(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024161528
(43)【公開日】2024-11-19
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
H10K 50/12 20230101AFI20241112BHJP
【FI】
H10K50/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024137765
(22)【出願日】2024-08-19
(62)【分割の表示】P 2023037336の分割
【原出願日】2013-07-29
(31)【優先権主張番号】P 2012172830
(32)【優先日】2012-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 哲史
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 広美
(72)【発明者】
【氏名】高橋 辰義
(57)【要約】 (修正有)
【課題】蛍光を発する材料を発光物質として用いた発光素子において、発光効率がより高い発光素子を提供する。
【解決手段】熱活性化遅延蛍光体と蛍光を発する材料と、を混合して用いた発光素子を提供する。ここで熱活性化遅延蛍光体は熱活性化により三重項励起状態(T
1)から逆項間交差により一重項励起状態(S
1)を生成できる材料をいい、1種の材料から構成されてもよいが、2種の材料の励起錯体(エキサイプレックス)を用いると特に好ましい。蛍光を発する材料のS
1準位の吸収のうち最も長波長側の吸収帯に、熱活性化遅延蛍光体の発光スペクトルを重ねることによって、熱活性化遅延蛍光体のS
1のエネルギーを、蛍光を発する材料のS
1へ移動させることができる。また、熱活性化遅延蛍光体のT
1準位のエネルギーの一部から、熱活性化遅延蛍光体のS
1を生成し、蛍光を発する材料のS
1へ移動させることもできる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、前記一対の電極の間に位置する発光層と、を有し、
前記発光層は、第1の有機化合物と、第2の有機化合物と、第3の有機化合物と、を有し、
前記第1の有機化合物と前記第2の有機化合物とは、励起錯体を形成する組み合わせであり、
前記第3の有機化合物は、蛍光を発する材料である、発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を発光物質として用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス(EL:Electroluminescence)を
利用した発光素子の研究開発が盛んに行われている。これら発光素子の基本的な構成は、
一対の電極間に発光物質を含む層(EL層)を挟んだものである。この素子に電圧を印加
することにより、発光物質からの発光を得ることができる。
【0003】
このような発光素子は自発光型であるため、液晶ディスプレイに比べ画素の視認性が高く
、バックライトが不要である等の利点があり、フラットパネルディスプレイ素子として好
適である。また、このような発光素子を用いたディスプレイは、薄型軽量に作製できるこ
とも大きな利点である。さらに非常に応答速度が速いことも特徴の一つである。
【0004】
これらの発光素子は発光層を膜状に形成することが可能であるため、面状に発光を得るこ
とができる。よって、大面積の光源を容易に形成することができる。このことは、白熱電
球やLEDに代表される点光源、あるいは蛍光灯に代表される線光源では得難い特色であ
るため、照明等に応用できる面光源としての利用価値も高い。
【0005】
発光物質に有機化合物を用い、一対の電極間に当該発光物質を含むEL層を設けた有機E
L素子の場合、一対の電極間に電圧を印加することにより、陰極から電子が、陽極から正
孔(ホール)がそれぞれ発光性のEL層に注入され、電流が流れる。そして、注入された
電子及び正孔が再結合することによって発光性の有機化合物が励起状態となり、励起され
た発光性の有機化合物から発光を得ることができる。
【0006】
有機化合物が形成する励起状態の種類としては、一重項励起状態と三重項励起状態があり
、一重項励起状態(S1)からの発光が蛍光、三重項励起状態(T1)からの発光がりん
光と呼ばれている。また、発光素子におけるその統計的な生成比率は、S1:T1=1:
3であると考えられている。そのため、三重項励起状態を発光に変換することが可能なり
ん光性化合物を用いた発光素子の開発が近年盛んに行われている。
【0007】
しかし、一方で、現在利用されているりん光性化合物はその殆どがイリジウムなどの希少
金属を中心金属とした錯体であり、そのコストや供給の安定性に不安がある。
【0008】
このため、希少金属を用いずに、三重項励起状態の一部を発光に変換することが可能な材
料として、遅延蛍光を発する材料の研究も行われている。遅延蛍光を発する材料では、三
重項励起状態から逆項間交差により一重項励起状態が生成され、一重項励起状態が発光に
変換される。
【0009】
特許文献1及び特許文献2では、熱活性化遅延蛍光(TADF:Thermally a
ctivated delayed fluorescence)を発する材料について
開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004-241374号公報
【特許文献2】特開2006-24830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ただし、発光素子として発光効率を高めるためには、三重項励起状態から一重項励起状態
を生成するだけではなく、一重項励起状態から効率よく発光を得られること、すなわち蛍
光量子効率が高いことが重要である。そのため、上記特許文献1等の構成において、より
発光効率を高めるためには、TADFを発する材料で、かつ蛍光量子収率の高い材料が必
要となるが、この2つを同時に満たす材料の設計は大変困難である。
【0012】
そこで本発明の一態様では、蛍光を発する材料を発光物質として用いた発光素子において
、発光効率がより高い発光素子を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明の一態様では、三重項励起状態から一重項励起状態を生
成する機能と、一重項励起状態から効率よく発光を得る機能と、を異なる材料に担わせる
こととした。
【0014】
より具体的には、発光層に、三重項励起状態から一重項励起状態を生成することのできる
材料と、一重項励起状態から効率よく発光を得られる材料と、を混合して用いることとし
た。
【0015】
三重項励起状態から一重項励起状態を生成することのできる材料としては、熱活性化遅延
蛍光体を適用する。
【0016】
本明細書等において、熱活性化遅延蛍光体とは、熱活性化により三重項励起状態から逆項
間交差により一重項励起状態を生成できる材料をいう。熱活性化遅延蛍光体は、たとえば
TADFを発する材料のように、単独で三重項励起状態から逆項間交差により一重項励起
状態を生成できる材料を含んでもよい。また励起錯体(エキサイプレックス)を形成する
2種の材料の組み合わせを含んでもよい。
【0017】
熱活性化遅延蛍光体とは、三重項励起状態と一重項励起状態が近い材料ということもでき
る。より具体的には、三重項励起状態と一重項励起状態の準位の差が0.2eV以内の材
料が好ましい。すなわち、TADFを発する材料のように単独で三重項励起状態から逆項
間交差により一重項励起状態を生成できる材料における、三重項励起状態と一重項励起状
態の準位の差が0.2eV以内であるか、励起錯体における三重項励起状態と一重項励起
状態の準位の差が0.2eV以内であることが好ましい。
【0018】
一重項励起状態から効率よく発光を得られる材料としては、公知の蛍光を発する材料を適
用する。中でも蛍光量子収率の高い材料、例えば蛍光量子収率が50%以上の材料を用い
ることが好ましい。
【0019】
上述のように、本発明の一態様はエネルギードナーに熱活性化遅延蛍光体を用い、エネル
ギーアクセプターに蛍光を発する材料を用いた発光素子を提供する。このような構成とし
、蛍光を発する材料の一重項励起状態の吸収のうち最も長波長側の吸収帯に、熱活性化遅
延蛍光体の発光スペクトルを重ねることによって、熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態
のエネルギーを、蛍光を発する材料の一重項励起状態へ移動させることができる。また、
熱活性化遅延蛍光体の三重項励起状態のエネルギーの一部から、熱活性化遅延蛍光体の一
重項励起状態を生成し、蛍光を発する材料の一重項励起状態へ移動させることもできる。
【0020】
例えば、TADFを発する材料をエネルギーアクセプターとして用いる構成の場合、発光
効率を高めるためには、TADFを発する材料で、かつ蛍光量子収率の高い材料が必要と
なってしまう。しかし上述のようにエネルギードナーに熱活性化遅延蛍光体を用いる構成
とすることで、TADFの有無に関わらず、エネルギーアクセプターに蛍光量子収率の高
い材料を選択することができる。
【0021】
そのため、熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態と、熱活性化遅延蛍光体の三重項励起状
態のエネルギーの一部から生成された熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態と、を蛍光を
発する材料の一重項励起状態を経てより効率的に発光に変換することができる。これによ
り、より発光効率の高い発光素子とすることができる。
【0022】
本発明の一態様は、一対の電極と、一対の電極間に挟まれたEL層を有し、EL層は少な
くとも発光層を有し、発光層は熱活性化遅延蛍光体と、蛍光を発する材料と、を少なくと
も含む発光素子である。
【0023】
また、上記において、熱活性化遅延蛍光体は、第1の有機化合物と第2の有機化合物を含
み、第1の有機化合物と第2の有機化合物は励起錯体を形成する組み合わせとすることが
好ましい。
【0024】
また、上記において、蛍光を発する材料の最も低エネルギー側の吸収帯と、熱活性化遅延
蛍光体の発光が重なることが好ましい。
【0025】
また、上記において、蛍光を発する材料の最も低エネルギー側の吸収帯のピーク波長と、
熱活性化遅延蛍光体の発光のピーク波長とのエネルギー換算値差を0.2eV以下とする
ことが好ましい。
【0026】
また、上記において、熱活性化遅延蛍光体の発光のピーク波長と、蛍光を発する材料の発
光のピーク波長との差が30nm以内とすることが好ましい。
【0027】
また、上記において、第1の有機化合物と第2の有機化合物は、一方が電子輸送性を有す
る材料であり、他方が正孔輸送性を有する材料であることが好ましい。
【0028】
また、上記において、第1の有機化合物と第2の有機化合物は、一方がπ電子不足型複素
芳香族であり、他方がπ電子過剰型複素芳香族又は芳香族アミンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一態様により、蛍光を発する材料を発光物質として用いた発光素子において、発
光効率がより高い発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図11】実施例1の発光素子1および比較発光素子1の構成を示す図。
【
図12】実施例1の発光素子1および比較発光素子1の電圧-輝度特性を示す図。
【
図13】実施例1の発光素子1および比較発光素子1の輝度-電流効率特性を示す図。
【
図14】実施例1の発光素子1および比較発光素子1の輝度-電力効率特性を示す図。
【
図15】実施例1の発光素子1および比較発光素子1の輝度-外部量子効率を示す図。
【
図16】実施例2の発光素子2および比較発光素子2の電圧-輝度特性を示す図。
【
図17】実施例2の発光素子2および比較発光素子2の輝度-電流効率特性を示す図。
【
図18】実施例2の発光素子2および比較発光素子2の電圧-電流特性を示す図。
【
図19】実施例2の発光素子2および比較発光素子2の輝度-電力効率特性を示す図。
【
図20】実施例2の発光素子2および比較発光素子2の輝度-外部量子効率特性を示す図。
【
図21】実施例2の発光素子2および比較発光素子2の発光スペクトルを示す図。
【
図22】実施例2の発光素子2および比較発光素子2の信頼性試験の結果を示す図。
【
図23】実施例3の発光素子3および比較発光素子3の電圧-輝度特性を示す図。
【
図24】実施例3の発光素子3および比較発光素子3の輝度-電流効率特性を示す図。
【
図25】実施例3の発光素子3および比較発光素子3の電圧-電流特性を示す図。
【
図26】実施例3の発光素子3および比較発光素子3の輝度-電力効率特性を示す図。
【
図27】実施例3の発光素子3および比較発光素子3の輝度-外部量子効率特性を示す図。
【
図28】実施例3の発光素子3および比較発光素子3の発光スペクトルを示す図。
【
図29】実施例3の発光素子3および比較発光素子3の信頼性試験の結果を示す図。
【
図30】実施例4の発光素子4および比較発光素子4の電圧-輝度特性を示す図。
【
図31】実施例4の発光素子4および比較発光素子4の輝度-電流効率特性を示す図。
【
図32】実施例4の発光素子4および比較発光素子4の電圧-電流特性を示す図。
【
図33】実施例4の発光素子4および比較発光素子4の輝度-電力効率特性を示す図。
【
図34】実施例4の発光素子4および比較発光素子4の輝度-外部量子効率特性を示す図。
【
図35】実施例4の発光素子4および比較発光素子4の発光スペクトルを示す図。
【
図36】実施例4の発光素子4および比較発光素子4の信頼性試験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の態様について図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の
説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を
様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す
実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0032】
(実施の形態1)
熱活性化遅延蛍光体と、蛍光を発する材料と、を混合して用いた発光素子では、以下のよ
うなエネルギーの過程を辿って発光が起こる。
【0033】
(1)電子及び正孔(ホール)が蛍光を発する材料において再結合し、蛍光を発する材料
が励起状態となる場合(直接再結合過程)。
【0034】
(1-1)蛍光を発する材料の励起状態が一重項励起状態のとき。:蛍光を発する。
(1-2)蛍光を発する材料の励起状態が三重項励起状態のとき。:熱失活する。
【0035】
上記(1)の直接再結合過程においては、蛍光量子効率が高ければ、高い発光効率が得ら
れる。なお、熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態の準位は蛍光を発する材料の一重項励
起状態の準位よりも高いことが好ましい。
【0036】
(2)電子及び正孔(ホール)が熱活性化遅延蛍光体において再結合し、熱活性化遅延蛍
光体が励起状態となる場合(エネルギー移動過程)。
【0037】
(2-1)熱活性化遅延蛍光体の励起状態が一重項励起状態のとき
熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態の準位が、蛍光を発する材料の一重項励起状態の準
位よりも高い場合、熱活性化遅延蛍光体から、蛍光を発する材料に励起エネルギーが移動
し、蛍光を発する材料が一重項励起状態となる。一重項励起状態となった蛍光を発する材
料は蛍光を発する。なお、熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態の準位から、蛍光を発す
る材料の三重項励起状態の準位へのエネルギー移動は、蛍光を発する材料における一重項
基底状態から三重項励起状態への直接遷移が禁制であることから、主たるエネルギー移動
過程になりにくいため、ここでは省略する。つまり、下記式(2-1)の通り、熱活性化
遅延蛍光体の一重項励起状態(1H*)から、蛍光を発する材料の一重項励起状態(1G
*)へのエネルギー移動が重要である(式中、1Gは蛍光を発する材料の一重項基底状態
、1Hは熱活性化遅延蛍光体の一重項基底状態を表す)。
【0038】
1H*+1G → 1H+1G*(2-1)
【0039】
(2-2)熱活性化遅延蛍光体の励起状態が三重項励起状態のとき
熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態の準位が蛍光を発する材料の一重項励起状態の準位
よりも高い場合、下記の過程を辿って発光が起こる。まず、熱活性化遅延蛍光体の三重項
励起状態の準位から逆項間交差によって、熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態の準位に
励起エネルギーが移動する。その後熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態の準位から蛍光
を発する材料の一重項励起状態の準位に励起エネルギーが移動し、蛍光を発する材料が一
重項励起状態となる。一重項励起状態となった蛍光を発する材料は蛍光を発する。
【0040】
つまり、下記式(2-2)の通り、熱活性化遅延蛍光体の三重項励起状態(3H*)から
逆項間交差によって熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態(1H*)が生成され、その後
蛍光を発する材料の一重項励起状態(1G*)へエネルギー移動する。
【0041】
3H*+1G →(逆項間交差)→1H*+1G→1H+1G*(2-2)
【0042】
上記(2)で述べた全てのエネルギー移動過程が効率よく生じれば、熱活性化遅延蛍光体
の三重項励起エネルギー及び一重項励起エネルギーの双方が効率よく蛍光を発する材料の
一重項励起状態(1G*)に変換されるため、高効率な発光が可能となる。逆に、熱活性
化遅延蛍光体から蛍光を発する材料に励起エネルギーが移動する前に、熱活性化遅延蛍光
体自体がその励起エネルギーを光又は熱として放出して失活してしまうと、発光効率が低
下することになる。
【0043】
次に、上述した熱活性化遅延蛍光体と蛍光を発する材料との分子間のエネルギー移動過程
の支配因子について説明する。分子間のエネルギー移動の機構としては、フェルスター機
構とデクスター機構の2つの機構が提唱されている。
【0044】
まず、1つ目の機構であるフェルスター機構(双極子-双極子相互作用)は、エネルギー
移動に、分子間の直接的接触を必要とせず、熱活性化遅延蛍光体及び蛍光を発する材料間
の双極子振動の共鳴現象を通じてエネルギー移動が起こる機構である。双極子振動の共鳴
現象によって熱活性化遅延蛍光体が蛍光を発する材料にエネルギーを受け渡し、熱活性化
遅延蛍光体が基底状態になり、蛍光を発する材料が励起状態になる。なお、フェルスター
機構の速度定数kh*→gを数式(1)に示す。
【0045】
【0046】
数式(1)において、νは、振動数を表し、f’h(ν)は、熱活性化遅延蛍光体の規格
化された発光スペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペ
クトル、三重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合はりん光スペクトル)を表し
、εg(ν)は、蛍光を発する材料のモル吸光係数を表し、Nは、アボガドロ数を表し、
nは、媒体の屈折率を表し、Rは、熱活性化遅延蛍光体と蛍光を発する材料の分子間距離
を表し、τは、実測される励起状態の寿命(蛍光寿命やりん光寿命)を表し、φは、発光
量子収率(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光量子収率、三重項励
起状態からのエネルギー移動を論じる場合はりん光量子収率)を表し、K2は、熱活性化
遅延蛍光体と蛍光を発する材料の遷移双極子モーメントの配向を表す係数(0~4)であ
る。なお、ランダム配向の場合はK2=2/3である。
【0047】
次に、2つ目の機構であるデクスター機構(電子交換相互作用)では、熱活性化遅延蛍光
体と蛍光を発する材料が軌道の重なりを生じる接触有効距離に近づき、励起状態の熱活性
化遅延蛍光体の電子と基底状態の蛍光を発する材料の電子の交換を通じてエネルギー移動
が起こる。なお、デクスター機構の速度定数kh*→gを数式(2)に示す。
【0048】
【0049】
数式(2)において、hは、プランク定数であり、Kは、エネルギーの次元を持つ定数で
あり、νは、振動数を表し、f’h(ν)は、熱活性化遅延蛍光体の規格化された発光ス
ペクトル(一重項励起状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光スペクトル、三重項
励起状態からのエネルギー移動を論じる場合はりん光スペクトル)を表し、ε’g(ν)
は、蛍光を発する材料の規格化された吸収スペクトルを表し、Lは、実効分子半径を表し
、Rは、熱活性化遅延蛍光体と蛍光を発する材料の分子間距離を表す。
【0050】
ここで、熱活性化遅延蛍光体から蛍光を発する材料へのエネルギー移動効率ΦETは、数
式(3)で表されると考えられる。krは、熱活性化遅延蛍光体の発光過程(一重項励起
状態からのエネルギー移動を論じる場合は蛍光、三重項励起状態からのエネルギー移動を
論じる場合はりん光)の速度定数を表し、knは、熱活性化遅延蛍光体の非発光過程(熱
失活や項間交差)の速度定数を表し、τは、実測される熱活性化遅延蛍光体の励起状態の
寿命を表す。
【0051】
【0052】
数式(3)より、エネルギー移動効率ΦETを高くするためには、エネルギー移動の速度
定数kh*→gを大きくし、他の競合する速度定数kr+kn(=1/τ)が相対的に小
さくなれば良いことがわかる。
【0053】
上記(2-1)および(2-2)のエネルギー移動過程のいずれにおいても、熱活性化遅
延蛍光体の一重項励起状態(1H*)から蛍光を発する材料へのエネルギー移動であるた
め、フェルスター機構(式(1))及びデクスター機構(式(2))の両方の機構による
エネルギー移動が考えられる。
【0054】
まず、フェルスター機構によるエネルギー移動を考える。式(1)と式(3)からτを消
去すると、エネルギー移動効率ΦETは、量子収率φ(一重項励起状態からのエネルギー
移動を論じているので、蛍光量子効率)が高い方が良いと言える。しかし実際は、さらに
重要なファクターとして、熱活性化遅延蛍光体の発光スペクトル(一重項励起状態からの
エネルギー移動を論じているので蛍光スペクトル)と蛍光を発する材料の吸収スペクトル
(一重項基底状態から一重項励起状態への遷移に相当する吸収)との重なりが大きいこと
も必要である(なお、蛍光を発する材料のモル吸光係数も高い方が好ましい)。このこと
は、熱活性化遅延蛍光体の発光スペクトルと、蛍光を発する材料の最も長波長側に現れる
吸収帯とが重なることを意味する。
【0055】
次に、デクスター機構によるエネルギー移動を考える。式(2)によれば、速度定数kh
*→gを大きくするには熱活性化遅延蛍光体の発光スペクトル(一重項励起状態からのエ
ネルギー移動を論じているので蛍光スペクトル)と蛍光を発する材料の吸収スペクトル(
一重項基底状態から一重項励起状態への遷移に相当する吸収)との重なりが大きい方が良
いことがわかる。
【0056】
以上のことから、(2-1)、(2-2)のいずれの過程においても、エネルギー移動効
率の最適化は、熱活性化遅延蛍光体の発光スペクトルと、蛍光を発する材料の最も長波長
側に現れる吸収帯とが重なることによって実現される。
【0057】
ただし、発光素子として発光効率を高めるためには、熱活性化遅延蛍光体が三重項励起状
態から一重項励起状態を生成するだけではなく、蛍光を発する材料の蛍光量子収率が高い
ことが重要である。
【0058】
しかしながら、三重項励起状態から一重項励起状態を生成することができ、かつ蛍光量子
収率の高い材料の設計は大変困難である。
【0059】
なお、(2)のエネルギー移動過程の割合が多く、(1)の直接再結合過程の割合が少な
い方が、(1-2)の熱失活過程を減少させることができるため好ましい。したがって、
蛍光を発する材料の濃度は5wt%以下が好ましく、1wt%以下がより好ましい。
【0060】
そこで本発明の一態様は、蛍光を発する材料を発光物質として用いた場合の、熱活性化遅
延蛍光体の三重項励起状態からの蛍光を発する材料へのエネルギー移動効率、および蛍光
を発する材料の一重項励起状態の蛍光量子効率に関する問題点を克服できる、有用な手法
を提供する。以下に、その具体的な態様を説明する。
【0061】
本発明の一態様では、蛍光を発する材料に効率的にエネルギー移動が可能なエネルギード
ナーとして、熱活性化遅延蛍光体を用いた発光素子を提供する。熱活性化遅延蛍光体は、
その一重項励起状態と、三重項励起状態とが近接しているという特徴を有する。そのため
、熱活性化遅延蛍光体は三重項励起状態から一重項励起状態への遷移が起こりやすい。さ
らにエネルギーアクセプターである蛍光を発する材料の一重項励起状態の吸収のうち最も
長波長側の吸収帯(一重項基底状態から一重項励起状態への遷移に相当する吸収)に、熱
活性化遅延蛍光体の発光スペクトルを重ねることによって、熱活性化遅延蛍光体の三重項
励起状態および一重項励起状態から蛍光を発する材料の一重項励起状態へのエネルギー移
動効率を高めることができる。
【0062】
また、三重項励起状態から一重項励起状態を生成する機能と、一重項励起状態から効率よ
く発光を得る機能と、を異なる材料に担わせることで、発光物質として熱活性化遅延の有
無に関わらず蛍光量子収率の高い材料(たとえば蛍光量子収率が50%以上の材料)を選
択することができる。
【0063】
これによって、熱活性化遅延蛍光体の三重項励起状態および一重項励起状態のエネルギー
を、蛍光を発する材料の一重項励起状態を経てより効率的に発光に変換することができ、
発光効率の高い発光素子とすることが可能となる。
【0064】
以上のような構成を有する発光素子は、
図2のように効率よくエネルギー移動が起こる。
図2においては、電極101と電極102との間に発光層113が設けられている様子が
記載されている。各電極と発光層113との間には任意の層が存在していて良い。熱活性
化遅延蛍光体113Dの一重項励起状態S
Dからは、発光物質113Aの一重項励起状態
S
Aへエネルギー移動が起こる。また、熱活性化遅延蛍光体113Dの三重項励起状態T
Dは、熱活性化遅延蛍光体113Dの一重項励起状態S
Dに逆項間交差してから、発光物
質113Aの一重項励起状態S
Aへエネルギー移動が起こる。そして発光物質113Aの
一重項励起状態S
Aから発光が起こる。このように本実施の形態における発光素子では、
三重項励起状態から一重項励起状態を生成する機能と、一重項励起状態から効率よく発光
を得る機能と、を異なる材料に担わせることによって、エネルギー移動および発光が各々
良好に行われ、発光効率の高い発光素子を提供することができる。
【0065】
図1に、本実施の形態における発光素子の概念図を示す。
図1(A)は発光素子の図、図
1(B)および
図1(C)は発光層113のみを拡大して示した図である。
【0066】
発光素子は、第1の電極101及び第2の電極102の一対の電極に挟まれたEL層10
3を有しており、EL層103は有機化合物を発光物質として含む。また、EL層は発光
層113を有しており、発光物質は少なくとも発光層113に含まれる。発光層113以
外の層については、限定されないため、その他の層はどのような層を用いていてもよいが
、代表的な積層構造としては、正孔注入層111、正孔輸送層112、電子輸送層114
、電子注入層115などがある。このほか、キャリアブロック層などを設けても良いし、
発光層を複数設けても良い。
【0067】
発光層113には、熱活性化遅延蛍光体113D及び発光物質113Aが含まれている。
図1(B)に示したように、熱活性化遅延蛍光体113Dは単独で三重項励起状態から逆
項間交差により一重項励起状態を生成できる材料から構成されてもよい。また熱活性化遅
延蛍光体113Dは複数種の材料から構成されていてもよい。中でも
図1(C)に示した
ように、第1の有機化合物113D1および第2の有機化合物113D2の2種の材料か
ら構成され、これらが励起錯体(エキサイプレックス)を形成する組み合わせであると特
に好ましい。エキサイプレックスは、一重項励起状態の準位と三重項励起状態の準位の差
が非常に小さくなりやすい性質を有しているため、三重項励起状態の準位から一重項励起
状態の準位へのエネルギー移動が起こりやすい。そのため励起錯体を形成する第1の有機
化合物と第2の有機化合物とを組み合わせて構成された熱活性化遅延蛍光体は、本発明の
一態様における熱活性化遅延蛍光体として最適である。また、第1の有機化合物と第2の
有機化合物のうち、一方を正孔輸送性、他方を電子輸送性の材料とすると、第1の有機化
合物と第2の有機化合物の混合比率を調節することにより、発光層における正孔と電子の
キャリアバランスを最適化することが容易であるため、発光効率だけでなく信頼性の観点
からも好ましい。なお、本実施の形態の発光素子では、発光層113にその他の物質が含
まれていることを排除しない。
【0068】
熱活性化遅延蛍光体はその一重項励起状態と三重項励起状態とが近接している状態にある
が、特に一重項励起状態と三重項励起状態とのエネルギー差が0eV以上0.2eV以下
であることが好ましい。
【0069】
さらに、この熱活性化遅延蛍光体と蛍光を発する材料は、上述したように熱活性化遅延蛍
光体の発光と、発光物質113Aの最も長波長側の吸収帯が重なり合う組み合わせである
ことが好ましい。このことにより、熱活性化遅延蛍光体の一重項励起状態から蛍光を発す
る材料の一重項励起状態へ効率よくエネルギーの移動が行われる。
【0070】
上記、発光物質113Aとして用いることのできる蛍光を発する材料としては例えば、以
下のようなものが挙げられる。5,6-ビス[4-(10-フェニル-9-アントリル)
フェニル]-2,2’-ビピリジン(略称:PAP2BPy)、5,6-ビス[4’-(
10-フェニル-9-アントリル)ビフェニル-4-イル]-2,2’-ビピリジン(略
称:PAPP2BPy)、N,N’-ビス〔4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9
-イル)フェニル〕-N,N’-ジフェニル-ピレン-1,6-ジアミン(略称:1,6
FLPAPrn)、N,N’-ビス[4-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]
-N,N’-ジフェニルスチルベン-4,4’-ジアミン(略称:YGA2S)、4-(
9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(10-フェニル-9-アントリル)トリフェ
ニルアミン(略称:YGAPA)、4-(9H-カルバゾール-9-イル)-4’-(9
,10-ジフェニル-2-アントリル)トリフェニルアミン(略称:2YGAPPA)、
N,9-ジフェニル-N-[4-(10-フェニル-9-アントリル)フェニル]-9H
-カルバゾール-3-アミン(略称:PCAPA)、ペリレン、2,5,8,11-テト
ラ-tert-ブチルペリレン(略称:TBP)、4-(10-フェニル-9-アントリ
ル)-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略
称:PCBAPA)、N,N’’-(2-tert-ブチルアントラセン-9,10-ジ
イルジ-4,1-フェニレン)ビス[N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレ
ンジアミン](略称:DPABPA)、N,9-ジフェニル-N-[4-(9,10-ジ
フェニル-2-アントリル)フェニル]-9H-カルバゾール-3-アミン(略称:2P
CAPPA)、N-[4-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)フェニル]-N,
N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン(略称:2DPAPPA)、N
,N,N’,N’,N’’,N’’,N’’’,N’’’-オクタフェニルジベンゾ[g
,p]クリセン-2,7,10,15-テトラアミン(略称:DBC1)、クマリン30
、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-N,9-ジフェニル-9H-カルバ
ゾール-3-アミン(略称:2PCAPA)、N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェ
ニル-2-イル)-2-アントリル]-N,9-ジフェニル-9H-カルバゾール-3-
アミン(略称:2PCABPhA)、N-(9,10-ジフェニル-2-アントリル)-
N,N’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン(略称:2DPAPA)、
N-[9,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)-2-アントリル]-N,N
’,N’-トリフェニル-1,4-フェニレンジアミン(略称:2DPABPhA)、9
,10-ビス(1,1’-ビフェニル-2-イル)-N-[4-(9H-カルバゾール-
9-イル)フェニル]-N-フェニルアントラセン-2-アミン(略称:2YGABPh
A)、N,N,9-トリフェニルアントラセン-9-アミン(略称:DPhAPhA)ク
マリン545T、N,N’-ジフェニルキナクリドン、(略称:DPQd)、ルブレン、
5,12-ビス(1,1’-ビフェニル-4-イル)-6,11-ジフェニルテトラセン
(略称:BPT)、2-(2-{2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]エテニル}-
6-メチル-4H-ピラン-4-イリデン)プロパンジニトリル(略称:DCM1)、2
-{2-メチル-6-[2-(2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[i
j]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニト
リル(略称:DCM2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)テト
ラセン-5,11-ジアミン(略称:p-mPhTD)、7,14-ジフェニル-N,N
,N’,N’-テトラキス(4-メチルフェニル)アセナフト[1,2-a]フルオラン
テン-3,10-ジアミン(略称:p-mPhAFD)、2-{2-イソプロピル-6-
[2-(1,1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-
ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロ
パンジニトリル(略称:DCJTI)、2-{2-tert-ブチル-6-[2-(1,
1,7,7-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij
]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリ
ル(略称:DCJTB)、2-(2,6-ビス{2-[4-(ジメチルアミノ)フェニル
]エテニル}-4H-ピラン-4-イリデン)プロパンジニトリル(略称:BisDCM
)、2-{2,6-ビス[2-(8-メトキシ-1,1,7,7-テトラメチル-2,3
,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル
]-4H-ピラン-4-イリデン}プロパンジニトリル(略称:BisDCJTM)など
が挙げられる。
【0071】
上述の蛍光を発する材料の、発光層113中の濃度は5wt%以下が好ましく、1wt%
以下がより好ましい。このような濃度とすることで、(2)のエネルギー移動過程の割合
を多く、(1)の直接再結合過程の割合を少なくし、(1-2)の熱失活過程を減少させ
ることができる。
【0072】
熱活性化遅延蛍光体としては、たとえば1種の材料から構成される場合は以下のようなも
のを用いることができる。
【0073】
まずフラーレンやその誘導体、プロフラビン等のアクリジン誘導体、エオシン等が挙げら
れる。またマグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、スズ(Sn)、
白金(Pt)、インジウム(In)、もしくはパラジウム(Pd)等を含む金属含有ポル
フィリンが挙げられる。該金属含有ポルフィリンとしては、例えば、以下の構造式に示さ
れるプロトポルフィリン-フッ化スズ錯体(SnF2(Proto IX))、メソポル
フィリン-フッ化スズ錯体(SnF2(Meso IX))、ヘマトポルフィリン-フッ
化スズ錯体(SnF2(Hemato IX))、コプロポルフィリンテトラメチルエス
テル-フッ化スズ錯体(SnF2(Copro III-4Me))、オクタエチルポル
フィリン-フッ化スズ錯体(SnF2(OEP))、エチオポルフィリン-フッ化スズ錯
体(SnF2(Etio I))、オクタエチルポルフィリン-塩化白金錯体(PtCl
2OEP)等も挙げられる。
【0074】
【0075】
また、1種の材料から構成される熱活性化遅延蛍光体としては、以下の構造式に示される
2-(ビフェニル-4-イル)-4,6-ビス(12-フェニルインドロ[2,3-a]
カルバゾール-11-イル)-1,3,5-トリアジン(PIC-TRZ)等のπ電子過
剰型複素芳香環及びπ電子不足型複素芳香環を有する複素環化合物も用いることができる
。該複素環化合物は、π電子過剰型複素芳香環及びπ電子不足型複素芳香環を有するため
、電子輸送性及び正孔輸送性が高く、好ましい。なお、π電子過剰型複素芳香環とπ電子
不足型複素芳香環とが直接結合した物質は、π電子過剰型複素芳香環のドナー性とπ電子
不足型複素芳香環のアクセプター性が共に強くなり、一重項励起状態の準位と三重項励起
状態の準位の差が小さくなるため、特に好ましい。
【0076】
【0077】
また熱活性化遅延蛍光体として、第1の有機化合物及び第2の有機化合物の、2種の励起
錯体を形成する組み合わせの有機化合物を用いることができる。この場合公知のキャリア
輸送材料を適宜用いることができるが、効率よく励起錯体を形成するために、電子を受け
取りやすい化合物(電子輸送性を有する材料)と、正孔を受け取りやすい化合物(正孔輸
送性を有する材料)とを組み合わせることが特に好ましい。
【0078】
なぜならば、電子輸送性を有する材料と、正孔輸送性を有する材料とを組み合わせて熱活
性化遅延蛍光体として用いて、電子輸送性を有する材料及び正孔輸送性を有する材料の混
合比率を調節することで、発光層における正孔と電子のキャリアバランスを最適化するこ
とが容易となるためである。発光層における正孔と電子のキャリアバランスを最適化する
ことにより、発光層中で電子と正孔の再結合が起こる領域が偏ることを抑制できる。再結
合が起こる領域の偏りを抑制することで、発光素子の信頼性を向上させることができる。
【0079】
電子を受け取りやすい化合物(電子輸送性を有する材料)としては、π電子不足型複素芳
香族や金属錯体などを用いることができる。具体的には、ビス(10-ヒドロキシベンゾ
[h]キノリナト)ベリリウム(II)(略称:BeBq2)、ビス(2-メチル-8-
キノリノラト)(4-フェニルフェノラト)アルミニウム(III)(略称:BAlq)
、ビス(8-キノリノラト)亜鉛(II)(略称:Znq)、ビス[2-(2-ベンゾオ
キサゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:ZnPBO)、ビス[2-(2-ベンゾ
チアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(略称:ZnBTZ)などの金属錯体や、2-(
4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジア
ゾール(略称:PBD)、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-ter
t-ブチルフェニル)-1,2,4-トリアゾール(略称:TAZ)、1,3-ビス[5
-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベン
ゼン(略称:OXD-7)、9-[4-(5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール
-2-イル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:CO11)、2,2’,2’’-
(1,3,5-ベンゼントリイル)トリス(1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール)
(略称:TPBI)、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]-1-フ
ェニル-1H-ベンゾイミダゾール(略称:mDBTBIm-II)などのポリアゾール
骨格を有する複素環化合物や、2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]
ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq-II)、2-[3’-(
ジベンゾチオフェン-4-イル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f、h]キノキサリ
ン(略称:2mDBTBPDBq-II)、2-[3’-(9H-カルバゾール-9-イ
ル)ビフェニル-3-イル]ジベンゾ[f、h]キノキサリン(略称:2mCzBPDB
q)、4,6-ビス[3-(フェナントレン-9-イル)フェニル]ピリミジン(略称:
4,6mPnP2Pm)、4,6-ビス〔3-(4-ジベンゾチエニル)フェニル〕ピリ
ミジン(略称:4,6mDBTP2Pm-II)などのジアジン骨格を有する複素環化合
物や、3,5-ビス[3-(9H-カルバゾール-9-イル)フェニル]ピリジン(略称
:35DCzPPy)、1,3,5-トリ[3-(3-ピリジル)フェニル]ベンゼン(
略称:TmPyPB)などのピリジン骨格を有する複素環化合物が挙げられる。上述した
中でも、ジアジン骨格を有する複素環化合物やピリジン骨格を有する複素環化合物は、信
頼性が良好であり好ましい。特に、ジアジン(ピリミジンやピラジン)骨格を有する複素
環化合物は、電子輸送性が高く、駆動電圧低減にも寄与する。
【0080】
正孔を受け取りやすい化合物(正孔輸送性を有する材料)としては、π電子過剰型複素芳
香族又は芳香族アミンなどを好適に用いることができる。具体的には、2-[N-(9-
フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]スピロ-9,9’-ビフルオ
レン(略称:PCASF)、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミ
ノ]ビフェニル(略称:NPB)、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-
ジフェニル-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(略称:TPD)、4,4
’-ビス[N-(スピロ-9,9’-ビフルオレン-2-イル)-N―フェニルアミノ]
ビフェニル(略称:BSPB)、4-フェニル-4’-(9-フェニルフルオレン-9-
イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)、4-フェニル-3’-(9-フェニ
ルフルオレン-9-イル)トリフェニルアミン(略称:mBPAFLP)、4-フェニル
-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:
PCBA1BP)、4,4’-ジフェニル-4’’-(9-フェニル-9H-カルバゾー
ル-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBBi1BP)、4-(1-ナフチル)
-4’-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:
PCBANB)、4,4’-ジ(1-ナフチル)-4’’-(9-フェニル-9H-カル
バゾール-3-イル)トリフェニルアミン(略称:PCBNBB)、9,9-ジメチル-
N-フェニル-N-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]
-フルオレン-2-アミン(略称:PCBAF)、N-フェニル-N-[4-(9-フェ
ニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-スピロ-9,9’-ビフルオレン-
2-アミン(略称:PCBASF)などの芳香族アミン骨格を有する化合物や、1,3-
ビス(N-カルバゾリル)ベンゼン(略称:mCP)、4,4’-ジ(N-カルバゾリル
)ビフェニル(略称:CBP)、3,6-ビス(3,5-ジフェニルフェニル)-9-フ
ェニルカルバゾール(略称:CzTP)、9-フェニル-9H-3-(9-フェニル-9
H-カルバゾール-3-イル)カルバゾール(略称:PCCP)などのカルバゾール骨格
を有する化合物や、4,4’,4’’-(ベンゼン-1,3,5-トリイル)トリ(ジベ
ンゾチオフェン)(略称:DBT3P-II)、2,8-ジフェニル-4-[4-(9-
フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル]ジベンゾチオフェン(略称:DBT
FLP-III)、4-[4-(9-フェニル-9H-フルオレン-9-イル)フェニル
]-6-フェニルジベンゾチオフェン(略称:DBTFLP-IV)などのチオフェン骨
格を有する化合物や、4,4’,4’’-(ベンゼン-1,3,5-トリイル)トリ(ジ
ベンゾフラン)(略称:DBF3P-II)、4-{3-[3-(9-フェニル-9H-
フルオレン-9-イル)フェニル]フェニル}ジベンゾフラン(略称:mmDBFFLB
i-II)などのフラン骨格を有する化合物が挙げられる。上述した中でも、芳香族アミ
ン骨格を有する化合物やカルバゾール骨格を有する化合物は、信頼性が良好であり、また
、正孔輸送性が高く、駆動電圧低減にも寄与するため好ましい。
【0081】
第1の有機化合物及び第2の有機化合物は、これらに限定されることなく、キャリアを輸
送でき、且つ励起錯体を形成できる組み合わせであり、当該励起錯体の発光が、発光物質
の吸収スペクトルにおける最も長波長側の吸収帯(発光物質の一重項基底状態から一重項
励起状態への遷移に相当する吸収)と重なっていればよく、公知の他の材料を用いても良
い。
【0082】
なお、電子輸送性を有する材料と正孔輸送性を有する材料で第1の有機化合物及び第2の
有機化合物を構成する場合、その混合比によってキャリアバランスを制御することができ
る。具体的には、第1の有機化合物:第2の有機化合物=1:9~9:1の範囲が好まし
い。
【0083】
ここで、励起錯体を形成する各化合物(第1の有機化合物113D1及び第2の有機化合
物113D2)及び励起錯体について少し詳しく説明する。
【0084】
図10(A)、
図10(B)に、4種の有機化合物単独の発光スペクトルと、これらから
形成された励起錯体の発光スペクトルを示した。なお、図中、化合物1が2-[4-(ジ
ベンゾチオフェン-4-イル)フェニル]-1-フェニル-1H-ベンゾイミダゾール(
略称:DBTBIm-II)、化合物2が2-[3-(ジベンゾチオフェン-4-イル)
フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq-II)、化合
物3が4,4’,4’’-トリス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]トリフ
ェニルアミン(略称:1’-TNATA)、化合物4が2,7-ビス[N-(4-ジフェ
ニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]-スピロ-9,9’-ビフルオレン(略称
:DPA2SF)である。励起錯体1は化合物1と化合物3の励起錯体、励起錯体2は化
合物2と化合物3の励起錯体、励起錯体3が化合物2と4,4’-ビス[N-(1-ナフ
チル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:NPB)との励起錯体、励起錯体4が
化合物2と化合物4との励起錯体のスペクトルである。
【0085】
以下に各化合物の構造式を示す。
【0086】
【0087】
図10(A)には、励起錯体1及び励起錯体2の他、化合物1乃至化合物3の発光スペク
トルを示す。励起錯体1で表されるスペクトルには化合物1をベースに、化合物3を少量
添加した材料の発光を測定した結果を、励起錯体2で表されるスペクトルには、化合物2
をベースに化合物3を少量添加した材料の発光を測定した結果をそれぞれ示した。すなわ
ち、励起錯体1の測定を行った試料においては、化合物1と化合物3のどちらか一方が第
1の有機化合物113D1に相当し、他方が第2の有機化合物113D2に相当する。ま
た、励起錯体2の測定を行った試料においては、化合物2と化合物3のどちらか一方が第
1の有機化合物113D1に相当し、他方が第2の有機化合物113D2に相当する。
【0088】
図10(A)からわかるように、少量成分である化合物3が同じであっても、励起錯体1
と励起錯体2の発光は100nm以上の差がある。すなわち、ベースの物質を変更するこ
とによって、励起錯体の発光波長を容易に調整することができる。
【0089】
なお、励起錯体1の発光スペクトルのピーク波長は520nm程度であるため、化合物1
と化合物3とを含む熱活性化遅延蛍光体は、青緑から赤色の蛍光を発する材料と混合して
好適に用いることができる。
【0090】
また、励起錯体2の発光スペクトルのピーク波長は610nm程度であるため、化合物2
と化合物3とを含む熱活性化遅延蛍光体は、赤色の蛍光を発する材料と混合して好適に用
いることができる。
【0091】
図10(B)では、励起錯体3及び励起錯体4のほか、化合物2と化合物4の発光スペク
トルを示す。励起錯体3で表されるスペクトルには、化合物2をベースに、NPBを少量
添加した材料の発光を測定した結果を、励起錯体4で表されるスペクトルには化合物2を
ベースに化合物4を少量添加した材料の発光を測定した結果をそれぞれ示した。すなわち
、励起錯体3の測定を行った試料においては、化合物2とNPBのどちらか一方が第1の
有機化合物113D1に相当し、他方が第2の有機化合物113D2に相当する。また、
励起錯体4の測定を行った試料においては、化合物2と化合物4のどちらか一方が第1の
有機化合物113D1に相当し、他方が第2の有機化合物113D2に相当する。
【0092】
図10(B)からわかるように、ベースの材料が同じであっても、励起錯体3と励起錯体
4の発光には100nm近くの差がある。すなわち、少量成分である物質を変更すること
によっても、励起錯体の発光波長を容易に調整することが可能である。
【0093】
なお、励起錯体3の発光スペクトルのピーク波長は520nm程度であるため、化合物2
とNPBとを含む熱活性化遅延蛍光体は、青緑から赤色の蛍光を発する材料と混合して好
適に用いることができる。
【0094】
また、励起錯体4の発光スペクトルのピーク波長は580nm程度であるため、化合物2
と化合物4とを含む熱活性化遅延蛍光体は、橙色から赤色の蛍光を発する材料と混合して
好適に用いることができる。
【0095】
以上のような構成を有する発光素子は、蛍光を発する材料へのエネルギー移動効率が高く
、発光効率の良好な発光素子である。
【0096】
また、熱活性化遅延蛍光体として励起錯体を形成する組み合わせの2種の有機化合物を用
いると、発光素子の駆動電圧を低くすることができる点も好ましい。駆動電圧を低くする
ことで、低消費電力な発光素子とすることが可能となる。励起錯体を用いて発光素子の駆
動電圧を低くできる理由について、以下に説明する。
【0097】
熱活性化遅延蛍光体として励起錯体を形成する組み合わせの有機化合物を用いる場合、キ
ャリアの再結合(又は一重項励起子)によって励起錯体が形成される電圧のしきい値は、
該励起錯体の発光スペクトルのピークのエネルギーによって決まる。例えば、励起錯体の
発光スペクトルのピークが620nm(2.0eV)であれば、その励起錯体を電気エネ
ルギーで形成するのに必要な電圧のしきい値も2.0V程度である。
【0098】
ここで、励起錯体の発光スペクトルのピークのエネルギーが高すぎる(波長が短すぎる)
と、励起錯体が形成される電圧のしきい値も増大してしまう。この場合、励起錯体から蛍
光を発する材料にエネルギー移動して蛍光を発する材料を発光させるために、より大きな
電圧を要することになり、余分なエネルギーを消費してしまうため、好ましくない。この
観点では、励起錯体の発光スペクトルのピークのエネルギーが低い(波長が長い)ほど、
該電圧のしきい値は小さくなり好ましい。
【0099】
そのため、励起錯体の発光スペクトルのピーク波長を、蛍光を発する材料の吸収スペクト
ルの最も長波長側に位置する吸収帯のピーク波長以上とすると、駆動電圧の低い発光素子
を得ることができる。この場合でも、励起錯体の発光スペクトルと蛍光を発する材料の吸
収スペクトルの最も長波長側に位置する吸収帯との重なりを利用してエネルギー移動が可
能であるため、高い発光効率を得ることができる。このように、駆動電圧を低減しつつ、
高い発光効率(外部量子効率)が得られることにより、高い電力効率が実現できる。
【0100】
上記発光素子は、キャリアの再結合によって蛍光を発する材料が発光を始めるしきい値電
圧よりも、キャリアの再結合によって励起錯体が形成されるしきい値電圧の方が小さい。
つまり、発光素子に印加される電圧が、蛍光を発する材料が発光を始めるしきい値電圧未
満であっても、キャリアが再結合し励起錯体を形成することで、発光素子に再結合電流が
流れ始める。したがって、より駆動電圧の低い(電圧-電流特性の良い)発光素子を実現
することができる。
【0101】
また、これにより、蛍光を発する材料が発光を始めるしきい値電圧に達した頃には、発光
層中に十分な数のキャリアが存在し、蛍光を発する材料の発光に寄与できるキャリアの再
結合が円滑に、かつ数多く行われる。よって、蛍光を発する材料のしきい値電圧(発光開
始電圧)付近において、輝度は急激に高くなる。つまり、電圧-輝度特性の発光開始電圧
付近の立ち上がりを急峻にすることができるため、所望の輝度に要する駆動電圧も低くす
ることができる。また、実用的な輝度を得るためには、蛍光を発する材料のしきい値電圧
(発光開始電圧)以上の電圧で駆動するため、蛍光を発する材料の発光が支配的であり、
発光素子は高い電流効率を実現することもできる。
【0102】
上記の低電圧化の効果は、励起錯体の発光スペクトルのピークが、蛍光を発する材料の発
光スペクトルのピーク+30nm以内、または励起錯体の発光スペクトルのピーク波長と
、蛍光を発する材料の発光のピーク波長とのエネルギー換算値の差が+0.2eV以下の
領域で顕著に見られる。また、励起錯体の発光スペクトルのピークが、蛍光を発する材料
の発光スペクトルのピーク-30nm以内、または励起錯体の発光スペクトルのピーク波
長と、蛍光を発する材料の発光のピーク波長とのエネルギー換算値の差が-0.2eV以
上の領域であれば、比較的高い発光効率も保てる。
【0103】
(実施の形態2)
本実施の形態では実施の形態1で説明した発光素子の詳細な構造の例について
図1を用い
て以下に説明する。
【0104】
本実施の形態における発光素子は、一対の電極間に複数の層からなるEL層を有する。本
実施の形態において、発光素子は、第1の電極101と、第2の電極102と、第1の電
極101と第2の電極102との間に設けられたEL層103とから構成されている。な
お、本形態では第1の電極101は陽極として機能し、第2の電極102は陰極として機
能するものとして、以下説明をする。つまり、第1の電極101の方が第2の電極102
よりも電位が高くなるように、第1の電極101と第2の電極102に電圧を印加したと
きに、発光が得られる構成となっている。
【0105】
第1の電極101は陽極として機能するため、仕事関数の大きい(具体的には4.0eV
以上)金属、合金、導電性化合物、およびこれらの混合物などを用いて形成することが好
ましい。具体的には、例えば、酸化インジウム-酸化スズ(ITO:Indium Ti
n Oxide)、ケイ素若しくは酸化ケイ素を含有した酸化インジウム-酸化スズ、酸
化インジウム-酸化亜鉛、酸化タングステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(I
WZO)等が挙げられる。これらの導電性金属酸化物膜は、通常スパッタリング法により
成膜されるが、ゾル-ゲル法などを応用して作製しても構わない。作製方法の例としては
、酸化インジウム-酸化亜鉛は、酸化インジウムに対し1~20wt%の酸化亜鉛を加え
たターゲットを用いてスパッタリング法により形成する方法などがある。また、酸化タン
グステン及び酸化亜鉛を含有した酸化インジウム(IWZO)は、酸化インジウムに対し
酸化タングステンを0.5~5wt%、酸化亜鉛を0.1~1wt%含有したターゲット
を用いてスパッタリング法により形成することもできる。この他、金(Au)、白金(P
t)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、
鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、または金属材料の窒
化物(例えば、窒化チタン)等が挙げられる。グラフェンも用いることができる。なお、
後述する複合材料をEL層103における第1の電極101と接する層に用いることで、
仕事関数に関わらず、電極材料を選択することができるようになる。
【0106】
EL層103の積層構造については、発光層113が実施の形態1に示したような構成と
なっていれば他は特に限定されない。例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸
送層、電子注入層、キャリアブロック層、中間層等を適宜組み合わせて構成することがで
きる。本実施の形態では、EL層103は、第1の電極101の上に順に積層した正孔注
入層111、正孔輸送層112、発光層113、電子輸送層114、電子注入層115を
有する構成について説明する。各層を構成する材料について以下に具体的に示す。
【0107】
正孔注入層111は、正孔注入性の高い材料を含む層である。モリブデン酸化物やバナジ
ウム酸化物、ルテニウム酸化物、タングステン酸化物、マンガン酸化物等を用いることが
できる。この他、フタロシアニン(略称:H2Pc)や銅フタロシアニン(CuPC)等
のフタロシアニン系の化合物、4,4’-ビス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)
-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DPAB)、N,N’-ビス{4-[ビス(
3-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-N,N’-ジフェニル-(1,1’-ビフェ
ニル)-4,4’-ジアミン(略称:DNTPD)等の芳香族アミン化合物、或いはポリ
(エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)
等の高分子等によっても正孔注入層111を形成することができる。
【0108】
また、正孔注入層111として、正孔輸送性を有する材料にアクセプター性物質を含有さ
せた複合材料を用いることができる。なお、正孔輸送性の物質にアクセプター性物質を含
有させたものを用いることにより、電極の仕事関数に依らず電極を形成する材料を選ぶこ
とができる。つまり、第1の電極101として仕事関数の大きい材料だけでなく、仕事関
数の小さい材料も用いることができるようになる。アクセプター性物質としては、7,7
,8,8-テトラシアノ-2,3,5,6-テトラフルオロキノジメタン(略称:F4-
TCNQ)、クロラニル等を挙げることができる。また、遷移金属酸化物を挙げることが
できる。また元素周期表における第4族乃至第8族に属する金属の酸化物を挙げることが
できる。具体的には、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化クロム、酸化モ
リブデン、酸化タングステン、酸化マンガン、酸化レニウムは電子受容性が高いため好ま
しい。中でも特に、酸化モリブデンは大気中でも安定であり、吸湿性が低く、扱いやすい
ため好ましい。
【0109】
複合材料に用いる正孔輸送性の物質としては、芳香族アミン化合物、カルバゾール誘導体
、芳香族炭化水素、高分子化合物(オリゴマー、デンドリマー、ポリマー等)など、種々
の有機化合物を用いることができる。なお、複合材料に用いる有機化合物としては、正孔
輸送性の高い有機化合物であることが好ましい。具体的には、10-6cm2/Vs以上
の正孔移動度を有する物質であることが好ましい。以下では、複合材料における正孔輸送
性の物質として用いることのできる有機化合物を具体的に列挙する。
【0110】
例えば、芳香族アミン化合物としては、N,N’-ジ(p-トリル)-N,N’-ジフェ
ニル-p-フェニレンジアミン(略称:DTDPPA)、4,4’-ビス[N-(4-ジ
フェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DPAB)、N,
N’-ビス{4-[ビス(3-メチルフェニル)アミノ]フェニル}-N,N’-ジフェ
ニル-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(略称:DNTPD)、1,3,
5-トリス[N-(4-ジフェニルアミノフェニル)-N-フェニルアミノ]ベンゼン(
略称:DPA3B)等を挙げることができる。
【0111】
複合材料に用いることのできるカルバゾール誘導体としては、具体的には、3-[N-(
9-フェニルカルバゾール-3-イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾ
ール(略称:PCzPCA1)、3,6-ビス[N-(9-フェニルカルバゾール-3-
イル)-N-フェニルアミノ]-9-フェニルカルバゾール(略称:PCzPCA2)、
3-[N-(1-ナフチル)-N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル)アミノ]-
9-フェニルカルバゾール(略称:PCzPCN1)等を挙げることができる。
【0112】
また、複合材料に用いることのできるカルバゾール誘導体としては、他に、4,4’-ジ
(N-カルバゾリル)ビフェニル(略称:CBP)、1,3,5-トリス[4-(N-カ
ルバゾリル)フェニル]ベンゼン(略称:TCPB)、9-[4-(10-フェニル-9
-アントラセニル)フェニル]-9H-カルバゾール(略称:CzPA)、1,4-ビス
[4-(N-カルバゾリル)フェニル]-2,3,5,6-テトラフェニルベンゼン等を
用いることができる。
【0113】
また、複合材料に用いることのできる芳香族炭化水素としては、例えば、2-tert-
ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:t-BuDNA)、2-t
ert-ブチル-9,10-ジ(1-ナフチル)アントラセン、9,10-ビス(3,5
-ジフェニルフェニル)アントラセン(略称:DPPA)、2-tert-ブチル-9,
10-ビス(4-フェニルフェニル)アントラセン(略称:t-BuDBA)、9,10
-ジ(2-ナフチル)アントラセン(略称:DNA)、9,10-ジフェニルアントラセ
ン(略称:DPAnth)、2-tert-ブチルアントラセン(略称:t-BuAnt
h)、9,10-ビス(4-メチル-1-ナフチル)アントラセン(略称:DMNA)、
2-tert-ブチル-9,10-ビス[2-(1-ナフチル)フェニル]アントラセン
、9,10-ビス[2-(1-ナフチル)フェニル]アントラセン、2,3,6,7-テ
トラメチル-9,10-ジ(1-ナフチル)アントラセン、2,3,6,7-テトラメチ
ル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセン、9,9’-ビアントリル、10,10
’-ジフェニル-9,9’-ビアントリル、10,10’-ビス(2-フェニルフェニル
)-9,9’-ビアントリル、10,10’-ビス[(2,3,4,5,6-ペンタフェ
ニル)フェニル]-9,9’-ビアントリル、アントラセン、テトラセン、ルブレン、ペ
リレン、2,5,8,11-テトラ(tert-ブチル)ペリレン等が挙げられる。また
、この他、ペンタセン、コロネン等も用いることができる。このように、1×10-6c
m2/Vs以上の正孔移動度を有し、炭素数14~42である芳香族炭化水素を用いるこ
とがより好ましい。
【0114】
なお、複合材料に用いることのできる芳香族炭化水素は、ビニル骨格を有していてもよい
。ビニル基を有している芳香族炭化水素としては、例えば、4,4’-ビス(2,2-ジ
フェニルビニル)ビフェニル(略称:DPVBi)、9,10-ビス[4-(2,2-ジ
フェニルビニル)フェニル]アントラセン(略称:DPVPA)等が挙げられる。
【0115】
また、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(略称:PVK)やポリ(4-ビニルトリフェニ
ルアミン)(略称:PVTPA)、ポリ[N-(4-{N’-[4-(4-ジフェニルア
ミノ)フェニル]フェニル-N’-フェニルアミノ}フェニル)メタクリルアミド](略
称:PTPDMA)、ポリ[N,N’-ビス(4-ブチルフェニル)-N,N’-ビス(
フェニル)ベンジジン](略称:Poly-TPD)等の高分子化合物を用いることもで
きる。
【0116】
正孔注入層111を形成することによって、正孔の注入性が良好となり、駆動電圧の小さ
い発光素子を得ることが可能となる。
【0117】
正孔輸送層112は、正孔輸送性を有する材料を含む層である。正孔輸送性の物質として
は、例えば、4,4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル
(略称:NPB)やN,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[
1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(略称:TPD)、4,4’,4’’-ト
リス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(略称:TDATA)、4,4’
,4’’-トリス[N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ]トリフェニルア
ミン(略称:MTDATA)、4,4’-ビス[N-(スピロ-9,9’-ビフルオレン
-2-イル)-N―フェニルアミノ]ビフェニル(略称:BSPB)、4-フェニル-4
’-(9-フェニルフルオレン-9-イル)トリフェニルアミン(略称:BPAFLP)
などの芳香族アミン化合物等を用いることができる。ここに述べた物質は、正孔輸送性が
高く、主に10-6cm2/Vs以上の正孔移動度を有する物質である。また、上述の複
合材料における正孔輸送性の物質として挙げた有機化合物も正孔輸送層112に用いるこ
とができる。また、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(略称:PVK)やポリ(4-ビニ
ルトリフェニルアミン)(略称:PVTPA)等の高分子化合物を用いることもできる。
なお、正孔輸送性の物質を含む層は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層
以上積層したものとしてもよい。
【0118】
発光層113は、発光物質と、熱活性化遅延蛍光体と、を少なくとも含む層である。発光
層113は、実施の形態1で説明したような構成を有していることから、本実施の形態に
おける発光素子は非常に発光効率の良好な発光素子とすることができる。発光層113の
主な構成については実施の形態1の記載を参照されたい。
【0119】
以上のような構成を有する発光層113は、真空蒸着法での共蒸着や、混合溶液としてイ
ンクジェット法やスピンコート法やディップコート法などを用いて成膜することで作製す
ることができる。
【0120】
電子輸送層114は、電子輸送性を有する材料を含む層である。例えば、トリス(8-キ
ノリノラト)アルミニウム(略称:Alq)、トリス(4-メチル-8-キノリノラト)
アルミニウム(略称:Almq3)、ビス(10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)
ベリリウム(略称:BeBq2)、ビス(2-メチル-8-キノリノラト)(4-フェニ
ルフェノラト)アルミニウム(略称:BAlq)など、キノリン骨格またはベンゾキノリ
ン骨格を有する金属錯体等からなる層である。また、この他ビス[2-(2-ヒドロキシ
フェニル)ベンズオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn(BOX)2)、ビス[2-(2-ヒ
ドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ)2)などのオキサゾ
ール系、チアゾール系配位子を有する金属錯体なども用いることができる。さらに、金属
錯体以外にも、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1
,3,4-オキサジアゾール(略称:PBD)や、1,3-ビス[5-(p-tert-
ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン(略称:OXD
-7)、3-(4-ビフェニリル)-4-フェニル-5-(4-tert-ブチルフェニ
ル)-1,2,4-トリアゾール(略称:TAZ)、バソフェナントロリン(略称:BP
hen)、バソキュプロイン(略称:BCP)なども用いることができる。ここに述べた
物質は、電子輸送性が高く、主に10-6cm2/Vs以上の電子移動度を有する物質で
ある。なお、上述した電子輸送性の熱活性化遅延蛍光体を電子輸送層114に用いても良
い。
【0121】
また、電子輸送層114は、単層のものだけでなく、上記物質からなる層が二層以上積層
したものとしてもよい。
【0122】
また、電子輸送層と発光層との間に電子の移動を制御する層を設けても良い。これは上述
したような電子輸送性の高い材料に、電子トラップ性の高い物質を少量添加した層であっ
て、電子キャリアの移動を抑制することによって、キャリアバランスを調節することが可
能となる。このような構成は、発光層を電子が突き抜けてしまうことにより発生する問題
(例えば素子寿命の低下)の抑制に大きな効果を発揮する。
【0123】
また、電子輸送層114と第2の電極102との間に、第2の電極102に接して電子注
入層115を設けてもよい。電子注入層115としては、フッ化リチウム(LiF)、フ
ッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF2)等のようなアルカリ金属又はア
ルカリ土類金属又はそれらの化合物を用いることができる。例えば、電子輸送性を有する
物質からなる層中にアルカリ金属又はアルカリ土類金属又はそれらの化合物を含有させた
ものを用いることができる。なお、電子注入層115として、電子輸送性を有する物質か
らなる層中にアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有させたものを用いることにより、
第2の電極102からの電子注入が効率良く行われるためより好ましい。
【0124】
第2の電極102を形成する物質としては、仕事関数の小さい(具体的には3.8eV以
下)金属、合金、電気伝導性化合物、およびこれらの混合物などを用いることができる。
このような陰極材料の具体例としては、リチウム(Li)やセシウム(Cs)等のアルカ
リ金属、およびマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)等
の元素周期表の第1族または第2族に属する元素、およびこれらを含む合金(MgAg、
AlLi)、ユウロピウム(Eu)、イッテルビウム(Yb)等の希土類金属およびこれ
らを含む合金等が挙げられる。しかしながら、第2の電極102と電子輸送層との間に、
電子注入層を設けることにより、仕事関数の大小に関わらず、Al、Ag、ITO、ケイ
素若しくは酸化ケイ素を含有した酸化インジウム-酸化スズ等様々な導電性材料を第2の
電極102として用いることができる。これら導電性材料は、スパッタリング法やインク
ジェット法、スピンコート法等を用いて成膜することが可能である。
【0125】
また、EL層103の形成方法としては、乾式法、湿式法を問わず、種々の方法を用いる
ことができる。例えば、真空蒸着法、インクジェット法またはスピンコート法など用いて
も構わない。また各電極または各層ごとに異なる成膜方法を用いて形成しても構わない。
【0126】
電極についても、ゾル-ゲル法を用いて湿式法で形成しても良いし、金属材料のペースト
を用いて湿式法で形成してもよい。また、スパッタリング法や真空蒸着法などの乾式法を
用いて形成しても良い。
【0127】
以上のような構成を有する発光素子は、第1の電極101と第2の電極102との間に生
じた電位差により電流が流れ、発光物質を含む層である発光層113において正孔と電子
とが再結合し、発光するものである。つまり発光層113に発光領域が形成されるような
構成となっている。
【0128】
発光は、第1の電極101または第2の電極102のいずれか一方または両方を通って外
部に取り出される。従って、第1の電極101または第2の電極102のいずれか一方ま
たは両方は、透光性を有する電極である。第1の電極101のみが透光性を有する電極で
ある場合、発光は第1の電極101を通って取り出される。また、第2の電極102のみ
が透光性を有する電極である場合、発光は第2の電極102を通って取り出される。第1
の電極101および第2の電極102がいずれも透光性を有する電極である場合、発光は
第1の電極101および第2の電極102を通って、両方から取り出される。
【0129】
なお、第1の電極101と第2の電極102との間に設けられる層の構成は、上記のもの
には限定されない。しかし、発光領域と電極やキャリア注入層に用いられる金属とが近接
することによって生じる消光が抑制されるように、第1の電極101および第2の電極1
02から離れた部位に正孔と電子とが再結合する発光領域を設けた構成が好ましい。
【0130】
また、発光層113に接する正孔輸送層や電子輸送層、特に発光層113における発光領
域に近い方に接するキャリア輸送層は、発光層で生成した励起子からのエネルギー移動を
抑制するため、そのバンドギャップが、発光物質が有するバンドギャップより大きいバン
ドギャップを有する物質で構成することが好ましい。
【0131】
本実施の形態における発光素子は、ガラス、プラスチック、金属などからなる基板に設け
られる。発光素子からの光が透過する基板は、可視光領域に高い透光性を有しているもの
を用いる。基板上に作製する順番としては、第1の電極101側から順に積層しても、第
2の電極102側から順に積層しても良い。発光装置は一基板上に一つの発光素子を形成
したものでも良いが、複数の発光素子を形成しても良い。一基板上にこのような発光素子
を複数作製することで、素子分割された照明装置やパッシブマトリクス型の発光装置を作
製することができる。また、ガラス、プラスチックなどからなる基板上に、例えば薄膜ト
ランジスタ(TFT)を形成し、TFTと電気的に接続された電極上に発光素子を作製し
てもよい。これにより、TFTによって発光素子の駆動を制御するアクティブマトリクス
型の発光装置を作製できる。なお、TFTの構造は、特に限定されない。スタガ型のTF
Tでもよいし逆スタガ型のTFTでもよい。また、TFTに用いる半導体の結晶性につい
ても特に限定されず、非晶質半導体を用いてもよいし、結晶性半導体を用いてもよい。ま
た、TFT基板に形成される駆動用回路についても、N型およびP型のTFTからなるも
のでもよいし、若しくはN型のTFTまたはP型のTFTのいずれか一方からのみなるも
のであってもよい。
【0132】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態と適宜組み合わせることが可能である。
【0133】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子を照明装置として用
いる例を、
図3を参照しながら説明する。
図3(B)は照明装置の上面図、
図3(A)は
図3(B)におけるe-f断面図である。
【0134】
本実施の形態における照明装置は、支持体である透光性を有する基板400上に、第1の
電極401が形成されている。第1の電極401は実施の形態2における第1の電極10
1に相当する。
【0135】
第1の電極401上には補助電極402が設けられている。本実施の形態では、第1の電
極401側から発光を取り出す例を示したため、第1の電極401は透光性を有する材料
により形成する。補助電極402は透光性を有する材料の導電率の低さを補うために設け
られており、第1の電極401の抵抗が高いことによる電圧降下を起因とする発光面内の
輝度むらを抑制する機能を有する。補助電極402は少なくとも第1の電極401の材料
よりも導電率の大きい材料を用いて形成し、好ましくはアルミニウムなどの導電率の大き
い材料を用いて形成すると良い。なお、補助電極402における第1の電極401と接す
る部分以外の表面は絶縁層で覆われていることが好ましい。これは、取り出すことができ
ない補助電極402上部からの発光を抑制するためであり、無効電流を低減し、電力効率
の低下を抑制するためである。なお、補助電極402の形成と同時に第2の電極404に
電圧を供給するためのパッド412を形成しても良い。
【0136】
第1の電極401と補助電極402上にはEL層403が形成されている。EL層403
は実施の形態1又は実施の形態2に説明した構成を有する。なお、EL層403は第1の
電極401よりも平面的に見て少し大きく形成することが、第1の電極401と第2の電
極404とのショートを抑制する絶縁層の役割も担えるため好ましい構成である。
【0137】
EL層403を覆って第2の電極404を形成する。第2の電極404は実施の形態2に
おける第2の電極102に相当し、同様の構成を有する。本実施の形態においては、発光
は第1の電極401側から取り出されるため、第2の電極404は反射率の高い材料によ
って形成されることが好ましい。本実施の形態において、第2の電極404はパッド41
2と接続することによって、電圧が供給されるものとする。
【0138】
以上、第1の電極401、EL層403、及び第2の電極404(及び補助電極402)
を有する発光素子を本実施の形態で示す照明装置は有している。当該発光素子は発光効率
の高い発光素子であるため、本実施の形態における照明装置は消費電力の小さい照明装置
とすることができる。
【0139】
以上の構成を有する発光素子を、シール材405、406を用いて封止基板407を固着
し、封止することによって照明装置が完成する。シール材405、406はどちらか一方
でもかまわない。また、内側のシール材406には乾燥剤を混ぜることもでき、これによ
り、水分を吸着することができ、信頼性の向上につながる。
【0140】
また、パッド412、第1の電極401及び補助電極402の一部をシール材405、4
06の外に伸張して設けることによって、外部入力端子とすることができる。また、その
上にコンバータなどを搭載したICチップ420などを設けても良い。
【0141】
以上、本実施の形態に記載の照明装置は、EL素子に実施の形態1又は実施の形態2に記
載の発光素子を有することから、発光効率が高く、消費電力の小さい照明装置とすること
ができる。
【0142】
(実施の形態4)
本実施の形態では、
図4を用いて実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子を適用
して作製したパッシブマトリクス型の発光装置について説明する。
図4(A)は、発光装
置を示す斜視図、
図4(B)は
図4(A)をX-Yで切断した断面図である。
図4におい
て、基板951上には、電極952と電極956との間にはEL層955が設けられてい
る。電極952の端部は絶縁層953で覆われている。そして、絶縁層953上には隔壁
層954が設けられている。隔壁層954の側壁は、基板面に近くなるに伴って、一方の
側壁と他方の側壁との間隔が狭くなっていくような傾斜を有する。つまり、隔壁層954
の短辺方向の断面は、台形状であり、底辺(絶縁層953の面方向と同様の方向を向き、
絶縁層953と接する辺)の方が上辺(絶縁層953の面方向と同様の方向を向き、絶縁
層953と接しない辺)よりも短い。このように、隔壁層954を設けることで、静電気
等に起因した発光素子の不良を防ぐことが出来る。また、パッシブマトリクス型の発光装
置においても、実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子を有することによって、
発光効率が高く、消費電力の小さい照明装置とすることができる。
【0143】
(実施の形態5)
本実施の形態では、実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子を適用して作製され
たアクティブマトリックス型の発光装置について
図5を用いて説明する。
【0144】
図5(A)及び
図5(B)は、着色層等を設けることによってフルカラー化した発光装置
の例である。
図5(A)には基板1001、下地絶縁膜1002、ゲート絶縁膜1003
、ゲート電極1006、1007、1008、第1の層間絶縁膜1020、第2の層間絶
縁膜1021、周辺部1042、画素部1040、駆動回路部1041、発光素子の第1
の電極1024W、第1の電極1024R、第1の電極1024G、第1の電極1024
B、隔壁1025、EL層1028、発光素子の第2の電極1029、封止基板1031
、シール材1032a、シール材1032bなどが図示されている。シール材1032b
には乾燥剤を混ぜることもできる。また、着色層(赤色の着色層1034R、緑色の着色
層1034G、青色の着色層1034B)は透明な基材1033に設ける。また、黒色層
(ブラックマトリックス)1035をさらに設けても良い。着色層及び黒色層が設けられ
た透明な基材1033は、位置合わせし、基板1001に固定する。なお、着色層、及び
黒色層は、オーバーコート層1036で覆われている。また、本実施の形態においては、
光が着色層を透過せずに外部へと出る発光層と、各色の着色層を透過して外部に光が出る
発光層とがあり、着色層を透過しない光は白、着色層を透過する光は赤、青、緑となるこ
とから、4色の画素で映像を表現することができる。
【0145】
また、以上に説明した発光装置では、TFTが形成されている基板1001側に光を取り
出す構造(ボトムエミッション型)の発光装置としたが、封止基板1031側に発光を取
り出す構造(トップエミッション型)の発光装置としても良い。トップエミッション型の
発光装置の断面図を
図6に示す。この場合、基板1001は光を通さない基板を用いるこ
とができる。TFTと発光素子の陽極とを接続する接続電極を作製するまでは、ボトムエ
ミッション型の発光装置と同様に形成する。その後、第3の層間絶縁膜1037を、電極
1022を覆って形成する。この絶縁膜は平坦化の役割を担っていても良い。第3の層間
絶縁膜1037は第2の層間絶縁膜1021と同様の材料の他、他の公知の材料を用いて
形成することができる。
【0146】
発光素子の第1の電極1024W、1024R、1024G、1024Bはここでは陽極
とするが、陰極であっても構わない。また、
図6のようなトップエミッション型の発光装
置である場合、第1の電極を反射電極とすることが好ましい。EL層1028の構成は、
実施の形態1又は実施の形態2で説明したような構成とし、白色の発光が得られるような
素子構造とする。白色の発光が得られる構成としては、EL層を2層用いた場合には一方
のEL層における発光層から青色の光が、もう一方のEL層における発光層から橙色の光
が得られるような構成や、一方のEL層における発光層から青色の光が、もう一方のEL
層における発光層からは赤色と緑色の光が得られるような構成などが考えられる。また、
EL層を3層用いた場合には、それぞれの発光層から、赤色、緑色、青色の発光が得られ
るようにすることで白色発光を呈する発光素子を得ることができる。なお、実施の形態1
又は実施の形態2で示した構成を適用しているのであれば、白色発光を得る構成はこれに
限らないことはもちろんである。
【0147】
着色層は、発光素子からの光が外部へとでる光路上に設ける。
図5(A)のようなボトム
エミッション型の発光装置の場合、透明な基材1033に着色層1034R、1034G
、1034Bを設けて基板1001に固定することによって設けることができる。また、
図5(B)のように着色層をゲート絶縁膜1003と第1の層間絶縁膜1020との間に
設ける構成としても良い。
図6のようなトップエミッションの構造であれば着色層(赤色
の着色層1034R、緑色の着色層1034G、青色の着色層1034B)を設けた封止
基板1031で封止を行うこともできる。封止基板1031には画素と画素との間に位置
するように黒色層(ブラックマトリックス)1035を設けても良い。着色層(赤色の着
色層1034R、緑色の着色層1034G、青色の着色層1034B)や黒色層(ブラッ
クマトリックス)はオーバーコート層1036によって覆われていても良い。なお封止基
板1031は透光性を有する基板を用いることとする。
【0148】
こうして得られた発光素子の一対の電極間に電圧を印加すると白色の発光領域1044W
が得られる。また、着色層と組み合わせることで、赤色の発光領域1044Rと、青色の
発光領域1044Bと、緑色の発光領域1044Gとが得られる。本実施の形態の発光装
置は実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子を用いていることから、駆動電圧が
低く、消費電力の小さい発光装置の実現が可能である。
【0149】
また、ここでは赤、緑、青、白の4色でフルカラー表示を行う例を示したが特に限定され
ず、赤、緑、青の3色でフルカラー表示を行ってもよい。
【0150】
また、本実施の形態は他の実施の形態と自由に組み合わせることができる。
【0151】
(実施の形態6)
本実施の形態では、実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子をその一部に含む電
子機器の例について説明する。実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子は発光効
率が高く、消費電力が低減された発光素子である。その結果、本実施の形態に記載の電子
機器は、消費電力が低減された発光部を有する電子機器とすることが可能である。
【0152】
上記発光素子を適用した電子機器として、例えば、テレビジョン装置(テレビ、またはテ
レビジョン受信機ともいう)、コンピュータ用などのモニタ、デジタルカメラ、デジタル
ビデオカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう
)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置、パチンコ機などの大型ゲーム機など
が挙げられる。これらの電子機器の具体例を以下に示す。
【0153】
図7(A)は、テレビジョン装置の一例を示している。テレビジョン装置は、筐体710
1に表示部7103が組み込まれている。また、ここでは、取り付け具7105により筐
体7101を壁面に支持できる構成を示している。表示部7103により、映像を表示す
ることが可能であり、表示部7103は、実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素
子をマトリクス状に配列して構成されている。当該発光素子は、発光効率の良好な発光素
子とすることが可能である。そのため、当該発光素子で構成される表示部7103を有す
るテレビジョン装置は消費電力の低減されたテレビジョン装置とすることができる。
【0154】
テレビジョン装置の操作は、筐体7101が備える操作スイッチや、別体のリモコン操作
機7110により行うことができる。リモコン操作機7110が備える操作キー7109
により、チャンネルや音量の操作を行うことができ、表示部7103に表示される映像を
操作することができる。また、リモコン操作機7110に、当該リモコン操作機7110
から出力する情報を表示する表示部7107を設ける構成としてもよい。
【0155】
図7(B1)はコンピュータであり、本体7201、筐体7202、表示部7203、キ
ーボード7204、外部接続ポート7205、ポインティングデバイス7206等を含む
。なお、このコンピュータは、実施の形態1又は実施の形態2で説明したものと同様の発
光素子をマトリクス状に配列して表示部7203に用いることにより作製される。
図7(
B1)のコンピュータは、
図7(B2)のような形態であっても良い。
図7(B2)のコ
ンピュータは、キーボード7204、ポインティングデバイス7206の代わりに第2の
表示部7210が設けられている。第2の表示部7210はタッチパネル式となっており
、第2の表示部7210に表示された入力用の表示を指や専用のペンで操作することによ
って入力を行うことができる。また、第2の表示部7210は入力用表示だけでなく、そ
の他の画像を表示することも可能である。また表示部7203もタッチパネルであっても
良い。二つの画面がヒンジで接続されていることによって、収納や運搬をする際に画面を
傷つける、破損するなどのトラブルの発生も防止することができる。なお、このコンピュ
ータは、実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子をマトリクス状に配列して表示
部7203に用いることにより作製される。当該発光素子は発光効率の良好な発光素子と
することが可能である。そのため、当該発光素子で構成される表示部7203を有するコ
ンピュータは消費電力の低減されたコンピュータとすることができる。
【0156】
図7(C)は携帯型遊技機であり、筐体7301と筐体7302の2つの筐体で構成され
ており、連結部7303により、開閉可能に連結されている。筐体7301には、実施の
形態1又は実施の形態2で説明した発光素子をマトリクス状に配列して作製された表示部
7304が組み込まれ、筐体7302には表示部7305が組み込まれている。また、図
7(C)に示す携帯型遊技機は、その他、スピーカ部7306、記録媒体挿入部7307
、LEDランプ7308、入力手段(操作キー7309、接続端子7310、センサ73
11(力、変位、位置、速度、加速度、角速度、回転数、距離、光、液、磁気、温度、化
学物質、音声、時間、硬度、電場、電流、電圧、電力、放射線、流量、湿度、傾度、振動
、におい又は赤外線を測定する機能を含むもの)、マイクロフォン7312)等を備えて
いる。もちろん、携帯型遊技機の構成は上述のものに限定されず、少なくとも表示部73
04および表示部7305の両方、または一方に実施の形態1又は実施の形態2に記載の
発光素子をマトリクス状に配列して作製された表示部を用いていればよく、その他付属設
備が適宜設けられた構成とすることができる。
図7(C)に示す携帯型遊技機は、記録媒
体に記録されているプログラム又はデータを読み出して表示部に表示する機能や、他の携
帯型遊技機と無線通信を行って情報を共有する機能を有する。なお、
図7(C)に示す携
帯型遊技機が有する機能はこれに限定されず、様々な機能を有することができる。上述の
ような表示部7304を有する携帯型遊技機は、表示部7304に用いられている発光素
子が、良好な発光効率を有することから、消費電力の低減された携帯型遊技機とすること
ができる。また、表示部7304に用いられている発光素子が低い駆動電圧で駆動させる
ことができることから、駆動電圧の小さい携帯型遊技機とすることができる。また、表示
部7304に用いられている発光素子が寿命の長い発光素子であることから、信頼性の高
い携帯型遊技機とすることができる。
【0157】
図7(D)は、携帯電話機の一例を示している。携帯電話機は、筐体7401に組み込ま
れた表示部7402の他、操作ボタン7403、外部接続ポート7404、スピーカ74
05、マイク7406などを備えている。なお、携帯電話機7400は、実施の形態1又
は実施の形態2に記載の発光素子をマトリクス状に配列して作製された表示部7402を
有している。当該発光素子は発光効率の良好な発光素子とすることが可能である。また、
駆動電圧の小さい発光素子とすることが可能である。また、寿命の長い発光素子とするこ
とが可能である。そのため、当該発光素子で構成される表示部7402を有する携帯電話
機は消費電力の低減された携帯電話機とすることができる。また、駆動電圧の小さい携帯
電話機とすることが可能である。また、信頼性の高い携帯電話機とすることが可能である
。
【0158】
図7(D)に示す携帯電話機は、表示部7402を指などで触れることで、情報を入力す
ることができる構成とすることもできる。この場合、電話を掛ける、或いはメールを作成
するなどの操作は、表示部7402を指などで触れることにより行うことができる。
【0159】
表示部7402の画面は主として3つのモードがある。第1は、画像の表示を主とする表
示モードであり、第2は、文字等の情報の入力を主とする入力モードである。第3は表示
モードと入力モードの2つのモードが混合した表示+入力モードである。
【0160】
例えば、電話を掛ける、或いはメールを作成する場合は、表示部7402を文字の入力を
主とする文字入力モードとし、画面に表示させた文字の入力操作を行えばよい。この場合
、表示部7402の画面のほとんどにキーボードまたは番号ボタンを表示させることが好
ましい。
【0161】
また、携帯電話機内部に、ジャイロ、加速度センサ等の傾きを検出するセンサを有する検
出装置を設けることで、携帯電話機の向き(縦か横か)を判断して、表示部7402の画
面表示を自動的に切り替えるようにすることができる。
【0162】
また、画面モードの切り替えは、表示部7402を触れること、又は筐体7401の操作
ボタン7403の操作により行われる。また、表示部7402に表示される画像の種類に
よって切り替えるようにすることもできる。例えば、表示部に表示する画像信号が動画の
データであれば表示モード、テキストデータであれば入力モードに切り替える。
【0163】
また、入力モードにおいて、表示部7402の光センサで検出される信号を検知し、表示
部7402のタッチ操作による入力が一定期間ない場合には、画面のモードを入力モード
から表示モードに切り替えるように制御してもよい。
【0164】
表示部7402は、イメージセンサとして機能させることもできる。例えば、表示部74
02に掌や指で触れ、掌紋、指紋等を撮像することで、本人認証を行うことができる。ま
た、表示部に近赤外光を発光するバックライトまたは近赤外光を発光するセンシング用光
源を用いれば、指静脈、掌静脈などを撮像することもできる。
【0165】
なお、本実施の形態に示す構成は、実施の形態1乃至実施の形態5に示した構成を適宜組
み合わせて用いることができる。
【0166】
図8(A)に示す電気スタンド2003は、実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光
素子を、照明装置に用いた例である。電気スタンド2003は、筐体2001と、光源2
002を有し、光源2002として、実施の形態1および実施の形態2に記載の発光素子
が用いられている。また
図8(B)は実施の形態1および実施の形態2に記載の発光素子
を室内の照明装置3001およびテレビジョン装置3002として用いた例である。実施
の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子をこれらの照明装置に用いることで、消費電
力の低減された照明装置、または大面積の照明装置、または薄型の照明装置として用いる
ことが可能となる。
【0167】
実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子は、自動車のフロントガラスやダッシュ
ボードにも搭載することができる。
図9(A)に実施の形態1および実施の形態2に記載
の発光素子を自動車のフロントガラスやダッシュボードに用いる一態様を示す。
【0168】
表示5000と表示5001は自動車のフロントガラスに設けられた実施の形態1又は実
施の形態2に記載の発光素子を搭載した表示装置である。実施の形態1又は実施の形態2
に記載の発光素子は、第1の電極と第2の電極を、透光性を有する電極で作製することに
よって、反対側が透けて見える、いわゆるシースルー状態の表示装置とすることができる
。シースルー状態の表示であれば、自動車のフロントガラスに設置したとしても、視界の
妨げになることなく設置することができる。なお、駆動のためのトランジスタなどを設け
る場合には、有機半導体材料による有機トランジスタや、酸化物半導体を用いたトランジ
スタなど、透光性を有するトランジスタを用いると良い。
【0169】
表示5002はピラー部分に設けられた実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子
を搭載した表示装置である。表示5002には、車体に設けられた撮像手段からの映像を
映し出すことによって、ピラーで遮られた視界を補完することができる。また、同様に、
ダッシュボード部分に設けられた表示5003は車体によって遮られた視界を、自動車の
外側に設けられた撮像手段からの映像を映し出すことによって、死角を補い、安全性を高
めることができる。見えない部分を補完するように映像を映すことによって、より自然に
違和感なく安全確認を行うことができる。
【0170】
表示5004や表示5005はナビゲーション情報、スピードメーターやタコメーター、
走行距離、給油量、ギア状態、エアコンの設定など、その他様々な情報を提供することが
できる。表示は使用者の好みに合わせて適宜その表示項目やレイアウトを変更することが
できる。なお、これら情報は表示5000乃至表示5003にも設けることができる。ま
た、表示5000乃至表示5005は照明装置として用いることも可能である。
【0171】
また、
図9(B)に示すように、ナンバープレート5011の表示部に、実施の形態1又
は実施の形態2に記載の発光素子を適用してもよい。これによりナンバープレート501
1の視認性を向上させることができる。
【0172】
また、
図9(C)に示すように、腕時計の針5021や表示部5022に実施の形態1又
は実施の形態2に記載の発光素子を搭載してもよい。これにより、従来の発光型腕時計の
ようにトリチウム等の放射性物質を用いずとも、暗所での視認性を向上させることができ
る。
【0173】
以上の様に実施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子を備えた発光装置の適用範囲
は極めて広く、この発光装置をあらゆる分野の電子機器に適用することが可能である。実
施の形態1又は実施の形態2に記載の発光素子を用いることにより、消費電力の小さい電
子機器を得ることができる。
【実施例0174】
本実施例では、熱活性化遅延蛍光体と蛍光を発する材料とを混合して発光層に用いた発光
素子と、熱活性化遅延蛍光を発しない材料と蛍光を発する材料とを混合して発光層に用い
た比較発光素子と、を実際に作製し比較した結果について、
図11乃至
図15を用いて説
明する。
【0175】
以下、発光素子1を、熱活性化遅延蛍光体と蛍光を発する材料とを混合して発光層に用い
た発光素子とする。また比較発光素子1を、熱活性化遅延蛍光を有さない材料と蛍光を発
する材料とを混合して発光層に用いた発光素子とする。
【0176】
発光素子1および比較発光素子1で用いた蛍光を発する材料は、5,6,11,12-テ
トラフェニルナフタセン(慣用名:ルブレン)である。
【0177】
発光素子1では熱活性化遅延蛍光体として、励起錯体を形成する組み合わせの2種の有機
化合物を用いた。具体的には第1の有機化合物として2-[3-(ジベンゾチオフェン-
4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPDBq-I
I)を用い、第2の有機化合物として2-[N-(9-フェニルカルバゾール-3-イル
)-N-フェニルアミノ]スピロ-9,9’-ビフルオレン(略称:PCASF)を用い
た。
【0178】
比較発光素子1では熱活性化遅延蛍光を発しない材料として、2-[3-(ジベンゾチオ
フェン-4-イル)フェニル]ジベンゾ[f,h]キノキサリン(略称:2mDBTPD
Bq-II)を用いた。すなわち、熱活性化遅延蛍光を発しない材料として、発光素子1
における第1の有機化合物のみを用いた。
【0179】
本実施例で用いた材料の化学式を以下に示す。
【0180】
【0181】
以下に、発光素子1および比較発光素子1の作製方法を示す。
【0182】
(発光素子1)
まず、ガラス基板1100上に、酸化珪素を含むインジウム錫酸化物(ITSO)をスパ
ッタリング法にて成膜し、陽極として機能する第1の電極1101を形成した。なお、そ
の膜厚は110nmとし、電極面積は2mm×2mmとした(
図11参照)。
【0183】
次に、基板1100上に発光素子を形成するための前処理として、基板表面を水で洗浄し
、200℃で1時間焼成した後、UVオゾン処理を370秒行った。
【0184】
その後、10-4Pa程度まで内部が減圧された真空蒸着装置に基板を導入し、真空蒸着
装置内の加熱室において、170℃で30分間の真空焼成を行った後、基板1100を3
0分程度放冷した。
【0185】
次に、第1の電極1101が形成された面が下方となるように、第1の電極1101が形
成された基板1100を真空蒸着装置内に設けられた基板ホルダーに固定し、10-4P
a程度まで減圧した後、第1の電極1101上に、1,3,5-トリ(ジベンゾチオフェ
ン-4-イル)-ベンゼン(略称:DBT3P-II)と酸化モリブデンを共蒸着するこ
とで、正孔注入層1111を形成した。その膜厚は、40nmとし、DBT3P-IIと
酸化モリブデンの比率は、質量比で1:0.5(=DBT3P-II:酸化モリブデン)
となるように調節した。
【0186】
次に、正孔注入層1111上に、BPAFLP(略称)を20nmの膜厚となるように成
膜し、正孔輸送層1112を形成した。
【0187】
さらに、2mDBTPDBq-II(略称)、PCASF(略称)、およびルブレンを共
蒸着し、正孔輸送層1112上に発光層1113を形成した。ここで、2mDBTPDB
q-II、PCASF、およびルブレンの重量比は、0.8:0.2:0.01(=2m
DBTPDBq-II:PCASF:ルブレン)となるように調節した。また、発光層1
113の膜厚は30nmとした。
【0188】
次に、発光層1113上に2mDBTPDBq-II(略称)を膜厚20nmとなるよう
成膜し、第1の電子輸送層1114aを形成した。
【0189】
次に、第1の電子輸送層1114a上に、バソフェナントロリン(略称:BPhen)を
膜厚20nmとなるように成膜し、第2の電子輸送層1114bを形成した。
【0190】
さらに、第2の電子輸送層1114b上に、フッ化リチウム(LiF)を1nmの膜厚で
蒸着し、電子注入層1115を形成した。
【0191】
最後に、陰極として機能する第2の電極1103として、アルミニウムを200nmの膜
厚となるように蒸着することで、本実施例の発光素子1を作製した。
【0192】
(比較発光素子1)
比較発光素子1の発光層1113は、2mDBTPDBq-II(略称)およびルブレン
を共蒸着することで形成した。ここで、2mDBTPDBq-II(略称)およびルブレ
ンの重量比は、1:0.01(=2mDBTPDBq-II:ルブレン)となるように調
節した。また、発光層1113の膜厚は30nmとした。発光層1113以外は、発光素
子1と同様に作製した。
【0193】
なお、上述した蒸着過程において、蒸着は全て抵抗加熱法を用いた。
【0194】
以上により得られた発光素子1および比較発光素子1の素子構造を表1に示す。
【0195】
【0196】
これらの発光素子を、窒素雰囲気のグローブボックス内において、発光素子が大気に曝さ
れないように封止する作業を行った後、発光素子の動作特性について測定を行った。なお
、測定は室温(25℃に保たれた雰囲気)で行った。
【0197】
発光素子1および比較発光素子1の電圧-輝度特性を
図12に示す。
図12において、横
軸は電圧(V)を、縦軸は輝度(cd/m
2)を表す。また、輝度-電流効率特性を
図1
3に示す。
図13において、横軸は輝度(cd/m
2)を、縦軸は電流効率(cd/A)
を示す。また輝度-電力効率特性を
図14に示す。
図14において、横軸は輝度(cd/
m
2)を、縦軸は電力効率(lm/W)を示す。また輝度-外部量子効率を
図15に示す
。
図15において、横軸は輝度(cd/m
2)を、縦軸は外部量子効率(%)を示す。
【0198】
また、発光素子1および比較発光素子1における輝度1000cd/m2付近のときの電
圧(V)、電流密度(mA/cm2)、CIE色度座標(x、y)、電流効率(cd/A
)、電力効率(lm/W)、外部量子効率(%)を表2に示す。
【0199】
【0200】
表2に示す通り、輝度1000cd/m2付近の時の発光素子1のCIE色度座標は(x
,y)=(0.47,0.52)であり、輝度1000cd/m2付近の時の比較発光素
子1のCIE色度座標は(x,y)=(0.46,0.50)であった。この結果から、
発光素子1および比較発光素子1は、ルブレンに由来する黄色発光が得られたことがわか
った。
【0201】
表2、
図12乃至
図15からわかるように、発光素子1は、比較発光素子1と比較して発
光を開始するしきい値電圧(発光開始電圧)が低く、電流効率、電力効率および外部量子
効率において高い値を示した。発光層1113に用いた2mDBTPDBq-IIとPC
ASFは励起錯体を形成するため、発光層1113中の励起錯体の三重項励起状態の一部
から励起錯体の一重項励起状態が生成される。この励起錯体の一重項励起状態のエネルギ
ーが、蛍光を発する材料の一重項励起状態へ移動することで、発光効率の向上に繋がった
と考えられる。また、この励起錯体の形成の影響により、発光開始電圧が低下したと考え
られる。