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特開2024-16155NKG2Dベースの受容体を発現する免疫細胞のフラトリサイドの減少
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016155
(43)【公開日】2024-02-06
(54)【発明の名称】NKG2Dベースの受容体を発現する免疫細胞のフラトリサイドの減少
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20240130BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240130BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20240130BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20240130BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240130BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240130BHJP
   C07K 16/24 20060101ALI20240130BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20240130BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20240130BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240130BHJP
【FI】
C12N15/113 120Z
C12N5/10 ZNA
C12N5/0783
C12N15/113 140Z
C12N5/0789
C12N15/12
C07K16/28
C07K16/24
A61K35/17
A61K35/545
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023188119
(22)【出願日】2023-11-02
(62)【分割の表示】P 2020550897の分割
【原出願日】2018-12-05
(31)【優先権主張番号】17205560.0
(32)【優先日】2017-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】520197310
【氏名又は名称】セリアド オンコロジー エス.アー.
【氏名又は名称原語表記】CELYAD ONCOLOGY S.A.
【住所又は居所原語表記】Axis Business Park, Rue Edouard Belin 2, 1435 Mont-Saint-Guibert, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ギルハム,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】ブレマン,エイタン
(72)【発明者】
【氏名】デモーリン,ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ボーンシャイン,サイモン
(72)【発明者】
【氏名】ライタノ,スザンナ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】キメラNKG2D受容体を発現する細胞の製造時におけるフラトリサイドを防止および/または減少する方法、フラトリサイドが防止および/または減少された細胞を含む細胞および組成物を提供する。
【解決手段】キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞の製造中のフラトリサイドを減少および/または防止する方法であって、前記細胞の製造プロセス中にNKG2Dシグナル伝達の機能阻害をすることを備えた方法である。前記NKG2Dシグナル伝達の機能阻害は、以下の1つ以上によって達成される:前記免疫細胞の1つ以上のNKG2Dリガンドの永続的または一過性阻害;前記キメラNKG2D受容体の一過性阻害;前記キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の一過性阻害。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞の製造中のフラトリサイドを減少および/または防止する方法であって、前記細胞の製造プロセス中にNKG2Dシグナル伝達の機能阻害をすることを備えた方法。
【請求項2】
NKG2Dシグナル伝達の機能阻害は、以下の1つ以上によって達成される:
‐前記免疫細胞の1つ以上のNKG2Dリガンドの永続的または一過性阻害;
‐前記キメラNKG2D受容体の一過性阻害;
‐前記キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の一過性阻害
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上のNKG2Dリガンドの永続的阻害は、遺伝子ノックダウンによって達成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記下流シグナル伝達の一過性阻害は、PI3Kシグナル伝達の一過性阻害である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記PI3Kシグナル伝達は、LY294002およびイデラリシブから選択されるPI3K阻害剤を用いて阻害される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記機能阻害は、shRNA、または、NKG2D受容体に対する、もしくは、1つ以上のそのリガンドに対する抗体を用いて達成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、幹細胞、またはiPSCなどの養子細胞移植用細胞である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子と、以下の少なくとも1つとを含む遺伝子操作された免疫細胞:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上のshRNA。
【請求項9】
前記NKG2Dリガンドは、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5およびULBP6から選択される、請求項8に記載の遺伝子操作された免疫細胞。
【請求項10】
キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子を含有する免疫細胞の組成物であって、
前記細胞は、以下をさらに含み、
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐前記キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上のshRNA;
および/または、前記組成物は、以下をさらに含む。
‐前記キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の抗体;
‐前記キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の阻害剤、具体的には、 PI3K
阻害剤。
【請求項11】
医薬品として使用される請求項8または9に記載の遺伝子操作された免疫細胞、または、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
癌治療に使用される請求項8または9に記載の遺伝子操作された免疫細胞、または、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
請求項8の遺伝子操作された免疫細胞を、それを必要とする被検体に投与することを含む、癌を治療する方法。
【請求項14】
請求項10の組成物を、それを必要とする被検体に投与することを含む、癌を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、免疫療法の分野に関し、より具体的には、養子細胞療法のための細胞の製造に関する。本明細書では、このような細胞、具体的には、キメラNKG2D受容体を発現する細胞の製造時におけるフラトリサイドを防止および/または減少する方法を提供する。また、フラトリサイドが防止および/または減少された細胞を含む細胞および組成物も提供する。
【背景技術】
【0002】
免疫系に対する理解が深まるにつれて、進行がん患者に客観的な臨床反応をもたらす免疫に焦点を当てた治療法が多く開発されるようになった。これらアプローチの1つは、キメラ抗原受容体(CAR)T細胞であり、患者のT細胞は、腫瘍を標的とするCARを発現するように遺伝子改変された後、患者に多数戻される(1)。この養子細胞療法は、血液悪性腫瘍患者における客観的な臨床反応を通した検証レベルを達成しており、より広範ながん適応症の治療法についてさらに探索されている(2―7)。CARの概念も、ナチュラルキラー細胞を含む様々な細胞型に対して探索されているCARを有するT細胞にとどまらない(8)。
【0003】
CARは、大まかに、細胞外スペーサドメインと、細胞内シグナル伝達ドメインに融合された膜貫通領域を含む構造ドメインに連結された標的結合ドメインとからなるモジュール型タンパク質受容体である。リガンドが結合すると、CARから開始された下流シグナル伝達はT細胞のエフェクター機能を活性化し、それによって腫瘍細胞の直接的な殺傷と免疫動員サイトカイン産生を促す。
【0004】
CART産生における問題は、自己殺傷(またはフラトリサイド)である。この現象は、CAR標的がT細胞集団上で発現されるときに起こる。T細胞のフラトリサイドは、T細胞の恒常性を維持する機構としてよく理解されている(13)。しかし、治療状況では、T細胞のフラトリサイドは、臨床利用に要望されるCART細胞集団を産生する能力を妨げる。これは、T細胞白血病の標的化を可能とするために、標的自体が、CD7(14)またはCD5(15)などのT細胞系統特異性のために選択される状況に特に関連する。しかし、この問題はCART細胞の治療法に限らない。サバイビン(BIRC5)に特異的なT細胞受容体に対して高い親和性を有するTCRで武装化されたT細胞は、標的抗原(16,17)の発現によりフラトリサイドを起こす。同様に、NK受容体のリガンドを発現するNK細胞もフラトリサイド(24)を起こすことがわかっている。
結論として、人工的な細胞表面キメラ抗原受容体(CAR)構築物を用いて、あらかじめ定義した標的特異性を免疫細胞(例えば、T細胞またはNK細胞)に付与することにより、いかなる腫瘍細胞も推定的に標的化するアプローチが提供される。このアプローチの成功は、ほとんどの既知の腫瘍抗原が腫瘍に特異的ではなく、非腫瘍性細胞上で発現する可能性がある標的抗原自体のプロファイルに大きく依存する。特定の状況下において、標的抗原は、免疫細胞上で恒常的または一過性的に発現され得る。すなわち、CAR修飾細胞が自己殺傷またはフラトリサイドを起こし得る。
【0005】
ここでは、ナチュラルキラー細胞群2のメンバーD(NKG2D)タンパク質によって標的化されるストレスリガンドに対する特異性で遺伝子操作されたCART細胞に注目する。完全長のNKG2D配列とCD3ξの細胞質ドメインとの融合によりCAR構築物が生成され、NKG2D細胞外ドメインによりリガンドが結合すると、CD3ξドメイン(18)を介してT細胞が活性化される。NKG2Dは、主要組織適合抗原複合体クラスI関連遺伝子AおよびB(MICAおよびMICB)やUL16結合タンパク質(ULBP
)ファミリー(ULBP1―6)(19)を含む8つの既知のリガンドを有する。これらNKG2Dリガンドの発現は、細胞損傷、感染、酸化ストレスや熱ストレス、または、悪性転化などの「ストレス」条件下で誘導され、NKG2Dリガンドを発現する多様なヒト腫瘍が発生し、CARの状況(19,20)で利用されるべき受容体としてのNKG2Dの魅力を強調することが知られている。実際、マウスNKG2D CARを持つマウスT細胞は、同系のモデル系で確立された様々な血液系腫瘍および固形腫瘍を効果的に根絶し、このアプローチの概念の証明を示している(18)。
【0006】
ヒトNKG2DCAR(NKR―2とも呼ばれる)を持つヒトT細胞は、in vitroで様々な腫瘍細胞に対してエフェクター細胞の機能を果たし、NSGマウスモデルで確立されたヒト腫瘍に挑むことができる(21)。しかし、NKR―2細胞の産生をアップスケーリングして臨床に利用するため細胞の数を増やすと、活性化T細胞によるNKG2Dリガンドの一過性発現の原因として特定されたT細胞のフラトリサイドに非常に問題になることが証明された。
【0007】
このため、NKG2Dタンパク質とCD3ξ(NKR―2)との融合からなるCARは、NKG2Dリガンドに対して幅広い特異性をT細胞に付与する。しかし、T細胞は、活性化中にこれらリガンドを一過性的に発現するため、NKR―2T細胞にフラトリサイドが発生し、これにより、治療法としてNKG2Dを利用する能力が実質的に妨害される。さらに、臨床環境で治療法を使うためには、必要な投与スケジュールを提供するために、著しいアップスケーリングおよび凍結保存が必要となる。凍結保存および凍結解凍サイクルは、細胞にストレスを与え、これにより、NKG2Dリガンドなどのストレス誘導性タンパク質の発現が増加することが知られている。実際、キメラNKG2D受容体を発現するT細胞をアップスケーリングと凍結保存の両方に供したところ、細胞収率の悪化が観察され、これは、おそらく自己殺傷またはフラトリサイドによるものと思われる。
【0008】
このため、これら細胞におけるフラトリサイドの発生を防止または減少することが有益であると思われる。これにより、細胞収率の増加だけでなく、製造コストの削減およびこれら細胞の治療効果を高めることができると思われる。つまり、実用的および商業的観点から、臨床利用に必要なアップスケーリングおよび凍結保存の実現が可能になると思われる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Fesnak AD, June CH, Levine BL (2016) Engineered T cells: thepromise and challenges of cancer immunotherapy. Nat Rev Cancer. 16: 566-81. doi: 10.1038/nrc.2016.97
【非特許文献2】Brenner MK (2017) Next Steps in the CAR Journey of a Thousand Miles. Mol Ther. 25: 2226-7. doi: 10.1016/j.ymthe.2017.09.013
【非特許文献3】Davila ML, Brentjens RJ (2016) CD19-Targeted CAR T cells as novel cancer immunotherapy for relapsed or refractory B-cell acute lymphoblasticleukemia. Clin Adv Hematol Oncol. 14: 802-8.
【非特許文献4】Kochenderfer JN, Somerville RPT, Lu T et al. (2017) Long-Duration Complete Remissions of Diffuse Large B Cell Lymphoma after Anti-CD19 Chimeric Antigen Receptor T Cell Therapy. Mol Ther. 25: 2245-53. doi: 10.1016/j.ymthe.2017.07.004
【非特許文献5】Park JH, Geyer MB, Brentjens RJ (2016) CD19-targeted CAR T-cell therapeutics for hematologic malignancies: interpreting clinical outcomes todate. Blood. 127: 3312-20. doi: 10.1182/blood-2016-02-629063
【非特許文献6】Rossig C (2017) CAR T cell immunotherapy in hematology and beyond. Clin Immunol doi: 10.1016/j. dim.2017.09.016
【非特許文献7】Turtle CJ, Hay KA, Hanafi LA et al. (2017) Durable MolecularRemissions in Chronic Lymphocytic Leukemia Treated With CD19-Specific Chimeric Antigen Receptor-Modified T Cells After Failure of Ibrutinib. J Clin Oncol. 35: 3010-20. doi: 10.1200/JC0.2017.72.8519
【非特許文献8】Rezvani K, Rouce R, Liu E, Shpall E (2017) Engineering Natural Killer Cells for Cancer Immunotherapy. Mol Ther. 25: 1769-81. doi: 10.1016/j.ymthe.2017.06.012
【非特許文献9】Adair PR, Kim YC, Zhang AH, Yoon J, Scott DW (2017) Human Tregs Made Antigen Specific by Gene Modification: The Power to Treat Autoimmunity and Antidrug Antibodies with Precision. Front Immunol. 8: 1117. doi: 10.3389/fimmu.2017.01117
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【非特許文献11】Levine BL, Miskin J, Wonnacott K, Keir C (2017) Global Manufacturing of CAR T Cell Therapy. Mol Ther Methods Clin Dev. 4: 92-101. doi: 10.1016/j.omtm.2016.12.006
【非特許文献12】Wang X, Riviere I (2016) Clinical manufacturing of CAR T cells: foundation of a promising therapy. Mol Ther Oncolytics. 3: 16015. doi: 10.1038/mto.2016.15
【非特許文献13】Callard RE, Stark J, Yates AJ (2003) Fratricide: a mechanism for T memory-cell homeostasis. Trends Immunol. 24: 370-5.
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【非特許文献16】Leisegang M, Wilde S, Spranger S, Milosevic S, Frankenberger B, Uckert W, Schendel DJ (2010) MHC-restricted fratricide of human lymphocytes expressing survivin-specific transgenic T cell receptors. J Clin Invest. 120: 3869-77. doi: 10.1172/JCI43437
【非特許文献17】Schendel DJ, Frankenberger B (2013) Limitations for TCR gene therapy by MHC-restricted fratricide and TCR-mediated hematopoietic stem celltoxicity. Oncoimmunology. 2: e22410. doi: 10.4161/onci.22410
【非特許文献18】Sentman CL, Meehan KR (2014) NKG2D CARs as cell therapy for cancer. Cancer J. 20: 156-9. doi: 10.1097/PPO.0000000000000029
【非特許文献19】Lanier LL (2015) NKG2D Receptor and Its Ligands in Host Defense. Cancer Immunol Res. 3: 575-82. doi: 10.1158/2326-6066.CIR-15-0098
【非特許文献20】Spear P, Wu MR, Sentman ML, Sentman CL (2013) NKG2D ligands as therapeutic targets. Cancer Immun. 13: 8.
【非特許文献21】Demoulin B, Cook WJ, Murad J, Graber DJ, Sentman ML, LonezC, Gilham DE, Sentman CL, Agaugue S (2017) Exploiting natural killer group 2D receptors for CAR T-cell therapy. Future Oncol. 13: 1593-605. doi: 10.2217/fon-2017-0102
【非特許文献22】Molinero LL, Fuertes MB, Rabinovich GA, Fainboim L, Zwirner NW (2002) Activation-induced expression of MICA on T lymphocytes involves engagement of CD3 and CD28. J Leukoc Biol. 71: 791- 7.
【非特許文献23】Madera S, Rapp M, Firth MA, Beilke JN, Lanier LL, Sun JC (2016) Type I IFN promotes NK cell expansion during viral infection by protectingNK cells against fratricide. J Exp Med. 213: 225-33. doi: 10.1084/jem.20150712
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【非特許文献26】Upshaw JL, Arneson LN, Schoon RA, Dick CJ, Billadeau DD, Leibson PJ (2006) NKG2D-mediated signaling requires a DAPlO-bound Grb2-Vavl intermediate and phosphatidylinositol-3-kinase in human natural killer cells. Nat Immunol. 7: 524-32. doi: 10.1038/nil325
【非特許文献27】Abu Eid R, Ahmad S, Lin Y et al. (2017) Enhanced Therapeutic Efficacy and Memory of Tumor- Specific CD8 T Cells by Ex Vivo PI3K-delta Inhibition. Cancer Res. 77: 4135-45. doi: 10.1158/0008- 5472.CAN-16-1925
【非特許文献28】Perkins MR, Grande S, Hamel A et al. (2015) Manufacturing an Enhanced CAR T Cell Product By Inhibition of the PI3K/Akt Pathway During T Cell Expansion Results in Improved In Vivo Efficacy of Anti-BCMA CAR T Cells. Blood. 126: 1893.
【非特許文献29】Perna F, Berman SH, Soni RK, Mansilla-Soto J, Eyquem J, Hamieh M, Hendrickson RC, Brennan CW, Sadelain M (2017) Integrating Proteomics andTranscriptomics for Systematic Combinatorial Chimeric Antigen Receptor Therapy of AML. Cancer Cell. 32: 506-19 e5. doi:10.1016/j.ccell.2017.09.004
【非特許文献30】Mardiros A, Dos Santos C, McDonald T et al. (2013) T cellsexpressing CD123-specific chimeric antigen receptors exhibit specific cytolyticeffector functions and antitumor effects against human acute myeloid leukemia. Blood. 122: 3138-48. doi: 10.1182/blood-2012-12-474056
【非特許文献31】Thistlethwaite FC, Gilham DE, Guest RD et al. (2017) The clinical efficacy of first-generation carcinoembryonic antigen (CEACAM5)-specificCAR T cells is limited by poor persistence and transient pre-conditioning-dependent respiratory toxicity. Cancer Immunol Immunother. 66: 1425-36. doi: 10.1007/S00262-017-2034-7
【非特許文献32】Barber A, Sentman CL. NKG2D receptor regulates human effector T-cell cytokine production. Blood (2011) 117:6571-81. doi:10.1182/blood-2011-01-329417
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
NKG2Dタンパク質とCD3ξ(NKG2D―CART細胞)との融合を発現する改変免疫細胞、特にキメラ抗原受容体(CAR)T細胞は、血液癌および固形癌に発現するストレス誘導リガンドに対する特異性を獲得する。しかし、これらストレスリガンドは、活性化した免疫細胞またはT細胞によっても一過性発現する。これにより、NKG2Dベースの免疫細胞が、患者に注入する前の細胞製造中または凍結解凍サイクル中に自己殺傷(フラトリサイド)を起こす可能性があることが示唆される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞の製造中におけるフラトリサイドを減少および/または防止する方法であって、前記細胞の製造プロセス中のNK
G2Dシグナル伝達の機能阻害を備えた方法を提供することにある。本発明の目的はまた、キメラNKG2D受容体を発現する凍結免疫細胞の凍結および/または解凍中におけるフラトリサイドを減少および/または防止する方法であって、前記細胞の凍結および/または解凍プロセス中のNKG2Dシグナル伝達の機能阻害を備えた方法を提供することにある。
【0012】
NKG2D発現の標的阻害、NKG2Dリガンド発現または酵素機能、特にPI3K機能の阻害によって、標的駆動型CARTフラトリサイドを解消することができる。NKG2Dシグナル伝達の機能阻害は、以下の1つ以上によって達成され得ることが特に想定される:
‐前記免疫細胞の1つ以上のNKG2Dリガンドの永続的または一過性阻害;
‐前記キメラNKG2D受容体の一過性阻害;
‐前記キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の一過性阻害。
【0013】
1つ以上のNKG2Dリガンド永続的阻害が想定される実施形態によれば、これは特に遺伝子ノックダウンによって達成することができる。この目的のため、限定されるものではないが、Crispr/Cas、TALEN、ZFN、メガヌクレアーゼ、MegaTALヌクレアーゼを含む遺伝子編集技術を使うことができる。
【0014】
下流シグナル伝達の一過性阻害が想定される特定の実施形態によれば、これは、PI3Kシグナル伝達の一過性阻害である。さらに特定の実施形態によれば、PI3Kシグナル伝達は、様々なPI3K阻害剤を用いて阻害することができる。そのような阻害剤の一例として、LY294002が挙げられる。他の適切な阻害剤として、イデラリシブ(Cal―101)が挙げられる。
【0015】
特定の実施形態によれば、受容体またはリガンドの機能阻害は、阻害性RNA(shRNAやsiRNAなど)または、NKG2D受容体に対する抗体やそのリガンドの1つ以上に対する抗体を用いて達成することができる。
【0016】
さらに特定の実施形態によれば、機能阻害は、受容体レベルで達成され、阻害性RNAまたはNKG2D受容体に対する抗体を介して行われる。一態様によれば、NKG2D受容体に対する抗体が使われる。この態様の特定の実施形態において、NKG2D受容体に対する抗体は、キメラ受容体(すなわち、遮断抗体またはアンタゴニスト抗体)を活性化することなく受容体に結合する抗体である。最も特定の実施形態によれば、NKG2D受容体に対する抗体は、市販の1D11抗体(それが単離されたクローンに基づいて命名)である。
【0017】
別の特定の実施形態によれば、機能阻害は、リガンドレベルで達成され、阻害性RNAまたは1つ以上のNKG2Dリガンドに対する抗体を介して行われる。リガンドは、MICAおよびMICBの一方または両方であることが特に想定される。一態様によれば、1つ以上のNKG2Dリガンドに対するshRNAが使われる。
【0018】
特定の実施形態によれば、製造される免疫細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、幹細胞またはiPSCなどの養子細胞移植用の細胞である。
【0019】
さらなる態様において、養子移植用に製造される際にフラトリサイドが起こりにくい細胞が提供される。この態様によれば、キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子と、以下の少なくとも1つとを含む遺伝子操作された免疫細胞が提供される:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上のshRNA。
【0020】
これらの免疫細胞において、NKG2Dリガンドは、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5およびULBP6から選択される。特に想定されるリガンドは、MICAおよび/またはMICBである。
【0021】
さらに特定の実施形態によれば、キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子と、以下の少なくとも1つとを含む遺伝子操作された免疫細胞が提供される:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上のshRNA。
【0022】
さらなる態様によれば、キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子を含む免疫細胞を含有する組成物が提供され、
a)前記細胞は、
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子と;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上のshRNAとをさらに含み;
および/または
b)前記組成物は、
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の抗体と;
‐キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の阻害剤、具体的には、PI3K阻害剤とをさらに含有する。
【0023】
この態様の特定の実施形態によれば、キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子を含む免疫細胞を含有する組成物が提供され、
前記組成物は、
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の抗体;
および/または
‐キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の阻害剤、具体的には、PI3K阻害剤を含有する。
【0024】
またさらなる特定の実施形態によれば、キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子を含む免疫細胞を含有する組成物が提供され、
前記組成物は、
‐キメラNKG2D受容体に対する1つ以上の抗体;
および/または
‐PI3K阻害剤、具体的に、LY294002またはイデラリシブを含有する。
【0025】
またさらなる態様によれば、本明細書に記載の遺伝子操作された免疫細胞または組成物は、医薬品として使用するために提供される。これらは癌の治療に特に適している。
【0026】
これは、癌の治療方法を提供すると記載することと同等であり、当該癌の治療方法は、キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子と、以下の少なくとも1つとを含む遺伝子操作された免疫細胞を、それを必要とする被検体に投与することを含む:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内
在性遺伝子と;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上のshRNA。
【0027】
同様に、組成物を、それを必要とする被検体に投与することを含む癌の治療方法であって、前記組成物は、キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子を含む免疫細胞を含有し、
a)前記細胞は、
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子と;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上のshRNAをさらに含み、
および/または
b)前記組成物は、
キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の抗体と;
キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の阻害剤、具体的には、PI3K阻害剤を含有する、癌の治療方法が提供される。
【0028】
上記治療方法は、自己由来の方法(被検体が自身の体に由来する細胞を受け取る)であってもよく、または、同種異系由来の方法(免疫細胞が被検体ではないドナーに由来)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1X】代表的なNKR―2T細胞プロセスにおけるPBMC、tCD19およびNKG2D―CART細胞のフローサイトメトリーの特性評価。 密度勾配法を使って血液から精製した単核細胞を、NKR―2T細胞プロセスの前(PBMC)と後(tCD19およびNKR―2T細胞)に分析した。獲得後、SSC/FSC上で細胞をゲートしてリンパ球を得た。その後、リンパ球をCD3上でゲートした。その後、すべてのCD3陽性細胞を以下のように表示した。(A)CD4/CD8分布。(B)NKG2D(CD314)の表面発現。
図1Y】(C)記憶表現型。ナイーブ(CD62L+CD45RA+)、セントラルメモリー(CD62L+CD45RA―)、エフェクターメモリー(CD62L―CD45RA―)、および、CD45RAを発現する最終分化T細胞(CD62L―CD45RA+)を識別するためのCD62LおよびCD45RA。(D)CD223(Lag―3)およびCD279(PD―1)について染色された消耗表現型。3つのうち、1つの代表的なドナーが示されている。
図2】CD314の平均蛍光強度(MFI)。A~B)非形質導入T細胞、MockCD19による形質導入T細胞、または、NKR2による形質導入T細胞を採取した際のCD3CD4T細胞またはCD3CD8T細胞におけるCD314のMFI。非形質導入T細胞の場合はn=9の平均値、MockCD19による形質導入T細胞の場合はn=llの平均値、および、NKR2による形質導入T細胞の場合はn=16の平均値を示す。有意性の評価には、ウェルチ補正を備えた両側対応のないt検定を用いた(***p=0.0003.****P<0.0001)。C)少なくとも9名の異なるドナーに由来する非形質導入T細胞、MockCD19による形質導入T細胞、または、NKR2による形質導入T細胞の平均蛍光強度値。MFIとCD4T細胞およびCD8T細胞の標準誤差を示す。
図3X】NKR―2T細胞は、慢性骨髄性白血病(K562)および膵癌(PANC―1)を認識するが、NKG2DL発現によるフラトリサイド効果を示す。(A)健常ドナー由来のT細胞をtCD19ベクター(tCD19T細胞)またはNKR―2T細胞ベクター(NKG2D―CART細胞)で形質導入し、適応細胞株で共培養または単独培養(―)した。一晩共培養した後、ELISAでIFN―γ分泌(ng/ml)を定量した。各データ点は、独立した実験からの複製ウェルの平均値を表す。図は(N=3)を示している。(B)NKR―2T細胞は、細胞溶解活性を示す。PANC―1を、解凍したNKG2D―CART細胞と1:1のE:T比で共培養した。20時間後、アラマーブルー指標を決定した。未処理癌細胞(PANC―1)と吸光度を比較することにより細胞溶解率を決定した。データは、独立したT細胞ドナー(PANC―1細胞単独、NKR―2T細胞:NKR―2T細胞とPANC―1細胞との共培養、tCD19:対照tCD19T細胞とPANC―1細胞との共培養)のN=3の場合の平均±標準偏差を示す。(C)形質導入されたT細胞を、完全X―vivo(100IU/mL IL―2)で4日間培養した。播種96時間後にT細胞を分析し、初期細胞播種密度に対する増殖率を分析した。データは、独立したT細胞ドナーのN=3の場合の平均±標準偏差を示す。
図3Y】(D)代表的な共培養実験(3つのうち)。GFP陽性T細胞を、単独培養(Mock―GFP)または同じドナー由来のNKR―2T細胞で(Mock GFP+NKR―2T細胞)共培養した。インキュベーション開始時(T=0h)またはインキュベーション24時間後(T=24h)にフローサイトメトリー分析のGFP陽性を獲得した。
図3Z】(E~F)PBMCを40ng/mLの抗CD3と100IU/mL IL―2とで活性化し、通常の製造プロトコルに従い合計8日間培養した。2日ごとに細胞サンプルを採取し、NKG2Dリガンドの発現を、RNA(E)または細胞表面上のタンパク質(F)のいずれかにより分析した。統計的有意性の評価には、両側対応のないt検定を用いた。p<0.05を有意(*)、p<0.01を(**)と判定した。qPCR法およびフローサイトメトリー比較の両方において、対応のある両側t検定を用いた。
図4】NKR―2T細胞は、NKG2D遮断抗体またはPI3K阻害剤によって阻害され得るNKG2D媒介性フラトリサイドを示す。(A)LY294002の濃度を増加させてまたは増加させずに処理したNKR―2T細胞上のNKG2D発現のMFI。データは、独立したドナーN=3の場合の平均±標準偏差を示す。(B)形質導入されたT細胞を、LY294002の濃度を増加させてまたは増殖させるために増加させずに補充した完全X―vivo(100IU/mL IL―2)で培養した。播種96時間後にT細胞を分析し、初期細胞播種密度に対する増殖率を分析した。データは、独立したドナーN=3の場合の平均±標準偏差を示す。(C)凍結保存後の細胞の生存率。LY294002の濃度を増加させてNKR―2T細胞を産生した。産生後、細胞を採取し、洗浄し、凍結保存用に処方した。凍結保存後、細胞を、水浴を用いて解凍し、プラズマライト/ヒト血清アルブミン(HSA)5%において再懸濁させた。解凍直後(TOh)またはプラズマライト/HSA5%において4℃で6時間経った後(T6h)、細胞生存率を評価した(N=715 3)。(D)LY294002の濃度を増加させてNKR―2T細胞を産生した。産生後、細胞を採取し、洗浄し、プラズマライト/HSA1%(50×106NKR―2T細胞/ml)に移して、4℃で48時間保存した。48時間後、細胞生存率を、トリパンブルー染色(N=3)を用いて評価し、凍結保存時の細胞数について正規化した。(E)遮断Abの濃度を増加させて(0(―)~10μg/ml)、tCD19 T細胞を同じドナー由来のNKR―2T細胞で共培養した。インキュベーション44時間後、CD19陽性率および生存率のフローサイトメトリー分析をした。データは、NKR―2T細胞なしで培養したMockのCD19陽性率で正規化している(N=3)。(F)解凍したNKR―2T細胞を、CD314遮断Ab存在下、アイソタイプ・コントロール存在下、または、Ab不存在下で、PANC―1細胞またはK562細胞のいずれかと1:1の比で共培養した。24時間インキュベーションした後、上清を回収し、IFN―γ測定を行った(N=3)。(G)解凍したNKR―2T細胞を、アイソタイプ・コントロール存在下、CD314遮断Ab存在下(またはAb不存在下)で24時間培養し、IFN―γレベルの測定を行った。データは、独立したドナーN=3の場合の平均±標準偏差を示す。統計的有意性の評価には、両側対応のないt検定を用いた。p<0.05を有意(*)、p<0.01を(**)と判定した。
図5】LY294002の濃度を増加させてまたは増加させずに処理したNKR―2T細胞上のNKG2D発現のMFI。
図6】PI3K阻害剤の存在下または不存在下におけるtCD19細胞の増殖率。
図7】PI3K阻害剤を用いて産生したNKR―2T細胞は、より大量のIFN―γを生成し(A)、 記憶表現型の増加をを示す(B)。
図8】抗体遮断がある場合とない場合のNKR―2T細胞の増殖率。
図9】NKR―2T細胞Ab遮断プロセスへの適応により、CD4/CD8比が回復する。(A)3つのなかで代表的な殺傷アッセイである細胞溶解活性動態。PI3K阻害剤LY294002または遮断Abで処理された解凍済みの対照tCD19T細胞またはNKR―2T細胞を、NucLight陽性PANC―1の存在下で培養した。2時間ごとにIncuCyteS3装置でPANC―1の生存率を評価した。(B)採取時のCD4/CD8の分布。増殖段階において、NKR―2T細胞を、5μMのLY294002または5μg/mLの遮断Abのいずれかで96時間培養し、採取して、CD4とCD8の集団についてフローサイトメトリーで測定した。データは、対照tCD19比に対する独立したT細胞ドナーのN=4の場合の平均±標準偏差を示す。(C)遮断Abを遅れて添加して採取した場合のCD4/CD8の分布。増殖段階において(4~8日目)、NKR―2T細胞を、5μMの遮断Abで直後に(4日目)または48時間時間後に処理した(6日目)。採取の際(8日目)、T細胞を採取して、CD4とCD8の集団についてフローサイトメトリーで分析した。データは、対照tCD19のCD4/CD8比に対する、独立したT細胞ドナーのN=3の場合の平均±標準偏差を示す。(D)増殖率の比較。NKR―2T細胞を、8日間または10日間、LYまたは遮断Ab(4日目または6日目に添加)の存在下で培養した。初期細胞播種密度に対する増殖率について、T細胞を採取時に分析した。(E)IFN―γ分泌による分化能アッセイ。上記2つの方法で処理した解凍済みのNKR―2T細胞を、PANC―1細胞の存在下で共培養した。共培養の44時間後、ELISAでIFN―γ分泌を測定した。データは、独立したT細胞ドナーのN=4の場合の平均±標準偏差を示す。(F)3つのなかで代表的な殺傷アッセイである細胞溶解活性動態。PI3Kiまたは遮断抗体で処理された解凍済みの対照tCD19T細胞またはNKR―2T細胞を、NucLight陽性PANC―1細胞の存在下で培養した。2時間ごとにIncuCyteS3装置でPANC―1の生存率を評価した。統計的有意性の評価には、両側対応のないt検定を用いた。p<0.05を有意(*)、p<0.01を(**)、p<0.001を(***)と判定した。
図10】イデラリシブ(Cal101)とNKG2D遮断抗体の関係。遮断NKG2D抗体または5μMのCAL101の存在下で培養された細胞の、K562細胞で共培養された後IFN―γ分泌で測定された細胞増殖率(A)と、生存率(B)と、分化能の比較。
図11】CD4+(A)およびCD8+(B)T細胞の表面上でのNKG2Dリガンドの発現。
図12】shRNAを標的とするMICA/Bの共発現は、フラトリサイドを減少する。
図13】フラトリサイドの減少により、癌細胞の殺傷が増加する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
本発明を特定の実施形態に基づいて、いくつかの図面を参照しながら説明するが、本発明はこれら実施形態に限定されず、特許請求の範囲のみによって限定される。特許請求の範囲に記載の参照符号は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。図面は、単に概略を示すものであって限定するものではない。図面では、例示のために、構成要素の大きさが強調されている場合があり、厳密に図示したものではない。本明細書および本発明の範囲で使われる「備える」という用語は、他の構成要素やプロセスを排除するもの
ではない。数量が特定されていない名詞は、特に明記されていない限り、その名詞の複数を含むものとする。「本質的に・・・からなる」という表現は、記載された要素が必ず含まれ、当該記載された要素の基本的かつ新規な特性に実質的な影響を及ぼす要素は除外され、その他の要素は任意に含まれ得ることを意味する。「からなる」という表現は、記載された要素以外の要素すべてが除外されることを意味する。これら用語のそれぞれによって定義される実施形態は、本発明の範囲に包含される。
【0031】
さらに、明細書および特許請求の範囲に記載の「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、類似の要素を区別するのに用いられるのであって、必ずしも順序や時系列を表すものではない。このように用いられる用語は適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載の発明の実施形態は、本明細書に記載または図示されるものとは別の順序で実施可能であることを理解されたい。
【0032】
下記の用語または定義は、本発明の理解を助けることを目的として提示しているだけである。
【0033】
本明細書で特に定義されない限り、本明細書で用いられる用語はすべて、本発明の技術における当業者が理解するのと同じ意味を持つ。当該技術の定義および用語について、実務者は、具体的に下記文献を参照されたい。
【0034】
GreenおよびSambrook著『Molecular Cloning:A Laboratory Manual第4版』,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(2012)
【0035】
Ausubel et al著『Current Protocols in Molecular Biology(Supplement 114まで)』,John Wiley&Sons,New York(2016)
【0036】
本明細書で提示される定義は、当業者が理解する範囲よりも狭い範囲に解釈されるべきではない。
【0037】
本明細書で用いられる「フラトリサイド」という用語は、遺伝子的に同一の細胞、最も具体的には、免疫細胞による細胞の殺傷を指す。
【0038】
本明細書で用いられる「フラトリサイドを減少および/または防止する」という用語は、適切な対照細胞集団(典型的には、必ずしもそうではないが、NKG2Dリガンドの阻害が発生しない同一細胞の集団)と比較した、細胞集団におけるフラトリサイド発生の減少に関する。減少は、対照細胞集団と比較した減少率で表され、例えば、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、さらには100%もフラトリサイドが減少する。フラトリサイドの減少は、最終の細胞収率または数の増加によっても評価することができる(殺傷される細胞が少ないと、生き残る細胞が増えて増殖するため)。よって、例えば、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、100%、さらには100%以上の細胞収率の増加によって評価することができる。重要なことは、本明細書で定義されたフラトリサイドの減少は、抗原特異的サイトカイン産生の増加(例えば、インターフェロンγ分泌)および/または、T細胞の場合、T細胞の記憶表現型における頻度の増加(CD62L/CD45RA)によっても評価することができる。これら対策は、絶対細胞収率と直接関連しないかもしれないが、もし抗原特異的サイトカイン産生が増加した場合、これは、製造プロセスの最後には多くの治療活性細胞が存在することを意味し、治療細胞においてフラトリサイドが少ないということである。T記憶細胞の頻度の増加についても
同様である。このため、フラトリサイドの減少は、例えば、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、100%、さらには100%以上の抗原特異的サイトカイン産生の増加によって、あるいは、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、100%、さらに100%以上の記憶T細胞の頻度の増加によって評価することができる。
【0039】
フラトリサイドを減少させる対策は、フラトリサイドプロセスが始まる前(この方がより効果的であるため一般的に好ましい)またはフラトリサイド殺傷の間に行うことができる。フラトリサイドの防止とは、フラトリサイドプロセスが始まる前に行われる対策を指す。特定の実施形態によれば、フラトリサイドの絶対的防止は、NKG2D誘導性のフラトリサイドが発生しない(理想的には、フラトリサイドが全く発生しない)こと、すなわち、フラトリサイドの100%減少を意味する。
【0040】
本明細書で用いられる「免疫細胞」という用語は、免疫系(適応免疫系または自然免疫系のいずれかであり得る)の一部である細胞を指す。特に想定される免疫細胞として、リンパ球、単球、マクロファージおよび樹状細胞を含む白血球細胞(白血球)が挙げられる。特に想定されるリンパ球として、T細胞、NK細胞およびB細胞が挙げられ、最も特に想定されるのはT細胞である。本明細書で用いられる免疫細胞は、典型的には、養子細胞移植用に製造される免疫細胞(自己由来移植または同種異系由来移植のいずれか)である。養子移植の状況において、免疫細胞は、典型的には、初代細胞(すなわち、ヒトまたは動物の組織から直接単離された後、培養されていないまたは短時間培養された細胞)であり、細胞株(すなわち、長期間にわたって継続的に継代され、ホモ接合体遺伝子型特性および表現型特性を獲得した細胞)ではない点に留意されたい。特定の実施形態によれば、免疫細胞は初代細胞である。別の特定の実施形態によれば、免疫細胞は、細胞株由来の細胞ではない。
【0041】
本明細書で用いられる「キメラNKG2D受容体」という表現は、NKG2Dリガンドに対する特異性を有する非自然発生の受容体を指す。結合部が、1つ以上の異なる部分(少なくとも1つのシグナル伝達部分を含む)に融合され、そのうち、少なくとも1つの部分が、当該結合部とは異なる由来(例えば、異なるタンパク質)であるため、キメラである。特に想定されるキメラNKG2D受容体の例として、NKG2D CAR、すなわち、NKG2D受容体由来の結合部を有するキメラ抗原受容体が挙げられる。このようなNKG2D CARは、例えば、W02006/036445およびWO2014/117121に開示されている。本明細書におけるキメラNKG2D受容体の定義には、NKG2D受容体由来ではない1つ以上のNKG2Dリガンド、例えば、1つ以上のNKG2Dリガンドに対する抗体または抗体様部分(例えば、scFv、VHH、sdAbなど)を認識する結合部を有するCARも含まれる。これは、その後、典型的には、免疫細胞、具体的には、T細胞(CD3ゼータ鎖またはFcエプシロン受容体ガンマ鎖など)においてシグナルを形質導入するシグナル伝達部分に融合される。
【0042】
本願で用いられる「NKG2Dシグナル伝達の機能阻害」という用語は、DNAレベル(NKG2D遺伝子産物または1つ以上のそのリガンドの形成を阻害することにより、すなわち、転写を防ぐまたは干渉することにより)、RNAレベル(mRNAを中和または不安定化して翻訳を防ぐまたは干渉する―mRNAは、キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドのものであってもよい)、または、タンパク質レベル(キメラNKG2Dタンパク質および/または1つ以上のそのリガンドを中和または阻害することにより)のいずれかで、NKG2D遺伝子産物(すなわち、キメラNKG2D受容体遺伝子の産物)の機能を妨害することを指す。タンパク質レベルでの中和は、細胞表面で(例えば、受容体リガンド相互作用を阻害することによって)、または、タンパク質が表面で発現する前(例えば、細胞内小器官にタンパク質を保持することにより)に達
成することができる。典型的には、NKG2D誘導性シグナル伝達の阻害の最終的な機能的効果は、キメラNKG2D受容体によって生成されるシグナルを介した免疫細胞活性化の阻害であるが、これは、間接的に(例えば、DNAレベルで、すなわち、1つ以上のリガンドを阻害することにより)達成することができる。
【0043】
NKG2Dシグナル伝達の機能阻害は、必ずしも、NKG2D誘導シグナルの完全な除去を意味するわけではないが、これも同様に想定される。特に、アンチセンスRNAおよびsiRNA、また、抗体でも同様に、阻害は、多くの場合、完全な阻害ではなく部分的な阻害であることが知られている。しかし、機能性NKG2D遺伝子産物またはNKG2Dリガンドレベルを下げることは、 完全な阻害が達成されない場合であっても有益な効
果を奏する可能性がある-特に、フラトリサイドは、典型的には、細胞密度依存であるた
め、機能性リガンドまたは受容体の利用性が低下すると、細胞密度の低下が認識される可能性がある(今後の臨床試験に必要な多数の細胞を考慮して適切なプロダクトを作成するために培養希釈を用いて実際の細胞密度を下げることは、実現可能ではない点に留意されたい)。
【0044】
このため、特定の実施形態によると、阻害により、機能性キメラNKG2D受容体遺伝子産物または1つ以上のNKG2Dリガンドが、10%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%または最大で100%減少する。機能性NKG2D受容体遺伝子産物またはリガンドのレベルを測定する方法は、当業者に公知であり、これらを阻害剤の添加前と後に測定して、機能性遺伝子産物のレベルの減少を評価することができる。
【0045】
本明細書で用いられる「一過性阻害」という用語は、阻害が一時的であり(または一時的に調節され)、キメラNKG2D受容体の機能が、後の時点で回復することを意味する。典型的には、NKG2D誘導性シグナル伝達は、免疫細胞の製造中(すなわち、医薬品として使われる前)に阻害されるが、シグナル伝達能力は、細胞が患者に投与されると回復する。これは、NKG2Dを介したシグナル伝達が治療効果に重要であるからである。
【0046】
本願で用いられる「NKG2Dリガンド」という用語は、ヒト遺伝子MICA(遺伝子ID:100507436)、MICB(遺伝子ID:4277)、ULBP1(遺伝子ID:80329)、ULBP2(遺伝子ID:80328)、ULBP3(遺伝子ID:79465)、ULBP4またはRAET1E(遺伝子ID:135250)、ULBP5またはRAET1G(遺伝子ID:353091)、ULBP6またはRAET1L(遺伝子ID:154064)、およびこれらの遺伝子産物(または、他の種の細胞が用いられる場合、関連相同体)を指す。
【0047】
キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞のフラトリサイドを、この受容体の機能を阻害することによって(この受容体または1つ以上のそのリガンドのいずれか一方または両方を阻害することによって)、防止または減少できることを示すのは本願が最初である。このようなフラトリサイドの減少により、細胞の収率が向上し、治療法のコストが低下するため、臨床環境における治療法の利用性を促進することができる。前記阻害は、一過性(患者への投与時ではない、免疫細胞のin vitro製造プロセス中―キメラNKG2D受容体が前記細胞の治療的免疫細胞機能に必要であるため)または、永続的(免疫細胞のリガンドのみが阻害される場合、これは、治療効果を妨害しないため)であってもよい。
【0048】
このため、本発明の目的は、キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞の製造中におけるフラトリサイドを減少および/または防止する方法であって、前記細胞の製造プロセス中のNKG2Dシグナル伝達の機能阻害を備えた方法を提供することにある。これら製
造方法は、in vitroまたはex vivoで行われる。また、キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞の凍結解凍サイクル中におけるフラトリサイドを減少および/または防止する方法であって、前記凍結解凍サイクル中のNKG2Dシグナル伝達の機能阻害を備えた方法が提供される。これら凍結解凍方法もin vitroまたはex vivoで行われる。
【0049】
以下の点に留意されたい。NKG2Dは、誘導性自己抗原の認識に関与する受容体の中で最もよく研究された受容体であるが、このファミリーにおいて、この受容体だけが、ストレス誘導リガンド(または誘導性自己抗原または異常な自己のマーカー、本明細書ではすべて同じものとして使われている)を認識するのではない。誘導性自己抗原に結合可能な他の受容体は、NKG2C、NKG2E、NKG2F、NKG2H(NKG2D同様、すべてCD94分子)またはNKp46、NKp30およびNKp44などの天然細胞毒性受容体(NCR)であり、上記方法および組成物は、必要な変更を加えて、このようなキメラ受容体に対しても使用可能であることが想定される。このため、本願でNKG2Dが使われる場合は必ず、NKG2C、NKG2E、NKG2F、NKG2H、NKp46、NKp30およびNKp44にも適用される。NKG2C、NKG2E、NKG2FおよびNKG2H用のリガンドは、非古典的MHCグリコプロテインのクラスI(ヒトではHLA―E)である点に留意されたい。
【0050】
これら方法は、in vitro方法である(細胞の製造と一致するため)。NKG2Dシグナル伝達の機能阻害は、以下の1つ以上によって達成される:
‐免疫細胞の1つ以上のNKG2Dリガンドの永続的または一過性阻害;
‐キメラNKG2D受容体の一過性阻害;
‐キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の一過性阻害。
【0051】
阻害は、複数の方法で起こり得る。
いくつか例示すると、接触阻害(競合阻害または非競合阻害)、リガンドまたは受容体の発現を妨害することによる阻害、リガンドまたは受容体の局在(例えば、細胞表面への移動を妨げる)の妨害、リガンドまたは受容体に結合することによる阻害あるいは両者の相互作用を妨げることによる阻害、下流シグナル伝達の阻害が挙げられる。
【0052】
1つ以上のNKG2Dリガンドの永続的阻害は、典型的には、遺伝子ノックダウンによって達成される。実際、遺伝子編集は、遺伝子操作されたT細胞(14)における標的抗原の発現を特異的に排除する可能性のある方法であることがわかっている。しかし、8つの異なるリガンドの起こり得る発現を考慮すると、これら多型標的すべてを排除する遺伝子編集技術は課題であるため、1つだけまたは少数のリガンドを永続的に不活性化する必要がある場合が、特に想定される。発現するリガンドが多い場合、代替案の1つとして、フラトリサイドの制御に適するようにすることが考えられる。本発明者らは、8つのNKG2Dリガンドのうち、MICAとMICBは、CD4+およびCD8+ヒトT細胞の細胞表面で主に発現するものであることを見出した。このため、特定の実施形態によると、具体的に、MICAおよびMICBの阻害が想定される。
【0053】
一般に、機能阻害は3つのレベルで達成することができる。1つ目は、DNAレベルで、例えば、前記免疫細胞における遺伝子(典型的には、NKG2Dリガンド遺伝子)を除去または破壊することにより、あるいは、転写の発生を防ぐ(いずれの場合も、遺伝子産物の合成を妨げる)ことにより達成することができる。2つ目は、RNAレベルで、例えば、効率的な翻訳の発生を防ぐことにより(これは、mRNAの不安定化を介して行われるため、転写から翻訳が起こる前に分解される)、あるいは、mRNAにハイブリダイズすることにより達成することができる。3つ目は、タンパク質レベルで、例えば、タンパク質に結合する、その機能を阻害する、タンパク質を異なる細胞位置で保持する、および
/または、分解のためにタンパク質をマーキングすることにより達成することができる。
【0054】
阻害がDNAレベルで達成される場合、遺伝子治療法を使って遺伝子をノックアウトまたは破壊することによって行うことができる。これは、典型的には、永続的阻害になるため、免疫細胞におけるNKG2Dリガンドの阻害が特に想定される。本明細書で用いられる「ノックアウト」は、遺伝子ノックダウン、すなわち、限定されるものではないが、レトロウイルス遺伝子移植を含む当該技術において既知の技術による、点突然変異、挿入、欠失、フレームシフトまたはミスセンス突然変異などの突然変異によって遺伝子をノックアウトできることである。遺伝子をノックアウトできる別の方法は、遺伝子操作されたヌクレアーゼを使用することである。このような遺伝子操作されたヌクレアーゼとしては、限定されるものではないが、メガヌクレアーゼ、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、megaTALおよびCRISPRヌクレアーゼが挙げられる。
【0055】
微生物種でよく見られるメガヌクレアーゼは、核酸において部位特異的二本鎖切断を生じるための非常に長い認識配列(>14bp)を持つという特有の特性を有する。これにより、メガヌクレアーゼは、自然に標的配列に対して非常に特異的になり、突然変異誘発およびハイスループットスクリーニングを介して、特有の配列を認識するハイブリッドメガヌクレアーゼ変異体が得られる。メガヌクレアーゼとは対照的に、ZFNおよびTALEN技術の背景にある概念は、非特異的DNA切断酵素に基づいており、これはその後、ジンクフィンガーおよび転写活性化因子様エフェクター(TALE)などのペプチドを認識する特異的DNA配列に連結され得る。ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)は、ジンクフィンガーDNA結合ドメインをDNA切断ドメインに融合することにより生成される人工制限酵素である。ジンクフィンガードメインは、所望のDNA配列を標的にするよう遺伝子操作することができ、これにより、ジンクフィンガーヌクレアーゼは、複雑なゲノム内の特有の配列を標的にすることができる。内在性DNA修復機構を利用することにより、これら試薬を使って、高等生物のゲノムを正確に改変することができる。TALENは、ジンクフィンガーと似た働きをするが、DNA認識用転写活性化因子様エフェクター(TALE)。TALEは、アミノ酸と認識ヌクレオチド対との1対1の認識率を有する繰り返し単位である。TALEは繰り返しパターンで発生するため、異なる組み合わせを試して、多種多様な配列特異性を創出することができる。
【0056】
MegaTALは、2つの異なるクラスのDNA標的酵素の組み合わせに由来する。メガヌクレアーゼ(ホーミングエンドヌクレアーゼともいう)は、同じドメインでDNA認識およびヌクレアーゼ機能の両方の利点を有する単一ペプチド鎖である。しかし、メガヌクレアーゼ標的認識は、修飾が難しく、他のゲノム標的エンドヌクレアーゼよりも特異性が低下しオンターゲット切断効率が低いことが多い。転写活性化因子様(TAL)エフェクターは、標的DNA二本鎖切断を達成するために、別々のDNAエンドヌクレアーゼドメインに連結されたDNA認識タンパク質である。メガヌクレアーゼとは対照的に、TALは、特異的DNA配列を標的にするよう容易に遺伝子操作される。現在のプラットフォームは、各TALエフェクターが非特異的DNA切断ドメインに共役している1対のTALエフェクターに依存しており、DNA切断は、両方のTALエフェクターがそれぞれの配列に結合し、2つのエンドヌクレアーゼドメインが二量化してDNAを切断する場合にのみ起こる。しかし、TALエフェクターヌクレアーゼは、オフターゲット活性をもたらすことが可能であり、メガヌクレアーゼよりもはるかに大きく、2つの別々のタンパク質の送達を必要とする。megaTALは、TALエフェクターとメガヌクレアーゼとが一体化したものである。
【0057】
CRISPR/Cas(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats / Crispr associated protein)は、原核細胞の防御機構の改定版を用いたゲノム
編集技術であり、生体内の遺伝子の永続的な組み換えが可能となる。合成ガイドRNA(gRNA)と複合化したCas(典型的にはCas9)ヌクレアーゼを細胞に送達することにより、細胞のゲノムを所望の位置で切断することができ、既存遺伝子の除去および/または新たな遺伝子の追加が可能となる。
【0058】
1つ以上のNKG2Dリガンド遺伝子の遺伝子ノックダウンによる永続的阻害は、典型的には、キメラNKG2D受容体も存在する免疫細胞において行われる。1つ以上のNKG2Dリガンド遺伝子は、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5およびULBP6の任意の組み合わせの阻害を意味し得るため、1、2、3、4、5、6、7または8つの遺伝子のノックアウトを意味し得る。
【0059】
NKG2Dリガンドの永続的阻害とは別に、NKG2Dシグナル伝達の機能阻害は、一過性阻害によっても達成することができる。一過性阻害は、免疫細胞上の1つ以上のNKG2Dリガンドの阻害であってもよいが、キメラNKG2D受容体の阻害または下流シグナル伝達の阻害であってもよい。
【0060】
一過性阻害の時間枠は、典型的には、製造の時間枠と一致する。キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞の製造は、いくつかの工程を含み、プロトコルは様々であるが、基本的に、形質導入工程(キメラNKG2D受容体を、単離された免疫細胞に導入する)と、増殖工程(細胞を培養して増殖させる)と、採取工程(患者に投与する前または(凍結)保存のために、細胞を単離して再処方または濃縮する)とが常に含まれる。一過性阻害は、具体的に、増殖工程中(フラトリサイドが最も発生しやすいため)の阻害を意味するが、一過性は、製造プロセス全体の間(形質導入工程またはその前から採取工程またはそれ以降まで)であってもよい。典型的には、外部の阻害剤(例えば、抗体)が使用される場合、これらは、採取/再処方プロセス中に除去される。このため、この方法は、使用された阻害剤を除去する活性工程を含んでいてもよい。しかし、他の例では、阻害剤は、本質的に一過性であったり(例えば、半減期が短いため)、製造プロセス後は活性しなくなる誘導プロモーターの制御下にある場合があり、機能性NKG2Dシグナル伝達の阻害を終わらせるのに活性工程が必要ない場合がある。典型的な設定では、一過性阻害は、およそ形質導入工程から投与/注入工程まで阻害を必然的に伴うが、それよりも短いまたは長い時間枠も想定され得る。
【0061】
一過性阻害の1つの形態は、一過性の遺伝子不活性化による。一過性の遺伝子不活性化は、例えば、免疫細胞におけるアンチセンスRNAの発現を介して、または、前記細胞にアンチセンスRNAを投与することにより達成し得る。アンチセンス構築物は、例えば、発現プラスミドとして送達することができ、細胞で転写されると、標的mRNA(ここでは、NKG2DリガンドのmRNAまたはキメラNKG2D受容体のmRNA)の少なくとも特有の部分に相補するRNAを産生する。
【0062】
遺伝子発現のより迅速な阻害方法は、DNAからなるより短いアンチセンスオリゴマーの使用、または、ホスホロチエート、2’―O―アルキルリボヌクレオチドキメラ、ロック核酸(LNA)、ペプチド核酸(PNA)またはモルフォリノなどの他の合成構造型の使用に基づく。RNAオリゴマー、PNAおよびモルフォリノを除いて、他のアンチセンスオリゴマーはすべて、RNase H媒介性標的切断の機構を介して、真核細胞で作用する。PNAおよびモルフォリノは、相補DNAおよびRNA標的に高い親和性と特異性で結合するため、単純な立体遮断を介して作用し、ヌクレアーゼの攻撃に対して完全な耐性を持つようになる。「アンチセンスオリゴマー」は、長さが少なくとも約10ヌクレオチドのオリゴマーを含むアンチセンス分子または抗遺伝子剤を指す。実施形態では、アンチセンスオリゴマーは、少なくとも15、18、20、25、30、35、40または50ヌクレオチドを含む。アンチセンスアプローチは、FMR1のポリヌクレオチド配列に
よってコードされるmRNAに相補されるオリゴヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか、あるいはその誘導体)の設計を含む。アンチセンスRNAを細胞に導入し、相補mRNAと塩基対形成して翻訳機構を物理的に妨害することにより相補mRNAの翻訳を阻害することができる。このため、この効果は化学量論的である。絶対相補性が好ましいが、必要ではない。本明細書で用いられるRNAの一部に「相補する」配列は、RNAとハイブリダイズ可能であり安定した二本鎖を形成するのに十分な相補性を有する配列を意味し、二本鎖アンチセンスポリヌクレオチド配列の場合、二本鎖DNAの一本鎖をテストしてもよく、または、三本鎖形成をアッセイしてもよい。ハイブリダイズする能力は、相補性の程度と、アンチセンスポリヌクレオチド配列の長さの両方に依存する。一般的に、ハイブリダイズするポリヌクレオチド配列が長いほど、それが含み得るRNAとの塩基ミスマッチが増え、安定した二本鎖(または場合によっては三本鎖)が形成された状態になる。当業者は、ハイブリダイズした複合体の融点を求めるための標準的な手順を用いることにより、ミスマッチの許容可能な程度を確認することができる。メッセージの5’末端(例えば、5’非翻訳領域(UTR)からAUG翻訳開始コドンを含む)に相補されるオリゴマーは、翻訳を阻害するのに最も効率的に作用するはずである。しかし、mRNAの3’UTRに相補する配列も、mRNAの翻訳を阻害するのに効果的であることが最近わかった(Wagner,R.(1994)Nature 372,333~335)。このため、5’UTRまたは3’UTRのいずれか、すなわち、標的遺伝子の非コード領域に相補するオリゴマーをアンチセンスアプローチに用いて、標的遺伝子によりコードされる前記内在性mRNAの翻訳を阻害できる可能性がある。前記mRNAの5’UTRに相補するオリゴマーは、AUG開始コドンの補体を当然含む。mRNAコード領域に相補されるアンチセンスオリゴマーは、効率の悪い翻訳阻害剤であるが、本発明で用いることができる。前記mRNAの5’3’または非コード領域のどちらかにハイブリダイズするよう設計する際、アンチセンスオリゴマーは、少なくとも10ヌクレオチドの長さを有する必要があり、好ましくは、15~約50ヌクレオチドの長さを有するオリゴマーである。特定の実施形態では、オリゴマーは、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも18ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも25ヌクレオチド、少なくとも30ヌクレオチド、少なくとも35ヌクレオチド、少なくとも40ヌクレオチドまたは少なくとも50ヌクレオチドの長さを有する。関連する方法では、アンチセンスRNAの代わりにリボザイムを使用する。リボザイムは、標的特異的RNA配列に設計され得る酵素様切断特性を有する触媒RNA分子である。マウス、ゼブラフィッシュおよびショウジョウバエにおいて、リボザイムを用いた一時的かつ組織特異的遺伝子不活性化を含む標的遺伝子不活性化の成功が報告されている。RNA干渉(RNAi)は、転写後遺伝子抑制の一形態である。RNA干渉の減少が最初に観察され記載されたのは、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)であり、外在性二本鎖RNA(dsRNA)が、標的RNAの急速な分解を誘導する機構を介して相同配列を含む遺伝子の活性を特異的かつ強力に破壊することが示された。いくつかの報告において、遺伝子不活性化の空間的および/または時間的制御を実証する実験を含む、植物(シロイヌナズナ)、原生動物(ブルーストリパノソーマ)、無脊椎動物(ショウジョウバエ)および脊椎動物種(ゼブラフィッシュおよびアフリカツメガエル)を含む他の生物における同じ触媒現象が記載されている。配列特異的メッセンジャーRNA分解のメディエーターは、より長いdsRNAからのリボヌクレアーゼIII切断によって生成される低干渉RNA(siRNA)である。一般的に、siRNAの長さは、20~25ヌクレオチドの間である(Elbashir et al.(2001)Nature 411、494~498)。siRNAは、典型的には、センスRNA鎖と、標準Watson Crick塩基対相互作用(以下「塩基対形成」という)によって一緒にアニーリングされた相補アンチセンスRNA鎖とを含む。センス鎖は、標的mRNAに含まれる標的配列と同一の核酸配列を含む。本発明のsiRNAのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、2つの相補一本鎖RNA分子を含むことができ、または、2つの相補部分が塩基対を形成し、一本鎖の「ヘアピン」領域(しばしば「shRNA」と呼ばれる)によって共有結合された単一分
子を含むことができる。「単離される」という用語は、人間の介入を介して自然状態から改変または除去されることを意味する。例えば、生きている動物に自然に存在するsiRNAは、「単離されない」が、合成siRNAや、その自然状態の共存物質から部分的または完全に分離されたsiRNAは、「単離される」。単離されたsiRNAは、実質的に精製された形態で、または、例えば、siRNAが送達された細胞などの非自然環境で存在することができる。
【0063】
本発明のsiRNAは、部分的に精製されたRNA、実質的に純粋なRNA、合成RNAまたは 組換え産生されたRNA、ならびに、1つ以上のヌクレオチドの付加、欠失、
置換および/または改変によって改変され、自然発生のRNAとは異なる改変RNAを含むことができる。このような改変として、例えば、siRNAの末端やsiRNAの1つ以上の内部ヌクレオチドへの非ヌクレオチド物質の付加(siRNAをヌクレアーゼ消化耐性にする改変を含む)が含まれ得る。
【0064】
本発明のsiRNAの一方または両方の鎖は、3’オーバーハングも含むことができる。「3’オーバーハング」は、RNA鎖の3’末端から延出する少なくとも1つの非対ヌクレオチドを指す。このため、一実施形態では、本発明のsiRNAは、長さが1~約6ヌクレオチド(リボヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドを含む)、好ましくは、長さが1~約5ヌクレオチド、より好ましくは、長さが1~約4ヌクレオチド、特に好ましくは、長さが約1~約4ヌクレオチドである少なくとも1つの3’オーバーハングを含む。
【0065】
siRNA分子の両方の鎖が3’オーバーハングを含む実施形態において、オーバーハングの長さは、各鎖で同じであっても異なってもよい。最も好ましい実施形態では、3’オーバーハングは、siRNAの両方の鎖に存在し、長さは2ヌクレオチドである。本発明のsiRNAの安定性を高めるため、3’オーバーハングを分解に対して安定化させることもできる。一実施形態では、オーバーハングは、アデノシンヌクレオチドまたはグアノシンヌクレオチドなどのプリンヌクレオチドを含めることにより安定化される。
【0066】
あるいは、修飾類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば、3’オーバーハングにおける2’デオキシチミジンによるウリジンヌクレオチドの置換は、許容範囲内であり、RNAi分解の効率に影響を及ぼさない。具体的には、2’デオキシチミジンに2’ヒドロキシルが存在しないことにより、組織培養培地における3’オーバーハングのヌクレアーゼ耐性が著しく高められる。
【0067】
siRNAは、複数の当業者に既知の技術を使って得ることができる。例えば、siRNAは、当該技術において既知の方法で化学的に合成または組換えて産生することができる。好ましくは、本発明のsiRNAは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホラミダイトと、従来のDNA/RNA合成装置とを使って化学的に合成される。siRNAは、2つの別個の相補RNA分子または2つの相補領域を有する単一のRNA分子として合成することができる。合成RNA分子または合成試薬の商業サプライヤーとして以下が挙げられる。
【0068】
Proligo(ハンブルグ、ドイツ)、Dharmacon Research(ラファイエット、コロラド州、米国)、Pierce Chemical(Perbio Scienceの一部、ロックフォード、イリノイ州、米国)、Glen Research(スターリング、バージニア州、米国)、ChemGenes(アッシュランド、マサチューセッツ州、米国)およびCruachem(グラスゴー、英国)。
【0069】
あるいは、siRNAは、適切なプロモーターを使って、組み換え環状または線状DN
Aプラスミドから発現させることもできる。プラスミドから本発明のsiRNAを発現するのに適切なプロモーターとして、例えば、U6またはHI RNA pol IIIプロモーター配列およびサイトメガロウイルスプロモーターが挙げられる。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の技量の範囲内である。本発明の組み換えプラスミドは、特定の組織または特定の細胞内環境においてsiRNAを発現させるための誘導または調節可能なプロモーターも含むことができる。組み換えプラスミドから発現されるsiRNAは、標準的な技術で、培養細胞発現系から単離可能であり、または、細胞内、例えば、乳房組織やニューロンで発現可能である。
【0070】
本発明のsiRNAは、組み換えウィルスベクターから細胞内で発現させることもできる。組み換えウィルスベクターは、本発明のsiRNAをコードする配列と、siRNA
配列を発現するのに適切なプロモーターとを含む。適切なプロモーターとして、例えば
、U6またはHI RNA pol IIIプロモーター配列およびサイトメガロウイルスプロモーターが挙げられる。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の技量の範囲内である。本発明の組み換えウィルスベクターは、腫瘍が局在する組織においてsiRNAを発現させるための誘導または調節可能なプロモーターも含むことができる。
【0071】
本明細書で用いられるsiRNAの「有効量」は、標的mRNAのRNAi媒介分解を生じるのに十分な量、または、NKG2Dシグナル伝達を減少するのに十分な量である。標的mRNAのRNAi媒介分解は、上述したようなmRNAまたはタンパク質を単離および定量するための標準的な技術を使って、被検体の細胞にある標的mRNAまたはタンパク質の量を測定することによって検出することができる。
【0072】
ゼブラフィッシュおよびカエルにおけるモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、RNase Hの厳格性が低い要件によってもたらされる他のmRNA分子の非標的特異的切断による多数の非特異的効果を含むRNase Hコンピテントアンチセンスオリゴヌクレオチドの限定を解消することがわかっている。このため、モルフォリノオリゴマーは、アンチセンス分子の重要な新しいクラスを表す。本発明のオリゴマーは、標準的な当該技術において既知の方法で合成し得る。例えば、ホスホロチオアートオリゴマーは、Stein et al.による(1988)Nucleic Acids Res.16,(3209~3021)に記載の方法で合成し得る。メチルホスホナートオリゴマーは、制御された細孔ガラスポリマー支持体を用いて調製され得る(Sarin et al.(1988)米国科学アカデミー紀要85、7448~7451)。モルフォリノオリゴマーは、SummertonおよびWellerによる米国特許第5,217,866号および第5,185,444号に記載の方法で合成し得る。
【0073】
阻害、具体的に、一過性阻害は、タンパク質レベルで阻害剤によって達成することもできる。その典型的な例として、キメラNKG2D受容体に対する抗体、または、1つ以上のNKG2Dリガンドに対する抗体がある。
【0074】
「抗体」という用語は、NKG2D受容体、NKG2Dリガンドまたはその機能性誘導体に対して特異的であることを特徴とする抗体に関し、前記抗体は、モノクローナル抗体;または、F(ab’)2、F(ab)または一本鎖Fv型のその抗原結合フラグメント、または、それに由来する組み換え抗体であることが好ましい。本発明のこれら抗体(標的タンパク質に対して調製された特異的ポリクローナル抗血清やその機能性誘導体を含む)は、他のタンパク質に対する交差反応性を有しない。本発明のモノクローナル抗体は、例えば、古典的な方法で、動物、具体的には、標的タンパク質またはその機能性誘導体に対して免疫化されたマウスやラットの脾細胞および骨髄腫細胞株の細胞から形成されやすく、動物を免疫化するのに最初に用いた標的タンパク質またはその機能性誘導体を認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの能力によって選択されるハイブリドー
マによって産生することができる。本発明のこの実施形態に係るモノクローナル抗体は、H鎖およびL鎖をコードするマウスおよび/またはヒトゲノムDNA配列またはH鎖およびL鎖をコードするcDNAクローンから逸脱した、組み換えDNA技術を用いて作成されたマウスモノクローナル抗体をヒト化したものであってもよい。あるいは、本発明のこの実施形態に係るモノクローナル抗体は、ヒトモノクローナル抗体であってもよい。このようなヒトモノクローナ抗体は、例えば、PCT/EP99/03605に記載の重症複合免疫不全症(SCID)マウスのヒト末梢血リンパ球(PBL)再増殖により、または、米国特許第5,545,806号に記載のヒト抗体の産生が可能な遺伝子導入非ヒト動物を使って調整される。また、これらモノクローナル抗体に由来するフラグメント、例えば、Fab、F(ab)’2およびscFv(「一本鎖可変フラグメント」)は、本来の結合特性を保持するのであれば、本発明の一部を形成する。このようなフラグメントは、通常、例えば、パパイン、ペプシン、または、他のプロテアーゼによる抗体の酵素消化によって生成される。モノクローナル抗体またはそのフラグメントは、様々な用途のために改変できることが当業者に知られている。本発明に関与する抗体は、酵素型、蛍光型または放射性型の適切な標識で標識することができる。特定の実施形態では、標的タンパク質、または、その機能性フラグメントに対する前記抗体は、ラクダ由来である。ラクダ抗体は、WO94/25591、WO94/04678およびWO97/49805に十分に記載されている。
【0075】
タンパク質レベルでのNKG2Dシグナル伝達の他の阻害剤としては、限定されるものではないが、NKG2Dリガンドのペプチド阻害剤、キメラ受容体のペプチド阻害剤、NKG2Dリガンドのペプチドアプタマー(Tomai et al、J Biol Chem.2006)阻害剤、キメラNKG2D受容体のNKG2Dリガンドのペプチドアプタマー、およびタンパク質干渉剤やPept-lns(商標)が挙げられ、これらは、WO2007/071789やWO2012/123419に記載されており、その内容を参照により本明細書に援用するものとする。
【0076】
タンパク質レベルの別の阻害方法は、分泌輸送を干渉することである。これにより、受容体および/またはリガンドが細胞膜に輸送されない。典型的には、これは一時的な阻害の形態であり、細胞に適切なシグナルが与えられると、正常な細胞位置に戻すことができる。この原理に基づいた方法の一例として、RUSH(選択的フックを用いた保持)システム(Boncompain et al、Nature Methods2012およびWO2010142785)が挙げられる。これは、キメラNKG2D受容体の一過性阻害を特に想定している。
【0077】
小分子阻害剤(例えば、小有機分子)および他の薬物候補は、例えば、組み合わせ産物および天然産物ライブラリから得ることができる。
【0078】
機能性NKG2Dシグナル伝達の一過性阻害について、特に想定されるのは、キメラNKG2D受容体を介した下流シグナルの阻害である。観察されたフラトリサイドの重要な部分は、NKG2D/DAP10複合体の主要なシグナル伝達経路であるNKG2D誘導性PI3Kシグナル伝達経路を介して媒介されることが本明細書において実証された。このため、PI3Kシグナル伝達の阻害は、リガンド受容体結合の機能的効果を減少させるため、事実上、NKG2Dシグナル伝達の機能阻害である。よって、下流シグナル伝達の一過性阻害は、PI3Kシグナル伝達の一過性阻害によって達成することができる。阻害剤の例として、市販のPI3K阻害剤が挙げられる。特に想定される阻害剤の1つとして、広範囲のPI3K阻害剤LY294002がある。特に想定される他の阻害剤は、Cal101(イデラリシブ)である。その他、例えば、コパンリシブ、タセリシブ、ブパルリシブ、デュベリシブ、アルペリシブおよびアンブラリシブが例示される。
【0079】
本明細書に記載の方法は、NKG2D発現する免疫細胞の製造中に適用可能である。典型的には、細胞が養子移植のために調製または培養されると、免疫細胞の製造が起こる。これは、自己由来養子移植(被検体が、修飾および/または増殖された自身の細胞を受け取る)、または、同種異系由来養子移植(被検体が、異なる個体から細胞を受け取る)で有り得る。
【0080】
養子療法には多くの異なる種類の免疫細胞が使われるため、本明細書に記載の方法でも使われることが想定される。免疫細胞としては、限定されるものではないが、T細胞、NK細胞、NKT細胞、リンパ球、幹細胞、iPSCが挙げられる。後者の2つは免疫細胞ではないが、免疫療法のための養子細胞移植に使うことができる(例えば、Jiang et al、Cell Mol Immunol2014;Themeli et al、Cell Stem Cell2015参照)。典型的には、製造は、幹細胞またはiPSCで始まる(または免疫細胞からiPSCへの脱分化工程で始まることもある)が、製造には、投与前に免疫細胞に分化する工程が必然的に伴う。本発明の方法は、製造プロセス(すなわち、投与前の工程)に関するため、本明細書では、養子移植のための免疫細胞の製造に使われる幹細胞およびiPSCsは、免疫細胞であるとみなされる。特定の実施形態によれば、当該方法で想定される幹細胞は、ヒト胚の破壊工程に関与しない。
【0081】
本発明の方法で使われる細胞として、T細胞およびNK細胞が特に想定される。
【0082】
さらなる態様によれば、フラトリサイドが減少および/または防止される遺伝子操作された免疫細胞が提供される。これら細胞は、例えば、NKG2Dリガンドのノックアウトを介した細胞内のNKG2Dシグナル伝達の機能阻害、NKG2Dリガンドの永続的または一過性阻害、または、キメラ受容体の一過性阻害(例えば、一過性阻害剤の発現、阻害剤の一過性発現、または、受容体やリガンドの一時的な保持による一過性阻害)によって特徴付けられる。
【0083】
このため、これら細胞は、キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子と、以下の少なくとも1つとを含む:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の阻害剤;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに融合される結合タグ。
【0084】
RUSH(選択的フックを用いた保持)システム(Boncompain et al、Nature Methods 2012およびWO2010142785)のような方法では、結合タグ(例えば、ストレプトアビジン)を使うことができ、キメラNKG2D受容体の一過性阻害が特に想定される。
【0085】
キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子と、以下の少なくとも1つとを含む細胞が特に想定される:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の阻害剤。
【0086】
内在性遺伝子の不活性化は、上述したように、例えば、ゲノム編集、遺伝子操作されたヌクレアーゼ(CRISPR/Cas、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、メ
ガヌクレアーゼ、MegaTALヌクレアーゼなど)、または他の適切な方法(限定されるものではないがCre/LoxまたはFlp/FRTに基づいたシステムを含む)を使って行うことができる。必須条件ではないが、ほとんどの場合、不活性化された内在性遺伝子は、永続的に不活性状態になる(すなわち、不活性化の明らかな逆転がない)。この理由により、この方法は、(免疫細胞が、免疫療法の効果を発揮するのに必要としない)リガンドの不活性化には特に適しているが、NKG2D受容体の不活性化にはあまり適していない(免疫療法では受容体の機能が必要となるため)。
【0087】
阻害剤を含む細胞は、典型的には、阻害剤をコードするプラスミドを含む。これが、阻害剤が細胞に確実に含まれるようにする最も便利な方法である。このため、阻害剤はプラスミドから発現できることが特に想定される。これは、抗体またはペプチドで行うことができるが、最も特に想定されるのは、核酸阻害剤、例えば、RNA干渉技術(siRNAまたはshRNAなど)である。阻害剤(RNA阻害剤など)は、キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドを対象とすることができる。これらNKG2Dリガンドは、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5およびULBP6からなる群から選択される。
【0088】
細胞は、そのまま、または、組成物として提供され得る。提供され得る組成物は、(外部)阻害剤が細胞に添加されることによりNKG2Dシグナル伝達が機能的に阻害される―細胞によって取り込まれる、または、その阻害機能を細胞外で行う。このため、さらなる態様によれば、組成物は、キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞と、さらに、阻害剤とを含む。これら細胞は、不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子および/または細胞において核酸としてコードされるキメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の阻害剤および/またはキメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに融合される結合タグ(上記で詳述した「内部阻害剤」)を含み得る。
【0089】
追加的または代替的に、組成物は、(細胞において核酸としてコードされない)キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の阻害剤および/またはキメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の阻害剤(「外部阻害剤」)を含み得る。
【0090】
キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する阻害剤としては、これらタンパク質に対する抗体が特に想定される。キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の阻害剤としては、PI3K阻害剤が特に想定される。
【0091】
いずれの場合も、阻害剤は細胞内に含まれ得る。または、組成物は、別個の構成成分(すなわち細胞外)として、免疫細胞と、阻害剤とを含む。但し、組成物は別個の構成成分として提供可能であるが、阻害剤が、免疫細胞によって取り込まれ得る。例えば、PI3K阻害剤などの下流シグナル伝達の阻害剤は、大抵の場合、細胞によって容易に取り込まれる小分子である。抗体は、細胞によって取り込まれてもよく、取り込まれなくてもよいが、NKG2D受容体とそのリガンドとの相互作用が、細胞外で発生するため、細胞の取り込みは、阻害の必須条件ではない(例えば、競合阻害剤は細胞外で機能し得るため)。
【0092】
さらなる態様によれば、本明細書に記載の遺伝子操作された免疫細胞または組成物は、医薬品として使用するために提供される。またさらなる態様によれば、本明細書に記載の遺伝子操作された免疫細胞または組成物は、NKG2Dリガンド発現により特徴付けられる疾患の治療に使用するために提供される。MICAやMICBなどのNKG2DリガンドまたはRAET1/ULBPファミリーのものは、誘導性自己抗原である、すなわち、異常な条件下または細胞ストレスの条件下、最も具体的には、ストレスを受けた(例えば
、炎症を起こした)、変換されたまたは感染した細胞で発現される細胞リガンドであることが、多くの文書で立証されている。このため、細胞または組成物は、炎症性疾患、癌、または、感染症(例えば、ウィルス性、細菌性、真菌性感染症)から選択される疾患の治療に使用するために提供される。細胞治療法はかなり高額であるため、生命を脅かす疾患が特に想定される。このため、最も具体的には、本明細書に記載の細胞および組成物は、癌治療に使用するために提供される。原則的に、すべての癌を治療することができる。限定されるものではないが、膀胱癌、脳腫瘍、乳癌、子宮頸癌、大腸癌、食道癌、膠芽細胞腫、頭部および頸部癌、腎臓癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、多発性骨髄腫、卵巣癌、膵臓癌、前立腺癌、肉腫、胃癌および甲状腺癌が含まれる。最も特に想定される癌として、白血病(AMLを含む)、多発性骨髄腫、膀胱癌、乳癌、大腸癌、卵巣癌および膵臓癌が挙げられる。これら7つの癌は、典型的に、高いNKG2Dリガンド発現を有するからである。
【0093】
「細胞および組成物は、治療に使用するために提供される」は、これら細胞または組成物を、それ粗必要とする被検体に投与する工程を備えた疾患治療方法を提供がされるというのと同じ意味である。よって、細胞を投与することを備えた、炎症性疾患、癌または感染症を治療する方法が提供される。
【0094】
特に想定されるのは、遺伝子操作された免疫細胞を被検体に投与する工程を備えた、それを必要とする被検体における癌の治療方法であって、前記免疫細胞は、非天然キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子と、以下の少なくとも1つとを含有する、癌の治療方法である:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の阻害剤;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに融合される結合タグ。
【0095】
より一層特に想定されるのは、遺伝子操作された免疫細胞を被検体に投与する工程を備えた、それを必要とする被検体における癌の治療方法であって、前記免疫細胞は、非天然キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子と、以下の少なくとも1つとを含む、癌の治療方法である:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の阻害剤。
【0096】
同様に、組成物を被検体に投与することを備えた、それを必要とする被検体における癌の治療方法であって、前記組成物は、キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞と、以下の1つ以上とを含む、癌の治療方法が提供される:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;および/または
‐細胞において核酸としてコードされるキメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の阻害剤、および/または
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに融合された結合タグ; および/または
‐(細胞において核酸としてコードされない)キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上の阻害剤; および/または
‐キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の阻害剤。
【0097】
免疫細胞は、この細胞が投与される被検体の自己由来であってもよく、または、同種異系由来、すなわち、別の被検体に由来してもよい。
【0098】
本発明に係る細胞および方法について、特定の実施形態、特定の構成、ならびに物質および/または分子について説明したが、本発明の範囲および趣旨を逸脱することなく、形態および詳細において様々な変更や変形が可能である。以下の実施例は、特定の実施形態をさらに説明するために提示するのであって、本願を限定解釈するものではない。本願は、請求項の範囲によってのみ限定される。
【0099】
実施例
序文
T細胞で発現可能なNKG2Dリガンドが多数存在すると考えると、すべてのリガンド発現を排除するための遺伝子編集が、最も効率的な選択肢であると考えられなかった。従って、NKG2D標的CART細胞治療の送達を促進するため、フラトリサイド制御の代替案が検討されている。シグナル伝達阻害剤または抗体に基づいたアプローチを使って、2つの異なるアプローチが探索された。いずれも、程度は異なるが、フラトリサイドの阻害がもたらされた。
【0100】
ホスホイノシトール―3―キナーゼ阻害剤(LY294002)の含有は、フラトリサイド効果を鈍らせ、NKR―2CART細胞を生成する一般的な手段を提供した。PI3K阻害剤の使用により、NKR―2駆動型分化能がさらに高められ、細胞が記憶表現型にシフトした。CAR自体の抗体遮断を伴う標的特異的アプローチは、分化能の減少およびCD4/CD8比の変化と共に、NKR―2CART細胞収率のさらなる向上を誘発した。これら因子は、遮断Abの添加を遅らせることにより、分化能を高め、細胞表現型を変化させるためにin vitroでうまく偏らせることができた。アプローチの違いにもかかわらず、阻害剤または抗体に基づいたアプローチにより、非常に類似した表現型およびin vivo活性を有するNKR―2CART細胞が生成された。最後に、すべてのNKG2Dリガンドを阻害するのは現実的ではなかったが、一過性(shRNA)または永続的(Crispr/Cas)アプローチを使って2つの最も重要なリガンドを阻害した際も、非常に類似した表現型を有するNKR―2 CART細胞が生成された。
【0101】
これらの結果は、標的リガンドの自己発現が、制限因子となっているT細胞治療法の開発を可能にする異なるアプローチを用いることにより、標的駆動型フラトリサイドの解消が可能であることを示している。
【0102】
材料および方法
抗体およびフローサイトメトリー
標準プロトコルに従い、蛍光色素標識したCD3(BD、345766)、CD4(BD、345809)、CD8(BD、345772)、CD314(BD、558071)、CD45RA(BD、550855)、CD62L(BD、555544)、CD279(eBioscience、12―2799―42)、CD19(BD、345791、CD223(eBioscience、25―2239―41)、MICA/B(R&D Systems、FAB13001G―100)、MICB(R&D Systems、FAB1599G)、ULBP1(R&D Systems、FAB1380C)、ULBP2/5/6(R&D Systems、FAB1298A)、ULBP3(R&D Systems、FAB1517P)、ULBP4(R&D Systems:FAB6285A)および対応するアイソタイプで細胞を染色した。簡単に説明すると、細胞を採取し、5%のヒト血清アルブミン(Octapharma、68209―633―02)と0.01%のNaN3(Sigma、S2002)とが添加されたDPBS(L
ife Technologies、A1285801)含有緩衝液において再懸濁させた。細胞を抗体と4℃で30分間インキュベートし、PBSで洗浄し、Guava easyCyte 6HTサイトメーター(Millipore)で分析した。実験で使用する前に、抗体をすべて滴定した。FSC/SSCに基づいて生存細胞を選択した。すべての例において、未標識コントロールおよびアイソタイプ・コントロールを用いた。分析は、FlowJo v10を用いて行った。
【0103】
プラスミドおよびベクターの産生
先に説明した方法(Zhang、Barber、& Sentman、2006)でキメラNKG2D(chNKG2D)構築物を作製し、Ncol制限部位とXhol制限部位の間のMo―MLVベースのオンコレトロウイルスベクターSFGにクローニングした。pSFG GFPプラスミドおよびpSFG htCD19.1(ヒトCD19(tCD19)の切断型をコードする)は、Celdara Medical LLC(レバノン、ニューハンプシャー州、米国)からの贈答物であった。GP2―293パッケージング細胞を、VSV―G エンベローププラスミドと共に、一過性的にトランスフェクションした。PG2―293細胞で生成したレトロウイルス懸濁液を用いて、PG13細胞をスピン形質導入し、安定したプロデューサー細胞株を得た。ヒトTリンパ球を形質導入するのに用いたベクター粒子は、培養がコンフルエントな状態に達した後、PG13安定プロデューサー細胞から採取した。Retro―XTM qRT―PCR滴定キット(Life Technologies、CL 631453)を用いてベクター力価を測定した。
【0104】
NKG2D―CART細胞の産生
標準的な手順に従い、フィコール密度勾配(VWR、17―5442―03)により、健常ドナー(ImmuneHealth、CHU、Tivoli)の全血から末梢血単核細胞(PBMC)を単離した。簡単に説明すると、全血をDPBSで3回希釈し、50mlの試験管内のフィコール層に慎重に加えた。試験管を500gで遠心分離し、中間層を慎重に除去した。続いて、DPBSでPBMCを3回洗浄し、採取し、続いて、5%のヒト血清(Access Biologicals、515―HI)を含有し、40ng/mlのOKT3(Miltenyi、170―076―124)と100IU/ml IL―2(Miltenyi、170―076―146)が添加されたX―Vivo15培地(Westburg、BE02―061Q)で活性化させた。37℃で5%CO2に維持されたインキュベーターで細胞を2日間インキュベートした。続いて、8μg/mlのレトロネクチン(Life Technologies、T100B)でコーティングした24ウェル(1×10細胞/ウェル)プレートで、細胞を採取し、異なるウィルスベクターで形質導入し、2日間インキュベートした。その後、24ウェルプレートから細胞を採取し、HBSS(Westburg、BE10―543F)で洗浄し、G―Rex容器(Wilson Wolf、80040S)に移し、さらに4日間、血清とIL―2とを含有する完全X―Vivo15において、または、本文に記載されているように増殖段階に入れた。増殖段階の終わりに、細胞を採取して適宜用いた。
【0105】
細胞株および培養試薬
ATCCから慢性骨髄性白血病癌細胞株K562および膵臓癌細胞株PANC―1を購入し、使用時まで、178 10% FBS(Gibco、16140071)および1% ペニシリン/ストレプトマイシン(ThermoFisher Scientific、15140122)をそれぞれ含有するIMDM(Westburg、LO BE12―722F)またはDMEM(Westburg、LO BE12―604F)に保存した。PI3K阻害剤LY294002は、Selleck Chemicals(S1105)から購入した。NKG2Dまたは対応するアイソタイプに対する阻害抗体は、BioLegend(阻害抗体(UltraleafCD314)クローン:1D11、I
mTec DiagnosticsNV、320814)から購入した。
【0106】
細胞溶解アッセイ
5%のヒト血清(HS)を含有するフェノールレッド非含有X―Vivo15において、接着PANC―1細胞を、解凍されたNKR―2T細胞またはtCD19形質導入細胞の存在下または非存在下、1:1の比率で、フラットボトムの96ウェルプレートで20時間培養した。T細胞を洗浄し、残りの接着しているPANC―1細胞を、アラマーブルー(ThermoFisher Scientific、DAL1025)で4時間標識した。SpectraMax M2(Molecular Devices)を用いて、530nmの蛍光で生存細胞を測定し、相対細胞溶解活性率を算出した。
【0107】
サイトカイン放出アッセイ
新鮮なNKR―2T細胞および/または対照tCD19細胞を、5%のHSを含有するX―Vivo15において、1:1の比率でK562またはPANC―1細胞と、インキュベートした。24時間インキュベートした後、上清を回収し、製造業者のプロトコルに従い、ELISA(R&D Systems、SIF50)でIFN―γを測定した。ポジティブコントロールとして、細胞を、PMA(Sigma―Aldrich、P8139―5MG)とイオノマイシン(Sigma―Aldrich、I0634―1MG)とで活性化した。活性化のバックグラウンドレベルを評価するために、細胞は刺激を受けなかった。
【0108】
抗体阻害アッセイ
NKR―2T細胞を、1μg/mLのNKG2D遮断抗体、アイソタイプ・コントロールまたは無抗体で24時間インキュベートし、続いて、NKR―2T細胞が媒介するIFN―γの分泌を測定した。同様に、抗体の存在下でNKR―2細胞を癌細胞と共培養し、サイトカイン分泌を測定した。
【0109】
RNA抽出およびqPCR法
40ng/mLのOKT3とIL―2(100IU/mL)で2日間PBMCを刺激し、40ng/mLのOKT3とIL―2(100IU/mL)でさらに2日間形質導入し、培養し、その後、本文で詳述されているようにIL―2(100IU/mL)の存在下で8日目または10日目まで増殖させた。RNeasy Mini Kit(Qiagen、74104)を用いて2日ごとに全RNAを単離した単離した。NKG2Dリガンド用に予め設計されたTaqMan遺伝子発現アッセイ(Hs04187752_mH、Hs01026642_ml、Hs00607609_mH、Hs00906262_ml、Hs00741286_ml、Hs01584111_mH、Hs04194671_sl、Hs00360941_ml、ThermoFisher Scientific)およびLight Cycler 480RNA master mix(Roche、04991885001)を用いて、定量PCR反応を行った。相対発現は、社内設計されたプライマ―(5’―GACGGCGAGCCCTTGG―3’および5’―G C
ACG A AA ATTTT CTG CTGT CTT―3’)およびプローブ(5’TEX615―TCTCCTTTGAGCTGTTTGCAGACAAGGT―3’BHQ(商標))を用いて、ハウスキーピング遺伝子シクロフィリンに基づいた。結果は、0日目(2^―ΔΔCTとして算出)と比較した誘導倍率で示されている。すべての遺伝子発現アッセイは、リガンドを発現することで知られている癌細胞株で行った。
【0110】
動物実験
すべてのin vivo実験をVoxcan(Marcy I’Etoile、フランス)で行った。簡単に説明すると、腫瘍を注入する24時間前に、NOD/scid IL2rgnull(NSG)マウスを照射した(1日目)。0日目に、マウス一匹あたり
5×10THP―luc―GFP細胞を含有するPBS200mlのIV注入によってTHP―l―luc―GFP細胞を生着させた。7日目に、THP―l―luc―GFP陽性マウスを次の4つの治療グループに分けた:
(i)ビヒクル(200mlのHBSS)のIV注入を1回受けた対照
(ii)10×10Mock tCD19T細胞(200μL)のIV注入を1回受けたMock tCD19
(iii)10×10NKR―2―LY T細胞(200ml)の注入を1回受けたNKR―2LY
(iv)10×10NKR―2―最適化抗体(200ml)のIV注入を1回受けたNKR―2―最適化Ab。
【0111】
4日目、8日目、15日目、22日目、28日目および35日目に、生物発光イメージングで腫瘍の進行を評価した。同様に、6日目から1週間に3回、各動物の体重を測定した。
【0112】
統計分析
可能な場合、対応のないt検定、対応のあるt検定、または、ノンパラメトリックなマン・ホイットニーのU検定を用いて、統計的有意性を評価した。p<0.05の場合、統計的有意性があると判断した。
【0113】
《実施例1》
NKR―2CART細胞は、遺伝子操作されたT細胞集団の表現型および増殖を駆動するフラトリサイドを起こす。
【0114】
形質導入およびin vitro培養の後、フラトリサイドを制御する方法がない場合、NKR―2T細胞集団は、対照ベクター(切断型CD19(tCD19)、図1A)で形質導入されたT細胞と比較して、主にCD8+T細胞サブセット組成を示している。NKG2D発現は、NKR―2T細胞に限らず、対照tCD19T細胞でも明らかに見られたが、内在性NKG2Dの結合により、CART細胞(32)の治療反応を送達できない。しかし、NKG2Dの相対的な細胞表面発現は、CAR構築物によるT細胞の形質導入を示すNKR―2T細胞集団において非常に増加した(図1B)。NKG2D(CD314)の平均蛍光強度は、CD4+およびCD8+サブセットのいずれにおいても、NKR―2T細胞集団で著しく高く、両サブセットにおいてCARの発現が確認された(図2A図2C)。
【0115】
興味深いことに、エフェクター細胞表現型の増加を示すtCD19対照T細胞集団と比較した場合、NKR―2T細胞集団は、ナイーブ細胞(CD45RA+のCD62L+細胞の二重陽性により定義される)の相対頻度の減少およびCD279(PD―1)とCD223(Lag―3)の頻度の増加を示した(図1C図1D)。NKR―2T細胞は、癌細胞株と共培養されると、高レベルの標的細胞誘導性IFN―γ分泌(図3A)および細胞溶解活性(図3B)を示し、NKR―2T細胞の機能性が確認された。しかし、培養中および採取時のNKR―2T細胞の収率/増殖率(図3C)および生存率(データは図示せず)は、tCD19 対照T細胞と比較して、一貫して減少した。
【0116】
NKG2D受容体結合の結果、ナチュラルキラー細胞のフラトリサイドが発生し得ることが知られているが(23、24)、マイトジェン活性化中のT細胞のNKG2Dリガンドの発現が文書で立証されている(22)。これと共に、NKR―2T細胞のフラトリサイドは形質導入の後に起こり、これにより、低い細胞収率と生存率、CD4/CD8比の偏りおよびエフェクターメモリー分化の増大がもたらされたのかもしれないという疑問が提起された。これを検証するため、ドナー由来のT細胞を、eGFP発現ベクターで形質
導入し、同じドナー由来のNKR―2T細胞と混合し、通常のT細胞殺傷が起こったかどうか調べた。24時間後、NKR―2T細胞共培養においてeGFP T細胞の明らかな減少があり、NKR―2T細胞による自己由来T細胞の標的殺害が暗示された(図3D)。
【0117】
活性化T細胞におけるNKG2Dリガンドの発現プロファイルを理解するために、形質導入せず活性化させるT細胞源として、3人の健常ドナーを使ってqPCR分析を行い、NKG2DリガンドのmRNA発現プロファイルの動態を検査した(図3E)。T細胞活性化の2日以内に、MICAおよびULBP2mRNAレベルにおいて急速な増加が検出された。しかし、さらなる2日以内では、ULBP2mRNAは高レベルのままであったが、MICAは、急速にベースラインまで減少した。ULBP3のmRNAは、経時的に徐々に増加したが、MICB、ULBP5、ULBP1またはULBP6では、転写の相対的な増加はなかった。逆に、ULBP4のmRNAは、4日目に、わずかに増加したが、その後、基準レベルまで再度減少した。細胞表面のタンパク質レベルで、2日目にMICAが一過性的に存在し、MICA/Bが、対応するmRNAと同様の発現パターンになり、その後、減退した(図3F)。残念ながら、適切な抗体が入手できなかったため、個々のULBP2/5および6タンパク質を検出することはできなかったが、3つのファミリーメンバーすべてを認識する抗体で観察された免疫反応性は、2日目後に唯一増加したmRNA発現プロファイルに基づいたULBP2によるものである可能性が高い。mRNA295レベルで高度に誘導されたが、細胞表面のULBP3は検出できなかった。ULBP4+細胞は、6日目までに陽性のピークに達し、8日目までにベースラインに戻ったが、mRNA発現のパターンの2日遅れであった(図3F)。これら監察結果を、平均蛍光強度の並行動態に反映した(表1)。
【0118】
表1:製造プロセス後の3名の異なるドナーすべてのリガンドの平均蛍光強度(MFI)と、その対応SD(0、2、4、6および8日目にサンプルを分析)
【0119】
【表1】
【0120】
まとめると、これらデータは、発現の動態は異なるが、タンパク質レベルで優勢になるNKG2DリガンドであるMICA、ULBP4および推定的にULBP2でマイトジェン活性化した後のNKG2DリガンドのT細胞調節発現を暗示している。
【0121】
《実施例2》
PI3K阻害は、凍結保存時のNKR―2T細胞の生存率を向上させ、NKR―2抗原特異的サイトカイン産生の増加および記憶表現型の増加を駆動する。
【0122】
リガンドが結合すると、NKG2Dおよびそれに伴うDAP10は、CD28と同じようにPI3K経路を介したシグナル形質導入を開始する(25、26)。このため、我々は、PI3Kシグナル伝達の阻害が、T細胞培養中のNKR―2媒介性フラトリサイドを妨げることができるかどうか疑問を抱いた。この目的のため、NKR―2産生の形質導入および増殖段階に濃度高めたLY294002(広義に、PI3K阻害剤)を添加した。
【0123】
LY294002の添加によって、いくつかの観察結果が得られた。最初に、NKR―2T細胞上のNKG2Dの細胞表面発現は、投与に依存して減少し、10μMで対照tCD19T細胞のレベルに達した(図4Aおよび図5)。培養からLYを除去すると、NKG2の発現が、未処理NKR―2T細胞(データは図示せず)のレベルまで増加したため、この減少は、さらに可逆的であった。しかし、阻害剤による細胞収率の向上は認められなかったため、これは、培養中のフラトリサイドが完全に行われなかった、または、PI3K阻害剤が増殖に悪影響を及ぼしたことを示唆している(図3B)。LY294002が、抗増殖効果を有するかどうか評価するために、培養中に、対照tCD19T細胞をPI3K阻害剤で処理した。これら対照T細胞の増殖能力において、未処理tCD19細胞と比較して、明らかな減少が観察された(図6)。
【0124】
予想通り、PI3K阻害剤を用いて製造したNKR―2T細胞は、凍結保存した後および4℃で48時間保存した場合のいずれにおいても細胞生存率の増加を示した(図3C図3D)。PI3K阻害剤を用いて産生したNKR―2T細胞は、LY294002の投与に依存して、大量のIFN―γを産生した(図7A)。最後に、LY294002で培養したNKR―2T細胞も、T細胞の記憶表現型を調節するために阻害剤を用いた以前公開した研究(27、28)と一致して、CD62L/CD45RA表現型が増加したように思われる。(図7B
【0125】
全体的に、PI3K阻害剤の添加には、治療用途に魅力的であると思われるNKR―2T細胞の生存率に有益な効果があった。
【0126】
《実施例3》
抗体媒介性NKG2Dの遮断は、NKR―2CART細胞のフラトリサイドを防止する。
【0127】
NKR―2T細胞の培養中に抗NKG2D抗体(クローン1D11)を含む初期実験により、培養終了時のNKR―2T細胞収率は、対照T細胞のものと同等である(NKR―2T細胞では増殖率は2.6、これに対し、抗体遮断したNKR―2T細胞では増殖率は13.8)ことがわかった(図8)。これにより、抗体遮断には、NKG2D標的駆動型フラトリサイドを妨げる可能性があることが示唆された。用量滴定実験から、抗体濃度を2.5μg/mL以上にすることにより、tCD19T細胞358が、NKR―2T細胞標的殺傷から保護されることがわかった(図4E)。抗NKG2D抗体も、標的細胞結合の間、完全にIFN―γ放出を効果的に遮断した(図4F)。これにより、NKR―2T細胞の特異性が確認された。抗NKG2D抗体を用いたフラトリサイドの効果的な遮断は、T細胞のフラトリサイドによるものと思われるNKR―2T細胞の産生中に観察された
IFN―γの放出が、遮断抗体の添加によって大幅に減少した(図4G)ことによってさらに裏付けられた。マウス遮断抗体は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)による毒性を引き起こす可能性が潜在的にあるため、採取後、徹底的な洗浄工程を行った。IgG ELISAおよびフローサイトメトリー実験により、採取(データは図示せず)後、上清または細胞表面で汚染抗体を検出できないことがわかった。ADCCを評価するため、ADCCの所見なしに、5μg/mLのAbの存在下で、NK細胞を自己由来NKR―2細胞と共培養した(データは図示せず)。これと共に、これらデータは、抗NKG2D遮断抗体の添加により、NKR―2T細胞CAR駆動型フラトリサイドが制御されることを示している。
【0128】
《実施例4》
抗体媒介性NKG2Dの遮断およびNKG2Dシグナル伝達のPI3K阻害は、NKR―2発現細胞の製造において機能的に同等である。
【0129】
in vitro NKR―2細胞増殖中におけるAb遮断プロセスの適応により、i
n vitroおよびin vivoにおいて同等の活性で収率が増加できた。
【0130】
抗体を用いて産生されたNKR―2T細胞と、PI3K阻害剤を用いて産生したNKR―2Tとを比較したところ、異なる細胞溶解動態が示された。これは、Abプロセスに伴うT細胞特性の変化を暗示している(図9A)。この2つのプロセスを比較したところ、観察された主な差異は、CD4/CD8比であった。PI3K阻害剤を添加した場合、8日目に、CD8集団に一貫して偏った。興味深いことに、NKR―2T細胞の遮断により、CD4+集団が救済された。これは、観察された偏ったCD4/CD8比が、フラトリサイドに依存していることを示唆している(図9B)。この比の差異に関する最も説得力のある説明として、CD4T細胞の増殖による比の相対的増加、または、CD8T細胞によるCD4T細胞の除去が挙げられる。
【0131】
我々は、PI3K阻害剤を用いて産生されたNKR―2T細胞の溶解作用の増大はCD4/CD8比の低下によるものではないかという仮説を立てた。これに取り組むため、形質導入直後(4日目)ではなく6日目に遮断抗体を添加して遮断抗体プロセスを行った。この変更により、PI3K阻害剤を用いて産生した細胞と同様のCD4/CD8比を示すNKR―2T細胞が産生され(図9C)、同時に、対照T細胞に匹敵する増殖率が維持された(図9D)。 続いて、活性化マーカーCD25および記憶表現型の発現などの特定
のパラメータにおいて2つのプロセス間で軽微な差異(データは図示せず)があったにもかかわらず、機能性サイトカイン分泌および標的癌細胞に対するNKR―2T細胞の細胞溶解活性は、両プロセス間で同等であった(図9E図9F)。
【0132】
LYおよびAbプロセスで生成されたNKR―2細胞が投与されたNOD SCIDガンママウスを用いた事前のin vivo実験では、確立された急性骨髄性白血病(THP―1)腫瘍モデル(生物発光により可視化された注入8日後;tCD19:5.76E10+/―4.46E10;NKR―2LY:7.15E08+/―1.01E09;NKR―2Ab:6.43E08+/―1.25E08;データは図示せず)において、同様の抗腫瘍活性が示された。Tukey事後検定による一元配置分散分析法により、tCD19(p=0.03)と比較して、LYとtCD19対照細胞(p:0.02)とAb産生NKR―2との間で著しい差異が認められた。LYグループとAbグループとの間で差異は観察されなかった(p=0.95)。加えて、24時間後、NKR―2LYグループとAbグループの両方で同様の生着が観察され(LYグループ:1.838+/―1.07%;Abグループ:1.792+/―0.56%;データは図示せず)、短期間の生着ではこの2つのグループ間の著しい差異が検出できなかったことを示している。
【0133】
まとめると、これら総合データから、適応遮断抗体プロセスで産生されたNKR―2T細胞は、PI3K阻害剤を使って産生した細胞に対して、同様の短期間生着および分化能を示すことがわかった。
【0134】
NKR2製造に対する効果は、PI3Kを介したものであり、特定の阻害剤によるものではない。
【0135】
LY294002の効果が実際にそのPI3K阻害剤活性と関連しているのかどうかさらに確認するため、ウォルトマンニンおよびCAL―101(イデラリシブ)を含む、いくつかの他のPI3K阻害剤を試験した。図10に、CAL―101の代表的なデータを示す。CAL―101は、増殖率(図10A)および細胞生存率(B)の点で遮断抗体と同様に機能する。他のPI3K阻害剤と同様に、細胞は、より多くのインターフェロンを産生するように思われる(図10C)。これが、高い分化能に貢献しているのかもしれない。PI3K経路の下流阻害剤(グリコーゲンシンターゼキナーゼ3ベータ阻害剤TWS119やmTOR阻害剤ラパマイシンなど)も試験した。得られた結果は同様で(データは図示せず)、NKG2Dシグナル伝達を阻害しない細胞と比較して増殖は増加するが、PI3K阻害は、最も望ましい特性を有する細胞をもたらすように思われる。これは、少なくとも、例えば、ラパマイシンの毒性によるものであると思われる。
【0136】
《実施例5》
NKG2Dリガンドの阻害も、細胞収率および細胞溶解活性の向上をもたらす。
【0137】
NKG2Dは、腫瘍には広く存在するが、健常組織にはほとんど存在しない8つの異なるストレス誘導リガンド(NKG2DL)に結合することが知られている。我々は、活性化時にT細胞で発現する鍵となるNKG2DLを特定することを目的とした。0日目に、OKT3と抗CD3 抗体で、PBMCを活性化した。一日おきに、CD4+およびCD
8+T細胞の表面の8つのNKG2DLの発現を評価した(図11)。
【0138】
活性化時、CD4およびCD8T細胞の細胞表面上でMICA/BおよびMICBをアップレギュレートした。活性化後2~4日目に発現がピークに達した。その後、10日目まで発現は低下した。ULBP1およびULBP2が低レベルで発現したが、ULBP2はCD4+T細胞に限定されていた(図11)。T細胞上での他のリガンドの発現の証拠はほとんどなかった。
【0139】
並行して行われた研究により、MICAおよびMICBが、NKG2D CARの主要
な刺激因子であることが特定され(データは図示せず)、MICAおよびMICBが、T細胞のフラトリサイドの原因となる主要なNKG2DLであることを示した。
【0140】
次に、配列の類似性が高いため、単一のshRNAによるMICAおよびMICB両方の特異的標的化が実現可能であることを調べた。初期T細胞に異なるshRNAを形質導入し、MICAおよびMICBタンパク質の発現を評価した。このスクリーニングにより、MICAおよびMICBの細胞表面発現を減少させる2つのshRNAが特定された(データは図示せず)。次に、NKG2D CARをコードし、候補shRNAを共発現す
る単一のレトロウィルスベクターを遺伝子操作した。細胞増殖率を用いて、NKG2DベースのCARまたはshRNAを共発現するT細胞で遺伝子操作されたT細胞におけるフラトリサイドのレベルを評価した(図12)。NKG2D CARおよびshRNAをコードする単一レトロウィルスベクターの遺伝子操作により、shRNAなしの細胞と比較して、in vitroフラトリサイドがかなり減少したT細胞が生成され(図12)、NKG2D CART細胞の増殖率が上がり、対照T細胞のものに近づいた。続いて、MICA/Bを標的とするshRNAsを有するNKG2DベースのCART細胞と有さな
いもののin vitro抗腫瘍効果を評価した。shRNAを有さない細胞は、異なる標的に対するTALエフェクター(E:T)の比で、AML HL60細胞の特異的殺傷を示した。しかし、MICA/B shRNA#2または#4の共発現は、特にE:T比が低い場合、癌細胞の殺傷を改善した(図13A)。共培養の24時間後、shRNA発現がT細胞の回復を改善したため、改善された標的細胞の殺傷は、フラトリサイドの減少によるものである可能性が高い(図13B)。
【0141】
結論として、T細胞におけるNKG2Dリガンドのノックダウンは、NKG2D阻害またはPI3K阻害で観察されたのと同じ向上した製造結果を示した。
Crispr/Casを用いてMICAおよびMICBを永続的に不活性化した場合でも同様のデータが得られた(データは図示せず)。特筆すべき差異は、shRNA阻害は一時的(例えば、製造プロセス中のみ)であるが、遺伝子ノックアウト(ここでは、Crispr/Casを用いた)は永続的である点である。これは、状況により望ましい場合とそうでない場合がある。
【0142】
考察
B細胞性急性リンパ芽球性白血病(bALL)およびびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)CD19CART細胞治療法が最近承認されたことにより、このアプローチの強力な臨床検証が行われるようになり、CD19B悪性腫瘍を超えたCART細胞治療法の開発に弾みを与えている。標的の選択は、この治療法の成功に必要不可欠である。今まで、腫瘍専用の抗原を特定することは困難であった。急性骨髄性白血病(AML)のプロテオミクスアプローチとゲノムアプローチを組み合わせた最近のバイオインフォマティクス研究により、腫瘍特異的細胞表面抗原は存在せず、AMLを標的とする抗体ベースのCARTアプローチには複合組合せ標的戦略が必要かもしれないこととがわかった(29)。結果的に、現時点で試験された標的抗原のほとんどは、標的の発現が正常で健常な細胞にも起こり得る腫瘍関連抗原である。B細胞悪性腫瘍のCD19(3、4)、AMLのCD123(30)、様々な固形腫瘍のCD7(14)およびCEAを含む例が数多くある(31)。しかし、標的抗原がT細胞上に永続的または一過性的に発現する場合、問題が起こる。CARで遺伝子操作されたT細胞は、その後、培養でT細胞自身とそれ以外の細胞を標的にしてT細胞のフラトリサイドをもたらし、実際に細胞収率を減少または事実上0にする可能性が高くなるからである。
【0143】
現在の遺伝子編集は、特定のタンパク質の発現を防止しする臨床的に関連した方法を提供しており、これにより、CD7特異的CART細胞など、そうでなければフラトリサイドを起こす可能性のあるCART細胞の増殖を可能にしている(14)。しかし、NKG2DベースのCARの多標的特異性は、一見、効果的に発現するCAR構築物と共に初期T細胞の8つの異なるタンパク質を排除するための遺伝子編集を、臨床に実用化することは、可能ではあるものの、困難であることを意味する。このため、本明細書では、細胞培養中に発生するフラトリサイドを回避して、NKG2Dに焦点を当てたCART細胞治療法の生成および送達を可能にする他の戦略を提示する。
【0144】
これら実施例では、PI3K阻害剤が、細胞表面上のNKG2Dの発現を減らすことによりフラトリサイドを制御するという一般的なアプローチを提供した。我々が知る限り、このような観察結果が報告されたのはこれが最初である。PI3K阻害剤治療の後に細胞表面上のNKG2Dの減少を引き起こすメカニズムは現在知られていない。わかっていることは、NKG2Dの細胞表面の局在は、それとDAP10との結合によって媒介されることである(Upsahw et al.2006)。細胞表面上のNKG2Dが減少する仮説の1つとして、DAP10が、NKG2DとDAP10の結合に必要である、PI3K阻害剤治療(例えば、RNAレベルの減少、転写の阻害、または、グリコシル化などの翻訳後修飾の阻害)によって影響されることが考えられる(Park YP et a
l、2011、Blood))。これらにより、最終的に、細胞表面上のNKG2D―DAP10複合体の発現の防止がもたらされ、フラトリサイドの阻害につながる。しかし、PI3K阻害は、細胞増殖の減少にも関連している(Aagaard-Tillery KM, Jelinek DF. Phosphatidylinositol 3-kinase activation in normal human B lymphocytes. J Immunol. 1996;156:4543- 4554. 11. Fruman DA, Snapper SB, Yballe CM, et
al. Impaired B cell development and proliferation in absence of phosphoinositide 3-kinase p85alpha. Science. 1999;283:393-397. 12. Shi J, Cinek T, Truitt KE, Imboden JB. Wortmannin, a phosphatidylinositol 3-kinase inhibitor, blocks antigen- mediated, but not CD3 monoclonal antibody-induced, activation of murine CD4 T cells. J Immunol. 1997;158:4688-4695. 13. Truitt KE, Shi J, Gibson S, Segal LG, Mills GB, Imboden JB. CD28 delivers costimulatory signals independently of its association with phosphatidylinositol 3-kinase. J Immunol. 1995;155:4702- 4710)。このため、この阻害剤アプローチは、比較的低用量のCART細胞が必要であるが、多数の細胞が必要であるより限定的な使用の状況において、T細胞のフラトリサイドを制御する効果的な解決策を提供する。
【0145】
NKR―2T細胞製造中のフラトリサイドを阻害する別のアプローチは、増殖段階において特定の遮断抗体を用いることであった。これにより、T細胞のフラトリサイドの制御
および対照tCD19T細胞と同等レベルのT細胞の増殖が可能となった。この方法は
、CAR活性化自体を誘発せずにフラトリサイドを遮断する(標的抗原が存在しない培養の間のサイトカイン産生のレベルが大幅に減少していることにより示される)ことを必要とするため、用いられる抗体に大きく左右される。特定の遮断抗体の添加により、NKR―2T細胞の大規模な増殖を可能にする解決策が提供される。
【0146】
遮断抗体プロセスに関する大きな懸念は、増殖したNKR―2CART細胞が抗体で装飾され、それにより、抗体依存性除去メカニズムを介して注入時に細胞の急速な排除を引き起こす可能性が高いことであった。しかし、分析により、NKR―2細胞には、再発現による抗CD314抗体のコーティングがないことが明確に示され、抗体結合は、細胞表面からのNKG2DおよびNKR―2CARの減少をもたらすようであることが示唆された。内在性NKG2Dが、標的リガンドに結合すると、NK細胞活性化を制御するメカニズムとして、急速なインターナリゼーションを生じることが示されている。ここで得られた観察結果は、NKR―2の場合、CARもインターナリゼーションされるようであることを示唆している。養子T細胞治療法の観点から、これは、結合した抗体を除去する特定のプロセスを開発する必要がないため、有益である。
【0147】
プロセス間で観察された差異およびPI3K阻害剤の影響に加え、これら臨床前のデータは、NKR―2が、AMLマウスモデルにおいて効力のある治療法であることを確認した最初のデータである。さらに、これら結果は、プレコンディショニングの欠如およびNKR―2の複数回の注入は、腫瘍の根絶および治療マウスの長期生存をもたらす評価基準であった他の研究とも一致している。(Zhang et al、Cancer Res. 2007;67(22):11029―36;Barber et al、Gene
Ther.2011;18(5):509―16)。
【0148】
さらに、すべてのNKG2Dリガンドをノックダウンまたはノックアウトするのに実現可能または実用的であると考えられていなかったが、T細胞において最も一般的な2つのリガンドをshRNAまたはCRISPRを介して阻害したところ、同様の製造収率の向上が達成され、NKG2Dシグナル伝達の一部を阻害することによっても、フラトリサイドを既に向上できることが示された。
【0149】
まとめると、本願は、PI3K阻害などの一般的な方法(例えば、下流シグナル伝達に作用する)、または、遮断抗体や受容体リガンド除去などの受容体特異的アプローチによって、T細胞のフラトリサイドを管理できることを開示している。具体的に、PI3K阻害剤アプローチおよび遮断抗体アプローチは、フラトリサイドが減少した免疫細胞プロダクトを生成するのに用いることができ、各アプローチは、遺伝子編集など、T細胞集団で標的を除去する他の手段が困難である、または、現在実現可能や望ましくない場合、T細胞プロダクトを生成するのに用いることができる潜在的利点を与える。
図1X
図1Y
図2
図3X
図3Y
図3Z
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
2024016155000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-11-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラNKG2D受容体を発現する免疫細胞の製造中のフラトリサイドを減少および/または防止する方法であって、前記細胞の製造プロセス中にNKG2Dシグナル伝達の機能阻害をすることを備えた方法。
【請求項2】
NKG2Dシグナル伝達の機能阻害は、以下の1つ以上によって達成される:
‐前記免疫細胞の1つ以上のNKG2Dリガンドの永続的または一過性阻害;
‐前記キメラNKG2D受容体の一過性阻害;
‐前記キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の一過性阻害
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上のNKG2Dリガンドの永続的阻害は、遺伝子ノックダウンによって達成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記下流シグナル伝達の一過性阻害は、PI3Kシグナル伝達の一過性阻害である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記PI3Kシグナル伝達は、LY294002およびイデラリシブから選択されるPI3K阻害剤を用いて阻害される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記機能阻害は、shRNA、または、NKG2D受容体に対する、もしくは、1つ以上のそのリガンドに対する抗体を用いて達成される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、幹細胞、またはiPSCなどの養子細胞移植用細胞である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子と、以下の少なくとも1つとを含む遺伝子操作された免疫細胞:
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上のshRNA。
【請求項9】
前記NKG2Dリガンドは、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5およびULBP6から選択される、請求項8に記載の遺伝子操作された免疫細胞。
【請求項10】
キメラNKG2D受容体をコードする核酸分子を含有する免疫細胞の組成物であって、 前記細胞は、以下をさらに含み、
‐不活性化するように遺伝子操作されたNKG2Dリガンドをコードする1つ以上の内在性遺伝子;
‐前記キメラNKG2D受容体および/または1つ以上のNKG2Dリガンドに対する1つ以上のshRNA;
および/または、前記組成物は、以下をさらに含む
前記キメラNKG2D受容体の下流シグナル伝達の阻害剤、具体的には、 PI3K阻害剤。
【請求項11】
医薬品として使用される請求項8または9に記載の遺伝子操作された免疫細胞、または、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
癌治療に使用される請求項8または9に記載の遺伝子操作された免疫細胞、または、請求項10に記載の組成物。
【外国語明細書】