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特開2024-161512加齢性疾患及び/又は変性疾患に使用される医薬配合剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161512
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】加齢性疾患及び/又は変性疾患に使用される医薬配合剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/155 20060101AFI20241112BHJP
   A61K 31/13 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/325 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/445 20060101ALI20241112BHJP
   A61K 31/27 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241112BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241112BHJP
【FI】
A61K31/155
A61K31/13
A61K31/325
A61K31/445
A61K31/27
A61P25/00
A61P43/00 111
A61P43/00 121
A61P21/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024136978
(22)【出願日】2024-08-16
(62)【分割の表示】P 2023015268の分割
【原出願日】2019-07-01
(31)【優先権主張番号】18180906.2
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520505401
【氏名又は名称】リジュービネイト,バイオメド
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(72)【発明者】
【氏名】ベリエン,アン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防及び/又は安定化に使用される医薬配合剤を提供する。
【解決手段】医薬配合剤は、ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む。本発明は更にまた、加齢性愁訴及び/又は変性愁訴の予防、安定化及び/又は低減、並びに寿命及び/又は健康寿命の指標を改善するための上記医薬配合剤の使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防、安定化、その発症の遅延及び/又はその症状の低減に使用される医薬配合剤であって、前記医薬配合剤が、
ビグアニド、及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
を含み、
該加齢性疾患及び/又は変性疾患が、神経筋骨格系の疾患、フレイル、炎症性疾患、及び/又は内分泌代謝障害である、医薬配合剤。
【請求項2】
神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患及び/又はフレイルの治療、予防、安定化、その発症の遅延及び/又はその症状の低減に使用される、請求項1に記載の医薬配合剤。
【請求項3】
神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患が、錐体外路系運動障害、神経筋接合部及び筋肉の疾患、主に中枢神経系を障害する系統萎縮症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症及び関連疾患、筋萎縮性側索硬化症で代表される運動ニューロン疾患、異常不随意運動、歩行及び運動の異常、運動失調症、ミトコンドリア関連神経筋骨格疾患、並びにサルコペニアを含む群から選択される、請求項1又は2に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項4】
神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患が、錐体外路系運動障害、神経筋接合部及び筋肉の疾患、主に中枢神経系を障害する系統萎縮症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症及び関連疾患、筋萎縮性側索硬化症で代表される運動ニューロン疾患、異常不随意運動、歩行及び運動の異常、又は運動失調症である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項5】
前記神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患がサルコペニアである、請求項3に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項6】
神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患がミトコンドリア関連神経筋骨格疾患、又は、セントラルコア病及び視神経萎縮1(OPA1)関連疾患から選択されるミトコンドリア関連神経筋骨格疾患である、請求項3に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項7】
加齢性炎症性疾患及び/又は変性炎症性疾患が、サイトカインレベルの増加に関連する疾患である、請求項1に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項8】
加齢性内分泌代謝障害及び/又は変性内分泌代謝障害が肥満、又はサルコペニア肥満である、請求項1に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項9】
前記ビグアニドがメトフォルミンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項10】
前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及びメマンチンを含む群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項11】
前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がガランタミンである、請求項10に記載の使用のための医薬配合剤。
【請求項12】
加齢性愁訴及び/又は変性愁訴の予防、安定化及び/又は低減用の医薬配合剤であって、前記医薬配合剤が、
ビグアニド、又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
を含む、医薬配合剤。
【請求項13】
寿命及び/又は健康寿命の指標の改善用医薬配合剤であって、前記医薬配合剤が、
ビグアニド、又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、そのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
を含み、
寿命及び/又は健康寿命の指標の改善が、該医薬配合剤の投与前の被験体の状態に対する又は対照集団に対する、加齢性身体障害における機能の改善、加齢性身体障害の悪化の安定化、加齢性愁訴の軽減又は安定化、変性機能不全及び変性愁訴の軽減又は安定化を含む群から選択される、医薬配合剤。
【請求項14】
加齢性愁訴及び/又は変性愁訴が、筋脱力、筋力の低下、神経筋変性、運動障害、免疫応答障害、代謝不均衡、全身の脱力感を含む群から選択される、請求項12又は13に記載の医薬配合剤。
【請求項15】
加齢性愁訴及び/又は変性愁訴が、筋脱力、筋力の低下、神経筋変性、及び運動障害を含む群から選択される、請求項12に記載の医薬配合剤。
【請求項16】
加齢性愁訴及び/又は変性愁訴が全身の脱力感である、請求項12に記載の医薬配合剤。
【請求項17】
寿命及び/又は健康寿命の指標の改善が、コレステロールレベル、トリグリセリドレベル、高密度リポタンパク質レベル、低密度リポタンパク質レベル、レプチンレベル、アディポネクチンレベル、炎症パラメーター、及び血圧、免疫老化からなる群から選択される1つ以上のパラメーターにおける改善を含み、前記寿命及び/又は健康寿命の指標が、該医薬配合剤の投与前の該被験体の状態に対して又は対照集団に対して改善される、請求項13に記載の医薬配合剤。
【請求項18】
前記ビグアニドがメトフォルミンである、請求項12~17のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項19】
前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及びメマンチンを含む群から選択される、請求項12~18のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項20】
前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤がガランタミンである、請求項19に記載の医薬配合剤。
【請求項21】
前記ビグアニド及び前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、該被験体に治療用量以下の用量で投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用用の医薬配合剤、又は請求項12~20のいずれか一項に記載の医薬配合剤。
【請求項22】
前記被験体がヒト被験体である、請求項1~21のいずれか一項に記載の使用用の医薬配合剤又は医薬配合剤。
【請求項23】
前記ビグアニド及び前記アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物が、別々に医薬組成物に製剤化されるか、又は単一の医薬組成物に製剤化される、請求項1~22のいずれか一項に記載の使用用の医薬配合剤又は医薬配合剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防及び/又は安定化に使用される医薬配合剤に関する。特に、上記医薬配合剤は、ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む。本発明はまた、加齢性愁訴及び/又は変性愁訴の予防、安定化及び/又は低減、並びに寿命及び/又は健康寿命の指標を改善するための上記医薬配合剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢は、細胞、組織、及び臓器のレベルでの機能の緩やかな喪失及び劣化であり、進行性の生理学的完全性の喪失、疾患及び外部ストレス因子に対する感受性の増加につながり、そして最終的には死に至る。世界的な高齢化人口の増加に伴い、加齢性疾患の発生率は年々拡大している。したがって、加齢性疾患を治療しようとするだけでなく、加齢の複雑なプロセスの開始を遅らせようとする試みが数多くなされている。その結果、寿命及び健康寿命を延長するための標的となり得る多くの加齢に関連する経路が特定された。例えば、インスリン/インスリン様増殖因子(IGF)シグナル伝達又はラパマイシンの機構的標的(mTOR)シグナル伝達経路等の栄養感知経路における単一遺伝子変異が、無脊椎動物における寿命及び健康寿命を延ばすという圧倒的な証拠がある。これらの経路は哺乳動物モデルでも評価されており、遺伝子操作又は薬物によって健康寿命及び寿命が延びている。これは、保存された加齢の経路を調節することによって、加齢プロセスを遅らせ、加齢性疾患の出現を遅らせる薬物を含む、新たな介入への希望をもたらすが、これまでのところ、幾つかの対症治療を除いて、残念なことに、ヒトの加齢プロセスを効率的に遅らせることが示された既知の介入はない。結局のところ、既存の疾患及び障害を医学によって治療することに加えて、健康を維持し、加齢を遅らせるための措置の必要性及び要求が高まっている。
【0003】
過去数十年にわたり、幾つかのモデル生物が、複雑な加齢科学に関してより多くの洞察を得るために使用されてきた。カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)(C.エレガンス)は、加齢及び加齢性疾患の研究に一般的に使用されるモデル動物(animal organism)であり、ライフサイクルが短い、実験操作が単純、及び豊富な遺伝資源等の顕著な利点がある。加えて、フルゲノムシーケンシングが完了した最初の多細胞生物であり、そのゲノムはヒト疾患関連遺伝子の2/3を含み、導入遺伝子疾患モデルはGFP標識及び全ゲノムRNAi技術によって容易に妨害することができ、加齢及び加齢性疾患の研究にとって特に重要な個体レベルでの変性病理及び可能性のある薬物に関する系統的で完全な生涯フォローアップ研究を実施することが可能である。したがって、C.エレガンスの使用は、加齢に関連する病理学的機構の説明及び活性化合物の開発を大きく促進する。
【0004】
メトフォルミンは広く使用されており、2型糖尿病の治療のための抗糖尿病薬として承認されている。メトフォルミンは、インスリン感受性を高め、それによってインスリン分泌に影響を及ぼすことなく、細胞レベルでインスリン作用を改善する。メトフォルミンは、幾つかの心血管危険因子に対してプラスの効果を発揮することも示されている。さらに、メトフォルミンも多くの加齢機構を標的とすることが示されている。具体的には、加齢の場合、メトフォルミンはインスリンレベルの低下、IGF-1シグナル伝達の低下、mTORの阻害、電子伝達系におけるミトコンドリア複合体Iの阻害、及び活性酸素種の内因性産生の減少、AMP活性化キナーゼ(AMPK)の活性化、並びにDNA損傷の減少をもたらす。メトフォルミンはまた、炎症、オートファジー、及び細胞老化等の加齢に関連する状態の発症と密接に関連する代謝及び細胞のプロセスに有利に影響することが示された(非特許文献1)。C.エレガンスモデル系を用いることで、2型糖尿病におけるメトフォルミンの健康増進及び延命(life-prolonging)の効果も確認された。
【0005】
ヒトの研究では、メトフォルミンは、更に、糖尿病患者における癌のリスクを有意に減少させること(非特許文献2)、及び冠動脈疾患のリスクを低下させること(非特許文献3)が示されている。しかしながら、これらの効果はいずれも、メトフォルミンを少なくとも1500 mg/日以上というかなり高い治療用量で投与する場合に観察されている。加えて、これまでのところ、加齢性疾患に対する別の化合物と組み合わせたメトフォルミンの相乗効果は特定されていない。
【0006】
ニコチン受容体をアロステリックに調節するアセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるガランタミンは、アルツハイマー病の患者に投与される薬物として広く知られている。C.エレガンスでは、ガランタミンは、ヒトと同様の方法でコリン作動性神経伝達を促進し、トランスジェニックC.エレガンスのアルツハイマー病モデルにおける麻痺表現型をレスキューすることが示されたが(非特許文献4)、ガランタミンについては、C.エレガンスにおいて自発運動、運動性又は加齢に関連する他の形態の減退には影響を与えないと記載されている。ヒトでは、ガランタミンは、心筋梗塞による死亡を有意に減少させることが示されている(非特許文献5)。さらに、ガランタミンは、メタボリックシンドロームの被験体の炎症及びインスリン抵抗性を緩和する(非特許文献6)。しかしながら、これらの効果はいずれも、少なくとも24 mg/日以上というかなり高い治療用量でガランタミンを投与する場合に観察されている。さらに、ガランタミンについても、ガランタミンを別の化合物と組み合わせた場合の加齢性疾患に対する相乗効果は特定されなかった。
【0007】
本発明において、本発明者らは、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるガランタミンと組み合わせて、ビグアニドであるメトフォルミンを用いて加齢性疾患に対する増強効果、更には相乗効果を特定した。特に、この効果は、化合物の少なくとも1つ、又は両方の化合物をそれらの治療用量以下の用量で投与する場合にも観察された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Barzilai et al., Cell Metab. 2016
【非特許文献2】Fuming et al. Oncol Lett. 2018
【非特許文献3】Hong et al., Diabetes Care. 2014
【非特許文献4】Xin et al., Plos One, 2013
【非特許文献5】Nordstroem et al., 2013
【非特許文献6】Consolim-Colombo et al.; JCI Insight. 2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ビグアニド及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物とを含む医薬配合剤を提供する。本発明に関して、上記医薬配合剤は、加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用することが典型的である。さらに、加齢性愁訴及び/又は変性愁訴の予防、安定化、及び/又は低減のための上記医薬配合剤の使用、並びに寿命及び/又は健康寿命の指標の改善のための上記医薬配合剤の使用についても開示される。
【0010】
本発明の全ての異なる実施の形態による医薬配合剤は、ビグアニド及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤及び/又はそのN-オキシド、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物とを含む。更なる実施の形態では、ビグアニドはメトフォルミンであり、1,1-ジメチルビグアニド又はN,N-ジメチルビグアニドとも呼ばれる。本発明の別の更なる実施の形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及びメマンチンを含む群から選択される。また更なる実施の形態では、本発明による医薬配合剤は、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及び/又はメマンチン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と組み合わせてメトフォルミンを含む。また更なる実施の形態では、本発明による医薬配合剤は、メトフォルミン及びガランタミン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む。更に別の実施の形態では、本発明による医薬配合剤は、メトフォルミン及びドネペジル、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物、又はメトフォルミン及びメマンチン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物、又はメトフォルミン及びリバスチグミン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む。別の実施の形態では、本発明は、ガランタミン及びドネペジル、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と組み合わせてメトフォルミンを含むか、又はガランタミン及びメマンチン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と組み合わせてメトフォルミンを含むか、又はガランタミン及びリバスチグミン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と組み合わせてメトフォルミンを含むか、又はドネペジル、リバスチグミン及びメマンチン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と組み合わせてメトフォルミンを含む。また更なる実施の形態では、本発明は、ガランタミン、ドネペジル及びメマンチン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と組み合わせてメトフォルミンを含む。
【0011】
本発明の第1の目的では、本明細書で上記の通り概要を述べたその全ての異なる実施の形態における医薬配合剤は、被験体において加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防、安定化、発症の遅延、及び/又は症状の低減に使用するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
更なる実施の形態では、上記加齢性疾患及び/又は変性疾患は、免疫疾患、炎症性疾患、内分泌代謝疾患、循環器系の疾患、関節症、消化器系の疾患、ミトコンドリア関連疾患、神経筋骨格系の疾患、サルコペニア、及びフレイルを含む群から選択される。
【0013】
さらに、より好ましい態様では、加齢性疾患及び/又は変性疾患は、神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患、フレイル、炎症性疾患及び/又は内分泌代謝障害を含む群から選択される。更に別の実施の形態では、その全ての実施の形態による医薬配合剤は、神経筋骨格系の疾患及び/又はフレイルから選択される加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用するためのものである。本発明の文脈では、神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患は、錐体外路系運動障害、神経筋接合部及び筋肉の疾患、主に中枢神経系を障害する系統萎縮症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症及び関連疾患、筋萎縮性側索硬化症等の運動ニューロン疾患、異常不随意運動、歩行及び運動の異常、運動失調症、ミトコンドリア関連神経筋骨格疾患、並びにサルコペニアから選択される。
【0014】
そのため、特定の態様では、その全ての実施の形態による医薬配合剤は、フレイルの治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用するためのものである。
【0015】
別の特定の態様では、その全ての実施の形態による医薬配合剤は、サルコペニアの治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用するためのものである。
【0016】
更に別の特定の態様では、その全ての実施の形態による医薬配合剤は、錐体外路系運動障害、神経筋接合部及び筋肉の疾患、主に中枢神経系を障害する系統萎縮症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症及び関連疾患、筋萎縮性側索硬化症等の運動ニューロン疾患、異常不随意運動、歩行及び運動の異常、又は運動失調症の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は低減に使用するためのものである。
【0017】
既に上記で概説したように及び特定の実施の形態では、その全ての実施の形態による医薬配合剤は、ミトコンドリア関連神経筋骨格疾患の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用するためのものである。上記ミトコンドリア関連神経筋骨格疾患は、セントラルコア病及び視神経萎縮1(OPA1)関連疾患から選択される。上記OPA1関連疾患は、視神経萎縮、OPA1関連高血圧、及びOPA1関連萎縮から選択される。
【0018】
別の態様では、その全ての異なる実施の形態による医薬配合剤は、加齢性炎症性疾患及び/又は変性炎症性疾患、特にサイトカインレベルの増加と関連する炎症性疾患の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用するためのものである。
【0019】
更に別の実施の形態では、その全ての異なる実施の形態による医薬配合剤は、加齢性及び/又は変性内分泌代謝障害の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用するためのものである。更なる実施の形態では、上記加齢性及び/又は変性内分泌代謝障害は、肥満、高血圧、メタボリックシンドローム、特にサルコペニア肥満から選択される。
【0020】
別の態様では、本発明による医薬配合剤は、加齢性の免疫応答(例えば、ワクチン接種への応答)の低下又は機能不全等の加齢性免疫疾患、細菌感染症、及びウイルス感染症の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は低減に使用するためのものである。
【0021】
別の態様では、本発明による医薬配合剤は、肥満、サルコペニア肥満、メタボリックシンドローム、II型糖尿病及び早老症等の加齢性の内分泌代謝疾患の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は低減に使用するためのものである。
【0022】
更なる態様では、本発明による医薬配合剤は、アテローム性動脈硬化症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患、又は脳卒中等の循環器系の加齢性疾患の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は低減に使用するためのものである。
【0023】
更に別の実施の形態では、本発明による医薬配合剤は、関節リウマチ又は骨関節炎等の加齢性関節症の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は低減に使用するためのものである。
【0024】
別の実施の形態では、本発明の医薬配合剤は、炎症性肝疾患、消化管障害、又は便秘等の消化器系の加齢性疾患の治療、予防、安定化、発症の延遅及び/又は低減に使用するためのものである。
【0025】
上記のように概説した通り、本発明に関して、上記医薬配合剤は、全ての異なる実施の形態により加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用することが典型的である。本発明の特定の態様では、その全ての実施の形態による医薬配合剤は、上記加齢性疾患及び/又は変性疾患の予防又は発症の遅延に使用するためのものである。別の態様では、その全ての実施の形態による医薬配合剤は、加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療に使用するためのものである。また更なる態様では、その全ての実施の形態による医薬配合剤は、全ての異なる実施の形態により加齢性疾患及び/又は変性疾患の安定化に使用するためのものである。更に別の態様では、その全ての実施の形態による医薬配合剤は、その全ての実施の形態により加齢性疾患及び/又は変性疾患の症状の低減に使用するためのものである。更なる態様では、上記加齢性疾患及び/又は変性疾患は、神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患、サルコペニア及び/又はフレイルから選択される。
【0026】
第2の目的では、本発明は、加齢性愁訴、変性機能不全及び/又は変性愁訴の予防、安定化及び/又は低減のための医薬配合剤の使用を提供する。特定の態様では、本発明は、更に、筋脱力、筋力の低下、神経筋変性、運動障害、及び全身の脱力感を含む群から選択される加齢性愁訴、変性機能不全及び/又は変性愁訴の予防、安定化及び/又は低減のための医薬配合剤の使用を提供する。更なる態様では、本発明は、筋脱力、筋力の低下、神経筋変性、運動障害を含む群から選択される加齢性愁訴、変性機能不全及び/又は変性愁訴の予防、安定化及び/又は低減のための医薬配合剤の使用を提供する。別の特定の態様では、本発明の観点から、加齢性愁訴は、全身の脱力感である。
【0027】
第3の目的では、本発明は、寿命及び/又は健康寿命の指標を改善するための医薬配合剤の使用を提供する。更なる態様では、寿命及び/又は健康寿命の指標の改善は、医薬配合剤の投与前の被験体の状態に対する又は対照集団に対する、加齢性身体障害における機能の改善、加齢性身体障害の悪化の安定化、加齢性愁訴の軽減又は安定化、変性機能不全及び変性愁訴の軽減又は安定化を含む群から選択される。
【0028】
本発明の異なる実施の形態の使用の医薬配合剤は、ビグアニド及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤及び/又はそのN-オキシド、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物とを含む。更なる実施の形態では、ビグアニドはメトフォルミンであり、1,1-ジメチルビグアニド又はN,N-ジメチルビグアニドとも呼ばれる。本発明の別の更なる実施の形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及びメマンチンを含む群から選択される。また更なる実施の形態では、本発明による医薬配合剤は、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及び/又はメマンチン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と組み合わせてメトフォルミンを含む。また更なる実施の形態では、本発明による医薬配合剤は、メトフォルミン及びガランタミン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む。更に別の実施の形態では、本発明による医薬配合剤は、メトフォルミン及びドネペジル、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物、又はメトフォルミン及びリバスチグミン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物、又はメトフォルミン及びメマンチン、及び/又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を含む。
【0029】
本発明の観点から、加齢性愁訴、変性機能不全及び/又は変性愁訴としては、限定されるものではないが、筋脱力、筋力の低下、神経筋変性、運動障害、免疫応答障害、代謝不均衡、全身の脱力感、及びフレイルが挙げられる。特定の態様では、本発明の観点から、加齢性愁訴、変性機能不全及び/又は変性愁訴は、筋脱力、筋力の低下、神経筋変性、運動障害から選択される。別の特定の態様では、本発明の観点から、加齢性愁訴は、全身の脱力感である。
【0030】
更なる実施の形態では、本発明は、フレイルの予防、悪化の安定化、発症の遅延及び/又は低減のための上記に概説される医薬配合剤の使用を提供し、ここで、フレイルの低減又はフレイルの悪化の安定化は、体力の増加、体力低下の安定化、除脂肪体重の増加、体重減少の安定化、運動性の改善、運動性低下の安定化、エネルギーの増加、エネルギー低下の安定化、活動レベルの増加、活動低下の安定化、持久力の増加、持久力低下の安定化、感覚合図に対する行動応答の向上、感覚合図に対する行動応答の安定化、1つ以上の炎症マーカー又はバイオマーカーの減少又は安定化、グルコース恒常性及び代謝又はカタボリック状態の改善、神経伝達又は神経筋伝達の改善、並びに凝固活性化の1つ以上のバイオマーカーの減少を含むパラメーターの群から選択され、ここで、減少又は安定化は、医薬配合剤を投与する前の被験体の状態に対する、又は対照集団に対するものである。
【0031】
別の更なる実施の形態では、本発明は、フレイルの治療、予防、悪化の安定化、発症の遅延及び/又は低減に使用するための上記に概説される医薬配合剤を提供し、ここで、フレイルの低減又はフレイルの悪化の安定化は、体力の増加、体力低下の安定化、除脂肪体重の増加、体重減少の安定化、運動性の改善、運動性低下の安定化、エネルギーの増加、エネルギー低下の安定化、活動レベルの増加、活動低下の安定化、持久力の増加、持久力低下の安定化、感覚合図に対する行動応答の向上、感覚合図に対する行動応答の安定化、1つ以上の炎症マーカー又はバイオマーカーの減少又は安定化、グルコース恒常性及び代謝又はカタボリック状態の改善、神経伝達又は神経筋伝達の改善、並びに凝固活性化の1つ以上のバイオマーカーの減少を含むパラメーターの群から選択され、ここで、減少又は安定化は、医薬配合剤を投与する前の被験体の状態に対する、又は対照集団に対するものである。
【0032】
別の実施の形態では、本発明は、寿命及び/又は健康寿命の指標を改善するための上記に概説される医薬配合剤の使用を提供し、ここで、寿命及び/又は健康寿命の指標の改善は、医薬配合剤の投与前の被験体の状態に対する又は対照集団に対する、加齢性身体障害における機能の改善、加齢性身体障害の悪化の安定化、加齢性愁訴の軽減又は安定化、変性機能不全及び変性愁訴の軽減又は安定化を含む群から選択される。
【0033】
別の実施の形態では、本発明に鑑みた寿命及び/又は健康寿命の指標の改善は、コレステロールレベル、トリグリセリドレベル、高密度リポタンパク質レベル、低密度リポタンパク質レベル、レプチンレベル、アディポネクチンレベル、炎症パラメーター、暦年齢対生物学的年齢(chronological versus biological age)パラメーター及び血圧、免疫老化からなる群から選択される1つ以上のパラメーターの改善を含み、ここで、上記寿命及び/又は健康寿命の指標が、医薬配合剤の投与前の被験体の状態に対して、又は対照集団に対して改善される。
【0034】
更に別の実施の形態では、本発明は、寿命及び/又は健康寿命の指標を改善するため、特に、ストレス因子の適用中に恒常性を維持する能力を強化するため、及び/又はストレス因子の適用後に恒常性に戻るのに要する時間を短縮するための上記に開示される医薬配合剤の使用を提供する。
【0035】
本発明の全ての異なる実施の形態において、本発明による医薬配合剤は、被験体、特にヒト被験体に1日治療用量又は1日治療用量以下の用量で投与することができる。更に別の実施の形態では、本発明の医薬配合剤の成分の少なくとも1つは、被験体に治療用量以下の用量で投与される。別の実施の形態では、本発明による医薬配合剤の成分の少なくとも1つは治療用量で投与される。更に別の実施の形態では、医薬配合剤の成分の1つは、治療用量以下の用量で投与されるのに対して、他の成分は治療用量で投与される。別の実施の形態では、本発明の医薬配合剤の全ての成分が、治療用量以下の用量で被験体に投与される。
【0036】
好ましい実施の形態では、医薬配合剤において、ビグアニド又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物は、治療用量以下の用量で投与され、好ましくは被験体あたり最大約1500 mg/日の1日治療用量以下の用量、より好ましくは被験体あたり約5 mg/日以上、被験体あたり最大約1500 mg/日の1日治療用量以下の用量、更により好ましくは被験体あたり約5 mg/日~約1000 mg/日の1日治療用量以下の用量、更により好ましくは被験体あたり約5 mg/日~約850 mg/日、又は被験体あたり約5 mg/日~約800 mg/日、又は被験体あたり約5 mg/日~約750 mg/日、又は被験体あたり約5 mg/日~約700 mg/日、又は被験体あたり約5 mg/日~約500 mg/日の1日治療用量以下の用量で投与される。
【0037】
別の実施の形態では、医薬配合剤において、ビグアニド又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を治療用量でも投与することができ、好ましくは被験体あたり1500 mg/日超の1日治療用量、更により好ましくは被験体あたり1500 mg/日超であり3000 mg/日未満の1日治療用量で投与することができる。
【0038】
別の好ましい実施の形態では、医薬配合剤において、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物は、治療用量以下の用量で投与され、好ましくは被験体あたり約16 mg/日未満の治療用量以下の用量、更により好ましくは、被験体あたり約0.08 mg/日超であり約16 mg/日未満、好ましくは被験体あたり約12 mg/日未満である治療用量以下の用量で投与される。別の実施の形態では、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物は、被験体あたり約2 mg/日超であり約16 mg/日未満、好ましくは被験体あたり約12 mg/日未満である1日治療用量以下の用量で投与される。
【0039】
別の実施の形態では、医薬配合剤において、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物は治療用量で投与され、好ましくは被験体あたり16 mg/日超の1日治療用量、更により好ましくは被験体あたり16 mg/日~24 mg/日の1日治療用量で投与される。
【0040】
別の好ましい実施の形態では、本発明による医薬配合剤は、ビグアニド、好ましくはメトフォルミンと、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン又はメマンチンから選択されるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤とを含む医薬配合剤であり、ここで、ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、いずれも治療用量以下の用量で投与される。上記の文脈において、ビグアニドは、被験体あたり最大約1500 mg/日、好ましくは被験体あたり最大約1000 mg/日の1日治療用量以下の用量、より好ましくは被験体あたり約5 mg/日以上であり最大約1500 mg/日である1日治療用量以下の用量、更により好ましくは被験体あたり約5 mg/日~約1000 mg/日の1日治療用量以下の用量で投与される。また上記文脈において、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、被験体あたり約16 mg/日未満の1日治療用量以下の用量、更により好ましくは被験体あたり約0.08 mg/日超であり約16 mg/日未満、好ましくは被験体あたり約12 mg/日未満である治療用量以下の用量で投与される。更に好ましい実施の形態では、被験体あたり約2 mg/日超であり約16 mg/日未満、好ましくは被験体あたり約12 mg/日未満である1日治療用量以下の用量である。更により好ましい実施の形態では、被験体あたり3 mg/日~12 mg/日の1日治療用量以下の用量である。
【0041】
本発明の別の態様では、本発明の全ての異なる実施の形態における医薬配合剤は、経口投与又は任意の他の非侵襲的な投与に対して調製される。
【0042】
本発明の異なる実施の形態による医薬配合剤は、ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物が、別々に医薬組成物に製剤化されることを更に特徴とする。更なる態様では、ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を被験体に同時に投与する。或いは、ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物を異なる時点で投与する。
【0043】
別の態様では、ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物は、本発明の医薬配合剤において単一の医薬製剤に製剤化される。
【0044】
本発明は、以下の番号付けされた実施の形態においてまとめることができる。
【0045】
1.被験体における加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用される医薬配合剤であって、上記医薬配合剤が、
ビグアニド、及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
を含む、医薬配合剤。
【0046】
2.ビグアニドがメトフォルミンである、実施の形態1に記載の使用のための医薬配合剤。
【0047】
3.アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及びメマンチンを含む群から選択され、好ましくはガランタミンである、実施の形態1に記載の使用のための医薬配合剤。
【0048】
4.加齢性疾患及び/又は変性疾患が、免疫疾患、内分泌代謝疾患、循環器系の疾患、関節症、消化器系の疾患、神経筋骨格系の疾患、炎症性疾患、及びフレイルを含む群から選択される、実施の形態1~3のいずれか1つに記載の使用のための医薬配合剤。
【0049】
5.免疫疾患が、加齢性の免疫応答(ワクチン接種への反応)の低下、加齢性の免疫機能障害、細菌感染症、及びウイルス感染症を含む群から選択される、実施の形態4に記載の使用のための医薬配合剤。
【0050】
6.内分泌代謝障害が、肥満、サルコペニア肥満、メタボリックシンドローム、II型糖尿病、早老症を含む群から選択され、特にサルコペニア肥満である、実施の形態4に記載の使用のための医薬配合剤。
【0051】
7.循環器系の疾患が、アテローム性動脈硬化症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患及び脳卒中を含む群から選択される、実施の形態4に記載の使用のための医薬配合剤。
【0052】
8.関節症が、関節リウマチ及び骨関節炎を含む群から選択される、実施の形態4に記載の使用のための医薬配合剤。
【0053】
9.消化器系の疾患が、胃炎、消化性潰瘍疾患、炎症性肝疾患、消化管障害及び便秘を含む群から選択される、実施の形態4に記載の使用のための医薬配合剤。
【0054】
10.加齢性疾患及び/又は変性疾患が、神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患、フレイル、炎症性疾患、及び/又は内分泌代謝障害から選択される、実施の形態1~3に記載の使用のための医薬配合剤。
【0055】
11.神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患及び/又はフレイルの治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用される、実施の形態1に記載の使用のための医薬配合剤。
【0056】
12.神経筋骨格系の疾患が、錐体外路系運動障害、神経筋接合部及び筋肉の疾患、主に中枢神経系を障害する系統萎縮症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症及び関連疾患、筋萎縮性側索硬化症等の運動ニューロン疾患、異常不随意運動、歩行及び運動の異常、運動失調症、ミトコンドリア関連神経筋骨格疾患、並びにサルコペニアを含む群から選択される、実施の形態11に記載の使用のための医薬配合剤。
【0057】
13.神経筋骨格系の疾患が、錐体外路系運動障害、神経筋接合部及び筋肉の疾患、主に中枢神経系を障害する系統萎縮症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症及び関連疾患、筋萎縮性側索硬化症等の運動ニューロン疾患、異常不随意運動、歩行及び運動の異常、又は運動失調症を含む群から選択される、実施の形態11に記載の使用のための医薬配合剤。
【0058】
14.神経筋骨格系の疾患がサルコペニアである、実施の形態11に記載の使用のための医薬配合剤。
【0059】
15.神経筋骨格系の疾患である、実施の形態11に記載の使用のための医薬配合剤。
【0060】
16.加齢性疾患及び/又は変性疾患がミトコンドリア関連神経筋骨格疾患、特に、セントラルコア病及び視神経萎縮1(OPA1)関連疾患から選択されるミトコンドリア関連神経筋骨格疾患である、実施の形態1に記載の使用のための医薬配合剤。
【0061】
17.加齢性愁訴及び/又は変性愁訴の予防、安定化及び/又は低減のための医薬配合剤の使用であって、上記医薬配合剤が、
ビグアニド、又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
を含む、医薬配合剤の使用。
【0062】
18.寿命及び/又は健康寿命の指標を改善するための医薬配合剤の使用であって、上記医薬配合剤が、
ビグアニド、又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、そのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
を含む、医薬配合剤の使用。
【0063】
19.寿命及び/又は健康寿命の指標の改善が、医薬配合剤の投与前の被験体の状態に対する又は対照集団に対する、加齢性身体障害における機能の改善、加齢性身体障害の悪化の安定化、加齢性愁訴及び/又は変性愁訴の軽減又は安定化を含む群から選択される、実施の形態18に記載の医薬配合剤の使用。
【0064】
20.加齢性愁訴及び/又は変性愁訴が、筋脱力、筋力の低下、神経筋変性、運動障害、免疫応答の低下又は障害、代謝不均衡、全身の脱力感、フレイルを含む群から選択される、実施の形態17又は19に記載の医薬配合剤の使用。
【0065】
21.加齢性愁訴及び/又は変性愁訴が、筋脱力、筋力の低下、神経筋変性、及び運動障害を含む群から選択される、実施の形態17又は19に記載の医薬配合剤の使用。
【0066】
22.加齢性愁訴及び/又は変性愁訴が全身の脱力感である、実施の形態17又は19に記載の医薬配合剤の使用。
【0067】
23. フレイルの低減又はフレイルの悪化の安定化が、体力の増加、体力低下の安定化、除脂肪体重の増加、体重減少の安定化、運動性の改善、運動性低下の安定化、エネルギーの増加、エネルギー低下の安定化、活動レベルの増加、活動低下の安定化、持久力の増加、持久力低下の安定化、感覚合図に対する行動応答の向上、感覚合図に対する行動応答の安定化、1つ以上の炎症マーカー又はバイオマーカーの減少又は安定化、グルコース恒常性及び代謝又はカタボリック状態の改善、神経伝達又は神経筋伝達の改善、並びに凝固活性化の1つ以上のバイオマーカーの減少からなるパラメーターの群から選択され、ここで、減少又は安定化は、医薬配合剤を投与する前の被験体の状態に対する、又は対照集団に対するものである、実施の形態20に記載の医薬配合剤の使用。
【0068】
24.寿命及び/又は健康寿命の指標の改善が、コレステロールレベル、トリグリセリドレベル、高密度リポタンパク質レベル、低密度リポタンパク質レベル、レプチンレベル、アディポネクチンレベル、炎症パラメーター、暦年齢対生物学的年齢パラメーター及び血圧、免疫老化からなる群から選択される1つ以上のパラメーターの改善を含み、ここで、上記寿命及び/又は健康寿命の指標が、医薬配合剤の投与前の被験体の状態に対して、又は対照集団に対して改善される、実施の形態18に記載の医薬配合剤の使用。
【0069】
25.寿命及び/又は健康寿命の指標の改善が、ストレス因子の適用中に恒常性を維持する能力の強化及び/又はストレス因子の適用後に恒常性に戻るために要する時間の短縮を含む、実施の形態18に記載の医薬配合剤の使用。
【0070】
26.ビグアニドがメトフォルミンである、実施の形態17~25のいずれか1つに記載の医薬配合剤の使用。
【0071】
27.アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン及びメマンチンを含む群から選択される、実施の形態17~26のいずれか1つに記載の医薬配合剤の使用。
【0072】
28.医薬配合剤が、経口投与又は任意の他の非侵襲的な投与に対して調製される、実施の形態1~16のいずれか1つに記載の使用のための医薬配合剤、又は実施の形態17~27のいずれか1つに記載の医薬配合剤の使用。
【0073】
29.ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物が、別々に医薬組成物に製剤化される、上記の実施の形態のいずれか1つに記載の使用のための医薬配合剤又は医薬配合剤の使用。
【0074】
30.ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物が、単一の医薬製剤に製剤化される、上記の実施の形態のいずれか1つに記載の使用のための医薬配合剤又は医薬配合剤の使用。
【0075】
31.ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物が、同時に投与される、上記の実施の形態のいずれか1つに記載の使用のための医薬配合剤又は医薬配合剤の使用。
【0076】
32.ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物が、異なる時点で投与される、上記の実施の形態のいずれか1つに記載の使用のための医薬配合剤又は医薬配合剤の使用。
【0077】
33.ビグアニド及びアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、又はそれらのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物が、治療用量以下の用量で被験体に投与される、上記の実施の形態のいずれか1つに記載の使用のための医薬配合剤又は医薬配合剤の使用。
【0078】
34.被験体がヒト被験体である、上記の実施の形態のいずれか1つに記載の使用のための医薬配合剤又は医薬配合剤の使用。
【0079】
これより図面を具体的に参照するが、示される項目は例示であり、本発明の種々の実施形態の説明的な論考のみを目的とすることが強調される。これらの図面は、本発明の原理及び概念的態様の最も有用かつ簡単な説明であると考えられるものを提供するために提示される。この点で、本発明の基礎的理解に必要とされるよりも詳細な本発明の構造細部を示そうとはしていない。この説明は、図面と共に本発明の幾つかの形態を実際に具体化し得る方法を当業者に明らかとするものである。
【図面の簡単な説明】
【0080】
図1】メトフォルミン、ガランタミン、及びメトフォルミンとガランタミンの組み合わせの単回投薬の延命効果を評価するためのC.エレガンスを用いた寿命アッセイの図である。C.エレガンスの生存を測定する複数のアッセイからプールされたデータを示す。処置は成虫の初日に始まり、動物に1回投薬した。表1に、全寿命データを示す。
図2】メトフォルミン、ガランタミン、及びメトフォルミンとガランタミンの組み合わせの反復投薬の延命効果を評価するためのC.エレガンスを用いた寿命アッセイの図である。処置は成虫の初日に始まり、繰り返し動物に投薬した。表1に、全寿命データを示す。
図3】ガランタミン及び/又はメトフォルミンによるC.エレガンスの単回投薬は、加齢の間、複数の自発運動パラメーター(すなわち、平均活動(A)及び最大活動(B))と並んで「健康な日数」の平均数(C)にプラスの影響を与える。後者は、動物の活動が(同じアッセイ内で)未処置の対照条件の平均最大活動の15%よりも高い日数として定義される健康寿命のパラメーターである。パネルA及びパネルBでは、ベースライン活動(すなわち、青色光刺激の前)が点線の左側に示され、一方、刺激を受けた活動(すなわち青色光刺激の後)は点線の右側に示される。エラーバーはSEMを示す。未処置対照に対する統計的有意水準(及びパーセント変化)を、各チャートの下部に示す。「25 mM Met+100 μM Gal」に対する統計的有意性は、追加のラインにより示される。*pANOVA<0.05、**pANOVA<0.01、***pANOVA<0.001、NS 有意ではない。
図4】ガランタミン及び/又はメトフォルミンによるC.エレガンスの反復投薬は、生殖後成虫の複数の自発運動及び行動のパラメーターにプラスの影響を与える(平均速度(A)、最大速度(B)、走行割合(C)、セル占有率(D))。エラーバーはSEMを示す。未処置対照に対する統計的有意水準(及びパーセント変化)を、各チャートの下部に示す。「25 mM Met+100 μM Gal」に対する統計的有意性は、追加のラインにより示される。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、NS 有意ではない。全自発運動データを表2に示す。
図5】25 mM Metと、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤Don及びRiv、又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤様化合物Memとの組み合わせは、25 mM Metとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤Galとの組み合わせと非常によく似た自発運動の表現型を誘発する(平均速度(A)、最大速度(B)、走行割合(C)、セル占有率(D))。未処置対照に対する統計的有意水準(及びパーセント変化)を、各チャートの下部に示す。*p<0.05、NS 有意ではない。全自発運動データを表3に示す。
図6】細胞保護グルタチオンS-トランスフェラーゼ4(gst-4)遺伝子の転写は、Met及びGalによって相乗的に活性化される。C.エレガンスにおけるin vivo遺伝子転写アッセイによるデータを示す図である。各円(生物学的複製)は、何千もの動物からなる。エラーバーはSEMを示す。3つの独立したアッセイからプールしたデータを示す。未処置対照に対する統計的有意水準(及びパーセント変化)を下部に示す。「25 mM Met+100 μM Gal」に対する統計的有意性は、追加のラインにより示される。***pANOVA<0.001、NS 有意ではない。
図7】Met及びGalの組み合わせで処置された成虫C.エレガンスは、未処置対照動物と比較して筋肉形態の改善を示す。(A)アスペクト比は筋フィラメントの長さ及び幅の測定を表し、一方、(B)平滑度は完全な筋フィラメントの輪郭の指標を表す。未処置対照の条件に対する統計的有意水準(及びパーセント変化)を示す。*pANOVA<0.05、NS 有意ではない。
図8-1】メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせで治療した筋肉特異的Opa1-/-マウスは体脂肪量を維持し、代謝を回復して脂肪肝を予防した。雌性Opa1f/f(対照)、タモキシフェン治療後にメトフォルミン+ガランタミンで補充した又はそれで補充していないOpa1-/-マウスにおいて測定した、(A)体重、(B)除脂肪量及び(C)体脂肪量。(D)雄性Opa1f/f、メトフォルミン+ガランタミンで補充した又はそれで補充していないOpa1-/-マウスの白色脂肪組織(WAT)含有量。(E)摂食量。(F~H)併用治療に対するin vivo代謝反応。(F)酸素消費(VO2)、(G)二酸化炭素産生(VCO2)、(H)エネルギー消費、(I)骨格筋IL6炎症レベル。データは平均±SEM、雌性:n=2~4、雄性:n=3、*p<0.05、**p<0.01、****P<0.0001である。
図8-2】同上
図8-3】同上
図9-1】メトフォルミン及びガランタミンの両方の組み合わせにより、筋肉特異的Opa1-/-マウスの身体パフォーマンスが向上した。タモキシフェン治療から60日後及び50日後に、メトフォルミン+ガランタミンで治療した又はそれで治療していない雌性Opa1-/-マウスでそれぞれ測定した、(A)トレッドミルパフォーマンスで走った時間、及び(B)握力。(C~F)腓腹筋に対してin vivoで実施した力-周波数曲線(Force-frequency curves)。メトフォルミン+ガランタミンで治療した又はそれで治療していない、雌性及び雄性のOpa1-/-マウスにおいて強縮時にそれぞれ発生する(C及びD)絶対力及び(E及びF)最大比力(maximal specific force)。データは平均±SEM、雌性:n=2~4、雄性:n=3、*p<0.05、**p<0.01を表す。
図9-2】同上
図10】Opa1-/-マウスにおけるメトフォルミン及びガランタミンの両方の組み合わせが筋肉量を部分的に保存した。(A~F)それぞれ、雌性及び雄性の対照(Opa1f/f)、メトフォルミン+ガランタミン治療で補充した及びそれで補充していないOpa1-/-マウスの筋肉重量。雌性対照(OPA1f/f)、メトフォルミン+ガランタミンで治療した及びそれで治療していないOpa1-/-マウスにおける(A、D)前脛骨筋、(B、E)腓腹筋、(C、F)ヒラメ筋、(G)筋線維数及び(H)除神経NCAM陽性線維の定量。データは平均±SEM、雌性:n=2~4、雄性:n=3、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、及び****p<0.0001である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
本発明は、加齢性疾患及び/又は変性疾患、特に神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患、サルコペニア及び/又はフレイルの治療、予防、安定化、発症の遅延及び/又は症状の低減に使用される医薬配合剤に関する。
【0082】
本発明に鑑みて、「治療する、処置する(treat)」又は「治療、処置(treatment)」という用語は、治癒的処置をもたらす作用、又は疾患の(of)症状若しくは状態の重症度を軽減若しくは低減すること、又は疾患若しくは障害の発生頻度を減少させることを指す。該用語には、障害の寛解性処置(remitative treatment)(すなわち、障害が寛解に入ることを引き起こす処置)が含まれる。「治療する、処置する」又は「治療、処置」という用語は、疾患又は状態が少なくとも部分的に改善又は回復される、及び/又は少なくとも1つの臨床症状における何らかの緩和、軽減若しくは低減がある、及び/又は状態若しくは疾患の進行の遅延、及び/又は状態若しくは疾患の発症の予防若しくは遅延がある、作用物質の投与を含む。そのため、「治療する、処置する」及び「治療、処置」という用語は、予防的及び治療的処置レジメンの両方を指す。「治療、処置」という用語は、「治療法」という用語と同じ意味で本明細書において使用され、治療的及び予防的(prophylactic/preventative)措置の両方を指す。治療を必要とする者は、既に特定の医学的障害を有する個体、また同様に最終的に障害を獲得する可能性のある者(すなわち、予防的措置を必要とする者)も含み得る。
【0083】
本明細書で使用する場合、「予防(prevention)」又は「予防(prophylaxis)」とは、疾患又は状態又は症状を発症するリスクを減少させる方法を指す。予防は、疾患若しくは状態を発症するリスクの減少、及び/又は症状の悪化若しくは疾患の進行の予防、又は症状の悪化、又は疾患若しくは状態の進行のリスクの減少を含む。
【0084】
本明細書で使用する場合、加齢性疾患又は変性疾患の症状の「安定化」とは、症状の数及び/又は重症度の程度が減少も増加もしない状態を指す。
【0085】
本明細書で使用する場合、「組み合わせ、配合剤」とは、2つ、又はより多くの品目間の任意の結び付きを指す。結び付きは、空間的であってもよく、又は共通の目的のための2つ以上の品目の使用を指すことができる。
【0086】
本明細書で使用する場合、「組成物」とは、2つ以上の製品又は化合物(例えば、作用物質、モジュレーター、レギュレータ等)の任意の混合物を指す。「組成物」は、溶液、懸濁液、液体、粉末若しくはペースト、水性若しくは非水性の製剤、又はそれらの任意の組み合わせであり得る。
【0087】
したがって、本発明は、ビグアニド、及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物とを含む医薬配合剤に関する。
【0088】
N-オキシド形は、1つ又は幾つかの窒素原子が酸化され、いわゆるN-オキシドになっている化合物を含むことを意図している。
【0089】
医薬用途の場合、本発明の化合物は、遊離の酸又は塩基として、及び/又は薬学的に許容可能な酸付加塩及び/又は塩基付加塩(例えば、無毒の有機又は無機の酸又は塩基で得られる)の形態で、水和物、溶媒和物及び/又は複合体の形態で、及び/又はプロドラッグ若しくはプレドラッグ、例えばエステルの形態で(in the form of)使用され得る。本明細書で使用する場合、特に記載がない限り、「溶媒和物」という用語には、本発明の化合物と適切な無機溶媒(例えば、水和物)又は有機溶媒(限定されるものではないが、アルコール、ケトン、エステル等)とによって形成され得る任意の組み合わせが含まれる。かかる塩、水和物、溶媒和物等及びそれらの調製は、当業者に明らかとなり、例えば、米国特許第6,372,778号、米国特許第6,369,086号、米国特許第6,369,087号、及び米国特許第6,372,733号に記載されている塩、水和物、溶媒和物等が参照される。
【0090】
本発明による化合物の薬学的に許容可能な塩、すなわち水溶性、油溶性、又は分散性の生成物の形態の塩としては、例えば、無機又は有機の酸又は塩基から形成される従来の非毒性塩又は第四級アンモニウム塩が挙げられる。かかる酸付加塩の例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パルモ酸塩(palmoate)、ペクチン酸塩(pectinate)、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、及びウンデカン酸塩が挙げられる。塩基塩としては、アンモニウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、ジシクロヘキシルアミン塩等の有機塩基との塩、N-メチル-D-グルカミン、並びにアルギニン、リシン等のアミノ酸との塩等が挙げられる。加えて、塩基性窒素含有基を、メチル、エチル、プロピル及びブチルの塩化物、臭化物及びヨウ化物等の低級アルキルハロゲン化物;ジメチル、ジエチル、ジブチルのような硫酸ジアルキル;並びに硫酸ジアミル;デシル、ラウリル、ミリスチル及びステアリルの塩化物、臭化物及びヨウ化物等の長鎖ハロゲン化物;ベンジル及びフェネチルの臭化物のようなアラルキルハロゲン化物等のような作用物質で四級化することができる。他の薬学的に許容可能な塩としては、硫酸塩エタノレート(ethanolate)及び硫酸塩が挙げられる。
【0091】
一般に、医薬用途の場合、本発明の化合物は、本発明の少なくとも1つの化合物と、少なくとも1つの薬学的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤及び/又はアジュバントと、任意に1つ以上の更なる薬学的に活性な化合物とを含む医薬品又は医薬組成物として製剤化され得る。
【0092】
非限定的な例により、かかる製剤は、経口投与、非経口投与(静脈内、筋肉内若しくは皮下の注射、又は点滴静注等)、局所投与(眼を含む)、吸入による、皮膚パッチによる、インプラントによる、坐剤による投与等に適した形態であり得る。かかる適切な投与形態は、投与様式と並んで、その調製に使用する方法、並びに担体、希釈剤及び賦形剤に応じて、固形、半固形又は液体であり得て、当業者に明らかであり、ここでも、例えば米国特許第6,372,778号、米国特許第6,369,086号、米国特許第6,369,087号、及び米国特許第6,372,733号と並んで、Remington's Pharmaceutical Sciencesの最新版等の標準ハンドブックも参照される。
【0093】
本発明に鑑みて、「加齢性疾患」とは、高齢者においてより頻繁に発生する身体の器官、部分、構造又はシステムが不規則であるか又は正しく機能していないことを特徴とする異常状態を指す。さらに、本明細書で使用する場合、「変性疾患」とは、組織又は器官を冒して、時間の経過と共にますます悪化する、変性細胞の変化に基づく継続的なプロセスの結果として生じる疾患を指す。
【0094】
本発明に鑑みて、加齢性疾患及び/又は変性疾患としては、免疫疾患、内分泌代謝疾患、循環系の疾患、関節症、消化器系の疾患、サルコペニア及びフレイルを含む神経筋骨格系の疾患が挙げられるが、これらに限定されない。免疫疾患は、加齢性免疫機能不全、加齢性の免疫応答の低下(例えば、ワクチン接種に対する免疫応答の低下等)、細菌感染症、ウイルス感染症を含む群から選択される。内分泌代謝疾患は、肥満、メタボリックシンドローム、II型糖尿病及び早老症を含む群から選択される。循環系の疾患は、アテローム性動脈硬化症、虚血性心疾患、末梢動脈疾患及び脳卒中(strike)を含む群から選択される。関節症は、関節リウマチ及び骨関節炎を含む群から選択される。消化器系の疾患は、胃炎、消化性潰瘍疾患、炎症性肝疾患、消化管障害、及び便秘を含む群から選択される。神経筋骨格系の疾患は、錐体外路系運動障害、神経筋接合部及び筋肉の疾患、主に中枢神経系を障害する系統萎縮症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症及び関連疾患、筋萎縮性側索硬化症等の運動ニューロン疾患、異常不随意運動、歩行及び運動の異常、運動失調症、ミトコンドリア関連疾患、並びにサルコペニアを含む群から選択される。
【0095】
ミトコンドリア機能障害の疾患は、神経変性、新生物、内分泌及び心血管疾患と関連があるとされている。本発明では、加齢性及び/又は変性ミトコンドリア関連疾患は、特に神経筋骨格機能障害につながるミトコンドリアの機能が損なわれた又は妨害されたことに関連する疾患である。上記疾患は、セントラルコア病及び視神経萎縮1(OPA1)関連疾患から選択される。セントラルコア病は、ミトコンドリア機能が損なわれたことに関連する遺伝性神経筋障害である。該疾患は、筋線維の長軸(「セントラルコア」)に沿って走る酸化活性の低下した領域及び先天性ミオパチーの臨床的特徴を特徴とする。OPA1はミトコンドリア内膜に位置し、ミトコンドリアの安定性とエネルギー出力を調節するのに役立つ。OPA1遺伝子における突然変異は視神経萎縮タイプ1と関連しており、これは優性遺伝する視神経障害であり、進行性の視力の低下をもたらして、多くの症例で失明に至る。
【0096】
本明細書で使用する場合、「サルコペニア」は、骨格筋の量、質、及び強度の低下を意味する。サルコペニアは、例えば、高齢者ではフレイルにつながる可能性がある。
【0097】
「フレイル」という用語は、低い機能保全、骨粗鬆症の加速、易疲労、筋力の低下、疾患に対する高い感受性及び性欲の低下を含み得る、不利な、主に老年医学的健康状態を指す(例えば、Bandeen-Roch et al, The Journals of Gerontology Series A: Biological Sciences and Medical Sciences 61: 262-266, 2006を参照されたい)。フレイルは、次の5つの属性のうち3つを満たすことによって特徴付けられ得る:意図しない体重減少、筋脱力、遅い歩行速度、疲労、及び低い身体活動。さらに、フレイルの低減又はフレイルの悪化の安定化は、次のパラメーターのうち1つ以上によって特徴付けられる:体力の増加、体力低下の安定化、除脂肪体重の増加、体重減少の安定化、運動性の改善、運動性低下の安定化、エネルギーの増加、エネルギー低下の安定化、活動レベルの増加、活動低下の安定化、持久力の増加、持久力低下の安定化、感覚合図に対する行動応答の向上、感覚合図に対する行動応答の安定化、1つ以上の炎症マーカー又はバイオマーカーの減少又は安定化、グルコース恒常性及び代謝又はカタボリック状態の改善、神経伝達又は神経筋伝達の改善、並びに凝固活性化の1つ以上のバイオマーカーの減少、ここで、減少又は安定化は、医薬配合剤を投与する前の被験体の状態に対する、又は対照集団に対するものである。
【0098】
本発明は、更に、加齢性愁訴及び/又は変性愁訴の予防、安定化及び/又は低減のための医薬配合剤の使用に関する。これらは、筋脱力、筋力の低下、神経筋変性、運動障害、免疫応答障害、代謝不均衡、全身の脱力感、フレイルを含む群から選択される。
【0099】
本明細書で使用する場合、「筋脱力」という用語は、1つ以上の筋肉の強度が低下する状態を指す。「筋力」という用語は、筋肉又は筋肉群が骨格系を介して伸長する又は力を発揮する能力を指す。
【0100】
「骨格筋」という用語は、骨格筋組織と並んで、骨格筋線維(すなわち、骨格筋の速筋線維又は遅筋線維)、骨格筋線維を含む筋線維、筋線維を含む骨格サルコメア、及びの上に記載される骨格サルコメアの様々な構成成分等のその構成成分を含む。
【0101】
「神経筋変性」という用語は、神経及び/又は筋肉の任意の部分を障害する任意の変性を指す。
【0102】
「運動障害」という用語は、身体運動障害を指し、身体又は身体の1つ以上の四肢の独立した、意図的な身体の動きの任意の制限を指す。
【0103】
本発明に鑑みて、「免疫応答障害」とは、細菌及びウイルスを含む病原体、又は癌に対する身体の細胞性又は体液性の免疫反応の低下を指す。
【0104】
本明細書で使用する場合、「代謝不均衡」とは、血漿グルコース又は血漿脂質のレベルの上昇に関連する任意の状態を指す。
【0105】
「全身の脱力感」という用語は、疲労、筋脱力、及び機能の制限がある症状を含む、弱っている状況又は状態を指す。
【0106】
本明細書で使用する場合、「変性愁訴」という用語は、最終的に変性疾患につながる任意の不快感又は愁訴に対して使用される。
【0107】
本明細書で使用する場合、加齢の徴候の「発生を阻害すること」という用語又は「開始/発症の遅延」という用語は、加齢の兆候の開始/発症を遅らせる、進行を遅らせる、又はその所見を減少させることを意味する。
【0108】
本明細書で使用する場合、「パフォーマンスの向上」という用語は、限定されるものではないが、自立する能力、個人的な要求(一部であり必ずしも全てではない)を処理する能力、歩行能力、或いは動く能力、又は他者と相互作用する能力等の認知パフォーマンス又は身体的パフォーマンスを含むパフォーマンスの任意の態様を指す。
【0109】
さらに、本発明は、寿命及び/又は健康寿命の指標を改善するための本発明による医薬配合剤の使用に関する。本明細書で使用する場合、「寿命」という用語は、一群の個人で観察される最長寿命を指す。或いは、寿命は、一群の個人において予想される平均寿命を指す。
【0110】
「健康寿命」という用語は、個人が1つ以上の選択された健康寿命の指標を満たす期間を指す。「健康寿命」の増加は、対照集団の健康期間と比べた、かかる指標による健康期間の延長を指す。健康寿命の増加は、例えば、個人が選択された健康寿命の指標(複数の場合もある)を満たし続ける時間の長さを求めることによって測定することができる。或いは、健康寿命の増加は、個人が選択された健康寿命の指標を満たし続けている時間の長さの増加と相関する、選択された健康寿命の1つ以上の指標の改善の程度を測定することによって求めることができる。或いは、健康寿命は、個人が完全に機能しており、慢性の病気がない期間である。
【0111】
本明細書で使用する場合、「対照集団」とは、本発明による配合剤で治療されていない集団を指し、その集団の成員は、本発明の配合剤で治療される被験体の1つ以上の性質及び/又は状態を有する。そのため、例えば、被験体がフレイルの治療を受けている場合、関連する対照集団はフレイルを有し得て、被験体が任意の加齢性疾患の治療を受けている場合、関連する対照集団は同じ加齢性疾患を有し得る。
【0112】
「炎症マーカー」という用語は、多くの場合、炎症の存在を示す、分子の存在、レベル、及び/又は形態である内因性の状態を指す。例えば、C反応性タンパク質(CRP)は炎症マーカーであり、確定した心血管疾患の有無にかかわらず、個人において将来の心血管事象を予測することが示されている。アテローム性血栓症につながる炎症プロセスに関与する炎症マーカーとしては、例えば、CRP、アディポネクチン、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、CD40リガンド、及びリポタンパク質関連ホスホリパーゼA(2)(LP-PLA(2))が挙げられる。
【0113】
「グルコース恒常性」という用語は、正常な(非病理的)グルコースレベルの状態又はそれに対する傾向を指し、様々な刺激に応答して適切に変化する。グルコース恒常性の実例となる指標としては、食事刺激インスリン(meal-stimulated insulin)、グルコース及びグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)のレベルが挙げられる。
【0114】
「凝固活性化のバイオマーカー」という用語は、内因性の状態を指し、多くの場合は血栓の形成につながる経路の活性化を示す分子の存在、レベル及び/又は形態を指す。凝固活性化の実例となるバイオマーカーとしては、例えば、プロトロンビンフラグメント1及び2、トロンビン抗トロンビン複合体、並びにフィブリン分解生成物が挙げられる。
【0115】
「免疫老化」という用語は、自然な加齢によってもたらされる免疫系の漸進的な悪化を指す。該用語は、感染に応答する被験体の能力、及び特にワクチン接種による長期免疫記憶の発現の両方を含む。例えば、免疫老化には、高齢者におけるワクチン接種の応答の低下が含まれる。
【0116】
本明細書で使用する場合、「被験体」という用語は、治療、観察、又は実験の対象となっている又は対象となる哺乳動物等の動物、例えばヒトを指す。本明細書に記載される方法は、ヒトの治療法及び獣医学上の適用の両方に有用となり得る。幾つか実施形態では、被験体は哺乳動物であり、更に幾つかの実施形態では、被験体はヒトである。好ましい実施形態では、被験体はヒト被験体である。更により好ましい実施形態では、被験体は加齢性疾患を有するヒト被験体、例えば、50歳を超えた加齢性疾患を有するヒト被験体である。別の実施形態では、被験体は変性疾患を有するヒトの被験体である。更に別の実施形態では、被験体は加齢性疾患及び変性疾患を有するヒト被験体である。
【0117】
本発明の全ての異なる実施形態において、本発明による医薬配合剤は、被験体、特にヒト被験体に1日治療用量又は1日治療用量以下の用量で投与することができる。
【0118】
ビグアニド及び/又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の量を表すために使用される「治療用量以下の用量」という用語は、患者に単独で投与したときに治療される疾患に対する所望の治療効果を与えない、上記化合物の用量を指す。これは、化合物を一緒に投与する際に観察される相乗効果を指して、「相乗的有効量」と称することもできる。
【0119】
一実施形態では、投与されるビグアニド又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の量は、治療有効量よりも約20%少ない。一実施形態では、投与されるビグアニド又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の量は、治療有効量よりも約50%少ない。或いは、投与されるビグアニド又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤の量は、治療有効量よりも約25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%又は90%少ない。
【0120】
例えば、メトフォルミンの治療有効量は、患者及び/又は状態、例えば体重に応じて、約2000 mg/日又は約2500 mg/日であり得る。したがって、ヒト患者に対するメトフォルミンの総1日治療用量以下の用量は、約400 mg/日又は約500 mg/日である。別の実施形態では、ヒト患者の総1日治療用量以下の用量は、約1000 mg/日又は約1250 mg/日である。
【0121】
また、例えば、ガランタミンの治療有効量は、患者及び/又は状態、例えば体重に応じて、約16 mg/日又は約24 mg/日であり得る。したがって、ヒト患者に対するガランタミンの総1日治療用量以下の用量は、約3.20 mg/日又は約4.80 mg/日である。別の実施形態では、ヒト患者の総1日治療用量以下の用量は、約8 mg/日又は約12 mg/日である。
【0122】
本発明は、2つの異なる化合物を含む医薬配合剤に関する。この文脈では、2つ(又はそれ以上)の化合物の薬理学的効果の種々の分析方法を利用することができ、この分野で広く受け入れられている。例えば、「相乗効果」という用語は、組み合わせの効果の大きさが個々の効果の合計よりも大きい現象を指す。この定義は非常に厳密であり、特に生物学的な変動を考慮すると、最も高い単一の作用物質(HAS:highest single agent)モデルが適用される(Borisy, PNAS, 2013)。このモデルによれば、薬物の組み合わせの効果が混合物と同じ濃度で単一の薬物のいずれかの最大の効果よりも有意に大きい場合、薬物の組み合わせは相乗的とみなされる。本発明の文脈では、本発明の医薬配合剤の相乗効果は、関連性があり、生理学的効果をもたらすものとみなされる。
【0123】
本発明の実験部分では、本発明者らは、加齢を研究するためのモデル生物であるC.エレガンスを使用した(Carretero et al., Curr Top Med Chem 2017; Kenyon, Nature 2010)。カエノラブディティス・エレガンスは、生物学的調査において最も集中的に研究されたモデルの1つとなっている小さな線虫である。20世紀後半から、寿命を促進する遺伝経路の発見を含む、生命科学における多くの基本的な発見がこの線虫でなされた。これらの経路は進化の間、比較的変化しないままであり、C.エレガンス等の単純な無脊椎動物におけるそれらの精査を可能にする。
【0124】
C.エレガンスにおいて加齢の間に起こる幾つか変化は、皮膚弾力性の低下、筋肉量の減少、筋肉の完全性の喪失、運動性の喪失及び感染に対する感受性の増加を含む、ヒトでの加齢と共通する。さらに、加齢に伴って、C.エレガンスと哺乳類の両方で、複数の形態の学習及び記憶が低下する。また、加齢及び加齢性疾患の根底にある主要な遺伝的及び生化学的ネットワークは、進化的によく保存されているようである。したがって、C.エレガンス等の適したモデル生物は、これらの現象を研究し、理解するために、比較的合理的でハイスループットなアプローチを可能にする。現在、C.エレガンスは、長寿に関わる進化的に保存されているシグナル伝達経路を解読し、ヒトの加齢を緩和することを目的とした介入の治療可能性を評定するため、世界中の研究者によって利用されている。本質的に、C.エレガンスは、微生物の実験上の利点(すなわち、扱い及び実験操作が容易であること)と多細胞コンテキスト(すなわち、生命体の加齢、病態形成及び行動等の複雑なプロセスのモデリング)の利点とを併せ持つ。
【0125】
C.エレガンスの加齢の最も一般的な測定方法は、細菌被覆寒天プレート上のワームの生存を手作業で検測することに基づいている。
【0126】
さらに、筋特異的視神経萎縮1(OPA1)マウスモデルを以下に示す実施例で使用した。このトランスジェニックマウスモデルは、サルコペニア関連の筋肉量及び筋力の低下(muscle loss and strength)の重要な病態生理学的態様を効果的に再現し、早発性の加齢(例えば、白髪、脊柱湾曲)を示す。骨格筋におけるOPA1の特異的な欠失は、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス及び炎症の増加をもたらす。さらに、OPA1マウスモデルは、視神経萎縮及び視神経萎縮によって引き起こされる高血圧等のOPA1に関連するミトコンドリア関連疾患にて認められたマウスモデルである(Archer, 2013, New Engl J Med 369: 23)。
【実施例0127】
実施例1:カエノラブディティス・エレガンスモデル
材料及び方法
目的の化学物質
ガランタミン臭化水素酸塩(Gal;CAS 1953-04-4、参照PHR1623)、ドネペジル塩酸塩(Don;CAS 120011-70-3、参照PHR1584)、メマンチン塩酸塩(Mem;CAS 41100-52-1、参照PHR1886)、及び1,1-ジメチルビグアニド塩酸塩(Met;CAS 1115-70-4、参照D150959)をSigma-Aldrich(米国セントルイス)から購入した。リバスチグミン酒石酸塩(Riv;CAS 129101-54-8、参照A18484M)はInterquim S.A.(スペイン国バルセロナ)により供給された。ストック溶液を、3.8 mg/mL(Gal)、416 mg/mL(Don)、216 mg/mL(Mem)、及び100 mg/mL(Riv)で超純Milli-Q水中に調製した。
【0128】
カエノラブディティス・エレガンスを使用した寿命アッセイ
野生型C.エレガンスN2株を、カエノラブディティス遺伝センター(米国ミネソタ大学)から得て、特に明記されていない限り、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)OP50の薄層を蒔いた標準線虫成長培地(NGM)上において20℃で培養した。C.エレガンスの寿命を、先に記載した方法と同様に測定した1,2。成虫期の第1日目を常に0日目として記録した。子孫産生を避けるため、FUdR(5-フルオロ-2’-デオキシウリジン、Sigma-Aldrich)を全ての寿命アッセイで使用した。複数の独立アッセイを実施した。十分な統計的検出力を確保するために、アッセイごと、条件ごとに最低100匹の動物を使用した。
【0129】
「単回投薬アッセイ」の間、本発明者らは、C.エレガンスの長期リカレントイメージングのためWorMotelプラットフォームを使用した3。この半自動プラットフォームにより、生存率の毎日の測定と並んで、自発運動の定量を含む、C.エレガンスの加齢表現型の偏りのない縦断的モニタリングが可能である。成虫期の開始から、食料源としてE.コリHT115(DE3)を蒔き、異なる用量の対応する化合物を補充したスクリーニングプレート(すなわち、3に記載されているように調製された微細加工WorMotelチップ)の個々のウェルに留めた(表1)。4枚の複製スクリーニングプレートをアッセイし、4つの試験した条件の全てが各スクリーニングプレート(無作為化された場所)に存在した。動物を、実験期間中(30日間)同じスクリーニングプレート上に保持した。死亡時間は、動きがゼロではない最後の時間として決定される。このイメージングプラットフォームは、反復投薬と適合性がないことに留意されたい。本発明者らは、Kaplan-Meierの生存曲線を構築し、平均寿命及びメジアン寿命を計算し、関連する全ての統計解析を実行するために、統計ソフトウェアRを使用した。2つの条件間の生存を比較するために、ログランク検定(すなわち、Benjamini-Hochberg法による多重比較のために調整された、生存パッケージのsurvdiff関数)を使用した。対応するp値をplog-rankと称する。
【0130】
「反復投薬アッセイ」の間、本発明者らは、ロバストで技術的に比較的単純な、この分野で標準的な方法(すなわち、細菌被覆寒天プレート上の齢同期集団の生存に関する手作業による検測2)に従った。要するに、成虫期の開始時に、動物を、標準NGMアッセイプレート(未処置対照)又は異なる用量の対応する化合物を補充したNGMアッセイプレートに移した(表1)。動物を、第1の週及びその後毎週(合計33日間)異なる用量で3回、新鮮な標準NGMアッセイプレート又は対応する化合物を補充した新鮮なNGMアッセイプレートに移した。この投薬スケジュールは、カエノラブディティス介入試験プログラム(CITP:Caenorhabditis Intervention Testing Program)4の標準化されたプロトコルに準拠している。オートクレーブの前にNGMにMetを添加したのに対し、播種済みアッセイプレートにGalをピペッティングした(少なくとも動物をアッセイプレートに移す2時間前)。全てのプレートに同じ量の液体を添加し、未処置対照及びMet条件のプレートにも添加した(すなわち、モック処置)。アッセイプレートから這い落ちた、又は内部の孵化で死亡した動物を調べて除いた。生きているワームと死んだワームの数を1日~2日ごとに採点した。
【0131】
自発運動アッセイ
C.エレガンスの自発運動は、正弦波運動(すなわち、体の曲がり)を特徴とし、成虫の間に徐々に減少する。他の動物と同様に、協調運動の維持は主な健康寿命のパラメーターと考えられている5。より具体的には、最大自発運動活性はC.エレガンスの全身の体調及び健康に関する良好な価値尺度であり6、一方で、成虫中期(mid-life)における自発運動活性の低下率は最長許容寿命を予測することが示されている7。
【0132】
A.WorMotelに基づく自発運動トラッキング(単回投薬)
各イメージング期間、青色光による刺激の前後の平均及び最大の自発運動活性を定量する(3に記載される)。得られる活動値は、それぞれ「ベースライン自発運動」及び「刺激自発運動」と名付けられる。運動性が高い動物は高い活動値をもたらすが、ゆっくり動く動物や高齢の動物は低い活動値をもたらす。動物の「平均活動」は、実験期間全体にわたってその動物について検出された自発運動の活動値の平均を表す。「最大活動」は、検出日にかかわらず、或る動物について検出された最も高い最大自発運動の活動値を表す。「健康な日数」は、生きている動物の活動が同じ技術的複製(すなわち、チップ)に存在する未処置対照条件の平均最大活性の15%よりも大きいと観察される総日数として定義される。「健康な日数」の増加は、自発運動ベースの健康寿命の増加を示すものである。GraphPad Prismソフトウェアでの多重比較のためのHolm-Sidak補正を使用して、一元配置及び二元配置ANOVAを用いて結果を分析した。全ての対応するp値をpANOVAと称する。
【0133】
B.カメラに基づく自発運動トラッキング(反復投薬)
自発運動効果をより詳細に定量するため、本発明者らは、標準ペトリ皿と互換性のあるC.エレガンスの自動トラッキングシステムを利用した。マルチカメラトラッキングシステムは、経路ベースの画像解析による平均自発運動速度、最大自発運動速度、及び複数の行動パラメーターを客観的に定量することを可能にする。このシステムをPeymen et al8と同様に利用した。2つの異なるアッセイを行った。第1のアッセイ(表2)では、Gal、Met、及び両方の化合物の組み合わせの自発運動効果をアッセイした。これにより、複数の自発運動パラメーターに対するGalとMetとの間の相乗効果を試験することができた。第2のアッセイ(表3)では、本発明者らは、Metと異なるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(すなわち、Gal、Don及びRiv)との組み合わせと並んで、Metとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤様化合物Memとの組み合わせの自発運動効果を特性評価した。そのようにして、本発明者らは、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤全体(Metと組み合わせて)としてクラス効果があるかどうかを試験することができた。
【0134】
同期した野生型動物を、測定開始まで、L4段階(すなわち0日目)及びFudRとは異なる用量の対応する化合物の存在下で育てた。動物を新鮮な化合物処理されたNGMプレートに移すことにより、3回(2日目、4日目及び7日目)に再投薬した。イメージングの前に、複製ごとに、20匹の十分に飼育された生きた動物を培養プレートから播種していないNGMプレートに手作業で移し、5分後にイメージングに使用する別の播種していないNGMプレートに移した。画像取得を、StreamPix 6マルチカメラソフトウェア(KOWA LM16JC10Mレンズ付きGigE PRO GP11004Mカメラ)で、2 fpsで11分間及び一定の露出で行い、その後、カスタム粒子追跡MATLAB登録商標コードを使用してワームを追跡した。各運動動物(すなわち、イメージング期間中に少なくとも2分間動いた動物)について、平均及び最大自発運動速度の両方と並んで、行動の尺度である「セル占有率」及び「走行割合」を抽出した。後者は、(一時停止又は回転ではなく)動物が走行していることが検出された時間の割合を表す。セル占有率は、ワームの空間検索効率を定量する尺度である。セル占有率は、イメージング期間中にワームが訪問した特有のセル(1mm2の四角)の数を表す。両方の行動パラメーターは加齢の間に低下する。複製ごと、条件ごとに20匹のワームを用いて、実験を三重(又は四重)で行った。結果を、GraphPad Prismソフトウェアでの多重比較のためのHolm-Sidak補正を用いて、多重t検定を使用して結果を分析した。対応するp値をpと称する。
【0135】
in vivo遺伝子活性アッセイ
C.エレガンスの透明な体により、トランスジェニック蛍光レポーターを介したin vivo遺伝子転写の容易で非侵襲的な測定ができる9。本発明者らは、gst-4p::GFP C.エレガンスGFPレポーターの転写を測定し、Met及び/又はGalの影響を受ける細胞内シグナル伝達ネットワークに関する洞察を得た。加えて、本発明者らは、gst-4遺伝子転写の活性化に対してMet及びGalに相乗作用又は増強作用があるかどうかを試験した。
【0136】
gst-4遺伝子は、細胞保護酵素及び薬物代謝酵素のグルタチオンS-トランスフェラーゼ4(GST-4)をコードする。gst-4はSKN-1の直接標的であって、哺乳動物核因子E2関連因子(Nrf2)タンパク質ファミリーのオルソログであり、酸化ストレス及び生体異物ストレスに対する保護に関与する重要な転写因子である。酸化的傷害に応答して、SKN-1/Nrf2は、細胞質中で(とりわけ)PMK-1/P38 MAPKによってリン酸化され、その後、核に移行してgst-4等の幅広い抗酸化酵素及び解毒酵素の発現を誘導する。C.エレガンス加齢研究では、多くの場合、SKN-1活性の読み出しとして、gst-4の転写活性化が使用される。それにもかかわらず、gst-4は、哺乳動物前骨髄球性白血病Znフィンガータンパク質(PLZF)に似たBTB/Znフィンガー転写因子であるEOR-1を介した表皮増殖因子(EGF)シグナル伝達経路によって転写的に活性化され得ることも示されている。解毒GST酵素のアップレギュレーションは、長寿命C.エレガンスの共通の特徴であり、ワームだけでなく、ヒトを含む種を越えた長寿につながっている10。
【0137】
前述のように11、GFP蛍光を自動化された方法で定量した。要するに、Is[gst-4(1491 bp)::gfp;unc-119(+)];Is[unc-54p::mCherry;unc-119(+)]の遺伝子型を有するJMET69動物を、蛍光定量のため96ウェルプレートに移す前にL1段階から後期L4段階まで、E.コリOP50を播種したNGMプレート上の薬物(すなわちMet及び/又はGal)の存在下及び不在下で成長させた。バックグラウンド補正値を示す。BCA正規化は使用しなかった。GraphPad PrismソフトウェアにおいてSidakの多重比較検定と共に一元配置ANOVAにより平均値を統計的に比較した。対応するp値をpANOVAと称する。
【0138】
C.エレガンスの筋肉の形態及び悪化の定量
C.エレガンスの加齢に伴う筋肉量及び機能の漸進的な喪失は、ヒトにおけるサルコペニアと非常によく似た進行を示す12。サルコメアは基本的な筋肉単位であり、筋肉収縮を担う。C.エレガンスのサルコメアは、脊椎動物のサルコメアと同様に、ミオシン及びアクチンを含む交互フィラメントからなる。若い動物の体壁のサルコメアの筋フィラメントは平行対称列に編成されているが、高齢動物のサルコメアの筋フィラメントは、より不規則な形状と向きで徐々に崩壊する。
【0139】
ミオシン重鎖が蛍光GFPと融合したトランスジェニックレポーター株(株RW1596;myo-3p::MYO-3::GFP)を用いることにより、C.エレガンスの筋肉構造をin vivoで可視化することができる。共焦点顕微鏡検査及びバイオインフォマティクス分析と組み合わせることで、これは筋線維の組織化(organizational)レベルの評定のための定性的だけでなく定量的な読み出しも提供する。Bart Braeckman教授の研究室で筋肉の劣化を定量する解析手法が最適化された(UGent;未公開データ)。本発明者らは、Gal及び/又はMetで治療された動物が、より若い未処置の個体に似た筋肉表現型を示すかどうかを検証するために、この技術を使用した。
【0140】
同期したRW1596動物を、異なる用量の対応する化合物(図7参照)及びFUdRの存在下で、L4段階(すなわち0日目)以降成長させた。動物を新鮮な化合物で処理されたNGMプレートに移すことにより、7日目に1回再投薬した。測定を成虫後期(すなわち、14日目)に実施し、条件ごとに少なくとも30匹の動物を用いた。
【0141】
動物ごとに、2つの形態学的尺度である「アスペクト比」及び「平滑度」を抽出した。
【0142】
アスペクト比は、サルコメアの一般的な寸法(すなわち細長い形状)の指標である。この値が高いほど、サルコメアは細長くなる。アスペクト比は、サルコメア内の個々の筋フィラメントの長軸の長さ(=長さ)と短軸の長さ(=幅)との比として計算される。動物が加齢すると、アスペクト比は低下する。平滑度は、筋フィラメントの輪郭の平滑度の指標である。この値が小さいほど、筋フィラメントの端が「ギザギザになる」及び「変形する」ようになる。平滑度は任意の単位で表される。値1は、筋肉フィラメント(すなわち成虫初期)に観察される最大平滑度に対応するのに対し、値0は、非常に高齢(18日目)の対照ワームで観察される平滑度に対応する。GraphPad Prismソフトウェアを使用して、両側Studentのt検定により、2つの条件を統計的に比較した。
【0143】
結果
メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせの寿命延長に対する相乗効果
個々の化合物の単回投薬は、未処置対照と比較して、C.エレガンスの生存率を有意に高めた(Met:plog-rank=0.00215;Gal:plog-rank=0.000176)(図1、表1)。薬物相乗作用について試験するため、本発明者らは、より高い単一活性(HSA:higher single activity)モデル13を使用した。このモデルに従って、組み合わせの効果が、単一の薬物のいずれかの最大の効果よりも有意に大きい場合に、薬物の組み合わせが相乗的であるとみなした。このモデルを用いて、本発明者らは、個々の化合物との比較で、25 mM Met及び100 μM Galによる治療が生存率の更なる増加をもたらしたことから、薬物の相乗作用を明らかにした(Met:plog-rank=0.049;Gal:plog-rank=0.0244)(図1)。
【0144】
Met及びGalを用いて反復投薬された動物について、Met及びGalの組み合わせのより強力な増強効果が観察された(図2、表1)。ここでも、両方の薬物(Met及びGal)の組み合わせは、最も強い寿命延長を誘発し、平均寿命は、未処置対照と比較して22.1%(plog-rank<1E-6)、Gal処置群と比較して12.5%(plog-rank=0.000006)、及び25 mM Met処置群と比較して8.3%(plog-rank=0.037)増加した。Gal及びMetの組み合わせで処置した動物の最長寿命は、未処置対照と比較して29%、Gal治療群と比較して23%、及びMet処置群と比較して17%増加した。全体的に、Met及びGalの薬物の組み合わせは、その個々の成分のいずれかによってもたらされる最大の効果よりも生存に関して有意に大きな効果を誘発し(表1)、MetとGalとの間の相乗効果を示した。
【0145】
表1.C.エレガンスを用いた寿命アッセイから得られた詳細な生存データ。Met、Galと並んで、Met及びGalの組み合わせによる処置は、成虫C.エレガンスの生存を有意に増強する。複数のアッセイのプールされたデータを示す。N 各条件で観察された死の総数、SEM 平均の標準誤差、LS 寿命、MLS 平均寿命、*plog-rank<0.05、**plog-rank<0.01、***plog-rank<0.001、****plog-rank<0.0001。メジアン寿命(メジアンLS)は、動物の50%がまだ生きている日(すなわち生存曲線の第50分位)として定義される。最長寿命(最長LS)は、動物の10%がまだ生きている日(すなわち生存曲線の第90分位)として定義される。
【表1】
【0146】
ガランタミン及びメトフォルミンの組み合わせによるC.エレガンスの単回投薬は、自発運動及び自発運動ベースの健康寿命にプラスの影響を与える
個々の化合物(Gal及びMet)によるC.エレガンスの単回処置は、成虫期の複数の自発運動活性パラメーターを有意に増加させた(図3)。例えば、未処置対照と比較して、Galは最大ベースライン活性を15%(pANOVA=0.0054)有意に増加させ、一方Metは、最大ベースライン活性を35%(pANOVA<0.0001)増加させた。Gal及びMetの組み合わせは、最大ベースライン活性の最も大きな増加割合、すなわち未処置対照と比較して41%(pANOVA<0.0001)をもたらした。さらに、ほとんどの自発運動パラメーターでは、Met及びGalの組み合わせで治療された動物について、少なくとも1つの単一の化合物処置と比較して、有意な改善効果が認められた(図3)。Gal及びMetの組み合わせよりも有意で良好な効果を誘導した単一の化合物はなく、GalとMetの両方を組み合わせた場合の有効性の向上を示唆している。
【0147】
未処置対照と比較して、Gal及びMetの組み合わせは、健康な日数(すなわち自発運動ベースの健康寿命)の合計数を30%増加させ、これは、Metで観察された効果よりも有意に良好であった(+14%、pANOVA=0.037)が、Galについて観察された効果と有意差はなかった(+20%、pANOVA=0.095)(図3C)。要約すると、Met及びGalの組み合わせで処置された動物では、加齢の間の自発運動活性及び自発運動ベースの健康寿命(すなわち、動物が筋肉機能の健全なレベルを示す、生きている間の期間)が有意に増強される。
【0148】
ガランタミン及びメトフォルミンの組み合わせによるC.エレガンスの反復投薬は、自発運動及び行動パラメーターに相乗的にプラスの影響を与える
自発運動ベースの健康寿命への影響についてより多くの洞察を得るため、Gal、Met、及びその組み合わせによる反復投薬後に生殖後のC.エレガンス成虫において、本発明者らは、4つの自発運動及び行動のパラメーターを定量した。25 mM Met及び100 μM Galの組み合わせで処置した動物について、4つ全てのパラメーターで最高レベルが観察された(すなわち、より若い個体の自発運動の表現型に似ている)(表2、図4)。このMet及びGalの組み合わせで処置した動物では、未処置対照と比較して、平均自発運動速度が141%(p<0.000001)、最大速度が24%(p<0.001)、走行に費やされた時間の割合が46%(p<0.000001)、セル占有率が239%(p<0.000001)増加した。本質的に、これら4つの自発運動ベースのパラメーターの加齢に関連する減少は、Met及びGalの組み合わせによって有意に緩和される。さらに、単一の化合物処置と比較して、「平均自発運動速度」及び「セル占有率」のパラメーターについて、MetとGalとの間に有意な相乗効果が観察された(表2、図4)。この結果をまとめると、Met及びGalの組み合わせは、Met又はGal単独よりも自発運動ベースの健康寿命を改善することができることを示している。
【0149】
次に、本発明者らの化合物の混合物の戦略の幅を評価するため、本発明者らは、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤群(常にMetと組み合わせられる)の他のメンバーで処置したC.エレガンス動物の自発運動をアッセイした。25 mM Metと他のアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(すなわち、Don及びRiv)又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤様化合物(すなわち、Mem)との組み合わせは、25 mM Metとアセチルコリンエステラーゼ阻害剤Galとの組み合わせと同様の自発運動表現型を誘発した(図5、表3)。4つの試験した条件を全て考慮すると(表3)、化合物処置の間で本質的に有意な差はなかった(pANOVA=0.25)。実施した16の統計的比較(すなわち、複数のt検定)のうち、1つだけが有意であり、MemをMetと組み合わせると、MetをGalと組み合せた条件と比較して、最大自発運動速度が低下した(-14.5%;p=0.0036)(表3)。それにもかかわらず、自発運動及び行動パラメーターの他の15の統計的比較はいずれも有意差がないことが判明した(図5)。したがって、Metと組み合わせると、試験した全てのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が同様に作用するように見える。
【0150】
表2.成虫中期のC.エレガンス(すなわち7日目生殖後成虫)の自発運動は、Gal及びMetと並んで、それらの両方の組み合わせによって反復投薬された後に有意に増強される。複数の複製物のプールされたデータを示す。GalとMetとの間の有意な相乗効果(HSAモデル定義による)を太字で示す。有意性(未処置対照条件に対して)を次の方法で示す。NS 有意ではない、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。N 試験した動物の総数、SEM 平均の標準誤差、# 実施された複製アッセイの数。走行割合とは、動物が(一時停止又は回転ではなく)走行に費やした時間の割合を表す。セル占有率は、イメージング期間中にワームが訪問した特有のセル(1mm2)の数を示す。データは図4に対応する。
【表2】
【0151】
表3.Metを異なるアセチルコリンエステラーゼ阻害剤(すなわち、Don、Riv及びGal)又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤様化合物(すなわち、Mem)と組み合わせることで、同様の自発運動の表現型がもたらされる。有意性(Met 25+Gal 100の条件に対して)を次の方法で示す。NS 有意ではない、*p<0.05。自発運動を、表2に提示するデータと同様に、成虫期の7日目に定量した。複数の複製物のプールされたデータを示す。N 試験した動物の総数、SEM 平均の標準誤差、# 実施された複製アッセイの数。Gal(100 μM)、Don(80.92 μM)、Riv(57.12 μM)、及びMem(132.2 μM)の最終濃度は、それらの最大1日臨床用量に基づいている。データは図5に対応する。
【表3】
【0152】
グルタチオンS-トランスフェラーゼ4の転写はGal及びMetによって相乗的に増加する
本発明者らは、薬物処置の後に、齢同期したC.エレガンス集団のグルタチオンS-トランスフェラーゼ4(gst-4)転写レベルをアッセイした。文献14から予想されるように、Metで処置した動物は、未処置対照と比較して有意に高いgst-4転写レベル(+26%、pANOVA<0.0001、図6)を示した。100 μM Galのみによる処置は、gst-4転写の有意な増加を誘発しなかった(+9%、pANOVA=0.37)。しかしながら、25 mM Met及び100 μM Galの組み合わせは、gst-4転写の最も強い活性化を誘発した。蛍光シグナルは、100 μM Galと比較して62%増加し(pANOVA<0.0001)、25 mM Metのみによる処置と比較して28%増加した(pANOVA<0.0001)。したがって、本発明者らは、Gal及びMetがgst-4転写を活性化するために相乗的に作用することを見出した。この効果は、酸化ストレスの存在下及び不在下の両方で、追加の独立したアッセイにおいて、非常に一貫性が高く、強く観察された(データは示されていない)。gst-4の活性化は、酸化ストレス及び生体異物に対する保護(解毒)の強化と並んで、長寿促進転写因子(pro-longevity transcription factors)Nrf2/SKN-1及び/又はPLZF/EOR-1の活性化を示す。前述のように、GST酵素のアップレギュレーションは複数の種(ヒトを含む)で長寿に関連しており、長寿命のC.エレガンスの共通の特徴である。したがって、gst-4の相乗的活性化は、長寿に対するGalとMetとの間の相乗効果に関する本発明者らの以前の観察に一致する。したがって、gst-4活性化が酸化ストレスから保護するため、本発明者らは、以前に記載されるように15、死に関連した蛍光を用いて死のメジアン時間を求めるため生存アッセイを自動化する方法である、ラベルフリー自動生存採点法(FLASS:label-free automated survival scoring method)を用いて、Gal及びMetの組み合わせが熱及び酸化ストレスに対するストレス耐性に及ぼす影響を調査する。
【0153】
C.エレガンスの筋肉形態はGal及びMetの組み合わせによって改善される
Gal及びMetの組み合わせで処置されたC.エレガンスは、未処置対照条件の動物と比較して、成虫期後期における筋肉形態の定量的及び定質的な改善を示す(図7A及び図7B)。未処置対照と比較して、25 mM Met及び100 μM Galの組み合わせで処置されたC.エレガンスは、サルコメアのアスペクト比が有意に増加した(+7.7%、p=0.045、図7A)。本質的に、それらの動物のサルコメアの一般的な寸法(すなわち、アスペクト比)は、より若い個体の寸法に似ている。25 mM Metのみ又は100 μM Galのみによる治療は、アスペクト比の有意な増加を引き起こさなかった(図7A)。
【0154】
定量した他の形態学的な筋肉の尺度は、筋フィラメント輪郭の平滑度であった。未処置対照条件と比較して、本発明者らは、25 mM Met及び100 μM Galの組み合わせで処置した動物の筋フィラメント輪郭の平滑度が55%増加することを観察した(図7B)。しかしながら、おそらくはこのパラメーターの生物学的変動がより大きいことから、傾向のみを観察した(p=0.076)。それにもかかわらず、代表的な顕微鏡画像では、Gal及びMetの組み合わせで処置された動物のサルコメア内の筋フィラメントは、未処置の動物のものよりも規則的な形状及び配向を有することが指摘された。より具体的には、筋フィラメントが、やや不規則な形状及び配向を持つ傾向がある未処置の動物とは対照的に、Gal及びMetの組み合わせで処置された動物の筋フィラメントは、平行対称に組織されやすい。これは、Gal及びMetの組み合わせで処置された動物における筋機能の改善を示唆しており、これらの動物における強化された自発運動速度の本発明者らのこれまでの観察と合致している(上記を参照されたい)。
【0155】
実施例2:マウスモデル
緒言
メトフォルミン及びガランタミン成分が加齢及びフレイルに関与する既知の経路を標的とする証拠に基づいて、本発明者らは、この組み合わせが筋肉特異的視神経萎縮1(OPA1)マウスモデルにおけるサルコペニア及び筋力と並んで、加齢パラメーターにおける全体的な変化に及ぼす影響を調査した。このトランスジェニックマウスモデルは、サルコペニア関連の筋肉量及び筋力の低下の重要な病態生理学的態様を効果的に再現し、早発性の加齢(例えば、白髪、脊柱湾曲)を示す16。骨格筋におけるOPA1の特異的な欠失は、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス及び炎症の増加をもたらす。
【0156】
材料及び方法
OPA1マウスモデル
Opa1-/-マウスの作製及び特性評価は、他で詳細に説明されている16,17。OPA1の誘導性筋特異的欠失は、Opa1fl/fl系統をヒト骨格アクチンプロモーター(HSA:human skeletal actin promotor)によって駆動されるCre-ERを保有するマウスと交配させることによって得られた。タモキシフェン誘発CreLoxP組換えを、5週間にわたり適宜提供されるタモキシフェン含有固形飼料(Tam400/Cre ER Harlan)の経口投与により活性化した。動物には、示される通り食物摂取量と共に、1日あたり1mgのタモキシフェンを与えた。雌性及び雄性の両方のマウスで実験を行った。
【0157】
食餌
筋肉特異的OPA1ノックアウトマウスを、固形飼料(Mucedola S.R.L.製のStandard Diet Certificate)又はメトフォルミンとガランタミンの両方を補充した固形飼料で飼育した。この組み合わせは、体重1 kgあたり2.5 mgのガランタミン及び410 mgのメトフォルミンの1日用量を提供するように製剤化されていた。研究飼料をMucedola S.R.L.から購入した。
【0158】
体組成及びエネルギーの前臨床検査
体組成の変化は、ヒトの一生を通して起こる。全体的に、老齢初期は、除脂肪体重及び骨密度の減少を伴って徐々に体脂肪量が増加し、人生の後期の段階で、ヒトは、特に脂肪貯蔵で体重を減らし始める。
【0159】
体重及び身体組成
体重を毎週又は隔週でモニターした。生きたマウスの除脂肪量及び体脂肪量の測定を、EchoMRI-100(米国テキサス州ヒューストンのEchoMRI)によって評定した。
【0160】
代謝の評定
マウスの代謝率を、酸素消費(VO2)及び二酸化炭素産生(VCO2)の直接測定を提供する、PhenoMaster代謝ケージシステム(ドイツ国ベルリンのTSE)を用いた間接熱量測定によって評定した。これらのパラメーターに基づいて、エネルギー消費を計算した18。さらに、摂食量をモニターした。
【0161】
神経筋機能及びパフォーマンスに関する前臨床試験
神経筋の機能及びパフォーマンスは、それらが転倒、鬱病、身体障害、及び死亡等の健康有害事象と関連性が高いため、高齢者の全身の健康の評定における重要な臨床転帰である。
【0162】
身体パフォーマンス
高齢者の間で機能低下は、多くの場合、運動能力及び認知能力の低下、並びに実質的な罹患率と関連しており、高齢の成人における重要な健康決定因子と考えられている。マウスにおいて、加齢マウスの行動転帰を評定するために、総合試験を開発した。
【0163】
トレッドミル
同心性トレーニングプロトコルは、13 cm/秒で5°の減少定数による、疲弊するまでのトレッドミル(Biological Instruments, LE 8710 Panlab Technology 2B)ランニングからなった。マウスごとに合計ランニング時間を記録した。
【0164】
握力
握力は、マウスにグリッドをつかませ、その後、尾からマウスを引っ張り、手を放すまでの時間を記録することによって行った。
【0165】
in vivoでの力の測定を、先に記載されるように19、305B筋レバーシステム(カナダ国オンタリオ州のAurora Scientific)を用いて生きた動物において行った。簡潔に言えば、力/周波数プロトコルは、周波数を漸増させた一連の刺激(シングルパルス、20 Hz、40 Hz、55 Hz、75 Hz、100 Hz及び150 Hz)からなった。最後の後(after the last)、各刺激を30秒超で行い、印加電圧は4 V~6 Vの範囲であり、各トレイン(train)の持続時間を200ミリ秒に設定し、各シングルパルスの持続時間は200ミリ秒に設定されている。
【0166】
筋肉組織、肝臓及び白色脂肪組織の採取
誘発から67日後、マウスを屠殺し、筋肉(腓腹筋、前脛骨、ヒラメ筋)を標準化された解剖法を用いて収集した。筋肉組織の余分な脂肪及び結合組織を取り除き、化学天秤で計量し、更なる分析のために収集した。筋肉組織は組織学及びRNAのために保存した。肝臓を収集し、組織学のために保存した。白色脂肪組織を収集し、化学天秤を用いて計量した。
【0167】
遺伝子発現
TRIzol(Invitrogen)を用いて筋肉から全RNAを単離した。SuperScript III逆転写酵素(Invitrogen)を用いて相補DNAを生成した。遺伝子発現は、記載される通りに16qPCRによって決定した。定量的PCRを次のプライマーを用いて実施した:IL6Fw:TAGTCCTTCCTACCCCAATTTCC、IL6Rv:TTGGTCCTTAGCCACTCCTTC GAPDHFw:CACCATCTTCCAGGAGCGAG、GAPDHRv:CCTTCTCCATGGTGGTGAAGAC。
【0168】
組織学及び免疫蛍光
コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)及びOil red O染色のため、腓腹筋及び肝臓の凍結切片をそれぞれ染色した。腓腹筋の筋線維の総数を、組み立てられたモザイク画像(倍率20倍)に基づいて後肢断面全体から算出した。免疫染色のため、NCAMに対する抗体(ブロッキングバッファー中1:200希釈、ミズーリ州セントルイスのMillipore)を使用した。Cy3に複合化したWGAを、筋線維膜を特定するために使用した。画像は、Leica DFC300-FXデジタルチャージ結合デバイスカメラ及びLeica DC Viewerソフトウェアを使用してキャプチャした。
【0169】
統計的手法及び相乗作用の定義
全てのデータは平均±SEMとして提示される。2群間の比較を、両側Studentのt検定によって行った。群差の統計解析で、本発明者らは、多重比較(Tukeyの多重比較検定、GraphPad Prismソフトウェア)に対して適切な補正を行う一元配置ANOVAを行った。反復測定ANOVAを使用して、2つ(又はそれ以上)の群間の有意な経時変化を評価した。0.05未満のp値を有意であるとみなした。
【0170】
結果
メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせで治療した筋肉特異的Opa1-/-マウスは体脂肪量を維持し、代謝を回復して脂肪肝を予防した
メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせによる治療は、雌性Opa1-/-マウスの体重(図8A)及び除脂肪量(図8B)に影響を与えなかった。しかしながら、治療された高齢の雌性Opa1-/-マウスにおいて体脂肪量が維持され(図8C)、これは齧歯類及びヒトの研究における生存の増加と関連している20,21,22。並行して、治療された雄性Opa1-/-マウスは、白色脂肪組織の喪失を部分的に防いだ(図8D)。治療された雌性Opa1-/-マウスは、未治療のOpa1-/-マウスに比べて体脂肪量が増加したが、この群は同じ量のカロリーを消費していた(図8E)。次に、PhenoMaster代謝ケージシステムを用いてin vivo代謝を評価することによって、体重と代謝速度の関係を調べた。間接熱量測定は、ガランタミン及びメトフォルミンの組み合わせが、対照マウスに対して、雌性Opa1-/-マウスで特に明期の間、酸素消費及び二酸化炭素産生の両方を正常化することを明らかにした(図8F及び図8G)。並行して、治療された雌性Opa1-/-マウスは、体脂肪量の増加にもかかわらず、未治療のOpa1-/-マウスと比較してエネルギー消費が増加していた(図8H)。したがって、治療されたOpa1-/-マウスで観察された体脂肪量の増加を、食物摂取又はエネルギー消費によって説明することはできない。これらのデータは、ガランタミンとメトフォルミンとの併用治療が、未治療のOpa1-/-マウスで観察された極度の飢餓状態の表現型を補正することを示唆している。次に、これらのマウスで脂肪肝を評定するため、Oil red O染色を行った。未治療の雌性Opa1-/-マウスは、治療されたOpa1-/-マウスで完全に予防された脂肪肝を示した。雌性OPA1-/-の治療されたマウスにおけるIL6の筋肉発現レベルは、対照レベルまで正常化され、炎症の低減を示した(図8I)。
【0171】
メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせにより、筋肉特異的Opa1-/-マウスの身体パフォーマンスが向上した
次に、本発明者らは、重要な健康寿命マーカーである身体パフォーマンスが、治療されたOpa1-/-マウスにおいて保持されているかどうかを判断した。これらの動物の身体的健康状態を確認するため、本発明者らは、トレッドミル、握力、及び力の測定を含めた。治療された雌性Opa1-/-マウスは、未治療Opa1-/-マウスの3倍走った(図9A)。さらに、握力において併用治療による有意な効果が観察された(図9B)。治療は、治療された雌性Opa1-/-マウスにおいて、強縮中に生成された絶対力(図9C)及び最大比力(図9E)の増加を示すが、この効果は有意ではなかった。雌性における有意性の欠如は、おそらくは、数が不十分であったこと及び生物学的変動がより大きかったことの結果である。しかしながら、雌性Opa1-/-治療マウスでは、未治療Opa1-/-マウスと比較して、絶対力及び最大比力の有意な増加が観察され(図9D図9F)、治療Opa1-/-マウスの筋脱力の軽減を示した。全体的に、これらの試験は、ガランタミン及びメトフォルミンの組み合わせが、より低い全死因死亡率及び心血管死亡率に関連する、Opa1-/-マウスの全身の体調を改善したことを示している23。
【0172】
Opa1-/-マウスにおいてメトフォルミン及びガランタミンの組み合わせは筋肉量を部分的に保存した
未治療及び治療されたいずれのOpa1-/-マウスの筋肉も、雌性(図10A図10C)及び雄性(図10D図10F)の両方で、対照マウスに比べて小さい。雌性では、解糖II型(速収縮)線維である前脛骨筋が、治療されたOpa1-/-マウスにおいて部分的に保存された(図10A)のに対し、雄性では腓腹筋及びヒラメ筋が治療されたOpa1-/-マウスにおいて部分的にレスキューされた(図10E)。これは、酸化筋(例えば、ヒラメ筋)と比較して、解糖筋(前脛骨、腓腹筋)において加齢性の筋萎縮が高いことから重要な知見である。コハク酸デヒドロゲナーゼ(SDH)染色は、雌性Opa1-/-未治療マウスにおいて、対照及びOpa1-/-未治療動物と比較して増加し、酸化的代謝の増加を示す。しかしながら、IIA型筋線維細胞質(myofiber type IIA cytoplasm)の領域は、未治療Opa1-/-マウス(出願時の組織病理データ)においてミトコンドリアを欠いており、セントラルコア病に似た局在のパターンであり、これは治療Opa1-/-マウスにおいて維持された。SDH染色と一致して、未治療Opa1-/-動物では、対照及び治療Opa1-/-マウスと比較して、IIA型線維の増加が観察された(図10G)。次に、本発明者らは、神経筋接合部(NMJ)のシナプス後膜に濃縮されるが、成体の筋線維にはほとんど存在しない分子である、神経細胞接着分子(NCAM)の発現を調べた。しかしながら、神経支配の喪失後、NCAMは筋線維全体に沿って再発現される。重要なことに、正常な加齢の間に起こり、筋肉萎縮の加速と一致する、筋線維神経支配の喪失は、NCAM陽性線維の減少によって示されるように、治療された雌性Opa1-/-マウスにおいて部分的に予防された(図10H)。さらに、これらのマウスでは骨の健康も評定する。micro-CTでは、幾つかのパラメーター(例えば、小柱骨の体積、小柱骨の結合性(trabecular connectivity)、並びに小柱骨の骨密度及び皮質厚)を評価する。
【0173】
Opa1-/-マウスを、個々の成分であるガランタミン及びメトフォルミンで更に個別に治療し、上記と同じ分析を行う。
【0174】
メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせによる生理的、代謝及び機能的な縦断的な健康軌道(health trajectories longitudinally)
生理的、代謝、及び機能的な健康軌道に対する併用薬(メトフォルミン+ガランタミン)の効果を、2系統の雌雄両方のマウスの寿命を通して測定し(mice-2における縦断的加齢研究(SLAM-2)と呼ばれる)。この研究の設定は、加齢に関する国立研究所(米国のNIH)でのSLAM-1研究に基づき、介入を伴わずに、同じ加齢及び加齢に関連する表現型について試験した。SLAM-2は非常に広範な研究となり、12ヶ月齢においてマウスで測定を開始する。生涯を通して異なるエンドポイントにおいて、代謝性(例えば、糖尿病、NAFLD、メタボリックシンドローム)、神経筋(例えばサルコペニア、骨粗鬆症、NMJ安定性)、心血管(例えば、心不全)、及び認知(例えば、アルツハイマー)の主に4つの重要な加齢表現型に焦点を当てて様々な検査を行い、これらの領域は、身体障害、死亡率、及び罹患率の主な原因となっていることから、ヒトの健康との関連性が高い。SLAM-2の結果は、SLAM-1のベースライン結果と比較して、健康的な加齢にプラスの影響を与えることが知られている化合物の介入によって、生物学的及び生理学的なパラメーターの軌跡がどのように変化するかを明らかにする。
【0175】
さらに、別の研究では、個々の化合物と並んで併用薬の両方の健康寿命及び寿命に対する有効性を検討する。SLAM-2に記載されているものと同様の総合試験は、動物の生涯にわたって、毎週及び毎月一定間隔で、縦断的に行われる。
【0176】
メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせによる回復性の改善の促進
ストレスを負荷しない研究と並行して、メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせの効果を、ストレス負荷(回復性)モデルとの関連で検査する。ヒトの加齢に関連するより一般的な3つの臨床上の病気は、肥満関連II型糖尿病(栄養過剰によって誘発される)、サルコペニア(長期ベッド安静)及び神経筋接合不安定性(外傷、手術)である。これらの合併症+/-メトフォルミン及びガランタミンの両方の組み合わせの検査に使用することができる3つの十分に確立された時間効率の良いマウスモデルは、それぞれ、(I)高脂肪食(HFD)給餌マウス、(II)後肢懸垂、及び(III)坐骨神経の挫滅又は切断である。これらのモデルとの関連では、メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせの回復性の改善の促進に対する有効性を判断するため、若年及び中年マウスで標準化された短期試験のパネルを実施する。
【0177】
実施例3:ヒト研究
A.サルコペニア肥満患者における概念実証研究
この探索的概念実証研究は、メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせが、どの程度サルコペニア肥満患者における筋肉量及び筋力のサルコペニアックパラメーターに良好な影響を有するかを評定するように設計される。また、メトフォルミン及びガランタミンの異なる投薬量が、加齢のバイオマーカーを含む、評定されるパラメーターに与える影響を評定することを意図している。この研究は24週間の無作為化二重盲検プラセボ対照概念実証研究であり、3つの漸増する用量レベルで、3つの連続8週間の治療期間からなる。
【0178】
メトフォルミンは、即時放出、持続放出、遅延放出又は制御放出の製剤として提供され、250 mg(用量レベル1)、500 mg(用量レベル2)及び1000 mg(用量レベル3)の1日投薬量を提供することができる。ガランタミンは、即時放出又は持続放出の製剤として提供され、3 mg(用量レベル1)、6 mg(用量レベル2)及び12 mg(用量レベル3)の1日投薬量を提供することができる。メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせは、例えば、250 mgのメトフォルミン及び3 mgのガランタミン(用量レベル1)、500 mgのメトフォルミン及び6 mgのガランタミン(用量レベル2)、並びに1000 mgのメトフォルミン及び12 mgのガランタミン(用量レベル3)の固定された組み合わせとして提供される。プラセボのマッチング製剤が提供される。
【0179】
B.人工股関節全置換術を受けたサルコペニア患者における概念実証研究
この探索的概念実証研究は、メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせが、どの程度股関節の人工股関節全置換術(THA)が予定されているサルコペニア患者における筋肉量及び筋力のサルコペニアパラメーターに良好な影響を有するかを評定するように設計されている。また、メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせで治療された患者が、THA後により良好な機能的転帰を経験するかどうか、及びどの程度良好な機能的転帰を経験するかを評定するように設計されている。この研究は、24週間の無作為化二重盲検プラセボ対照探索的概念実証研究であり、手術前の12週間の治療期及び手術後の12週間の治療期からなる。
【0180】
メトフォルミン及びガランタミンの組み合わせは、例えば、250 mgのメトフォルミン及び3 mgのガランタミン(用量レベル1)、500 mgのメトフォルミン及び6 mgのガランタミン(用量レベル2)、並びに1000 mgのメトフォルミン及び12 mgのガランタミン(用量レベル3)の固定された組み合わせとして提供される。プラセボのマッチング製剤が提供される。治療は、一部は手術前であり、一部は術後である。
【符号の説明】
【0181】
図面訳
図1
Survival (%) 生存率(%)
Untreated control 未処置対照
Adult age (days) 成虫齢(日)

図2
Survival (%) 生存率(%)
Untreated control 未処置対照
Adult age (days) 成虫齢(日)

図3
A
Mean daily activity per worm ± SEM (pixels moved) ワームあたりの平均日周活動±SEM(動いたピクセル)
Untreated 未処置

B
Maximal activity detected for each worm ± SEM (pixels moved) 各ワームについて検出された最大活動±SEM(動いたピクセル)
Untreated 未処置
C
Absolute number of healthy days ± SEM 健康な日数の絶対数±SEM
Untreated 未処置

図4
A
Mean speed 平均速度
Untreated 未処置

B
Maximal speed 最大速度
Untreated 未処置

C
Fraction of time spent running 走行に費やした時間の割合
Untreated 未処置

D
Cell occupancy セル占有率
(unique 1 mm2 areas visited ± SEM) (訪れた固有の1 mm2の面積±SEM)
Untreated 未処置

図5
A
Mean speed 平均速度

B
Maximal speed 最大速度

C
Fraction of time spent running 走行に費やした時間の割合

D
Cell occupancy セル占有率
(unique 1 mm2 areas visited ± SEM) (訪れた固有の1 mm2の面積±SEM)

図6
Fluorescence intensity (a.u.) ± SEM 蛍光強度(a.u.)±SEM
background-corrected バックグラウンド補正
Untreated 未処置

図7
A
length of major axis / length of minor axis 長軸の長さ/短軸の長さ
Untreated 未処置

B
(ranging from 0 to 1) (0~1の範囲)
Untreated 未処置

図8
A
Body weight (%) 体重(%)
Days of treatment 治療の日数

B
Lean mass (%) 除脂肪量(%)
Days of treatment 治療の日数

C
Fat mass (%) 体脂肪量(%)
Days of treatment 治療の日数
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

D
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

E
Food intake (g/d) 食物摂取量(g/日)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

F
VO2 ml/h/kg of lean mass VO2 ml/時間/kg(除脂肪量)
Time (h) 時間(時間)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

G
VCO2 ml/h/kg of lean mass VCO2 ml/時間/kg(除脂肪量)
Time (h) 時間(時間)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

H
Energy expenditure kcal/h/kg of lean mass エネルギー消費 kcal/時間/kg(除脂肪量)
Time (h) 時間(時間)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

I
Fold induction 倍誘導
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

図9
A
Time (min) 時間(分)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

B
Time (sec) 時間(秒)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

C
Force (N) 力(N)
Freq (Hz) 周波数(Hz)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

D
Force (N) 力(N)
Freq (Hz) 周波数(Hz)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

E
Normalized force (N/kg) 正規化した力(N/kg)
Freq (Hz) 周波数(Hz)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

F
Normalized force (N/kg) 正規化した力(N/kg)
Freq (Hz) 周波数(Hz)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

図10
A~F
Muscle weight (mg) 筋肉重量(mg)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

G
Type IIA fibers IIA型線維
(% of control) (対照%)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療

H
NCAM positive fibers NCAM陽性線維
(% of control) (対照%)
Opa1-/- treated Opa1-/-治療
【0182】
引用文献
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23. Kokkinos, P. Physical Activity, Health Benefits, and Mortality Risk. ISRN Cardiol. 2012, 1~14 (2012).
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図8-3】
図9-1】
図9-2】
図10
【手続補正書】
【提出日】2024-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体における加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防、安定化、その発症の遅延及び/又はその症状の低減のための医薬の製造における医薬配合剤の使用であって、前記医薬配合剤が、
メトフォルミン、及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
ドネペジル、リバスチグミンまたはメマンチンを含む群から選択される化合物、及び/又はそのN-オキシド、水和物、薬学的に許容可能な塩若しくは溶媒和物と、
を含み、
該加齢性疾患及び/又は変性疾患が、神経筋骨格系の疾患、フレイル及び/又は早老症であ前記疾患は運動機能の障害を特徴とするものであり、
前記メトフォルミン及び/又は前記ドネペジル、リバスチグミンまたはメマンチンを含む群から選択される化合物は、該被験体に治療用量以下の用量で投与される、
使用
【請求項2】
前記ドネペジル、リバスチグミンまたはメマンチンを含む群から選択される化合物は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるドネペジルまたはリバスチグミンである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
加齢性疾患及び/又は変性疾患治療、予防、安定化、その発症の遅延及び/又はその症状の低減のための医薬の製造における医薬配合剤の使用において、該加齢性疾患及び/又は変性疾患が神経筋骨格系の疾患及び/又はフレイルである、請求項1に記載の使用
【請求項4】
加齢性疾患及び/又は変性疾患の治療、予防、安定化、その発症の遅延及び/又はその症状の低減のための医薬の製造における医薬配合剤の使用において、前記加齢性疾患及び/又は変性疾患が神経筋骨格系の疾患である、請求項1に記載の使用。
【請求項5】
神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患が、錐体外路系運動障害、神経筋接合部及び筋肉の疾患、主に中枢神経系を障害する系統萎縮症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症及び関連疾患、筋萎縮性側索硬化症で代表される運動ニューロン疾患、異常不随意運動、歩行及び運動の異常、運動失調症、ミトコンドリア関連神経筋骨格疾患、並びにサルコペニアを含む群から選択される、請求項1記載の使用
【請求項6】
前記神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患がサルコペニアである、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患が、錐体外路系運動障害、神経筋接合部及び筋肉の疾患、主に中枢神経系を障害する系統萎縮症、筋ジストロフィー、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症及び関連疾患、筋萎縮性側索硬化症で代表される運動ニューロン疾患、異常不随意運動、歩行及び運動の異常、又は運動失調症である、請求項1~のいずれか一項に記載の使用
【請求項8】
神経筋骨格系の加齢性疾患及び/又は変性疾患がミトコンドリア関連神経筋骨格疾患、又は、セントラルコア病及び視神経萎縮1(OPA1)ら選択されるミトコンドリア関連神経筋骨格疾患である、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用