血液サンプリングし、血液サンプルの他のモニタリングを行ない、免疫学的検査も行なった。患者が、この試験中にHLAi移植を受けた場合には、この患者に、標準的な移植後免疫抑制プロトコルを行ない、免疫モニタリングを行ないつつ、6回の用量にわたり4週間毎にクラザキズマブ25mgを皮下投与した。血液サンプルでの免疫モニタリングは、Treg、Tfh、Th17、およびB細胞サブセット、ならびにIL-6およびCRPモニタリングに関するものを含み、Cedars-Sinai Transplant Immunology Laboratoryで実行した。
【0108】
結果
図1は、対象「ClazaDES01」に関するこの試験でのDSAプロファイルを示し、この対象は、生検で証明された巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)に続発する末期腎不全(ESRD)の病歴がある50歳のアフリカ系アメリカ人女性であり、2008年11月から透析を受けており(即ち、B+血液型に関する約10年の待機期間)、算出されたパネル反応性抗体(cPRA)は58%である。患者の感作事象には、4回の妊娠期間および輸血が含まれた。
【0109】
図2は、移植前後の対象「ClazaDES05」に関するDSAプロファイルを示す。(蛍光強度中央値、MFI)。対象「ClazaDES05」は、IgA腎症に続発するESRDの病歴がある36歳の女性であり、2008年6月から透析を受けており(即ち、A+血液型に関する約10年の待機期間)、cPRAは100%である。患者の感作事象には、過去の移植および輸血が含まれた。対象「ClazaDES05」は、クラザキズマブの4回の用量の後に、死後ドナーからの腎移植を受けた。患者は、移植前後に2種のDSAを有した(クラスIおよびII)。DSA強度は、クラスIの場合には移植時のMFI>12,500MFIから移植後10日でのMFI=0まで減少し、クラスIIの場合には移植時のMFI>17,500から移植後10日でのMFI>3250まで減少した。試験プロトコルに従って、患者に、移植後6ヶ月にわたり月1回のクラザキズマブを継続した。
【0110】
図3Aは、クラザキズマブ脱感作試験における全体的なC反応性タンパク質の量を示す。全体として、C反応性タンパク質(CRP)は、2ヶ月でベースラインからほぼゼロまで減少した。各時点での分析に含まれる対象の数を、括弧内に示す。図3Bは、ベースラインから7ヶ月目までのクラザキズマブ脱感作試験における個々のC反応性タンパク質の量を示す。
【0111】
図4は、血漿交換(PLEX)前(PLEX前)からクラザキズマブの5回目の用量までの経時的なMFIの合計を示す(N=9)。典型的には、MFIは、PLEX/IVIGの完了後に約1~3ヶ月で回復する傾向がある。ここで、月1回のクラザキズマブ注射により、MFIの合計は、PLEX前と比較した場合に経時的に減少し続けた。現在までに、3例の患者が移植を受けた。患者ClazaDES01およびClazaDES03は、クラザキズマブの1回目の用量後に移植を受けた。患者ClazaDES05は、クラザキズマブの4回目の用量後に移植を受けた。
【0112】
患者「ClazaDES03」に関して、図7は、この患者のクレアチニン(mg/dL)レベルを経時的に示し、脱感作処置前と、脱感作処置および腎移植後とを比較する。クレアチニンは、移植後のクラザキズマブの2回の投与により、移植後に低レベルで維持された。図8は、患者「ClazaDES03」の2ヶ月腎移植生検を示す。この生検では、軽度の急性尿細管傷害;軽度から中程度の動脈硬化、および軽度の動脈硬化が存在し
ており(これは、ドナーの疾患と一致した);(Banff基準による細胞媒介性拒絶反応のほとんどの境界での)急性拒絶反応の診断上の証拠は存在せず;メサンギウムIgAの沈着が存在したが、関連する増殖性糸球体変化はなかった。2012年での患者の過去の腎移植からの生検では、IgA染色が存在しなかったことから、今回の生検で存在したIgAはドナーに関連している可能性が高いことが考えられた。図9は、患者「ClazaDES03」の6ヶ月腎移植生検を示す。この生検では、まれな同じ大きさの空胞を伴う急性尿細管壊死;(細胞媒介性拒絶反応のほとんどの境界変化での)軽度の尿細管間質性炎症;動脈硬化;および最小限の間質性線維症/尿細管萎縮)が存在した。まれな同じ大きさの空胞が検出され、これは、最近のIVIG治療の急性カルシニューリン阻害剤毒性に関連している可能性がある。抗体媒介性拒絶反応またはポリオーマウイルス腎症の診断上の特徴は存在しなかった。
【0113】
全体として、クラザキズマブを使用する脱感作処置により、この試験では、患者の少なくとも40%でHLA抗体が減少し移植が認められた。
【0114】
2018年3月から11月までに、合計で10例の患者が登録された。9例の患者で移植が認められ;8例が、この試験期間中に移植され、9例目の患者は、この試験の完了後2ヶ月で移植された。4例の患者は、12ヶ月の試験期間に達した。投与した全ての輸液の忍容性は良好であった。移植片の喪失または患者の死亡は観察されず、クラザキズマブに起因するかまたはクラザキズマブの中断を必要とする重大な感染も観察されなかった。6ヶ月での腎機能は安定していた。人口統計学的特性および免疫学的/移植特性を、表1および表2にまとめる。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
9例目の患者を除く全員が、6ヶ月プロトコル生検を受けた。下記の2例の患者(25)は、生検により拒絶反応が証明された:慢性の活性な細胞媒介性拒絶反応を有する1例の患者、Banffグレード1A;慢性の活性な抗体媒介性拒絶反応および細胞媒介性拒絶反応を有する1例の患者、Banffグレード1B。両方の患者が、研究センターの標準治療プロトコルに従う処置に反応した。
【0118】
移植を受けた9例の患者の内の7例(78%)は、脱感作前におよび移植時にDSAを有した。3例の患者(33%)のみが、1ヶ月でDSAが検出され;2例の患者(22%)が、3ヶ月でDSAが検出され;6ヶ月(6M)、9ヶ月(9M)、および12ヶ月(12M)でDSAが検出された患者はいなかった(1ヶ月および3ヶ月でDSAが検出された患者を含む)。脱感作前に、移植時、1ヶ月および3ヶ月でのDSA MFI値(平均±SD)は、下記の通りであり:11060±6990、7980±6260、1923±3973、1040±2650;6M、9M、および12Mそれぞれでは0±0であった。平均DSA MFIは、脱感作前と1M(p=0.0004)および3M(p=0.0001)とを比較した場合に、ならびに移植時と1M(p=0.007)および3M(p=0.001)とを比較した場合に、有意に減少した。
【0119】
7件のSAEが発生したが、いずれもクラザキズマブとは無関係と思われた。これらのSAEには、創傷の再縫合を必要とする創傷離開(1件のSAE)、試験薬の1回目の投与を受ける前の血尿およびUTI(1件のSAE)ならびに菌血症(1件のSAE)、移植片の喪失を伴う右外腸骨動脈の血栓症(1件のSAE)、MSSAが増殖した移植前後体液のCTガイド下でのドレナージを必要とする持続性の手術部位の痛み(1件のSAE)、クラザキズマブの投与の遅延d/t感染および慢性の血小板減少症の結果としての、生検により証明された慢性の活性ABMR(1件のSAE)、CTガイド下でのドレナージを必要とする腎周囲液貯留(1件のSAE)。
【0120】
主要な副次的目的
クラザキズマブ処置により、クラザキズマブ脱感作後の高HLA感作患者に移植された不適合同種移植片におけるABMR発症およびC4d沈着が有意に減少し得るかどうかまたは除去され得るかどうかを決定すること。移植後最大6~12ヶ月(6~12M)まで同種移植片の機能を評価し、血清クレアチニン(SCr)、Modification of Diet in Renal Disease(MDRD)GFR算出(18歳未満の患者の場合には、Schwartz方程式を使用してクレアチニンクリアランス(CrCl)を推定する)、およびDSAレベルを使用して、腎機能を決定した。プロトコル生検を、クラザキズマブ治療後6Mで実施した。加えて、クラザキズマブ治療の開始前後の時点で、血液サンプルのいくつかの免疫学的測定を評価した。これには、下記が含まれた:
reg細胞(CD4+、CD25+、FoxP3+CD127dim)の評価
fh細胞(CD4+、ICOS+、CXCR5+、IL-21+)の評価
循環形質芽細胞(CD19+、CD38+、CD27+、IL-6+)の評価
CRPおよびIL-6のレベルの評価。
【0121】
これらの副次的エンドポイントは、同種移植片に対するアロ免疫反応の生物学を理解するのにならびにクラザキズマブの有益な効果の能力および機序を決定するのに役立つだろう。ウイルスPCRを、標準治療に従ってモニタリングした。
【0122】
包含基準
スクリーニング時に15~75歳の年齢。UNOSリスト上のDDまたはLD腎移植を待つHS患者(cPRA≧50%)。妊娠、輸血、および/または腎移植の既往歴。対象/親/保護者は、試験要件により完全に参加する意思を有していなければならない。対象/親/保護者は、インフォームドコンセントを理解して提出し得なければならない。肺炎球菌のワクチン接種済。陰性のツベルクリン(ppd)配置結果、または陰性のQuantiferon TBゴールド結果。これらの個体はまた、陽性のクロスマッチ(DD)、または陽性のフローサイトメトリー(FCMX)による不適合(LD)および陰性の補体依存性細胞傷害(CDC+)クロスマッチの履歴による頻繁な申し入れを可能にするために、UNOSリスト上で十分な待機時間も有しなければならない。脱感作後にHLAi移植へと進む患者は、1:2希釈でのCDC CMX陰性、FCMX<225のチャンネルシフト、および既に定義された許容可能なMFIであるDSAを有するだろう。
【0123】
除外基準
複数の臓器移植(例えば、腎臓および膵臓)。
クラザキズマブまたは他のIL-6阻害剤による治療に対する不耐容性。
授乳中または妊娠中の女性。
出産可能な年齢の女性、ならびに試験中におよび最後の用量後5ヶ月にわたり、FDA承認の形態の避妊をする意思がないかまたは行ない得ない、出産可能な年齢の女性の男性パートナー。
HIV陽性対象。
HBVeAg/DNAによるHBVまたはHCV感染に関する検査が陽性の対象[陽性抗HCV(EIA)および確認HCV RIBA]。
潜在性のまたは活動性のTBを有する対象。対象は、陰性のQuantiferon TBゴールド検査結果を有しなければならい。
スクリーニング受診から2ヶ月以内の、あらゆる認可されたかまたは研究中の弱毒化生ワクチンの最近のレシピエント(例えば、限定されないが、下記の内のいずれか:アデノウイスル[アデノウイルスワクチン生経口7型]、水痘[Varivax]、A型肝炎[VAQTA]、ロタウイルス[Rotashield]、黄熱[Y-F-Vax]、麻疹およびおたふくかぜ[麻疹およびおたふくかぜウイルス生ワクチン]、麻疹、おたふくかぜ、および風疹ワクチン[M-M-R-II]、セービン経口ポリオワクチン、ならびに狂犬病ワクチン[IMOVAX Rabies I.D.,RabAvert]を含む)。
ANC<2000、血小板数<100×10/ml、SGOTまたはSGPT>1.5×正常値の上限で定義される、著しく異常な一般的血清スクリーニング検査の結果。
プロトコルに従い得ないと見なされた個体。
適合する病気(CMVまたはEBV DNA/PCRの>50のコピーを有すると定義された定量的PCRカットオフ)を有するかまたは有しない、CMV特異的血清学(IgGまたはIgM)で定義されて定量的PCRで確認された活動性のCMVまたはEBV感染を有する対象。参加の4週間以内での試験薬の使用。
炎症性腸疾患、または憩室性疾患、または消化管穿孔の病歴または活動。
任意の抗体の使用(経口、非経口、または局所)を必要とする最近の感染(スクリーニングの過去の6週間以内)。
基底細胞癌、皮膚の完全に切除された扁平上皮癌、または再発していない(5年以内)子宮頸部上皮内癌を除く現在または過去(5年以内)の悪性腫瘍。
【0124】
出願人はまた、透析と比較した脱感作のコスト/ベネフィット分析を評価する試験も実施した。全ての医薬品、臓器の入手、拒絶反応発症の処置、および同種移植片を失ったものの透析への復帰のコストを含む、脱感作後の移植に関連するコストは、同期間にわたり透析を続けた場合のコストと比べて有利であった。最も重要なことは、このコホートでは、移植により生存利益が得られることであった。3年では、脱感作されて移植を受けた患者の死亡率は、透析を続けた患者の場合の22.8%と比較して3.5%であった。
【0125】
試験中に(生検により証明される)拒絶反応が発症した場合には、患者を、パルスステロイドに反応しない細胞媒介性拒絶反応の発症に関して「パルス」メチルプレドニゾロン(10mg/kg/日、>100kgでは最大1000mg、3日間)および抗胸腺細胞グロブリン(1.5mg/kgを1日1回×4)で処置した。試験薬による処置後に抗体媒介性拒絶反応(ABMR)を再発した患者に、パルスメチルプレドニゾロン(10mg/kg/日、>100kgでは最大1000mg)IV 1日に1回×3回の用量を最初に投与し、次いで、重症度に応じて、IVIG 10%溶液2mg/kg(>70kgの場合は最大140g)IV×1回の用量を投与し、続いてリツキシマブ(375mg/m)IV×1回の用量を投与した。同種移植片の機能の急激な低下がみられ、および/または血栓性微小血管症と診断された場合には、患者を、3~5回にわたり血漿交換し、続いて、4週間にわたり抗C5(Eculizumab(登録商標))IV 1週間に1回を投与した(1週目1200mg、続いてさらなる3週間にわたり900mg/毎週)。治療の効能を、腎機能の改善を決定し、DSA反応をモニタリングすることにより評価し、必要に応じて同種移植片の生検を繰り返す。この調査の目的のために、ABMRを下記のように定義した:血清CrおよびeGFRにより測定される高リスク移植レシピエント(即ち、DSAの病歴を有する感作患者)における同種移植片の機能の低下(ベースラインからの>30%の低下と定義される);LUMINEX技術により測定されるDSA(
通常は強度が増加している)の存在との関連;BANFF 2015類別に基づく生検の証拠(例えば、毛細血管炎、炎症、およびC4d沈着)。
【0126】
クラザキズマブによる処置後に、有害事象(AE)および重篤な有害事象をモニタリングした。これらには、クラザキズマブ治療に関連する可能性がある感染合併症への細心の注意が含まれた。本発明者らのグループは、IVIG+リツキシマブによる脱感作およびアレムツズマブ導入治療ならびにその後のタクロリムス、MMF、およびプレドニゾンによる維持治療に関連する感染合併症を評価した。この脱感作プロトコルおよびその後のアレムツズマブ導入の使用により、移植後の一般的なまたは重篤な感染のリスクは、低リスク群の患者と比較して増加しない。重篤な感染を、あらゆるウイルス感染、およびi.v.による抗生物質または入院を必要とする真菌感染または細菌感染と定義した。そのため、ABMR処置後の試験群(クラザキズマブ)での感染のリスクは、非感作患者と類似しており同等である可能性が高い。この試験に参加した全ての患者は、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)のワクチン接種を必要とした。
【0127】
この試験では、全ての試験患者に、これらの患者のサイトメガロウイルス(CMV)状態にかかわらず、腎移植後6ヶ月にわたり、腎機能のために用量を調整しつつ、入院中はガンシクロビルをIV投与し、外来ではバルガンシクロビルをIV投与した。真菌の予防を、移植後1ヶ月にわたる1日1回のフルコナゾール100mgにより達成した。ニューモシスチス・ジロベシ(Pneumocystis jirovecii)肺炎および細菌の予防を、移植後12ヶ月にわたる1日1回のトリメトプリム80mgおよびスルファメトキサゾール400mgにより達成した。CMV、エプスタインバーウイルス、パルボウイルスB-19、ポリオーマウイルスBKおよびJCに関するウイルスポリメラーゼ連鎖反応アッセイを、移植後6ヶ月にわたり1ヶ月に1回、試験患者に実施した。
【0128】
本発明の様々な実施形態が、詳細な説明で上述されている。これらの説明は、上記の実施形態を直接説明するが、本明細書で示され説明されている特定の実施形態に対する改変および/または変形を当業者が考え得ることが理解される。この説明の範囲内であるあらゆるそのような改変または変形も、同様に本明細書に含まれることが意図されている。具体的に述べない限り、本明細書および特許請求の範囲における単語および語句は、適切な分野の当業者に通常のおよび慣用的な意味を与えることが、本発明者らの意図である。
【0129】
本出願の出願時点で出願人に既知の本発明の様々な実施形態の上記の説明は、例示および説明の目的で提示されており、この目的が意図されている。本明細書は、網羅的であることも、開示されている詳細な形態に本発明を限定することも意図されておらず、上記の教示に照らして多くの改変および変形が可能である。説明されている実施形態は、本発明の原理およびその実用的応用を説明するのに役立ち、当業者が、様々な実施形態で、および考えられる特定の用途に適した様々な改変と共に、本発明を利用することを可能にする。したがって、本発明が、本発明を実行するために開示されている特定の実施形態に限定されないことが意図されている。
【0130】
本発明の特定の実施形態が示され、説明されているが、本明細書の教示に基づいて、本発明およびそのより広い態様から逸脱することなく変更および改変を行ない得、したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の趣旨および範囲内である全ての変更および改変をその範囲に包含することが当業者に明らかであろう。一般に、本明細書で使用される用語は一般に「オープン」な用語として意図されていることが、当業者に理解されるだろう(例えば、「含む(including)」という用語は、「を含むが限定されない」と解釈すべきであり、「有する」という用語は、「少なくとも有する」と解釈すべきであり、「含む(include)」という用語は、「含むが限定されない」等と解釈すべき
である)。
【0131】
本明細書で使用される場合、「含む(comprising)」または「含む(“comprise)」という用語は、ある実施家形態に有用である組成物、方法、およびそれらの各構成要素に関して使用され、さらには、有用であるか否かにかかわらず不特定の要素の包含にも開かれている。一般に、本明細書で使用される用語は一般に「オープン」な用語として意図されていることが、当業者に理解されるだろう(例えば、「含む(including)」という用語は、「を含むが限定されない」と解釈すべきであり、「有する」という用語は、「少なくとも有する」と解釈すべきであり、「含む(include)」という用語は、「含むが限定されない」と解釈すべきである)。本明細書では、本発明を説明するためにおよび特許請求するために、含む(including)、含む(containing)、または有する等の用語の同義語として「含む(comprising)」というオープンエンドの用語が使用されているが、本発明またはその実施形態は、「からなる」または「から本質的になる」等の代替の用語を使用して説明され得る。
【0132】
別途指示しない限り、量を表す全ての数字は、全ての場合において、「約」という用語で修飾されていると理解すべきである。「約」という用語は、言及されている値の±10%を指し得る。具体的に定義され、特許請求の範囲に記載されている場合には、「約」という用語は、言及されている値の±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、または±1%を指し得;例えば、特許請求の範囲は、値は約Xであり、約は±6%であると述べ得る。
【0133】
値の範囲が記載されている場合には、この範囲の上限と下限との間およびこれらを含む各数値は、本明細書で開示されていると企図されている。本明細書で列挙されているあらゆる数値範囲は、この範囲に含まれる全ての部分範囲を含むことが意図されていることを理解すべきである。例えば、「1~10」という範囲は、列挙された最小値1と、列挙された最大値10との間およびこれらを含む全ての部分範囲を含むことが意図されており;即ち、1以上の最小値と、10以下の最大値とを有する。本開示の数値範囲は連続していることから、最小値と最大値との間のあらゆる値が含まれる。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16
図17-1】
図17-2】
図18
図19
【配列表】
2024161505000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-09-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト白血球抗原(HLA)感作対象においてドナー特異的抗体を減少させるおよび/または除去する方法であって、
クラザキズマブ;クラザキズマブのインターロイキン-6(IL-6)結合断片;または配列番号1、2もしくは3、および4にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドと、配列番号5、6、および7にそれぞれ含まれるCDR1ポリペプチド、CDR2ポリペプチド、およびCDR3ポリペプチドを含むVポリペプチドとを有するポリペプチドの有効量を対象に投与することを含み、
該対象は、固形臓器移植を必要とするかまたは受けている、
前記方法。
【外国語明細書】